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特許7538553部分負荷下でのアンモニア合成ループの制御
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  • 特許-部分負荷下でのアンモニア合成ループの制御 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】部分負荷下でのアンモニア合成ループの制御
(51)【国際特許分類】
   C01C 1/04 20060101AFI20240815BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240815BHJP
【FI】
C01C1/04 D
C25B1/04
C01C1/04 E
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022526514
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(86)【国際出願番号】 EP2020078605
(87)【国際公開番号】W WO2021089276
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】19208075.2
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518320199
【氏名又は名称】カサーレ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リッツィ、マウリツィオ
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0108538(US,A1)
【文献】特開2003-020221(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016203753(DE,A1)
【文献】米国特許第06503048(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0283169(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0297333(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017222948(DE,A1)
【文献】米国特許第04215099(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01C 1/04
C25B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントエンド(1)においてアンモニアメイクアップ合成ガス(2)を生成することと、
第1のコンプレッサー(3)において前記アンモニアメイクアップ合成ガスの圧力を上げることと、
前記第1のコンプレッサーによって供給された高圧メイクアップ合成ガス(4)をアンモニア合成ループ(5)に供給することと、
を含む、アンモニアの合成のためのプロセスであって、
前記アンモニア合成ループが、少なくとも、
アンモニアが触媒的に合成されるコンバーター(7)と、
前記アンモニア合成ループ内の循環を維持するように且つメイクアップ合成ガスを含む供給ガスを前記コンバーターに供給するように構成されたコンプレッサーである、サーキュレーター(6)と、
前記サーキュレーターから前記コンバーターへのコンバーター供給ライン(10)と、
アンモニア含有ガス状生成物を受け取るために合成セクションの下流に配置された凝縮セクション(8)と、
前記凝縮セクションにおいて生成された凝縮物が、アンモニア液体生成物とガス状再循環ストリームとに分離される、分離セクション(9)と、
前記分離セクションから前記サーキュレーターの吸引への再循環ライン(14)と、
を含み、
前記アンモニア合成ループ(5)が、前記フロントエンド(1)から前記アンモニア合成ループに供給されるメイクアップガス(2)の公称流量の処理に相当する全負荷状態を有し、
前記プロセスが、
前記コンバーター(7)の上流の位置で、前記コンバーター供給ライン(10)からガスストリーム(15)を分離して、バイパスストリームを形成することと、
前記サーキュレーター(6)の吸引側(24)で、または、前記分離セクション(9)の下流の位置で前記アンモニア合成ループ(5)内に、前記バイパスストリームを再導入することと、
によって、前記フロントエンドから前記アンモニア合成ループに供給されるメイクアップガスの流量が前記公称流量よりも少ない部分負荷状態で、前記アンモニア合成ループ(5)を制御すること、
を含む、
プロセス。
【請求項2】
前記コンバーター内の合成圧力または前記アンモニア合成ループの別の位置での合成圧力を検出することと、
部分負荷下で検出される前記合成圧力と全負荷下での前記合成圧力との差が、目標範囲内で維持されるように、前記バイパスストリーム内のガスの量を特定することと、
を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記コンバーターに入るガス供給物の温度と、前記コンバーターから取り出されるアンモニア含有生成物の温度と、の差を検出することによって、前記コンバーター内の温度差を検出することと、
前記コンバーター内の温度差が目標範囲内で維持されるように、前記バイパスストリーム内のガスの量を特定することと、
を含む、請求項1または請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記フロントエンドから前記アンモニア合成ループに供給されるメイクアップガスの、瞬間的な量、および/または、流量の経時変化、の関数として、前記バイパスストリーム内のガスの量を特定すること、を含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
部分負荷下で、前記コンバーター内の圧力が、公称合成圧力の90%以上であるように、前記バイパスストリーム内のガスの量が制御される、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
部分負荷下で、前記コンバーター内の圧力が、公称合成圧力の110%以下であるように、前記バイパスストリーム内のガスの量が制御される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記部分負荷状態が、前記フロントエンドから前記アンモニア合成ループに供給されるメイクアップガスが前記公称流量の15%であるまでの負荷を含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記フロントエンドから前記アンモニア合成ループに供給されるメイクアップガスの流量の低下または増加を検出することと、下記の工程a)および工程b)によって流量の前記低下または増加に対処することと、を含む、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のプロセス。
工程a)流量が低下した場合に前記バイパスストリーム内のガスの量を増加させ、流量が増加した場合に前記量を減少させる。
工程b)前記工程a)の後に、前記コンバーター内の圧力、または、前記コンバーター内の温度差が、一定値で、または、目標とする狭い範囲内で、維持されるように、前記バイパスストリーム内のガスの量を制御する。
【請求項9】
前記サーキュレーターの吸引位置で、または、前記アンモニア合成ループ内で、前記バイパスストリームの再導入を行う前に、前記バイパスストリームを冷却する工程、を含む、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記フロントエンドにおけるメイクアップガスの生成が、再生可能エネルギー源からの水素の生成を含む、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
部分負荷下で作動するアンモニア合成ループ(5)を制御するための方法であって、
前記アンモニア合成ループ(5)が、
アンモニアが触媒的に合成されるコンバーター(7)と、
前記アンモニア合成ループ内の循環を維持するように且つメイクアップ合成ガスを含む供給ガスを前記コンバーターに供給するように構成されたコンプレッサーである、サーキュレーター(6)と、
前記サーキュレーターから前記コンバーターへのコンバーター供給ライン(10)と、
アンモニア含有ガス状生成物を受け取るために合成セクションの下流に配置された凝縮セクション(8)と、
前記凝縮セクションにおいて生成された凝縮物が、アンモニア液体生成物とガス状再循環ストリームとに分離される、分離セクション(9)と、
前記分離セクションから前記サーキュレーターの吸引への再循環ライン(14)と、
を含み、
前記アンモニア合成ループが、フロントエンドから前記アンモニア合成ループに供給されるメイクアップガスの公称流量の処理に相当する全負荷状態を有し、
前記部分負荷は、前記公称流量未満の量がフロントエンドから前記アンモニア合成ループに供給される状態に相当し、
前記方法が、
前記コンバーターの上流の位置で、前記コンバーター供給ラインからガスストリーム(15)を分離して、バイパスストリームを形成することと、
前記サーキュレーター(6)の吸引側(24)で、または、前記分離セクション(9)
の下流の位置で前記アンモニア合成ループ(5)内に、前記バイパスストリームを再導入することと、
を含む、
方法。
【請求項12】
前記部分負荷の状態での前記バイパスストリーム内のガスの量が、以下のうちの1つ又は複数の関数として特定される、請求項11に記載の方法。
・前記フロントエンドから前記アンモニア合成ループに供給されるメイクアップガスの、瞬間的な量、および/または、流量の経時変化。
・前記アンモニア合成ループ内または前記コンバーター内の圧力。
・前記コンバーターに入るガス供給物の温度と、前記コンバーターから取り出されるアンモニア含有生成物の温度と、の差として検出される、前記コンバーター内の温度差。
【請求項13】
前記コンバーター内の圧力が、公称合成圧力の90%以上であり、且つ、公称合成圧力の110%以下であるように、前記バイパスストリーム内のガスの量が特定される、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記コンバーターに入るガス供給物の温度と、前記コンバーターから取り出されるアンモニア含有生成物の温度と、の差として検出される前記コンバーター内の温度差が、目標範囲内で維持されるように、前記バイパスストリーム内のガスの量が特定される、請求項11~請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記フロントエンドから前記アンモニア合成ループに供給されるメイクアップガス(2)の流量の低下または増加を検出することと、
工程a)流量が低下した場合に前記バイパスストリーム内のガスの量を増加させ、流量が増加した場合に前記量を減少させることと、
工程b)前記工程a)の後に、前記コンバーター内の圧力、または、前記コンバーター内の温度差が、一定値で、または、目標とする狭い範囲内で、維持されるように、前記バイパスストリーム内のガスの量を制御することと、
を含む、請求項11~請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
アンモニアメイクアップ合成ガスからアンモニアを合成するための合成ループ(5)であって、
前記合成ループ(5)が、
アンモニアが触媒的に合成されるコンバーター(7)と、
前記合成ループ内の循環を維持するように且つ前記メイクアップ合成ガスを含む供給ガスを前記コンバーターに供給するように構成されたコンプレッサーである、サーキュレーター(6)と、
前記サーキュレーターから前記コンバーターへのコンバーター供給ライン(10)と、
アンモニア含有ガス状生成物を受け取るために合成セクションの下流に配置された凝縮セクション(8)と、
前記凝縮セクションにおいて生成された凝縮物が、アンモニア液体生成物とガス状再循環ストリームとに分離される、分離セクション(9)と、
前記分離セクションから前記サーキュレーターの吸引への再循環ラインと、
を含み、
前記合成ループ(5)が、
前記コンバーターの上流の位置で、前記コンバーター供給ラインからガスストリームを取り出すために、そして、前記サーキュレーター(6)の吸引側(24)で、または、前記分離セクション(9)の下流の位置で前記アンモニア合成ループ(5)内に、バイパス
ストリームを再導入するために、配置された、バイパスライン(15)と、
前記バイパスライン(15)に設置された流量制御バルブ(17)と、
前記流量制御バルブ(17)の開放を制御し、それによって、前記バイパスライン(15)を経由して前記コンバーターをバイパスするガスの量を制御する、ように構成された、前記コンバーターの制御システム(19)と、
を更に含み、
前記制御システムが、請求項11~請求項15のいずれか1項に記載の方法で作動するように構成されている、
合成ループ(5)。
【請求項17】
部分負荷下で、前記コンバーター内の圧力が、公称合成圧力の95%以上であるように、前記バイパスストリーム内のガスの量が制御される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項18】
部分負荷下で、前記コンバーター内の圧力が、公称合成圧力の98%以上であるように、前記バイパスストリーム内のガスの量が制御される、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
部分負荷下で、前記コンバーター内の圧力が、公称合成圧力の105%以下であるように、前記バイパスストリーム内のガスの量が制御される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項20】
部分負荷下で、前記コンバーター内の圧力が、公称合成圧力の102%以下であるように、前記バイパスストリーム内のガスの量が制御される、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記コンバーター内の圧力が、公称合成圧力の95%以上であり、且つ、公称合成圧力の105%以下であるように、前記バイパスストリーム内のガスの量が特定される、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記コンバーター内の圧力が、公称合成圧力の98%以上であり、且つ、公称合成圧力の102%以下であるように、前記バイパスストリーム内のガスの量が特定される、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの工業的合成の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアの工業生産には、基本的に、フロントエンドでのメイクアップアンモニア合成ガス(MUG)の生成と、いわゆるアンモニア合成ループでのメイクアップガスの変換と、が含まれる。
【0003】
フロントエンドでのMUGの生成は、従来、炭化水素源(石炭や天然ガスなど)の改質による水素生成と、アンモニア合成に適した水素対窒素比に到達するための窒素の添加と、に基づいている。水素生成は、一次改質器および二次改質器での改質と、それに続く一酸化炭素、二酸化炭素および残留メタンを除去する等のためのガスの精製と、を含み得る。フロントエンドの様々な実施形態によれば、窒素は、二次改質装置において、燃焼空気と別にまたは一緒に添加され得る。
【0004】
そのようにして得られたMUGは、メインMUGコンプレッサーでアンモニア合成圧力まで増加され、次いで、サーキュレーターと、触媒コンバーターと、凝縮器と、セパレーターと、を少なくとも典型的に含む合成ループでアンモニアに変換される。コンバーターは、高温のアンモニア含有ガス状生成物を生成し、この生成物は、凝縮後、液体アンモニア生成物と、サーキュレーターの吸引に再循環される気相と、に分離される。サーキュレーターは、メインコンプレッサーから供給される高圧MUGを受け取り、ループ内の循環を維持する役割を果たす。
【0005】
アンモニア合成ループは通常、フロントエンドで生成されメインコンプレッサーを経由して合成ループに供給されるMUGの公称流量に相当する、全キャパシティーまたは全キャパシティー付近で、常に作動すると考えられている。一般に、従来のアンモニア合成ループをそのキャパシティーの60%~70%未満の部分負荷下で作動させることは、実現可能または魅力的であるとは考えられていない。
【0006】
コンバーターの負荷の突然の変化は、コンバーター自体および高圧合成ループの他の装置にとって潜在的に有害であると考えられる。例えば、負荷の急速な変化は、高いガス速度を引き起こし、コンバーターの内部またはループの他のアイテムを損傷する可能性がある。突然の圧力低下は、衝撃(「ハンマリング」)や装置の損傷を引き起こす可能性がある。
【0007】
更に、比較的低い部分負荷下では、特に、コンバーターが、新たなメイクアップガスと比較して過剰な量の再循環されたアンモニアを受け取り、新たなチャージを適切に予熱することができないために、アンモニア合成反応が熱的に自立しないことがある。アンモニアコンバーターには通常、始動ヒーターが設置されている。しかし、部分負荷下で反応を維持するために始動ヒーターを使用することは、経済的な観点から一般に魅力的ではなく、更に、ほとんどのガス燃焼ヒーターは、負荷の急速な変化に追従することができない。
【0008】
上記のすべての理由により、アンモニアコンバーターおよびアンモニア合成ループは、通常、部分負荷下で作動するのに適していないと考えられている。
【0009】
一方、炭化水素改質に基づく従来のフロントエンドは、通常、投資コストを補償するために全キャパシティーで作動されているため、これまで、合成ループの融通性の低さは重大な欠点として認識されていなかった。
【0010】
しかし、最近、フロントエンドで生成された水素の少なくとも一部が再生可能資源から得られる、いわゆるグリーンアンモニアプラントが登場した。例えば、水素は光起電性エネルギーまたは風力エネルギーによる水の電気分解から得ることができ、必要な窒素は圧力スイング吸着(PSA)ユニットまたは極低温空気分離ユニット(ASU)で大気から得ることができる。
【0011】
水素が再生可能資源から供給されるこれらのアンモニアプラントは、作動コストが低く、汚染が少ないため、非常に興味深いものであり、例えば、従来の石炭ベースまたは天然ガスベースのプロセスとは異なり、COを生成しない。ただし、太陽や風などの再生可能エネルギー源は、本質的に、変動しやすい。例えば、夜間は太陽エネルギーを利用できない。グリーンアンモニアプラントでは、フロントエンドで生成されアンモニア合成ループに供給されるメイクアップガスの量が大幅かつ急速に変化し得る。再生可能資源によって作動するフロントエンドに結合したアンモニア合成ループは、負荷の高速変化に追従し、公称キャパシティーの約20~25%までの低負荷下で作動する必要がある場合がある。
【0012】
従来の改質ベースのフロントエンドと結合した常に全負荷下で作動するように設計された既知のアンモニア合成ループとその制御システムは、グリーンプラントの負荷の急速な変化に追従するのに適していない。現在まで、上記のニーズに対する解決策は、加圧されたMUGのバッファータンクを提供することであるが、これは大きく、非常に高価である。この欠点は、アンモニア合成の分野で再生可能エネルギーを利用する際の制限要因である。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、小さなガスバッファーで、またはガスバッファーを必要とせずに、広範囲の作動負荷下で作動し、負荷の速い変動に追従するように適合された、アンモニア合成ループおよび関連する制御方法の提供を目的とする。従って、本発明は、水素が再生可能エネルギー源から生成され、従ってメイクアップガスの生成が変動しやすい、フロントエンドでの作動により適したアンモニア合成ループを目的としている。本発明の更に別の目的は、アンモニアの工業生産の分野における再生可能エネルギー源の利用のためのより多くの可能性を提供することである。
【0014】
この目的は、特許請求の範囲に係るアンモニアの合成のためのプロセスによって達成される。本発明は更に、特許請求の範囲に係る、部分負荷下でアンモニア合成コンバーターを制御するための方法、およびアンモニアの合成のための合成ループに関する。
【0015】
本発明のプロセスは、アンモニア合成ループにおいてアンモニアを生成することを含む。アンモニア合成ループは、
アンモニアが触媒的に合成されるコンバーターと、
ループ内の循環を維持するように且つメイクアップ合成ガスを含むアンモニア合成供給ガスをコンバーターに供給するように構成されたサーキュレーターと、
サーキュレーターからコンバーターへのコンバーター供給ラインと、
アンモニア含有ガス状生成物を受け取るために合成セクションの下流に配置された凝縮セクションと、
凝縮セクションにおいて生成された凝縮物が、アンモニア液体生成物とガス状再循環ストリームとに分離される、分離セクションと、
分離セクションからサーキュレーターの吸引への再循環ラインと、
を含む。
【0016】
従って、プロセスは、
供給ガスに含まれる水素および窒素からコンバーターでアンモニアを触媒的に合成することと、
コンバーターからアンモニア含有ガス状生成物を取り出すことと、
凝縮セクションにおいてガス状生成物を凝縮して、凝縮物を得ることと、
凝縮物を、ループから取り出される液体アンモニア含有生成物と、再循環ガスと、に分離することと、
サーキュレーターの吸引位置で再循環ガスを再導入することと、
を含む。
【0017】
本発明は、アンモニア合成コンバーター供給ガスの一部が、コンバーターの上流の位置でコンバーター供給ラインから分離されて、バイパスストリームを形成すること、を提供する。本発明は更に、サーキュレーターの吸引側で、または分離セクションの下流の位置でアンモニア合成ループ内に、バイパスストリームを再導入すること、を含む。
【0018】
バイパスストリームは、コンバーターを含む合成ループ内のすべてのまたは一部のアイテムをバイパスし、サーキュレーターの吸引位置または分離セクションの下流で再導入され、バイパスストリームは、コンバーターから流出するアンモニア含有ガス状生成物と混合されない。従って、コンバーターからの流出物は、バイパスガスによって希釈されない。
【0019】
合成ループ内の循環フローは、例えば、コンバーターと、合成ループと並行したバイパスラインと、の間で分割され得、サーキュレーターの吸引位置でバイパスガスストリームが再導入される。
【0020】
コンバーターを出るアンモニア含有ガス生成物は、バイパスガスによって希釈されない。従って、アンモニアの凝縮は、バイパスに影響されない。
【0021】
合成ループは、上記のものに加えて、例えば、1つまたは複数の熱交換器などのアイテムを含み得ることに、留意されたい。特に、熱交換器は、コンバーターに向けられた供給ストリームを予熱するために、またはコンバーターの高温流出物を冷却することによって熱を回収するために、提供され得る。
【0022】
合成ループの凝縮セクションは、単一の凝縮器または複数の凝縮器を含み得る。同様に、分離セクションは、単一のまたは複数のセパレーターを含み得る。例えば、分離セクションは、間に熱交換器を有する直列に配置された2つのセパレーターを含み得る。合成ループは通常、単一のコンバーターを含む。しかしながら、本発明は、複数のコンバーターを含むループにも適用可能である。
【0023】
コンバーターをバイパスするメイクアップガスの量(バイパス率とも呼ばれる)は、例えば、適切な制御システムによって作動するバルブによって特定され得る。制御システムは、1つまたは複数の信号に基づいて適切なバイパス率を算出し、それに応じてバルブの開放を制御する。バイパス率は、1つまたは複数の制御パラメーターが目標範囲内で維持されるように、特定され得る。制御パラメーターは、好ましくは、コンバーター内の圧力、ループ内の圧力、コンバーター内の温度差、のうちの1つまたは複数を含み得る。
【0024】
本発明は、フロントエンドから利用可能なメイクアップガスの量の急速な変化に適応し得る合成ループおよび合成コンバーターを提供する。
【0025】
本発明のバイパス機能のおかげで、コンバーターは、メイクアップガスの入力流量の急速な変化によって引き起こされ得る過熱、過度のガス速度、および他の変動から保護される。フロントエンドで生成されるメイクアップガスの量が少ない場合でも、反応器は流量を除いて全負荷状態に近い状態に保たれている。コンバーターは、安定化されており、フロントエンドの生産の変動に影響を受けにくい。
【0026】
従って、本発明に従って制御される合成ループは、再生可能エネルギー源によって作動するフロントエンドとの結合に特に適しており、関連するメイクアップガス生成の変動に追従し、公称キャパシティーの20%以下でも安定した作動を提供することができる。コンバーターは、広範囲の出力にわたって自立した作動モードで維持され、例えば始動ヒーターを使用して熱を供給する必要性を回避または低減する。
【0027】
本発明の制御システムは、同時に、圧力、コンバーター内の変換、およびその入口でのアンモニア濃度を安定に保つ。つまり、圧力、内部温度、およびコンバーター入口での組成を含む、反応速度を特定するパラメーターが、一定に保たれるため、コンバーターの作動の変動を最小限に抑えられる。更に、コンバーターに含まれる触媒床の出口での反応平衡限界のために、高圧および低いプラント負荷にもかかわらず、コンバーター内の過熱は起こらない。
【0028】
本発明は、往復コンプレッサーまたは遠心コンプレッサーで作動する、非常に小さいプラントから非常に大きいプラントまで、アンモニア生産のキャパシティーにかかわらず、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の実施形態によるアンモニア合成ループのスキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
アンモニア合成コンバーターは、フロントエンドから合成ループに供給されるメイクアップガスの公称流量の処理に相当する全負荷状態を有する。部分負荷状態は、フロントエンドから合成ループに供給されるメイクアップガスの流量が公称流量よりも少ない状態である。フロントエンドから合成ループに供給されるメイクアップガスの流量は、例えば、メイン合成ガスコンプレッサーの吸引位置で測定することができる。「合成ガス」という用語は、フロントエンドで生成されるメイクアップ合成ガスを表す略語として使用される。
【0031】
コンバーターの上流の位置で、コンバーター供給ラインからガスストリームを分離してバイパスストリームを形成し、サーキュレーターの吸引側で、または、分離セクションの下流の位置でアンモニア合成ループ内に、バイパスストリームを再導入する、ことによって、コンバーターが部分負荷状態で制御される。前記ガスストリームは、バイパスストリームと呼ばれる。
【0032】
バイパスストリームの量(すなわち、流量)は、以下のうちの1つまたは複数を考慮して、様々な実施形態に従って、特定され得る。
i)フロントエンドからアンモニア合成ループに供給されるメイクアップガスの瞬間流量。
ii)フロントエンドからアンモニア合成ループに供給されるメイクアップガスの流量の経時変化。
iii)合成ループ内またはコンバーター内の圧力。
iv)コンバーター内の温度差。
v)コンバーター入口での水素対窒素(H/N)比。
vi)アンモニア凝縮温度。
【0033】
パラメーターi)は、アンモニアプラントの負荷のパーセンテージに相当する。これは、例えば、フロントエンドによって供給されたガスの圧力をアンモニア合成圧力まで上げるメインメイクアップガスコンプレッサーの吸引位置で、適切なゲージにより、測定され得る。
【0034】
パラメーターii)は、メイクアップガスの流量の変化の速さの程度を示す。このパラメーターの使用は、流量の時間微分の測定を含み得る。
【0035】
パラメーターiii)は、凝縮器内の圧力、またはループの別の選択された位置、例えばコンバーターの入口での圧力を直接検出することによって、取得され得る。通常、アンモニア合成ループ内のすべてのアイテムは、圧力低下および生じ得る高度差を除いて、実質的に同じ圧力で作動する。従って、ループ圧力とコンバーター内の圧力とは通常同じであると考えられる。
【0036】
パラメーターiv)は、コンバーターに入る供給ガスの温度と、コンバーターから取り出されるアンモニア含有生成物の温度と、の差である。この差は、コンバーターデルタTとも呼ばれる。
【0037】
パラメーターv)は、メイクアップ内の水素と窒素のモル濃度比に相当する。この比は、例えば、ガス分析および/または生成された水素および窒素の流量測定によって測定され得る。この比は好ましくは3近くで維持される(この値からの逸脱は、2つの反応物のうちの1つが、過剰で、主に不活性物質として作用することを意味するので)。
【0038】
パラメーターvi)は、コンバーターから取り出された高温のアンモニア含有ガス状生成物が凝縮されて液体アンモニアが得られる合成ループの凝縮セクションにおけるアンモニアの凝縮温度に相当する。
【0039】
好ましい実施形態では、バイパスガスの量は、上記パラメーターiii)および/またはパラメーターiv)が、全負荷下での通常の作動に近い目標範囲内で維持されるように、特定される。
【0040】
好ましくは、バイパスガスの量は、部分負荷下でのコンバーター内の圧力が、公称合成圧力の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上であるように、制御される。バイパスガスの量はまた、コンバーター内の圧力が、公称合成圧力の110%以下、好ましくは103%以下、より好ましくは102%以下であるように、制御され得る。最大圧力は、安全バルブなどの安全システムの介入が回避されるように、選択され得る。
【0041】
上記の境界値を含む様々な範囲が採用され得、例えば、反応器内の圧力が、公称圧力の90%~105%、より好ましくは95%~105%、更により好ましくは98%~102%に維持されるように、バイパスガスの量が制御され得る。
【0042】
コンバーターデルタTは、通常の全負荷作動状態でのコンバーターデルタTを基準として、好ましくはプラスマイナス10℃の範囲内で、より好ましくはプラスマイナス5℃の範囲内で維持される。
【0043】
部分負荷の状態は、フロントエンドから合成ループに供給される合成ガスが公称流量の20%以下であるまでの負荷を含み得る。水素源がアルカリ電解槽によって提供される用途では、20%の部分負荷が許容可能な最低値であると考えられる。別の水素源の場合、より低い部分負荷(20%未満)に達し得る。
【0044】
好ましい実施形態では、バイパスガスの量は、コンバーター内またはループ内の圧力に基づいて、および/または、上記で定義されたコンバーターデルタTに基づいて、特定される。メイクアップガス流量およびアンモニア凝縮温度の変動のような他のパラメーターは、スムーズでより安定した作動を提供するために適切なバイパス流量の計算を改善するために、有利に使用され得る。
【0045】
特に、圧力とコンバーターデルタTとの両方に基づく制御は、コンバーターのスムーズな作動を提供するので、好ましい。
【0046】
一実施形態では、流量の低下または流量の増加に対して、専用の制御が提供される。流量の低下という用語は、フロントエンドから合成ループに供給されるメイクアップガスの量の突然の低下を意味する。流量の増加という用語は、フロントエンドから合成ループに供給されるメイクアップガスの量の突然の増加を意味する。
【0047】
本発明の好ましい実施形態は、流量が低下した場合に、
・バイパスガスの量を増加させること
・続いて、コンバーター内の圧力またはコンバーターデルタTが、一定値または目標とする狭い範囲内で維持されるように、バイパスガスの量を制御すること
を提供する。
【0048】
本発明の好ましい実施形態は、流量が増加した場合に、
・バイパスガスの量を減少させること
・続いて、コンバーター内の圧力またはコンバーターデルタTが、一定値または目標とする狭い範囲内で維持されるように、バイパスガスの量を制御すること
を提供する。
【0049】
上記の2つの事象の両方においては、流量の低下または増加が検出された直後に、バイパスガスの量が増加されるか、または減少される。これは、合成ループに対する関連する影響が検出されたときではなく、例えばメインガスコンプレッサーの吸引位置での流量の低下/増加が検出されたときに、バイパス流量の増加/減少が、直接操作されること、を意味する。
【0050】
流量が低下すると、入力ガスの温度が低いなどの理由で反応が失われる可能性がある。特に、入力ガス温度が所定の閾値を下回ると、触媒が活性を失い、化学反応が停止する可能性がある。バイパスガスの量を増やすことで、この望ましくない結果が回避される。
【0051】
流量が増加すると、ループ圧力が急増し、安全バルブが開く場合がある。バイパスガスの量を減らすことで、この望ましくない結果が回避される。
【0052】
一実施形態では、フィードフォワード制御を使用して、流量の低下または流量の増加の上記の事象に対処することができる。
【0053】
本発明の好ましい実施形態は、コンバーターをバイパスするメイクアップガスを、サーキュレーターの吸引位置での再導入の前に、冷却する工程を含む。
【0054】
バイパスガスの量は、適切な制御システムによって制御され得る。一実施形態では、例えば、制御システムは、例えば、メインコンプレッサーの吸引位置での利用可能なメイクアップガスの量の信号と、合成ループの現在の作動状態を反映する1つまたは複数の信号と、を受け取る。これらの信号は、コンバーター内の圧力および/またはコンバーターデルタTを示し得る。ループの流量と作動状態に関する入力に基づいて、制御システムは、ループのバイパスラインに配置されたバルブの開放位置を特定し、その結果、コンバーター自体をバイパスする供給ガスの量を特定する。
【0055】
ここで、本発明は、図面を参照して更に説明される。
【0056】
図1は、本発明の実施形態によるアンモニア合成ループのスキームを示す。
【0057】
図1において、ブロック1は、メイクアップアンモニア合成ガス(合成ガス)2を生成するフロントエンドを示す。メイクアップガス2は、圧縮ガス4を合成ループ5に供給するメインコンプレッサー3に供給される。
【0058】
ループ5は、基本的に、サーキュレーター6、コンバーター7、凝縮器8、およびセパレーター9を含む。凝縮器8は、凝縮セクションを形成し、セパレーター9は、分離セクションを形成する。
【0059】
ガス供給物は、コンバーター供給ライン10を経由してコンバーター7に提供される。ライン11での高温のアンモニア含有ガス状生成物は、コンバーター7から取り出され、凝縮器8内で凝縮される。ライン12中の凝縮物は、セパレーター9で、ライン13を経由して排出される液体アンモニア生成物と、ライン14中の気相と、に分離される。ライン14中の気相は、未反応の水素と窒素とアンモニアの残留蒸気とを含み、サーキュレーター6の吸引へ再循環される。
【0060】
サーキュレーター6からコンバーター7への供給ライン10は、コンバーター7、凝縮器8、およびセパレーター9をバイパスするバイパスライン15に接続されており、その結果、サーキュレーター7の供給側が吸引側に接続している。バイパスライン15は、任意選択で、バイパス冷却器16を含む。
【0061】
ライン10、11、および14は、熱交換器(図示せず)を含み得る。
【0062】
バイパスライン15には、ライン15を通る流量を制御するためのバルブ17が設けられている。この例では、バルブ17は、制御ユニット19に接続されたコントローラ18を有する。
【0063】
制御ユニット19は、フロントエンド1からのメイクアップガスの流入流量を検出するように配置された流量ゲージ20に接続されている。例えば、流量ゲージ20は、メインコンプレッサー3の吸引位置でのメイクアップガス2の流量を検知する。
【0064】
制御ユニット19はまた、例えばライン10上のコンバーター入口での圧力を検出する、ループ圧力センサー21に接続されている。
【0065】
流量ゲージ20およびループ圧力センサー21からの入力信号に基づいて、制御ユニット19は、バルブ17の適切な開放を算出し、バイパスライン15内を流れるガスの量を算出する。
【0066】
メインコンプレッサー3のアンチサージライン22も図示されている。このライン22は、ガス冷却器23を備えている。アンチサージライン22により、ライン4から取り出された一部のガスがメインコンプレッサー3の吸引に戻され得る。
【0067】
作動中、サーキュレーター6は、メインコンプレッサー3によって供給された圧縮メイクアップガス4をその吸引入口24で受け取り、ガス4は、ループセパレーター9の上部からライン14を経由したガス相と混合され、場合により、ライン15内のバイパスガスと混合される。
【0068】
サーキュレーター6の供給側25での流量は、バルブ17の位置に応じて、バイパスライン15へと部分的にそれていてもよい。残りの部分は、供給ライン10を経由してコンバーター7に供給される。
【0069】
コンバーター7は、100%のキャパシティー、例えば約140バール、の公称アンモニア合成圧力(ループ圧力とも呼ばれる)を有する。部分負荷下では、制御ユニット19は、バルブ17を作動させて、コンバーター7に実際に流入するメイクアップガスの量を変化させて、ループおよびコンバーター内の圧力、例えばセンサー21によって検出される圧力、を目標範囲内に保つ。好ましくは、この目標範囲は、公称圧力付近の狭い範囲である。すなわち、バルブ17は、フロントエンド1によって実際に供給されるガスの量に関係なく、ループ圧力を実質的に一定に保つように作動する。
【0070】
別の実施形態では、ループ内の循環およびライン15内のバイパス流量は、例えばコンバーター入口ライン10におけるコンバーター入力温度T10およびライン11におけるコンバーター出口温度T11を測定することによって、コンバーターデルタTに基づいて、制御され得る。本実施形態では、制御ユニット19は、コンバーターデルタT(T11-T10)が目標範囲内で維持されるように、構成され得る。特に、本システムは、コンバーターの過熱を回避して、温度が最低値を下回りコンバーターが自立状態を失うことを回避するように、構成され得る。
【0071】
更に、制御ユニット19は、ゲージ20によって測定される流量の急速な変化に対処するように構成され得る。例えば、制御ユニット19は、メイクアップガス2の流量が突然低下した場合にバルブ17の予備開放を指示し得る。この工程では、ユニット19は、フィードフォワード制御技術で作動し得る。次に、ユニット19は、ループ圧力を安定に保つために通常の制御に切り替わる。同様に、制御ユニット19は、バルブを閉じることによって流量の増加に対処することができる。
【0072】
実施例1
【0073】
以下の実施例1は、1日あたり3メートルトン(MTD)のアンモニアのキャパシティーを有する小規模のアンモニア製造プラントに関する。関連するパラメーターは、プラントが本発明に従って制御される100%負荷下での作動および30%負荷下での作動について報告される。30%負荷下では、循環フローの70%がバイパスされる。記号m/hEFFは、合成ループの温度および圧力の条件での1時間あたりの立方メートルを示す。記号Nm/hは、大気圧および0℃の通常の条件での1時間あたりの立方メートルを示す。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例2
【0076】
以下の実施例2は、1日あたり1000メートルトン(MTD)のアンモニアのキャパシティーを有する大規模なアンモニア製造プラントに関する。関連するパラメーターは、プラントが本発明に従って制御される100%負荷および30%負荷について報告される。30%負荷下では、循環フローの70%がバイパスされる。
【0077】
【表2】
【0078】
これらの実施例は、コンバーターが一定圧力で安定した作動で維持されていることを示している。変換の動力学を特定するパラメーターは安定している。
図1