(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】焦電型赤外線検出器
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20240815BHJP
G01J 1/42 20060101ALI20240815BHJP
G01L 11/00 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
G01J1/02 Y
G01J1/42 B
G01J1/02 W
G01L11/00 T
(21)【出願番号】P 2020155199
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000229081
【氏名又は名称】日本セラミック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村田 ゆか里
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-281477(JP,A)
【文献】特開2010-091531(JP,A)
【文献】特開平10-260098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00- 1/60
G01J 11/00
G08B 13/00-15/02
G01L 11/00
G01V 1/00-99/00
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出器容器に通気孔を設け、かつ赤外線透過のための光学フィルタを有した前記容器に収容された焦電型光電変換素子を受光素子とする焦電型赤外線検出器において、
前記焦電型光電変換素子は、焦電体と、前記焦電体の表面に形成された正電極及び負電極と、前記焦電体の裏面において前記正電極及び前記負電極のそれぞれに対応して設けられた裏面電極とを有し、前記正電極及び前記負電極の1対から2つ以上の出力を得られるよう設計
され、
かつ、前記正電極及び前記負電極の双方を合わせた信号を取り出す端子と、前記正電極若しくは前記負電極のいずれか一方のみの信号を取り出す端子を備え、圧力変化時の正負電極間での電荷相殺により、微気圧検出信号と人体検出信号の識別を可能にし、
前記正電極若しくは前記負電極のいずれかの電極を複数の信号端子で共有することで、電極サイズを縮小することなく、容器サイズを維持したまま、微気圧検出と人体検出の双方を可能にした焦電型赤外線検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気圧変化を熱変化として検出する微気圧検出と、人体等の動作によって生じる熱変化を検出する人感検出の双方を可能にした焦電型赤外線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
微気圧変化を検出する検出器として、焦電型光電変換素子を利用し、検出器容器に通気孔を有し、前記容器に焦電型光電変換素子と信号処理回路からなる風速変位検出器、微気圧検出器が開示されている(特許文献1、2)。外部の気圧変化が通気孔を介して検出器内の圧力を変化させ、その圧力変化に伴う熱変化により焦電型光電変換素子表面の電荷が変化し電気的信号が出力される。
【0003】
人体等の熱源移動を検出する人感検出器として、赤外線透過のための光学フィルタを有した焦電型赤外線検出器が広く使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-38367号公報
【文献】特開2010-91531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微気圧検出器によるドア開閉検出は、人感検出器による人の進入検出の補助的な役割で使用され、一般に同一環境に設置される。1つのプリント基板上に双方の検出器を1つずつ搭載する例もあり、2つの検出器を搭載することによるサイズダウン、コストダウンが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光学フィルタを有する焦電型赤外線検出器の検出器容器に通気孔を設け、焦電型光電変換素子上の1対の正負電極から微気圧出力と人感出力の双方を得る。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、従来の容器サイズを維持したまま、微弱な気圧変化と人体等の熱源移動の両方を検出することを可能とする。さらに微気圧出力と人感出力を共通の正負電極から得ることにより、各検出器単独での性能と同等以上の性能を有することを可能とするほか、双方の出力端子で人体検出可能エリアに違いを持たせることにより、人体移動の方向性検出や小動物誤検出防止等への転用も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の一形態の焦電型赤外線検出器を示す断面構造図である。
【
図2】実施の一形態の焦電型赤外線検出器において用いられる焦電型光電変換素子における表面電極と裏面電極の電極形状を示す平面図である。
【
図3】実施の一形態の焦電型赤外線検出器において用いられる焦電型光電変換素子を示す断面図である。
【
図4】実施の一形態の焦電型赤外線検出器を示す回路図である。
【
図5】微気圧検出の実験における焦電型赤外線検出器の出力波形の図である。
【
図6】人感検出の実験における焦電型赤外線検出器の出力波形の図である。
【
図7】実施の一形態の焦電型赤外線検出器の人感検出エリアを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は本発明の実施の一形態の焦電型赤外線検出器の断面構造図である。
本発明の焦電型赤外線検出器は、検出器容器と、前記容器中の焦電型光電変換素子12及び基板14から構成される。検出器容器は、シリコンに特定温度波長域のみ透過するようコーティングを施した光学フィルタ11、金属製の缶15及びステム16から構成される。
【0011】
ステム16は出力端子を4本、及び外部の気圧変化を取り込むための通気孔17を1つ有する。出力端子は、ガラスにて気密封止されたドレイン端子31、人感出力端子32及び微気圧出力端子33の3本と、ステムに直接接合されたグラウンド端子34からなる。通気孔17は必ずしもステム16にある必要はないが、人体等の熱変化を検出するために光学フィルタを基板に対し焦電型光電変換素子側に設ける必要があるため、通気孔はステム16に設けた方が製造しやすい。また、通気孔の大きさは0.5mm~1.5mm程度が望ましく、前記通気孔の大きさの範囲内では、通気孔の大きさによる微気圧出力の出力差への影響は小さい。
前記ステム16は、接着剤にて光学フィルタ11を固定された缶15と抵抗溶接もしくは半田等で接合され検出器容器を形成する。
【0012】
基板14はプリント基板、セラミック基板等であり、
図4に示す信号処理を行う2つの電界効果トランジスタ(以後FET)、3つの焦電型光電変換素子支持台13、及び外部電磁波対策等必要に応じた抵抗やコンデンサが実装され、前記ステム16の出力端子31~34に半田により接続される。
【0013】
図2及び
図3は、本発明の実施の一形態の焦電型赤外線検出器に用いられる焦電型光電変換素子12を示している。
焦電型光電変換素子12は焦電体21及び電極22、23で構成される。
焦電体21はチタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、チタン酸バリウム等であり、焦電効果を有する。電極は、NiCr及びAg等を前記焦電体21の両面に蒸着することで形成される。
図2において焦電体の表面に形成される表面電極パターン22は実線で示され、焦電体の裏面に形成される裏面電極パターン23は破線で示されている。
図2の斜線で示された表面電極パターン22及び裏面電極パターン23が重なっている部分が、熱変化を検出可能な有効電極、正電極24及び負電極25になる。表面電極パターン22及び裏面電極パターン23が重なってない、その他の表裏面電極部分は、前記正電極24及び負電極25から信号を取り出すための回路的役割を担う。
表面電極パターン22では、正電極24及び負電極25は回路的につながっており、正負電極の間から信号を取り出すための微気圧出力信号取り出し部26が設けられている。裏面電極パターン23では正電極24及び負電極25からそれぞれの信号を取り出すための、人感出力信号取り出し部27及びグラウンド取り出し部28が設けられている。熱変化を検出可能な有効電極である正電極24及び負電極25は四角形状である必要はないが、それぞれの電極面積は等しくある必要がある。これは外部の圧力変化の際、正電極24と負電極25の電荷の変化が完全に相殺される必要があるためである。詳しくは本発明の焦電型赤外線検出器の原理に記載する。
前記焦電型光電変換素子12の信号取り出し部26~28は基板14の焦電型光電変換素子支持台13に導電性接着剤で固定され、焦電型光電変換素子12、基板14及びステム16により
図4の回路を形成する。
【0014】
前記焦電型光電変換素子12と
図4の回路について説明する。
微気圧出力端子33につながったFETのゲートには前記焦電型光電変換素子12の表面電極パターン22である微気圧出力信号取り出し部26が接続され、人感出力端子32につながったFETのゲートには前記焦電型光電変換素子12の裏面電極パターン23である人感出力信号取り出し部27が接続され、グラウンド取り出し部28は基板14のグラウンドを介してステム16のグラウンド端子34に接続されている。人感出力端子32については、グラウンドから負電極25、正電極24を通ってFETのゲートにつながり、微気圧出力端子33については、グラウンドから負電極25のみを通ってFETのゲートにつながることになる。
【0015】
本発明の、1対の正負電極から微気圧出力及び人感出力の双方を得る焦電型赤外線検出器の原理について説明する。
焦電型光電変換素子12の正電極24及び負電極25に入射する熱エネルギー量が変化すると、焦電型光電変換素子表面の電荷が変化し、グラウンドとFETゲート間の電位差に変化が生じ、出力端子の電圧が変動することで熱変化を検出する。入射する熱エネルギー量が多いほど、出力端子の電圧変動は大きくなる。つまり、正負電極の電極面積が大きいほど、入射する熱エネルギー量も増えるため、出力端子の電圧変動は大きくなる。正電極24及び負電極25に同量の熱変化が同時に生じた場合は、それぞれの電荷の変化が相殺され、グラウンドとFETゲート間の電位差に変化は生じず、熱変化を検出しない。正負電極の電極面積に違いがあった場合は、同量の熱変化が同時に生じた場合であっても、完全には相殺されず、相殺されずに残った電荷の分だけグラウンドとFETゲート間の電位差が変化し、出力端子の電圧が変動する。
外部で圧力変化が生じた場合、通気孔17を介して検出器内の圧力が変化し、それに伴う熱変化によって、焦電型光電変換素子表面の電荷が変化する。外部の圧力変化による検出器内の熱変化は正電極24及び負電極25の両電極に対し、同時に同量の熱変化を与えるため、グラウンドから負電極25、正電極24を通ってFETにつながる人感出力端子32では、正電極24と負電極25の電荷の変化が相殺されるためグラウンドとFETゲート間の電位差に変化は生じず、外部の圧力変化を検出しない。対して、グラウンドから負電極25のみを通ってFETにつながる微気圧出力端子33では、電荷の変化が相殺されないためグラウンドとFETゲート間の電位差に変化が生じ、外部の圧力変化を検出する。人感出力端子32において、外部の圧力変化の際、正負電極からのそれぞれの電荷が完全に相殺されるために、正電極24及び負電極25の電極面積は等しくある必要がある。
人体等の動作によって生じる熱変化は、フレネルレンズ等で集光し光学フィルタ11を介して焦電型光電変換素子12の電極に入射するため、正電極24及び負電極25に同量の熱変化が同時に生じることはほとんどなく、人感出力端子32でも信号は相殺されることなく人体等の熱変化を検出する。
【0016】
次に本発明の焦電型赤外線検出器を用いて実際に行った微気圧検出の実験例を説明する。
コンクリート構造の建物の室内(188m
3)に本発明の焦電型赤外線検出器を設置し、ドア(1.6m
2)の開(負圧)閉(正圧)を行った。ドア開閉時の出力波形を
図5に示す(約8秒時にドアを開け、約12秒時にドアを閉めた)。アンプゲイン72.5dB、1Hzにて焦電型赤外線検出器の出力を増幅して測定を行った。
微気圧出力端子33からの信号出力ではドアの開閉を検知しているのに対し、人感出力端子32からの信号出力は雑音出力レベルのまま、ドアの開閉を検知しなかった。また既存の微気圧検出器の信号出力との比較より、本発明の焦電型赤外線検出器は単独の微気圧検出器と同等以上の検出能力を持つ。
【0017】
次に本発明の焦電型赤外線検出器を用いて実際に行った人感検出の実験例を説明する。
本発明の焦電型赤外線検出器に1セグメントのフレネルレンズを装着し、検出器の正面で人体歩行の1/10スケール相当の条件の熱源を移動させた。熱源の大きさは150×30mm、熱源温度は室温+4℃、熱源移動速度は10mm/秒、熱源から検出器までの距離は700mmで行った。熱源は負電極25側から正電極24側に横切らせたのち、正電極24側から負電極25側へ再度正面を横切るよう移動させた。熱源移動時の、アンプゲイン72.5dB、1Hzでの増幅後の出力波形を
図6に示す。
人感出力端子32の信号出力は熱源移動に伴い、出力が正から負、負から正へと変化しており、正電極24及び負電極25の双方で熱源を検出している。対して微気圧出力端子33の信号出力は人感出力端子32の負出力のタイミングと同じタイミングでのみ出力しており、正電極24では熱源を検出せず、負電極25でのみ検出している。このことから、
図7のように人感出力端子32と微気圧出力端子33では人体検出可能エリアに違いがあるため、双方の出力のタイミングや出力電圧の大きさ等を比較することで、人体移動の方向性検出や小動物誤検出防止への転用も可能である。また、焦電型光電変換素子の極性を逆転させることにより、微気圧出力端子33の人感検出出力を負出力から正出力に変更することも可能である。
既存の人感検出器の信号出力との比較より、本発明の焦電型赤外線検出器は単独の人感検出器と同等の検出能力を持つ。
【0018】
上記2つの実験例から、本発明の焦電型赤外線検出器はドアの開閉等の微弱な圧力の変化については微気圧出力端子33でのみ検出し、人体等の熱源移動については人感出力端子32では正電極24及び負電極25の両電極で検出し、微気圧出力端子33では負電極25でのみ検出する。
【0019】
本発明において人感出力用と微気圧出力用として焦電型光電変換素子の負電極25を共有しているが、焦電型光電変換素子の正負電極を人感出力用と微気圧出力用で共有化することなく、個別に設けることも可能である。ただし、双方出力のために焦電型光電変換素子を2つ、もしくは焦電型光電変換素子1つに正負電極を個別に設ける等した場合、それぞれの電極面積が小さくなることにより検出能力の低下や雑音出力の増大につながる。電極面積を維持するために、人感出力用焦電型光電変換素子を基板に対し光学フィルタ側に、微気圧出力用焦電型光電変換素子を基板の反対側に配置した場合であっても、構造の複雑化による大幅なコストアップは免れない。
人感出力用と微気圧出力用として焦電型光電変換素子の電極を一部共有にすることにより、各検出器単独での性能と同等以上の性能を有することを可能とするほか、双方の出力端子で人体検出可能エリアに違いを持たせることにより、人体移動の方向性検出や小動物誤検出防止等への転用も可能となる。
【符号の説明】
【0020】
11 光学フィルタ
12 焦電型光電変換素子
13 焦電型光電変換素子支持台
14 基板
15 缶
16 ステム
17 通気孔
21 焦電体
22 表面電極パターン
23 裏面電極パターン
24 正電極
25 負電極
26 微気圧出力信号取り出し部
27 人感出力信号取り出し部
28 グラウンド取り出し部
31 ドレイン端子
32 人感出力端子
33 微気圧出力端子
34 グラウンド端子
41 レンズ
42 人体検出可能エリア
43 非検出エリア