(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】加工用工具、工作機械及び加工方法
(51)【国際特許分類】
B23D 13/00 20060101AFI20240815BHJP
B23D 1/00 20060101ALI20240815BHJP
B23Q 3/18 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
B23D13/00
B23D1/00
B23Q3/18 Z
(21)【出願番号】P 2021115627
(22)【出願日】2021-07-13
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000129367
【氏名又は名称】株式会社キトー
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 達也
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-031482(JP,A)
【文献】米国特許第03949643(US,A)
【文献】特開平08-294809(JP,A)
【文献】特開平05-104314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0297131(US,A1)
【文献】国際公開第2022/167963(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0021594(KR,A)
【文献】米国特許第03858482(US,A)
【文献】米国特許第03978765(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102009030821(DE,A1)
【文献】西独国特許出願公開第01552391(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B35/00-49/06
B23D 1/00- 5/04
B23D13/00
B23D37/00
B23Q 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定具に取り付けられたワークを加工する加工用刃体と、
自身の中心軸線方向における一端側で前記加工用刃体を保持する保持軸と、
前記保持軸を当該保持軸の中心軸線を回転中心として回転可能に保持するホルダと、
前記保持軸に設けられた第1治具と、
を有し、
前記ホルダは、自身の中心軸線に対して前記保持軸の中心軸線を傾けた状態で前記保持軸を保持し、
前記加工用刃体は、前記保持軸が前記ホルダに保持されたときに、当該加工用刃体の先端面における回転中心が前記ホルダの中心軸線と前記保持軸の中心軸線との交点に一致するように配置され、
前記第1治具は、前記固定具又は前記ホルダのいずれかを自身の中心軸線を回転中心として回転させながら前記固定具と前記ホルダとを近接させたときに、前記保持軸の中心軸線に直交し、前記交点が含まれる平面上で、前記固定具に設けた第2治具と当接して、回転する前記固定具又は前記ホルダのいずれかの回転方向における、前記ワークの回転位置と前記加工用刃体の回転位置とを一致させる
ことを特徴とする加工用工具。
【請求項2】
請求項1に記載の加工用工具において、
前記第1治具は、前記固定具と前記ホルダとを同心状態に保持した状態で、回転する前記固定具と前記ホルダとを近接させたときに、前記固定具の回転に伴なって回動する前記第2治具の押圧を受けて、前記保持軸を当該保持軸の中心軸線を回転中心として回転させ、
前記加工用刃体は、前記ワークに対して前記交点を基点として首振り運動する
ことを特徴とする加工用工具。
【請求項3】
請求項1に記載の加工用工具において、
前記第1治具は、回転する前記ホルダと前記固定具とを近接させたときに、前記第2治具に当接して、前記ホルダの回転に伴う前記保持軸の回転を停止させ、
前記加工用刃体は、前記保持軸の中心軸線が前記ホルダの中心軸線に対して傾いていることで、前記保持軸の回転停止後に引き続き実行される前記ホルダの回転により、前記保持軸とともに前記交点を基点として首振り運動する
ことを特徴とする加工用工具。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の加工用工具において、
前記第1治具は、前記第2治具との当接時に、前記平面上で点接触又は線接触することが可能な当接部を有する
ことを特徴とする加工用工具。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の加工用工具において、
前記加工用刃体は、前記ワークに対してスプライン加工を行うことを特徴とする加工用工具。
【請求項6】
ワークが取り付けられる固定具と、
前記ワークを加工する加工用工具と、
前記加工用工具を保持する保持具と、
を有し、
前記加工用工具は、
ワークに圧接されることで前記ワークを加工する加工用刃体と、
自身の中心軸線方向における一端側で前記加工用刃体を保持する保持軸と、
前記保持軸を当該保持軸の中心軸線を回転中心として回転可能に保持するホルダと、
前記保持軸に設けられた第1治具と、
を有し、
前記固定具は、前記ワークの加工時に前記第1治具と当接される第2治具を有し、
前記ホルダは、自身の中心軸線に対して前記保持軸の中心軸線を傾けた状態で前記保持軸を保持し、
前記加工用刃体は、前記保持軸が前記ホルダに保持されたときに、当該加工用刃体の先端面における回転中心が前記ホルダの中心軸線と前記保持軸の中心軸線との交点に一致するように配置され、
前記第1治具は、前記固定具又は前記ホルダのいずれかを自身の中心軸線を回転中心として回転させながら前記固定具と前記ホルダとを近接させたときに、前記保持軸の中心軸線に直交し、前記交点が含まれる平面上で、前記固定具に設けた第2治具と当接して、回転する前記固定具又は前記ホルダのいずれかの回転方向における、前記ワークの回転位置と前記加工用刃体の回転位置とを一致させる
ことを特徴とする工作機械。
【請求項7】
請求項
6に記載の工作機械において、
前記第1治具は、前記固定具と前記ホルダとを同心状態に保持した状態で、回転する前記固定具と前記ホルダとを近接させたときに、前記固定具の回転に伴なって回動する前記第2治具の押圧を受けて、前記保持軸を当該保持軸の中心軸線を回転中心として回転させ、
前記加工用刃体は、前記ワークに対して前記交点を基点として首振り運動する
ことを特徴とする工作機械。
【請求項8】
請求項
6に記載の工作機械において、
前記第1治具は、回転する前記ホルダと前記固定具とを近接させたときに、前記第2治具に当接して、前記ホルダの回転に伴う前記保持軸の回転を停止させ、
前記加工用刃体は、前記保持軸の中心軸線が前記ホルダの中心軸線に対して傾いていることで、前記保持軸の回転停止後に引き続き実行される前記ホルダの回転により、前記保持軸とともに前記交点を基点として首振り運動する
ことを特徴とする工作機械。
【請求項9】
請求項
6から請求項
8のいずれか1項に記載の工作機械において、
前記固定具は、複数の把持爪を有するチャックであり、
前記第2治具は、前記複数の把持爪のいずれか1つに固定されることを特徴とする工作機械。
【請求項10】
固定具に取り付けられるワークを、保持具に保持された加工用工具を用いて加工する
ワーク加工方法であって、
前記加工用工具は、
前記ワークに圧接されることで前記ワークを加工する加工用刃体と、
自身の中心軸線方向における一端側で加工用刃体を保持する保持軸と、
前記保持軸を当該保持軸の中心軸線を回転中心として回転可能に保持するホルダと、
前記保持軸に設けられた第1治具と、
を有し、
前記固定具は、前記ワークの加工時に前記第1治具と当接される第2治具を有し、
前記ホルダは、自身の中心軸線に対して前記保持軸の中心軸線を傾けた状態で前記保持軸を保持し、
前記加工用刃体は、前記保持軸が前記ホルダに保持されたときに、当該加工用刃体の先端面における回転中心が前記ホルダの中心軸線と前記保持軸の中心軸線との交点に一致するように配置され、
前記固定具又は前記ホルダのいずれかを自身の中心軸線を回転中心として回転させる工程と、
前記固定具と前記ホルダとを近接させて、前記保持軸の中心軸線に直交し、前記交点が含まれる平面上で、前記固定具に設けた第2治具と当接させることで、回転する前記固定具又は前記ホルダのいずれかの回転方向における、前記ワークの回転位置と前記加工用刃体の回転位置とを一致させる工程と、
前記加工用工具の前記加工用刃体を前記ワークに圧接させて、前記ワークを加工する工程と、
を含む
ことを特徴とする
ワーク加工方法。
【請求項11】
請求項
10に記載の
ワーク加工方法において、
前記ワークを加工する工程は、前記ワークに設けた下穴をスプライン加工する工程であることを特徴とする
ワーク加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークにスプライン加工やセレーション加工を行う加工用工具、工作機械及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボール盤や旋盤などの一般的な汎用工作機械を利用して、有底の角穴を高精度に加工することのできる加工用工具が提供されている(特許文献1参照)。加工用工具は、例えばホルダ、刃体支持用軸体及び角穴加工用刃体を含み、刃体支持用軸体に取り付けた角穴加工用刃体の先端面の中心がホルダの中心軸線上に位置するように、刃体支持用軸体が軸体自身の中心軸線をホルダの中心軸線に対して2°程度傾斜させた状態でホルダに回動自在に保持された構造となっている。
【0003】
上述した加工用工具は、汎用工作機械の刃物台に保持され、例えばワークに有底の角穴を加工するとき、加工用工具が保持された刃物台は、ワークが保持された主軸台に向けて、回転する主軸台の中心軸線に沿って移動される。刃物台の主軸台に向けた移動により、刃物台に保持された加工用工具がワークに設けられた下穴の周縁部分に圧接されると、角穴加工用刃体は、角穴加工用刃体の先端面の中心、すなわち、刃体支持用軸体の中心軸線及びホルダの中心軸線の交点を首振り中心として、ホルダの被保持軸部軸心の周りで回転首振り運動する。このとき、ホルダの中心軸線に対し傾斜している角穴加工用刃体の先端面の周縁とワークとの圧接位置が周方向に転がり移動するので、角穴加工用刃体の先端周縁部のうち、加工用工具の送り方向における再先行位置となる周縁部分は、ワークに設けた下穴の深さ方向へ螺旋状に進行する。その結果、ワークの下穴の周囲が角穴加工用刃体の先端面の輪郭形状に沿って剪断切削されて、ワークに有底の角穴が加工される。
【0004】
また、この他に、一般的な汎用工作機械を用いて、加工物の外周面を加工することも提案されている(特許文献2参照)。この場合、旋盤のマンドレルに設けた突起と、スリーブのツールキャリヤー軸の外周縁から外方向に延びるロッドとを連結し、スリーブのマンドレルへの移動時に、マンドレルの回転に合わせて、スリーブのツールキャリヤー軸を回転させ、ツールキャリヤー軸に取り付けたツールを回転首振り運動させる。これにより、加工物の外周面の周囲が、ツールの傾斜の先端面の輪郭形状に沿って剪断切削され、加工物は、外周面の断面形状が例えば正方形状に加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平08-294809号公報
【文献】特開昭50-31482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば特許文献1に開示されるように、ワークの中心軸線を回転中心として回転させつつ、加工用工具の加工用刃体をワークに圧接する動作は、加工用工具が有する加工用刃体の刃先に非常に大きな負荷を与える。
図16に示すように、加工用刃体201は、例えば、外周面に所定角度間隔で複数の歯202が形成されている。これら複数の歯202は、加工用刃体201の中心軸線C8に沿って延びている。したがって、加工用刃体201をワークW0の中心軸線C9(
図17参照)に沿って移動させながら、加工用刃体201の複数の歯202をワークW0に圧接すると、複数の歯202は、ワークW0に圧接されたときの衝撃により刃先面203側の端部が破損し、歯欠け204が発生する。
図16においては、ワークW0を加工する前の、加工用刃体201の歯202の状態を点線で示し、ワークW0を加工した後の加工用刃体201の歯202の状態を実線で示している。
【0007】
一方、ワークW0は、加工用刃体201の複数の歯202の外周形状に合わせて切削加工されることで、複数の歯205を内周面に有するスプライン形状の穴(以下、セレーション穴)206が形成される。しかしながら、加工用刃体201の複数の歯が欠損することで、ワークW0に形成されるセレーション穴206の入口部分に歯欠け(ダレ)210が発生する他、セレーション穴206に形成される複数の歯205の歯筋が曲がる(
図17(b)中符号211)、又はセレーション穴206に形成される歯を必要以上に切削してしまうなど、セレーション穴206を精度良く加工できないなどの問題が生じてしまう。
【0008】
また、特許文献2に開示される加工方法では、ワークとともにツールが回転することから、ツールの加工物への圧接時にツールの刃先に働く衝撃は抑えられる。しかしながら、ツールキャリヤー軸の軸線方向において、ワークを保持するマンドレルに設けた突起がツールキャリヤー軸から突出するロッドを回転させるための位置(作用点)と、ツールの刃先が加工物を加工する位置とがずれている。したがって、マンドレルの中心軸線に直交する平面において、マンドレルの回転中心と、ツールキャリヤー軸を回転させたときの、上記作用点の回転中心とが一致しない。上述したように、ワークを保持するマンドレルに設けた突起がツールキャリヤー軸から突出するロッドを回転させるので、マンドレルの中心軸線に直交する平面において、マンドレルに設けた突起の回転位置と、ツールキャリヤー軸から突出するロッドの回転位置は一致している。このことから、マンドレルの突起の回転角度(回転速度)に対して、ロッドの回転角度(回転速度)、すなわち、ツールキャリヤー軸の回転角度(回転速度)は周期的に変化することになる。その結果、ワークにスプライン形状の穴を形成するときには、ワークの加工開始位置が余計に切削される、加工用工具の刃先先端形状よりもさらに切削するなど、加工不良が発生する。したがって、加工用工具の刃先に余計な負荷がかかるとともに、ワークにスプライン形状の穴を精度良く加工することが難しいという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、汎用工作機械を用いて、ワークを精度良く加工する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するに当たり、本発明における加工用工具の一態様は、固定具に取り付けられたワークを加工する加工用刃体と、自身の中心軸線方向における一端側で前記加工用刃体を保持する保持軸と、前記保持軸を当該保持軸の中心軸線を回転中心として回転可能に保持するホルダと、前記保持軸に設けられた第1治具と、を有し、前記ホルダは、自身の中心軸線に対して前記保持軸の中心軸線を傾けた状態で前記保持軸を保持し、前記加工用刃体は、前記保持軸が前記ホルダに保持されたときに、当該加工用刃体の先端面における回転中心が前記ホルダの中心軸線と前記保持軸の中心軸線との交点に一致するように配置され、前記第1治具は、前記固定具又は前記ホルダのいずれかを自身の中心軸線を回転中心として回転させながら前記固定具と前記ホルダとを近接させたときに、前記保持軸の中心軸線に直交し、前記交点が含まれる平面上で、前記固定具に設けた第2治具と当接して、回転する前記固定具又は前記ホルダのいずれかの回転方向における、前記ワークの回転位置と前記加工用刃体の回転位置とを一致させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明における工作機械の一態様は、ワークが取り付けられる固定具と、前記ワークを加工する加工用工具と、前記加工用工具を保持する保持具と、を有し、前記加工用工具は、ワークに圧接されることで前記ワークを加工する加工用刃体と、自身の中心軸線方向における一端側で前記加工用刃体を保持する保持軸と、前記保持軸を当該保持軸の中心軸線を回転中心として回転可能に保持するホルダと、前記保持軸に設けられた第1治具と、を有し、前記固定具は、前記ワークの加工時に前記第1治具と当接される第2治具を有し、前記ホルダは、自身の中心軸線に対して前記保持軸の中心軸線を傾けた状態で前記保持軸を保持し、前記加工用刃体は、前記保持軸が前記ホルダに保持されたときに、当該加工用刃体の先端面における回転中心が前記ホルダの中心軸線と前記保持軸の中心軸線との交点に一致するように配置され、前記第1治具は、前記固定具又は前記ホルダのいずれかを自身の中心軸線を回転中心として回転させながら前記固定具と前記ホルダとを近接させたときに、前記保持軸の中心軸線に直交し、前記交点が含まれる平面上で、前記固定具に設けた第2治具と当接して、回転する前記固定具又は前記ホルダのいずれかの回転方向における、前記ワークの回転位置と前記加工用刃体の回転位置とを一致させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明における加工方法の一態様は、固定具に取り付けられるワークを、保持具に保持された加工用工具を用いて加工する方法であって、前記加工用工具は、前記ワークに圧接されることで前記ワークを加工する加工用刃体と、自身の中心軸線方向における一端側で加工用刃体を保持する保持軸と、前記保持軸を当該保持軸の中心軸線を回転中心として回転可能に保持するホルダと、前記保持軸に設けられた第1治具と、を有し、前記固定具は、前記ワークの加工時に前記第1治具と当接される第2治具を有し、前記ホルダは、自身の中心軸線に対して前記保持軸の中心軸線を傾けた状態で前記保持軸を保持し、前記加工用刃体は、前記保持軸が前記ホルダに保持されたときに、当該加工用刃体の先端面における回転中心が前記ホルダの中心軸線と前記保持軸の中心軸線との交点に一致するように配置され、前記固定具又は前記ホルダのいずれかを自身の中心軸線を回転中心として回転させる工程と、前記固定具と前記ホルダとを近接させて、前記保持軸の中心軸線に直交し、前記交点が含まれる平面上で、前記固定具に設けた第2治具と当接させることで、回転する前記固定具又は前記ホルダのいずれかの回転方向における、前記ワークの回転位置と前記加工用刃体の回転位置とを一致させる工程と、前記加工用工具の前記加工用刃体を前記ワークに圧接させて、前記ワークを加工する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ワークを精度良く加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図1に示す工作機械の電気的構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】主軸が有するチャック近傍の構成の一例を示す斜視図である。
【
図4】チャックの回転中心を含む平面から間隔を空けて主軸側治具の側面を配置したときのチャックの正面図である。
【
図5】チャックの回転中心を含む平面上に主軸側治具の側面を配置したときのチャックの正面図である。
【
図7】刃体支持用軸体及び加工用刃体近傍の構成の一例を分解して示す平面図である。
【
図8】回転補助機構の構成の一例を分解して示す斜視図である。
【
図9】(a)板形状の当接部を有する工具側治具を、主軸の正面側から示す図、(b)工具側治具を主軸の側面側から示す図である。
【
図10】(a)はワークの加工開始時における、チャックが有する把持爪と、回転補助機構の工具側治具の当接部の位置関係を主軸の正面側から示す図であり、(b)は(a)の状態を主軸の上面側から示す図である。
【
図11】(a)は工具側治具の当接部がチャックの把持爪に固定した主軸側治具の回転軌跡上まで移動した時点における、チャックが有する把持爪と回転補助機構の工具側治具の当接部との位置関係を主軸の正面側から示す図であり、(b)は(a)の状態を主軸の上面側から示す図である。
【
図12】(a)は加工用刃体の刃先面がワークに押圧された時点における、チャックが有する把持爪と回転補助機構の工具側治具の当接部との位置関係を主軸の正面側から示す図であり、(b)は(a)の状態を主軸の上面側から示す図である。
【
図13】ワークに形成されるスプライン形状の穴の状態を示す斜視図である。
【
図14】(a)は工具側治具の当接部の先端が把持爪に設けたピンに当接されたときの、チャックが有する把持爪と回転補助機構の工具側治具の当接部との位置関係を主軸の正面側から示す図であり、(b)は(a)の状態を主軸の上面側から示す図である。
【
図15】チャックに設けられる把持爪の間に主軸側治具を各々配置し、配置した主軸側治具をチャックに各々固定した場合の一例を示す斜視図である。
【
図16】従来技術における加工方法を採用した場合に、加工用刃体が有する複数の刃が破損した状態を示す斜視図である。
【
図17】従来技術における加工方法を採用した場合に、ワークに形成されるスプライン形状の穴の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は、工作機械10の概要を示す外観図である。
図2は、工作機械10の電気的構成を示す機能ブロック図である。また、
図3は、主軸11近傍の構成の一例を示す斜視図である。
【0016】
図1から
図3に示すように、工作機械10は、例えばNC(Numerially Control)旋盤であり、例えば主軸11、刃物台12及び操作盤13を含む。主軸11は、ワークWを保持して中心軸線C1(
図3参照)を回転中心として回転する。主軸11の中心軸線C1を中心とした回転のための駆動力は、主軸回転駆動部15により与えられる。図示は省略するが、主軸回転駆動部15は、例えばサーボアンプ、サーボモータ及びエンコーダを含む。
【0017】
主軸11は、複数の把持爪16を有するチャック17を備える。なお、チャック17は、請求項に記載の固定具に相当する。実施の形態では、請求項に記載された固定具としてチャック17が相当するとしているが、請求項に記載の固定具としては、例えばワークWを把持する部位(チャック17)の他に、当該部位を有する装置全体を指すことも可能である。複数の把持爪16は、チャック17の前面の周方向に一定角度間隔を空けて配置される。以下、3個の把持爪16を設けた場合について説明し、3個の把持爪16を、把持爪16a、把持爪16b及び把持爪16cと称して説明する。
【0018】
把持爪16a,16b,16cは、チャック駆動部18により主軸11の径方向に沿って各々移動する。例えばワークWをチャック17に取り付けるときには、3個の把持爪16a,16b,16cは、チャックの回転中心に向けて(
図3中A方向に)同時に移動する。一方、ワークWをチャック17から取り外すときには、3個の把持爪16a,16b,16cは、チャック17の回転中心からチャック17の外周縁に向けて(
図3中B方向に)同時に移動する。図示は省略するが、チャック駆動部18は、例えばサーボアンプ、サーボモータ及びエンコーダを含む。
【0019】
3個の把持爪16a,16b,16cのうち、把持爪16aには、主軸側治具21が固定される。主軸側治具21は、主軸11の回転時に、後述する加工用工具40が有する工具側治具62の当接部85に当接して、加工用工具40の刃体支持用軸体42を回転させる。
【0020】
主軸側治具21は、把持爪16aの上面22に沿って延びる取付片21aと、該取付片21aに直交する押圧片21bとを有する、例えばT字形状の部材である。なお、主軸側治具21は、請求項に記載の第2治具に相当する。
【0021】
押圧片21bは、回転する主軸11に向けて刃物台12を移動させたときに、後述する工具側治具62の当接部85を押圧して、刃体支持用軸体42及び当該刃体支持用軸体42に固定される加工用刃体43を回転させる。押圧片21bの先端部は、把持爪16により保持されるワークWの端面91よりも刃物台12側に位置しており、押圧片21bが加工用工具40の工具側治具62の当接部85を押圧した状態で、後述する加工用工具40の加工用刃体43がワークWを加工するようになっている。
【0022】
押圧片21bは、緩衝用のピン27を備える。ピン27は、半球面形状の先端部を有する。ピン27は、押圧片21bの内部に収納されたコイルばね(不図示)により、押圧片21bの上面23から突出した状態に保持される。ピン27は、回転する主軸11に向けて刃物台12が移動している過程で、加工用工具40が有する工具側治具62の当接部85の先端がピン27の先端部に接触したときに、押圧片21bの内部に押し込み、工具側治具62の当接部85の先端が押圧片21bの上面23に衝突することを防止する。工具側治具62は、押圧するピン27が押圧片21bの内部に退避する過程で、工具側治具62の当接部85とピン27との係合が解除され、主軸側治具21が工具側治具62の当接部85の位置まで再度回動した時には、工具側治具62の当接部85の第1当接部85a又は第2当接部85bがピン27又は押圧片21bの側面24と当接する。加工用刃体43がワークWに接触する前に第2当接部85bと押圧片21bの側面24が当接することで、ワークWの回転と加工用刃体43の回転が同期するようになっている。
【0023】
図4に示すように、主軸側治具21がチャック17の把持爪16aに固定された状態において、主軸側治具21の側面24は、主軸11の中心軸線C1を含む一つの平面PL1に平行で、且つ平面PL1に対して間隔H空けて配置される。このとき、間隔Hは、ワークWの加工時に主軸側治具21の側面24が工具側治具62の第2当接部85bに当接する当接点P2から工具側治具62の断面円形の第2当接部85bの中心P5までの距離、すなわち、工具側治具62の第2当接部85bの半径Rと同一である。
【0024】
なお、
図4においては、主軸側治具21の側面24を平面PL1に対して間隔H空けて配置し、また、間隔Hを第2当接部85bの半径Rと同一としているが、主軸側治具21の側面24が第2当接部85bに当接させることができるのであれば、間隔Hは、第2当接部85bの半径Rと同一にする必要はない。例えば、
図5に示すように、主軸側治具21は、主軸側治具21の側面24が主軸11の中心軸線C1を含む一つの平面PL1’に含まれるように、チャック17の把持爪16aに固定されてもよい。図示は省略するが、この場合、上記間隔Hは、H=0である。さらに、第2当接部85bの断面形状として円形状以外の形状を採用することも考えられるので、上記間隔Hは、主軸側治具21の側面24と第2当接部85bとが当接可能な間隔であればよく、その間隔Hは適宜設定することができる。
【0025】
図1から
図3に戻って説明すると、刃物台12は、主軸11のチャック17から所定量離間した位置に配置され、移動装置31によりx方向又は-x方向のいずれかに移動、或いはz方向又は-z方向のいずれかに移動する。また、刃物台12に設けられた工具保持部35は、後述の通り旋回駆動部32によりz方向に延びる直線を旋回中心として旋回する。
【0026】
移動装置31は、後述する加工用工具40によるワークWの切込み方向(x方向又は-x方向)に刃物台12を移動させるX軸駆動部33及び切込み方向に直交する送り方向(z方向又は-z方向)に刃物台12を移動させるZ軸駆動部34を有する。図示は省略するが、X軸駆動部33及びZ軸駆動部34は、各々例えばサーボアンプ、サーボモータ及びエンコーダを含む。移動装置31が有するX軸駆動部33及びZ軸駆動部34によって刃物台12が移動することで、主軸11及び刃物台12の相対位置が変化する。
【0027】
なお、移動装置31が有するX軸駆動部33及びZ軸駆動部34により、刃物台12を移動させることで、主軸11及び刃物台12の相対位置を変えているが、刃物台12ではなく主軸11を移動させる、又は主軸11及び刃物台12を各々移動させることで、主軸11及び刃物台12の相対位置を変えることも可能である。
【0028】
刃物台12は、工具保持部35を複数有する。工具保持部35は、後述する加工用工具40を各々保持する。刃物台12は、旋回駆動部32により複数の工具保持部35を一体で水平軸回りに旋回して、工具保持部35の各々に保持された加工用工具40のうち、ワークWを加工する際に用いる加工用工具40を所定位置まで移動させる。図示は省略するが、旋回駆動部32は、例えばサーボアンプ、サーボモータ及びエンコーダを含む。
【0029】
制御装置36は、図示を省略したCPU、ROM及びRAMを含んで構成され、ROMに記憶された加工プログラムや、上述した各駆動部のエンコーダから出力されるデータに基づき、各駆動部を駆動制御する。
【0030】
操作盤13は、オペレータが工作機械10を操作するために設けられ、例えば表示パネル37及び操作ボタン38を有する。なお、操作盤13は、画面に接触することにより、入力操作や選択操作が可能なタッチパネルとしてもよい。
【0031】
次に、上述した工作機械10において用いられる加工用工具40について説明する。加工用工具40は、例えばスプライン形状の穴をワークWに加工する際に用いられる。
図5に示すように、加工用工具40は、ホルダ41、刃体支持用軸体42、加工用刃体43及び回転補助機構44を有する。ホルダ41は、保持軸部46及び軸受部47を有する。保持軸部46は、加工用工具40を工作機械10の刃物台12に固定する際に、刃物台12の工具保持部35に固定保持される。軸受部47は、収納凹部47aを有し、刃体支持用軸体42を収納凹部47aに収納して保持する。ここで、刃体支持用軸体42は、請求項に記載の保持軸に相当する。
【0032】
図6及び
図7に示すように、刃体支持用軸体42は、自身の中心軸線C2がホルダ41の中心軸線C3と、軸受部47の保持軸部46と反対側の端面より所定量外方で交差するとともに、交差角度θ1傾斜した状態で、ホルダ41の軸受部47の収納凹部47aに収納保持される。刃体支持用軸体42の中心軸線C2とホルダ41の中心軸線C3とが交差する点は、後述する加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3と一致する。交差角度θ1は、一例としてθ1=2.1°である。なお、交差角度θ1は、θ1=1~2.3°の範囲が好適であるが、その範囲から多少外れる角度であってもよい。刃体支持用軸体42がホルダ41の軸受部47の保持軸部46と反対側の端面から設けられた収納凹部47aに収納された状態では、刃体支持用軸体42は、図示を省略した複数の転がり軸受により支承され、自身の中心軸線C2を回転中心として回転(自転)可能となる。転がり軸受の外輪を含めて刃体支持用軸体42としているが、転がり軸受を除いて刃体支持用軸体としてもよい。
【0033】
刃体支持用軸体42は、自身の中心軸線C2の軸線方向における一端側において、他端側の外径よりも小さい外径を有する固定部42aを備える。固定部42aには、後述する締結部材61が締付け固定される。固定部42aは、ねじ孔42bを例えば180°間隔を隔てて2か所に有する。ねじ孔42bは、後述する収納部42cと連通する。固定部42aの外周面の2か所に設けたねじ孔42bには、六角穴付き止めねじ59が各々螺合される。
【0034】
刃体支持用軸体42は、固定部42aが設けられる一端側に、凹状の収納部42cを有する。収納部42cは、加工用刃体43が固定されたアダプタ51の一端部を収納し、加工用刃体43を中心軸線C2と同軸となるように保持する。
【0035】
加工用刃体43は、ワークWの下穴90を切削加工して、ワークWに形成される穴の断面形状を、加工用刃体43の先端面となる刃先面43aの輪郭形状に加工する。先端面である刃先面43aは、自身の中心軸線C2に直交する平面と一致している。加工用刃体43は、ワークWの下穴に対して切削加工を行うための複数の刃を、加工用刃体43に対して間隔を空けて有していて、その一端側にワークWに押し当てる刃先を有している。本実施の形態においては、スプラインの一種であるセレーション穴を加工するための複数の刃が周方向等間隔で配置されている。複数の刃の一端側の先端で中心軸線C2と直交する刃先面43aを形成し、刃先面43aの外周部の輪郭形状に下穴90を切削加工する。加工用刃体43は、刃先面43aに直交する直線(例えば、中心軸線C2)の延在方向において、刃先面43aとなる一端から他端に向けて断面が略相似形で、徐々に縮径される円錐台形状の外周面を有する。加工用刃体43を円錐台形状とした場合に円錐台形状の底面に刃先面43aが形成され、底面が先端面に対応する。円錐台形状の中心軸は加工用刃体43の中心軸線C2と一致する。
【0036】
ここで、加工用刃体43のテーパ状の外周面におけるテーパ角θ2は、上述した交差角度θ1=2.1°に対し、例えばθ2=2.2°である。加工用刃体43のテーパ角θ2は、加工用刃体43によるワークWの切削加工時に、加工用刃体43の外周面となる複数の刃の先端面、及び複数の刃の間の底面がワークWの加工面に圧接しない角度であればよいが、上述した刃体支持用軸体42の中心軸線C2とホルダ41の軸受部47の中心軸線C1とのなす角度θ1よりも0.3°より大きく設定されていれば刃先が鋭角となりかけやすく、0.05°より小さいと加工抵抗が増大する。したがって、テーパ角θ2は、角度θ1よりも0.1°大きく設定するのが最良な形態である。
【0037】
加工用刃体43は、キー溝付きの挿通孔54を有する。挿通孔54には、軸52が挿通され、軸52の挿通時に、軸52に設けたキー部(突条)57がキー溝55に挿入される。
【0038】
アダプタ51は、軸52及びナット53により加工用刃体43を一体に保持する部材である。アダプタ51は、両端が開口された円筒状の部材で、中心軸線C2の軸線方向における略中央、又はそれよりも上記の軸線方向に沿って若干オフセットした箇所に大径部51aを有する。大径部51aは、アダプタ51の一端部を刃体支持用軸体42の収納部42cに挿入したときに、固定部42aの端面42dに当接されて、アダプタ51の収納部42cの挿入を規制する。
【0039】
アダプタ51の中空空間51bは、軸52を挿通させる挿通孔として機能する。挿通孔として機能する中空空間51bに対面する内壁面には、中心軸線C2の延在方向に沿ったキー溝51cが設けられる。また、アダプタ51は、大径部51aによって区分される両端部のうち、一方の端部の外周面に、中空空間51bに連通する位置決め孔51dを有する。位置決め孔51dは、アダプタ51の外周面に180°間隔を空けて、2か所に設けられる。これら位置決め孔51dは、固定部42aに締結部材61が保持されたときに、固定部42aの外周面の2か所に設けたねじ孔42bに各々螺合する六角穴付き止めねじ59の先端部を挿通させる。
【0040】
軸52は、頭部52a、円筒部52b及びねじ部52cを有し、中心軸線C2に沿ったキー部(突条)57と、凹部58とを円筒部52bに有する部材である。軸52は、加工用刃体43をアダプタ51に固定する際に、加工用刃体43の挿通孔54、アダプタ51の中空空間51bの順に挿通される。このとき、軸52に設けられたキー部57は、加工用刃体43のキー溝55、アダプタ51のキー溝51cに跨って挿入される。これにより、軸52を中心とした回転方向において、加工用刃体43とアダプタ51との相対位置が保持される。
【0041】
凹部58は、軸52の円筒部52bの外周面に、180°間隔を空けて2か所に設けられ、頭部52aに向けて傾斜した平坦面となっている。加工用刃体43を固定したアダプタ51を刃体支持用軸体42の収納部42cに挿入し、後述する締結部材61を刃体支持用軸体42の固定部42aに取り付けたときに、固定部42aの外周面の2か所に設けたねじ孔42bの各々に螺合された六角穴付き止めねじ59の先端が、凹部58に圧着される。これにより、刃体支持用軸体42と固定部42aとの相対位置が固定される。
【0042】
図8に示すように、回転補助機構44は、締結部材61及び工具側治具62を含む。締結部材61は、締結孔65、スリット66を有する、略C字形状の部材である。締結部材61は、スリット66を有することで、スリット66の上方に位置する一端部61aに挿通孔67を、スリット66の下方に位置する他端部61bに挿通孔67と同軸となるねじ孔68を有する。挿通孔67は締結ねじ70を挿通し、ねじ孔68は挿通孔67に挿通された締結ねじ70を螺合する。
【0043】
締結孔65は、上方に延びる逃げ溝65aと、下方に延びる逃げ溝65bと、を有する。例えば、六角穴付き止めねじ59を固定部42aに螺合して締め付けると、六角穴付き止めねじ59は、固定部42aの外周面から所定量突出する。逃げ溝65a,65bは、固定部42aの外周面から所定量突出した六角穴付き止めねじ59と締結部材61の干渉を回避するものである。締結部材61は、固定部42aの外周面から突出する六角穴付き止めねじ59が逃げ溝65a,65bに各々挿入させた状態となるように、締結孔65に固定部42aを挿入する。締結孔65に固定部42aを挿入した後、締結部材61又は固定部42aの相対位置を変えて、六角穴付き止めねじ59と挿通孔71,72とを位置合わせした後、締結ねじ70を締め付ける。締結ねじ70を締め付けると、締結部材61の締結孔65に対面する内周面が刃体支持用軸体42の固定部42aの外周面に圧接されて、締結部材61が刃体支持用軸体42の固定部42aに締め付け固定される。
【0044】
また、締結部材61は、上面及び下面(図示省略)から締結孔65に向けて延在する挿通孔71,72を有する。挿通孔71,72は、六角穴付き止めねじ59用の六角ソケットレンチを挿通する孔である。
【0045】
工具側治具62は、ブラケット80を介して締結部材61に固定される。なお、ブラケット80は、ねじ取付孔80a,80bを有する。ねじ取付孔80a,80bは、ブラケット80を締結部材61に固定する際にボルト81を挿通し、締結部材61の舌片61cに設けたねじ孔61d,61eに螺合し締結する。また、ウエイト部材74,75は、締結部材61の前面に六角穴付き止めねじ76,77により固定され、締結部材61にブラケット80を介して工具側治具62が取り付けられたことで生じる軸回りのアンバランスを解消するためのバランスウエイトとなっている。また、ウエイト部材74,75を締結部材61に取り付けた状態において、締結孔65に対応する穴径が、締結孔65よりも小さく設定されている。これにより、締結部材61を刃体支持用軸体42に締結する際に、ウエイト部材74,75を端面42dに当接させることで、軸方向の位置決めを容易に可能としている。
【0046】
工具側治具62は、ワークWの下穴90の内周壁を加工する時に、回転する主軸11のチャック17の把持爪16のいずれかに設けられた主軸側治具21に押圧されて、チャック17の回転力を刃体支持用軸体42に伝達する部材である。工具側治具62は、当接部85、軸部86及びねじ部87を有する。なお、工具側治具62は、請求項に記載の第1治具に相当する。
【0047】
当接部85は、ワークWの下穴90の内周壁を加工する時に、回転する主軸11のチャック17の把持爪16のいずれかに設けられた主軸側治具21に当接する。当接部85は、円錐形状の第1当接部85aと、外方に凸状となるように湾曲した曲面を外周面とする第2当接部85bと有する。なお、第1当接部85aの先端の形状は、例えば球面形状である。また、第2当接部85bの形状は、一例として、球体を球体の中心から同一距離にある平行な2つの平面で切断したときに得られる球台の形状(以下、球台形状)である。つまり、第2当接部85bの外周面は球帯となるので、第2当接部85bの中心(すなわち、球体の中心)P5から第2当接部85bの外周面までの距離は、球台を含む球体の半径R(
図4参照)となる。
【0048】
第1当接部85aは、回転する主軸11に向けて刃物台12を移動させたときに、主軸側治具21の上面23と側面24との稜線25に当接する。刃物台12は主軸11に向けて移動しているので、第2当接部85bは、第1当接部85aが主軸側治具21の上面23と側面24との稜線25に当接している状態から、主軸側治具21の側面24に当接した状態となる。なお、主軸側治具21の側面24が第2当接部85bに当接される位置は、加工用刃体43の刃先面43aを含む平面PL2上である。
【0049】
実施の形態において、当接部85は、円錐形状の第1当接部85aと、球台形状の第2当接部85bとを組み合わせた形状としている。しかしながら、主軸側治具21の側面24が第2当接部85bに当接する位置(後述する当接点P2の位置)が、加工用刃体43の刃先面43aを含む平面PL2(
図5参照)上に存在すればよい。したがって、当接部85を例えば三角錐形状や四角錐形状の部材とし、これら部材の端縁部(稜線部)を主軸側治具21の側面24に当接させることも可能である。また、この他に、工具側治具の軸部の先端を主軸側治具の側面に対面するように屈曲させ、工具側治具の軸部の先端と、主軸側治具の側面とを当接(点接触)させるようにしてもよい。
【0050】
さらに、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、軸部86’の中心軸線C4’方向において、軸部86’の先端側となる一端部とは反対側となる他端縁部(稜線部)85a’で、主軸側治具21の側面24に当接するように、軸部86’の中心軸線C4’に対して傾斜した板部材85’を当接部85’としてもよい。この場合、他端縁部(稜線部)85a’が、主軸側治具21の側面24に当接する。
【0051】
ねじ部87は、ブラケット80のねじ孔80cに螺合される。ブラケット80のねじ孔80cに対するねじ部87の締め付け具合によって、工具側治具62の中心軸線C4に平行な方向に対する当接部85の位置が調整される。本実施の形態においては、工具側治具62は、加工用工具40の使用状態において、主軸側治具21の側面24が第2当接部85bに当接される点(以下、当接点)P2が、加工用刃体43の刃先面43aを含む平面PL2上に位置するように、ねじ部87の締め付け具合が調整される。この状態では、刃体支持用軸体42の中心軸線C2に沿った方向において、当接部85の第1当接部85aは加工用刃体43の刃先面43aを含む平面PL2から突出した状態となる。
【0052】
ナット88は、ブラケット80のねじ孔80cからブラケット80の背面側に突出する工具側治具62のねじ部87に螺合する。ナット88は、ブラケット80に位置調整して固定される工具側治具62が、ブラケット80に対して位置ずれすることを防止するためのロックナットとなっている。工具側治具62をブラケット80のねじ孔80cにねじ込んで取り付ける構造としているので、第2当接部85bを球台形状としたが、ワークWと加工用刃体43が接触しているときに、主軸側治具21の側面24と当接し摺動しても、加工用工具40のホルダ41の中心軸線C3回りで相対的に回転しない形状であればよい。中心軸線C3回りで相対回転しない形状とは、側面24が中心軸線C3を含む一つの平面に平行で、第2当接部85bが少なくとも点または線上の当接部を有し、側面24を加工中に当接可能な位置に配置されていればよい。第2当接部85bは凸曲面である必要はなく、平面で形成されていても良い。平面であるときには側面24と平行であることが好ましい。
【0053】
次に、ワークWの下穴90の内周壁をセレーション加工する場合の動作を説明する。ワークWは、チャック17が有する3個の把持爪16a,16b,16cによってチャック17に取り付けられる。ワークWが3個の把持爪16a,16b,16cにより把持されてチャック17に取り付けられた状態で、主軸11は中心軸線C1を中心として、
図3中R1方向に回転する。図示しない円形の下穴加工用刃体によってワークWに下穴加工を行う。下穴加工が完了後に、刃物台12の工具保持部35に予め取り付けられたセレーション加工用の加工用工具40の中心軸線C3を下穴の軸線である主軸11の中心軸線C1に旋回駆動部等を用いて一致させ、主軸11に向けて移動する。刃物台12が主軸11に向けて移動するときには、主軸11と加工用工具40のホルダ41とは同心状態に保持される。
【0054】
上記のように、刃物台12が主軸11に向けて移動すると、主軸11の中心軸線C1の方向において、加工用工具40の工具側治具62の当接部85の一部は、
図10(a)及び
図10(b)に示すように、把持爪16aの主軸側治具21の押圧片21bが回転によって通過する存在領域内に到達する。なお、主軸11の中心軸線C1に直交する投影面において、把持爪16aに固定されている主軸側治具21が、工具側治具62の当接部85の位置をすでに通過している場合、把持爪16aに固定された主軸側治具21は、工具側治具62の当接部85を押圧せずに回転する。
【0055】
しかしながら、把持爪16aに固定された主軸側治具21が、
図11(a)及び
図11(b)に示すような工具側治具62の当接部85の位置まで回転すると、主軸側治具21の上面23と側面24とが成す稜線25が工具側治具62の第1当接部85aに当接し、主軸側治具21が工具側治具62を押圧する。
図11(b)中、記号P1が、主軸側治具21の上面23と側面24とが成す稜線25と、工具側治具62の第1当接部85aとが当接される当接点である。
【0056】
上述したように、工具側治具62は、回転補助機構44として刃体支持用軸体42に固定される。主軸側治具21が工具側治具62を押圧すると、その押圧力が回転補助機構44を介して刃体支持用軸体42に伝達され、刃体支持用軸体42が中心軸線C2を回転中心として回転(自転)する。このとき、加工用刃体43の刃先面43aと刃体支持用軸体42の中心軸線C2との交点である加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3(
図11(b)参照)は、主軸11の中心軸線C1上に位置している。その一方で、上記当接点P1は、加工用刃体43の刃先面43aを含む平面PL2上にはなく、刃体支持用軸体42の中心軸線C2方向において、平面PL2から主軸11側に距離D離れた位置にある。ここで、当接点P1を含む、上記平面PL2に平行な平面と、刃体支持用軸体42の中心軸線C2との交点、すなわち、主軸側治具21が工具側治具62を押圧したときの当接点P1の回転中心は、主軸11の中心軸線C1からずれた位置となる。その結果、主軸11が一定の角速度で回転しているのに対して、刃体支持用軸体42は、角速度が主軸11と完全には一致せず周期的に変化しながら回転する。
【0057】
また、加工用刃体43が固定された刃体支持用軸体42が、主軸11とともに回転を開始した後も、刃物台12は、主軸11に向けて移動している。したがって、主軸側治具21の上面23と側面24とが成す稜線25と、工具側治具62の第1当接部85aとが当接される位置が工具側治具62の当接部85が設けられた一端側(z側)から他端側(-z側)へとずれていく。
【0058】
上記のようなずれが進行していくと、
図12(a)に示すように、主軸側治具21の上面23及び側面24が成す稜線25における第1当接部85aへの当接が解除されて、主軸側治具21の側面24における第2当接部85bへの当接に切り替わる。記号P2は、第2当接部85bが主軸側治具21の側面24に当接される当接点である。
【0059】
主軸側治具21の側面24が工具側治具62の第2当接部85bに当接された後も、刃物台12は主軸11に向けて移動している。したがって、工具側治具62の第2当接部85bは、回転する主軸側治具21の側面24に押圧されながら、摺動する。すなわち、主軸側治具21の側面24と工具側治具62の第2当接部85bが当接される当接点P2の位置は、主軸11側に移動する。また、主軸11の中心軸線C1に対して、刃体支持用軸体42の中心軸線C2は所定の角度θ1傾いていることから、回転する主軸側治具21の側面24に押圧されて工具側治具62が回転するときには、主軸側治具21の側面24と第2当接部85bとが当接される当接点P2の位置は、主軸側治具21の側面24の幅方向に、すなわち、回転する主軸側治具21の回転軌跡における半径方向で摺動する。上述したように、第2当接部85bは、球体の中心から同一距離離れた平行な2つの平面で球体を切断することで形成される球台の形状であることから、第2当接部85bの中心、すなわち、球台の中心P5から当接点P2までの距離は、第2当接部85bの半径Rで一定となる。
【0060】
上述したように、主軸側治具21は、主軸11の中心軸線C1を回転中心として回転し、また、加工用刃体43及び工具側治具62は、刃体支持用軸体42の中心軸線C2を回転中心として回転する。このとき、主軸側治具21の側面24と工具側治具62の当接部85との当接点P2は、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3を含む平面PL2上にあるので、当接点P2は、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3を中心として回転する。その結果、主軸11の中心軸線C1に対して、加工用刃体43の中心軸線C2が角度θ1傾斜していても、主軸11のチャック17に取り付けられたワークWの回転角度と、加工用刃体43の刃先面43aの回転角度とが一致(同期)されて、回転角度のズレが生じなくなる。
【0061】
主軸側治具21の側面24における第2当接部85bへの当接に切り替わった後も、主軸側治具21による工具側治具62の当接部85への押圧が引き続き行われる。その後、
図12(b)に示すように、加工用工具40の加工用刃体43がワークWに圧接されて、加工用刃体43による、ワークWの切削加工が開始される。
【0062】
加工用刃体43は、ワークWの回転と完全に同期して中心軸線C2を回転中心として回転している。このとき、加工用刃体43の中心軸線C2は、主軸11の中心軸線C1に対し角度θ1傾斜し、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3で中心軸線Z1と交差している。このため、加工用刃体43の中心軸線C2は、主軸11の中心軸線C1周りを傾斜したまま相対的に回転することになり、中心軸線C2は回転中心P3を基点としてワークWに対して円錐振り子の運動軌跡のように相対的に首振り運動を行っている。刃物台12が主軸11に向けて移動すること(つまり、刃物台12の送り)にしたがって、加工用刃体43は、自身の回転に伴って局所的にワークWに圧接され、下穴90の内周壁を、縁部から切削加工する。その結果、ワークWの下穴90は、加工用刃体43の刃先面43aの輪郭形状に沿って切削加工される。
【0063】
上述したように、加工用刃体43によるワークWの下穴90の内周壁を切削加工しているとき、主軸側治具21の側面24と、工具側治具62の第2当接部85bとが当接する当接点P2の回転中心は、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3と一致する。また、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3は、主軸11の中心軸線C1上にある。したがって、刃体支持用軸体42は、ワークWと一体となって回転する主軸11の中心軸線C1回りでは、ワークWに対し相対的に回転することなく、中心軸線C2のみが相対的に円錐振り子の運動軌跡のような首振り運動を行いながら送り方向に前進する。その結果、
図13(a)及び
図13(b)に示すように、ワークWには、加工用刃体43の刃先面に沿って形成されたスプライン形状の穴150が形成される。このスプライン形状の穴150において、穴150の内周面に沿って形成される複数の歯151は、加工用刃体43の刃先面43aの圧接が開始されるワークWの端面91側において、欠けておらず、また、複数の歯151は、ワークWの中心軸線C6の方向に蛇行して延びるのではなく、ワークWの中心軸線C6に沿って直線状に延びたものとなっている。このように、上記の実施の形態を採用することで、ワークWに対して、スプライン形状の穴を精度良く加工することができる。
【0064】
なお、主軸11に向けて移動する刃物台12の移動量が所定量となると、刃物台12は、元の位置まで移動する。そして、主軸11のR1方向の回転も停止する。この状態では、チャック17が有する3個の把持爪16によるワークWの把持を解除することが可能となる。したがって、加工されたワークWを取り外した後、新たに加工するワークWがあれば、加工されたワークWが取り外され、新たに加工するワークWに付け替えられる。
【0065】
ワークWを加工するとき、主軸11は中心軸線C1を回転中心として回転し、同時に刃物台12は回転する主軸11に向けて移動する。刃物台12は回転する主軸11に向けて移動するときに、工具側治具62の当接部85は、主軸11の回転に伴う主軸側治具21の存在領域(回動軌跡)に侵入する。例えば、主軸11の中心軸線C1に直交する投影面における工具側治具62の当接部85の位置に主軸側治具21の押圧片21bが到達していない状態で、工具側治具62の当接部85が主軸11の回転に伴う主軸側治具21の存在領域に侵入すると、工具側治具62の当接部85は、次に主軸側治具21の押圧片21bが上記位置に到達したときに主軸側治具21の押圧片21bに押圧される。
【0066】
図14(a)に示すように、主軸11の中心軸線C1に直交する投影面において、例えば、刃物台12が主軸11に向けて移動する過程で、回転する主軸11の主軸側治具21の上面23と、工具側治具62の当接部85とが重畳されるタイミングで、工具側治具62の当接部85が主軸11の回転に伴う主軸側治具21の存在領域に侵入すると、工具側治具62の当接部85の先端は、主軸側治具21の押圧片21bの上面23から突出するピン27に当接される(
図14(b)参照)。
【0067】
工具側治具62の当接部85の先端がピン27に当接したとき、ピン27は工具側治具62の当接部85の先端による押圧を受けて、押圧片21bの内部に押し込まれる。このとき、工具側治具62の当接部85に押圧されるピン27はばねの付勢を受けており、工具側治具62の当接部85とピン27とが係合された状態となる。
【0068】
工具側治具62がピン27に係合された状態においても主軸11は回転し、同時に、刃物台12は主軸11に向けて移動している。工具側治具62の当接部85とピン27とが係合されると、工具側治具62の当接部85は、主軸11とともに回転を開始し、加工用刃体43及び回転補助機構44が固定された刃体支持用軸体42を回転させる。このとき、工具側治具62には刃体支持用軸体42の回転を停止させる力が働くため、工具側治具62の当接部85の先端がピン27の先端を押圧する位置がずれていき、工具側治具62の当接部85の先端が押圧片21bの上面23に衝突する前に、工具側治具62の当接部85の先端とピン27の先端との係合が解除される。工具側治具62の当接部85の先端とピン27の先端との圧接が解除されると、工具側治具62は、主軸11とは逆方向に所定量回転して停止する。また、ピン27は、ばねの付勢により元の位置に復帰する。
【0069】
そして、刃物台12が主軸11に向けて移動して、工具側治具62の当接部85が押圧片21bの回動によって通過する存在領域内に入り込むと、主軸11に固定された主軸側治具21の押圧片21bに押圧される。その結果、加工用刃体43及び回転補助機構44が固定された刃体支持用軸体42が主軸11とともに回転する。したがって、工具側治具62の当接部85の先端が主軸側治具21の押圧片21bの上面23に圧接する事象を防止することができる。主軸側治具21の押圧片21bの上面23に強く圧接して治具を破損させるのを防止する方法として、工具側治具に取り付けた回転補助機構44に当接部85の衝突に際して逃げ機構をその得ることも可能だが、当接部85を加工用刃体43に対し相対移動可能とする機構は、加工時の両者間の位置精度が劣る。
【0070】
上記に説明した実施の形態では、主軸側治具21をチャック17が有する3個の把持爪16のいずれかに固定した場合について説明している。しかしながら、主軸側治具は、3個の把持爪16のいずれかに固定するのではなく、チャック17に固定されるものであってもよい。以下、加工用工具の構成は、上述した実施の形態と同一の構成であることから、加工用工具の各部については、上述した実施の形態と同一の符号を用いて説明する。
【0071】
図15に示すように、主軸側治具100は、主軸101のチャック102に設けられる3個の把持爪103の間の各領域に配置された状態で、チャック102に固定される。
図15においては、隣り合う把持爪103の間の領域の全てに主軸側治具100を配置した場合を示しているが、隣り合う把持爪103の間の領域のいずれかに主軸側治具100を配置してもよい。
【0072】
主軸側治具100は、チャック102に固定する基部105と、基部105から主軸101の中心軸線C5方向に沿って延在する押圧片106とを有する。基部105は、ボルト108により、チャック102に固定される。押圧片106は、内部に設けたコイルばね(不図示)の付勢により押圧片106の先端面106aから突出するピン109を有する。ここで、押圧片106の先端面106aは、把持爪103により保持されるワークWの端面91よりも加工用工具40側に位置している。
【0073】
主軸側治具100をチャック102に固定した場合も、上述した実施の形態に示した主軸側治具21と同様に、加工用工具40が主軸101に向けて移動したときに、工具側治具62の当接部85が、主軸側治具100の存在領域に侵入したときに、主軸側治具100の押圧片106が工具側治具62の当接部85を押圧して、主軸11の回転と、加工用刃体43及び回転補助機構44が固定された刃体支持用軸体42の回転とが同期される。その一方で、工具側治具62の当接部85が主軸側治具100のピン109に当接する場合には、工具側治具62の当接部85が主軸側治具100のピン109を押圧することになるが、ピン109を押圧片106の内部に押し込む過程で、工具側治具62の当接部85と主軸側治具100のピン109との係合が解除され、工具側治具62の当接部85が押圧片106の回転によって通過する存在領域内に入り込むと、工具側治具62の当接部85が押圧片106に押圧される。その結果、加工用刃体43及び回転補助機構44が固定された刃体支持用軸体42が主軸101とともに回転する。
【0074】
また、上記に説明した実施の形態では、ワークWを保持する主軸11を回転させつつ、加工用工具40を保持した刃物台12を回転させずに、回転するワークWに向けて移動させている。しかしながら、ワークWを保持する主軸11を回転させない代わりに、刃物台12に固定される加工用工具40を回転させ、同時に、ワークW又は刃物台12のいずれか一方を、他方に向けて移動させることも可能である。例えばワークWを回転させるのではなく、刃物台12に固定される加工用工具40を回転させる場合、例えば、加工用工具40によりワークWの中心からずれた位置にある下穴を加工するとき、又は複数の加工用工具40により複数のワークを同時に加工するときに有効である。さらには、主軸側治具をチャックや把持爪に複数固定する必要があるが、加工用工具40によりワークWに形成された複数の下穴を、同時に、又は個別に加工するときにも有効である。このような場合、主軸11の中心軸線C1と、刃物台12とを同心状態にするのではなく、ワークWの下穴と、当該下穴を加工する加工用工具40のホルダ41の中心軸線C3とを同心状態にする必要がある。
【0075】
上記に説明した実施の形態では、工作機械10において、下穴90が形成されたワークWにセレーション加工を行う場合について説明している。しかしながら、同一の工作機械10において、ワークWに対して下穴90を含む、その他の旋削加工と、上記セレーション加工とを連続して行うことも可能である。このように、同一の工作機械で、複数の加工を連続して実施することで、ワークWを精度良く加工できるとともに、各加工における工程を省略でき、ワークWに対する加工時間を短縮することができる。
【0076】
上記に説明した実施の形態に示した加工用工具は、チャック17に取り付けられたワークWを加工する加工用刃体43と、自身の中心軸線C2方向における一端側で加工用刃体43を保持する刃体支持用軸体42と、刃体支持用軸体42を刃体支持用軸体42の中心軸線C2を回転中心として回転可能に保持するホルダ41と、刃体支持用軸体42に設けられた工具側治具62と、を有し、ホルダ41は、自身の中心軸線C3に対して刃体支持用軸体42の中心軸線C2を傾けた状態で刃体支持用軸体42を保持し、加工用刃体43は、刃体支持用軸体42がホルダ41に保持されたときに、加工用刃体43の先端面における回転中心P3がホルダ41の中心軸線C3と刃体支持用軸体42の中心軸線C2との交点に一致するように配置され、工具側治具62は、チャック17又はホルダ41のいずれかを自身の中心軸線C1,C3を回転中心として回転させながらチャック17とホルダ41とを近接させたときに、刃体支持用軸体42の中心軸線に直交し、上述した交点が含まれる平面PL2上で、チャック17に設けた主軸側治具21と当接して、回転するチャック17又はホルダ41のいずれかの回転方向における、ワークWの回転位置と加工用刃体43の回転位置とを一致させるものである。
【0077】
これによれば、主軸側治具21の押圧片21bと工具側治具62の当接部85とが当接する当接点P2の回転中心は、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3と一致する。また、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3は、ホルダ41の中心軸線C3と刃体支持用軸体42の中心軸線C2との交点に一致する。さらに、ワークWの加工時には、チャック17とホルダ41とを同心状態に保持している。その結果、チャック17の中心軸線C1に直交する平面に投影したときに、回転するチャック17又はホルダ41が回転する角度と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置が回転する角度とのズレがなくなり、チャック17又はホルダ41の回転と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置の回転とを同期させることができる。換言すると、加工のためにチャック17又はホルダ41を回転させても、ワークWに対して加工用刃体43は自身の中心軸線C2を相対的に刃先面43aの回転中心P3を基点とする円錐振り子の運動軌跡のような首振り運動をするだけで、ワークWと加工用刃体43の相対回転を零に維持することができる。その結果、加工用刃体43によるワークWの加工を高精度に行うことができる。また、加工用刃体43によるワークWの加工を行う前に、チャック17又はホルダ41の回転と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置の回転とを同期させているので、加工用刃体43をワークWに圧接させたときの衝撃を小さくでき、加工用刃体43の刃先面43aの破損を防止することができる。
【0078】
また、工具側治具62は、チャック17とホルダ41とを同心状態に保持した状態で、回転するチャック17とホルダ41とを近接させたときに、チャック17の回転に伴なって回動する主軸側治具21の押圧を受けて、刃体支持用軸体42を当該刃体支持用軸体42の中心軸線C2を回転中心として回転させ、加工用刃体43は、ワークWに対して前記交点を基点として首振り運動するものである。
【0079】
これによれば、加工用刃体43がワークWに圧接されると、加工用刃体43は、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3を基点とした首振り運動を行う。上述したように、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3は、チャック17の中心軸線C1上に位置する。したがって、上記圧接点は、回転するチャック17に固定されたワークWとの間で、チャック17の回転方向における位置ずれを起こすことなく切削加工を行うことになる。その結果、加工用刃体43によるワークWの切削加工を精度良く行うことができる。
【0080】
また、工具側治具62は、回転するホルダ41とチャック17とを近接させたときに、主軸側治具21に当接して、ホルダ41の回転に伴う刃体支持用軸体42の回転を停止させ、加工用刃体43は、刃体支持用軸体42の中心軸線C2がホルダ41の中心軸線C3に対して傾いていることで、刃体支持用軸体42の回転停止後に引き続き実行されるホルダ41の回転により、刃体支持用軸体42とともに前記交点を基点として首振り運動するものである。
【0081】
これによれば、加工用刃体43がワークWに圧接されると、加工用刃体43は、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3を基点とした首振り運動を行う。上述したように、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3は、チャック17の中心軸線C1上に位置する。したがって、上記圧接点は、回転するホルダ41の回転角度と同一角度分、移動する。また、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3は、チャック17の中心軸線C1上に位置している。その結果、首振り運動する加工用刃体43はワークWに対して均一に圧接されて、加工用刃体43によるワークWの切削加工を精度良く行うことができる。また、この場合には、例えば加工用工具40によりワークWの中心からずれた位置にある下穴に対して加工を行う、または、複数の加工用工具40により複数のワークWを同時に加工する場合であっても切削加工を精度良く行うことができる。
【0082】
また、工具側治具62は、点接触又は線接触により主軸側治具21に当接される当接部85を有する。工具側治具62は、主軸側治具21との当接時に、主軸側治具21に対して点接触又は線接触することが可能な当接部を有するものである。
【0083】
これによれば、工具側治具62と主軸側治具21との当接時に、工具側治具62の当接部85が主軸側治具21に点接触又は線接触することで、例えば主軸11が回転する場合には、主軸側治具21に工具側治具62が確実に押圧されることになるので、主軸11とともに回転するがチャック17の回転角度と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置の回転角度とのズレがなくなり、主軸11に設けられたチャック17の回転と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置の回転とを同期させることができる。また、加工用工具40が回転する場合、主軸側治具21が工具側治具62に当接されることになるので、例えば主軸11が回転する場合と同様にして、加工用工具40のホルダ41の回転方向における、主軸11に設けられたチャック17の回転位置と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置の回転位置とを同期させることができる。
【0084】
また、主軸側治具21は、ばね付勢により主軸側治具21から突出された状態に保持され、ホルダ41とチャック17との近接時に、工具側治具62による押圧されて、ばね付勢に抗して主軸側治具21の内部に押し込まれるピン27を有する。
【0085】
例えば、工具側治具62が把持爪16aの主軸側治具21の押圧片21bが回転によって通過する領域内に侵入したとき、侵入したタイミングによっては、工具側治具62の当接部85は、主軸側治具21の押圧片21bの上面23に衝突する。この場合、工具側治具62の当接部85は、主軸側治具21の押圧片21bの上面23を押圧した状態で、主軸11とともに回転してしまい、加工用工具40の加工用刃体43は、ワークWに圧接できない状態、すなわち、ワークの加工を行うことができない。
【0086】
上記構成を有することで、工具側治具62の当接部85がピン27に当接されると、ピン27は、工具側治具62の当接部85に係合される。このとき、チャック17は回転している一方で、刃体支持用軸体42は停止している。したがって、工具側治具62の当接部85には、ピン27を押圧する力と、チャック17の回転により作用する力と、ピン27と工具側治具62の当接部85との間で作用する動摩擦力が作用する。これら力により、工具側治具62が取り付けられた刃体支持用軸体42は、チャック17の回転方向と同一方向に、チャック17の回転よりも遅い速度で回転する。工具側治具62が取り付けられた刃体支持用軸体42が、チャック17よりも遅い速度で回転することで、工具側治具62の当接部85とピン27との係合が解除される。このとき、チャック17の把持爪16に設けた主軸側治具21は、工具側治具62の進行方向から退避した位置まで回転している。一方、チャック17は回転しているので、チャック17に取り付けられた主軸側治具21の押圧片21bは、チャック17に向けて移動する主軸側治具21の当接部85を押圧する。これにより、工具側治具62の当接部85が主軸側治具21の押圧片21bの上面23に衝突することを防止できる。その結果、加工用工具40の加工用刃体43を確実にワークWに圧接させることができる。
【0087】
また、ホルダ41が回転している場合、刃体支持用軸体42及び刃体支持用軸体42に取り付けられている工具側治具62はホルダ41とともに回転する。ホルダ41がチャック17に近接するときに、回転する刃体支持用軸体42に取り付けられている工具側治具62の当接部85はチャック17の把持爪16に設けた工具側治具62の主軸側治具21の押圧片21bの上面23に衝突する。このとき、ホルダ41は回転するが、刃体支持用軸体42及び工具側治具62は回転を停止する。この状態では、加工用工具40の加工用刃体43は、ワークWに圧接できない状態、すなわち、ワークの加工を行うことができない。
【0088】
加工用工具40のホルダ41が回転しているときに、工具側治具62の当接部85がピン27を押圧すると、工具側治具62の当接部85には、ピン27を押圧する力と、加工用工具40のホルダ41の回転による力と、ピン27に当接したときにピン27との間で作用する動摩擦力が作用する。これら力により、工具側治具62が取り付けられた刃体支持用軸体42は、ホルダ41の回転方向と同一方向に、ホルダ41の回転よりも遅い速度で回転する。一方、チャック17の把持爪16に設けた主軸側治具21は停止している。したがって、工具側治具62の当接部85とピン27との係合が解除される。このとき、ホルダ41の回転方向において、ホルダ41に保持された刃体支持用軸体42に取り付けられた工具側治具62の当接部85は、チャック17に設けた主軸側治具21からずれた位置まで回転している。また、工具側治具62の当接部85とピン27との係合が解除されると、工具側治具62が取り付けられた刃体支持用軸体42はホルダ41とともに回転する。このとき、ホルダ41とチャック17とは近接するので、工具側治具62の当接部85は、主軸側治具21の押圧片21bに当接される。これにより、工具側治具62の当接部85が主軸側治具21の押圧片21bの上面23に衝突することを防止できる。その結果、加工用工具40の加工用刃体43を確実にワークWに圧接させることができる。
【0089】
また、加工用刃体43は、ワークWに対してスプライン加工を行うものである。
【0090】
例えば回転するワークWに加工用刃体43を圧接したとき、加工用刃体43には、ワークの回転に基づいて働く力と加工用刃体43をワークWに圧接する力とが作用する。加工用刃体43をワークWに圧接したときには、例えばチャック17が回転したときのワークWの回転角度及び上記圧接点の回転角度、又は、ホルダ41が回転したときのホルダ41の回転角度及び上記圧接点の回転角度が一致している。すなわち、加工用刃体43をワークWに圧接したときには、その圧接力のみが作用する。その結果、加工用刃体43の破損を防止でき、同時に、加工用刃体43の刃先面43aの欠損によるワークWの切削不良が抑制される。さらには、歯筋の曲がりや、切削不良などの発生を防止することができる。
【0091】
また、上記に説明した実施の形態に示した工作機械は、ワークWが取り付けられるチャック17と、ワークWを加工する加工用工具40と、加工用工具40を保持する工具保持部35と、を有し、加工用工具40は、ワークWに圧接されることでワークWを加工する加工用刃体43と、自身の中心軸線C2方向における一端側で加工用刃体43を保持する刃体支持用軸体42と、刃体支持用軸体42を当該刃体支持用軸体42の中心軸線C2を回転中心として回転可能に保持するホルダ41と、刃体支持用軸体42に設けられた工具側治具62と、を有し、チャック17は、ワークWの加工時に工具側治具62と当接される主軸側治具21を有し、ホルダ41は、自身の中心軸線C3に対して刃体支持用軸体42の中心軸線C2を傾けた状態で刃体支持用軸体42を保持し、加工用刃体43は、刃体支持用軸体42がホルダ41に保持されたときに、当該加工用刃体43の先端面における回転中心がホルダ41の中心軸線C3と刃体支持用軸体42の中心軸線C2との交点に一致するように配置され、工具側治具62は、チャック17又はホルダ41のいずれかを自身の中心軸線C1又はC3を回転中心として回転させながらチャック17とホルダ41とを近接させたときに、刃体支持用軸体42の中心軸線C2に直交し、上述した交点が含まれる平面PL2上で、チャック17に設けた主軸側治具21と当接して、回転するチャック17又はホルダ41のいずれかの回転方向における、ワークWの回転位置と加工用刃体43の回転位置とを一致させるものである。
【0092】
これによれば、主軸側治具21の押圧片21bと工具側治具62の当接部85とが当接する当接点P2の回転中心は、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3と一致する。また、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3は、ホルダ41の中心軸線C3と刃体支持用軸体42の中心軸線C2との交点に一致する。さらに、ワークWの加工時には、チャック17とホルダ41とを同心状態に保持している。その結果、チャック17の中心軸線C1に直交する平面に投影したときに、回転するチャック17又はホルダ41が回転する角度と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置が回転する角度とのズレがなくなり、チャック17又はホルダ41の回転と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置の回転とを同期させることができる。その結果、加工用刃体43によるワークWの加工を高精度に行うことができる。また、加工用刃体43によるワークWの加工を行う前に、チャック17又はホルダ41の回転と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置の回転とを同期させているので、加工用刃体43をワークWに圧接させたときの衝撃を小さくでき、加工用刃体43の刃先面43aの破損を防止することができる。
【0093】
また、工具側治具62は、チャック17とホルダ41とを同心状態に保持した状態で、回転するチャック17とホルダ41とを近接させたときに、チャック17の回転に伴なって回動する主軸側治具21の押圧を受けて、刃体支持用軸体42を当該刃体支持用軸体42の中心軸線C2を回転中心として回転させ、加工用刃体43は、ワークWに対して交点を基点として首振り運動するものである。
【0094】
これによれば、加工用刃体43がワークWに圧接されると、加工用刃体43は、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3を基点とした首振り運動を行う。上述したように、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3は、チャック17の中心軸線C1上に位置する。したがって、上記圧接点は、回転するチャック17に固定されたワークWとの間で、チャック17の回転方向における位置ずれを起こすことなく切削加工を行うことになる。その結果、加工用刃体43によるワークWの切削加工を精度良く行うことができる。
【0095】
また、工具側治具62は、回転するホルダ41とチャック17とを近接させたときに、主軸側治具21に当接して、ホルダ41の回転に伴う刃体支持用軸体42の回転を停止させ、加工用刃体43は、刃体支持用軸体42の中心軸線C2がホルダ41の中心軸線C3に対して傾いていることで、刃体支持用軸体42の回転停止後に引き続き実行されるホルダ41の回転により、刃体支持用軸体42とともに交点を基点として首振り運動するものである。
【0096】
これによれば、加工用刃体43がワークWに圧接されると、加工用刃体43は、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3を基点とした首振り運動を行う。上述したように、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3は、チャック17の中心軸線C1上に位置する。したがって、上記圧接点は、回転するホルダ41の回転角度と同一角度分、移動する。また、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3は、チャック17の中心軸線C1上に位置している。その結果、首振り運動する加工用刃体43はワークWに対して均一に圧接されて、加工用刃体43によるワークWの切削加工を精度良く行うことができる。また、この場合には、例えば加工用工具40によりワークWの中心からずれた位置にある下穴に対して加工を行う、または、複数の加工用工具40により複数のワークWを同時に加工する場合であっても切削加工を精度良く行うことができる。
【0097】
また、チャック17は、複数の把持爪16を有するチャック17であり、主軸側治具21は、複数の把持爪16のいずれか1つに固定されるものである。
【0098】
これによれば、押圧部材をチャックが有する把持爪のいずれかに固定するだけで済み、主軸やチャックの構造を新たな構造とする必要はない。したがって、従来の工作機械の把持爪に固定することも可能となる。
【0099】
また、本実施の形態における加工方法は、チャック17に取り付けられるワークWを、保持具に保持された加工用工具40を用いて加工する方法であって、加工用工具40は、ワークWに圧接されることでワークWを加工する加工用刃体43と、自身の中心軸線C2方向における一端側で加工用刃体43を保持する刃体支持用軸体42と、刃体支持用軸体42を当該刃体支持用軸体42の中心軸線C2を回転中心として回転可能に保持するホルダ41と、刃体支持用軸体42に設けられた工具側治具62と、を有し、チャック17は、ワークWの加工時に工具側治具62と当接される主軸側治具21を有し、ホルダ41は、自身の中心軸線C3に対して刃体支持用軸体42の中心軸線C2を傾けた状態で刃体支持用軸体42を保持し、加工用刃体43は、刃体支持用軸体42がホルダ41に保持されたときに、当該加工用刃体43の先端面における回転中心P3がホルダ41の中心軸線C3と刃体支持用軸体42の中心軸線C2との交点に一致するように配置され、チャック17又はホルダ41のいずれかを自身の中心軸線C1,C3を回転中心として回転させる工程と、チャック17とホルダ41とを近接させて、刃体支持用軸体42の中心軸線C2に直交し、上述した交点が含まれる平面PL2上で、チャック17に設けた主軸側治具21と当接させることで、回転するチャック17又はホルダ41のいずれかの回転方向における、ワークWの回転位置と加工用刃体43の回転位置とを一致させる工程と、加工用工具40の加工用刃体43をワークWに圧接させて、ワークWを加工する工程と、を含むものである。
【0100】
これによれば、主軸側治具21の押圧片21bと工具側治具62の当接部85とが当接する当接点P2の回転中心は、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3と一致する。また、加工用刃体43の刃先面43aの回転中心P3は、ホルダ41の中心軸線C3と刃体支持用軸体42の中心軸線C2との交点に一致する。さらに、ワークWの加工時には、チャック17とホルダ41とを同心状態に保持している。その結果、チャック17の中心軸線C1に直交する平面に投影したときに、回転するチャック17又はホルダ41が回転する角度と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置が回転する角度とのズレがなくなり、チャック17又はホルダ41の回転と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置の回転とを同期させることができる。その結果、加工用刃体43によるワークWの加工を高精度に行うことができる。また、加工用刃体43によるワークWの加工を行う前に、チャック17又はホルダ41の回転と、加工用刃体43がワークWに局所的に圧接される位置の回転とを同期させているので、加工用刃体43をワークWに圧接させたときの衝撃を小さくでき、加工用刃体43の刃先面43aの破損を防止することができる。
【0101】
また、ワークWを加工する工程は、ワークWに設けた下穴をスプライン加工する工程である。
【0102】
例えば、ワークWに対する下穴の旋削加工と、旋削加工により形成されたワークWの下穴に対するセレーション加工とを同一の工作機械で連続して実施することで、ワークWを精度良く加工できるとともに、各加工における工程を省略でき、ワークWに対する加工時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0103】
10…工作機械
11…主軸
12…刃物台
16…把持爪
17…チャック
21…主軸側治具
27…ピン
40…加工用工具
41…ホルダ
42…刃体支持用軸体
43…加工用刃体
44…回転補助機構
62…工具側治具
85a…第1当接部
85b…第2当接部
W…ワーク