(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ミエリン障害を治療するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20240815BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240815BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240815BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20240815BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20240815BHJP
C07K 14/00 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
A61K38/00
A61P43/00 111
A61P25/00
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
C07K14/00
(21)【出願番号】P 2019571337
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(86)【国際出願番号】 US2018041636
(87)【国際公開番号】W WO2019014342
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-07-12
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597138069
【氏名又は名称】ケース ウエスタン リザーブ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シルバー,ジェリー
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,フーチェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ヤン
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-516391(JP,A)
【文献】Inhibitors of myelination: ECM changes, CSPGs and PTPs,Exp Neurol.,Vol. 251,p. 39-46 (page 1-19),doi:10.1016/j.expneurol.2013.10.017.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要としている対象のミエリン形成および/または再ミエリン化を促進するための組成物であって、
配列番号1~25、32、33からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する治療用ペプチドか、または、配列番号32または配列番号33のアミノ酸配列に対して少なくとも
85%相同であるアミノ酸配列を有
し、かつ配列番号32の残基4、5、6、7、9、10、12もしくは13または配列番号33の残基7、8、9、10、12もしくは13の少なくとも1個の保存的置換を含む治療用ペプチドと、前記治療用ペプチドに連結され、オリゴデンドロサイト前駆細胞またはオリゴデンドロサイトによる前記治療用ペプチドの取り込みを容易にする輸送部分とを含む治療薬を含み、
前記治療薬が、オリゴデンドロサイト前駆細胞の移動、分化および/または成熟を誘導および/または促進して、前記対象におけるミエリン形成および/または再ミエリン化を促進し、
前記対象が、多発性硬化症ではないミエリン関連障害であるかまたは多発性硬化症ではないミエリン関連障害の危険がある、
組成物。
【請求項2】
前記治療用ペプチドが、配列番号1~25、32、33からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記治療用ペプチドが、配列番号32および配列番号33からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記治療用ペプチドが、配列番号32の残基4、5、6、7、9、10、12もしくは13または配列番号33の残基7、8、9、10、12、もしくは13の少なくとも1個の保存的置換を含む、請求項
1に記載の組成物。
【請求項5】
前記輸送部分がHIV Tat輸送部分である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記治療薬が、治療される前記対象に全身投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ミエリン関連障害が、髄鞘破壊性障害、白質萎縮性障害または末梢神経系の脱髄性疾患の内の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記ミエリン関連疾患または障害が、横断性脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、ギラン・バレー症候群、デビック病、白質萎縮性障害、白質脳症、白質ジストロフィー、副腎脊髄ニューロパチー、脳腱黄色腫症、クラッベ病、アレキサンダー病、ペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)、末梢神経系の脱髄性疾患およびシャルコー・マリー・トゥース病の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記ミエリン関連疾患または障害が、成人発症常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、アイカルディ・グティエール症候群、アレキサンダー病、CADASIL、カナバン病、CARASIL、脳腱黄色腫症、小児期運動失調および大脳白質形成不全症(CACH)/白質消失病(VWMD)、ファブリー病、フコシドーシス、GM1ガングリオシドーシス、クラッベ病、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症、概要皮質下嚢胞をもつ大頭型白質ジストロフィー、異染性白質ジストロフィー、多種スルファターゼ欠損症、ペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)、Pol III関連白質ジストロフィー、レフサム病、サラ病、シェーグレン・ラルソン症候群、X連鎖副腎白質ジストロフィー、およびツェルウェーガー症候群スペクトル障害の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記治療薬が、配列番号34~60からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2017年7月11日に出願された米国仮特許出願第62/531,251号からの優先権を主張する。この仮出願の主題は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の支援
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された認可番号第NS077942号に基づく政府の支援によりなされた。米国政府は本発明に対し一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
多発性硬化症(MS)は、乏突起膠細胞(OL)のクラスターの劇的な減少に繋がる激しい炎症、脱髄、および不可逆的神経障害を特徴とする自己免疫媒介中枢神経系(CNS)の慢性脱髄性疾患である。MSの初期段階中に再ミエリン化が自然発生的に起こるが、これは、瘢痕様のプロテオグリカン含有プラークを発生している領域では、最終的に失敗する。しかし、失敗したオリゴデンドロサイト分化、成熟、および再ミエリン化の根底にある機序は、まだよく理解されていない。最近の研究では、OPC成熟および機能におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の調節作用が特定された。
【0004】
CSPGは、コアタンパク質に結合した硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)の鎖から成る構造的細胞外マトリックス(ECM)分子である。CSPGの劇的な発現上昇は、脊髄損傷(SCI)、てんかん、アルツハイマー病、ストロークおよびMSなどのCNS侵襲の顕著な特徴である。CSPGの軸索再生に対する阻害的影響および脊髄損傷(SCI)後の軸索終末の再生を封じ込めることによるジストロフィーエンドボール形成におけるそれらの役割に対する阻害的影響は、十分に実証されている。
【0005】
MSでは、アグリカンおよびバーシカンなどの反応性アストログリア産生CSPGが、活性脱髄病変内で大量に検出された。許容的ラミニンは、OLの拡散、生存、および成熟を促進するが、最近の研究は、阻害性CSPGが、成長を支援するECMタンパク質を排除でき、移動、形態学的過程の延長、および成熟能力の低減を引き起こすことにより、マウスまたはヒトOPC/OLを強力に減らすことができることを示している。しかし、CSPG阻害は、コンドロイチナーゼABCを介した酵素分解を行ってインビトロでOL成熟を強化することにより軽減され得る。インビボでは、CSPGは、一時的に、リゾレシチン(LPC)誘導病変中で増大し、また、改善された再ミエリン化も同様に、プロテオグリカン合成阻害剤のベータ-d-キシロシドまたはフルオロサミンなどによるCSPG標的化治療後に起こり得る。
【発明の概要】
【0006】
本明細書で記載の実施形態は、一般に、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の移動、分化、増殖および/または成熟を調節する薬剤、化合物、および方法、ミエリン形成を促進する方法、ならびにミエリン形成または再ミエリン化が対象にとって有益である対象の疾患または障害の治療方法に関する。
【0007】
方法は、髄鞘破壊性障害、白質萎縮性障害または末梢神経系の脱髄性疾患などのミエリン関連障害を有するかまたはその危険のある対象に、PTPσの触媒活性、シグナル伝達、または機能の1つまたは複数を阻害する治療薬を投与することを含むことができる。
【0008】
いくつかの実施形態では、治療薬には、治療用ペプチドを挙げることができる。治療用ペプチドは、PTPσのくさび形ドメインの約10~約20個の連続するアミノ酸に対して少なくとも約65%、少なくとも約75%、少なくとも約85%、少なくとも約95%相同であるアミノ酸配列を有することができる。例えば、治療薬は、配列番号1~25、32、および33からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する治療用ペプチドを含むことができる。
【0009】
さらに他の実施形態では、治療薬は、配列番号32のアミノ酸配列に対して少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%相同である配列同一性を有する治療用ペプチドを含むことができる。治療用ペプチドは、例えば、配列番号32の残基4、5、6、7、9、10、12または13個の内の少なくとも1、2、3または4個のアミノ酸の保存的置換を含むことができる。
【0010】
他の実施形態では、治療薬は、配列番号33のアミノ酸配列に対して少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%相同である配列同一性を有する治療用ペプチドを含むことができる。治療用ペプチドは、例えば、配列番号33の残基7、8、9、10、12または13個の内の少なくとも1、2、3または4個のアミノ酸の保存的置換を含むことができる。
【0011】
他の実施形態では、治療薬は治療用ペプチドと連結され、オリゴデンドロサイト(OL)またはOPCによる治療用ペプチドの取り込みを容易にする輸送部分を含む。例えば、輸送部分はHIVのTat輸送部分または(PRR5)輸送部分であり得る。
【0012】
さらにその他の実施形態では、治療薬は、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の移動、分化、増殖および/または成熟を誘導または促進するための有効量で投与できる。いくつかの実施形態では、治療有効量は、対象の認知を高めるための有効量である。いくつかの実施形態では、治療薬は、全身投与できる。
【0013】
いくつかの実施形態では、対象は、髄鞘破壊性障害、白質萎縮性障害または末梢神経系の脱髄性疾患などのミエリン関連障害を有するかまたはその危険がある。いくつかの実施形態では、ミエリン関連障害は、多発性硬化症である。
【0014】
本開示はまた、インビボでのタンパク質チロシンホスファターゼσ(PTPσ)とのコンドロイチン硫酸プロテオグリカンベース相互作用および/またはタンパク質チロシンホスファターゼσ(PTPσ)のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンベース阻害を、防止または低減する方法、およびインビボでのMMP2活性および/または発現を高める方法を提供する。方法の実施形態は、本明細書で開示の治療薬を、それを必要としている対象に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1A-
図1J。ISPがEAEマウスモデルの機能および組織回復を促進することを示す。
図1A:臨床スコアにより決定された病気の開始時またはピーク時でのEAEマウスへのISP投与の図。
図1B:疾患の発症時またはピーク時から開始して、ISPまたはビークルで毎日治療されたMOG
35-55誘導EAEマウスにおける疾患重症度の臨床スコア。
図1C:コホートBのEAEの動物毎の疾患スコアの平均改善。(n=9匹(EAEビークル群)、15匹(EAE ISP発症群)および12匹(EAE ISPピーク群)、分散分析 F(2,33)=20.96;チューキーの多重比較検定、P
EAE+Veh 対 EAE ISP発症<0.0001、P
EAE+Veh 対 EAE ISPピーク=0.0004)。1Dおよび1E:それぞれ、ミエリンのルクソール・ファスト・ブルー(LFB)染色を示す免疫染色およびグラフで、誘導の48日後に、ISP治療EAEマウスの正常なミエリン完全性を示し、ビークル治療対照の脊髄中に存在するミエリンの顕著な減少とは対照的である。破線は、病変領域を区別する。スケールバー=100μm。(n=5匹のマウス/群、P=0.0002、t=6.647、df=8;対応のないスチューデントの両側t検定。
図1F:誘導の48日後のビークル治療およびISP治療EAEマウスの胸部脊髄中のMBPおよび神経フィラメント-200(NF200)のダブル免疫染色。破線は、病変領域を区別する。スケールバー100μm。
図1G:ビークルまたはISP治療対照マウスならびにEAEマウスの脊髄組織中のMBP発現のウェスタンブロット分析。データは、β-アクチンタンパク質発現に正規化される。(n=4匹のマウス/群、分散分析 F(3,12)=26.68;チューキーの多重比較検定、P
con 対 EAE+Veh=0.0001、P
EAE+Veh 対 EAE+ISP=0.0037)。
図1H:誘導の48日後のビークルおよびISP1070治療EAEマウスの腹側腰髄由来の電子顕微鏡写真。スケールバー 2μm。
図1I:ビークルおよびISP1072治療EAEマウスの脊髄病変のミエリン化軸索の数。(n=3匹のマウス/群、P=0.0014、t=7.815、df=4;対応のないスチューデントの両側t検定)。
図1J:ビークルおよびISP治療EAEマウスの腹側腰髄中のミエリン化繊維のg比(軸索直径/繊維直径)の定量化。(EAE+Veh群、g比=0.8874±0.001901;EAE+ISP群、g1077比=0.8423ISP群;3匹のマウス/群由来のn=134再ミエリン化軸索;P<0.0001、1078t=14.31、df=266;対応のないスチューデントの両側t検定)。データは、平均±s.e.mとして表される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図2】
図2A-
図2G。ISPは、脊髄中のリゾレシチン(LPC)-脱髄マウスの再ミエリン化を促進することを示す。
図2A:ビークルまたはISP治療マウスの脊髄由来のLPC病変の代表的LFB染色切片。破線は、病変領域を区別する。スケールバー100μm。
図2B:ビークルまたはISP治療マウスの多量の損傷を受けた脊髄の3、7、14および21dplでの定量分析。(n=4匹のマウス/群、分散分析 F(3,12)=16.41;シダックの多重比較検定、14dpl:P
LPC+Veh 対 LPC+ISP=0.0003;21dpl:P
LPC+Veh 対 LPC+ISP<0.0001)。
図2C:14および21dplでのビークルおよびISP治療マウスの脊髄中のMBPおよびDAPIのダブル免疫染色。破線は、病変領域を区別する。スケールバー=100μm。
図2D:14dplでのビークルまたはISP治療マウスの脊髄組織中のMBP発現のウェスタンブロット分析。データは、β-アクチンタンパク質発現に正規化される。(n=4匹のマウス/群、分散分析 F(3,12)=24.21;チューキーの多重比較検定、P
con 対 LPC+Veh<0.0001、P
LPC+Veh 対 LPC+ISP=0.0276)。
図2E:14dplでのビークルまたはISP治療マウスの脊髄由来のLPC病変の代表的電子顕微鏡観察像。スケールバー=5μm。
図2E:14dplでのビークルまたはISP1100治療マウス由来のLPC誘導病変中のミエリン化軸索の数。(n=3匹のマウス/群、P=0.0001、t=14.26、df=4;対応のないスチューデントの両側t検定)。
図2G:14dplでのビークルまたはISP治療マウスのLPC病変中のミエリンg比。(LPC+veh群、g比=0.9103±0.003585;LPC+ISP群、g比=0.8741±74103599;3匹のマウス/群由来のn=139再ミエリン化軸索;P<0.0001、t=7.142、df=276;対応のないスチューデントの両側t検定)。データは、平均±s.e.mとして表される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図3】
図3A-
図3C。ISPが、治療器官型小脳培養物における再ミエリン化を加速することを示す。
図3A:MBPおよび神経フィラメント-200(NF200)の代表的免疫組織化学的検査像は、インビトロ1日目(div)のLPC誘導脱髄の未処理(Con)の切片において正常なミエリン形成を示し、また、8divおよび4divでのLPC脱髄小脳切片でISP処理後に再ミエリン化増大を示す。スケールバー100μm。
図3B:非治療(対照として100%とする)と比較した小脳切片における相対的MBP免疫反応性(すなわち、MBPおよびNF200の共局在化)。(群当たり3回の独立した反復実験由来のn=9切片、分散分析 F(5,48)=230.4、チューキーの多重比較検定、8dpl:P
LPC+Veh 対 LPC+ISP<0.0001、14dpl:P
LPC+Veh 対 LPC+ISP<0.0001)。
図3C:8divおよび14divでのビークルまたはISP処理小脳切片におけるMBP発現のウェスタンブロット分析。データは、β-アクチンタンパク質発現に正規化される。(n=群当たり3回の独立した反復実験。8div:分散分析 F(3,8)=58.89、チューキーの多重比較検定、P
Veh 対 LPC+Veh<0.0001、P
LPC+Veh 対 LPC+ISP=0.0187;14div:分散分析 F(3,8)=6.281、チューキーの多重比較検定、P
Veh 対 LPC+Veh<0.048、P
LPC+Veh 対 LPC+ISP=0.025)。データは、平均±s.e.mとして表される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図4】
図4A-
図4D。EAEおよびLPCモードの両方で、ISPがコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)量を低減することを示す。
図4A:Iba1およびCat301(アグリカン特異的抗体)の代表的免疫組織化学的検査像は、誘導後41日目のISP治療EAEマウスの胸部脊髄中のCSPGおよびミクログリア/マクロファージの蓄積が、ビークル治療マウスに比べて、低減することを示す。スケールバー100μm。
図4B:14dplでのLPC脱髄マウスのISP治療後にCSPGの蓄積の低減を示すMBP、Cat301およびCS56(グリコサミノグリカン特異的抗体)の代表的免疫組織化学的検査像。スケールバー100μm。
図4C:7dplでのLPC脱髄マウスのISP治療後のCSPGの蓄積の低減を示すIba1、GFAP、MBP、Cat301およびCS56の代表的免疫組織化学的検査像。スケールバー100μm。
図4D:7dplでのビークルまたはISP治療LPCマウスの脊髄中のIba1、GFAP、MBP、Cat301およびCS56の免疫蛍光強度の相対的定量化。(n=3匹のマウス/群、Iba1:P=0.1848、t=1.6、df=4;Cat301:P=0.0092、t=4.719、df=4;GFAP:P=0.1111、t=2.039、df=4;CS56:P=0.0028、t=6.55、df=4;MBP:P>0.9999、t=0、df=4;バーシカン:P=0.0095、t=4.669、df=4;対応のないスチューデントの両側t検定)。データは、平均±s.e.mとして表される。**P<0.01。
【
図5】
図5A-
図5I。ISPがCSPG分解プロテアーゼ活性を高めることを示す。
図5Aおよび5B:CSPG勾配交差アッセイ(gradient crossing assay)は、ISP治療がCSPGの勾配を介してPDGFRα
+またはO4
+OPCの交差を促進することを示す。スケールバー100μm。
図5C:ビークルまたはISP治療後の、CSPG境界と交差するPDGFRα
+またはO4
+OPCの量の免疫染色法定量化。(3回の独立した反復実験からのn=9スポット。PDGFRα:P<0.0001、t=7.99、df=16:O4:P<0.0001、t=9.419、df=16、対応のないスチューデントの両側t検定)。データは、平均±s.e.mとして表される。
図5D:ISP治療後に、境界と交差し、CS56の「影」(挿入図および矢印)を残すことからわかるように、CSPG分解を示すCSPG境界上のCS56およびPDGFRα
+OPCの代表的免疫染色像。
図5E:プロテアーゼ活性を調べるために、OPC培養上清(CM)をビークル対照または2.5uMのISPまたはスクランブルISP(SISP)で治療し、アグリカン(20ug/mL)またはラミニン(10ug/mL)と共にインキュベートした後、ウェスタンブロットで分析した。
図5F:CS56イムノブロッティングによるグリコサミノグリカン部分の定量化は、ISP治療後の有意なCS56分解を明らかにする。(1元配置分散分析、ダネットのポストホック検定、P=0.0432、F(2,12)=4.131、N=5ウェスタンブロット)。
図5G:ラミニンイムノブロッティングの定量化は、有意な変化がないことを示す。(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.9024、F(2,15)=0.1034,N=6ウェスタンブロット)。
図5H:EnzChekプロテアーゼ活性アッセイでの急冷カゼインは、切断されると、蛍光を発する。
図5I:EnzChekプロテアーゼアッセイの定量化は、対照と比較して、2.5μMのISPで治療したOPC CMにおいて、有意なプロテアーゼ活性を示す(1元配置分散分析 ダネットのポストホック検定、P=0.0015、F(2,18)=9.534、7回の反復実験からのN=26)。グラフは、ウェスタンブロットの散布図表現または各反復実験の平均と標準誤差を示す。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。n.s.=有意でない。
【
図6】
図6A-
図6I。ISPがMMP-2分泌および活性を高め、プロテアーゼ活性をさらに特徴付けることを示す。
図6A:培養したOPCをビークル対照または2.5μMのISPまたはSISPで処理し、濃縮後、ゼラチンSDS/PAGEゲルにロードし、ザイモグラフィー分析を行った。25ngの組換えMMP-9またはMMP-2は陽性対照としての役割を果たした。
図6B:ゼラチンザイモグラフィーの活性MMP-2レーンの定量化は、ISP処理後、対照に比較して、有意なMMP-2活性を示す(1元配置分散分析、ダネットのポストホック検定、P=0.0161、F(2,12)=5.937、N=5ザイモグラム)。
図6C:濃縮OPC培養上清(CM)のウェスタンブロットで、ISP治療後に向上したMMP-2発現が確認された。
図6D:MMP-2イムノブロッティングの定量化は、ISP処理後、対照に比較して、有意に向上したことを示した(1元配置分散分析、ダネットのポストホック検定、P=0.0150、F(2,15)=5.63、N=6ウェスタンブロット)。対照的に、
図6Eで、MMP-10イムノブロッティングは処理間で有意ではなかった(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.9619、F(2,15)=0.03899、N=6ウェスタンブロット)。
図6I:ISPがプロテアーゼの分泌を誘導し、CSPGを分解するかどうかを調査するために、培養したOPCを、2.5uMのISPを含有または非含有の次の薬物で処理した:エキソサイトーシス阻害剤Exo1 10ug/mL、一般メタロプロテアーゼ阻害剤GM6001(25uM)、または特異的MMP-2阻害剤(OA-Hy、Calbiochem、100nM)。収集したCMをアグリカン(20ug/mL)とインキュベートし、CS56で免疫ブロットした。
図6J:CS56の定量化は、対照、Exo1+ISP、GM6001+ISP、およびOA-Hy+ISPに比べて、有意なCSPGのISP誘導分解を示す(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.0010、F(7,32)=4.749、N=5ウェスタンブロット)。
図6H:O4
+(赤色)OPCの免疫染色は、MMP-2がOPCの細胞体および突起中で濃縮されていることを示す。グラフは、ウェスタンブロットの散布図表現または各反復実験の平均と標準誤差を示す。*P<0.05、n.s.=有意でない。
【
図7】
図7A-
図7F。ISP誘導MMP-2活性は、OPC移動およびCSPG抑制解除による再ミエリン化を増大させることを示す。ISP誘導プロテアーゼ活性がOPC移動および再ミエリン化に関与するかどうかを確認するために、
図7Aで、培養したOPCを、CSPGスポット勾配を有するカバーガラス上に播種し、ビークル対照、2.5μMのISP、25uMのGM6001プラス/マイナスISPまたはSISP、または100nMのMMP-2阻害剤(OA-Hy)プラス/マイナスISPまたはSISPで処理した。CSPG境界と交差するO4+OPCの量を計数し、
図7Bで、定量化し、グラフ表示した。ISP処理(N=37スポット、5回の反復実験)は、対照(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.0002、F(11,48)=5.013)、GM6001+IPS(N=20スポット)、またはOA-Hy+ISP(N=20スポット)処理に比べて、CSPG境界を通過するより多くのO4+OPC移動を有意に誘導した。N(スポット):対照=31、SISP=26、GM6001=18、GM6001+SISP=20、OA-Hy=18、OA-Hy+SISP=19。
図7C:再ミエリン化がプロテアーゼ阻害により影響を受けているかどうかを試験するために、P7-9小脳切片を全て、LPCで18時間処理した後、対照ビークル、2.5μMのISPまたはSISP、25uMのGM6001プラス/マイナスISP、または100nMのOA-Hyプラス/マイナスISPで9日間処理し、その後、神経フィラメント(NF200)またはMBPの染色を行った。
図7D:再ミエリン化は、MBPおよび神経フィラメント共存により定量化された。ISP処理(4回の反復実験からの合計13個までの切片を有するN=35画像)は、対照(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.0001、F(8,88)=13.61)、GM6001+ISP(N=28)、およびOA-Hy+ISP(N=23)群に比べて、MBP-神経フィラメント共存を有意に増大させた。N(画像):対照=17、SISP=22、GM6001=48、GM6001+SISP=20、OA-Hy=22、OA-Hy+SISP=22。グラフは、各反復実験の平均の散布図表現と標準誤差を示す。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図7Eおよび7F:小脳切片培養物をレンチウイルス構築物で48時間処理した後、LPC処理した。続けて、ビークルまたはISP(2.5uM)処理をインビトロで6日間行った。次に、MBP免疫蛍光(緑)を、NF200(赤)を用いて定量した。(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.0005、F(3,116)=6.395,N=10切片からの約30画像)。グラフは、各反復実験の平均の散布図表現と標準誤差を示す。
【
図8】
図8A-
図8F。LPC誘導脱髄マウスモデルにおいて、ISPが、MMP-2発現を増大させることにより、ミエリン修復を促進することを示す。
図8A:MMP-2およびDAPIの免疫組織化学的検査からの代表的画像は、未処理またはLPCビークル対照脊髄に比べて、LPC注入の7日目後(7dpl)でのISP治療マウスの脊髄中のMMP-2のレベルの増大を示す。破線は、病変領域を区別する。スケールバー=100μm。
図8B:7dplでのISP治療マウスの脊髄中のMMP-2の免疫蛍光強度の相対的定量化(n=3匹のマウス/群、分散分析 F(2,6)=48.12、チューキーの多重比較検定、P
con 対 LPC=0.0075、P
LPC 対 LPC+ISP=0.0056)。
図8C:7dplでの未処置、ビークル、またはISP治療マウスの脊髄組織中のMMP-2発現のウェスタンブロット分析。データは、β-アクチンタンパク質発現に正規化される。(n=3匹のマウス/群、分散分析 F(2,6)=33.14、チューキーの多重比較検定、P
con 対 LPC=0.0168、P
LPC 対 LPC+ISP=0.0143)。
図8D:代表的免疫組織化学的検査像は、14dplでのISP治療マウスの脊髄中でOlig2
+OPCがMMP-2を発現させることを示す。白色矢印は、MMP-2とOlig2の共存を示す。
図8E:代表的免疫組織化学的検査像は、14dplでのISP治療マウスの脊髄中でIba1+細胞(ミクログリア/マクロファージ)がMMP-2を発現させることを示す。白色矢印は、MMP-2とIba1の共存を示す。スケールバー=100μm。
図8F:未処理、ビークル、ISP、MMP-2阻害剤(OA-Hy)、またはMMP-2 shRNA治療マウスの脊髄由来LPC病変の代表的エリオクロムシアニン(ミエリン)染色。破線は、病変領域を区別する。スケールバー100μm。
図8G:18dplでのビークル、ISP、MMP-2阻害剤(OA-Hy)、またはMMP-2 shRNA治療マウス中の大量の損傷を受けた脊髄の定量的分析。(n=4匹のマウス/群、分散分析 F(5,18)=169.7;チューキーの多重比較検定、P
LPC 対 LPC+ISP<0.0001;P
LPC+ISP 対 LPC+ISP+OA-Hy<0.0001;P
LPC+ISP 対 LPC+ISP+MMP-2 shRNA<0.0001;P
LPC 対 LP{+OA-Hy=0.0279)。データは、平均±s.e.mとして表される。*P<0.05、***P<0.001。
【
図9】
図9A-
図9D。MSのマウスモデル中の増大したCSPG量を示す。
図9Aおよび9B:Cat301およびCS56の代表的LFB染色切片および免疫組織化学的検査像は、誘導の28および48日後のEAEマウスの胸部脊髄中のCSPG蓄積を示す。スケールバー100μm。Cat301(アグリカンCSPG)およびCS56(CSPGのグリコサミノグリカン部分)のピクセル強度の定量化を示す。(Cat301:n=3マウス/群、分散分析 F(2,6)=163.9、チューキーの多重比較検定、P
con 対 EAE D28=0.0007、P
EAE D28 対 EAE D41=0.0001;CS56:n=3匹のマウス/群、分散分析 F(2,6)=168.7、チューキーの多重比較検定、P
con 対 EAE D28=0.0052、P
EAE D28 対 EAE D41<0.0001)。
図9Cおよび9D:Cat301およびCS56の代表的LFB-染色した切片および免疫組織化学的検査像は、7dplおよび14dplのLPC脱髄後の病変部位中のCSPG蓄積を示す。スケールバー100μm。Cat301およびCS56のピクセル強度の定量化を示す(Cat301:n=3匹のマウス/群、分散分析 F(2,6)=269.7、チューキーの多重比較検定、P
con 対 7dpl<0.0001、P
7dpl 対 14dpl<0.0001;CS56:n=3匹のマウス/群、分散分析 F(2,6)=105、チューキーの多重比較検定、P
con 対 7dpl<0.0001、P
7dpl 対 14dpl=0.0011)。
【
図10】
図10A-
図10E。EAEおよびLPC後、PTPσ発現が高まることを示す。
図10A:PTPσおよびOlig2の代表的免疫細胞化学像は、インビトロで成長したオリゴデンドロサイト前駆細胞上でPTPσ発現を示す。
図10B:公的に入手可能なRNA配列解析トランスクリプトームデータベース(web.stanford.edu/group/barres_lab/)から取得した細胞特異的PTPRD(PTPδ)、PTPRS(PTPσ)、PTPRF(LAR)およびRTN4R(Nogo)mRNAレベルのグラフ表示。FPKMは、マッピングされた百万フラグメント当たりの転写物配列のキロベース当たりのフラグメントを表す。
図10C:PTPσ、CC1、およびMBPの代表的免疫組織化学的検査像は、インビトロでのOPC培養物のCC1
+またはMBP
+細胞中のPTPσ発現を示す。
図10D:EAEまたはLPC誘導脱髄マウスの胸部脊髄中のPTPσ発現のウェスタンブロット分析。データは、β-アクチンタンパク質発現に正規化される(n=4マウス/群、P
con 対 EAE=0.012、t=3.558、df=6;P
con 対 LPC=0.0012、t=5.775、df=6;対応のないスチューデントの両側t検定)。
図10E:PTPσおよびOlig2の代表的免疫組織化学的検査像は、誘導の28日後のEAEマウスの脊髄のOlig2
+細胞中のPTPσ発現の増大を示す。スケールバー=50μm。データは、平均±s.e.mとして表される。*P<0.05、**P<0.01。
【
図11】
図11A-
図11B。再ミエリン化が生じるに伴いISPがCSPG除去を増大することを示す。
図11A:MBPおよびCat301の代表的免疫組織化学的検査像は、ISP治療後に、8dplおよび14dplでのLPC脱髄小脳切片中のCSPGの存在量の低減を示す。スケールバー100μm。
図11B:ビークルまたはISP治療後の、4dpl、8dplおよび14dplでのLPC脱髄小脳切片中のCat301の免疫蛍光強度の相対的定量化(群あたり3回の独立した反復実験由来のn=9切片、2元配置分散分析 F(2,6)=30.78、シダックの多重比較検定、8dpl:P
LPC+Veh 対 LPC+ISP<0.0001、14dpl:P
LPC+Veh 対 LPC+ISP<0.0325)。*P<0.05、***P<0.001、n.s.:有意でない。
【
図12】
図12A-
図12F。ISPがEAEマウスモデルの炎症を調節することを示す。
図12A:Iba1およびGFAPの代表的免疫組織化学的検査像は、EAE誘導の41日後のISP治療マウスの脊髄中のそれぞれミクログリアおよび星状膠細胞の活性化の低減を示す。スケールバー=100μm。
図12B:41日目のISP治療マウスの脊髄中のIba1およびGFAPの免疫蛍光強度の相対的定量化(n=3匹のマウス/群、Iba1:P=0.0016、t=7.608、df=4;GFAP:P=0.0113、t=4.448、df=4。対応のないスチューデントの両側t検定)。
図12C:iNOS(M1ミクログリアマーカー)およびアルギナーゼ-1(M2ミクログリアマーカー)の代表的免疫組織化学的検査像は、28日目のISP治療マウスの脊髄中で、増大したM2ミクログリアおよび低減したM1ミクログリアを示す。スケールバー=100μm。
図12D:41日目のISP治療マウスの脊髄中のiNOSおよびアルギナーゼ-1の相対的免疫蛍光の定量化(n=3匹のマウス/群、NOS:P=0.0008、t=9.114、df=4;アルギナーゼ-1:P=0.0014、t=7.824、df=4。対応のないスチューデントの両側t検定)。
図12E:代表的ルクソール・ファスト・ブルー染色像は、18日目のビークルまたはISP治療マウスの脱髄領域における差異はないことを示す。
図12F:18日目のビークルまたはISP治療マウスの脊髄中の脱髄領域の定量化は、EAEモデルで類似のレベルの脱髄を示す(n=3匹のマウス/群、P=0.8559、t=0.1936、df=4、対応のないスチューデントの両側t検定)。*P<0.05、***P<0.001、n.s.:優位でない。
【
図13】
図13A-
図13F。ISPがOPC動員およびCSPGの存在下で生存を促進することを示す。
図13A:7dplでのビークルおよびISP治療マウスの脊髄中の増殖性OPC(Olig2
+)を示す代表的Ki67免疫染色像。白色矢印は、Olig2
+/Ki67
+細胞を示す。スケールバー100μm。
図13B:7dplでのビークルおよびISP治療マウスの脊髄中でOlig2
+細胞/mm
2、Ki67
+細胞/mm
2およびOlig2
+/Ki67
+細胞/mm
2を示す免疫染色の定量化。(n=3匹のマウス/群、Olig2:P=0.0012、t=1.6、df=4;Ki67:P=0.0449、t=2.883、df=4;Olig2
+/Ki67
+:P=0.056、t=2.666、df=4。対応のないスチューデントの両側t検定)。データは、平均±s.e.mとして表される。
図13C:脊髄LPC注入後、7divにわたり動物をビークルまたはISPで処理した。切片をOlig2、Ki67、およびDAPIで染色した。B)LPC切片中のOlig2、Ki67、および共存Olig2およびKi67の定量化。C)OPCを、アグリカン/ラミニンプレコートカバーガラス上で培養し、ビークル対照、2.5μMのISPまたはSISPで治療し、O4およびKi67で染色した。
図13D:Ki67は、群内で有意に変化しなかった(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.8998、F(2,9)=0.1068、4回の実験で、それぞれ3回ずつで合計N=12画像)。
図13E:OPCをアグリカン/ラミニン上で培養し、対照または2.5μMのISPで2divにわたり処理し、その後、ビークルまたはLPC(1μg/mL)と共に2時間インキュベーションした後、DAPIおよびTUNEL染色を実施した。
図13F:DAPI+細胞に比較したTUNEL
+細胞の定量化は、対照に比較したISP処理(N=40画像、4回反復実験)OPCの有意な生存を示す(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.0021、F(3,36)=5.96)。ISP治療は、LPC処理細胞の生存を増大させる。(N(画像):対照=36、各LPC処理群=28)。グラフは、各反復実験の平均の散布図表現と標準誤差を示す。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図14】
図14A-
図14G。ISPがOPC突起成長および成熟を強化する。
図14A:誘導の41日後のビークルまたはISP治療EAEマウスの胸部脊髄中のOlig2およびCC1の代表的免疫組織化学的検査像。スケールバー=50μm。
図14B:誘導の41日後のビークルまたはISP治療EAEマウスの胸部脊髄中のOlig2
+細胞/mm
2およびCC1
+細胞/mm
2に対する免疫染色定量化。(n=3匹のマウス/群、Olig2:P=0.00189、t=3.811、df=4;CC1:P=0.0019、t=7.259、df=4。対応のないスチューデントの両側t検定)。
図14C:14dplでのビークルまたはISP治療LPCマウスの脊髄中のDAPIおよびCC1の代表的免疫組織化学的像。破線は、病変領域を区別する。スケールバー100μm。
図14D:14dplでの正規化したCC1+乏突起膠細胞密度に対する免疫染色定量化。(n=3匹のマウス/群、P=0.0044、t=5.789、df=4。対応のないスチューデントの両側t検定)。
図14E:ISPまたはビークルの存在下でポリ-L-リシンまたはCSPG上に播種後の、OPCの成熟の代表的免疫組織化学的像。スケールバー100μm。
図14F:ISPまたはビークルの存在下でポリ-L-リシン(対照)またはCSPG上にOPC播種後のOL成熟の相対的比率の定量化。(n=3回の独立した反復実験、O4:分散分析 F(2,6)=1.321、P=0.3347;MBP:分散分析 F(2,6)=30.99、チューキーの多重比較検定、P
Con 対 CSPG+Veh=0.0005、P
CSPG+Veh 対 CPSG+ISP=0.0175)。
図14G:6日目に、ISPまたはビークルの存在下でポリ-L-リシン(対照)またはCSPG上のOPC播種後のMBP
+フットプリントのサイズの比較。n=3の独立した反復実験、分散分析 F(2,6)=40.96、チューキーの多重比較検定、P
Con 対 CSPG+Veh=0.0003、P
CSPG+Veh 対 CPSG+ISP=0.0052)。データは、平均±s.e.mとして表される。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。n.s.:有意でない。
【
図15】プロテアーゼアッセイの結果をグラフで示す。ISP治療によりプロテアーゼが発現上昇され得るスクリーニングを開始するために、培養したOPCをビークル対照または2.5μMのISPで4日間インビトロ処理した。その後、培養上清を定性的プロテアーゼアレイ(R&D Systems)と共にインキュベートし、展開した。次に、ISP処理 対 対照OPC CMのピクセル強度の%変化を計算した。
【
図16】
図16A-
図16H。ISPがCS56分解を用量依存的に高めることを示す。ISP処理OPC CMは、CS56スポットを分解できる。
図16A:ビークル対照、2.5μMのISPまたはSISPで処理したOPCをインビトロで2日間インキュベートし、その後、CMを集め、アグリカン/ラミニンスポットと共にインキュベートした。追加のサブセットのスポットを培地のみで同じ時間にわたりインキュベートした。スポットをCS56またはラミニンで免疫染色し、スポット外周部のピクセル強度を記録した。
図16B:スポットの測定部分を示す、黄色関心領域を含むCS56染色スポットの代表的画像。
図16C:CS56免疫染色されスポットの定量化は、対照に比較して、ISP処理OPC CMは、有意にCSPGを分解することを示す(1元配置分散分析、ダネットのポストホック検定、P=0.0001、F(5,72)=45.19)。N(画像、5回の反復実験):対照=69、ISP=104、ISP=95、培地のみ=31)。
図16D:ラミニン染色したスポットの代表的像。
図16E:ラミニン染色したスポットの定量化は、群間で有意な変化は示さない(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.0818、F(3,85)=2.312、N(画像、5回の反復実験):対照=133、ISP=134、SISP=114、培地のみ=34)。
図16F:CS56分解を確認するために、OPCを種々の投与量のISPまたはビークル対照で処理し、固定濃度のアグリカン(20μg/mL)と共に2時間インキュベートし、その後、ウェスタンブロット分析を行った。
図16G:CS56のウェスタンブロット分析およびその後のCS56バンドの定量化(
図16H)は、2.5および5μM投与量の対照に比較して、有意なISP処理CS56分解を示す(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.0049、F(5,12)=6.112、N=3ウェスタンブロット)。グラフは、ウェスタンブロットの散布図表現または各反復実験の平均と標準誤差を示す。
【
図17】
図17A-
図17G。プロテアーゼ阻害剤がISP誘導CSPG分解およびその後のCSPG-OPC抑制解除を弱めることを示す。プロテアーゼ阻害剤のOPCに対する機能的効果を評価するために、
図17Aおよび17Bは、CS56免疫染色スポットがビークル対照、2,5μMのISP、または25μMのGM6001プラス/マイナスISP処理OPC CMと共にインキュベートされた、アッセイの結果を示す。定量化CS56免疫反応性は、対照およびGM6001+ISPに比べて、有意なISP誘導CS56分解を示す(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.0001、F(3,37)=21.43)、N(画像、3回の反復実験):対照=24、ISP=17、GM6001=19、GM6001+ISP=20。同様に、
図17Cおよび17Dは、ビークル対照、2.5μMのISP、または100nMのMMP-2阻害剤(OA-Hy)プラス/マイナスISPにより処理したアグリカンスポットが、ビークル対照およびMMP-2阻害剤(OA-Hy)+ISPに比べて、ISP誘導分解を示した(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.001、F(3,44)=31.50。各N=24画像)。
図17E:MMP-2阻害剤がアポトーシスに影響を与えるかどうかを評価するために、アグリカン/ラミニンプレコートカバーガラス上で培養したOPCを、ISP、100nMのMMP-2阻害剤(OA-Hy)プラス/マイナスISPで2日間インビトロ処理した。処理OPCのサブセットを、追加で、LPC 1ug/mLとのインキュベーションで2時間誘発し、その後、TUNEL/DAPI染色を行った。MMP-2阻害剤(OA-Hy)は、TUNEL
+細胞/総細胞を有意に増加させなかった。しかし、MMP-2阻害剤(OA-Hy)は、ISP処理を含む場合でも、LPC処理後、LPC-ISP処理に比べて、アポトーシスを増加させた(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.0001、F(7,21)=29.66。N=2反復実験、各2ウェル)。
図17F:アグリカン/ラミニン上で培養したOPCの100nMのMMP-2阻害剤(OA-Hy)処理は、ISP処理単独に比べて、さらにMBPフットプリントを有意に低減した(1元配置分散分析、P=0.0001、F(3,112)=228.3。N(細胞、5回の反復実験):対照=128、ISP=126、OA-Hy=191、OA-Hy+ISP=222)。グラフは、各反復実験の平均の散布図表現と標準誤差を示す。
【
図18】
図18A-
図18E。MMP-2のshRNAノックダウンは、OPC成熟およびCSPGに対する移動を低減し、小脳切片における再ミエリン化を制限する。
図18A:OPC培養物に対照レンチウイルススクランブルshRNAまたはMMP-2を標的とするshRNA構築物を発現しているレンチウイルス粒子を48時間感染させた後、ウェスタンブロッティングを行い、MMP-2ノックダウンをGAPDHと比較して評価した。
図18Bおよび18C:ラミニンおよび低濃度のアグリカン(1μg/mL)上で培養したMMP-2レンチウイルス感染OPCを標的とするスクランブルまたはshRNAを、ビークルまたはISP(2.5μM)で48時間の処理後、MBPで免疫染色した。MBP面積を定量した。(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定、P=0.013、F(3,158)=6.677、2回の反復実験由来のN=100細胞)。
図18Dおよび18E:OPC(O4、赤)をレンチウイルス構築物で48時間感染させ、その後、スポットアッセイ用に播種し、ISP(2.5μM)を含有または非含有アグリカン(緑)と交差する移動を評価した。アグリカンスポットを横切るOPCの数を計数した(1元配置分散分析、チューキーのポストホック検定。P=0.0015,F(3,44)=6.056。2回の反復実験由来のN=40スポット)。
【
図19】
図19A-
図19D。LPC脱髄マウスモデル中で、MMP-2がISP誘導再ミエリン化を媒介することを示す。
図19A:LPC注入の14日後の、ビークル、ISPまたはMMP-2阻害剤(OA-Hy)治療マウスの脊髄由来のCS56およびDAPIの免疫組織化学的検査からの代表的画像は、MMP-2媒介CS56分解を示す。破線は背側の脊髄白質を区別する。スケールバー=100μm。
図19B:14dplでの、ビークル、ISPまたはMMP-2阻害剤(OA-Hy)治療マウスの脊髄中のCS56の免疫蛍光強度の相対的定量化(n=3匹のマウス/群、分散分析 F(3,8)=76.08、チューキーの多重比較検定、P
LPC 対 LPC+ISP<0.0001、P
LPC+ISP 対 LPCNISP+OA-Hy=0.0079、P
LPC 対 LPC+OA-Hy=0.0026)。
図19C:LPC注入の14日後の、ビークル、ISPまたはMMP-2阻害剤(OA-Hy)治療マウスの脊髄由来Olig2およびDAPIの免疫組織化学的検査からの代表的画像は、MMP-2媒介OPC移動を示す。破線は、病変領域を区別する。スケールバー=100μm。
図19D:14dplでの、ビークル、ISPまたはMMP-2阻害剤(OA-Hy)治療マウスの脊髄中のOlig2
+細胞の数の定量化(n=3匹のマウス/群、分散分析 F(3,8)=21.58、チューキーの多重比較検定、P
LPC 対 LPC+ISP=0.0074、P
LPC+ISP 対 LPC+ISP+OA-Hy=0.0088、P
LPC 対 LPC+OA-Hy=0.0385)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
別に定めのない限り、本明細書で使用される科学技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。さらに、文脈により別義が要求されない限り、単数用語は複数を含むものとし、複数用語は単数を含むものとする。一般に、本明細書で記載される細胞および組織の培養、分子生物学、およびタンパク質およびオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの化学およびハイブリッド形成と関連して利用される命名法、ならびにそれらの技法は、当該技術で周知であり、一般に使用されるものである。
【0017】
便宜上、明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲で採用される特定の用語をここにまとめる。特に断らなければ、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、本出願が属する当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0018】
冠詞の「a」および「an」は、1つの、または1つを超える(すなわち、少なくとも1つの)、その冠詞の文法的対象を意味するものとして本明細書で使用される。例えば、「an element」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0019】
「含む(comprise)」「含む(comprising)」「含有する(include)」「含有する(including)」「有する(have)」および「有する(having)」という用語は、追加の要素が含まれ得ることを意味する包括的な、非限定的な意味で使用される。本明細書で使用される場合、「など(such as)」、「例えば(e.g.)」という用語は非限定的であり、例示を目的としているにすぎない。「含む(including)」および「含むが、それらに限定はされない(including but not limited to)」は同じ意味で使用される。
【0020】
「または(or)」という用語は、本明細書では、文脈により明確に別義が示されない限り、「および/または(and/or)」を意味すると理解されるべきである。
【0021】
本明細書で使用される場合、「約(about)」または「約(approximately)」という用語は、基準の量(quantity)、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量(amount)、重量または長さに対する15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%程度変動する量(quantity)、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量(amount)、重量または長さを意味する。一実施形態では、「約(about)」または「約(approximately)」という用語は、基準の量(quantity)、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量(amount)、重量または長さ±15%、±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、または±1%の範囲の量(quantity)、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量(amount)、重量または長さを意味する。
【0022】
本明細書で使用される場合、「a、bおよびcの1つまたは複数」はa、b、c、ab、ac、bcまたはabcを意味する。本明細書における「または」の使用は、包含的なまたはである。
【0023】
患者に「投与すること」という用語には、脳脊髄液へのまたは脳血管関門を横切る投与、非経口または経口の経路による送達、筋肉内注射、皮下または皮内注射、静脈内注射、頬内投与、経皮送達、および直腸、結腸、膣、鼻腔内のまたは気道経路による投与を含む、対象の所望の位置に活性化合物を送達するために(例えば、それにより、所望のニューロンなどの所望の細胞に接触させるために)好適な経路により、対象に医薬製剤中の活性化合物の分配、送達または適用が含まれる。薬剤は、例えば、静脈内注射を介して昏睡状態、麻酔下のもしくは麻痺した対象に投与され得、または妊娠した対象の静脈内に投与して胎児の軸索成長を誘発し得る。投与の特定の経路には、局所投与(例えば、まぶたの下に投入される点眼薬、クリームまたは浸食性の製剤)、水性体液または硝子体液への眼内注射、結膜下注射またはテノン嚢下注射を介するなどの眼の外層への注射、非経口投与または経口経路を介した投与が挙げられ得る。
【0024】
用語の「抗体」には、ヒトおよび動物のmAb、およびポリクローナル抗体、組換え抗体(抗血清)、ヒト化抗体、抗イディオタイプ抗体およびその誘導体などのキメラ抗体を含む合成抗体が挙げられる。抗体の一部またはフラグメントは、特定のエピトープに結合する能力(結合の特異性および親和性)の少なくとも一部を保持する抗体の領域を意味する。用語「エピトープ」または「抗原決定基」は抗体のパラトープが結合する抗原上の部位を意味する。連続アミノ酸により形成されるエピトープは通常、変性溶媒への暴露の際、保持されるが、三次折り畳みにより形成されるエピトープは通常、変性溶媒による処理の際に失われる。エピトープは通常、特有の空間配置中に少なくとも3個、少なくとも5個または8~10個、または約13~15個のアミノ酸を含む。エピトープの空間配置を決定する方法には、例えば、X線結晶学および二次元核磁気共鳴が挙げられる。
【0025】
「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」という用語は、ポリペプチドをコードする第1のアミノ酸配列と、第1のポリペプチドのドメインに対して外来性であり、実質的に相同ではないドメイン(例えば、ポリペプチドの一部)を規定する第2のアミノ酸配列との融合体を意味する。キメラタンパク質は、第1のタンパク質も発現する生物で見出される外来性のドメイン(異なるタンパク質中ではあるが)であってもよく、またはキメラタンパク質は、異なる種類の生物により発現されるタンパク質構造体の「種間」、「遺伝子間」等の融合体であってもよい。
【0026】
薬剤または治療用ペプチドの「有効量」は、所望の治療効果または医薬効果を達成するのに十分な量、例えば、ニューロンの成長を活性化することが可能である量である。本明細書で定義される薬剤の有効量は、例えば、対象の疾患の状態、年齢および体重、ならびに対象において、所望の応答を誘発する薬剤の能力などの因子により変化し得る。投与計画を調節して最適な治療応答をもたらし得る。有効量はまた、治療上の有益な効果が活性化合物の毒性効果または有害効果に勝るものでもある。
【0027】
用語の「発現」は、核酸がペプチドに翻訳されるまたはペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質に翻訳できるRNAに転写される過程を意味する。核酸がゲノムDNAに由来するのであり、適当な真核宿主細胞または生物が選択される場合、発現はmRNAのスプライシングを含む。宿主細胞中で発現される異種核酸については、それは先ず細胞に送達され、その後、いったん細胞に入って、最終的に核に存在しなければならない。
【0028】
用語の「遺伝子治療(genetic therapy)」およびその文法的変形体(例えば、「遺伝子治療(gene therapy)」)には、治療または診断が求められる障害または状態にある哺乳動物、特にヒトの細胞への異種のDNAの移入が含まれる。選択された標的細胞にDNAが導入され、それにより、異種のDNAが発現され、それにより、コードされた治療用産物が産生される。あるいは、異種のDNAは、治療用産物をコードするDNAの発現を何らかの形で媒介し、治療用産物の発現を何らかの形で直接的にまたは間接的に媒介するペプチドまたはRNAなどの産物をコードし得る。遺伝子治療を用いて遺伝子産物をコードする核酸を送達して欠陥のある遺伝子を置き換えてもよく、またはそれが導入された哺乳動物または細胞により産生される遺伝子産物を補完してもよい。治療用産物をコードする異種のDNAは、その産物または発現を増大するかまたは別の方法で変えるために、罹患している宿主の細胞に導入する前に修飾され得る。
【0029】
用語の「遺伝子」または「組換え遺伝子」はエクソンおよび(任意に)イントロンの配列の両方を含むポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸を意味する。
【0030】
用語の「異種核酸配列」は通常、それが発現される細胞によって、インビボでは通常産生されないRNAおよびタンパク質をコードするDNA、または転写、翻訳若しくは他の調節性の生物過程に影響を及ぼすことにより、内在性のDNAの発現を変更するメディエーターを媒介するもしくはそれをコードするDNAである。異種核酸配列はまた外来性のDNAとも呼ばれる。それが発現される細胞に対して異種または外来性であると当業者が認識するまたは見なすDNAは本明細書では異種DNAにより包含される。異種DNAの例には、例えば、薬剤耐性を付与するタンパク質などの追跡可能なマーカータンパク質をコードするDNA、例えば、抗癌剤、酵素およびホルモンなどの治療上有効な物質をコードするDNA、ならびに抗体などの他の種類のタンパク質をコードするDNAが挙げられる。異種のDNAによって、コードされる抗体は、異種のDNAが導入されている細胞の表面で分泌され得るかまたは発現され得る。
【0031】
用語の「相同性」および「同一性」は、全体を通して同義に使用され、2つのペプチド間のまたは2つの核酸分子間の配列類似性を意味する。相同性は、比較の目的で並べられ得る各配列における位置を比較することによって、決定できる。比較した配列における位置が同一の塩基またはアミノ酸で占められれば、その位置で分子は相同または同一である。配列間の相同性または同一性の程度は配列により共有される一致するまたは相同性の位置の数の関数である。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語の「オリゴデンドロサイト前駆細胞」または「OPC」は、新しいオリゴデンドロサイト細胞を生成できる神経前駆細胞を意味する。OPCは、多くの表面抗原の発現により特定できる。例えば、血小板由来成長因子受容体サブユニット(PDGFRα)、NG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、およびガングリオシドGD3として既知の表面抗原がOPCの特定によく使用される。
【0033】
未成熟OPCは、共通のグリア前駆細胞から発生中の脳の腹側領域で生成される。未成熟細胞は、積極的に移動、増殖し、中枢神経系(CNS)に存在し、最終的にミエリン形成前オリゴデンドロサイト(O4+)に分化する。OPC分化および成熟は、複数突起の伸張、細胞体サイズの増大およびミエリンの形成を特徴とする。
【0034】
語句の「非経口投与」および「非経口で投与される」は本明細書で使用される場合、腸内投与および局所投与以外の、通常は注射による投与方法を意味し、これには、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、脳室内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節腔内、嚢下、クモ膜下、脊髄内および胸骨内の注射および注入が挙げられる。
【0035】
語句の「全身投与」、「全身に投与される」、「末梢投与」および「末梢に投与される」は、本明細書で使用される場合、標的組織への直接投与以外の化合物、薬物またはその他の物質の投与を意味し、それにより、動物の体系に入り、従って、代謝および他の類似の過程、例えば、皮下投与を受ける。
【0036】
用語の「患者」または「対象」または「動物」または「宿主」は任意の哺乳動物を意味する。対象はヒトであり得るが、獣医治療を必要とする哺乳動物、例えば、愛玩動物(例えば、イヌ、ネコ等)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ニワトリ、ブタ、ウマ等)および実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモット等)でもあり得る。
【0037】
用語の「末梢神経系(PNS)のニューロン」には、CNSの外側に存在するまたは伸びるニューロンが含まれる。PNSは、感覚ニューロンおよび運動ニューロンを含む末梢神経系に分類されるとして一般的に理解されるニューロンを含むことが意図されている。
【0038】
用語の「ポリヌクレオチド配列」および「ヌクレオチド配列」は本明細書では同じ意味で用いられる。
【0039】
用語の「ペプチド」および「ポリペプチド」は、本明細書では同じ意味に用いられ、約2~約90個(包括的)のアミノ酸残基からなる化合物を意味し、1つのアミノ酸のアミノ基がペプチド結合により、別のアミノ酸のカルボキシル基に連結される。ペプチドは例えば、酵素切断または化学切断によって、ネイティブのタンパク質から導き出すまたは取り出すことができ、または従来のペプチド合成法(例えば、固相合成)または分子生物学的な技法により、調製できる(Sambrook et al.,MOLECULAR CLONING:LAB.MANUAL(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY,1989)を参照)。「ペプチド」は、好適なL-および/またはD-アミノ酸、例えば、一般的なα-アミノ酸(例えば、アラニン、グリシン、バリン)、非α-アミノ酸(例えば、P-アラニン、4-アミノ酪酸、6-アミノカプロン酸、サルコシン、スタチン)および異常アミノ酸(例えば、シトルリン、ホモシトルリン、ホモセリン、ノルロイシン、ノルバリン、オルニチン)を含むことができる。ペプチド上のアミノ基、カルボキシル基および/または他の官能基は遊離状態(例えば、非修飾)、または好適な保護基で保護され得る。アミノ基およびカルボキシル基の好適な保護基、および保護基を付加するまたは取り外す手段は当該技術で既知である。例えば、Green &Wuts,PROTECTING GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS(John Wiley &Sons,1991)を参照されたい。ペプチドの官能基も既知の方法を用いて誘導体化(例えば、アルキル化)することができる。
【0040】
ペプチドは合成することができ、また、多数の別々の分子種を含むライブラリを構築することができる。このようなライブラリはコンビナトリアル化学の周知の方法を用いて調製することができ、本明細書で記載のように、またはライブラリが、CSPG/PTPσの相互作用に拮抗できるペプチドを含むかどうかを判定する好適な他の方法を用いて、スクリーニングすることができる。次いで好適な手段により、このようなペプチドのアンタゴニストを単離できる。
【0041】
用語の「ペプチド模倣体」は、ペプチドを模倣するように設計されたタンパク質様分子を意味する。ペプチド模倣体は通常、既存のペプチドの修飾から、またはペプトイドおよびβ-ペプチドなどのペプチドを模倣する類似の系を設計することによって、生じる。手法に関わりなく、化学構造を変えた設計を行うことにより、安定性または生物活性などの分子特性が有利に調節される。これらの修飾には、天然に存在しないペプチドに対する変更(例えば、変化した骨格および非天然のアミノ酸の取り込み)を含む。
【0042】
用語の「防止する(prevent)」または「防止すること(preventing)」は、疾患または状態の頻度または重症度を低減することを意味する。この用語は、疾患または状態の絶対的な排除を必要としない。むしろ、この用語は、疾患の発生の機会を減らすことを含む。例えば、開示されるのは、対象の神経根引抜き損傷の発生および/または重症度を低減する方法であり、該方法は、対象の神経根引抜き損傷に対し、治療有効量の治療薬を含む組成物を投与することを含む。
【0043】
ポリヌクレオチド配列(DNA、RNA)は、発現制御配列がそのポリヌクレオチド配列の転写および翻訳を制御し、調節する場合、発現制御配列に「動作可能に連結される」。用語の「動作可能に連結される」には、発現されるポリヌクレオチド配列の前で適切な開始シグナル(例えば、ATG)を有すること、および正しいリーディングフレームを維持して発現制御配列の制御下でポリヌクレオチド配列の発現を可能にし、ポリヌクレオチド配列によりコードされる所望のポリペプチドの産生を可能にすることが含まれる。
【0044】
本明細書で使用される用語の「組換え」は、タンパク質が原核生物発現系または真核生物発現系に由来することを意味する。
【0045】
用語の「治療に効果的な」は、使用される組成物の量が、疾患または障害の原因、症状、または後遺症の1つまたは複数を回復するのに十分な量であることを意味する。このような回復は、疾患または障害の原因、症状、または後遺症を減らすまたは変えることのみ必要とし、必ずしも除去が必要とは限らない。
【0046】
用語「組織特異的なプロモーター」は、プロモーターとして役立つ、すなわち、プロモーターに動作可能に連結された選択された核酸配列の発現を調節し、上皮細胞の細胞などの組織の特定の細胞の選択された核酸配列の発現に影響を与える核酸配列を意味する。この用語はまた1つの組織で主として選択された核酸の発現を調節するが、同様に他の組織でも発現を生ずるいわゆる「漏出性」プロモーターも網羅する。用語「遺伝子導入」は細胞による外来性DNAの取り込みを意味するのに使用される。外因性DNAが細胞膜の内側に導入されている場合、細胞は「遺伝子導入」されている。多数の遺伝子導入方法が当該技術で一般に知られている。例えば、Graham et al.,Virology 52:456(1973);Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1989);Davis et al.,Basic Methods in Molecular Biology(1986);Chu et al.,Gene 13:197(1981)を参照されたい。このような技法を用いて、例えば、ヌクレオチド組込み型ベクターおよび他の核酸分子などの1つまたは複数の外来性DNA部分を好適な宿主細胞に導入できる。この用語は化学的、電気的、およびウイルス媒介遺伝子導入の手順を含む。
【0047】
用語の「転写調節配列」は、それらが動作可能に連結されるタンパク質コード配列の転写を誘導するまたは制御する開始シグナル、エンハンサーおよびプロモーターなどの核酸配列を意味するように明細書で使用される一般的な用語である。いくつかの実施例では、組換え遺伝子の転写は、プロモーター配列(または他の転写調節配列)の制御下にあり、それは、発現が意図される細胞型の組換え遺伝子の発現を制御する。組換え遺伝子は、これらの配列と同一であるまたは異なる、タンパク質の天然に存在する形態の転写を制御する転写調節配列の制御下にあり得ることも理解されよう。
【0048】
用語の「治療」は、疾患、病的状態、または障害を治癒、回復、安定化、または予防することを目的とした患者の医学的管理を意味する。この用語は、積極療法、すなわち、疾患、病的状態、または障害を改善する方向に具体的に向けられた治療を含み、また、原因療法、すなわち、関連する疾患、病的状態、または障害の原因の除去に向けた治療も含む。さらに、この用語は、対症療法、すなわち、疾患、病的状態、または障害の治癒ではなく、症状の軽減のために設計された治療;この用語は、予防治療、すなわち、関連疾患、病的状態、または障害の発症を最小化する、または部分的にもしくは完全にそれを抑制する方向に向けられた治療;支持療法、すなわち、関連疾患、病的状態、または障害の改善に向けられた別の特異療法を補充するために採用される治療を含む。
【0049】
用語の「ベクター」はそれが連結されている別の核酸を輸送することが可能である核酸分子を意味する。好ましいベクターは、それらが結合する核酸の自律複製および発現の1つまたは複数が可能であるものである。それらが動作可能に連結された遺伝子の発現を指示することが可能であるベクターは、本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。
【0050】
用語の「野生型」(または「WT」)は、インビボでそれが正常に存在するような、それぞれ、タンパク質、またはその一部、またはタンパク質配列、またはその一部をコードする天然のポリヌクレオチドを意味する。本明細書で使用される場合、用語の「核酸」はデオキシリボ核酸(DNA)、および該当する場合には、リボ核酸(RNA)などのポリヌクレオチドを意味する。この用語は、ヌクレオチド類似体から作られ、記載の実施形態に適用可能なRNAまたはDNAの等価物、類似体として、一本鎖(センスまたはアンチセンス)および二本鎖のポリヌクレオチドを含むことは理解されるべきである。
【0051】
本明細書で記載の方法で使用される薬剤、化合物、組成物、抗体等は、使用前に精製および/または単離することが検討される。精製された物質は通常、「実質的に純粋」であり、核酸、ポリペプチド、またはそのフラグメント、または他の分子が天然ではそれに付随する成分から分離されていることを意味する。通常、それが天然で結合するタンパク質および他の有機分子を、重量で少なくとも60%、70%、80%、90%、95%またはさらに99%含まない場合、ポリペプチドは実質的に純粋である。例えば、実質的に純粋なポリペプチドは、天然源からの抽出により、正常ではそのタンパク質を発現しない細胞における組換え核酸の発現により、または化学合成により、得られ得る。「単離された物質」はその天然の位置および環境から取り出されている。単離されたまたは精製されたドメインまたはタンパク質フラグメントの場合、ドメインまたはフラグメントは、天然配列のタンパク質に隣接するアミノ酸配列を実質的に含まない。用語の「単離されたDNA」は、DNAが天然のゲノム中で所与のDNAに隣接する遺伝子を実質的に含んでいないことを意味する。従って、用語の「単離されたDNA」は、例えば、cDNA、クローニングされたゲノムDNAおよび合成DNAを包含する。
【0052】
ポリペプチドを意味する場合、用語の「一部」、「フラグメント」、「バリアント」、「誘導体」および「類似体」は、本明細書で言及される少なくとも一部の生物活性(例えば、結合などの相互作用の阻害)を保持するいずれかのポリペプチドを含む。本明細書で記載のポリペプチドには、ポリペプチドが依然としてその機能を果たす限り、限定されないが、一部、フラグメント、バリアント、または誘導体分子が含まれ得る。本発明のポリペプチドまたはその一部には、タンパク分解フラグメント、欠失フラグメント、および特に、または動物に送達された際、作用部位にさらに容易に到達するフラグメントが含まれ得る。
【0053】
本明細書で記載の実施形態は、一般に、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の移動、分化、増殖および/または成熟を誘導、促進、および/または調節する薬剤、化合物、および方法、ミエリン形成を促進する方法、ならびにミエリン形成または再ミエリン化が対象にとって有益である対象の疾患または障害の治療方法に関する。
【0054】
我々は、中枢神経系(CNS)損傷に応答してグリア性瘢痕の形成中に細胞外マトリックス中に放出された特定のタイプのコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)が、OPC上の同族レセプタータンパク質チロシンホスファターゼσ(PTPσ)との結合を介して、ミエリンの生成を低減できることを見出した。種々のインビトロ、インサイツおよびインビボ多発性硬化症(MS)のモデルでは、瘢痕形成に関連する病変中のプロテオグリカン沈着がOPC移動、分化およびミエリンの再形成を強力に阻害した。我々は、PTPσ触媒活性、シグナル伝達、および/または機能を阻害する全身性ペプチド治療がLPS誘導病変中で再ミエリン化の速度を顕著に高め、慢性脱髄後の強力なミエリン再生および機能回復を誘発することを見出した。さらに、PTPσ触媒活性、シグナル伝達、および/または機能の阻害が、OPCにより分泌されるプロテアーゼMMP-2の発現上昇を高めることができ、これが、次に、MSの進行を停止または遅延させ得るCSPGの強力な消化を可能とする。
【0055】
したがって、本明細書で記載のいくつかの実施形態では、PTPσの触媒活性、シグナル伝達、および/または機能の1つまたは複数を、抑制、阻害、および/または遮断する治療薬を、OPCの移動、分化、増殖および/または成熟を誘導、促進、および/または調節するために、ならびにミエリン形成または再ミエリン化が対象にとって有益である対象の疾患または障害を治療するために、対象に投与できる。
【0056】
PTPσのシグナル伝達、および/または機能は、次記を含むいくつかの方法で抑制、阻害、および/または遮断できる:PTPσの細胞内ドメインの活性の直接阻害(例えば、小分子、ペプチド模倣体、抗体、細胞内抗体、またはドミナントネガティブポリペプチドの使用により);PTPσの細胞内ドメインの活性、シグナル伝達、および/または機能の1つまたは複数を阻害する遺伝子および/またはタンパク質の活性化(例えば、遺伝子および/またはタンパク質の発現または活性を高めることにより);PTPσの下流メディエーターである遺伝子および/またはタンパク質の阻害(例えば、メディエーター遺伝子および/またはタンパク質の発現および/または活性を遮断することにより);PTPσの活性、シグナル伝達、および/または機能の1つまたは複数を負に制御する遺伝子および/またはタンパク質の導入(例えば、組換え遺伝子発現ベクター、組換えウイルスベクターまたは組換えポリペプチドを用いることにより);または例えば、PTPσの発現低下変異体による遺伝子の置換(例えば、組み換え遺伝子発現またはウイルスベクター、または変異誘発を用いた相同組換え、過剰発現により)。
【0057】
PTPσの活性、シグナル伝達および/または機能の1つまたは複数を阻害するまたは低減する治療薬には、PTPσの活性、シグナル伝達および/または機能を低下させるおよび/または抑制する薬剤を挙げることができる。このような薬剤は、細胞内に送達でき、細胞内に送達されると、OPC移動、分化、増殖および/または成熟を促進し、ミエリン形成または再ミエリン化を増強できる。
【0058】
いくつかの実施形態では、PTPσの活性、シグナル伝達および/または機能の1つまたは複数を阻害するまたは低減する治療薬には、PTPσの細胞内ドメイン、特に、細胞内くさび形状ドメインに結合および/またはそれと複合体形成してPTPσの活性、シグナル伝達および/または機能を阻害する治療用ペプチドまたは小分子を挙げることができる。従って、OLおよび/またはOPC(OL/OPC)のPTPσの細胞内ドメインに結合する、および/またはそれと複合体形成する治療用ペプチドまたは小分子を用いてこれらの細胞の細胞増殖、運動、生存および可塑性を促進できる。
【0059】
治療薬は、例えば、国際公開第2013/155103A1(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載ものなどのPTPσの細胞内触媒ドメインのくさび形形状のドメイン(すなわち、くさび形ドメイン)のペプチド模倣体であり得る。細胞(例えば、OL/OPC)で発現される場合または細胞内輸送部分に結合される場合の、PTPσのくさび形ドメインのペプチド模倣体は、くさび形ドメインに結合することができ、また、これを用いて、CSPGで活性化されたOL/OPCのPTPσシグナル伝達を消滅させて、細胞増殖、運動、および生存を促進できる。これらの治療用ペプチドのPTPσの無傷のくさび形ドメインへの結合は、可能性として、(i)PTPσがホスファターゼ標的などの標的タンパク質を相互作用する能力を妨害する;(ii)PTPσと、触媒的不活性な第2のホスファターゼドメインD2などのPTPσ中に含まれる別のドメインとの分子間相互作用促進活性を妨害する;(iii)タンパク質の活性ホスファターゼ部位へのアクセスを妨害する;(iv)くさび形ドメインの正常な相互作用を排除する;および/または(v)ホスファターゼ活性を立体的に阻害する。
【0060】
いくつかの実施形態では、ペプチド模倣体(すなわち、治療用ペプチド)は、約10~約20個アミノ酸を含み、から本質的に成り、および/またはから成ることができ、PTPσのくさび形ドメインのアミノ酸配列の約10~約20個の連続するアミノ酸部分に対して少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または約100%相同または同一であるアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、約10個~約20個の連続するアミノ酸部分は、N末端αヘリックスおよび4個のアミノ酸ターンのくさび形ドメインの連続するアミノ酸を含む。
【0061】
細胞質ゾル-キャリアを有するPTPσのくさび形ドメインに相当するまたは実質的に相同であるペプチド(例えば、治療用ペプチド)は、CSPG媒介阻害を除去することができ、LPS誘導病変中の再ミエリン化の速度を高め、強力な慢性脱髄後のミエリン再生および機能回復を誘発し、OPCにより分泌されるプロテアーゼMMP-2の発現上昇を強化でき、これが、次に、CSPGの強力な消化を可能とする。このペプチドは、対象に全身性に投与され、ミエリン形成または再ミエリン化を促進できる。
【0062】
表1に示すように、PTPσのくさび形ドメインの配列は高等哺乳動物の間では高度に保存されており、ヒトからマウスとラットへは、たった1つのアミノ酸の変化があり(6位におけるスレオニンからメチオニンへ)、100%相同を妨げている。
【表1】
【0063】
表1に示すように、PTPσのくさび形ドメインの第1のαヘリックスは、アミノ酸1~10を含み、ターン領域はアミノ酸11~14を含み、第2のαヘリックスはアミノ酸15~24を含む。例えば、ヒトPTPσのくさび形ドメインの第1のαヘリックスは、DMAEHTERLK(配列番号29)のアミノ酸配列を有し、ターンはANDS(配列番号30)のアミノ酸配列を有し、第2のαヘリックスはLKLSQEYESI(配列番号31)を有する。
【0064】
くさび形ドメインはまた、LARファミリーの他のメンバー、LARおよびPTPσと配列相同性を共有する。これらのアミノ酸はくさび形ドメインの全体構造に必要であると思われる。保存されたアミノ酸には13位のアラニンが含まれ、それは第1のαヘリックスの末端およびターンの開始にマークし、一般的なくさび形のサイズおよび構造に必要になる可能性が高い。
【0065】
くさび形ドメインの大略の二次構造および三次構造がほとんどの受容体PTPで変わらないままなので、PTPσを標的とする治療用ペプチドに対していくつかの保存的置換を行って類似の結果を得ることができる。保存的置換の例には、例えば、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンなどの1つの非極性(疎水性)残基の別の残基への置換、アルギニンとリシンの間、グルタミンとアスパラギンの間、グリシンとセリンの間などの1つの極性(親水性)残基の別の残基への置換、リシン、アルギニンまたはヒスチジンなどの1つの塩基性残基の別の残基への置換、および/またはアスパラギン酸またはグルタミン酸などの1つの酸性残基の別の残基への置換が挙げられる。
【0066】
これらの保存的置換は、αヘリックスまたはターンにおける独特ではないドメイン、特に第1のαヘリックスにおける1~3位および7~10位、ターンにおける12および13位、ならびに第2のαヘリックスにおける15、16、18~24位で行なうことができる。これらのアミノ酸はくさび形ドメインの全体構造に対して必要であり得るが、PTPσへのくさび形の結合の特異性には必要ではない。
【0067】
PTPσに対する独特のアミノ酸、特にPTPσとLARで差次的に発現されるアミノ酸は、くさび形ドメインの結合の特異性に必要であることが見出された。これらには、第1のαヘリックスの4位および5位、それに続く6位のスレオニンまたはメチオニン(ラットとマウスでの置換)におけるEHドメインが挙げられる。ターンでは、高等哺乳動物すべてにおいて、14位の独特のセリンがある。最後に、第2のαヘリックスでは17位に独特のロイシンがある。これらの独特のアミノ酸の可能な役割は以下で考察する。
【0068】
14位でのターンにおけるセリン残基はくさび形ドメインのその位置のために特に興味深い。αヘリックス間のターンに位置するこのアミノ酸は、PTPσの一般的な二次構造および三次構造からやや伸びて、結合の相互作用にそれを利用できるようにしている。加えて、セリンは、そのヒドロキシル基およびそれが有する極性のために、例えば、隣接するセリン間の水素結合などのいくつかの同種親和性および異種親和性の結合事象を促進することが知られている。セリンはまたリン酸化のような種々の修飾を受けることも知られ、特異性のためのその必要性の可能性を高くしている。くさび形ドメインのターンに焦点を置き、保存されたセリンを含む小さなペプチドが類似の機能と共にさらに大きな安定性を提供し得ることは可能である。そのようなペプチドは、システインのいずれかの末端と共にループとして合成されてジスルフィド結合を生成することができる。
【0069】
第1のαヘリックスにおける独特のアミノ酸には、4位のグルタミン酸、5位のヒスチジンおよび6位のスレオニンまたはメチオニンが挙げられる。ヒスチジンはコンセンサスくさび形ドメインに関与するが、それはLAR、PTPσ、PTPμまたはCD45には見つからない。これらの3個のアミノ酸はすべて帯電しているかまたは極性なので、この配列またはその成分の1つがPTPσのくさび形の特異性に必要であると思われる。
【0070】
さらに、第2のαヘリックスは17位で独特のロイシンを含む。ロイシンは、ロイシンジッパーの三次元構造にとって重要な接着性分子に関係があるとされている。くさび形ドメインに構造的に類似するこれらの分子では、ほぼ7間隔で配置されている、対向するαヘリックスのロイシンは、対向するαヘリックスの疎水性領域と相互作用する。第1のαヘリックスには9位に位置するロイシンもあるので、この独特のロイシンはPTPσのくさび形の全体三次構造の構造的健全性に必要であると考えられる。
【0071】
従って、他の実施形態では、治療用ペプチドは、約14~約20個のアミノ酸を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができ、アミノ酸配列EHX1ERLKANDSLKL(配列番号32)を含み、配列中、X1はTまたはMである。配列番号32を含む治療用ペプチドは、治療用ペプチドが配列番号32に対して少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%相同であるアミノ酸配列を有するように少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個の保存的置換を含むことができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、保存的置換は、配列番号32のアミノ酸残基4E、5R、6L、7K、9N、10D、12L、または13Kのものである。一例を挙げると、アミノ酸残基4EをDまたはQで置換することができ、アミノ酸残基5RをH,LまたはKで置換することができ、アミノ酸残基6LをI、VまたはMで置換することができ、アミノ酸残基7KをRまたはHで置換することができ、アミノ酸残基9NをEまたはDで置換することができ、アミノ酸残基10DをEまたはNで置換することができ、アミノ酸残基12LをI、VまたはMで置換することができ、および/またはアミノ酸残基13KをRまたはHで置換できる。
【0073】
他の実施形態では、治療用ペプチドは、約14~約20個のアミノ酸を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができ、アミノ酸配列DMAEHX1ERLKANDS(配列番号33)を含み、配列中、X1はTまたはMである。配列番号33を含む治療用ペプチドは、治療用ペプチドが配列番号33に対して少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%相同であるアミノ酸配列を有するように少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個の保存的置換を含むことができる。
【0074】
いくつかの実施形態では、保存的置換は、配列番号33のアミノ酸残基7E、8R、9L、10K、12N、または13Dのものである。一例を挙げると、アミノ酸残基7EをDまたはQで置換することができ、アミノ酸残基8RをH、LまたはKで置換することができ、アミノ酸残基9LをI、VまたはMで置換することができ、アミノ酸残基10KをRまたはHで置換することができ、アミノ酸残基12NをEまたはDで置換することができ、およびアミノ酸残基13DをEまたはNで置換することができる。
【0075】
本明細書で記載の治療用ペプチドは、他の種々の変更、置換、挿入、および欠失を受けることができ、このような変更は、その使用時に、特定の利点をもたらす。この点で、PTPσのくさび形ドメインに結合および/またはそれと複合体形成する治療用ペプチドは、1つまたは複数の変更が行われ、それがPTPσの活性、シグナル伝達および/または機能の1つまたは複数を阻害するまたは低減する能力を保持する記述されたポリペプチドの配列に一致するのではなく、むしろ、それに相当し得る、または実質的に相同であり得る。
【0076】
治療用ポリペプチドは、アミド、タンパク質との複合体、環化ポリペプチド、重合ポリペプチド、類似体、フラグメント、化学修飾ポリペプチド、などの誘導体を含む種々の形態のポリペプチド誘導体のいずれかであり得る。
【0077】
保存的置換は、そのようなペプチドが必要な結合活性を示すという条件で非誘導体化残基の代わりに化学的に誘導体化した残基を使用することも含むことができることが十分に理解されよう。
【0078】
「化学的誘導体」は、官能側基の反応によって、化学的に誘導体化された1つまたは複数の残基を有する当該ポリペプチドを意味する。そのような誘導体化された分子には、例えば、遊離のアミノ基が誘導体化されてアミン塩酸塩、p-トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t-ブトキシカルボニル基、クロロアセチル基、またはホルミル基を形成する分子が挙げられる。遊離のカルボキシル基は誘導体化されて塩、メチルエステルおよびエチルエステル、または他の種類のエステルまたはヒドラジドを形成し得る。遊離のヒドロキシル基は誘導体化されてO-アシルまたはO-アルキル誘導体を形成し得る。ヒスチジンのイミダゾール窒素は誘導体化されてN-イン-ベンジルヒスチジンを形成し得る。また、化学的な誘導体として包含されるのは、20個の標準アミノ酸の1個または複数の天然に存在するアミノ酸誘導体を含有するポリペプチドである。例えば、4-ヒドロキシプロリンは、プロリンを置換してもよく、5-ヒドロキシリシンはリシンを置換してもよく、3-メチルヒスチジンはヒスチジンを置換してもよく、ホモセリンはセリンを置換してもよく、オルニチンはリシンを置換してもよい。本明細書で記載のポリペプチドはまた、必要な活性が維持される限り、その配列が本明細書で示されるポリペプチドの配列に対する1つまたは複数の残基の付加および/または欠失を有する任意のポリペプチドも含み得る。
【0079】
本明細書で記載される治療用ペプチドの1種または複数のペプチドを、例えば、当該技術で既知である、翻訳後プロセッシングなどの天然の過程、および/または化学修飾法により修飾できる。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシ末端を含むペプチドで行われ得る。同じ種類の修飾が所与のペプチドのいくつかの部位で、同じまたは異なる程度で存在し得ることは理解されよう。修飾は、例えば、限定されないが、アセチル化、アシル化、アセトアミドメチル(Acm)基の付加、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンへの共有結合、ヘム部分への共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、アルギニル化およびユビキチン化などの転移RNAが介在するタンパク質へのアミノ酸の付加を含む(参考のために、例えば、Protein-structure and molecular properties,2nd Ed.,T.E.Creighton,W.H.Freeman and Company,New-York,1993を参照されたい)。
【0080】
本明細書で記載のペプチドおよび/またはタンパク質は、例えば、生物学的に活性のある変異体、バリアント、フラグメント、キメラおよび類似体も含み得る;フラグメントは、1個または複数のアミノ酸の短縮化を有するアミノ酸配列を包含し、短縮化は、アミノ末端(N末端)、カルボキシ末端(C末端)、またはタンパク質の内部を起源とし得る。本発明の類似体には1個または複数のアミノ酸の挿入または置換を含む。バリアント、変異体、フラグメント、キメラおよび類似体は、LARファミリーのホスファターゼの阻害剤として機能し得る(本発明の実施例に限定されることなく)。
【0081】
本明細書で記載の治療用ポリペプチドは、当業者に既知の方法で調製され得る。ペプチドおよび/またはタンパク質は組換えDNAを用いて調製され得る。例えば、調製の1つには、細胞の中でペプチドおよび/またはタンパク質の発現を提供する条件下で宿主(細菌または真核細胞)を培養することが含まれ得る。
【0082】
ポリペプチドの精製は、アフィニティ法、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、疎水性、またはタンパク質精製に通常使用される他の精製法により行われ得る。精製ステップは非変性条件下で実施できる。一方、変性ステップが必要である場合には、当該技術で既知の技法を用いてタンパク質が復元され得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、本明細書で記載の治療用ペプチドは、ポリペプチドが他のポリペプチド、タンパク質、検出可能な部分、標識、固体マトリクスまたはキャリアに好都合に連結され、および/または取り付けられ得るリンカーを提供することを目的として、ポリペプチドのいずれかの末端に付加され得る追加の残基を含むことができる。
【0084】
アミノ酸残基のリンカーは普通、少なくとも残基1個であり、40個以上の残基であることができ、1~10個の残基であることがさらに多い。連結に使用される典型的なアミノ酸残基は、グリシン、チロシン、システイン、リシン、グルタミン酸およびアスパラギン酸等である。加えて、当該ポリペプチドは、末端-NH2アシル化、例えば、アセチル化により、または末端カルボキシルアミド化、例えば、アンモニア、メチルアミン等の末端修飾によるチオグリコール酸のアミド化により修飾されている配列によって、異なり得る。末端修飾は、周知のように、プロテイナーゼ消化による感受性を低減するのに有用であるので、プロテアーゼが存在し得る溶液、特に生体液中のポリペプチドの半減期を延ばすように役立つ。この点で、ポリペプチドの環化も有用な末端修飾であり、環化により形成される安定な構造のために、および本明細書で記載のこのような環状ペプチドで認められる生物活性の観点で特に好ましい。
【0085】
いくつかの実施形態では、リンカーは、治療用ペプチドを他のポリペプチド、タンパク質および/または検出可能な部分などの分子、標識、固体マトリクスまたはキャリアに連結する柔軟性のペプチドリンカーであり得る。柔軟性のペプチドリンカーは長さ約20個以下のアミノ酸であり得る。例えば、ペプチドリンカーは約12個以下のアミノ酸残基、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11および12個を含み得る。いくつかの事例では、ペプチドリンカーは2個以上の次記のアミノ酸:グリシン、セリン、アラニンおよびスレオニンを含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、本明細書で記載される治療用ペプチドを含む治療薬は、治療用ペプチドに連結される少なくとも輸送用のサブドメインまたは部分(すなわち、輸送部分)を含む抱合タンパク質または薬剤送達構築物の形態で提供され得る。輸送部分は、治療用ポリペプチドの哺乳動物(すなわち、ヒトまたは動物)の組織または細胞(例えば、神経細胞)への取り込みを容易にできる。輸送部分は治療用ポリペプチドに共有結合できる。共有結合にはペプチド結合および不安定結合(例えば、容易に切断可能なまたは内部の標的細胞環境で化学変化にさらされる結合)が挙げられ得る。さらに、輸送部分は治療用ポリペプチドに架橋(例えば、化学架橋、UV架橋)することができる。輸送部分は本明細書で記載される連結ポリペプチドと共に治療用ポリペプチドに連結することもできる。
【0087】
輸送部分は治療剤中で2回以上反復できる。輸送部分の反復は所望の細胞によるペプチドおよび/またはタンパク質の取り込みに影響し得る(例えば、取り込みを増やす)。輸送部分はまた、治療用ペプチドのアミノ末端またはそのカルボキシ末端の領域のいずれか、または両方の領域に位置し得る。
【0088】
一実施形態では、輸送部分は、いったん輸送部分に連結されると治療用ポリペプチドが受容体に無関係なメカニズムによって、細胞に侵入することを可能にする少なくとも1つの輸送用ペプチドを含むことができる。一例では、輸送用ペプチドは、Tat媒介タンパク質送達配列と、配列番号1~25、32、および33の少なくとも1つを含有する合成ペプチドである。これらのペプチドはそれぞれ、配列番号34~60のアミノ酸配列を有し得る。
【0089】
既知の輸送用の部分、サブドメイン等の他の例は、例えば、カナダ特許第2,301,157号(アンテナペディアのホメオドメインを含有する複合体)、ならびに米国特許第5,652,122号、同第5,670,617号、同第5,674,980号、同第5,747,641号、および同第5,804,604号(Tat HIVタンパク質タンパク質のアミノ酸含有複合体;単純性ヘルペスウイルス-1 DNA結合タンパク質VP22、4~30のヒスチジン反復長さの範囲のヒスチジンタグ、または受容体とは独立した方法によって、活性カーゴ部分の取り込みを容易にすることが可能であるその変異誘導体またはホモログ)に記載されている。前述の全ての特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0090】
アンテナペディアのホメオドメインの第3αヘリックスの16アミノ酸領域は、タンパク質(融合タンパク質として作られた)が細胞膜の通過を可能にすることが示されている(国際公開第99/11809号およびカナダ特許出願第2,301,157号)。同様に、HIVのTatタンパク質も細胞膜を通過することができることが示された。
【0091】
加えて、輸送部分は、活性薬剤部分(例えば、細胞内ドメイン含有フラグメント阻害物質ペプチド)に共有結合された塩基性アミノ酸リッチ領域を有するポリペプチドを含むことができる。本明細書で使用される場合、用語の「塩基性アミノ酸リッチ領域」は、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、リシンなどの塩基性アミノ酸の含量が高いタンパク質の領域に関する。「塩基性アミノ酸リッチ領域」は、例えば、15%以上の塩基性アミノ酸を有し得る。いくつかの事例では、「塩基性アミノ酸リッチ領域」は、15%未満の塩基性アミノ酸を有し得るが、依然として輸送剤領域として機能する。他の例では、塩基性アミノ酸領域は30%以上の塩基性アミノ酸を有する。
【0092】
輸送部分は、プロリンリッチ領域をさらに含み得る。本明細書で使用される場合、用語のプロリンリッチ領域は、その配列に5%以上(100%までの)プロリンを有するポリペプチドの領域を意味する。いくつかの事例では、プロリンリッチ領域は、5%~15%のプロリンを有し得る。さらに、プロリンリッチ領域は、天然タンパク質(例えば、ヒトゲノムによりコードされるタンパク質)で通常観察されるものより多いプロリンを含有するポリペプチドの領域を意味する。本出願のプロリンリッチ領域は輸送剤領域として機能できる。
【0093】
一実施形態では、本明細書で記載の治療用ペプチドは形質導入剤に非共有結合できる。非共有結合ポリペプチド形質導入剤の例は、Chariotタンパク質送達システム(米国特許第6,841,535号;J Biol Chem 274(35):24941-24946;およびNature Biotec.19:1173-1176を参照されたい(これらの文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる))である。
【0094】
他の実施形態では、遺伝子治療を用いて治療される細胞中で治療用ペプチドを発現させて、LARファミリーのシグナル伝達またはPTPσのシグナル伝達を阻害できる。遺伝子治療は、治療用ペプチドをコードするヌクレオチドを含むベクターを使用できる。「ベクター」(遺伝子送達または遺伝子導入「ビークル」とも呼ばれることがある)は、細胞に送達されるポリヌクレオチドを含む高分子または分子の複合体を意味する。送達されるポリヌクレオチドは遺伝子治療の対象にしているコード配列を含み得る。ベクターには、例えば、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス(Ad)、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレトロウイルス)、リポソームおよび他の脂質含有複合体、および標的細胞へのポリヌクレオチドの送達を媒介することが可能である他の高分子複合体が挙げられる。
【0095】
ベクターはまた、遺伝子送達および/または遺伝子発現をさらに調節する、または他の方法で標的細胞に有益な特性を提供する他の成分または官能基を含むことができる。このような他の成分には、例えば、細胞への結合またはターゲティングに影響を与える成分(細胞型または組織に特異的な結合を媒介する成分を含む)、細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を与える成分、取り込み後、細胞内でのポリヌクレオチドの局在化に影響を与える成分(例えば、核での局在化を媒介する薬剤)、およびポリヌクレオチドの発現に影響を与える成分(例えば、1つまたは複数の転写制御配列)が挙げられる。このような成分はまた、ベクターにより送達された核酸を取り込み、発現している細胞を選択し、検出するのに使用できる検出可能なおよび/または選択可能なマーカーなどのマーカーも含み得る。このような成分は、ベクターの固有の特徴として提供することができ(例えば、結合および取り込みを媒介する成分または官能基を有する特定のウイルスベクターの使用)、またはベクターは修飾されてこのような官能基を提供できる。
【0096】
選択可能なマーカーは、ポジティブ、ネガティブ、または二官能性であり得る。ポジティブ選択マーカーマーカーはマーカーを運ぶ細胞の選択を可能にするが、ネガティブ選択マーカーは、マーカーを運ぶ細胞が選択的に除去されるのを可能にする。二官能性(すなわち、ポジティブ/ネガティブ)のマーカーを含む種々のこのようなマーカー遺伝子が記載されている(例えば、1992年5月29日に公開されたLupton,S.の国際公開第92/08796号、および1994年12月8日に公開されたLupton,S.の国際公開第94/28143号を参照されたい)。このようなマーカー遺伝子は、遺伝子治療の状況で有利であり得る制御の追加の尺度を提供できる。多種多様なこのようなベクターが当該技術で既知であり、一般に利用可能である。
【0097】
本明細書で使用するためのベクターには、本明細書で記載される治療用ペプチドをコードするヌクレオチドを標的細胞に送達することが可能であるウイルスベクター、脂質系ベクターおよび他の非ウイルスベクターが挙げられる。ベクターは、標的化ベクター、特にニューロンに選択的に結合する標的化ベクターであり得る。本出願で使用するためのベクターには、標的細胞に対して低い毒性を示し、治療上有用な量の治療用ペプチドの細胞特異的な産生を誘導するものが挙げられる。
【0098】
ウイルスベクターの例は、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するものである。ヒトおよび非ヒトのウイルスベクター両方を使用することができ、組換えウイルスベクターはヒトでは複製欠損であり得る。ベクターがアデノウイルスである場合、ベクターは治療用ペプチドをコードする遺伝子に動作可能に連結されたプロモーターを有するポリヌクレオチドを含むことができ、ヒトでは複製欠損である。
【0099】
本明細書で使用できる他のウイルスベクターには単純性ヘルペスウイルス(HSV)系のベクターが挙げられる。1つまたは複数の前初期遺伝子(IE)を欠失させたHSVベクターは、通常、非毒性であり、潜伏に似た状態で生き残り、効率的な標的細胞への形質導入を提供するので有利である。組換えHSVベクターはおよそ30kbの異種の核酸を組み入れることができる。
【0100】
C型レトロウイルスおよびレンチウイルスなどのレトロウイルスも本出願で使用され得る。例えば、レトロウイルスベクトルは、マウス白血病ウイルス(MLV)をベースにし得る。例えば、Hu and Pathak,Pharmacol.Rev.52:493-511,2000 and Fong et al.,Crit.Rev.Ther.Drug Carrier Syst.17:1-60,2000を参照されたい。MLV系ベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに8kbまでの異種(治療用)のDNAを含有し得る。異種のDNAは組織特異的なプロモーターおよび治療用ペプチドをコードする核酸を含み得る。神経細胞への送達方法では、それは組織特異的な受容体に対するリガンドもコードし得る。
【0101】
使用され得る追加のレトロウイルスベクターはヒト免疫不全ウイルス(HIV)系ベクターを含む複製欠損のレンチウイルス系ベクターである。例えば、Vigna and Naldini,J.Gene Med.5:308-316,2000 and Miyoshi et al.,J.Virol.72:8150-8157,1998を参照されたい。レンチウイルスベクターは、活発に分裂している細胞および分裂しない細胞の両方に感染させることが可能であるという点で有利である。
【0102】
本出願で使用するためのレンチウイルスはヒトおよび非ヒト(SIVを含む)のレンチウイルスに由来し得る。レンチウイルスベクターの例には、ベクターの感染に必要とされる核酸配列ならびに治療用ペプチドをコードする核酸に動作可能に連結される組織特異的なプロモーターを含む。これら前者はウイルスLTR、プライマー結合部位、ポリプリン配列、att部位およびカプシド形成部位を含み得る。
【0103】
一部の態様では、レンチウイルスベクターを採用できる。レンチウイルスは、異なる種類のCNSニューロンに形質導入するのが可能であることが判明しており(Azzouz et al.,(2002)J Neurosci.22:10302-12)、その大きなクローニング能力のためにいくつかの実施形態で使用され得る。
【0104】
レンチウイルスベクターは任意のレンチウイルスカプシドにパッケージされ得る。1つの粒子タンパク質を異なるウイルスに由来する別の粒子タンパク質で置き換えることを「シュードタイピング」と呼ぶ。ベクターカプシドは、マウス白血病ウイルス(MLV)または水泡性口内炎ウイルス(VSV)を含む他のウイルスに由来するウイルスエンベロープを含有し得る。VSVのGタンパク質の使用は高いベクター力価を生じ、ベクターウイルス粒子の高い安定性をもたらす。
【0105】
セムリキ森林ウイルス(SFV)およびシンドビスウイルス(SIN)から作製されるものなどのアルファウイルス系ベクターも本出願で使用され得る。アルファウイルスの使用は、Lundstrom,K.,Intervirology 43:247-257,2000 and Perri et al.,Journal of Virology 74:9802-9807,2000に記載されている。
【0106】
組換え複製欠損のアルファウイルスベクターは、高レベルの異種(治療用)遺伝子の発現が可能であり、広い範囲の標的細胞に感染することができるので有利である。同族の結合相手を発現している標的細胞への選択的な結合を可能にする機能的な異種のリガンドまたは結合ドメインをそのビリオン表面に表示させることにより、アルファウイルスのレプリコンは特定の細胞型を標的化し得る。アルファウイルスのレプリコンは潜伏を成立させ得るので、標的細胞における長期の異種の核酸の発現を樹立し得る。レプリコンはまた標的細胞中で一時的な異種の核酸の発現も示し得る。
【0107】
本出願の方法に適合する多数のウイルスベクターの内で、2つ以上のプロモーターをベクターに導入して、2つ以上の異種の遺伝子がベクターにより発現させるのを可能にすることができる。さらに、ベクターは、標的細胞からの治療用ペプチドの発現を促進するシグナルペプチドまたは他の部分をコードする配列を含むことができる。
【0108】
2つのウイルスベクターの系の有利な特性を組み合わせるために、ハイブリッドウイルスベクターを使用して治療用ペプチドをコードする核酸を標的のニューロン、細胞または組織に送達し得る。ハイブリッドベクターの構築の標準的な技法は当業者に周知である。このような技法は、例えば、Sambrookら、Sambrook,et al.,In Molecular Cloning:A laboratory manual.Cold Spring Harbor,N.Y.または組換えDNA技法について考察するいくつかの実験マニュアル中に見出すことができる。AAVとアデノウイルスITRの組み合わせを含有するアデノウイルスのカプシド中の二本鎖AAVゲノムを用いて細胞に形質導入し得る。別の変異では、AAVベクターが「パワー不足の」、「ヘルパー依存性の」または「高い許容量」のアデノウイルスベクターに入れられ得る。アデノウイルス/AAVのハイブリッドベクターは、Lieber et al.,J.Virol.73:9314-9324,1999で考察されている。レトロウイルス/アデノウイルスのハイブリッドベクターは、Zheng et al.,Nature Biotechnol.18:176-186,2000で考察されている。 アデノウイルスの中に含有されるレトロウイルスのゲノムを、標的細胞のゲノムに統合し、安定な遺伝子発現を行い得る。
【0109】
治療用ペプチドの発現およびベクターのクローニングを容易にする他のヌクレオチド配列要素がさらに意図されている。例えば、プロモーターの上流のエンハンサーまたはコーディング領域の下流のターミネーターの存在は、例えば、発現を容易にできる。
【0110】
別の実施形態では、本明細書で記載される治療用ペプチドをコードするヌクレオチドに組織特異的プロモーターを融合できる。アデノウイルス構築物内でこのような組織特異的なプロモーターを融合することにより、導入遺伝子の発現は特定の組織に限定される。本出願の組換えアデノウイルスの系を用いて、組織特異的なプロモーターにより提供される遺伝子発現の有効性および特異性の程度を決定できる。例えば、血小板由来増殖因子β鎖(PDGF-β)のプロモーターなどのニューロン特異的なプロモーターおよびベクターは当該技術で既知である。
【0111】
ウイルスベクター系の方法に加えて、非ウイルス系の方法を用いて治療用ペプチドをコードする核酸を標的細胞に同様に導入し得る。遺伝子送達の非ウイルス性の方法の概説は、Nishikawa and Huang,Human Gene Ther.12:861-870,2001で提供されている。本出願による非ウイルス性の遺伝子送達法の例は、プラスミドDNAを採用して治療用ペプチドをコードする核酸を標的細胞に導入する。プラスミド系遺伝子送達法は当該技術で一般に知られている。
【0112】
合成の遺伝子導入分子を設計してプラスミドDNAとの多分子凝集体を形成できる。これらの凝集体を標的細胞に結合するように設計できる。リポポリアミンおよびカチオン性脂質を含むカチオン性両親媒性物質を用いて受容体とは独立した標的細胞への核酸導入を提供できる。
【0113】
加えて、事前に形成されたカチオン性リポソームまたはカチオン性脂質を、プラスミドDNAと混合して細胞-遺伝子導入複合体を生成し得る。カチオン性脂質配合物を含む方法は、Felgner et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.772:126-139,1995およびLasic and Templeton,Adv.Drug Delivery Rev.20:221-266,1996で概説されている。 遺伝子送達のために、DNAはまた、両親媒性のカチオン性ペプチドにも結合され得る(Fominaya et al.,J.Gene Med.2:455-464,2000)。
【0114】
ウイルス系および非ウイルス系成分の両方を含む方法を本出願に従って使用し得る。たとえば、治療用の遺伝子送達のためのエプスタイン・バーウイルス(EBV)系プラスミドについては、Cui et al.,Gene Therapy 8:1508-1513,2001に記載されている。さらに、アデノウイルスに結合させたDNA/リガンド/ポリカチオン性の付加物を含む方法は、Curiel,D.T.,Nat.Immun.13:141-164,1994に記載されている。
【0115】
さらに、電気穿孔法を用いて標的細胞に遺伝子導入することにより、治療用ペプチドをコードする核酸を標的細胞に導入できる。電気穿孔法は周知であり、プラスミドDNA用いた細胞の遺伝子導入を容易にするために使用できる。
【0116】
必要に応じて、例えば、生理食塩水などの薬学的に許容可能なキャリアを含有する注射可能な製剤の形態で、治療用ペプチドの発現をコードするベクターをインビボで標的細胞に送達できる。本出願に従って、他の医薬キャリア、製剤および調剤を使用することもできる。
【0117】
標的細胞が、処理されるOL/OPCを含む場合、ベクターは、高効果的療法を可能にする程度に治療用ペプチドが発現されるのに十分な量で、OL/OPCに直接またはOL/OPCの周辺部近くに注入することにより送達できる。OL/OPCに直接にまたはその周辺部近傍にベクターを注入することによって、ベクターの遺伝子導入を予想以上に効果的に標的とすることができ、組換えベクターの損失を最小限にすることができる。この種の注入は、特に損傷の部位での所望の数の細胞の局所的遺伝子導入を可能にし、それにより、遺伝子導入の治療効力を最大化し、ウイルスタンパク質に対する炎症反応の可能性を最少化する。標的細胞にベクターを投与する他の方法を用いることができ、それは採用される特定のベクターに左右されるであろう。
【0118】
一時的な発現および安定した長期的な発現を含めて、標的細胞の中で所望の長さの時間、治療用ペプチドを発現させることができる。本出願の一態様では、治療用ペプチドをコードする核酸は、遺伝子導入された細胞の活性および増殖を誘導するのに効果的な一定の時間長さにわたり、治療量で発現される。本出願の別の態様では、治療用ペプチドをコードする核酸は、OL/OPCの生存率を上げるのに効果的な一定の時間長さにわたり治療量で発現されて、OPC移動、分化、増殖および/または成熟を高め、および/またはミエリン形成または再ミエリン化を高める。
【0119】
本明細書で記載される治療薬は修飾され得る(例えば、化学的に修飾される)。このような修飾は、分子の取り扱いまたは精製を容易にする、分子の溶解度を高める、投与を容易にする、所望の位置を標的とする、半減期を増減させるように設計し得る。多くのこのような修飾が当該技術で既知であり、技量のある開業医により適用できる。
【0120】
本明細書で開示される治療方法では、治療有効量の治療薬が対象に投与され、ミエリン関連または脱髄関連疾患または障害(例えば、MS)が治療される。一実施形態では、治療薬を含む製剤を、例えば、ミエリン関連または脱髄関連疾患または障害(例えば、MS)の検出または発症の時間から、ミエリン関連または脱髄関連疾患または障害(例えば、MS)の検出または発症の数日、数週、数カ月、および/または数年後までの期間、対象に投与できる。
【0121】
治療薬は、例えば、局所および/または全身投与を含む任意の好適な経路により対象に送達できる。全身投与には、例えば、筋肉内、静脈内、関節内、動脈内、くも膜下腔内、皮下または腹腔内の投与などの、非経口的投与を含むことができる。薬剤はまた、経口で、経皮で、局所に、吸入によって、(例えば、気管支内、鼻腔内、経口吸入、または点鼻剤)、または直腸内に投与することもできる。いくつかの実施形態では、治療薬は、注入ポンプを用いて、毎日、毎週、または複数服用量の治療薬を送達する静脈内投与により対象に投与できる。
【0122】
局所投与の望ましい特徴には、治療薬の有効な局所濃度を達成すること、ならびに治療薬の全身性投与に由来する有害な副作用を回避することが挙げられる。一実施形態では、対象の脳中に治療薬を直接導入できる。
【0123】
薬学的に許容可能な治療薬の製剤を水性ビークルに懸濁し、従来の皮下注射針を介してまたは注入ポンプを用いて導入できる。
【0124】
注射用として、治療薬は、液体溶液、通常、例えば、ハンクス液またはリンゲル液などの生理的に適合性の緩衝液中で処方できる。加えて、治療薬は固形形態で処方され、使用の直前に再溶解または懸濁され得る。凍結乾燥された形態も含まれる。注入は、例えば、治療薬のボーラス注入の形態または連続点滴(例えば、注入ポンプを用いて)の形態であり得る。
【0125】
動物またはヒトのいずれかに対する治療薬の量、体積、濃度、および/または投与量は、対象の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の組成物、性別、投与の時間および経路、総体的な健康、および同時に投与される他の薬物を含む多くの因子に依存することは理解されよう。上述の治療薬の量、体積、濃度、および/または投与量の具体的変化量は、以下に記載される実験方法を用いて当業者が容易に決定できる。
【0126】
いくつかの実施形態では、本明細書で記載の治療用ペプチドなどの治療薬は、それを必要としている対象に、約0.1μmol、約1μmol、約5μmol、約10μmol、もしくはそれ超;または約0.0001mg/kg、約0.001mg/kg、約0.01mg/kg、約0.1mg/kg、または約1mg/kg~約5mg/kgまたは10mg/kgの治療される対象の体重、の用量または量で、局所的におよび/または全身性に投与できる。治療薬は、毎日1回、週1回、2週に1回、月1回、またはそれ未満の頻度で、CSPG領域の最大再ミエリン化があるまで、投与できる。
【0127】
別の実施形態では、治療薬は、損傷が生じたときの、通常、約24時間以内、約48時間以内、約100時間以内、または約200時間もしくはそれ超の時間以内(例えば、損傷の時間から約6、約12、または24時間以内(包括的))に、対象に静脈内注射により全身性にまたは損傷部位に局所的に投与できる。
【0128】
他の実施形態では、治療薬の投与に使用される薬学的に許容可能な製剤はまた、活性化合物の対象への持続送達を提供するように処方することもできる。例えば、対象への最初の投与に続いて、少なくとも1、2、3または4週間(包括的)にわたり製剤は活性化合物を送達し得る。例えば、本明細書で記載の方法により治療される対象は、少なくとも30日間治療薬で治療できる(反復投与または持続送達系の使用、または両方の使用により)。
【0129】
持続送達への手法には、高分子カプセル、製剤を送達するためのミニポンプ、生分解性インプラントまたは移植遺伝子導入自己細胞の使用が挙げられる(米国特許第6,214,622号を参照されたい)。埋め込み可能な注入ポンプシステム(例えば、INFUSAIDポンプ(Towanda,PA);Zierski et al.,1988;Kanoff,1994を参照されたい)および浸透圧ポンプ(Alza Corporationにより販売)が市販されており、また、他の方法は、当該技術で既知である。別の投与方法は、埋め込み可能で外部からプログラム可能な注入ポンプを経由するものである。注入ポンプシステムおよびリザーバシステムはまた、例えば、米国特許第5,368,562号および同第4,731,058号にも記載されている。
【0130】
治療用ペプチドをコードするベクターは、多くの場合、他の型の治療薬に比べてあまり頻繁に投与されない。例えば、このようなベクターの有効量は、約0.01mg/kg~約5または10mg/kg(包括的)の範囲であり、毎日、毎週、二週に1回、毎月またはさらに少ない頻度で投与される。
【0131】
治療用ペプチドを送達するまたは発現させる能力は、多数の異なる細胞型での細胞の活性調節を可能にする。治療用ペプチドは、例えば、特異的プロモーターを介してOL/OPC中で発現させることができる。
【0132】
医薬組成物は、OPC移動、分化、増殖および/または成熟の有益な効果を経験できる任意の対象に投与できる。この動物中で最も重要なのはヒトであるが、本発明はそのように限定されることを意図していない。
【0133】
いくつかの実施形態では、治療薬は、対象におけるOPC移動、分化、増殖および/または成熟により対象を治療する方法で使用できる。方法は、治療有効量の本明細書で記載の治療薬を、それを必要としている対象に投与することを含み得る。治療有効量は、例えば、神経変性疾患(例えば、多発性硬化症)の対象を治療するのに効果的である量(投与量)を含み得る。
【0134】
いくつかの実施形態では、本明細書で記載の治療薬を、未治療OL/OPCまたは対象中に生き残っているOL/OPCの数に比べて、少なくとも、5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、950%、または1000%の生き残っているOL/OPCの数の増加により、対象のOL/OPCの生存を促進するのに効果的な量で投与し得る。
【0135】
いくつかの実施形態では、本明細書で記載の治療薬を、未治療OPCまたは対象中のOL生成の量に比べて、少なくとも、5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、950%、または1000%のOL生成量の増加により、対象の中枢神経系中のOLの生成を高めるのに効果的な量で投与し得る。
【0136】
いくつかの実施形態では、本明細書で記載の治療薬を、未治療OPCまたは対象中のOPC分化の量に比べて、少なくとも、5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、950%、または1000%のOL分化の増加により、対象の中枢神経系中のOLの分化を誘導するのに効果的な量で投与し得る。
【0137】
いくつかの実施形態では、治療薬を対象に投与して、神経変性疾患および障害を治療することができる。本明細書で記載の方法による治療で意図されている神経変性疾患には、ミエリン関連障害を含むことができる。ミエリン関連障害には、対象の脱髄、不十分なミエリン形成および再ミエリン化、または髄鞘形成異常に関連する任意の疾患、状態、または障害を含むことができる。ミエリン関連障害は、種々の神経毒性侵襲から生じたミエリン形成関連障害または脱髄に起因する。本明細書で使用される場合、「脱髄」は、脱髄性の作用、または神経を絶縁しているミエリン鞘の減少を意味し、多発性硬化症、横断性脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、白質ジストロフィー、およびギラン・バレー症候群を含むいくつかの神経変性自己免疫疾患の顕著な特徴である。白質ジストロフィーは、遺伝性酵素欠損に起因し、これは、異常な形成、破壊、および/またはCNS白質内の異常なミエリン鞘の代謝回転を引き起こす。後天性および遺伝性両方のミエリン障害は、重度の障害に繋がる予後不良を共有する。従って、いくつかの実施形態は、対象の神経変性自己免疫疾患を治療する方法を含むことができる。
【0138】
本明細書記載の方法により治療または回復させ得るミエリン関連疾患または障害には、対象のCNSまたは末梢神経系の髄鞘形成異常または脱髄に関連する疾患、障害または損傷を含むことができる。このような疾患には、限定されないが、ニューロンの周りのミエリンが存在しない、不完全な、正しく形成されていない、または劣化している疾患および障害が含まれる。このような疾患には、限定されないが、多発性硬化症(MS)、デビック病および炎症性の脱髄性疾患などの髄鞘破壊性障害;白質脳症、白質ジストロフィー、例えば、副腎脊髄ニューロパチー、脳腱黄色腫症、クラッベ病、アレキサンダー病、およびペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)などの白質萎縮性障害;ならびにギラン・バレー症候群およびシャルコー・マリー・トゥース病などの末梢神経系の脱髄性疾患が挙げられる。
【0139】
いくつかの実施形態では、本明細書記載の方法により治療または回復させ得るミエリン関連疾患または障害には、白質ジストロフィーが含まれる。白質ジストロフィーは、脳、脊髄および頻繁に末梢神経に影響を与える一群の進行性で代謝性の遺伝性疾患である。各タイプの白質ジストロフィーは、脳のミエリン鞘の異常な発生または破壊に繋がる特定の遺伝子異常に起因する。各タイプの白質ジストロフィーは、ミエリン鞘の種々の部分に影響を与え、一連の神経学的障害をもたらす。本明細書記載の方法により治療または回復され得る白質ジストロフィーの例には、成人発症常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、アイカルディ・グティエール症候群、アレキサンダー病、CADASIL、カナバン病、CARASIL、脳腱黄色腫症、小児期運動失調および大脳白質形成不全症(CACH)/白質消失病(VWMD)、ファブリー病、フコシドーシス、GM1ガングリオシドーシス、クラッベ病、L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症、概要皮質下嚢胞をもつ大頭型白質ジストロフィー、異染性白質ジストロフィー、多種スルファターゼ欠損症、ペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)、Pol III関連白質ジストロフィー、レフサム病、サラ病(遊離シアル酸蓄積症)、シェーグレン・ラルソン症候群、X連鎖副腎白質ジストロフィー、およびツェルウェーガー症候群スペクトル障害が挙げられる。
【0140】
本明細書記載の方法により治療または回復させ得るミエリン関連疾患または障害には、ミエリン欠損を特徴とする疾患または障害を上げることができる。中枢神経系における不十分なミエリン形成は、多様な神経障害に結びつけられてきた。これらには、脳室周囲白質軟化症の小児の前脳ミエリン形成の先天性の障害が神経学的病的状態の一因となっている種々の種類の脳性麻痺がある(Goldmanら、2008)。Goldman,S.A.,Schanz,S.,and Windrem,M.S.(2008).Stem cell-based strategies for treating pediatric disorders of myelin.Hum Mol Genet.17,R76-83。年代スペクトルの他端では、ミエリン減少および効果的でない修復が老化関連認知機能の低下の一因となり得る(Kohama et al.,2011)。Kohama,S.G.,Rosene,D.L.,and Sherman,L.S.(2011)Age(Dordr).Age-related changes in human and non-human primate white matter:from myelination disturbances to cognitive decline. 従って、ミエリン形成および/または再ミエリン化を強化する効果的薬剤および方法は、疾患進行の停止、およびMSおよび多様な神経障害における機能の復元に、実質的治療効果を有すると考えられる
【0141】
1つの特定の態様は、対象の多発性硬化症の治療を意図している。方法は、治療有効量の本明細書で記載の治療薬を対象に投与することを含む。多発性硬化症(MS)は、最もよくある脱髄性疾患である。多発性硬化症では、身体でミエリン修復ができないことが、神経損傷に繋がり、多発性硬化症関連症状を引き起こし、身体障害を増大させると考えられる。MSで観察される脱髄は、必ずしも永久的とは限らず、疾患の初期段階では再ミエリン化が実証されている。本明細書で記載の方法は、対象中でOPC分化を促進でき、それにより、内在性再ミエリン化に繋がると考えられる。
【0142】
別の特定の態様は、対象の遺伝的ミエリンの減少(脱髄)による遺伝的ミエリン障害の治療を意図している。方法は、治療有効量の本明細書で記載の治療薬を対象に投与することを含む。特定の実施形態では、遺伝的ミエリン障害は、限定されないが、ペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)などの白質ジストロフィーである。
【0143】
神経変性疾患または障害を罹患している対象を治療する別の戦略は、治療有効量の本明細書で記載の治療薬を、治療有効量の追加のオリゴデンドロサイト分化および/または増殖誘発剤および/または抗神経変性疾患剤と共に投与することである。抗神経変性疾患剤の例には、L-ドーパ、コリンエステラーゼ阻害剤、抗コリン作用薬、ドーパミンアゴニスト、ステロイド、およびインターフェロン、モノクローナル抗体、および酢酸グラチラマーを含む免疫調節物質が挙げられる。
【0144】
従って、いくつかの実施形態では、本明細書で記載の治療薬は、神経変性およびミエリン関連障害を治療するための補助的療法剤を用いた併用療法の一部として投与できる。
【0145】
「併用療法」という語句は、PTPσの活性、シグナル伝達、および/または機能の1つまたは複数を阻害または低減する治療薬、および追加の治療薬を、これらの治療薬の共作用から有益な効果を得ることを意図した、特定の治療計画の一部として投与することを含む。組み合わせとして投与する場合、PTPσの活性、シグナル伝達、および/または機能を阻害または低減する治療薬、および追加の治療薬は、別々の組成物として処方できる。組み合わせたこれらの治療薬の投与は、通常、一定の期間(通常は、選択した組み合わせに応じて、数分、数時間、数日、数週)にわたって実施される。
【0146】
「併用療法」はこれらの治療薬の連続方式での投与を含むこと、すなわち、各治療薬は異なる時間に投与され、ならびにこれらの治療薬、または治療薬の少なくとも2つは、実質的に同時に投与することが意図されている。実質的同時投与は、例えば、一定比率の各治療薬を含む単一カプセル、または治療薬の各々に対する複数の単一カプセルとして対象に投与することにより達成することができる。各治療薬の逐次または実質的同時投与は、任意の適切な経路、例えば、限定はされないが、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、および粘膜組織を介する直接吸収により行うことができる。複数治療薬を同じ経路または異なる経路により投与することができる。例えば、選択された組み合わせの第1の治療薬は、静脈内注射により投与され、一方、組み合わせの他の治療薬は経口投与され得る。あるいは、例えば、全ての治療薬が経口投与され得るか、または全ての治療薬が静脈内注射により投与され得る。治療薬が投与される順序は、厳密に重要であるというわけではない。「併用療法」はまた、他の生物学的有効成分(例えば、限定されないが、第2の異なる治療薬)および非薬物療法(例えば、手術)をさらに組み合わせて上記の治療薬を投与することも含み得る。
【0147】
別の実施形態では、PTPσの活性、シグナル伝達、および/または機能の1つまたは複数を阻害または低減する治療薬との併用療法で投与される追加の治療薬は、限定されないが、免疫療法薬などの少なくとも1種の抗神経変性剤を含み得る。
【0148】
本方法で使用するための免疫療法薬には、寛解-再発性多発性硬化症の急性攻撃中に明らかになった疾患および/または急性炎症反応の免疫成分を標的とする治療薬を含み得る。例としては、限定されないが、インターフェロンベータ-1aおよびベータ-1b(それぞれ、AvonexおよびBetaseron)、ナタリズマブ(Copaxone)、ナタリズマブ(Tysabri)、酢酸グラチラマー(Copaxone)またはミトキサントロンなどの免疫調節物質が挙げられる。他の実施形態では、治療薬は、ミエリン依存性プロセスを強化するまたは促進するために、ミエリン関連障害ではない、および/またはミエリン関連障害と疑われていない対象に投与できる。いくつかの実施形態では、ミエリン依存性プロセスであることが知られている認知を高めるために、認知的に健康な対象に、本明細書で記載の治療薬を対象に投与してCNSニューロンのミエリン形成を促進できる。特定の実施形態では、本明細書で記載の治療薬は、認識促進(向知性)薬と組み合わせて投与できる。薬剤の例には、任意の薬物、栄養補助剤、または健常者において、認知機能、特に実行機能、記憶装置、創造性、または動機づけを改善するその他の物質が挙げられる。非限定的例には、ラセタム(例えば、ピラセタム、オキシラセタム、およびアニラセタム)、栄養補助食品(例えば、オトメアゼナ、オタネニンジン、イチョウ、およびGABA)、刺激薬(例えば、アンフェタミン医薬品、メチルフェニデート、ユーゲロックス、キサンチン、およびニコチン)、L-テアニン、トルカポン、レボドパ、アトモキセチン、およびデシプラミンが挙げられる。
【0149】
以下は、本開示の特定の例示的実施形態の考察である。この考察では、我々は、細胞内シグマペプチド(ISP)治療が種々の脱髄性モデルにおいて機能回復を促進することを示す。ISP治療は、CSPG障壁を乗り越えて、再ミエリン化および機能回復を促進し、多発性硬化症(MS)の病理生物学におけるレセプタータンパク質チロシンホスファターゼ(RPTP)の重要な役割を示す。我々はまた、PTPσのISP調節がOPCそれ自体中でプロテアーゼ活性を劇的に高める新規機序を示す。次に、高められた酵素放出がCSPGを選択的に分解し、これが、以前に瘢痕形成された領域内への移動およびその中での分化を強化するのにさらに役立つ。
【0150】
実施例
材料および方法
動物
すべての動物飼育および動物処置方法は、Case Western Reserve University School of Medicineの実験動物委員会によって承認された。野性型C57BL/6マウスをJackson Laboratory(ストック番号000664)から購入し、Case Western Reserve UniversityのAnimal Research Centerで収容し、マウスを12時間明/暗サイクルで維持した。雄および雌の両方のマウスをこの試験に含めた。
【0151】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデル
EAEの誘導のために、製造業者の説明書に従い、10週齡のC57Bl6/J雌マウスをフロイント完全アジュバントエマルジョン(Hooke Laboratories,MOG35-55 EAE Induction kit,EK-2110)と一緒にMOG35-55で免役した。EAE誘導キットを用いて、疾患誘導に98%成功した。全てのEAE動物を毎日監視し、0~5(0:異常なし;1:尾挙上不全;2:尾挙上不全および後肢脱力;3:尾挙上不全および後肢の完全運動麻痺;4:後肢および部分前肢運動麻痺;5:瀕死)の臨床スケールを用いてスコア化した。EAEマウスが1~3にスコア化されると、マウスを無作為に治療群およびビークル群に配分した。治療群では、5~7匹のマウスに、ISP(20μg/日)、またはビークル群に対し生理食塩水中の5%DMSO(100μl)の腹腔内注射を毎日投与した。実験は盲検とし、動物を毎日スコア化した。ISP発症:ISP治療を、臨床スケールによりスコア化して病気の発症時に投与した。ISPピーク:ISP治療を、臨床スケールでスコア化して病気のピーク時に投与した。
【0152】
マウスにおけるリゾレシチン(LPC)誘導限局性脱髄
12週齡のC57BL/6雄マウスを、イソフルランを用いて麻酔し、椎弓切除術を実施した。1.5μlの1%LPCをT11とT12脊髄の間の脊髄後柱中に、1.25μl/分の速度で輸注した。逆流を最小限にするために5分の遅延後に針を除去し、病変を閉じた。術後24時間に開始して、ISP(20μg/日)またはビークル(生理食塩水中の5%DMSO、100μl)を、損傷部位近傍に皮下注射することにより毎日マウスを治療した。椎弓切除術後、7日目、14日目、および21日目に、マウスを別々に安楽死させた。さらなるウェスタンブロット、組織学および微細構造解析のために、脊髄を切開した。対照動物に、等価量のサリンの注射を投与し、組織をおなじパラダイムに従って収集した。MMP-2阻害剤OA-Hy(10μg/1.5μl、444244、Calbiochem)、マウスMMP-2標的化shRNAを発現するレンチウイルス粒子(1μl、LPP-MSH027657-LVRU6GP、GeneCopoeia)または0.9%生理食塩水の第2の注射のために、動物をLPC病変1日目に(レンチウイルス粒子用)または4日目に(OA-Hy用)麻酔し、OA-Hyまたはレンチウイルス粒子を、上記パラダイムを用いて同じ領域に送達した。動物を覚醒させ、病変後14日目(14dpl)または18dplで屠殺した。病変サイズを、エリオクロムシアニン染色を用いて連続切片の染色により測定した。
【0153】
マウス小脳切片培養物中のLPC誘導脱髄
我々は、以前に記載の小脳切片培養法を実施した(Zhang,H.,et al.Central nervous system remyelination in culture-A tool for multiple sclerosis research.Experimental Neurology 230,138-148(2011))。手短に説明すると、Leica振動ミクロトーム(Leica,VT1000S)を用いて、300μm厚さの小脳切片をP10~12マウス小脳から切り出し、50%の基本培地イーグル培地、25%の加熱不活性化ウマ血清、25%ハンクス溶液、2.5%グルコース、1%グルタミンおよびペニシリン-ストレプトマイシンを含む培地中で培養した。インビトロで4日(4DIV)後、0.5gm/mlのLPCを17~18時間加えて、脱髄を誘導した。その後、切片を2.5μMのISPと共に8日間インキュベートした。GM6001の実験に対しては、25μMのGM6001(Tocris)および/または2.5μMのISPまたはSISPを9日間インキュベートした。MBPの半定量的ウェスタンブロットおよびMBPおよびNeuF200の免疫蛍光染色により再ミエリン化を調査した。
【0154】
培養切片の免疫染色法
切片を4%PFAで固定し、脱脂し、PBS中で3回洗浄し、0.1%トリトンX-100および5%正常ヤギ血清含有PBS中でブロッキングし、抗MBP(SMI-99P、Covance、1:300)および抗NeuF200(N4142、Sigma、1:250)抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。その後、切片をPBS中で洗浄し、Alexa Fluor標識二次抗体(1:500、Invitrogen)中で2時間インキュベートした。切片をDAPI(Vector Laboratories)含有Vectashield封入剤で取付け、Leica DFC500蛍光顕微鏡で分析した。
【0155】
精製マウスオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)培養物
以前に記載のように(Luo,F.,et al.The Activators of Cyclin-Dependent Kinase 5 p35 and p39 Are Essential for Oligodendrocyte Maturation,Process Formation,and Myelination.J.Neurosci.36,3024-3037(2016))、新生児C57BL/6マウスからOPCを調製した。培養皿を50mMのトリス塩酸中のIgM(10μg/ml、Millipore)でプリコートし、一次マウス抗体A2B5を追跡した。解離細胞をプリコート培養皿中、37℃で30分間インキュベートした後、付着細胞をゆっくり取り外した。DMEM中の0.05%トリプシンにより、約96%の純度でA2B5+OPCを放出させた。精製OPC細胞を、N2、20ng/mlの(「PDGF」)、20ng/mlのFGF、5ng/mlのNT-3、10ng/mlのCNTF、グルタミン(200mM)を補充したDMEM/F12培地中で増殖させた。
【0156】
培養上清(CM)プロテアーゼ活性アッセイ
ウェル当たり約1x106OPCを、PLL、1μg/mLのラミニン、および2μg/mLのアグリカンコート6ウェルプレート上に播種し、ビークル、2.5μMのISPまたはSISPを用いて、37℃で2日間処理した。CMを収集し、細胞染色し、アッセイまで氷上に置いた。ThermoFisherプロテアーゼアッセイキット(E66383、EnzChek、ThermoFisher)を用いてプロテアーゼ活性をアッセイした。1xのEnzChek混合物を各群由来のCMと1:1で混合し、緩やかに浸透しながら室温で一晩インキュベートした。各サンプルに対し、3回の反復実験を行った。試料を、分光光度計を用いて、502/528nmの励起および放射で分析し、切断およびフルオレセインカゼインを評価した。報告された蛍光単位は、EnzChekおよび細胞培養培地混合物でブランクを取ってある。
【0157】
CSPG勾配交差アッセイおよび勾配定量化
CSPG勾配を以前に記載のように調製した(Tom,V.J.,et al.Studies on the Development and Behavior of the Dystrophic Growth Cone,the Hallmark of Regeneration Failure,in an In vitro Model of the Glial Scar and after Spinal Cord Injury)。24ウェルカバーガラスをポリ-L-リシンおよびニトロセルロースでコートし、700μg/mLのアグリカン(A1960 Sigma)および10μg/mLのラミニン(11243217001 Sigma)の混合物をコーティングしたカバーガラス上にスポットした。乾燥後、コーティングしたカバーガラスを37℃で3時間インキュベートした。精製OPCを10,000/カバーガラスの濃度で播種し、N2、PDGF(20ng/ml、FGF(20ng/ml)、NT-3(5ng/ml)、CNTF(10ng/ml)、グルタミン(200mM)含有DMEM/F12培地中で培養した。カバーガラスをCS-56(C8035、Sigma、1:500)およびO4抗体(Hybridoma Core Cleveland Clinic、1:10)で染色した。アグリカン境界と交差するO4-陽性細胞をスポット毎に計数した。CSPG勾配定量化に対しては、ウェル当たり約1x106OPCを、PLL、1μg/mLのラミニン、および2μg/mLのアグリカンコート6ウェルプレート上に播種した。OPCを、ビークル、2.5μMのISP、または2.5μMのSISPを用いて、37℃で2日間処理した。CMを採取し、新たに作製したスポットと共にインキュベートした。スポットをCMと共に37℃で2日間インキュベートした後、CS-56およびラミニン(L9393、Sigma、1:1000)で染色した。ImageJソフトウェア(NIH)を用いて、CS-56またはラミニンスポット外周部のピクセル強度を同じROIを使って定量化した。培養した脊髄外植片については、P1マウスの子の頸部および胸部の脊髄を1~2mmの組織片に切断し、カバーガラスに移した。15%FBS(Hyclone)、10ng/mlのPDGF(Sigma)およびN2補充剤(Invitrogen)を有するDMEM/F12培地中で外植片を培養した。ISP処理に関しては、2.5μMのISPを播種時に培地に加えた。25μMのGM6001(2983、Tocris)、100nMのMMP-2阻害剤(444244、Calbiochem)、および/または2.5μMのISPまたはSISPを使用した。
【0158】
ペプチド配列
ペプチドをGenScriptまたはCS-Bioから、1mgの凍結乾燥量で購入し、これを、dH2O中で2.5mMに希釈し、以前記載したように、使用する準備ができている場合には、-20℃で分注した(Lang,B.T.et al.Modulation of the proteoglycan receptor PTPsigma promotes recovery after spinal cord injury.Nature 518,404-408(2015))。
細胞内Sigmaペプチド(ISP):GRKKRRQRRRCDMAEHMERLKANDSLKLSQEYESI(配列番号61)
スクランブルISP(SISP):GRKKRRQRRRCIREDDSLMLYALAQEKKESNMHES(配列番号62)
【0159】
アグリカンおよびラミニンのウェスタンブロット分析
PLL、1μg/mLのラミニン、および2μg/mLのアグリカンコート6ウェルプレート上でインキュベートした1x106OPCからCMを採取した。OPCを、10μg/mLのExo1(ab120292、Abcam)、または25μMのGM6001(364205、Calbiochem)と共に、ビークル、2.5μMのISP、または2.5μMのSISPを用いて、37℃で2日間処理した各細胞染色群の100μLのCMを、20μg/mLのアグリカンおよび/または10μg/mLのラミニンと共に、1mLのエッペンドルフチューブ中、37℃で2時間インキュベートした。陽性対照として、OPC培地を、アグリカンと共に、同様にしてインキュベートした。その後、CS-56および/またはラミニン抗体に対するインキュベーションで後述のように、ウェスタンブロットを実施した。
【0160】
OPC溶解物またはCMのウェスタンブロット分析
MMP-2または10をOPC CMまたは溶解物中で評価するために、OPCを、上述のようにプレコートしたPLL、アグリカン、およびラミニン上でインキュベートした。OPCを、ビークル、2.5μMのISPまたはSISPを用いて、37℃で2日間処理した。その後、CMが採取され、Milipore Ultracel YM-C遠心濾過機ユニット(Eppendorf Centrifuge 5415D)を最大速度で、4℃で30分間用いて、濃縮した。50μgの濃縮CMを各レーンにロードした。下記のウェスタンブロット技術を用いて、各群からロードした20μgのタンパク質を使用して、OPC溶解物を評価した。
【0161】
ウェスタンブロット分析
組織試料または小脳切片または精製OPC細胞をRIPAリシスバッファーでホモジナイズし、タンパク質濃度を、PierceBCAタンパク質アッセイキットを用いて製造業者の説明書に従い測定した。その後、等量のタンパク質を15%PAGE-SDSゲルにロードし、PVDF膜(Millipore)に電気泳動的に転写した。膜を5%の脱脂ミルクを含む0.1%のTPBS中、室温で1時間ブロッキングし、示した一次抗体を使って4℃で一晩検出し、続けて、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識二次抗体で検出した。以下の一次抗体を使用した:MBP(SMI-99P、Covance、1:1000)、CS-56(C8035、Sigma、1:1000)、ラミニン(L9393、Sigma、1:1000)、GAPDH(AF5718、R and D Systems、1:1000)、MMP-2(AF1488、R and D Systems、1:1000)、MMP-10(MAB910、R and D Systems、1:1000)、およびβ-アクチン(sc-47778、Santa Cruz、1:1000)。West Pico Kit(Thermo Fisher)を用いて増強化学発光を実施し、FluorChem E system(ProteinSimple,USA)により検出した。バンドの密度を、ImageJソフトウェア(NIH)を使って定量化した。
【0162】
酵素電気泳動ゼラチンザイモグラフィー
PLL、1μg/mLのラミニン、および2μg/mLのアグリカンコート6ウェルプレート上でインキュベートした1x106OPCからCMを収集した。OPCを、ビークル、2.5μMのISPまたはSISPを用いて、37℃で2日間処理した。CMをMilipore Ultracel YM-3遠心濾過機ユニットを使用して以前記載したように濃縮した。濃縮CM由来の40μgの非変性タンパク質または25ngの組換えMMP-2(PF023、Milipore)およびMMP-9(PF140、Milipore)を1xレムリ緩衝液(1610747、Bio-Rad)と共に10%ゼラチンザイモグラム(1611167、Bio-Rad)上にロードし、100mV、氷上で1.5時間実施した。その後、ザイモグラムを1x再生緩衝液(1610765、Bio-Rad)と共に30分間室温で緩やかに振盪した後1x展開緩衝液(1610766、Bio-Rad)と共に37℃で一晩インキュベートした。次に、展開したザイモグラムをdH2Oで緩やかに洗浄し、0.1%クーマシーブルー色素(27816、Sigma)と共に一晩インキュベートした。脱染緩衝液(40%MeOH、10%酢酸)で洗浄後、ザイモグラムを画像化し、ウェスタンブロットセクションで記載の方法でゼラチン分解の量を、ImageJを使って評価した。
【0163】
プロテアーゼアレイスクリーニング
OPCを6ウェルプレート上でビークル対照または2.5μMのISPと共に、4divにわたり培養した。培養上清を各群から集め、細胞染色した後、R&D SystemsProtease Array Kit(ARY025)で提供されたブロットアレイと共にインキュベートした。キットの説明書に従い、収集した培地を4℃で一晩インキュベーションした。対照およびISPブロットを同じ暴露時間で一緒に展開し、アレイのピクセル強度を、ImageJ(NIH)を用いて評価した。
【0164】
ルクソール・ファスト・ブルー(LFB)ミエリン染色および定量化
LFB染色を、製造業者の説明書(#26681、Electron Microscopy Sciences)に従って実施した。脊髄切片については、20μmの冠状切片をLFB溶液中、56℃で一晩インキュベートした後、95%アルコールおよび蒸留水で順次濯いだ。次に、切片を0.1%炭酸リチウム溶液中に入れ、一連の段階的に変えたエタノールで脱水し、Histoclearで清浄化し、取り付けた。一連の順次整合切片を画像化し、分析した。画像(5~6切片/動物)を光学顕微鏡下で取得した。脱髄領域(LFB染色の欠如)を、ImageJソフトウェアを用いて定量化した。EAE切片については、脱髄領域を測定し、脊髄の全領域のパーセンテージとして表した。LPCモデルの切片については、病変体積を全体病変にわたる連続切片から病変面積により、シリンダ-の体積の式(V=病変面積x病変の長さ)に基づいて計算した。
【0165】
免疫細胞化学
MMP-2/O4染色については、PLL、1μg/mLのラミニン、および2μg/mLのアグリカンでプレコートした24ウェルカバーガラス上にOPCを播種し、ビークルまたは2.5μMのISPと共に37℃で2日間インキュベートした。培養したOPCまたはOL細胞を4%PFAで固定し、続けて、PBST溶液(10%の正常ヤギ血清およびPBS中の0.2%トリトンX100)中でブロッキングした。希釈した一次抗体を試料と4℃で一晩インキュベートし、続けて、Alexa Fluor488または594で標識した(1:500、Invitrogen)適切な二次抗体ヤギ抗マウスまたは抗ウサギIgMまたはIgGとインキュベートした。以下の一次抗体を使用した:PDGFRα(XX)、O4(Hybridoma Core、Cleveland Clinic)、MBP(SMI-99P、Covance、1:300)、MMP-2(R and D Systems、1:500)、およびCS-56(C8035、Sigma、1:250)。細胞をDAPI(Vector Laboratories)を含むVecta Shield封入剤を用いて取り付けた。
【0166】
TUNEL、Ki-67免疫細胞化学および定量化
増殖を評価するために、PLL、1μg/mLのラミニン、および2μg/mLのアグリカンでプレコートした24ウェルカバーガラス上にOPCを播種した。OPCを、ビークル、2.5μMのISPまたはSISPを用いて、37℃で2日間の播種時に直ぐに処理した。カバーガラスを固定し、免疫細胞化学セクションで記載と同じ方法を用いてKi-67(550609、BD Pharmingen、1:500)およびO4(1:10)で染色した。カバーガラスを画像化し、計数した。アポトーシスを評価するために、OPCを同じ方式で培養し、ビークル、2.5μMのISPまたはSISPとのインキュベーションの2日後に、ビークルまたは1μg/mLのLPCと共に、2時間インキュベートした。その後、カバーガラスをPFAおよびメタノールで固定した後、APO-BrdU TUNELアッセイキット(A23210、ThermoFisher)および一次抗体の室温での一晩のインキュベーションを含むガイドラインを用いて、染色した。カバーガラスをさらにDAPI(D9542、Sigma、1:10,000)と共染色した後、画像化し、計数した。
【0167】
免疫組織化学的検査
マウスをアベルチンで麻酔し、PBSおよび4%パラホルムアルデヒド(PFA)で灌流した。脳または脊髄を切開し、4%PFA中、4℃で一晩、後固定し、20%スクロース中で平衡化した。抗原回収のために、製造業者の説明書に従い、20μ厚切片をReveal Decloaker溶液(RV1000M、Biocare Medical)で前処理した。ブロッキング後、切片を一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートし、続けて、Alexa Fluor488または594で標識した適切な二次抗体とインキュベートした。以下の一次抗体を使用した:MBP(SMI-99P、Covance、1:300)、NeuF200(N4142、Sigma、1:250)、CS-56(C8035、Sigma、1:250)、CAT301(MAB5284、Millipore、1:250)、バーシカン(AB1032、Millipore、1:250)、Iba1(019-19741、WAKO、1:250)、GFAP(MAB360、Millipore、1:250)、Olig2(AB9610、Millipore、1:250)、CC1(OP80、Millipore、1:250)。各染色に対し、少なくとも3匹の個別の動物/群を調査し、画像をLeica DFC500蛍光顕微鏡で取得した。ImageJソフトウェア(アメリカ国立衛生研究所、USA)を用いて染色を定量化した。蛍光強度を、未処置対照の平均値のパーセンテージとして、計算した。
【0168】
電子顕微鏡観察(EM)分析用組織作製
ミエリン形成の超微細構造解析のために、麻酔した動物を、0.1Mのカコジル酸ナトリウム緩衝液、pH7.4(Electron Microscopy Sciences)中の2%グルタルアルデヒド/4%パラホルムアルデヒドで灌流した。ISP治療または対照動物由来のLPCまたはEAE誘導脊髄の損傷を受けた領域を切開し、1%OsO4中で2時間、後固定した。脳梁含有脊髄または脳の冠状切片(500μm)を調製し(Leica、ビブラトーム)、脱水し、飽和酢酸ウラニルで染色し、Poly/Bed812樹脂(Polysciences Inc.)中に埋め込んだ。1μ厚切片を切り出し、トルイジンブルーで染色し、整合領域をEM解析用に選択した。超微細構造解析のために、極薄切片(0.1μm)を切り出し、電子顕微鏡(JEOL100CX)を80kVで用いて可視化した。少なくとも50~100個の無作為に選択したミエリン化軸索から、ミエリン鞘の内径および外径のミエリン厚さを測定することによりG比を計算した。
【0169】
MMP-2のshRNAノックダウン
MMP-2ノックダウンを、U6プロモーター(LPP-MSH027657-LVRU6GP、GeneCopoeia)により駆動されるマウスMMP2標的化shRNAを発現しているレンチウイルス粒子により媒介させた。shRNAスクランブル構築物のためのレンチウイルス粒子(LPP-CSHCTR001-LVRU6GP-100-C、GeneCopoeia)を、対応する対照として使用した。実験の前に、OPC培養物に、1の感染多重度(MOI)で、少なくとも48時間感染させた。感染OPC培養物のウェスタンブロット分析を用いて、MMP-2(AB191677、Sigma、1:500)に対して、構築物を確認した。
【0170】
統計分析
全てのデータ分析をGraphPad Prism6.00を用いて行った。データは平均±SEMとして示されている。p<0.05を統計的に有意と見なす。統計分析は、対応のないスチューデントの両側t検定、チューキーの多重比較検定、ダネットの多重比較検定、またはシダックの多重比較検定による事後分析を用いた1元配置または2元配置分散分析により実施した。盲検方式で定量化を実施した。統計的検定を用いて標本数を予め設定することはしなかったが、我々の標本数は、この分野で一般的に採用される標本数と類似である。データ分布は、正規であることを想定したが、これは正式には試験しなかった。全ての実験は、独立に、少なくとも3回実施した。
【0171】
結果
EAEおよびLPC脱髄性MSマウスモデルの病変において増大したCSPGおよび受容体PTPσの発現
我々は、MOG
35-55誘導慢性進行性EAEおよびLPC誘導急性限局性脱髄の脱髄病変におけるCSPG発現の特徴付けを行った。脊髄の白質中の脱髄EAEおよびLPC病変をルクソール・ファスト・ブルー(LBF)ミエリン染色で可視化した(
図9A~9D)。予測通り、LFB染色は、両モデルの病変中で低減した。脊髄組織の免疫染色切片は、ビークル対照に比較して、EAEおよびLPC罹患動物の脱髄病変中でCSPG発現の上昇を示した(
図9A~9D)。さらに、CSPGの発現上昇は、EAE損傷脊髄中で免疫後の28日から41日にわたり漸進的に増大した(
図9A)。背側脊髄中へのLPC注入の7~14日後に動物から採取した組織切片(
図9Cおよび9D)も同様に、脱髄病変中のCSPG産生の増大を示した。限局性脱髄領域中の増大したCSPGにより、我々は、CSPGは、病変部位でPTPσシグナル伝達を介してOPCにネガティブな影響を与え、これが、脊髄を再ミエリン化するそれらの能力に影響を及ぼし得るという仮説を立てるに至った。
【0172】
CSPGは、受容体PTPσ、LAR、およびNogo受容体1および3を介してシグナル伝達することが知られている。我々は、以前に発表した、OPC発生中にPTPRS(PTPσ)、PTPRF(LAR)、PTPRD(PTPδ)、およびRTN4R(Nogo受容体)の遺伝子発現を検索するためのマウス大脳皮質のRNA配列解析トランスクリプトームデータベースを使用した。PTPRS遺伝子転写物(FPKM)は、発生中のOPCにおける最も豊富なタイプのCSPG受容体であった(
図10B)。野生型マウス子(生後1~2日目)の脳由来の免疫染色OPC/OL細胞は、PTPσが未成熟Olig2
+および成熟CC1
+またはミエリン塩基性タンパク質(MBP)
+細胞の細胞体および突起で発現することを示した(
図10Aおよび10C)。ウェスタンブロット分析はまた、EAEまたはLPC誘導脱髄性モデルの損傷を受けた脊髄中で、注入後28日目(EAE)および7日目(LPC)に、PTPσの発現上昇を示した(
図10D)。EAE誘導動物では、PTPσおよびOPCマーカー、Olig2に対する抗体を用いてダブル免疫染色法も実施し、脱髄病変中でOlig2
+OPCで共標識したPTPσの増大を示した(
図10E)。これらの知見は、PTPσが、EAEまたはLPC誘導疾患後、オリゴデンドロサイト系統の細胞中で発現し、発現上昇していること、およびこの受容体が、MSモデルにおけるCSPGの効果および/または受容体の操作を研究するための扱いやすい標的を提供することを示唆する。
【0173】
ISPによるPTPσの調節はEAE動物モデルの機能回復および再ミエリン化を促進する
我々は次に、慢性進行性脱髄疾病過程を再現する、EAEマウスモデルを用いて細胞内シグマペプチド(ISP)を試験した。MOG
35-55免疫化後、動物は、腹腔内ISP注射(20μg/マウス、毎日)を、臨床スコアリングにより決定した病気の開始時(EAE ISP発症)または病気のピーク時(EAE ISPピーク)から、41日間にわたり受けた(
図1A)。対照群は、同時に、5%DMSOビークルを注射された。機能回復は、最初は、発症群でISP投与の約10~12日後(すなわち、免疫後23日)に観察された。ISPは、臨床スコアを3.5~4(重度運動麻痺)から2~1.5(尾挙上不全および後肢脱力)に改善した。ISP治療の20~22日後(免疫後約33日)、発症群の数匹の動物が回復し、臨床スコアが0.5~1(尾挙上不全)に改善した(
図1Bおよび1C)。対照的に、対照動物は、重度麻痺が持続し、スコアは約3.5~4のままであった。EAE ISPピーク動物はまた、ISP治療で有意に改善したが、しかし、疾患の発症時に投与されたISPは、より良好な後肢回復を可能とした(
図1Bおよび1C)。これらの改善はまた、組織の改善と密接に相関していた。LFBミエリン染色で示されるように、病変サイズは発症治療動物で特に低減された(
図1Dおよび1E)。逆に、MBP免疫染色法は、対照EAE動物に比べて、ISPで41日間治療した動物でより濃い(
図1F)。MBPタンパク質アイソフォームのウェスタンブロッティングも同様に、ISP治療マウスでMBP発現の回復を示した(
図1G)。超微細構造解析は、対照と比較して、ISP治療マウスのEAE損傷を受けた脊髄中でミエリン化/再ミエリン化軸索の増大を示した(
図1H)。定量分析により、ISP治療群でミエリン化/再ミエリン化軸索の増大が確認され(
図1I)、また、ミエリン形成の直径を軸索直径により正規化することによるミエリン形成厚さを示す、G比は、ビークル治療群に比べて、ISP治療群でより低かった(
図1J)。重要なのは、我々の結果は、EAE誘導の18日後の脱髄ベースライン(LFB)が、この疾患進行の初期段階で2つの群間で有意に異ならなかったことから(
図12Eおよび12F)、ISPは、脱髄を防止することではなく、ミエリン再生を高めるように作用することを示唆することである。
【0174】
ISP治療は、経時的脱髄病変中の低減したCSPG発現ならびにEAEにおいて変化した炎症反応に関連する
EAE誘導動物のISP治療後にCSPGが顕著に低減した(
図4A、Cat301)という観察に加えて、我々はまた、同じ動物において、変化したマクロファージ動力学を見出した。最初に、マクロファージ(Iba1)は、アグリカン(Cat301)と、特に白質中で共局在化するように見え(
図4A)、これは、活性化マクロファージの沈着、またはより可能性が高いのは、アグリカンの貪食に起因し得るが、これらは発生することが知られていない。我々は、さらに、対照と比較して、ISP治療EAE動物中で低減したIba1免疫染色法ならびにIba1
+マクロファージ内のアグリカンの低減した量を観察した(
図4A)。我々は、EAE誘導後41日でのIba1およびGFAPのさらなる定量化を実施し、ミクログリア/マクロファージの両方および反応性星状膠細胞のそれぞれISP治療後の有意な減少を認めた(
図4Aおよび4B)。ISPを含む合成ペプチドによるLARファミリー受容体ホスファターゼの調節が、脊髄損傷後にミクログリア/マクロファージをM2分極化の方向に偏らせることが報告された。実際に、M1(iNOS)およびM2(アルギナーゼ-1)マクロファージ分極化を特定するマーカーの免疫染色法は、ISP治療がEAE動物の炎症性環境を調節するという補強証拠を明らかにした(
図4Cおよび4D)。注目すべきことに、ミクログリア/マクロファージは、損傷後にPTPσを産生するように見えるが、反応性星状膠細胞はそうではない。
【0175】
ISPは、LPC誘導脱髄におけるミエリン修復速度を高める
我々は、次に、PTPσ-CSPG相互作用のISP調節が、LPC注入1日後に開始のISP(20μg/日、皮下投与)または対照ビークルで治療した若年成体C57Bl6/Jマウスの脊髄後柱白質中へのLPC注入により誘導された急性限局性脱髄において類似の効果を有するかどうかを問うた。ISP治療後、LPC誘導病変体積は、LFBミエリン染色により示すように、ビークル治療動物に比べて、病変後(dpl)14および21日目に有意に低減した(
図2Aおよび2B)。
図2A~2Gに示すように、ビークル治療動物は、平均病変体積が、7、14または21dplにそれぞれ、1.508±0.069mm
3、1.035±0.06mm
3および0.738±0.027mm
3であった。対照的に、ISP治療動物は、病変体積が7dplの平均1.535±0.058mm
3から、14dplの0.613±0.043mm
3に低減した(
図2B)。21dplまでに、我々は、ISP治療マウスで完璧な病変修復および低減した病変体積(1.535±0.058mm
3から0.2±0.041mm
3に)を認めた(
図2B)。免疫染色法は、14および21dplに、ビークル治療マウスに比べて、ISP治療マウスのLPC病変中の増大したMBP発現を一貫して示した(
図2C)。定量的ウェスタンブロット分析により、ISP治療後、14dplにLPC損傷を受けた動物中のMBPの増大した発現を確認した(
図2D)。最後に、微細構造解析により、対照と比較して、14dplのISP治療マウスの再ミエリン化軸索の数を確認した(
図2Eおよび2F)。これらの結果と一致して、ISP治療マウスのISPおよびビークル治療マウスの間のG比の定量的解析は、14dplのISP治療マウスのミエリン鞘の増大した厚さを示した(
図2G)。これらの実験は、ISP治療がインビボでのミエリン修復速度を加速することを示した。
【0176】
OPCおよびその後の再ミエリン化に影響を与えるISPの能力をより良好に可視化するために、我々は、脱髄を誘導するために0.1%LPCで17~18時間処理した、生後8~10日の子由来のマウス小脳切片培養物の有髄化の十分に確立されたエクスビボモデルを利用した。我々は、未処理切片培養物が、MBPおよび神経フィラメント(NF200)共存で示されるように、大量のミエリン化軸索を発生することを見出した(
図3A、Con)。しかし、LPC処理は、大量の脱髄を引き起こし、点状物および無秩序なミエリンを生成した(
図3A、インビトロで1日(div))。8div後、脱髄表現型はまだ顕著で、再ミエリン化は、ビークル処理と比べて、LPC処理切片では遅れた(
図3A、LPC+Veh、8div)。対照的に、ISPで8divにわたり処理したLPC脱髄切片は、ビークル処理に比べて、増大した再ミエリン化を示した(
図3A、LPC+ISP、8div)。ビークル処理切片では、LPC処理後14divまでMBP発現の増大が認められたが、MBPの発現は、その時点でも無秩序で、軸索と十分に共存できない(
図3A、LPC+Veh、14div)。しかし、14divにわたるISP処理は、多くの再ミエリン化軸索を生じ(
図3Aおよび3B、LPC+ISP、14div)、これは、ウェスタンブロット分析および定量化で確認された(
図3C)。これらの切片培養物実験は、LPC処理後、おそらく、OPCに直接影響を与えることにより、または場合により、加えてミクログリア/マクロファージにも影響を与えることにより、ISPが再ミエリン化速度を高めることを確証する。
【0177】
興味深いことに、このISPが再ミエリン化の速度を高めることは、我々の小脳切片培養物中の8divまでのアグリカン存在(Cat301)の低減と相関する(
図11Aおよび11B)が、アグリカン発現は、4divでは、ISP群とビークル群との間では類似であった(
図11Aおよび11B)。14divまでは、我々は、両群で、MBP染色により同時再ミエリン化および低減したCSPG発現を観察したが、ISP処理切片は、増大したMBP発現およびより大きいCSPG減少を有した。
【0178】
CSPGがISP処理により影響を受けるかどうかをさらに調べるために、我々は、LPC注入動物でMBPおよびCSPGのダブル免疫染色を行った。対照LPC損傷を受けた動物は、14dplでのMBPの低減した発現とは逆相関の上昇したレベルのGAG-CSPG(CS56)およびアグリカン(Cat301)を示した(
図4B)。対照的に、ISP治療動物は、CSPG(CS56およびCat301)のより迅速な低減および増大したミエリン発現を示した(
図4Bおよび4D)。ミエリン修復は通常、LPC損傷を受けた動物では発生しないが、CSPG分解は、ペプチド治療後に発生する分解より遙かに遅い(追補
図3Aおよび3B)ことに留意することは重要である。従って、我々は、ISP処理がミエリン修復速度を高めるのみならず、CSPG発現のより急速な低減にも関連することを見出した。
【0179】
LPC注入動物では、バーシカン免疫染色法は、反応性星状膠細胞(GFAP
+)が認められる病変のペナンブラ中では最強であった(
図4C)。このCSPG沈着パターンは、反応性星状膠細胞による増大したバーシカン分泌の最近報告された知見を確証する。我々はまた、我々のISP処理後の低減したCSPG発現の根底にある機序の調査を開始するために、局所的に脱髄されたLPC病変中の炎症細胞および星状膠細胞および変化したISP処理タイミングについて調査した。LPC注射時、直ちに(1日の遅延ではなく)、マウスは、ISP(20μg/日/マウス)を7日間受けた。この初期段階では、病変の中心の染色は、ISP治療動物と対照群との間で、活性化ミクログリア(Iba1)、反応性星状膠細胞(GFAP)、またはMBPミエリンタンパク質発現の量の変化を示さなかった(
図4Cおよび4D)。このことは、LPC誘導損傷は、初期には、ISPと対照群との間で類似であることを示唆している。この場合も、アグリカン染色は、Iba1
+マクロファージと共存した(
図4C)。しかし、CSPG発現(CS56、Cat301)は、ISP治療後有意に低減し、ISPが脱髄病変中でCSPGの増大した分解に関与し得ることを示唆する。
【0180】
ISPによるCSPG減少はOPC生存、分化、および移動を高める
ISP誘導CSPG抑制解除は、OPC増殖、生存、分化、または移動を調節することにより、増大した再ミエリン化を生じ得る。これらの可能性間で区別するために、我々は、7dplのLPC病変中で、Olig2およびKi67抗体で免疫染色することにより、増殖性OPCの定量化を開始した。我々は、Olig2+OPCのパーセンテージが、ビークル治療マウスに比べて、ISP治療マウスの病変中で有意に増大した(
図13Aおよび13B)が、群間のOlig2
+/Ki67
+細胞に差異は認められない(
図13B)ことを見出した。OPC増殖に対するISPによる効果をさらに調べるために、我々は、低濃度のラミニン(1μg/mL)およびアグリカン(2μg/mL)上で2divにわたり培養したOPCをペプチド処理し、処理および対照群間で増殖速度の有意な差異がないことを見出した(
図13Cおよび13D)。OPCのアポトーシスがCSPGにより影響を受けたかどうかを調べるために、我々は、低濃度のラミニンおよびアグリカン上で同様に培養されたOPCのTUNEL染色を実施し、ISP処理がアポトーシス細胞のパーセンテージを低減することを見出した(
図13Eおよび13F)。ISPはまた、同様に培養したOPCがLPC(1μg/mL、2時間)で誘発された場合に、OPC死亡を低減した(
図13Eおよび13F)。
【0181】
ISP処理のOPC分化に対する影響を調べるために、我々は、ISPで治療したEAE動物(41dpl)(およびLPC注入動物14dpl)の両方中の分化したCC1
+乏突起膠細胞の数を定量化した。CC1
+乏突起膠細胞のパーセンテージは、対照と比較して、ISP治療マウスの病変中で有意に高かった(
図14A~14D)。ISP強化OPC成熟はまた、アグリカンおよびラミニンプリコートカバーガラス上で培養された免疫精製OPC(P1~2のWTマウス)を用いて、インビトロで確認された。初期OPC(O4
+)および成熟OL(MBP
+)の免疫染色法は、非CSPG対照基質上で成長したOPCに比べて、CSPG上で成長したO4およびMBP発現細胞の短くなった突起長さからわかるように、CSPGがOPCの漸進的成熟を低減させることを示した(
図14Eおよび14F)。CSPG上で成長したOPCの突起成長および成熟は、ISP治療により大部分救済された(ISP治療有りまたは無しのCSPG上で成長した細胞のMBP
+フットプリントを分析することにより定量化して)(
図14Eおよび14G)。これらの知見は、ISPが、脱髄病変中のOPCの増殖ではなく、生存および分化を強化し得ることを示す。
【0182】
ISPはまた、OPCが生存し、その後、それらの有髄化型へ分化できる病変部位へのOPCの移動を促進し得る。OPC移動に対するCSPG/受容体効果を調査するために、我々は、以前に、グリア性瘢痕中で見つかったCSPGの阻害性勾配分布の強力なインビトロモデルとして使用した、我々のCSPG勾配スポットアッセイ上で成長したP2のWT子由来の脊髄外植片を利用した。外植片由来の、ISP処理初期(PDGFRα
+)および成熟前(O4
+)OPCは、勾配スポットのCSPG濃縮外周部と交差させることが可能であった。対照外植片では、ほとんどの細胞がこの阻害性領域を交差して移動できなかった(
図5A~5C)。従って、CSPG関連アポトーシスおよび成熟障害の緩和に加えて、ISPはまた、OPCが生存し、その後、それらの成熟有髄化型へ分化できる病変部位へのOPCの移動を促進し得る。ISP処理後の両切片培養物中(
図11Aおよび11B)およびMSインビボモデル(
図4A~4D)におけるCSPGの低減と共に、これらの観察により、我々は、ISPを介したPTPσの標的化が、内在性プロテアーゼの分泌または活性化の増大を誘導するという仮説を立てるに至った。
【0183】
ISP処理はCSPGのプロテアーゼ依存性酵素消化を高める
ISP処理エクスビボおよびインビボモデルにおける低減したCSPG発現の観察に加えて、我々は、ISP処理PDGFRα+OPCが、おそらく消化されたGAG-CSPG領域の、我々のスポットアッセイのアグリカン外周部にそれらが浸潤した、「影」を残すことに気づいた(
図5D、矢印)。全外側プロテオグリカン外周部はまた、ISPの存在下で直径が減少した(
図5D、外周部幅を比較)。プロテアーゼ活性が発生していたかどうかの調査を開始するために、我々は、我々のスポットアッセイに戻り、推定アグリカン分解をより良好に特徴付けた。培養上清(CM)を、ビークル、ISP、またはSISP(スクランブルISP)で処理した免疫精製OPCから収集し、新たに作製したスポット上に播種した。ISP処理OPC CMは、ビークルまたはスクランブルペプチド対照ならびに無細胞対照に比較して、CS56発現を有意に低減した(
図16A~16C)。興味深いことに、スポットのラミニン部分は、免疫染色法により可視化されているように、完全に温存されたことである(
図16Dおよび16E)。我々はまた、これらの結果を、ビークル、ISP、またはSISPで処理したOPCから収集したアグリカン(20μg/mL)およびラミニン)10μg/mL)と共にインキュベートしたOPC CMのウェスタンブロット分析で確認した(
図5E~5G)。
【0184】
OPCプロテアーゼ活性のISP誘導を独立に特徴付けるために、我々は、消光されたカゼイン蛍光をベースにした一般酵素活性アッセイ(EnzChekキット)を実施し、ビークルおよびSISP対照に比較して、OPCのISP処理が実際に、プロテアーゼ活性(蛍光A.U.)を増大させたことを認めた(
図5Hおよび5I)。さらに、ISPは、アグリカンとインキュベートしたOPC CMのISP処理のウェスタンブロットにより可視化されているように、アグリカン消化を用量依存性的に増大させた(
図16Gおよび16H)。
【0185】
ISPはプロテアーゼ活性、特にMMP-2分泌を増大させてOPC移動および再ミエリン化を増大する
どの重要なプロテアーゼISPが調節し得るかの特定を始めるために、我々は、ビークルまたはISP処理OPC CMをプロテアーゼアレイブロットと共にインキュベートした。我々は、潜在的に(十分な量で産生された場合)CSPGを消化できる、ISP処理群中のいくつかの種類のプロテアーゼ(例えば、ADAMTS、カリクレイン、カテプシン、MMP)に属する種々の酵素に対し増大したシグナル伝達を見つけた(
図15)。興味深いことに、カテプシンLおよびVおよびMMP-10などの3種のラミニン分解プロテアーゼは減少し、PTPσ調節に関連する酵素カスケードの調節において、ある程度の特異性を示唆する。この結果は、なぜ我々が、我々のISP処理インビトロアッセイで、不変のラミニン発現を観察したのかを説明する助けになる可能性がある(
図5E、5G、16D、および16E)。我々のプロテアーゼアレイからの結果を確認するために、我々は、ISPまたは対照で処理したOPC CM中のMMP-2、9、およびカテプシンBを含む複数の発現上昇プロテアーゼのウェスタンブロット分析を実施し、MMP-2は容易に検出可能であり、ISP処理後、明確に増大したことを見出した(
図6Cおよび6D)。培養OPCの染色は、MMP-2がO4
+OPC中のそれらの突起内で発現し、ペプチド処理後に強化されている用に見えることを示した(
図6H)。
【0186】
OPC CM由来MMP-2活性がISP処理により強化されることを確認するために、我々は、ゼラチンザイモグラフィーを実施し、MMP-2のゼラチン分解する活性が、対照に比較して、ISP処理時に有意に増大したことを認めた(
図6Aおよび6B)。MMP-9活性は、ゼラチンザイモグラフィーによりわずかに目視可能であり(
図6A)、ウェスタンブロット分析により非検出であった(データは示さず)。我々はまた、フィブロネクチン、ラミニン、およびエラスチンを分解するプロテアーゼである、MMP-10をブロットし、MMP-2より遙かに少ない量で分泌されることを見出した(
図6C)。ビークル、ISP、およびSISP処理OPC培養物は、MMP-10を同様に少ない量で分泌するように見え(
図6Cおよび6E)、ISPによる向上したMMP-2分泌は、PTPσ調節に特異的である可能性がある。ISP処理OPC CMに加えて、OPC溶解物もまた、ウェスタンブロットで分析し、GAPDH負荷対照に対し正規化したMMP-2発現の増大を示し、MMP-2分泌がISPにより強化され得ることを示唆する(
図6F)。これを試験するために、我々は、アグリカンを、ISPと併せて、エキソサイトーシス阻害剤のExo1(10μg/mL)で処理したOPC CMと共にインキュベートした。十分な濃度で、Exo1は、エキソサイトーシスをArf GTPアーゼの阻害を介して可逆的に阻害することが観察された。我々は、Exo1が部分的にアグリカンGAG消化を救済したことを見出した(
図6Iおよび6J)。我々はまた、ISPを含む、広範なMMP阻害剤のGM6001(25μM)、および特異的MMP-2阻害剤(OA-Hy、Calbiochem、100nM)を用いて、同じ実験を実施し、両ケースでGAG消化が部分的に救済されることを見出し、ISP誘導CSPG分解が主にメタロプロテアーゼファミリーおよびMMP-2により確実に行われ得ることを示唆する(
図6Iおよび6J)。GM6001およびMMP-2阻害剤は、CS56スポット分解をさらに救済する(
図17A~17D)。
【0187】
我々は、MMP阻害がCSPG外周部と交差するOPC移動を低減するかどうかを試験するためにスポットアッセイに戻った。GM6001(25μM)および特異的MMP-2阻害剤(OA-Hy、100nM)によるOPCの処理が、ISPの存在下であっても、CSPGリッチ領域へのOPCの進入を効果的に停止させた(
図7Aおよび7B)。このことは、ISP誘導による増大したOPC移動は、MMP依存性であり得ることを示唆している。最後に、再ミエリン化に対するMMPの機能的必要性を試験するために、我々は、LPC脱髄小脳切片を、ISPと併用して、GM6001または特異的MMP-2阻害剤で処理した。MBPおよび神経フィラメント
+軸索の共存は、実際に、ISPの存在にも関わらず、GM6001およびMMP-2阻害剤処理で低減した(
図7Cおよび7D)。さらに、低濃度のアグリカンおよびラミニン上で培養した、LPC誘発(1μg/mL、2時間)OPC中のMMP-2の2div阻害は、TUNEL染色により評価したように、ISPの生存促進効果を除去した(
図17E)。しかし、ビークル対照に比較して、MMP-2阻害剤は、アグリカン/ラミニン単独上で、アポトーシスを増大させるようには見えなかった(
図17E)。MMP-2の特異的阻害は、さらに、低濃度のアグリカン/ラミニン上で成長した成熟乏突起膠細胞のMBPフットプリントの増大を打ち消した(
図17Fおよび17G)。
【0188】
再ミエリン化の増大におけるISP処理後のMMP-2活性の必要性をさらに明らかにするために、我々は、レンチウイルス粒子送達shRNA構築物を利用した。我々は、最初に、48時間感染させたOPC培養物中のMMP-2をノックダウンするために、レンチウイルス送達ならびにウエスタン分析を用いたこのshRNA手法の妥当性を確認した(
図18A)。shRNAによるMMP-2ノックダウンは、アグリカン上でインビトロ培養されたOLの伸張したMBP
+突起の領域(
図18Bおよび18C)、および高いアグリカン障壁を通過して移動するOPCの能力(
図18Dおよび18E)を、ISP処理にかかわらず、減らすことができる。予想通り、shRNAによるMMP-2ノックダウンはまた、小脳切片培養物中のISP誘導再ミエリン化を減弱させた(
図7Eおよび7F)。
【0189】
我々は、次に、免疫組織化学的検査を用いてMMP-2インビボ発現を特徴付け、未処理脊髄の脊髄後柱はベースラインの少しのMMP-2タンパク質を発現しているが、LPCの同じ領域への注入が、14dplに、MMP-2発現を幾分増大させることを見出した(
図8Aおよび8B)。しかし、ISP処理は、LPC注入部位でのMMP-2発現を顕著に増大させ、これはまた、影響を受けた脊髄領域のウェスタンブロット分析でも確認された(
図8C)。ISP処理LPC脱髄脊髄の免疫染色は、MMP-2のOlig2特定OPCとの共存を示した(
図8D)が、Iba1標識免疫細胞とも共存した(
図8E)。ISPによる再ミエリン化の増大におけるMMP-2活性の必要性をさらに調査するために、我々は、LPCモデルに戻り、MMP-2阻害剤(OA-Hy)またはレンチウイルス粒子で送達されるMMP-2標的化shRNA構築物を含むLPCモデルで、18dplのミエリン染色後病変体積を分析した(
図8Fおよび8G)。興味深いことに、ビークル対照に比較して、MMP-2の薬理学的阻害が、病変体積を増大させ、ベースラインレベルのMMP-2がこのモデルにおける遅い再ミエリン化を促進し得ることを示唆する。MMP-2薬理学的阻害またはMMP-2のshRNA媒介ノックダウンの付加は、ISPの向上した再有髄化効果を減弱化させ、これは、CS56免疫反応性の付随する増加と相関し(
図19Aおよび19B)、病変中心のOlig2
+OPCの蓄積を低減した(
図19Cおよび19D)。まとめると、これらの結果は、OPCによるPTPσ調節MMP-2分泌の重要性を示すが、また、場合により、ミクログリアもそれらの移動を助けるために、および高いCSPG沈着に関わらず限局性脱髄性損傷後に再ミエリン化する能力も重要である。
【0190】
考察
我々は、病変関連瘢痕形成中のプロテオグリカン沈着がOPC移動、分化、および再ミエリン化を強力に阻害する、種々のMSモードでのOPC恒常性の回復における調節後のCSPG受容体PTPσの重要な役割を明らかにした。本明細書に記載のように、全身的に送達ペプチドによるPTPσの標的化は、LPC誘導病変中のミエリン修復の速度を高め、強力なミエリン再生および慢性脱髄性EAE後の機能回復を誘発する。これらのデータは、変化した免疫分極化を有するPTPσ調節と、向上したプロテアーゼ活性との間の新規の関連性を示す。これは、CSPGがCNS脱髄性疾患後に果たす、および脳脊髄幹全体を通してMS病変を広範に標的化し、CSPG媒介阻害を軽減できる戦略を特定する重要な役割を明確に示す。
【0191】
細胞がCSPG阻害を克服するのを可能とする受容体PTPσのペプチド調節後の下流の機序はほとんど知られていない。プロテアーゼ活性は、起こり得る有害な活性の足かせをはずすのを防ぐために、転写、翻訳、分泌、局在化、活性化、および阻害を含むいくつかのレベルで大きく調節されている。無制御で残されているプロテアーゼは、種々のCNS損傷後の「プロテアーゼストーム」でみられるような、潜在的に被害甚大な結果を有する多様なタンパク質を分解できるMSの再発期では、激しい炎症と関連する非特異的プロテアーゼ発現上昇およびミエリン変性は、明確に特徴づけられている。しかし、損傷後の細かく調節されたプロテアーゼ分泌の組織修復を促進する有益な効果は、より正しく認識されつつある。ここで、我々は、OPCにより高められたMMP-2プロテアーゼ活性によるPTPσ調節に関連する新規知見を提供し、これは、MS様病変を包むCSPG含有脱髄プラークを介したそれらの消化に役立つ。インビトロ、エクスビボおよびインビボアッセイにより、我々は、OPC移動のためのみでなく、改善されたOPC生存、成熟、および再ミエリン化のためでもある、PTPσ調節を介したMMP-2活性の必要性を(一部は)特定した。MMP-2発現上昇が、幹細胞のグリア性瘢痕のCSPG含有領域への進入を可能とし、培養物中のシュワン細胞による周辺軸索の再ミエリン化を改善することを以前に特定した。我々は、ISP処理によるラミニン不足および付随するCSPG分解を観察し、これは、OPCが高密度CSPG脱髄病変中に浸潤でき、そうしない場合は高密度CSPG脱髄病変を生存させる1つの機序であり得る。これは、PTPσを介して制御されたCSPG分解を促進するためのOPC、および、おそらく免疫細胞によるプロテアーゼの精密調節を明確に示す。
【0192】
さらに、我々の調査は、ペプチド処理MSのEAEモデルにおけるマクロファージのこの調節を確証し、我々は、CSPG量ならびに有害なM1マクロファージ表現型マーカーiNOSの減少およびM2関連アルギナーゼ-1の増加を観察した。
【0193】
我々の調査は、ISPがミクログリア食細胞能力を顕著に高め得ることを示唆する。CSPGの同族受容体を調節することにより、OPCおよびミクログリアは、一緒に機能して、阻害性CSPGおよびその他の細胞の残り物をより急速に除去し得る。従って、炎症促進性の環境をM2状態の方向に変更し、選択的細胞により限局性プロテアーゼ活性を誘導することで、ISPは追加のCSPG抑制解除を提供し、結果的にミエリン再生になり得る。
【0194】
本開示は、以下の実施例により、さらに例示される。この実施例は、特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。
【0195】
本発明を、その好ましい実施形態に関連して、詳細に提示し、説明してきたが、添付した特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、その形態や詳細を様々に変更し得ることを当業者なら理解するであろう。前述の明細書で引用された特許、出版物および参考文献はすべてその全体が参照によって、本明細書に組み込まれる。
【配列表】