(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】撥水構造体
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20240815BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240815BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B27/00 B
B32B27/32 Z
(21)【出願番号】P 2020039866
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 郷
(72)【発明者】
【氏名】原 卓哉
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-024549(JP,A)
【文献】特開2017-052552(JP,A)
【文献】特開2017-164297(JP,A)
【文献】特開2018-117695(JP,A)
【文献】特開2018-153943(JP,A)
【文献】特開2016-088947(JP,A)
【文献】特開2011-083689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、前記基材シートに積層された
ポリプロピレン樹脂層とを備える撥水構造体であって、
前記ポリプロピレン樹脂層が、前記撥水構造体の表面に位置する層であり、
JIS B 0601:2001に準拠する方法により、表面の表面粗さを測定した場合に、下記数式(F1)で示される条件を満たし、
下記RSmの値が、19.96μm以上66.90μm以下である、
撥水構造体。
(RSm
2+16Ra
2)/16Ra≦120(μm)・・・(F1)
Ra:算術平均表面粗さ(μm)
RSm:下記数式(F2)で示される凹凸の平均ピッチ(μm)
RSm=L/n・・・(F2)
L:粗さ曲線を測定した測定長さ
n:粗さ曲線が、平均線を中心に最大高さRzの0.1倍の範囲内である基準範囲を越えて、再び基準範囲に収まるまでの箇所を1ピークとした場合に、測定長さL内における粗さ曲線の隣接する凸部と凹部のそれぞれ1ピークから構成される輪郭要素の個数
【請求項2】
請求項1に記載の撥水構造体において、
JIS R 3257:1999の6.静滴法に準拠する方法により、表面の水の接触角を測定した場合に、水の接触角が、110度以上である、
撥水構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、撥水性を製品表面に発現させるためには、フッ素樹脂等を塗布する化学的手法が用いられている。しかしながら、化学的手法を用いる場合には、人体及び環境への影響を考慮しなければならないという問題がある。
そこで、化学的手法を用いないで、撥水構造体を作製することが提案されている。例えば、特許文献1には、撥水性フィルムの製造方法が開示されている。この撥水性フィルムの製造方法は、素材フィルムを加熱する工程と、エンボスロールの表面を加熱する工程と、前記素材フィルムを所定の速度で搬送してエンボスロールと圧ロールの間に搬送する工程と、前記加熱された素材フィルムの表面に対して、エンボスロールと圧ロールにより所定の圧力でエンボス加工を行う工程と、前記エンボス加工が行われた素材フィルムを前記エンボスロールから剥離する工程と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の撥水性フィルムの製造方法で得られるものは、必ずしも十分な撥水性を有するものではなかった。
【0005】
本発明の目的は、十分な撥水性を有する撥水構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る撥水構造体は、JIS B 0601:2001に準拠する方法により、表面の表面粗さを測定した場合に、下記数式(F1)で示される条件を満たすことを特徴とする。
(RSm2+16Ra2)/16Ra≦120(μm)・・・(F1)
Ra:算術平均表面粗さ(μm)
RSm:下記数式(F2)で示される凹凸の平均ピッチ(μm)
RSm=L/n・・・(F2)
L:粗さ曲線を測定した測定長さ
n:粗さ曲線が、平均線を中心に最大高さRzの0.1倍の範囲内である基準範囲を越えて、再び基準範囲に収まるまでの箇所を1ピークとした場合に、測定長さL内における粗さ曲線の隣接する凸部と凹部のそれぞれ1ピークから構成される輪郭要素の個数
【0007】
本発明の一態様に係る撥水構造体においては、JIS R 3257:1999の6.静滴法に準拠する方法により、表面の水の接触角を測定した場合に、水の接触角が、110度以上であることが好ましい。
【0008】
本発明の一態様に係る撥水構造体においては、前記撥水構造体が、基材シートと、前記基材シートに積層された熱可塑性樹脂層とを備えることが好ましい。
【0009】
本発明の一態様に係る撥水構造体においては、前記熱可塑性樹脂層が、ポリオレフィン樹脂層であることが好ましい。
【0010】
本発明の一態様に係る撥水構造体においては、前記熱可塑性樹脂層が、ポリプロピレン樹脂層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、十分な撥水性を有する撥水構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】表面粗さを測定する際における粗さ曲線の一例を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施形態に係る撥水構造体の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る撥水構造体の一例を製造するための製造装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態]
以下、本発明について実施形態を例に挙げて、図面に基づいて説明する。本発明は実施形態の内容に限定されない。なお、図面においては、説明を容易にするために拡大又は縮小をして図示した部分がある。
【0014】
(撥水構造体)
本実施形態に係る撥水構造体は、JIS B 0601:2001に準拠する方法により、表面の表面粗さを測定した場合に、下記数式(F1)で示される条件を満たすことを特徴とする。
(RSm2+16Ra2)/16Ra≦120(μm)・・・(F1)
【0015】
数式(F1)における(RSm2+16Ra2)/16Raの値が、120μmを超える場合には、十分な撥水性が得られない。また、数式(F1)における(RSm2+16Ra2)/16Raの値は、撥水性の観点から、110μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、90μm以下であることがさらに好ましく、80μm以下であることが特に好ましい。
数式(F1)において、Raは、JIS B 0601:2001に記載の算術平均表面粗さである。また、RSmは、下記数式(F2)で示される凹凸の平均ピッチである。
RSm=L/n・・・(F2)
【0016】
数式(F2)において、Lは、粗さ曲線を測定した測定長さである。また、Lは、
図1に示すように、粗さ曲線において、測定を開始した点STAから測定を終了した点ENDまでの平均線Xの方向における距離である。
nは、粗さ曲線が、平均線Xを中心に最大高さRzの0.1倍の範囲内である基準範囲を越えて、再び基準範囲に収まるまでの箇所を1ピークとした場合に、測定長さL内における粗さ曲線の隣接する凸部と凹部のそれぞれ1ピークから構成される輪郭要素の個数である。Rzは、粗さ曲線の測定長さL内における最大高さであり、
図1では、(v)のピークの極大値から(viii)のピークの極小値までの高さ方向における距離である。そして、基準範囲が、平均線Xを中心に最大高さRzの0.1倍の範囲内であり、
図1における斜線を付している範囲である。
例えば、
図1に示す粗さ曲線は、測定を開始した点STAから基準範囲を越えて、(i)のピークに至り、その後、再び基準範囲に収まり、その後、再び基準範囲を越えて、(ii)のピークに至っている。そして、同様にして、順次、(iii)から(viii)のピークを経て、測定を終了した点ENDに至っている。このとき、ピークの個数nは、8個であり、粗さ曲線の隣接する凸部と凹部のそれぞれ1ピークから構成される輪郭要素の個数は4個である。なお、測定を開始した点STA又は測定を終了した点ENDが、ピーク上にある場合には、そのピークはカウントしない。
つまり、
図1に示す粗さ曲線では、RSmは、L/4ということになる。
【0017】
数式(F1)で示される条件を満たす表面を有する構造体が十分な撥水性を有する理由は、以下の通りであると本発明者らは推察する。
すなわち、水滴が撥水構造体の表面に付着した際、水滴がこの凹凸のピーク間で保持されて凹部の底面まで達しない場合は、凹凸形状による撥水性が発現しやすいと考えられる。一方で、水滴が凹部の底面にまで達する場合は、撥水性が発現しにくいものと考えられる。ここで、水滴が撥水構造体の凹部の底面に接触せずに保持される最大の半径をrとすると、このrが小さい程、撥水構造体表面においてより微小量の水滴をピーク間で保持しやすいため、rが凹凸表面の撥水性を表す基準となると考えられる。
なお、rは、水滴と材料のバルク表面との接触可能性を考察するために、材料の凹凸表面の形状を、底面から頂点までの平均高さを2Ra、隣接する凸部と凹部のピーク間の平均距離をRSm/2、隣接する凸部と凹部のピークを結ぶ曲線を円弧とする円の半径をrとして単純化し、以下のように導出した。
中心座標(0,r)となる円の方程式は、下記式である。
x2+(y-r)2=r2
上記式に、xに、RSm/2を代入し、yに、2Raを代入すると、下記式となる。
RSm2/4+(2Ra-r)2=r2
上記式を、rについて解くと、数式(F1)の左辺となる。
【0018】
本実施形態に係る撥水構造体においては、JIS R 3257:1999の6.静滴法に準拠する方法により、表面の水の接触角を測定した場合に、水の接触角が、110度以上であることが好ましい。
水の接触角が110度以上であれば、撥水構造体の撥水性が優れているといえる。また、撥水性の観点からは、水の接触角は、120度以上であることがより好ましく、130度以上であることがさらに好ましく、140度以上であることが特に好ましい。
【0019】
(撥水シート)
本実施形態に係る撥水構造体は、基材シートと、基材シートに積層された熱可塑性樹脂層とを備えることが好ましい。なお、本実施形態に係る撥水構造体の構成が、かかる構成に限定されるわけではないが、本実施形態では、以下、
図2に示すような、基材シート2と、熱可塑性樹脂層3とを備える撥水構造体(例えば、撥水シート1)を例に挙げて説明する。
【0020】
撥水シート1は、基材シート2と、熱可塑性樹脂層3とを備えている。熱可塑性樹脂層3は、基材シート2上に積層されている。そして、熱可塑性樹脂層3の表面の表面粗さを測定した場合には、前記数式(F1)におけるRSm2+16Ra2)/16Raの値が、120μm以下となっている。
【0021】
基材シート2としては、熱可塑性樹脂層3を担持できる紙又はフィルム状の基材であれば、特に制限はない。基材シート2としては、紙基材、基布、及び樹脂フィルム等が挙げられる。
紙基材としては、薄葉紙、クラフト紙、リンター紙、中質紙、上質紙、含浸紙、コート紙、アート紙、硫酸紙、及びグラシン紙等が挙げられる。
樹脂フィルムの樹脂としては、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、及びポリプロピレン等)、ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレート等)、及びその他の合成樹脂等(ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、三酢酸セルロース、セロハン、及びポリカーボネート等)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び熱成型性を考慮すると、紙基材が好ましい。さらに、耐熱性及び寸法安定性が優れるという観点から、クラフト紙、中質紙、上質紙、及び含浸紙等がより好ましい。
【0022】
基材シート2の厚さ及び大きさには、特に制限はなく、離型シート1の用途、基材シート2の種類等に応じて、所定の厚み、大きさのものを適宜使用できる。
例えば、基材シート2が紙基材の場合には、その米坪量は、30g/m2以上200g/m2以下であることが好ましく、80g/m2以上140g/m2以下であることがより好ましい。
また、基材シート2が合成樹脂のフィルムの場合には、その厚さは、5μm以上500μm以下であることが好ましく、15μm以上300μm以下であることがより好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂層3は、熱可塑性樹脂から形成される層である。熱可塑性樹脂としては、溶融可能な樹脂であればよく、特に限定されない。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、及びポリエステル樹脂等が挙げられる。エンボス加工の際の剥離性の観点から、ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
なお、熱可塑性樹脂の溶融温度は、特に限定されないが、生産性の観点から、140℃以上200℃以下であることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、α-オレフィンの単独重合体又は共重合体等が挙げられる。α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、2-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、2,2-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、2-メチル-1-ヘキセン、3-メチル-1-ヘキセン、2,2-ジメチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ペンテン、2,3-ジメチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、2,2,3-トリメチル-1-ブテン、1-オクテン、及び2,2,4-トリメチル-1-オクテン等が挙げられる。これらの中でも、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテンの重合体が好ましく、プロピレンの重合体であるポリプロピレン樹脂がより好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂層3の厚みや大きさ等には、特に制限はなく、撥水シート1の用途、熱可塑性樹脂層3の種類等に応じて、所定の厚み、大きさのものを適宜使用できる。
熱可塑性樹脂層3の厚さは、5μm以上200μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0025】
(撥水構造体の製造方法)
次に、本実施形態に係る撥水構造体について、撥水シート1の製造方法を例に挙げて、説明する。
撥水シート1は、
図3に示す撥水シート製造装置10を用いて製造できる。また、撥水シート1は、以下説明する積層工程及びエンボス工程を施すことにより製造できる。
撥水シート製造装置10は、押出機11と、エンボス柄加工部12とを備えている。
押出機11は、熱可塑性樹脂を押出して基材シート2上に熱可塑性樹脂を塗布するものであり、Tダイを備えている。熱可塑性樹脂は、このTダイから基材シート2上に押出されるとともに、ラミネートされる。
【0026】
エンボス柄加工部12は、熱可塑性樹脂層3のエンボス加工を行う部分であり、エンボスロール12a及びプレッシャーロール12bを備えている。エンボスロール12aは、金属製ロールであって、その外表面にはエンボス柄に対応した凹凸形状が形成されている。また、エンボスロール12aの内部には、冷却水が通水されている。そして、エンボスロール12aは、基材シート2上にラミネートされた熱可塑性樹脂層3を冷却し、固化させるための冷却ロールとしての役割も担う。プレッシャーロール12bはゴム製ロールであって、その外表面は略平滑である。
【0027】
積層工程においては、離型シート製造装置10に供給された基材シート2に対して、溶融した熱可塑性樹脂を押出機11のダイから押し出してラミネートし、熱可塑性樹脂層3が形成される。
押出機11の加熱温度等の条件は、熱可塑性樹脂層3を構成する熱可塑性樹脂の融点及びメルトフローレート等に応じて適宜設定する。
【0028】
エンボス工程においては、積層工程により形成された、基材シート2上の熱可塑性樹脂層3に対して、凹凸形状が形成される。
エンボス柄加工部12を構成するエンボスロール12aとプレッシャーロール12bとが水平対向して配置されている。そして、熱可塑性樹脂層3が形成された基材シート2は、略下方向に送られるとともに、エンボスロール12aとプレッシャーロール12bとの間で挟み込まれる。エンボスロール12aと当接した熱可塑性樹脂層3には、エンボスロール12aの表面に予め形成されている凹凸形状が転写される。それとともに、熱可塑性樹脂層3は冷却される。この転写及び冷却によって、熱可塑性樹脂層3の表面に凹凸形状が形成される。
【0029】
ここで、エンボス加工時のプレス圧及び加熱温度等の条件は、熱可塑性樹脂の材質又はエンボスロール12aの表面の凹凸形状に応じて適宜設定できる。
エンボス加工時の加熱温度は、140℃以上200℃以下であることが好ましく、160℃以上180℃以下であることがより好ましい。
エンボス加工時のプレス圧は、0.05MPa以上5MPa以下であることが好ましく、1MPa以上3MPa以下であることがより好ましい。
エンボス加工時の加熱時間は、10秒間以上5分間以下であることが好ましく、1分間以上3分間以下であることがより好ましい。
エンボス加工後の冷却時間は、20秒間以上15分間以下であることが好ましく、2分間以上8分間以下であることがより好ましい。また、ここでの冷却温度は、例えば20℃以上30℃以下である。
【0030】
本実施形態においては、エンボスロール12aの表面の凹凸形状を、調整することが必要である。エンボスロール12aの表面の凹凸形状に応じて、熱可塑性樹脂層3の表面の凹凸形状が変化するからである。
エンボスロール12aの表面には、エンボス材が設けられている。そして、(i)エンボス材の種類を変更したり、(ii)エンボス材に対して、各種の表面処理を施したりすることで、エンボスロール12aの表面を調整できる。
表面処理としては、ブラスト処理、バフ研磨処理、エッチング処理、レーザー彫刻、レジスト加工及びミル彫刻等が挙げられる。
また、ブラスト処理で用いるビーズは、特に制限されないが、表面の凹凸形状の観点から、選択することが好ましい。ビーズの材質としては、アルミナ、ジルコニア、シリカ、鉄、シリコンカーバイド(SiC)、ボロンカーバイド(B4C)、及び、これらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、アルミナ又はジルコニアが好ましく、アルミナがより好ましい。ビーズの形状としては、角状、円柱状、及び球状等が挙げられる。これらの中でも、角状が好ましい。
本実施形態においては、エンボスロール12aの表面の凹凸形状を調整することで、数式(F1)における(RSm2+16Ra2)/16Raの値が、120μm以下である表面を有する熱可塑性樹脂層3を形成できる。
【0031】
以上のようにして、撥水シート1が製造される。この撥水シート1は、巻き取り機(図示せず)によってロール状に巻き取られる。巻き取られた撥水シート1は、適宜、用途に応じたサイズに裁断されて使用される。
【0032】
(実施形態の作用効果)
本実施形態によれば、次のような作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態においては、数式(F1)における(RSm2+16Ra2)/16Raの値が120μm以下である表面を有する熱可塑性樹脂層3を備える撥水シート1が得られる。そして、この撥水シート1における熱可塑性樹脂層3は、十分な撥水性を有する。
【0033】
(実施形態の変形)
本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば、前述の実施形態では、撥水構造体の一例として、撥水シート1を挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、撥水構造体は、シート状でなくてもよく、積層体でなくてもよい。また、撥水構造体は、撥水構造表面とは異なる面に粘着剤層を備えるものであってもよく、例えば、その粘着剤層により、被着体に貼付することで、その被着体を撥水構造体とすることもできる。
【0034】
前述の実施形態における撥水シートの製造方法においては、撥水シート製造装置10を用いて、エンボス加工を行ったが、これに限定されない。例えば、所望の凹凸を有するエンボス板と熱可塑性樹脂シートを重ね、熱プレス機を用いて加熱しながら加圧することで、エンボス加工を行ってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。なお、実施例及び比較例で用いたエンボス材の表面粗さ(Ra及びRz)は、JIS B 0601:2001に準拠して測定した値である。
【0036】
[実施例1]
基材シート(日本製紙社製の「エンボス原紙127.9G」)と、熱可塑性樹脂シート(ポリプロピレン、プライムポリマー社製の「プライムポリプロF-744NP」)と、下記のエンボス材(寸法:100mm×100mm、厚さ3mm)とを順次重ね、熱プレス機を用いて、加熱温度170℃、プレス圧2MPa、加熱温度2分間、及び冷却時間(常温放置)5分間の条件で、加熱圧着及び冷却を行った。これにより、熱可塑性樹脂シートが溶融し、基材シートに固着して、基材シート上に樹脂層が形成された。そして、エンボス材から、樹脂層が形成された基材シートを剥離して、積層体(撥水シート)を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ブラスト処理
表面処理に用いたビーズ:ホワイトアトランダム(角状粒子、粒径90μm~106μm、不二製作所社製「WA120」)
エンボス材の表面粗さ:Ra1.32μm、Rz9.86μm
【0037】
[実施例2]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ブラスト処理
表面処理に用いたビーズ:ホワイトアトランダム(角状粒子、粒径212μm~250μm、不二製作所社製の「WA60」)
エンボス材の表面粗さ:Ra2.51μm、Rz17.68μm
【0038】
[実施例3]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ブラスト処理
表面処理に用いたビーズ:ホワイトアトランダム(角状粒子、粒径45μm~53μm、不二製作所社製の「WA220」)
エンボス材の表面粗さ:Ra0.54μm、Rz5.06μm
【0039】
[実施例4]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ブラスト処理
表面処理に用いたビーズ:ホワイトアトランダム(角状粒子、粒径300μm~355μm、不二製作所社製の「WA46」)
エンボス材の表面粗さ:Ra3.81μm、Rz21.74μm
【0040】
[実施例5]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ミル彫刻
エンボス材の表面粗さ:Ra3.2μm、Rz15.6μm
【0041】
[実施例6]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ミル彫刻
エンボス材の表面粗さ:Ra3.1μm、Rz15.4μm
【0042】
[実施例7]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ブラスト処理
表面処理に用いたビーズ:ジルコニア(角状粒子、粒径63μm以下、不二製作所社製「FZG205」)
エンボス材の表面粗さ:Ra0.35μm、Rz2.85μm
【0043】
[実施例8]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ミル彫刻
エンボス材の表面粗さ:Ra1.4μm、Rz7.1μm
【0044】
[比較例1]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ブラスト処理
表面処理に用いたビーズ:ガラスビーズ(球状粒子、粒径53μm~63μm、不二製作所社製の「FGB300」)
エンボス材の表面粗さ:Ra0.26μm、Rz1.73μm
【0045】
[比較例2]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ブラスト処理
表面処理に用いたビーズ:ガラスビーズ(球状粒子、粒径125μm~150μm、不二製作所社製の「FGB120」)
エンボス材の表面粗さ:Ra0.84μm、Rz5.08μm
【0046】
[比較例3]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
鉄製の板
表面処理:ブラスト処理
表面処理に用いたビーズ:フジガラスビーズ(球状粒子、粒径250μm~355μm、不二製作所社製の「FGB60」)
エンボス材の表面粗さ:Ra1.52μm、Rz9.86μm
【0047】
[比較例4]
下記のエンボス材を用いた以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
(エンボス材)
エンボス材の製品名:加納商事社製の「BF0.4S」
表面処理:バフ研磨処理
エンボス材の表面粗さ:Ra0.03μm、Rz0.18μm
【0048】
[表面粗さの解析]
実施例及び比較例で得られた積層体について、ミツトヨ社製の表面粗さ測定機「SV-3000」を用いて、下記の条件にて、表面粗さの解析を行った。その結果から、算術平均表面粗さRa、及び凹凸の平均ピッチRSmの数値を得た。そして、これらの数値から、数式(F1)における(RSm2+16Ra2)/16Raの値を算出した。得られた結果を表1に示す。
測定距離:0.8mm
測定間隔:0.05μm
測定速度:0.5mm/min
カットオフ値:λc=0.08mm、λs=0.0025mm
【0049】
[接触角]
接触角の測定は、JIS R3257:1999の6.静滴法に準じて測定した。ただし、サンプルを基板ガラスに代えて実施例及び比較例で得られた積層体をサンプルとし、当該サンプルの凹凸が形成された樹脂表面における接触角を測定した。なお、測定装置としては、協和界面科学社製の「DMo-701」を用いた。また、接触角については、数値とともに、下記の基準に従って評価を行った。得られた結果を表1に示す。
A:接触角が、140度以上である。
B:接触角が、110度以上140度未満である。
C:接触角が、110度未満である。
【0050】
[滑落性]
実施例及び比較例で得られた積層体を、50mm×50mmの大きさに切断して、サンプルとした。このサンプルをガラス基板にセットし、ガラス基板の角度を水平面に対して60度とし、サンプル表面に30mmの高さから水滴を滴下したときの挙動を目視にて確認した。そして、以下の基準に従って、滑落性を評価した。
A:水滴が着滴して瞬時に滑落した。
B:水滴が滑落したが速度が遅い、或いは、水滴が滑落したが一時的に水滴が止まった。
C:水滴が滑落しなかった、或いは、水滴が滑落したがサンプル表面が濡れていた。
【0051】
【符号の説明】
【0052】
1…離型シート、2…基材シート、3…熱可塑性樹脂層。