(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ペリクルケース、保持ユニットおよび剥離フィルム
(51)【国際特許分類】
G03F 1/66 20120101AFI20240815BHJP
【FI】
G03F1/66
(21)【出願番号】P 2020090037
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-01-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田中 友和
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】黒川 健一
(72)【発明者】
【氏名】平野 政勝
(72)【発明者】
【氏名】三森 裕士
(72)【発明者】
【氏名】谷 典子
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-114388(JP,A)
【文献】特開平11-044947(JP,A)
【文献】特開2014-167627(JP,A)
【文献】特開平06-308719(JP,A)
【文献】特開2006-267179(JP,A)
【文献】特開平11-052553(JP,A)
【文献】特開平11-038598(JP,A)
【文献】特開2004-240010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームの一端面側に配された粘着層、及び前記粘着層を覆うように配された剥離フィルムを有するペリクルを収納するペリクルケースであって、
前記ペリクルを前記剥離フィルム側を対向させて載置するためのトレイ、
前記トレイを覆うためのカバー、及び、
前記トレイと前記カバーの間に配置され、前記剥離フィルムを前記トレイ側に保持することにより前記ペリクルを前記トレイ側に保持する、非粘着性の保持ユニットを備え、
前記保持ユニットは、前記トレイの表面形状に係合する係合部と、前記剥離フィルムを一方の面側から押圧する押圧部と、を有するプレート部材、及び、前記剥離フィルムと前記トレイとの間に配される、静電気が帯電されたシート部材、から成る群から選択される少なくとも一つを備えることを特徴とするペリクルケース。
【請求項2】
前記保持ユニットは、前記剥離フィルムを前記トレイ側に押圧する
押圧力をワンタッチ操作で制御可能なワンタッチ機構を備える、請求項1に記載のペリクルケース。
【請求項3】
前記ワンタッチ機構は、互いに対応するプラグ及びソケットを有するカムロックファスナーを備える、請求項2に記載のペリクルケース。
【請求項4】
前記トレイは、前記剥離フィルムに形成された貫通孔に挿通可能な凸部を有し、
前記凸部の内部に、前記カムロックファスナーの前記ソケットが設けられている、請求項3に記載のペリクルケース。
【請求項5】
前記保持ユニットは、前記トレイの表面形状に係合する係合部と、前記剥離フィルムを一方の面側から押圧する押圧部と、を有するプレート部材を備え、
前記押圧部に、前記カムロックファスナーの前記プラグが設けられている、請求項3または4に記載のペリクルケース。
【請求項6】
前記プレート部材の前記係合部は、前記トレイと前記カバーとによる嵌合形状に対応した、少なくとも3つ以上の折れ曲がり部を有する、請求項1に記載のペリクルケース。
【請求項7】
前記保持ユニットは、前記トレイに配置される前記ペリクルの前記フレームの側面に設けられた非貫通のピン挿入孔に、ピンを挿入して固定するためのピン保持機構を更に備える、請求項1~6のいずれか1項に記載のペリクルケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクルケース、保持ユニットおよび剥離フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
大規模集積回路(LSI)等の製造工程では、フォトマスクを防塵するため、ペリクルが用いられる。ペリクルは、一般に、ペリクル枠と、ペリクル枠の一端側に配された、透明な薄膜であるペリクル膜と、ペリクル枠の他端側(ペリクル枠のペリクル膜とは反対側)に配された、フォトマスクに張り付けられるための粘着層と、を有する。
【0003】
ペリクルは、ペリクルケースに保持されることができる。ペリクルケースにペリクルを保持するための手法として、例えば、特許文献1に記載の手法が知られている。該手法では、ペリクルの粘着層に保護フィルム(以下、「ライナー」と称することがある)が張り付けられたうえでペリクルがペリクルケースに載置され、そして、そのライナーの一部がペリクルケースに粘着性テープで固定される。ペリクルをペリクルケースから取り出すと、ペリクルの粘着層からライナーが剥がれるとともに、該粘着性テープによってライナーがペリクルケースに残される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、特許文献1に記載の手法において、ペリクルをペリクルケースから取り出すと、ペリクルの粘着層からライナーが剥がれるとともに、粘着性テープによってライナーがペリクルケースに残される。ここで、発明者は、各種の状況に応じて、ライナーをペリクルケースに残しながらペリクルを取り出すのが望まれる場合だけでなく、ライナー及びペリクルをペリクルケースから取り出す(ライナーごとペリクルを取り出す)のが望まれる場合が存在することに着目した。
【0006】
しかしながら、ペリクルをトレイに粘着性テープにて収納する場合、テープを貼る個所が多いため収納の際に時間を要する。収納の際に時間を要すると、異物付着のリスクが生じる場合がある。
【0007】
また、特許文献1に記載の手法であると、ライナーごとペリクルをペリクルケースから取り出すのが難しい。これに関連して、特許文献1に記載の手法において、ペリクルを取り出す前に、ライナーの一部をペリクルケースに張り付けるためのテープを剥がすことが考えられる。ただ、この場合、粘着性テープを剥がすことによって、粘着性テープの粘着成分が飛散するとともに飛散した粘着成分によってペリクル膜が汚染される可能性が生じる場合もある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、本発明の目的は、保管、輸送時には、ペリクルをケースに好適に保持することができ、他方、取り出す際には糊飛びなくペリクルをケースから好適に取り出すことができる、ペリクルケース、保持ユニットおよび剥離フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、非粘着性の保持ユニットを用いてペリクルの剥離フィルムを保持することで、保管、輸送時の好適な保持と、好適な取り出しとを両立できることを見出し、本発明を成すに至ったものである。
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]
フレームの一端面側に配された粘着層、及び前記粘着層を覆うように配された剥離フィルムを有するペリクルを収納するペリクルケースであって、
前記ペリクルを前記剥離フィルム側を対向させて載置するためのトレイ、
前記トレイを覆うためのカバー、及び、
前記トレイと前記カバーの間に配置され、前記剥離フィルムを前記トレイ側に保持することにより前記ペリクルを前記トレイ側に保持する、非粘着性の保持ユニットを備え、
前記保持ユニットは、前記トレイの表面形状に係合する係合部と、前記剥離フィルムを一方の面側から押圧する押圧部と、を有するプレート部材、及び、前記剥離フィルムと前記トレイとの間に配される、静電気が帯電されたシート部材、から成る群から選択される少なくとも一つを備えることを特徴とするペリクルケース。
[2]
前記保持ユニットは、前記剥離フィルムを前記トレイ側に押圧する押圧力をワンタッチ操作で制御可能なワンタッチ機構を備える、[1]に記載のペリクルケース。
[3]
前記ワンタッチ機構は、互いに対応するプラグ及びソケットを有するカムロックファスナーを備える、[2]に記載のペリクルケース。
[4]
前記トレイは、前記剥離フィルムに形成された貫通孔に挿通可能な凸部を有し、
前記凸部の内部に、前記カムロックファスナーの前記ソケットが設けられている、[3]に記載のペリクルケース。
[5]
前記保持ユニットは、前記トレイの表面形状に係合する係合部と、前記剥離フィルムを一方の面側から押圧する押圧部と、を有するプレート部材を備え、
前記押圧部に、前記カムロックファスナーの前記プラグが設けられている、[3]または[4]に記載のペリクルケース。
[6]
前記プレート部材の前記係合部は、前記トレイと前記カバーとによる嵌合形状に対応した、少なくとも3つ以上の折れ曲がり部を有する、[1]に記載のペリクルケース。
[7]
前記保持ユニットは、前記トレイに配置される前記ペリクルの前記フレームの側面に設けられた非貫通のピン挿入孔に、ピンを挿入して固定するためのピン保持機構を更に備える、[1]~[6]のいずれかに記載のペリクルケース。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保管、輸送時には、ペリクルをケース内で好適に保持することができ、取り出す際には糊飛びなくケースから好適に取り出することが可能なペリクルケース、保持ユニットおよび剥離フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】トレイにペリクルを載置した状態を示す断面図。
【
図4】ペリクルケースにペリクルを収納した状態を示す断面図。
【
図5】ペリクルケースからペリクルを取り出す状態を示す断面図。
【
図7】ペリクルケースの他の実施形態を示す断面図。
【
図9】ペリクルケースの他の実施形態を示す断面図。
【
図10】ペリクルケースの他の実施形態を示す断面図。
【
図11】ペリクルケースの他の実施形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記する。)について説明する。本発明は、以下の実施形態のみに限定されず、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。各図中、同一の構成要素に対しては同一の符号を付し、また、重複する説明は省略する場合がある。
【0013】
[第1実施形態]
本実施形態に係るペリクルの概要を説明する。
図1(a)は、ペリクル1を示す上面図であり、
図1(b)は、縦断面図である。
なお、以下の説明においては、各図における上側を「上」とし、下側を「下」として説明する。
【0014】
<ペリクル>
ペリクル1は、フォトリソグラフィ等においてフォトマスクの防塵を行う構造体である。ペリクル1は、ペリクル枠2と、ペリクル膜3と、粘着層4と、剥離フィルム5とを備えている。
【0015】
ペリクル枠2は、ペリクル膜3をペリクル枠2に張設することができるような任意の形態を有することができ、例えば、枠の正面視では、方形、多角形、円形、楕円形等の外形を有することができる。方形は、正方形、長方形等であり、角が直角の場合と、角が丸みを帯びている略方形(
図1)の場合と、の両方を有することができる。多角形は、三角形、台形、平行四辺形、五角形、六角形等である。
【0016】
ペリクル枠2及びその開口部のサイズは、フォトマスクのサイズに応じて定められることができる。ペリクル枠2が、正面視において一対の長辺と一対の短辺からなる長方形状である場合には、長辺長が500mm~2000mmであり、短辺長が300mm~1800mmであり、長辺と短辺の幅が、それぞれ4.0mm~20.0mmであり、かつ/又は枠の高さが2.0mm~8.0mmであることができる。
【0017】
図1に示されるように、ペリクル枠2は、縁部を有する。縁部は、直線状に延びる棒状の縁部材を有することができる。一対の縁部材は、互いに間隔を空けて平行に配置されることができ、同様に、他の一対の縁部材も互いに間隔を空けて平行に配置されることができる。接触している2つの縁部材は、互いに略直角を成すように端部が接続されることができる。
【0018】
ペリクル枠2及びその縁部材は、例えば、アルミニウム;アルミニウム合金(例えば5000系、6000系、7000系等);鉄鋼;ステンレス鋼;マグネシウム合金;セラミックス(例えばSiC、AlN、Al2O3等);セラミックスと金属との複合材料(例えば、Al-SiC、Al-AlN、Al-Al2O3等);PE、PA、PC、PEEK等のエンジニアリングプラスチック;GFRP、CFRP等の繊維複合材料;又はこれらの組み合わせ等の既知の材料で形成されることができる。
【0019】
ペリクル枠2の内周面又は全面には、必要に応じて、異物を捕捉するための粘着剤(例えば、アクリル系、酢酸ビニル系、シリコーン系、ゴム系粘着剤等)、又はグリース(例えば、シリコーン系、フッ素系グリース等)を塗布してよい。
【0020】
ペリクル膜3は、ニトロセルロース、セルロース誘導体、フッ素ポリマー等によって形成された透明な薄膜である。ペリクル膜3は、その厚みが10μm以下であり、フォトリソグラフィにおいて光源が発する光を十分に透過させるように形成されている。
図1(b)に示すように、ペリクル膜3は、図示しない粘着剤によりペリクル枠2の一端側に接着及び固定され、ペリクル枠2を覆っている。
【0021】
図1(b)に示すように、ペリクル枠2の他端側(ペリクル枠2のペリクル膜3とは反対側)には、ペリクル1をフォトマスクに貼り付けるための粘着層4が配されている。
【0022】
粘着層4は、アクリル系、ゴム系、ビニル系、エポキシ系、シリコーン系等の接着剤を含んで構成されており、より好ましい構成材料は、アクリル系、ゴム系、シリコーン系等である。粘着層4の厚みは、例えば、0.8mm~2.5mmであることが好ましい。
【0023】
粘着層4を覆うように、剥離フィルム5(ライナー)が配されている。この剥離フィルム5は非使用時には粘着層4を保護するとともに、ペリクル1の使用時には粘着層4から剥離される。
剥離フィルム5には、一般的にはポリエステルなどの厚さ30~200μm程度のフィルムが用いられる。また、粘着層4から剥離フィルム5を剥がす際の剥離力が大きいと、剥がす際に粘着層4が変形するおそれがあるため、適切な剥離力になるように、粘着剤と接するフィルム表面にシリコーンやフッ素などの離型処理を行ってもよい。
【0024】
剥離フィルム5は、粘着層4よりも大きい幅を有し、粘着層4からペリクル枠2の外周側にはみ出すように配されている。
後述するように、ペリクル1をペリクルケース10に収納する際に、非粘着性の保持ユニットによって剥離フィルム5、具体的には、粘着層4からはみ出した部分をトレイ20側に保持することにより、ペリクル1はトレイ20側に保持される。
【0025】
以上の説明のように構成されたペリクル1は、ペリクルケース10に保持された状態で搬送、保管されることができる。
【0026】
<ペリクルケース>
(ペリクルケースの構成)
図2~
図6を参照しながら、本実施形態に係るペリクルケースの概要を説明する。
図2は、ペリクルケースの一例を示す縦断面図である。
図3は、ペリクルケースのトレイにペリクルを保持させた状態を示す縦断面図であり、
図4は、ペリクルケースにペリクルを保持させた状態を示す縦断面図である。
図5は、ペリクルケースからペリクルを取り出す状態を示す縦断面図である。
【0027】
ペリクル1を収納するペリクルケース10は、ペリクル1を載置するためのトレイ20を備える。ペリクル1は、剥離フィルム5側を対向させてトレイ20に載置される。
そして本発明のペリクルケース10は、剥離フィルム5をトレイ20側に保持することによりペリクル1をトレイ20側に保持する非粘着性の保持ユニットを備える。
ここで、「非粘着性」とは、「剥離フィルム5をトレイ20に張り付けて固定するための粘着性テープを含まない」という趣旨である。
【0028】
保持ユニットは、剥離フィルム5との接触面が、粘着成分を含まない非粘着面とされており、剥離フィルム5をトレイ20側に保持することによりペリクル1を前記トレイ20側に保持する。
【0029】
非粘着性の保持ユニットによりペリクル1をトレイ20側に保持することで、ペリクル1をペリクルケース10から取り出す際の粘着成分の飛散(糊飛び)や、飛散した粘着成分によってペリクル膜3が汚染されることが防止される。
【0030】
保持ユニットは、例えば、剥離フィルム5をトレイ20側に押圧する押圧力、剥離フィルム5をトレイ20側に引き寄せる静電気力、及び、剥離フィルム5をトレイ20側に引き寄せる磁力、から成る群から選択される少なくとも一つを利用して、ペリクル1をトレイ20に保持するものである。
【0031】
上記のような非粘着性手段によりペリクル1をトレイ20側に保持することで、ペリクル1をペリクルケース10に好適に保持することができ、他方、ペリクル1をペリクルケース10から取り出す際の糊飛びを抑えて、好適に取り出すことができる。
【0032】
また、上記のような非粘着性手段によれば、ペリクル1をペリクルケース10から取り出す際に、剥離フィルム5をトレイ20側に残すか残さないかを、特別な機構や大きな手間を必要とせず切り替え可能であり、機械による作業、人による手作業かに応じて適宜選択することができる。
【0033】
図2に示すように、ペリクルケース10は、トレイ20を覆うためのカバー30を更に有している。トレイ20は、その中央に、ペリクル1を載置するための領域を有することができ、その周縁に、カバー30と互いに嵌め合うための領域を有することができる。
【0034】
トレイ20及びカバー30は、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、アクリル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等の樹脂材料によって形成されている。
【0035】
トレイ20及びカバー30の厚みは、ペリクル1を搬送又は保管するときに生じ得る振動及び衝撃からペリクル1を保護できる程度の値が好ましく、例えば、2.0~10.0mmであることが好ましい。
トレイ20及びカバー30の平面形状及び大きさは、保持されるペリクル1の形状及び大きさに応じて、適宜決定される。
【0036】
トレイ20は、ペリクル1を保持するための固定面21を有し、固定面21の周縁部には、凹凸形状を有する嵌合部24が形成されている。固定面21は、トレイ20におけるペリクル1が載置される側の最表面を意味する。
【0037】
カバー30は、トレイ20に嵌め合わせたときに、トレイ20の固定面21に略平行な天井面31を有し、天井面31の周囲には、天井面31に連続する斜面32を有している。また、カバー30の周縁には、凹凸形状を有する嵌合部33が形成されている。カバー30の周縁に形成された嵌合部33と、トレイ20の周縁に形成された嵌合部24とは嵌め合い可能である。
【0038】
カバー30とトレイ20とが互いに嵌め合わされることで、カバー30とトレイ20との間に、ペリクル1を収容するための空間11が形成される(
図4参照)。
【0039】
(ペリクルケースへのペリクルの収容)
図3及び
図4は、ペリクルケース10にペリクル1を収納した状態を示す図である。ペリクルケース10の収納空間11において、ペリクル1は、トレイ20の中央部の固定面21に配置される。
【0040】
本実施形態に係る保持ユニットは、トレイ20の表面形状に係合する係合部41と、剥離フィルム5を一方の面側から押圧する押圧部42と、を有するプレート部材40を備える。
【0041】
そして、
図3に示すように、トレイ20に載置されたペリクル1の剥離フィルム5上にプレート部材40の一端側(押圧部42)を配し、プレート部材40の他端側(係合部41)をトレイ20とカバー30との間、すなわち、嵌合部24と嵌合部33との間に挟み込むことで、
図4に示すように、プレート部材40によって剥離フィルム5がトレイ20側に押圧され、これによりペリクル1をトレイ20側に保持する。
【0042】
なお、プレート部材40の係合部41をカバー30で固定した際に、プレート部材40の押圧部42、すなわち、剥離フィルム5を押圧する側が固定面21に対して少し浮きあがってしまい、剥離フィルム5を固定する力が弱くなってしまう場合がある(
図6参照)。
そこで、プレート部材40の係合部41は、トレイ20とカバー30とによる嵌合形状(嵌合部24、嵌合部33)に対応した、少なくとも3つ以上の折れ曲がり部41aを有するものであることが好ましい。
これにより、プレート部材40の係合部41をトレイ20とカバー30との間に挟み込んで固定した際に、プレート部材40の押圧部42側が浮き上がることが防止され、剥離フィルム5を十分に押圧して固定することができる。
【0043】
また、プレート部材40の押圧部42が浮き上がったときに固定面21に対して略平行となるように、浮き上がり分を見越した角度を予め設定しておいてもよい。これにより、プレート部材40の係合部41をトレイ20とカバー30との間に挟み込んで固定した際に、プレート部材40の押圧部42が固定面21に対して略平行となり剥離フィルム5を十分に押圧して固定することができる。
【0044】
図4に示すように、ペリクル1が載置されたトレイ20を、カバー30で覆うことができる。これにより、ペリクル1への塵の付着を抑制し易くなるとともに、搬送及び保管中の振動及び衝撃等からペリクル1を保護し易くなる。
【0045】
カバー30は、トレイ20をカバー30で覆ったとき、斜面32の一部が、トレイ20に載置されるペリクル1のペリクル枠2の少なくとも一部に当接する当接部32aとされていることが好ましい。これにより、トレイ20をカバー30で覆うことで、当接部32aによってペリクル1をトレイ20側に押し付けることができ、よって、ペリクル1が搬送中にペリクルケース10内で動くことがより確実に抑制される。
【0046】
更に、ペリクル1のペリクル枠2の側面に、非貫通のピン挿入孔を設けておき、ペリクルケース10のトレイ20に配置されたペリクル1を、このピン挿入孔にピンを挿入して固定することが好ましい。これにより、搬送中の振動等により、ペリクル1がペリクルケース10内で動くことがより確実に抑制される。
【0047】
そして、ペリクル1をペリクルケース10から取り出すとき、特に剥離フィルム5をトレイ20側に残さない場合には、
図5(a)に示すように、プレート部材40を解除した状態でペリクル1を持ち上げる。剥離フィルム5はプレート部材40による押圧から解放されているので、ペリクル1は剥離フィルム5とともに持ち上げられる。
【0048】
また、剥離フィルム5をトレイ20側に残す場合には、
図5(b)に示すように、プレート部材40を解除しないまま、ペリクル1を持ち上げる。剥離フィルム5はプレート部材40により押圧された状態なので、ペリクル1の粘着層4から剥離されてトレイ20側に残る。
【0049】
このように、ペリクル1をペリクルケース10から取り出す際に、剥離フィルム5をトレイ20側に残すか残さないかを、特別な機構や大きな手間を必要とせず切り替え可能であり、機械による作業、人による手作業かに応じて適宜選択することができる。
【0050】
また、剥離フィルム5の固定に粘着性のテープを使用していないので、剥離フィルム5ごと持ち上げても糊飛びが発生しない。
【0051】
[第2実施形態]
図面を参照しながら、ペリクルケースの第2実施形態の概要を説明する。
本実施形態のペリクルケースは、トレイおよびカバーについては、上述した第1実施形態と実質的に同様であるが、ペリクルをトレイ側に保持する保持ユニットの態様が異なる。
そこで、以下の説明では、上述した第1実施形態と異なる部分について主に説明し、共通する部分についてはその説明を省略する。以下の第3~第5実施形態についても同様である。
【0052】
図7は、本実施形態のペリクルケースの一例を示す縦断面図である。
図7では、ペリクルケースのうち保持ユニットの部分のみを抜き出して示している。
【0053】
本実施形態では、保持ユニットは、剥離フィルム5をトレイ20側に押圧する押圧力をワンタッチ操作で制御可能なワンタッチ機構を備える。
ワンタッチ機構は、例えば、互いに対応するプラグ51及びソケット54を有するカムロックファスナー50である。
【0054】
図8は、カムロックファスナー50の一例を示す斜視図である。
カムロックファスナー50は、プラグ51とソケット54とを備える。
ソケット54は、挿入口55を有する。
【0055】
プラグ51は、挿入部52と、押しボタン53と、を備える。挿入部52は、ソケット54の挿入口55に挿入される部分である。押しボタン53は、挿入部52が挿入口55に挿入されている状態において押されることでソケット54およびプラグ51の接続および解除をワンタッチで切り替える部材である。押しボタン53による接続および解除の切替えは、工具を必要としない。
【0056】
本実施形態において、トレイ20は、固定面21から突出して設けられた凸部22を有し、該凸部22の内部に、カムロックファスナー50のソケット54が配されている。この凸部22は、位置決めピンを兼用可能である。位置決めピンは、固定面21に載置が予定されるペリクル1の外形に沿って配されており、これらの位置決めピンによってペリクル1の位置を規定することができる。
【0057】
本実施形態のペリクルケース10は、プレート部材40を備え、プレート部材40の押圧部42に、カムロックファスナー50のプラグ51が一体に設けられている。プレート部材40を用いることで、カムロックファスナー50のみの場合に比べて、剥離フィルム5を面で押さえることができ、ペリクル1をより確実に固定することができる。
【0058】
また、プラグ51がプレート部材40に一体に設けられているので、カムロックファスナー50を解除した際などに、小さな部品であるプラグ51の紛失等を防止することができる。
もちろん、本発明はこれに限定されず、プレート部材40を配さず、カムロックファスナー50のみによって剥離フィルム5を固定しても構わない。
【0059】
ペリクル1の剥離フィルム5には、凸部22が挿通可能な貫通孔5aを予め形成しておき、この貫通孔5aに凸部22及びソケット54が挿通された状態で、プラグ51の挿入部52を、ソケット54の挿入口55に挿入するように、プレート部材40を配する。挿入部52が挿入口55に挿入されたプラグ51の押しボタン53を押すこと(ワンタッチ)で、ソケット54およびプラグ51を接続させる。これにより、剥離フィルム5がトレイ20の固定面21に押圧され、これによりペリクル1をトレイ20側に保持する。
【0060】
また、ペリクル1をペリクルケース10から取り出す際に、剥離フィルム5をトレイ20側に残すか残さないかを、特別な機構や大きな手間を必要とせず切り替え可能であり、機械による作業、人による手作業かに応じて適宜選択することができる。
【0061】
すなわち、剥離フィルム5をトレイ20側に残す場合には、カムロックファスナー50を解除しないまま、ペリクル1を持ち上げる。剥離フィルム5はカムロックファスナー50およびプレート部材40により押圧された状態なので、ペリクル1の粘着層4から剥離されてトレイ20側に残る。
【0062】
一方、剥離フィルム5をトレイ20側に残さない場合には、カムロックファスナー50を解除して取り外す。接続されているプラグ51の押しボタン53を押すこと(ワンタッチ)で、ソケット54およびプラグ51の接続が解除される。プレート部材40が配されている場合には取り外す。この状態でペリクル1を持ち上げると、剥離フィルム5はカムロックファスナー50およびプレート部材40による押圧から解放されているので、ペリクル1は剥離フィルム5とともに持ち上げられる。
【0063】
また、剥離フィルム5の固定に粘着性のテープを使用していないので、剥離フィルム5ごと持ち上げても糊飛びが発生しない。
【0064】
[第3実施形態]
図面を参照しながら、ペリクルケースの第3実施形態の概要を説明する。
図9は、本実施形態のペリクルケースの一例を示す縦断面図である。
図9は、ペリクルケースのうち保持ユニットの部分のみを抜き出して示している。
なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と異なる部分について主に説明し、共通する部分についてはその説明を省略する。
【0065】
本実施形態では、保持ユニットは、トレイ20の表面形状に係合する係合部41と、剥離フィルム5を一方の面側から押圧する押圧部42と、を有するプレート部材40を備える。本実施形態では、プレート部材40は磁性材料を含んで構成される。
【0066】
そしてさらに、本実施形態では、保持ユニットは、トレイ20の内部又は外部の少なくとも一方、
図9に示す例ではトレイ20の固定面21とは反対側の面に配された磁石部材60(プレート部材用磁石部材)を有する。磁石部材60の極性は、該プレート部材40を構成する磁性材料と引き合うようにする。磁石部材60の磁力によってプレート部材40、特に押圧部42がトレイ20側に引き寄せられ、そしてプレート部材40によって剥離フィルム5がトレイ20側に押圧され、これによりペリクル1をトレイ20側に保持する。
【0067】
具体的には、例えば、トレイ20の固定面21とは反対側の面に補強板61を設け、その内部にネオジウム磁石等からなる磁石部材60をトレイ20表面とほぼ同じ高さとなるように配する。また、剥離フィルム5を挟みこむ形でプレート部材40を、係合部41と押圧部42との間で開閉できる可動治具43を設け、この可動治具43の開閉で剥離フィルム5のロック、アンロック動作を繰り返すことができる。なお、磁石部材60と可動治具43との間にトレイ20が存在すると接着力が弱くなってしまうため、剥離フィルム5を可動治具43で直接挟みこむことが好ましい。
【0068】
なお、本実施形態では、磁石部材60によりプレート部材40の押圧部42をトレイ20側に引き寄せているので、上述したような(第1実施形態)、プレート部材40の係合部41をカバー30で固定した際の押圧部42の浮き上がりの問題は生じない。そのため、本実施形態の係合部41は、折れ曲がり部41aを有していなくてもよい。
【0069】
また、ペリクル1をペリクルケース10から取り出す際に、剥離フィルム5をトレイ20側に残すか残さないかを、プレート部材40の可動治具43の開閉によって簡単に切り替え可能であり、機械による作業、人による手作業かに応じて適宜選択することができる。
【0070】
すなわち、剥離フィルム5をトレイ20側に残す場合には、可動治具43を閉じたまま、ペリクル1を持ち上げる。剥離フィルム5はプレート部材40の押圧部42により押圧された状態なので、ペリクル1の粘着層4から剥離されてトレイ20側に残る。
【0071】
一方、剥離フィルム5をトレイ20側に残さない場合には、可動治具43を開いた状態でペリクル1を持ち上げる。剥離フィルム5はプレート部材40の押圧部42による押圧から解放されているので、ペリクル1は剥離フィルム5とともに持ち上げられる。
【0072】
また、剥離フィルム5の固定に粘着性のテープを使用していないので、剥離フィルム5ごと持ち上げても糊飛びが発生しない。
【0073】
[第4実施形態]
図面を参照しながら、ペリクルケースの第4実施形態の概要を説明する。
図10は、本実施形態のペリクルケースの一例を示す縦断面図である。
図10では、ペリクルケースのうち保持ユニットの部分のみを抜き出して示している。
なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と異なる部分について主に説明し、共通する部分についてはその説明を省略する。
【0074】
本実施形態では、保持ユニットは、剥離フィルム5とトレイ20との間に配され、静電気が帯電されたシート部材(以下、静電シートと称する)70を備える。
【0075】
トレイ20と剥離フィルム5との間に静電シート70を配することで、静電シート70の静電気力によって剥離フィルム5がトレイ20側に引き寄せられ、これによりペリクル1をトレイ20側に保持する。
【0076】
静電シート70は、トレイ20および剥離フィルム5とは別体としてトレイ20と剥離フィルム5との間に挟み込んでもよいし、ペリクル1の剥離フィルム5において、粘着層4とは反対側の面、すなわちトレイ20の固定面21に 対向する側の面に予め静電シート70が貼り付けられたものであってもよい。
【0077】
静電シート70は、その種類や帯電量を適宜選択することにより吸着力を調節可能であり、例えば、粘着層4と剥離フィルム5との粘着力と、静電シート70による剥離フィルム5の吸着力との大小関係を適宜調整することで、ペリクル1のトレイ20からの取り出し時に剥離フィルム5を残すまたは残さないを調節可能であり、機械による作業、人による手作業かに応じて適宜選択することができる。
【0078】
静電シート70としては、PET、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、PVC、PTFE等の樹脂シートの表面に静電気が静電されているものを選択でき、または、トレイ20の表面に所定の静電層を設けることにより静電シート70を形成してもよい。また、トレイ20の表面に、静電層ではなく自己粘着性を有する樹脂層を設けることにより静電シート70を形成してもよい。
【0079】
すなわち、剥離フィルム5をトレイ20側に残す場合には、静電シート70による剥離フィルム5の吸着力を、粘着層4と剥離フィルム5との粘着力よりも大きくすればよい。一方、剥離フィルム5をトレイ20側に残さない場合には、静電シート70による剥離フィルム5の吸着力を、粘着層4と剥離フィルム5との粘着力よりも小さくすればよい。
【0080】
また、剥離フィルム5の固定に粘着性のテープを使用していないので、剥離フィルム5ごと持ち上げても糊飛びが発生しない。
【0081】
[第5実施形態]
図面を参照しながら、ペリクルケースの第5実施形態の概要を説明する。
図11は、本実施形態のペリクルケースの一例を示す縦断面図である。
図11では、ペリクルケースのうち保持ユニットの部分のみを抜き出して示している。
なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と異なる部分について主に説明し、共通する部分についてはその説明を省略する。
【0082】
本実施形態では、保持ユニットは、トレイ20の固定面21とは反対側の面に配された磁石部材80(剥離フィルム用磁石部材)を備える。
剥離フィルム5を、磁性材料を含んで構成し、トレイ20の固定面21とは反対側の面に磁石部材80を配することで、磁力によって剥離フィルム5がトレイ20側に引き寄せられ、これによりペリクル1をトレイ20側に保持する。
【0083】
具体的には、例えば、トレイ20の固定面21とは反対側の面に補強板81を設け、その内部にネオジウム磁石等からなる磁石部材80をトレイ20の表面とほぼ同じ高さとなるように配する。剥離フィルム5を磁性材料を含んで構成する場合、磁石部材80の極性は、該磁性材料と引き合うようにする。
【0084】
本実施形態に係る保持ユニットは、他の実施形態と比較して、構造がシンプルであること、生産性に優れることなどがメリットとして挙げられる。
【0085】
粘着層4と剥離フィルム5との粘着力と、磁石部材80による剥離フィルム5の吸着力との大小関係を適宜調整することで、ペリクル1のトレイ20からの取り出し時に剥離フィルム5を残すまたは残さないを調節可能であり、機械による作業、人による手作業かに応じて適宜選択することができる。
【0086】
すなわち、剥離フィルム5をトレイ20側に残す場合には、磁石部材80による剥離フィルム5の吸着力を、粘着層4と剥離フィルム5との粘着力よりも大きくすればよい。一方、剥離フィルム5をトレイ20側に残さない場合には、磁石部材80による剥離フィルム5の吸着力を、粘着層4と剥離フィルム5との粘着力よりも小さくすればよい。
【0087】
また、剥離フィルム5の固定に粘着性テープを使用していないので、剥離フィルム5ごと持ち上げても糊飛びが発生しない。
【0088】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した各実施形態を複数、組み合わせて適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によるペリクルケースを用いることで、ペリクルをペリクルケース又はトレイに好適に保持させることができ、他方、ペリクルをペリクルケースから好適に取り出すことができるので、ペリクルの搬送、保管用ケースとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 ペリクル
2 ペリクル枠
3 ペリクル膜
4 粘着層
5 剥離フィルム
5a 貫通孔
10 ペリクルケース
11 収納空間
20 トレイ
21a 固定面
24 嵌合部
30 カバー
31 天井面
32 斜面
32a 当接部
33 嵌合部
40 プレート部材
41 係合部
41a 折れ曲がり部
42 押圧部
43 可動治具
50 カムロックファスナー
51 プラグ
52 挿入部
53 押しボタン
54 ソケット
55 挿入口
60 磁石部材(プレート部材用磁石部材)
61 補強板
70 静電シート
80 磁石部材(剥離フィルム用磁石部材)
81 補強板