(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】層状複水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/785 20220101AFI20240815BHJP
B01J 41/10 20060101ALI20240815BHJP
C01G 9/00 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
C01F7/785
B01J41/10
C01G9/00 B
(21)【出願番号】P 2020117853
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-04-04
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231198
【氏名又は名称】日本国土開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕
(72)【発明者】
【氏名】范 亜南
(72)【発明者】
【氏名】大塚 みほ
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-000828(JP,A)
【文献】国際公開第2008/015784(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/026380(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/124192(WO,A1)
【文献】特開2018-101071(JP,A)
【文献】特開2006-068659(JP,A)
【文献】特開2021-028288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00 - 17/38
C01G 9/00
B01D 25/12 - 25/21
B01J 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性溶液とアルカリ性溶液とを混合して層状複水酸化物を製造する層状複水酸化物の製造方法において、
前記層状複水酸化物の圧縮気体を用いた圧搾工程に先立って、前記層状複水酸化物を圧力が0.2MPaから1.5MPaの液体を用いて洗浄する洗浄工程を含み、
前記洗浄工程の後に、前記層状複水酸化物の含水率が5%から30%になるように、前記層状複水酸化物を乾燥させる乾燥工程と、を含む層状複水酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程は、前記層状複水酸化物の含水率が8%から20%になるように、前記層状複水酸化物を乾燥させている請求項1記載の層状複水酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程は、前記圧搾工程の後に行われる請求項1または2記載の層状複水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は、真空乾燥により行われる請求項1から3のいずれか一項に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄工程で使用された前記液体の電気伝導率または前記層状複水酸化物の陰イオンとして塩化物イオンが含まれる場合に塩化物イオン濃度を検出する工程を含む請求項1から4のいずれか一項に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄工程は、1分間あたり20リットルから100リットルの前記液体を用いて行われる請求項1から5のいずれか一項に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は層状複水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状複水酸化物は、陰イオン交換作用を有していることが知られている。そして、この陰イオン交換作用によって、ヒ素、フッ素、ホウ素、セレン、六価クロム、亜硝酸イオン、その他の陰イオン系の有害物質を固定化すれば、廃棄物の安全性向上技術、無害化環境改善技術において、汚染水の水質改善、有害物質の溶出防止、土壌改良、廃棄物処分場での有害物質の安定化促進等に寄与できるものと期待されている。そして、層状複水酸化物の製造方法に関してはいくつかの提案がなされている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、層状複水酸化物の製造に関してはまだまだ改善の余地があり、顆粒状の層状複水酸化物が崩れてしまうという課題もある。また、層状複水酸化物により有害物質を取り除いた液体を飲料水にするという課題もある。
【0005】
そこで、本第1発明では、崩れにくい顆粒状の層状複水酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
また、本第2発明では、有害物質を取り除いた液体を飲料水にできる層状複水酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本第1発明に係る層状複水酸化物の製造方法は、酸性溶液とアルカリ性溶液とを混合して層状複水酸化物を製造する層状複水酸化物の製造方法であって、前記層状複水酸化物の圧縮気体を用いた圧搾工程に先立って、前記層状複水酸化物を圧力が0.2MPaから1.5MPaの液体を用いて洗浄する洗浄工程を含み、前記洗浄工程の後に、前記層状複水酸化物の含水率が5%から30%になるように、前記層状複水酸化物を乾燥させる乾燥工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0007】
本第1発明によれば、崩れにくい顆粒状の層状複水酸化物の製造方法を実現することができる。
本第2発明によれば、有害物質を取り除いた液体を飲料水にできる層状複水酸化物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本第1の実施形態の製造ライン1を表す概要図である。
【
図2】本第1の実施形態の処理部50の処理のフローチャートである。
【
図3】含水率6.4%の顆粒状の層状複水酸化物の通水前後の粒子径分布を示す図であり、(a)通水前の粒子径分布であり、(b)通水後の粒子径分布である。
【
図4】含水率11%の顆粒状の層状複水酸化物の通水前後の粒子径分布を示す図であり、(a)通水前の粒子径分布であり、(b)通水後の粒子径分布である。
【
図5】含水率26.4%の顆粒状の層状複水酸化物の通水前後の粒子径分布を示す図であり、(a)通水前の粒子径分布であり、(b)通水後の粒子径分布である。
【
図6】本第1の実施形態の汚染水浄化システム100を表す概要図である。
【
図7】第2の実施形態の実験で用いたサンプルの詳細について示す図である。
【
図8】第2の実施形態の実験の条件を示す図である。
【
図9】
図9(a)~
図9(c)は、実験1-1、1-2の結果を示す図である。
【
図14】第2の実施形態の実験結果をまとめた図である。
【
図15】第3の実施形態の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下に、本発明の第1の実施形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施形態により、本発明が限定されるものではない。
【0010】
本実施形態の層状複水酸化物を製造する製造ライン1は、層状複水酸化物を生成する生成部10と、生成された層状複水酸化物を洗浄するための液体を供給する液体供給部30と、生成された層状複水酸化物に各種処理を施す処理部50と、を有している。
【0011】
製造ライン1は、顆粒状の層状複水酸化物を製造するものである。製造ライン1で製造された顆粒状の層状複水酸化物は容器に充填される。この容器に汚染水が供給され、顆粒状の層状複水酸化物により汚染水の有害物質が除去され、工業用水や飲料水として利用される。本願出願人は、国際出願番号PCT/JP2017/046943(国際公開第2018/124190号)にて、層状複水酸化物などによりヒ素、鉄、マンガンなどの有害物質を飲用基準まで除去できることを開示した。本実施形態では、これらの有害物質の除去に加え、塩分も飲料に適する濃度まで除去するものであり、詳細は後述するものの、電気伝導率を5.7mS/cm以下にすることが好ましい。言い換えると、塩化物イオン濃度を200mg/L以下にすることが望ましい。
【0012】
また、本願出願人は、容器に充填された顆粒状の層状複水酸化物が汚染水の通水により、崩れてしまって粉状になり、容器内の通水を詰まらせてしまうという現象を確認した。詳細は後述するものの、本願出願人は、乾燥工程終了時の顆粒状の層状複水酸化物の含水率を5%から30%にすることにより、好ましくは乾燥工程終了時の顆粒状の層状複水酸化物の含水率を8%から20%にすることにより、より好ましくは乾燥工程終了時の顆粒状の層状複水酸化物の含水率を10%から20%にすることにより、通水による顆粒状の層状複水酸化物の崩れを使用上問題のないレベルまで抑制できることを見出した。
【0013】
(生成部)
本実施形態の生成部10は、2価の金属イオンと3価の金属イオンを含有する酸性溶液とアルカリ性溶液とを混合して、層状複水酸化物を製造するためのものであって、酸性溶液を供給する第1供給部11と、アルカリ性溶液を供給する第2供給部12と、回転軸13と羽根14とを有し、酸性溶液とアルカリ性溶液を撹拌して混合液とする回転攪拌部15と、回転攪拌部15の下方において、製造された層状複水酸化物の熟成を止めるために混合液の水素イオン指数を調節するpH調節部16と、で主に構成される。
【0014】
ここで、層状複水酸化物とは、一般式がM2+
1-xM3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(ここで、M2+は2価の金属、M3+は3価の金属、An-はn価の陰イオン、0<x<1、m>0)で表されるものを意味する。層状複水酸化物は、ハイドロタルサイト様化合物と呼ばれることもある。
2価の金属としては、例えば、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+等が挙げられる。
3価の金属としては、例えば、Al3+、Fe3+、Mn3+等が挙げられる。
陰イオンとしては、例えば、HCO3
-、PO4
3-、SO4
2-、Cl-、NO2
-、NO3
-等が挙げられる。
【0015】
酸性溶液に含まれる酸としては、水溶液を酸性とするものであれば良く、例えば、硝酸や塩酸等を用いることができる。
また、アルカリ性溶液に含まれるアルカリとしては、水溶液をアルカリ性とするものであれば良く、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどを用いることができる。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア水、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムなども用いることができる。これらアルカリはいずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0016】
具体的には、一般式がMg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物や、一般式Zn2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(An-はn価の陰イオン、m>0)で表される層状複水酸化物が挙げられる。
【0017】
第1供給部11は、別途調製された3価の金属イオンと2価の金属イオンを含有する酸性溶液を供給するものである。酸性溶液は、例えば酸性溶液調製槽で必要となる材料から2価の金属イオンと3価の金属イオンを調製および混合し、第1供給部11を介して回転攪拌部15に供給すれば良い。
【0018】
第2供給部12は、アルカリ性溶液を回転攪拌部15に供給するためのものである。アルカリ性溶液は、例えばアルカリ性溶液調製槽で必要となる材料から調製すればよい。
【0019】
第1供給部11および第2供給部122は、適宜酸性溶液およびアルカリ性溶液の流量を調節する流量調節装置を具備しても良い。流量調節装置としては、従来から知られている一般的なものを用いれば良く、例えば、流量調節弁等を用いることができる。
【0020】
回転攪拌部15は、回転軸13の下方に複数の羽根14を有し、所定速度で回転して、酸性溶液とアルカリ性溶液を速やかに撹拌し混合液とするものである。回転攪拌部15の回転軸13には、生成された層状複水酸化物が堆積し易い。そこで、回転軸13に層状複水酸化物が堆積するのを防止するために回転軸13の上方から水等の液体を供給して流し、回転軸13の表面を当該液体で覆うようにすれば良い。これにより、回転軸13の表面に層状複水酸化物が堆積するのを防止することができる。
【0021】
例えば、一般式が、Mg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(An-はn価の陰イオン、m>0)である層状複水酸化物を製造する場合には、まず、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含む酸性溶液を調製する。
【0022】
アルミニウムイオンのアルミニウム源としては、水中でアルミニウムイオンを生成するものであれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、アルミナ、アルミン酸ソーダ、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、ボーキサイト、ボーキサイトからのアルミナ製造残渣、アルミスラッジ等を用いることができる。また、これらアルミニウム源は、いずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
また、マグネシウムイオンのマグネシウム源としては、水中でマグネシウムイオンを生成する物であれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、ブルーサイト、水酸化マグネシウム、マグネサイト、マグネサイトの焼成物等を用いることができる。これらマグネシウム源は、いずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0024】
なお、前記アルミニウム源としてのアルミニウム化合物、マグネシウム源としてのマグネシウム化合物は、前記酸性溶液にアルミニウムイオン、マグネシウムイオンが存在していれば完全に溶解している必要はない。したがって、酸性溶液中に溶解していないアルミニウム化合物やマグネシウム化合物を含んでいても問題なく層状複水酸化物を製造することができる。
【0025】
また、Mg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表わされる高結晶質の層状複水酸化物は、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンのモル比が1:3(x=0.25)となっていることが知られている。したがって、酸性溶液中のアルミニウムイオンとマグネシウムイオンのモル比は、1:5から1:2の範囲とするのが好ましい。この範囲とすることによって、アルミニウム源とマグネシウム源を無駄にすることなく、物質収支的に有利に層状複水酸化物を製造することができる。なお、酸性溶液を酸性に調整するには、硝酸又は塩酸を用いるのが好ましい。
【0026】
アルカリ性溶液は、pHが8から14のものを調製するのが好ましい。ここで、アルカリ性溶液に含まれるアルカリとしては、水溶液をアルカリ性とするものであれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどを用いることができる。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア水、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムなども用いることができる。これらアルカリはいずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
この酸性溶液とアルカリ性溶液を所定の割合で混合することにより、層状複水酸化物が生成する。
【0027】
pH調節部16は、回転攪拌部15の下方に配置され、製造された層状複水酸化物の熟成を止めるために混合液の水素イオン指数を調節するためのものである。層状複水酸化物は、生成後の熟成時間を短くする程、結晶子サイズ(結晶子の大きさ)の小さいものを製造することができる。結晶子サイズが20nm以下、好ましくは10nm以下になるように、熟成を止めるのが好ましい。熟成を行わないようにするには、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、当該混合液のpHを層状複水酸化物の結晶成長が止まる値まで下げれば良い。
【0028】
例えば、一般式がMg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物は、pHを9以下とすれば熟成を止めることができる。また、一般式Zn2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物は、pHを5以下とすれば熟成を止めることができる。
【0029】
pH調節部16としては、例えば、水素イオン指数を調節可能な液体(pH調節液)を、製造された層状複水酸化物を含む混合液に供給するpH調節液供給流路を設ければ良い。pH調節液としては、熟成を止めるのに必要なpH以下の液体であればどのようなものでも良く、例えば、水や酸性溶液を用いれば良い。また、混合液のpHを下げることができる気体(pH調節気体)や、固体(pH調節固体)を用いることも可能である。また、pH調節液の流量を調節する量調節装置を適宜設けても良い。
【0030】
撹拌槽17は、内部に羽根14を収容し、酸性溶液とアルカリ性溶液を混合して層状複水酸化物を生成する。
pH調節槽18は、下部にpH調節部16が連接されるとともに、排出流路19とが連接されており、生成された層状複水酸化物のpHを下げることにより熟成を止めている。熟成を速やかに止めることにより、結晶子サイズの小さい層状複水酸化物を効率良く大量生産することができる。
【0031】
酸性溶液とアルカリ性溶液との混合液のオーバーフローによって製造されたスラリー状の層状複水酸化物はpH調節液とともに排出流路19からスラリー槽20に流入する。スラリー槽20に流入したスラリー状の層状複水酸化物はポンプ25により処理部50に搬送される。処理部50による処理の説明に先立って、液体供給部30につき説明を続ける。
【0032】
(液体供給部)
液体供給部30は、層状複水酸化物を洗浄するための液体を処理部50に供給するものであり、本実施形態においては液体として水を用いている。液体供給部30は、水を蓄えているタンク31と、タンク31に蓄えられた水を処理部50に搬送するポンプ32とを有しており、1分間あたり20リットルから100リットル、好ましくは1分間あたり30リットルから80リットル、より好ましくは40リットルから60リットルの水を処理部50に供給している。これは、液体供給部30が供給する水の流量が上述の下限値を下回ると層状複水酸化物の洗浄に時間がかかり、液体供給部30が供給する水の流量が上述の上限値を上回ると層状複水酸化物の洗浄コストが高くなるからである。
【0033】
液体供給部30が処理部50に水を供給する際の圧力は、0.2MPaから1.5MPa、好ましくは0.4MPaから1.0MPa、より好ましくは0.5MPaから0.8MPaである。水圧が上述の下限値を下回ると凝集している層状複水酸化物が顆粒状にならず、水圧が上述の上限値を上回ると後述のフィルタに水が通りにくく層状複水酸化物を洗浄できないからである。なお、液体供給部30が供給する水は水道水でもよく、精製水などでもよい。なお、自然水の電気伝導率が100μS/cmであるので、電気伝導率が200μS/cm以下、好ましくは100μS/cm以下、より好ましくは50μS/cm以下の水を用いることが好ましい。なお、水の電気伝導率の下限値をしては純水の電気伝導率である0.01μS/cmとすればよい。
【0034】
(処理部)
処理部50は、層状複水酸化物に濾過処理や、水洗処理や、圧搾処理や、乾燥処理などの各種処理を行うものである。処理部50は、流路を切り替える切替弁51と、処理本体52と、ろ布53と、開口部54と、排出部55と、圧縮気体供給部56と、などを有している。
【0035】
切替弁51は、本実施形態においては三方切替弁であり、処理部50からの層状複水酸化物と、液体供給部30からの水と、を切り替えて処理部50に供給するものである。
処理本体52は、ろ布53を内側に収容し、ろ布53に層状複水酸化物や水を供給するための開口部54を上部に備え、層状複水酸化物とともに供給されるpH調節液や、水を排出する排出部55と、圧搾処理のために圧縮気体を供給する圧縮気体供給部56を備えている。
【0036】
ろ布53は、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンなどの化学繊維を用いることができ、通気性が0.1から1cm
3/cm
2・secのものを用いることができる。
開口部54は、切替弁51に接続されており、層状複水酸化物と水とを選択的にろ布53に供給している。
排出部55は、処理本体52の下方に設けられ、ろ布53を通過した液体を処理本体52の外部に排出するものである。
図1では2つの排出部55を図示しているが、排出部の数は1つでもよく、3つ以上でもよい。
圧縮気体供給部56は、処理本体52の上方に形成され、不図示の圧縮気体供給源に接続されている。本実施形態では圧縮気体供給部56は、空気を供給するものとするが、他の気体を用いても構わない。また、
図1では2つの圧縮気体供給部56を図示しているが、圧縮気体供給部56の数は1つでもよく、3つ以上でもよい。
以上のように構成された本実施形態の製造ライン1の処理部50の処理につき説明を続ける。
【0037】
(フローチャートの説明)
図2は、本実施形態の処理部50の処理のフローチャートであり、このフローチャートは、処理部50の不図示の制御部の制御により実施されるものである。
制御部は、スラリー槽20に蓄えられたスラリー状の層状複水酸化物をろ布53に供給するように、切替弁51を切替る(ステップS1)。なお、切替弁51の切替操作はマニュアルにより行うようにしてもよい。
【0038】
ろ布53はpH調節液などの液体を通過させ、ろ布53を通過した液体は排出部55から排出される。このように、ろ布53を用いたフィルタープレスによる濾過が行われる(ステップS2)。ろ布53から層状複水酸化物が流出しないように、通気性が0.1から1cm3/cm2・secのろ布53を用いることが好ましい。
【0039】
濾過工程に引き続き、制御部は、液体供給部30からの水をろ布53に供給するように、切替弁51を切替えて、層状複水酸化物の洗浄(水洗)を行う(ステップS3)。なお、切替弁51の切替操作はマニュアルにより行うようにしてもよい。酸性溶液とアルカリ性溶液との混合により、層状複水酸化物が生成されるとともに、NaClも生成される。ステップS3の洗浄(水洗)工程では、NaClの除去が行われる。このとき、層状複水酸化物に付着したNaClも除去されるため、層状複水酸化物の陰イオン交換作用性が向上し、ヒ素、フッ素、ホウ素、セレン、六価クロム、亜硝酸イオン、その他の陰イオン系の有害物質を吸着する吸着性能を向上することができる。
【0040】
なお、本実施形態で製造された顆粒状の層状複水酸化物により有害物質が除去された液体を飲料水とする場合には、この液体のNaCl濃度を0.3%以下とする必要がある。このため、本実施形態で製造された顆粒状の層状複水酸化物を洗浄した液体のNaCl濃度を少なくとも0.3%以下とする必要がある。また、汚染水にもNaClが含まれている場合もあるので、顆粒状の層状複水酸化物を洗浄した液体のNaCl濃度を0.1%以下とするのが好ましい。顆粒状の層状複水酸化物を洗浄した液体のNaCl濃度を電気伝導率で表す場合は、NaCl濃度0.3%が電気伝導率を5.7mS/cmにほぼ対応するので、顆粒状の層状複水酸化物を洗浄した液体の電気伝導率は少なくとも5.7mS/cm以下にする必要があり、自然水とほぼ同等の電気伝導率が100μS/cm以下が好ましく、電気伝導率が50μS/cm以下となることがより好ましい。
【0041】
顆粒状の層状複水酸化物を洗浄した液体のNaCl濃度を塩化物イオン濃度で表す場合は、NaCl濃度0.3%が塩化物イオン濃度を200mg/Lにほぼ対応するので、顆粒状の層状複水酸化物を洗浄した液体の塩化物イオン濃度を200mg/L以下にする必要があり、自然水とほぼ同等の50mg/L~100mg/L以下が好ましく、0.1mg/L以下がより好ましい。
【0042】
ステップS3の洗浄工程は、ステップS2の濾過工程の後に行うことが水の量を減らすために好ましいが、濾過工程中に液体供給部30からの水をろ布53に供給してもよい。ステップS3の洗浄工程は、圧搾工程の前に行うことにより、効率的にNaClの除去および層状複水酸化物の吸着性能を向上することができる。なお、ろ布53に供給される層状複水酸化物の乾燥重量を100Kgとすると、1分間あたり20リットルから100リットルの水を数時間供給している。このため、洗浄工程で供給される水の重量は、層状複水酸化物の乾燥重量よりも多く、本実施形態においては、水の重量は、層状複水酸化物の乾燥重量の10倍以上であり100倍以下が好ましい。
【0043】
排出部55に電気の通りやすさを計測する電気伝導率計を設けて、洗浄工程で排出された水の電気伝導率を測定し、この測定値が50μS/cmから5.7mS/cmの範囲になるまで洗浄工程を行う。本実施形態においては、第1の所定値である200μS/cm以下、好ましくは150μS/cm以下、より好ましくは自然水の電気伝導率である100μS/cm以下になったら洗浄工程を終了するようにしている。
【0044】
また、電気伝導率計の測定値が第2の所定値である400μS/cm以下、好ましくは300μS/cm以下、より好ましくは200μS/cm以下になったら、不図示の切替弁を切替て、排出部55から排出される水をタンク31に循環させるようにしてもよい。この場合、不図示の切替弁とタンク31との間にフィルタや浄水器を設けるようにしてもよい。排出部55から排出される水をタンク31に循環させることにより、洗浄に用いる水の有効活用をすることができる。なお、本実施形態において、第2の所定値は第1の所定値よりも大きく設定されている。
【0045】
洗浄工程において、上述した流量や水圧などを用いることにより、本実施形態の洗浄工程を追加しても顆粒状の層状複水酸化物を提供することができる。
【0046】
制御部は、スラリー状の層状複水酸化物および液体供給部30からの水の供給が停止するように切替弁51を切り替えた後に、不図示の圧縮気体供給源からの圧縮空気を圧縮気体供給部56から導入する。圧縮気体供給部56からろ布53に圧縮空気が供給されることにより、ろ布53に収容された層状複水酸化物が圧搾される(ステップS4)。なお、本実施形態では、圧搾工程を処理本体52内で行ったが、処理本体52とは別の容器に層状複水酸化物を収容して、圧搾工程を行ってもよい。
【0047】
制御部は、圧搾工程に引き続き層状複水酸化物を乾燥する乾燥工程を実施する(ステップS5)。乾燥工程は、処理本体52内で行ってもよく、処理本体52外で行ってもよいが、本実施形態では処理本体52内で行うものとして説明を続ける。
処理本体52に不図示の真空吸着機構により、ろ布53内の蒸気を真空吸着するとともに、80℃から100℃の液体が処理本体52に循環する流路を設けることにより、層状複水酸化物を真空乾燥することができる。不図示の真空吸着機構により処理本体52内の気圧を下げることにより、低い温度で水分が蒸気となるので、効率的な乾燥を行うことができる。なお、不図示の真空吸着機構の駆動時には処理本体52の外部との連通を防ぐように開口部54などを蓋などにより覆うことが好ましい。
層状複水酸化物の乾燥は、80℃から150℃好ましくは100℃から120℃の熱風を吹きかけることにより行ってもよく、電磁波により行ってもよい。
【0048】
本実施形態において、乾燥工程に引き続き、層状複水酸化物を破砕する破砕工程や、層状複水酸化物を篩にかける篩工程などの工程を適宜加えることも可能である。
【0049】
前述したように、本願出願人は、乾燥工程終了時の顆粒状の層状複水酸化物の含水率を5%から30%にすることにより、通水による顆粒状の層状複水酸化物の崩れを使用上問題のないレベルまで抑制できることを見出した。以下、これにつき説明を続ける。
【0050】
図3は、含水率6.4%の顆粒状の層状複水酸化物の通水前後の粒子径分布を示す図であり、(a)通水前の粒子径分布であり、(b)通水後の粒子径分布である。ここで、縦軸が相対粒子量(%)であり、横軸が粒子径(μm)である。
なお、含水率6.4%の顆粒状の層状複水酸化物は、篩工程により篩分けされたものである。
図3(a)に示すように、通水前の粒子径分布は、370μmから1380μm程度であり、中央値(D50)は680μm程度である。この含水率6.4%の顆粒状の層状複水酸化物750gを不図示の容器に充填し、通水速度を3.0L/hrとし、総通水量を5.25m
3(通水倍率7000倍)にて通水実験を行った。なお、本実施形態においては水道水を用いて通水実験を行ったが、これに限定されるものではない。
【0051】
図3(b)に示すように、通水後の粒子径分布は、主に25μmから1080μm程度であり、中央値(D50)は180μm程度である。通水後の粒子径分布は、通水前に比べて小さくなっているものの、数μmから数十μmの粉状の層状複水酸化物は、あまり確認されず、不図示の容器内の通水を詰まらせてしまうことはなかった。このため、本願出願人は、含水率の下限値が5%までの顆粒状の層状複水酸化物であれば、顆粒状の層状複水酸化物の吸着性能(吸着可能時間)からして使用上問題ないことを見出した。なお、今後、顆粒状の層状複水酸化物の吸着性能が向上し、有害物質の吸着可能時間が延びることも予想される。このため、含水率の下限値は、8%もしくは10%とすることがより好ましい。
なお、通水前後の粒子径分布は、粒子径分布測定装置により測定することができる。この粒子径分布測定装置としては、レーザ回折式を適用することができる。
【0052】
次いで、含水率が11%および26.4%の顆粒状の層状複水酸化物の通水前後の粒子径分布について説明するが、含水率6.4%の顆粒状の層状複水酸化物と重複する説明および実質的に重複する説明については、省略もしくは簡略化して説明する。
図4は、含水率11%の顆粒状の層状複水酸化物の通水前後の粒子径分布を示す図であり、
図4(a)に示すように、通水前の粒子径分布は、370μmから1380μm程度であり、中央値(D50)は680μm程度である。
図4(b)に示すように、通水後の粒子径分布は、主に35μmから1300μm程度であり、中央値(D50)は260μm程度である。通水後の粒子径分布は、通水前に比べて小さくなっているものの、数μmから数十μmの粉状の層状複水酸化物は、ほとんど確認されず、不図示の容器内の通水を詰まらせてしまうことはなかった。
【0053】
図5は、含水率26.4%の顆粒状の層状複水酸化物の通水前後の粒子径分布を示す図であり、
図5(a)に示すように、通水前の粒子径分布は、370μmから1380μm程度であり、中央値(D50)は680μm程度である。この含水率26.4%の顆粒状の層状複水酸化物700gを不図示の容器に充填し、通水速度を2.8L/hrとし、総通水量を4.90m3(通水倍率7000倍)にて通水実験を行った。
図5(b)に示すように、通水後の粒子径分布は、主に55μmから1300μm程度であり、中央値(D50)は480μm程度である。通水後の粒子径分布は、通水前に比べて小さくなっているものの、数μmから数十μmの粉状の層状複水酸化物は、ほとんど確認されず、不図示の容器内の通水を詰まらせてしまうことはなかった。このため、本願出願人は、含水率の上限値が30%までの顆粒状の層状複水酸化物であれば、顆粒状の層状複水酸化物の吸着性能(吸着可能時間)からして使用上問題ないことを見出した。
【0054】
なお、含水率が30%超となると、顆粒状の層状複水酸化物の乾燥が十分ではなく、顆粒状の層状複水酸化物がべとついた様になり好ましくない。量産時の安定性を考慮すると、含水率の上限値は、20%とすることがより好ましい。
上述したように、通水後の粒子径分布の中央値が180μmからは480μm程度であれば、顆粒状の層状複水酸化物が粉状になって通水を妨げることがない。しかしながら、量産時の安定性を考慮すると、通水後の粒子径分布の中央値が250μmからは400μm程度であることがより好ましい。
【0055】
なお、乾燥工程において、真空乾燥時間と、顆粒状の層状複水酸化物の含水率との関係をテーブルとして持つことにより、顆粒状の層状複水酸化物の含水率を5%から30%にすることも可能である。テーブルの一例を挙げると、5時間乾燥が含水率30%となり、8時間乾燥が含水率10%となり、10時間乾燥が含水率8%となる。このテーブルは、所定時間真空乾燥した後の顆粒状の層状複水酸化物の含水率を例えば赤外線水分計により測定することにより作成することができる。このテーブルは不図示のメモリに記憶すればよい。
【0056】
図6は、本第1の実施形態の汚染水浄化システム100を表す概要図である。この汚染水浄化システム100には、製造ライン1で製造された顆粒状の層状複水酸化物が用いられている(詳細後述)。以下、
図6を用いて、本実施形態の汚染水浄化について説明を続ける。汚染水浄化システム100は、汚染水タンク101と、ポンプ102と、前処理部103と、汚染物質除去部104と、後処理部105と、を有している。
【0057】
汚染水タンク101は、汚染水が蓄えられたタンクである。ポンプ102は汚染水タンク101に蓄えられた汚染水を前処理部103に向けて吐出する液体用ポンプである。なお、ポンプ102は、汚染水タンク101からではなく、汚染された地下水を汲み上げるようにしてもよい。
汚染水によっては、鉄やマンガン等の析出物であるスラッジを含有することがある。このスラッジが汚染物質除去部104内に溜まると汚染物質除去部104における汚染物質の除去機能が低下するという問題がある。そこで、本実施形態では、前処理部103に濾過フィルタを設けて、鉄やマンガン等の析出物であるスラッジが汚染物質除去部104に流入しないようにしている。濾過フィルタとしては、セラミックフィルタ等の無機性フィルタや、ポリプロピレンフィルタ、紙フィルタ等が挙げられる。この場合、フィルタの構造としては、糸巻きフィルタや樹脂成型フィルタ等のデプスフィルタ(深層濾過型)や、プリーツフィルタやメンブレンフィルタ等のサーフェスフィルタ(表面濾過型)を用いることができる。なお、前処理部103に活性炭を設けて、活性炭により汚染水の脱臭や、スラッジの吸着や、浄水を行うようにしてもよい。
【0058】
汚染物質除去部104は、製造ライン1で製造された顆粒状の層状複水酸化物が充填された容器を有している。この容器は、前処理部103を通過した汚染水を流入する流入口と、顆粒状の層状複水酸化物にて有害物質が除去された液体を後処理部105に向けて流出する流出口と、を有している。顆粒状の層状複水酸化物は、ヒ素、フッ素、ホウ素、セレン、六価クロム、亜硝酸イオンなどの陰イオン系の有害物質を吸着する。また、顆粒状の層状複水酸化物は、その生成過程で生じたNaClが飲料水レベルまで除去されている。このため、汚染物質除去部104で有害物質が除去された液体を飲料用とすることが可能となる。
【0059】
後処理部105は、前処理部103で使用されている濾過フィルタよりもサイズの小さい浮遊固形物を除去する濾過フィルタを有している。なお、後処理部105に活性炭を設けて、活性炭により液体の脱臭や、浄水を行うようにしてもよい。
なお、汚染水にNaClが含まれていた場合には、汚染物質除去部104を通過した液体が飲料水として適さない場合がある。このような場合、後処理部105に脱塩処理部を設けるようにしてもよい。脱塩処理部としては、電気透析や、ナノ濾過膜(NF膜)や逆浸透膜(RO膜)などを用いることができるが、これに限定されるものではない。このように、本実施形態の汚染水浄化システム100を通過した液体は、飲料水として用いることができる。
なお、汚染水の汚染状態が良好な場合には、後処理部105を省略してもよい。
【0060】
以上説明した実施形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。例えば、上述の実施形態では、は切替弁51の切替てタンク31からの水をろ布53に供給する直接洗浄としたが、処理本体52の上方に設けられた別の流路からろ布53に水を供給する間接洗浄としてもよい。
また、上述の実施形態では、排出部55から排出される水の電気伝導率を測定したが、塩化物イオン濃度を検出してタンク31への水の循環可否を判断したりするようにしてもよい。これに代えて、洗浄時間と電気伝導率(もしくは塩化物イオン濃度)との関係をテーブルとして持つことにより、洗浄時間により顆粒状の層状複水酸化物を洗浄した液体のNaCl濃度を管理するようにしてもよい。
【0061】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、説明する。本第2の実施形態においては、第1の実施形態の
図3~
図5の実験例と同様、乾燥工程終了時の顆粒状の層状複水酸化物の含水率を5%から30%にすることにより、通水による顆粒状の層状複水酸化物の崩れを使用上問題のないレベルまで抑制できることを裏付けるための実験例について説明する。
【0062】
本実験では、
図7に示すような5種類のサンプル(サンプル1~サンプル5)を用いた。
図7に示すように、サンプル1は、乾燥時間(93KPa、90℃での真空乾燥時間)が10時間であり、含水率が8.17%、通水前の粒子径の中央値(メジアン径:D50)は670.34μmであった。サンプル2は、乾燥時間が6時間であり、含水率が9.66%、通水前の粒子径の中央値(D50)は613.09μmであった。サンプル3は、乾燥時間が5時間であり、含水率が11.73%、通水前の粒子径の中央値(D50)は632.37μmであった。サンプル4は、乾燥時間が4時間であり、含水率が17.81%、通水前の粒子径の中央値(D50)は666.97μmであった。サンプル5は、乾燥時間が3時間であり、含水率が24.22%、通水前の粒子径の中央値(D50)は1264.37μmであった。
【0063】
これらのサンプル(層状複水酸化物)を濾過用の容器に入れ、上方から試験水を通水し、処理水を下方から排水する実験を行った。
図8には、10通りの実験の条件が示されている。例えば、実験1-1においては、試験水をイオン交換水(イオンが含まれていない水)とし、容器には、吸着材として上記サンプル1を15g入れた。そして、試験水の流量を0.18/L、空間速度を12SVとし、36時間通水した。実験2-1、3-1、4-1、5-1は、サンプルが異なる以外は、実験1-1と同様の条件とした。一方、実験1-2は、試験水が硫酸イオンを200mg/L含む水溶液である以外は、実験1-1と同様の条件とした。また、実験2-2、3-2、4-2、5-2は、サンプルが異なる以外は、実験1-2と同様の条件とした。
【0064】
(1)実験1-1、1-2について
図9(a)は、含水率8.17%の顆粒状の層状複水酸化物(サンプル1)の通水前の粒子径分布を示す図であり、左図が容器の上部のサンプル1の粒子径分布、右図が容器の下部のサンプル1の粒子径分布である。
図9(b)は、実験1-1を行った後のサンプル1の粒子径分布を示す図であり、
図9(c)は、実験1-2を行った後のサンプル1の粒子径分布を示す図である。ここで、縦軸が相対粒子量(%)であり、横軸が粒子径(μm)である。
【0065】
図14に実験結果を纏めて示すように、実験1-1では、通水前の容器上部の粒子径分布は、670.34μmであったのに対し(
図9(a))、通水後の容器上部の粒子径の中央値(D50)は577.11μmであり、通水後の容器下部の粒子径の中央値(D50)は575.55μmであった(
図9(b))。一方、実験1-2では、通水前の容器上部の粒子径分布は、670.34μmであったのに対し(
図9(a))、通水後の容器上部の粒子径の中央値(D50)は186.12μmであり、通水後の容器下部の粒子径の中央値(D50)は598.97μmであった(
図9(c))。なお、通水前後の粒子径分布は、粒子径分布測定装置により測定することができる。この粒子径分布測定装置としては、レーザ回折式を適用することができる。
【0066】
これら実験1-1、1-2から、イオン交換水を通水した場合には、容器の上部及び下部のいずれにおいてもサンプル1の層状複水酸化物は崩れず、硫酸イオン水溶液を通水した場合には、容器の上部において層状複水酸化物が崩れたことがわかった。その一方で、含水率が8.17%であれば、通水後の粒子径分布は、通水前に比べて小さくなっているものの、数μmから数十μmの粉状の層状複水酸化物は、あまり確認されず、容器内の通水を詰まらせてしまうことはないことがわかった。
【0067】
(2)実験2-1、2-2について
図10(a)は、含水率9.66%の顆粒状の層状複水酸化物(サンプル2)の通水前の粒子径分布を示す図であり、左図が容器の上部のサンプル2の粒子径分布、右図が容器の下部のサンプル2の粒子径分布である。
図10(b)は、実験2-1を行った後のサンプル2の粒子径分布を示す図であり、
図10(c)は、実験2-2を行った後のサンプル2の粒子径分布を示す図である。
【0068】
図14に示すように、実験2-1では、通水前の容器上部の粒子径分布は、613.09μmであったのに対し(
図10(a))、通水後の容器上部の粒子径の中央値(D50)は572.15μmであり、通水後の容器下部の粒子径の中央値(D50)は546.62μmであった(
図10(b))。一方、実験2-2では、通水前の容器上部の粒子径分布は、613.09μmであったのに対し(
図10(a))、通水後の容器上部の粒子径の中央値(D50)は130.75μmであり、通水後の容器下部の粒子径の中央値(D50)は537.18μmであった(
図10(c))。
【0069】
これら実験2-1、2-2からも、硫酸イオン水溶液を通水した場合に、容器の上部において層状複水酸化物が崩れることがわかった。また、含水率が9.66%であれば、通水後の粒子径分布は、通水前に比べて小さくなっているものの、数μmから数十μmの粉状の層状複水酸化物は、あまり確認されず、容器内の通水を詰まらせてしまうことはないことがわかった。
【0070】
(3)実験3-1、3-2について
図11(a)は、含水率11.73%の顆粒状の層状複水酸化物(サンプル3)の通水前の粒子径分布を示す図であり、左図が容器の上部のサンプル3の粒子径分布、右図が容器の下部のサンプル3の粒子径分布である。
図11(b)は、実験3-1を行った後のサンプル3の粒子径分布を示す図であり、
図11(c)は、実験3-2を行った後のサンプル3の粒子径分布を示す図である。
【0071】
図14に示すように、実験3-1では、通水前の容器上部の粒子径分布は、632.37μmであったのに対し(
図11(a))、通水後の容器上部の粒子径の中央値(D50)は668.21μmであり、通水後の容器下部の粒子径の中央値(D50)は679.27μmであった(
図11(b))。一方、実験3-2では、通水前の容器上部の粒子径分布は、632.37μmであったのに対し(
図11(a))、通水後の容器上部の粒子径の中央値(D50)は185.53μmであり、通水後の容器下部の粒子径の中央値(D50)は649.16μmであった(
図11(c))。
【0072】
これら実験3-1、3-2からも、硫酸イオン水溶液を通水した場合には、容器の上部において層状複水酸化物が崩れることがわかった。また、含水率11.73%であれば、通水後の粒子径分布は、通水前に比べて小さくなっているものの、数μmから数十μmの粉状の層状複水酸化物は、あまり確認されず、容器内の通水を詰まらせてしまうことはないことがわかった。
【0073】
(4)実験4-1、4-2について
図12(a)は、含水率17.81%の顆粒状の層状複水酸化物(サンプル4)の通水前の粒子径分布を示す図であり、左図が容器の上部のサンプル4の粒子径分布、右図が容器の下部のサンプル4の粒子径分布である。
図12(b)は、実験4-1を行った後のサンプル4の粒子径分布を示す図であり、
図12(c)は、実験4-2を行った後のサンプル4の粒子径分布を示す図である。
【0074】
図14に示すように、実験4-1では、通水前の容器上部の粒子径分布は、666.97μmであったのに対し(
図12(a))、通水後の容器上部の粒子径の中央値(D50)は697.08μmであり、通水後の容器下部の粒子径の中央値(D50)は664.84μmであった(
図12(b))。一方、実験4-2では、通水前の容器上部の粒子径分布は、666.97μmであったのに対し(
図12(a))、通水後の容器上部の粒子径の中央値(D50)は507.01μmであり、通水後の容器下部の粒子径の中央値(D50)は665.42μmであった(
図12(c))。
【0075】
これら実験4-1、4-2からも、硫酸イオン水溶液を通水した場合には、容器の上部において層状複水酸化物が崩れたことがわかった。また、含水率が17.81%であれば、通水後の粒子径分布は、通水前に比べて小さくなっているものの、数μmから数十μmの粉状の層状複水酸化物は、あまり確認されず、容器内の通水を詰まらせてしまうことはないことがわかった。
【0076】
(5)実験5-1、5-2について
図13(a)は、含水率24.22%の顆粒状の層状複水酸化物(サンプル5)の通水前の粒子径分布を示す図であり、左図が容器の上部のサンプル5の粒子径分布、右図が容器の下部のサンプル5の粒子径分布である。
図13(b)は、実験5-1を行った後のサンプル5の粒子径分布を示す図であり、
図13(c)は、実験5-2を行った後のサンプル5の粒子径分布を示す図である。
【0077】
図14に示すように、実験5-1では、通水前の容器上部の粒子径分布は、1264.37μmであったのに対し(
図13(a))、通水後の容器上部の粒子径の中央値(D50)は1426.40μmであり、通水後の容器下部の粒子径の中央値(D50)は1367.44μmであった(
図13(b))。一方、実験5-2では、通水前の容器上部の粒子径分布は、1264.37μmであったのに対し(
図13(a))、通水後の容器上部の粒子径の中央値(D50)は557.40μmであり、通水後の容器下部の粒子径の中央値(D50)は1330.38μmであった(
図13(c))。
【0078】
これら実験5-1、5-2からも、硫酸イオンの水溶液を通水した場合には、容器の上部において層状複水酸化物が崩れたことがわかった。また、含水率が24.22%であれば、通水後の粒子径分布は、通水前に比べて小さくなっているものの、数μmから数十μmの粉状の層状複水酸化物は、あまり確認されず、容器内の通水を詰まらせてしまうことはないことがわかった。
【0079】
以上の実験1-1~5-2からは、層状複水酸化物の崩れは、イオン交換反応に起因しており、含水率が高い方がイオン交換反応が起こっても崩れにくいことがわかった。
【0080】
また、これらの結果から、本願出願人は、含水率が5%から30%までの顆粒状の層状複水酸化物、好ましくは8%から25%までの顆粒状の層状複水酸化物であれば、顆粒状の層状複水酸化物の吸着性能(吸着可能時間)からして使用上問題ないことを見出した。なお、含水率が30%超となると、上記第1の実施形態でも説明したように、顆粒状の層状複水酸化物の乾燥が十分ではなく、顆粒状の層状複水酸化物がべとついたようになり好ましくない。量産時の安定性を考慮すると、含水率の上限値は、20%とすることがより好ましい。
【0081】
(第3の実施形態)
第1の実施形態において説明したように、液体供給部30は、層状複水酸化物を洗浄するための液体を処理部50に供給しているが、本願出願人の実験によると、洗浄後の層状複水酸化物は、洗浄しない層状複水酸化物よりも、水に含まれるヒ素を吸着する量が多いことがわかった。以下、本実験について説明する。
【0082】
本実験においては、水道水にヒ素濃度が100μg/Lとなるように亜ヒ酸(ヒ素標準液1000mg/L:富士フィルム和光純薬株式会社製)を溶解したものを原水として用いた。また、比較例として、洗浄しない層状複水酸化物の顆粒75gを濾過用の容器に入れ、0.3L/hr、空間速度4SVで、原水を通水した。一方、実施例として、水で洗浄した層状複水酸化物の顆粒50gを濾過用の容器に入れ、0.2L/hr、空間速度4SVで、原水を通水した。なお、比較例と実施例では、用いた層状複水酸化物の量が異なるため、これに合わせて、原水の通水量を調整した。この実験の結果が、
図15に示されている。
【0083】
図15に示すように、比較例(洗浄していない層状複水酸化物)の場合、通水倍率7324L/Kgで、処理水ヒ素濃度が飲料水基準値を超えた。一方、実施例(洗浄した層状複水酸化物)の場合、通水倍率13901L/Kgで、処理水ヒ素濃度が飲料水基準値を超えた。なお、通水倍率は、換算値である。
【0084】
このように、実施例のように層状複水酸化物を洗浄した方が、原水を処理できる量(ヒ素を吸着できる量)が多くなることがわかった。
【0085】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 製造ライン
10 生成部
30 液体供給部
50 処理部
52 処理本体
53 ろ布
100 汚染水浄化システム
104 汚染物質除去部