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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】内燃機関用ピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/00 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
F02F3/00 P
F02F3/00 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020124139
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2021021391
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】10 2019 211 081.9
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リヒト フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】シャルプ ライナー
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05251915(US,A)
【文献】実開平01-008552(JP,U)
【文献】実開昭61-051454(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第01264980(EP,A2)
【文献】特開2018-028317(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015006354(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルスクレーパリング(4)を受けるための少なくとも1つのオイルリング溝(3)を備え、該オイルリング溝(3)は、ピストンクラウン(5)側の上側溝面(6)と、該ピストンクラウン(5)から離れた側の下側溝面(7)と、前記上側溝面(6)と前記下側溝面(7)とを接続する溝底部(8)と、を有する内燃機関(2)用のピストン(1)であって、
前記オイルリング溝(3)は、非対称に、且つ、前記下側溝面(7)の領域において半径方向(11)により深くなるように形成されており、
前記オイルスクレーパリング(4)の背部には、オイル回収チャンバ(13)が設けられており、
前記オイル回収チャンバ(13)への連通接続を有するオイル流出チャンネル(14)が設けられており、
前記オイルリング溝(3)又は前記オイル回収チャンバ(13)と前記オイル流出チャンネル(14)との間の接続ポイント(15)は、前記下側溝面(7)においてのみ存在し、前記溝底部(8)には存在しない、ことを特徴とするピストン(1)。
【請求項2】
前記オイル流出チャンネル(14)は、前記下側溝面(7)に対して直交に延びている、ことを特徴とする請求項1に記載のピストン(1)。
【請求項3】
前記オイル流出チャンネル(14)は、前記下側溝面(7)に対して斜めに延び、該下側溝面に対して斜めに接続されている、ことを特徴とする請求項1に記載のピストン(1)。
【請求項4】
前記オイル流出チャンネル(14)は、前記下側溝面(7)において半径方向(11)の外方に延びている、ことを特徴とする請求項1に記載のピストン(1)。
【請求項5】
前記上側溝面(6)は、前記オイルリング溝(3)内へ突出して、前記オイルスクレーパリング(4)に対してストッパーを形成し、該オイルリング溝(3)内への該オイルスクレーパリング(4)の突出深さを制限する、ショルダー(16)を有する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のピストン(1)。
【請求項6】
前記上側溝面(6)及び前記下側溝面(7)は、前記オイルスクレーパリング(4)と接触する領域においてのみ、仕上げ加工されており、一方、前記オイル回収チャンバ(13)の該領域における該上側溝面(6)、該下側溝面(7)及び前記溝底部(8)は、前加工されている、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載のピストン(1)。
【請求項7】
前記溝底部(8)は、ピストン軸(12)に対して斜めに延びている、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のピストン(1)。
【請求項8】
前記溝底部(8)は、下側内部の領域において、半径方向内方に向いた凹部(17)を有する、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載のピストン(1)。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つに記載のピストン(1)のオイルリング溝(3)を製造するための方法であって、
前記オイル流出チャンネル(14)を掘削し、
前記下側溝面(7)の領域において半径方向により深くなるように形成される非対称な前記オイルリング溝(3)を形成し、該オイルリング溝(3)又は前記オイル回収チャンバ(13)と前記オイル流出チャンネル(14)とを連通する前記接続ポイント(15)が該下側溝面(7)においてのみ存在し、前記溝底部(8)には存在しないように該オイルリング溝(3)を切削する、ピストン(1)のオイルリング溝(3)の製造方法。
【請求項10】
前記上側溝面(6)及び前記下側溝面(7)は、前記オイルスクレーパリング(4)と接触する領域においてのみ、仕上げ加工されており、一方、前記オイル回収チャンバ(13)の該領域における該上側溝面(6)、該下側溝面(7)及び前記溝底部(8)は、前加工されたまま維持される、ことを特徴とする請求項9に記載のピストン(1)のオイルリング溝(3)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のピストンに関する。このピストンは、請求項1のプリアンブルのように、オイルスクレーパリングを受けるための少なくとも1つのオイルリング溝を備える。オイルリング溝は、ピストンクラウン側の上側溝面と、ピストンクラウンから離れる側の下側溝面と、溝底部と、を有する。
【0002】
また、本発明は、上記タイプのピストンにおけるオイルリング溝を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1(EP1264980B1)は、内燃機関用の一般的なピストンを開示している。このピストンは、オイルスクレーパリングを受けるための少なくとも1つのオイルリング溝を備える。当該オイルリング溝は、非対称に、且つ、ピストンクラウンから離れた側の下側溝面の領域において半径方向内方により深くなるように、形成されている。したがって、オイルリング溝は、オイルスクレーパリングの背部において、オイル回収チャンバを有する。
【0004】
さらに、当該オイル回収チャンバへの連通接続を有するオイル流出チャンネルが設けられている。
【0005】
ここで、オイル回収チャンバは、溝底部及び下側溝面に亘って存在する接続ポイントを介して、オイル流出チャンネル内に遷移する。すなわち、オイル流出チャンネルは、下側溝面及び溝底部を介してオイル回収チャンバへの連通接続を有する。
【0006】
特許文献2(DE3928491A1)は、オイルリング溝を備えるとともに、バネ要素を備える内燃機関用のピストンを開示している。オイルリング溝は、オイルリングと同じ直径で、その高さ全体に亘って、その半径方向の内側に終端する。
【0007】
この場合、オイルリング溝の溝底部は、下側溝面に隣接する領域よりも上側溝面に隣接する領域において、半径方向のより外方に存在(延在)する。これにより、溝底部と下側溝面との間の遷移部において、比較的大きな曲率半径を達成することができる。
【0008】
比較的大きな曲率半径によって、ピストンの比較的高い強度を達成することがそれでも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許第1264980号公報
【文献】独国特許出願公開第3928491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術から知られているピストンの欠点は、オイルリング溝の下側溝面及び溝底部から進行するオイル流出チャンネルの掘設時、生産プロセス中に三次元エッジ構造が発生し、このエッジ構造は仕上加工することができないか、又は仕上加工するのに非常に大きな困難を伴うだけである、ということである。
【0011】
したがって、本発明は、一般的なタイプのピストンのために提示される課題に関する。特に、改良され又は少なくとも代わりとなる実施形態は、従来技術から知られた欠点を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、上記課題は、独立請求項の主題によって解決される。有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0013】
本発明は、オイルリングを受けるための、ピストンのオイルリング溝を、非対称となるように形成する一般的な概念に基づいている。具体的には、オイルリング溝は、ピストンクラウンから離れた側(ピストンクラウンとは反対側)の下側溝面(lower groove flank)の領域においてよりも、ピストンクラウン側の上側溝面(upper groove flank)の領域において、半径方向のより外方に延在するように、形成されている。
【0014】
すなわち、オイルリング溝は、下側溝面の領域において、半径方向のより内方に延在している。したがって、オイルスクレーパリングの背後に位置するオイル回収チャンバ(オイル回収室: oil collecting chamber)又はオイル配給チャンバ(オイル配給室:oil distributing chamber)を作製することができる。
【0015】
オイル回収チャンバ又はオイル配給チャンバによって回収されたオイルは、ここで、オイル流出チャンネル(オイル流出路:oil outflow channel)によって排出される。
【0016】
本発明によれば、当該オイル流出チャンネルは、下側溝面において位置する接続ポイント(接続点、接続箇所: connecting point)を専ら介して、オイル回収チャンバ又はオイルリング溝と連通する。
【0017】
したがって、オイル流出チャンネルは、いかなるポイント(点、箇所)においても、溝底部(groove base)に接触しない。
【0018】
これは、下側溝面及び溝底部に亘るコーナー部を持つ接続ポイントの場合に発生するような、仕上加工又はバリ取りをするのに困難が伴うだけの三次元的なエッジ構造が、オイル流出チャンネル及びオイルリング溝の製造中に形成されない、という大きな利点を有する。
【0019】
さらに、非対称なオイルリング溝によって、オイルスクレーパリングの背後に位置するとともに、オイルスクレーパリングによって削取られたオイルを回収してオイル流出チャンネルに供給することが可能な、オイル回収チャンバを、作製することができる。
【0020】
さらに、オイルリング溝の非対称な実施形態によって、オイルスクレーパリングのオイルリング溝内への深過ぎて望ましくない突出を、防止することができる。このこと(深過ぎて望ましくない突出)は、最悪の場合、輸送又は設置中に、ピストンの反対側のオイルリング溝からオイルスクレーパリングが飛び出すこと(リング飛び出し:ring pop out)につながる可能性がある。
【0021】
ここで、本発明に係る内燃機関用ピストンは、オイルスクレーパリングを受けるための少なくとも1つのオイルリング溝を備える。このオイルリング溝は、ピストンクラウン側の上側溝面と、ピストンクラウンから離れた側の下側溝面と、溝底部と、を有する。当該溝底部は、上側溝面と下側溝面とを互いに接続している。
【0022】
上述したように、オイルリング溝は、非対称な形状であり、下側溝面の領域において半径方向の内方により深く延在している。これにより、オイルスクレーパリングの背部において、特にオイルスクレーパリングの背部の下側領域において、上述したオイル回収チャンバを形成することができる。オイルスクレーパリングがオイルリング溝内へ突出した場合であっても、当該オイルスクレーパリングはオイル回収チャンバ内へ突出することができない。したがって、オイルの回収及びオイルの配給又はオイルの排出のための、オイル回収チャンバが確保されたまま維持される。
【0023】
本発明によれば、接続ポイントを介してオイル回収チャンバへの連通接続を有するオイル流出チャンネルが設けられおり、オイルリング溝とオイル流出チャンネルとの間の当該接続ポイントは、下側溝面においてのみ存在する、ということである。
【0024】
上述したように、このことは、オイル流出チャンネルの製造後に、例えばその掘削(穴空け加工、drilling)の後に、例えば旋削(turning)すなわち切りくず除去工程(chip-removing process)又は研削(grinding)によってオイルリング溝が形成され、その工程において、オイル流出チャンネルの上にある下側溝面にオイル流出チャンネルが導かれ、これにより、接続ポイントが製造される、という大きな利点を提供する。
【0025】
しかしながら、オイルリング溝の形成は、特に下側溝面の領域において、半径方向内方により一層深く行われ、具体的には、少なくとも、オイルリング溝すなわち、特にオイル回収チャンバとオイル流出チャンネルとの間の接続ポイント全体が下側溝面においてのみ存在する程度となるように、行われる。
【0026】
したがって、本発明に係るピストンによれば、オイルリング溝の非対称性によって、オイルの回収及び排出の向上を図ることができるとともに、オイル回収チャンバとオイル流出チャンネルとの間の接続ポイントが下側溝面においてのみ存在することによって、立体的なエッジを持たないバリのない(burr-free)生産工程が可能となる。
【0027】
非対称性の程度すなわち、特にオイルスクレーパリングの背部に位置するオイル回収チャンバのサイズに応じて、ピストンの軽量化を図ることもできる。
【0028】
本発明に係る解決手段の1つの有利な改良において、オイル流出チャンネルは、ピストン軸に対して平行に、特に下側溝面に対して直交に延びている。
【0029】
したがって、この場合、オイル流出チャンネルは、下側溝面を直交するように介して、オイル回収チャンバに入る。
【0030】
これは、オイル回収チャンバ内に回収されたオイルが、重力の作用だけで下方に流出することが可能である、という大きな利点を提供する。
【0031】
本発明に係る解決手段の別の実施形態において、オイル流出チャンネルは、ピストン軸に対して斜めに、特に下側溝面に対しても斜めに延び、当該下側溝面に対して斜めに接続されている。
【0032】
このような斜めに延びるオイル流出チャンネルは、一般に、ピストン軸に対する円筒座標系において、少なくとも2つ又は3つ全ての座標方向(軸方向、半径方向、接線方向)の成分を持つ軸方向を、有し得る。
【0033】
これは、例えば設計事情を可能にし、強度に関する関連性のより少ないピストンの領域において有利にオイル流出チャンネルを配置することを可能にする。
【0034】
ここでも、オイル回収チャンバ内に回収されたオイルは、オイル流出チャンネルの軸方向が(ピストン軸に対しての)軸方向成分を含む場合には、重力の作用だけで下方に流出することが可能である。
【0035】
さらに、オイル流出チャンネルが、ピストン軸に対して直交に、特に下側溝面において半径方向の外方に延びている、ことが考えられる。
【0036】
この例示的な実施形態において(軸方向成分のない半径方向-接線方向のオイル流出チャンネル軸を持ち、先の例示的な実施形態による斜め配置の場合と同様に)、オイルスクレーパリングによって削落とされてオイル回収チャンバ内に回収されたオイルは、再び、オイル流出チャンネルを介して、シリンダ壁の方向に排出される。
【0037】
下側溝面においてピストン軸に対して直交に延びるこのオイル流出チャンネルが比較的小さいので、これにより、オイルスクレーパリングの支持が妨げられない。
【0038】
シリンダ内壁から削落とされたオイルの均一な排出が各オイル流出チャンネルによって達成され得るように、複数のそのようなオイル流出チャンネルが円周上に分配されるように配置されることもまた、言うまでもなく可能である。
【0039】
本発明に係る解決手段のさらに有利な実施形態において、上側溝面は、オイルリング溝内へ突出して、オイルスクレーパリングに対してストッパー(stop)を形成し、オイルリング溝内へのオイルスクレーパリングの突出深さを制限するショルダー(肩部:shoulder)を有する。
【0040】
このようにして、特に所謂リング飛び出し効果を回避することが可能となる。オイルスクレーパリングは、ピストンの一方側におけるオイルリング溝内へある程度大きく突出し過ぎて、他方側における当該オイルリング溝から飛び出し、ひいては破損してしまう場合がある。
【0041】
このようなショルダーは、例えば、様々な旋削工具又は様々な切りくず除去工具によって、製造することができる。
【0042】
例えば、先ず、比較的幅広の切りくず除去工具を用いて、導入されるオイルリング溝の全幅が考えられる。一方、ショルダーに到達した後には、より幅狭の工具を用いることが考えられる。さらに、この工具は、比較的幅が狭いこと又はピストンに対する高さが比較的低いことから、下側溝面の領域においてオイルリング溝を半径方向内方により一層深くして、オイル回収チャンバを製造する。
【0043】
そして、上記2番目の切りくず除去工具によって、オイル回収チャンバと下側溝面との間の接続ポイントも、空(開)けられる。
【0044】
本発明に係る解決手段のさらに有利な実施形態において、上側及び下側溝面は、オイルスクレーパリングと接触する領域においてのみ、仕上加工(finish-machined)されており、すなわち、高い表面品質(性状)である。一方、オイル回収チャンバの領域において、上側及び下側溝面並びに溝底部は、前加工(pre-machined)されたまま維持されており、すなわち、低い表面品質(性状)である。
【0045】
このようにして、ピストンは、全体として、より少ない支出で製造することができる。なぜならば、特にオイル回収チャンバの領域おいて表面品質における特別な要求は課されておらず、その要求に応じて表面品質が満たされる必要があるからである。
【0046】
溝底部の領域においても、例えば直径の公差に関して、特別な要求事項はない。
【0047】
本発明に係る解決手段の1つの有利な改良において、溝底部は、ピストン軸に対して斜めに延びている。
【0048】
このような実施態様は、例えば上側溝面からオイルリング溝内へ突出する上述のショルダーの代替として、選択することができる。ここで、溝底部の傾斜角度は、溝底部がピストンクラウンの方向に半径方向外方に傾斜するように、溝底部が下側溝面の領域においてよりも上側溝面の領域において半径方向外方にさらに延在するように、実現される。
【0049】
このような実施形態の場合、オイルリング溝内へのオイルスクレーパリングの深過ぎて望ましくない突出は、溝底部自身の傾斜によって、影響を受ける。なぜなら、オイルリング溝へのオイルスクレーパリングの深過ぎる突出は、溝底部における上側及び半径方向のさらに外側に突出する領域に対してオイルスクレーパリングが接触する結果として、妨げられるからである。
【0050】
さらに、本発明は、上記タイプのピストンを製造するための方法を提示する一般的な概念に基づいている。この方法では、ピストンブランク(piston blank)が先ず製造され、オイル流出チャンネルが掘削され又は他の何らかの方法でその中に形成される。
【0051】
続いて、オイルリング溝とオイル流出チャンネル又はオイル回収チャンバとオイル流出チャンネルとの間を連通する接続ポイントが下側溝面においてのみ存在するように、下側溝面の領域において半径方向内方により深くなるように形成された非対称なオイルリング溝が、形成される(特に切削される)。
【0052】
オイルリング溝の形成時(形成中)に、例えば幅及び/又は高さの異なる2つの切りくず除去工具を用いることによって、これにより、接続ポイントが空けられ、又はオイル流出チャンネルが切削される。このようにして、オイル回収チャンバへの接続ポイントが製造される。
【0053】
接続ポイントが下側逃面の領域においてのみ配置されるようになった結果、仕上加工するのに困難が伴うだけ又は仕上加工することが全くできない、例えば下側溝面及び溝底部に亘って延在する三次元的接続ポイントを、回避することができる。
【0054】
例えば、下側溝面にのみ位置する接続ポイントは、対応する切りくず除去工具又は研削工具によって、バリ取りすることが可能である。
【0055】
本発明のさらに重要な特徴及び利点は、従属請求項から、図面から、及び図面に基づいた関連する図の説明から、明らかになるであろう。
【0056】
上述した特徴及び後述する特徴は、それぞれに示された組合せにおいてのみでなく、本発明の範囲から逸脱することなく他の組合せにおいて又は個別においても、利用可能であることは、言うまでもない。
【0057】
本発明の好ましい例示的な実施形態は、図面に示されており、以下の説明において、より詳細に論じられる。ここで、同一の参照符号は、同一若しくは類似又は機能的に同一の構成要素を示すために、使用される。
【0058】
図面において、各々の場合について模式的に示す。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1図1は、オイルリング溝の領域における本発明に係るピストンの断面図である。
図2図2は、図1と同様の図であるが、異なる形態のオイルリング溝と異なる形態のオイル流出チャンネルとを備える。
図3図3は、図1及び図2に関連した別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1図3に対応して、本発明に係るピストン1は、特に自動車の内燃機関2(特段図示せず)用であり、オイルスクレーパリング4を受けるための少なくとも1つのオイルリング溝3を備える。オイルリング溝3は、ピストンクラウン5側の上側溝面6と、ピストンクラウン5から離れた側の下側溝面7と、溝底部8と、を有する。
【0061】
例えば圧縮リングのようなさらに別のピストンリング9(図2及び図3参照)を他のリング溝10に配置することもまた、言うまでもなく可能である。
【0062】
ここでは、オイルリング溝3は、非対称な形状であり、下側溝面7の領域において、半径方向11すなわち、ピストン軸12に対して直交する方向により深くなるように、形成されている。
【0063】
このように、溝底部8は、下側溝面7の領域においてよりも上側溝面6の領域において、半径方向のより外方に延在している。
【0064】
オイルスクレーパリング4の背部すなわち、オイルスクレーパリング4の半径方向内側には、オイル回収チャンバ13が設けられている。このオイル回収チャンバ13によって、オイルスクレーパリング4によりシリンダ壁(図示せず)から削取られたオイルを、オイル回収チャンバ13への連通接続を有するオイル流出チャンネル14を介して(通して)、回収して排出することができる。
【0065】
本発明によれば、オイル回収チャンバ13をオイル流出チャンネル14に連通させる接続ポイント15は、当該接続ポイント15が例えば溝底部8に突出する任意の点でないように、下側溝面7の領域においてのみ設けられおり、これにより、接続ポイント15は、略平面形状であり、三次元的なエッジ構造を形成しない、ということになる。
【0066】
ここで、図1図3には、オイル流出チャンネル14の様々な方向(orientation)が示されている。ここで、図1に示すオイル流出チャンネル14は、ピストン軸12に対して平行に、特に下側溝面7に対して直交に延びている。一方、図2に示すオイル流出チャンネル14は、ピストン軸12に対して斜めに、特に下側溝面7に対してもまた斜めに延びており、したがって、下側溝面7に対して斜めに接続されている。
【0067】
図3によるオイル流出チャンネル14は、下側溝面7がオイル流出チャンネル14の領域において凹められる(窪められる:hollowed)ように、ピストン軸12に対して直交に、特に下側溝面7の内部において半径方向11に、延びている。
【0068】
ここで、下側溝面7の内部とは、言うまでもなく、実際には下側溝面7の下部を意味する。
【0069】
図1による本発明に係るピストン1の実施形態を考慮すると、上側溝面6がショルダー16を有していることが分かる。ショルダー16は、オイルリング溝3内へ突出して、オイルスクレーパリング4に対してストッパーを形成し、オイルリング溝3内へのオイルスクレーパリング4の突出深さを制限する。
【0070】
このようにして、特に、オイルスクレーパリング4がオイルリング溝3内にある程度深く係合し過ぎて反対側のオイルリング溝3から浮き上がった場合に、所謂リング飛び出しを回避することができる。
【0071】
このようなショルダー16の代替として、図2に示すように、溝底部8は、ピストン軸12に対して斜めに延在又は形成されてもよい。これにより、オイルスクレーパリング4は、今度、上側溝面6と溝底部8との間の遷移部において溝底部8に対して当接する程度まで、オイルリング溝3内へ突出することができる。
【0072】
図3に示す実施形態において、溝底部8は、下側内部の領域において、半径方向内方に向いた凹部(depression)17を有する。ここで、それ以外の領域において、溝底部8は、ピストン軸12に対して実質的に平行に延びている。
【0073】
しかしながら、全ての実施形態は、オイルリング溝3内へのオイルスクレーパリング4の突出深さが制限されるという点で共通しており、最大突出深さの場合であっても、オイルを回収するためのオイル回収チャンバ13は、オイルスクレーパリング4の背部に常に残存している。
【0074】
この場合、オイルスクレーパリング4は、2つのオイル削取りリップ(oil-scraping lips)18と、バネ要素(spring element)19と、を有してもよい。バネ要素19は、確実にオイルを削落として特に燃焼室内へのオイルの通過を防ぐために、オイルスクレーパリング4を半径方向外方に予圧して、それをシリンダ壁に対して押圧する。
【0075】
この場合、本発明に係るオイルリング溝3は、次のように、製造される。先ずピストン1のピストンブランクが製造され、このピストンブランクの中にオイル流出チャンネル14が例えば掘削(ドリル加工)によって形成される。
【0076】
続いて、下側溝面7の領域において半径方向により深くなるように形成された非対称なオイルリング溝3は、オイルリング溝3又はオイル回収チャンバ13とオイル流出チャンネル14との間を連通する接続ポイント15が下側溝面7においてのみ存在するように、例えば切りくず除去工具による切削又は研削によって、形成される。
【0077】
このようにして、特に、バリ取りに困難が伴うだけの3次元的なエッジ構造を、回避することができる。
【0078】
この場合、上下側溝面6,7もまた、好ましくはオイルスクレーパリング4と接触する領域においてのみ、例えば研削によって仕上加工又は精密加工される。一方、オイルスクレーパリング4との接触がない、オイル回収チャンバ13の領域における上側溝面6、下側溝面7及び溝底部8は、例えば溝を旋削する工程の後における前加工された状態のまま維持される。これにより、製造工程は、大幅に、よりシンプル且つより安価となる。
【0079】
本発明に係るピストン1によれば、非対称なオイルリング溝3によって、特に設置時及び搬送時において、不用意にオイルスクレーパリング4がオイルリング溝3から浮き上がることを、回避することができる。また同時に、オイルリング溝3内へのオイルスクレーパリング4の突出深さに関係なく常に残存するオイル回収チャンバ13を、作製することができる。オイル回収チャンバ13は、下側溝面7の領域においてのみ存在する底側の接続ポイント15を介して、オイル流出チャンネル14に連通する。
【0080】
下側溝面7においてのみ存在する接続ポイント15によって、特に3次元的なエッジ構造のない平面状の接続ポイント15を作製することができる。これにより、特に製造及びまた仕上加工は、大幅にシンプルとなる。
図1
図2
図3