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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】インプリント装置、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240815BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020150120
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044484
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健太郎
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/164016(WO,A1)
【文献】特開2019-054210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型を用いて基板の上にインプリント材のパターンを形成するインプリント装置であって、
前記基板のショット領域の上のインプリント材と前記型とを接触させる接触工程と、前記ショット領域の上の前記インプリント材と前記型とが接触した状態で前記インプリント材を硬化させる硬化工程と、前記硬化したインプリント材から前記型を分離する離型工程とを含むインプリント処理を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
前記基板の複数のショット領域に連続してインプリント材を供給する供給工程を実行し、
その後、前記複数のショット領域におけるそれぞれのショット領域ごとに、前記インプリント処理を実行する、ように構成され
前記制御部は、前記供給工程の前に、前記複数のショット領域に前記インプリント処理を行う順序に基づいて、前記複数のショット領域におけるそれぞれのショット領域に関して、前記供給工程の完了から前記接触工程の開始までの経過時間を予測し、前記予測された経過時間に基づいて、前記供給工程におけるインプリント材供給量を設定し、前記供給工程において、前記複数のショット領域のそれぞれに対して個別に設定されたインプリント材供給量のインプリント材を供給するよう制御処理を行い、
それぞれの前記インプリント処理における前記接触工程の開始から前記硬化工程の開始までの時間を、前記設定されたインプリント材供給量と、前記供給工程の完了から対象ショット領域に対する前記接触工程の開始までの経過時間に基づいて設定する、
ことを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記基板を保持して移動する基板駆動部と、
前記型を保持して移動する型駆動部と、を有し、
前記接触工程は、前記基板駆動部により前記対象ショット領域が前記型駆動部の下に位置するように前記基板を移動させる第1工程と、前記型と前記対象ショット領域の上の前記インプリント材とが接触するように前記型駆動部により前記型を前記対象ショット領域に近接させる第2工程と、前記第2工程によって前記型と前記対象ショット領域の上の前記インプリント材との接触が完了した状態で所定の待機時間の間待機する第3工程とを含み、
前記制御部は、前記設定されたインプリント材供給量と前記経過時間に基づいて前記待機時間を設定することにより、前記接触工程の開始から前記硬化工程の開始までの前記時間を設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記複数のショット領域におけるそれぞれのショット領域に関して、前記供給工程の完了から前記接触工程の開始までの経過時間を計測し、該計測された経過時間に基づいて、前記複数のショット領域におけるそれぞれのショット領域に対する前記待機時間を設定する、ことを特徴とする請求項2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記インプリント材供給量と前記経過時間と前記待機時間との予め得られた対応関係に基づいて、前記計測された経過時間および前記設定されたインプリント材供給量に対応する前記待機時間を決定する、ことを特徴とする請求項3に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記対応関係における前記待機時間は、インプリント材の未充填によるパターンの不良の発生を許容範囲内に収めるために必要な時間である、ことを特徴とする請求項4に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記対応関係を表す関数に基づいて前記待機時間を決定する、ことを特徴とする請求項4または5に記載のインプリント装置。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて基板にパターンを形成する工程と、
前記形成する工程で前記パターンが形成された前記基板を処理する工程と、
を有し、前記処理する工程で処理された前記基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMS等においては、微細化の要求が高まっており、微細加工技術として、インプリント技術が注目されている。インプリント技術では、表面に微細な凹凸パターンが形成された型(型)を硬化性組成物(インプリント材)が配置された基板に接触させ、型の凹凸パターンにインプリント材が充填した後にインプリント材を硬化させる。これにより、型の凹凸パターンがインプリント材の硬化膜に転写され、パターンが基板上に形成される。この一連の工程をショットと呼ぶ。インプリント技術によれば、基板上に数ナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。
【0003】
特許文献1には、基板上の複数のショット領域に連続してインプリント材を供給した後、これら複数のショット領域のそれぞれにインプリントによりパターンを転写する方法が開示されている。本明細書では、このようなインプリント方法を、マルチフィールド先行供給によるインプリントという。この方法によれば、1つのショット毎にインプリント材を供給する工程(供給工程)と型とインプリント材とを接触させる工程(接触工程)を繰り返す方法と比較して、基板の移動距離を短くすることができ、スループットを向上できる。
【0004】
特許文献2には、マルチフィールド先行供給によるインプリントにおいて、供給されたインプリント材の揮発量を考慮してショット領域毎にインプリント材の供給量を変えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5084823号公報
【文献】国際公開第2018/164016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、1ショット毎に供給工程と接触工程が対になって行われない。それ故に、基板上に供給されたインプリント材の接触工程直前の状態は、供給工程の条件のみによっては定めることができず、ショット毎に異なる。接触工程では、インプリント材が型のパターン部内へ充填するよう待機する時間(待機時間)を適切に設定する必要がある。しかし、従来技術では1ショット毎に供給工程と接触工程が対になって行われないため、待機時間をショット毎に設定もしくは補正する必要がある。待機時間の設定が適切に行われないと、インプリント材の未充填によるパターンの不良の発生が増大しうる。
【0007】
本発明は、例えば、スループットと正確なパターン形成の両立に有利なインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、型を用いて基板の上にインプリント材のパターンを形成するインプリント装置であって、前記基板のショット領域の上のインプリント材と前記型とを接触させる接触工程と、前記ショット領域の上の前記インプリント材と前記型とが接触した状態で前記インプリント材を硬化させる硬化工程と、前記硬化したインプリント材から前記型を分離する離型工程とを含むインプリント処理を制御する制御部を有し、前記制御部は、前記基板の複数のショット領域に連続してインプリント材を供給する供給工程を実行し、その後、前記複数のショット領域におけるそれぞれのショット領域ごとに、前記インプリント処理を実行する、ように構成され前記制御部は、前記供給工程の前に、前記複数のショット領域に前記インプリント処理を行う順序に基づいて、前記複数のショット領域におけるそれぞれのショット領域に関して、前記供給工程の完了から前記接触工程の開始までの経過時間を予測し、前記予測された経過時間に基づいて、前記供給工程におけるインプリント材供給量を設定し、前記供給工程において、前記複数のショット領域のそれぞれに対して個別に設定されたインプリント材供給量のインプリント材を供給するよう制御処理を行い、それぞれの前記インプリント処理における前記接触工程の開始から前記硬化工程の開始までの時間を、前記設定されたインプリント材供給量と、前記供給工程の完了から対象ショット領域に対する前記接触工程の開始までの経過時間に基づいて設定する、ことを特徴とするインプリント装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、スループットと正確なパターン形成の両立に有利なインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】インプリント装置の構成を示す図。
図2】従来のインプリント方法を示すフローチャート。
図3】複数のショット領域に供給されたインプリント材の状態を示す図。
図4】第1実施形態におけるインプリント方法を示すフローチャート。
図5】供給工程終了から接触工程開始まで経過時間と必要な待機時間の関係を示すグラフ。
図6】第2実施形態におけるインプリント方法を示すフローチャート。
図7】第3実施形態におけるインプリント方法を示すフローチャート。
図8】インプリント材供給量と経過時間と必要な待機時間との関係を示すグラフ。
図9】経過時間を一定としたときの、インプリント材供給量と必要待機時間との関係を示すグラフ。
図10】実施形態における物品製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
まず、実施形態に係るインプリント装置の概要について説明する。インプリント装置は、基板上に供給されたインプリント材を型と接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギーを与えることにより、型の凹凸パターンが転写された硬化物のパターンを形成する装置である。
【0013】
インプリント材としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギーとしては、電磁波、熱等が用いられうる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、例えば、赤外線、可視光線、紫外線などでありうる。硬化性組成物は、光の照射により、あるいは、加熱により硬化する組成物でありうる。これらのうち、光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて非重合性化合物または溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。インプリント材は、インプリント材供給装置(不図示)により、液滴状、或いは複数の液滴が繋がってできた島状又は膜状となって基板上に配置されうる。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下でありうる。
【0014】
基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミクス、金属、半導体、樹脂等が用いられうる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスである。また、基板には、インプリント材よりも表面張力の高い硬化性組成物を予め塗布しておくことができる。これにより、インプリント材の液滴は、基板へ滴下された後に時間経過とともに拡がりやすくなり、充填を待つ時間を短縮することが可能になりうる。
【0015】
図1は、本実施形態におけるインプリント装置IMPの構成を示す図である。インプリント装置IMPは、基板Wを保持する基板チャック101と、基板チャック101を支持して移動する基板ステージ102(基板駆動部)とを有する。また、インプリント装置IMPは、パターンPが形成されたテンプレートである型Mを保持する型チャック103と、型チャック103を支持して移動する型駆動部104とを有する。さらに、インプリント装置IMPは、基板上に光硬化性のインプリント材Rを供給する供給部(ディスペンサ)Dを有する。さらに、インプリント装置IMPは、インプリント装置IMPの動作を制御する制御部CNTを有する。制御部CNTは、CPUおよびメモリを含む情報処理装置(コンピュータ)で構成され、記憶部に記憶されたプログラムに従って、インプリント装置IMPの各部を統括的に制御する。
【0016】
制御部CNTは、基板ステージ102を基板Wの面と平行な方向に移動させながら、供給部Dに設けられた複数の吐出口Nからインプリント材Rの液滴を吐出させる。これにより、基板上にはインプリント材R(の液滴)の配列パターンが形成される。制御部CNTは、基板上に供給されたインプリント材Rと型Mとを接触させる。インプリント材Rと型Mとが接触した状態で所定の時間待機することによって、基板上のインプリント材Rの液滴が押し広げられ、インプリント材Rが型MのパターンPに充填される。インプリント装置IMPは、インプリント材を硬化させる硬化部Sを有する。硬化部Sは、紫外線を放射する光源105と、ミラー106とを含みうる。基板上のインプリント材Rと型Mとを接触させた状態において、光源105からの紫外線をミラー106を介してインプリント材Rに照射することで、インプリント材Rが硬化する。これにより、基板上のインプリント材Rに型MのパターンPが転写される。
【0017】
次に、本実施形態におけるインプリント方法をインプリント装置IMPで実施した際のインプリント装置IMPの動作について説明する。インプリント装置IMPは、上述したように、制御部CNTがインプリント装置IMPの各部を統括的に制御することで動作する。制御部CNTのメモリには、基板上に形成された複数のショット領域のショット番号及び基板上の位置などに関する情報が予め記憶されている。
【0018】
本実施形態では、マルチフィールド先行供給によるインプリントが行われる。具体的には、基板上の複数のショット領域に連続してインプリント材Rを供給する供給工程を実行し、その後、当該複数のショット領域におけるそれぞれのショット領域ごとに順次、インプリント処理を実行する。ここで、供給工程が先に実行される(すなわちマルチフィールド先行供給が行われる)「複数のショット領域」とは、基板上に形成されている全てのショット領域でありうる。あるいは、「複数のショット領域」とは、基板上に形成されている全てのショット領域のうちの一部(少なくとも2つ)のショット領域でもよい。その場合、基板上の各ショット領域は、マルチフィールド先行供給を行うグループに分類されて制御部CNTのメモリに記憶される。このようなマルチフィールド先行供給によるインプリント処理によれば、1つのショット毎に供給工程と接触工程を繰り返す方法と比較して、基板の移動距離を短くすることができ、スループットを向上できる。
【0019】
本明細書において、インプリント処理とは、以下の工程を含みうる。
(1)ショット領域の上のインプリント材Rと型Mとを接触させる接触工程。
(2)ショット領域の上のインプリント材Rと型Mとが接触した状態でインプリント材Rを硬化させる硬化工程。
(3)硬化したインプリント材Rから型Mを分離する離型工程。
【0020】
ここで、図2のフローチャートを参照して、従来のマルチフィールド先行供給によるインプリント方法を説明しておく。S201で、複数のショット領域に連続してインプリント材が供給される(供給工程)。次に、S202で、複数のショット領域のうちの1つのショット領域が型Mの下に来るように基板ステージ102が駆動され、その後S203で、型Mとインプリント材Rとが接触し、これによりインプリント材がパターンPに充填する(接触工程)。その後、S204で、型Mとインプリント材Rとが接触した状態で紫外線がインプリント材に照射されることによりインプリント材が硬化される(硬化工程)。その後、硬化したインプリント材から型Mが引き離される(離型工程)。S202~S204が、複数のショット領域のそれぞれに対して繰り返される。
【0021】
図3は、本実施形態における、型Mと基板W上のインプリント材Rとが接触する直前のインプリント材Rの状態を示す模式図である。図3において、ショット領域F1、F2、F3は、前述の動作により連続して供給された3つのショット領域である。ここでは、F1、F2、F3の順に接触工程が行われるものとする。図3(a)は、ショット領域F1上のインプリント材Rが型Mと接触する直前の状態を示す。同様に、図3(b)および(c)はそれぞれ、ショット領域F2、F3上のインプリント材Rが型Mと接触する直前の状態を示す。図3(a),(b),(c)では、接触工程の順番が後であるショット領域ほど、インプリント材Rの液滴が、時間の経過に伴って拡がっていることが示されている。一方、インプリント材Rの液滴が拡がっているほど、パターンPにインプリント材Rが充填するのにかかる時間が短いことが知られている(例えば、米国特許公開第2017/0066208号参照)。
【0022】
本実施形態では、それぞれのショット領域に対するインプリント処理における接触工程の開始から硬化工程の開始までの時間を、供給工程の完了から対象ショット領域に対する接触工程の開始までの経過時間に基づいて設定する。例えば本実施形態では、以上のことを踏まえ、インプリント材が供給されてからの経過時間が長いショット領域であるほど、接触工程における充填のための待機時間を短くする。
【0023】
図4のフローチャートを参照して、本実施形態におけるインプリント方法について説明する。S401で、制御部CNTは、複数のショット領域に連続してインプリント材が供給されるよう、基板ステージ102および供給部Dを制御する(供給工程)。S402では、制御部CNTは、S401の供給工程におけるインプリント材供給の完了直後からの経過時間の計測を開始する。
【0024】
S403~S405は、接触工程である。
S403で、制御部CNTは、複数のショット領域のうちの1つのショット領域(対象ショット領域)が型駆動部104(すなわち型M)の下に来るように基板ステージ102を駆動する(第1工程)。
S404では、制御部CNTは、現在の経過時間に基づいて、対象ショット領域のインプリント材充填のための待機時間を設定する。具体的には、制御部CNTは、S402での計時開始から接触工程の開始(S403での基板ステージ102の移動開始)までの経過時間Tを計測する。制御部CNTは、計測された経過時間Tに基づいて、インプリント材Rの液滴の拡がりを考慮して、対象ショット領域に対する待機時間Tspを求める。待機時間Tspは、インプリント材RがパターンPに充填するのに必要な時間であり、好ましくは、インプリント材RがパターンPに充填するのに必要かつ最小の時間である。
S405では、制御部CNTは、型Mと対象ショット領域上のインプリント材Rとが接触するよう型駆動部104により型Mを対象ショット領域に近接させる(第2工程)。そして、制御部CNTは、型Mと対象ショット領域の上のインプリント材Rとの接触が完了した状態で、S404で設定された所定の待機時間Tspの間待機する(第3工程)。
【0025】
その後、S406で、制御部CNTは、インプリント材Rを硬化させるよう硬化部Sを制御し(硬化工程)、その後、硬化したインプリント材から型Mを引き離すよう型駆動部104を制御する(離型工程)。
【0026】
以上のS403~S406が、複数のショット領域のそれぞれに対して繰り返される。
【0027】
次に、本実施形態で想定される事前実験の方法について説明する。S404で、経過時間Tから待機時間Tspを算出する式は、以下の事前実験の結果に基づいて決定されうる。事前実験においては、デバイス等の物品の製造時に使用される場合と同様のインプリント装置、型、インプリント材等を用いて、条件を変えながら複数回インプリントを行うことにより、式導出のために必要な情報を取得する。事前実験では、一回のインプリントにおける供給工程でインプリント材が供給されるショット領域は一つとする。また、接触工程の開始前に所定時間の待機工程を設ける。この所定時間を調整することにより、供給工程終了から接触工程開始までの間隔(経過時間)を任意の値Texに設定することができる。また、待機時間Tspは、計算によって決定せず、任意に設定することもできる。経過時間Texを固定して待機時間Tspを様々な値に設定してインプリントを繰り返し行い、その複数のインプリントの結果を確認する。待機時間が不足している場合、インプリント材の未充填によるパターンの不良が発生する。インプリント材の未充填によるパターンの不良は、インプリント材RがパターンPの構造に十分充填されていない状態で、紫外線が照射され硬化してしまうことにより生じるパターンの不良である。インプリント材の未充填によるパターンの不良の発生を許容範囲内に収めるために必要な待機時間を探す。好ましくは、インプリント材の未充填によるパターンの不良が発生しない最小待機時間Tspminを探し、これを経過時間Texに対する最小の必要待機時間とする。
【0028】
その後、経過時間Texを別の値に設定して同様の実験を行うことにより、経過時間Texと最小待機時間Tspminとの関係を得ることができる。図5は、この関係を表すグラフ506の例である。図5において、横軸は経過時間Tを示し、縦軸は待機時間Tspを示す。グラフ506は、各経過時間Tex(Tex1~Tex5)に対する最小待機時間Tspminの値501~505を有する。
【0029】
この事前実験によって、経過時間と待機時間との対応関係を予め得ることができる。この対応関係に基づいて、計測された経過時間に対応する待機時間が決定されうる。グラフ506を表す近似曲線を求めることにより、経過時間と待機時間との対応関係を表す関数Tsp(T)を得ることができる。制御部CNTは、プロットデータをメモリに記憶し、制御部CNTが関数Tsp(T)を算出してもよいし、外部で算出された関数Tsp(T)が制御部CNTのメモリに記憶されてもよい。本実施形態では、S404において、制御部CNTは、経過時間Tを上記関数に代入することにより待機時間を計算(決定)する。なお、関数Tsp(T)は、数式として記憶されてもよいし、参照テーブルのかたちで記憶されてもよい。
【0030】
以上のように、インプリント材が供給されてからの経過時間を用いて待機時間を決定することにより、ショット毎に適切な待機時間を設定してインプリントを行うことができる。
【0031】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態におけるインプリント方法のフローを示す。第1実施形態(図4)では、S402で時間計測を開始し、ショット毎にS404で、計測された経過時間から待機時間を決定した。これに対し第2実施形態(図6)では、供給工程より前に待機時間Tspの設定が行われる(S601)。ここでは、各ショット領域に対してユーザが待機時間Tspを直接指定してもよいし、制御部CNTがインプリント材Rの供給完了から接触工程開始までの時間の予測値Tprを用いて計算してもよい。予測値Tprを用いる場合、第1実施形態と同様の事前実験で求めた関数に予測値Tprを代入することにより待機時間Tspを決定することができる。予測値を用いるため、時間の計測を行わずにインプリント材Rの液滴の拡がりを考慮した待機時間を決定することができる。
【0032】
S601の完了後、S602で、制御部CNTは、複数のショット領域に連続してインプリント材が供給されるよう、基板ステージ102および供給部Dを制御する(供給工程)。
【0033】
S603およびS604は、接触工程である。
S603で、制御部CNTは、複数のショット領域のうちの1つのショット領域(対象ショット領域)が型駆動部104(すなわち型M)の下に来るように基板ステージ102を駆動する(第1工程)。
S604では、制御部CNTは、型Mと対象ショット領域上のインプリント材Rとが接触するよう型駆動部104により型Mを対象ショット領域に近接させる(第2工程)。そして、制御部CNTは、型Mと対象ショット領域の上のインプリント材Rとの接触が完了した状態で、S601で計算された対象ショット領域に対する待機時間Tspの間待機する(第3工程)。
【0034】
その後、S605で、制御部CNTは、インプリント材Rを硬化させるよう硬化部Sを制御し(硬化工程)、その後、硬化したインプリント材から型Mを引き離すよう型駆動部104を制御する(離型工程)。
【0035】
以上のS603~S605が、複数のショット領域のそれぞれに対して繰り返される。
【0036】
S601における予測値Tprの計算方法について説明する。図6において、ショット領域毎に行われる工程S603、S604、S605にかかる時間が、複数のショット領域にインプリント処理が行われる順序(以下「ショット順」という。)に依存する場合、ショット順nを用いて予測値Tprを計算することができる。n番目のショット領域のインプリント材Rの供給から接触工程開始までの時間の予測値Tpr_nは、以下の(1)と(2)を足し合わせることにより算出することができる。
(1)(n-1)番目までのショットにおけるS603、S604、S605にかかる時間の合計。
(2)n番目のショットにおけるS603にかかる時間。
【0037】
k番目のショットのS603、S604、S605にかかる時間をそれぞれT603_k、T604_k、T605_kとすると、予測値Tpr_nは次式により表される。
【0038】
【数1】
【0039】
この式によると、Tpr_1を計算することができればTpr_2を計算することができ、Tpr_2を計算することができればTpr_3を計算することができる。このように、Tpr_1の値から連鎖式に全ショットの予測値Tprを計算することができる。また、Tpr_1の値はT603_1と同等である。
【0040】
k番目のショットのS603にかかる時間T603_kは、(k-1)番目のショット領域からk番目のショット領域までの距離(ただし、k=1のときは、供給工程終了時の位置から1番目のショット領域までの距離。)と、ステージ駆動の加速度、最高速度、整定時間から計算することができる。k番目のショットのS604にかかる時間T604_kは、型をインプリント材に近づけ接触させるのにかかる時間と待機時間との和となる。型をインプリント材に近づけ接触させるのにかかる時間は、初期位置での型からインプリント材までの距離と、型駆動部104による型下降の加速度、最高速度、整定時間から計算することができる。また、待機時間は、第1実施形態と同様の方法で算出された経過時間に対する必要待機時間の関数Tsp(T)のTにTpr_kを代入することによって計算されうる。k番目のショットのS605にかかる時間T605_kは、紫外線照射時間と、型をインプリント材から引き離して初期位置に戻すのにかかる時間の和となる。型をインプリント材から引き離して初期位置に戻すのにかかる時間は、初期位置での型からインプリント材まで距離と、型駆動部104による型上昇の加速度、最高速度、整定時間から計算することができる。ステージ駆動や型駆動の加速度、最高速度、整定時間、及び紫外線照射時間は、装置の設定として一定値であってもよいし、ショット領域毎に設定された値であってもよい。
【0041】
本実施形態よれば、従来のインプリント方法の工程の順番に変更を加えることなく、ショット毎に適した待機時間を設定することができる。
【0042】
<第3実施形態>
国際公開第2018/164016号(特許文献2)には、インプリント材(硬化性組成物)の供給時(図2の202)にショット領域毎にインプリント材の供給量を変えることが記載されている。これは、ショット順が後のショット領域であるほど、インプリント材が供給からの時間経過に伴うインプリント材の揮発量が多く、これを補償するためである。インプリント材の揮発量を予測し、その揮発量分多くインプリント材を供給することにより、接触工程時のインプリント材の量を複数のショット領域にわたって均一にすることができる。このインプリント材の揮発量の予測に、供給工程から接触工程までの経過時間の予測値として、第2実施形態の方法で計算できる予測値を用いてもよい。一方、何らかの原因で、供給工程から接触工程までの経過時間が予測値と異なる場合がありうる。この場合は、インプリント材の揮発量が予測値と異なるため、接触工程時のインプリント材の量がショット毎に異なる。インプリント材の量が予測値と異なる場合には、それに応じて待機時間を再設定することが望ましい。
【0043】
以下、図7のフローチャートを参照して、第3実施形態におけるインプリント方法を説明する。
【0044】
S701で、制御部CNTは、各ショット領域に関してインプリント材供給完了から接触工程開始までの経過時間(供給-接触間時間)を予測する。S702で、制御部CNTは、複数のショット領域に連続してインプリント材が供給されるよう、基板ステージ102および供給部Dを制御する(供給工程)。ここで、制御部CNTは、S701で予測された経過時間Tpr_nを用いて、インプリント材Rの揮発量の予測値分多くインプリント材を供給する。S703では、制御部CNTは、S702の供給工程におけるインプリント材供給の完了直後からの経過時間の計測を開始する。
【0045】
S704~S706は、接触工程である。
S704で、制御部CNTは、複数のショット領域のうちの1つのショット領域(対象ショット領域)が型駆動部104(すなわち型M)の下に来るように基板ステージ102を駆動する(第1工程)。
S705では、制御部CNTは、現在の経過時間に基づいて、対象ショット領域の待機時間を設定する。具体的には、制御部CNTは、S703での計時開始から接触工程の開始(S704での基板ステージ102の移動開始)までの経過時間Tを計測する。制御部CNTは、計測された経過時間Tに基づいて、インプリント材Rの液滴の拡がりと揮発量を考慮して、対象ショット領域に対する待機時間Tspを求める。
S706では、制御部CNTは、型Mと対象ショット領域上のインプリント材Rとが接触するよう型駆動部104により型Mを対象ショット領域に近接させる(第2工程)。そして、制御部CNTは、型Mと対象ショット領域の上のインプリント材Rとの接触が完了した状態で、S705で設定された待機時間Tspの間待機する(第3工程)。
【0046】
その後、S707で、制御部CNTは、インプリント材Rを硬化させるよう硬化部Sを制御し(硬化工程)、その後、硬化したインプリント材から型Mを引き離すよう型駆動部104を制御する(離型工程)。
【0047】
以上のS704~S707が、複数のショット領域のそれぞれに対して繰り返される。
【0048】
次に、本実施形態で想定される事前実験の方法について説明する。S705において待機時間Tspの決定に用いられる計算式は、以下の事前実験の結果から求められる。第1実施形態における事前実験と同様に、デバイス等の物品の製造時に使用される場合と同様のインプリント装置、型、インプリント材等を用いて、条件を変えながら複数回インプリントを行うことにより、式導出のために必要な情報を取得する。
【0049】
まず、第1実施形態と同様の方法で、供給工程から接触工程までの経過時間に対する必要待機時間の関数を得る。この関数をTsp1(T)とする。このときのインプリント材供給量をV1とする。
【0050】
次に、インプリント材供給量をV2に変えて同様の実験を行い、経過時間に対する必要待機時間の関数Tsp2(T)を得る。さらに、インプリント材供給量を様々に変えて同様の実験を行い、インプリント材供給量Vと経過時間に対する必要待機時間の関数Tsp(T)の様々な組み合わせを得る。
【0051】
これを図示すると図8のようになる。図8において、グラフ801は、インプリント材供給量がV1のときの経過時間に対する必要待機時間の関数Tsp1(T)を表す。グラフ802は、インプリント材供給量がV2のときの経過時間に対する必要待機時間の関数Tsp2(T)を表す。グラフ803は、インプリント材供給量がV3のときの経過時間に対する必要待機時間の関数Tsp3(T)を表す。これらのグラフを見ると、インプリント材供給からの経過時間がT1のときの、インプリント材供給量V1、V2、V3それぞれに対する必要待機時間は、Tsp1、Tsp2、Tsp3であることが分かる。
【0052】
これらの値を、インプリント材供給量と必要待機時間の対応関係としてプロットすると、図9のプロット901、902、903のようになる。これらのプロットから図9のグラフ904で示される近似曲線を求めることで、経過時間がT1のときのインプリント材供給量に対する必要待機時間の関数Tsp’(V)を得ることができる。
【0053】
制御部CNTは、図8に示されるような経過時間に対する必要待機時間の関数群をメモリに格納する。さらに、制御部CNTは、経過時間をTとしたときのインプリント材供給量と必要待機時間との対応関係を表す関数Tsp’(V)を計算する。本実施形態では、S705にて、S703で開始した経過時間Tからインプリント材供給量と必要待機時間との関係を表す関数Tsp’(V)を計算した上で、S702でのインプリント材供給量Vを上記関数に代入することにより、待機時間を計算する。
【0054】
以上のように、待機時間をインプリント材が供給されてからの経過時間とインプリント材供給量を用いて計算することにより、インプリント材の揮発が考慮された、ショット毎に過不足のない待機時間を設定してインプリントを行うことができる。また、インプリント材の揮発量が想定と異なる場合であっても、それを考慮して待機時間を設定することができる。
【0055】
以上説明した種々の実施形態によれば、スループットと正確なパターン形成の両立に有利なインプリント装置を提供することができる。
【0056】
<物品製造方法の実施形態>
インプリント装置を用いて形成した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。型としては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0057】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、レジストマスクは除去される。
【0058】
次に、物品製造方法について説明する。図10の工程SAでは、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコン基板等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0059】
図10の工程SBでは、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。図10の工程SCでは、インプリント材3zが付与された基板1zと型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを介して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0060】
図10の工程SDでは、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0061】
図10の工程SEでは、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。図7の工程SFでは、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0062】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0063】
IMP:インプリント装置、S:硬化部:D:供給部(ディスペンサ)、CNT:制御部、M:型、W:基板、101:基板チャック、102:基板ステージ、103:型チャック、104:型駆動部
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10