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  • 特許-光半導体封止用樹脂成形物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】光半導体封止用樹脂成形物
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/02 20060101AFI20240815BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240815BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20240815BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20240815BHJP
【FI】
H01L31/02 B
H01L23/30 F
H01L33/56
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020150482
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022045020
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】木村 龍一
(72)【発明者】
【氏名】生田 潤
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-114390(JP,A)
【文献】特開2015-199904(JP,A)
【文献】特開2011-102337(JP,A)
【文献】米国特許第06887737(US,B1)
【文献】MIYAJIMA H., et al.,エポキシ樹脂硬化剤HN-2200の特性,日立評論,日本,1972年,54巻4号,pp.49-54
【文献】FUKUNAGA M., et al.,絶縁用封止材として使われるエポキシ樹脂硬化反応の解析,プラスチック成形加工学会誌「成形加工」,日本,2002年,14巻6号,pp.371-377
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02
H01L 23/29
H01L 33/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示される構造単位(I)を有する化合物、及び、下記式(II)で示される構造単位(II)を有する化合物を含む光半導体封止用樹脂成形物。
式(I):
【化1】
(式中、Aは、有機基を表す。Rは、非芳香族環を有する有機基を表す。)
式(II):
【化2】
(式中、Aは、前記のとおり。R2aは、エポキシ樹脂の残基を含む部位を表す。R2bは、水素原子、又は、R2aと結合する結合手を表す。)
【請求項2】
下記関係式(1)を満足する請求項1に記載の光半導体封止用樹脂成形物。
Y<370000X-36000000 (1)
(式中、Xは、下記方法で得られた硬化体(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)のガラス転移温度(℃)を表し、Yは、前記硬化体の265℃における貯蔵弾性率(Pa)を表す。)
(硬化体の作製方法)
樹脂成形物を、150℃で4分間加熱して成形し、その後150℃で3時間加熱することで、硬化体を得る。
【請求項3】
構造単位(I)と構造単位(II)との合計に対する構造単位(I)のモル比が0.10~0.60である請求項1又は2に記載の光半導体封止用樹脂成形物。
【請求項4】
下記方法により硬化体(大きさ:幅50mm×長さ50mm×厚み1mm)とした場合の、波長450nmでの直線透過率が70%以上である請求項1~3のいずれかに記載の光半導体封止用樹脂成形物。
(硬化体の作製方法)
樹脂成形物を、150℃で4分間加熱して成形し、その後150℃で3時間加熱することで、硬化体を得る。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の光半導体封止用樹脂成形物を成形して得られる光半導体封止材。
【請求項6】
光半導体素子と、当該光半導体素子を封止する請求項5に記載の光半導体封止材とを備える光半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体封止用樹脂成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体素子は、セラミックパッケージ又はプラスチックパッケージによって封止され装置化されている。ここで、セラミックパッケージは、構成材料が比較的高価であること、量産性に劣ることから、プラスチックパッケージを用いることが主流となっている。なかでも、作業性、量産性、信頼性の点で、エポキシ樹脂組成物を、予めタブレット状に打錠成形したものをトランスファーモールド成形する技術が主流となっている。
【0003】
特許文献1には、エポキシ樹脂組成物を粒状に造粒してタブレット化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-9394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器の高機能化及び高出力化に伴い、光半導体には、より高い信頼性が求められている。例えば、低温から高温まで温度が繰り返し変化する環境下での使用により、封止材にクラックや剥離、変色等が生じることがあり、それらに起因する光半導体素子へのダメージを低減することが求められている。
【0006】
本発明は、耐温度サイクル性に優れる光半導体封止材を与える光半導体封止用樹脂成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記式(I)で示される構造単位(I)を有する化合物、及び、下記式(II)で示される構造単位(II)を有する化合物を含む光半導体封止用樹脂成形物に関する。
式(I):
【化1】
(式中、Aは、有機基を表す。Rは、非芳香族環を有する有機基を表す。)
式(II):
【化2】
(式中、Aは、上記のとおり。R2aは、エポキシ樹脂の残基を含む部位を表す。R2bは、水素原子、又は、R2aと結合する結合手を表す。)
【0008】
上記光半導体封止用樹脂成形物は、下記関係式(1)を満足することが好ましい。
Y<370000X-36000000 (1)
(式中、Xは、下記方法で得られた硬化体(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)のガラス転移温度(℃)を表し、Yは、上記硬化体の265℃における貯蔵弾性率(Pa)を表す。)
(硬化体の作製方法)
樹脂成形物を、150℃で4分間加熱して成形し、その後150℃で3時間加熱することで、硬化体を得る。
【0009】
構造単位(I)と構造単位(II)との合計に対する構造単位(I)のモル比が0.10~0.60であることが好ましい。
【0010】
上記光半導体封止用樹脂成形物は、下記方法により硬化体(大きさ:幅50mm×長さ50mm×厚み1mm)とした場合の、波長450nmでの直線透過率が70%以上であることが好ましい。
(硬化体の作製方法)
樹脂成形物を、150℃で4分間加熱して成形し、その後150℃で3時間加熱することで、硬化体を得る。
【0011】
本発明は、上記光半導体封止用樹脂成形物を成形して得られる光半導体封止材にも関する。
【0012】
本発明は、光半導体素子と、当該光半導体素子を封止する上記光半導体封止材とを備える光半導体装置にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物によれば、耐温度サイクル性に優れる光半導体封止材が得られるので、低温から高温まで温度が繰り返し変化する環境下での使用によっても光半導体封止材にクラックや剥離、変色等が生じにくく、それらに起因する光半導体素子へのダメージを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例及び比較例で用いた評価パッケージを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0016】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、下記式(I)で示される構造単位(I)を有する化合物、及び、下記式(II)で示される構造単位(II)を有する化合物を含む。
【化3】
(式中、Aは、有機基を表す。Rは、非芳香族環を有する有機基を表す。)
【化4】
(式中、Aは、上記のとおり。R2aは、エポキシ樹脂の残基を含む部位を表す。R2bは、水素原子、又は、R2aと結合する結合手を表す。)
【0017】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、構造単位(I)を有する化合物を含むことにより、ガラス転移温度が高く、しかも高温時に弾性率の低い硬化体を与えるので、耐温度サイクル性に優れる光半導体封止材が得られる。更に、耐はんだリフロー性、耐黄変性、温度変化に対する寸法安定性、衝撃吸収性、耐衝撃性にも優れる光半導体封止材が得られる。このような光半導体封止材は、高温となる環境下での使用やはんだリフロー工程によってもクラックや剥離、変色等が生じにくいので、それらに起因する光半導体素子へのダメージを低減することができる。
【0018】
一般に、ガラス転移温度が上昇すると弾性率も上昇する傾向にあるが、構造単位(I)を有する化合物を含む樹脂成形物からは、ガラス転移温度が高く、しかもガラス転移温度よりも高温側での弾性率の低い硬化体が得られる。その理由は明確ではないが、Rで表される分子鎖の立体反発が大きいため、上記化合物の主鎖の剛直性の増大によりガラス転移温度が上昇するとともに、上記化合物の自由体積の増大により弾性率が低下するものと推測される。
【0019】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、また、加熱成形時に硬くなりすぎないので、ハンドリング性、成形性及び離型性に優れる。
【0020】
式(I)中、Aは、有機基を表す。上記有機基は、2価の有機基である。
上記有機基の炭素数は、2以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、また、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましい。
上記有機基としては、炭化水素基が好ましく、酸素原子等のヘテロ原子や、二重結合等の不飽和結合を含んでいてもよい。
上記有機基は、環構造を有していてもよく、環構造を有することが好ましい。
【0021】
式(I)中、Rは、非芳香族環を有する有機基を表す。上記有機基は、2価の有機基である。
上記有機基の炭素数は、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、6以上であることが更に好ましく、また、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。
上記有機基としては、炭化水素基が好ましく、酸素原子等のヘテロ原子や、二重結合等の不飽和結合を含んでいてもよい。
【0022】
上記非芳香族環は、非芳香族の炭素環であることがより好ましい。上記非芳香族環は、不飽和結合を有していてもよいが、不飽和結合を有さないことも好ましい。上記非芳香族環は、単環式でも多環式でもよい。
【0023】
上記非芳香族環は、橋かけ構造を有する炭化水素環であってもよい。上記橋かけ構造を有する炭化水素環としては、橋かけ構造を有する二環式又は三環式の炭化水素環が好ましく、橋かけ構造を有する三環式炭化水素環がより好ましい。
【0024】
上記非芳香族環としては、シクロヘキサン環が特に好ましい。
【0025】
は、後述する非芳香族環を有する多価アルコールから2つの水酸基を除いた基であってよい。
【0026】
式(II)中、R2aは、エポキシ樹脂の残基を含む部位を表す。本明細書において、エポキシ樹脂の残基は、エポキシ樹脂から少なくとも1つのエポキシ基(オキシラン環)を除いた構造である。
2aは、更に、未反応のエポキシ基を1つ以上含んでいてもよく、エポキシ基が他の化合物(硬化剤、硬化促進剤、その他の添加剤等)と反応した構造を含んでいてもよい。
【0027】
式(II)中、R2bは、水素原子、又は、R2aと結合する結合手を表す。R2bが結合手である場合、R2aと結合して環を形成する。
【0028】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物においては、構造単位(I)と構造単位(II)との合計に対する構造単位(I)のモル比(I/(I+II))が0.10~0.60であることが好ましい。上記モル比は、0.15以上であることがより好ましく、0.25以上であることが更に好ましく、また、0.50以下であることがより好ましく、0.40以下であることが更に好ましい。
これにより、耐温度サイクル性及び耐はんだリフロー性に一層優れる光半導体封止材が得られる。
各構造単位の含有量は、NMRにより求めることができる。
【0029】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、下記関係式(1)を満足することが好ましい。
Y<370000X-36000000 (1)
(式中、Xは、下記方法で得られた硬化体(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)のガラス転移温度(℃)を表し、Yは、上記硬化体の265℃における貯蔵弾性率(Pa)を表す。)
(硬化体の作製方法)
樹脂成形物を、150℃で4分間加熱して成形し、その後150℃で3時間加熱することで、硬化体を得る。
このような樹脂成形物を硬化すると、ガラス転移温度が一層高く、しかも高温時に弾性率の一層低い硬化体が得られるので、耐温度サイクル性に一層優れる光半導体封止材が得られる。
【0030】
上記ガラス転移温度(Tg)は、上述した方法により得られた硬化体(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)を用いて動的粘弾性測定(モード:引張、走査温度:0~270℃、周波数:1Hz、昇温速度:10℃/分、サンプル支点間距離:22.5mm)を実施して、貯蔵弾性率E’及び損失弾性率E’’を得、これらからtanδ(=E’’/E’)の曲線を求め、tanδのピークトップ温度として求める。
【0031】
上記265℃における貯蔵弾性率(E’265℃)は、上述した方法で得られた硬化体(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)を用いて265℃における動的粘弾性測定(モード:引張、走査温度:0~270℃、周波数:1Hz、昇温速度:10℃/分、サンプル支点間距離:22.5mm)により求める。
【0032】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、上記方法により硬化体(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)とした場合のガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることが更に好ましく、140℃以上であることが特に好ましく、また、200℃以下であることが好ましい。
硬化体とした場合のTgが上記範囲内にあると、耐温度サイクル性に一層優れる光半導体封止材が得られる。
【0033】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、上記方法により硬化体(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)とした場合の265℃における貯蔵弾性率(E’265℃)が5.0×10Pa以下であることが好ましく、2.0×10Pa以下であることがより好ましく、1.0×10Pa以下であることが更に好ましく、また、1.0×10Pa以上であることが好ましい。
硬化体とした場合のE’265℃が上記範囲内にあると、耐温度サイクル性及び耐はんだリフロー性に一層優れる光半導体封止材が得られる。
【0034】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、上記方法により硬化体(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)とした場合の25℃における貯蔵弾性率(E’25℃)が5.0×10~5.0×10Paであることが好ましく、8.0×10~4.0×10Paであることがより好ましく、1.0×10~3.0×10Paであることが更に好ましい。
硬化体とした場合のE’25℃が上記範囲内にあると、耐温度サイクル性及び耐はんだリフロー性に一層優れる光半導体封止材が得られる。
【0035】
E’25℃は、上述した方法で得られた硬化体(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)を用いて25℃における動的粘弾性測定(モード:引張、走査温度:0~270℃、周波数:1Hz、昇温速度:10℃/分、サンプル支点間距離:22.5mm)により求める。
【0036】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、上記方法により硬化体(大きさ:幅50mm×長さ50mm×厚み1mm)とした場合の、波長450nmでの直線透過率が70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。
これにより、光の透過性(透明性)に優れた光半導体封止材が得られる。
上記直線透過率は、分光光度計を用いて上記硬化体の波長450nmでの透過スペクトルを測定することにより求める。
【0037】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、エポキシ樹脂、酸無水物、多価アルコール、エポキシ樹脂と酸無水物との反応物、多価アルコールと酸無水物との反応物、及び、硬化促進剤を含むことが好ましい。
上述した構造単位(I)を有する化合物は、多価アルコールと酸無水物との反応物であってよく、構造単位(II)を有する化合物は、エポキシ樹脂と酸無水物との反応物であってよい。
【0038】
エポキシ樹脂としては、着色の少ないものが好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネート、ヒダントインエポキシ等の含複素環エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種を単独で若しくは2種以上を併せて用いることができる。
【0039】
酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸等が挙げられる。酸無水物は、1種を単独で若しくは2種以上を併せて用いることができる。
【0040】
酸無水物の配合量は、特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂100質量部に対して20~200質量部が好ましい。20質量部未満では、硬化の速度が遅くなり、200質量部を超えると硬化反応に対して過剰量が存在するため、諸物性の低下を引き起こす恐れがある。
【0041】
また、酸無水物基の当量(A)とエポキシ基の当量(E)との当量比(A/E)が0.5~1.5であることが好ましく、0.8~1.2であることがより好ましく、0.9~1.0であることが最も好ましい。0.5未満であったり、1.5を超えたりすると、反応性が低下し、硬化物の強度・耐熱性を損なう可能性がある。
【0042】
多価アルコールは、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物であればよいが、ジオール(グリコール)であることが好ましい。
【0043】
上記多価アルコールとしては、上述した構造単位(I)を容易に得ることができることから、非芳香族環を有する多価アルコールが好ましい。上記多価アルコールは、脂環式多価アルコールであってよい。上記多価アルコールの炭素数は、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、6以上であることが更に好ましく、また、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。
【0044】
上記非芳香族環としては、上述した式(I)におけるRとしての有機基が有する非芳香族環と同様のものが挙げられる。
【0045】
上記多価アルコールとしては、以下のものが例示できるが、これらに限定されるものではない。なお、立体異性体が存在する場合は、各立体異性体、及び、2以上の立体異性体の混合物も例示に含まれるものとする。
【化5】
【0046】
多価アルコールは、1種を単独で若しくは2種以上を併せて用いることができる。
【0047】
多価アルコールの配合量は、特に限定されないが、エポキシ樹脂100質量部に対して例えば5~200質量部の範囲から適宜選択できる。
また、多価アルコール化合物のモル数(B)と酸無水物のモル数(C)とのモル比(B/C)が0.01~0.70であることが好ましく、0.05~0.60であることがより好ましく、0.10~0.50であることが最も好ましい。
多価アルコールの配合量が少なすぎると、得られる硬化体の弾性率が高くなりすぎることがあり、一方、多価アルコールの配合量が多すぎると、得られる硬化体のガラス転移温度及び弾性率が低くなりすぎることがある。
【0048】
硬化促進剤としては、トリエタノールアミン、ジメチルベンジルアミン等の三級アミン、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボーレート、トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物、1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン-7や1,5-ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノネン-5等のジアザビシクロアルケン系化合物等が挙げられる。これらも、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
硬化促進剤の配合量は、特に限定されないが、エポキシ樹脂100質量部に対して例えば0.1~5質量部の範囲から適宜選択でき、0.5~3質量部が好ましく、1~2質量部がより好ましい。硬化促進剤の配合量が少なすぎると、硬化の速度が遅くなり、生産性が低下し、一方、硬化促進剤の配合量が多すぎると硬化反応の速度が速く、反応状態の制御が困難となり、反応のばらつきを生じさせる恐れがある。
【0050】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物が硬化促進剤を含む場合、硬化促進剤の一部がエポキシ樹脂及び/又は酸無水物と反応していてもよい。
【0051】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物には、上記各成分以外に必要に応じて着色防止剤、滑沢剤、変性剤、劣化防止剤、離型剤、光を波長変化させる蛍光体や拡散させる無機・有機フィラー等の添加剤が用いられる。なお、シリカ粉末等の充填剤は光の透過を損なわない程度であれば配合することができる。
【0052】
着色防止剤としては、フェノール系化合物、アミン系化合物、有機硫黄系化合物、ホスフィン系化合物等が挙げられる。
【0053】
滑沢剤としては、ステアリン酸,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸カルシウム等のワックスやタルク等が挙げられる。なお、上記滑沢剤を配合する場合、その配合量は、成形条件に応じて適宜設定されるが、例えば、樹脂成形物全体の0.1~0.4質量%に設定することが好適である。
【0054】
光を波長変化させる蛍光体や拡散させる無機・有機フィラーとしては、石英ガラス粉末、タルク、溶融シリカ粉末および結晶性シリカ粉末等のシリカ粉末、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素等があげられる。なお、蛍光体や無機・有機フィラーを配合する場合、その配合量は、成形条件に応じて適宜設定される。具体的には、蛍光体の場合、蛍光体の配合量は、樹脂成形物全体の1質量%~60質量%の範囲から適宜設定できる。一方、光散乱させるフィラー(有機・無機)の場合、光散乱させるフィラーは、樹脂成形物全体の0.5質量%~25質量%から適宜設定できる。
【0055】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物としては、タブレット、シート等が挙げられる。
【0056】
光半導体封止用樹脂成形物がタブレットの場合、その体積は、特に限定されないが、1~100cmが好ましく、10~100cmがより好ましい。
【0057】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、受光素子等の光半導体素子の樹脂封止に用いられるため、光学的観点から透明のものが好ましい。ここで、「透明」とは、上記成形物の硬化体の、400nmにおける透過率が90%以上であることをいう。なお、前述した光を波長変化させる蛍光体や拡散させる無機・有機フィラー等の添加物を含有する場合の透過率は、添加物を除いた樹脂部の透過率を意味する。
【0058】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、例えば、
エポキシ樹脂、酸無水物、多価アルコール及び硬化促進剤を混練し、硬化性樹脂組成物を得る工程と、
該硬化性樹脂組成物を熱処理する工程と、
該硬化性樹脂組成物を造粒し、粒状硬化性樹脂組成物を得る工程と、
該粒状硬化性樹脂組成物を成形する工程と
を含む製造方法により、好適に製造することができる。
【0059】
混練する方法は特に限定されないが、例えば押出機を用いる方法等が挙げられる。混練温度も特に限定されず、エポキシ樹脂の特性によって適宜変更することができる。
【0060】
混練して得られた硬化性樹脂組成物の形状は特に限定されず、フィルム状、シート状、粒状、塊状等が挙げられる。
【0061】
混練して得られた硬化性樹脂組成物は、熱処理してBステージ状(半硬化状)の光半導体封止用樹脂組成物を得る。熱処理温度及び熱処理時間は特に限定されず、エポキシ樹脂の特性によって適宜変更することができる。
【0062】
熱処理した樹脂組成物は、造粒して、粒状硬化性樹脂組成物を得る。造粒前に、ボールミル、ターボミル等を用いて粉砕することもできる。造粒方法は特に限定されないが、乾式圧縮造粒機を用いる方法等が挙げられる。造粒して得られた粒状物の平均粒径は特に限定されないが、1~5000μmが好ましく、100~2000μmがより好ましい。5000μmを超えると、圧縮率が低下する傾向がある。
【0063】
得られた粒状硬化性樹脂組成物は、成形して成形物を得る。成形物としてはタブレットやシートが挙げられ、成形方法としてはタブレットを得る打錠成形や、シートを得る押出成形などが挙げられる。得られた成形物は、前述したように、ガラス転移温度が高く、しかも弾性率の低い硬化体を与えることができるため、耐熱性及び耐はんだリフロー性に優れる光半導体封止材を与えることができる。
【0064】
成形物がタブレットの場合、タブレットを打錠成形する際の条件は、粒状硬化性樹脂組成物の組成や平均粒径、粒度分布等に応じて適宜調整されるが、一般に、その打錠成形時の圧縮率は、90~96%に設定することが好適である。すなわち、圧縮率の値が90%より小さいと、タブレットの密度が低くなって割れやすくなるおそれがあり、逆に、圧縮率の値が96%より大きいと、打錠時にクラックが発生して離型時に欠けや折れが生じるおそれがあるからである。
【0065】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、トランスファーモールド成形等の成形方法により光半導体素子を封止することができる。本発明の光半導体封止用樹脂成形物を成形して得られる光半導体封止材も、本発明の1つである。本発明の光半導体封止材は、本発明の樹脂成形物から得られるので、耐温度サイクル性に優れる。更に、耐はんだリフロー性、耐黄変性、温度変化に対する寸法安定性、衝撃吸収性、耐衝撃性にも優れる。したがって、低温から高温まで温度が繰り返し変化する環境下での使用や、はんだリフロー工程によってもクラックや剥離が少なく、封止される光半導体素子へのダメージを低減することができる。
本明細書において、光半導体封止材とは、光半導体装置を構成する光半導体素子を覆うように形成され、当該素子を封止する部材である。
【0066】
光半導体素子と、当該光半導体素子を封止する本発明の光半導体封止材とを備える光半導体装置も、本発明の1つである。本発明の光半導体装置は、本発明の光半導体封止材を備えるので、低温から高温まで温度が繰り返し変化する環境下で作動させた場合でも、封止材のクラックや剥離が少なく、光半導体素子へのダメージが少ない。
【0067】
本発明の光半導体封止用樹脂成形物は、低温から高温まで温度が繰り返し変化する環境下で使用されることが多く、また、はんだリフロー工程に供されることの多い車載用光半導体の封止に特に好適に用いることができる。
【実施例
【0068】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
使用した材料を以下に示す。
エポキシ樹脂A:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製JER-1002W、エポキシ当量650)
エポキシ樹脂B:トリグリシジルイソシアヌレート(日産化学社製TEPIC-S、エポキシ当量100)
酸無水物:ヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化社製リカシッドHH)
ジオール添加剤A:1,4-シクロヘキサンジメタノール
ジオール添加剤B:1,4-シクロヘキサンジオール
ジオール添加剤C:水素化ビスフェノールA
ジオール添加剤D:1,6-ヘキサンジオール
ジオール添加剤E:ネオペンチルグリコール
硬化促進剤:ジメチルベンジルアミン
【0070】
実施例1~6及び比較例1~4
表1に示す各成分を同表に示す割合で50~140℃で溶融混合後、冷却し、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を40~80℃で反応度調整を行い、粉砕し、打錠成型することにより、光半導体封止用樹脂タブレットを作製した。
【0071】
各実施例及び比較例で作製したタブレットを用いて、各種物性を以下に示す方法で測定するとともに、耐温度サイクル性、耐はんだリフロー性及び透明性を評価した。結果を表1に示す。
【0072】
<構造単位のモル比>
ジオール添加剤と酸無水物との反応物に由来する構造単位A、エポキシ樹脂と酸無水物との反応物に由来する構造単位Bの含有量をNMRにより求め、構造単位A及び構造単位Bの合計に対する構造単位Aのモル比(A/(A+B))を算出した。
【0073】
<試験片(硬化体)の作製>
上記のようにして作製したタブレットを用いて、専用金型で成形する(硬化条件:150℃×4分間加熱)ことにより、測定方法に応じた大きさの試験片用硬化物を作製した。これを、150℃で3時間加熱することにより完全に硬化を終了させ、試験片を得た。
【0074】
<貯蔵弾性率E’>
上記で作製した試験片(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)を用い、RHEOMETRIC SCIENTIFIC社製のRSA-IIにより、引張モード、周波数1Hz、走査温度0~270℃、昇温速度10℃/分、サンプル支点間距離22.5mmの測定条件にて、上記試験片の貯蔵弾性率E’を得、測定温度265℃において上記硬化体の貯蔵弾性率を導出した。
【0075】
<ガラス転移温度(Tg)>
RHEOMETRIC SCIENTIFIC社製のRSA-IIにより、引張モード、周波数1Hz、走査温度0~270℃、昇温速度10℃/分、サンプル支点間距離22.5mmの測定条件にて、上記で作製した試験片(大きさ:幅5mm×長さ35mm×厚み1mm)の貯蔵弾性率E’及び損失弾性率E’’を得、これらからtanδ(=E’’/E’)の曲線を求め、tanδのピークトップ温度として求めた。
また、ガラス転移温度をXとした場合の370000X-36000000の値も求めた。
【0076】
<直線透過率>
まず石英セル中を富士フィルム和光純薬社製の流動パラフィンで満たし、日本分光社製の分光光度計V-670を使用して、ベースラインを測定した。その後、上記で作製した試験片(大きさ:幅50mm×長さ50mm×厚み1mm)を石英セル中の流動パラフィンに浸漬し、波長450nmでの光透過率を測定した。また、以下の基準で評価した。
○:直線透過率が70%以上
×:直線透過率が70%未満
【0077】
<評価パッケージの作製>
図1に示すように、平井精密工業社製の信頼性評価フレーム(Ag)の端部を覆うように、上記で作製したタブレットを用いて、大きさ:幅5mm×長さ6mm×厚み2mmに成型(硬化条件:150℃×4分間加熱)した。これを、150℃で3時間加熱することにより完全に硬化を終了させ、評価パッケージを得た。各実施例・比較例に対し、上記パッケージを20個作製した。
【0078】
<温度サイクル試験(TCT)>
上記パッケージを高温(130℃)及び低温(-40℃)にそれぞれ15分間ずつさらした。各温度への復帰は5分以内に完了させた。これを1サイクルとして、上記パッケージに対し1000サイクルの温度サイクル試験を行った。その後パッケージを取り出し、クラックの有無を観察し、20個のパッケージのうちクラックが生じているパッケージの個数を数え、以下の基準で評価した。
○:0~5個
△:6~10個
×:11個以上
【0079】
<はんだリフロー>
上記パッケージを、リフロー炉(トップピーク265℃×10秒)に3回通した。
【0080】
<耐はんだリフロー性>
上記はんだリフローを行ったパッケージを太陽物産社製のレッドインクに浸漬し、10分間減圧し、その後パッケージを取り出し、インクの侵入を目視し、インクが侵入したパッケージを剥離不良と判定した。20個のパッケージのうち剥離不良パッケージの個数を数え、以下の基準で耐はんだリフロー性を評価した。
○:0~5個
×:6個以上
【0081】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、光半導体素子の封止に用いられる光半導体封止用樹脂成形物、光半導体封止材及び光半導体装置に関し、光半導体装置の製造に利用することができる。
図1