(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】搬送装置、真空装置、加工システム及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20240815BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H02K41/03 A
B65G54/02
(21)【出願番号】P 2020181876
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】江澤 光晴
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-073164(JP,A)
【文献】特開2020-096514(JP,A)
【文献】実開昭61-185286(JP,U)
【文献】特開平11-206100(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0164395(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102008064678(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
B65G 54/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に沿って配置された複数のコイルを有する固定子と、
前記第1の方向に沿って配置され、前記第1の方向と交差する第2の方向において前記複数のコイルに対向可能に配置された複数の磁石からなる第1磁石群を有する可動子と、を有し、
前記磁石と前記コイルとの間に発生する磁気力によって前記可動子を前記第1の方向に駆動する搬送装置であって、
前記固定子は、所定の間隔を空けて前記複数のコイルが配置された第1の領域と、前記第1の領域に隣接する第2の領域と、を含み、
前記第2の領域に、前記第1の領域で前記磁石と前記コイルとが形成する磁気エネルギー分布特性の変化を補償する補償用磁性体が設けられ
、
前記第1の領域に配置された前記コイルは、コアとなるコア磁性体を有し、
前記第2の方向から平面視した際の前記補償用磁性体の平面形状の面積に対する前記第2の方向から平面視した際の前記コア磁性体の平面形状の面積の比α、及び前記第1の方向における前記第2の領域の長さに対する前記第1の方向における前記第1の領域の長さの比βは、次式を満足することを特徴とする搬送装置。
0.5≦α/β≦2
【請求項2】
前記補償用磁性体は、複数の補償用磁性体を含み、
前記複数の補償用磁性体は、前記第1の方向において所定の間隔を空けて配置されていることを特徴とする請求項
1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記可動子は、前記第1の方向及び前記第2の方向と交差する第3の方向に沿って配置された複数の磁石からなる第2の磁石群を有することを特徴とする請求項1
又は2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記第1の領域に配置された前記コイルは、前記第3の方向に所定の間隔を空けて配置された複数の第1の磁性体部のいずれかに巻かれていることを特徴とする請求項
3に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記補償用磁性体は、前記第3の方向に所定の間隔を空けて配置された複数の第2の磁性体部を有することを特徴とする請求項
3又は
4に記載の搬送装置。
【請求項6】
第1の方向に沿って配置された複数のコイルを有する固定子と、
前記第1の方向に沿って配置され、前記第1の方向と交差する第2の方向において前記複数のコイルに対向可能に配置された複数の磁石からなる第1磁石群を有する可動子と、を有し、
前記磁石と前記コイルとの間に発生する磁気力によって前記可動子を前記第1の方向に駆動する搬送装置であって、
前記固定子は、所定の間隔を空けて前記複数のコイルが配置された第1の領域と、前記第1の領域に隣接する第2の領域と、を含み、
前記第2の領域に、前記第1の領域で前記磁石と前記コイルとが形成する磁気エネルギー分布特性の変化を補償する補償用磁性体が設けられ、
前記可動子は、前記第1の方向及び前記第2の方向と交差する第3の方向に沿って配置された複数の磁石からなる第2の磁石群を有し、
前記補償用磁性体は、前記第3の方向に所定の間隔を空けて配置された複数の第2の磁性体部を有することを特徴とする搬送装置。
【請求項7】
前記第1の領域は、複数の第1の領域を含み、
前記第2の領域は、前記複数の第1の領域の間に設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項8】
前記第1の領域の前記第1の方向の長さは、前記第2の領域の前記第1の方向の長さより長いことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項9】
前記比α及び前記比βは、次式を満足することを特徴とする請求項2に記載の搬送装置。
0.75≦α/β≦1.25
【請求項10】
前記比α及び前記比βは、次式を満足することを特徴とする請求項9に記載の搬送装置。
0.9≦α/β≦1.1
【請求項11】
真空チャンバと、
前記真空チャンバを開閉する弁部と、
前記真空チャンバの内部に設置された搬送装置と、を有し、
前記搬送装置は、第1の方向に沿って配置された複数のコイルを有する固定子と、前記第1の方向に沿って配置され、前記第1の方向と交差する第2の方向において前記複数のコイルに対向可能に配置された複数の磁石からなる第1磁石群を有する可動子と、を有し、前記磁石と前記コイルとの間に発生する磁気力によって前記可動子を前記第1の方向に駆動する搬送装置であって、
前記固定子は、所定の間隔を空けて前記複数のコイルが配置された第1の領域と、前記第1の領域に隣接する前記弁部と、を含み、
前記弁部に、前記第1の領域で前記磁石と前記コイルとが形成する磁気エネルギー分布特性の変化を補償する補償用磁性体が設けられていることを特徴とする真空装置。
【請求項12】
前記第1の領域に配置された前記コイルは、コアとなるコア磁性体を有し、
前記第2の方向から平面視した際の前記補償用磁性体の平面形状の面積に対する前記第2の方向から平面視した際の前記コア磁性体の平面形状の面積の比α、及び前記第1の方向における前記弁部の長さに対する前記第1の方向における前記第1の領域の長さの比βは、次式を満足することを特徴とする請求項11に記載の真空装置。
0.5≦α/β≦2
【請求項13】
前記補償用磁性体は、複数の補償用磁性体を含み、
前記複数の補償用磁性体は、前記第1の方向において所定の間隔を空けて配置されていることを特徴とする請求項11又は12に記載の真空装置。
【請求項14】
前記可動子は、前記第1の方向及び前記第2の方向と交差する第3の方向に沿って配置された複数の磁石からなる第2の磁石群を有することを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載の真空装置。
【請求項15】
前記第1の領域に配置された前記コイルは、前記第3の方向に所定の間隔を空けて配置された複数の第1の磁性体部のいずれかに巻かれていることを特徴とする請求項14に記載の真空装置。
【請求項16】
前記補償用磁性体は、前記第3の方向に所定の間隔を空けて配置された複数の第2の磁性体部を有することを特徴とする請求項14又は15に記載の真空装置。
【請求項17】
前記第1の領域は、複数の第1の領域を含み、
前記弁部は、前記複数の第1の領域の間に設けられていることを特徴とする請求項11乃至16のいずれか1項に記載の真空装置。
【請求項18】
前記第1の領域の前記第1の方向の長さは、前記弁部の前記第1の方向の長さより長いことを特徴とする請求項11乃至17のいずれか1項に記載の真空装置。
【請求項19】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載された搬送装置と、
前記可動子により搬送されるワークに対して加工を施す加工装置と、
を有することを特徴とする加工システム。
【請求項20】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の搬送装置によりワークを搬送し、
搬送された前記ワークに加工を施して物品を製造する
ことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項21】
請求項11乃至18のいずれか1項に記載された真空装置と、
前記可動子により搬送されるワークに対して加工を施す前記真空装置内に配置された加工装置と、
を有することを特徴とする加工システム。
【請求項22】
請求項11乃至18のいずれか1項に記載の真空装置内に配置された搬送装置によりワークを搬送し、
前記真空装置内において、搬送された前記ワークに成膜して物品を製造する
ことを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置、真空装置、加工システム及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工業製品を組み立てるための生産ラインや半導体露光装置等では、搬送システムが用いられている。特に、生産ラインにおける搬送システムは、ファクトリーオートメーション化された生産ライン内又は生産ラインの間の複数のステーションの間で、部品等のワークを搬送する。また、プロセス装置中の搬送装置として使われる場合もある。搬送システムとしては、可動磁石型リニアモータによる搬送システムが既に提案されている。
特許文献1には、直線状に延在するレール及び複数の電機子コイルを備える固定子を有する固定側モジュールと、直線状に並んで設けられた複数の磁極を有する可動子を有し、レールに沿って移動可能なスライダとを備えるリニアコンベアが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のリニアコンベアでは、電機子コイルを均一に配置することができない場合に、可動子を円滑に安定して搬送することが困難である。
【0005】
本発明は、可動子を円滑に安定して搬送することができる搬送装置、真空装置、加工システム及び物品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、第1の方向に沿って配置された複数のコイルを有する固定子と、前記第1の方向に沿って配置され、前記第1の方向と交差する第2の方向において前記複数のコイルに対向可能に配置された複数の磁石からなる第1磁石群を有する可動子と、を有し、前記磁石と前記コイルとの間に発生する磁気力によって前記可動子を前記第1の方向に駆動する搬送装置であって、前記固定子は、所定の間隔を空けて前記複数のコイルが配置された第1の領域と、前記第1の領域に隣接する第2の領域と、を含み、前記第2の領域に、前記第1の領域で前記磁石と前記コイルとが形成する磁気エネルギー分布特性の変化を補償する補償用磁性体が設けられていることを特徴とする搬送装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可動子を円滑に安定して搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】本発明の第1実施形態による搬送装置を示す概略図である。
【
図1B】本発明の第1実施形態による搬送装置を示す概略図である。
【
図1C】本発明の第1実施形態による搬送装置を示す概略図である。
【
図1D】本発明の第1実施形態による搬送装置を示す概略図である。
【
図2A】本発明の第1実施形態による搬送装置におけるコイルユニットのティースサイズを示す図である。
【
図2B】本発明の第1実施形態による搬送装置における補助ティースユニットのティースサイズを示す図である。
【
図3】本発明の第1実施形態による搬送装置におけるコイルユニットの配置の例を示す図である。
【
図4A】本発明の第1実施形態による搬送装置の吸引力変動に対する効果を示す図である。
【
図4B】本発明の第1実施形態による搬送装置の吸引力変動に対する効果を示す図である。
【
図5A】本発明の第2実施形態による搬送装置におけるコイルユニットを示す概略図を示す図である。
【
図5B】本発明の第2実施形態による搬送装置における補助ティースユニットを示す概略図を示す図である。
【
図5C】本発明の第2実施形態による搬送装置における補助ティースユニットを示す概略図を示す図である。
【
図5D】本発明の第2実施形態による搬送装置における補助ティースユニットを示す概略図を示す図である。
【
図5E】本発明の第2実施形態による搬送装置における補助ティースユニットを示す概略図を示す図である。
【
図6A】本発明の第2実施形態による搬送装置の吸引力変動に対する効果を示す図である。
【
図6B】本発明の第2実施形態による搬送装置の吸引力変動に対する効果を示す図である。
【
図7A】本発明の第3実施形態による搬送装置の真空装置への適用例を示す概略図である。
【
図7B】本発明の第3実施形態による搬送装置の真空装置への適用例を示す概略図である。
【
図8A】本発明の第4実施形態による搬送装置を示す概略図である。
【
図8B】本発明の第4実施形態による搬送装置を示す概略図である。
【
図8C】本発明の第4実施形態による搬送装置を示す概略図である。
【
図8D】本発明の第4実施形態による搬送装置を示す概略図である。
【
図8E】本発明の第4実施形態による搬送装置を示す概略図である。
【
図8F】本発明の第4実施形態による搬送装置を示す概略図である。
【
図9】本発明の第4実施形態による搬送装置における補助ティースユニットを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。
【0010】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態による搬送装置について
図1乃至
図4Bを用いて説明する。
【0011】
はじめに、本実施形態による搬送装置1の概略構成について
図1A乃至
図1Dを用いて説明する。
図1Aは、後述のY方向から見た本実施形態による搬送装置1を示す側面図である。
図1Bは、後述のZ方向から見た可動子10を示す上面図である。
図1Cは、Y方向から見た可動子10を示す側面図である。
図1Dは、後述のX方向から見た可動子10を示す側面図である。以後、複数存在しうる構成要素について、特に区別する必要がない場合には共通の数字のみの符号を用い、必要に応じて数字の符号の後に小文字のアルファベットを付して個々を区別する。
【0012】
図1Aに示すように、本実施形態による搬送装置1は、ワーク123を保持して搬送する可動子10と、可動子10が走行する搬送路を構成する固定子20とを有している。本実施形態による搬送装置1は、磁力により重力に抗して浮上させた磁気浮上状態の可動子10を走行させて搬送する磁気浮上搬送型の搬送装置である。なお、本実施形態では、搬送装置1の一例として、可動磁石型リニアモータ(ムービング永久磁石型リニアモータ、可動界磁型リニアモータ)による搬送装置を示すが、搬送装置1は可動コイル型リニアモータによる搬送装置であってもよい。本実施形態による搬送装置1は、可動子10により搬送されたワーク123に対して加工を施す加工装置30をも有する加工システムの一部を構成している。加工システムは、加工装置30により加工を施すことにより物品を製造することができる。
【0013】
搬送装置1は、例えば、可動子10を搬送することにより、可動子10に保持されたワーク123を、ワーク123に対して加工を施す加工装置30に搬送する。加工装置30は、特に限定されるものではないが、例えば、ワーク123であるガラス基板等の基板上に成膜を行う蒸着装置、スパッタ装置等の成膜装置である。
【0014】
ここで、以下の説明において用いる座標軸及び方向を定義する。水平方向に沿った可動子10の搬送方向、すなわち可動子10の走行する方向に沿ってX軸をとり、可動子10の搬送方向をX方向とする。
図1A中の矢印Mは、X方向に沿った可動子10の搬送方向を示している。また、X方向と直交する方向である鉛直方向に沿ってZ軸をとり、鉛直方向をZ方向とする。また、X方向及びZ方向に直交する方向に沿ってY軸をとり、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向とする。なお、可動子10の搬送方向は必ずしも水平方向である必要はないが、その場合も搬送方向をX方向として同様にY方向及びZ方向を定めることができる。なお、X方向、Y方向及びZ方向は、必ずしも互いに直交する方向に限定されるものではなく、互いに交差する方向として定義することもできる。
【0015】
固定子20は、複数のコイルユニット100と、複数の補助ティースユニット110とを有している。
図1Aには、固定子20が、4個のコイルユニット100a、100b、100c、100dと、3個の補助ティースユニット110a、110b、110cを有する場合を例示している。なお、コイルユニット100の数及び補助ティースユニット110の数は、特に限定されるものではなく、可動子10を搬送すべき搬送路長等に応じてそれぞれ適宜変更することができる。
【0016】
複数のコイルユニット100及び複数の補助ティースユニット110は、X方向に沿って並ぶように設置されている。
図1Aには、コイルユニット100及び補助ティースユニット110が交互にX方向に設置された場合を例示している。この場合、コイルユニット100a、補助ティースユニット110a、コイルユニット100b、補助ティースユニット110b、コイルユニット100c、補助ティースユニット110c及びコイルユニット100dがこの順でX方向に沿って並んでいる。なお、コイルユニット100と補助ティースユニット110とは、必ずしも交互に並んでいる必要はない。複数のコイルユニット100が補助ティースユニット110を介さずに連続的にX方向に沿って並ぶように設置されていてもよい。また、補助ティースユニット110がコイルユニット100を介さずに連続的にX方向に沿って並ぶように設置されていてもよい。
【0017】
コイルユニット100は、第1の固定子ヨーク103と、複数の第1のティース101と、複数のコイル102とを有している。第1の固定子ヨーク103は、可動子10の搬送方向であるX方向を長手方向とするX方向に沿った板状のヨークである。第1のティース101は、第1の固定子ヨーク103の下面から下側に突出した柱状体である。複数の第1のティース101は、第1の固定子ヨーク103の下面にX方向に沿って並ぶように設置されている。第1のティース101は、X方向において所定の間隔を空けて配置されている。第1の固定子ヨーク103及び第1のティース101は、それぞれ軟磁性材料の磁性体により構成されている。第1のティース101には、コイル102が巻かれている。複数の第1のティース101に巻かれた複数のコイル102は、可動子10の搬送方向であるX方向に沿って並ぶように配置されている。各コイル102は、これが巻かれた第1のティース101を、コアとなるコア磁性体として有している。
図1Aは、コイルユニット100a、100b、100c、100dが、それぞれ6個の第1のティース101を有し、互いに同一の構造である場合を例示している。なお、複数のコイルユニット100は、すべて同一の構造である必要はなく、第1の固定子ヨーク103のサイズ、第1のティース101の数等が異なるものを含んでいてもよい。
【0018】
また、補助ティースユニット110は、第2の固定子ヨーク113と、一又は複数の第2のティース111とを有している。第2の固定子ヨーク113は、可動子10の搬送方向であるX方向を長手方向とするX方向に沿った板状のヨークである。第2のティース111は、第2の固定子ヨーク113の下面から下側に突出した柱状体である。第2のティース111が複数存在する場合、複数の第2のティース111は、第2の固定子ヨーク113の下面にX方向に沿って並ぶように設置されている。複数の第2のティース111は、X方向において所定の間隔を空けて配置されている。第2の固定子ヨーク113及び第2のティース111は、それぞれ軟磁性材料の磁性体により構成されている。第2のティース111には、第1のティース101とは異なり、コイルが巻かれていない。
図1Aは、補助ティースユニット110a、110cが1個の第2のティース111a又は第2のティース111eを有し、補助ティースユニット110bが3個の第2のティース111b、111c、111dを有する場合を例示している。なお、第2のティース111には、コイルが巻かれていてもよい。
【0019】
コイルユニット100と補助ティースユニット110とは、搬送方向であるX方向に沿って複数配置されている。コイルユニット100aとコイルユニット100bとは、X方向において補助ティースユニット110aを挟むように配置されている。コイルユニット100bとコイルユニット100cとは、X方向において補助ティースユニット110bを挟むように配置されている。また、コイルユニット100cとコイルユニット100dとは、X方向において補助ティースユニット110cを挟むように配置されている。
【0020】
なお、補助ティースユニット110は、必ずしも2個のコイルユニット100に挟まれように配置されている必要はなく、コイルユニット100の外側に配置されていてもよい。例えば、
図1Aに示す場合において、コイルユニット100aの左側やコイルユニット100dの右側に補助ティースユニット110が配置されていてもよい。また、互いに隣接するコイルユニット100と補助ティースユニット110とは、接していることが望ましいが、両者の間に空隙があってもよい。また、第1の固定子ヨーク103は、備えられている方が望ましいが、備えられていなくてもよい。また、第2の固定子ヨーク113も、備えられている方が望ましいが、備えられていなくてもよい。
【0021】
このように、X方向において、固定子20は、それぞれコイルユニット100が設置された複数の第1の領域と、それぞれ補助ティースユニット110が設置された複数の第2の領域とを含んでいる。1つの第1の領域のX方向の長さは、複数の第2の領域のいずれのX方向の長さよりも長くなっている。また、複数の第1の領域のX方向の長さの合計も、複数の第2の領域のX方向の長さの合計よりも長くなっている。
【0022】
図1B、
図1C及び
図1Dに示すように、可動子10は、複数の永久磁石121からなる磁石群と、可動子ヨーク120と、保持部122とを有している。複数の永久磁石121は、可動子ヨーク120の長手方向であるX方向に沿って並んで磁石列を構成するように可動子ヨーク120の上に設置されている。複数の永久磁石121は、X方向において互いに隣り合う表面の極性が互いに異なってN極とS極とが交互に並ぶように配置されている。複数の永久磁石121は、Z方向において固定子20のコイルユニット100及び補助ティースユニット110の両方又は一方に対向可能なように配置されている。保持部122は、例えば可動子10の下側においてワーク123を保持するように構成されている。なお、保持部122は、可動子10においてワーク123を保持することができればよく、保持部122がワーク123を保持する場所及び保持機構は特に限定されるものではない。
【0023】
図1Aに示すように、可動子10は、固定子20に対して、複数の永久磁石121がコイルユニット100及び補助ティースユニット110の両方又は一方に対向するように配置され、不図示のリニアガイド等によりX方向に沿って走行可能に案内される。被搬送物であるワーク123は、可動子10において保持部122により保持された状態で、可動子10の搬送に伴ってX方向に搬送される。
【0024】
また、本実施形態による搬送装置1は、可動子10の搬送を制御する制御部40を有している。制御部40は、不図示のリニアエンコーダ、レーザー測長器等の位置検出手段を用いて可動子10の位置を検出する。また、制御部40は、検出した可動子10の位置に応じて固定子20の各コイル102に流す電流量を演算して各コイル102に通電する。これにより、制御部40は、コイル102と可動子10の永久磁石121との間に、Z方向に可動子10を浮上させる浮上力及びX方向に可動子10を駆動して走行させる推力となる磁気力を発生させることができる。なお、コイルユニット100の第1のティース101と永久磁石121との間、及び補助ティースユニット110の第2のティース111との間には、それぞれ吸引力となる磁気力が働く。こうして、制御部40は、可動子10の位置や速度を制御しながらZ方向に浮上した状態でX方向に沿って可動子10を搬送してワーク123を搬送することができる。
【0025】
可動磁石型リニアモータによる搬送装置では、搬送区間に沿って複数のコイルを並べる必要がある。このため、かかる搬送装置を含む生産ラインのレイアウトの変更は容易ではない。そこで、特許文献1記載の可動磁石型のリニア搬送装置では、複数のコイルをユニット化した固定子を搬送方向に並べて配置することが行われている。ユニット化された固定子の配置、組み合わせを変更することで、生産ラインのレイアウトやワーク搬送距離について設計自動度を高めることができる。
【0026】
しかしながら、特許文献1に記載されるようにコイルをユニット化した場合、搬送距離がコイルユニット長の整数倍にならず、コイルを均一に配置できない場合がある。また、真空チャンバの内部に設置する場合、ゲートバルブがある区間にコイルを配置するのは容易ではない。コイルユニット間に隙間がある区間では、コイルの無通電時における固定子の磁極と可動子の永久磁石との間に生じる吸引力が大きく変動するため、可動子に保持されて搬送される部品やワークの搬送精度が低下する可能性がある。
【0027】
これに対して、本実施形態による搬送装置1において、固定子20は、コイルユニット100が設置された第1の領域と、第1の領域とX方向において隣接し、補助ティースユニット110が設置された第2の領域とを含んでいる。コイルユニット100が複数の第1のティース101及びこれらに巻かれた複数のコイル102を有するのに対して、補助ティースユニット110は複数の第2のティース111を有している。複数の第2のティース111のそれぞれは、コイルユニット100が設置された第1の領域で永久磁石121とコイル102とが形成する磁気エネルギー分布特性の変化を補償する補償用磁性体として機能する。補償用磁性体として機能する第2のティース111により、複数のコイル102により形成される可動子10に対して働くトルク分布特性、具体的にはトルク変動の周期を略一定に保持することができる。
【0028】
こうして、本実施形態では、コイル102が設置されていない第2の領域において、第2のティース111により永久磁石121とコイル102とが形成する磁気エネルギー分布特性の変化を補償することで、可動子10を円滑に安定して搬送することができる。
【0029】
次に、本実施形態による搬送装置1におけるコイルユニット100及び補助ティースユニット110のティースサイズについて
図2A及び
図2Bを用いて説明する。
図2Aは、コイルユニット100の側面図及び下面図をそれぞれ上段及び下段に示している。
図2Bは、補助ティースユニット110bの側面図及び下面図をそれぞれ上段及び下段に示している。
【0030】
図2Aに示すように、コイルユニット100aにおけるコイル102が巻かれた第1のティース101は、Z方向から平面視した際の平面形状として、X方向に一対の辺が沿った矩形状の平面形状を有している。ここで、第1のティース101のX方向の幅をT、Y方向の厚さをDとする。また、コイルユニット100aの長手方向の長さである第1の固定子ヨーク103のX方向の長さをPとする。長さPは、コイルユニット100aが設けられた第1の領域のX方向の長さでもある。コイルユニット100aにおける6個の第1のティース101は、全て同じ幅Tになっている。また、コイルユニット100における第1のティース101の数をn
Tとする(
図2Aに示す場合、n
T=6)。すると、コイルユニット100aにおける複数の第1のティース101のZ方向から平面視した際の平面形状の面積の総和S
1は、次式(1)で表される。
S
1=n
T・T・D …(1)
【0031】
また、
図2Bに示すように、補助ティースユニット110bにおける第2のティース111b、111c、111dはそれぞれ、Z方向から平面視した際の平面形状として、X方向に一対の辺が沿った矩形状の平面形状を有している。ここで、第2のティース111b、111c、111dのX方向の幅をそれぞれ、T
1′、T
2′、T
3′、厚さをそれぞれD
1′、D
2′、D
3′とする。また、補助ティースユニット110bの長手方向の長さである第2の固定子ヨーク113bのX方向の長さをP′とする。長さP′は、コイルユニット100が設けられた第2の領域のX方向の長さでもある。すると、補助ティースユニット110bにおける複数の第2のティース111b、111c、111dのZ方向から平面視した際の平面形状の面積の総和S
2は、次式(2)で表される。ただし、次式(2)中、Σは、n=1、2、3についての総和を示す記号である。
S
2=Σ(T
n′・D
n′) …(2)
【0032】
ここで、S2に対するS1の比であるS1/S2をα、P′に対するPの比であるP/P′をβとすると、比α及び比βは、可動子を円滑に安定して搬送する観点から、次の関係を満足することができる。すなわち、比α及び比βは、次式(3)を満足することが好ましく、次式(4)を満足することがより好ましく、次式(5)を満足することがさらにより好ましい。
0.5≦α/β≦2 …(3)
0.75≦α/β≦1.25 …(4)
0.9≦α/β≦1.1 …(5)
【0033】
特に、比α及び比βは、次式(6)を満足することが最も好ましい。
α/β=1 …(6)
【0034】
なお、式(6)は、次式(7)に書き換えることができる。
S
1:S
2=P:P′ …式(7)
図3は、本実施形態によるコイルユニット100及び補助ティースユニット110の配置A1を例示する図である。なお、
図3は、コイルユニット100のみが配置された配置A2を配置A1の下側に並べて示している。
【0035】
図3に示す配置A1では、複数のコイルユニット100と複数の補助ティースユニット110とが組み合わせられて配置されている。これにより、配置A1では、可動子10を搬送する必要があるX方向の距離である必要搬送距離Lに合うように、コイルユニット100a、100b、100c、100dと、補助ティースユニット110a、110b、110cとを配置することができる。
【0036】
また、可動子10が搬送される必要搬送距離Lの区間は、可動子10に対する駆動推力を必要とする加速・減速区間130a、130bと、加速・減速区間130a、130bと比べて駆動推力を比較的必要としない定速区間131とを含んでいる。配置A1では、加速・減速区間130a、130bにコイルユニット100を集中して配置し、定速区間131に補助ティースユニット110を配置することができる。また、加速・減速区間130a、130bよりも定速区間131において補助ティースユニット110が占めるX方向の長さがより長くなるようにコイルユニット100及び補助ティースユニット110を配置することができる。これにより、配置A1では、可動子10の搬送において十分な搬送性能を確保することができる。
【0037】
一方、コイルユニット100のみの配置A2では、必要搬送距離Lの搬送ラインに複数のコイルユニット100を配置する場合、必要搬送距離Lの長さによっては、必要搬送距離Lがコイルユニット100のX方向の長さPの整数倍にならないことがある。この場合、コイルユニット100が必要搬送距離Lから部分的にはみ出すことになる。例えば、
図3に示す配置A2では、必要搬送距離Lとコイルユニットの長さPとは、4P<L<5Pの関係にあり、コイルユニット100iが必要搬送距離Lから部分的にはみ出している。そのため、コイルユニット100のみの配置A2では、コイルユニット100を均一に配置するには必要搬送距離Lを必要以上に伸ばすか、コイルユニット100の長さPとは異なる長さの別のコイルユニットを専用設計して配置する必要がある。しかしながら、いずれの場合も搬送装置1のコストアップにつながる。
【0038】
これに対して、配置A1では、コイルユニット100とともに補助ティースユニット110が配置されていることにより、必要搬送距離Lからはみ出すことなくコイルユニット100を配置することができる。したがって、本実施形態によれば、配置A2の場合に生じる搬送装置1のコストアップを回避することができる。
【0039】
なお、複数のコイルユニット100及び複数の補助ティースユニット110は、X方向において互いに隣接するコイルユニット100間又は互いに隣接するコイルユニット100と補助ティースユニット110との間に隙間を空けて配置されていてもよい。ただし、コイルユニット100間の隙間がある区間では、コイル102の無通電時に固定子20の磁極と可動子10の永久磁石との間に生じる吸引力が大きく変動するため、搬送中のワーク123の搬送精度が低下する可能性がある。
【0040】
次に、本実施形態の吸引力変動に対する効果について
図4A及び
図4Bを用いて説明する。
図4A及び
図4Bは、コイル102に通電していない状態で、必要搬送距離Lの区間の一端から他端まで可動子10の搬送位置Xを変えたときの可動子10と固定子20との間に働く吸引力の変動を示している。
図4Aは、可動子10と固定子20との間に働くX方向の吸引力の変動を示している。
図4Bは、可動子10と固定子20との間に働くZ方向の吸引力の変動を示している。
図4A及び
図4Bでは、コイルユニット100の間に補助ティースユニット110が配置した配置A1の場合(変動線200、変動線210)と、補助ティースユニット110を配置しなかった場合(変動線201、変動線211)とを比較している。なお、補助ティースユニット110を配置しなかった場合とは、配置A1において補助ティースユニット110a、110b、110cを配置しなかった場合である。
【0041】
図4Aに示すように、コイルユニット100の間に補助ティースユニット110を配置した場合、X方向の吸引力変動を示す変動線200は、一定の変動幅で収まり、安定している。なお、変動線200が一定の変動幅で変動しているのは、第1のティース101、第2のティース111及び永久磁石121による磁極の変化に起因してコイル102の無通電状態で生じるコギングのためである。
【0042】
一方、補助ティースユニット110を配置しなかった場合、X方向の吸引力変動を示す変動線201は、変動線200に比べて、より大きな周期の変動が加算され、
図4Aに示す例では吸引力の変動が2倍以上になっている。吸引力の変動は、外乱力になるため、可動子10の搬送位置や搬送速度の精度を低下させる要因となる。
【0043】
また、
図4Bに示すように、コイルユニット100の間に補助ティースユニット110を配置した場合、Z方向の吸引力変動を示す変動線210は、X方向と同様に一定の変動幅で収まり、安定している。
【0044】
一方、補助ティースユニット110を配置しなかった場合、Z方向の吸引力変動を示す変動線211は、搬送位置Xによって大きく変化し、
図4Bに示す例では吸引力の変動が変動線210に比べて6倍以上になっている。Z方向の吸引力変動は、可動子10を保持する案内機構があったとしても、案内機構の剛性次第では可動子10のZ方向の位置精度や姿勢精度を低下させる。また、Z方向の吸引力を浮上力とした磁気浮上型の搬送装置の場合、浮上力が安定せずに搬送中のワーク123が傾いたり、落下したりする可能性がある。
【0045】
本実施形態では、上述のようにX方向及びZ方向のいずれの方向においても吸引力の変動を小さく抑制することができる。これにより、本実施形態では、複数のコイル102により形成される可動子10に対して働くトルク分布特性、具体的にはトルク変動の周期を略一定に保持することができる。したがって、本実施形態によれば、可動子を円滑に安定して搬送することができる。
【0046】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による搬送装置について
図5A乃至
図5Eを用いて説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し説明を省略し又は簡略にする。
【0047】
第1実施形態において説明したように、コイルユニット100と補助ティースユニット110bとの関係は、式(3)を満足することが好ましく、特に式(7)に書き換えうる式(6)の関係を満足することが最も好ましい。本実施形態では、式(7)を満足するコイルユニット100a及び補助ティースユニット110bの例について説明する。
【0048】
図5Aは、第1実施形態で説明したコイルユニット100aのY方向から見た側面図及びZ方向から見た下面図をそれぞれ上段及び下段に示している。
図5Aに示すコイルユニット100aでは、n
T=6、P=12Tの関係になっている。一方、
図5Bは、第1実施形態で説明した補助ティースユニット110bのY方向から見た側面図、Z方向から見た下面図及びX方向から見た側面図をそれぞれ上段左側、下段左側及び上段右側に示している。
図5Bに示す補助ティースユニット110bでは、P′=P/2、D′=D、T
1′=T
2′=T
3′=Tの関係になっている。
図5Aに示すコイルユニット100aと
図5Bに示す補助ティースユニット110bとは、式(7)の左辺がS
1:S
2=2:1、右辺がP:P′=2:1であり、式(7)を満足する。
【0049】
図5Cは、
図5Bに示す場合と比較して、第2のティース111の数を2倍にし、第2のティース111のX方向の幅を1/2にした補助ティースユニット110bの例を示している。
図5Cは、その補助ティースユニット110bのY方向から見た側面図、Z方向から見た下面図及びX方向から見た側面図をそれぞれ上段左側、下段左側及び上段右側に示している。
図5Cに示す補助ティースユニット110bでは、P′=P/2、D′=D、T
1′=T
2′=T
3′=T
4′=T
5′=T
6′=T/2の関係になっている。
図5Aに示すコイルユニット100aと
図5Cに示す補助ティースユニット110bとも、式(7)の左辺がS
1:‘S
2=2:1、右辺がP:P′=2:1であり、式(7)を満足する。
【0050】
図5Dは、第2のティース111の数を1個にして第2のティース111のX方向の幅を広げ、
図5Bに示す場合と比較して第2のティース111のY方向の厚さを1/2にした補助ティースユニット110bの例を示している。
図5Dは、その補助ティースユニット110bのY方向から見た側面図、Z方向から見た下面図及びX方向から見た側面図をそれぞれ上段左側、下段左側及び上段右側に示している。
図5Dに示す補助ティースユニット110bでは、P′=P/2、D′=D/2、T
1′=P′=6Tの関係になっている。
図5Aに示すコイルユニット100aと
図5Dに示す補助ティースユニット110bとも、式(7)の左辺がS
1:S
2=2:1、右辺がP:P′=2:1であり、式(7)を満足する。
【0051】
図5Eは、
図5Bに示す場合と比較して、中央の第2のティース111cの幅を細くし、両端の第2のティース111b、111dの幅を広くした補助ティースユニット110bの例を示している。
図5Eは、その補助ティースユニット110bのY方向から見た側面図、Z方向から見た下面図及びX方向から見た側面図をそれぞれ上段左側、下段左側及び上段右側に示している。
図5Eに示す補助ティースユニット110bでは、P′=P/2、D′=D、T
2′=T/2、T
1′=T
3′=T・5/4の関係になっている。
図5Aに示すコイルユニット100aと
図5Eに示す補助ティースユニット110bとも、式(7)の左辺がS
1:S
2=2:1、右辺がP:P′=2:1であり、式(7)を満足する。
【0052】
このように、補助ティースユニット110bは、第2のティース111の数、第2のティース111の幅及び厚さを適宜変更することができる。
【0053】
なお、
図5A乃至
図5Eでは、Z方向から平面視した際の第1のティース101及び第2のティース111の平面形状がいずれも矩形状の平面形状である場合を例示したが、これらに限定されるものではない。第1のティース101及び第2のティース111は、それぞれZ方向から平面視した際の平面形状が矩形以外の多角形状の平面形状、円形状の平面形状等であってもよい。また、第1のティース101及び第2のティース111は、それぞれZ方向に対して側面が所定の角度で傾斜したテーパー形状を有するものであってもよい。
【0054】
次に、本実施形態の吸引力変動に対する効果について
図6A及び
図6Bを用いて説明する。
図6A及び
図6Bは、
図4A及び
図4Bに示す場合と同様、コイル102に通電していない状態で、必要搬送距離Lの区間の一端から他端まで可動子10の搬送位置Xを変えたときの可動子10と固定子20との間に働く吸引力の変動を示している。
図6Aは、X方向における可動子10と固定子20との間の吸引力の変動を示している。
図6Bは、Z方向における可動子10と固定子20との間の吸引力の変動を示している。
図6A及び
図6Bでは、補助ティースユニット110bとして
図5A乃至
図5Eに示すものを用いた場合(変動線202、変動線212)と、補助ティースユニット110を配置しなかった場合(変動線201、変動線211)とを比較している。なお、補助ティースユニット110を配置しなかった場合とは、
図4A及び
図4Bに示す場合と同様である。
【0055】
図6Aに示すように、
図5A乃至
図5Eに示す補助ティースユニット110bを使用した場合も、可動子10と固定子20との間のX方向の吸引力変動を示す変動線202はいずれも、一定の変動幅で収まり、安定している。変動線202の変動幅はいずれも、補助ティースユニット110を配置しなかった場合の吸引力変動を示す変動線201の変動幅に比べて小さい。
【0056】
また、
図6Bに示すように、
図5A乃至
図5Eに示す補助ティースユニット110bを使用した場合のZ方向の吸引力変動を示す変動線212も、X方向と同様に一定の変動幅で収まり、安定している。変動線212の変動幅はいずれも、補助ティースユニット110を配置しなかった場合の吸引力変動を示す変動線211の変動幅に比べて小さい。
【0057】
本実施形態のように、補助ティースユニット110の構成を変更することもできる。この場合においても、X方向及びZ方向のいずれの方向においても吸引力の変動を小さく抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、可動子10を円滑に安定して搬送することができる。
【0058】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態による搬送装置について
図7A及び
図7Bを用いて説明する。なお、上記第1及び第2実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し説明を省略し又は簡略にする。
【0059】
本実施形態では、上記実施形態において説明した搬送装置1を真空装置へ適用して真空磁気浮上搬送装置を構成した例について説明する。真空磁気浮上搬送装置の場合、真空チャンバ内にコイルユニットを配置し、可動子と固定子との間に生じる吸引力を浮上力として、可動子を磁気浮上状態で搬送する。かかる真空磁気浮上搬送装置において、互いに隣接する真空チャンバの境界でゲートを開閉するゲートバルブ等が配置されていると、コイルユニットを隙間なく連続的に配置することができない。本実施形態では、コイルユニットを隙間なく連続的に配置することができないゲートバルブ302が設置されたスペース304においても、可動子10の円滑かつ安定した搬送を実現するものである。
【0060】
図7A及び
図7Bは、搬送装置1の真空装置への適用例を示す概略図である。
図7A及び
図7Bは、第1実施形態の構成に加えて、真空チャンバ301a、301b、ゲートバルブ302及びゲートバルブ昇降部303が追加された構成を示している。
【0061】
搬送装置1は、真空チャンバ301a、301bの内部に設置されている。すなわち、固定子20は、真空チャンバ301a、301bの内部に設置されている。可動子10は、真空チャンバ301a、301bの内部において固定子20により搬送される。真空チャンバ301a、301bは、内部に搬送装置1が設置された互いに接続又は分離可能に連結されている。真空チャンバ301a、301bは、図示しない真空ポンプが接続されて適切な真空度に維持可能に構成されている。
【0062】
ゲートバルブ302及びゲートバルブ昇降部303は、真空チャンバ301aと真空チャンバ301bとの連結部であるスペース304に設けられている。ゲートバルブ昇降部303は、真空チャンバ301aと真空チャンバ301bとの連結部においてゲートバルブ302を動かして昇降させる。ゲートバルブ302は、ゲートバルブ昇降部303により昇降して、真空チャンバ301a、301bの連結部において真空チャンバ301a、301bを開閉する弁部として機能する。すなわち、ゲートバルブ302は、
図7Aに示すように、ゲートバルブ昇降部303により上昇することにより両側の真空チャンバ301a、301bをそれぞれ開いて両者を互いに接続する。また、ゲートバルブ302は、
図7Bに示すように、ゲートバルブ昇降部303により下降することにより両側の真空チャンバ301a、301bをそれぞれ閉じて両者を互いに分離する。
【0063】
スペース304には、第1実施形態の補助ティースユニット110bと同等に機能する構造体を構成する第2のティース305a、305b、305cが設けられている。第2のティース305a、305b、305cは、第2のティース111に相当するものである。
【0064】
第2のティース305aは、真空チャンバ301aの内部においてコイルユニット100bに隣接してスペース304の側の端部に設置されている。第2のティース305cは、真空チャンバ301bの内部においてコイルユニット100cに隣接してスペース304の側の端部に設置されている。第2のティース305bは、ゲートバルブ302の下端部に取り付けられて設置されている。
【0065】
ゲートバルブ302は、
図7Bに示すように、メンテナンス等のタイミングでは下降して真空チャンバ301a、301bを互いに分離している。ゲートバルブ302の下降にあわせて、ゲートバルブ302の下端部に設置された第2のティース305bも下降する。
【0066】
一方、可動子10が搬送されている間、ゲートバルブ302は、
図7Aに示すように上昇して真空チャンバ301a、301bを互いに分離している。ゲートバルブ302が上昇している場合、第2のティース305bは、真空チャンバ301aの内部の第2のティース305aと真空チャンバ301bの内部の第2のティース305cとの間に位置して、第2のティース305a、305cとX方向に並んでいる。この場合、X方向に並んだ第2のティース305a、305b、305cは、第1実施形態の補助ティースユニット110bと同等に機能することができる。
【0067】
第2のティース305a、305b、305cには、コイルが巻かれていない。また、第2のティース305a、305b、305cのうち、スペース304に設置された第2のティース305bは、それぞれ真空チャンバ301a、301bの内部に設置された第2のティース305a、305cよりもX方向の幅が狭くて細くなっている。このため、第2のティース305bは、ゲートバルブ302の下端部に取り付けることが可能であり、真空チャンバ301a、301bが連結された狭い空間であるスペース304をゲートバルブ302とともに昇降することができる。
【0068】
このように、本実施形態では、スペース304において第2のティース305bが設置されている。このため、本実施形態では、スペース304において搬送されて通過する可動子10には、第2のティース305bと永久磁石121との間に吸引力が働いてスペース304においても吸引力が印加される。したがって、本実施形態によれば、ゲートバルブ302が設置されたスペース304においても、可動子10を円滑に安定して搬送することができる。
【0069】
また、本実施形態では、ゲートバルブ302をZ方向において最も上昇した位置と最も下降した位置との間の途中で停止することができる。これにより、スペース304を通過する可動子10の永久磁石121と第2のティース305bとの間の距離を変更して調整することができる。こうして永久磁石121と第2のティース305bとの間の距離を調整することにより、可動子10と固定子20との間に生じる吸引力を調整することができる。
【0070】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態による搬送装置について
図8A及び
図9を用いて説明する。なお、上記第1乃至第3実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し説明を省略し又は簡略にする。
【0071】
本実施形態では、可動子10をY方向にも駆動可能な搬送装置について説明する。
図8A乃至
図8Eは、本実施形態による搬送装置における可動子10及び固定子20を示している。
図8Aは、Z方向から見た可動子10を示す上面図である。
図8Bは、Y方向から見た可動子10を示す側面図である。
図8Cは、X方向から見た可動子10を示す側面図である。
図8Dは、Y方向から見た固定子20を示す側面図である。
図8Eは、Z方向から見た固定子20を示す下面図である。
図8Fは、X方向から見た固定子20を示す側面図である。
【0072】
本実施形態による搬送装置の基本的構成は、第1実施形態による搬送装置1の構成と同様である。本実施形態による搬送装置は、第1実施形態による搬送装置1の構成に加えて、可動子10をY方向に駆動するための構成をさらに有している。
【0073】
図8A乃至
図8Cに示すように、可動子10は、X方向の駆動用の複数の永久磁石421aからなる磁石群と、Y方向の駆動用の複数の永久磁石421bからなる磁石群と、可動子ヨーク120と、保持部122とを有している。
【0074】
複数の永久磁石421aは、可動子ヨーク120の長手方向であるX方向に沿って並んで磁石列を構成するように可動子ヨーク120の上に設置されている。複数の永久磁石421aは、X方向において互いに隣り合う表面の極性が互いに異なってN極とS極とが交互に並ぶように配置されている。
【0075】
また、複数の永久磁石421bは、永久磁石421aの磁石列のX方向の両側において可動子ヨーク120の短手方向であるY方向に沿って並んで磁石列を構成するように可動子ヨーク120の上に設置されている。複数の永久磁石421bは、Y方向において互いに隣り合う表面の極性が互いに異なってN極とS極とが交互に並ぶように配置されている。
【0076】
固定子20は、
図8D、
図8E及び
図8Fに示すように、複数のコイルユニット400と、複数の補助ティースユニット410とを有している。
図8D及び
図8Eには、4個のコイルユニット400a、400b、400c、400dと、3個の補助ティースユニット410a、410b、410cを有する場合を例示している。
【0077】
コイルユニット400は、第1実施形態のコイルユニット100に対応し、第1の固定子ヨーク103に対応する第1の固定子ヨーク403と、複数の第1のティース101に対応する複数の第1のティース401とを有している。また、コイルユニット400は、複数のコイル102に対応する複数のコイル402を有している。ただし、本実施形態において、第1のティース401は、Y方向の駆動用の複数の永久磁石421bによる推力をより高めるため、Y方向に沿って並んだ3本のティース部を磁性体部として有し、Y方向において文字Eの右側を下に向けたE型になっている。第1のティース401の中央のティース部には、コイル402が巻かれている。なお、第1のティース401は、Y方向に沿って並んだティース部を3本に限らず複数本有していてもよい。コイル402が巻かれたティース部は、必ずしも中央のティース部である必要はなく、複数のティース部のうちのいずれかに巻かれていてもよい。
【0078】
補助ティースユニット410は、第1実施形態の補助ティースユニット110に対応し、第2の固定子ヨーク113に対応する第2の固定子ヨーク413と、複数の第2のティース111に対応する複数の第2のティース411とを有している。ただし、本実施形態において、第2のティース411も、第1のティース401と同様に、Y方向に沿って並んだ3本のティース部を磁性体部として有し、Y方向において文字Eの右側を下に向けたE型になっている。第2のティース411には、第1のティース401とは異なり、いずれのティース部にもコイルが巻かれていない。第2のティース411は、Y方向に沿って並んだティース部を3本に限らず複数本有していてもよい。
図8D及び
図8Bは、補助ティースユニット410a、410cが1個の第2のティース411a又は第2のティース411eを有し、補助ティースユニット410bが3個の第2のティース411b、411c、411dを有する場合を例示している。なお、第2のティース411の中央のティース部には、コイルが巻かれていてもよい。
【0079】
図9は、補助ティースユニット410bのY方向から見た側面図、Z方向から見た下面図及びX方向から見た側面図をそれぞれ上段左側、下段左側及び上段右側に示している。
図9に示すように、補助ティースユニット410bは、第2のティース411b、411c、411dのそれぞれが、Y方向に沿って並んだ3本のティースを有し、Y方向において文字Eの右側を下に向けたE型になっている。
【0080】
本実施形態のように、Y方向にも可動子10を駆動する搬送装置においても、補助ティースユニット410を設置することにより、搬送中の可動子10と固定子20との間に生じる吸引力を安定するように構成することができる。したがって、本実施形態によれば、Y方向にも可動子10を駆動する搬送装置において、可動子10を円滑に安定して搬送することができる。
【0081】
なお、第1実施形態においても、本実施形態と同様に可動子10において永久磁石421a、421bを設置することもできる。
【0082】
また、本実施形態による搬送装置も、真空装置へ適用して真空磁気浮上搬送装置を構成することができる。
【0083】
[変形実施形態]
本発明は、上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、可動子10において複数の永久磁石121からなる1列の磁石列が配置され、固定子20において複数のコイル102からなる1列のコイル列が配置された場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。複数の永久磁石121からなる磁石列の列数及びこれらに対向する複数のコイル102からなるコイル列の列数は、それぞれ互いに同じ複数列であってもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、可動子10において複数の永久磁石421aからなる1列の磁石列が配置され、固定子20において複数のコイル402からなる1列のコイル列が配置された場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。複数の永久磁石421aからなる磁石列の列数及びこれらに対向する複数のコイル402からなるコイル列の列数は、それぞれ互いに同じ複数列であってもよい。また、複数の永久磁石421aからなる複数列の磁石列の各列又は一部の列のX方向における両端側において、複数の永久磁石421bからなる磁石列を設置することができる。
【0085】
また、本発明による搬送装置は、電子機器等の物品を製造する製造システムにおいて、物品となるワークに対して各作業工程を実施する工作機械等の各工程装置の作業領域にワークをキャリアとともに搬送する搬送装置として利用することができる。作業工程を実施する工程装置は、ワークに対して薄膜を成膜する成膜装置、ワークに対して部品の組み付けを実施する装置、塗装を実施する装置等、あらゆる装置であってよい。また、製造される物品も特定のものに限定されるものではなく、あらゆる部品であってよい。
【0086】
このように、本発明による搬送装置を用いてワークを作業領域に搬送し、作業領域に搬送されたワークに対して作業工程を実施して物品を製造することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 搬送装置
10 可動子
20 固定子
30 加工装置
40 制御部
100 コイルユニット
101 第1のティース
102 コイル
110 補助ティースユニット
111 第2のティース
121 永久磁石
301a 真空チャンバ
301b 真空チャンバ
302 ゲートバルブ
303 ゲートバルブ昇降部
304 スペース
305a 第2のティース
305b 第2のティース
305c 第2のティース
400 コイルユニット
401 第1のティース
402 コイル
410 補助ティースユニット
411 第2のティース
421a 永久磁石
421b 永久磁石