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特許7538696磁気センサ、磁気抵抗効果素子および電流センサ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】磁気センサ、磁気抵抗効果素子および電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/09 20060101AFI20240815BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20240815BHJP
   H10N 50/01 20230101ALI20240815BHJP
【FI】
G01R33/09
H10N50/10
H10N50/01
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020188641
(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公開番号】P2022077691
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】井出 洋介
(72)【発明者】
【氏名】杉原 真次
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-063893(JP,A)
【文献】特開2001-307308(JP,A)
【文献】特開平10-091920(JP,A)
【文献】特開2012-122792(JP,A)
【文献】特開2018-112481(JP,A)
【文献】特開2015-219227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/09
H10N 50/10
H10N 50/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁気抵抗効果素子を備え、
前記磁気抵抗効果素子はそれぞれ、固定磁性層と、非磁性材料層を介して前記固定磁性層に積層されたフリー磁性層と、を有し、
前記固定磁性層の磁化方向が逆向きである、一対の前記磁気抵抗効果素子である第1素子および第2素子によりハーフブリッジ回路を形成し、
前記第1素子は、反強磁性層との交換結合によって、互いに逆向きのバイアス磁界が印加された第1領域および第2領域を備え、
前記第2素子は、反強磁性層との交換結合によって、互いに逆向きのバイアス磁界が印加された第3領域および第4領域を備えていることを特徴とする、
磁気センサ。
【請求項2】
前記反強磁性層は、前記フリー磁性層に積層されている、
請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記第1素子が有する前記フリー磁性層は、前記フリー磁性層の積層方向に見て、前記第1領域に位置する面積と前記第2領域に位置する面積との比率が1:0.8~1:1.2であり
前記第2素子が有する前記フリー磁性層は、前記フリー磁性層の積層方向に見て、前記第3領域に位置する面積と前記第4領域に位置する面積との比率が1:0.8~1:1.2である
請求項1または2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
各磁気抵抗効果素子がミアンダ形状であり、
前記第1領域と前記第2領域とが相互に隣接して形成され、前記第3領域と前記第4領域とが相互に隣接して形成されている、
請求項3に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記反強磁性層は、前記フリー磁性層に隣接して設けられている、請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項6】
一対の前記磁気抵抗効果素子によって形成される複数の前記ハーフブリッジ回路からなるフルブリッジ回路を有する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載される磁気センサを備え、前記磁気センサは被測定電流の誘導磁界を被測定磁界とする電流センサ。
【請求項8】
固定磁性層と、非磁性材料層を介して前記固定磁性層に積層されたフリー磁性層と、を有し、
前記フリー磁性層は、前記フリー磁性層の積層方向に見て、反強磁性層との交換結合によって互いに逆向きのバイアス磁界が印加された、第I領域と第II領域とを備えていることを特徴とする、
磁気抵抗効果素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一つの磁気抵抗効果素子中にバイアス磁化の方向が異なる領域を有する磁気センサ、磁気抵抗効果素子および磁気センサを備えた電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッドカーにおけるモータ駆動技術などの分野や、柱状トランスなどインフラ関連の分野では、比較的大きな電流が取り扱われる。このため、大電流を非接触で測定可能な電流センサが求められている。このような電流センサとしては、被測定電流からの誘導磁界を検出する磁気センサを用いたものが知られている。磁気センサ用の磁気検出素子として、例えば、GMR(巨大磁気抵抗効果)素子などの磁気抵抗効果素子が挙げられる。
【0003】
GMR素子は、固定磁性層、非磁性材料層およびフリー磁性層を基本的な膜構成としている。固定磁性層は、磁化方向が一方向に固定されている。フリー磁性層は、固定磁性層上に非磁性材料層(非磁性中間層)を介して積層され、外部磁界により磁化方向が変化する。GMR素子を備えた磁気センサにおいては、被測定電流からの誘導磁界(測定磁界)の印加によって変化するフリー磁性層の磁化方向と、固定磁性層の磁化方向との関係で変動するGMR素子の電気抵抗値により被測定電流の電流値を検出する。
【0004】
GMR素子を備えた磁気センサとしては、GMR素子の電気抵抗値と外部磁界の強さとの間の直線関係を高めるために、反強磁性層によりフリー磁性層にバイアス磁界を印加する構成を備えた磁気センサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかる磁気センサにおいては、同一チップ上の各GMR素子に対して誘導磁界が印加される感度軸方向に対して直交方向にバイアス磁界が印加されており、フリー磁性層の磁化方向が同一方向に揃えられ、強磁場印加後のバルクハウゼンジャンプが抑制されている。
【0005】
同文献に記載の磁気センサは、ハーフブリッジ回路を形成する一対の磁気抵抗効果素子が有するフリー磁性層の磁化方向が互いに逆向きになるように、反強磁性層によってフリー磁性層にバイアス磁界を印加する。これにより、強磁場耐性の向上とともに、ダイボンディング時の貼り付け誤差に起因するセンサ出力の直線性の低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-63893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、同文献の磁気センサは、感度軸方向に対して直交する方向の強い磁場を受けてフリー磁性層の磁化方向がバイアス磁化の方向から反転すると、その後にヒステリシスに起因する抵抗のオフセット変化が起きやすいという問題がある。
本発明は、フリー磁性層が磁化反転した場合にヒステリシスに起因して生じる抵抗のオフセット変化が低減された、直交磁場耐性に優れる磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために提供される本発明は、一態様において、複数の磁気抵抗効果素子を備え、前記磁気抵抗効果素子はそれぞれ、固定磁性層と、非磁性材料層を介して前記固定磁性層に積層されたフリー磁性層と、を有し、前記固定磁性層の磁化方向が逆向きである、一対の前記磁気抵抗効果素子によりハーフブリッジ回路を形成し、前記ハーフブリッジ回路を形成する、前記磁気抵抗効果素子はそれぞれ、反強磁性層との交換結合によって、逆向きのバイアス磁界が印加された領域を備えていることを特徴とする、磁気センサを提供する。
各磁気抵抗効果素子が逆向きのバイアス磁界が印加された領域を備えているから、直交磁場が印加された後のオフセット変化を低減できる。このため、磁気センサの感度軸に直交する方向の磁場に対する耐性を良好にすることができる。
【0009】
前記反強磁性層は、前記フリー磁性層に積層されていてもよい。フリー磁性層に積層された反強磁性層のエクスチェンジバイアスにより、フリー磁性層に逆向きのバイアス磁界を印加することができる。
【0010】
前記磁気抵抗効果素子が有する前記フリー磁性層は、逆向きの前記バイアス磁界が印加された前記領域の面積が等しいことが好ましい。各磁気抵抗効果素子がミアンダ形状であり、逆向きの前記バイアス磁界が印加された前記領域が相互に隣接して形成されていてもよい。
上記の構成により、磁気センサの感度軸に直交する方向に強い磁場が印加されたときに、磁化方向がバイアス磁化の方向から反転する領域が半分になるから、フリー磁性層のヒステリシスによるオフセット変化を低減することができる。
【0011】
前記反強磁性層は、前記フリー磁性層に隣接して設けられていてもよい。
磁気センサは、一対の前記磁気抵抗効果素子によって形成される複数の前記ハーフブリッジ回路からなるフルブリッジ回路を有していてもよい。
【0012】
本発明は、他の一態様として、本発明の磁気センサを備え、前記磁気センサは被測定電流の誘導磁界を被測定磁界とする電流センサを提供する。
また、本発明は、他の一態様として、固定磁性層と、非磁性材料層を介して前記固定磁性層に積層されたフリー磁性層と、を有し、前記フリー磁性層はそれぞれ、反強磁性層との交換結合によって、逆向きのバイアス磁界が印加された領域を備えていることを特徴とする、磁気抵抗効果素子を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、感度軸に対して直交する方向の強い磁場を受けてフリー磁性層が磁化反転した後のヒステリシスに起因するオフセット変化を低減することができるから、強磁場条件下における磁気センサの測定精度が向上する。また、かかる磁気センサを用いることにより、強磁場条件下における測定精度の良好な電流センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気センサの模式図
図2】ハーフブリッジを構成する各磁気抵抗効果素子における逆向きのバイアス磁界が印加された領域の一例を示す説明図
図3】逆向きのバイアス磁界が印加された領域の他の一例を示す説明図
図4A図1の磁気センサに感度軸方向とずれた角度で外部磁場を印加した状態の説明図
図4B】感度軸方向とずれた角度の外部磁場に対する感度変化の説明図
図5】本発明のフルブリッジの磁気センサの製造方法の説明図
図6】本発明の第2の実施形態に係る磁気センサの模式図
図7図6の磁気センサのバイアス磁界印加部を形成する工程の説明図
図8】第1の実施形態の磁気抵抗効果素子が備える積層構造を模式的に示す説明図
図9A】ヒステリシスに起因するフリー磁性層の抵抗のオフセットの説明図
図9B】ヒステリシスに起因するフリー磁性層の抵抗のオフセットの説明図
図10A】第2の実施形態の磁気抵抗効果素子のフリー磁性層を備える領域の積層構造を模式的に示す説明図
図10B】フリー磁性層にバイアス磁界を印加する反強磁性層を備えるバイアス磁界印加部の積層構造を模式的に示す説明図
図11】実施例1、比較例1および比較例2の磁気センサに、感度軸に直交する方向の磁場を印加した後のオフセット変化量を示すグラフ
図12】従来の磁気センサの模式図
図13図12の磁気センサのフリー磁性層に印加するバイアス磁化の方向の説明図
図14A図12の磁気センサに感度軸方向とずれた角度で外部磁場を印加した状態の説明図
図14B】感度軸方向とずれた角度の外部磁場に対する感度変化の説明図
図15】角度ずれによる感度変化の線形性を改善した、従来の磁気センサの模式図
図16図15の磁気センサのフリー磁性層に印加するバイアス磁化の方向の説明図
図17A図15の磁気センサに感度軸方向とずれた角度で外部磁場を印加した状態の説明図
図17B】感度軸方向とずれた角度の外部磁場に対する感度変化の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
まず、図12から図17を用いて、従来の磁気センサにおいて生じる線形性の低下について説明する。
図12は、従来の磁気センサ20の模式図である。同図が示すように、磁気センサ20は、磁気抵抗効果素子21a、21b、21cおよび21dからなるフルブリッジ回路を構成している。本明細書では、部材番号にa~dなどの文字を付した部材を区別しない場合、適宜、部材番号のみを用いて記す。例えば、磁気抵抗効果素子21a~21dを区別しない場合、磁気抵抗効果素子21と記す。
図13は、図12の磁気センサ20のフリー磁性層におけるバイアス磁化の方向を示す説明図である。
【0016】
図14A図12の磁気センサ20に感度軸方向とずれた角度で外部磁場を印加した状態の説明図であり、図14Bは感度軸方向とずれた角度の外部磁場に対する感度変化の説明図である。図14Bに示すグラフでは、感度軸方向に対する外部磁場方向のずれ(角度ずれ)がある場合を実線で示し、角度ずれが無い場合を点線で示している。
【0017】
磁気センサ20は、磁気抵抗効果素子21を備えるセンサチップを取り付ける際に傾きが生じる場合がある。この場合、感度軸方向からずれた角度の外部磁場(誘導磁界)が印加される。このような検出方向の角度ずれによる、従来の磁気センサ20の出力の直線性の低下について説明する。
【0018】
磁気抵抗効果素子21では、フリー磁性層と反強磁性層との間の交換結合によるバイアス磁界の印加方向が、磁気抵抗効果素子21の固定磁性層の磁化方向(Pin層磁化方向)に直交している。このため、取り付けの傾きによって検出方向の角度ずれが生じると、磁気抵抗効果素子21のフリー磁性層に印加されたバイアス磁化の方向が、それぞれ誘導磁界の印加方向に対して斜めに交差することになる。
【0019】
バイアス磁界は、一対の磁気抵抗効果素子21で互いに同じ向き(平行)となるように印加されている。このため、磁気センサ20の感度軸方向からずれた方向の外部磁場が印加されると、その角度ずれは、磁気抵抗効果素子21a、21bの感度に対して同様に影響する。図14Bに示すように、一対の磁気抵抗効果素子(Posi-GMR)21aおよび磁気抵抗効果素子(Nega-GMR)21bはいずれも、Y1(+Y)方向の外部磁場の感度変化が大きく、Y2(-Y)方向の外部磁場の感度変化が小さくなる。この感度変化は、一対の磁気抵抗効果素子21c、21dも同様である。したがって、Y1(+Y)方向と、Y2(-Y)方向とで角度ずれの影響が異なるから、磁気センサ(Bridge)20の出力は角度ずれによって線形性が劣化する。
【0020】
図15は、角度ずれによる出力の線形性を改善した、従来の磁気センサ30の模式図である。同図に示すように、磁気センサ30は、一対のハーフブリッジを構成する、磁気抵抗効果素子31a、31b、磁気抵抗効果素子31c、31dに、それぞれ反対方向のバイアス磁界が印加されている点において、図12の磁気センサ20と異なっている。
【0021】
図16は、図15の磁気センサ30のフリー磁性層におけるバイアス磁化の方向を示す説明図である。
図17A図15の磁気センサ30に感度軸方向とずれた角度で外部磁場を印加した状態の説明図であり、図17Bは感度軸方向とずれた角度の外部磁場に対する感度変化の説明図である。図17Bに示すグラフでは、感度軸方向に対する外部磁場方向のずれ(角度ずれ)がある場合を実線で示し、角度ずれが無い場合を点線で示している。
【0022】
磁気抵抗効果素子31は、検出方向の角度ずれが生じた場合に、フリー磁性層に印加されたバイアス磁化の方向が誘導磁界に対して斜めに交差することは、磁気抵抗効果素子21と同じである。しかし、磁気センサ30では、一対の磁気抵抗効果素子31a、31bで互いに反対方向(反平行)となるように、バイアス磁界が印加されている構成において、磁気センサ20と異なっている。外部磁場の角度ずれは、磁気抵抗効果素子31a、31bの感度に対して逆の影響を及ぼす。このため、外部磁場の角度の影響は、一対の磁気抵抗効果素子31a、31bを平均化すると、Y1(+Y)方向とY2(-Y)方向とで同程度になる。このことは、一対の磁気抵抗効果素子31c、31dも同様である。したがって、Y1(+Y)方向と、Y2(-Y)方向とで角度ずれの影響が同様になるから、磁気センサ(Bridge)30の出力は角度ずれによって線形性が劣化せず良好になる。
【0023】
以上のように、一対の磁気抵抗効果素子に、反対方向のバイアス磁界を印加することにより、磁気センサの出力の線形性が良好になる。しかし、フリー磁性層の多磁区化を抑制するため、フリー磁性層に隣接してIrMn等の反強磁性層を積層してエクスチェンジバイアス磁界を印加する場合、感度軸直交方向の強い磁場を受けてフリー磁性層が磁化反転した際に、ヒステリシスに起因したオフセット変化が起きやすいという問題がある。この問題は、一対の磁気抵抗効果素子に反対方向のバイアス磁界を印加することでは改善することができない。なお、ヒステリシスを低減するためには、Hex(エクスチェンジバイアス磁界の強度)を大きくすることが有効であるが、磁気センサの感度低下を招くという問題がある。
【0024】
電流センサや磁気センサ用いられるGMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)等の磁気抵抗効果素子におけるフリー磁性層に生じるオフセットについて、以下に説明する。
図8は磁気抵抗効果素子11が備える積層構造を模式的に示す説明図である。磁気抵抗効果素子11は、固定磁性層111、非磁性材料層112およびフリー磁性層113が積層された構成を備えている。その抵抗値は、磁化方向が固定された固定磁性層111と、外部磁場により磁化方向が変わるフリー磁性層113との磁化方向の相対関係により変化する。磁気センサは、この抵抗値の変化に基づいて外部磁場の向きと強さとを検知することができる。
【0025】
フリー磁性層113の内部で磁壁が移動すると、バルクハウゼンノイズが発生する。そこで、磁気抵抗効果素子11を備えた磁気センサの出力を安定化するバイアス磁界として、反強磁性層114との交換結合を使用したエクスチェンジバイアス磁界が、固定磁性層111の磁化方向により規定された感度軸と直交する方向に与えられる。バイアス磁界の印加により、フリー磁性層113を形成する軟磁性材料の磁化方向を揃えることができる。
【0026】
バイアス磁界として、永久磁石を使用したハードバイアス磁界が用いられることがあるが、永久磁石は保磁力を超える強磁場によって磁化状態が変化する、製造プロセスが煩雑であるという問題がある。反強磁性層114を使用したエクスチェンジバイアス磁界を用いることにより、強磁場耐性が良好になり、製造プロセスが簡単になる。また、反強磁性層114によりフリー磁性層113に印加するバイアス磁化の方向を成膜時の磁場方向で制御できるから、同じ磁気抵抗効果素子11に逆向きのバイアス磁界が印加された面積の等しい領域を形成可能である。
【0027】
フリー磁性層113は、磁化方向が反転しない弱い外部磁場が印加された場合、ゼロ磁場に戻ることにより、外部磁場が印加される前の初期状態に戻る。しかし、磁化方向が反転する強い外部磁場が印加された場合、ゼロ磁場に戻しても、フリー磁性層113は初期状態には戻らない。すなわち、強い外部磁場によってフリー磁性層113の磁化方向が反転すると、外部磁場が除かれてゼロ磁場に戻ってもフリー磁性層113のヒステリシスによって、初期状態からのずれ(オフセット)が生じる。
【0028】
図9Aおよび図9Bは、フリー磁性層のヒステリシスに起因する抵抗のオフセットを説明する説明図である。両者はバイアス磁化の方向が逆向き(反平行)であるGMR素子に感度軸に直交する方向に磁場を印加した際のRH曲線を示す。各図において、印加する磁場を、マイナス磁場からプラス磁場へと変化させた場合を実線で示し、プラス磁場からマイナス磁場へと変化させた場合を破線で示している。
【0029】
図9Aおよび図9Bに示すように、フリー磁性層に対して感度軸と直交する、バイアス磁界と同じ方向に強い外部磁場が印加された場合、外部磁場がゼロに戻れば、フリー磁性層は初期の抵抗Aに戻る。また、バイアス磁界と反対方向に外部磁場が印加された場合、印加される外部磁場(直交磁場)が反転磁場より小さいときは、外部磁場がゼロに戻れば、フリー磁性層は初期の抵抗Aに戻る。このため、外部磁場の大きさが0から反転磁場未満である場合、外部磁場がゼロになれば、フリー磁性層の抵抗は初期のAになる。
【0030】
しかし、バイアス磁界の反対方向に反転磁場以上の外部磁場が印加された場合、フリー磁性層は、外部磁場がゼロに戻っても初期の状態に戻らない。例えば、フリー磁性層に飽和磁界が印加された後は、フリー磁性層のヒステリシスによってフリー磁性層の抵抗が変化する。このため、フリー磁性層に磁化反転が生じた後に外部磁場がゼロになると、フリー磁性層の抵抗は初期のAではなく、ヒステリシスによりBとなる。このように、バイアス磁界の反対方向に反転磁場以上の外部磁場が印加された場合、フリー磁性層のヒステリシスによってフリー磁性層の抵抗が初期の値からずれてしまう。
【0031】
以上のように、反転磁場よりも大きな外部磁場が印加されてフリー磁性層が初期の磁化方向から反転すると、ゼロ磁場となった後にフリー磁性層の抵抗にオフセットが生じる。このように、ヒステリシスのため抵抗変化が発生し、それに伴い抵抗の初期値に変動が引き起こされる。フリー磁性層の抵抗にオフセットが生じて変動すると、磁気センサの検知精度が低下するから、外部磁場によるフリー磁性層の抵抗のオフセットは小さいことが好ましい。
【0032】
図1は本実施形態に係る磁気センサ10の模式図である。同図に示すように、磁気センサ10は、磁気抵抗効果素子11a、11b、11cおよび11dを備えている。4つの磁気抵抗効果素子11は、同一基板(1チップ)上に磁化の向きが異なる固定磁性層111が配置されたフルブリッジ回路を形成する。
【0033】
磁気抵抗効果素子11はそれぞれ、固定磁性層111と、非磁性材料層112を介して固定磁性層111に積層されたフリー磁性層113と、を有しており、フリー磁性層113には反強磁性層114が積層されている(図8参照)。一対の磁気抵抗効果素子11a、11bは、固定磁性層111の磁化方向(Pin層磁化方向)が逆向き(反平行)であり、ハーフブリッジ回路12aを形成している。また、一対の磁気抵抗効果素子11c、11dも同様に、ハーフブリッジ回路12bを形成している。磁気センサ10は、一対の磁気抵抗効果素子11によって形成される、ハーフブリッジ回路12aとハーフブリッジ回路12bとからなるフルブリッジ回路である。
【0034】
ハーフブリッジ回路12を形成する、磁気抵抗効果素子11のフリー磁性層113はそれぞれ、反強磁性層114との交換結合によって、逆向き(反平行)のバイアス磁界が印加された領域13A、13Bを備えている。このように、ハーフブリッジ回路12を構成する磁気抵抗効果素子11がそれぞれ、フリー磁性層113の磁化方向が反平行となっている領域13A、13Bを備えている。この構成によって、感度軸に直交する方向に大きな磁場が印加された場合に、磁気抵抗効果素子11におけるフリー磁性層113の抵抗に生じるオフセットを低減することができる。したがって、磁気センサ10の強磁場耐性を良好にすることができる。
【0035】
フリー磁性層113に印加するバイアス磁界の大きさは限定されないが、反強磁性層114を積層することにより、たとえば、3mT以上、4mT以上、さらには5mT以上といった大きなバイアス磁界を印加することができる。
【0036】
図2は、ハーフブリッジ回路12を構成する各磁気抵抗効果素子11のフリー磁性層113における逆向きのバイアス磁界が印加された領域13A、13Bの一例を示す説明図である。図3は領域13A、13Bの他の一例を示す説明図である。これら図は、磁気抵抗効果素子11の磁化レイアウトを示しており、磁気抵抗効果素子11を上面から見た場合を模式的に示している。同図に示すように、各磁気抵抗効果素子11が有するフリー磁性層113(図8参照)は、逆向き(反平行)のバイアス磁界が印加された領域13A、13Bの面積が等しい。
【0037】
磁気抵抗効果素子11は、逆向き(反平行)のバイアス磁界が印加された領域13A、13Bを備えている。このため、感度軸と直交する方向に大きな外部磁界が印加された場合に磁化反転が生じるのは領域13Aおよび13Bのうちいずれか一方のみである。すなわち、同じ磁気抵抗効果素子11において、ヒステリシスによって抵抗が変化する領域が半分になる。したがって、各磁気抵抗効果素子11のオフセットを半分に低減することができる。
【0038】
また、磁気センサ10の各磁気抵抗効果素子11は、逆向きのバイアス磁界が印加されているから、検出方向の角度にずれが生じた場合、ずれの影響を各磁気抵抗効果素子11において打ち消すことができる。したがって、角度にずれにより各磁気抵抗効果素子11の感度変化生じず、磁気センサ10の線形性も変化しない。
【0039】
図4Aは、磁気センサ10に感度軸方向とずれた角度で外部磁場を印加した状態の説明図であり、図4Bは感度軸方向とずれた角度の外部磁場に対する感度変化の説明図である。図4Bに示すグラフでは、感度軸方向に対する外部磁場方向のずれ(角度ずれ)がある場合を実線で示し、角度ずれが無い場合を点線で示している。
【0040】
磁気抵抗効果素子11では、そのフリー磁性層の磁化方向が、それぞれ誘導磁界の印加方向に対して直交せずに斜めに交差する。しかし、各磁気抵抗効果素子11、11bは、バイアス磁界が互いに反対方向(反平行)に印加された領域13A、13Bを備えているから、外部磁場の角度ずれが、磁気抵抗効果素子11a、11bの感度に対して及ぼす影響が等しい。このため、図4Bに示すように、磁気抵抗効果素子(Posi-GMR)11aおよび磁気抵抗効果素子(Nega-GMR)11bは、Y1(+Y)方向、Y2(-Y)方向の外部磁場の感度変化が図4Bに示すようになる。これは、磁気抵抗効果素子11c、11dについても同様である。したがって、磁気センサ(Bridge)10との出力の線形性が良好になる。
【0041】
図2図3に示すように、各磁気抵抗効果素子11は、ミアンダ形状(X方向に延在する複数の長尺パターンが折り返すようにつながって構成される形状)を有しており、逆向きのバイアス磁界が印加された領域13A、13Bが相互に隣接して形成されている。
【0042】
逆向きのバイアス磁界が印加された領域13A、13Bは面積が等しい。ここで、面積とはバイアス磁化方向と感度軸方向とから構成される平面の法線方向(図2のZ1)から平面視した場合における面積をいう。本発明において「面積が等しい」とは、領域13A、13Bの面積の比率をヒステリシスによる抵抗変化を半分に抑えることができる程度にすることをいう。例えば、領域13Aの面積と領域13Bの面積の比率を、1:0.8~1:1.2、好ましくは1:0.9~1:1.1とすればよい。
【0043】
ハードバイアス磁界ではなく、反強磁性層114によるエクスチェンジバイアス磁界を用いることで、フリー磁性層113が領域13Aまたは領域13Bのいずれであるか明確に規定することが可能になる。また、磁気抵抗効果素子11はミアンダ形状であり、反強磁性層114によりエクスチェンジバイアス磁界を印加している。このため、領域13Aまたは領域13Bのいずれに属するか不明な領域がない。すなわち、反強磁性層114によりフリー磁性層113に印加するバイアス磁界の磁化方向を厳密に制御することができるから、領域13Aの面積と領域13Bの面積を等しくすることが可能になる。
【0044】
図1に示すように、入力端子15は磁気抵抗効果素子11aの一端に接続され、磁気抵抗効果素子11aの他端と磁気抵抗効果素子11bの一端とが直列に接続されて、磁気抵抗効果素子11bの他端がグランド端子16に接続される。入力端子15は磁気抵抗効果素子11cの一端にも接続され、磁気抵抗効果素子11cの他端と磁気抵抗効果素子11dの一端とが直列に接続されて、磁気抵抗効果素子11dの他端がグランド端子16に接続される。第1の中点電位測定用端子17は磁気抵抗効果素子11aの他端と磁気抵抗効果素子11bの一端との間に接続され、第2の中点電位測定用端子18は磁気抵抗効果素子11cの他端と磁気抵抗効果素子11dの一端との間に接続される。磁気センサ10は、第1の中点電位測定用端子17の電位と第2の中点電位測定用端子18の電位とを対比することにより、電流線を流れる感度軸方向の被測定電流の誘導磁界(被測定磁界)の強度および向きを測定する。
【0045】
本実施形態の磁気センサ10(図1参照)、従来の磁気センサ20(図12参照)および従来の磁気センサ30(図15参照)について、角度ずれによる感度変化および、感度軸直交する磁場印加後のオフセット変化をまとめると以下の表のようになる。
【表1】
【0046】
本実施形態の磁気センサ10は、バイアス磁化の方向が反平行である領域13A、13Bを磁気抵抗効果素子11a~11dそれぞれが有している。このため、角度ずれの影響およびオフセット変化を各磁気抵抗効果素子11において低減することができる。したがって、磁気センサ10の出力の線形性が良好になり(〇)、オフセット変化量が小さくなる(〇)。
【0047】
従来の磁気センサ20は、各磁気抵抗効果素子21a~21dに印加するバイアス磁化の方向が同じである。このため、各磁気抵抗効果素子のオフセット変化量が同じになるから、ブリッジ回路からなる磁気センサ20としてのオフセット変化量は小さい(〇)。しかし、磁気センサ20に対する角度ずれの影響が外部磁場方向により異なるから、出力の線形性は悪い(×)。
【0048】
従来の磁気センサ30は、一対の磁気抵抗効果素子31aおよび31b、ならびに31cおよび31dに、印加されているバイアス磁化の方向が反平行である。このため、一対の磁気抵抗効果素子で角度ずれの影響を打ち消すことができるから、磁気センサ30の出力の線形性は良い(〇)。しかし、バイアス磁化の方向によって、各磁気抵抗効果素子のオフセット変化量が異なるから、ブリッジ回路からなる磁気センサ30としてのオフセット変化量は大きい(×)。
【0049】
図5は、本発明のフルブリッジの磁気センサの製造方法の説明図である。磁気センサ10が備える磁気抵抗効果素子11の固定磁性層はセルフピン構造を有するから、固定磁性層の磁化は磁場中成膜によって行うことができ、成膜後に磁場中の加熱処理が必要とされない。このため、固定磁性層の磁化の向きが異なる磁気抵抗効果素子11を同一基板上に配置してフルブリッジ回路を構成することが可能となる。
【0050】
図5に示すように、まず、基板上に磁気抵抗効果素子11の下地層を成膜する(大工程No.1)。下地層は例えばAl23(アルミナ)等が用いられる。そして、磁気抵抗効果素子11a、11dの領域13B、磁気抵抗効果素子11b、11cの領域13B、磁気抵抗効果素子11a、11dの領域13A、および磁気抵抗効果素子11b、11cの領域13Aについて、それぞれ、エリアパターンを形成し、磁気抵抗効果素子11を成膜し、リフトオフする(大工程No.2~4、5~7、8~10および11~13)。
【0051】
続いて、磁気抵抗効果素子11のストライプパターン形成、ストライプエッチング、ストライプレジスト剥離を行う(大工程No.14~16)。そして、電極パターン形成、電極成膜、電極リフトオフを行う(大工程No.17~19)。なお、図5に示すストライプパターンは、図3に示す領域13A、13Bに相当する。
【0052】
以上のように、本実施形態の磁気センサは、フリー磁性層に積層された反強磁性層により印加された、バイアス磁化の方向が反平行の領域を各磁気抵抗効果素子が有している。したがって、取り付け時の角度ずれによる各磁気抵抗効果素子の感度変化が小さく、出力の線形性が良好であり、感度軸に直交する磁場を印加した後のオフセット変化量が小さい磁気センサを提供できる。
【0053】
本発明は被測定電流の誘導磁界を被測定磁界とする磁気センサを備えた電流センサとして実施することができる。
【0054】
<第2の実施形態>
図6は本実施形態に係る磁気センサ40の模式図である。同図に示すように、磁気センサ40は、バイアス磁界を印加する反強磁性層がフリー磁性層に隣接して設けられた構成(abutted junction)を備えている。
【0055】
磁気センサ40は、磁気抵抗効果素子41a、41b、41cおよび41dを備えている。4つの磁気抵抗効果素子41は、同一基板(1チップ)上に磁化の向きが異なる固定磁性層が配置されたフルブリッジ回路を形成する。磁気抵抗効果素子41はそれぞれ。逆向き(反平行)のバイアス磁界が印加された領域43A、43Bを備えている。領域43Aおよび43Bはそれぞれ、バイアス磁界印加部44Aおよび44Bに挟まれている。
【0056】
図10Aは、本実施形態の磁気抵抗効果素子41のフリー磁性層113を備える領域43の積層構造を模式的に示す説明図である。同図に示すように、磁気センサ40の領域43A、43Bは、反強磁性層114を備えていない点において、磁気センサ10の領域13A、13Bと異なっている。
【0057】
領域43のフリー磁性層113は、隣接するバイアス磁界印加部44により挟まれており、バイアス磁界印加部44によってバイアス磁界が印加されている。隣接するバイアス磁界印加部44A、44Bは磁界が逆向き(反平行)であり、領域43A、43Bには逆向きのバイアス磁界を印加する。
【0058】
図10Bは、領域43のフリー磁性層113にバイアス磁界を印加する反強磁性層114を備えるバイアス磁界印加部44の積層構造を模式的に示す説明図である。同図に示すように、バイアス磁界印加部44は、磁性層115が反強磁性層114に挟まれた構造を備えている。このため、磁性層115および反強磁性層114成膜する際に印加する磁場の方向により、その間の領域43のフリー磁性層113に印加するバイアス磁化の方向を制御することができる。
【0059】
図6に示すように、一対の磁気抵抗効果素子41a、41bは、固定磁性層111の磁化方向(Pin層磁化方向)が逆向き(反平行)であり、ハーフブリッジ回路42aを形成している。また、一対の磁気抵抗効果素子41c、41dも同様に、ハーフブリッジ回路42bを形成している。
【0060】
バイアス磁界印加部44は、例えば、以下の積層構造により実施することができる。()内の数字は層の厚さの例(Å)を示している。
保護層:Ta(30)/下地層:NiFeCr(50)/反強磁性層:IrMn(80)/磁性層:Fe30at%Co70at%(180~360)/反強磁性層:IrMn(80)/保護層:Ta(150)
【0061】
図7は、磁気センサ40にバイアス磁界印加部44を形成する工程の説明図であり、図6のA-A線に沿った断面を模式的に示している。同図に示すように、以下の工程により基板200上にバイアス磁界印加部44Aを形成する。
[1]基板200上に磁気抵抗効果素子201を成膜する。
[2]レジスト202に磁気抵抗効果素子201の表面にレジスト202を塗布する。
[3]バイアス磁界印加部44Aをパターニングする(1回目のバイアス磁界印加部44のパターニング)。
[4]露出した磁気抵抗効果素子201のうち、バイアス磁界印加部44Aを形成する部分をエッチングする(エッチングされた部分の図面奥側に領域43Aとなる部分が残っている。)。
[5]磁場(磁界)中で、露出した基板200上にバイアス磁界印加部44Aを形成する(1回目のバイアス磁界印加部44成膜)。このときの磁場方向(図7に向かって手前向き)により、バイアス磁界印加部44Aの磁場方向が決まる。
[6]レジスト202をリフトオフする。これにより、領域43Aのフリー磁性層113にバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加部44Aを基板200上に形成できる。
【0062】
続いて、以下の工程により基板200上にバイアス磁界印加部44Bを形成する。
[7]磁気抵抗効果素子201の表面にレジスト202を塗布する。
[8]レジスト202にバイアス磁界印加部44Bをパターニングする(2回目のバイアス磁界印加部44のパターニング)。
[9]露出した磁気抵抗効果素子201のうち、バイアス磁界印加部44Bを形成する部分をエッチングする(エッチングされた部分の図面奥側に領域43Bとなる部分が残っている。)。
[10]磁場(磁界)中で、露出した基板200上に、バイアス磁界印加部44Bを形成する(2回目のバイアス磁界印加部44成膜)。このときの磁場方向(図7に向かって奥向き)により、バイアス磁界印加部44Bの磁場方向が決まる。
[11]レジスト202をリフトオフする。これにより、領域43Bのフリー磁性層113にバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加部44Bを基板200上に形成できる。
[12]アニールする。
【0063】
[5]と[10]のバイアス磁界印加部44A、44Bを成膜する際に、印加する磁場を反平行にすることにより、一つの磁気抵抗効果素子41に反平行のバイアス磁界が印加された領域43Aと領域43Bとを形成することができる。したがって、取り付け時の角度ずれによる出力への影響が低減された線形性が良好な、感度軸に直交する磁場を印加した後のオフセット変化量が小さい磁気センサを容易に製造することができる。
【0064】
上述した実施形態では、磁気抵抗効果素子として、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)を備える磁気センサについて説明したが、異方性磁気抵抗効果素子(AMR素子)、トンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)などを磁気抵抗効果素子として用いることもできる。
【0065】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0066】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
磁気抵抗効果素子11として以下の膜構成を備えたGMR素子を用いて、第1の実施形態に係る磁気センサ10(図1図3参照)を作製した。()内の数字は層の厚さ(Å)を示している。
下地層:NiFeCr(42)/固定磁性層:Fe60at%Co40at%(19)/非磁性材料層:Ru(3.6)/固定磁性層:Co90at%Fe10at%(24)/非磁性材料層:Cu(20)/フリー磁性層:[Co90at%Fe10at%(10)/NiFe(70)]/反強磁性層:IrMn(80)/保護層:Ta(100)
【0068】
(比較例1)
磁気抵抗効果素子11として、実施例1と同じ膜構成を備えたGMR素子を用いて、従来の磁気センサ20(図12参照)を作製した。
(比較例2)
磁気抵抗効果素子11として、実施例1と同じ膜構成を備えたGMR素子を用いて、従来の磁気センサ30(図15参照)を作製した。
【0069】
図11は、実施例1、比較例1および比較例2の磁気センサに、感度軸に直交する方向の磁場(直交磁場、30mT、300Oe)を印加した後のオフセット変化量を示すグラフである。同図は、感度軸に直交する方向(任意の一方向)に30mTの磁場を印加した後における磁気センサのオフセット変化量を比較している。
【0070】
比較例1の磁気センサ20は、磁気抵抗効果素子に印加するバイアス磁化の方向が同じである。このため、フリー磁性層が反転した後の抵抗変化量は、ブリッジを構成する4つの磁気抵抗効果素子で大きな差がない。したがって、オフセット変化量は、比較的小さな値(3.67mV)となったものといえる。ただし、磁気センサ20には、取り付け時の角度ずれの影響により、出力の線形性が低下するという問題がある。
【0071】
比較例2の磁気センサ20は、ハーフブリッジを構成する一組の磁気抵抗効果素子に印加するバイアス磁化の方向が逆である。このため、直交磁場を印加した後において、バイアス磁化方向が異なる磁気抵抗効果素子では、抵抗変化量に比較的大きな差が生じる。したがって、オフセット変化量は、比較的大きな値(12.5mV)となっている。
【0072】
実施例1は、同一磁気抵抗効果素子内に、逆方向のバイアス磁界が印加される、同じ面積の領域を備えている。このため、一つの磁気抵抗効果素子あたりの直交磁場を印加した後における抵抗の変化量(オフセット変化量)が、比較例1および比較例2の約半分となる。また、フルブリッジを構成する4つの磁気抵抗効果素子はいずれも逆方向のバイアス磁界が印加されているから、抵抗の変化量がほぼ同等となる。したがって、磁気センサ10のオフセット変化量が最も小さな値(2.79mV)になったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサは、柱状トランスなどのインフラ設備の電流センサの構成要素や、電気自動車、ハイブリッドカーなどの電流センサの構成要素として好適に使用されうる。
【符号の説明】
【0074】
10、20、30,40:磁気センサ
11、11a、11b、11c、11d:磁気抵抗効果素子
12、12a、12b、42a、42b:ハーフブリッジ回路
13A、13B :領域
15 :入力端子
16 :グランド端子
17 :第1の中点電位測定用端子
18 :第2の中点電位測定用端子
21、21a、21b、21c、21d、31、31a、31b、31c、31d、41、41a、41b、41c、41d:磁気抵抗効果素子
43、43A、43B:領域
44、44A、44B:バイアス磁界印加部
111 :固定磁性層
112 :非磁性材料層
113 :フリー磁性層
114 :反強磁性層
115 :磁性層
200 :基板
201 :磁気抵抗効果素子
202 :レジスト
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16
図17A
図17B