(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ハイブリッド車の充電状態を管理するための方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/26 20060101AFI20240815BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240815BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240815BHJP
B60L 58/13 20190101ALI20240815BHJP
B60L 58/24 20190101ALI20240815BHJP
B60W 20/12 20160101ALI20240815BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240815BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240815BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
B60W10/26 900
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/13
B60L58/24
B60W20/12 ZHV
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 P
H02J7/00 X
H02J7/04 L
(21)【出願番号】P 2020511470
(86)(22)【出願日】2018-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2018072524
(87)【国際公開番号】W WO2019042818
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-14
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】323014133
【氏名又は名称】ニュー エイチ パワートレイン ホールディングス エス エル ユー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フェレイラ デ アラウホ, マノエラ
(72)【発明者】
【氏名】ケッフィ-シェリフ, アフメト
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】河端 賢
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-355967(JP,A)
【文献】特開2007-311309(JP,A)
【文献】特開2009-273326(JP,A)
【文献】特表2014-504977(JP,A)
【文献】特開2011-217549(JP,A)
【文献】特開2008-249459(JP,A)
【文献】特開2013-161693(JP,A)
【文献】特開2014-011849(JP,A)
【文献】特開2004-245190(JP,A)
【文献】特開2001-157308(JP,A)
【文献】特開2013-220663(JP,A)
【文献】特表2014-509281(JP,A)
【文献】特開2016-41584(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0280687(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0100188(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0222448(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/26
B60W 20/12
H02J 7/00
H02J 7/04
B60L 50/16
B60L 50/60
B60L 58/13
B60L 58/24
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド車のパワートレインのトラクションバッテリの充電状態を管理するための方法であって、現在の目的地への
車両の走行段階中に、
前記パワートレインがオフに切り替えられた後、将来の目的地への出発の時点で、バッテリが到達する温度を予測するステップと、
前に予測された前記バッテリ温度の関数として、前記バッテリの最低充電状態を推定し、前記将来の目的地への走行段階中、事前定義された最低電力レベル
であって純粋に電気的なトルクのみによる発車を行うために前記バッテリから利用可能な最低電力レベルを提供することを可能にするステップと、
前記バッテリの前記充電状態を前記最低充電状態の近くに保つステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記バッテリが到達する温度を予測する前記ステップが、そのパラメータの中に、
現在の走行の終了と
将来の走行の開始との間の経過時間、および/または
前記現在の走行の終了と前記将来の走行の開始との間の周囲温度の変化のモデル、および/または
前記周囲温度の傾向の関数として前記バッテリの温度の傾向を与える前記バッテリの熱慣性のモデル
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記現在の走行の終了と前記将来の走行の開始との間の前記経過時間が、
走行スケジューリングシステムから直接取得される、または
走行記憶システムから取得される、前記現在の走行との類似性を示す以前の走行から統計的に導出される、または
定数に等しい
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記車両の位置がジオロケーションシステムから知られて、前記位置での測定される最低温度が気象情報ブロードキャスティングシステムから知られ、周囲温度の変化のモデルが、
前記測定された周囲温度が前記最低温度よりも低いとき、前記変化がゼロであり、
前記測定された周囲温度が前記最低温度よりも高い事前定義された値を超えるとき、前記変化が負の定数に等しく、
前記変化が、前記最低温度と前記事前定義された値との間で線形傾向を示す
ように定義されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記バッテリの熱慣性の前記モデルが、前記バッテリの前記温度が前記周囲温度と同様に変化するように定義されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記最低充電状態を推定する前記ステップが、複数の充電状態値の中から最大値を選択することを含み、前記複数の充電状態値が、少なくとも、
前記バッテリ
の測定された現在の温度の関数として推定される、前記現在の目的地に到達するための最低充電状態値と、
以前に予測された前記温度の関数として推定される、前記将来の目的地に到達するための最低充電状態値と
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の充電状態値が、前記バッテリの事前定義された寿命を保証するための最低充電状態も含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記現在の目的地に到達するための前記最低充電状態値と、前記将来の目的地に到達するための前記最低充電状態値とが、前記バッテリの前記充電状態の関数としての前記バッテリで
の利用可能な電力の傾向の線形モデリングの方法によってリアルタイムで計算されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記線形モデリング
の方法が、再帰的最小二乗法であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
先行する推定値から再帰的に得られる充電状態値の各新たな推定値に関し、前記先行する推定値にオミッションファクターλ<1が乗算されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を実施するハードウェアおよびソフトウェア手段を含むコンピュータ。
【請求項12】
請求項11に記載のコンピュータを備えるハイブリッド車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱機関と電気機関とを備えるハイブリッドパワートレインを設けられた車両のトラクションバッテリの充電状態を管理するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気候変動に関するコンセンサスの現在の状況では、二酸化炭素(CO2)排出量の削減は、車両製造業者が直面する主要な課題であり、関連する標準はますます要求が厳しくなっている。
【0003】
CO2排出量の低減を伴う従来の熱機関の効率改善を継続することに加えて、昨今、電気自動車(「EV」、パワートレインが電気機関のみを備える)およびハイブリッド電気自動車(「HEV」、パワートレインが電気機関と熱機関とを備える)が、CO2排出量を削減するための最も有望なソリューションであると考えられている。
【0004】
近年、EVおよびHEVの要件を満たすために、様々な電気エネルギー貯蔵技術がテストされている。現在、リチウムイオン(Liイオン)セルを備えたバッテリは、特に加速の面での性能を優先する電力密度と、距離を優先するエネルギー密度との間で最良の折り合いをつけることができる可能性が高いバッテリであると考えられている。しかし、このLiイオン技術を使用してトラクションバッテリを形成することは、とりわけ400ボルト(V)程度の所要電圧レベルに関して、さらには充電サイクル中と放電サイクル中の両方においてバッテリで生成される高温レベルに関して問題がある。
【0005】
現在、電気自動車およびハイブリッド車市場の成長を遅らせる要因の1つはコストであり、コストは、とりわけLiイオントラクションバッテリにより、従来の熱駆動車よりも依然として高い。したがって、潜在的な顧客にEVまたはHEVに切り替えるよう説得するには、コストを抑えた技術を用いたEVまたはHEVを開発することが不可欠と思われる。これは、本発明が解決することを提案する1つの問題である。
【0006】
したがって、コストを抑えるために、本出願人は、特定のハイブリッドパワートレインアーキテクチャを開発および改良した。任意の従来のハイブリッドアーキテクチャと同様に、Liイオンバッテリによって駆動される電気機関が熱機関を支援し、これら2つが、車両の駆動輪にトルクを交互にまたは同時に伝達することが可能である。しかし、特にトルク伝達システムに適用するこのアーキテクチャの特定の特徴は、車両の発車を純粋に電気的なトルクのみによってのみ行うことができることである。言い換えれば、車両をゼロ速度から非ゼロ速度に切り替えることを、電気トルクの伝達のみによって保証することができ、発車時に熱トルクを同時に伝達することはできない。これは、伝達システムに実装されたコスト制御ソリューションによるものである。同様に、車両を非常に低速に維持することは、速度閾値を超えるまで電気トルクの伝達のみによって保証することができ、そこから熱トルクを車輪に同時に伝達することができる。このタイプのアーキテクチャの1つの欠点は、バッテリの充電状態(すなわちSOC)が、車両の発車(vehicle takeoff)のための最低電力レベルを供給することを可能にする特定の閾値を下回った場合に、一時的に車両を動かないようにして、発電機セットモードで熱機関の使用により再充電する必要があることである。しかし、SOCを特定の閾値よりも上に保つこと、とりわけこの閾値の値を選択することは、多くの起こり得る使用状況を考えると多くの困難がある。これも、本発明が解決することを提案する問題である。
【0007】
これらの問題を説明するために、以下の使用状況を考えることができる。運転者が、平地から出発して山へスキーに行く。高速道路で数百キロメートル走行した後、谷間に到着し、中央車両コンピュータ(またはEVC、「電気自動車コントローラ」)に実装されたエネルギー管理法によって認証される最小値に近いSOCで行楽地まで上る。車両のバッテリは、まず、いわゆる「充電消耗」段階になっており、この段階中、電気機関の使用を最大化することによって、充電が最小閾値SOCまで消耗される。次いで、車両はいわゆる「充電維持」段階になり、この段階中、電気モードでの走行段階を、回生ブレーキ段階、またはさらには熱機関を使用して電気機関を発電機モードで動作させる再充電段階と交番させることによって、この最小閾値の近傍にSOCが保たれている。谷底での低いSOCにも関わらず、運転者は、長い高速道路走行後、バッテリが40℃程度の高温であるので、行楽地まで上ることができる。バッテリが高温であるため、SOCが低いにもかかわらずパワフルである。したがって、SOC保存の戦略は、最初は、すべての状況でよく機能している。行楽地に到着すると、運転者は、滞在中、例えば1週間、屋外の駐車場に車を駐車しておく。1週間後、バッテリの温度は、その地域の周囲温度、すなわち-10℃まで下がっている。40℃での特定のレベルの性能を保証するのに十分だったSOCは、-10℃ではもはや十分ではない。このため、行楽地から家に帰るとき、運転者は、車両を駐車場から即座に発車させることがほぼ不可能となり、まず、熱機関を使用して電気機関を発電機モードで動作させることによって、SOCを上げなければならない。したがって、温度に対してSOCが不適切であるため、SOCの保存の戦略は最終的には失敗している。これも、本発明が解決することを提案する問題である。
【0008】
バッテリのSOCがその温度に適していないこのタイプの状況を避けるために、ナビゲーション情報を使用して目的地での温度を知り、それに従って、SOCを適切な範囲内に保つことによって調整する予防的戦略が米国特許第8330424号から知られている。しかし、温度条件が大幅に変化する車両の長期不使用段階を含む以前の使用の場合、このソリューションは機能せず、駐車場で車両を動けなくする。これも、本発明が解決することを提案する問題である。
【発明の概要】
【0009】
本発明の狙いは、とりわけ、発車であれ、提供される任意の他のサービスであれ、現在の走行中だけでなく次の走行中にも性能要件を観察するために目標最低SOCを決定することによって、上述した欠点および問題を改善することである。したがって、本発明は、例えば前の使用の場合、滞在終了時の温度低下を見越して、往路後にSOCを予防的に上昇させることを提案する。このために、本発明の主題は、ハイブリッド車のパワートレインのトラクションバッテリの充電状態を管理するための方法である。この方法は、現在の目的地への車両の走行段階中に、
-パワートレインがオフに切り替えられた後、将来の目的地への出発の時点で、バッテリが到達する温度を予測するステップと、
-前に予測されたバッテリ温度の関数として、バッテリの最低充電状態を推定し、将来の目的地への走行段階中、事前定義された最低電力レベルを提供することを可能にするステップと、
-バッテリの充電状態を最低充電状態の近くに保つステップと
を含む。
【0010】
好ましい実施形態では、バッテリが到達する温度を予測するステップが、そのパラメータの中に、
-現在の走行の終了と将来の走行の開始との間の経過時間、および/または
-現在の走行の終了と将来の走行の開始との間の周囲温度の変化のモデル、および/または
-周囲温度の傾向の関数としてバッテリの温度の傾向を与えるバッテリの熱慣性のモデル
を含むことができる。
【0011】
有利には、現在の走行の終了と将来の走行の開始との間の経過時間が、
-走行スケジューリングシステムから直接取得され得る、または
-走行記憶システムから取得される、現在の走行との類似性を示す以前の走行から統計的に導出され得る、または
-定数に等しいことがあり得る。
【0012】
また、有利には、車両の位置をジオロケーションシステムから知ることができ、上記位置での測定される最低温度を気象情報ブロードキャスティングシステムから知ることができ、周囲温度の変化のモデルを、
-測定された周囲温度が最低温度よりも低いとき、変化がゼロであり、
-測定された周囲温度が最低温度よりも高い事前定義された値を超えるとき、変化が負の定数に等しく、
-変化が、最低温度と事前定義された値との間で線形傾向を示す
ように定義することができる。
【0013】
やはり有利には、バッテリの熱慣性のモデルを、バッテリの温度が周囲温度と同様に変化するように定義することができる。
【0014】
好ましい実施形態では、最低充電状態を推定するステップが、複数の充電状態値の中から最大値を選択することを含むことができ、上記複数の充電状態値が、少なくとも、
-バッテリの測定された現在の温度の関数として推定される、現在の目的地に到達するための最低充電状態値と、
-以前に予測された温度の関数として推定される、将来の目的地に到達するための最低充電状態値と
を含むことができる。
【0015】
有利には、複数の充電状態値が、バッテリの事前定義された寿命を保証するための最低充電状態も含むことができる。
【0016】
また、有利には、現在の目的地に到達するための最低充電状態値と、将来の目的地に到達するための最低充電状態値とを、バッテリの充電状態の関数としてのバッテリでの利用可能な電力の傾向の線形モデリングの方法によってリアルタイムで計算することができる。
【0017】
例えば、線形モデリング法は、再帰的最小二乗法でよい。有利には、先行する推定値から再帰的に得られる充電状態値の各新たな推定値に関し、次いで、上記先行する推定値にオミッションファクターλ<1を乗算することができる。
【0018】
また、本発明の主題は、とりわけ「バッテリ管理システム」(BMS)タイプのそのような方法を実施するハードウェアおよびソフトウェア手段を含むコンピュータである。
【0019】
本発明の最後の主題は、そのようなコンピュータを備えるハイブリッド車である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】バッテリの将来の温度の予測計算に使用することができる周囲温度(X)の低下値の例のグラフである。
【
図2】
図1のTambの低下から、現在のTambの関数としての将来のTbatの予測を示すグラフである。
【
図3】45kWの最小利用可能バッテリ電力を目標にすることによって、SOC_targetの計算の収束を示すグラフである。
【
図4】現在のTambが-15℃(予測Tbat=-20℃)で、将来の走行に関する目標Pbatが15kWである例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の他の特徴および利点は、以下の説明から明らかになろう。以下の説明は、添付の
図1、2、3、および4に照らして与えられ、グラフによって本発明の例示的実施形態を示す。
【0022】
本明細書で以下に説明する本発明の原理を明確に理解するには、バッテリの端子で放電モードにおいて利用可能な電力(本明細書では以後、Pbatと呼ぶ)が以下のものに依存することを念頭に置いておくことが不可欠である。
-バッテリのSOC:バッテリの放電が多いほど、電力を供給することができなくなり、逆も成り立つ。
-バッテリの温度:バッテリが低温になるほど、電力を供給することができなくなる。
-バッテリの総容量に影響を与えるバッテリの老化の状態:バッテリが古くなるほど、電力を供給することができなくなる。
【0023】
したがって、実際には、特定の所要の最低電力レベルを利用可能に保つために、パラメータの中でもとりわけバッテリの温度に依存する最低SOCをバッテリが常に有することを保証することが不可欠である。これは、EVCに実装されたエネルギー管理法則の役割の1つであり、回生ブレーキによって、または発電機モードで動作する電気機関を駆動する熱機関によって、目標バッテリ充電状態を維持することを試みる。
【0024】
本出願では以後、バッテリの内部温度(本明細書では以下、「バッテリ温度」またはTbat)の関数として、および外気の温度(本明細書では以下、「周囲温度」またはTamb)の関数として、車両の発車であれ、提供される任意の他のサービスであれ、現在の走行中だけでなく次の走行中にも性能要件を観察するために、本発明に従って目標最低SOCを決定することが可能である方法を述べる。
【0025】
現在の走行に関しては、目標SOCレベル(本明細書では以下、SOC_current_targetと呼ぶ)を計算するために、リアルタイムで知られるバッテリの温度を基礎として使用することが可能である。
【0026】
次の走行に関しては、目標SOCレベル(本明細書では以下、SOC_future_targetと呼ぶ)を計算するために、リアルタイムで知られている周囲温度の関数としての将来のバッテリ温度の予測を基礎として使用することが可能である。
【0027】
最終目標SOCは、SOC_current_targetと、SOC_future_targetと、温度に依存しない最低目標SOC、例えば「充電維持」機能によって維持される最低SOCとのうちの最大値である。
【0028】
バッテリ温度の予測
将来のバッテリ温度の予測は以下のものに依存する。
1.バッテリの熱慣性、および現在の走行と将来の走行との間の経過時間
2.現在の走行と将来の走行との間の周囲温度の変化
【0029】
これらの情報は、例えば将来の走行がプログラムされている場合、および気象情報へのアクセスが可能である場合には、事前に知ることができる。そうでない場合には、地域の気象統計、2回の走行間のダウンタイムに関する統計、およびバッテリの熱慣性の識別に基づいて予測を行うこともできる。
【0030】
図1は、バッテリの将来の温度の予測計算に使用することができる周囲温度(X)の低下値の例をグラフで示す。電力低下を避けるために、周囲温度の予測は、例えば正のTambに関しては一定として、15℃のTambの低下を考えることによって、悲観的に計測することができる。Tambがその最低値、例えばパリでは約-20℃に達すると、Tambは下がることができず、したがってTambの低下は0に等しくなるとみなされる。Tamb=0℃とTamb=(約)-20℃との間での線形補間が、パリでの本発明による予測計算に関するTambの変化の一例である。
【0031】
したがって、バッテリの温度が予測されたTambに向かって収束するのに十分に長い時間を取れる現在の走行と次の走行との間の経過時間を考慮する場合、
図2のグラフは、
図1のTambの低下から、現在のTambの関数としての将来のTbatの予測を示す。
【0032】
現在の目標SOCの推定
本発明は、バッテリのSOCとバッテリの最大利用可能電力との相関性を活用する。すなわち、SOCが増加すると最大利用可能電力も増加し、逆も成り立つ。この相関性は、例えば、バッテリの温度およびバッテリの充電状態の関数として、またはバッテリコンピュータに実装された別のアルゴリズムによって、バッテリの最大利用可能電力を与える表で特徴付けることができる。
【0033】
この例示的実施形態の1つの原理は、例えば再帰的最小二乗法のタイプの線形モデリングによって、この相関性をリアルタイムで識別することである。実際、SOCレベルの制限区域に限定される場合、線形モデリングは一貫性がある。バッテリがかなり高い容量を有する場合には(ほとんどのハイブリッド車に当てはまる)、SOCの変化はかなり遅く、十分な数のサンプルを得て、制限区域にわたる線形相関性を明確に識別することが可能になる。この例示的実施形態では、再帰的最小二乗法は以下のように書くことができ、aおよびbは実数線形化係数を表し、tは時間を表す。
Pbat(t)=a(t)*SOC(t)+b(t)
【0034】
この例示的実施形態の別の原理は、指数法則に従って、より最近の測定値を優先して、古い測定値の重みを減少させることである。そのために、反復の各ステップで、古い測定値の重みにオミッションファクターλ<1が乗算される。したがって、第(n+1)のステップで、
・第1の推定値は、λnによって重み付けされる
・第2の推定値は、λn-1によって重み付けされる
・第nの推定値は、λによって重み付けされる
・新たな推定値は、1によって重み付けされる
【0035】
以下の式が得られる。
θ(t)=θ(t-1)+L(t)×[y(t)-φ
T(t)×θ(t-1)]
ここで、
P=共分散行列(2×2)
θ=パラメータのベクトル(2×1)
φ=制御ベクトル(2×1)
であり、
y(t)=Pbat(t)
である。
【0036】
そのような方法の使用の利点は複数あるが、とりわけ挙げることができる利点は、リアルタイムの相関性を識別することにより、温度変化、さらにはバッテリの老化に対してもロバストになることである。また、オミッションファクターにより、学習の「フィルタリング」を調節して、学習を多かれ少なかれ動的にすることが可能であることも挙げることができる。
【0037】
方法のロバスト性を高めるために、SOCおよび/またはPbatの変化が大きすぎるサンプルを破棄するなど、任意選択の拡張機能を追加すると有利になることがある。上記のようなサンプルは、測定ノイズまたは望ましくない外乱であり得、または、バッテリが「励起」されすぎ、その電圧(最大利用可能Pbatの像)がスポットベースで増加する充電/放電ピークにさえ関係し得る。
【0038】
SOCの変化とPbatの変化とが逆符号であるサンプル、例えば測定ノイズまたは過渡エラーの破棄を想定することもできる。
【0039】
SOCおよびPbatの変化が小さすぎるサンプルを破棄することも想定することができ、例えば、車両が停止したままであり補助機器の電力消費が低い場合に、重複したサンプルによる線形化の「飽和」を回避する。
【0040】
十分な数のサンプルを確保するために、線形化法を考慮に入れる前に線形化法の初期化において遅延を追加することを想定することもできる(この時間中、例えば、目標SOCに関するデフォルト値を使用することも可能である)。
【0041】
最後に、始動から、車両が長時間停止したままであり補助機器の電力消費が低い場合に、初期化遅延が十分でない場合も網羅するために、SOCの変化に関する最小勾配を保証するように、識別された直線の係数を飽和させることを想定することができる。
【0042】
図3は、45kWの最小利用可能バッテリ電力を目標にすることによって、SOC_targetの計算の収束を示す。
・時点t1で:
・SOC=19%
・Tbat=-10℃
・Pbat=12kW
・SOC_current_target=50%
・時点t2で:
・SOC=26%
・Tbat=0℃
・Pbat=35kW
・SOC_current_target=31%
・時点t3で:
・SOC=31%
・Tbat=0℃
・Pbat=42kW
・SOC_current_target=41%
【0043】
図3の例では、局所線形化、およびPbatとSOCとの単調な相関性により、計算された目標SOCは、現在のSOCを、目標Pbatに対応するSOCに向かって収束するように上昇させることがわかる。また、この計算がバッテリ温度の変化にも適合することがわかる(すなわち、初期Tbat=Tamb=-10℃;最終Tbat=0℃)。
【0044】
将来の目標SOCの推定
原理は、SOC_current_targetの計算について前述したものと同様である。BMSは、現在のSOCおよび将来のTbatに対応するバッテリでの最大利用可能電力レベルの予想を送信する。将来の走行に関する出発時の性能に対する要求レベルは、現在の走行の要求とは異なることがあるので、したがって、Pbat_discharge_maxの目標値は異なることがある。
図4は、現在のTambが-15℃(予測Tbat=-20℃)で、将来の走行に関する目標Pbatが15kWである例を示す。
・時点t1で:
・SOC=19%
・次の走行でのTbat=-20℃
・Pbat=5kW
・SOC_future_target=37%
・時点t2で:
・SOC=26%
・次の走行でのTbat=-20℃
・Pbat=1135kW
・SOC_future_target=33%
・時点t3で:
・SOC=31%
・次の走行でのTbat=-20℃
・Pbat=15kW
・SOC_future_target=31%
【0045】
前述の場合と同様に、
図4の例では、局所線形化、およびPbatとSOCとの単調な相関性により、計算された目標SOCは、現在のSOCを、目標Pbatに対応するSOCに向かって収束するように上昇させることがわかる。
【0046】
最終目標SOCの推定
最終目標SOCは、次のうち最大のものである。
・現在の走行に関して計算された目標SOC
・将来の走行に関して計算された目標SOC
・「充電維持」モードでのSOCの規制を保証するために必要な最小目標SOC
【0047】
したがって、前述した発明は、(現在の走行と次の走行との両方に関して、車両の発車であれ、または提供される他のサービスであれ)必要最低限の性能レベルを保証するために、内部温度および周囲温度の関数としてバッテリ充電レベルを調節するという主要な利点を明らかに有する。