IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒルの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】細胞保護の方法と組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/737 20060101AFI20240815BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240815BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20240815BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
A61K31/737
A61P31/04
A61P39/02
A61P43/00 111
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020570916
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 US2019037993
(87)【国際公開番号】W WO2019246264
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】62/687,540
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501345323
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジアン リュー
(72)【発明者】
【氏名】ジン リ
(72)【発明者】
【氏名】グオウェイ ス
(72)【発明者】
【氏名】ラファル パウリンスキー
(72)【発明者】
【氏名】エリカ スパーケンバウ
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0229276(US,A1)
【文献】Biomaterials,2013年,Vol.34,pp.5670-5676
【文献】European Journal of Pharmacology,2018年03月,Vol.826,pp.48-55
【文献】Critical Care,2008年,Vol.12,Article No.R86
【文献】J. Microwave Surg.,2006年,Vol.24,pp.19-26
【文献】Angew. Chem.,2017年,Vol.129,pp.11946-11949
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒストン毒性及び/又は敗血症の治療に使用するための医薬組成物であって、1又はそれ以上のコンドロイチン硫酸化合物及び薬学的に許容される担体若しくはアジュバントを含み、コンドロイチン硫酸化合物が、下記構造:
[式中、Rは、水素原子、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群から選択され、nは5又は8を表す。]
のうちの1又はそれ以上を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記Rが、-CH、-CHCH、又はp-ニトロフェニル基である、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年6月20日に出願された米国仮特許出願第62/687,540号の優先権及び利益を主張し、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金番号GM102137及びHL094463の下で米国政府の支援を受けてなされた。従って、米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【技術分野】
【0002】
この発明は、一般に、細胞保護方法及び組成物に関し、より具体的には、コンドロイチン硫酸化合物、並びにそれを使用してヒストン毒性及び敗血症を含む関連する症状を治療する方法である。
【背景技術】
【0003】
ヒストンは、クロマチンを形成するためのDNAのパッケージングに関与する塩基性タンパク質である。ヒストンは効果的にDNAを細胞核に詰め込み、このDNAに含まれる遺伝情報へのアクセスを調節する。
ヒストンは比較的強い正電荷を持っており、クロマチンに結合していない時には、細胞内外の環境で有害な影響を引き起こす可能性がある。従って、ヒストンのレベルはさまざまなメカニズムを介して細胞内で厳密に調節されている。しかし、多くの生物学的条件はクロマチンに結合していないヒストンの蓄積を誘発する可能性があり、それは「遊離」ヒストン又は「過剰」ヒストンとも呼ばれる。細胞環境における遊離ヒストンは、重大な細胞死を引き起こす可能性があり、それは敗血症、外傷、虚血/再灌流障害及び自己免疫疾患に見られる。このヒストンの細胞毒性効果は、ダメージ関連分子パターンタンパク質として作用し、免疫系を活性化し、及び/又はさらなる細胞毒性を引き起こすことに関連している可能性がある。この遊離ヒストンの細胞毒性効果は、急性臓器損傷及び死につながる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、ヒストン毒性及び関連する症状の治療及び治療アプローチが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここでは、本発明のいくつかの実施形態を示し、多くの場合、これらの実施形態の変形例や置換例を示す。これらは、多数の様々な実施形態の単なる例示である。ある実施形態の一又はそれ以上の代表的特徴への言及も同様に例示である。このような実施形態は、典型的には、言及した(複数の)特徴の有無にかかわらず存在することができ、同様に、これらの特徴は、ここに示されているかどうかにかかわらず、ここに開示する本発明の他の実施形態に適用することができる。過度の繰り返しを避けるために、ここでは、これらの特徴の全ての可能な組み合わせを示さない。
【0006】
いくつかの実施態様において、患者におけるヒストン毒性を治療する方法であって、以下を含む方法が提供される:ヒストン毒性治療を必要とする患者を提供する段階、及び患者にコンドロイチン硫酸化合物を投与し、患者におけるヒストン毒性が治療される段階。いくつかの実施態様において、この患者は敗血症に罹患していてもよい。いくつかの実施態様において、この患者はヒト患者であってもよい。いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物は、CS骨格、CS-A、CS-E、CS-C及び/又はこれらの組み合わせを含んでもよい。いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物は、コンドロイチン硫酸骨格 19-mer(19量体)、CS-A 19-mer(19量体)、CS-C 19-mer(19量体)、CS-E 19-mer(19量体)、CS骨格13-mer(13量体)、CS-A 13-mer(13量体)、CS-C 13-mer(13量体)、CS-E 13-mer(13量体)及び/又はこれらの組み合わせから成ってもよい。いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物は、下記構造のうちの1又はそれ以上を含んでもよい:
【化1】
【化2】
(式中、Rは、水素原子、アルキル(例えば、-CH又は-CHCHなどであるが、これらに限定されない。)、置換アルキル、アリール、及び置換アリール(例えば、p-ニトロフェニル基などであるが、これらに限定されない。)からなる群から選択され、nは1、2、3、4、5、6、7又は8を表す。)。
【0007】
いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物は、医薬組成物の一部として投与されてもよい。いくつかの実施態様において、この医薬組成物は、コンドロイチン硫酸(CS)化合物及びこのCS化合物の投与のための薬学的に許容される担体又はアジュバントを含んでもよい。
いくつかの実施態様において、ヒストン毒性及び/又は敗血症の治療に使用するための医薬組成物であって、1又はそれ以上のコンドロイチン硫酸化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が提供される。このコンドロイチン硫酸化合物は、CS骨格、CS-A、CS-E、CS-C及び/又はこれらの組み合わせを含んでもよい。いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物は、コンドロイチン硫酸骨格 19-mer(19量体)、CS-A 19-mer(19量体)、CS-C 19-mer(19量体)、CS-E 19-mer(19量体)、CS骨格13-mer(13量体)、CS-A 13-mer(13量体)、CS-C 13-mer(13量体)、CS-E 13-mer(13量体)及び/又はこれらの組み合わせから成ってもよい。いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物は、下記構造のうちの1又はそれ以上を含んでもよい:
【化1】
【化2】
(式中、Rは、水素原子、アルキル(例えば、-CH又は-CHCHなどであるが、これらに限定されない。)、置換アルキル、アリール、及び置換アリール(例えば、p-ニトロフェニル基などであるが、これらに限定されない。)からなる群から選択され、nは1、2、3、4、5、6、7又は8を表す。)。
【0008】
また、患者の敗血症を治療する方法であって、以下を含む方法が提供される:敗血症治療を必要とする患者を提供する段階、及び患者にコンドロイチン硫酸化合物を投与し、患者における敗血症が治療される段階。この患者はヒト患者であってもよい。このコンドロイチン硫酸化合物は、CS骨格、CS-A、CS-E、CS-C及び/又はこれらの組み合わせを含んでもよい。いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物は、コンドロイチン硫酸骨格 19-mer(19量体)、CS-A 19-mer(19量体)、CS-C 19-mer(19量体)、CS-E 19-mer(19量体)、CS骨格13-mer(13量体)、CS-A 13-mer(13量体)、CS-C 13-mer(13量体)、CS-E 13-mer(13量体)及び/又はこれらの組み合わせから成ってもよい。いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物は、下記構造のうちの1又はそれ以上を含んでもよい:
【化1】
【化2】
(式中、Rは、水素原子、アルキル(例えば、-CH又は-CHCHなどであるが、これらに限定されない。)、置換アルキル、アリール、及び置換アリール(例えば、p-ニトロフェニル基などであるが、これらに限定されない。)からなる群から選択され、nは1、2、3、4、5、6、7又は8を表す。)。
【0009】
いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物は、医薬組成物の一部として投与されてもよい。いくつかの実施態様において、この医薬組成物は、CS化合物及びこのCS化合物の投与のための薬学的に許容される担体又はアジュバントを含んでもよい。
この目的及び他の目的は、本発明によって全体的又は部分的に達成される。さらに、上記の本発明の目的、本発明の他の目的及び利点は、以下の記載、図面及び実施例を研究した後に当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明は、以下の図面を参照することによって、より良く理解されるであろう。図中の構成要素は、必ずしも縮尺通りではなく、また強調されるものでもなく、本発明の原理を(しばしば図式によって)説明するためのものです。これらの図面において、同様の参照番号は異なる図面についても対応する部分を示す。添付図面で例証される実施形態を参照することによって、本発明はさらに理解されることができる。例証された実施形態は、本発明を実施するためのシステムの単なる例示であるが、本発明の操作の構成及び方法は、両方とも、一般的には、図面及びその記載によって、その目的及び利点とともに、より容易に理解されるであろう。これらの図面は、添付された特許請求の範囲又はその後補正された特許請求の範囲に示される本発明の範囲を限定することを目的としたものではなく、単に本発明を、明確にし、例示するものに過ぎない。
全体を通して、同様の番号は同様の要素を指す。各図において、明確にするために、特定の線の太さ、層、構成物、要素、又は特徴は誇張されていてもよい。破線は、特に指定がない限り、任意の機能又は操作を示す。
本発明をより完全に理解するために、以下の図面を参照されたい:
【0011】
図1A】細胞ベースの評価モデルにおける、ヒストン細胞毒性を中和することに対する合成CSオリゴ糖の有効性を評価する研究から得られたデータの柱状図である。
図1B】コンドロイチン硫酸(CS)オリゴ糖とヒストンとで処置されたマウスの生存率に対する合成CSオリゴ糖の効果を評価する研究から得られたデータのグラフ表示である。CSオリゴ糖治療を受けたマウスの生存率は100%であったが、ヒストンに曝露されて、CS治療を受けていないマウスはいずれも生存しなかった。
図2A】CS-Eオリゴ糖を含む、本発明のコンドロイチン硫酸(CS)オリゴ糖の酵素的合成経路及び合成方法を示す概略図である。図2Aは、CS-E 7-mer(7量体)、13-mer(13量体)及び19-mer(19量体)を合成するためのスキームを示し、省略記号で示されている。
図2B図2Aに従って合成された、本明細書でさらに説明される4つの異なるコンドロイチン硫酸(CS)オリゴ糖の化学構造の概略図である。
図3】CS-E 7-mer(7量体)の純度及び構造分析を示す。図3AはCS-E 7-mer(7量体)のDEAE-HPLCクロマトグラムを示し、図3BはCS-E 7-mer(7量体)の高分解能MSスペクトルを示す。CS-E 7-mer(7量体)の測定分子量は1772.227であり、分子量の計算値1772.221と同様である。
図4A】ヒストン(75 mg/kg)で中毒化し、CS-E19-mer(19量体)(50 mg/kg)で処理した又は処理しないマウスのホルマリン固定パラフィン包埋肺組織をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色したものの代表的な画像と定量を示す。
図4B】ヒストン(75 mg/kg)で中毒化し、CS-E19-mer(19量体)(50 mg/kg)で処理した又は処理しないマウスのホルマリン固定パラフィン包埋腎臓及び肝臓組織をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色したものの代表的な画像を示す。
図5】CS-E19-mer(19量体)が、細菌性リポ多糖(LPS)によって引き起こされる死及び器官の損傷から保護することを示すデータである。図5Aは、細菌性リポ多糖(6mg/kg)の投与後のマウス血漿中のヒストンH3を分析したウエスタンブロット画像を示す。図5Bは、LPS(6mg/kg)を投与され、CS-E19-mer(19量体)(0.5 mg/kg)で処理した又は処理しないマウスの生存率を示す。10匹のマウスがLPS/CS-E 19 mer処理コホートに含まれ、13匹がLPS処理コホートに含まれていた。GraphPadPrismソフトウェアを使用したログランク検定によるカプランマイヤー生存曲線はP=0.003を得た。図5C~Eは、リン酸緩衝生理食塩水、LPS、及びLPS/CS-Eで処理した動物における、それぞれ血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)を含む異なるバイオマーカーの血漿濃度を示す。
図6】CS-E19-mer(19量体)がヒストンと複合体を形成して、ヒストンによって誘発される内皮細胞の損傷を保護することを示す。図6Aは、アビジン-アガロースアフィニティーカラム精製を伴う又は伴わないマウス血漿サンプルのウエスタンブロット分析の画像である。レーン1はヒストンH3である。レーン2は未処理のマウス血漿である。レーン3は、精製後にビオチン化CS-E19-merとインキュベートした未処理のマウス血漿である。レーン4はLPS処理マウス血漿である。レーン5は、アフィニティー精製後ビオチン化CS-E19-merで処理したLPS処理マウス血漿である。図6Bは、CSオリゴ糖の有無による、内皮に対するヒストンの細胞毒性を示す。様々な濃度のCSオリゴ糖を含み又は含まないでヒストンH3(30 μg/mL)を含んで培養されたEA.hy926細胞の細胞損傷を、ヨウ化プロピジウム(PI)染色のフローサイトメトリーで測定した。図6C~Eは、生理食塩水、細菌性リポ多糖(LPS)、及びLPS/CS-Eで処理し、それぞれ肺、腎臓及び肝臓から漏出したエバンスブルーの濃度を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明は、より完全に説明され、そこでは、本発明のすべてではないがいくつかの実施形態が説明される。実際、本発明は、多くの異なる形態で具体化することが可能で、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。これらの実施形態は、この開示が適用される法的要件を満たすように提供されているに過ぎない。
【0013】
定義
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図するものではない。
以下の用語は、当業者によって十分に理解されると考えられるが、本発明の説明を容易にするために、以下の定義が示されている。
本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、以下で別途定義されない限り、当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を持つように意図されている。本明細書で使用される技術への言及は、それらの技術の変形又は当業者に明らかな同等技術の置換を含む、当技術分野で一般に理解される技術を指すものとする。以下の用語は、当業者によって十分に理解されると考えられるが、本発明の説明を容易にするために、以下の定義を示す。
本発明を説明する際、多くの技術及び段階が開示されていることが理解されるであろう。これらのそれぞれには個別の利点があり、それぞれ他で開示された技術の1又はそれ以上、又は場合によってはすべてと組み合わせて使用することもできる。
従って、この説明は、明瞭性のため、不必要な方法で個々の段階のあらゆる可能な組み合わせを繰り返すことを控える。それでも、明細書及び請求項は、そのような組み合わせが完全に本発明及び請求項の範囲内であることを理解して読まれるべきである。
【0014】
本明細書で引用されるすべての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、これら参考文献が提示される文及び/又は段落に関連する教示について、その全体が参照により組み込まれる。
長年にわたる特許法協定に従い、原文の"不定冠詞-ある(a, an)""定冠詞-その(the)"は、クレイムを含む本出願で用いられる場合、"1又は2以上"を意味する。従って、例えば、"ある細胞"は、複数のこのような細胞の複数を含む、等である。
もし別途示されなければ、明細書及び請求の範囲で用いられる構成要素の量、反応条件、等々を表す全ての数は、用語"約"で全ての事例において修正されると理解すべきである。従って、それと反対に示されない場合は、本明細書及び添付した請求の範囲に述べられた数字的なパラメーターは、本明細書に開示された対象物により見出された好ましい特性によって変わりうる近似的なものである。
本明細書で使用する「約」という用語は、値又は組成物の量、質量、重量、温度、時間、体積、濃度、パーセンテージなどに言及する場合、特定の値から、一部の実施形態では±20%、一部の実施形態では±10%、一部の実施形態では±5%、一部の実施形態では±1%、一部の実施形態では±0.5%、及び部の実施形態では±0.1%の変動を包含することを意味し、このような変動は、開示された方法を実行するため、又は開示された組成物を採用するために適当である。
【0015】
用語「comprising(から成る)」は、「including(含む)」、「containing(含む)」又は「characterized by(により特徴付けられる)」と同様に、包含的又は制約が無く、付加的な、非列挙の要素又は方法段階を排除しない。「comprising(から成る)」は、名付けられた要素は存在するが、他の要素も加えることが可能であり、それでも特許請求の範囲内の構成物を形成することができることを意味する技術用語である。
用語「consisting of(のみから成る)」は、請求の範囲に明記してない全ての要素、段階又は内容物を除外する。成句「consist of(のみから成る)」が、プレアンブルに直ちに続かないで、請求の範囲の本体に現れる場合、示された要素のみに限定されるが、他の要素は、全体として請求の範囲から排除されない。
用語「consisting essentially of(本質的に、から成る)」は、請求範囲を、明記した材料又は段階に限定して、さらに請求範囲の発明事項の基本的及び新規の特徴に実質的に影響しない材料又は段階を限定する。
用語「comprising(から成る)」、「consisting of(のみから成る)」及び「consisting essentially of(本質的に、から成る)」に関して、これらの3種の用語の1種が本明細書で用いられた時、本発明は、他の2種の用語のいずれかの使用を含めることができる。
本明細書で使用される用語「及び/又は」は、物を列挙するときに使用される場合、単独で又は組み合わせて存在する物を示す。従って、例えば、「A、B、C、及び/又はD」という表現は、個別にA、B、C、及びDを含むだけでなく、A、B、C、及びDの任意の及び全ての組み合わせ並びにサブコンビネーションを含む。
【0016】
本明細書で使用される用語「実質的に」は、値、活性、又は組成物の量、質量、重量、温度、時間、体積、濃度、割合(%)などを指す場合、指定された量から、いくつかの実施態様では±40%、いくつかの実施態様では±30%、いくつかの実施態様では±20%、いくつかの実施態様では±10%、いくつかの実施態様では±5%、いくつかの実施態様では±1%、いくつかの実施態様では±0.5%、及びいくつかの実施態様では±0.1%以下の変化を包含することを意味し、そのような変動は、開示された方法を実行するため、又は開示された装置及びデバイスを使用するために適切である。たとえば、ある組成物が、少なくとも60%純粋、又は少なくとも75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%純粋、場合によっては少なくとも99%純粋である場合、この組成物は「実質的に純粋」である。
本明細書で使用される「化合物」は、如何なるタイプでもよい物質又は薬剤を指し、これは一般的に、薬物、治療薬、医薬品、小分子、又はそれらと同様に使用されるための候補物、ならびにこれらの組み合わせや混合物であると考えられる。
用語「検出する」及びその文法上変形を使用することは、定量せずに種を測定することを意味するが、一方、用語「決定する」又は「測定する」及びその文法上変形を使用することは、定量して種を測定することを意味する。用語「検出する」と「特定する」は、本明細書では交換可能に使用される。
【0017】
本明細書で使用される用語「阻害する」は、用語「阻害する」が使用される文脈に基づいて、ある化合物、ある薬剤又はある方法の、記載された機能、レベル、活性、速度などを低減又は妨害する能力を指す。「阻害」とは、その機能等が、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、さらに好ましくは少なくとも50%で、最も好ましくは少なくとも75%阻害されることである。この用語「阻害」は、「減縮」や「ブロック」と同じ意味で使用される。
本明細書で使用される用語「調節する」は、ある活性、機能又はプロセスのレベルを変更することを指す。用語「調節する」は、ある活性、機能又はプロセスを阻害及び刺激することの両方を含む。本明細書ではこの用語「調節する」は用語「調整する」と交換可能に使用される。
本明細書で使用される用語「防止する」、何かが起こることを阻止すること、又は起こる可能性がある又は起こるかもしれない何かに対して予め措置を講じることを意味する。医薬の文脈では、「予防」は一般的に病気や症状になる可能性を減らすためにとられる行動を指す。
用語「調整する」は、関心の機能又は活性を刺激又は阻害することを指す。
本明細書で使用される「サンプル/試料」は、患者から採られた生物学的サンプルを指し、これには正常組織サンプル、病変組織サンプル、生検、血液、唾液、糞便、精液、涙、及び尿を含むがこれらに限定されない、サンプルはまた、患者から得られた他の任意の材料源であってもよく、それには細胞、組織、又は液体が含まれる。
【0018】
本明細書で使用される用語「刺激する」は、それが対照値と比較してより高くなるように、活性又は機能のレベルを誘導又は増加させることを意味する。この「刺激」は、直接的又は間接的なメカニズムを介してもよい。ある態様では、この活性又は機能は、対照値と比較して少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、さらに好ましくは少なくとも50%刺激される。本明細書で使用される用語「刺激剤」は、それを適用した結果関心のプロセス又は機能が刺激される、任意の組成物、化合物又は薬剤を指し、このプロセス又は機能には、創傷治癒、血管新生、骨治癒、骨芽細胞の産生と機能、破骨細胞の生成、分化及び活性が含まれるがこれらに限定されない。
本明細書で使用される用語「治療する」、「処置する」及び「処理する」は、有益な又は望ましい結果の生成することを示し、これには、例えば、症状を緩和すること、一時的又は恒久的に病気や障害の原因を排除すること、 症状の出現及び/又は障害の進行を遅らせること、又は病気の進行を防ぐことなどがある。用語「治療する」又は「治療」は、治療的治療と予防的又は予防的措置の両方を指し、その目的は、疾患又は症状の発症又は拡大を予防又は遅らせることである。有益な又は望ましい臨床結果には、症状の緩和、疾患の程度の減少、疾患の安定した状態(すなわち、悪化しない状態)、疾患の進行の遅延又は鈍化、病状の改善又は緩和、及び鎮静(部分的又は全体的な)が含まれるが、これらに限定されない。また「治療」は、治療を受けない場合に予想される生存と比較して、生存を延長することを指すこともある。
【0019】
本明細書で用いるように、用語"アルキル基"は、線状の(即ち"直鎖の")、分枝状の、又は環状の、飽和又は少なくとも部分的にまたある場合は完全に不飽和な(即ち、アルケニル基及びアルキニル基)炭化水素鎖を包含するC1~20を表し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tertブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル機、ブタジエニル基、プロピニル基、メチルプロペニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル機、ヘプチニル基及びアレニル基が挙げられる。"分枝した"とは、メチル基、エチル基、又はプロピル基のような、低級アルキル基が直鎖状のアルキル鎖に付加したアルキル基を表す。"低級アルキル基"は、例えば、1,2,3,4,5,6,7,又は8炭素原子のような、1~約8までの炭素原子、を有するアルキル基(即ち、C1-8アルキル基)を表す。"高級アルキル基"は、例えば、10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,又は20炭素原子、の様な約10~約20の炭素原子を持つアルキル基を表す。或る実施態様において、"アルキル基"は、特に、C1~8直鎖アルキル基を表す。別な実施態様において、"アルキル基"は、特に、C1~8分岐鎖アルキル基を表す。
【0020】
アルキル基は、任意に、1又は2以上の、同一又は異なってもよいアルキル基置換基により置換できる("置換アルキル基")。"アルキル基の置換基"としては、アルキル基、置換アルキル基、ハロ基、アリールアミノ基、アシル基、水酸基、アリールオキシル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルオキシル基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、オキソ基及びシクロアルキル基が挙げられるが、これらに制限されない。任意に、アルキル鎖にそって1又は2以上の酸素原子、イオウ原子又は置換又は非置換の窒素原子を挿入できるが、ここで窒素置換基は、水素原子、低級アルキル基(以下"アルキルアミノアルキル基"と呼ぶ)又はアリール基である。
この様に、本明細書で用いられるように、用語"置換アルキル基"は、ここで定義されたように、1又は2以上の原子又はアルキル基の官能基が、他の原子又は官能基で置き換えられたアルキル基を含み、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸塩基及びメルカプト基が挙げられる。
【0021】
本明細書で用いる用語"アリール基"は、互いに縮合し、共有結合で連結した、又はメチレン基又はエチレン基部分のような、しかしこれらに制限されない、共通の官能基に結合した単一の芳香族環、又は、多環の芳香族環であることができる芳香族置換基を指す。共通の連結基はまた、ベンゾフェノンの場合のようなカルボニル基、又はジフェニルエーテルにおけるような酸素分子、又はジフェニルアミンにおけるような窒素分子でもあることができる。用語"アリール基"は、特に、複素環式芳香族化合物を含む。芳香族環は、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルアミン基及びベンゾフェノン基からなる。特別な実施態様において、用語"アリール基"は、約5~約10の炭素原子、例えば、5,6,7,8,9又は10炭素原子、からなる環状芳香族を意味し、また5-及び6-員環炭化水素及び複素環式芳香族環を含む。
【0022】
アリール基は同一又は異なる1又は2以上のアリール基置換基で任意に置換しうる("置換アリール基")。"アリール基の置換基"としては、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル機、水酸基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アラルキルオキシル基、カルボキシル基、アシル基、ハロ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルコキシカルボニル基、アシルオキシル基、アシルアミノ基、アロイルアミノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、ジアルキルカルバモイル基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アルキレン基及び-NR'R''基を含み、ここでR'及びR''は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基及びアラルキル基であってもよい。
【0023】
従って、本明細書で用いられたように、用語"置換アリール基"は、本明細書で定義されたようなアリール基を含み、前記アリール基の1又は2以上の原子又は官能基は、他の原子又は、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸塩基及びメルカプト基を含む、官能基と置き換えうる。
アリール基の特別な例としては、シクロペンタジエニル基、フェニル基、フラン基、チオフェン基、ピロール基、ピラン基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンジミダゾール基、イソチアゾール基、イソキサゾール基、ピラゾール基、ピラジン基、トリアジン基、ピリミジン基、キノリン基、イソキノリン基、インドール基、カルバゾール基、等々が挙げられるが、これらに制限されない。
【0024】
本明細書で用いる、次のような化学式で表される構造:
【化3】
は、環状構造を表し、例えば、置換基Rを含む、3-炭素、4-炭素、5-炭素、6-炭素等々の脂肪族及び/又は芳香族環状化合物を表わすが、ここでR基は、存在しても、存在しなくともよく、存在する場合は、1又は2以上のR基は各々、環状構造の1又は2以上の可能な炭素原子上で置換されるものであるが、上記の環状化合物に制限されない。R基が存在するか否か及びR基の数は、整数n値で決められる。各R基は、もし1以上ならば、他のR基上ではなく、環状構造の可能な炭素原子上で置換される。例えば、nが0~2の整数である構造:
【化4】
は、以下の化合物群:
【化5】
等々を含むが、これらに制限されない。
【0025】
"環状"及び"シクロアルキル"は、例えば、3,4,5,6,7,8,9又は10個の炭素原子のような、約3~約10個の炭素原子の非芳香族型モノ又はマルチ環状系を指す。シクロアルキル基は任意に部分的に不飽和であることができる。シクロアルキル基は、また任意に、本明細書で定義したようにアルキル基置換基、オキソ及び/又はアルキレンで任意に置換されてもよい。環状アルキル鎖に沿って、1又は2以上の酸素原子、イオウ原子、又は、窒素置換基が水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、又は置換アリール基である置換、又は非置換の窒素原子を任意に挿入でき、このようにして複素環式基を提供する。代表的な単環式シクロアルキル環には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロヘプチル基が含まれる。多環シクロアルキル環には、アダマンチル基、オクタヒドロナフチル基、デカリン、樟脳、カンファン及びノラダマンチルが含まれる。
【0026】
用語"複素環"は、約3~約14原子の非芳香族又は芳香族、単環式又は多環式の環系を指し、これらの原子の少なくとも1つはヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、又は硫黄)である。用語"N-複素環"は、ヘテロ原子の少なくとも1つが窒素原子である複素環を指す。N-複素環の例には、アゼチジン、ピロリジン、ピロール、ピロリン、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、モルホリン、及びチアジンが含まれるが、これらに限定されない。
"アラルキル基"はアリール-アルキル-基を指し、ここでアリール基及びアルキル基は既述の通りであり、置換アリール基及び置換アルキル基を含む。アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、又はナフチルメチル基がある。
本明細書で用いるように、用語"アシル基"は、そのカルボキシル基の-OH基が他の置換基に置き変えられた有機酸基を表す(例えば、RC(=O)-で代表されるように、Rは、本明細書で定義されたようなアルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、アリール基又は置換アリール基である。)。従って、用語"アシル基"は、特に、アセチルフラン基及びフェナシル基のようなアリールアシル基を含む。アシル基の特別な例は、アセチル基及びベンゾイル基である。
【0027】
"N-アシル"は、構造-N-C(=O)-R(式中、Rはアシル基に関して定義されたのと同様である。)を有する基を指す。これらの基は、またアミドとも呼ばれる。修飾されたN-アシル基には、このN-アシルの酸素がS又はNHで置換された化合物を含み、また窒素原子に加えて、第2のヘテロ原子に、カルボニル基(すなわち、-C(=O)-)が結合した化合物が含まれる。例えば、第2の窒素原子にカルボニル基が結合して尿素結合(すなわち、-NH-C(=O)-NH-R)を形成することができる。
用語"アミノ"は、-NH、-NHR、及びNR基(式中、各Rは、独立して、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、又はアラルキルである。)を指し、またN-複素環(例えば、モルホリンなど)中のアミノ及びアンモニウム官能基を指す。
本明細書で使用される用語"アミノ"は、-NH、-NH(R)、及びN(R)基などの四級アンモニウムカチオンを提供する置換基も指すことができる。(式中、各Rは独立してアルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール又はアラルキルである。)。
【0028】
用語"エステル"は、-O-C(=O)-R基(式中、Rはアルキル、置換アルキル、アラルキル、アリール、又は置換アリールであってもよい。)を含む部分を指す。いくつかの実施態様において、このRは、アミノ置換基を含むことができ、このエステルはアミノエステルである。
用語"アミド"は、-N(R')-C(=O)-R基(式中、Rはアルキル、置換アルキル、アラルキル、アリール又は置換アリールから選択され、R'は水素原子、アルキル、置換アルキル、アラルキル、アリール、又は置換アリールである。)を含む部分を指す。
本明細書で使用される"尿素"という用語は、-N(R')-C(=O)-N(R')-基(式中、各R'は独立して水素原子、アルキル、置換アルキル、アラルキル、アリール、又は置換アリールである。)を含む部分を指す。
用語"ヒドロキシル"は、-OH基を指す。
用語"独立して選択される"が用いられる場合、指定された置換基(例えば、R及びR基のようなR基又はX基及びY基)は同一又は異なる。例えば、R及びRともに置換アルキル基である、又はRは水素原子であり、Rは置換アルキル基である等々。
【0029】
一般的考察
コンドロイチン硫酸(以下「CS」又は「ChS」という。)は硫酸化多糖類であり、哺乳類の細胞表面及び細胞外マトリックスに広く存在する。CSは、癌の転移、寄生虫感染、及び損傷後のニューロン成長阻害に関与することが知られている。CSの硫酸化パターンは、標的タンパク質への結合親和性を指示し、生物学的機能の選択性を明らかにする。CSを含む6-O-硫酸化N-アセチルガラクトサミン(GalNAc6S)は、B. burgdorferiの感染を促進し、ライム病を引き起こし、4-O-硫酸化N-アセチルガラクトサミン(GalNAc4S)は、P.falciparum感染に関与し、マラリアを引き起こす。4,6二硫酸化N-アセチルガラクトサミン(GalNAc4S6S)残基を含むドメインは、場合によっては、ニューロンのシグナル伝達を指示し、軸索の成長を阻害するために必要になる可能性がある。
それにもかかわらず、コンドロイチン硫酸(CS)、その生物学的システムへの影響、及びその治療用化合物としての可能性については不明なままである。これは、部分的には、単一の硫酸化糖配列と特定の長さを持つ多糖を分離することが技術的に困難であるためである。これまで、構造的に均質又は単分散のCSが無いことが、CSの研究や治療や治療への適用を妨げる主要な障害となっている。
【0030】
ここで開示されるのは、コンドロイチン硫酸(CS)化合物及びCSを含む治療用組成物であり、また、CS化合物及び組成物を使用した治療アプローチ、ヒストン毒性、敗血症及び関連する症状の治療のための薬剤の調製のためのCS化合物及び組成物の使用、並びにこのようなCS治療法を使用したヒストン毒性、敗血症及び関連する症状の治療方法、である。
本明細書には、様々な形態のコンドロイチン硫酸(CS)が開示される。本発明の治療の使用法及び治療方法には、硫酸化多糖を含むCS化合物が含まれ、これには、3糖から19糖単位(すなわち19-mer(19量体)の多糖の範囲のサイズを有するものが含まれる。CSには、β1→3結合グルクロン酸(GlcA)及びN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)二糖の繰り返し二糖単位、→4)GlcAβ(1→3)GalNAcβ(1→、が含まれる。GlcAとGalNAcの両方の残基は複数のスルホ基を持っており、これにより異なるタイプのCSが生じる。コンドロイチン硫酸A(CS-A)は、4-O-硫酸化GalNAc(GalNAc4S)残基を含み、コンドロイチン硫酸C(CS-C)は、6-O-硫酸化GalNAc(GalNAc6S)を含み、コンドロイチン硫酸D(CS-D)は、2-O-硫酸化GlcAを含み、コンドロイチン硫酸E(CS-E)は、4,6-O-二硫酸化GalNAcを含む。4-O-スルホトランスフェラーゼ(CS4OST)、6-O-スルホトランスフェラーゼ(CS6OST)、2-O-スルホトランスフェラーゼ及びGalNAc4S-6-O-スルホトランスフェラーゼを含む、特殊なCSスルホトランスフェラーゼはCSの生合成に関与する。
【0031】
いくつかの実施態様において、患者のヒストン毒性を治療する方法が提供される。さらに、いくつかの実施態様において、患者における敗血症又はその関連症状を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、このような方法は、ヒストン毒性治療又は敗血症治療を必要とする患者を提供し、及びこの患者におけるヒストン毒性及び/又は敗血症が治療されるようにコンドロイチン硫酸化合物をこの患者に投与することを含む。このような患者は、ヒストン毒性、敗血症、細菌性リポ多糖(LPS)ショックによって引き起こされる任意の症状、及びこれらに関連する任意の症状に苦しむ患者でもよい。この患者は人間の患者であってもよい。
敗血症は、感染症と戦うために血流に放出された化学物質が全身の炎症を引き起こすときに発生する。これは、複数の臓器系に損傷を与える一連の変化を引き起こし、それらを失敗に導き、時には死に至ることさえある。その症状には、発熱、呼吸困難、低血圧、速い心拍数、精神錯乱などがあるが、これらに限定されない。
【0032】
いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物は、CS骨格、CS-A、CS-E、CS-C及び/又はこれらの組み合わせを含むことができる。いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物には、コンドロイチン硫酸骨格 19-mer(19量体)、CS-A 19-mer(19量体)、CS-C 19-mer(19量体)、CS-E 19-mer(19量体)、CS骨格13-mer(13量体)、CS-A 13-mer(13量体)、CS-C 13-mer(13量体)、CS-E 13-mer(13量体)、CS骨格7-mer(7量体)、CS-A 7-mer(7量体)、CS-C 7-mer(7量体)、CS-E 7-mer(7量体)、及び/又はこれらの組み合わせ、並びに本発明の方法及び合成経路を介して合成可能な他の任意のコンドロイチン硫酸(CS)化合物を含まれる。
このコンドロイチン硫酸化合物は、医薬組成物の一部として投与することができる。いくつかの実施態様において、この医薬組成物は、コンドロイチン硫酸(CS)化合物及びCS化合物の投与のための医薬的に許容される担体又はアジュバントを含むことができる。
いくつかの実施態様において、1又はそれ以上のコンドロイチン硫酸化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が提供される。このような医薬組成物において、コンドロイチン硫酸化合物は、CS骨格、CS-A、CS-E、CS-C及び/又はこれらの組み合わせを含むことができる。いくつかの実施態様において、このコンドロイチン硫酸化合物には、コンドロイチン硫酸骨格 19-mer(19量体)、CS-A 19-mer(19量体)、CS-C 19-mer(19量体)、CS-E 19-mer(19量体)、CS骨格13-mer(13量体)、CS-A 13-mer(13量体)、CS-C 13-mer(13量体)、CS-E 13-mer(13量体)、CS骨格7-mer(7量体)、CS-A 7-mer(7量体)、CS-C 7-mer(7量体)、CS-E 7-mer(7量体)、及び/又はこれらの組み合わせ、並びに本発明の方法及び合成経路を介して合成可能な他の任意のコンドロイチン硫酸(CS)化合物を含まれる。
【0033】
治療用組成物及び治療方法
本発明は、本明細書に開示されるようなコンドロイチン硫酸(CS)化合物を含む医薬及び/又は治療用組成物を提供する。いくつかの実施態様において、この医薬組成物は、本明細書に開示されるような1又はそれ以上のCSを含んでもよい。いくつかの実施態様において、医薬組成物はまた、コンドロイチン硫酸(CS)の投与のための薬学的に許容される担体又はアジュバントを含んでもよい。いくつかの実施態様において、この担体は、ヒトにおける使用に薬学的に許容されたものである。この担体又はアジュバントは、望ましくは、それ自体が、組成物を受け取る個体に有害な抗体の産生を誘発してはならず、毒性であってはならない。適切な担体は、大きく、ゆっくりと代謝される高分子であってもよく、例えば、タンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アンモニア酸コポリマー、及び不活性ウイルス粒子などである。
薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩及び硫酸塩などの鉱酸塩、又は酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩及び安息香酸塩などの有機酸の塩を使用することができる。
治療用組成物中の薬学的に許容される担体は、更に、水、生理食塩水、グリセロール及びエタノールなどの液体を含んでもよい。この組成物は、更に、湿潤剤、乳化剤又はpH緩衝物質などの補助物質を含んでもよい。このような担体は、患者への投与のために医薬組成物を処方することを可能にする。
【0034】
本発明の医薬組成物の適切な製剤は、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、殺菌性抗生物質、製剤を目的のレシピエントの体液と等張にする溶質などの、水性及び非水性の滅菌注射液;並びに懸濁剤及び増粘剤が含まれる水性及び非水性の滅菌懸濁液、を含む。この製剤は、単位用量又は複数用量の容器、例えば密封されたアンプル及びバイアルで提示することができ、滅菌液体担体、例えば水を添加するだけでよい凍結又は凍結乾燥(凍結乾燥)症状で保存することができる。この製剤は、単位用量又は複数用量の容器で提示することができ、例えば、使用直前に、注射用の水などの滅菌液体担体の添加のみを必要とする、密封されたアンプルやバイアルなどの、冷凍又は凍結乾燥(凍結乾燥)状態で保管できる。いくつかの例示的な成分は、いくつかの実施態様において0.1~10mg/ml、いくつかの実施態様において約2.0mg/mlのSDS;及び/又はいくつかの実施態様において10~100mg/ml、いくつかの実施態様において約30mg/mlのマンニトール又は別の糖;及び/又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。問題のタイプの製剤に関して、当技術分野で従来知られている任意の他の薬剤を使用することができる。いくつかの実施態様において、この担体は薬学的に許容される。いくつかの実施態様において、この担体は、ヒトでの使用に薬学的に許容される。
本発明の医薬組成物のpHは、5.5~8.5、好ましくは6~8、より好ましくは約7であってもよい。このpHは、緩衝液の使用によって維持することができる。この組成物は、無菌及び/又はパイロジェンフリーであってもよい。この組成物は、ヒトに関して等張性であってもよい。本発明の医薬組成物は、密閉された容器で供給することができる。
【0035】
本明細書において、治療的使用及び/又は方法及び/又は治療方法も提供される。本発明による治療方法は、それを必要とする患者に、本発明のようなコンドロイチン硫酸(CS)又は関連化合物を投与することを含む。本発明による使用は、ここに開示する治療適応症のための薬剤を調製するための、本発明のコンドロイチン硫酸(CS)又はその関連化合物の使用を含む。
本発明の医薬組成物の有効量が、それを必要とする患者に投与される。この用語「治療有効量」、「治療有効投与量」、「有効量」、「有効投与量」及びそれらの変形は、本明細書で互換的に使用され、測定可能な反応(例えば、敗血症の症状の軽減)を示すに十分な本発明の治療組成物又は医薬組成物の量をいう。実際の投与量レベルは、特定の患者に対して所望の治療反応を達成するのに有効な量を投与するように変えることができる。
いくつかの実施態様において、患者に投与される本発明の治療用組成物の量は、患者のサイズ、体重、年齢、標的組織又は器官、投与経路、治療される症状、及び治療される症状の重症度を含む(但し、これらに限定されない)多くの要因に依存する。
【0036】
治療用組成物の効能は変動する可能性があり、そのため「治療的有効な」量は変動する可能性がある。しかしながら、後記のアッセイ方法を使用して、当業者は、本発明の医薬組成物の効力及び有効性を容易に評価し、それに応じて治療処方箋を調整することができる。
いくつかの実施態様において、ヒストン毒性及び/又は敗血症の治療に使用するための医薬組成物が提供され、この組成物は、1又はそれ以上のコンドロイチン硫酸化合物及び薬学的に許容される担体を含む。
いくつかの実施態様において、このような使用におけるコンドロイチン硫酸化合物は、コンドロイチン硫酸(CS)骨格、CS-A、CS-E、CS-C及び/又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施態様において、このような用途におけるコンドロイチン硫酸化合物は、コンドロイチン硫酸骨格 19-mer(19量体)、CS-A 19-mer(19量体)、CS-C 19-mer(19量体)、CS-E 19-mer(19量体)、CS骨格13-mer(13量体)、CS-A 13-mer(13量体)、CS-C 13-mer(13量体)、CS-E 13-mer(13量体)及び/又はこれらの組み合わせを含む。
【0037】
患者
本発明の原理は、この組成物及び方法が、無脊椎動物及び哺乳動物を含むすべての脊椎動物(これらは用語「患者」に含まれることが意図されている。)に関して有効であることは理解されるべきであるが、本発明は、望ましくはヒトの発明ある。さらに、この哺乳動物は、ヒストン毒性症状の治療が望ましい任意の哺乳動物種、特に農業及び家畜の哺乳動物種を含むと理解される。
本発明の方法は、温血脊椎動物の治療に特に有用である。従って、本発明は、哺乳類及び鳥類に関する。
より具体的には、本明細書で提供されるのは、ヒトなどの哺乳動物、及び絶滅の危機にあるため(シベリアトラなど)、経済的重要性があるため(人間が消費するために農場で飼育された動物)、及び/又は人間にとって社会的重要性のため(ペット又は動物園で飼われている動物)重要な哺乳類、例えば、人間以外の肉食動物(猫や犬など)、豚類(ブタ、食肉用の成長した豚、イノシシ)、反芻動物(畜牛、去勢牛、羊、キリン、鹿、ヤギ、バイソン、ラクダなど)、馬、などを治療することである。また、鳥の治療も提供され、これには、絶滅の危機にあり動物園で飼われている鳥類、また家禽、より具体的には七面鳥、鶏、アヒル、ガチョウ、ホロホロ鳥などの飼いならされた家禽(これらは人間にとって経済的にも重要であるので)の治療を含む。従って、本明細書で提供されるのは、家畜豚(ブタ、食肉用の成長した豚)、反芻動物、馬、家禽などを含むがこれらに限定されない家畜の治療である。
【0038】
CS-Aオリゴ糖の例(11-mer(11量体)から19-mer(19量体)):
【化6】
n=4、CS-A 11-mer(11量体)
n=5、CS-A 13-mer(13量体)
n=6、CS-A 15-mer(15量体)
n=7、CS-A 17-mer(17量体)
n=8、CS-A 19 mer(19量体)、
ここで、Rは、水素原子、アルキル(-CH3又は-CH2CH3などであるが、これらに限定されない。)、置換アルキル、アリール、及び置換アリール(p-ニトロフェニル基などであるが、これらに限定されない。)からなる群から選択される。
【0039】
CS-Cオリゴ糖の例(11-mer(11量体)から19-mer(19量体)):
【化7】
n=4、CS-C 11-mer(11量体)
n=5、CS-C 13-mer(13量体)
n=6、CS-C 15-mer(15量体)
n=7、CS-C 17-mer(17量体)
n=8、CS-C 19 mer(19量体)、
ここで、Rは、水素原子、アルキル(-CH3又は-CH2CH3などであるが、これらに限定されない。)、置換アルキル、アリール、及び置換アリール(p-ニトロフェニル基などであるが、これらに限定されない。)からなる群から選択される。
【0040】
CS-Eオリゴ糖の例(5-mer(5量体)から19-mer(19量体)):
【化8】
n=1、CS-E 5-mer(5量体)
n=2、CS-E 7-mer(7量体)
n=3、CS-E 9-mer(9量体)
n=4、CS-E 11-mer(11量体)
n=5、CS-E 13-mer(13量体)
n=6、CS-E 15-mer(15量体)
n=7、CS-E 17-mer(17量体)
n=8、CS-E 19-mer(19量体)、
ここで、Rは、水素原子、アルキル(-CH3又は-CH2CH3などであるが、これらに限定されない。)、置換アルキル、アリール、及び置換アリール(p-ニトロフェニル基などであるが、これらに限定されない。)からなる群から選択される。
CS-Eを合成するためのアプローチは、本明細書に開示されているように開発された。このような方法は、CS-A及びCS-Cの合成と同様のアプローチを利用するが、追加の酵素ステップがある。いくつかの実施態様において、CS-Eの合成は、例えば、GalNAc4S-6-O-スルホトランスフェラーゼを含む追加のCSスルホトランスフェラーゼを必要とする。本開示では、このような追加のステップに必要な2-O-スルホトランスフェラーゼ及びGalNAc4S-6-O-スルホトランスフェラーゼの両方を提供する。
【0041】
本発明のCS化合物はまた、以下のように例示することができる:
CS及びCS-Aオリゴ糖の化学構造:
【化9】
n=2、CS 7-mer(7量体)
n=5、CS 13-mer(13量体)
n=8、CS 19-mer(19量体)
ここで、Rは、水素原子、アルキル(-CH3又は-CH2CH3などであるが、これらに限定されない。)、置換アルキル、アリール、及び置換アリール(p-ニトロフェニル基などであるが、これらに限定されない。)からなる群から選択される。
いくつかの実施態様において、Rは
【化10】
である。
【0042】
【化11】
n=2、CS-A 7-mer(6量体)
n=5、CS-A 13-mer(6量体)
n=8、CS-A 19-mer(6量体)
ここで、Rは、水素原子、アルキル(-CH3又は-CH2CH3などであるが、これらに限定されない。)、置換アルキル、アリール、及び置換アリール(p-ニトロフェニル基などであるが、これらに限定されない。)からなる群から選択される。
いくつかの実施態様において、Rは
【化10】
である。
【0043】
CS-C及びCS-Eオリゴ糖の化学構造:
【化12】
n=2、CS-C 7-mer(7量体)
n=5、CS-C 13-mer(13量体)
n=8、CS-C 19-mer(19量体)
ここで、Rは、水素原子、アルキル(-CH3又は-CH2CH3などであるが、これらに限定されない。)、置換アルキル、アリール、及び置換アリール(p-ニトロフェニル基などであるが、これらに限定されない。)からなる群から選択される。
いくつかの実施態様において、Rは
【化10】
である。
【0044】
【化13】
n=2、CS-E 7-mer(7量体)
n=5、CS-E 13-mer(13量体)
n=8、CS-E 19-mer(19量体)
ここで、Rは、水素原子、アルキル(-CH3又は-CH2CH3などであるが、これらに限定されない。)、置換アルキル、アリール、及び置換アリール(p-ニトロフェニル基などであるが、これらに限定されない。)からなる群から選択される。
いくつかの実施態様において、Rは
【化10】
である。
【実施例
【0045】
以下の実施例を参照して本発明を記載する。これらの実施例は、本発明の範囲を本開示に限定することを意図するものではなく、むしろ特定の実施態様の例示を意図するものであることを理解されたい。当業者に生じる例示の任意の変形は、本発明の範囲内であることが意図されている。
【0046】
実施例1
ヒストン誘発性内皮細胞毒性のCS緩和
ヒト内皮細胞株EA.hy926細胞(ATCC)を、10%ウシ胎児血清と1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco)中、37℃、5%CO2で培養した。この実験のため、この5x105個の細胞を12ウェルプレート(Corning)にプレーティングし、一晩インキュベートした後、無血清DMEMで洗浄した。このEA.hy926細胞は、次の化合物の存在下で30 μg/mLの子牛胸腺ヒストン(Roche)で処理された:コンドロイチン硫酸(CS)骨格19 mer(19量体)、CS A 19 mer、CS C 19 mer、CS E 19 mer、CS骨格13 mer(13量体)、CS A 13 mer、CS C 13mer又はCSE 13mer。これらの構造は本明細書に提供されている。この内皮細胞は、37℃及び5%CO2で1時間処理された。そして培地を除去し、0.05%トリプシン-EDTA(Gibco)を用いて、これら細胞をプレートから剥がした。これら細胞をPBSで洗浄し、500 gで遠心分離した後、PBS(Gibco)に再懸濁した。細胞死を測定するために、これら細胞を10 μg/mLヨウ化プロピジウム(PI、Sigma)とともに室温で10分間インキュベートした。このヨウ化プロピジウム(PI)は細胞不透過性の蛍光色素であり、生細胞から排除されて壊死細胞に取り込まれ、塩基対間の二本鎖DNAに結合する。励起488nm及び発光617nm検出によるフローサイトメトリーによって、PI陽性細胞が検出された。データは、全細胞中のPI陽性の割合(%)で表される。
実施例1の実験の結果を図1Aに示す。この結果は、具体的には、いくつかの実施態様において、細胞ベースの評価モデルを使用して、合成CSオリゴ糖がヒストン細胞毒性を中和できることを実証する。
【0047】
実施例2
ヒストン誘発死亡率のCS緩和
オスのC57Bl6/Jマウス(Jackson Laboratories)を、ノースカロライナ大学(Chapel Hill, North Carolina, USA)内で、12時間の明暗サイクルで、餌と水を不断に与え1週間飼育した。この研究は、ノースカロライナ大学の施設内動物管理使用委員会によって承認されたプロトコルに従って実施された。このマウスに滅菌生理食塩水(n=8)又は75 mg/kg コンドロイチン硫酸(ChS)E 19-mer(19量体)(n=5)を静脈内注射し、その1分後に子牛の胸腺ヒストン(75 mg/kg)を注射した。ヒストンのみを注入された8匹のマウス(生理食塩水処理)のうち7匹は、おそらく心停止のために、注入から15分以内に死亡した。CS-E19merを投与された5匹のマウスは、すべてが生き残った。CS-E 19merと子牛の胸腺ヒストンの比率は3:1であり、これはインビトロの内皮細胞保護で使われた比率より低い(比率は10:1であった)。
実施例2の実験の結果を図1Bに示す。この結果は、具体的には、CSオリゴ糖と共にヒストンで処理されたマウスの生存率が100%であったのに対し、ヒストンに曝露され、CS療法を受けなかったマウスは生存しなかったことを示している。GraphPad Prismソフトウェアを使用したログランク検定によるカプランマイヤー生存曲線を実行して、P=0.001を取得した。
【0048】
実施例3
CS化合物の合成
実施例1及び2に示した、ヒストン誘発性の内皮毒性及び死亡率を軽減するというコンドロイチン硫酸(CS)の有効性に基づいて、CS化合物を特徴付け、それらの機能を解明するためにさらなる研究が行われた。ヒストンはDNA結合タンパク質であり、核内にカプセル化されている。ヒストンの放出は、感染又は炎症刺激に応答する際の好中球の活性化に関連している(1、2)。細胞外ヒストンは宿主に対して細胞毒性を示し、敗血症を含む病状に寄与する(3)。ヒストンは複数のアイソフォームを含み、ヒストンH3は細胞毒性に起因する主要な形態である(4)。
ヒト組織や海洋生物から分離されたCS-Eは、サイズや硫酸化パターンが異なる多糖類の混合物であるため、その構造や活性の相関を調べる研究は困難である。そのため均質なCS-Eオリゴ糖を酵素的に合成する能力が必要である。
【0049】
CS-Eオリゴ糖の合成は、市販の単糖であるp-ニトロフェニルグルクロニド(GlcA-pNP)から開始された(図2A)。この合成には、細菌のグリコシルトランスフェラーゼ(KfoC)を使用して単糖を目的のサイズに伸長させ、非硫酸化コンドロイチン骨格を形成することが含まれる。この骨格は2ラウンドのスルホトランスフェラーゼ修飾を受けた。コンドロイチン硫酸4-O-スルホトランスフェラーゼ(CS 4OST)による硫酸化を行い、コンドロイチン硫酸A(CS-A)オリゴ糖を形成した。次に、4-O-スルホGalNAc6-O-スルホトランスフェラーゼ(GalNAc4S-6OST)による修飾を行い4,6-二硫酸化GalNAc残基を形成し、CS-E生成物を得た。高活性のGalNAc4S-6OSTへのアクセスは、CS-Eオリゴ糖の合成にとって非常に重要であった。バキュロウイルス発現アプローチを使用して、昆虫細胞でGalNAc4S-6OSTの高レベルの発現を達成した。バキュロウイルスには、CS基質を切断する可能性のある内因性コンドロイチナーゼが含まれている(6)。従って、合成目的には、ウイルス内在性コンドロイチナーゼからGalNAc4S-6OSTを精製することが不可欠である。酵素的アプローチを使用して、3つのCS-Eオリゴ糖、すなわちCS-E 7-mer、CS-E 13-mer及びCS-E 19-merが10~100mgのスケールで得られた。非硫酸化コンドロイチン非デカ糖骨格であるCS-0S19-merも合成され、その後の生物学的研究の対照オリゴ糖として機能した。図2Bを参照されたい。
【0050】
実施例4
CS化合物の構造の特性評価
高分解能ジエチルアミノエチル(DEAE)-HPLC、高分解能質量分析及びNMR分光法を使用して、CS-Eオリゴ糖を分析した。代表的な例として、CS-E 7-mer(7量体)を示す。それは単一の対称ピークで溶出され、高純度であった(図3A)。高分解能質量分析により、その分子量が1772.227であることが明らかになった。これは、計算値1772.221に非常に近い値である(図3B)。1H-NMR及び13C-NMR分析においても、CS-E7-merの純度が確認された。追加のNMR分析により、硫酸化の部位及びGalNAcとGlcAの間のグリコシド結合の性質を決定した。CS-E13-mer(13量体)及びCS-E19-mer(19量体)は、-GalNAc4S6S-GlcA-の繰り返し二糖単位の複数のコピーを含むので、NMR信号に実質的な重複が生じる。従って、これらの構造は、主に高分解能質量分析による分子量測定に基づいて決定された。
【0051】
実施例5
CS化合物の活性の特性評価
長鎖CS-Eオリゴ糖の利用可能性は、CSの生物学的機能を調査するための新しい機会を開く。ヒストンを標的とすることにより、均一なCS-Eオリゴ糖の抗炎症効果が探索された。ヒストンは正に帯電したタンパク質であり、DNAに結合し、健康条件下では核内にカプセル化されている。ヒストンが病理学的刺激によって放出されると、細胞外ヒストンは強力な細胞毒性を示す。炎症性疾患を治療するために、細胞外ヒストンを標的とすることは、可能な戦略の一つである。そのため、CSオリゴ糖はヒストンに結合して細胞毒性を中和すると仮定した。結合親和性(KD)測定によれば、CS-E 19-merはヒストンH3(44.7 nM)にしっかりと結合し、オリゴ糖のサイズが短くなるにつれて結合親和性が一般に低下することを示した(表1)。
【表1】
【0052】
硫酸化は、ヒストンH3への結合親和性にも寄与する。非硫酸化コンドロイチン骨格であるCS-0S19-mer(19量体)は、ヒストンH3に結合しなかった。複数のヒストンアイソフォームの混合物に対する、様々な複数のCS-Eオリゴ糖の結合親和性も決定され、前記オリゴ糖がヒストンH3に結合するのと同様の傾向を示している。表2を参照されたい。
【表2】
【0053】
実施例6
ヒストン誘発毒性及び罹患率のCS緩和のさらなる評価
ヒストンの投与がマウスにとって有毒であることが知られている(4)。上記のように、CS-E 19-merはヒストンを介した動物の死を防ぐことが実証された(図1B)。6匹中5匹(83.3%)のマウスがヒストン(75 mg/kg)の投与後60分以内に死亡したのに対し、ヒストン中毒マウスではCS-E 19-mer(75 mg/kg)による処理で、5匹のマウスの全て(100 %)が実験の過程で生き残った。
また、CS-E19-merによる処理の有りと無しで、肺組織への損傷を調べた。ヒストン処理マウスの肺組織のH&E染色は、血管の内側と外側に血栓症が大量に形成されていることを示す(図4A)。このデータは、ヒストンの投与が血管内の血栓形成を誘発しただけでなく、血管漏出を引き起こして血管外の血栓を引き起こしたことを示唆する。CS-E 19-merを投与されたマウスの肺の血餅の顕著な減少が観察された(図4A)。この血栓症は、ヒストン処理マウスの肝臓と腎臓においても見られた。CS-E 19-merは、同様に、肝臓と腎臓の血栓症も軽減することができる(図4B)。これらをまとめると、これらのデータは、CS-E 19-merがヒストンに結合し、マウスの臓器損傷におけるヒストンの毒性作用から効果的に保護することを示唆する。
【0054】
実施例7
細菌性リポ多糖(LPS)ショックに対するコンドロイチン硫酸(CS)の保護効果の評価
次に、細菌性リポ多糖(LPS)ショックに対するCS-E19-mer(19量体)の保護効果を調べた。エンドトキシンとしても知られるグラム陰性菌の細胞壁に多く含まれる細菌性リポ多糖(LPS)は、宿主に炎症反応を誘発し、米国で年間750,000人以上の死亡を引き起こす生命を脅かす敗血症のような症状を引き起こす。LPSによる死のメカニズムの1つは、LPSが細胞毒性細胞外ヒストンの放出を誘導するためである(7)。LPSをマウスへ投与すると、予想された通り、血漿中にヒストンH3の放出をもたらした(図5A)。さらに、LPS(6 mg/kg)を投与すると、そのマウスの85%が72時間で死亡した。その一方で、CS-E 19-mer(0.5 mg/kg)の処理により、この死亡率を30%に減少させた。これは、CS-E 19-merがLSP誘発死に対する保護効果を示すことを示唆している(図5B)。
また、臓器の損傷を評価し、CS-E 19-merの機能を実証するために、バイオマーカーを測定した。腎機能のマーカーである血中尿素窒素(BUN)レベルの有意な低下が検出された(図5C)。また、CS-E 19-mer処理後の、腎機能のマーカーであるクレアチニンレベルの低下も観察された(図5D)。クレアチニンの減少は統計的に有意な傾向にあるが、このデータと血中尿素窒素(BUN)レベルの減少データとを組み合わせることで、CS-E19-merがLPSによって誘発される腎臓の損傷に対する保護効果を示すことを確認できた。肝障害のマーカーであるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の血漿レベルも、CS-E 19-mer処理群で低下し、この化合物がLPSによって引き起こされる肝障害を保護することを示唆している(図5E)。全体として、CS-E 19-merは、LPSによって引き起こされる臓器損傷を保護し、LPSに曝露した後のマウスの生存率を高める。
【0055】
次の3つ証拠は、LPS誘発臓器損傷に対するCS-E 19-merの保護効果を示し、CS-E 19-merが、ヒストンを中和し、ヒストンによって引き起こされる内皮細胞の損傷を保護する能力に起因することを示唆している。
-第一に、CS-E 19-merがマウス血漿からヒストンH3を取り壊すことができることが実証された(図6A)。この目的のために、LPS処理マウス血漿をビオチン化CS-E 19-merとインキュベートした後、アビジン-アガロースカラムを使用してアフィニティー精製した。CS-E 19-merアフィニティー精製後の血漿サンプルでヒストンH3が検出された(図6A、レーン5)。この実験の結果は、CS-E19-merがインビボ条件下でヒストンと複合体を形成し、結合がヒストンの毒性を中和することを示唆している。
-第二に、ヒストンによって引き起こされる内皮細胞死に対するCS-E19-mer(19量体)の保護効果を評価した。EA.hy926細胞をヒストンH3で処理し、PI染色に基づくフローサイトメトリーを使用して細胞死を測定した(7)。CS-E 19-merの添加は、用量反応的に細胞死を低下させた(図6B)。CS-E 13-mer(13量体)の保護度はこれより低く、CS-E 13-mer(13量体)のヒストンへの結合親和性がCS-E19-mer(19量体)よりも低いという観察結果と一致している。CS-0S(非硫酸化コンドロイチン非デカ糖骨格)19-merでは保護効果は観察されなかった。
-第三に、CS-E 19-merの投与は、LPSによって誘発される血管漏出を防ぐが、腎臓におおけるCS-E 19-merによる減少はそれほど顕著ではなく、肝臓の血管透過性の減少に有意な影響はなかった(図6C~E)。
【0056】
実施例8
CS化合物の研究とその使用に基づく結論
ここに開示された本発明のコンドロイチン硫酸(CS)化合物の柔軟かつ効果的な合成方法及びアプローチは、例えば、5-mer(5量体)、9-mer(9量体)、11-mer(11量体)、15-mer(15量体)及び17-mer(17量体)などの異なるサイズのCS-Eオリゴ糖を含む多数のコンドロイチン硫酸(CS)化合物を合成することによって実証された。明確さと単純さのために、本研究はCS-E 7-mer(7量体)、CS-E 13-mer(13量体)及びCS-E 19-mer(19量体)に焦点を合わせたが、その結果と応用はこれらに限定されない。天然源から単離された最も単純なCSプロテオグリカンであるビクニンは、約27~約39の糖残基のサイズを持っていることに注意すべきである(8)。ここで合成され開示された19-mer(19量体)CSオリゴ糖のサイズは、自然界の完全長CS鎖の約50%~約70%である。
【0057】
参考文献
以下に列挙するすべての参考文献、並びにそれらのすべての特許、特許出願及び出版物、科学雑誌論文並びにデータベースエントリを含むすべての参考文献(但し、これらに限定されない)は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。これらは、本明細書で使用される方法論、技術、及び/又は組成物を補足し、説明し、背景を提供し、又は教示する。
1. Brinkmann V, Reichard U, Goosmann C, Fauler B, Uhlemann Y, Weiss DS, et al. Neutrophil extracellular traps kill bacteria. Science. 2004;303:1532-5.
2. Clark SR, Ma AC, Tavener SA, McDonald B, Goodarzi Z, Kelly MM, et al. Platelet TLR4 activates neutrophil extracellular traps to ensnare bacteria in septic blood. Nat Med. 2007;13:463-9.
3. Wildhagen KC, Garcia de Frutos P, Reutelingsperger CP, Schrijver R, Areste C, Ortega-Gomez A, et al. Nonanticoagulant heparin prevents histone-mediated cytotoxicity in vitro and improves survival in sepsis. Blood. 2014;123:1098-101.
4. Xu J, Zhang X, Pelayo R, Monestier M, Ammollo CT, Semeraro F, et al. Extracellular histones are major mediators of death in sepsis. Nat Med. 2009;15:1318-21.
5. Li J, Su W, and Liu J. Enzymatic synthesis of homogeneous chondroitin sulfate oligosaccharides. Angew Chem Int Ed. 2017;56:11784-7.
6. Sugiura N, Setoyama y, Chiba M, Kimata K, and Watanabe H. Baculovirus envelope protein ODV-E66 is a novel chondroitinase with distinct substrate specificity. J Biol Chem. 2011;286:29026-34.
7. Xu J, Zhang X, Monestier M, Esmon NL, and Esmon CT. Extracellular histones are mediators of death through TLR2 and TLR4 in mouse fatal liver injury. J Immunol. 2011;187:2626-31.
8. Ly M, Leach III FE, Laremore TN, Toida T, Amster IJ, and Linhardt RJ. The proteoglycan bikunin has sequence. Nat Chem Biol. 2011;7:827-33.
本発明の様々な詳細は、本発明の範囲から逸脱することなく変更されてもよいことが理解されるであろう。さらに、前述の説明及び実施例は、例示のみを目的としたものであり、本発明を限定することを目的とするものではない
図1AB
図2AB
図3A
図3B
図4
図5AB
図5CDE
図6AB
図6CDE