(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】個別ナビゲーションシステムおよび個別ナビゲーション方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/005 20060101AFI20240815BHJP
G08G 1/01 20060101ALI20240815BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20240815BHJP
G06Q 50/22 20240101ALI20240815BHJP
G16Y 10/40 20200101ALI20240815BHJP
G16Y 40/10 20200101ALI20240815BHJP
【FI】
G08G1/005
G08G1/01 F
G06Q50/10
G06Q50/22
G16Y10/40
G16Y40/10
(21)【出願番号】P 2021000027
(22)【出願日】2021-01-04
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大稔 真斗
(72)【発明者】
【氏名】下出 直樹
(72)【発明者】
【氏名】淺原 彰規
【審査官】秋山 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-205652(JP,A)
【文献】特開2020-013582(JP,A)
【文献】国際公開第2020/170595(WO,A1)
【文献】特開2020-067939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/005
G08G 1/01
G06Q 50/10
G06Q 50/22
G16Y 10/40
G16Y 40/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間である第1移動体および第2移動体の位置を計測する測距センサと、
前記測距センサから得られる前記第1移動体および前記第2移動体の移動経路情報を保存する記憶部と、
前記第1移動体及び前記第2移動体の過去の移動経路情報から
、前記第2移動体に由来する飛沫残留リスク領域または空気感染リスク領域を前記第1移動体の頭部の高さと前記第2移動体の頭部の高さに基づいて設定し、前記飛沫残留リスク領域または前記空気感染リスク領域を含むリスクマップを生成する演算部と、
を備えることを特徴とする個別ナビゲーションシステム。
【請求項2】
前記第1移動体へ
前記飛沫残留リスク領域または前記空気感染リスク領域を提示する提示部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の個別ナビゲーションシステム。
【請求項3】
前記演算部は、
前記飛沫残留リスク領域または前記空気感染リスク領域を回避するように前記第1移動体を誘導する誘導マーカを生成し、
前記第1移動体へ誘導マーカを提示する提示部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の個別ナビゲーションシステム。
【請求項4】
前記演算部は、前記第1移動体の移動経路情報と、前記第1移動体が保持する携帯装置とを紐づけて、前記第1移動体の移動と前記携帯装置とを連動する、
ことを特徴とする請求項1から3のうちの何れか1項に記載の個別ナビゲーションシステム。
【請求項5】
前記演算部は、前記飛沫残留リスク領域または前記空気感染リスク領域を前記第2移動体の周囲環境の温度、湿度および気流条件のうち何れかに基づいて設定する、
ことを特徴とする請求項
1に記載の個別ナビゲーションシステム。
【請求項6】
測距センサにより、
人間である第1移動体及び第2移動体の位置を計測するステップと、
前記測距センサから得られる前記第1移動体および前記第2移動体の移動経路情報を記憶部に保存するステップと、
演算部が、前記第1移動体および前記第2移動体の過去の移動経路情報から
、前記第2移動体に由来する飛沫残留リスク領域または空気感染リスク領域を前記第1移動体の頭部の高さと前記第2移動体の頭部の高さに基づいて設定し、前記飛沫残留リスク領域または前記空気感染リスク領域を含むリスクマップを生成するステップと、
を実行することを特徴とする個別ナビゲーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個別ナビゲーションシステムおよび個別ナビゲーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的なCOVID-19(Coronavirus Disease-19)の流行により、感染症に強い社会の実現と経済活動の両立が求められている。感染経路は主に飛沫感染・接触感染であり、空気(飛沫核)感染の可能性も示唆されている。COVID-19の感染対策として、「2m以上の物理的距離の維持」、「手指消毒」、「室内の換気」が有効な対策とされている。
【0003】
しかし、これは人々に対して2m以上の物理的距離を維持するような精神的負担を負わせることとなる。よって、この精神的負担を軽減し、COVID-19の感染を抑止することが望まれている。
【0004】
特許文献1には、測距装置を含む計測装置を用いて移動体同士、または障害物との関係に基づいたリスクマップを生成し、リスクマップに基づいて移動体の制御を行う移動体制御システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
移動体(人間)に由来する飛散物やウィルスは、大気中に漂うそれ自体をリアルタイムに直接計測することは困難である。また、移動体(人間)に由来する飛散物やウィルスは、時間と共にその位置が変化するため、予めリスクマップを作成することはできず、特許文献1に記載の発明をそのまま適用することはできない。
【0007】
そこで、本発明は、リスクを回避するような案内を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するため、本発明の個別ナビゲーションシステムは、人間である第1移動体および第2移動体の位置を計測する測距センサと、前記測距センサから得られる前記第1移動体および前記第2移動体の移動経路情報を保存する記憶部と、前記第1移動体及び前記第2移動体の過去の移動経路情報から、前記第2移動体に由来する飛沫残留リスク領域または空気感染リスク領域を前記第1移動体の頭部の高さと前記第2移動体の頭部の高さに基づいて設定し、前記飛沫残留リスク領域または前記空気感染リスク領域を含むリスクマップを生成する演算部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の個別ナビゲーション方法は、測距センサにより、人間である第1移動体及び第2移動体の位置を計測するステップと、前記測距センサから得られる前記第1移動体および前記第2移動体の移動経路情報を記憶部に保存するステップと、演算部が、前記第1移動体および前記第2移動体の過去の移動経路情報から、前記第2移動体に由来する飛沫残留リスク領域または空気感染リスク領域を前記第1移動体の頭部の高さと前記第2移動体の頭部の高さに基づいて設定し、前記飛沫残留リスク領域または前記空気感染リスク領域を含むリスクマップを生成するステップと、を実行することを特徴とする。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リスクを回避するような案内が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】第1の実施形態の個別ナビゲーションシステムの概要構成を示す機能ブロック図である。
【
図1B】個別ナビゲーション装置の概要構成を示すハードウェア構成図である。
【
図2】リスクマップを移動体が存在する床面へ投影する映像を示す斜視図である。
【
図3】個別ナビゲーションシステムを用いてリスクマップを移動体が存在する床面へ投影する映像の例を示す図である。
【
図4】第2の実施形態の個別ナビゲーションシステムの概要構成を示すブロック図である。
【
図5A】移動体の頭部高さに由来する経路情報の算入距離を説明する図である。
【
図5B】移動体の頭部高さに由来する経路情報の算入距離を説明する図である。
【
図6】個別ナビゲーションシステムを用いて移動体を誘導する線状マーカを移動体が存在する床面へ投影する映像の例を示す図である。
【
図7】個別ナビゲーションシステムを用いて移動体を誘導する三角マーカを移動体が存在する床面へ投影する映像の例を示す図である。
【
図8】第3の実施形態の個別ナビゲーションシステムの概要構成を示すブロック図である。
【
図9】第4の実施形態の個別ナビゲーションシステムの概要構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の実施の形態を説明するための各図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0013】
《個別ナビゲーションシステムの第1の実施形態》
発明者らは、人々がCOVID-19の感染対策を実行できるように、人座標計測とナビゲーション技術を用いて、個々に合わせた誘導方法を発明した。
【0014】
ヒトが発散する飛沫の落下速度は30~80cm/秒であるため、ヒト-ヒト間の距離を2m維持していても、歩行速度によっては飛沫が他者に到達してしまう。平均歩行速度は1.0~1.2m/s程度であり、通常の速度で他者がいた空間に進入すると、手などに浮遊する他者飛沫が付着しうる。なお、腕の長さは平均60~80cmである。
発明者らは、ヒト-ヒト間の距離が2m以上を維持するようなナビゲーションでは、感染症対策としては不十分であることを見出した。そして、発明者らは、以下のような個別ナビゲーションシステムを発明した。
【0015】
図1Aは、第1の実施形態の個別ナビゲーションシステム1の概要構成を示す機能ブロック図である。
図1Bは、個別ナビゲーション装置の概要構成を示すハードウェア構成図である。
個別ナビゲーションシステム1は、物理的距離の維持を誘発させるための拡張現実を人々に提供する。
【0016】
図1Aに示す個別ナビゲーションシステム1は、測距センサ11と、移動体座標演算部12と、移動体経路記憶部13と、リスクマップ生成部14と、プロジェクタ部15とを備える。
【0017】
測距センサ11は、ある空間内の物体までの距離および位置座標を計測するセンサである。
移動体座標演算部12は、測距センサ11が取得した計測結果から複数の移動体(ヒト)の座標を演算する。
移動体経路記憶部13は、移動体座標演算部12が演算した各移動体の座標を記憶する。
【0018】
リスクマップ生成部14は、移動体経路記憶部13に保存されている各移動体の経路情報に基づいたリスクマップを演算して生成する。
プロジェクタ部15は、リスクマップ生成部14が生成したリスクマップを床面等に映像として投影する。プロジェクタ部15は、移動体であるヒトが認識可能な状態で情報を出力する情報出力部として機能する。プロジェクタ部15は、リスクマップにおけるリスク領域を移動体に提示する提示部として機能する。ここでリスク領域とは、他人に由来する飛沫残留リスク領域、空気感染リスク領域、接触感染リスク領域、衝突リスク領域のうち何れかである。
【0019】
ここで、測距センサ11は、所定の方向に照射したパルス光が対象から反射して戻ってくる時間を計測することで、対象との距離が得られるToF(Time of Flight)方式センサや、異なる位置に配置した複数のカメラ間のステレオ視により、対象との距離が得られるステレオカメラなどである。また、測距センサ11を複数台組み合わせることにより、移動体が多数存在する場合でも全ての移動体を計測範囲に収めることができ、正確に座標を認識することができる。
【0020】
図1Bに示す個別ナビゲーション装置8は、演算部81と記憶部82とを備えている。演算部81は、中央処理装置であり、記憶部82に記憶されている各種データやプログラムを読み込んで、そのプログラムを実行する。これにより、前記した移動体座標演算部12やリスクマップ生成部14などの各機能部が具現化される。
【0021】
記憶部82は、情報を記憶するものであり、例えばハードディスク装置やSSD(Solid State Disk)などである。記憶部82により、前記した移動体経路記憶部13などが具現化される。
【0022】
図2は、複数の移動体とその周囲に投影されたリスクマップを示す斜視図である。
プロジェクタ部15は、天井に設置されており、床面に投影画像2を投影する。床面には、ヒトである第1移動体20aが右に向かって歩行している。そして、ヒトである第2移動体20bが手前に向かって歩行している。第1移動体20aの周囲には、第1移動体20aに由来するリスク領域22aが表示されている。第2移動体20bの周囲には、第2移動体20bに由来するリスク領域22bが表示されている。
【0023】
図3は、個別ナビゲーションシステム1を用いてリスクマップを移動体が存在する床面へ投影する投影画像2の例を示す図である。
投影画像2には、第1移動体20aの現在座標21aと、第1移動体20aに由来するリスク領域22aと、リスク領域22aを生成する基となった第1移動体20aの過去の移動経路23aとが含まれる。
【0024】
投影画像2には更に、第2移動体20bの現在座標21bと、第2移動体20bに由来するリスク領域22bと、リスク領域22bを生成する基となった第2移動体20bの過去の移動経路23bとが含まれる。プロジェクタ部15は、これらリスクマップをリアルタイムに床面へ投影する。
【0025】
ここで、個別ナビゲーションシステム1は、第1移動体20aに由来するリスク領域22aと、第2移動体20bに由来するリスク領域22bとを、異なる色で塗り分けて投影する。これにより、各移動体は、自己以外に由来するリスク領域を認識し、自己の判断でリスクを回避することが可能になる。
【0026】
各移動体に由来したリスク領域の範囲は、想定するリスクによって変化するが、本実施形態では、移動体が歩行者であるとし、歩行者の呼気中を介したウィルス感染リスクを回避する構成について述べる。
【0027】
ここで、i番目の移動体に由来するリスク領域は、移動体座標演算部12より得られた各時刻tの実空間上での座標値を、投影画像の座標系(xi(t), yi(t))に変換し、投影画像の各画素のうち、画素座標(x,y)が以下の式(1)を満たす画素のRGB色データをi番目の移動体に割り当てられたデータに置き換えることで可視化することができる。
【0028】
【0029】
ここで、リスク領域の計算に用いられる経路情報は、現在の時刻から所定の算入期間t0だけ過去に限定される。また、rは各移動体に由来するリスクの拡散する距離を示し、ここでは口から飛散する飛沫が到達しうる距離である。ウイルス感染リスクの場合、算入期間t0は、ウィルスを含む飛沫が十分沈降するのに必要な時間である。一般的な状況においては、飛沫の落下速度は30~80cm/秒であることから、t0=2~5秒、r=100cm程度が望ましい。
【0030】
第1の実施形態の個別ナビゲーションシステム1を用いて行うリスク回避方法によれば、本来直接的に知覚することが困難なウィルス感染リスクを、各歩行者の過去の経路情報から拡張現実として可視化する。このため、各歩行者に対して、ウィルス感染を予防可能な経路を選択させることができる。
【0031】
《第2の実施形態》
次に、第2の実施形態の個別ナビゲーションシステム1を用いたリスク回避方法について説明する。
図4は、第2の実施形態の個別ナビゲーションシステム1aの概要構成を示すブロック図である。
【0032】
第2の実施形態の個別ナビゲーションシステム1aは、第1の実施形態の個別ナビゲーションシステム1と同様の構成に加えて、動作判定部121と、環境センサ16と、レイアウトデータベース17と、誘導マーカ生成部18とを有している。
【0033】
環境センサ16は、例えば温度センサや湿度センサであり、各移動体が位置している環境の温度、湿度を計測する。
動作判定部121は、測距センサ11が取得した計測結果から複数の移動体(ヒト)の動作を判定する。動作判定部121は、演算部81が動作判定処理を実行することによって具現化される。以降、移動体であるヒト(人間)が、所定の手洗い動作を実施したときに、以降の個別ナビケーションのサービスを提供する。移動体であるヒトが、手洗い動作を実施しないときには、個別ナビケーションのサービスを提供しない。これにより、ヒトに対して所定の領域に入る前に、任意の動作を要請することができる。
【0034】
レイアウトデータベース17は、プロジェクタ部15により映像を投影する領域内の障害物などの配置データ、および換気や空調によって生じる気流データを格納するデータベースである。このレイアウトデータベース17は、記憶部82によって構成される。
【0035】
誘導マーカ生成部18は、リスクマップ生成部14で生成されたリスクマップを基に移動体を誘導するマーカを生成する。つまり、演算部81は、第2移動体20bに由来するリスク領域を回避するように第1移動体20aを誘導する誘導マーカを生成する。誘導マーカ生成部18が生成したマーカは、プロジェクタ部15によって、床面に映像として投影され、移動体であるヒトが認識可能となる。移動体であるヒトは、この誘導マーカの動きに応じて歩行することで、COVID-19などの疾病の感染リスクを低減可能である。
【0036】
個別ナビゲーションシステム1aは、環境センサ16を用いて大気の温度および湿度の値を計測することにより、呼気中の飛沫が床面に下降するまでの時間を、より正確に推定できる。具体的には、人の体温よりも大気の温度がより低い場合は、呼気の温度が相対的に高く、密度が低くなる。大気との密度差は呼気の上昇を生じ、呼気に含まれる飛沫の残留時間が増加する。
【0037】
したがって、リスクマップ生成部14は、リスク領域の計算に用いる経路情報の現在から過去にわたる算入期間t0を、大気の温度が高い場合に比べてより長くすると良い。また、飛沫の下降速度は、飛沫サイズが小さいほど低下するため、残留時間も長くなる。大気の湿度が低いほど、飛沫に含まれる水分が揮発し飛沫サイズが低下する。リスクマップ生成部14は、環境センサ16で計測した湿度が低いほど、リスク領域の計算に用いる経路情報の算入期間t0を、大気の湿度が高い場合に比べてより長く補正する。これにより、リスクマップ生成部14は、より正確なリスク領域を生成することができる。
【0038】
さらに、リスクマップ生成部14は、レイアウトデータベース17に保存された、事前に計測あるいはシミュレーションによって得られた換気時の気流データを用いる。これにより、リスクマップ生成部14は、場所ごとの換気効率の違いを反映したリスクマップを生成することができる。具体的には、時間当たりの換気量が多いほど、移動体に由来する飛沫は希釈されるため、ウィルス感染リスクは低下する。したがって、移動体経路座標において換気量が多いほど、リスク領域の計算に用いる経路情報の算入期間t0を、換気量が少ない場合に比べてより短く補正することで、より正確なリスク領域を生成することができる。
【0039】
移動体に由来するウィルス感染リスクの場合、飛沫の発生源は頭部である。そのため、飛沫が十分下降するのにかかる時間は、移動体の頭部の高さに依存する。移動体の頭部の位置は、測距センサ11に3D LiDAR(Light Detection and Ranging)等の三次元測距センサを用いることで、移動体の座標と合わせて頭部の高さを、移動体座標演算部12により推定することができる。
【0040】
図5Aと
図5bは、移動体の頭部高さに由来する経路情報の算入距離を説明する図である。
図5Aに示す破線の第2移動体20bは、時刻T0における位置である。飛沫28bは、時刻T0にて破線の第2移動体20bが放出したものである。実線の第2移動体20bは、時刻T2における位置である。第2移動体20bの身長(体長)は、H1である。長さL1は、第2移動体20bによる飛沫の残留リスクがある領域の長さである。このときの経路情報の算入期間は、(T2-T0)である。
【0041】
図5Eに示す破線の第1移動体20aは、時刻T0における位置を示している。飛沫28bは、時刻T1にて第1移動体20aが放出したものである。実線の第1移動体20aは、時刻T2における位置を示している。第1移動体20aの身長(体長)は、H2であり、第2移動体20bの身長H1よりも低い。長さL2は、第2移動体20bによる飛沫の残留リスクがある領域の長さであり、第2移動体20bによる飛沫の残留リスクの長さL1よりも短い。このときの経路情報の算入期間は、(T2-T1)である。
【0042】
第1移動体20aが、第2移動体20bと比べて頭部が低い場合、演算部81は、第1移動体20aの案内に用いるリスクマップにおける第2移動体20bに由来するリスク領域の計算に用いる経路情報の算入期間t0を、第1移動体20aと第2移動体20bの頭部高さが等しい場合に比べて、増加させる。これにより、演算部81は、より正確な飛沫残留リスク領域または空気感染リスク領域の算出が可能となる。
【0043】
一方、第2移動体20bの案内に用いるリスクマップは、第1移動体20aの場合と反対に、経路情報の算入期間t0を減少させる。この補正により、大人と子どもや、歩行者と車椅子利用者等の、移動時の頭部高さが異なる移動体間が混在する場合でも、演算部81は、より正確に飛沫残留リスク領域または空気感染リスク領域を回避する案内が可能となる。
【0044】
ここで、第2の実施形態における個別ナビゲーションシステム1aは、移動体間の頭部高さの差に依存した補正によって、移動体ごとに個別のリスクマップを生成する。そのため、
図3に示すように、リスクマップを直接的に床面へ投影することで移動体へリスクマップを伝達することは困難である。したがって、第2の実施形態の個別ナビゲーションシステム1aは、各移動体に割り当てられた誘導マーカを利用して、ヒトである各移動体に経路を案内する。
【0045】
図6および
図7は、第2の実施形態の個別ナビゲーションシステム1aを用いて移動体を誘導するマーカを移動体が存在する床面へ投影する映像の例を示す図である。
図6は、第1移動体20aの目的地24が事前に判明している場合の案内例である。
図6には理解を助けるために、第1移動体20aの現在座標21a、第2移動体20bの現在座標21b、第2移動体20bに由来するリスク領域22bおよび障害物25を、プロジェクタの投影画像2に重ねて図示しているが、実際に床面に投影される情報は第1移動体20aを誘導する線状マーカ26のみである。
【0046】
障害物25は、柱である。障害物25は、レイアウトデータベース17に障害物形状情報として登録されている。リスクマップ生成部14は、各移動体に由来するリスク領域と共に侵入不可領域としての障害物25を算出する。
【0047】
第1移動体20aを誘導する線状マーカ26は、リスクマップにおける第2移動体20bに由来するリスク領域22bと、障害物25を通らず、第1移動体20aの現在座標21aと、目的地24を結ぶ経路を、誘導マーカ生成部18により生成した結果を床面に投影したものである。
【0048】
次に
図7は、第1移動体20aの目的地が判明していない自由歩行の場合の案内例を示す。
図7には理解を助けるために、第1移動体20aの現在座標21a、第2移動体20bの現在座標21a、第2移動体20bに由来するリスク領域22b、および障害物25を、プロジェクタの投影画像2に重ねて記載している。しかし、実際に床面に投影される情報は第1移動体20aを誘導する複数の三角マーカ27aのみである。
【0049】
第1移動体20aを誘導する複数の三角マーカ27aは、誘導マーカ生成部18により生成した結果を床面に投影したものである。第1移動体20aを誘導する複数の三角マーカ27aの投影座標は、第1移動体20aがリスク領域や障害物から十分離れている場合は、第1移動体20aの現在座標21aから等距離かつ等間隔に複数投影される。
【0050】
第1移動体20aが第2移動体20bに由来するリスク領域22bに近接している場合、第1移動体20aの現在座標21aとリスク領域22bとの距離と方向に依存して、対応する方向の三角マーカ27aの投影座標を第1移動体20aの現在座標21aの近くに変更する。これにより、第1移動体20aへリスク領域の存在を伝達することができる。
【0051】
第1移動体20aが障害物25に近接している場合、第1移動体20aの現在座標21aと障害物25との距離と方向に依存して、対応する方向の三角マーカ27aの投影座標を第1移動体20aの現在座標21aの近くに変更する。これにより、第1移動体20aへリスク領域の存在を伝達することができる。
【0052】
《第3の実施形態》
第2の実施形態では、プロジェクタ部15による床面投影の構成を説明したが、案内対象が視覚障碍者である場合、誘導マーカの存在を床面投影により伝達することは困難である。したがって、第3の実施形態では、プロジェクタ部15に代えて、指向性スピーカによる音声案内、および振動機能と方位センサとを有する携帯装置を採用することで、視覚障碍者へ誘導マーカの方向を案内することができる。
図8は、第3の実施形態の個別ナビゲーションシステム1bの概要構成を示すブロック図である。
【0053】
第3の実施形態の個別ナビゲーションシステム1bは、第2の実施形態の個別ナビゲーションシステム1aと同様な構成に加えて更に、指向性スピーカ151と、通信部101とを備えている。
【0054】
指向性スピーカ151は、空間内に設置されており、所望の方向にのみ音声を報知する。ここで指向性スピーカ151は、誘導マーカの誘導位置より第1移動体20aの現在座標21aが大きく外れた場合に、第1移動体20aに対して音声により誘導方向を伝達する。つまり、指向性スピーカ151は、第1移動体へリスク領域を提示する提示部として機能する。
通信部101は、例えば無線LANユニットであり、誘導マーカの誘導位置より第1移動体20aの現在座標21aが大きく外れた場合に、携帯装置7に誘導方向を伝達する。ここで通信部101と携帯装置7は、第1移動体へリスク領域を提示する提示部として機能する。
【0055】
具体的には、第1移動体20aが、振動機能と方位センサとを有するスマートフォン等の携帯装置7を所持している場合を考える。個別ナビゲーションシステム1の案内可能領域の出入口にて、演算部81は、無線通信等を用いて、個別ナビゲーションシステム1における移動体経路記憶部13における第1移動体20aと携帯装置7とを紐づける。
これにより演算部81は、第1移動体20aの移動経路情報と、第1移動体が保持する携帯装置7とを紐づけて、第1移動体20aの移動と携帯装置7とを連動させることができる。
【0056】
さらに演算部81は、通信部101を介して、第1移動体20aを誘導する線状マーカ26(
図6参照)の情報や、リスク領域の情報を携帯装置7に送信する。これにより携帯装置7の方位センサが第1移動体20aを誘導する線状マーカ26が存在する方向と異なる場合、携帯装置7は、自身の振動機能によって、その旨を第1移動体20aであるヒトに提示する。
または第1移動体20aを誘導する複数の三角マーカ27aがリスク領域に近接している方向と一致している場合、携帯装置7は、自身の振動機能によって、現在向いている方向にリスク領域が存在することを第1移動体20aであるヒトに提示する。
【0057】
第2の実施形態の個別ナビゲーションシステム1aや第3の実施形態の個別ナビケーションシステム1b用いて行うリスク回避方法によれば、環境の状態や移動体の状態によって個別に変化するリスク領域を、移動体を明確な目的地への案内する場合と、自由歩行とのいずれの場合も誘導マーカの動きによりウィルス感染等のリスク領域を回避する案内が視覚的、聴覚的または触覚的手段により実現できる。
【0058】
《第4の実施形態》
次に、第4の実施形態の個別ナビゲーションシステム1cを用いたリスク回避方法の変形例について説明する。
図9は、第4の実施形態の個別ナビゲーションシステム1cの概要構成を示すブロック図である。
【0059】
第4の実施形態の個別ナビゲーションシステム1cは、第2の実施形態の個別ナビゲーションシステム1aと同様な構成に加えて更に、移動経路生成部19と、移動経路情報通信部10とを備えている。
【0060】
移動経路生成部19は、リスクマップ生成部14が生成するリスクマップに基づいて、自動搬送ロボット6の移動経路を生成する。つまり、演算部81が、リスクマップ生成部14が生成するリスクマップに基づいて、自動搬送ロボット6の移動経路を生成することで、移動経路生成部19を具現化する。
【0061】
移動経路情報通信部10は、例えば無線LANユニットであり、移動経路生成部19が生成した移動経路のデータを直接的に自動搬送ロボット6へ伝達する。
自動搬送ロボット6は、個別ナビゲーションシステム1bより経路案内を受ける移動体である。
【0062】
第4の実施形態では、空間内に歩行者のほかに自動搬送ロボット6が含まれている用途への適用について説明する。自動搬送ロボット6は、その搬送物が危険物かつ密閉状態にない場合を除いて、過去の経路情報に基づいたリスクマップ生成を必要としない。一方、自動搬送ロボット6の計画済みの移動経路に他の移動体が侵入することで、衝突リスクが発生する。そのため、個別ナビゲーションシステム1cは、移動経路生成部19で生成した移動経路を移動体経路記録部で保持する。これにより、他の移動体における誘導マーカ、または移動経路を生成する際のリスクマップに自動搬送ロボット6との衝突リスクを算入することが可能になる。
【0063】
また、自動搬送ロボット6は、歩行者などの他の移動体に由来する飛沫との接触リスクを回避するように移動経路生成部19にて経路生成することにより、搬送物が飛沫により汚染されることを防ぎ、搬送物を介した間接的なウィルス感染拡大を予防することができる。
【0064】
リスク領域の算入方法は、各移動体の種類によって異なるため、移動体の種類を正しく把握する必要がある。自動搬送ロボット6が自身に備えるセンサにより自己位置推定機能を有する場合は、自動搬送ロボット6から個別ナビゲーションシステム1cに送信される座標情報と、移動体座標演算部12より得られる座標情報との一致性より判断が可能である。
【0065】
一方、自動搬送ロボット6が自己位置推定機能を有していない場合、測距センサ11より得られる形状データと、自動搬送ロボット6の形状モデルとを比較し、その一致性より移動体の種類を識別する。
【0066】
第4の実施形態の個別ナビゲーションシステム1cを用いて行うリスク回避方法によれば、倉庫または工場内の人と自動搬送ロボット6が協働するエリアや、飲食店舗において食事の配膳を自動搬送ロボット6が担うような用途等において、搬送物を介したウィルス感染拡大を予防することができる。
【0067】
《変形例》
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば上記した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0068】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路などのハードウェアで実現してもよい。上記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈して実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、または、フラッシュメモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)などの記録媒体に置くことができる。
各実施形態に於いて、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,1a,1b,1c 個別ナビゲーションシステム
11 測距センサ
12 移動体座標演算部
121 動作判定部
13 移動体経路記憶部
14 リスクマップ生成部
15 プロジェクタ部 (提示部)
151 指向性スピーカ (提示部)
16 環境センサ
17 レイアウトデータベース
18 誘導マーカ生成部
19 移動経路生成部
101 通信部
10 移動経路情報通信部 (通信部)
2 投影画像
20a 第1移動体
20b 第2移動体
21a,21b 現在座標
22a,22b リスク領域
23a,23b 移動経路
24 目的地
25 障害物
26 線状マーカ
27a 三角マーカ
6 自動搬送ロボット
7 携帯装置
8 個別ナビゲーション装置
81 演算部
82 記憶部