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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】直動案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/04 20060101AFI20240815BHJP
   F16H 55/08 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
F16C29/04
F16H55/08 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021012649
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116472
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】趙 彬
(72)【発明者】
【氏名】池上 信行
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-176820(JP,A)
【文献】特開2003-262224(JP,A)
【文献】特開2006-183821(JP,A)
【文献】特開2007-232062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/04
F16H 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの転動体を介して長手方向に相対移動可能な2つの案内レールと、
前記転動体を保持すると共に、前記2つの案内レールの少なくとも一つに設けられる噛合部に係合する歯車を回転可能に保持する保持器と、を備える直動案内装置において、
前記噛合部は、前記案内レールの前記長手方向に並べられる複数の丸穴を備え、
前記丸穴は、その壁面が円筒形に形成され
前記歯車の歯の歯先部と前記丸穴の壁面との間の前記歯車の回転方向の隙間(g1)は、前記歯車の回転軸方向の隙間(g2)よりも小さい直動案内装置。
【請求項2】
少なくとも一つの転動体を介して長手方向に相対移動可能な2つの案内レールと、
前記転動体を保持すると共に、前記2つの案内レールの少なくとも一つに設けられる噛合部に係合する歯車を回転可能に保持する保持器と、を備える直動案内装置において、
前記噛合部は、前記案内レールの前記長手方向に並べられる複数の丸穴を備え、
前記丸穴は、その壁面が円筒形に形成され、
前記歯車の歯の歯先部の回転方向の長さが、前記歯先部の歯幅よりも長い直動案内装置。
【請求項3】
少なくとも一つの転動体を介して長手方向に相対移動可能な2つの案内レールと、
前記転動体を保持すると共に、前記2つの案内レールの少なくとも一つに設けられる噛合部に係合する歯車を回転可能に保持する保持器と、を備える直動案内装置において、
前記噛合部は、前記案内レールの前記長手方向に並べられる複数の丸穴を備え、
前記丸穴は、その壁面が円筒形に形成され、
前記歯車の回転軸方向視において、前記歯車の歯の歯元部がくびれている直動案内装置。
【請求項4】
前記丸穴は、前記案内レールに直接形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の直動案内装置。
【請求項5】
前記丸穴の底面がフラットに形成されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の直動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器の位置ずれを防止する機構を備える直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保持器の位置ずれを防止する位置ずれ防止機構を備える直動案内装置が知られている(特許文献1参照)。この直動案内装置は、少なくとも一つの転動体を介して長手方向に相対移動可能な2つの案内レールを備える。転動体は保持器に保持される。
【0003】
直動案内装置において、2つの案内レールを繰り返し相対移動させると、転動体を保持する保持器が正規の位置からずれる。保持器の位置ずれを防止するために、位置ずれ防止機構が設けられる。位置ずれ防止機構は、案内レールに設けられるラックと、保持器に設けられるピニオンと、から構成される。2つの案内レールが相対移動する際、ピニオンがラックに噛み合いながら正規の位置を移動するので、保持器の位置ずれを防止することができる。
【0004】
ところで、特許文献1に記載の直動案内装置において、ラックとピニオンは理想的な歯車であるインボリュート歯車に形成される。これにより、ラックとピニオンの強度を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭62-179423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、インボリュート歯車は複雑な形状をしており、案内レールにインボリュート歯車を設けるのは大変な手間がかかるという課題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、案内レールに歯車と係合する噛合部を容易に設けることができる直動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、少なくとも一つの転動体を介して長手方向に相対移動可能な2つの案内レールと、前記転動体を保持すると共に、前記2つの案内レールの少なくとも一つに設けられる噛合部に係合する歯車を回転可能に保持する保持器と、を備える直動案内装置において、前記噛合部は、前記案内レールの前記長手方向に並べられる複数の丸穴を備え、前記丸穴は、その壁面が円筒形に形成され、前記歯車の歯の歯先部と前記丸穴の壁面との間の前記歯車の回転方向の隙間(g1)は、前記歯車の回転軸方向の隙間(g2)よりも小さい直動案内装置である。
本発明の第2の態様は、少なくとも一つの転動体を介して長手方向に相対移動可能な2つの案内レールと、前記転動体を保持すると共に、前記2つの案内レールの少なくとも一つに設けられる噛合部に係合する歯車を回転可能に保持する保持器と、を備える直動案内装置において、前記噛合部は、前記案内レールの前記長手方向に並べられる複数の丸穴を備え、前記丸穴は、その壁面が円筒形に形成され、前記歯車の歯の歯先部の回転方向の長さが、前記歯先部の歯幅よりも長い直動案内装置である。
本発明の第3の態様は、少なくとも一つの転動体を介して長手方向に相対移動可能な2つの案内レールと、前記転動体を保持すると共に、前記2つの案内レールの少なくとも一つに設けられる噛合部に係合する歯車を回転可能に保持する保持器と、を備える直動案内装置において、前記噛合部は、前記案内レールの前記長手方向に並べられる複数の丸穴を備え、前記丸穴は、その壁面が円筒形に形成され、前記歯車の回転軸方向視において、前記歯車の歯の歯元部がくびれている直動案内装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、歯車に係合する噛合部を複数の丸穴にするので、案内レールに噛合部を容易に設けることができる。また、歯車の歯の歯先部と丸穴の壁面との間の歯車の回転軸方向の隙間(g2)が回転方向の隙間(g1)よりも大きいので、歯車の軸振れを許容した上で歯先部の断面積を大きくすることができる。さらに、隙間(g1)が隙間(g2)よりも小さいので、歯車が回転方向に動いてしまうのを防止できる。
本発明の第2の態様によれば、歯車に係合する噛合部を複数の丸穴にするので、案内レールに噛合部を容易に設けることができる。また、歯車の歯の歯先部の回転方向の長さが、歯先部の歯幅よりも長いので、隙間(g2)を隙間(g1)よりも大きくすることができ、歯車の軸振れを許容した上で歯先部の断面積を大きくすることができる。さらに、隙間(g1)が隙間(g2)よりも小さいので、歯車が回転方向に動いてしまうのを防止することができる。
本発明の第3の態様によれば、歯車に係合する噛合部を複数の丸穴にするので、案内レールに噛合部を容易に設けることができる。また、歯車の回転軸方向視において、歯車の歯の歯元部がくびれているので、丸穴の口元部と歯が干渉するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の直動案内装置の斜視図である。
図2】本実施形態の直動案内装置の内部構造図である。
図3】本実施形態の直動案内装置の転動体と歯車を示す斜視図である。
図4】本実施形態の直動案内装置の案内レールと歯車を示す斜視図(一部に案内レールの断面図を含む)である。
図5】本実施形態の直動案内装置の案内レールの詳細図(図5(a)は正面図、図5(b)は図5(a)のb-b線断面図)である。
図6】本実施形態の直動案内装置の歯車の詳細図(図6(a)は斜視図、図6(b)は側面図、図6(c)は平面図)である。
図7】本実施形態の直動案内装置の丸穴と歯車の歯を示す図である(図7(a)は丸穴に歯車の歯が入り始めた状態を示し、図7(b)は歯の歯先部が丸穴の壁面に接触した状態を示す)。
図8】本実施形態の直動案内装置の丸穴と歯先部の断面図である。
図9】歯先部の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の直動案内装置を説明する。ただし、本発明の直動案内装置は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態の直動案内装置1の斜視図である。2,3は、案内レールである。案内レール2,3それぞれには、断面V字状の軌道溝4,5が形成される。軌道溝4は、互いに直角な軌道面7a,7bを備える。軌道溝5は、互いに直角な軌道面8a,8bを備える。案内レール2,3は、ローラ9a,9b(図2参照)を介して長手方向に相対的に移動可能である。
【0013】
案内レール2には、ベース等に取り付けるための取付け孔2aが形成される。案内レール3には、テーブル等に取り付けるための取付け孔3aが形成される。案内レール3の形状は、案内レール2を180°反転させた形状に略等しい。
【0014】
図2は、図1の手前側の案内レール3を省略した状態を示す。図3は、図2の保持器10を省略した状態を示す。案内レール2,3の対向する軌道溝4,5間には、転動体としてのローラ9a,9bが配置される。ローラ9a,9bは、隣り合うローラ9a,9bの軸線が直角であるクロスローラである。ローラ9a,9bは、側面視において略正方形であり、ローラ9a,9bの直径がローラ9a,9bの軸線方向の長さよりも僅かに大きい。ローラ9aの側面が案内レール2の軌道面7aと案内レール3の軌道面8bに接触する。ローラ9bの側面が案内レール2の軌道面7bと案内レール3の軌道面8aに接触する。案内レール2に働く力は、ローラ9a,9bを介して案内レール3に伝わる。
【0015】
なお、本実施形態では、転動体としてクロスローラを使用しているが、転動体としてボールを使用してもよいし、ニードルローラ等のパラレルローラを使用してもよい。
【0016】
図2に示すように、ローラ9a,9bは案内レール2,3に沿って長手方向に延びる保持器10に保持される。ピニオン状の歯車13も保持器10に回転可能に保持される。歯車13は、保持器10の長さ方向の略中央に配置される。
【0017】
図4は、案内レール2,3と歯車13を示す。案内レール2,3の軌道溝4,5の底部には、逃げ溝16,17が形成される。逃げ溝16,17の底面には、ラック状の噛合部2b,3bが形成される。歯車13の歯21は、噛合部2b,3bに係合する。案内レール2,3に対する歯車13の相対位置は、案内レール2,3の相対位置によって決定される。
【0018】
図5は、案内レール2の詳細図を示す。噛合部2bは、案内レール2の長手方向に並べられる複数の丸穴18を備える。丸穴18は、案内レール2の長手方向に等間隔で並べられる。丸穴18は、その壁面18aが円筒形に形成される。すなわち、丸穴18の断面形状は円形であり、丸穴18の断面形状は深さ方向に一定である。丸穴18の中心線18cは案内レール2の長手方向に直交する。案内レール3にも、案内レール2と同様に複数の丸穴18が形成される(図4参照)。
【0019】
丸穴18は、案内レール2,3に直接形成される。また、丸穴18は、例えば先端がフラットなドリル、エンドミル等の切削工具を用いて穴加工される。さらに、丸穴18は、例えばその底面18bがフラットに形成される(図5(b)参照)。なお、丸穴を形成したラックを案内レールに取り付けてもよいし、丸穴を放電加工等により穴加工してもよいし、丸穴の底面を先端が円錐状のドリルに合わせた円錐形に形成してもよい。
【0020】
図6は、歯車13の詳細図を示す。図6(a)に示すように、歯車13は、外周に多数の歯21が形成される円盤部13aと、円盤部13aと一体に形成される軸部13bと、を備える。歯車13は、保持器10に軸部13bを中心に回転可能に支持される。
【0021】
歯車13の歯21は、歯先部21aと、歯元部21bと、を備える。歯先部21aは、直方体の角を丸めた形状をなす。図6(b)(c)に示すように、歯先部21aの回転方向Rの長さLは、歯先部21aの歯幅W(回転軸方向の長さ)よりも長い。なお、図6(c)において、歯先部21aを斜線で示す。
【0022】
図6(b)に示すように、回転軸方向視において、歯元部21bはくびれていて、歯元部21bの回転方向Rの長さTは歯先部21aの回転方向Rの長さLよりも短い。図7は、丸穴18と歯車13の歯21を示す。図7(a)は、丸穴18に歯車13の歯21が入り始めた状態を示し、図7(b)は、歯先部21aが丸穴18の壁面18aに接触した状態を示す。なお、図7(b)において、歯先部21aと丸穴18の壁面18aとの間に隙間があるように見えるが、歯先部21aには紙面の奥行方向(紙面と直交方向)に歯幅Wがあるので、歯先部21aは紙面よりも奥側で丸穴18の壁面18aに接触している。図7(a)(b)に示すように、歯21の歯元部21bは、丸穴18の口元部18a1との干渉を避けられるようにくびれている。
【0023】
図8は、丸穴18と歯先部21aの断面図(丸穴18の軸線と直交する断面図)を示す。上記のように、歯先部21aの回転方向の長さLは歯先部21aの歯幅Wよりも長い。このため、歯先部21aと丸穴18の壁面18aとの間の回転方向の隙間g1は、回転軸方向の隙間g2よりも小さくなる。隙間g2は、歯車13が軸振れする(歯車13が傾く)のを許容するように設けられる。
【0024】
歯先部21aの回転方向の長さLを歯先部21aの歯幅Wよりも長くすれば、隙間g2が隙間g1よりも大きくなる。このため、歯車13の軸振れを許容した上で歯先部21aの断面積を大きくすることができ、歯21の強度を高くすることができる。また、隙間g1が隙間g2よりも小さいので、歯車13が回転方向(案内レール2,3の長手方向)に動いてしまうのを防止することができる。
【0025】
図9は、歯先部21aの断面形状の他の例を示す。図9に示すように、歯先部21aの断面形状は、長方形と半円を組みわせた形状であってもよい。また、図示しないが楕円形状であってもよい。
【0026】
以上に本実施形態の直動案内装置1の構成を説明した。本実施形態の直動案内装置1によれば、以下の効果を奏する。
【0027】
噛合部2b,3bが案内レール2,3の長手方向に並べられる複数の丸穴18を備え、丸穴18はその壁面18aが円筒形に形成されるので、歯車13に係合する噛合部2b,3bの形状をシンプルにすることができ、案内レール2,3に噛合部2b,3bを容易に設けることができる。
【0028】
歯車13の歯21の歯先部21aの回転方向の長さLが、歯先部21aの歯幅Wよりも長いので、隙間g2を隙間g1よりも大きくすることができ、歯車13の軸振れを許容した上で歯先部21aの断面積を大きくすることができる。また、隙間g1が隙間g2よりも小さいので、歯車13が回転方向に動いてしまうのを防止することができる。
【0029】
歯車13の回転軸方向視において、歯21の歯元部21bがくびれているので、丸穴18の口元部18a1と歯21が干渉するのを防止することができる。
【0030】
丸穴18を案内レール2,3に直接形成するので、案内レール2,3に噛合部2b,3bを容易に形成することができる。
【0031】
丸穴18の底面18bをフラットに形成するので、丸穴18と案内レール2,3の取付け孔2a,3aとの干渉を防止できる。
【0032】
丸穴18を切削工具によって案内レール2,3に穴加工するので、案内レール2,3に丸穴18を容易に加工することができる。
【0033】
なお、本実施形態の直動案内装置は、工作機械を始め半導体・液晶製造装置(例えば、実装機)や、ロボットなどの産業機械分野から、システムキッチン、各種ゲーム機、医療機械、食品機械、搬送装置といった民生分野まで、幅広い分野に要素部品として組み込むことができる。
【符号の説明】
【0034】
1…直動案内装置、2,3…案内レール、2b,3b…噛合部、9a,9b…ローラ(転動体)、10…保持器、13…歯車、18…丸穴、18a…丸穴の壁面、18b…丸穴の底面、21…歯車の歯、21a…歯先部、21b…歯元部、L…歯先部の回転方向の長さ、W…歯先部の歯幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9