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  • 特許-電極及びリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】電極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20240815BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240815BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240815BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240815BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20240815BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240815BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20240815BHJP
   C01G 45/12 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/525
H01M4/505
C01G51/00 A
C01G53/00 A
C01B25/45 Z
C01G45/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021013593
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2021163742
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2020059287
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】大槻 佳太郎
(72)【発明者】
【氏名】野島 昭信
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智彦
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-504415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 51/00
C01G 53/00
C01B 25/45
C01G 45/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、導電助剤と、バインダーと、を含む活物質層を備え、
前記活物質は、リチウム遷移金属酸化物を主成分とする活物質粒子を含み、
前記活物質粒子は、空間群がR-3mであるコア部と、前記コア部の外周部の少なくとも一部を被覆する空間群がFm-3mである被覆部と、を有
前記活物質粒子は、前記コア部が、下記式(1)で表される化合物を含み、前記被覆部が、下記式(2)で表される化合物を含む、電極。
Li M1O ・・・(1)
(但し、式(1)において、M1は、Co、Ni及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属を表し、aは、0≦a≦1.2を満たす数を表す。)
Li 1-x M2 ・・・(2)
(但し、式(2)において、M2は、Co、Ni及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属を表し、x、y及びzは、0.5≦x≦1、1≦y≦2、1≦z≦3を満たす数を表す。)
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物と、前記式(2)で表される化合物とは互いに同一の遷移金属を少なくとも一つ含む、請求項に記載の電極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電極を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極及びリチウムイオン二次電池に関する。
本願は、2020年3月30日に、日本に出願された特願2020-059287号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭電器においてポータブル化、コードレス化が急速に進むに従い、ラップトップ型パソコン、携帯電話、ビデオカメラ等の小型電子機器の電源として非水電解質二次電池が実用化されている。この非水電解質二次電池については、コバルト酸リチウム(LiCoO)に関する研究開発が活発に進められており、これまで多くの提案がなされている。
【0003】
例えば、リチウム-遷移金属複合酸化物を活物質とする正極を備えるリチウム二次電池において、前記正極の表面に、BeO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Al、CeO、As又はこれらの2種以上の混合物からなる被膜が形成されていることを特徴とするリチウム二次電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、負極、正極、リチウム塩を含む非水電解質からなる可逆的に複数回の充放電が可能な電池において、前記正極の回りにTi、Al、Sn、Bi、Cu、Si、Ga、W、Zr、B、Moから選ばれた少なくとも1種を含む金属及びまたはこれらの複数個の組合せにより得られる金属間化合物、及びまたは酸化物を被覆したものを使用することを特徴とする正極およびそれを用いた電池が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-236114号公報
【文献】特開平11-16566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
小型電子機器の電源として用いられる二次電池は、種々の使用環境下において充放電を繰り返したときの容量の低下が少ないこと、すなわち優れたサイクル特性を有することが望ましい。しかしながら、リチウムイオン二次電池は、夏場の自動車内のような高温環境下においては、サイクル特性が低下しやすい傾向があった。
【0007】
本開示は上記問題に鑑みてなされたものであり、高温環境下でのサイクル特性に優れる電極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、空間群がR-3mであるリチウム遷移金属酸化物をコア部とし、このコア部の外周部を、空間群がFm-3mである被覆部で被覆した構成の活物質粒子を用いることにより高温環境下におけるサイクル特性が向上することを見出した。
したがって、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
[1]第1の態様に係る電極は、活物質と、導電助剤と、バインダーと、を含む活物質層を備え、前記活物質は、リチウム遷移金属酸化物を主成分とする活物質粒子を含み、前記活物質粒子は、空間群がR-3mであるコア部と、前記コア部の外周部の少なくとも一部を被覆する空間群がFm-3mである被覆部と、を有する。
【0010】
[2]上記態様に係る電極において、前記活物質粒子は、前記コア部が、下記式(1)で表される化合物を含み、前記被覆部が、下記式(2)で表される化合物を含む構成であってもよい。
LiM1O・・・(1)
(但し、式(1)において、M1は、Co、Ni及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属を表し、aは、0≦a≦1.2を満たす数を表す。)
Li1-xM2・・・(2)
(但し、式(2)において、M2は、Co、Ni及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属を表し、x、y及びzは、0.5≦x≦1、1≦y≦2、1≦z≦3を満たす数を表す。)
【0011】
[3]上記態様に係る電極において、前記式(1)で表される化合物と、前記式(2)で表される化合物とは互いに同一の遷移金属を少なくとも一つ含む構成であってもよい。
【0012】
[4]第2の態様に係るリチウムイオン二次電池は、上記態様に係る電極を含む。
【発明の効果】
【0013】
上記の態様に係る電極及びリチウムイオン二次電池は、高温環境下でのサイクル特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式図である。
図2】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正極に用いられる活物質粒子の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法、数、数値、形状等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0016】
「リチウムイオン二次電池」
図1は、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の模式図である。図1に示すリチウムイオン二次電池100は、発電素子40と外装体50と非水電解液(図示略)とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。非水電解液は、外装体50内に収容されている。
【0017】
(発電素子)
発電素子40は、正極20と負極30とセパレータ10とを備える。
【0018】
<セパレータ>
セパレータ10は、正極20と負極30とに挟まれる。セパレータ10は、正極20と負極30とを隔離し、正極20と負極30との短絡を防ぐ。リチウムイオンは、セパレータ10を通過できる。
【0019】
セパレータ10は、例えば、電気絶縁性の多孔質構造を有する。セパレータ10は、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いはセルロース、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
【0020】
セパレータ10は、例えば、固体電解質であってもよい。固体電解質は、例えば、高分子固体電解質、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質である。高分子固体電解質は、例えば、ポリエチレンオキサイド系高分子にアルカリ金属塩を溶解させたものである。酸化物系固体電解質は、例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO(ナシコン型)、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO(ガラスセラミックス)、Li0.34La0.51TiO2.94(ペロブスカイト型)、LiLaZr12(ガーネット型)、Li2.9PO3.30.46(アモルファス、LIPON)、50LiSiO・50LiBO(ガラス)、90LiBO・10LiSO(ガラスセラミックス)である。硫化物系固体電解質は、例えば、Li3.25Ge0.250.75(結晶)、Li10GeP12(結晶、LGPS)、LiPSCl(結晶、アルジロダイト型)、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3(結晶)、Li3.250.95(ガラスセラミックス)、Li11(ガラスセラミックス)、70LiS・30P(ガラス)、30LiS・26B・44LiI(ガラス)、50LiS・17P・33LiBH(ガラス)、63LiS・36SiS・LiPO(ガラス)、57LiS・38SiS・5LiSiO(ガラス)である。
【0021】
<正極>
正極20は、正極集電体22と正極活物質層24とを有する。正極活物質層24は、正極集電体22の少なくとも一面に形成されている。
【0022】
[正極集電体]
正極集電体22は、例えば、導電性の板材である。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属薄板である。
【0023】
[正極活物質層]
正極活物質層24は、例えば、正極活物質と導電助剤とバインダーとを有する。
【0024】
正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物を主成分とする正極活物質粒子を含む。
図2は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正極に用いられる活物質粒子の一例の断面図である。図2に示すように、正極活物質粒子25は、コア部26と、コア部26の外周部の少なくとも一部を被覆する被覆部27とを有する。
【0025】
コア部26は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入し、活物質と作用する部分である。コア部26は、空間群がR-3mとされている。コア部26は、下記式(1)で表される化合物を含む。
LiM1O・・・(1)
(但し、式(1)において、M1は、Co、Ni及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属を表し、aは、0≦a≦1.2を満たす数を表す。)
【0026】
式(1)で表される化合物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO、以下、LCOともいう)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、LiNiCoMn(x+y+z=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1)で表されるリチウム複合金属酸化物などのリチウム遷移金属酸化物を用いることができる。リチウム複合金属酸化物は、Ni、Co、Mnを含む三元系リチウム複合金属酸化物(以下、NCMまたはNMCともいう)であることが好ましい。
【0027】
被覆部27は、空間群がFm-3mとされている。被覆部27は、下記式(2)で表される化合物を含む。
Li1-xM2・・・(2)
(但し、式(2)において、M2は、Co、Ni及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属を表し、x、y及びzは、0.5≦x≦1、1≦y≦2、1≦z≦3を満たす数を表す。)
【0028】
式(2)で表される化合物としては、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化マンガン及びコバルト、ニッケル、マンガンのうちの2種以上含む酸化物を用いることができる。また、上記リチウム複合金属酸化物のリチウムが欠損して空間群がFm-3mとなったものを用いることができる。
【0029】
コア部26を形成する化合物と被覆部27を形成する化合物は、互いに同一の遷移金属を少なくとも一つ含むことが好ましい。例えば、コア部26がLCOを含む場合、被覆部27は、酸化コバルト、ニッケル及びマンガンのうちの少なくとも1種とコバルトを含む酸化物、コバルト酸リチウム又はコバルトを含むリチウム複合金属酸化物からリチウムが欠損したものを含むことが好ましい。
【0030】
コア部26の空間群がR-3mであって、被覆部27の空間群がFm-3mであることは、電子線回折法により確認することができる。電子線回折法は、電子線を試料に照射することによって得られる回折パターンから試料の結晶構造を求める方法である。
【0031】
正極活物質粒子25のコア部26の平均粒子径は5μm以上15μm以下の範囲内にあることが好ましい。被覆部27の厚さは、0.1μm以上1.5μm以下の範囲内にあることが好ましい。被覆部27の厚さは、0.2μm以上1.0μm以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0032】
なお、図2に示した正極活物質粒子25は、コア部26全体が被覆部27で被覆されているが、被覆部27は、コア部26全体を被覆する必要は必ずしもない。被覆部27は、コア部26の少なくとも一部を被覆していればよい。ただし、被覆部27は、コア部26の表面の50%以上を被覆していることが好ましい。
【0033】
正極活物質粒子25の被覆部27を形成する方法としては、例えば、メカニカルミリング法を用いることができる。メカニカルミリング法は、コア部26の材料となる活物質材料粒子と被覆部27の材料となる被覆材微粒子とを粉砕混合することによって、活物質材料粒子の表面に被覆材微粒子を堆積させる方法である。また、被覆部27の形成方法として、PVD法(物理気相成長法)、CVD法(化学気相成長法)、スパッタ法などの薄膜形成法を用いることができる。さらに、被覆部27の形成方法として、空間群がR-3mのリチウム遷移金属酸化物を、テトラフルオロホウ酸ニトロニウムを溶解したアセトニトリル溶媒中に浸漬して、リチウム遷移金属酸化物の表面から化学的にリチウムを脱離させた後に加熱することによって、リチウム遷移金属酸化物の表面の空間群をFm-3mに変化させる方法を用いることができる。
【0034】
バインダーは、正極活物質層24における正極活物質同士を結合する。バインダーは、公知のものを用いることができる。バインダーは、例えば、フッ素樹脂である。フッ素樹脂は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等である。
【0035】
上記の他に、バインダーは、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムでもよい。
【0036】
導電助剤は、正極活物質層24における正極活物質間の導電性を高める。導電助剤は、例えば、カーボンブラック類等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物である。導電助剤は、カーボンブラック等の炭素材料が好ましい。活物質のみで十分な導電性を確保できる場合は、正極活物質層24は導電助剤を含まなくてもよい。
【0037】
また正極活物質層24は、固体電解質又はゲル電解質を含んでもよい。固体電解質は、例えば、セパレータに用いることができるものと同様である。
【0038】
<負極>
負極30は、例えば、負極集電体32と負極活物質層34とを有する。負極活物質層34は、負極集電体32の少なくとも一面に形成されている。
【0039】
[負極集電体]
負極集電体32は、例えば、導電性の板材である。負極集電体32は、正極集電体22と同様のものを用いることができる。
【0040】
[負極活物質層]
負極活物質層34は、負極活物質を含む。また必要に応じて、導電材、バインダー、固体電解質を含んでもよい。
【0041】
負極活物質は、イオンを吸蔵・放出可能な化合物であればよく、公知のリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を使用できる。負極活物質は、例えば、金属リチウム、リチウム合金、イオンを吸蔵・放出可能な黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、アルミニウム、シリコン、スズ、ゲルマニウム等のリチウム等の金属と化合することのできる半金属または金属、SiO(0<x<2)、二酸化スズ等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)等を含む粒子である。
【0042】
負極活物質層34は、上述のように例えば、シリコン、スズ、ゲルマニウムを含んでもよい。シリコン、スズ、ゲルマニウムは、単体元素として存在してもよいし、化合物として存在してもよい。化合物は、例えば、合金、酸化物等である。一例として、負極活物質がシリコンの場合、負極30はSi負極と呼ばれることがある。負極活物質は、例えば、シリコン、スズ、ゲルマニウムの単体又は化合物と炭素材との混合系でもよい。炭素材は、例えば天然黒鉛である。また負極活物質は、例えば、シリコン、スズ、ゲルマニウムの単体又は化合物の表面が炭素で被覆されたものでもよい。炭素材及び被覆された炭素は、負極活物質と導電助剤との間の導電性を高める。負極活物質層がシリコン、スズ、ゲルマニウムを含むと、リチウムイオン二次電池100の容量が大きくなる。
【0043】
負極活物質層34は、上述のように例えば、リチウムを含んでもよい。リチウムは、金属リチウムでもリチウム合金でもよい。負極活物質層34は、金属リチウム又はリチウム合金でもよい。リチウム合金は、例えば、Si、Sn、C、Pt、Ir、Ni、Cu、Ti、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge、Alからなる群から選択される1種以上の元素と、リチウムと、の合金である。一例として、負極活物質が金属リチウムの場合、負極30はLi負極と呼ばれることがある。負極活物質層34は、リチウムのシートでもよい。
【0044】
負極30は、作製時に負極活物質層34を有さずに、負極集電体32のみであってもよい。リチウムイオン二次電池100を充電すると、負極集電体32の表面に金属リチウムが析出する。金属リチウムはリチウムイオンが析出した単体のリチウムであり、金属リチウムは負極活物質層34として機能する。
【0045】
導電材及びバインダーは、正極20と同様のものを用いることができる。負極30におけるバインダーは、正極20に挙げたものの他に、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等でもよい。セルロースは、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)でもよい。
【0046】
(端子)
端子60、62は、それぞれ正極20と負極30とに接続されている。正極20に接続された端子60は正極端子であり、負極30に接続された端子62は負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。接続方法は、溶接でもネジ止めでもよい。端子60、62は短絡を防ぐために、絶縁テープで保護することが好ましい。
【0047】
(外装体)
外装体50は、その内部に発電素子40及び非水電解液を密封する。外装体50は、非水電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止する。
【0048】
外装体50は、例えば図1に示すように、金属箔52と、金属箔52の各面に積層された樹脂層54と、を有する。外装体50は、金属箔52を高分子膜(樹脂層54)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。
【0049】
金属箔52としては例えばアルミ箔を用いることができる。樹脂層54には、ポリプロピレン等の高分子膜を利用できる。樹脂層54を構成する材料は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の高分子膜の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができる。
【0050】
(非水電解液)
非水電解液は、外装体50内に封入され、発電素子40に含浸している。
非水電解液は、例えば、非水溶媒と電解質とを有する。電解質は、非水溶媒に溶解している。
【0051】
非水溶媒は、例えば、環状カーボネートと、鎖状カーボネートと、を含有する。環状カーボネートは、電解質を溶媒和する。環状カーボネートは、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートである。鎖状カーボネートは、環状カーボネートの粘性を低下させる。鎖状カーボネートは、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。非水溶媒は、その他、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等を有してもよい。
【0052】
環状カーボネートまたは鎖状カーボネートは、水素の一部がフッ素に置換されていてもよい。例えば、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等を用いてもよい。
【0053】
非水溶媒中の環状カーボネートと鎖状カーボネートの割合は体積にして1:9~1:1にすることが好ましい。
【0054】
電解質は、例えば、リチウム塩である。電解質は、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiCFCFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)、LiBOB等である。リチウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。電離度の観点から、電解質はLiPFを含むことが好ましい。
【0055】
非水溶媒は、例えば、常温溶融塩を有してもよい。常温溶融塩は、カチオンとアニオンの組合せによって得られる100℃未満でも液体状の塩である。常温溶融塩は、イオンのみからなる液体であるため、静電的な相互作用が強く、不揮発性、不燃性と言う特徴を有する。
【0056】
常温溶融塩のカチオン成分としては、窒素を含む窒素系カチオン、リンを含むリン系カチオン、硫黄を含む硫黄系カチオンなどが挙げられる。これらのカチオン成分は、1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上を組合せて含んでいてもよい。
窒素系カチオンとしては、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、アゾニアスピロカチオンなど鎖状または環状のアンモニウムカチオンが挙げられる。
リン系カチオンとしては、鎖状または環状のホスホニウムカチオンが挙げられる。
硫黄系カチオンの例としては、鎖状または環状のスルホニウムカチオンが挙げられる。
カチオン成分としては、特に、リチウムイミド塩を溶解させた際に、高いリチウムイオン伝導を有し、かつ広い酸化還元耐性をもつため、窒素系カチオンであるN-メチル-N-プロピル-ピロリジニウム(P13)が好ましい。
【0057】
常温溶融塩のアニオン成分としては、AlCl 、NO 、NO 、I、BF 、PF 、AsF 、SbF 、NbF 、TaF 、F(HF)2.3 、p-CHPhSO 、CHCO 、CFCO 、CHSO 、CFSO 、(CFSO、CCO、CSO 、(FSO(ビス(フルオロスルホニル)イミド)(FSI)、(CFSO(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(TFSI)、(CSO(ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)、(CFSO)(CFCO)N((トリフルオロメタンスルホニル)(トリフルオロメタンカルボニル)イミド)、(CN)(ジシアノイミド)等が挙げられる。これらのアニオン成分は、1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上を組合せて含んでいてもよい。
【0058】
「リチウムイオン二次電池の製造方法」
まず正極20を作製する。正極20は、正極活物質、バインダー及び溶媒を混合して、ペースト状の正極スラリーを作製する。正極スラリーを構成するこれらの成分の混合方法は特に制限されず、混合順序もまた特に制限されない。次いで、正極スラリーを、正極集電体22に塗布する。塗布方法は、特に制限はない。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0059】
続いて、正極集電体22上に塗布された正極スラリー中の溶媒を除去する。除去方法は特に限定されない。例えば、正極スラリーが塗布された正極集電体22を、80℃~150℃の雰囲気下で乾燥させる。次いで、得られた塗膜をプレスして、正極活物質層24を高密度化することで、正極20が得られる。プレスの手段は、例えばロールプレス機、静水圧プレス機等を用いることができる。
【0060】
次いで、負極30を作製する。負極30は、正極20と同様に作製できる。負極30は、負極活物質、バインダー及び溶媒を混合して、ペースト状の負極スラリーを作製する。負極スラリーを負極集電体32に塗布し、乾燥することで負極30が得られる。負極活物質が金属リチウムの場合は、負極集電体32にリチウム箔を貼り付けてもよい。
【0061】
次いで、作製した正極20及び負極30の間にセパレータ10が位置するようにこれらを積層して、発電素子40を作製する。発電素子40が捲回体の場合は、正極20、負極30及びセパレータ10の一端側を軸として、これらを捲回する。
【0062】
最後に、発電素子40を外装体50に封入する。非水電解液は外装体50内に注入する。非水電解液を注入後に減圧、加熱等を行うことで、発電素子40内に非水電解液が含浸する。熱等を加えて外装体50を封止することで、リチウムイオン二次電池100が得られる。
【0063】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、正極活物質に含まれる正極活物質粒子25が、空間群がR-3mであるコア部26と、コア部26の外周部の少なくとも一部を被覆する空間群がFm-3mである被覆部27とを有する。空間群がR-3mであるコア部26は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入し、活物質として優れている。これに対して、空間群がFm-3mである被覆部27は化学的に非活性で、電解液を分解させにくい。また、空間群R-3mと空間群Fm-3mとは結晶構造の規則性が類似していることから、コア部26と被覆部27との界面に結晶の歪みや結晶欠陥が生成しにくく、コア部26と被覆部27とはそれぞれ結晶構造の連続性が高くなる。このため、正極活物質粒子25は、高温環境下にあっても、コア部26と被覆部27とが剥離しにくく、コア部26がリチウムイオンを脱挿入しても電解液を分解させにくい。よって、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、高温環境下にあっても、長期間にわたってサイクル特性が向上する。尚、この効果は、被覆部27の厚みが所定の範囲にあるとき、特に得られやすい。
【0064】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池100においては、コア部26が上記の式(1)で表される化合物を含み、被覆部27が上記の式(21)で表される化合物を含む場合は、コア部26と被覆部27とは化学構造がより近くなるため、コア部26と被覆部27との親和性が高くなる。このため、正極活物質粒子25は高温環境下にあっても、コア部26と被覆部27とがより剥離しにくく、電解液をより分解させにくくなる。よって、リチウムイオン二次電池100は、高温環境下にあっても、より長期間にわたってサイクル特性が向上する。
【0065】
さらに、上記の本実施形態のリチウムイオン二次電池100においては、上記の式(1)で表される化合物と、上記の式(2)で表される化合物とは互いに同一の遷移金属を少なくとも一つ含む場合は、コア部26と被覆部27の親和性がさらに高くなる。このため、コア部26と被覆部27とがさらに剥離しにくく、電解液をさらに分解させにくくなる。よって、リチウムイオン二次電池100は、高温環境下にあっても、さらに長期間にわたってサイクル特性が向上する。
【0066】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、本実施形態における各構成及びそれらの組合せ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、活物質粒子を正極活物質として用いたが、これに限定されるものではない。活物質粒子は、正極及び負極のいずれの電極にも使用することができる。
【実施例
【0067】
本実施例では、下記の被覆材料を作製した。
(1)Li0.5CoO微粉末
LCO(LiCoO)粉末(結晶構造:空間群R-3m、平均粒子径:8.0μm)とテトラフルオロホウ酸ニトロニウムを溶解したアセトニトリル溶媒とを混合し、撹拌してLCO分散液を調製した。得られたLCO分散液をろ過し、水で洗浄した後、100℃で乾燥した。得られた粉末をボールミルに投入して、300分間湿式粉砕した。
【0068】
得られた粉体の組成を分析したところ、粉末はLi0.5CoO微粉末であることが確認された。粉体の組成は、粉体を酸に溶解し、得られた溶液中の金属成分を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて測定することによって求めた。また、得られたLi0.5CoO微粉末のX線回折パターンを測定したところ、空間群はFm-3mであった。さらに、得られたLi0.5CoO微粉末の粒度分布を、レーザー回折・散乱式の粒子径分布(粒度分布)測定装置を用いて測定したところ、平均粒子径は、0.1μmであった。
【0069】
(2)Li0.3CoO微粉末
LCO(LiCoO)粉末に対するテトラフルオロホウ酸ニトロニウムの比率を変更したこと以外は、上記(1)のLi0.5CoO微粉末の作製と同様にして、Li0.3CoO微粉末を得た。得られたLi0.3CoO微粉末は、結晶構造が空間群Fm-3mであり、平均粒子径が0.1μmであった。
【0070】
(3)Li0.2CoO微粉末
LCO(LiCoO)粉末に対するテトラフルオロホウ酸ニトロニウムの比率を変更したこと以外は、上記(1)のLi0.5CoO微粉末の作製と同様にして、Li0.2CoO微粉末を得た。得られたLi0.2CoO微粉末は、結晶構造が空間群Fm-3mであり、平均粒子径が0.1μmであった。
【0071】
(4)CoO微粉末
LCO(LiCoO)粉末に対するテトラフルオロホウ酸ニトロニウムの比率を変更したこと以外は、上記(1)のLi0.5CoO微粉末の作製と同様にして、CoO微粉末を得た。得られたCoO微粉末は、結晶構造が空間群Fm-3mであり、平均粒子径が0.1μmであった。
【0072】
(5)CoO微粉末
酸化コバルト(II)粉末と水とを混合してCoOの分散液を調製した。得られた分散液をボールミルに投入して、360分間湿式粉砕した。次いで、ろ過により、分散液からCoO微粉末を回収し、水で洗浄した後、100℃で乾燥した。得られたCoO微粉末は、結晶構造が空間群Fm-3mであり、平均粒子径が0.1μmであった。
【0073】
(6)Co微粉末
酸化コバルト(III)粉末と水とを混合してCoの分散液を調製した。得られた分散液をボールミルに投入して、360分間湿式粉砕した。次いで、ろ過により、分散液からCo微粉末を回収し、水で洗浄した後、100℃で乾燥した。得られたCo微粉末は、結晶構造が空間群Fm-3mであり、平均粒子径が0.1μmであった。
【0074】
(7)NiO微粉末
酸化ニッケル(II)粉末と水とを混合してNiOの分散液を調製した。得られた分散液をボールミルに投入して、360分間湿式粉砕した。次いで、ろ過により、分散液からNiO微粉末を回収し、水で洗浄した後、100℃で乾燥した。得られたNiO微粉末は、結晶構造が空間群Fm-3mであり、平均粒子径が0.1μmであった。
【0075】
(8)Ni0.5Co0.5微粉末
LiNi0.5Co0.5粉末(結晶構造:空間群R-3m)とテトラフルオロホウ酸ニトロニウムを溶解したアセトニトリル溶媒とを混合してLiNi0.5Co0.5の分散液を調製した。LiNi0.5Co0.5分散液におけるLiNi0.5Co0.5粉末とテトラフルオロホウ酸ニトロニウムとの比率は、モル比で1.0:1.0とした。得られたLiNi0.5Co0.5分散液をろ過し、水で洗浄した後、100℃で乾燥した。得られた粉末を大気雰囲気下、400℃で2時間熱処理を行った後、ボールミルに投入して、300分間湿式粉砕した。粉砕後、100℃で乾燥することでNi0.5Co0.5微粉末を得た。得られた乾燥物は、Ni0.5Co0.5微粉末であった。Ni0.5Co0.5微粉末は、結晶構造が空間群Fm-3mであり、平均粒子径は、0.1μmであった。
【0076】
(9)LCO微粉末
上記(1)で使用したLCO粉末と水とを混合してLCOの分散液を調製した。得られた分散液をボールミルに投入して、300分間湿式粉砕した。次いで、ろ過により、分散液からLCO微粉末を回収し、水で洗浄した後、100℃で乾燥した。得られたLCO微粉末は、結晶構造が空間群R-3mであり、平均粒子径が0.1μmであった。
【0077】
(10)NCM333微粉末
LiNi1/3Co1/3Mn1/3粉末(結晶構造:空間群R-3m)と水とを混合してNCM333の分散液を調製した。得られた分散液をボールミルに投入して、300分間湿式粉砕した。次いで、ろ過により、分散液から固形物を回収し、水で洗浄した後、100℃で乾燥した。得られた乾燥物は、NCM333微粉末であった。得られたNCM333微粉末は、結晶構造が空間群R-3mであり、平均粒子径は、0.1μmであった。
【0078】
(11)NMC622微粉末
LiNi0.6Co0.2Mn0.2(NMC622)粉末(結晶構造:空間群R-3m)と水とを混合してNMC622の分散液を調製した。得られた分散液をボールミルに投入して、300分間湿式粉砕した。次いで、ろ過により、分散液から固形物を回収し、水で洗浄した後、100℃で乾燥した。得られた乾燥物は、NMC622微粉末であった。得られたNMC622微粉末は、結晶構造が空間群R-3mであり、平均粒子径は、0.1μmであった。
【0079】
(12)LFP微粉末
リン酸鉄リチウム(LiFePO、LFP)粉末(結晶構造:空間群Pnma)と水とを混合してLFPの分散液を調製した。得られた分散液をボールミルに投入して、300分間湿式粉砕した。次いで、ろ過により、分散液から固形物を回収し、水で洗浄した後、100℃で乾燥した。得られた乾燥物は、LFP微粉末であった。得られたLFP微粉末は、結晶構造が空間群Pnmaであり、平均粒子径は、0.0.6μmであった。
【0080】
(13)LMO微粉末
LiMn(LMO)粉末(結晶構造:空間群Fd-3m)と水とを混合してLMOの分散液を調製した。得られた分散液をボールミルに投入して、300分間湿式粉砕した。次いで、ろ過により、分散液から固形物を回収し、水で洗浄した後、100℃で乾燥した。得られた乾燥物は、LMO微粉末であった。得られたLMO微粉末は、結晶構造が空間群R-3mであり、平均粒子径は、0.1μmであった。
【0081】
[実施例1]
(正極活物質の作製)
LiCoO(LCO)粉末(結晶構造:空間群R-3m、平均粒子径:10.5μm)と、上記(1)で作製したLi0.5CoO微粉末とを、質量比で96:4の割合で混合した。得られた混合物を、ボールミルに投入して乾式粉砕混合した。得られた粉砕混合物を、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、電子線回折法により粒子の内部と外部の結晶構造を測定した。その結果、得られた正極活物質は、空間群R-3mのLCO(コア部)と空間群Fm-3mのLi0.5CoO(被覆部)とを有する正極活物質粒子を含むことが確認された。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した正極活物質粒子は、平均粒子径が11.7μmであり、被覆部の厚さが1.2μmであった。
【0082】
(正極の作製)
上記で作製した正極活物質と導電材とバインダーとを混合し、正極合材を作製した。導電材はカーボンブラック、バインダーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)とした。正極活物質と、導電材と、バインダーは質量比で96:2:2とした。この正極合材を、N-メチル-2-ピロリドンに分散させて正極スラリーを作製した。そして、厚さ15μmのアルミニウム箔の一面に、乾燥後の目付量が約10.0mg/cmとなるように正極スラリーを塗布した。塗布後に、100℃で乾燥させ、溶媒を除去してアルミニウム箔の一面に正極活物質層を形成した。乾燥後に、アルミニウム箔のもう一面に、乾燥後の目付量が約10.0mg/cmとなるように正極スラリーを塗布した。塗布後に、100℃で乾燥させ、溶媒を除去してアルミニウム箔の両面に正極活物質層を形成した。
【0083】
(負極の作製)
負極活物質と導電材とバインダーとを混合し、負極合材を作製した。負極活物質はグラファイト、バインダーはスチレン・ブタジエンゴム(SBR)とし、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を加えた。負極活物質とバインダーおよび増粘剤は質量比で95:3:2とした。この負極合材を、蒸留水に分散させて負極スラリーを作製した。そして、厚さ10μmの銅箔の一面に、乾燥後の目付量が約6.0mg/cmとなるように負極スラリーを塗布した。塗布後に、100℃で乾燥させ、溶媒を除去して銅箔の一面に負極活物質層を形成した。乾燥後に、銅箔のもう一面に、乾燥後の目付量が約6.0mg/cmとなるように負極スラリーを塗布した。塗布後に、100℃で乾燥させ、溶媒を除去して銅箔の両面に負極活物質層を形成した。
【0084】
(セルの作製)
作製した負極と正極とを、所定の形状に打ち抜き、厚さ25μmのポリプロピレン製のセパレータを介して交互に積層し、負極9枚と正極8枚とを積層することで積層体を作製した。
【0085】
積層体を、アルミラミネートフィルムの外装体内に挿入して周囲の1箇所を除いてヒートシールすることにより開口部を形成した。外装体内には、非水電解液を注入した。非水電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DEC)が等量混合された溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)1.5mol/Lを溶解させた。そして、残りの1箇所を真空シール機によって減圧しながらヒートシールで密封し、実施例1に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0086】
(電池の評価:サイクル特性)
作製したリチウムイオン二次電池のサイクル特性を、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて、60℃の環境下で評価した。サイクル特性は、0.5Cで4.35Vまで定電流定電圧充電し、1Cで2.8Vまで定電流放電する充放電サイクルを1000サイクル繰り返すことにより評価した。下記の表1に、初期容量に対する容量維持率と比較例1に対する相対容量を示す。なお、初期容量に対する容量維持率は、初期(1回目)のサイクル目の放電容量を100%としたときの1000サイクル目の放電容量である。比較例1に対する相対容量は、後述の比較例1で作製したリチウムイオン二次電池の1000サイクル目の放電容量を100としたときの1000サイクル目の放電容量の相対値である。
【0087】
[実施例2~8、比較例1~6]
実施例2~8及び比較例2~6は、正極活物質の作製において、被覆材料としてLi0.5CoO微粉末の代わりに、下記の材料を用いた点が実施例1と異なる。なお、得られた正極活物質は、空間群R-3mのコア部と被覆部とを有する正極活物質粒子を含むことが確認された。比較例1は、LCO粉末を被覆材料で被覆せずに、LCO粉末を正極活物質とした。
【0088】
実施例2は、上記(2)で作製したLi0.3CoO微粉末を用いた。
実施例3は、上記(3)で作製したLi0.2CoO微粉末を用いた。
実施例4は、上記(4)で作製したCoO微粉末を用いた。
実施例5は、上記(5)で作製したCoO微粉末を用いた。
実施例6は、上記(6)で作製したCo微粉末を用いた。
実施例7は、上記(7)で作製したNiO微粉末を用いた。
実施例8は、上記(8)で作製したNi0.5Co0.5微粉末を用いた。
比較例2は、上記(9)で作製したLCO微粉末を用いた。
比較例3は、上記(10)で作製したNCM333微粉末を用いた。
比較例4は、上記(11)で作製したNMC622微粉末を用いた。
比較例5は、上記(12)で作製したLFP微粉末を用いた。
比較例6は、上記(13)で作製したLMO微粉末を用いた。
実施例2~8及び比較例1~6で作製したリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にサイクル特性を評価した。その結果を、下記の表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
正極活物質粒子のコア部が空間群R-3mのLCOであって、被覆部が空間群Fm-3mの化合物である実施例1~8は、初期容量に対する容量維持率と、比較例1に対する相対容量が向上することが確認された。また、被覆部にCoを含む化合物を用いた実施例1~6、8は初期容量に対する容量維持率と、比較例1に対する相対容量がより向上することが確認された。
【0091】
これに対して、正極活物質粒子の被覆部が、空間群R-3mの化合物(LCO、NCM333、NMC622)である比較例2~4、空間群PnmaのLFPである比較例5、空間群Fd-3mのLMOである比較例6は、正極活物質粒子がLCO粉末である比較例1と比較して、初期容量に対する容量維持率及び相対容量が同等もしくはわずかに低下した。これは、被覆部がリチウムを脱挿入することによって、被覆部の表面で電解液が分解したためであると考えられる。
【0092】
[実施例9~16、比較例7~8]
実施例9~16及び比較例7~8は、正極活物質の作製において、活物質材料としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM333)粉末(結晶構造:空間群R-3m、平均粒子径:9.0μm)を用い、被覆材料として下記の材料を用いた点が実施例1と異なる。なお、得られた正極活物質は、空間群R-3mのコア部と被覆部とを有する正極活物質粒子を含むことが確認された。比較例7は、NCM333粉末を被覆材料で被覆せずに、NCM333粉末を正極活物質とした。
【0093】
実施例9は、上記(1)で作製したLi0.5CoO微粉末を用いた。
実施例10は、上記(2)で作製したLi0.3CoO微粉末を用いた。
実施例11は、上記(3)で作製したLi0.2CoO微粉末を用いた。
実施例12は、上記(4)で作製したCoO微粉末を用いた。
実施例13は、上記(5)で作製したCoO微粉末を用いた。
実施例14は、上記(6)で作製したCo微粉末を用いた。
実施例15は、上記(7)で作製したNiO微粉末を用いた。
実施例16は、上記(8)で作製したNi0.5Co0.5微粉末を用いた。
比較例8は、上記(9)で作製したLCO微粉末を用いた。
実施例9~16及び比較例7~8で作製したリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にサイクル特性を評価した。その結果を、下記の表2に示す。なお、相対容量は、比較例7に対する相対量とした。
【0094】
【表2】
【0095】
正極活物質粒子のコア部が空間群R-3mのNCM333である場合においても、被覆部が空間群Fm-3mの化合物である実施例9~16は、初期容量に対する容量維持率と、比較例7に対する相対容量が向上することが確認された。
【0096】
[実施例17~24、比較例9]
実施例17~24及び比較例9は、正極活物質の作製において、活物質材料としてLiNi0.6Co0.2Mn0.2(NMC622)粉末(結晶構造:空間群R-3m、平均粒子径:9.5μm)を用い、被覆材料として下記の材料を用いた点が実施例1と異なる。なお、得られた正極活物質は、空間群R-3mのコア部と被覆部とを有する正極活物質粒子を含むことが確認された。比較例9は、NCM622粉末を被覆材料で被覆せずに、NMC622粉末を正極活物質とした。
【0097】
実施例17は、上記(1)で作製したLi0.5CoO微粉末を用いた。
実施例18は、上記(2)で作製したLi0.3CoO微粉末を用いた。
実施例19は、上記(3)で作製したLi0.2CoO微粉末を用いた。
実施例20は、上記(4)で作製したCoO微粉末を用いた。
実施例21は、上記(5)で作製したCoO微粉末を用いた。
実施例22は、上記(6)で作製したCo微粉末を用いた。
実施例23は、上記(7)で作製したNiO微粉末を用いた。
実施例24は、上記(8)で作製したNi0.5Co0.5微粉末を用いた。
実施例17~24及び比較例9で作製したリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にサイクル特性を評価した。その結果を、下記の表3に示す。なお、相対容量は、比較例9に対する相対量とした。
【0098】
【表3】
【0099】
コア部が空間群R-3mであるNCM622である場合においても、被覆部が空間群Fm-3mの化合物である実施例17~24は、初期容量に対する容量維持率と、比較例9に対する相対容量が向上することが確認された。
【0100】
[比較例10~13]
比較例10~13は、正極活物質の作製において、活物質材料として、リン酸鉄リチウム(LFP)粉末(結晶構造:空間群Pnma、平均粒子径:1.5μm)を用い、被覆材料として下記の材料を用いた点が実施例1と異なる。なお、得られた正極活物質は、空間群Pnmaのコア部と被覆部とを有する正極活物質粒子を含むことが確認された。比較例10は、LFP粉末を被覆材料で被覆せずに、LPF粉末を正極活物質とした。
【0101】
比較例11は、上記(5)で作製したCoO微粉末を用いた。
比較例12は、上記(10)で作製したNCM333微粉末を用いた。
比較例13は、上記(4)で作製したCoO微粉末を用いた。
比較例10~13で作製したリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にサイクル特性を評価した。その結果を、下記の表4に示す。なお、相対容量は、比較例10に対する相対量とした。
【0102】
【表4】
【0103】
正極活物質粒子のコア部の空間群がPnmaである場合は、被覆部が空間群R-3mのLCOである比較例11及びNCM333である比較例12、被覆部が空間群Fm-3mのCoOである比較例13のいずれにおいても、正極活物質がLFP粉末である比較例10と比較して、初期容量に対する容量維持率と相対容量が同等もしくはわずかに低下した。
【0104】
[比較例14~17]
比較例14~17は、正極活物質の作製において、活物質材料としてLiMn(LMO)粉末(結晶構造:空間群Fd-3m、平均粒子径:9.0μm)を用い、被覆材料として下記の材料を用いた点が実施例1と異なる。なお、得られた正極活物質は、空間群Fd-3mのコア部と被覆部とを有する正極活物質粒子を含むことが確認された。比較例14は、LMO粉末を被覆材料で被覆せずに、LMO粉末を正極活物質とした。
【0105】
比較例15は、上記(9)で作製したLCO微粉末を用いた。
比較例16は、上記(12)で作製したLFP微粉末を用いた。
比較例17は、上記(4)で作製したCoO微粉末を用いた。
比較例14~17で作製したリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にサイクル特性を評価した。その結果を、下記の表5に示す。なお、相対容量は、比較例14に対する相対量とした。
【0106】
【表5】
【0107】
正極活物質粒子のコア部の空間群がFd-3m又はFd-4mである場合は、被覆部が空間群R-3mのLCOである比較例15、被覆部が空間群PnmaのLFPである比較例16、被覆部が空間群Fm-3mのCoOである比較例17のいずれにおいても、正極活物質がLMO粉末である比較例14と比較して、初期容量に対する容量維持率と相対容量が同等もしくはわずかに低下した。
【0108】
[実施例25~34]
正極活物質の作製において、LiCoO(LCO)粉末(結晶構造:空間群R-3m、平均粒子径:10.5μm)と、上記(2)で作製したLi0.3CoO微粉末との混合割合と、得られた混合物を乾式粉砕混合したボールミルの条件を除いて、実施例2と同様にリチウムイオン二次電池を作製した。
実施例25~34で作製したリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様にサイクル特性を評価した。その結果を、下記の表6に示す。なお、相対容量は、比較例1に対する相対量とした。
【0109】
【表6】
【0110】
被覆部の厚みが0.1~1.5μmである場合は、比較例1に対する容量維持率と相対容量が向上した。特に、被覆部の厚みが0.2~1.0μmである場合は特に高い容量維持率と相対容量を示した。一方、被覆部の厚みが0.1μmより薄い場合および1.5μmより厚い場合においては容量維持率と相対容量が比較例1と比べ、わずかに向上した。
【符号の説明】
【0111】
10…セパレータ、20…正極、22…正極集電体、24…正極活物質層、25…正極活物質粒子、26…コア部、27…被覆部、30…負極、32…負極集電体、34…負極活物質層、40…発電素子、50…外装体、52…金属箔、54…樹脂層、60,62…端子、100…リチウムイオン二次電池
図1
図2