(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】電気回路の制御装置および電気回路の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20240815BHJP
H02M 3/28 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H02M3/155 H
H02M3/28 H
(21)【出願番号】P 2021023942
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒居 智之
(72)【発明者】
【氏名】川村 正英
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/043262(WO,A1)
【文献】特開2015-146699(JP,A)
【文献】特開2008-104244(JP,A)
【文献】特開2004-297943(JP,A)
【文献】特開2016-073030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00 - 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気回路の制御装置であって、
前記電気回路は、
入力端子および出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子との間に設けられるリアクトルと、
前記入力端子から前記リアクトルに電流を流すか否かを切り替えるスイッチング素子と、
前記リアクトルに流れるリアクトル電流の向きが一方向になるように前記入力端子と前記出力端子との間に設けられるダイオードと、を備え、
前記出力端子に接続された電流制御対象が、前記リアクトルに流れる電流が一時的に0になる電流不連続モードを取り得るように構成され、
前記制御装置は、
前記出力端子に印加されている出力電圧と所定の電圧目標値との偏差に基づいて電流指令値を生成し、前記リアクトル電流を一演算周期あたりに複数回サンプリングし、複数のサンプリング値を平均した電流平均値と前記電流指令値との偏差に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを切り替えるための目標となる電圧指令値を生成し、
前記複数のサンプリング値のそれぞれについて所定の閾値以下であるか否かを判定し、一演算周期あたりのサンプリング数に対する前記閾値以下となった回数の比である不連続割合を算出し、前記不連続割合に前記出力電圧を掛けて余剰電圧を算出し、前記余剰電圧を前記電圧指令値から減算することにより前記電圧指令値を補正する、電気回路の制御装置。
【請求項2】
前記電気回路は、前記入力端子に印加される入力電圧を降圧して前記出力端子に出力する降圧チョッパ回路を含む、請求項1に記載の電気回路の制御装置。
【請求項3】
前記電気回路は、前記スイッチング素子として複数のスイッチング素子がブリッジ接続されたインバータと、前記ダイオードとして複数のダイオードを含む整流回路と、前記インバータの出力を入力とし、出力が前記整流回路に入力されるトランスと、を備えた絶縁型のDC-DCコンバータを含む、請求項1に記載の電気回路の制御装置。
【請求項4】
電気回路の制御方法であって、
前記電気回路は、
入力端子および出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子との間に設けられるリアクトルと、
前記入力端子から前記リアクトルに電流を流すか否かを切り替えるスイッチング素子と、
前記リアクトルに流れるリアクトル電流の向きが一方向になるように前記入力端子と前記出力端子との間に設けられるダイオードと、を備え、
前記出力端子に接続された電流制御対象が、前記リアクトルに流れる電流が一時的に0になる電流不連続モードを取り得るように構成され、
前記制御方法は、
前記出力端子に印加されている出力電圧と所定の電圧目標値との偏差に基づいて電流指令値を生成し、前記リアクトル電流を一演算周期あたりに複数回サンプリングし、複数のサンプリング値を平均した電流平均値と前記電流指令値との偏差に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを切り替えるための目標となる電圧指令値を生成し、
前記複数のサンプリング値のそれぞれについて所定の閾値以下であるか否かを判定し、一演算周期あたりのサンプリング数に対する前記閾値以下となった回数の比である不連続割合を算出し、前記不連続割合に前記出力電圧を掛けて余剰電圧を算出し、前記余剰電圧を前記電圧指令値から減算することにより前記電圧指令値を補正する、電気回路の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路の制御装置および電気回路の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DC-DCコンバータ等、スイッチング素子、リアクトルおよびダイオードを備え、スイッチング素子をPWM(Pulse Width Modulation)制御することにより、入力電圧を変圧して出力する電気回路が知られている。このような電気回路においてリアクトルに流れるリアクトル電流に基づいて制御する(電流制御する)際、負荷がある程度以上であればリアクトルに流れるリアクトル電流は、0にならない(電流連続モード)。しかし、負荷が小さくなるとリアクトル電流が0になる(電流不連続モードになる)場合がある。
【0003】
電流制御においては、一演算周期における所定のタイミングでリアクトル電流をサンプリングしている。所定のタイミングは、電流連続モードにおけるリアクトル電流の平均値に一致するタイミングが選択される。しかし、電流不連続モードにおいては、電流連続モードとは異なり、電気回路動作が非線形となる。このため、電流連続モードと同じタイミングでリアクトル電流をサンプリングしても、サンプリングした電流はそのときのリアクトル電流の平均値に一致しない問題がある。
【0004】
また、電流不連続モードでは、スイッチング素子がオフしているにもかかわらずダイオードに逆電圧が印加される状態が生じる。この状態は、電流連続モードでは生じないため、PWM制御の外乱となる。
【0005】
このように、電流不連続モードにおいて電流制御を続けると、これらの問題が生じ、適切な電流制御を行うことができない。このため、従来では、電流不連続モードを検出し、電流不連続モード時にはPWM制御からPFM(Pulse Frequency Modulation)制御に切り替えることも行われている。電流不連続モードを検出する態様としては下記特許文献1が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、電流不連続モードを検出したり、制御態様を切り替えたりするのは、回路システムおよび制御の複雑化を招く。また、PFM制御では、出力電圧リプルが増える、負荷変動に弱い等の欠点がある。
【0008】
そこで本発明は、電流不連続モードになっても制御態様を切り替えることなく適切な電流制御を行うことができる電気回路の制御装置および電気回路の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、電気回路の制御装置であって、前記電気回路は、入力端子および出力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間に設けられるリアクトルと、前記入力端子から前記リアクトルに電流を流すか否かを切り替えるスイッチング素子と、前記リアクトルに流れるリアクトル電流の向きが一方向になるように前記入力端子と前記出力端子との間に設けられるダイオードと、を備え、前記出力端子に接続された負荷が、前記リアクトルに流れる電流が一時的に0になる電流不連続モードを取り得るように構成され、前記制御装置は、前記出力端子に印加されている出力電圧と所定の電圧目標値との偏差に基づいて電流指令値を生成し、前記リアクトル電流を一演算周期あたりに複数回サンプリングし、複数のサンプリング値を平均した電流平均値と前記電流指令値との偏差に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを切り替えるための目標となる電圧指令値を生成し、前記複数のサンプリング値のそれぞれについて所定の閾値以下であるか否かを判定し、一演算周期あたりのサンプリング数に対する前記閾値以下となった回数の比である不連続割合を算出し、前記不連続割合に前記出力電圧を掛けて余剰電圧を算出し、前記余剰電圧を前記電圧指令値から減算することにより前記電圧指令値を補正するように構成される。
【0010】
また、本発明の他の態様は、電気回路の制御方法であって、前記電気回路は、入力端子および出力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間に設けられるリアクトルと、前記入力端子から前記リアクトルに電流を流すか否かを切り替えるスイッチング素子と、前記リアクトルに流れるリアクトル電流の向きが一方向になるように前記入力端子と前記出力端子との間に設けられるダイオードと、を備え、前記出力端子に接続された負荷が、前記リアクトルに流れる電流が一時的に0になる電流不連続モードを取り得るように構成され、前記制御方法は、前記出力端子に印加されている出力電圧と所定の電圧目標値との偏差に基づいて電流指令値を生成し、前記リアクトル電流を一演算周期あたりに複数回サンプリングし、複数のサンプリング値を平均した電流平均値と前記電流指令値との偏差に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを切り替えるための目標となる電圧指令値を生成し、前記複数のサンプリング値のそれぞれについて所定の閾値以下であるか否かを判定し、一演算周期あたりのサンプリング数に対する前記閾値以下となった回数の比である不連続割合を算出し、前記不連続割合に前記出力電圧を掛けて余剰電圧を算出し、前記余剰電圧を前記電圧指令値から減算することにより前記電圧指令値を補正する。
【0011】
上記制御装置および制御方法によれば、リアクトル電流を一演算周期あたりに複数回サンプリング(オーバーサンプリング)し、その平均値を算出することにより、電流連続モードであるか電流不連続モードであるかにかかわらず、正確なリアクトル電流の平均値に基づいて電圧指令値を算出することができるため、適切な電流制御を行うことができる。また、電流不連続モード時にダイオードに生じる余剰電圧を電圧指令値から減算することでダイオードに生じる電圧による外乱の影響を抑制することができる。したがって、電流不連続モードになっても制御態様を切り替えることなく適切な電流制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電流不連続モードになっても制御態様を切り替えることなく適切な電流制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電気回路システムの一例を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す制御装置の演算処理の流れを示す図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態における電流不連続モードにおけるデューティ比D、PWM信号Q、ダイオード電圧v
dおよびリアクトル電流i
Lの時間的変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施の形態に係る電気回路システムの他の例を示す概略構成図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施の形態に係る電気回路システムの他の例を示す概略構成図である。
【
図6】
図6は、従来の制御態様における電流連続モードにおけるデューティ比D、PWM信号Q、ダイオード電圧v
dおよびリアクトル電流i
Lの時間的変化を示すグラフである。
【
図7】
図7は、従来の制御態様における電流不連続モードにおけるデューティ比D、PWM信号Q、ダイオード電圧v
dおよびリアクトル電流i
Lの時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態に係る電気回路の制御装置および制御方法について説明する。まず、前提となる電気回路の一例について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電気回路システムの一例を示す概略構成図である。この電気回路システム1は、電気回路および制御装置20を含んでいる。
【0016】
本実施の形態における電気回路は、降圧チョッパ回路10である。降圧チョッパ回路10は、DC-DCコンバータの一種であり、入力端子に印加される入力電圧(直流電圧)を降圧して出力端子に(直流電圧として)出力する回路である。
【0017】
降圧チョッパ回路10は、入力端子11、出力端子12、リアクトル13、スイッチング素子14およびダイオード15を備えている。リアクトル13は、入力端子11と出力端子12との間に設けられる。より詳しくは、リアクトル13は、入力端子11と出力端子12との間に直列接続されている。スイッチング素子14は、入力端子11からリアクトル13に電流を流すか否かを切り替えるように構成されている。より具体的には、スイッチング素子14は、一対の主端子が入力端子11およびリアクトル13の一端部に接続されている。スイッチング素子14は、IGBT、FET等のトランジスタにより構成される。
【0018】
ダイオード15は、リアクトル13に流れるリアクトル電流i
Lの向きが一方向になるように入力端子11と出力端子12との間に設けられている。より詳しくは、ダイオード15は、カソードがスイッチング素子14とリアクトル13との間の箇所に接続され、アノードが基準電位点(
図1においてはグランドGND)に接続されている。
【0019】
入力端子11には、直流電源31が接続される。出力端子12には負荷32が接続される。負荷32は、リアクトル13に流れる電流が一時的に0になる電流不連続モードを取り得るように構成されている。負荷32には、平滑コンデンサ17が並列に接続されている。また、スイッチング素子14の一対の主端子間には還流ダイオード16がスイッチング素子14の電流方向に対して逆方向に並列接続されている。
【0020】
制御装置20は、プロセッサ(CPU)、メインメモリ(RAM)、ストレージ(例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等)を備えた処理装置により構成される。なお、メインメモリおよびストレージをメモリと総称することもできる。
【0021】
なお、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路とみなされる。本明細書において、演算部(ユニット)、回路、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、演算部回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0022】
制御装置20は、ストレージに記憶された制御プログラムに基づいて、降圧チョッパ回路10の出力電圧voutおよびリアクトル13に流れるリアクトル電流iLを取得し、スイッチング素子14の制御信号(PWM信号)を生成する信号演算処理を実行する。このために、制御装置20は、制御プログラムを実行することにより、電流指令値演算部21、電流平均値演算部22、電圧指令値演算部23、電圧補正値演算部24、およびPWM信号演算部25等の機能を発揮する。
【0023】
制御装置20は、リアクトル電流iLおよび降圧チョッパ回路10の出力端子12に出力される出力電圧voutを取得し、出力電圧voutが所定の電圧目標値vtgとなるようにスイッチング素子14のオンオフを切り替えるためのPWM信号Qを出力する。すなわち、スイッチング素子14のオンオフ比(デューティ比D)を調整することにより、リアクトル13に流れる電流を制御するとともに出力電圧vout(平滑コンデンサ17に印加される電圧)を制御する。
【0024】
リアクトル電流iLおよび出力電圧voutは、電流計、電圧計等の所定の計測器(図示せず)により検出され、制御装置20に検出信号が送られる。
【0025】
ここで、降圧チョッパ回路10に対する従来の制御態様の問題点について詳しく説明する。
図6は、従来の制御態様における電流連続モードにおけるデューティ比D、PWM信号(ゲート信号)Q、ダイオード電圧v
dおよびリアクトル電流i
Lの時間的変化を示すグラフである。また、
図7は、従来の制御態様における電流不連続モードにおけるデューティ比D、PWM信号(ゲート信号)Q、ダイオード電圧v
dおよびリアクトル電流i
Lの時間的変化を示すグラフである。
【0026】
従来の制御態様では、一演算周期ごとの所定のタイミングで、出力電圧voutおよびリアクトル電流iLを1回サンプリングし、出力電圧voutと電圧目標値vtgとの偏差から得られる電流指令値と、リアクトル電流iLのサンプリング値との偏差に基づいて電圧指令値vcmdを生成している。さらに、電圧指令値vcmdからスイッチング素子14のオンオフに関するデューティ比Dが設定され、設定されたデューティ比Dと参照用のPWM三角波Wとに基づいてPWM信号Qが生成される。参照用のPWM三角波Wは、一演算周期において、時間経過に従って下限値(0%)から線形的に増加することによって上限値(100%)に到達し、そこから線形的に減少することによって再度下限値(0%)に戻ってくるような波形である。
【0027】
リアクトル電流i
Lのサンプリングは、そのサンプリング値が一演算周期におけるリアクトル電流i
Lの平均値となるようなタイミングで行われる。電流連続モードにおいては、参照用のPWM三角波Wの頂点においてリアクトル電流i
Lをサンプリングすることで、そのサンプリング値が一演算周期におけるリアクトル電流の平均値i
LAVとほぼ同じ値となる。なお、
図6および
図7の例では、参照用のPWM三角波Wが上限値を取るタイミングでリアクトル電流i
Lをサンプリングする例を示している。これに代えて、参照用のPWM三角波Wが下限値を取るタイミングでリアクトル電流i
Lをサンプリングしても同様の結果となる。
【0028】
このような制御態様において負荷32が小さくなると、電圧目標値v
tgが低下することにより、デューティ比Dが低下し、スイッチング素子14のオフ時間が長くなる(
図7)。降圧チョッパ回路10において、スイッチング素子14のオフ時には、スイッチング素子14のオン時にリアクトル13に蓄えられたエネルギーにより、リアクトル13にリアクトル電流i
Lが流れる。このため、スイッチング素子14のオフ時におけるリアクトル電流i
Lは、スイッチング素子14のオンからオフへの切り替え時点における電流値から徐々に低下する。
【0029】
図7に示すように、スイッチング素子14のオフ時間が長くなると、スイッチング素子14のオフ時に流れるリアクトル電流i
Lが0にまで低下し(流れなくなり)、スイッチング素子14がオンに切り替わるまでその状態(i
L=0)が継続する(電流不連続モード)。電流不連続モードは、上記のように負荷が小さいとき、および/または、リアクトル13の自己インダクタンスLが小さいとき(リアクトル13の電流リプルが大きいとき)に生じ得る。
【0030】
このため、電流不連続モードにおいて電流連続モードと同様のタイミングでリアクトル電流i
Lをサンプリングすると、そのサンプリング値は、一演算周期におけるリアクトル電流の平均値i
LAVと一致しなくなる問題が生じる。
図7の例では、参照用のPWM三角波Wが上限値に達したタイミングで、リアクトル電流i
Lは0となっており、実際の一演算周期におけるリアクトル電流の平均値i
LAVより小さくなる。
【0031】
さらに、電流不連続モードにおいては、スイッチング素子14がオフの状態かつリアクトル13にリアクトル電流iLが流れない状態が生じる。このとき、平滑コンデンサ17に蓄えられた電荷が負荷32に流れる。この結果、ダイオード15に印加されるダイオード電圧vdが出力電圧voutに一致する。つまり、スイッチング素子14がオフの状態において、有意の(0Vより大きい)電圧がダイオード15に生じる。
【0032】
ここで、リアクトル13の電圧方程式を考える。ダイオード電圧vd、出力電圧vout、リアクトル電流iL、リアクトル13の自己インダクタンスLの関係は、以下のように示される。
【0033】
【0034】
図6に示すように、電流連続モードにおいて、ダイオード電圧v
dの時間的変化は、スイッチング素子14のオンオフの時間的変化(PWM信号Qの時間的変化)との間で強い相関を有している。言い換えると、従来の制御態様では、このような両者の相関を用いてリアクトル電流の平均値i
LAVを制御している。しかし、
図7に示すように、電流不連続モードにおいては、ダイオード電圧v
dの時間的変化とスイッチング素子14のオンオフの時間的変化との間の相関が崩れてしまう。より具体的には、電流不連続モードにおいては、スイッチング素子14のオフ期間に生じるダイオード電圧(余剰電圧)v
d=v
outだけ電圧指令値が大きくなってしまう。この結果、適切な電圧指令値を生成することができず、電流制御を適切に行うことができない問題が生じる。
【0035】
そこで、本実施の形態における制御装置20は、(a)電流連続モードであるか電流不連続モードであるかにかかわらず、リアクトル電流iLの平均値を適切に取得することおよび(b)電圧指令値に対して電流不連続モードにおいてダイオード15に生じる余剰電圧分を差し引く補正を行うことを特徴とする。
【0036】
図2は、
図1に示す制御装置の演算処理の流れを示す図である。制御装置20は、一演算周期ごとの所定のタイミングで、出力端子12に印加されている出力電圧v
outをサンプリングする。言い換えると、出力電圧v
outのサンプリング周期に基づいて演算周期が設定される。以下の説明および図面ではサンプリングされた出力電圧v
outは、電圧サンプリング値v
FBと表記する。
【0037】
さらに、制御装置20は、リアクトル電流iLを一演算周期あたりに複数回(一演算周期あたりのサンプリング数C)サンプリングする。以下の説明および図面ではサンプリングされたリアクトル電流iLは、電流サンプリング値iLi(iL1,iL2,…,iLi,…,iLC)と表記する。サンプリング数Cは予め定められ、メモリに記憶されている。制御装置20は、一演算周期における所定のタイミングからサンプリング数Cおよび演算周期に基づいて定められるサンプリング間隔(例えば数μ秒~数10μ秒)ごとに電流サンプリング値iLiを取得する。取得したサンプリング値vFB,iLiは、メモリに記憶される。
【0038】
電流指令値演算部21は、電圧サンプリング値vFBと所定の電圧目標値vtgとの偏差(電圧偏差)Δvを算出し、それに基づいて電流指令値icmdを生成する。電圧目標値vtgは、制御装置20のメモリに予め記憶されていてもよいし、制御装置20が外部から取得してもよい。電流指令値演算部21は、減算器41およびPI演算器42を含んでいる。減算器41は、電圧目標値vtgから電圧サンプリング値vFBを差し引いて電圧偏差ΔVを算出する。PI演算器42は、電圧偏差ΔVをPI演算することにより電流指令値icmdに変換する。
【0039】
電流平均値演算部22は、複数の電流サンプリング値i
Liを平均して電流平均値(リアクトル電流i
Lの平均値)i
LAVを算出する。電流平均値演算部22は、平均値演算器43を備え、サンプリング数C分の電流サンプリング値i
Liの平均値を算出する。なお、
図2では、平均値演算として、一演算周期分の電流サンプリング値i
Liを加えてサンプリング数Cで割る演算(相加平均)が例示されている。これに代えて、電流平均値i
LAVは、例えば移動平均により求められてもよい。また、今回の演算周期における電流平均値演算において、今回の演算周期においてサンプリングされた値i
Liを用いて算出された電流平均値と、前回の演算周期における電流平均値との平均を取ってもよい。
【0040】
電圧指令値演算部23は、電流指令値演算部21から出力される電流指令値icmdと電流平均値演算部22から出力される電流平均値iLAVとの偏差に基づいて電圧指令値vcmdを生成する。電圧指令値演算部23は、減算器44およびPI演算器45を含んでいる。減算器44は、電流指令値icmdから電流平均値iLAVを差し引いて電流偏差Δiを算出する。PI演算器45は、電流偏差ΔiをPI演算することにより電圧指令値vcmdに変換する。
【0041】
電圧補正値演算部24は、電流不連続モードにおいてスイッチング素子14のオフ時にダイオード15に生じる電圧(余剰電圧)を電圧補正値vxとして算出する。電圧補正値演算部24は、電流不連続判定器46、不連続割合算出器47および余剰電圧算出器48を含む。
【0042】
電流不連続判定器46は、複数の電流サンプリング値iLiのそれぞれについて所定の閾値以下であるか否かを判定する。閾値は、実質的に電流不連続モードとみなされるリアクトル電流iLの上限値に設定される。より具体的には、閾値は0または0に近い値(0+所定の余裕値)に設定される。電流不連続判定器46は、判定の結果、一演算周期における複数の電流サンプリング値iLi(サンプリング数C)のうち、閾値以下となった回数(サンプリング値iLiが実質的に0となったサンプリング数)をカウントし、そのカウント数C0を出力する。
【0043】
不連続割合算出器47は、一演算周期当たりのサンプリング数Cに対する閾値以下となった回数(カウント数)C0の比を不連続割合x(=C0/C)として算出する。不連続割合xは、一演算周期あたり100x[%]の期間においてリアクトル電流iLが実質的に0であることが推定されることを示す数値となる。余剰電圧算出器48は、不連続割合xに電圧サンプリング値(出力電圧voutのサンプリング値)vFBを掛けて余剰電圧を算出し、それを電圧補正値vxとして出力する。
【0044】
PWM信号演算部25は、電圧補正値(余剰電圧)vxを電圧指令値vcmdから減算することにより電圧指令値vcmdを補正し、補正後の電圧指令値vcmdxに基づいてPWM信号Qを生成する。PWM信号演算部25は、減算器49、デューティ比算出器50および三角波比較器51を含んでいる。
【0045】
減算器49は、電圧指令値v
cmdから電圧補正値v
xを差し引いて補正後の電圧指令値v
cmdxを算出する。デューティ比算出器50は、入力電圧v
inに対する補正後の電圧指令値v
cmdxの比(v
cmdx/v
in)を求めてデューティ比Dを算出する。なお、
図2の例では、デューティ比Dを百分率で表すために100を掛けているが、制御演算上必須ではない。入力電圧v
inは、制御装置20のメモリに予め記憶された値が用いられてもよいし、制御装置20が入力端子11における電圧(入力電圧v
in)を都度取得してもよい。
【0046】
三角波比較器51は、デューティ比Dと参照用のPWM三角波Wとを比較し、参照用のPWM三角波Wがデューティ比D以上である場合にスイッチング素子14をオフ(開成)し、参照用のPWM三角波Wがデューティ比D未満である場合にスイッチング素子14をオン(閉成)するようなPWM信号Qを生成する。生成されたPWM信号Qは、リアクトル電流iLをサンプリングした演算周期の次の演算周期における制御信号となる。
【0047】
本実施の形態によれば、リアクトル電流iLが一演算周期あたりに複数回サンプリング(オーバーサンプリング)され、その平均値(電流平均値iLAV)が算出される。この電流平均値iLAVと電流指令値icmdとの偏差に基づいてスイッチング素子14のオンオフを切り替えるための目標となる電圧指令値vcmdが生成される。このように、一演算周期のうちにリアクトル電流iLを複数回サンプリングすることにより、電流連続モードであるか電流不連続モードであるかにかかわらず、正確なリアクトル電流iLの平均値iLAVに基づいて電圧指令値vcmdを算出することができる。
【0048】
さらに、電流不連続モード時にダイオード15に生じる余剰電圧(電圧補正値v
x)が電圧指令値v
cmdから減算される。すなわち、
図7に示すダイオード電圧v
dのグラフにおける斜線部の電圧分が電圧指令値v
cmdから除去される。
【0049】
図3は、本実施の形態における電流不連続モードにおけるデューティ比D、PWM信号Q、ダイオード電圧v
dおよびリアクトル電流i
Lの時間的変化を示すグラフである。電圧指令値v
cmdからダイオード15に印加される余剰電圧が差し引かれることにより、デューティ比Dが補正前の値(
図3のグラフにおいて二点鎖線で示される)より小さくなる。この結果、スイッチング素子14のオンオフのタイミングも補正後のデューティ比Dに基づいて決定され、オン期間が短くなる。
【0050】
オン期間が短くなることにより、結果的に、リアクトル13に流れるリアクトル電流iLも小さくなり、ダイオード電圧vdにおいて入力電圧vinが印加される期間が短くなる。
【0051】
このように、電流不連続モード時にダイオード15に生じる余剰電圧(電圧補正値vx)を電圧指令値vcmdから減算することでダイオード15に生じる電圧による外乱の影響を抑制することができる。
【0052】
なお、電流連続モードにおいては、電圧補正値v
xを算出するために用いられる不連続割合xが0となるため、電圧補正値v
xも0となる。したがって、本実施の形態における制御装置20は、電流連続モードでも電流不連続モードと同じ上記制御ロジックで電流制御が可能である。すなわち、本実施の形態においても、電流連続モード時のデューティ比D、PWM信号Q、ダイオード電圧v
dおよびリアクトル電流i
Lの時間的変化は、従来(
図6)と同様となる。
【0053】
以上のように、本実施の形態によれば、電流連続モードであるか電流不連続モードであるかにかかわらず制御態様を切り替えることなく適切な電流制御を行うことができる。
【0054】
このような電流制御が実現可能となることにより、価格、サイズに制限があるような電気回路においても、リアクトルまたはトランスのPWMによる電流制御を利用可能とすることができ、電気回路およびそれを用いた機器の小型化および低価格化を図ることができる。
【0055】
リアクトル電流iLの一演算周期あたりのサンプリング数Cは、例えば100回以上である。サンプリング数Cが多いほど正確な電流平均値iLAVが得られる。ただし、サンプリング数Cは100回未満であってもよい。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加、または削除することができる。
【0057】
例えば、制御装置20が適用される電気回路は、上記実施の形態における降圧チョッパ回路10に限られない。制御装置20が適用される電気回路は、入力端子11および出力端子12と、入力端子11と出力端子12との間に設けられるリアクトル13と、入力端子11からリアクトル13に電流を流すか否かを切り替えるスイッチング素子14と、リアクトル13に流れるリアクトル電流iLの向きが一方向になるように入力端子11と出力端子12との間に設けられるダイオード15と、を備え、出力端子12に接続された負荷32が、リアクトル13に流れる電流が一時的に0になる電流不連続モードを取り得るように構成されていればよい。
【0058】
例えば、電気回路は、
図4に示すような、絶縁型のDC-DCコンバータ10Bであってもよい。絶縁型のDC-DCコンバータ10Bは、
図1に示す降圧チョッパ回路10における単一のスイッチング素子14に代えて、複数のスイッチング素子がブリッジ接続されたインバータ61と、降圧チョッパ回路10における単一のダイオード15に代えて、複数(4つ)のダイオード15を含む整流回路62と、インバータ61の出力を入力とし、出力が整流回路62に入力されるトランス63とを備えている。リアクトル13は、整流回路62の順方向電流出力側に接続される。このような絶縁型のDC-DCコンバータ10Bを備えた電気回路システム1Bにおいても、負荷32が電流不連続モードを取り得る場合、降圧チョッパ回路10で生じた上記問題が同様に生じ得る。そのため、このような電気回路システム1Bにおいても、上記実施の形態における制御装置20を適用することにより、電流連続モードであるか電流不連続モードであるかにかかわらず制御態様を切り替えることなく適切な電流制御を行うことができる。
【0059】
また、電気回路は、上述した降圧回路だけでなく昇圧回路でもよい。また、入力端子11に印加される電源は交流電源であってもよい。
【0060】
例えば、電気回路は、
図5に示すような、AC-DCコンバータ10Cであってもよい。
図5に示すAC-DCコンバータ10Cは、交流電源31Cとスイッチング素子14との間に整流回路64が設けられる。スイッチング素子14と出力端子12との間の回路構成は、
図1に示す降圧チョッパ回路10と同様である。
【符号の説明】
【0061】
10,10B 電気回路
11 入力端子
12 出力端子
13 リアクトル
14 スイッチング素子
15 ダイオード
20 制御装置
61 インバータ
62 整流回路
63 トランス