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特許7538750保全支援システム、保全支援方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】保全支援システム、保全支援方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021038754
(22)【出願日】2021-03-10
(65)【公開番号】P2022138712
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 裕一
(72)【発明者】
【氏名】大城戸 忍
(72)【発明者】
【氏名】河野 尚幸
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-180997(JP,A)
【文献】国際公開第2020/084671(WO,A1)
【文献】特開2016-045793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントに設けられる複数の機器のうち、前記機器の劣化に関する条件が共通しているものをグループ化するグルーピング部と、
それぞれのグループで設定される所定の代表機器について、当該代表機器の劣化が検知されてから故障に至るまでの想定時間が第1所定値以上である場合、当該代表機器のグループに含まれる機器の劣化が検知されたときでも、状態基準保全に基づく次の点検時まではメンテナンスを要しない旨を表示装置に表示させる表示制御部と、を備え
前記機器の劣化は、当該機器に対する所定の劣化試験で検知されること
を特徴とする保全支援システム。
【請求項2】
それぞれの前記グループの前記代表機器のうち、過去の故障記録に基づく故障確率が第2所定値に達するまでの時間が点検周期よりも長いものが存在する場合、当該代表機器のグループに含まれる機器の点検周期を延長する点検周期延長判定部を備えること
を特徴とする請求項1に記載の保全支援システム。
【請求項3】
それぞれの前記グループの前記代表機器のうち、前記点検周期が延長されなかったものを対象として、前記想定時間が前記第1所定値以上であるか否かの判定を行う検知性判定部を備えること
を特徴とする請求項2に記載の保全支援システム。
【請求項4】
それぞれの前記グループの前記代表機器のうち、前記点検周期が延長されず、さらに、前記想定時間が前記第1所定値未満であると判定されたもののグループに含まれる機器について、当該機器の故障に伴う損失、及び、当該機器の故障確率に基づいて、当該機器のリスクの大きさを算出するリスク評価部を備え、
前記表示制御部は、前記リスクの大きさが第3所定値以上である機器については、現状の点検周期を維持するように前記表示装置に表示させること
を特徴とする請求項3に記載の保全支援システム。
【請求項5】
前記リスクの大きさが前記第3所定値未満である機器を対象として、当該機器を故障時まで使用し続ける場合のコストと、当該機器の故障前に保全を行う場合のコストと、を比較するコスト評価部を備え、
前記表示制御部は、当該機器を故障時まで使用し続ける場合のコストが、当該機器の故障前に保全を行う場合のコストよりも低いとき、当該機器を故障時まで使用し続ける旨を前記表示装置に表示させること
を特徴とする請求項4に記載の保全支援システム。
【請求項6】
前記グルーピング部は、前記機器の劣化に関する前記条件として、前記機器の劣化事象、前記機器の構造及び材料、並びに前記機器の使用環境が共通しており、さらに、前記機器が稼働に耐え得るか否かの基準となる要求機能、及び、前記機器の劣化が生じ始めたか否かの判定基準が共通しているものをグループ化すること
を特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の保全支援システム。
【請求項7】
前記プラントの実際の使用環境に基づく劣化試験を所定の機器について行った結果、当該機器の劣化が検知されてから故障に至るまでの想定時間が前記第1所定値未満である場合、少なくとも当該機器を現状のグループから分けて、新たなグループを作成するグルーピング評価部を備えること
を特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の保全支援システム。
【請求項8】
プラントに設けられる複数の機器のうち、前記機器の劣化に関する条件が共通しているものをグループ化するグルーピング処理と、
それぞれのグループで設定される所定の代表機器について、当該代表機器の劣化が検知されてから故障に至るまでの想定時間が第1所定値以上である場合、当該代表機器のグループに含まれる機器の劣化が検知されたときでも、状態基準保全に基づく次の点検時まではメンテナンスを要しない旨を表示装置に表示させる表示制御処理と、を含み、
前記機器の劣化は、当該機器に対する所定の劣化試験で検知されること
を特徴とする保全支援方法。
【請求項9】
請求項8に記載の保全支援方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保全支援システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
機器の保全業務に関する技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。すなわち、特許文献1には、「プラント設計・運用情報とリスク情報を入力し、プラント設備・機器の重要度を評価し、プラント設備・機器の重要度ランク情報を出力する機器重要度評価支援システム」について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-252311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、前記したように、プラント設備・機器の重要度を評価する際、リスク情報等が入力される。このような構成では、管理者等がプラントの各機器のリスク情報等を入力することになる。その結果、プラントの機器の個数が膨大である場合、機器のリスク情報等の入力に多大な労力を要するため、管理者等による機器の保全業務の負担をさらに軽減することが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、機器の保全業務の負担を軽減する保全支援システム等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決するために、本発明は、プラントに設けられる複数の機器のうち、前記機器の劣化に関する条件が共通しているものをグループ化するグルーピング部と、それぞれのグループで設定される所定の代表機器について、当該代表機器の劣化が検知されてから故障に至るまでの想定時間が第1所定値以上である場合、当該代表機器のグループに含まれる機器の劣化が検知されたときでも、状態基準保全に基づく次の点検時まではメンテナンスを要しない旨を表示装置に表示させる表示制御部と、を備え、前記機器の劣化は、当該機器に対する所定の劣化試験で検知されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、機器の保全業務の負担を軽減する保全支援システム等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る保全支援システムを含む構成図である。
図2】第1実施形態に係る保全支援システムの機能ブロック図である。
図3】第1実施形態に係る保全支援システムの劣化関連情報記憶部に含まれる各データベースの機能ブロック図である。
図4】第1実施形態に係る保全支援システムにおける、プラントの機器のグループ化に関する説明図である。
図5】第1実施形態に係る保全支援システムにおいて、機器における所定の劣化量の時間的変化を示す特性図である。
図6】第1実施形態に係る保全支援システムにおいて、機器の一例である弁のパッキンの劣化量と、パッキンの耐圧と、の関係を示す特性図である。
図7】第1実施形態に係る保全支援システムの演算部が実行する処理のフローチャートである。
図8】第1実施形態に係る保全支援システムの演算部が実行する処理のフローチャートである。
図9】第2実施形態に係る保全支援システムの機能ブロック図である。
図10】第2実施形態に係る保全支援システムにおける、機器の劣化特性の比較を示す特性図である。
図11】第2実施形態に係る保全支援システムの演算部が実行する処理のフローチャートである。
図12A】第2実施形態に係る保全支援システムにおいて、再グループ化が行われる前のグループに関する説明図である。
図12B】第2実施形態に係る保全支援システムにおいて、再グループ化が行われた後のグループに関する説明図である。
図13】変形例に係る保全支援システムの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態に係る保全支援システム100を含む構成図である。
図1に示す保全支援システム100は、プラント200に設けられる機器1a,1b,・・・の保全を支援するシステムである。ここで、機器1a,1b,・・・の「保全」とは、機器1a,1b,・・・の点検やメンテナンスを行うことを意味している。なお、プラント200に設けられる機器1a,1b,・・・のうち任意の一つについて言及する場合には、「機器1」と記載する。
【0010】
プラント200は、例えば、原子力プラント等の発電プラントであってもよいし、化学プラントや製造プラント、水処理プラントであってもよい。また、プラント200に設けられる機器1の種類・用途は、特に限定されない。このような機器1の例として、所定の配管に設けられる弁(図示せず)やポンプ(図示せず)が挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、複数種類の機器1(例えば、弁やポンプ)が混在していることが多く、また、所定種類の機器1(例えば、弁)が複数設けられることもある。
【0011】
図1の例では、プラント200の管理システム201と、保全支援システム100と、が信号線2を介して接続されている。管理システム201は、機器1の稼働や保全等を管理するシステムである。一方、保全支援システム100は、それぞれの機器1に適した保全方法を提案することで、機器1の保全に要する管理者や作業員の労力の軽減を図るシステムである。なお、機器1の保全方法の詳細については後記する。
【0012】
<保全支援システムの構成>
図2は、第1実施形態に係る保全支援システム100の機能ブロック図である。
図2に示すように、保全支援システム100は、演算部10と、劣化関連情報記憶部21と、保全・故障実績データベース22と、劣化特性データベース23と、機能・劣化量データベース24と、表示装置30と、を備えている。
また、演算部10は、グルーピング部11と、点検周期延長判定部12と、検知性判定部13と、リスク評価部14と、コスト評価部15と、保全方法選択部16と、表示制御部17と、を備えている。
【0013】
なお、演算部10は、1つの装置(サーバ等:図示せず)で構成されていてもよいし、また、信号線やネットワークを介して、複数の装置(図示せず)が所定に接続された構成であってもよい。前記した装置は、ハードウェア構成として、図示はしないが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種インタフェース等の電子回路を含んで構成されている。そして、ROMに記憶されたプログラムを読み出してRAMに展開し、CPUが各種処理を実行するようになっている。
【0014】
図2に示すグルーピング部11は、プラント200(図1参照)に設けられる複数の機器1(図1参照)のうち、機器1の劣化に関する条件が共通しているものをグループ化する機能を有している。機器1の劣化に関する条件は、劣化関連情報記憶部21に予め記憶されている。なお、機器1の「劣化」とは、機器1の性能が低下することを意味している。機器1の「劣化」が進むにつれて、機器1が「故障」に至る可能性が高くなる。ここで、機器1の「故障」とは、機器1の本来の機能が損なわれることを意味している。
【0015】
図3は、劣化関連情報記憶部21に含まれる各データベースの機能ブロック図である。
図3に示す劣化関連情報記憶部21には、機器1(図1参照)の劣化に関連する情報が予め格納されている。図3に示すように、劣化関連情報記憶部21には、劣化事象データベース21aと、構造・材料データベース21bと、使用環境データベース21cと、要求機能データベース21dと、劣化検知方法データベース21eと、が格納されている。なお、前記した各データベースが、複数の記録媒体に所定に分散して格納されていてもよい。
【0016】
図3に示す劣化事象データベース21aには、機器1の劣化事象に関するデータが予め格納されている。ここで、機器1の「劣化事象」とは、機器1が劣化した場合の事象の類型である。例えば、機器1が弁であった場合、この弁のパッキン(図示せず)の弾性率の低下や、弁体(図示せず)の損傷が、前記した「劣化事象」として挙げられる。このような劣化事象に関するデータが、それぞれの機器1の識別情報に対応付けて、劣化事象データベース21aに格納されている。
【0017】
構造・材料データベース21bには、機器1の構造及び材料に関するデータが予め格納されている。なお、機器1の「構造」は、例えば、機器1の型番で特定されるが、これに限定されるものではない。また、機器1の「材料」とは、例えば、機器1で劣化が生じやすい部分の構成材料である。具体例を挙げると、機器1が弁であった場合、この弁のパッキン(図示せず)の形状や物性値等のデータが、機器1の識別情報に対応付けて、構造・材料データベース21bに格納されている。
【0018】
使用環境データベース21cには、機器1の使用環境に関するデータが予め格納されている。ここで、機器1の「使用環境」とは、例えば、機器1が使用されるときの温度や圧力である。なお、機器1が弁である場合には、「使用環境」として、弁を介して流れる流体の温度・圧力・流速等が適宜に用いられてもよい。このような使用環境に関するデータが、それぞれの機器1の識別情報に対応付けて、使用環境データベース21cに格納されている。
【0019】
要求機能データベース21dには、機器1の要求機能に関するデータが予め格納されている。ここで、機器1の「要求機能」とは、機器1が稼働に耐え得るか否かの所定の基準である。例えば、機器1が弁であった場合、その「要求機能」として、弁のパッキンに必要な耐圧や、弁の開閉に要する動作時間が挙げられる。このような要求機能に関するデータが、それぞれの機器1の識別情報に対応付けて、要求機能データベース21dに格納されている。
【0020】
劣化検知方法データベース21eには、機器1の劣化が生じ始めたか否かの判定基準となるデータが予め格納されている。例えば、機器1が弁であった場合において、この弁のパッキンの引張試験(劣化試験の一つ)を行った場合、新品時のパッキンの弾性率を基準として、1000分の1よりも微小な低下を検知することが困難であったとする。このような場合、パッキンの劣化が生じ始めているか否かの判定基準として、その弾性率がパッキンの新品時の1000分の1だけ低下しているという基準を用いることができる。
【0021】
このような劣化試験における測定精度の限界は、劣化試験の種類(例えば、引張試験)や、劣化試験の対象(例えば、弁のパッキン)によって異なる値になることが多い。そこで、機器1の劣化が生じ始めたか否かの判定基準となるデータを、それぞれの機器1の識別情報に対応付けて、劣化検知方法データベース21eに格納するようにしている。
【0022】
なお、前記した例では、パッキンの弾性率の低下を、このパッキンが新品であるときの弾性率を基準とする所定の割合(1000分の1の低下量)で示したが、これに限らない。例えば、弾性率の低下量の具体的な数値を劣化検知方法データベース21eに格納するようにしてもよい。劣化検知方法データベース21eに格納されているデータは、後記するように、検知性判定部13(図2参照)で用いられる。
【0023】
図4は、プラントの機器のグループ化に関する説明図である。
図4に示す機器1a,1b,・・・,1jは、プラント200(図1参照)に設けられる各機器を示している。なお、図4では、計10個の機器1a,1b,・・・,1jを示しているが、実際には数千個や数万個の機器1が存在することが多い。図4に示すグループG1~G5は、グルーピング部11(図2参照)によって、機器1a,1b,・・・,1jが所定にグループ化されたものである。
【0024】
図4に示す「劣化事象」は、グルーピング部11によって、劣化事象データベース21a(図3参照)から読み出される。図4の例では、機器1a,1b,・・・,1jの劣化事象として、所定の事象Xが共通に存在している。このような事象Xの例として、弁のパッキンの弾性率の低下が挙げられる。
図4に示す「構造・材料」は、グルーピング部11によって、構造・材料データベース21b(図3参照)から読み出される。図4の例では、機器1a,1bが構造・材料Aである一方、残りの機器1c,1d,・・・,1jは構造・材料Bになっている。
【0025】
図4に示す「使用環境」は、グルーピング部11によって、使用環境データベース21c(図3参照)から読み出される。図4の例において、機器1a,1b,1c,1dでは使用環境Iになっている一方、残りの機器1e,1f,・・・,1jでは使用環境IIになっている。
図4に示す「要求機能」は、グルーピング部11によって、要求機能データベース21d(図3参照)から読み出される。図4の例では、機器1a,1b,・・・,1fの要求機能が耐圧Pvになっている一方、残りの機器1g,1h,1i,1jの要求機能は耐圧Pwになっている。
【0026】
図4に示す「検知できる最小劣化量」は、グルーピング部11によって、劣化検知方法データベース21eから読み出される。図4の例では、機器1a,1b,・・・,1fにおいて最小劣化量Zkになっている。一方、機器1g,1hでは最小劣化量Zmであり、また、残りの機器1i,1jでは最小劣化量Znになっている。これらの最小劣化量Zk,Zm,Znは、機器の劣化が生じ始めたか否かの判定基準となる所定の物理量(例えば、弾性率の低下量)である。
【0027】
そして、グルーピング部11(図2参照)は、機器1の劣化に関する条件として、図4に示す劣化事象、構造・材料、使用環境、要求機能、及び最小劣化量が共通しているものをグループ化する。言い換えると、グルーピング部11は、機器1が劣化した場合の事象の類型(劣化事象)、機器1の構造及び材料、並びに機器1の使用環境が共通しており、さらに、機器1が稼働に耐えうるか否かの基準となる要求機能、及び、機器1の劣化が生じ始めたか否かの判定基準(最小劣化量)が共通しているものをグループ化する。
【0028】
図4の例では、機器1a,1bが、1つのグループG1としてグループ化されている。また、残りの機器1c,1d,・・・,1jも、グループG1~G4として所定にグループ化されている。そして、グループG1~G5のそれぞれについて、演算部10が代表機器を1つずつ選択した上で、それぞれの代表機器について、次に説明する点検周期の延長等の判定を行うようになっている。
【0029】
なお、同一の機器1に複数の劣化事象が存在する場合には、異なる劣化事象を区別するようにグループ化が行われる。例えば、機器1aの劣化事象として、事象Xの他に事象Y(図4には図示せず)も存在する場合、機器1aの事象Xを含むグループと、機器1aの事象Yを含む別のグループと、に分けるようにグループ化が所定に行われる。
【0030】
図2に示す保全・故障実績データベース22には、過去に保全(点検・メンテナンス)が行われた機器1や、その保全の時期の他、過去に故障した機器1や、その故障の発生時期に関するデータが、機器1の識別情報に対応付けて格納されている。このようなデータは、機器1の保全を行った作業員がスマートフォンやタブレット等の操作端末(図示せず)を所定に操作することで、保全支援システム100に送信される。
【0031】
図2に示す点検周期延長判定部12は、保全・故障実績データベース22の情報に基づいて、所定のグループ(例えば、図4のグループG1)に含まれる代表機器(例えば、図4の機器1a)の点検周期を延長できるか否かを判定する。具体的に説明すると、点検周期延長判定部12は、保全・故障実績データベース22に基づく生存時間解析(機器1が故障するまでの時間に関する解析)によって、所定のグループに含まれる代表機器の故障確率分布関数を算出する。ここで、故障確率分布関数とは、代表機器における故障確率の時間的変化を示す関数である。また、前記した生存時間解析として、パラメトリック手法やセミパラメトリック手法、ノンパラメトリック手法等が用いられる。
【0032】
点検周期延長判定部12は、それぞれのグループの代表機器のうち、過去の故障記録に基づく故障確率が所定値(第2所定値)に達するまでの時間が点検周期よりも長いものが存在する場合、この代表機器のグループに含まれる機器の点検周期を延長する。なお、前記した所定値(第2所定値)は、グループの代表機器が故障に至る可能性が高いか否かの判定基準となる閾値であり、予め設定されている。また、故障確率が所定値に達するまでの時間の基準(開始点)は、前回のメンテナンス時であってもよいし、また、故障確率の計算時であってもよい。
【0033】
具体例を挙げると、図4に示すグループG1において機器1aが代表機器であり、この機器1aの故障確率が所定値に達するまでの時間が、機器1aの点検周期よりも長かったとする。この場合、点検周期延長判定部12は、代表機器である機器1aの他、グループG1に含まれる残りの機器1bについても、点検周期も延長できると判定する。これは、機器1a,1bが同じグループG1に含まれており、劣化に関する条件が共通しているからである。これによって、全ての機器1について点検周期の延長の可否を判定する場合に比べて、点検周期延長判定部12の演算負荷を大幅に低減できる。
【0034】
また、機器1の点検周期を延長することで、機器1の保全に要する作業員の労力を軽減できる。なお、機器1の延長後の点検周期は、代表機器の故障確率が所定値(第2所定値)に達するまでの時間よりも短い長さに設定される。これによって、機器1の点検周期を延長した場合でも、次回の点検までに機器1で故障が生じる可能性を低くすることができる。点検周期延長判定部12の処理結果は、検知性判定部13及び保全方法選択部16に出力される。
【0035】
図2に示す劣化特性データベース23には、機器1の劣化量の時間的変化を示す劣化特性のデータが、機器1の識別情報に対応付けて、予め格納されている。以下では、グループG1(図4参照)の代表機器が機器1aであるものとし、この機器1aの劣化量を例にして説明する。
【0036】
図5は、機器における所定の劣化量の時間的変化を示す特性図である。
なお、図5の横軸は、機器1a(図4参照)が使用された時間である。また、図5の縦軸は、機器1aにおける所定の劣化量である。例えば、機器1が弁である場合の劣化量として、パッキンの弾性率の低下量が用いられてもよい。図5に示すように、機器1aが使用された時間が長くなるにつれて、機器1aの劣化量が大きくなる。このような劣化量の時間的変化に関する特性は、事前の劣化試験やシミュレーションに基づいて特定され、機器1aの識別情報に対応付けて、劣化特性データベース23(図2参照)に予め格納されている。なお、図5の劣化特性を示す曲線F1は、例えば、所定の関数で表される。
【0037】
図5に示す最小劣化量Zk(図4も参照)は、例えば、機器1aに関する所定の劣化試験で検知し得る最小の劣化量である。この最小劣化量Zkは、機器1aの劣化が生じ始めたか否かの判定基準となる劣化量であり、前記したように、劣化検知方法データベース21e(図3参照)に予め格納されている。
図5に示す劣化量Zgは、機器1aが機能喪失(つまり、故障)に至ったか否かの判定基準となる劣化量である。この劣化量Zgは、後記する機能・劣化量データベース24(図2参照)から読み出される。
【0038】
図5に示す想定時間Δtsは、機器1aの劣化が生じ始めてから機能喪失(つまり、故障)に至るまでの時間である。さらに具体的に説明すると、想定時間Δtsは、機器1aの劣化試験で最小劣化量Zkの劣化が検知されてから、機器1aが機能喪失の劣化量Zgに至るまで使用され続けた場合の時間である。この想定時間Δtsは、曲線F2の関数の他、最小劣化量Zk、及び劣化量Zgに基づき、検知性判定部13(図2参照)によって算出される。
【0039】
図2に示す機能・劣化量データベース24には、機器1aの機能と劣化量との関係を示すデータが、機器1aの識別情報に対応付けて、予め格納されている。例えば、機器1aが弁である場合、その「機能」の例として弁のパッキンの耐圧が挙げれられる。また、「劣化量」の例として、前記したように、パッキンの弾性率の低下量が挙げられる。
【0040】
図6は、機器の一例である弁のパッキンの劣化量と、パッキンの耐圧と、の関係を示す特性図である。
なお、図6の横軸は、弁のパッキンの劣化量(例えば、弾性率の低下量)である。また、図6の縦軸は、弁のパッキンの機能の高さを示す耐圧である。図6に示すように、弁のパッキンの劣化量が大きくなるにつれて、パッキンの耐圧が低下する。このような劣化量と耐圧(弁の機能の高さ)との関係は、事前の劣化試験やシミュレーションに基づいて特定され、機器1aの識別情報に対応付けて、機能・劣化量データベース24(図2参照)に予め格納されている。なお、図6の特性を示す曲線F2は、例えば、所定の関数で表される。
【0041】
図6に示す耐圧Pv(図4も参照)は、機器1aの一例である弁が実際の稼働に耐えうるか否かの基準となる要求機能であり、要求機能データベース21d(図3参照)に予め格納されている。また、図5に示す劣化量Zgは、機器1aが機能喪失(つまり、故障)に至ったか否かの判定基準となる劣化量であり、前記した耐圧Pv(要求機能)に対応している。
【0042】
図2に示す検知性判定部13は、それぞれのグループG1~G5(図4参照)の代表機器のうち、点検周期が延長されなかったものを対象として、いわゆる「状態基準保全」が可能であるか否かを判定する。ここで、「状態基準保全」とは、機器1の劣化が検知された場合でも、次回の点検時まで機器1のメンテナンスを特に行わないという保全方法である。
【0043】
例えば、グループG1の機器1aが代表機器である場合について説明すると、検知性判定部13は、図5に示す想定時間Δtsを算出するために、次の処理を行う。すなわち、検知性判定部13は、劣化検知方法データベース21e(図3参照)から、機器1aについて検知し得る最小劣化量Zk(図4参照)を読み出す。また、検知性判定部13は、機能・劣化量データベース24(図2参照)を参照し、機器1aの耐圧Pv(要求機能)に対応する劣化量Zg(図6参照)を特定する。前記したように、この劣化量Zgは、機器1aが機能喪失に至る際の劣化量である。
【0044】
そして、検知性判定部13は、劣化特性データベース23(図2参照)に基づいて、機器1aの使用開始時から、その劣化量が最小劣化量Zkになるまでの時間t1(図5参照)を算出する。また、検知性判定部13は、機器1aの使用開始時から、その劣化量が機能喪失の劣化量Zgになるまでの時間t2(図5参照)を算出する。次に、検知性判定部13は、前記した時間t2から時間t1を減算することで、機器1aの劣化が生じ始めてから機能喪失に至るまでの想定時間Δts(図5参照)を算出する。
【0045】
そして、検知性判定部13は、この想定時間Δtsが所定の許容時間(第1所定値)以上であるか否かを判定する。なお、「許容時間」として、例えば、機器1aの点検周期が用いられてもよいし、また、機器1aの点検周期に所定の係数(1よりも小さい安全率)を乗算した値が用いられてもよい。機器1aの劣化が生じ始めてから機能喪失に至るまでの想定時間Δtsが許容時間以上である場合、この機器1aの劣化が発見されたときでも、次回の点検時までメンテナンスを行う必要は特にない。次回の点検時までに機器1aが故障する可能性は非常に低いからである。
【0046】
このように、検知性判定部13は、それぞれのグループG1~G5(図4参照)で設定される所定の代表機器について、この代表機器の劣化が検知されてから故障に至るまでの想定時間Δtsが許容時間(第1所定値)以上であるか否かを判定する。そして、想定時間Δtsが許容時間以上である場合、検知性判定部13は、その代表機器のグループに含まれる機器の劣化が検知されたときでも、次の点検時まではメンテナンスを要しないと判定する。
【0047】
これによって、全ての機器1について「状態基準保全」の可否を判定する場合に比べて、検知性判定部13の演算負荷を大幅に低減できる。また、「状態基準保全」を実際に行うことで、機器1の保全を行う作業員等の負担を軽減できる他、保全に要するコストも削減できる。なお、検知性判定部13の処理結果は、リスク評価部14及び保全方法選択部16に出力される。
【0048】
図2に示すリスク評価部14は、それぞれのグループG1~G5の代表機器のうち、点検周期が延長されず、さらに、前記した想定時間Δtsが許容時間(第1所定値)未満であると判定されたもののグループに含まれる機器について、故障時のリスクの大きさを算出する。なお、リスク評価部14による処理は、グループごとではなく、それぞれの機器1について個別に行われる。機器1の劣化に関する条件が共通であっても、機器1が停止した場合のリスクの大きさが異なることが多いからである。
【0049】
リスク評価部14は、機器1の故障に伴う損失、及び、その機器1の故障確率に基づいて、機器1のリスクの大きさを算出する。具体的には、リスク評価部14は、機器1が故障した場合にプラント200が停止することで発生する損失と、機器1の故障が発生する確率と、を乗じることで、リスクの大きさを算出する。
【0050】
そして、リスク評価部14は、リスクの大きさが所定値(第3所定値)以上である機器1については、それまでの点検周期に基づく保全(時間基準保全ともいう)を継続したほうがよい判定する。一方、リスクの大きさが所定値(第3所定値)未満である機器1については、その識別情報がコスト評価部15(図2参照)に出力される。なお、リスク評価14の評価結果は、コスト評価部15の他、保全方法選択部16にも出力される。
【0051】
図2に示すコスト評価部15は、故障時のリスクの大きさが所定値(第3所定値)未満である機器1を対象として、その機器1を故障時まで使用し続ける場合のコストと、その機器1の故障前に保全を行う場合のコストと、を比較する。なお、対象となる機器1の点検を特に行わずに、故障するまで機器1を使用し続けるという保全方法を「事後保全」という。
【0052】
そして、機器1を故障時まで使用し続ける場合のコストが、その機器1の故障前に保全を行う場合のコストよりも低いとき、コスト評価部15は、その機器を故障時まで使用し続けたほうがよい(つまり、事後保全を行ったほうがよい)と判定する。一方、機器1を故障時まで使用し続けた場合のコストの方が高い場合、コスト評価部15は、それまでの点検周期に基づく保全を行ったほうがよいと判定する。コスト評価部15による評価結果は、保全方法選択部16に出力される。
【0053】
図2に示す保全方法選択部16は、機器1の保全方法を選択する機能を有している。すなわち、保全方法選択部16は、点検周期延長判定部12や検知性判定部13の判定結果の他、リスク評価部14やコスト評価部15の評価結果に基づいて、機器1の保全方法を所定に選択する。なお、機器1の保全方法には、それまでの点検周期に基づく保全(時間基準保全)を継続する場合や、点検周期を延長する場合の他、前記した「状態基準保全」や「事後保全」がある。保全方法選択部16によって選択された保全方法のデータは、機器1の識別情報に対応付けて、表示制御部17に出力される。
【0054】
表示制御部17は、保全方法選択部16による選択結果を表示装置30に所定に表示させる。なお、表示装置30は、例えば、ディスプレイであってもよいし、また、スマートフォンやタブレット、携帯端末等であってもよい。
【0055】
図7図8は、保全支援システムの演算部が実行する処理のフローチャートである(適宜、図2を参照)。
なお、図7図8の一連の処理は、プラント200(図1参照)の稼働開始前に行われてもよいし、また、プラント200の稼働中に行われてもよい。
ステップS101において演算部10は、グルーピング部11によって、機器1を所定尾にグループ化する。つまり、演算部10は、機器1の劣化に関する条件(図4参照)が共通しているものをグループ化する(グルーピング処理)。
【0056】
ステップS102において演算部10は、グループごとに代表機器を選択する。なお、代表機器の選択方法として、例えば、過去の故障履歴が存在する機器1を優先的に選択するようにしてもよい。これによって、代表機器の故障確率分布関数を導くことが可能になるため、点検周期の延長の可否を判定しやすくなる。なお、他の方法で代表機器が選択されるようにしてもよい。
【0057】
ステップS103において演算部10は、点検周期延長判定部12によって、代表機器の故障までの時間Δtaを算出する。すなわち、演算部10は、それぞれのグループの代表機器のうち、過去の故障記録に基づく故障確率が所定値(第2所定値)に達するまでの時間Δtaを算出する。
ステップS104において演算部10は、点検周期延長判定部12によって、前記した時間Δtaが現状の点検周期よりも長いか否かを判定する。時間Δtaが現状の点検周期よりも長い場合(S104:Yes)、演算部10の処理はステップS105に進む。
【0058】
ステップS105において演算部10は、代表機器を含むグループのそれぞれの機器1の点検周期を延長する。そして、図8のステップS114において演算部10は、表示制御部17によって、機器1の保全方法を表示装置30に表示させる。すなわち、表示制御部17は、点検周期延長判定部12によって点検周期を延長し得ると判定された機器1について、延長後の点検周期を表示装置30に表示させる。このように点検周期を延長することで、機器1の保全に要する作業員等の負担を軽減できる。
【0059】
一方、図7のステップS104において、時間Δtaが現状の点検周期以下である場合(S104:No)、演算部10の処理はステップS106に進む。
ステップS106において演算部10は、検知性判定部13によって、機器1の劣化の検知から機能喪失に至るまでの想定時間Δts(図5参照)を算出する。
【0060】
ステップS107において演算部10は、検知性判定部13によって、想定時間Δtsが許容時間(第1所定値)以上であるか否かを判定する。想定時間Δtsが許容時間以上である場合(S107:Yes)、演算部10の処理はステップS108に進む。
ステップS108において演算部10は、機器1について状態基準保全を行うようにする。
【0061】
そして、図8のステップS114において演算部10は、表示制御部17によって、機器1の保全方法を表示装置30に表示させる。すなわち、表示制御部17は、それぞれのグループG1~G5(図4参照)で設定される所定の代表機器について、その代表機器の劣化が検知されてから故障に至るまでの想定時間Δtsが許容時間(第1所定値)以上である場合、その代表機器のグループに含まれる機器の劣化が検知されたときでも、次の点検時まではメンテナンスを要しない旨を表示装置30に表示させる(表示制御処理)。
【0062】
一方、ステップS107において、想定時間Δtsが許容時間未満である場合(S107:No)、演算部10の処理は、図8のステップS109に進む。
ステップS109において演算部10は、リスク評価部14によって、機器1の故障時のリスクを算出する。
ステップS110において演算部10は、リスク評価部14によって、機器1の故障時のリスクの大きさが所定値(第3所定値)以上であるか否かを判定する。リスクの大きさが所定値以上である場合(S110:Yes)、演算部10の処理はステップS111に進む。
【0063】
ステップS111において演算部10は、保全方法選択部16によって、現状の点検周期を維持するようにする。そして、ステップS114において演算部10は、表示制御部17によって、機器1の保全方法を表示装置30に表示させる。すなわち、表示制御部17は、故障時のリスクの大きさが所定値(第3所定値)以上である機器1については、現状の点検周期を維持するように表示装置30に表示させる。
【0064】
一方、ステップS110において、リスクの大きさが所定値未満である場合(S110:No)、演算部10の処理はステップS112に進む。
ステップS112において演算部10は、コスト評価部15によって、事後保全の方がコストが低いか否かを判定する。すなわち、演算部10のコスト評価部15は、機器1の故障から復旧に要するコストの方が、故障前に保全を実施した場合のコストよりも低いか否かを判定する。ステップS112において事後保全の方がコストが低い場合(S112:Yes)、演算部10の処理はステップS113に進む。
【0065】
ステップS113において演算部10は、保全方法選択部16によって、事後保全を選択する。そして、ステップS114において演算部10は、表示制御部17によって、機器1の保全方法を表示装置30に表示させる。すなわち、表示制御部17は、機器1を故障時まで使用し続ける場合のコストが、その機器1の故障前に保全を行う場合のコストよりも低いとき、その機器1を故障時まで使用し続ける旨を表示装置30に表示させる。これによって、管理者等のユーザは、各機器1についてどの保全方法を行うべきかを一目で把握できる。
【0066】
なお、ステップS114において、例えば、それぞれの機器1の識別情報やグループに対応付けて、機器1の保全方法を表形式で表示するようにしてもよいし、また、他の形式で表示してもよい。
【0067】
<効果>
第1実施形態によれば、演算部10が、それぞれのグループG1~G5の代表機器について、点検周期の延長や状態基準保全の可否を判定する。これによって、演算部10の処理負荷を大幅に低減できる。また、例えば、機器1の点検周期を延長することで、点検やメンテナンスに要する手間やコストを削減できる。
【0068】
また、それぞれのグループG1~G5の代表機器のうち、その劣化が検知されてから故障に至るまでの想定時間Δts(図5参照)が許容時間以上である場合には、そのグループの機器1に対して状態基準保全が行われる。この場合、機器1の劣化が検知されたときでも、次の点検時までメンテナンスを行う必要が特にないため、メンテナンスに要するコストを削減できる。ちなみに、機器1の劣化については、例えば、点検時とは別のタイミングで、サンプルとなる機器1を作業員が取り外して所定の劣化試験を行うことで判断される。
【0069】
また、機器1によっては、過去に故障が生じた履歴がないため、故障確率を算出することが困難な場合もある。このような機器1についても状態基準保全の可否を判定することは可能であるため、メンテンナンスに要するコストを削減できる。
また、点検周期の延長や状態基準保全の対象となった機器については、リスク評価を行う必要がなくなるため、リスク評価(機器1の故障時の損失額の推定や入力作業)に要する管理者等の負担を軽減できる。なお、リスク評価は、機器1の保全において特に労力を要する作業である。
【0070】
また、故障時のリスクの大きさが所定値以下であり、さらに、事後保全の方がコストが低い場合には、事後保全を行うようにすることで、メンテナンスに要するコストを削減できる。このように、第1実施形態によれば、機器1に故障が生じる確率を低くしつつ、機器1の保全に要するコストを削減するようなプラン(機器1ごとの保全方法の選択結果)を管理者等に提供できる。また、機器1の保全業務の負担を軽減する保全支援システム100を提供することで、社会貢献に寄与できる。
【0071】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、保全支援システム100A(図9参照)がグルーピング評価部18(図9参照)を備え、必要に応じて再グループ化を行う点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他については、第1実施形態と同様であるから、説明を省略する。
【0072】
図9は、第2実施形態に係る保全支援システム100Aの構成図である。
図9に示すように、保全支援システム100Aの演算部10Aは、第1実施形態で説明した構成の他に、グルーピング評価部18を備えている。グルーピング評価部18は、前記した「状態基準保全」の対象となっているグループについて、そのグループの分け方が適切であるか否かを判定し、必要に応じて再グループ化を行う機能を有している。具体的には、プラント200(図1参照)の実際の使用環境に基づく劣化試験を所定の機器1について行った結果、その機器1の劣化が検知されてから故障に至るまでの想定時間が許容時間(第1所定値)未満である場合、グルーピング評価部18は、少なくともその機器1を現状のグループから分けて、新たなグループを作成する。
【0073】
なお、劣化特性データベース23に格納されているデータ(図5参照)は、事前の劣化試験等に基づくものであるが、プラント200(図1参照)で機器1を実際に使用した場合の劣化特性は、使用環境の影響で想定とは異なることもある。そこで、第2実施形態では、プラント200の実際の使用環境に基づく機器1の劣化試験の結果と、劣化特性データベース23の劣化特性と、をグルーピング評価部18が比較し、必要に応じて再グループ化を行うようにしている。
【0074】
図10は、機器の劣化特性の比較を示す特性図である。
なお、図10の横軸は、機器1が使用された時間である。また、図5の縦軸は、機器1における所定の劣化量である。図10の破線の曲線F1は、劣化特性データベース23に予め格納されている所定の機器1の劣化特性である(図5の曲線F1と同様)。一方、図10の実線の曲線F1aは、例えば、プラント200で実際に使用されている機器1を取り外し、その使用環境を反映させた劣化試験を行うことで得られた劣化特性である。また、点α,βは、劣化試験で得られたデータをプロットしたものである。
【0075】
図10に示すように、劣化特性データベース23における劣化特性(曲線F1)での想定時間Δtsよりも、機器1の実際の使用環境を反映させた劣化特性(曲線F1a)での想定時間Δtfの方が長くなっている。ちなみに、場合によっては、劣化特性データベース23における劣化特性よりも機器1の劣化が早く進み、想定時間Δtfが比較的短くなることもある。
【0076】
図11は、保全支援システムの演算部が実行する処理のフローチャートである(適宜、図10を参照)。
なお、図11には図示していないが、ステップS101~S108の処理については、第1実施形態の図7に示すものと同様である。また、図11のステップS109~S114については、第1実施形態(図8参照)で説明したものと同様であるから、説明を省略する。また、図11のステップS114の処理後、図示はしないが、状態基準保全の対象であるグループの所定の機器1(試験用のサンプル)について、実際の使用環境に基づく劣化試験が行われ、その試験結果のデータが演算部10Aによって読み出されるものとする。
【0077】
ステップS115において演算部10Aは、機器1の劣化の検知から機能喪失までの想定時間Δtf(図10参照)のデータを取得する。この想定時間Δtfは、機器1の実際の使用環境に基づく劣化試験で得られたものである。
ステップS116において演算部10Aは、想定時間Δtfが所定の許容時間(第1所定値)以上であるか否かを判定する。この許容時間として、例えば、劣化試験が行われた機器1の点検周期が用いられてもよい。
【0078】
ステップS116において、機器1の劣化の検知から機能喪失に至るまでの想定時間Δtfが許容時間以上である場合(S116:Yes)、演算部10Aは、一連の処理を終了する(END)。この場合には、機器1について状態機能保全を継続しても特に問題がないからである。一方、ステップS116において、想定時間Δtfが許容時間未満である場合(S116:No)、演算部10Aの処理はステップS117に進む。
ステップS117において演算部10Aは、再グループ化を行う。この再グループ化について、図12A図12Bを用いて説明する。
【0079】
図12Aは、再グループ化が行われる前のグループに関する説明図である。
なお、図12Aの横軸に関して、紙面左側は、使用環境Iのグループ(図4のグループG1,G2)である。一方、図12Aの紙面右側は、使用環境IIのグループ(図4のグループG3等)である。また、図12Aの縦軸は、機器1の劣化の検知から機能喪失に至るまでの想定時間である。この想定時間は、機器1の実際の使用環境を反映した新たな劣化試験で得られたデータに基づいている。また、図12Aに示す許容時間Δth(例えば、機器1の点検周期)は、状態基準保全を行ってもよいか否かの判定基準となる閾値であり、予め設定されている。
【0080】
図12Aの例では、機器1a,1b,・・・,1eは、劣化の検知から機能喪失までの想定時間が許容時間Δthよりも長いが、その一方で、機器1fに関しては、前記した想定時間が許容時間Δthよりも短くなっている。ここで、機器1e,1fは同一のグループG3(図4参照)に含まれているが、実際の劣化特性を考慮すると、異なるグループに分けることが望ましい。具体的には、機器1eについては状態基準保全を行う一方、機器1fについては状態基準保全を行わないことが望ましい。
【0081】
図12Bは、再グループ化が行われた後のグループに関する説明図である。
図12Bの例では、機器1fが、新たに設定された使用環境IIIのグループに含まれるように再グループ化が行われている。これによって、状態基準保全に適した機器と、状態基準保全に適さない別の機器と、が一つのグループに混在することを防止できる。
【0082】
例えば、機器1e,1fをグループ化する際の基準である使用環境IIとして、環境温度が100℃~200℃の範囲を用いていたものの、条件をさらに細分化した方がよいことがある。したがって、使用環境(例えば、温度、圧力、流速)が機器1fと比較的近い他の機器も、機器1fと同一の新たなグループに含まれるように、適宜に再グループ化を行うようことが望ましい。
【0083】
なお、機器1の使用環境を特定する状態量(例えば、温度、圧力、流速)が複数存在することもある。この場合には、機器1の劣化の検知から機能喪失に至るまでの想定時間が許容時間Δth以上の機器と、想定時間が許容時間Δth未満の機器と、を分けることが可能な状態量に基づいて、その状態量の範囲を細分化することで再グループ化を行うことが好ましい。演算部10Aは、再グループ化によって生成した新たなグループに関して、実際の稼働状況に基づく劣化試験の結果を劣化特性データベース23(図9参照)に反映させる。
【0084】
再び、図11に戻って説明を続ける。
ステップS117において再グループ化を行った後、ステップS118において演算部10Aは、保全方法選択部16によって、新たなグループに含まれる機器1の保全方法を選択する。具体的には、演算部10Aは、新たなグループに含まれる機器1のそれぞれについてリスク評価及びコスト評価を行い、現状の点検周期で点検を行うか、それとも、事後保全を行うかを選択する。なお、リスク評価やコスト評価等については、図11のステップS109~S113と同様であるから、説明を省略する。
次に、ステップS119において演算部10Aは、表示制御部17によって、それぞれの機器1の保全方法を表示装置30に表示させ、一連の処理を終了する(END)。
【0085】
<効果>
第2実施形態によれば、グルーピング評価部18が適宜に再グループ化を行うことで、状態基準保全を行わないほうがよい機器を、状態基準保全の対象となる他の機器から分離できる。したがって、次の点検時までに機器が故障する可能性を第1実施形態よりもさらに低くすることができる。
【0086】
≪変形例≫
以上、本発明に係る保全支援システム100、100Aについて各実施形態で説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、第1実施形態では、保全支援システム100(図2参照)が、点検周期延長判定部12やリスク評価部14、コスト評価部15の他、保全・故障実績データベース22等を備える構成について説明したが、次に説明するように、これらを適宜に省略してもよい。このような構成について、図13を用いて説明する。
【0087】
図13は、変形例に係る保全支援システム100Bの構成図である。
図13の例では、保全支援システム100Bの演算部10Bが、グルーピング部11と、検知性判定部13と、保全方法選択部16と、表示制御部17を備えた構成になっている。このような構成において、例えば、代表機器の劣化が検知されてから機能喪失に至るまでの想定時間が許容時間よりも長い場合、代表機器のグループに含まれる各機器について、状態基準保全が選択される。一方、前記した想定時間が許容時間以下である場合には、代表機器のグループに含まれる各機器について劣化が検知されたとき、次の点検まで待たずにメンテナンスが行われるようにする。このような構成でも、機器1の保全を行う際の負担を軽減できる。
【0088】
また、第1実施形態(図2参照)の構成から点検周期延長判定部12や保全・故障実績データベース22を省略する一方、検知性判定部13やリスク評価部14、コスト評価部15等を残してもよい。
また、第1実施形態(図2参照)の構成からリスク評価部14やコスト評価部15を省略する一方、点検周期延長判定部12や保全・故障実績データベース22の他、検知性判定部13等を残すようにしてもよい。
また、第1実施形態(図2参照)の構成の一部を適宜に省略する構成において、第2実施形態(図9参照)で説明したグルーピング評価部18を加えるようにしてもよい。
【0089】
また、各実施形態では、機器1の劣化に関する条件として、図4に示す劣化事象、構造・材料、使用環境、要求機能、及び最小劣化量が共通しているものをグループ化する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、グループ化を行う際の基準となる条件として、前記した複数の条件のうち一部が省略されてもよいし、また、他の条件が適宜に追加されてもよい。
【0090】
また、機器1の劣化試験に代えて(又は、劣化試験とともに)、機器1に設置されたセンサ(図示せず)の検出値に基づいて、機器1の劣化を検知するようにしてもよい。
また、機器1の劣化試験の方法は、引張試験に限定されるものではなく、圧縮試験や曲げ試験、せん断試験等が用いられてもよい。
【0091】
また、保全支援システム100等が実行する処理が、コンピュータの所定のプログラムとして実行されてもよい。前記したプログラムは、通信線を介して提供することもできるし、CD-ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【0092】
また、各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、前記した機構や構成は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての機構や構成を示しているとは限らない。
【符号の説明】
【0093】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1h,1i,1j 機器
10,10A,10B 演算部
11 グルーピング部
12 点検周期延長判定部
13 検知性判定部
14 リスク評価部
15 コスト評価部
16 保全方法選択部
17 表示制御部
18 グルーピング評価部
21 劣化関連情報記憶部
21a 劣化事象データベース
21b 構造・材料データベース
21c 使用環境データベース
21d 要求機能データベース
21e 劣化検知方法データベース
22 保全・故障実績データベース
23 劣化特性データベース
24 機能・劣化量データベース
30 表示装置
100,100A,100B 保全支援システム
200 プラント
G1,G2,G3,G4,G5 グループ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13