(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】筐体の分解構造
(51)【国際特許分類】
B25B 27/14 20060101AFI20240815BHJP
F16B 35/00 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
B25B27/14 Z
F16B35/00 R
F16B35/00 Y
F16B35/00 M
(21)【出願番号】P 2021042861
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】391008559
【氏名又は名称】株式会社トランストロン
(74)【代理人】
【識別番号】100170070
【氏名又は名称】坂田 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 弘憲
(72)【発明者】
【氏名】今井 雄介
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0065222(US,A1)
【文献】実開昭50-012166(JP,U)
【文献】登録実用新案第3197470(JP,U)
【文献】特開平11-103983(JP,A)
【文献】特開2013-161995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0024696(US,A1)
【文献】特開2002-310122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B1/00-33/00
H05K5/00/5/06
F16B1/00-47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部品に第2部品が接着されている筐体と、
前記第2部品に着脱可能な押しボルトであって、ボルト本体と、前記ボルト本体の先端に設けられた球状の球部材とを有する押しボルトと、
を備えた筐体の分解構造であって、
前記第2部品には、前記押しボルトが螺合される第1ねじ孔が形成されており、
前記第1部品には、前記第1ねじ孔の中心軸に沿って見たときに前記第1ねじ孔と重なる位置に下穴が形成されており、
前記押しボルトの先端には、前記球部材が挿入される球状穴が設けられており、
前記球状穴に前記球部材が挿入されると、前記球部材の一部が前記ボルト本体の先端から突出し、前記球状穴と前記球部材との間に隙間を有し、
前記押しボルトが前記第1ねじ孔に螺合されると前記球部材が前記下穴に当接
し、
前記下穴の開口部には、角部を削ることで形成された面取りが設けられており、
前記球部材は、前記球状穴の内部で、前記ボルト本体の中心軸と直交する方向に移動可能である
ことを特徴とする筐体の分解構造。
【請求項2】
前記面取りは、前記下穴の穴径が小さくなる方向に凸となる曲面である
ことを特徴とする請求項
1に記載の筐体の分解構造。
【請求項3】
前記面取りは、前記下穴の穴径が大きくなる方向に凹となる曲面であり、
前記面取りの半径は、前記球部材の半径と略同一である
ことを特徴とする請求項
1に記載の筐体の分解構造。
【請求項4】
前記押しボルトは、前記球状穴の内部に設けられた板ばねを有し、
前記板ばねは、前記球状穴に前記球部材が設けられたときに、前記球部材を前記押しボルトの外に押し出す方向の力を前記球部材に付勢する
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載の筐体の分解構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体の分解構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つのフランジを切り離すときに使用される押しボルトが開示されている。押しボルトは、外周面にねじ山が形成されたねじ軸と、ねじ軸に接続されたボルト頭部と、ねじ軸の端面に形成された穴に、少なくとも一部が挿入された延長部材とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の押しボルトを用いて2つのフランジを切り離すには、押しボルトをフランジから一旦取り外して延長部材の長さを調整した後で、押しボルトを再度フランジにねじ込む必要があり、1つの動作で2つの部品を分解することができない。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、1つの動作で2つの部品を分解することができる筐体の分解構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る筐体の分解構造は、例えば、第1部品に第2部品が接着されている筐体と、前記第2部品に着脱可能な押しボルトであって、ボルト本体と、前記ボルト本体の先端に設けられた球状の球部材とを有する押しボルトと、を備えた筐体の分解構造であって、前記第2部品には、前記押しボルトが螺合される第1ねじ孔が形成されており、前記第1部品には、前記第1ねじ孔の中心軸に沿って見たときに前記第1ねじ孔と重なる位置に下穴が形成されており、前記押しボルトの先端には、前記球部材が挿入される球状穴が設けられており、前記球状穴に前記球部材が挿入されると、前記球部材の一部が前記ボルト本体の先端から突出し、前記球状穴と前記球部材との間に隙間を有し、前記押しボルトが前記第1ねじ孔に螺合されると前記球部材が前記下穴に当接することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る筐体の分解構造によれば、第1部品に接着されている第2部品には、押しボルトが螺合される第1ねじ孔が形成されている。押しボルトの先端には、球部材が挿入される球状穴が設けられており、球状穴に球部材が挿入されると、球部材の一部が前記ボルト本体の先端から突出する。第1部品には、第1ねじ孔の中心軸に沿って見たときに第1ねじ孔と重なる位置に下穴が形成されており、押しボルトが第1ねじ孔に螺合されると球部材が下穴に当接する。これにより、押しボルトを第2部品にねじ込むという1つの動作で2つの部品(第1部品及び第2部品)を分解することができる。また、球部材が球状穴に対して移動可能であるため、第1部品と第2部品とがズレていても球部材が下穴を押し下げることができる。
【0008】
前記下穴の開口部には、角部を削ることで形成された面取りが設けられていてもよい。これにより、球部材が面取りを押圧し、押しボルトを第2部品にねじ込む力を効率よく第1部品に伝えることができる。
【0009】
前記面取りは、前記下穴の穴径が小さくなる方向に凸となる曲面であってもよい。これにより、球部材が面取りに当接しやすくなる。
【0010】
前記面取りは、前記下穴の穴径が大きくなる方向に凹となる曲面であり、前記面取りの半径は、前記球部材の半径と略同一であってもよい。これにより、球部材と面取りとが面で当接し、球部材が空回りすることを防ぐことができる。
【0011】
前記押しボルトは、前記球状穴の内部に設けられた板ばねを有し、前記板ばねは、前記球状穴に前記球部材が設けられたときに、前記球部材を前記押しボルトの外に押し出す方向の力を前記球部材に付勢してもよい。弾性部材により、球部材が第1部品を押圧する力を調整することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1つの動作で2つの部品を分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施の形態に係る筐体の分解構造1の概略を示す図である。
【
図2】(A)は押しボルト30の概略を示す図であり、(B)は(A)の部分拡大図である。
【
図3】筐体の分解構造1が押しボルト30を用いて下ケース10とカバー20とを分解する様子を示す模式図である。
【
図4】ボール32が下穴11に当接した様子を示す模式図である。
【
図5】下ケース10とカバー20とが正常に組み立てられていない場合において、ボール32が下穴11に当接した様子を示す模式図である。
【
図6】下ケース10とカバー20とが大きくズレており、軸部31aの先端31dが下ケース10の表面に当接しない場合において、ボール32が下穴11に当接した様子を示す模式図である。
【
図7】変形例にかかる面取り12A、12Bにボール32が当接した様子を示す模式図である。
【
図8】筐体の分解構造2の概略を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る筐体の分解構造の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。この筐体の分解構造は、例えば、電子機器等において、接着剤やシーリング材を用いて2つの部品を接着して密閉することで防水構造とする場合に、これらの2つの部品を分解するための構造である。
【0015】
<第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態に係る筐体の分解構造1の概略を示す図である。筐体の分解構造1は、主として、下ケース10(本発明の第1部品に相当)とカバー20(本発明の第2部品に相当)とを有する筐体50と、押しボルト30とを備える。
【0016】
なお、
図1では、筐体50の一部のみを図示している。また、
図1では、筐体50を断面表示している。
【0017】
下ケース10及びカバー20は、それぞれ板状の板状部15、25を有し、板状部15と板状部25との間には接着剤60が塗布されている。言い換えれば、カバー20は接着剤60により下ケース10に接着されている。筐体の分解構造1は、押しボルト30を用いて2つの部品(下ケース10とカバー20)を分解するための構造である。
【0018】
下ケース10には、下穴11が設けられている。カバー20には、押しボルト30が螺合される雌ねじ部を有するねじ孔21が形成されている。ねじ孔21の中心軸ax1に沿って見たときに、下穴11とねじ孔21とは位置が重なる。
【0019】
押しボルト30は、カバー20に着脱可能である。押しボルト30は、ボルト本体31と、ボルト本体31の先端に設けられた球状のボール32(本発明の球部材に相当)とを有する。
【0020】
図2(A)は、押しボルト30の概略を示す図であり、
図2(B)は
図2(A)の部分拡大図である。
図2では、ボルト本体31の一部及びボール32を断面表示している。
【0021】
ボルト本体31は、軸部31a及び頭部31eを有する。軸部31aの外周面には、ねじ孔21に形成された雌ねじ部に螺合可能な雄ねじ部31cが設けられている。また、ボルト本体31の先端31dには、ボール32が挿入される球状穴31bが設けられている。なお、本発明において、ボルト本体31の先端31dとは、軸部31aの頭部31eが設けられていない側の端である。
【0022】
球状穴31bの形状は、半球より大きい球欠である。したがって、球状穴31bにボール32が挿入されると、ボール32の一部が先端31dから突出する。また、球状穴31bの半径はボール32の半径より大きく、球状穴31bとボール32との間に隙間を有する。したがって、ボール32が球状穴31bの内部で横方向(軸部31aの中心軸ax3と直交する方向)に移動可能である。
【0023】
図3は、筐体の分解構造1が押しボルト30を用いて下ケース10とカバー20とを分解する様子を示す模式図である。ねじ孔21に形成された雌ねじ部に雄ねじ部31cが螺合されることにより、押しボルト30がカバー20に設けられている。ねじ孔21に形成された雌ねじ部に雄ねじ部31cを螺合させると、押しボルト30がカバー20にねじ込まれ、ボール32が下ケース10の下穴11に当接する。
【0024】
下穴11にボール32が当接した状態で押しボルト30をカバー20にさらにねじ込むと、カバー20が下ケース10から持ち上がる。その結果、板状部15と板状部25との間に塗布されている接着剤60が引き延ばされて切断されることにより、下ケース10とカバー20とが分解される。
【0025】
図4は、ボール32が下穴11に当接した様子を示す模式図である。下穴11の開口部には、角部を削ることで形成された面取り12が設けられている。面取り12は、角を斜めに落とすいわゆるC面取りである。
【0026】
下ケース10とカバー20とが正常に組み立てられていれば、ねじ孔21の中心軸ax1と下穴11の中心軸ax2とが略一致する。その結果、ボール32と面取り12とが円状の線で当接し、ボール32全体で面取り12、すなわち下穴11を押圧する。
【0027】
そして、ボール32が面取り12を押圧することで、下ケース10に中心軸ax1、ax2に沿った方向の力が加わる。したがって、押しボルト30をカバー20にねじ込む力を効率よく下ケース10に伝えることができる。
【0028】
それに対し、下ケース10とカバー20とが正常に組み立てられておらず、中心軸ax1と中心軸ax2とがズレている場合も考えられる。
図5は、下ケース10とカバー20とが正常に組み立てられていない場合において、ボール32が下穴11に当接した様子を示す模式図である。
【0029】
ボール32が球状穴31bの内部で横方向(
図5における左右方向)に移動可能であるため、中心軸ax1と中心軸ax2とがズレていたとしても、ボール32が横方向に移動し、ボール32と面取り12とが当接する。したがって、下ケース10とカバー20とが正常に組み立てられていない場合にも、ボール32が面取り12、すなわち下穴11を押圧することができる。
【0030】
図6は、下ケース10とカバー20とが大きくズレており、軸部31aの先端31dが下ケース10の表面に当接しない(
図6の点線参照)場合において、ボール32が下穴11に当接した様子を示す模式図である。このような場合においても、ボール32を先端31dに設けることで、ボール32が面取り12、すなわち下穴11を押圧することができる。
【0031】
本実施の形態によれば、押しボルト30をカバー20にねじ込むという1つの動作で、下ケース10とカバー20とを分解することができる。特に、押しボルト30の先端31dに設けたボール32が横方向に移動可能であるため、下ケース10とカバー20とがズレていてもボール32が下穴11、すなわち下ケース10を押し下げることができる。
【0032】
また、本実施の形態によれば、下穴11に面取り12を設けることで、ボール32が面取り12を押圧する。したがって、押しボルト30をカバー20にねじ込む力を効率よく下ケース10に伝えることができる。また、ボール32が下ケース10表面に当接しないため、下ケース10とカバー20とを分解するときに下ケース10表面に傷がつかないようにする。
【0033】
なお、本実施の形態では、カバー20に直接ねじ孔21が形成されていたが、カバー20にねじ孔21を設ける形態はこれに限られない。例えば、カバー20に設けた孔に、ねじ孔21が形成された筒状の部材を嵌入等により固定することで、カバー20にねじ孔21を設けてもよい。
【0034】
また、本実施の形態では、下穴11にC面取りである面取り12を設けたが、面取りの形状はこれに限られない。例えば、
図7は、変形例にかかる面取り12A、12Bにボール32が当接した様子を示す模式図である。
【0035】
図7(A)におけるケース10Aにおいては、下穴11の開口部には、角部を削ることで形成された面取り12Aが設けられている。面取り12Aは、下穴11の穴径が小さくなる方向に凸となる曲面、いわゆるR面取りである。この場合には、ボール32が面取り12Aに当接しやすくなる。また、下ケース10とカバー20とがズレている場合にも、ボール32が下ケース10表面に当接する可能性を減らし、下ケース10とカバー20とを分解するときに下ケース10表面に傷がつき難くすることができる。
【0036】
図7(B)におけるケース10Bにおいては、下穴11の開口部には、角部を削ることで形成された面取り12Bが設けられている。面取り12Bは、下穴の穴径が大きくなる方向に凹となる曲面であり、面取り12Bの半径は、ボール32の半径と略同一である。これにより、ボール32と面取り12Bとが面で当接し、押しボルト30から下ケース10に力を伝えやすくなる。また、ボール32と面取り12Bとが面で当接するため、ボール32が空回りすることを防ぐことができる。
【0037】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態と押しボルトの形態が異なる。以下、第2の実施の形態に係る筐体の分解構造2について説明する。なお、第1の実施の形態に係る筐体の分解構造1と同一の部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0038】
図8は、筐体の分解構造2の概略を示す部分拡大図である。筐体の分解構造2は、主として、下ケース10とカバー20(図示省略)とを有する筐体50(一部図示省略)と、押しボルト30A(一部図示省略)とを備える。
【0039】
押しボルト30Aは、カバー20に着脱可能である。押しボルト30Aは、ボルト本体31Aと、ボルト本体31Aの先端に設けられた球状のボール32とを有する。
【0040】
ボルト本体31Aの先端31dには、ボール32が挿入される球状穴31bが設けられている。球状穴31bの内部には、板ばね33(本発明の弾性部材に相当)が設けられている。板ばね33は、球状穴31bにボール32が設けられたときに、ボール32を押しボルト30Aの外に押し出す方向の力をボール32に付勢する。
【0041】
本実施の形態によれば、板ばね33によりボール32が下ケース10を押圧する力を調整することができる。
【0042】
また、本実施の形態によれば、板ばね33を設けることにより、板ばね33がスペーサとなり、板ばね33が設けられていない場合に比べて、下ケース10の上面13と押しボルト30の先端31dとの距離を増やすことができる。これにより、押しボルト30が下ケース10表面に当接する可能性を減らすことができる。
【0043】
なお、本実施の形態では、球状穴31bの内部に板ばね33を設けたが、球状穴31bの内部に設ける弾性部材は板ばね33に限られない。例えば、球状穴31bとボール32との間にコイルばねを設けてもよい。また、例えば、球状穴31bの内部にゴム等を設けてもよい。
【0044】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0045】
また、本発明において、「略」とは、厳密に同一である場合のみでなく、同一性を失わない程度の誤差や変形を含む概念である。例えば、略平行、略直交とは、厳密に平行、直交の場合には限られない。また、例えば、単に平行、直交等と表現する場合においても、厳密に平行、直交等の場合のみでなく、略平行、略直交等の場合を含むものとする。また、本発明において「近傍」とは、例えばAの近傍であるときに、Aの近くであって、Aを含んでも含まなくてもよいことを示す概念である。
【符号の説明】
【0046】
1、2 :分解構造
10、10A、10B:下ケース
11 : 下穴
12、12A、12B:面取り
15 :板状部
20 :カバー
21 :ねじ孔
25 :板状部
30、30A :押しボルト
31、31A :ボルト本体
31a :軸部
31b :球状穴
31c :雄ねじ部
31d :先端
31e :頭部
32 :ボール
33 :板ばね
50 :筐体
60 :接着剤