(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】加工装置、制御装置、及び加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/082 20140101AFI20240815BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20240815BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
B23K26/08 F
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021051768
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】福岡 大
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 重昭
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-254778(JP,A)
【文献】特開2021-024004(JP,A)
【文献】特開2019-188410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
B23K 9/00-9/32
B25J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節ロボットと、
少なくとも1方向の並進自由度を持ち、前記多関節ロボットのアームの先端に取り付けられた直動機構と、
前記直動機構を介して前記多関節ロボットに支持され、加工用のレーザビームを出力する加工ヘッドと、
前記加工ヘッドによる加工が可能な範囲に加工対象物を支持し、支持した加工対象物を回転させる支持機構と、
前記多関節ロボットの動作を制御するロボットコントローラと、
前記支持機構に支持された加工対象物の表面領域が、前記加工ヘッドから出力されたレーザビームの進行方向に対して直交する状態となるように、前記直動機構の並進動作と前記支持機構の回転動作とを協調制御して加工を行う加工コントローラと
を備えた加工装置。
【請求項2】
前記ロボットコントローラは、前記多関節ロボットを動作させて前記加工ヘッドを加工対象物の加工すべき位置に移動させ、前記加工コントローラが前記直動機構の並進動作と前記支持機構の回転動作とを協調制御して加工を行っている期間は、前記多関節ロボットを静止させておく請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
加工対象物に行う加工情報から、加工すべき箇所の基準点の位置を定義する加工位置データ、及び前記基準点の位置に対して行う加工の形状を定義する加工動作データを生成するデータ変換部を、さらに備え、
前記ロボットコントローラは、前記加工位置データに基づいて前記多関節ロボットを制御し、
前記加工コントローラは、前記加工動作データに基づいて前記直動機構及び前記支持機構を制御する請求項1または2に記載の加工装置。
【請求項4】
前記ロボットコントローラは、前記支持機構の回転動作を制御する機能を持ち、
前記ロボットコントローラによる前記支持機構の回転動作の制御と、前記加工コントローラによる前記支持機構の回転動作の制御との一方を選択して、前記支持機構の回転動作を行わせる切替機構を、さらに備えた請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加工装置。
【請求項5】
多関節ロボットのアームの先端に取り付けられ、少なくとも1方向の並進自由度を持ち、前記多関節ロボットに対して、加工用のレーザビームを出力する加工ヘッドを移動させる直動機構を制御する直動制御部と、
前記加工ヘッドによる加工が可能な範囲に加工対象物を支持し、支持した加工対象物を回転させる支持機構を制御する回転制御部と
を備え、
前記直動制御部と前記回転制御部とは、前記支持機構に支持された加工対象物の表面領域が、前記加工ヘッドから出力されたレーザビームの進行方向に対して直交する状態となるように、前記加工ヘッドの移動と加工対象物の回転とを協調制御する制御装置。
【請求項6】
多関節ロボットのアームの先端に少なくとも1方向の並進自由度を持つ直動機構を介して支持された加工ヘッドから加工用のレーザビームを出力させながら、前記加工ヘッドを前記直動機構で並進移動させるとともに、
前記加工ヘッドによる加工が可能な範囲に加工対象物を支持し、支持した前記加工対象物を回転させる支持機構に支持された前記加工対象物の表面領域が、前記加工ヘッドから出力されたレーザビームの進行方向に対して直交する状態となるように、前記加工ヘッドの並進移動に協調して
前記加工対象物を回転させながら加工を行う加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置、制御装置、及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自由度の高い多関節ロボットとレーザとを組み合わせたレーザ加工装置が広く用いられている。金属製の加工対象物の表面にレーザビームを集光し、局所的に金属を溶融させることにより、穴あけや切断を行う。閉断面を持つ長尺部材(パイプ状の部材)の切断や穴あけを行う際には、加工箇所の表面にレーザ照射部を対向させてレーザを照射するために、加工対象物に対してレーザ照射部(加工ヘッド)を位置合わせする機構が必要である。
【0003】
多関節ロボットのアームの先端に加工ヘッドを取り付け、多関節ロボットを駆動して加工ヘッドを加工対象物の加工箇所に位置合わせするレーザ加工装置が下記の特許文献1に記載されている。このレーザ加工装置においては、多関節ロボットのアームの先端に多軸ステージを介して加工ヘッドが支持されている。加工ヘッドの先端を加工対象物に対向させた状態で多軸ステージを動作させて加工ヘッドを移動させることにより、加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多軸ステージは、相互に直交する3軸方向の並進自由度を持つ。高い加工精度を維持するために、加工対象物に面直方向からレーザビームを入射させることが好ましい。加工対象物の表面が平面であれば、多軸ステージを動作させて加工ヘッドを並進移動させることにより、レーザビームを面直方向から入射させる条件を維持して加工を行うことができる。ところが、加工対象物の表面が湾曲していたり、表面に凹凸が形成されていたりする場合、レーザビームの入射方向が面直方向からずれてしまう。このため、加工品質が低下してしまう。
【0006】
本発明の目的は、加工対象物の表面が平面ではない場合でも、加工品質の低下を抑制することが可能な加工装置、制御装置、及び加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
多関節ロボットと、
少なくとも1方向の並進自由度を持ち、前記多関節ロボットのアームの先端に取り付けられた直動機構と、
前記直動機構を介して前記多関節ロボットに支持され、加工用のレーザビームを出力する加工ヘッドと、
前記加工ヘッドによる加工が可能な範囲に加工対象物を支持し、支持した加工対象物を回転させる支持機構と、
前記多関節ロボットの動作を制御するロボットコントローラと、
前記支持機構に支持された加工対象物の表面領域が、前記加工ヘッドから出力されたレーザビームの進行方向に対して直交する状態となるように、前記直動機構の並進動作と前記支持機構の回転動作とを協調制御して加工を行う加工コントローラと
を備えた加工装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
多関節ロボットのアームの先端に取り付けられ、少なくとも1方向の並進自由度を持ち、前記多関節ロボットに対して、加工用のレーザビームを出力する加工ヘッドを移動させる直動機構を制御する直動制御部と、
前記加工ヘッドによる加工が可能な範囲に加工対象物を支持し、支持した加工対象物を回転させる支持機構を制御する回転制御部と
を備え、
前記直動制御部と前記回転制御部とは、前記支持機構に支持された加工対象物の表面領域が、前記加工ヘッドから出力されたレーザビームの進行方向に対して直交する状態となるように、前記加工ヘッドの移動と加工対象物の回転とを協調制御する制御装置が提供される。
【0009】
本発明のさらに他の観点によると、
多関節ロボットのアームの先端に少なくとも1方向の並進自由度を持つ直動機構を介して支持された加工ヘッドから加工用のレーザビームを出力させながら、前記加工ヘッドを前記直動機構で並進移動させるとともに、
前記加工ヘッドによる加工が可能な範囲に加工対象物を支持し、支持した前記加工対象物を回転させる支持機構によって支持された前記加工対象物の表面領域が、前記加工ヘッドから出力されたレーザビームの進行方向に対して直交する状態となるように、前記加工ヘッドの並進移動に協調して前記加工対象物を回転させながら加工を行う加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
直動機構の並進動作と、支持機構の回転動作とを協調制御することにより、加工対象物の表面が平面ではないでも、加工を行うべき表面領域に対する加工ヘッドの姿勢を一定に維持することが可能である。これにより、加工を行うべき表面領域に対する加工ヘッドの姿勢のばらつきに起因する加工品質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施例による加工装置の概略斜視図である。
【
図2】
図2は、一実施例による加工装置のブロック図である。
【
図3】
図3Aは、加工形状データで定義される加工形状を示す模式図であり、
図3Bは、加工位置データを表形式で示す図であり、
図3Cは、加工動作データを表形式で示す図である。
【
図4】
図4Aは、加工開始時点における加工対象物と加工ヘッドとのxz面内の位置関係を示す図であり、
図4B~
図4Dは、加工途中段階における両者のxz面内の位置関係を示す図であり、
図4Eは、加工終了時点における両者のxz面内の位置関係を示す図である。
【
図5】
図5は、加工対象物の加工の手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、他の実施例による加工装置のブロック図である。
【
図7】
図7は、切替機構の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、
図6に示した実施例による加工装置を使用した加工の手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、さらに他の実施例による加工装置の切替機構及びその周辺の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図5を参照して、本願発明の一実施例による加工装置について説明する。
図1は、一実施例による加工装置の概略斜視図である。多関節ロボット10のアームの先端に、直動機構11を介して加工ヘッド12が支持されている。多関節ロボット10には、例えば6軸ロボットが用いられる。多関節ロボット10は、ロボットコントローラ51から制御されることにより動作する。
【0013】
レーザ発振器60から出力された加工用のレーザビームが、光ファイバ61を経由して加工ヘッド12まで伝送される。加工ヘッド12まで伝送された加工用のレーザビームは、加工ヘッド12の先端から出力される。
【0014】
直動機構11は、相互に直交する3軸の並進自由度を持つ。3軸のうち1軸は、加工ヘッド12から出力されるレーザビームの進行方向に平行である。レーザビームの進行方向に平行な方向をz方向とするxyz直交座標系を定義すると、直動機構11は、加工コントローラ52から制御されることにより、加工ヘッド12をx方向、y方向、及びz方向に並進移動させる。直動機構11の各軸のストロークは、多関節ロボット10のアームの先端の可動範囲に比べて小さい。
【0015】
支持機構30が、長尺の加工対象物70の両端を把持することにより、加工対象物70を支持する。支持機構30によって支持された加工対象物70は、多関節ロボット10による加工ヘッド12の可動範囲内に配置される。支持機構30は、支持した加工対象物70の長手方向の軸を回転軸として回転させることができる。支持機構30は、加工コントローラ52から制御されることにより、加工対象物70を回転させ、回転方向の姿勢を変化させる。
【0016】
上位コントローラ50が、加工装置全体の動作を制御する。上位コントローラ50は、ロボットコントローラ51及びレーザ発振器60と信号線によって接続されている。ロボットコントローラ51と加工コントローラ52とが、信号線によって接続されている。
【0017】
図2は、本実施例による加工装置のブロック図である。
データ変換部20が、加工を行うために必要な加工情報を含む加工形状データ21に基づいて、加工位置データ22及び加工動作データ23を生成する。加工形状データ21は、加工対象物70に対して行う加工箇所の位置や形状を定義するデータである。加工形状データ21は、例えばCADデータで構成される。データ変換部20は、上位コントローラ50の一つの機能として実現してもよいし、加工装置から独立したハードウェアで実現してもよい。
【0018】
次に、
図3A~
図3Cを参照して、加工形状データ21、加工位置データ22、及び加工動作データ23について説明する。
【0019】
図3Aは、加工形状データ21で定義される加工形状を示す模式図である。例えば、2つの加工箇所M1、M2が定義されている。加工箇所M1、M2の各々は、1つの連続する図形で定義される。例えば、加工箇所M1は、加工対象物70の表面を周方向に1周する線状の図形であり、加工箇所M1において、円筒状の加工対象物70を切断する加工を行う。加工箇所M2は、加工対象物70の表面に位置する円形の図形であり、加工箇所M2において円形の穴を形成する加工を行う。加工形状データ21は、加工箇所M1、M2の位置及び形状を定義する。
【0020】
図3Bは、加工位置データ22を表形式で示す図である。加工位置データ22は、加工箇所M1、M2のそれぞれの基準点P1R、P2Rの座標を定義する。例えば、基準点P1Rとして、線状の加工箇所M1上の任意の1つの点を採用する。基準点P2Rとして、円形の加工箇所M2の中心点を採用する。
【0021】
図3Cは、加工動作データ23を表形式で示す図である。データ変換部20は、加工箇所M1、M2の図形を、それぞれ複数の点P1(i)、P2(i)で表す。加工動作データ23は、この複数の点P1(i)、P2(i)の座標で構成される。なお、これら複数の点P1(i)、P2(i)の座標は、基準点P1R、P2Rに対する相対座標で表される。
【0022】
加工箇所M1の形状は、点P1(1)~P1(N1)のN1個の点で定義され、加工箇所M2の形状は、点P2(1)~P2(N2)のN2個の点で定義される。加工時には、加工ヘッド12のレーザ照射点がこれら複数の点を順番に辿るように加工ヘッド12を移動させる。本明細書において、P1(1)、P2(1)を始点、P1(N1)、P1(N2)を終点、P1(2)~P1(N1-1)、P2(2)~P2(N2-1)を通過点という場合がある。始点P1(1)、P2(1)を、それぞれ基準点P1R、P2Rとして採用してもよい。
【0023】
図2に示すように、本実施例による加工装置は、制御機能を有する装置として、上位コントローラ50、ロボットコントローラ51、及び加工コントローラ52を含む。上位コントローラ50、ロボットコントローラ51、及び加工コントローラ52は、それぞれ1つのコンピュータで実現される。上位コントローラ50とロボットコントローラ51との間の制御信号の送受信、ロボットコントローラ51と加工コントローラ52との間の制御信号の送受信は、コンピュータの通信機能により実現される。
【0024】
上位コントローラ50は、ロボットコントローラ51に加工の開始の指令を送信する。以下、加工箇所M1(
図3A、
図3B、
図3C)の加工を行う例について説明する。
【0025】
ロボットコントローラ51が加工の開始の指令を受信すると、ロボットコントローラ51の6軸制御部51Aが、加工位置データ22(
図3B)に基づいて多関節ロボット10を動作させ、加工すべき加工箇所M1の基準点P1R(
図3B)に加工ヘッド12を位置決めする。ここで、「特定の点に加工ヘッド12を位置決めする。」とは、特定の点にレーザビームが入射するように、加工ヘッド12の姿勢及び位置を調整することを意味する。加工ヘッド12の移動が完了すると、ロボットコントローラ51は、加工コントローラ52に、加工すべき加工箇所M1を指定する情報を送信するとともに、加工の開始を指令する。
【0026】
加工コントローラ52が加工の開始の指令を受信すると、加工コントローラ52のX軸制御部52X、Y軸制御部52Y、及びZ軸制御部52Zからなる直動制御部が加工動作データ23(
図3C)に基づいて直動機構11を制御することにより、指令された加工箇所M1の始点P1(1)、通過点P1(2)~P1(N1-1)、及び終点P1(N1)に加工ヘッド12を順番に移動させる。さらに、加工対象物70に対してレーザビームが面直に入射するように、回転制御部52Rが支持機構30を制御して、加工対象物70の回転方向の姿勢を変化させる。さらに、加工コントローラ52は、レーザ発振器60に対してレーザ出力の指令を送信する。
【0027】
1つの加工箇所M1の加工が完了すると、加工コントローラ52は、ロボットコントローラ51に加工完了信号を送信する。ロボットコントローラ51は、加工完了信号を受信すると、次に加工すべき加工箇所M2に対して同様の処理を行う。
【0028】
次に、
図4A~
図4Eを参照して、加工対象物70の始点P(1)から終点P(N)までの加工を行う手順の一例について説明する。
【0029】
図4Aは、加工開始時点における加工対象物70と加工ヘッド12とのxz面内の位置関係を示す図であり、
図4B~
図4Dは、加工途中段階における両者のxz面内の位置関係を示す図であり、
図4Eは、加工終了時点における両者のxz面内の位置関係を示す図である。
【0030】
加工コントローラ52が支持機構30(
図1)を動作させると、加工対象物70が回転軸Cを中心として回転し、回転方向の姿勢が変化する。加工対象物70の表面に、始点P(1)、複数の通過点P(b)~P(e)、及び終点P(N)が定義されている。始点P(1)、複数の通過点P(b)~P(e)、及び終点P(N)は、y軸に対して垂直な1つの平面内に配置されている。
【0031】
始点P(1)及び終点P(N)が定義されている表面領域はz方向に対して直交している。通過点P(b)とP(e)との間の表面領域が窪んでいる。通過点P(b)からP(c)までの間、及び通過点P(d)からP(e)までの間が窪みの側面に対応し、通過点P(c)からP(d)までの間が窪みの底面に対応する。
【0032】
まず、
図4Aに示すように、加工ヘッド12が始点P(1)に位置決めされる。この状態から、加工ヘッド12を通過点P(b)までx方向に並進移動させる。
【0033】
加工ヘッド12が通過点P(b)に達すると、加工コントローラ52が支持機構30(
図1)を動作させることにより、加工対象物70の回転方向の姿勢を変化させる(
図4B)。具体的には、通過点P(b)からP(c)までの表面をz方向に対して直交させる。加工対象物70の回転によって通過点P(b)の位置が変化するために、この変化に応じて加工コントローラ52が直動機構11を動作させることにより、回転後の加工対象物70の通過点P(b)の位置に加工ヘッド12を位置決めする。その後、加工ヘッド12を通過点P(b)から通過点P(c)まで移動させる(
図4B)。
【0034】
加工ヘッド12が通過点P(c)、P(d)、P(e)に達するごとに、同様に、加工対象物70の回転方向の姿勢を変化させ、加工ヘッド12の位置決めを行う(
図4C、
図4D、
図4E)。加工ヘッド12が終点P(N)に達した時点で加工を終了する(
図4E)。
【0035】
上述のように、直動機構11の並進動作と支持機構30の回転動作とを協調制御して加工が行われる。加工対象物70の始点P(1)からP(N)までの加工時に、被加工点を含む加工対象物70の表面領域は、常にz方向に対して直交する状態が維持される。すなわち、加工対象物70にレーザビームが面直方向から入射する。
【0036】
図5は、加工対象物70の加工の手順を示すフローチャートである。
まず、加工対象物70を支持機構30(
図1)に支持させる(ステップSA1)。この手順は、作業者が行ってもよいし、他の搬送装置を用いて行ってもよい。
【0037】
次に、ロボットコントローラ51(
図2)が加工位置データ22に基づいて、多関節ロボット10を動作させることにより、例えば
図4Aに示すように、加工ヘッド12を最初の加工箇所の始点P(1)に位置決めする(ステップSA2)。その後、例えば
図4A~
図4Eに示すように、加工コントローラ52(
図2)が直動機構11及び支持機構30を協調制御することにより、始点P(1)から終点P(N)までの加工を実行する(ステップSA3)。
【0038】
ステップSA2及びステップSA3の手順を、すべての加工箇所の加工が終了するまで繰り返す(ステップSA4)。すべての加工箇所の加工が終了したら、ロボットコントローラ51が多関節ロボット10を動作させて加工ヘッド12を待機位置に移動させる(ステップSA5)。その後、加工済の加工対象物70を支持機構30から取り外す(ステップSA6)。加工対象物70の取り外しは、作業者が行ってもよいし、他の搬送装置が行ってもよい。
【0039】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
上記実施例では、多関節ロボット10を動作させて加工ヘッド12の位置決めを行った後、多関節ロボット10を静止させて、直動機構11及び支持機構30を動作させることにより加工を行う。一般に、直動機構11による位置決め精度は、多関節ロボット10による位置決め精度より高い。実際の加工は、多関節ロボット10を静止させた状態で、直動機構11及び支持機構30を動作させて行うため、個々の加工箇所の形状の精度を高めることができる。また、一般的に直動機構11の動作速度は、多関節ロボット10の動作速度より速い。このため、個々の加工箇所の加工時間を短縮することができる。
【0040】
また、多関節ロボット10で加工対象物を任意の箇所に位置決めすることにより、直動機構11の並進移動のストロークの範囲を越えた広い領域の加工を行うことができる。
【0041】
さらに、上記実施例では、直動機構11による並進動作と、支持機構30による回転動作とを、加工コントローラ52が協調制御することにより、
図4A~
図4Eに示したように、加工対象物70の表面形状によらず面直方向からレーザビームを入射させることができる。また、直動機構11の制御と支持機構30の制御とを、1つのコンピュータで構成された加工コントローラ52が行うため、それぞれ別々のコンピュータが制御する構成と比べて容易に協調制御を行うことができる。
【0042】
また、上記実施例では、データ変換部20(
図2)が、加工形状データ21に基づいて、ロボットコントローラ51で使用する加工位置データ22と、加工コントローラ52で使用する加工動作データ23とを生成する。このように、ロボットコントローラ51で使用する加工位置データ22と、加工コントローラ52で使用する加工動作データ23とが相互に分離されるため、多関節ロボット10、直動機構11、及び支持機構30を制御するための制御パラメータの管理が容易になる。
【0043】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、直動機構11として相互に直交する3軸の並進自由度を持つものを用いているが、少なくとも1方向の並進自由度を持つものを用いてもよい。また、上記実施例では、多関節ロボット10として、6自由度を持つものを用いているが、自由度の数は6に限定されない。多関節ロボット10及び直動機構11の自由度の数は、加工対象物70の形状の複雑さ、加工箇所の形状等に応じて決定すればよい。
【0044】
上記実施例では、長尺の加工対象物70を加工しているが、加工対象物70の形状は、必ずしも長尺形状である必要はない。例えば、底面の直径と高さとがほぼ等しい円筒状、円柱状等の加工対象物の加工にも、上記実施例による加工装置を適用することができる。
【0045】
上記実施例では、上位コントローラ50、ロボットコントローラ51、及び加工コントローラ52を、それぞれ別々のコンピュータで構成しているが、上位コントローラ50、ロボットコントローラ51、及び加工コントローラ52の各機能を実現するハードウェア構成は、上記実施例による構成に限定されない。例えば、上位コントローラ50、ロボットコントローラ51、及び加工コントローラ52を1つのコンピュータで実現してもよいし、ロボットコントローラ51と加工コントローラ52とを1つのコンピュータで実現してもよい。
【0046】
上記実施例による加工装置は、レーザビームを用いた加工を行う加工ヘッド12を備えているが、レーザ加工以外の加工を行う加工ヘッドを備えてもよい。例えば、アーク溶接を行う加工ヘッドを備えてもよい。
【0047】
次に、
図6~
図8を参照して他の実施例による加工装置について説明する。以下、
図1~
図5を参照して説明した実施例による加工装置と共通の構成については説明を省略する。
【0048】
図6は、本実施例による加工装置のブロック図である。
図1~
図5を参照して説明した実施例では、回転制御部52R(
図2)が加工コントローラ52のみに実装されている。これに対して
図6に示した実施例では、ロボットコントローラ51にも回転制御部51Rが実装されている。ロボットコントローラ51の回転制御部51Rが支持機構30を制御する制御モードと、加工コントローラ52の回転制御部52Rが支持機構30を制御する制御モードとを、切替機構40が切り替える。切替機構40は、上位コントローラ50によって制御される。
【0049】
図7は、切替機構40の詳細な構成を示すブロック図である。切替機構40は、アンプ41A、41B、及び切替スイッチ43を含む。
【0050】
支持機構30のモータ32が加工対象物70を回転させる。エンコーダ31がモータ32の回転角を計測する。エンコーダ31からの信号が、アンプ41A及び41Bのそれぞれで増幅されて、ロボットコントローラ51の回転制御部51R及び加工コントローラ52の回転制御部52Rに入力される。回転制御部51R及び回転制御部52Rからの駆動電力が切替スイッチ43を介してモータ32に供給される。切替スイッチ43は、上位コントローラ50からの制御により回転制御部51R及び回転制御部52Rの一方を選択し、選択した回転制御部からの駆動電力をモータ32に供給する。このように、切替機構40は、ロボットコントローラ51の回転制御部51Rを動作させる状態と、加工コントローラ52の回転制御部52Rを動作させる状態との切替を電気的に行う。
【0051】
図8は、本実施例による加工装置を使用した加工の手順を示すフローチャートである。ステップSA1及びSA2の手順は、
図5に示した実施例のステップSA1及びステップSA2の手順と同一である。加工すべき加工箇所の加工範囲が直動機構11のストロークの範囲に収まる場合には、上位コントローラ50が切替機構40を制御して、支持機構30を加工コントローラ52の回転制御部52Rに接続する(ステップSB1)。その後。
図5に示した実施例のステップSA3と同様に、直動機構11及び支持機構30を協調制御して加工を行う。
【0052】
加工すべき加工箇所の加工範囲が直動機構11のストロークの範囲に収まらない場合には、上位コントローラ50が切替機構40を制御して、支持機構30をロボットコントローラ51の回転制御部51Rに接続する(ステップSB2)。この状態で、ロボットコントローラ51が多関節ロボット10と支持機構30とを協調制御することにより、加工を行う(ステップSB3)。
【0053】
すべての加工箇所の加工が終了するまで、ステップSA2からステップSA3までの手順またはステップSA2からステップSB3までの手順を繰り返す。すべての加工箇所の加工が終了した後は、
図5に示した実施例と同様に、多関節ロボット10を動作させて加工ヘッド12を待機位置に移動させ(ステップSA5)、加工対象物70を支持機構30から取り外す(ステップSA6)。
【0054】
次に、
図6~
図8に示した実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、加工箇所の範囲が直動機構11のストロークの範囲に収まらない場合でも、加工(ステップSB3)を行うことが可能である。また、加工箇所の範囲が直動機構11のストロークの範囲に収まっている場合は、直動機構11を動作させて加工(ステップSA3)を行うことにより、高精度に、かつ高速に加工を行うことができる。
【0055】
次に、
図9を参照してさらに他の実施例による加工装置について説明する。以下、
図6~
図8を参照して説明した実施例による加工装置と共通の構成については説明を省略する。
【0056】
図9は、本実施例による加工装置の切替機構40及びその周辺の構成を示す概略図である。
図7に示した実施例では、切替機構40が回転制御部51R、52Rからの駆動電力のうち一方を選択してモータ32に供給してる。これに対して
図9に示した実施例では、ロボットコントローラ51の回転制御部51Rがモータ32Aを駆動し、加工コントローラ52の回転制御部52Rが他のモータ32Bを駆動する。
【0057】
切替機構40が、クラッチ45A、45B、及び動力伝達機構46を含む。モータ32Aの回転動力が、クラッチ45Aを介して支持機構30の回転軸に伝達される。もう一方のモータ32Bの回転動力が、クラッチ45B及び動力伝達機構46を介して支持機構30の回転軸に伝達される。このように、切替機構40は、ロボットコントローラ51の回転制御部51Rで制御されるモータ32Aを有効にする状態と、加工コントローラ52の回転制御部52Rで制御されるモータ32Bを有効にする状態との切替を機械的に行う。
【0058】
上位コントローラ50が、2つのクラッチ45A、45Bの一方を選択して接続し、他方のクラッチを切断する。これにより、モータ32A、32Bのうち一方の回転動力が支持機構30の回転軸に伝達される。ロボットコントローラ51の回転制御部51Rで回転制御を行う場合には、クラッチ45Aを接続し、他方のクラッチ45Bを切断すればよい。逆に、加工コントローラ52の回転制御部52Rで回転制御を行う場合には、クラッチ45Bを接続し、他方のクラッチ45Aを切断すればよい。
【0059】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0060】
10 多関節ロボット
11 直動機構
12 加工ヘッド
20 データ変換部
21 加工形状データ
22 加工位置データ
23 加工動作データ
30 支持機構
31 エンコーダ
32、32A、32B モータ
40 切替機構
41A、41B アンプ
43 切替スイッチ
45A、45B クラッチ
46 動力伝達機構
50 上位コントローラ
51 ロボットコントローラ
51A 6軸制御部
51R 回転制御部
52 加工コントローラ
53R 回転制御部
52X X軸制御部
52Y Y軸制御部
52Z Z軸制御部
60 レーザ発振器
61 光ファイバ
70 加工対象物