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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】インフレーション成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/92 20190101AFI20240815BHJP
   B29C 48/10 20190101ALI20240815BHJP
   B29C 48/32 20190101ALI20240815BHJP
   B29C 48/25 20190101ALI20240815BHJP
   B29L 23/00 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/10
B29C48/32
B29C48/25
B29L23:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021060746
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156852
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】日置 一弥
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-192660(JP,A)
【文献】特開2020-157655(JP,A)
【文献】特開2020-163623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/92
B29C 48/10
B29C 48/32
B29C 48/25
B29L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイから円筒状に吐出されたバブルの粘度を推定する粘度推定部と、
バブルの温度を特定する温度特定部と、
前記粘度推定部により推定されたバブルの粘度と前記温度特定部により検出されたバブルの温度に基づいて、バブルの粘度パラメータを推定するパラメータ推定部と、
を備えるインフレーション成形装置。
【請求項2】
バブルの温度分布画像を取得する赤外線カメラを備え、
前記粘度推定部は、前記赤外線カメラが取得したバブルの温度分布画像に基づいて特定したバブルの形状を用いてバブルの粘度を推定し、
前記温度特定部は、前記赤外線カメラが取得したバブルの温度分布画像に基づいてバブルの温度を特定する請求項1に記載のインフレーション成形装置。
【請求項3】
ダイから円筒状に吐出されたバブルの応力分布を推定する応力推定部と、
前記応力推定部により推定されたバブルの応力分布に基づいて、バブルの粘度分布を推定する粘度推定部と、
を備えるインフレーション成形装置。
【請求項4】
応力推定部は、圧力分布に基づいて、応力分布を推定する請求項3に記載のインフレーション成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフレーション成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイの吐出口から溶融した成形材料を膜状に押し出し、それを冷却部からの冷却風により固化させてフィルムを成形するインフレーション成形装置が知られている。従来では、吐出口の幅や冷却部からの冷却風の風速や風温を調節することによってフィルム厚を目標範囲に収めるフィルム成形装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-177348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこうした状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、商品価値を高めたインフレーション成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のインフレーション成形装置は、ダイから円筒状に吐出された成形材料の粘度を推定する粘度推定部と、成形材料の温度を特定する温度特定部と、粘度推定により推定された粘度と温度検出部により検出された温度に基づいて、成形材料の粘度パラメータを推定するパラメータ推定部と、を備える。
【0006】
本発明の別の態様もまた、インフレーション成形装置である。この装置は、ダイから円筒状に吐出された成形材料の応力分布を推定する応力推定部と、応力推定部により推定された応力分布に基づいて、成形材料の粘度分布を推定する粘度推定部と、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、商品価値を高めたインフレーション成形装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施の形態に係るフィルム成形装置の概略構成を示す図である。
図2図1の制御装置の機能および構成を模式的に示すブロック図である。
図3】バブルに関する各種の変数を説明する図である。
図4】シミュレーション画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施の形態は、インフレーション成形装置である。本実施の形態を具体的に説明する前に、本実施の形態が解決すべき課題を説明する。
【0011】
インフレーション成形装置において何らかの理由で成形条件を変更する場合、成形条件を変更することによって例えばフィルムが破断することがある。フィルムが破断した場合、インフレーション成形装置を再度立ち上げなければならず、作業効率が低下する。また、成形材料も無駄にしてしまう。したがって、成形条件を変更した場合をシミュレーションしたい。
【0012】
また、従来のインフレーション成形装置は、バブルに生じている平均の応力しか推定できない。バブルに生じている平均の応力が破断閾値以下であっても、例えばバブルに生じている最も大きい応力(以下、最大応力ともいう)が破断閾値を超えていれば、当然ながらバブルは破断する。つまり、平均の応力しか推定できないのでは、精度の高い破断予測はできない。したがって、バブルに生じている応力の分布を推定したい。
【0013】
以下、これらの課題を解決する本実施の形態に係るインフレーション成形装置を説明する。
【0014】
図1は、実施の形態に係るインフレーション成形装置100の概略構成を示す図である。インフレーション成形装置100は、ダイ102と、冷却部104と、一対のガイド部106と、引取機108と、巻取機110と、圧力検出部112と、温度検出部114と、空気供給手段116と、制御装置120と、を備える。
【0015】
なお、以降では、中心軸Cに垂直な平面上において中心軸Cを中心とする円の円周に沿った方向を周方向として説明する。
【0016】
ダイ102に形成されたリング状の吐出口102aから、溶融した成形材料が円筒状に吐出される。吐出された円筒状の成形材料の内側には、ダイ102の中心部に形成された空気吹出口102bから、適宜のタイミングで空気が噴出され、円筒状に膨らんだ薄肉のフィルム(以下、「バブル」とも呼ぶ)が成形される。
【0017】
冷却部104は、ダイ102の上方に配置される。冷却部104は、バブルに冷却風を吹き付けてバブルを冷却する。
【0018】
一対のガイド部106は、冷却部104の上方に配置される。一対のガイド部106は、バブルを引取機108に案内する。引取機108は、ガイド部106の上方に配置される。引取機108は、一対のピンチロール118を含む。一対のピンチロール118は、不図示のモータに駆動されて回転し、案内されたバブルを引っ張り上げながら扁平に折りたたむ。巻取機110は、折りたたまれたフィルムを巻き取り、フィルムロール体111を形成する。
【0019】
温度検出部114は、バブル表面の温度分布を検出する。温度検出部114は、サーモグラフィなどの、温度分布を検出する赤外線カメラである。なお、温度検出部114は、赤外線カメラに限定されず、例えばスポット(点)の温度を検出する非接触式の温度センサであってもよい。この場合、温度検出部114を例えばロボットアームに搭載して、バブルの周囲を移動させながらバブル表面の温度を検出することで、バブル表面の温度分布を検出してもよい。温度検出部114は、検出結果を制御装置120に送信する。
【0020】
空気供給手段116は、周囲の空気を送り込んで空気供給路102cに送り出し、空気吹出口102bから吹き出させる。つまり、空気供給手段116は、バブル内に空気を供給する。
【0021】
圧力検出部112は、空気供給路102c内の圧力を検出する。なお、圧力検出部112は、バブル内に設けられてもよい。圧力検出部112は、検出結果を制御装置120に送信する。
【0022】
制御装置120は、インフレーション成形装置100を統合的に制御する装置である。制御装置120は、例えば、フィルムの成形中に取得されるデータに基づいて、成形材料の粘度分布を推定したり、成形材料の粘度モデル式における粘度パラメータを推定したりする。
【0023】
図2は、制御装置120の機能および構成を模式的に示すブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0024】
図3は、バブルに関する各種の変数を説明する図である。図3における下側の図は中心軸Cを含む平面で切断したバブルの断面図であり、上側の図は水平面で切断したバブルの断面図である。図3において、xはバブル高さである。バブル高さは、ダイ102の上面を基準面とする高さであり、ダイ102の上面からの鉛直方向における距離ともいえる。図2に加えて図3を参照する。
【0025】
制御装置120は、種々の通信プロトコルにしたがって温度検出部114や圧力検出部112との通信処理を実行する通信部130と、ユーザによる操作入力を受け付け、また各種画面を表示部に表示させるU/I部132と、通信部130およびU/I部132から取得されたデータをもとにして各種のデータ処理を実行するデータ処理部134と、データ処理部134により参照、更新されるデータを記憶する記憶部136と、を含む。
【0026】
データ処理部134は、受信部140と、ひずみ速度算出部141と、バブル形状取得部142と、内外圧力差特定部143と、粘度推定部144と、温度特定部145と、パラメータ推定部146と、シミュレーション部147と、出力処理部148と、応力推定部149と、を含む。
【0027】
受信部140は、温度検出部114からバブルの表面温度データを受信する。また、受信部140は、圧力検出部112からバブル内の圧力データを受信する。
【0028】
バブル形状取得部142は、バブルの形状データを取得する。バブル形状取得部142は、温度検出部114が検出したバブル表面の温度分布の画像を解析することにより、バブルの形状データを取得する。変形例として、バブル形状取得部142は、可視光カメラが撮影したバブルの可視光画像を解析することにより、バブルの形状データを取得してもよい。
【0029】
バブル形状取得部142が取得するバブルの形状データには、各バブル高さxにおけるバブルの半径R、バブル表面の高さ方向の曲率半径r、曲率半径rに直交する曲率半径rが含まれる。なお、曲率半径r,rはそれぞれ、以下の式(1)、(2)により表される曲率半径に相当する。
【数1】
【数2】
【0030】
ひずみ速度算出部141は、各バブル高さxにおけるバブルのひずみ速度を算出する。詳しくは、ひずみ速度算出部141は、各バブル高さxにおける、流れ方向ひずみ速度(εドット)、半径方向ひずみ速度(εドット)、膜厚方向ひずみ速度(εドット)を算出する。ひずみ速度εドット,εドット,εドットはそれぞれ、以下の式(3)~(5)により算出される。
【数3】
【数4】
【数5】
【0031】
フィルム移動速度vは、バブル高さを横軸とする三角関数で表され、吐出口102aを出た直後に最低値をとり、引取機108に到達するときに最高値をとることが知られている。したがって、吐出口102aおよび引取機108のそれぞれにおけるフィルム移動速度が分かれば、各バブル高さxにおけるフィルム移動速度vを推定できる。吐出口102aにおけるフィルム移動速度は、成形材料の押出量(質量流量)、成形材料の溶融密度、吐出口102aの半径R、リップ幅(吐出口102aの幅)Hに基づいて算出できる。引取機108におけるフィルム移動速度は、引取機108がフィルムを引き取る(引っ張る)速度である引取速度に等しく、一対のピンチロール118を駆動するモータの回転数を検出することにより特定できる。
【0032】
なお、各バブル高さxにおけるフィルム移動速度vを推定(特定)する方法はこれに限定されず、他の公知の方法で推定(特定)されてもよい。
【0033】
内外圧力差特定部143は、以下の式(6)で表される、各バブル高さxにおける内外圧力差ΔP(x)、すなわち内外圧力差の分布を特定する。
ΔP(x)=Pin(x)-Pout(x) ・・・(6)
ここで、
in(x):バブル高さxにおけるバブルの内圧
out(x):バブル高さxにおける冷却風圧
である。
【0034】
なお、空気には重さがあるため、高さによって空気の密度が変わり、したがって高さによって圧力が変わる。一般的に、高さが1m高くなると、圧力は10Pa下がる。したがって内外圧力差特定部143は、圧力検出部112が検出した圧力に、圧力検出部112の検出位置と、バブル高さxとの高低差を考慮して、バブル高さxにおける内圧Pin(x)を特定する。
【0035】
冷却風圧Pout(x)は、冷却風のシミュレーションに基づいて特定してもよいし、圧力計を使用して検出してもよい。
【0036】
内圧Pin(x)および冷却風圧Pout(x)は、本来的にはバブル高さxに依存するが、バブル高さxによらず一定としてもよい。例えば、内圧Pinは、圧力検出部112が検出した圧力あるいはそれに基づく圧力としてもよい。
【0037】
また、冷却風圧Pout(x)を無視しても、すなわち冷却風圧Pout(x)=0としてもよい。
【0038】
応力推定部149は、バブルに生じている応力とバブルの内外圧力差ΔPに関する公知の関係式に基づいて、各バブル高さにおける応力、すなわち応力分布を推定する。なお、応力は、周方向には一様であるものとする。
【0039】
粘度推定部144は、各バブル高さxにおける粘度η(x)、すなわち高さ方向における粘度分布を推定する。粘度推定部144は、公知の各種の関係式と、バブル形状取得部142に取得された各バブル高さxにおける曲率半径r、曲率半径rと、応力推定部149が推定した応力に基づいて推定する。なお、バブルの粘度は、周方向には一様であるものとする。
【0040】
温度特定部145は、バブルの各バブル高さxの温度を特定する。例えば温度特定部145は、温度検出部により検出された温度分布からバブルの各バブル高さxの温度を特定してもよい。例えば、バブルの温度は周方向には一様であるとして、ある周方向位置における各バブル高さxの温度を、各バブル高さの温度としてもよい。
【0041】
また例えば温度特定部145は、ダイ102の温度からバブルの各バブル高さxの温度を特定してもよい。吐出されてからより時間が経過した成形材料ほど、すなわちより高い位置のバブルの冷却されている。温度特定部145は、これを考慮して、ダイ102の温度から各バブル高さxのバブルの温度を特定してもよい。
【0042】
パラメータ推定部146は、成形材料の粘度パラメータを推定する。粘度パラメータは、以下の式(7)で表される粘度モデルの式におけるパラメータk,A,B,C,m(質量流量),C1,C2,Tref(基準温度)である。
【数6】
ここで、
T:バブルの温度
である。
また、ひずみ速度εドット、ひずみεは、以下の式(8)、(9)で算出される。
【数7】
【数8】
【0043】
パラメータ推定部146は、式(7)で表される粘度モデルの式を、粘度推定部144により推定された粘度分布にフィッティングすることにより、粘度パラメータを推定する。
【0044】
シミュレーション部147は、推定された粘度パラメータを使用したシミュレーションを実行する。シミュレーション部147は、成形条件を入力として、バブルの形状と応力を計算する。成形条件には、例えば、成形材料の押出量、引取速度、ブロー比、ダイ温度、冷却風量が含まれる。
【0045】
例えばシミュレーション部147は、成形中の現在の成形条件を入力として、シミュレーションを実行してもよい。成形中の現在の成形条件を入力とすれば、成形中のバブルが破断する可能性が否かがわかる。バブルが破断する可能性がある場合は、その旨を画面表示、音声、またはその他の方法によりユーザに通知してもよい。この際、シミュレーション部147は、破断する可能性がなく、かつ、品質が高いフィルムを成形できる成形条件を計算して提示してもよい。また、その成形条件に自動で変更してもよい。
【0046】
また例えばシミュレーション部147は、変更予定の成形条件を入力として、成形条件を変更した場合のバブルの形状と応力を計算してもよい。この場合、例えば、成形条件を変更することによって破断する可能性があるか否か分かる。
【0047】
出力処理部148は、各種画面を所定のディスプレイに表示する。各種画面は、例えば応力推定部149が推定した成形中のバブルの応力分布を示す画面であってもよいし、また例えばパラメータ推定部146が推定した成形中のバブルの粘度パラメータを示す画面であってもよいし、また例えばシミュレーションに関する画面を示す図であってもよい。変形例として、出力処理部148は、ディスプレイに表示する代わりに、出力処理として、所定の印刷機により印刷してもよいし、所定のメールアドレスにメール送信してもよい。
【0048】
図4は、シミュレーション画面を示す図である。シミュレーション画面は、成形条件欄150と、計算結果欄160と、粘度パラメータ欄170と、を含む。
【0049】
成形条件欄150は、押出量欄151と、引取速度欄152と、ブロー比欄153と、ダイ温度欄154と、冷却風量欄155と、を含む。押出量欄151には、成形材料の押出量(Kg/h)が入力される。引取速度欄152には、引取機108による引取速度(m/min)が入力される。ブロー比欄153には、ブロー比が入力される。ダイ温度欄154には、ダイの設定温度が入力される。冷却風量欄155には、冷却部104による冷却風量(m/min)が入力される。
【0050】
粘度パラメータ欄170には、パラメータ推定部146が推定した粘度パラメータk,A,B,C,m,C1,C2,Trefが表示される。制御装置120のシミュレーション部147は、成形条件欄150に入力された成形条件を入力として、粘度パラメータ欄170に表示された粘度パラメータを使用して、バブルの形状と応力を計算する。
【0051】
計算結果欄160は、最大応力欄161と、溶融張力欄162と、成形可否欄163と、形状表示欄164と、を含む。最大応力欄161には、計算された最大応力が表示される。溶融張力欄162には、計算された溶融張力が表示される。溶融張力欄162は、溶融している成形材料に作用しているフィルム移動方向の力である。成形可否欄163には、成形の可否が表示される。形状表示欄164にはバブル形状が示される。形状表示欄164に表示するバブルは、バブルの半径や、バブルに生じている応力など、バブルに関する情報に応じて色を変化させてもよい。例えば、図示の例のように、半径が小さいところは薄い色、バブルの半径が大きいところは濃い色でバブルを表示してもよい。また例えば、生じている応力が小さいところは薄い色、生じている応力が大きいところは濃い色でバブルを表示してもよい。
【0052】
最大応力が所定の閾値以上になるとバブルは破断する。したがって、最大応力欄161を参照することによって、バブルが破断するか否か、また、バブルが破断すると推定される場合にどの程度当該閾値を上回っているかを確認できる。
【0053】
溶融張力が所定の閾値以上でないとバブルがピンと張らないため成形できない。したがって、溶融張力欄162を参照することによって、バブルがピンと張るか否か、すなわち成形できるか否か、また、バブルが成形できないと推定される場合にどの程度当該閾値を下回っているかを確認できる。
【0054】
続いて、以上のように構成されたインフレーション成形装置100の動作を説明する。
(1)バブル形状取得部142は、バブル表面の温度分布の画像に基づいて、各バブル高さxにおけるバブルの形状データを取得する。
(2)ひずみ速度算出部141は、各バブル高さxにおけるひずみ速度εドット,εドット,εドットを算出する。
(3)内外圧力差特定部143は、各バブル高さxにおけるバブルの内外圧力差を特定する。
(4)応力推定部149は、バブルの内外圧力差に基づいて、各バブル高さxにおいてバブルに生じている応力を推定する。
(5)粘度推定部144は、バブル形状取得部142が取得したバブルの形状データと、応力推定部149が推定した応力に基づいて、各バブル高さxにおけるバブルの粘度、すなわちバブルの粘度分布を推定する。
(6)温度特定部145は、バブル表面の温度分布の画像に基づいて、バブルの各バブル高さxの温度を特定する。
(7)パラメータ推定部146は、バブルの粘度分布と、バブルの温度に基づいて、バブルの粘度パラメータを推定する。
(8)シミュレーション部147は、推定された粘度パラメータを用いて、シミュレーションを実行する。
なお、この処理順序はあくまでも一例であり、矛盾しない限りにおいて、処理の順序を入れ替えたり、一部の処理を他の処理と並列に実行したりしてもよい。
【0055】
続いて、本実施の形態が奏する効果を説明する。本実施の形態によれば、バブルの内外圧力差ΔPに基づいてバブルに生じている応力が推定される。この場合、ピンチロール118を駆動するモータのトルクに基づいて応力を推定する場合に比べて、推定誤差が小さくなる。つまり、より正確な応力分布が推定される。ここで、バブルに生じている平均の応力が破断閾値以下であっても、最大応力が破断閾値を超えていれば、当然ながらバブルは破断する。つまり、最大応力をより正確に推定できることにより、より正確な破断予測が可能となる。
【0056】
また、本実施の形態によれば、バブルの応力分布が推定され、それに基づいてバブルの粘度分布が推定される。推定された粘度分布は、成形条件の調整に役立てることができる。例えば、成形しているフィルムの品質が悪い場合において、現在の粘度分布と、フィルムの品質が良かったときの粘度分布とを比べ、両者が異なることが分かれば、例えば樹脂の温度を上げ下げするなどの調整をすればよいことが分かる。
【0057】
また、本実施の形態によれば、成形材料の粘度パラメータを推定でき、成形条件を入力として、バブルの形状と応力を計算できる。これにより、例えば適切な成形条件が分からない状況において適当に成形条件を設定して成形を開始した場合において、このままの成形条件でよいか、それとも破断等する可能性があるため成形条件を変更すべきか判断できる。また、破断する可能性がなく、かつ、品質が高いフィルムを成形できる成形条件を提示できる。その成形条件に自動で変更することも可能になる。
【0058】
また例えば、何らかの理由で成形条件を変更する場合において、変更予定の成形条件で問題ないか、それとも破断等する可能性があるため変更予定の成形条件に変更するべきでないか判断できる。
【0059】
また、本実施の形態によれば、バブルの内外圧力差ΔPに基づいてバブルに生じている応力が推定される。この場合、ピンチロール118を駆動するモータのトルクに基づいて応力を推定する場合に比べて、推定誤差が小さくなる。
【0060】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0061】
(変形例1)
実施の形態では、バブルに生じる応力、バブルの粘度、バブル温度などが周方向には一様であるものとしたが、これらは周方向に一様ではないものとして、周方向の各位置におけるこれらの値を推定してもよい。
【0062】
(変形例2)
実施の形態とは異なり、応力推定部149が内外圧力差ΔPの代わりに、ピンチロール118を駆動するモータのトルクに基づいて応力を推定してもよい。そして、その応力が高さ方向に一様にバルブに生じているものとして、粘度推定部144が粘度を推定し、パラメータ推定部146が粘度パラメータを推定してもよい。この場合、バブルの粘度分布は推定できないが、バブルの粘度パラメータについては、引取速度に基づいて推定された応力が高さ方向に一様にバブルに生じているとした場合の値ではあるが、推定できる。
【0063】
(変形例3)
実施の形態とは異なり、バブルの温度は高さ方向に一様であるものとして、パラメータ推定部146が粘度パラメータを推定してもよい。この場合、温度検出部114は、スポット(点)の温度を検出する非接触式の温度センサで足りる。あるいは、ダイ102の温度に基づいて一様なバブルの温度を推定してもよい。この場合、温度検出部114は不要となる。バブル形状取得部142は、例えば可視光カメラが撮影したバブルの可視光画像を解析することによりバブルの形状データを取得すればよい。また、例えばバブル形状取得部142が可視光画像からバブルの形状データを取得するなど、バブル表面の温度分布の画像を用いない方法でバブルの形状を取得すれば、バルブの粘度分布を推定するのにバブルの温度は不要であるため、バブルの粘度分布を推定するにあたって温度検出部114は不要である。
【0064】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0065】
100 インフレーション成形装置、 102 ダイ、 120 制御装置、 144 粘度推定部、 145 温度特定部、 146 パラメータ推定部。
図1
図2
図3
図4