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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】放射性廃液処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
G21F9/12 501J
G21F9/12 501D
G21F9/12 501F
G21F9/12 501B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021069743
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2022164323
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 利正
(72)【発明者】
【氏名】堤口 覚
(72)【発明者】
【氏名】住谷 貴子
(72)【発明者】
【氏名】菅野 真貴
(72)【発明者】
【氏名】近藤 陽太
(72)【発明者】
【氏名】森 貴宏
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-153699(JP,A)
【文献】特開2018-031715(JP,A)
【文献】特開2016-133502(JP,A)
【文献】特開2015-505718(JP,A)
【文献】特開2018-017565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一処理対象水中に含まれる除去対象成分を吸着材に吸着させて使用済吸着材を作製する第一吸着ステップと、
前記第一処理対象水の共存成分濃度よりも高い範囲に、共存成分濃度範囲を設定する濃度範囲設定ステップと、
第二処理対象水の前記共存成分濃度が前記共存成分濃度範囲内にあるかどうかを判定する判定ステップと、
前記共存成分濃度が前記共存成分濃度範囲内の前記第二処理対象水中に含まれる前記除去対象成分を、前記使用済吸着材に吸着させる第二吸着ステップと、を含む
放射性廃液処理方法。
【請求項2】
前記第二処理対象水の前記共存成分濃度が前記共存成分濃度範囲内ではない場合に、前記第二処理対象水の前記共存成分濃度を前記共存成分濃度範囲内に調整する濃度調整ステップを含む
請求項1に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項3】
前記濃度範囲設定ステップにおいて、前記第一処理対象水の除去対象成分濃度よりも高い範囲に、除去対象成分濃度範囲を設定し、
前記判定ステップにおいて、第二処理対象水の前記除去対象成分濃度が前記除去対象成分濃度範囲内にあるかどうかを判定し、
前記第二吸着ステップにおいて、前記共存成分濃度が前記共存成分濃度範囲内であり、前記除去対象成分濃度が前記除去対象成分濃度範囲内の前記第二処理対象水中に含まれる前記除去対象成分を、前記使用済吸着材に吸着させる
請求項1又は2に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項4】
前記第二処理対象水の前記除去対象成分濃度が前記除去対象成分濃度範囲内ではない場合に、前記第二処理対象水の前記除去対象成分濃度を前記除去対象成分濃度範囲内に調整する濃度調整ステップを含む
請求項3に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項5】
前記除去対象成分として、ストロンチウム、セシウム、コバルト、ヨウ素、アンチモン、ルテニウム、テクネチウム、ウラン、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、および、ネプツニウムの少なくともいずれか一つを含む
請求項1に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項6】
前記共存成分として、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、塩素、臭素、硫酸、および、炭酸の少なくともいずれか一つを含む
請求項5に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項7】
前記除去対象成分と前記共存成分として同じ元素が含まれる場合には、前記除去対象成分が前記元素の放射性同位体を含み、前記共存成分が前記元素の安定同位体を含む
請求項5に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項8】
前記濃度範囲設定ステップにおいて、前記第一処理対象水における前記共存成分の濃度に対する前記除去対象成分の濃度比よりも大きくなるように、前記除去対象成分の濃度比範囲を設定し、
前記判定ステップにおいて、前記第二処理対象水における前記共存成分の濃度に対する前記除去対象成分の濃度比が前記濃度比範囲内にあるかどうかを判定し、
前記使用済吸着材に吸着させるステップにおいて、前記除去対象成分の濃度比が前記濃度比範囲内の前記第二処理対象水中に含まれる前記除去対象成分を、前記使用済吸着材に吸着させる
請求項1に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項9】
前記第二処理対象水の前記除去対象成分の濃度比が前記濃度比範囲内ではない場合に、前記第二処理対象水の前記除去対象成分の濃度を前記共存成分濃度範囲内に調整する濃度調整ステップを含む
請求項8に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項10】
前記濃度調整ステップにおいて、前記第二処理対象水に、除去対象成分と共存成分とを含む第三の処理対象水を混合することによって濃度を調整する
請求項2、4、又は9に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項11】
前記第二処理対象水が前記共存成分としてナトリウムを含み、前記第二吸着ステップにおいて、前記第二処理対象水におけるナトリウムの濃度が25,000ppm以下である
請求項1に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項12】
前記第二処理対象水が前記共存成分としてカルシウムを含み、前記第二吸着ステップにおいて、前記第二処理対象水におけるカルシウムの濃度が100ppm以下である
請求項1に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項13】
前記第二処理対象水が前記共存成分として塩素を含み、前記第二吸着ステップにおいて、前記第二処理対象水における塩素の濃度が45,000ppm以下である
請求項1に記載の放射性廃液処理方法。
【請求項14】
前記吸着材として、ケイチタン酸化合物、チタン酸化合物、ゼオライト、フェロシアン酸化合物、金属有機構造体(MOF)化合物、および、イオン交換樹脂の少なくともいずれか一つを用いる
請求項1に記載の放射性廃液処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃液処理方法に係り、更に詳しくは、放射性物質を含む廃液、地下水、海水、雨水などから放射性物質を除去する放射性廃液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設から発生する放射性廃液には、セシウム、ストロンチウムなど様々な放射性核種が含まれている。その放射性核種を除去する方法の一つとして、例えば、放射性核種を吸着除去可能な吸着材に、処理対象となる放射性廃液(以下「処理対象水」という。)を通水する方法がある。この吸着処理で発生した使用済吸着材は、安定であるが放射性廃棄物となるため、使用済吸着材の発生量の低減が望まれている。
【0003】
また、処理対象水には、海水や地下水などに由来する塩分が含まれ、この他にも河川からの淡水、地下水、建造物に用いられるコンクリートに接した水等が含まれる。このため、処理対象水には、除去対象となる放射性物質の他にも、吸着材の吸着性能に影響を及ぼす共存成分が存在する。例えば、ナトリウムイオンやカルシウムイオンなどの共存成分は、吸着材の放射性核種の吸着を妨害して吸着性能を低下させることが知られている。このような吸着性能が十分に得られない条件では、吸着材の吸着除去寿命が短くなり、吸着材の使用量や放射性廃棄物を含む使用済吸着材の増加が懸念される。
また、使用済吸着材の発生量を低減する方法として、処理対象水を処理して発生した使用済吸着材を、別の処理対象水の処理に再利用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-153699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、使用済吸着材を別の処理対象水の処理に再利用する方法では、使用済吸着材の吸着サイトのうち一部には既に物質が吸着しているため、新品の吸着材と比べて物質を吸着できる量が少ない。このため、使用済吸着材は新品吸着材に比べて吸着除去寿命が短くなる。この結果、使用済吸着材の使用量が増加し、放射性廃棄物の発生量が増加してしまう。
【0006】
上述した問題の解決のため、本発明においては、使用済吸着材の発生量の増加を抑制することが可能な放射性廃液処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の放射性廃液処理方法は、第一処理対象水中に含まれる除去対象成分を吸着材に吸着させて使用済吸着材を作製する第一吸着ステップと、第一処理対象水の共存成分濃度よりも高い範囲に、共存成分濃度範囲を設定する濃度範囲設定ステップとを含む。さらに、第二処理対象水の共存成分濃度が共存成分濃度範囲内にあるかどうかを判定する判定ステップと、共存成分濃度が共存成分濃度範囲内の第二処理対象水中に含まれる除去対象成分を、使用済吸着材に吸着させる第二吸着ステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、使用済吸着材の発生量の増加を抑制することが可能な放射性廃液処理方法を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】放射性廃液処理方法を表すフローチャートである。
図2】放射性廃液処理方法に用いる放射性廃液処理システムの概略構成図である。
図3】新品材および使用済材の寿命に対する共存成分濃度の影響を示すグラフである。
図4】除去対象成分濃度および共存成分濃度が低い処理対象水での吸着材への吸着モデルである。
図5】除去対象成分濃度および共存成分濃度が高い処理対象水での吸着材への吸着モデルである。
図6】第2実施形態の放射性廃液処理方法に係わる放射性廃液処理システムの概略構成図である。
図7】処理対象水の除去対象成分の濃度比と吸着材寿命との関係を示す図である。
図8】処理対象水の希釈倍率と処理量倍率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施の形態および実施例について、文章または図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態や実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0011】
〈放射性廃液処理方法の第1実施形態〉
本実施形態の放射性物質を含む放射性廃液処理方法の第1実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係わる放射性廃液処理方法を表すフローチャートを示す。また、図2に、図1の放射性廃液処理方法に用いる放射性廃液処理システムの概略構成を示す。本実施形態の放射性廃液処理方法は、除去対象成分と共存成分とを含む放射性廃液である第一処理対象水を、吸着材を用いて除去対象成分を除去する処理を行う。さらに、第一処理対象水の放射性廃液処理に用いた使用済吸着材を用いて、除去対象成分と共存成分とを含む放射性廃液である第二処理対象水から、除去対象成分を除去する処理を行う。なお、以下の説明では、第一処理対象水と第二処理対象水とを区別して説明する必要がない場合には、単に処理対象水と表記する。
【0012】
[放射性廃液処理方法の概要]
図1に示すように、放射性廃液処理方法は、まず、吸着材を用いて第一処理対象水を処理し、第一処理対象水中に含まれる除去対象成分を吸着材に吸着させて使用済吸着材を作製する(ステップS1)。次に、第一処理対象水の成分濃度よりも高い範囲に、成分濃度範囲を設定する(ステップS2)。次に、第二処理対象水の成分濃度が設定された成分濃度範囲内にあるかどうかを判定する(ステップS3)。
【0013】
そして、第二処理対象水の成分濃度が成分濃度範囲内ではない場合(ステップS3のNO)、第二処理対象水の成分濃度を成分濃度範囲内に調整する(ステップS4)。ステップS4での第二処理対象水の調整処理後、ステップS3に戻り、第二処理対象水の除去対象成分および共存成分の濃度を測定し、設定された濃度範囲内かどうかを判定する。
第二処理対象水の成分濃度が成分濃度範囲内の場合(ステップS3のYES)、吸着材を用いて第二処理対象水を処理し、第二処理対象水中に含まれる除去対象成分を使用済吸着材に吸着させる(ステップS5)。
なお、本実施形態において、濃度は、イオン濃度、重量濃度、体積濃度、および、モル濃度のいずれでもよい。
【0014】
[放射性廃液処理システムの概略]
また、図2に示す放射性廃液処理システムは、第一放射性廃液処理設備1と、第二放射性廃液処理設備2とを備える。
第一放射性廃液処理設備1は、処理前の第一処理対象水が調整される第一調整設備10と、第一処理対象水の除去対象成分を処理するための第一処理設備12とを備える。第一処理設備12内には、吸着材が収容される第一吸着材容器13が設けられている。さらに、第一放射性廃液処理設備1は、第一処理設備12での第一処理対象水の処理によって発生する第一処理済水が収容される第一保管容器15を備える。
第一調整設備10と第一処理設備12の第一吸着材容器13とは、第一処理対象水を第一調整設備10から第一吸着材容器13に移送するための第一液送設備11によって接続されている。また、第一吸着材容器13と第一保管容器15とは、第一処理済水を移送する第一送水設備14によって接続されている。このように、第一放射性廃液処理設備1は、第一処理対象水を第一調整設備10と第一処理設備12と第一保管容器15とのそれぞれに通水できるように通水系統が構成されている。
【0015】
第二放射性廃液処理設備2は、処理前の第二処理対象水が調整される第二調整設備20と、第二処理対象水の除去対象成分を処理するための第二処理設備22とを備える。第二処理設備22内には、吸着材が収容される第二吸着材容器23が設けられている。さらに、第二放射性廃液処理設備2は、第二処理設備22での第二処理対象水の処理によって発生する第二処理済水が収容される第二保管容器25を備える。
第二調整設備20と第二処理設備22の第二吸着材容器23とは、第二処理対象水を第二調整設備20から第二吸着材容器23に移送するための第二液送設備21によって接続されている。また、第二吸着材容器23と第二保管容器25とは、第二処理済水を移送する第二送水設備24によって接続されている。このように、第二放射性廃液処理設備2は、第二処理対象水を第二調整設備20と第二処理設備22と第二保管容器25とのそれぞれに通水できるように通水系統が構成されている。
【0016】
また、図2に示す放射性廃液処理システムは、第一吸着材容器13から第二吸着材容器23に使用済吸着材を移送するための移送設備3を備える。すなわち、放射性廃液処理システムは、移送設備3を通じて、第一処理対象水の処理によって第一吸着材容器13で発生した使用済吸着材を、第二吸着材容器23に移送することができる。これにより、使用済吸着材を第二処理対象水の処理に再度使用することができる。
【0017】
なお、図2では、第一処理設備12および第二処理設備22内に1つの第一吸着材容器13および第二吸着材容器23設けられている構成を示しているが、第一処理設備12および第二処理設備22内に設けられる吸着材容器の数は特に限定されず、複数設けられていてもよい。
また、第一液送設備11、第一送水設備14、第二液送設備21、第二送水設備24、および、移送設備3には、図示しないポンプやポンプの制御部が設けられ、制御部によってポンプの駆動を制御することにより廃液や吸着材の移送が可能となる。
【0018】
第一吸着材容器13には、第一処理対象水に含まれる除去対象成分と共存成分を吸着可能な吸着材が充填されている。よって、第一処理対象水を第一調整設備10から第一吸着材容器13に通水することで、吸着材に除去対象成分を吸着させて除去することができる。
また、第二吸着材容器23には、第一吸着材容器13で使用された使用済吸着材が充填されている。使用済吸着材は、第二処理対象水の共存成分の濃度に依存して、含まれる除去対象成分と共存成分との吸着が可能となる。第二処理対象水の共存成分の濃度が所定値以上であれば、第二処理対象水を第二調整設備20から第二吸着材容器23に通水することで、吸着材に除去対象成分を吸着させて除去することができる。
なお、ここでいう除去対象成分の除去とは処理対象水に含まれる除去対象成分の濃度を一定値まで下げることである。
【0019】
[放射性廃液処理の詳細]
次に、上述の図1に示す放射性廃液処理方法、および、図2に示す放射性廃液処理システムを適用する放射性廃液処理の実施形態の詳細について説明する。以下の説明では、上述の図1に示す処理方法のフローチャートに沿って、適宜、図2に示す構成の符号を使用して説明する。
【0020】
(ステップS1)
まず、図1に示す放射性廃液処理のフローチャートにおいて、ステップS1では、第一処理対象水を吸着材で処理する。
図2の第一放射性廃液処理設備1において、第一処理対象水が第一調整設備10から第一液送設備11を通じて第一処理設備12の第一吸着材容器13に送られる。第一吸着材容器13に送られた第一処理対象水は、第一吸着材容器13内に収納された吸着材と接触する。これにより、第一処理対象水に含まれる除去対象成分が吸着材に吸着される。また、第一処理対象水に含まれる共存成分も吸着材に吸着される。これにより、第一処理対象水から除去対象成分と共存成分とが除去される。
また、この第一処理対象水の吸着処理により、吸着材が除去対象成分と共存成分とを吸着して使用済吸着材となる。除去対象成分と共存成分とが除去された第一処理対象水は、第一送水設備14を通じて第一処理済水の第一保管容器15に送られる。
【0021】
処理対象水に含まれる除去対象成分としては、例えば、ストロンチウム、セシウム、コバルト、ヨウ素、アンチモン、ルテニウム、テクネチウム、ウラン、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、および、ネプツニウムなどの放射性物質が挙げられる。
【0022】
また、共存成分は、上記の除去対象成分とともに第一処理対象水および第二処理対象水に共存する物質であり、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、塩素、臭素、硫酸、および、炭酸などが挙げられる。
また、第一処理対象水および第二処理対象水は、除去対象成分および共存成分として同じ元素を含む場合がある。この場合の元素は、放射性同位体を除去対象成分とし、安定同位体を共存成分とする。例えば、ストロンチウムやセシウムの放射性同位体が上述の除去対象成分に含まれ、ストロンチウムやセシウムの安定同位体を共存成分に含まれる。このように、上記除去対象成分として挙げた元素と同じ元素の安定同位体も共存成分に含まれる。
【0023】
また、吸着材としては、例えば、ケイチタン酸化合物、チタン酸化合物、ゼオライト、フェロシアン酸化合物、金属有機構造体(MOF)化合物、および、イオン交換樹脂など、無機系や有機系の吸着材がある。放射性廃液処理では、除去対象成分にあわせて、適切な吸着材を選択して使用する。例えば、除去対象成分がストロンチウムの場合、ストロンチウムを選択的に吸着するケイチタン酸化合物などの吸着材を用いることが好ましい。
【0024】
(ステップS2)
図1の第一処理対象水処理ステップS1の後、ステップS2において使用済吸着材を再利用する際の濃度範囲の設定を行う。ステップS2では、上述のステップS1で処理した第一処理対象水の成分濃度を基に、使用済吸着材を再利用する際の濃度範囲を設定する。
【0025】
ステップS2で設定する濃度範囲は、第一処理対象水の共存成分濃度を基準にして、使用済吸着材を再利用する際の第二処理対象水の共存成分濃度の濃度範囲を設定する。
また、共存成分の濃度範囲を設定するとともに上述のステップS1で処理した第一処理対象水の除去対象成分の濃度を基準にして、使用済吸着材を再利用する際の除去対象成分濃度範囲を設定してもよい。
なお、本実施形態では、共存成分濃度と除去対象成分濃度とを区別して説明する必要がない場合には、単に成分濃度と表記している。例えば、共存成分濃度と除去対象成分濃度とのいずれを用いてもよい場合や、共存成分濃度と除去対象成分濃度との両方を用いる場合に、単に成分濃度と表記している。
【0026】
第一処理対象水の除去対象成分および共存成分の濃度は、図2の第一放射性廃液処理設備1に第一処理対象水が輸送される前に第一処理対象水を分析することで求めてもよい。また、第一放射性廃液処理設備1に第一処理対象水が輸送された後、例えば、第一調整設備10に保管されている第一処理対象水をサンプリングし分析することで求めてもよい。
【0027】
使用済吸着材を再利用する際の共存成分および除去対象成分の濃度範囲の設定は、次のように行う。
使用済吸着材を再利用する際の共存成分の濃度範囲は、第一処理対象水の共存成分の濃度よりも高い範囲に設定する。また、使用済吸着材を再利用する際の除去対象成分の濃度範囲は、第一処理対象水の除去対象成分の濃度よりも高い範囲に設定する。これにより使用済吸着材は、除去対象成分を吸着していない吸着サイトを活用して、さらに第二処理対象水の除去対象成分を吸着することができる。
【0028】
濃度範囲を上記の設定とする理由について、図3を用いて説明する。
図3は、新品の吸着材(以下、新品材とも称する)および使用済の吸着材(以下、使用済材とも称する)の寿命に対する共存成分濃度の影響を示すグラフ(両対数グラフ)の一例である。縦軸は吸着材寿命であり、横軸が処理対象水に含まれる共存成分濃度である。図3に示すグラフでは、処理対象水に含まれる除去対象物をストロンチウム(Sr)、共存成分をナトリウム(Na)、吸着材をケイチタン酸として、除去対象成分濃度が一定の条件で共存成分濃度を変化させた場合の吸着材寿命の評価である。
また、図3では、第一処理対象水を処理する際の吸着材が新品材の場合のグラブを破線で示し、第二処理対象水を処理する際の吸着材が使用済材の場合のグラフを実線で示している。
【0029】
図3では、第一処理対象水の共存成分濃度が1のときの新品材の寿命を1とする相対値で、吸着材寿命と共存成分濃度とを共に示している。このため、第二処理対象水の共存成分濃度を第一処理対象水の共存成分濃度と等しい条件で運用する場合に、使用済材のグラフの共存成分濃度(横軸)が1となる。
図3の領域Aに示すように、共存成分濃度(横軸)が1に近い場合、すなわち第一処理対象水と第二処理対象水との共存成分濃度が同程度の場合には、使用済材の寿命は新品材の6割程度である。このように、第一処理対象水と第二処理対象水との共存成分濃度が同程度の場合には、使用済材の寿命が新品材に比べて明らかに低下する。
【0030】
一方、図3の領域Bに示すように、共存成分濃度が高くなるほど、新品材と使用済材の吸着材寿命の差が小さくなる。これは、処理対象水の共存成分濃度が低い場合には、吸着材と処理対象水の間の吸着反応が化学平衡によって決まるのに対し、処理対象水中の共存成分濃度が増加すると、吸着反応の化学平衡が処理対象水中の成分比によって支配的に決まるためである。このため、使用済吸着材を再利用する際の第二処理対象水の共存成分の濃度範囲は、第一処理対象水の共存成分濃度よりも高い範囲に設定する。好ましくは、使用済吸着材を再利用する際の第二処理対象水の共存成分の濃度範囲は、第一処理対象水の共存成分濃度の2倍以上に設定する。これにより、使用済吸着材の寿命を延ばし、使用済吸着材による放射性廃棄物の増加を抑制することができる。
【0031】
また、図3の領域Cに示すように、共存成分の濃度が高すぎる場合、例えば第一処理対象水の共存成分濃度の100倍の場合、吸着材の寿命が100分の1以下と大きく低下してしまい、実用的な吸着材寿命を確保できない。また、図3の領域Cに示すように、共存成分濃度が100倍程度からグラフのマイナスの傾きが大きくなり、共存成分濃度の増加に対する寿命の低下量の比率が大きくなる傾向が得られている。このため、使用済吸着材を再利用する際の共存成分の濃度範囲の上限は、第一処理対象水の共存成分濃度の100倍以下に設定することが好ましい。
【0032】
また、共存成分濃度範囲の設定では、共存成分の種類毎に濃度範囲を設定してもよい。この場合、種類毎の共存成分濃度範囲は、第一処理対象水の種類毎の共存成分濃度よりも高く、第一処理対象水の共存成分濃度の100倍以下の範囲に設定することが好ましい。例えば、共存成分としてナトリウムを含む場合には、共存成分濃度範囲としてナトリウム濃度を25,000ppm以下に設定することが好ましい。また、共存成分としてカルシウムを含む場合には、共存成分濃度範囲としてカルシウム濃度を100ppm以下に設定することが好ましい。さらに、共存成分として塩素を含む場合には、共存成分濃度範囲として塩素濃度を45,000ppm以下に設定することが好ましい。
【0033】
(吸着モデル)
共存成分の濃度の上昇によって、使用済材を再利用する際の性能が新品材に近づく理由について説明する。図4に、除去対象成分濃度および共存成分濃度が低い処理対象水(低濃度水)での吸着材への吸着モデルを示す。また、図5に、除去対象成分濃度および共存成分濃度が高い処理対象水(高濃度水)での吸着材への吸着モデルを示す。
【0034】
なお、以下に説明する吸着モデルでは、使用済材の再利用は、第一処理対象水よりも除去対象成分濃度が高い第二処理対象水を処理することを想定している。さらに、処理対象水は、共存成分濃度が除去対象成分濃度よりも十分に高い。
図4に示すように、新品材30の場合、処理対象水が導入される前は、新品材30の吸着サイト31に除去対象成分も共存成分も吸着されていない。そして、新品材30に処理対象水を接触させることにより、除去対象成分と共存成分とが吸着サイト31に吸着され、吸着サイト31上で吸着物質となる。このとき、低濃度水の処理における吸着は、除去対象成分と共存成分と処理対象水との吸着反応が化学平衡によって決まる。このため、吸着サイト31には、除去対象成分と共存成分とが、除去対象成分濃度および共存成分濃度と吸着材との化学平衡に基づく所定の割合で吸着される。吸着されなかった除去対象成分と共存成分とは、後段の処理設備や保管容器に排出される。
【0035】
また、図4に示すように使用済材40を用いる低濃度水の処理では、新品材30と異なり、処理対象水が導入される以前に、低濃度水を処理した際に吸着された吸着物質が吸着サイト41上に存在する。低濃度水では、上記の新品材30の場合と同様に、処理対象水の除去対象成分および共存成分が、吸着材との化学平衡によって所定の割合で吸着サイト41に吸着される。例えば、吸着サイト41上の一部の共存成分が化学平衡に従って処理対象水中の除去対象成分と入れ替わり、除去対象成分が新たに吸着される。また、吸着物質を吸着していない吸着サイト41に、新たに除去対象成分や共存成分が吸着される。吸着サイト41から離脱した共存成分は、吸着されなかった除去対象成分や共存成分と同様に、後段の処理設備や保管容器に排出される。
【0036】
しかし、使用済材40の場合、予め吸着サイト41上に除去対象成分が存在し、吸着サイト41上の除去対象成分が新たな除去対象成分の吸着を阻害する。このため、新品材30に比べて吸着量が低下し、後段の処理設備や保管容器に排出される除去対象成分の量が増加しやすい。この結果、使用済材40の寿命は、図3の領域Aに示すように新品材30の6割程度となる。
【0037】
また、図5に示すように、新品材30を用いた高濃度水の処理では、上述の低濃度水の場合と同様に、除去対象成分と共存成分と処理対象水との吸着反応が化学平衡によって決まる。しかし、処理対象水の除去対象成分および共存成分の濃度が高いため、除去対象成分および共存成分と吸着材との吸着反応が、処理対象水中の除去対象成分や共存成分濃度による影響を強く受ける。このため、図5に示す高濃度水の処理では、図4に示す低濃度水の処理よりも、処理対象水中の除去対象成分の濃度の高さに依存して吸着サイト31上に吸着される除去対象成分の比率が高くなる。
【0038】
また、使用済材40を用いた高濃度水の処理では、図5に示すように吸着サイト41上に低濃度水を処理した際の除去対象成分や共存成分が存在する。しかし、高濃度水の処理では、処理対象水中の共存成分濃度の増加により、吸着反応の化学平衡に寄与する処理対象水中の共存成分および除去対象成分の割合が、吸着サイト41上の成分の割合よりも多くなる。このため、処理対象水の成分濃度の増加に伴って、吸着サイト41上の一部の共存成分が処理対象水中の除去対象成分と入れ替わる量が増加し、除去対象成分が吸着サイト41に新たに吸着されやすくなる。この結果、図3の領域Bに示すように、処理対象水中の共存成分濃度が増加するほど、吸着反応の化学平衡が処理対象水中の成分濃度に依存し、新品材30と使用済材40との寿命差が小さくなる。
したがって、使用済材40を再利用する場合には、第二処理対象水の共存成分の濃度範囲は高いほうがよく、第一処理対象水の共存成分濃度よりも高い範囲に設定することがよく、さらに2倍以上の高濃度の範囲に設することが好ましい。
【0039】
また、第二処理対象水は、共存成分濃度と共に、除去対象成分濃度が、第一処理対象水の除去対象成分濃度よりも高いことが好ましい。上述のように、共存成分濃度が高い場合には、吸着反応が化学平衡が処理対象水の成分濃度依存となるため、共存成分濃度の増加により、使用済材40による除去対象成分の吸着性能を新品材30に近づけることができる。さらに、除去対象成分濃度を増加させることにより、吸着サイト41での共存成分に対する除去対象成分の吸着比率を高めることができる。このため、第二処理対象水の除去対象成分濃度を、第一処理対象水の除去対象成分濃度よりも高くして、使用済材40の除去対象成分の吸着性能を高めることができる。
好ましくは、使用済材40を再利用する場合、第二処理対象水の除去対象成分の濃度範囲は、第一処理対象水の除去対象成分濃度の2倍以上に設定する。
【0040】
さらに好ましくは、第二処理対象水は、共存成分と除去対象成分との合計濃度が、第一処理対象水の共存成分と除去対象成分との合計濃度よりも高いことが好ましい。共存成分と除去対象成分との合計濃度が高いことにより、上述と同様の理由によって使用済材40の除去対象成分の吸着性能をより高めることができる。
好ましくは、使用済材40を再利用する場合、第二処理対象水の共存成分と除去対象成分との合計の濃度範囲は、第一処理対象水の共存成分と除去対象成分との合計濃度の2倍以上に設定する。
【0041】
なお、使用済材40を再利用する際の第二処理対象水の除去対象成分の濃度範囲の上限については特に問わない。例えば、放射性廃液処理の運用上での実施可能な範囲として、除去対象成分の濃度範囲の上限を、第一処理対象水の除去対象成分の濃度の10000倍以下、好ましくは1000倍以下に設定できる。
また、第一処理対象水および第二処理対象水の除去対象成分濃度は、共存成分濃度よりも低いことが好ましく、除去対象成分濃度は共存成分濃度の1/100程度の十分に低いことが好ましい。
【0042】
(ステップS3)
図1の濃度範囲設定ステップS2の後、ステップS3において濃度判定処理を行う。濃度判定処理では、上述のステップS2で設定した共存成分濃度範囲と、第二処理対象水の共存成分の濃度とを比較する。そして、第二処理対象水の共存成分の濃度が、設定した共存成分濃度範囲内かどうかを判定する。
第二処理対象水の共存成分の濃度が共存成分濃度範囲内と判定された場合(ステップS3のYES)、ステップS5に進む。また、第二処理対象水の共存成分の濃度が共存成分濃度範囲外と判定された場合(ステップS3のNO)、ステップS4に進む。
【0043】
また、ステップS2で除去対象成分濃度範囲を設定した場合には、上記の共存成分濃度の比較判定と共に、設定した除去対象成分の濃度範囲と、第二処理対象水の除去対象成分の濃度を比較する。そして、第二処理対象水の除去対象成分の濃度が、設定した除去対象成分濃度範囲内かどうかを判定する。
この場合には、第二処理対象水の共存成分濃度および除去対象成分濃度が、いずれも設定した共存成分濃度範囲および除去対象成分濃度範囲内と判定された場合(ステップS3のYES)、ステップS5に進む。また、第二処理対象水の共存成分濃度および除去対象成分濃度において、いずれか一方でも設定された濃度範囲外と判定された場合(ステップS3のNO)、ステップS4に進む。
【0044】
さらに、ステップS2で共存成分と除去対象成分との合計濃度範囲を設定した場合には、上記の共存成分濃度や除去対象成分の比較判定と共に、設定した合計濃度範囲と、第二処理対象水の共存成分と除去対象成分との合計濃度とを比較する。
この場合には、第二処理対象水の共存成分濃度、除去対象成分濃度およびこれらの合計濃度が、設定した除去対象成分濃度範囲、共存成分濃度範囲、および合計濃度範囲内と判定された場合(ステップS3のYES)、ステップS5に進む。また、第二処理対象水のいずれか1以上の上記濃度が、設定された濃度範囲外と判定された場合(ステップS3のNO)、ステップS4に進む。
【0045】
第二処理対象水の除去対象成分および共存成分の濃度は、図2に示す第二放射性廃液処理設備2に第二処理対象水が輸送される前に第二処理対象水を分析することで求めてもよい。また、第二処理対象水の除去対象成分および共存成分の濃度は、第二放射性廃液処理設備2に第二処理対象水が輸送された後、例えば、第二調整設備20に保管されている第二処理対象水をサンプリングし分析することで求めてもよい。
【0046】
(ステップS4)
ステップS4では、第二処理対象水の共存成分濃度や除去対象成分濃度が、設定された濃度範囲内になるよう、第二処理対象水を調整する。第二処理対象水の調整では、水質の調整には、水等の混合による希釈や、試薬の添加による濃度調整を行うことができる。第二処理対象水に混合する水としては、例えば、雨水、地下水、および、海水等を用いることができる。また、蒸発や膜分離等の処理を行い、第二処理対象水を濃縮する調整を行うこともできる。
【0047】
ステップS4での第二処理対象水の調整処理後、ステップS3に戻り、第二処理対象水の除去対象成分および共存成分の濃度を測定し、設定された濃度範囲内かどうかを判定する。
調整後の第二処理対象水が設定された濃度範囲内と判定された場合(ステップS3のYES)には、ステップS5に進む。また、調整後の第二処理対象水が設定された濃度範囲外と判定された場合(ステップS3のNO)には、ステップS3で濃度範囲内と判定されるまで、上記ステップS4において第二処理対象水の調整処理を繰り返す。
【0048】
(ステップS5)
ステップS5では、設定された濃度範囲内の第二処理対象水を使用済吸着材と接触させ、第二処理対象水に含まれる除去対象成分を使用済吸着材に吸着させる。
【0049】
上述のステップS1において作製された使用済吸着材は、図2に示す第一放射性廃液処理設備1の第一吸着材容器13から移送設備3を通じて、第二放射性廃液処理設備2の第二吸着材容器23に移送される。
そして、第二放射性廃液処理設備2において、第二調整設備20から第二液送設備21を通じて第二処理対象水が第二処理設備22の第二吸着材容器23に送られる。第二吸着材容器23に送られた第二処理対象水は、第二吸着材容器23内に収納された使用済吸着材と接触する。これにより、第二処理対象水中の除去対象成分が、使用済吸着材によって吸着されて除去される。さらに、使用済吸着材は、除去対象成分を吸着することで二次使用済吸着材となる。除去対象成分が除去された第二処理対象水は、第二送水設備24を通じて第二保管容器25に送られる。
【0050】
上述の第二処理対象水の処理で発生した二次使用済吸着材は、放射性廃棄物としてもよく、さらに他の水処理施設に移送して、より高濃度の除去対象成分を含む処理対象水の処理に再利用してもよい。
【0051】
上述の放射性廃液の処理方法によれば、使用済吸着材を再利用して放射性廃液を処理する際に、使用済吸着材の除去対象成分の吸着性能の低下を抑制し、使用済吸着材の寿命の低下を抑制することができる。このため、放射性廃液の処理において、運用コストの低減、および放射性廃棄物の発生量の低減が可能となる。
【0052】
〈放射性廃液処理方法の第2実施形態〉
次に、放射性廃液処理方法の第2実施形態について説明する。なお、以下の第2実施形態の説明において、第1実施形形態と同様の処理および構成については、詳細な説明を省略する。
【0053】
第2実施形態の放射性廃液処理方法は、上述の第1実施形態の放射性廃液処理方法において、ステップS4の第二処理対象水の調整方法が異なる。第2実施形態の放射性廃液処理方法では、ステップS4の第二処理対象水の調整処理において、第二処理対象水に対して、除去対象成分と共存成分とを含む放射性廃液である第三処理対象水を混合する。これにより、設定された濃度範囲内となるように、第二処理対象水の成分濃度を調整する。このため、第二処理対象水の調整以外の処理および構成については、上述の第1実施形態と同様の処理および構成を適用することができる。
【0054】
図6に、第2実施形態の放射性廃液処理方法に係わる、放射性廃液処理システムの概略構成を示す。図6に示す放射性廃液処理システムは、上述の図2に示す放射性廃液処理システムに加えて、第二処理対象水が保管されている第二調整容器211と、第三処理対象水が保管されている第三調整容器221とを備える。さらに、第二処理対象水に第三処理対象水を混合し、第二処理対象水の成分濃度を調整する第一調整容器201が第二調整設備20内に設けられている。第二調整容器211と第一調整容器201とは第三液送設備212で接続され、第三液送設備212によって第二処理対象水が第一調整容器201に送られる。また、第三調整容器221と第一調整容器201とは第四液送設備222で接続され、第四液送設備222によって第三処理対象水が第一調整容器201に送られる。
【0055】
例えば、放射性廃液処理システムでは、第二調整容器211中の第二処理対象水の除去対象成分および共存成分の濃度を測定し、上述のステップS3の濃度判定処理を行う。そして、第二処理対象水の成分濃度が設定された濃度範囲外と判定された場合(ステップS3のNO)、第二調整容器211から第二処理対象水を第一調整容器201に送るとともに、第三調整容器221から第三処理対象水を第一調整容器201に送る。これにより、第一調整容器201において第二処理対象水に第三処理対象水を混合し、第二処理対象水の成分濃度を調整する(ステップS4)。
【0056】
そして、ステップS4での第二処理対象水の調整処理後、ステップS3に戻り、第一調整容器201内の調整済み第二処理対象水の成分濃度を測定し、設定された濃度範囲内かどうかを判定する。調整後の第二処理対象水が設定された濃度範囲内と判定された場合(ステップS3のYES)には、ステップS5に進む。また、調整済み第二処理対象水が設定された濃度範囲外と判定された場合(ステップS3のNO)には、ステップS3で濃度範囲内と判定されるまで、上記の混合処理を繰り返す。
【0057】
なお、第三処理対象水として用いる放射性廃液は、1種類だけでなくてもよい。例えば、第二処理対象水に混合するための複数の放射性廃液を第三処理対象水として準備しておき、必要に応じて第二処理対象水に混合する放射性廃液の種類を選択したり、複数の放射性廃液を混合して第三処理対象水として用いることができる。
【0058】
本実施形態による放射性廃液の処理方法では、第二処理対象水に除去対象成分を含んでいる第三処理対象水を混合する。このため、第二処理対象水に雨水や地下水、海水を混合する調整方法と比べて、放射性廃液の総量を増加させることなく、除去対象成分および共存成分の濃度を調整することができる。したがって、上述の第1実施形態に比べて、より少ない使用済吸着材で第二処理対象水を処理することができ、放射性廃棄物の発生量の低減が可能となる。
【0059】
〈放射性廃液処理方法の第3実施形態〉
次に、放射性廃液処理方法の第3実施形態について説明する。なお、以下の第3実施形態の説明において、第1実施形形態および第2実施形態と同様の処理および構成については、詳細な説明を省略する。
【0060】
第3実施形態の放射性廃液処理方法は、上述の第1実施形態および第2実施形態の放射性廃液処理方法のステップS2の濃度範囲の設定において、処理対象水の共存成分に対する除去対象成分の濃度比[(除去対象成分/共存成分)比]の範囲を設定する。また、ステップS4において、上記除去対象成分の濃度比範囲内となるように、第二処理対象水を調整する。このため、上述の濃度範囲の設定、および、第二処理対象水の調整以外の処理および構成については、上述の第1実施形態と同様の処理および構成を適用することができる。
【0061】
第3実施形態の放射性廃液処理方法は、まず、ステップS2の濃度範囲の設定において、上述の第1実施形態および第2実施形態と同様に、第一処理対象水の共存成分濃度よりも高い範囲に共存成分濃度範囲を設定する。さらに、ステップS2の濃度範囲の設定として、第一処理対象水の共存成分濃度に対する除去対象成分の濃度比よりも大きい範囲に、除去対象成分の濃度比範囲を設定する。このとき、共存成分濃度や除去対象成分の濃度比範囲とともに、除去対象成分濃度範囲や、共存成分と除去対象成分との合計濃度範囲を設定してもよい。
【0062】
次に、ステップS3において、上述のステップS2で設定した共存成分濃度範囲および除去対象成分の濃度比範囲と、第二処理対象水の共存成分濃度および除去対象成分の濃度比とを比較する。このとき、共存成分濃度や除去対象成分の濃度比範囲とともに、除去対象成分濃度範囲や共存成分と除去対象成分との合計濃度範囲を設定している場合には、第二処理対象水のこれらの濃度について比較判定してもよい。
そして、第二処理対象水の成分濃度が全て設定範囲内と判定された場合(ステップS3のYES)、ステップS5に進む。また、第二処理対象水の成分濃度がいずれかの設定範囲外と判定された場合(ステップS3のNO)、ステップS4に進む。
【0063】
そして、ステップS4では、第二処理対象水の共存成分濃度と、共存成分に対する除去対象成分の濃度比を調整する。具体的には、第二処理対象水よりも共存成分の濃度が高く、さらに、除去対象成分の濃度比の高い希釈液(例えば、第三処理対象水)を混合することにより、第二処理対象水の共存成分濃度と除去対象成分の濃度比を高くする。
【0064】
(除去対象成分の濃度比)
第3実施形態において、処理対象水の除去対象成分の濃度比を高くする理由について説明する。
図7に、処理対象水の除去対象成分の濃度比[(除去対象成分/共存成分)比]と、吸着材寿命との関係のグラフを示す。図7は、縦軸が使用済吸着材の寿命を示し、横軸が処理対象水の(除去対象成分/共存成分)比を示している。
図7のグラフに示すように、(除去対象成分/共存成分)比が高くなると、使用済吸着材の寿命が延びる。これは、処理対象水中の除去対象成分の吸着を阻害する共存成分の比率が減るため、吸着材に除去対象成分が吸着されやすくなるためと考えられる。
【0065】
次に、図8に、処理対象水の希釈倍率と処理量倍率との関係のグラフを示す。図8は、横軸に調整済み処理対象水の希釈率(倍率)を示し、縦軸に調整済み処理対象水を処理する際に吸着材が吸着する除去対象成分の量(処理量)の倍率を示している。
また、図8において、破線は、希釈率と処理量倍率とが1対1で変化すると仮定した場合のグラフである。例えば、破線で示すグラフは、希釈率を5倍にした際の処理量倍率が5倍となり、希釈率を10倍にした際の処理量倍率が10倍となる場合を想定したグラフである。処理対象水は、(除去対象成分/共存成分)比が高くなるように第三処理対象水で希釈する。このため、この破線で示す直線は、希釈率に比例して増加する(除去対象成分/共存成分)比との関係にも対応する。
【0066】
さらに、図8では、実際に処理対象水の(除去対象成分/共存成分)比を調整して吸着材が吸着する除去対象成分の量(処理量)の結果を実験結果として示している。図8では、希釈率が1倍、すなわち(除去対象成分/共存成分)比を調整していない処理対象水では、実験結果と破線のグラフとが一致している。
【0067】
これに対し、希釈率が2倍、すなわち(除去対象成分/共存成分)比が2倍に調整された処理対象水の実験結果では、吸着材の処理量倍率が破線のグラフの3倍程度となった。また、希釈率が4倍に調整された処理対象水の実験結果では、吸着材の処理量倍率が破線のグラフの7.5倍程度となった。さらに、希釈率が8倍に調整された処理対象水の実験結果では、吸着材の処理量倍率が破線のグラフの16.5倍程度となった。
【0068】
このように、処理対象水中の(除去対象成分/共存成分)比を高くすることにより、濃度比調整によって処理対象水中に増加する除去対象成分の倍率よりも、吸着材によって吸着される除去対象成分の倍率が増加する。したがって、第二処理対象水の除去対象成分の濃度比を第一処理対象水よりも高い範囲に設定し、この範囲内の第二処理対象水を使用済吸着材で処理することにより、効率的に処理対象水から除去対象成分を除去することができる。
【0069】
本実施形態による放射性廃液の処理方法では、上述のように、共存成分に対する除去対象成分の濃度比の範囲を設定し、この濃度比の範囲となるように第二処理対象水を調整する。これにより、上述の第1実施形態や第2実施形態に比べて、より少ない使用済吸着材で第二処理対象水を処理することができ、放射性廃棄物の発生量の低減が可能となる。
【0070】
以上、本発明について説明したが、本発明は、上述実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変化が可能である。
例えば、第1実施形態、第2実施形態、および、第3実施形態の各要素を組み合わせて放射性廃液処理を実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 第一放射性廃液処理設備、2 第二放射性廃液処理設備、3 移送設備、10 第一調整設備、11 第一液送設備、12 第一処理設備、13 第一吸着材容器、14 第一送水設備、15 第一保管容器、20 第二調整設備、21 第二液送設備、22 第二処理設備、23 第二吸着材容器、24 第二送水設備、25 第二保管容器、30 新品材、31,41 吸着サイト、40 使用済材、201 第一調整容器、211 第二調整容器、212 第三液送設備、221 第三調整容器、222 第四液送設備
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8