(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】モニタリングデバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
A61B8/08
(21)【出願番号】P 2021080399
(22)【出願日】2021-05-11
【審査請求日】2022-11-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 洋子
(72)【発明者】
【氏名】高木 優
(72)【発明者】
【氏名】坪井 良樹
(72)【発明者】
【氏名】灘浪 紀彦
【合議体】
【審判長】樋口 宗彦
【審判官】萩田 裕介
【審判官】榎本 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/199182(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/115278(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/178261(WO,A1)
【文献】特開2011-183142(JP,A)
【文献】吉田 美香子,超音波を用いたセルフモニタリングによる排尿自立支援の確立(Development of Self-continence management using ultrasonography),科学研究費助成事業 2019年度 研究成果報告書,2021年2月19日,URL:https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PROJECT-18K17481/18K17481seika.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の体内に超音波を照射する照射部を有するモニタリングデバイスであって、
前記超音波が前記対象者の膀胱底において反射された反射波を受信する受信部と、
前記受信部の受信結果に基づき
、前記膀胱底の移動状態を示す指標を検出する検出部と、
を有し
、
前記膀胱底の移動状態を示す指標は、前記膀胱底の移動速度、所定時間内の最大移動量、平均移動量、最大移動速度、平均移動速度、所定時間内になされた往復動作の回数、所定時間内になされた上昇動作及び下降動作の回数、前記膀胱底の移動状態が維持された時間のうち少なくともいずれか一つである
モニタリングデバイス。
【請求項2】
前記膀胱底の移動状態を示す指標は、所定時間内の最大移動量、所定時間内になされた往復動作の回数、所定時間内になされた上昇動作及び下降動作の回数のうち少なくとも一つである
請求項1に記載のモニタリングデバイス。
【請求項3】
前記検出部の検出結果を示す情報を出力する出力部を有する
請求項1又は請求項2に記載のモニタリングデバイス。
【請求項4】
前記情報は、
所定時間内になされた往復動作の回数、所定時間内になされた上昇動作及び下降動作の回数、所定時間内の最大移動量、平均移動量、最大移動速度、平均移動速度、前記膀胱底の移動状態が維持された時間の少なくともいずれかを含む
請求項3に記載のモニタリングデバイス。
【請求項5】
前記出力部は、外部装置に前記情報を送信する送信部を備える
請求項3又は請求項4に記載のモニタリングデバイス。
【請求項6】
前記対象者に装着される装着体を有し、
前記出力部は、前記装着体に設けられる報知部を備え、
前記報知部は、音声出力又は表示の少なくともいずれかによって前記情報を出力する
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のモニタリングデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モニタリングデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、排尿予測装置の一例が開示されている。特許文献1に開示される排尿予測装置は、対象者の体内に超音波を送信し、膀胱を検出する複数の超音波センサと、複数の超音波センサの検出結果から求められる膀胱の膨張速度に基づいて排尿タイミングを推定するサーバ群とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の排尿予測装置は、排尿タイミングを予測するために膀胱の膨張速度を検出するものである。しかし、特許文献1の排尿予測装置は、膀胱底の短時間の動きを正確に評価することができない。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、膀胱底の短時間の動きをより正確に評価し得るモニタリングデバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つであるモニタリングデバイスは、
対象者の体内に超音波を照射する照射部を有するモニタリングデバイスであって、
前記超音波が前記対象者の膀胱底において反射された反射波を受信する受信部と、
前記受信部の受信結果に基づき、前記膀胱底の所定の移動又は前記膀胱底の移動状態を示す指標を検出する検出部と、
を有する。
【0007】
上記のモニタリングデバイスは、膀胱底に超音波を照射し、膀胱底の所定の移動の検出、又は膀胱底の移動状態を示す指標の検出を行うことができる。上記のモニタリングデバイスは、膀胱全体の膨張や収縮のみに着目した監視ではなく、膀胱底に着目してその動きを監視することができるため、短い時間であっても、膀胱底に動きがあった場合には、その動きをより正確に評価しやすい。ゆえに、上記のモニタリングデバイスは、骨盤底筋付近の運動状態を確認する上で有用である。
【0008】
上記のモニタリングデバイスは、前記検出部の検出結果を示す情報を出力する出力部を有していてもよい。
【0009】
このように、モニタリングデバイスが上記出力部を有していれば、膀胱底の動きを評価した情報が利用可能となり、利便性が一層高められる。
【0010】
上記のモニタリングデバイスにおいて、上記情報は、上記所定の移動が生じた回数、上記膀胱底の移動量、上記膀胱底の移動速度、上記所定の移動の有無、の少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0011】
このように、出力部が出力する情報が「上記所定の移動が生じた回数」「膀胱底の移動量」「膀胱底の移動速度」「上記所定の移動の有無」、「前記膀胱底の移動状態が維持された時間」、の少なくともいずれかを含んでいれば、膀胱底の移動状態が客観的な基準に基づいて評価され、その評価情報が有効に利用され得る。
【0012】
上記のモニタリングデバイスにおいて、上記出力部は、外部装置に上記情報を送信する送信部を備えていてもよい。
【0013】
このように、送信部が上記情報を外部装置に送信し得る構成であれば、外部装置において上記情報が有効に利用され得る。
【0014】
上記のモニタリングデバイスは、上記対象者に装着される装着体を有していてもよい。上記出力部は、上記装着体に設けられる報知部を備えていてもよい。上記報知部は、音声出力又は表示の少なくともいずれかによって上記情報を出力してもよい。
【0015】
このように、対象者に装着される装着体に報知部が設けられ、この報知部が音声出力又は表示の少なくともいずれかによって上記情報を出力すれば、対象者は上記情報をより簡単に認識することができる。
【0016】
上記のモニタリングデバイスにおいて、上記照射部は、複数の超音波発生素子を有していてもよい。上記受信部は、上記複数の超音波発生素子のうち2以上の上記超音波発生素子からの各超音波が上記対象者の膀胱に照射され且ついずれかの超音波が上記膀胱底に照射された場合に、上記各超音波に基づく上記膀胱からの各反射波をそれぞれ受信してもよい。
【0017】
上記のモニタリングデバイスは、膀胱底からの1つの反射波のみならず、膀胱からの他の反射波を受信して用いることができるため、より多面的な評価が可能になり、膀胱底の動きがより一層正確に評価されやすい。
【0018】
上記のモニタリングデバイスにおいて、上記照射部は、上記対象者に対して所定の位置関係で配置された場合に、上記各超音波を上記対象者の上記膀胱底及び膀胱側壁に照射する構成であってもよい。上記受信部は、上記各超音波に基づく上記膀胱底からの反射波及び上記膀胱側壁からの反射波をそれぞれ受信する構成であってもよい。
【0019】
上記のモニタリングデバイスは、膀胱底の移動だけでなく、膀胱側壁の移動も評価することができる。このようなモニタリングデバイスであれば、例えば、「膀胱側壁の移動が小さい状態又は膀胱側壁の移動が無い状態で、膀胱底が大きく移動するような動き」なども確認することができるため、骨盤底筋付近の運動状態をより正確に評価する上でも非常に有用である。
【0020】
上記のモニタリングデバイスにおいて、上記照射部は、上記対象者に対して所定の位置関係で配置された場合に、上記各超音波を上記対象者の上記膀胱底に照射する構成であってもよい。上記受信部は、上記各超音波に基づく上記膀胱底からの各反射波をそれぞれ受信する構成であってもよい。
【0021】
上記のモニタリングデバイスは、複数の反射波を利用して膀胱底の動きをより正確に評価することができる。例えば、いずれかの反射波が膀胱底の動きを正確に反映しないような検出不良が生じた場合には、他の反射波を利用することで膀胱底の動きの評価の正確性を高めることができる。或いは、各反射波を生じさせる各部位において動きに差がある場合には、各部位の動きの情報を収集した上で評価することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一つであるモニタリングデバイスは、膀胱底の短時間の動きをより正確に評価し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、第1実施形態のモニタリングデバイスの電気的構成を概略的に例示するブロック図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のモニタリングデバイスを対象者に装着した様子を説明する説明図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態のモニタリングデバイスによって膀胱に超音波を照射する様子を概念的に説明する説明図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態のモニタリングデバイスが実行する制御の流れを例示するフローチャートである。
【
図5】
図5は、受信部が反射波を受信して得られる波形の一例を説明する説明図である。
【
図6】
図6は、受信部が反射波を受信して得られる波形について、
図5とは異なる例を説明する説明図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態のモニタリングデバイスの電気的構成を概略的に例示するブロック図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態のモニタリングデバイスによって膀胱に超音波を照射する様子を概念的に説明する説明図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態のモニタリングデバイスを
図3とは異なる対象者に装着し、膀胱に超音波を照射する様子を概念的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.第1実施形態
1-1.モニタリングデバイス10等の基本構成
図1には、第1実施形態に係るモニタリングデバイス10等が例示される。
図1に示されるモニタリングデバイス10は、
図2のように対象者100の人体に装着され、対象者100の体の内部を監視する。具体的には、
図3のように、モニタリングデバイス10は、対象者100の体内に超音波を照射し、対象者100の膀胱底112の動きを超音波によって監視する膀胱底監視装置として機能する。
【0025】
図1のように、モニタリングデバイス10は、超音波発生素子20と、制御部30と、送受信回路40と、通信部32と、報知部34とを備える。モニタリングデバイス10は、外部装置190と通信可能とされている。
図1の例では、モニタリングデバイス10と外部装置190とを備えてモニタリングシステム1が構成される。
【0026】
第1実施形態のモニタリングデバイス10は、筐体14と、筐体14と一体的に設けられる各部品(
図1に示される超音波発生素子20、制御部30、送受信回路40、通信部32、報知部34等)と、筐体14を対象者100に取り付ける取付部とを有する。各部品(超音波発生素子20、制御部30、送受信回路40、通信部32、報知部34等)は、筐体14の内部に収容される。
図3の例では筐体14によって装着体12が構成される。
なお本実施形態のモニタリングデバイス10は、筐体14と、各部品(超音波発生素子20、制御部30、送受信回路40、通信部32、報知部34等)とが、一体的に設けられているが、これに限られず、各部品のうち制御部30、送受信回路40、通信部32、報知部34等が筐体14とは別に設けられてもよい。
【0027】
図2、
図3において、取付部の図示は省略されている。取付部は、筐体14を対象者100の人体又は対象者100の装着物(衣服等)に固定する固定具(クリップ、ベルト、テープ等)である。取付部は、モニタリングデバイス10を対象者100に対して所定の配置状態で取り付け可能な構成であればよい。所定の配置状態とは、超音波発生素子20から放出される超音波が膀胱底112(
図3)に当たる配置状態である。なお、膀胱底112は、対象者100の人体内において膀胱110の内壁部を構成する所定部位(膀胱底位置)と骨盤底筋群からなる組織群によって構成される部分である。
【0028】
超音波発生素子20は、送波用超音波素子としての機能と、受波用超音波素子としての機能とを有する素子である。超音波発生素子20は、照射部の一例に相当し、超音波を照射する機能を有する。超音波発生素子20は、受信部の一例に相当し、照射部が照射する上記超音波が物体で反射して戻ってくる反射波(超音波)を受信する機能を有する。
【0029】
図1の例では、超音波発生素子20は、圧電素子によって構成される。所定の共振周波数の送信信号(駆動信号)が印加された場合に、振動子の屈曲振動に基づく超音波を放射する。超音波発生素子20は、上記送信信号に対応する超音波を所定方向に放出する。超音波発生素子20から所定方向に放出された超音波が上記所定方向に存在する物体にて反射すると、その反射によって生じる反射波が超音波発生素子20によって受信(受波)される。超音波発生素子20は、自身が受けた反射波(超音波)を電気信号に変換する。なお、受信波形に基づいて距離を算出する方法については、後述される。
【0030】
送受信回路40は、信号生成回路42と受信回路44とを備える。モニタリングデバイス10は、超音波発生素子20と送受信回路40とが超音波センサとして機能する。
【0031】
信号生成回路42は、超音波発生素子20を駆動することによって超音波発生素子20に超音波を生成させる電気回路を含む。信号生成回路42は、例えば、交流信号を生成する発振回路と、発振回路が生成した交流信号を増幅した増幅信号を超音波発生素子20へ供給する増幅回路とを含む。信号生成回路42は、制御部30からの指示に応じて超音波発生素子20を駆動する。
【0032】
受信回路44は、例えば、増幅回路、ローパスフィルタ回路、AD変換回路などを有する。増幅回路は、超音波発生素子20が超音波(例えば反射波)を受けたときに超音波発生素子20で生じる受信信号を増幅した増幅信号を生成する。ローパスフィルタ回路は、増幅回路が生成する増幅信号から高周波成分を除去するローパスフィルタ処理を行う。AD変換回路は、ローパスフィルタ回路によって高周波成分が除去された信号(
図5、
図6参照)を(受信結果を示す信号)を、デジタルデータに変換し、制御部30に与える。なお、ここで説明される受信回路44はあくまで一例であり、受信部の受信波形を示す信号を制御部30に与えうる構成であればよい。例えば、受信回路44は、上記増幅回路が生成する増幅信号をデジタルデータに変換して制御部30に与えるように構成されていてもよい。
【0033】
制御部30は、モニタリングデバイス10全体の動作を制御する制御手段として機能する。制御部30は、演算機能、記憶機能、入出力機能、読出し機能などの様々な情報処理機能を有する情報処理装置である。制御部30は、例えば、MCU(Micro Controller Unit)などの制御装置を備えて構成される。制御部30は、メモリやタイマなどを有していてもよい。
【0034】
通信部32は、公知の無線通信方式又は有線通信方式で外部の装置と通信を行う装置である。例えば、通信部32は、公知の無線通信方式で外部装置190と無線通信を行い得る。通信部32は、制御部30と協働して外部装置190に各種情報を送信する。また、通信部32は、制御部30と協働して外部装置190から各種情報を受信する。
【0035】
外部装置190は、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。外部装置190は、表示装置(画像表示器等)、音声出力装置(スピーカ等)、記憶装置、通信装置などを有する。外部装置190は、モニタリングデバイス10と通信を行い、モニタリングデバイス10から情報を受信する機能を有し、モニタリングデバイス10に情報を送信する機能を有する。
【0036】
報知部34は、数字や記号などの情報を表示する表示装置を有する。更に、報知部34は、スピーカなどの音声出力装置を有する。
【0037】
1-2.モニタリングデバイス10の動作
モニタリングデバイス10は、
図4に示される制御を行い得る。モニタリングデバイス10において、制御部30の内部又は外部に設けられた記憶部には、
図4の制御を実行するためのプログラムが記憶されている。制御部30は、所定の開始条件が成立した場合、上記プログラムを実行し、上記プログラムに従って
図4の制御を行う。上記の「所定の開始条件」は、モニタリングデバイス10に設けられた図示されていない操作部に対して所定操作が行われたことであってもよく、その他の条件が成立したこと(例えば、電源が投入されたこと、予め定められた予約時間が到来したこと等)であってもよい。
【0038】
制御部30は、上記の「所定の開始条件」の成立に応じて
図4の制御を開始し、まず、ステップS1の処理を行う。ステップS1の処理は、超音波発生素子20に超音波を発生させる処理である。制御部30は、信号生成回路42に指令を与え、超音波発生素子20を駆動する動作(超音波を発生させる動作)を信号生成回路42に行わせる。
【0039】
制御部30は、ステップS1の後、ステップS2の処理を行う。ステップS2の処理は、ステップS1の処理によって超音波発生素子20に超音波を発生させた直後から一定時間(所定の監視時間)にわたって受信回路44から与えられる「超音波発生素子20の受信結果を示す信号」を取得する処理である。「超音波発生素子20の受信結果を示す信号」は、
図5、
図6などに例示される。
図5、
図6で示される「超音波発生素子20の受信結果を示す信号」は、超音波発生素子20が超音波の受信によって生成する受信信号を増幅した増幅信号から高周波成分を除去した信号である。
【0040】
制御部30は、ステップS2の後、ステップS3の処理を行う。ステップS3の処理は、ステップS2の処理で得られた「超音波発生素子20の受信結果を示す信号」に基づいて膀胱底112までの距離を検出する処理である。本実施形態では、
図3のように超音波発生素子20(照射部)が対象者100の膀胱底112に超音波Waを照射する場合に、超音波発生素子20からの超音波Waに基づく膀胱底112からの反射波Wb(超音波)を超音波発生素子20(受信部)受信する。このような場合、「超音波発生素子20の受信結果を示す信号」は、超音波発生素子20から膀胱底112までの距離を示す時間情報を含んでいる。
【0041】
具体的には、制御部30は、ステップS2で得られた「超音波発生素子20の受信結果を示す信号」を解析し、「所定の基準時間」から「膀胱底112からの反射波が検出される時間」までの経過時間を検出する。
【0042】
図5、
図6には、
図3のようにモニタリングデバイス10を対象者100の下腹部に設置し、超音波が膀胱底112に到達する位置関係で、超音波発生素子20から膀胱110に向けて超音波を照射したときの反射波形(超音波発生素子20の受信結果を示す信号の波形)が示される。
図5は、対象者100が骨盤底筋120を緩めた通常状態(
図3の実線の状態)のときの上記反射波形である。
図6は、対象者100が骨盤底筋120を引き締めるように力を入れた状態(
図3の二点鎖線の状態)のときの上記反射波形である。
図5、
図6において、対象者100の人体表面(モニタリングデバイス10に近接する人体表面)に近い側の反射波形R2は筋肉、皮下脂肪、膀胱前壁などからの反射波形である。
図5において対象者100の人体表面(モニタリングデバイス10に近接する人体表面)から遠い側の反射波形R1は膀胱底112、及び膀胱底112から後ろの体組織を示している。膀胱110内は尿があるため、ほとんど反射せず反射強度を示す振幅が低い。
【0043】
図3の処理では、
図5,
図6のような上記反射波形(超音波発生素子20の受信結果を示す信号の波形)において、最初の反射波の立ち上がり時間を基準時間Pとする。そして、基準時間Pから反射波形R2の終端時間までの時間(経過時間)をTfとし、基準時間Pから反射波形R1の立ち上がり時間までの時間(経過時間)をTbとする。そして、基準時間Pから時間Tfが経過してから時間Tbが経過するまでの範囲の波形を膀胱110内の範囲の波形とする。このように「膀胱110内の範囲の波形」を定義し、「膀胱110内の範囲の波形」におけるピークのレベル(振幅レベル)を基準ピークレベルとする。そして、基準ピークレベルの2倍以上の振幅レベルを示す複数のピークが存在する反射波形R1のうち、基準時間Pに最も近いピーク(最も早い時間のピーク)を膀胱底112の位置を示すピーク(膀胱底ピーク)とする。そして、基準時間Pから膀胱底ピークまでの時間Tを、「モニタリングデバイス10から膀胱底112までの距離を示す値」とする。
図5の波形では、時間Tは、T1である。
図6の波形では、時間Tは、Ttである。ステップS3ではこのようにして、モニタリングデバイス10から膀胱底112までの距離を示す値(時間T)が検出される。なお、骨盤底筋120が緩められて膀胱底112が下降した状態では
図5のように膀胱底ピークの振幅が小さくなり、引き締められて膀胱底112が上昇した状態では
図6のように膀胱底ピークの振幅が大きくなるので、膀胱底112の動きの判定は、反射波形R1の膀胱底ピークの振幅変化に基づき判定してもよい。例えば、膀胱底ピークの振幅が閾値以上変化した場合に膀胱底112に動きがあったと判定してもよい。
【0044】
制御部30は、ステップS3の処理の後、ステップS4の処理を行う。ステップS4の処理は、
図4の制御の開始から所定時間が経過したか否かを判定する処理である。制御部30は、
図4の制御の開始から所定時間が経過していない場合、処理をステップS1に戻し、
図4の制御の開始から所定時間が経過している場合、処理をステップS5に進める。
【0045】
制御部30は、ステップS5では、複数回繰り返されたステップS3の処理結果に基づいて膀胱底112の運動を解析し、ステップS6では、所定の運動(上記所定時間内に所定移動速度以上でなされる一定値を超える膀胱底112の往復動作(一定値を超える上昇及び一定値を超える下降))があったか否かを判定する。
図4の制御では、ステップS3の処理が繰り返される毎に、「モニタリングデバイス10から膀胱底112までの距離を示す値」を取得することができるため、上記所定時間が経過するまでの間の「距離を示す値」の変化を評価することができ、「上記所定時間内に所定移動速度以上で一定値を超える膀胱底112の往復動作(上昇及び下降)があったか否か」を判定することができる。
【0046】
例えば、
図5のような状態から第1の時間が経過した後に
図6のような状態に変化した場合、時間Tlと時間Ttの差が、
図5の状態(骨盤底筋を緩めたとき)から
図6の状態(骨盤底筋を引き締めたとき)に変化したときの膀胱底112の「移動量を示す値」である。そして、この「移動量を示す値」から上記「第1の時間」を除した値が、移動速度を示す値である。このように、少なくとも2つの波形を取得できれば、膀胱底112の「移動量を示す値」と「移動速度を示す値」を取得することができる。上記所定時間は、10分以下の時間であり、2分以下の時間であることが望ましく、1分以下の時間であることがより望ましい。また、移動量や、移動速度のみを測定する場合においては、上記所定時間は、30秒以下であることが望ましい。なお、この所定時間は判定したい内容に応じて適宜設定される。
【0047】
制御部30は、ステップS6において上記「所定の運動」があったと判定した場合、ステップS7において、第1の報知を行い、ステップS6において上記「所定の運動」がなかったと判定した場合、ステップS8において、第2の報知を行う。第2の報知は、例えば、「上記の所定の運動(膀胱底112の所定の移動)がなされていないこと」を示す情報を報知部34によって表示や音声出力してもよく、通信部32によって外部装置190へ送信してもよい。第1の報知は、例えば、「上記の所定の運動(膀胱底112の所定の移動)がなされたこと」を示す情報を報知部34によって表示や音声出力してもよく、通信部32によって外部装置190へ送信してもよい。或いは、第1の報知は、膀胱底112の移動状態を示す指標を、報知部34によって表示や音声出力してもよく、通信部32によって外部装置190へ送信してもよい。膀胱底112の移動状態を示す指標は、膀胱底112の上昇時の各移動量や各移動速度、膀胱底112の下降時の各移動量や各移動速度、各往復動作(一定値を超える上昇及び一定値を超える下降)の移動量や各移動速度、上記所定時間内の最大移動量(最大上昇量、最大下降量、往復動作の最大移動量等)、平均移動量、最大移動速度、平均移動速度、上記所定時間内になされた上記往復動作の回数、上記所定時間内になされた上昇動作及び下降動作の回数、膀胱底の移動状態が維持された時間、などが挙げられる。膀胱底の移動状態が維持された時間は、例えば、一定値を超える上昇があった場合に、その上昇の開始位置からの移動量が一定値を超える範囲で維持される時間(上昇位置で維持されている時間)などが挙げられる。
【0048】
制御部30は、検出部の一例に相当し、受信部の受信結果に基づき、膀胱底112の「所定の移動」及び「膀胱底112の移動状態を示す指標」を検出する。なお、膀胱底112の「所定の移動」とは、具体的には、「所定時間内でなされる閾値以上の移動量の移動」であり、上述の例では、上記所定の運動(上記所定時間内に所定移動速度以上でなされる一定値を超える膀胱底112の往復動作)である。
【0049】
制御部30、通信部32、報知部34が出力部の一例として機能し、検出部の検出結果を示す情報を出力する。制御部30及び通信部32は、送信部の一例に相当し、外部装置190に上記情報(所定の移動が生じた回数、膀胱底112の移動量、膀胱底112の移動速度、所定の移動の有無等)を送信するように動作する。外部装置190は、上記情報を音声や表示などによって外部装置190にて出力してもよい。制御部30及び報知部34は、音声出力又は表示の少なくともいずれかによって上記情報(所定の移動が生じた回数、膀胱底112の移動量、膀胱底112の移動速度、所定の移動の有無等)を出力する。報知部34は、装着体12に設けられるため、対象者100付近の装着体12から上記情報を出力し得る。
【0050】
1-3.効果の例
モニタリングデバイス10は、膀胱底112に超音波を照射し、膀胱底112の所定の移動の検出、又は膀胱底112の移動状態を示す指標の検出を行うことができる。モニタリングデバイス10は、膀胱110全体の膨張や収縮のみに着目した監視ではなく、膀胱底112に着目してその動きを監視することができるため、短い時間であっても、膀胱底112に動きがあった場合には、その動きをより正確に評価しやすい。ゆえに、モニタリングデバイス10は、骨盤底筋120付近の運動状態を確認する上で有用である。
【0051】
特に、このモニタリングデバイス10は、骨盤底筋120の運動を促進することが望まれる場面で使用することが有用である。例えば、病院、リハビリ施設、介護施設、デイサービス、産院、トレーニングジムなどにおいて骨盤底筋の運動を行う場合に、運動を行う者が用いると有用である。この場合、モニタリングデバイス10によって得られる情報は、運動者、指導者、補助者などが有効に用いることができる。
【0052】
モニタリングデバイス10は、検出部の検出結果を示す情報を出力する出力部を有しているため、膀胱底112の動きを評価した情報が利用可能となり、利便性が一層高められる。なお、検出結果を示す情報として、検出結果に基づき判定された情報を示してもよい。例えば、検出結果に基づき対象者が正しく運動できているか否かを判定した情報を出力してもよい。
【0053】
モニタリングデバイス10は、「上記所定の移動が生じた回数」「膀胱底112の移動量」「膀胱底112の移動速度」「上記所定の移動の有無」、の少なくともいずれかを含む情報を出力する。よって、膀胱底112の移動状態が客観的な基準に基づいて評価され、その評価情報が有効に利用され得る。
【0054】
モニタリングデバイス10の送信部は、上記情報を外部装置190に送信し得る。よって、外部装置190において上記情報が有効に利用され得る。
【0055】
モニタリングデバイス10は、対象者100に装着される装着体12に報知部34が設けられ、この報知部34が音声出力又は表示の少なくともいずれかによって上記情報を出力する。よって、対象者100は上記情報をより簡単に認識することができる。
【0056】
2.第2実施形態
2-1.モニタリングデバイス210の特徴
図7、
図8に示される第2実施形態のモニタリングデバイス210は、超音波発生素子20及び送受信回路40を複数備えている。モニタリングシステム201は、複数の超音波発生素子20及び複数の送受信回路40が設けられている点以外の電気的構成はモニタリングシステム1と同一である。制御部30、通信部32、報知部34、外部装置190のハードウェア構成及び基本動作は、
図1等で示されるモニタリングシステム1と同一である。
【0057】
モニタリングデバイス210の各超音波発生素子20(第1素子20A,第2素子20B,第3素子20C)は、第1実施形態のモニタリングデバイス10の超音波発生素子20と同一の構成をなす。各送受信回路40は、第1実施形態のモニタリングデバイス10の送受信回路40と同一の構成をなす。モニタリングデバイス210において各超音波発生素子20は、超音波を照射し、その超音波が物体で反射して生じる反射波を受信し得る。
【0058】
図8の例では、第1素子20Aからの超音波及び第2素子20Bからの超音波が膀胱底112に照射されるように配置される。そして、第3素子20Cからの超音波が膀胱側壁114に照射されるように配置される。
【0059】
図8の例でも、
図4のように制御を行い得る。この例では、第1実施形態と同様の方法で、第1素子20Aによる受信波形に基づいて膀胱底112までの距離を示す値を検出し、その検出結果に基づいて、第1実施形態と同様の方法で、ステップS6において上記の「所定の運動」がなされているかを判定することができる。同様に、第1実施形態と同様の方法で、第2素子20Bによる受信波形に基づいて膀胱底112までの距離を示す値を検出し、その検出結果に基づいて、第1実施形態と同様の方法で、ステップS6において上記の「所定の運動」がなされているかを判定することができる。この例では、第1素子20A、第2素子20B、第3素子20Cのいずれかの受信波形に基づいて「所定の運動」が確認された場合には、ステップS6においてYesに進み、ステップS7において第1の報知を行うようにしてもよい。第1素子20A、第2素子20B、第3素子20Cのいずれの受信波形でも「所定の運動」が確認されなかった場合には、ステップS6においてNoに進み、ステップS8において第2の報知を行うようにしてもよい。
【0060】
図7、
図8の例では、第3素子20Cによる受信波形によって膀胱側壁114までの距離を検出することもできる。そして、上記所定時間内の膀胱側壁114の位置の変化(モニタリングデバイス210からの距離の変化)や移動量を検出することもできる。
【0061】
2-2.効果の例
第2実施形態のモニタリングデバイス210は、照射部が、複数の超音波発生素子20(第1素子20A、第2素子20B、第3素子20C)を有している。そして、受信部は、複数の超音波発生素子20のうち2以上の超音波発生素子からの各超音波が対象者100の膀胱110に照射され且ついずれかの超音波が膀胱底112に照射された場合に、各超音波に基づく膀胱110からの各反射波をそれぞれ受信しうる。このモニタリングデバイス210は、膀胱底112からの1つの反射波のみならず、膀胱110からの他の反射波を受信して用いることができるため、より多面的な評価が可能になり、膀胱底112の動きがより一層正確に評価されやすい。
【0062】
モニタリングデバイス210では、照射部(複数の超音波発生素子20)は、対象者100に対して所定の位置関係で配置された場合に、各超音波を対象者100の膀胱底112及び膀胱側壁114に照射する。この場合、受信部(複数の超音波発生素子20)は、各超音波に基づく膀胱底112からの反射波及び膀胱側壁114からの反射波をそれぞれ受信する。このような構成であれば、モニタリングデバイス210は、膀胱底112の移動だけでなく、膀胱側壁114の移動も評価することができる。このようなモニタリングデバイス210であれば、例えば、「膀胱側壁114の移動が小さい状態又は膀胱側壁114の移動が無い状態で、膀胱底112が大きく移動するような動き」なども確認することができるため、骨盤底筋120付近の運動状態をより正確に評価する上でも非常に有用である。
【0063】
モニタリングデバイス210では、照射部(複数の超音波発生素子20)は、対象者100に対して所定の位置関係で配置された場合に、各超音波を対象者100の膀胱底112に照射する。受信部(複数の超音波発生素子20)は、各超音波に基づく膀胱底112からの各反射波をそれぞれ受信する。このような構成であれば、モニタリングデバイス210は、複数の反射波を利用して膀胱底112の動きをより正確に評価することができる。例えば、いずれかの反射波が膀胱底112の動きを正確に反映しないような検出不良が生じた場合には、他の反射波を利用することで膀胱底112の動きの評価の正確性を高めることができる。或いは、各反射波を生じさせる各部位において動きに差がある場合には、各部位の動きの情報を収集した上で評価することができる。
【0064】
<他の実施形態>
本開示は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述又は後述の実施形態の特徴は、矛盾しない範囲であらゆる組み合わせが可能である。また、上述又は後述の実施形態のいずれの特徴も、必須のものとして明示されていなければ省略することもできる。更に、上述した実施形態は、次のように変更されてもよい。
【0065】
上述された実施形態では、照射部及び受信部がいずれも共通の超音波発生素子によって構成されていたが、この例に限定されない。いずれの例においても、照射部を構成する圧電素子と、受信部を構成する圧電素子とが異なっていてもよい。
【0066】
上述された実施形態では、対象者が女性である場合を例示したが、
図9のように対象者が男性であってもよい。
図9の例は、対象者が男性である点が第1実施形態と異なるが、その他の内容は、第1実施形態と同一である。
【0067】
第1実施形態では、ステップS6において、「上記所定時間内に所定移動速度以上で一定値を超える膀胱底112の往復動作(上昇及び下降)があったか否か」を判定したが、これに代えて、ステップS6において、「上記所定時間内に所定移動速度以上で一定値を超える膀胱底112の往復動作(上昇及び下降)が所定回数あったか否か」を判定してもよい。
【0068】
図5,
図6の例において、膀胱110の範囲は、反射波形R1まで含む全体区間の積分値を算出し、全体区間を任意の区間で区切ったとき、全体区間の積分値を任意の区間数で平均化した値の所定割合(例えば10%)以下の積分値を示し、かつ連続する最大の範囲を膀胱の範囲としてもよい。
【0069】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
10,210…モニタリングデバイス
12…装着体
20…超音波発生素子(照射部、受信部)
30…制御部(検出部、出力部)
32…通信部(出力部)
34…報知部(出力部)
100…対象者
110…膀胱
112…膀胱底
114…膀胱側壁
190…外部装置