(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ロードノイズ低減装置、ロードノイズ低減方法及びロードノイズ低減プログラム
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20240815BHJP
B60C 29/06 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
G10K11/178 120
B60C29/06
(21)【出願番号】P 2021088645
(22)【出願日】2021-05-26
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391008559
【氏名又は名称】株式会社トランストロン
(74)【代理人】
【識別番号】100170070
【氏名又は名称】坂田 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】松尾 英之
【審査官】▲徳▼田 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-111205(JP,A)
【文献】特開2002-039854(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0070935(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
B60C 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室及びタイヤを有する車体に設けられ、前記タイヤが路面と回転接触することで発生するロードノイズを低減するロードノイズ低減装置であって、
前記タイヤに空気を注入するバルブに設けられた第1マイクロホンと、
前記第1マイクロホンで収音された空洞共鳴音をデジタル信号にし、当該デジタル信号を周波数領域の周波数の領域に変換する周波数変換部と、
前記周波数変換部で周波数の領域に変換された信号に基づいて制御信号を生成する制御信号生成部であって、前記制御信号を生成する適応フィルタを有する制御信号生成部と、
前記車室に設けられており、前記制御信号に基づいて前記ロードノイズを相殺する相殺音を出力するスピーカと、
前記車室に設けられており、前記相殺音と前記ロードノイズとの干渉による残留騒音を誤差信号として取得する第2マイクロホンと、
を備え、
前記制御信号生成部は、前記誤差信号が最小になるように前記適応フィルタを逐次的に更新する
ことを特徴とするロードノイズ低減装置。
【請求項2】
前記第1マイクロホンを4個備え、
前記車体は、前記タイヤを4個有し、
4個の前記第1マイクロホンは、4個の前記タイヤにそれぞれ設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のロードノイズ低減装置。
【請求項3】
前記タイヤを支持するナックルに設けられた加速度センサを備え、
前記周波数変換部は、前記加速度センサで検出された加速度情報をデジタル信号にし、当該デジタル信号を周波数領域の周波数の領域に変換し、
前記制御信号生成部は、前記空洞共鳴音に基づく信号及び前記加速度情報に基づく信号であって、前記周波数変換部で周波数の領域に変換された信号に基づいて前記制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のロードノイズ低減装置。
【請求項4】
前記制御信号生成部を有する信号処理ユニットと、前記第1マイクロホンとは無線により接続されている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のロードノイズ低減装置。
【請求項5】
車室及びタイヤを有する車体に設けられ、前記タイヤが路面と回転接触することで発生するロードノイズを低減するロードノイズ低減方法であって、
前記タイヤに空気を注入するバルブに設けられた第1マイクロホンで収音された空洞共鳴音をデジタル信号にし、当該デジタル信号を周波数領域の周波数の領域に変換するステップと、
適応フィルタを用いて前記周波数の領域に変換された信号に基づいて制御信号を生成するステップと、
前記制御信号に基づいて、前記ロードノイズを相殺する相殺音を前記車室に設けられたスピーカから出力するステップと、
前記車室に設けられた第2マイクロホンから、前記相殺音と前記ロードノイズとの干渉による残留騒音を誤差信号として取得し、前記誤差信号が最小になるように前記適応フィルタを逐次的に更新するステップと、
を含むことを特徴とするロードノイズ低減方法。
【請求項6】
車室及びタイヤを有する車体に設けられ、前記タイヤが路面と回転接触することで発生するロードノイズを低減するロードノイズ低減プログラムであって、
前記タイヤに空気を注入するバルブに設けられた第1マイクロホンで収音された空洞共鳴音をデジタル信号にし、当該デジタル信号を周波数領域の周波数の領域に変換する周波数変換部、
適応フィルタを用いて前記周波数変換部で周波数の領域に変換された信号に基づいて制御信号を生成し、前記制御信号に基づいて、前記ロードノイズを相殺する相殺音を前記車室に設けられたスピーカに出力するとともに、前記車室に設けられた第2マイクロホンから前記相殺音と前記ロードノイズとの干渉による残留騒音を誤差信号として取得し、前記誤差信号が最小になるように前記適応フィルタを逐次的に更新する制御信号生成部、
として機能させることを特徴とするロードノイズ低減プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロードノイズ低減装置、ロードノイズ低減方法及びロードノイズ低減プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、コントローラは、ナックルに設けられた参照信号検出器で検出された参照信号および誤差信号に基づいて誤差信号が小さくなるように、タイヤハウスまたはサスペンションメンバに設けられた加振器を制御する能動型消音装置が開示されている。なお、誤差信号検出器は、タイヤハウスの振動またはサスペンションメンバの振動を誤差信号として検出する、もしくは、車室内の音を誤差信号として検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明では、参照信号検出器は加速度センサであり、タイヤから固体伝播によりナックルに伝わる振動をロードノイズとしている。しかしながら、ロードノイズが発生しているのはタイヤであるため、振動をより早く検出するためにはタイヤ自体の振動を検出することが望ましい。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、タイヤ自体の振動を参照して車室に伝わるロードノイズを低減することができるロードノイズ低減装置、ロードノイズ低減方法及びロードノイズ低減プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るロードノイズ低減装置は、例えば、車室及びタイヤを有する車体に設けられ、前記タイヤが路面と回転接触することで発生するロードノイズを低減するロードノイズ低減装置であって、前記タイヤに空気を注入するバルブに設けられた第1マイクロホンと、前記第1マイクロホンで収音された空洞共鳴音をデジタル信号にし、当該デジタル信号を周波数領域の周波数の領域に変換する周波数変換部と、前記周波数変換部で周波数の領域に変換された信号に基づいて制御信号を生成する制御信号生成部であって、前記制御信号を生成する適応フィルタを有する制御信号生成部と、前記車室に設けられており、前記制御信号に基づいて前記ロードノイズを相殺する相殺音を出力するスピーカと、前記車室に設けられており、前記相殺音と前記ロードノイズとの干渉による残留騒音を誤差信号として取得する第2マイクロホンと、を備え、前記制御信号生成部は、前記誤差信号が最小になるように前記適応フィルタを逐次的に更新することを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るロードノイズ低減方法は、例えば、車室及びタイヤを有する車体に設けられ、前記タイヤが路面と回転接触することで発生するロードノイズを低減するロードノイズ低減方法であって、前記タイヤに空気を注入するバルブに設けられた第1マイクロホンで収音された空洞共鳴音をデジタル信号にし、当該デジタル信号を周波数領域の周波数の領域に変換するステップと、適応フィルタを用いて前記周波数の領域に変換された信号に基づいて制御信号を生成するステップと、前記制御信号に基づいて、前記ロードノイズを相殺する相殺音を前記車室に設けられたスピーカから出力するステップと、前記車室に設けられた第2マイクロホンから、前記相殺音と前記ロードノイズとの干渉による残留騒音を誤差信号として取得し、前記誤差信号が最小になるように前記適応フィルタを逐次的に更新するステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るロードノイズ低減プログラムは、例えば、車室及びタイヤを有する車体に設けられ、前記タイヤが路面と回転接触することで発生するロードノイズを低減するロードノイズ低減プログラムであって、前記タイヤに空気を注入するバルブに設けられた第1マイクロホンで収音された空洞共鳴音をデジタル信号にし、当該デジタル信号を周波数領域の周波数の領域に変換する周波数変換部、適応フィルタを用いて前記周波数変換部で周波数の領域に変換された信号に基づいて制御信号を生成し、前記制御信号に基づいて、前記ロードノイズを相殺する相殺音を前記車室に設けられたスピーカに出力するとともに、前記車室に設けられた第2マイクロホンから前記相殺音と前記ロードノイズとの干渉による残留騒音を誤差信号として取得し、前記誤差信号が最小になるように前記適応フィルタを逐次的に更新する制御信号生成部、として機能させることを特徴とする。
なお、コンピュータプログラムは、インターネット等のネットワークを介したダウンロードによって提供したり、CD-ROMなどのコンピュータ読取可能な各種の記録媒体に記録して提供したりすることができる。
【0009】
本発明の上記いずれかの態様では、タイヤに空気を注入するバルブに設けられた第1マイクロホンで収音された空洞共鳴音に基づいて制御信号を生成し、制御信号に基づいてロードノイズを相殺する相殺音を車室に設けられたスピーカから出力し、車室に設けられた第2マイクロホンで相殺音とロードノイズとの干渉による残留騒音を誤差信号として取得し、誤差信号が最小になるように適応フィルタを更新する。これにより、タイヤ自体の振動(すなわち空洞共鳴音)を参照してロードノイズを低減することができる。
【0010】
前記第1マイクロホンを4個備え、前記車体は、前記タイヤを4個有し、4個の前記第1マイクロホンは、4個の前記タイヤにそれぞれ設けられていてもよい。これにより、1つのタイヤの空洞共鳴音を用いてアクティブノイズ制御を行う場合に比べ、空洞共鳴音と車室内で聞こえるロードノイズとの相関が高くなり、より高い精度でロードノイズを低減することができる。
【0011】
前記タイヤを支持するナックルに設けられた加速度センサを備え、前記周波数変換部は、前記加速度センサで検出された加速度情報をデジタル信号にし、当該デジタル信号を周波数領域の周波数の領域に変換し、前記制御信号生成部は、前記空洞共鳴音に基づく信号及び前記加速度情報に基づく信号であって、前記周波数変換部で周波数の領域に変換された信号に基づいて前記制御信号を生成してもよい。このように、系統が異なる複数の情報(空洞共鳴音と加速度情報)を用いることで、車室内で聞こえるロードノイズとの相関が高くなり、より高い精度でロードノイズを低減することができる。
【0012】
前記制御信号生成部を有する信号処理ユニットと、前記第1マイクロホンとは無線により接続されていてもよい。最も路面に近い位置で早期に空洞共鳴音を取得するため、信号処理ユニットにおける遅延時間に余裕ができ、信号処理ユニットの処理能力を削減することができる。また、信号処理ユニットへの信号入力が遅延しても、アクティブノイズ制御でロードノイズを低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、タイヤ自体の振動を参照して車室に伝わるロードノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ロードノイズ低減装置1が設けられた車両100を模式的に示す図である。
【
図2】マイクロホン23の設置形態の概略を示す図である。
【
図3】音声データの一例であり、(A)はマイクロホン23で取得された音であり、(B)は空洞共鳴音が車室101に伝わった音である。
【
図4】ロードノイズ低減装置1の機能構成の概略を示すブロック図である。
【
図5】ロードノイズ低減装置2の機能構成の概略を示すブロック図である。
【
図6】ロードノイズ低減装置3が設けられた車両100を模式的に示す図である。
【
図7】加速度センサ24aの設置形態の概略を示す図である。
【
図8】ロードノイズ低減装置3の機能構成の概略を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るロードノイズ低減装置、ロードノイズ低減方法及びロードノイズ低減プログラムの実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。本発明に係るロードノイズ低減装置、ロードノイズ低減方法及びロードノイズ低減プログラムは、アクティブノイズ制御(ANC、Active Noise Controller)を用いてロードノイズを低減する。
【0016】
なお、ロードノイズとは、自動車の走行中にタイヤが路面と回転接触するときに、路面の凸凹でタイヤが加振されることによって発生する車内騒音である。また、ANCとは、騒音をマイクロホンで検出し、振幅が同一で逆位相となる制御音をスピーカから出力することによって騒音を打ち消す手法である。
【0017】
図1は、第1の実施の形態に係るロードノイズ低減装置1が設けられた車両100を模式的に示す図である。ロードノイズ低減装置1は、車両100に設けられたマイクロホン21、23、スピーカ22等を備える。
【0018】
図1において、Pは騒音源(エンジン)からマイクロホン21までの伝達関数(一次経路)であり、Sはスピーカ22からからマイクロホン21までの伝達関数(二次経路)である。また、Wは、位相と振幅を調整する適応フィルタ(adaptive filter)である。
【0019】
マイクロホン21(本発明の第2マイクロホンに相当)及びスピーカ22は、車両100の車室101内に設けられている。特に、マイクロホン21は車室101の天井に設けることが望ましい。また、マイクロホン23(本発明の第1マイクロホンに相当)は、タイヤ102に空気を注入するバルブに設けられている。
【0020】
図2は、マイクロホン23の設置形態の概略を示す図である。なお、
図2では、断面を示すハッチングを一部省略する。タイヤ102は、主として、リム103と、リム103を覆うゴム製のタイヤ本体105と、リム103に設けられたバルブ104とを有する。バルブ104は、タイヤ102、すなわちリム103とタイヤ本体105との間の空間に空気を注入するのに用いられ、バルブステム104aとバルブコア104bを有する。タイヤ102に空気を注入するときには、バルブコア104bはバルブステム104aの奥に押し込まれ、空気を注入していないときには、バルブコア104bはバルブステム104aの先端側に移動し、バルブステム104aの中空部を塞ぐ。
【0021】
バルブステム104aの先端には、マイクユニット29が設けられている。マイクユニット29には、マイクロホン23が設けられている。また、マイクユニット29は雌ねじ29aを有し、雌ねじ29aがバルブステム104aの先端側の外周面に設けられた雄ねじ(図示省略)に螺合することで、マイクユニット29がバルブステム104aに設けられる。その結果、マイクロホン23がバルブ104に設けられる。
【0022】
バルブ104の中空部はバルブコア104bにより塞がれているが、マイクロホン23はバルブコア104bを介してタイヤ102内部で発生する空洞共鳴音を取得することができる。空洞共鳴音とは、タイヤ102の内部に存在する円環形状の空洞の中の空気が振動・共鳴して生じる音である。空洞共鳴音の周波数特性は、200Hz~300Hzあたりで急峻なピークが存在する。空洞共鳴音は減衰して車室101内に伝わり、これが乗員に不快感を与える。
【0023】
図3は、音声データの一例であり、音声データを水色で塗りつぶした折れ線で表示しており、横軸が周波数であり、縦軸が音の大きさを示す。
図3(A)はマイクロホン23で取得された音であり、
図3(B)は空洞共鳴音が車室101に伝わった音である。
図3(A)に示すように、220Hzあたりにピークがあるタイヤの空洞共鳴音がマイクロホン23できれいに取得されている。また、
図3(A)に示す音の周波数特性と、
図3(B)に示す周波数特性は類似しており、空洞共鳴音は減衰して車室101内に伝わっていることが分かる。
【0024】
図1の説明に戻る。ロードノイズ低減装置1は、マイクロホン23からタイヤの空洞共鳴音を取得し、この空洞共鳴音に基づいて制御信号を生成してスピーカ22から出力する。その結果、マイクロホン21には、空洞共鳴音は減衰して車室101内に伝わった音と、スピーカ22から出力された音とが入力される。そして、ロードノイズ低減装置1は、マイクロホン21で検出される音が小さくなるように、適応フィルタWにより参照信号の位相と振幅を調整する。
【0025】
ロードノイズ低減装置1は、例えば、車両100内の通信端末等(例えば、車載装置)に搭載される専用ボードとして構築されてもよい。また、ロードノイズ低減装置1は、例えば、主として、情報処理を実行するためのCPU(Central Processing Unit)などの演算装置、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶装置を含むコンピュータシステム及びソフトウエア(アクティブノイズ制御プログラム)によって構成されてもよい。アクティブノイズ制御プログラムは、コンピュータ等の機器に内蔵されている記憶媒体としてのSSDや、CPUを有するマイクロコンピュータ内のROM等に予め記憶しておき、そこからコンピュータにインストールしてもよい。また、アクティブノイズ制御プログラムは、半導体メモリ、メモリカード、光ディスク、光磁気ディスク、磁気ディスク等のリムーバブル記憶媒体に、一時的あるいは永続的に格納(記憶)しておいてもよい。
【0026】
図4は、ロードノイズ低減装置1の機能構成の概略を示すブロック図である。ロードノイズ低減装置1は信号処理ユニット10を有し、信号処理ユニット10はマイクロホン21、23及びスピーカ22と接続されている。信号処理ユニット10とマイクロホン21及びスピーカ22とは、無線又は有線により接続されている。信号処理ユニット10とマイクロホン23とは無線により接続されている。なお、無線での接続形態は任意の手法を用いることができる。
【0027】
信号処理ユニット10は、機能的には、主として、周波数変換部11と、制御信号生成部13と、スピーカアンプ15と、を有する。なお、ロードノイズ低減装置1の機能構成要素は、処理内容に応じてさらに多くの構成要素に分類されてもよいし、1つの構成要素が複数の構成要素の処理を実行してもよい。
【0028】
周波数変換部11は、マイクロホン23で収音された空洞共鳴音を参照信号として取得し、取得した空洞共鳴音をデジタル信号に変換し、デジタル信号をフーリエ変換等により周波数の領域に変換する機能部である。
【0029】
制御信号生成部13は、周波数変換部11において周波数の領域に変換された信号に基づいて制御信号を生成する機能部であり、制御信号を生成する適応フィルタを有する。制御信号生成部13は、マイクロホン21で収音された誤差信号が最小になるように適応フィルタを逐次的に更新する。なお、誤差信号とは、スピーカ22から出力された相殺音とロードノイズとの干渉による残留騒音である。
【0030】
図1に示すように、空洞共鳴音をXとすると、車室101内のロードノイズはPXで表される。また、スピーカ22から出力される音はSWXで表される。マイクロホン21で収音される誤差信号Eは、これらの総和であり、(SW+P)Xで表される。制御信号生成部13は、誤差信号Eを最小化するように、適応フィルタWをW=-P/Sを用いて算出する。
【0031】
W=-P/Sは、事前に算出できず、かつ、刻々と変化するため、本実施の形態では、FxNLMSフィルタ(Filtered-x Normalized least mean squares filter)をベースにして適応フィルタの更新を行う。なお、適応フィルタ及びその更新は既に公知の技術を用いることができるため、詳細な説明を省略する。
【0032】
図4の説明に戻る。制御信号生成部13は、周波数変換部11で周波数の領域に変換された参照信号に、更新された後の適応フィルタ係数を積算することにより、制御信号を生成する。さらに、制御信号生成部13は、生成した制御信号をスピーカアンプ15に出力する。スピーカアンプ15は、制御信号を増幅してスピーカ22に出力する。これにより、スピーカ22からロードノイズを相殺する相殺音が出力される。なお、スピーカアンプ15は必須ではない。
【0033】
本実施の形態によれば、マイクロホン23でタイヤ102の空洞共鳴音を収音することで、タイヤ102自体の振動の情報を直接取得することができる。そして、路面から入力される振動を最も路面に近い位置(タイヤ102)で早期に検出し、これを参照してアクティブノイズ制御をすることでロードノイズを低減することができる。
【0034】
また、本実施の形態によれば、最も路面に近い位置(タイヤ102)で早期に空洞共鳴音を取得するため、信号処理ユニット10における遅延時間に余裕ができ、信号処理ユニット10の処理能力を削減することができる。また、信号処理ユニット10とマイクロホン23とを無線で接続することにより信号処理ユニット10への信号入力が遅延しても、アクティブノイズ制御でロードノイズを低減することができる。
【0035】
なお、本実施の形態では、周波数変換部11はマイクロホン23で取得された空洞共鳴音をデジタル信号に変換した結果を参照信号としたが、参照信号の形態はこれに限られない。例えば、マイクロホン23で取得された空洞共鳴音をフーリエ変換等により周波数の領域に変換し、特定の周波数(例えば、200Hz~300Hz)の信号を増幅し、これを時間の領域に変換した結果を参照信号としてもよい。
【0036】
<第2の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態では、車両100が有する4個のタイヤのうちの任意の1つ(
図1では左前輪)にマイクロホン23を設けたが、複数のタイヤにマイクロホンを設けてもよい。
【0037】
以下、第2の実施の形態に係るロードノイズ低減装置2について説明する。なお、第1の実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0038】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係るロードノイズ低減装置2の機能構成の概略を示すブロック図である。ロードノイズ低減装置2は信号処理ユニット10Aを有し、信号処理ユニット10Aはマイクロホン21、23A及びスピーカ22と接続されている。信号処理ユニット10Aとマイクロホン23Aとは無線により接続されている。
【0039】
信号処理ユニット10Aは、機能的には、主として、周波数変換部11Aと、制御信号生成部13Aと、スピーカアンプ15と、を有する。
【0040】
マイクロホン23Aは、4つのマイクロホン23a、23b、23c、23dを有する。マイクロホン23a、23b、23c、23dは、左前、右前、左後、右後のタイヤ102にそれぞれ設けられている。
【0041】
周波数変換部11Aは、マイクロホン23a、23b、23c、23dでそれぞれ収音された空洞共鳴音を参照信号として取得し、これらをデジタル信号に変換する機能部である。また、周波数変換部11Aは、4つの空洞共鳴音から生成されたデジタル信号をそれぞれ周波数の領域に変換する機能部である。具体的には、周波数変換部11Aは、マイクロホン23a、23b、23c、23dでそれぞれ収音された空洞共鳴音をそれぞれデジタル信号にする。そして、周波数変換部11Aは、4つのデジタル信号を、それぞれ、フーリエ変換等により周波数の領域に変換する。
【0042】
制御信号生成部13Aは、周波数変換部11Aにおいて周波数の領域に変換された複数(ここでは、4つ)の信号に基づいて制御信号を生成する機能部である。また、制御信号生成部13Aは、制御信号を生成する適応フィルタを有し、マイクロホン21で収音された誤差信号が最小になるように適応フィルタを逐次的に更新する。
【0043】
本実施の形態では、制御信号生成部13Aは、周波数の領域に変換された4つの信号のそれぞれに適応フィルタをかけ、これらの信号を組み合わせて制御信号を生成する。なお、制御信号生成部13Aが複数の信号から制御信号を生成する方法はこれに限られない。例えば、制御信号生成部13Aは、周波数の領域に変換された4つの信号の平均を求め、これに適応フィルタをかけて制御信号としてもよい。
【0044】
本実施の形態によれば、4つのタイヤ102自体の振動、すなわちマイクロホン23Aで取得したタイヤ102の空洞共鳴音を用いてアクティブノイズ制御を行うため、1つのタイヤ102の空洞共鳴音を用いてアクティブノイズ制御を行う場合に比べ、空洞共鳴音と車室101内で聞こえるロードノイズとの相関が高くなる。その結果、ロードノイズ低減装置2がより確実にロードノイズを低減することができる。
【0045】
なお、ロードノイズ低減装置2では4つのタイヤ102すべてにマイクロホン23a、23b、23c、23dを設けたが、必ずしも4つのタイヤ102すべてにマイクロホンを設ける必要はなく、2個のタイヤ102にマイクロホンが設けられていてもよい。ただし、マイクロホンの数が増えるほど空洞共鳴音と車室101内で聞こえるロードノイズとの相関が高くなるため、4つのタイヤ102すべてにマイクロホン23a、23b、23c、23dを設けることが望ましい。
【0046】
<第3の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態では、タイヤ102に設けたマイクロホン23で取得された空洞共鳴音を用いて参照信号を生成してアクティブノイズ制御を行ったが、参照信号を生成する基となる信号は空洞共鳴音のみに限定されない。
【0047】
以下、第3の実施の形態に係るロードノイズ低減装置3について説明する。なお、第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0048】
図6は、ロードノイズ低減装置3が設けられた車両100を模式的に示す図である。ロードノイズ低減装置3は、車両100に設けられたマイクロホン21、23A、スピーカ22、加速度センサ24等を備える。
【0049】
加速度センサ24は、4つの加速度センサ24a、24b、24c、24dを有する。マイクロホン23a、23b、23c、23d及び加速度センサ24a、24b、24c、24dは、左前、右前、左後、右後のタイヤ102にそれぞれ設けられている。
【0050】
図7は、加速度センサ24aの設置形態の概略を示す図である。タイヤ102には、ナックル111、ショックアブソーバ112、ロアアーム113、ドライブシャフト114等が設けられている。ナックル111は、タイヤ102を回転自在に支持する部材であり、タイヤ102の振動が直接伝達される。加速度センサ24aは、ナックル111に設けられている。
【0051】
なお、
図7では、加速度センサ24aを例に説明したが、加速度センサ24b、24c、24dについても同様にナックル111に設置される。
【0052】
図8は、ロードノイズ低減装置3の機能構成の概略を示すブロック図である。ロードノイズ低減装置3は信号処理ユニット10Bを有し、信号処理ユニット10Bはマイクロホン21、23A、スピーカ22及び加速度センサ24と接続されている。信号処理ユニット10Bと加速度センサ24とは無線又は有線により接続されている。
【0053】
信号処理ユニット10Bは、機能的には、主として、周波数変換部11Bと、制御信号生成部13Bと、スピーカアンプ15と、を有する。
【0054】
加速度センサ24a、24b、24c、24dは、3次元(直交3軸方向)の慣性運動を検出可能な3軸加速度センサである。加速度センサ24a、24b、24c、24dで検出された加速度情報は、アナログの電気信号として加速度センサ24から出力される。
【0055】
周波数変換部11Bは、マイクロホン23a、23b、23c、23dで得られた空洞共鳴音を参照信号として取得し、かつ、加速度センサ24a、24b、24c、24dで得られた加速度情報を参照信号として取得し、参照信号をデジタル信号に変換する機能部である。また、周波数変換部11Bは、4つの空洞共鳴音から生成したデジタル信号及び4つの加速度情報から生成したデジタル信号を周波数の領域に変換する機能部である。
【0056】
具体的には、周波数変換部11Bは、マイクロホン23a、23b、23c、23dでそれぞれ収音された空洞共鳴音をそれぞれデジタル信号にする。そして、周波数変換部11Bは、空洞共鳴音に基づいた4つのデジタル信号をそれぞれ周波数の領域に変換する。
【0057】
また、周波数変換部11Bは、加速度センサ24a、24b、24c、24dのX軸の加速度情報、Y軸の加速度情報、Z軸の加速度情報をそれぞれデジタル信号にする。そして、周波数変換部11Bは、加速度情報に基づいた12個のデジタル信号をそれぞれ周波数の領域に変換する。
【0058】
周波数の領域に変換された信号(空洞共鳴音に基づいた4つの信号及び加速度情報に基づいた12個の信号)は、周波数変換部11Bから制御信号生成部13Bに入力される。
【0059】
制御信号生成部13Bは、周波数変換部11Aにおいて周波数の領域に変換された複数(ここでは、16個)の信号に基づいて制御信号を生成する機能部である。また、制御信号生成部13Bは、制御信号を生成する適応フィルタを有し、マイクロホン21で収音された誤差信号が最小になるように適応フィルタを逐次的に更新する。
【0060】
本実施の形態では、制御信号生成部13Bは、周波数の領域に変換された16個の信号のそれぞれに適応フィルタをかける。そして、制御信号生成部13Bは、参照信号の大きさに基づいて各信号の重み付けを適宜変えながら制御信号を生成する。
【0061】
なお、制御信号生成部13Bが複数の信号から制御信号を生成する方法はこれに限られない。例えば、制御信号生成部13Bは、周波数の領域に変換された16個の信号の平均を求め、これに適応フィルタをかけて制御信号としてもよい。
【0062】
本実施の形態によれば、タイヤ102自体の振動、すなわちマイクロホン23Aで取得したタイヤ102の空洞共鳴音に加えて、タイヤ102から車両に固体伝播される振動、すなわち加速度センサ24の測定結果を用いてアクティブノイズ制御を行うため、タイヤ102の空洞共鳴音のみを用いてアクティブノイズ制御を行う場合に比べ、マイクロホン23A及び加速度センサ24の測定結果と車室101内で聞こえるロードノイズとの相関が高くなる。その結果、ロードノイズ低減装置2がより確実にロードノイズを低減することができる。
【0063】
なお、本実施の形態では、4つのタイヤ102のそれぞれにマイクロホン23a、23b、23c、23d及び加速度センサ24a、24b、24c、24dを設けたが、マイクロホン及び加速度センサの数はこれに限られない。例えば、任意の1個(例えば、左前)のタイヤ102にのみマイクロホン及び加速度センサを設けてもよいし、前輪の2つのタイヤ102にのみマイクロホン及び加速度センサを設けてもよい。
【0064】
また、マイクロホンの数と加速度センサの数は一致していなくてもよい。例えば、任意の1個のタイヤ102にのみマイクロホンを設け、4つのタイヤ102すべてに加速度センサを設けてもよいし、4つのタイヤ102すべてにマイクロホンを設け、任意の1個のタイヤ102にのみに加速度センサを設けてもよい。
【0065】
ただし、車室101内に伝わる騒音との相関を高くするためには、マイクロホン及び加速度センサが設けられるタイヤ102の数をできるだけ多くすることが望ましい。
【0066】
また、本実施の形態では、加速度センサ24は3軸センサであったが、加速度センサ24は1軸や2軸の加速度センサであってもよい。ただし、車室101内に伝わる騒音との相関を高くするためには、3軸の加速度センサを加速度センサ24に用いることが望ましい。
【0067】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1、2、3:ロードノイズ低減装置
10、10A、10B:信号処理ユニット
11、11A、11B:周波数変換部
13、13A、13B:制御信号生成部
15 :スピーカアンプ
21、23、23A、23a、23b、23c、23d:マイクロホン
22 :スピーカ
24、24a、24b、24c、24d:加速度センサ
29 :マイクユニット
29a :雌ねじ
100 :車両
101 :車室
102 :タイヤ
103 :リム
104 :バルブ
104a :バルブステム
104b :バルブコア
105 :タイヤ本体
111 :ナックル
112 :ショックアブソーバ
113 :ロアアーム
114 :ドライブシャフト