(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ドラム式洗濯機
(51)【国際特許分類】
D06F 33/76 20200101AFI20240815BHJP
D06F 33/60 20200101ALI20240815BHJP
D06F 103/26 20200101ALN20240815BHJP
【FI】
D06F33/76
D06F33/60
D06F103:26
(21)【出願番号】P 2021135869
(22)【出願日】2021-08-23
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金内 優
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 真理
(72)【発明者】
【氏名】井村 真
【審査官】大内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/039836(WO,A1)
【文献】特開2015-100638(JP,A)
【文献】特開2018-023625(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111910393(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0125095(US,A1)
【文献】特開2014-079487(JP,A)
【文献】特開2010-125251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 33/48
D06F 33/60
D06F 33/76
D06F 34/16
D06F 103/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に4つの防振部材を含む部材により支持され、内部に液体を貯溜可能な外槽と、
前記外槽の内部に設けられた回転可能なドラムと、
前記外槽に設置され、振動の変位を検出する振動検出手段と、
制御手段とを備え、
前記制御手段は、
脱水動作における前記ドラムの回転速度の上昇過程において、
前記外槽の上下変位が所定の第1閾値より大きい場合には、同相アンバランスと判定し、
前記外槽の上下変位が前記所定の第1閾値より小さい場合には、対向アンバランスまたはバランスと判定
し、
前記同相アンバランスと判定された場合に、前記外槽の左右変位が所定の第2閾値より大きい場合にはアンバランスと判定し、
前記対向アンバランスまたはバランスと判定された場合に、前記外槽の前後変位が所定の第2閾値より大きい場合にはアンバランスと判定する
ことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
筐体と、
前記筐体内に4つの防振部材を含む部材により支持され、内部に液体を貯溜可能な外槽と、
前記外槽の内部に設けられた回転可能なドラムと、
前記外槽に設置され、振動の変位を検出する振動検出手段と、
制御手段とを備え、
前記制御手段は、
脱水動作における前記ドラムの回転速度の上昇過程において、
前記外槽の上下変位の変化率が所定の第1閾値より大きい場合には、同相アンバランスと判定し、
前記外槽の上下変位の変化率が前記所定の第1閾値より小さい場合には、対向アンバランスまたはバランスと判定
し、
前記同相アンバランスと判定された場合に、前記外槽の左右変位が所定の第2閾値より大きい場合にはアンバランスと判定し、
前記対向アンバランスまたはバランスと判定された場合に、前記外槽の前後変位が所定の第2閾値より大きい場合にはアンバランスと判定する
ことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項3】
筐体と、
前記筐体内に4つの防振部材を含む部材により支持され、内部に液体を貯溜可能な外槽と、
前記外槽の内部に設けられた回転可能なドラムと、
前記外槽に設置され、振動の変位を検出する振動検出手段と、
制御手段とを備え、
前記制御手段は、
脱水動作における前記ドラムの回転速度の上昇過程において、
前記外槽の上下変位が所定の第1閾値より大きい場合には、同相アンバランスと判定し、
前記外槽の上下変位が前記所定の第1閾値より小さい場合には、対向アンバランスまたはバランスと判定
し、
前記同相アンバランスと判定された場合に、前記外槽の前後変位が所定の第2閾値より大きい場合にはアンバランスと判定し、
前記対向アンバランスまたはバランスと判定された場合に、前記外槽の左右変位が所定の第2閾値より大きい場合にはアンバランスと判定する
ことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項4】
筐体と、
前記筐体内に4つの防振部材を含む部材により支持され、内部に液体を貯溜可能な外槽と、
前記外槽の内部に設けられた回転可能なドラムと、
前記外槽に設置され、振動の変位を検出する振動検出手段と、
制御手段とを備え、
前記制御手段は、
脱水動作における前記ドラムの回転速度の上昇過程において、
前記外槽の上下変位の変化率が所定の第1閾値より大きい場合には、同相アンバランスと判定し、
前記外槽の上下変位の変化率が前記所定の第1閾値より小さい場合には、対向アンバランスまたはバランスと判定
し、
前記同相アンバランスと判定された場合に、前記外槽の前後変位が所定の第2閾値より大きい場合にはアンバランスと判定し、
前記対向アンバランスまたはバランスと判定された場合に、前記外槽の左右変位が所定の第2閾値より大きい場合にはアンバランスと判定する
ことを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項5】
前記制御手段は、
アンバランスと判定されず、前記ドラムの回転速度が所定の回転速度閾値より低い場合には、前記同相アンバランスか、前記対向アンバランスまたは前記バランスかの判定を再び行う
ことを特徴とする請求項
1~4の何れか1項に記載のドラム式洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯および脱水を行うドラム式洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野に属するドラム式洗濯乾燥機として、特許文献1に記載のドラム式洗濯機がある。特許文献1のドラム式洗濯機は、水槽ユニット(外槽)を2つの防振ダンパ(サスペンション、防振部材)により重心Gの位置より正面側寄りの下方で支持した構成である。この構成で、前前後方向(FFR)、前左右方向(FLR)、前上下方向(FUD)に係る複数方向の振動成分の出力信号FFR,FLR,FUDに基づき、洗濯およびすすぎ工程後の脱水動作における回転ドラムの回転数の上昇過程で、所定の回転速度R1,R2地点(R1<R2)での前前後方向の振動成分に係る出力信号FFRと前上下方向の振動成分に係る出力信号FLRの大小関係が所定の回転速度R1ではFFR>FUDでかつ所定の回転速度R2ではFFR<FUDであれば後アンバランスと判定し、後のアンバランス異常に対応すると記載されている(明細書段落0019参照)。なお、アンバランスとは、回転ドラム内で衣類が片寄っている状態のことであり、回転ドラムが回転したときに振動する原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、洗濯容量の大容量化が市場トレンドとなっている。大容量化する際、洗濯機の設置性や運搬性を損なわないように、洗濯機の本体寸法は維持しまま大容量化する必要がある。本体寸法を維持したまま大容量化のために外槽の寸法を拡大すると、本体と外槽との隙間が小さくなり、外槽が大きく振動した際に外槽と本体とが衝突しやすくなる。
外槽の振動を低減するために外槽にサスペンションを4本備えて、外槽の振動低減を行うことが考えられる。サスペンション2本とサスペンション4本とでは、衣類の片寄りで発生するアンバランスで外槽の振動状態が異なる。このため、サスペンションの本数に合わせた外槽振動の検知が必要となる。
【0005】
しかしながら特許文献1のドラム式洗濯機では、サスペンション2本の振動検知については記載されているが、大容量化に伴うサスペンションの本数変更による外槽振動の変化についての記載がない。また、アンバランスの判定は、後アンバランスは検出できているが、外槽が前後に振動する対向アンバランスの振動検知についての記載がない。対向アンバランスの振動検知ができないと、高速回転時に弾性部材が破損する恐れがある。さらに、対向アンバランスが検知できないと、後アンバランスと対向アンバランスとを誤検知して、脱水が完了せずに運転が終了する恐れがある。
【0006】
本発明はこのような背景を鑑みてなされたものであり、外槽を4本の防振部材で支持する場合におけるアンバランスの検知精度が高いドラム式洗濯機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するため、本発明に係るドラム式洗濯機は、筐体と、前記筐体内に4つの防振部材を含む部材により支持され、内部に液体を貯溜可能な外槽と、前記外槽の内部に設けられた回転可能なドラムと、前記外槽に設置され、振動の変位を検出する振動検出手段と、制御手段とを備え、前記制御手段は、脱水動作における前記ドラムの回転速度の上昇過程において、前記外槽の上下変位が所定の第1閾値より大きい場合には、同相アンバランスと判定し、前記外槽の上下変位が前記所定の第1閾値より小さい場合には、対向アンバランスまたはバランスと判定し、前記同相アンバランスと判定された場合に、前記外槽の左右変位が所定の第2閾値より大きい場合にはアンバランスと判定し、前記対向アンバランスまたはバランスと判定された場合に、前記外槽の前後変位が所定の第2閾値より大きい場合にはアンバランスと判定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外槽を4本の防振部材で支持する場合におけるアンバランスの検知精度が高いドラム式洗濯機を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るドラム式洗濯機の外観図である。
【
図2】本実施形態に係るドラム式洗濯機を右側面側から見た断面図である。
【
図3】従来のドラム式洗濯機において、ドラムの後側に錘1000gがあるときの同相アンバランスにおける外槽の前後変位のグラフ、およびドラムの前側と後側にそれぞれに錘600gがあるときの対向アンバランスにおける外槽の前後変位のグラフを示す。
【
図4】本実施形態に係るドラム式洗濯機において、ドラムの後側に錘1000gがあるときの同相アンバランスにおける外槽の前後変位のグラフ、およびドラムの前側と後側にそれぞれに錘600gがあるときの対向アンバランスにおける外槽の前後変位のグラフを示す。
【
図5】本実施形態のドラム式洗濯機における同相アンバランス(ドラムの後側に錘1000g)における前後変位のグラフ、上下変位のグラフ、および左右変位のグラフを示す。
【
図6】本実施形態のドラム式洗濯機における対向アンバランス(ドラムの前側と後側にそれぞれ錘600g)における前後変位のグラフ、上下変位のグラフ、および左右変位のグラフを示す。
【
図7】本実施形態に係る脱水工程におけるアンバランス判定処理のフローチャートである。
【
図8】本実施形態の変形例に係る脱水工程におけるアンバランス判定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪ドラム式洗濯機の概要≫
本実施形態におけるドラム式洗濯機の外槽は、4本のサスペンションで支持される。ドラム式洗濯機の制御手段は、外槽の上下変位の大きさに基づいて同相アンバランスが発生しているか否かを判定する。同相アンバランスと判定された場合に制御手段は、外槽の左右変位の大きさに基づいてアンバランスの有無を判定する。同相アンバランスが発生していない場合に制御手段は、外槽の前後変位(前後方向の変位)の大きさに基づいてアンバランスの有無を判定する。
【0011】
このようにすることで、サスペンションを4本にした場合に、後アンバランスと対向アンバランスの検知精度を高めることできる。延いては高速回転時の弾性部材の破損防止や脱水が完了せずに運転が終了することを防ぐことができるようになる。
なおアンバランスの大きさ(アンバランス量)について、本来は衣類の片寄り具合を示す数値であるが、実際の計測が難しい。このため、アンバランス量を外槽の振動変位で示す場合がある。
【0012】
≪ドラム式洗濯機の外観≫
図1は、本実施形態に係るドラム式洗濯機100の外観図である。ドラム式洗濯機100の外郭を構成する筐体101は、左右の側板101A、前面カバー101B、背面カバー101C(後記する
図2参照)、上面カバー101D、下ステー111(
図2参照)を含んで構成される。なお、
図1では右の側板101Aのみを図示しており、左の側板101Aは右の側板と同様に形成されている。
【0013】
側板101Aは、側板101A自体の剛性、さらには筐体101の剛性を高めるため、側板101Aの板面に凹凸を形成する絞り106が設けられている。また、筐体101は側板101Aと背面カバー101Cと補強部材とで構成された外枠(不図示)により、十分な強度を有している。筐体101を構成する上面カバー101Dには、水道栓からドラム式洗濯機100に給水するための給水ホース接続口130が設けられている。
【0014】
ドア102は、前面カバー101Bのほぼ中央に設けられ、衣類を出し入れするための投入口(不図示)を塞ぐためのものである。ドア102は、前面カバー101Bに設けられたヒンジ(不図示)で開閉可能に支持されている。ドア102は、ドア開放取手102Aを引くことでロック機構(不図示)が外れて開き、前面カバー101Bに押し付けられることでロック機構がロックされて閉じる。前面カバー101Bは、前ステー(不図示)の開口部、および外槽117(
図2参照)の開口部117Aとほぼ同心に、衣類を出し入れするための円形の開口部101BA(
図2参照)を有している。
【0015】
筐体101の上部に設けられた操作・表示パネル103は、電源スイッチ、操作スイッチ、および表示パネルを備える。操作・表示パネル103は、筐体101の内部に備えられている制御装置113(
図2参照)に電気的に接続している。
【0016】
≪ドラム式洗濯機の内部構成≫
図2は、本実施形態に係るドラム式洗濯機100を右側面側から見た断面図である。
図2を参照しながら、ドラム式洗濯機100の内部構成を説明する。外枠は側板101A、背面カバー101C、上ステー107、前上ステー(不図示)、前ステー(不図示)、下前ステー(不図示)、および下ステー111を含んで構成される。上述した補強部材は、上ステー107、前上ステー、前ステー、下前ステー、および下ステー111を含んで構成される。
【0017】
筐体101の内部には、水を溜める外槽117が備えられる。外槽117の下部は、下ステー111の前側の左右に固定された2本のサスペンション126Aと、下ステー111の後側の左右に固定された2本のサスペンション126Bとの合計4本のサスペンション(防振部材)で防振支持されている。外槽117の上部は懸架装置112(例えばコイルバネ)で上ステー107と接続されることで、外槽117が外枠に吊り下げられた状態で支持される。
外槽117は、衣類を収納するためのドラム121を内包する。外槽117の後方には、ドラム121を回転させるためのモータ122が配置される。モータ122は、回転軸となるシャフト122Aが外槽117を貫通し、ドラム121と結合されている。
【0018】
制御装置113(制御手段)は、外槽117に備えられた振動センサ128の測定値を取得して、モータ122の回転速度(rpm)を制御する。制御装置113は、脱水工程時にドラム121の投入した衣類のアンバランスによって、外槽117の振動振幅(変位)が所定の閾値を超えると、脱水工程を一時停止して、ドラム121を正転および逆転させる(ほぐし動作)。ドラム121の正転および逆転により衣類のアンバランスが修正されると、制御装置113は脱水工程のやり直しを行う(リトライ)。
【0019】
モータ122が駆動すると、ドラム121は正転(ドラム式洗濯機100を正面から見て時計回り)および逆転の両方向に回転駆動される。ドラム121の回転軸線Azは、ドラム式洗濯機100の前方から後方に向けて水平または、後方が下になるように傾斜している。
図2では後方が下になるように傾斜した状態を示している。
【0020】
ドラム121には、ドラム121内の洗濯水を外槽117に排水するための複数個の脱水孔121Bが設けられるとともに、その内周面に複数個(
図2では1つのみを図示)のバッフル123が設けられている。複数個のバッフル123はドラム121の周方向に間隔をおいて設けられ、ドラム121の前後方向に延在している。バッフル123は、ドラム121の回転に伴ってドラム121内に投入された衣類を持ち上げる。
【0021】
ドラム121の前端(前面側)には、円筒状の流体バランサ121Cが設けられている。外槽117は、前方を開口として、後方を閉じた有底のほぼ円筒を形成している。この外槽117の開口部117Aと筐体101の投入口とは、前後方向に伸縮しやすいベローズ119により接続される。ベローズ119は、環状の弾性部材で成形され、ドア102を閉めることでドラム121を水封する。また、筐体101の投入口、外槽117の開口部117A、およびドラム121の開口部は連通しており、ドア102を開くことでドラム121内への衣類の出し入れが可能となる。なお、外槽117は、開口部117Aを含む側と、モータ122の取り付けられる側とに分割することができる。
【0022】
給水ホース接続口130の下部には、給水弁131が配置されている。給水弁131には、外槽117に給水するための給水ホース132の一端が接続されている。給水弁131の弁を開くことで、給水ホース接続口130から給水ホース132に水が流れて、洗剤容器133を介して外槽117内に給水される。
外槽117の下部に備えられた排水ホース134の排水経路には、排水弁134Aが設けられる。排水弁134Aを閉じると外槽117内に給水した水が外槽117内に溜まり、排水弁134Aを開くと、外槽117内の洗濯水が排水ホース134からドラム式洗濯機100の機外に排水される。
【0023】
≪ドラム式洗濯機の動作概要≫
利用者が操作・表示パネル103にある電源スイッチを押すことで、ドラム式洗濯機100が起動する。次に利用者は、ドア開放取手102Aを引き、ドア102を開いてドラム121内に衣類を投入する。続いて利用者は、ドア102を閉じた後に操作・表示パネル103にある操作スイッチを操作して運転開始を指示する。
【0024】
運転開始が指示されると制御装置113は、ドラム121を回転させて注水前の衣類容量を算出する。衣類容量は、モータ122を回転させたときのモータ122の電流値に基づいて算出される。衣類容量が多い程、モータ122に負荷が加わり電流値が大きくなるので、電流値に基づいて衣類容量を判定することができる。制御装置113は、衣類容量に基づいて洗剤量を操作・表示パネル103に表示する。このとき、算出した衣類容量が多い程、投入する洗剤量も多くなる。利用者は、操作・表示パネル103の表示を確認して、洗剤容器133内に所定量の洗剤量を投入する。その後、制御装置113は洗い工程を開始する。
【0025】
洗い工程では、制御装置113は給水弁131を開き、給水ホース接続口130から供給された水を給水ホース132および洗剤容器133を介して、洗剤と共に外槽117内に供給する。このとき、算出した衣類容量が多い程、給水量が多くなる。この動作を所定時間実行した後、制御装置113はドラム121を正転、停止、逆転、停止を繰り返す洗い動作を所定時間行う。このとき、衣類がバッフル123によって持ち上げられて落下する動作が繰り返されることで衣類の洗浄力が高められる。
【0026】
洗い工程の後、制御装置113は脱水工程を実行する。脱水工程で制御装置113は、始めにドラム121に衣類が張り付かない低速回転でドラム121を回転させる。低速回転では、洗い工程で水を含んだ衣類がドラム121の回転時にバッフル123によって持ち上げられ、衣類が落下する際にドラム121の内周面に広げられる。衣類が広がり始めたら、制御装置113はドラム121の回転速度を徐々に上昇させて、ドラム121に衣類を張り付ける。ドラム121に衣類が張り付くと、ドラム121の回転速度を上昇させて、外槽117の振動が増加する外槽117の共振回転速度域を通過させながら、目標回転速度まで到達させて、衣類に含まれる水を遠心脱水していく。
【0027】
脱水工程の後、制御装置113はすすぎ工程を実行する。すすぎ工程では、給水弁131を開いて、給水ホース接続口130から供給された水を給水ホース132および洗剤容器133を介して、外槽117内に供給する。洗い工程と同様に、衣類容量が多い程、給水量が多くなる。すすぎ工程では、洗い工程と同様に、ドラム121の正転、停止、逆転、停止の動作を繰り返す。このとき、バッフル123によって持ち上げられた衣類が落下する攪拌動作を所定時間行う。
【0028】
その後、制御装置113は脱水工程およびすすぎ工程を所定回数繰り返し、最終脱水工程に移行する。この最終脱水工程における目標回転速度区間における運転時間は、前記脱水工程より長く設定される。
最終脱水工程の後、制御装置113は乾燥工程を実行する。乾燥工程のドラム121の回転速度は、洗い工程時よりもさらに低速に設定される。乾燥工程ではドラム121を低速で回転させながら、送風ユニット(図示せず)からドラム121内の衣類に温風を吹き付けて、衣類のシワを低減しながら衣類を乾燥させる。
【0029】
≪従来のドラム式洗濯機におけるアンバランス判定≫
次に、外槽117に備えた振動センサ128によるアンバランス判定に関する例を説明する。脱水工程において制御装置113は、ドラム121の回転速度を段階的に上昇させて、外槽117の振動が増加する共振回転速度域を通過し、目標回転速度まで到達させる。外槽117の共振回転速度域では、外槽117の振動を振動センサ128で検知し、制御装置113はアンバランス判定を行いながらドラム121の回転速度を上昇させる。外槽117の共振回転速度域で、外槽117の振動(振動振幅)が予め設定した閾値よりも小さい場合には、制御装置113は目標回転速度に向けてドラム121の回転速度を上昇させる。外槽117の共振回転速度域で、外槽117の振動が前記した閾値よりも大きい場合には、制御装置113はドラム121の回転を停止して、リトライ(ほぐし動作)を行う。
【0030】
アンバランスは、同相アンバランスと対向アンバランスに分けられる。同相アンバランスは、ドラム121の前側、後側のいずれか一カ所に衣類が片寄っている場合に発生する。対向アンバランスは、ドラム121の前側と後側とに衣類が片寄っている場合に発生する。対向アンバランスは、外槽117の前側と後側とに衣類が片寄っているため、外槽117に偶力が発生して、目標回転速度で同相アンバランスよりも外槽117が前後に振動しやすくなり、ベローズ119が破損しやすい。これを避けるため、外槽117の共振回転速度域を通過するときのアンバランスを検知するための振動振幅の閾値について、対向アンバランスの閾値が同相アンバランスの閾値よりも小さく設定される。
【0031】
従来のドラム式洗濯機では、2本のサスペンションが外槽のほぼ中心付近に備えられている。サスペンションおよび外槽のほぼ中心から離れた位置に衣類が片寄りアンバランスが発生すると、外槽の共振回転速度域で前後変位が大きくなる。従来のドラム式洗濯機では同相アンバランスと対向アンバランスともに外槽のほぼ中心でサスペンションの位置から離れた位置に衣類が片寄りアンバランスとなる。すると、外槽の共振回転速度域で、外槽が前後方向に共振した際の変位が大きくなる。
【0032】
図3は、従来のドラム式洗濯機において、ドラムの後側に錘1000gがあるときの同相アンバランスにおける外槽の前後変位のグラフ211、およびドラムの前側と後側にそれぞれに錘600gがあるときの対向アンバランスにおける外槽の前後変位のグラフ212を示す。従来のドラム式洗濯機では、300rpm付近で外槽の前後方向の共振回転速度域を通過する。この際、同相アンバランスと対向アンバランスとにおける変位の最大値は同程度となる。したがって、従来のドラム式洗濯機では300rpm付近で前後変位の閾値を設定することで、同相アンバランスおよび対向アンバランスの許容アンバランス量を設定できる。
【0033】
なお、
図3や後記する
図4などの縦軸の「変位(mmP-P)」は、縦軸が両振幅(Peak to Peak)のミリメートル単位の数値であることを示している。もちろん、縦軸が片振幅(0-Peak)の数値であってもよいし、制御に活用できるのであれば、その他の数値であってもよい。
【0034】
≪従来のドラム式洗濯機のアンバランス判定の問題点≫
図4は、本実施形態に係るドラム式洗濯機100において、ドラム121の後側に錘1000gがあるときの同相アンバランスにおける外槽117の前後変位のグラフ221、およびドラム121の前側と後側にそれぞれに錘600gがあるときの対向アンバランスにおける外槽117の前後変位のグラフ222を示す。本実施形態に係るドラム式洗濯機100は、ドラム121の大容量化を行うために外槽117の前後にサスペンション126A,126Bを4本備える防振構造となる。
【0035】
同相アンバランスは、衣類の片寄りが外槽117のほぼ中心から前側または後側に距離が離れているため、外槽117に偶力が発生する。対向アンバランスについては、外槽117の前側と後側にサスペンション126A,126Bが備わるため、同相アンバランスよりも外槽117の前後方向の振動を抑制することができる。したがって、外槽117の前後変位は、同相アンバランスが対向アンバランスよりも大きくなる。つまりは、2本のサスペンションによる防振構造と比べて4本のサスペンション126A,126Bによる防振構造では、前後変位が同相アンバランスと対向アンバランスとで大きく異なる。
【0036】
4本のサスペンション126A,126Bを備えるドラム式洗濯機100において従来のドラム式洗濯機と同様に300rpm付近で前後変位の閾値を設定するとする。同相アンバランスを基準に閾値を設定すると、対向アンバランスの前後変位が許容アンバランス量を超えることになる。このため、目標回転速度における外槽117の前後変位が大きくなり、ベローズ119が破損してしまう。
【0037】
一方、対向アンバランスを基準に閾値を設定すると、同相アンバランスの許容アンバランス量が小さくなる。目標回転速度における前後変位が許容できるようなアンバランスであっても閾値を超えてしまい、ドラム式洗濯機100はリトライを繰り返し、運転時間の増加、脱水せずに終了する虞がある。
【0038】
以上に説明したように、2本のサスペンションによる防振構造と同様のアンバランス判定は、4本のサスペンション126A,126Bによる防振構造には適用できない。4本のサスペンション126A,126Bによる防振構造では、2本のサスペンションによる防振構造と異なり、同相アンバランスと対向アンバランスとを区別して閾値を設定する。
【0039】
≪本実施形態に係るアンバランス判定≫
図5は、本実施形態のドラム式洗濯機100における同相アンバランス(ドラム121の後側に錘1000g)における前後変位のグラフ231、上下変位のグラフ232、および左右変位のグラフ233を示す。グラフ221,231は、同相アンバランスの前後変位のグラフである。
図6は、本実施形態のドラム式洗濯機100における対向アンバランス(ドラム121の前側と後側にそれぞれ錘600g)における前後変位のグラフ241、上下変位のグラフ242、および左右変位のグラフ243を示す。グラフ222,241は、対向アンバランスの前後変位のグラフである。
【0040】
同相アンバランスと対向アンバランスとは、300rpm付近で、外槽117の共振回転速度域を通過するため、左右と前後の変位が大きくなる。同相アンバランスと対向アンバランスとでは、上下方向の変位が大きくなるドラム121の回転速度が異なる。同相アンバランスでは、300rpm~400rpmで外槽117の上下方向の変位が大きくなる(グラフ232参照)。対向アンバランスでは、200rpm~300rpmで外槽117の上下方向の変位が大きくなる(グラフ242参照)。
【0041】
外槽117の上下方向の振動について、同相アンバランスでは懸架装置112を引っ張りながら振動するのに対して、対向アンバランスでは懸架装置112よりもばね定数が低いベローズ119を引っ張りながら外槽117が上下方向に振動する。一般的にばね定数が高いほど、上下変位が大きくなる回転速度が高くなる。つまりは、同相アンバランスと対向アンバランスとで外槽117の上下方向の変位が大きくなるドラム121の回転速度が異なる。このため、回転速度が300rpm付近での上下変位の大きさを見ることで、同相アンバランスと対向アンバランスとを区別することができる。また、300rpm付近での上下変位が上昇しているか下降しているかを見ることで、同相アンバランスと対向アンバランスとを区別することができる。
【0042】
≪アンバランス判定処理≫
図7は、本実施形態に係る脱水工程におけるアンバランス判定処理のフローチャートである。なお以下では、ドラム121の回転速度を単に回転速度と記す。
ステップS11において制御装置113は、回転速度を300rpmまで上げる。
【0043】
ステップS12において制御装置113は、回転速度が300rpm付近での上下変位が所定の閾値以上であれば(ステップS12→YES)ステップS15に進み、当該閾値未満であれば(ステップS12→NO)ステップS13に進む。ステップS15に進むのは同相アンバランスの場合、ステップS13に進むのは対向アンバランスないしはバランスの場合である。なお、制御装置113は、回転速度が300rpm付近での回転速度上昇に対する上下変位の変化率が所定の閾値以上であればステップS15に進み、当該閾値未満であればステップS13に進んでもよい。
なお、ここでの上下変位における「所定の閾値」や上下変位の変化率における「所定の閾値」(第1閾値)は、例えばドラム式洗濯機の機種ごとに定められる、ミリメートル単位やパーセント単位の値であるものとする。
【0044】
ステップS13において制御装置113は、前後変位が所定の閾値以上であれば(ステップS13→YES)ステップS16に進み、当該閾値未満であれば(ステップS13→NO)ステップS14に進む。
ステップS14において制御装置113は、回転速度を目標回転速度まで上げて所定時間継続して、脱水を行う。
ステップS15において制御装置113は、左右変位が所定の閾値以上であれば(ステップS15→YES)ステップS16に進み、当該閾値未満であれば(ステップS15→NO)ステップS14に進む。
【0045】
ステップS16において制御装置113は、ドラム121の回転を停止する。
ステップS17において制御装置113は、ほぐし動作を実行してステップS11に戻る(リトライ)。
【0046】
≪アンバランス判定処理の特徴≫
ドラム式洗濯機100は、回転速度が300rpm付近での外槽117の上下変位を用いて同相アンバランスと対向アンバランス(バランスを含む)とを判別(ステップS12参照)した後に、アンバランスが発生しているか否かを判定(ステップS13,S15参照)している。このようにすることで制御装置113は、同相アンバランスおよび対向アンバランスの当否の判定(変位の方向と閾値)を適正化して、共振回転速度域を通過するときのアンバランス量である通過アンバランス量を適正化することができる。延いては目標回転速度での外槽117の前後変位が過大となることを防止し、ベローズ119の破損を防ぐことができる。また、通過アンバランス量を適正化することでドラム式洗濯機100は、リトライ回数の増加を抑制でき、運転時間の増加防止と脱水完了せずに運転が終了することを防止できる。なお本実施形態に示したアンバランス判定処理は、ドラム式洗濯乾燥機にも適用できる。
【0047】
≪変形例:水抜けを考慮したアンバランス判定処理≫
衣類から水が抜けた場合に、同相アンバランスが対向アンバランスに、または対向アンバランスが同相アンバランスに変化する場合がある。水抜けを考慮したアンバランス判定処理を以下に説明する。
【0048】
図8は、本実施形態の変形例に係る脱水工程におけるアンバランス判定処理のフローチャートである。
ステップS34,S35を除くS31~S39は、
図7記載のS11~S17とそれぞれ同様である。以下ではステップS34,S35を説明する。
【0049】
ステップS34において制御装置113は、回転速度を上げる。
ステップS35において制御装置113は、回転速度が400rpmに到達すればステップS36(ステップS35→YES)に進み、未到達ならば(ステップS35→NO)ステップS32に戻りアンバランス判定を繰り返す。
【0050】
このように、回転速度が300rpm~400rpmの間にアンバランス判定を繰り返すことで、水抜けにより同相アンバランスが対向アンバランスに、または対向アンバランスが同相アンバランスに変化した場合であっても、同相アンバランスおよび対向アンバランスの当否の判定を適正化して、通過アンバランス量を適正化することができる。
【0051】
≪変形例:同相/対向アンバランス判定後のアンバランス判定処理≫
上記した実施形態において制御装置113は、同相アンバランスの判定後は左右変位(ステップS15)で、対向アンバランスの判定後は前後変位(ステップS13参照)でアンバランスを判定している。これに替えて制御装置113は、同相アンバランスの判定後は前後変位で、対向アンバランスの判定後は左右変位でアンバランスを判定してもよい。
【0052】
≪その他の変形例≫
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
100 ドラム式洗濯機
101 筐体
113 制御装置(制御手段)
117 外槽
121 ドラム
126A,126B サスペンション(防振部材)
128 振動センサ(振動検出手段)