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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】物標検出装置および物標検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/52 20060101AFI20240815BHJP
   G01S 15/42 20060101ALI20240815BHJP
   G01S 15/96 20060101ALI20240815BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
G01S7/52 E
G01S15/42
G01S15/96
G01S7/02 216
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021536614
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2020018145
(87)【国際公開番号】W WO2021019858
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019142342
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】西森 靖
(72)【発明者】
【氏名】淺田 泰暢
(72)【発明者】
【氏名】谷村 真弥
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-337171(JP,A)
【文献】特開2003-315447(JP,A)
【文献】特開平07-218619(JP,A)
【文献】国際公開第99/034234(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0139044(US,A1)
【文献】特開2019-113379(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0315229(US,A1)
【文献】米国特許第03916407(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 7/52- 7/64,
G01S 13/00-13/95,
G01S 15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標検出装置において、
第1送信信号を生成する第1送信信号生成部と、
前記第1送信信号を送信波に変換し、一方向に並んで配置された複数の第1送波素子を有する第1送波アレイと、
前記第1送信信号を前記第1送波アレイ内の1つの前記第1送波素子に供給する第1信号切替部と、
第2送信信号を生成する第2送信信号生成部と、
前記第2送信信号を送信波に変換する複数の第2送波素子を有する第2送波アレイと、
前記第2送信信号を前記第2送波アレイ内の1つの前記第2送波素子に供給する第2信号切替部と、
前記第1信号切替部を制御して、前記第1送信信号が供給される前記第1送波素子を、第1タイミングにおいて第1素子から第2素子に切り替え、前記第2信号切替部を制御して、前記第2送信信号が供給される前記第2送波素子を、前記第1タイミング後のタイミングにおいて第1素子から第2素子に切り替える制御部と、
物標における前記送信波の反射により生じる反射波を受波して前記反射波を受信信号に変換する少なくとも1つの受波素子を含む受波アレイと、
前記受信信号の周波数成分に基づいて、同じ周波数に対応する等周波数面からの前記反射波に基づく等周波数受信信号を抽出する受信信号処理部と、を備える、物標検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物標検出装置において、
前記第1送波アレイ内において前記第2素子が前記第1素子と隣り合っている、物標検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の物標検出装置において、
前記制御部は、前記第1信号切替部を制御して、前記第1送信信号が供給される前記第1送波素子を、前記第1タイミング後の第2タイミングにおいて、前記第2素子から前記第2素子に隣り合う第3素子に切り替える、物標検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記第1送信信号のキャリアが単一周波数である、物標検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記第1送信信号のキャリアは変調された信号である、物標検出装置。
【請求項6】
請求項1に記載の物標検出装置において、
前記複数の第1送波素子は、複数のグループにグループ化され、前記各グループでは複数の前記第1送波素子が接続され、
前記第1信号切替部は、前記第1送波アレイ内の1つの前記グループに前記第1送信信号を供給する構成を備え、
前記制御部は、前記第1信号切替部を制御して、前記第1送信信号が供給される前記グループを、前記第1タイミングにおいて第1グループから第2グループに切り替える、物標検出装置。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記第2送波アレイ内において前記第2素子が前記第1素子と隣り合っており、
前記第1送波アレイの前記第1素子は前記第2送波アレイの前記第1素子と隣り合っている、物標検出装置。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記第2送信信号のキャリアが単一周波数である、物標検出装置。
【請求項9】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記第2送信信号のキャリアは変調された信号である、物標検出装置。
【請求項10】
請求項ないしの何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記第1送信信号生成部は、前記第1送信信号の振幅を変調し、
前記第2送信信号生成部は、前記第2送信信号の振幅を変調する、物標検出装置。
【請求項11】
請求項ないし10の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記第2送信信号のキャリアの周波数は、前記第1送信信号のキャリアの周波数と同じである、物標検出装置。
【請求項12】
請求項1ないし11の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記受信信号処理部は、
互いに異なる周波数でそれぞれ抽出される複数の周波数成分を前記受信信号から抽出することにより、各周波数に対応する前記等周波数面の前記等周波数受信信号を取得する、物標検出装置。
【請求項13】
請求項1ないし11の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記受信信号処理部は、
前記受信信号の周波数スペクトルを算出し、
前記周波数スペクトルに基づいて、各周波数に対応する前記等周波数面の前記等周波数受信信号を取得する、物標検出装置。
【請求項14】
請求項1ないし13の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記受波アレイは、複数の受波素子を含み、
前記受信信号処理部は、前記各受波素子から生じる受信信号に基づいてビームフォーミングを実行し、前記ビームフォーミングに基づいて、前記物標からの前記反射波の到来方向を算出する、物標検出装置。
【請求項15】
請求項1ないし14の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記受波アレイは、複数の受波素子を含み、
前記受波アレイは、前記第1送波アレイと異なり、
前記各受波素子から生じる受信信号に基づいて生成される受信ビームが、前記第1送波アレイにより生成される送信ビームと交差する、物標検出装置。
【請求項16】
請求項1ないし15の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記物標検出装置は、水中の物標を検出するソナーである、物標検出装置。
【請求項17】
請求項1ないし15の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記物標検出装置は、空中の物標を検出するレーダである、物標検出装置。
【請求項18】
物標検出装置において、
第1送信信号を生成する第1送信信号生成部と、
前記第1送信信号を送信波に変換し、一方向に並んで配置された複数の第1送波素子を有する第1送波アレイと、
前記第1送信信号を前記第1送波アレイ内の1つの前記第1送波素子に供給する第1信号切替部と、
前記第1信号切替部を制御して、前記第1送信信号が供給される前記第1送波素子を、第1タイミングにおいて第1素子から第2素子に切り替える制御部と、
物標における前記送信波の反射により生じる反射波を受波して前記反射波を受信信号に変換する少なくとも1つの受波素子を含む受波アレイと、
前記受信信号の周波数成分に基づいて、同じ周波数に対応する等周波数面からの前記反射波に基づく等周波数受信信号を抽出する受信信号処理部と、を備え、
第1シーケンスにおいて、前記第1信号切替部は、開始素子と終了素子との間の前記複数の第1送波素子に、前記第1シーケンスの進行に伴い前記第1送信信号を前記終了素子へと向かって連続的に供給することにより、前記第1送信信号を供給し、
前記第1シーケンスに続く第2シーケンスにおいて、前記第1信号切替部は、前記開始素子と前記終了素子との間の前記複数の第1送波素子に、前記第2シーケンスの進行に伴い前記第1送信信号を前記終了素子へと向かって連続的に供給することにより、前記第1送信信号を供給する、物標検出装置。
【請求項19】
請求項18に記載の物標検出装置において、
前記制御部は、前記第1シーケンスの後、前記第2シーケンスの前に、前記開始素子および前記終了素子の位置を入れ替える、物標検出装置。
【請求項20】
請求項1ないし19の何れか一項に記載の物標検出装置において、
前記第1素子は、前記第1送信信号の第1部分が供給され、
前記第2素子は、前記第1部分とは異なる前記第1送信信号の第2部分が供給される、物標検出装置。
【請求項21】
物標検出方法において、
第1送信信号を生成し、
一方向に並ぶ複数の第1送波素子を有する第1送波アレイ内の第1素子から第2素子へと前記第1送信信号の供給を切り替えて送信波を送波し、
第2送信信号を生成し、
前記第1送波アレイにおける前記第1送信信号の供給の切り替えタイミング後のタイミングにおいて、一方向に並ぶ複数の第2送波素子を有する第2送波アレイ内の第1素子から第2素子へと前記第2送信信号の供給を切り替えて送信波を送波し、
物標における前記送信波の反射により生じる反射波を少なくとも1つの受波素子で受波して前記反射波を受信信号に変換し、
前記受信信号の周波数成分に基づいて、同じ周波数に対応する等周波数面からの前記反射波に基づく等周波数受信信号を抽出する、物標検出方法。
【請求項22】
物標検出方法において、
送信信号を生成し、
一方向に並ぶ複数の送波素子を有する送波アレイ内の第1素子から第2素子へと前記送信信号の供給を切り替えて送信波を送波し、
物標における前記送信波の反射により生じる反射波を少なくとも1つの受波素子で受波して前記反射波を受信信号に変換し、
前記受信信号の周波数成分に基づいて、同じ周波数に対応する等周波数面からの前記反射波に基づく等周波数受信信号を抽出し、
第1シーケンスにおいて、開始素子と終了素子との間の前記複数の送波素子に、前記第1シーケンスの進行に伴い前記送信信号を前記終了素子へと向かって連続的に供給することにより、前記送信信号を供給し、
前記第1シーケンスに続く第2シーケンスにおいて、前記開始素子と前記終了素子との間の前記複数の送波素子に、前記第2シーケンスの進行に伴い前記送信信号を前記終了素子へと向かって連続的に供給することにより、前記送信信号を供給する、物標検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信波を送波し、その反射波に基づいて、物標を検出する物標検出装置および物標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送信波を送波し、その反射波に基づいて、物標を検出する物標検出装置が知られている。この種の物標検出装置では、たとえば、送受波用の素子が2次元状に配置された送受波アレイを用いて、物標が検出される。たとえば、送受波アレイの中央の素子を用いて送信波が送波され、送受波アレイの全ての素子を用いて反射波が受波される。受波時には、全ての素子に対する位相制御により、様々な方向に受信ビームが形成され、方向ごとに受信信号が生成される。各方向の受信信号を処理することにより、方向ごとに物標が検出される。
【0003】
特許文献1には、この種の物標検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第7355924号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構成の物標検出装置では、送受波アレイの素子数が多く、また、送信チャンネル数および受信チャンネル数も多くなるため、物標検出装置の構成が複雑化し、また、コストを低減させることが困難である。
【0006】
かかる課題に鑑み、本発明は、簡易な構成により迅速に物標を検出することが可能な物標検出装置および物標検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、物標検出装置に関する。この態様に係る物標検出装置は、第1送信信号を生成する第1送信信号生成部と、前記第1送信信号を送信波に変換する複数の第1送波素子を有する第1送波アレイと、前記第1送信信号を前記第1送波アレイ内の1つの前記第1送波素子に供給する第1信号切替部と、第2送信信号を生成する第2送信信号生成部と、前記第2送信信号を送信波に変換する複数の第2送波素子を有する第2送波アレイと、前記第2送信信号を前記第2送波アレイ内の1つの前記第2送波素子に供給する第2信号切替部と、前記第1信号切替部を制御して、前記第1送信信号が供給される前記第1送波素子を、第1タイミングにおいて第1素子から第2素子に切り替え、前記第2信号切替部を制御して、前記第2送信信号が供給される前記第2送波素子を、前記第1タイミング後のタイミングにおいて第1素子から第2素子に切り替える制御部と、物標における前記送信波の反射により生じる反射波を受波して前記反射波を受信信号に変換する少なくとも1つの受波素子を含む受波アレイと、前記受信信号の周波数成分に基づいて、同じ周波数に対応する等周波数面からの前記反射波に基づく等周波数受信信号を抽出する受信信号処理部と、を備える。
【0008】
第1の態様に係る物標検出装置によれば、第1送信信号が供給される第1送波素子が、第1送波アレイ内において第1素子から第2素子へと切り替えられることにより、送信波の送波源が第1送波素子の並び方向に移動する。これにより、送信ビームの周波数が、ドップラー効果により、送波した方向に応じて変化し、送信ビームに複数の等周波数面(周波数が均一の面)が形成される。したがって、受波素子から生じる受信信号から各等周波数面に応じた周波数成分を抽出することにより、各等周波数面からの反射波に基づく受信信号を得ることができる。このように、第1の態様に係る物標検出装置によれば、第1送信信号が供給される第1送波素子を第1送波アレイ内で切り替えて送波源を移動させることにより、観測対象の全ての等周波数面に対する受信信号を同時に生成できる。よって、簡易な構成により迅速に物標を検出することができる。また、第1送信信号と第2送信信号とを調整することにより、送信波に不要な周波数成分が重畳されることを抑制できる。よって、受信信号に基づく処理をより精度良く行うことができる。
【0009】
第1の態様に係る物標検出装置は、前記第1送波アレイ内において前記第2素子が前記第1素子と隣り合うよう構成され得る。
【0010】
また、第1送波アレイに含まれる第1送波素子が3つ以上の場合、前記制御部は、前記第1信号切替部を制御して、前記第1送信信号が供給される前記第1送波素子を、前記第1タイミング後の第2タイミングにおいて、前記第2素子から前記第2素子に隣り合う第3素子に切り替えるよう構成され得る。
【0011】
この構成によれば、隣り合う第1送波素子に第1送信信号が順番に供給されるため、送信波の送波源を第1送波素子の並び方向に細かく移動させることができる。よって、ドップラー効果による周波数の変化を滑らかに生じさせることができる。
【0012】
第1の態様に係る物標検出装置において、前記第1送信信号のキャリアは単一周波数に設定され得る。
【0013】
また、第1の態様に係る物標検出装置において、前記第1送信信号のキャリアは変調された信号であってもよい。
【0014】
第1の態様に係る物標検出装置において、前記複数の第1送波素子は、複数のグループにグループ化され、前記各グループでは複数の前記第1送波素子が接続され、前記第1信号切替部は、前記第1送波アレイ内の1つの前記グループに前記第1送信信号を供給する構成を備え、前記制御部は、前記第1信号切替部を制御して、前記第1送信信号が供給される前記グループを、前記第1タイミングにおいて第1グループから第2グループに切り替えるよう構成され得る。
【0015】
この構成によれば、グループごとに送信波が送波されるため、送信波の出力を高めることができる。また、グループ間で送信信号の供給が切り替えられるため、送信波の送波源を移動させることができる。よって、ドップラー効果によって、送信ビームに周波数の変化を生じさせることができる。
【0018】
第1の態様に係る物標検出装置において、前記第2送波アレイ内において前記第2素子が前記第1素子と隣り合っており、前記第1送波アレイの前記第1素子は前記第2送波アレイの前記第1素子と隣り合っていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、第1送信信号に基づく送信波の送波源が第1送波アレイ内の第1素子から第2素子へと移動する間に、第1素子から第2素子の間の位置において、第2送信信号に基づく送信波が第2送波アレイ内の第1素子から送波される。これにより、送信波の連続性が維持され易くなる。よって、送信波に不要な周波数成分が重畳されることを抑制できる。
【0020】
第1の態様に係る物標検出装置において、前記第2送信信号のキャリアは単一周波数に設定され得る。
【0021】
また、第1の態様に係る物標検出装置において、前記第2送信信号のキャリアは変調された信号であってもよい。
【0022】
第1の態様に係る物標検出装置において、前記第1送信信号生成部は、前記第1送信信号の振幅を変調し、前記第2送信信号生成部は、前記第2送信信号の振幅を変調するよう構成され得る。
【0023】
このように、第1送信信号の振幅と第2送信信号の振幅とを変調することにより、送信波に不要な周波数成分が重畳されることを、より効果的に抑制できる。よって、各等周波数面に対する受信信号の品質を高めることができる。
【0024】
第1の態様に係る物標検出装置において、前記第2送信信号のキャリアの周波数は、前記第1送信信号のキャリアの周波数と同じに設定され得る。
【0028】
この構成において、前記受信信号処理部は、互いに異なる周波数でそれぞれ抽出される複数の周波数成分を前記受信信号から抽出することにより、各周波数に対応する前記等周波数面の前記等周波数受信信号を取得するよう構成され得る。
【0029】
あるいは、この構成において、前記受信信号処理部は、前記受信信号の周波数スペクトルを算出し、前記周波数スペクトルに基づいて、各周波数に対応する前記等周波数面の前記等周波数受信信号を取得するよう構成され得る。
【0030】
第1の態様に係る物標検出装置において、前記受波アレイは、複数の受波素子を含み、前記受信信号処理部は、前記各受波素子から生じる受信信号に基づいてビームフォーミングを実行し、前記ビームフォーミングに基づいて、前記物標からの前記反射波の到来方向を算出するよう構成され得る。
【0031】
第1の態様に係る物標検出装置において、前記受波アレイは、複数の受波素子を含み、前記受波アレイは、前記第1送波アレイと異なり、前記各受波素子から生じる受信信号に基づいて生成される受信ビームが、前記第1送波アレイにより生成される送信ビームと交差するよう構成され得る。
【0032】
この構成によれば、受信ビームと送信ビーム(等周波数面)とが交差する範囲において、反射波の強度に基づく強度データの分布を算出できる。よって、ビームフォーミングにより受信ビームの指向方向を検知範囲内で変化させることにより、検知範囲に3次元状に分布する強度データを構成できる。
【0033】
第1の態様に係る物標検出装置は、たとえば、水中の物標を検出するソナーである。
【0034】
あるいは、第1の態様に係る物標検出装置は、空中の物標を検出するレーダであってもよい。
【0035】
本発明の第2の態様は、物標検出装置に関する。この態様に係る物標検出装置は、第1送信信号を生成する第1送信信号生成部と、前記第1送信信号を送信波に変換し、一方向に並んで配置された複数の第1送波素子を有する第1送波アレイと、前記第1送信信号を前記第1送波アレイ内の1つの前記第1送波素子に供給する第1信号切替部と、前記第1信号切替部を制御して、前記第1送信信号が供給される前記第1送波素子を、第1タイミングにおいて第1素子から第2素子に切り替える制御部と、物標における前記送信波の反射により生じる反射波を受波して前記反射波を受信信号に変換する少なくとも1つの受波素子を含む受波アレイと、前記受信信号の周波数成分に基づいて、同じ周波数に対応する等周波数面からの前記反射波に基づく等周波数受信信号を抽出する受信信号処理部と、を備える。前記第1信号切替部は、第1シーケンスにおいて、開始素子と終了素子との間の前記複数の第1送波素子に、前記第1シーケンスの進行に伴い前記第1送信信号を前記終了素子へと向かって連続的に供給することにより、前記第1送信信号を供給するよう制御される。また、前記第1信号切替部は、前記第1シーケンスに続く第2シーケンスにおいて、前記開始素子と前記終了素子との間の前記複数の第1送波素子に、前記第2シーケンスの進行に伴い前記第1送信信号を前記終了素子へと向かって連続的に供給することにより、前記第1送信信号を供給するよう制御され得る。
【0036】
第2の態様に係る物標検出装置によれば、上記第1の態様と同様、第1送信信号が供給される第1送波素子を第1送波アレイ内で切り替えて送波源を移動させることにより、観測対象の全ての等周波数面に対する受信信号を同時に生成できる。よって、簡易な構成により迅速に物標を検出することができる。また、第1送信信号が供給される第1送波素子が繰り返しスキャンされて1検出単位の送波がなされる。これにより、1検出単位の送信エネルギーを高めることができる。よって、物標を検出可能な探知距離をより広げることができる。
【0037】
この構成において、前記制御部は、前記第1シーケンスの後、前記第2シーケンスの前に、前記開始素子および前記終了素子の位置を入れ替えるよう構成されてもよい。
【0038】
この構成によれば、シーケンスごとに複数の第1送波素子に対するスキャンの方向が反転される。これにより、送信エネルギーを高めることができる。
【0039】
また、第1の態様に係る物標検出装置において、前記第1素子は、前記第1送信信号の第1部分が供給され、前記第2素子は、前記第1部分とは異なる前記第1送信信号の第2部分が供給される。たとえば、第1送信信号としてチャープ信号等が供給される場合、上記のように、第1素子と第2素子とに供給される信号の部分が相違し得る。
【0040】
本発明の第の態様は、物標検出方法に関する。この態様に係る物標検出方法は、第1送信信号を生成し、一方向に並ぶ複数の第1送波素子を有する第1送波アレイ内の第1素子から第2素子へと前記第1送信信号の供給を切り替えて送信波を送波し、第2送信信号を生成し、前記第1送波アレイにおける前記第1送信信号の供給の切り替えタイミング後のタイミングにおいて、一方向に並ぶ複数の第2送波素子を有する第2送波アレイ内の第1素子から第2素子へと前記第2送信信号の供給を切り替えて送信波を送波し、物標における前記送信波の反射により生じる反射波を少なくとも1つの受波素子で受波して前記反射波を受信信号に変換し、前記受信信号の周波数成分に基づいて、同じ周波数に対応する等周波数面からの前記反射波に基づく等周波数受信信号を抽出する。
【0041】
の態様に係る物標検出方法によれば、上記第1の態様と同様の効果が奏され得る。
本発明の第4の態様は、物標検出方法に関する。この態様に係る物標検出方法は、送信信号を生成し、一方向に並ぶ複数の送波素子を有する送波アレイ内の第1素子から第2素子へと前記送信信号の供給を切り替えて送信波を送波し、物標における前記送信波の反射により生じる反射波を少なくとも1つの受波素子で受波して前記反射波を受信信号に変換し、前記受信信号の周波数成分に基づいて、同じ周波数に対応する等周波数面からの前記反射波に基づく等周波数受信信号を抽出し、第1シーケンスにおいて、開始素子と終了素子との間の前記複数の送波素子に、前記第1シーケンスの進行に伴い前記送信信号を前記終了素子へと向かって連続的に供給することにより、前記送信信号を供給し、前記第1シーケンスに続く第2シーケンスにおいて、前記開始素子と前記終了素子との間の前記複数の送波素子に、前記第2シーケンスの進行に伴い前記送信信号を前記終了素子へと向かって連続的に供給することにより、前記送信信号を供給する。
第4の態様に係る物標検出方法によれば、上記第2の態様と同様の効果が奏され得る。
【発明の効果】
【0042】
以上のとおり、本発明によれば、簡易な構成により迅速に物標を検出することが可能な物標検出装置および物標検出方法を提供することができる。
【0043】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1(a)は、参考例に係る、送波系の構成を示す図である。図1(b)は、実施形態に係る、送波源を移動させるための構成例を示す図である。
図2図2(a)は、実施形態に係る、上側観測位置における送信波の合成波形をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。図2(b)は、実施形態に係る、正面観測位置における送信波の合成波形をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。図2(c)は、実施形態に係る、下側観測位置における送信波の合成波形をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
図3図3(a)は、実施形態に係る、上側観測位置における送信波の合成波形の周波数スペクトルをシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。図3(b)は、実施形態に係る、正面観測位置における送信波の合成波形の周波数スペクトルをシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。図3(c)は、実施形態に係る、下側観測位置における送信波の合成波形の周波数スペクトルをシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
図4図4は、実施形態に係る、不要な周波数成分を除去するための構成例を示す図である。
図5図5(a)は、実施形態に係る、上側観測位置における3つの送信波の状態をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。図5(b)は、実施形態に係る、図5(a)の3つの送信波を合成した合成波形をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
図6図6(a)は、実施形態に係る、正面観測位置における3つの送信波の状態をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。図6(b)は、実施形態に係る、図6(a)の3つの送信波を合成した合成波形をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
図7図7(a)は、実施形態に係る、下側観測位置における3つの送信波の状態をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。図7(b)は、実施形態に係る、図7(a)の3つの送信波を合成した合成波形をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
図8図8(a)は、図5(b)の合成波形の周波数スペクトルをシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。図8(b)は、図6(b)の合成波形の周波数スペクトルをシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。図8(c)は、図7(b)の合成波形の周波数スペクトルをシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
図9図9は、実施形態に係る、等周波数面をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
図10図10は、実施形態に係る、送受波系の構成例を模式的に示す図である。
図11図11は、実施形態に係る、物標検出装置1の具体的構成を示すブロック図である。
図12図12(a)は、実施形態に係る、受信信号処理部133の構成例を示す機能ブロック図である。図12(b)は、実施形態に係る、受信信号処理部133の他の構成例を示す機能ブロック図である。
図13図13(a)は、実施形態に係る、第1送波アレイから送信波を送波する場合の処理を示すフローチャートである。図13(b)は、実施形態に係る、第2送波アレイから送信波を送波する場合の処理を示すフローチャートである。図13(c)は、実施形態に係る、受信信号を処理して検出画像を表示する処理を示すフローチャートである。
図14図14は、実施形態に係る、物標検知装置が水中の物標を検知するソナーとして用いられる場合の構成を模式的に示す図である。
図15図15(a)は、変更例に係る、第1送波アレイおよび第2送波アレイの構成を示す図である。図15(b)は、他の変更例に係る、送波アレイおよび信号切替部の構成を示す図である。
図16図16は、第2実施形態に係る、送波アレイに対し複数回スキャンが行われた場合の音場の状態を模式的に示す図である。
図17図17(a)は、第2実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を3D等高線表示により示す図である。図17(b)は、第2実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を3D鳥瞰図により示す図である。
図18図18(a)は、第3実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を3D等高線表示により示す図である。図18(b)は、第3実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を3D鳥瞰図により示す図である。
図19図19(a)は、第4実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を3D等高線表示により示す図である。図19(b)は、第4実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を3D鳥瞰図により示す図である。
図20図20(a)は、第5実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を3D等高線表示により示す図である。図20(b)は、第5実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を3D鳥瞰図により示す図である。
図21図21(a)は、第5実施形態に係る、方位0°の自己相関関数を示すグラフである。図21(b)は、図21(a)のグラフにおいて、1~4000μsecの領域を拡大して示して示すグラフである。図21(c)は、第5実施形態に係る、方位7°の自己相関関数を示すグラフである。図21(d)は、図21(c)のグラフにおいて、1~4000μsecの領域を拡大して示して示すグラフである。
図22図22(a)は、第5実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を3D等高線表示により示す図である。図22(b)は、第5実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を3D鳥瞰図により示す図である。
図23図23(a)は、第5実施形態に係る、方位2°の自己相関関数を示すグラフである。図23(b)は、図23(a)のグラフにおいて、1~4000μsecの領域を拡大して示して示すグラフである。図23(c)は、第5実施形態に係る、方位16°の自己相関関数を示すグラフである。図23(d)は、図23(c)のグラフにおいて、1~4000μsecの領域を拡大して示して示すグラフである。
図24図24は、第6実施形態に係る、送波アレイに対し複数回往復スキャンが行われた場合の音場の状態を模式的に示す図である。
図25図25は、第6実施形態に係る、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0046】
<基本構成>
まず、本実施形態に係る物標検出装置の送受波系の基本構成について説明する。
【0047】
図1(a)は、参考例に係る送波系の構成を示す図である。
【0048】
図1(a)の構成では、送波源R1に送信信号S1が供給され、送波源R1から送信波が送波される。送信信号S1のキャリア周波数は一定値f0である。この状態で送波源R1を移動方向D1に移動させると、送波源R1から所定距離離れた観測位置において観測される送信波にドップラー効果に基づく周波数の変化が生じる。すなわち、送波源R1と観測位置との距離が十分に大きい場合、移動範囲の中間位置に対して正面方向にある観測
位置(以下、「正面観測位置」という)では、ドップラー効果に基づく周波数の変化は生じず、送信信号S1と同様の周波数f0の送信波が生じる。これに対し、正面観測位置に対して移動方向と反対方向に変位した観測位置(以下、「上側観測位置」という)では、送波源R1が当該観測位置から離れる方向に移動するため、ドップラー効果により、送信信号S1から周波数が低減した周波数f0-fdの送信波が生じる。-fdは、ドップラー効果による送信信号S1の周波数f0に対する周波数の変化量である。また、正面観測位置に対して移動方向と同じ方向に変位した観測位置(以下、「下側観測位置」という)では、送波源R1が当該観測位置に接近する方向に移動するため、ドップラー効果により、送信信号S1から周波数が増加した周波数f0+fdの送信波が生じる。+fdは、ドップラー効果による送信信号S1の周波数f0に対する周波数の変化量である。
【0049】
このような周波数の変化は、正面観測位置に対する上側観測位置および下側観測位置の変位量が大きくなるほど大きい。すなわち、正面観測位置に対する俯角方向(移動方向D1と同じ方向)および仰角方向(移動方向D1と反対方向)の変位角の大きさに応じて、送信波の周波数が周波数f0から正方向および負方向に変化する。したがって、送信波の反射波を受波素子で受波した場合、受波素子から出力される受信信号の周波数成分によって、俯角および仰角の大きさを算出できる。換言すれば、受信信号から所定の周波数成分を抽出することにより、俯角方向および仰角方向の所定の角度位置の受信信号を取得できる。本実施形態では、この原理に基づいて、俯角方向および仰角方向の各角度位置における受信信号が取得される。
【0050】
図1(b)は、送波源R1を移動させるための構成例を示す図である。
【0051】
この構成例では、複数の送波素子10aが1列にならんで配置された送波アレイ10が用いられる。図1(b)では、便宜上、8つの送波素子10aが送波アレイ10に含まれているが、送波素子10aの数はこれに限られるものではない。図1(b)では、便宜上、上から順番に各送波素子10aに番号が付されている。
【0052】
この構成例では、各送波素子10aに対する送信信号S1の入力端子の接続が、信号切替部20によって切り替えられる。信号切替部20は、たとえば、デマルチプレクサにより構成される。ここでは、送信信号S1の供給先の送波素子10aが、上から順番に隣の送波素子10aへと切り替えられる。これにより、送信波の送波源がD1方向に移動する。この構成例によっても、図1(a)の場合と同様、各観測位置において、ドップラー効果に基づく周波数の変化が生じる。
【0053】
しかし、この構成例では、送波を行う送波素子10aの切り替えに基づき、上側観測位置および下側観測位置における送信波の連続性が切断される。図1(b)の右側の波形は、3つの観測位置における送信波の波形を示している。これら3つの観測位置は、図1(a)における3つの観測位置(上側観測位置、正面観測位置、下側観測位置)と同じである。TD1、TD2、TD3は、最上位置の送波素子10a、上から2番目の送波素子10aおよび上から3番目の送波素子10aによってそれぞれ送波された送信波を示している。
【0054】
図1(b)に示すように、正面観測位置の送信波は、ドップラー効果に基づく影響を受けないため、図1(a)の場合と同様、送信波TD1~TD3の連続性が確保される。これに対し、上側観測位置では、ドップラー効果により、送信波TD1~TD3の位相が遅れるため、送信波TD1~TD3が互いに離れてしまい、送信波TD1~TD3が離散的になる。また、下側観測位置では、ドップラー効果により、送信波TD1~TD3の位相が進むため、送信波TD1~TD3が互いに接近し、送信波TD1~TD3が離散的になる。
【0055】
このように、この構成例では、各観測位置の波形自体の周波数は、図1(a)の場合と同様、観測位置が正面観測位置から俯角方向および仰角方向に離れる伴い変化するが、各送波素子10aから送波された送信波が、上側観測位置および下側観測位置において離散的となるとの現象が生じる。このため、この構成例では、送信波が離散的になることによる不要な周波数成分が、送信波に生じてしまう。
【0056】
図2(a)~(c)は、図1(b)に示した3つの観測位置における送信波の合成波形をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【0057】
このシミュレーションでは、送波アレイ10に対する正面観測位置の離間距離を遠方界に設定した。また、正面観測位置に対して上側に30°変位させた位置を上側観測位置に設定し、正面観測位置に対して下側に30°変位させた位置を下側観測位置に設定した。図2(b)は、正面観測位置における送信波の波形であり、図2(a)、(c)は、それぞれ、上側観測位置および下側観測位置における送信波の波形である。各グラフにおいて、横軸はデータ点数であり、縦軸は送信波の振幅である。ここでは、各送波素子10aに数周期分の送信信号が供給されて送信波が送波される。送信信号の周波数f0は、150kHzに設定した。
【0058】
図2(b)に示すように、正面観測位置では、送信波TD1、TD2、TD3の連続性が確保される。これに対し、上側観測位置では、図2(a)に示すように、送信波TD1、TD2、TD3との間に、各波形が離れることによる平坦な波形部分が生じる。また、下側観測位置では、図2(c)に示すように、送信波TD1、TD2、TD3との間に、各波形が重なることによる急峻な振幅の波形部分が生じる。
【0059】
図3(a)~(c)は、図2(a)~(c)に示した3つの観測位置における合成波形の周波数スペクトルをシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。図3(b)は、正面観測位置における合成波形の周波数スペクトルを示し、図3(a)、(c)は、それぞれ、上側観測位置および下側観測位置における合成波形の周波数スペクトルを示している。
【0060】
図3(b)に示すように、正面観測位置の合成波形では、送信信号の周波数f0とである150kHz付近に大きな振幅のピークが生じる。しかしながら、図3(b)の周波数スペクトルでは、150kHz付近の正規の周波数の位置以外にも、広い範囲において振幅が生じている。
【0061】
また、図3(a)の上側観測位置における周波数スペクトルを参照すると、送信信号の周波数f0からドップラー効果により降下した周波数145kHz付近にピークが生じるものの、当該周波数以外の広い範囲において振幅が生じている。同様に、図3(c)の下側観測位置における周波数スペクトルを参照すると、送信信号の周波数f0からドップラー効果により上昇した周波数155kHz付近にピークが生じるものの、当該周波数以外の広い範囲において振幅が生じている。
【0062】
このように、上記構成例では、各観測位置において、ドップラー効果により生じるべき周波数以外の広い範囲の周波数において振幅が生じている。このような不要な周波数成分は、各観測位置における本来の反射波の計測にノイズとなるため、なるべく除去するのが好ましい。
【0063】
図4は、不要な周波数成分を除去するための構成例を示す図である。
【0064】
この構成例では、複数の第1送波素子11aが1列にならんで配置された第1送波アレイ11と、複数の第2送波素子12aが1列にならんで配置された第2送波アレイ12とが用いられる。図4では、便宜上、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12に、それぞれ4つの送波素子が含まれているが、送波素子の数はこれに限られるものではない。また、図4では、便宜上、第1送波素子11aと第2送波素子12aに対して、上から順番に番号が付されている。区別のため、第2送波素子12aには、ハッチングが付されている。
【0065】
この構成例では、隣り合う第1送波素子11aの間に第2送波素子12aが配置されている。複数の第1送波素子11aと複数の第2送波素子12aは、同一直線上に並んでいる。
【0066】
第1送波素子11aに対する第1送信信号S11の入力端子の接続が、第1信号切替部21によって切り替えられる。また、第2送波素子12aに対する第2送信信号S12の入力端子の接続が、第2信号切替部22によって切り替えられる。第1信号切替部21および第2信号切替部22は、たとえば、デマルチプレクサにより構成される。ここでは、第1送信信号S11の供給先の第1送波素子11aが、上から順番に隣の第1送波素子11aへと切り替えられる。また、第2送信信号S12の供給先の第2送波素子12aが、上から順番に隣の第2送波素子12aへと切り替えられる。
【0067】
1つの第1送波素子11aに対して第1送信信号S11が供給された後、第1送信信号S11の供給期間の半分が経過したタイミングで、当該第1送波素子11aに隣り合う第2送波素子12aに第2送信信号S12が供給される。すなわち、第1送信信号S11の供給タイミングと第2送信信号S12の供給タイミングとは、第1送信信号S11または第2送信信号S12の長さの半分だけずれている。これにより、送信波の送波源がD1方向に移動する。したがって、この構成例によっても、図1(a)の場合と同様、各観測位置において、ドップラー効果に基づく周波数の変化が生じる。
【0068】
この構成例では、第1送信信号S11のキャリア周波数および第2送信信号S12のキャリア周波数は、一定値かつ同一の値f0に設定されている。ただし、この構成例では、第1送信信号S11および第2送信信号S12が、所定の変調方法で変調されている。具体的には、各観測位置における合成波形に不要な周波数成分が生じないように、第1送信信号S11および第2送信信号S12の振幅が変調されている。振幅変調の手法として、三角窓関数に基づく手法やハニング窓関数に基づく手法が用いられ得る。
【0069】
図4の右側の波形は、3つの観測位置における送信波の波形を示している。これら3つの観測位置は、図1(b)における3つの観測位置(上側観測位置、正面観測位置、下側観測位置)と同じである。TD11、TD12は、第1送波アレイ11の上から1番目および2番目の位置の第1送波素子11aによってそれぞれ送波された送信波を示している。また、TD21、TD22は、第2送波アレイ12の上から1番目および2番目の位置の第2送波素子12aによってそれぞれ送波された送信波を示している。
【0070】
この構成例では、図1(b)の場合と同様、上側観測位置における送信波TD11、TD12とが互いに離れる。しかし、この離間部分に送信波TD21が介在するため、これらが合成された合成波形では、この部分に平坦な部分が生じず、平坦な部分に基づく不要な周波数成分が生じることが抑制される。
【0071】
また、この構成例では、図1(b)の場合と同様、下側観測位置における送信波TD11、TD12の一部が重なり合う。しかし、この重複部分に送信波TD21が介在するため、これらが合成された合成波形では、この部分に急峻な振幅部分が生じず、急峻な振幅
部分に基づく不要な周波数成分が生じることが抑制される。
【0072】
図5(a)は、上側観測位置における送信波TD11、TD12、TD21の状態をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。また、図5(b)は、図5(a)の送信波TD11、TD12、TD21を合成した合成波形をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【0073】
図5(a)、(b)の縦軸および横軸は、それぞれ、図2(a)の縦軸および横軸と同様である。上側観測位置は、図2(a)の場合と同様に設定されている。図5(a)において、送信波TD11、TD12は実線で示され、送信波TD21は破線で示されている。
【0074】
このシミュレーションでは、第1送信信号S11の振幅を、各第1送波素子11aに対する供給期間の中間において最大となり、当該供給期間の開始時と終了時にゼロに漸近するように変調した。第2送信信号S12も同様に変調した。第1送信信号S11および第2送信信号S12の周波数は同一に設定した。第1送波素子11aに対する第1送信信号S11の供給期間の時間長と、第2送波素子12aに対する第2送信信号S12の供給期間の時間長は、同一であった。
【0075】
図5(b)に示すように、上側観測位置の合成波形では、振幅の僅かな変化が生じるものの、図2(a)のように合成波形に平坦な部分が存在しておらず、また、合成波形の連続性が確保されている。
【0076】
図6(a)は、正面観測位置における送信波TD11、TD12、TD21の状態をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。また、図6(b)は、図6(a)の送信波TD11、TD12、TD21を合成した合成波形をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【0077】
図6(a)、(b)の縦軸および横軸は、それぞれ、図5(a)、(b)の縦軸および横軸と同様である。正面観測位置は、図2(b)の場合と同様に設定されている。図6(a)において、送信波TD11、TD12は実線で示され、送信波TD21は破線で示されている。このシミュレーションでも、図5(a)、(b)のシミュレーションと同様の第1送信信号S11および第2送信信号S12を用いた。
【0078】
図6(b)に示すように、正面観測位置の合成波形では、図2(b)の場合と同様、振幅が略一定に維持され、且つ、合成波形の連続性が確保されている。
【0079】
図7(a)は、下側観測位置における送信波TD11、TD12、TD21の状態をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。また、図7(b)は、図7(a)の送信波TD11、TD12、TD21を合成した合成波形をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【0080】
図7(a)、(b)の縦軸および横軸は、それぞれ、図5(a)、(b)の縦軸および横軸と同様である。下側観測位置は、図2(c)の場合と同様に設定されている。図7(a)において、送信波TD11、TD12は実線で示され、送信波TD21は破線で示されている。このシミュレーションでも、図5(a)、(b)のシミュレーションと同様の第1送信信号S11および第2送信信号S12を用いた。
【0081】
図7(b)に示すように、下側観測位置の合成波形では、振幅の僅かな変化が生じるものの、図2(c)のように合成波形に急峻な振幅部分が存在しておらず、また、合成波形
の連続性が確保されている。
【0082】
図8(a)~(c)は、それぞれ、図5(b)、図6(b)および図7(b)に示した合成波形の周波数スペクトルをシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【0083】
図8(a)に示すように、上側観測位置における合成波形の周波数スペクトルは、図3(a)の周波数スペクトルと同様、ドップラー効果に基づく周波数のシフト位置である145kHz付近に高いピークが生じている。また、図8(a)の周波数スペクトルでは、図3(a)の周波数スペクトルに比べて、不要なピークが除去され、且つ、振幅が生じる周波数の範囲も150kHz付近を中心にかなり狭い範囲に制限されている。
【0084】
図8(b)に示すように、正面観測位置における合成波形の周波数スペクトルは、図3(b)の周波数スペクトルと同様、第1送信信号S11および第2送信信号S12の周波数と同様の150kHz付近に高いピークが生じている。また、図8(b)の周波数スペクトルでは、図3(b)の周波数スペクトルに比べて、振幅が生じる周波数の範囲が150kHz付近を中心にかなり狭い範囲に制限されている。
【0085】
図8(c)に示すように、下側観測位置における合成波形の周波数スペクトルは、図3(c)の周波数スペクトルと同様、ドップラー効果に基づく周波数のシフト位置である155kHz付近に高いピークが生じている。また、図8(c)の周波数スペクトルでは、図3(c)の周波数スペクトルに比べて、不要なピークが除去され、且つ、振幅が生じる周波数の範囲も150kHz付近を中心にかなり狭い範囲に制限されている。
【0086】
このように、図4の構成を用いることにより、各観測位置においてノイズとなり得る送信波の不要な周波数成分が効果的に除去され得る。よって、反射波をより正確に計測することができる。
【0087】
ところで、図1(b)および図4に示したドップラー効果に基づく周波数の変化は、上述の正面観測位置、上側観測位置および下側観測位置のみならず、送信波が送波される範囲中の他の観測位置においても生じる。ただし、送波源に対する各観測位置の位置関係が異なるため、観測位置ごとにドップラー効果の生じ方が相違する。すなわち、正面方向に対して所定の仰角または俯角をもつ平面上の各観測位置は、正面方向を含む水平面に対する高さが互いに異なるため、送波源が移動した場合に、送波源に対する接近または離間の速度が互いに異なる。このため、送信波の周波数が等しくなる平面は、正面方向に対して所定の仰角または俯角をもつ平面とはならず、この平面が周方向に湾曲した形状の曲面となる。
【0088】
図9は、周波数が等しくなる面(以下、「等周波数面」という)をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【0089】
図9において、各軸の単位はメートルである。Y軸方向の中間位置(距離がゼロの位置)に送波アレイがX軸方向に延びるように配置される。Y軸方向の中間位置からZ軸方向に送信波が送波される。すなわち、Y軸方向の中間位置からZ軸方向に向かう方向が正面方向である。
【0090】
図9には、正面方向よりも上側の範囲における等周波数面EP1~EP5が示されている。等周波数面EP1、EP2、EP3、EP4、EP5は、それぞれ、f0-fd1、f0-fd2、f0-fd3、f0-fd4、f0-fd5の周波数の面である。f0は、正面方向における周波数であり、送波素子に供給される送信信号の周波数に等しい。f
d1~fd5には、fd1<fd2<fd3<fd4<fd5の関係がある。
【0091】
便宜上、図9には5つの等周波数面EP1~EP5が示されているが、これら等周波数面EP1~EP5の間にも、多数の等周波数面が存在する。たとえば、等周波数面EP1、EP2の間の隙間の周波数は、f0-fd1からf0-fd2へと連続的に遷移している。図9の等周波数面EP1~EP5をY-Z平面について対称に折り返すことにより、正面方向よりも下側の範囲における等周波数面が形成される。
【0092】
図10は、送受波系の構成例を模式的に示す図である。
【0093】
この構成例では、図4に示した送波系の構成の他に、受波系の構成として、複数の受波素子31aを有する受波アレイ31が配置されている。図4と同様、送波系の構成は、第1送波アレイ11と第2送波アレイ12とを備えている。第1送波アレイ11と第2送波アレイ12は、X軸に沿って配置されている。第1送波アレイ11の直上位置に、受波アレイ31が配置されている。この構成例では、受波素子31aの並び方向と、第1送波素子11aおよび第2送波素子12aの並び方向とが垂直となっている。
【0094】
第1送波アレイ11内の第1送波素子11aと第2送波アレイ12内の第2送波アレイ12とを、図4を参照して説明した方法で駆動することにより、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12の前方(Z軸正方向)に、送信ビームTB1が形成される。
【0095】
すなわち、第1送波素子11aに第1送信信号S11を供給すると、当該第1送波素子11aから比較的広い指向性で送信波が送波される。同様に、第2送波素子12aに第2送信信号S12を供給すると、当該第2送波素子12aから比較的広い指向性で送信波が送波される。第1送波アレイ11内の第1送波素子11aと第2送波アレイ12内の第2送波素子12aに上から順番に第1送信信号S11および第2送信信号S12を1走査分供給した場合に、各送波素子から送波される送信波が全て重なる領域が、送信ビームTB1の形成領域となる。この形成領域には、図9を参照して説明したように、多数の等周波数面が生じる。
【0096】
各受波素子31aから出力される受信信号に対し位相制御(ビームフォーミング)を行うことにより、X軸を中心とする周方向に幅狭の受信ビームRB1が形成される。これにより、受信ビームRB1と送信ビームTB1とが交差する領域の受信信号が抽出される。上記位相制御により、受信ビームRB1を、X軸を中心にθ1方向に旋回させることにより、各旋回位置の受信信号が抽出される。受信ビームRB1の旋回位置により、送信波が物標によって反射された反射波の水平方向における到来方向が規定され得る。また、受信信号の周波数により、反射波が生じた等周波数面(図9参照)が規定され得る。
【0097】
したがって、受信ビームRB1により抽出される受信信号のうち、各等周波数面に対応する周波数の受信信号を抽出し、抽出した受信信号の各等周波数面上の強度を各等周波数面にプロットすることにより、当該受信ビームRB1と送信ビームTB1とが交差する範囲の受信信号の強度データの分布が得られる。そして、受信ビームRB1を水平方向の検知範囲内において旋回させて、各旋回位置における強度データの分布を得ることにより、水平方向および鉛直方向における全ての検知範囲において3次元状に分布する強度データ(ボリュームデータ)を取得できる。この強度データ(ボリュームデータ)を画像化することにより、検知範囲の物標の状態を示す画像を得ることができる。
【0098】
<具体的構成>
図11は、物標検出装置1の具体的構成を示すブロック図である。
【0099】
物標検出装置1は、送波系の構成として、上述の第1送波アレイ11と第2送波アレイ12とを備える。第1送波アレイ11と第2送波アレイ12は、図10と同様の構成である。物標検出装置1は、第1送波アレイ11の各第1送波素子11aに第1送信信号S11を供給するための構成として、第1送信信号生成部111と、第1送信アンプ112と、第1信号切替部113とを備える。また、物標検出装置1は、第2送波アレイ12の各第2送波素子12aに第2送信信号S12を供給するための構成として、第2送信信号生成部121と、第2送信アンプ122と、第2信号切替部123とを備える。
【0100】
第1送信信号生成部111は、制御部101からの制御に応じて、第1送信信号S11を生成する。第1送信信号S11は、周波数が一定かつ振幅変調された波形である。第1送信信号S11は、たとえば、図6(a)の送信波TD11と同様の波形に設定され得る。第1送信アンプ112は、制御部101からの制御に応じて、第1送信信号生成部111から入力される第1送信信号S11を増幅する。第1信号切替部113は、制御部101からの制御に応じて、第1送波アレイ11に含まれる複数の第1送波素子11aに対し、第1送信信号S11を順番に供給する。第1信号切替部113は、図4の第1信号切替部21と同様の構成である。第1信号切替部113は、たとえば、デマルチプレクサにより構成される。
【0101】
第2送信信号生成部121は、制御部101からの制御に応じて、第2送信信号S12を生成する。第2送信信号S12は、周波数が一定かつ振幅変調された波形である。第2送信信号S12は、たとえば、図6(a)の送信波TD21と同様の波形に設定され得る。第2送信信号S12は、第1送信信号S11と同様の信号である。第2送信アンプ122は、制御部101からの制御に応じて、第2送信信号生成部121から入力される第2送信信号S12を増幅する。第2信号切替部123は、制御部101からの制御に応じて、第2送波アレイ12に含まれる複数の第2送波素子12aに対し、第2送信信号S12を順番に供給する。第2信号切替部123は、図4の第2信号切替部22と同様の構成である。第2信号切替部123は、たとえば、デマルチプレクサにより構成される。
【0102】
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理回路と、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)やハードディスク等の記憶媒体とを備える。制御部101が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路で構成されてもよい。制御部101は、第1送波素子11aに対する第1送信信号S11の供給期間に対して、当該第1送波素子11aに隣り合う第2送波素子12aに対する第2送信信号S12の供給期間が半期間だけ遅延するように、第1信号切替部113と第2信号切替部123を制御する。これにより、図5(b)、図6(b)および図7(b)に示す波形の送信波が送波され、送信ビームTB1において、上述の等周波数面(図9参照)が形成される。
【0103】
物標検出装置1は、受波系の構成として、上述の受波アレイ31を備える。受波アレイ31は、図10と同様の構成である。受波アレイ31には、m個の受波素子31aが配置されている。各受波素子31aに対応するチャンネルCH1~CHmに、各受波素子31aから受信信号が出力される。
【0104】
物標検出装置1は、受波アレイ31の各受波素子31aから出力される受信信号を処理して検出画像を生成するための構成として、複数の受信処理部131と、複数のAD変換部132と、受信信号処理部133と、映像信号処理部134とを備える。
【0105】
複数の受信処理部131は、チャンネルCH1~CHmにそれぞれ接続されている。各受信処理部131は、入力された受信信号に対し、不要な帯域を除去する処理や、受信信号をAD変換に適するレベルに増幅する処理、および、AD変換のサンプリング周期の半
分以上の帯域の信号成分を除去する処理等を行う。複数のAD変換部132は、複数の受信処理部131にそれぞれ対応付けられている。各AD変換部132は、対応する受信処理部131から入力されたアナログの受信信号を、所定のサンプリング周期でデジタル信号に変換する。
【0106】
受信信号処理部133は、複数のAD変換部132からそれぞれ入力されたチャンネルCH1~CHmの受信信号を処理して、検知範囲に3次元状に分布する受信信号の強度データ(ボリュームデータ)を算出する。受信信号処理部133が、制御部101とともに、単一の集積回路(FPGA等)で構成されてもよい。
【0107】
映像信号処理部134は、受信信号処理部133から入力される強度データ(ボリュームデータ)を処理して、検知範囲の物標の状態を画像化するための画像データを生成する。映像信号処理部134は、たとえば、CPUによって構成される。表示部135は、モニタ等で構成され、映像信号処理部134から入力される画像データに応じた検出画像を表示する。
【0108】
図12(a)は、受信信号処理部133の構成例を示す機能ブロック図である。
【0109】
受信信号処理部133は、演算処理回路と記憶媒体とを備える。受信信号処理部133は、記憶媒体に記憶されたプログラムにより、図12(a)に示す各機能ブロックの機能を実行する。図12(a)の機能の一部が、ソフトウエアでなく、ハードウエアにより実行されてもよい。
【0110】
受信信号処理部133は、複数のデジタルフィルタ201と、バッファ202と、複数のバンドパスフィルタ203と、複数のビーム合成部204とを備える。
【0111】
複数のデジタルフィルタ201は、図11の複数のAD変換部132にそれぞれ対応して設けられている。デジタルフィルタ201は、図11の受信処理部131におけるフィルタ機能よりも急峻なフィルタであり、受信信号における不要な帯域の信号を除去する。
【0112】
バッファ202は、複数のデジタルフィルタ201からそれぞれ出力されるチャンネルCH1~CHmの受信信号を一時的に保持する。バッファ202は、第1送波アレイ11の複数の第1送波素子11aおよび第2送波アレイ12の複数の第2送波素子12aをそれぞれ上から下まで駆動する処理(以下、この駆動を「スキャン」という)が開始された後、検知範囲の最大距離からの反射波が受波アレイ31に受波されるまでの期間の受信信号(以下、「1スキャン分の受信信号」という)を、時系列で複数スキャン分保持する。バッファ202は、1スキャン分の受信信号を、順次、複数のバンドパスフィルタ203にそれぞれ供給する。バッファ202は、1スキャン分の受信信号を複数のバンドパスフィルタ203に供給すると、当該1スキャン分の受信信号を消去する。
【0113】
複数のバンドパスフィルタ203は、入力されたチャンネルCH1~CHmの1スキャン分の受信信号から周波数F1~Fnの周波数成分(等周波数受信信号)をそれぞれ抽出する。バンドパスフィルタ203の周波数F1~Fnは、図9に示した等周波数面を規定する。すなわち、バンドパスフィルタ203の数だけ等周波数面が規定される。バンドパスフィルタ203の数を増やすほど、等周波数面の重なり方向における受信信号の分解能が高まる。バンドパスフィルタ203は、チャンネルCH1~CHmの1スキャン分の受信信号から自身に設定された周波数Fkの周波数成分(等周波数受信信号)を抽出して、ビーム合成部204に供給する。
【0114】
複数のビーム合成部204は、複数のバンドパスフィルタ203にそれぞれ対応付けて
設けられている。ビーム合成部204は、位相制御もしくは遅延制御に基づくビームフォーミングにより受信ビームRB1を形成し、図10のθ1方向に等周波数受信信号を所定の分解能で分離する。これにより、受信ビームRB1と、バンドパスフィルタ203で規定される等周波数面とが交差する領域の等周波数受信信号が取得される。すなわち、最上段のビーム合成部204からは、周波数F1に対応する等周波数面と、水平面に平行な方向(図10のθ1方向)における各方位の受信ビームRB1とが交差する交差領域の等周波数受信信号が得られる。
【0115】
得られた等周波数受信信号は、交差領域からの反射波の強さに応じて、強度が時間軸上で変化する。この時間軸は、交差領域における受波アレイ31からの距離に相当する。したがって、時間軸上の各強度を、交差領域において、受波アレイ31からの対応する距離位置にマッピングすることにより、交差領域上における強度データの分布が得られる。こうして、各ビーム合成部204から出力される方位ごとの強度データの分布を統合することにより、検知範囲に3次元状に強度データが分布するボリュームデータが取得される。
【0116】
図12(b)は、受信信号処理部133の他の構成例を示す機能ブロック図である。
【0117】
この構成例では、図12(a)の構成例におけるバンドパスフィルタ203が、FFT(Fast Fourier Transform)211と周波数抽出部212に置き換えられている。FFT211は、チャンネルCH1~CHmの1スキャン分の受信信号から周波数スペクトルを算出する。周波数抽出部212は、FFT211により算出された各チャンネルの周波数スペクトルから、周波数F1~Fnの周波数成分(等周波数受信信号)をそれぞれ抽出してビーム合成部204に供給する。ビーム合成部204の処理は、図12(a)の場合と同様である。
【0118】
この構成によっても、図12(a)の構成と同様、各ビーム合成部204から出力される方位ごとの強度データの分布を統合することにより、検知範囲に3次元状に強度データが分布するボリュームデータが取得される。なお、図12(b)の構成例では、図12(a)の構成例よりも、等周波数受信信号を抽出する周波数をより細かく設定できる。よって、処理対象とされる等周波数面の数を増やすことができ、等周波数面の積層方向における等周波数受信信号の分解能を高めることができる。
【0119】
図13(a)、(b)は、図11の制御部101によって行われる送波処理を示すフローチャートである。この処理は、検知動作時に継続的に実行され、検知動作の終了に応じて終了される。
【0120】
図13(a)を参照して、制御部101は、第1送信信号生成部111に第1送信信号S11を生成させる(S111)。その後、制御部101は、所定の切替タイミングが到来すると(S112:YES)、第1送信信号S11の供給先となる第1送波素子11aを隣の第1送波素子11aに切り替える(S113)。ここで、切替タイミングは、振幅変調された1単位の第1送信信号S11(図6(a)の送信波TD11に対応する第1送信信号S11)の終端が到来するタイミングである。その後、制御部101は、処理をステップS112に戻して、次の切替タイミングが到来するのを待つ。これにより、1単位の第1送信信号S11が開始されるタイミングで、第1送信信号S11の供給先となる第1送波素子11aが隣の第1送波素子11aに切り替えられる。
【0121】
図13(b)を参照して、制御部101は、第1送信信号S11の生成開始タイミングから第1送信信号の1単位の半分の期間だけ遅れたタイミングで、第2送信信号生成部121に第2送信信号S12を生成させる(S121)。上記のように、第2送信信号S12は、第1送信信号S11と周波数および振幅変調が同じ信号である。その後、制御部1
01は、所定の切替タイミングが到来すると(S122:YES)、第2送信信号S12の供給先となる第2送波素子12aを隣の第2送波素子12aに切り替える(S123)。ここで、切替タイミングは、現在供給先となっている第2送波素子12aに対して上側に隣り合う第1送波素子11aに供給されている1単位の第1送信信号S11の中間位置が到来するタイミングである。その後、制御部101は、処理をステップS122に戻して、次の切替タイミングが到来するのを待つ。これにより、第1送信信号S11に対して1単位の半分の期間だけ遅れたタイミングで、第2送信信号S12の供給先となる第2送波素子12aが隣の第2送波素子12aに切り替えられる。
【0122】
制御部101は、図13(a)、(b)の処理により、第1送信信号S11および第2送信信号S12がそれぞれ供給される第1送波素子11aおよび第2送波素子12aを、上から順番に切り替える。最下部の第1送波素子11aおよび第2送波素子12aまで供給先が切り替えられて1スキャンが終了すると、制御部101は、再度、供給先を最上部の第1送波素子11aおよび第2送波素子12aに戻して、同様の処理による次のスキャンを行う。各スキャンでは、図4を参照して説明した送波が行われる。これにより、上記のように等周波数面が重なった送信ビームTB1が形成される。
【0123】
図13(c)は、受信信号を処理して検出画像を表示する処理を示すフローチャートである。この処理は、検知動作時に継続的に実行され、検知動作の終了に応じて終了される。
【0124】
1スキャン分の受信信号がバッファ202から複数のバンドパスフィルタ203にそれぞれ供給される(S201)。各バンドパスフィルタ203は、入力された各チャンネルの受信信号から自身に設定された周波数の周波数成分(等周波数受信信号)を抽出して、対応するビーム合成部204に供給する(S202)。ビーム合成部204は、入力された周波数成分(等周波数受信信号)から、ビームフォーミングにより、水平方向(θ1方向)の各方位の信号成分を抽出する(S203)。これにより、各周波数によって規定される等周波数面に受信信号の強度データがマッピングされた強度データの分布が得られる。受信信号処理部133は、全てのビーム合成部204からの強度データを統合して、検知範囲に3次元状に強度データが分布するボリュームデータを構成する(S204)。受信信号処理部133は、ボリュームデータを、映像信号処理部134に供給する。
【0125】
映像信号処理部134は、ボリュームデータを処理して、検知範囲における物標の検知状況を表示するための画像データを生成し、生成した画像データを表示部135に供給する(S205)。表示部135は、入力された画像データに基づく画像を表示する(S206)。これにより、検知範囲における物標の検出状況が表示される。
【0126】
図14は、上述の物標検出装置1が、水中の物標を検知するソナーとして用いられる場合の構成を模式的に示す図である。
【0127】
船2の船底に、送受波器300が設置される。送受波器300は、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12と、受波アレイ31とを備えている。第1送波アレイ11および第2送波アレイ12は、上述の処理により水中に送信波を送波する。ここでは、送信波として、音波(たとえば超音波)が送波される。これにより、鉛直平面に平行な角度θ2の範囲において、等周波数面が角度方向に重なった送信ビームTB1が形成される。
【0128】
図11の構成のうち、第1送波アレイ11、第2送波アレイ12、受波アレイ31および表示部135以外の構成は、船2の操舵室2aに設置された制御装置に装備される。表示部135は、制御装置とは別に、操舵室2aに設置される。表示部135が制御装置に一体化されてもよい。
【0129】
この構成によれば、水底3や魚群4の状況を示す検出画像が表示部135に表示される。これにより、使用者は、水中の状況を把握できる。なお、前方、後方、左方および右方にそれぞれ向けられた4つの送受波器300が船底に設置されてもよい。この場合、送受波器300ごとに、図11の送波系および受波系の構成が準備される。これにより、船の全周囲の検出画像を表示部135に表示させることができる。
【0130】
また、上述の物標検出装置1が、空中の物標を検知するレーダとして用いられる場合、たとえば、操舵室2aの側壁に、送受波器400が設置される。送受波器400は、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12と、受波アレイ31とを備えている。第1送波アレイ11および第2送波アレイ12は、上述の処理により空中に送信波を送波する。ここでは、送信波として、電波が送波される。回路部の構成は、ソナーの場合と同様、操舵室2aに設置される。
【0131】
この構成によれば、障害物や鳥群等の状況を示す検出画像が表示部135に表示される。これにより、使用者は、空中の状況を把握できる。なお、操舵室2aの前後左右の側面にそれぞれ送受波器400が設置されてもよい。この場合、送受波器400ごとに、図11の送波系および受波系の構成が準備される。これにより、船の全周囲の空間の検出画像を表示部135に表示させることができる。
【0132】
<実施形態の効果>
実施形態によれば、以下の効果が奏され得る。
【0133】
第1送信信号S11が供給される第1送波素子11aが、第1送波アレイ11内において第1素子から第2素子へと切り替えられることにより、送信波の送波源が第1送波素子11aの並び方向に移動する。これにより、送信ビームTB1の周波数がドップラー効果によって送波源の移動方向に変化し、送信ビームTB1に複数の等周波数面が形成される。したがって、受波素子31aから生じる受信信号から各等周波数面に応じた周波数成分を抽出することにより、各等周波数面からの反射波に基づく受信信号(等周波数受信信号)を得ることができる。このように、本実施形態によれば、第1送信信号S11が供給される第1送波素子11aを第1送波アレイ11内で切り替えることにより、観測対象の全ての等周波数面に対する等周波数受信信号を同時に生成できる。よって、簡易な構成により迅速に物標を検出することができる。
【0134】
また、本実施形態では、隣り合う第1送波素子11aに第1送信信号S11が順番に供給されるため、送信波の送波源を第1送波素子11aの並び方向に細かく移動させることができる。よって、ドップラー効果による周波数の変化を滑らかに生じさせることができる。
【0135】
また、図4および図10に示した構成例では、複数の第2送波素子12aを有する第2送波アレイ12が設けられ、複数の第2送波素子12aに順番に第2送信信号S12が供給される。これにより、第1送信信号S11と第2送信信号S12とを調整することにより、送信波に不要な周波数成分が重畳されることを抑制できる。よって、受信信号に基づく処理をより精度良く行うことができる。
【0136】
また、第2送波素子12aが第1送波素子11aに隣り合っているため、第1送信信号S11に基づく送信波の送波源が第1送波アレイ11内の第1素子から第2素子へと移動する間に、第1素子から第2素子の間の位置において、第2送信信号S12に基づく送信波が第2送波アレイ12内の第2送波素子12aから送波される。これにより、送信波の連続性が維持され易くなる。よって、送信波に不要な周波数成分が重畳されることを抑制
できる。
【0137】
また、この構成において、第1送信信号S11および第2送信信号S12の振幅を、たとえば、図5(a)の波形のように変調することにより、送信波に不要な周波数成分が重畳されることをより効果的に抑制できる。よって、各等周波数面に対する受信信号の品質を高めることができる。
【0138】
また、図12(a)、(b)を参照して説明したように、受信信号処理部133は、受信信号の周波数成分に基づいて、当該周波数に対応する等周波数面からの反射波に基づく受信信号を抽出するよう構成されている。これにより、各等周波数面に対する等周波数受信信号を円滑に取得できる。
【0139】
また、図10に示したように、各受波素子31aから生じる受信信号に基づいて生成される受信ビームRB1が、第1送波アレイ11により生成される送信ビームTB1と交差するよう構成されている。これにより、受信ビームRB1と送信ビームTB1(等周波数面)とが交差する範囲において、反射波の強度に基づく強度データの分布を算出できる。よって、ビームフォーミングにより受信ビームの指向方向を検知範囲内で変化させることにより、検知範囲に3次元状に分布する強度データを構成できる。
【0140】
<変更例>
本発明は、上記実施形態に制限されるものではない。また、本発明の実施形態は、上記構成の他に種々の変更が可能である。
【0141】
たとえば、上記実施形態では、図12(a)、(b)に示すように、受信信号から各周波数の周波数成分が抽出された後、ビームフォーミングの処理により各方位の信号に分離されたが、先にビームフォーミングの処理により受信信号を各方位の信号に分離し、分離後の各方位の信号に対して各周波数の周波数成分が抽出されてもよい。すなわち、図12(a)のバンドパスフィルタ203とビーム合成部204とが互いに置き換えられてもよく、また、図12(b)のFFT211および周波数抽出部212とビーム合成部204とが互いに置き換えられてもよい。
【0142】
また、上記実施形態では、図10に示すように、受波素子31aが複数設けられたが、1つの受波素子31aのみにより反射波が受波されてもよい。ただし、この場合は、受信信号の強度データを方位毎に区分して等周波数面上にマッピングすることができないため、上記実施形態のように検知範囲の状況を3次元状に画像で表示することはできない。この構成では、受信ビームの方位(図10のθ1の方位)が固定される。その方位の受信ビームから受信信号の周波数成分を抽出することで、鉛直方向における各方向の強度データを取得できる。よって、鉛直方向の各方向の強度データをマッピングすることで、2次元状の検知画像を表示させることができる。
【0143】
また、上記実施形態では、第1送信信号S11と第2送信信号S12が同じ信号であったが、送信波の不要な周波数成分を抑制できる限りにおいて、第1送信信号S11と第2送信信号S12とが互いに異なる信号であってもよい。また、上記実施形態では、送信信号S1、第1送信信号S11および第2送信信号S12のキャリア周波数が一定であったが、チャープ信号のようにキャリア信号が周波数変調されていてもよい。また、第1送信信号S11がバースト波であってもよく、第2送信信号S12がバースト波であってもよい。
【0144】
また、第1送信信号S11の供給先となる第1送波素子11aを切り替えるタイミングおよび第2送信信号S12の供給先となる第2送波素子12aを切り替えるタイミングは
図13(a)、(b)を参照して説明したタイミングに限られるものではなく、送信波に生じる不要な周波数成分を抑制できる限りにおいて、他のタイミングであってもよい。
【0145】
また、第1送波アレイ11と第2送波アレイ12の構成は、上記実施形態の構成に限られるものではなく、送信ビームTB1にドップラー効果に基づく周波数の変化を生じさせ得る限りにおいて、他の構成であってもよい。
【0146】
たとえば、図15(a)に示すように、隣り合う2つの第1送波素子11aの境界の側方に第2送波素子12aが位置付けられるように、第1送波アレイ11と第2送波アレイ12が構成されてもよい。この場合も、各々の第1送波素子11aおよび第2送波素子12aに対して、図10の場合と同様のタイミングで、第1送信信号S11と第2送信信号S12が供給される。これにより、送信波に生じる不要な周波数成分を抑制できる。
【0147】
また、図15(b)に示すように、複数の送波素子10aが複数のグループにグループ化され、送信信号S1の供給先がグループ間で切り替えられる構成であってもよい。この構成によっても、送波源を移動方向D1に移動させることができるため、ドップラー効果に基づく周波数の変化を送信ビームTB1に生じさせることができる。また、グループごとに送信波が送波されるため、送信波の出力を高めることができる。グループ化される送波素子10aの数は2つに限らず、3つ以上であってもよい。
【0148】
また、送波素子の数は、上記実施形態に示された数に限らず、複数である限りにおいて、他の数であってもよい。また、上記実施形態では、送波アレイと受波アレイが互いに垂直に配置されたが、送波アレイと受波アレイが垂直からややずれた角度で配置されてもよい。
【0149】
また、図11には、第1送波アレイ11と第2送波アレイ12とを用いる場合の構成は示されたが、第1送波アレイ11のみを用いる構成であってもよい。この場合、図11から、第2送波アレイ12と、第2送信信号生成部121、第2送信アンプ122および第2信号切替部123が省略される。
【0150】
さらに、図14には、船2に物標検出装置1(ソナー、レーダ)が配置される場合の構成が示されたが、物標検出装置1(ソナー、レーダ)が、船2以外の移動体に設置されてもよく、あるいは、浮標等、移動体以外の構造物に物標検出装置1(ソナー、レーダ)が設置されてもよい。
【0151】
<第2実施形態>
上記実施形態では、送波アレイの複数の送波素子を上から下まで1回だけ駆動(スキャン)することにより、1検出単位(1ping)に対する1パルス分の送波が行われた。この場合、各送波素子においては、当該送波素子が駆動される期間しか送波が行われない。このため、1パルスの送信エネルギーが低くなり、探知可能な最大距離が制限される。
【0152】
そこで、第2実施形態では、1パルスの送信エネルギーを高めるための制御がなされる。具体的には、1検出単位において、第1送波アレイ11の複数の第1送波素子11aおよび第2送波アレイ12の複数の第2送波素子12aを、図4を参照して説明した方法で、一方向に連続的に駆動させるスキャンが複数回行われてパルスが生成される。より詳細には、図4の構成において、信号切り替え部21、22は、第1シーケンスにおいて、開始素子と終了素子との間の複数の送波素子11a、12aに対して、開始素子から終了素子へと向かって連続的に送信信号が供給されるように制御され、第1シーケンスに続く第2シーケンスにおいて、開始素子と終了素子との間の複数の第1送波素子11a、12aに、開始素子から終了素子へと向かって連続的に送信信号が供給されるように制御される
。これにより、1パルスの送信エネルギーが高められる。
【0153】
図16は、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12に対し複数回一方向のスキャンが行われた場合の音場の状態を模式的に示す図である。図16では、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12における第1送波素子11aおよび第2送波素子12aの並び方向と、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12の正面方向が、それぞれ、x軸およびy軸に設定されている。また、図16には、音場の波面が示されている。
【0154】
第1送波アレイ11および第2送波アレイ12の複数の第1送波素子11aおよび第2送波素子12aを一方の端(開始位置の送波素子)から他方の端(終了位置の送波素子)まで順番に連続的に駆動して、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12に対するスキャンを行った後、時間の隙間なく、同様のスキャンを繰り返し行う制御が行われる。これにより、周波数f0で送信する音源Sが開始位置から終了位置まで移動した後、時間の隙間なく、音源Sが開始位置から終了位置まで移動する状態が形成される。この制御を1検出単位において所定回数繰り返すことにより、パルスの送信時間が伸長され、送信エネルギーが増大される。図16では、便宜上、1検出単位においてスキャンが4回行われた場合の音場が示されている。
【0155】
なお、以下の説明では、図1(a)に示したように、各方位において音波に不連続性が生じていないことが想定されている。すなわち、図1(b)に示した音波の不連続性の影響は、図4に示したように、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12を用いた制御により抑制され、さらに、図8(a)、(c)に示したスプリアス(不要なピーク)の影響は、図12(a)に示したパンドパスフィルタ203または図12(b)に示した周波数抽出部212による周波数フィルタリングによって解消されるため、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12による送波においても、受信系においてこの周波数フィルタリングが適用されることにより、図1(a)に示したように全ての方位において音波の連続性が維持された状態と等価に扱い得る。よって、以下では、便宜上、全ての方位において音波の不連続性が生じていないとして説明を行う。
【0156】
図16に示すように、各スキャンによる送信パケットは、正面方向を基準とするx-y平面の面内方向の方位θ(以下、実施形態2において「方位θ」という)に応じて時間圧縮され、キャリア周波数が変化する。また、この時間圧縮に応じて、方位θに応じた隙間(音圧ゼロの区間)が送信パケット間に発生する。図16には、正面方向(y軸方向)と、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12のスキャン方向(x軸方向)との送信パケットが、それぞれ、y軸およびx軸に沿って示され、矢印の方位の送信パケットが矢印の先端に示されている。各送信パケットに付されているτは、音源Sが開始位置から終了位置まで移動する期間、すなわち、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12に対する1回のスキャン期間である。
【0157】
図16に示すように、正面方向(y軸方向)では、ドップラー効果がないため、送信パケットの波形が送信信号と同様の波形に維持される。このため、正面方向では、送信パケット間に隙間が生じない。これに対し、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12のスキャン方向(x軸方向)では、ドップラー効果により送信パケットの波形が大きく圧縮され、送信パケット間に大きな隙間が生じる。また、矢印の方位では、x軸方向よりもドップラー効果が小さいため、送信パケットの波形の圧縮が小さくなり、送信パケット間に生じる隙間が抑制される。
【0158】
このように、方位ごとに波形の圧縮と隙間の状態が異なるため、音波の周波数スペクトルが方位ごとに異なる。すなわち、隙間によって位相の不連続性が生じる方位ではスペクトル強度が低くなり、隙間によって位相の不連続性が生じない方位ではスペクトル強度が
高くなる。具体的には、隙間が波長の整数倍になる方位では、位相の不連続性が生じないため、スペクトル強度が高くなる。
【0159】
図17(a)、(b)は、音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【0160】
このシミュレーションは、以下のシミュレーション条件で行った。
【0161】
送信周波数:f0=150kHz
パルス幅:PW=100msec
スキャン期間:τ=1msec
【0162】
すなわち、送信周波数f0が一定の連続波CWを各送信パケットにおいて送波した。各送信パケットのスキャン期間τを1msecに設定し、音源Sを100回スキャンさせて、パルスを形成した。すなわち、パルス幅PWは、100msecであった。
【0163】
図17(a)は、3D等高線表示によるシミュレーション結果であり、図17(b)は、方位軸方向からの3D鳥瞰図である。
【0164】
図17(a)、(b)を参照すると、1kHz間隔でスペクトル強度のピーク、すなわち、送信ビームが形成されていることが分かる。そのメカニズムは、以下のとおりである。
【0165】
1スキャンで正面方向(θ=0)に送波される波の数は、f0・τであり、このパケットがスキャン期間τで繰り返されて、位相の繋がったパルス幅の長いCW波が正面方向に送波される。一方、正面以外の方向では、方位に応じて隙間による位相の不連続が生じるが、次の関係式を満たすキャリア周波数の方向には、パケット間の初期位相が保たれる。
【0166】
【数1】
【0167】
隙間の期間すなわち位相停止の期間が、その方向のキャリアの周期の整数倍であれば、パケット間初期位相が同じになり、隙間の影響は軽微となる。この条件は、上記式(1)より、以下の式で表され得る。
【0168】
【数2】
【0169】
式(2)より、図17(a)、(b)において、1/τすなわち1kHzごとに、連続位相すなわちスペクトルが先鋭化する方向が形成されている理由が解釈できる。
【0170】
次に、ビームスペーシング(形成される送信ビームの間隔)について検討する。
【0171】
送信ビームが形成され方位は、前述のとおり、初期位相のつながる方位であり、キャリア周波数が、式(2)を満たす方位である。その方位θnは、以下の式により他の変数と関係づけられる。
【0172】
θ方向の隙間の時間は、以下の式で求まる。
【0173】
【数3】
【0174】
ここで、Vは音源Sの移動速度、cは音速、r(θ)はθ方向に伝播する送信波の圧縮率である。
【0175】
この隙間の時間が、θ方向のキャリア周波数の周期の整数倍となる方位がθnであるので、θnは以下の式で規定される。
【0176】
【数4】
【0177】
よって、θnは、次式で求めることができる。
【0178】
【数5】
【0179】
従って、上記式(5)で求まる方位θnに送信ビームが形成される。よって、方位θnのキャリア周波数を図12(a)のバンドパスフィルタ203または図12(b)の周波数抽出部212で抽出することにより、各送信ビームに対する受信信号を抽出できる。
【0180】
<第3実施形態>
図17(b)を参照すると、θ方向に連続的に探知範囲を画像化するためには、送信ビームのビーム間隔が広い。すなわち、送信ビーム間の角度範囲において、受信信号に抜けが生じ、良好な探知画像を生成するのが困難となる。そこで、第3実施形態では、図17(b)の送信ビーム間にさらに送信ビームを形成するための制御がなされる。
【0181】
隣り合う送信ビームの方位の中間の方位では、送信パケットごとに位相が反転する。従って、送信パケットごとに送信信号の極性を反転して送信を行うことにより、その方位では初期位相が整相される筈である。
【0182】
図18(a)、(b)は、送信パケットごとに送信信号の極性を反転して送信を行った場合の音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。シミュレーションの条件は、送信パケットごとに送信信号の極性を反転することを除いて、図17(a)、(b)のシミュレーション条件と同様である。
【0183】
図18(a)、(b)を参照すると、図17(a)、(b)の送信ビーム間の中間の方位において、送信ビームが形成されている。すなわち、図18(a)、(b)では、図17(a)、(b)の送信ビーム間の方位を補間する送信ビームが形成されていることが分かる。よって、たとえば、1検出単位において、送信パケットごとに極性を反転せずに送信パケットを繰り返し送信する第1送信工程と、送信パケットごとに極性を反転して送信パケットを繰り返し送信する第2送信工程とを行うことにより、各送信工程によって、送信ビームに抜けが生じる方位を相補的に補間することができ、θ方向に連続的に探知範囲を画像化することができる。この場合も、各送信ビームのキャリア周波数を図12(a)のバンドパスフィルタ203または図12(b)の周波数抽出部212に適用することにより、各送信ビームに対する受信信号を抽出できる。
【0184】
なお、第1送信工程と第2送信工程では、奇数番目および偶数番目の何れか一方において、送信信号の極性が反転すればよい。これにより、各送信工程によって、送信ビームに抜けが生じる方位を相補的に補間できる。
【0185】
<第4実施形態>
上記実施形態3において、第1送信工程および第2送信工程を2回の送受信に分けて行うと、フレームレートが半減する。他方、第1送信工程および第2送信工程が同時に行われる場合、送信工程間で極性が反転した送信パケットは、相互に干渉することにより、送信波が消失する。したがって、第1送信工程および第2送信工程を同時に行うことは、奇数番目または偶数番目の送信パケットにおいて送信を停止させることと、等価である。そこで、第4実施形態では、奇数番目または偶数番目の送信パケットにおいて送信を停止させることを検討する。
【0186】
上記式(2)から、スキャン期間τの2倍の周期2τで送信を繰り返すことにより、送信ビームの間隔を半分にすることが可能であることが分かる。この場合、たとえば、図16に示した一連の送信パケットのうち、偶数番目の送信パケットのみ、または、奇数番目の送信パケットのみを送信することにより、スキャン周期が2倍になる。したがって、このように偶数番目または奇数番目の送信パケットのみを送信すれば、送信ビームの間隔を半分にすることができる筈である。
【0187】
図19(a)、(b)は、偶数番目の送信パケットのみを送信した場合の音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。シミュレーションの条件は、偶数番目の送信パケットのみを送信することを除いて、図17(a)、(b)のシミュレーション条件と同様である。
【0188】
図19(a)、(b)を参照すると、図17(a)、(b)の場合に比べて、送信ビームの間隔が半分になっていることが分かる。よって、偶数番目または奇数番目の送信パケットのみを送信するように第1送波アレイ11および第2送波アレイ12を制御することにより、送信ビームの間隔を狭めることができる。すなわち、偶数番目または奇数番目の送信パケットのみを送信することにより、1検出単位において送波されるパルスのパルス幅を抑制して距離分解能を高めつつ、送信ビーム間の間隔を狭めることができる。これにより、θ方向に連続的に探知範囲を画像化することができる。
【0189】
また、第4実施形態によれば、1回の送受信で1検出単位の情報が得られるため、探知画像を生成する際のフレームレートを高めることができる。なお、フレームレートは低くてよい場合は、上記第3実施形態で述べたように、第1送信工程および第2送信工程を2回の送受信に分けて行ってもよい。
【0190】
さらに、第1送信工程と第2送信工程を隙間なく連続的に行って1回の送受信で1検出単位の情報を得ることも可能である。
【0191】
<第5実施形態>
上記第2実施形態のように、1検出単位において送信パケットを複数回繰り返し送信すると、送信エネルギーが増大し、S/Nが上昇する。しかし、その反面、1検出単位における送信期間(パルス幅)が長くなるため、距離分解能が低下するとの問題が生じる。そこで、第5実施形態では、パルス圧縮を用いた距離分解能の向上が検討される。
【0192】
本願発明者らは、パルス幅が100msec、チャープ掃引幅が1kHzのリニアチャープ(LFM)信号を送信する音源Sを、開始位置から終了位置まで繰り返し速度Vで等速運動させた場合の音場をシミュレーションにより検証した。この検証において、リニアチャープ(LFM)信号のパラメータは、以下のように設定した。
【0193】
<LFMのパラメータ>
掃引開始周波数:fs=150kHz
掃引周波数:fsweep=1kHz
掃引時間(LFMパルス幅)=100msec
窓関数:ハニング(100msecのパルスに対して適用)
音源掃引長:L=16λo(λo:掃引開始周波数における波長)
音源掃引時間(スキャン期間):τ=1msec
【0194】
すなわち、100msecの間に周波数が150kHzから151kHzにリニアにシフトするリニアチャープ信号を1msecごとに切り取った信号で送波アレイを駆動して、1パルス分の送波を行った。
【0195】
図20(a)、(b)は、上記条件のリニアチャープ信号により送信を行った場合の音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【0196】
図20(a)、(b)に示すように、上記条件のリニアチャープ信号により送信を行った場合も、図17(a)、(b)とほぼ同様のピッチで、送信ビームを形成できた。
【0197】
次に、パルス圧縮後の時間応答を検証するために、図20(a)、(b)において送信ビームが形成されている方位の自己相関関数を求めた。
【0198】
図21(a)、(b)は、それぞれ、方位0°の自己相関関数を示すグラフであり、図21(c)、(d)は、それぞれ、方位7°の自己相関関数を示すグラフである。図21(b)、(d)は、それぞれ、図21(a)、(c)のグラフにおいて、1~4000μsecの領域を拡大して示している。
【0199】
図21(a)~(d)に示す結果から、送信ビーム方位の送信波形を圧縮フィルタ係数に用いることにより、時間軸サイドローブの少ない良好なパルス圧縮が可能である。図21(a)~(d)では、100msecのパルス幅が、3msec程度に圧縮された。したがって、受信信号を処理する図11の受信信号処理部133に、さらに、各方位の送信
ビームの送信波形に応じた係数をもつ圧縮フィルタを設けることにより、各送信ビームの方位における距離分解能を高めることができる。
【0200】
さらに、本実施形態においても、上記第2実施形態と同様、送信ビーム間の間隔が広いため、この間隔にさらに送信ビームを補間するために、上記第3実施形態と同様、送信パケットごとに極性を反転させる手法の適用を検討した。
【0201】
図22(a)、(b)は、上記条件のリニアチャープ信号により送信を行った場合の音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【0202】
このシミュレーションでは、図20(a)、(b)のシミュレーションの条件において、スキャン期間τごとに、リニアチャープ信号の極性を反転させた。その他のシミュレーション条件は、図20(a)、(b)と同様であった。
【0203】
図22(a)、(b)を参照すると、図20(a)、(b)の隣り合う送信ビームの間の方位を補間する送信ビームが形成されていることが分かる。よって、スキャン期間τごとに極性が反転したリニアチャープ信号を用いて送波を行う第1送信工程と、スキャン期間τごとに極性が反転していないリニアチャープ信号を用いて送波を行う第2送信工程とを組み合わせることにより、各送信工程によって送信ビーム間の方位を相補的に補間することができる。これにより、θ方向に連続的に探知範囲を画像化することができる。
【0204】
図23(a)、(b)は、それぞれ、図22(a)、(b)において送信ビームが形成された方位2°の自己相関関数を示すグラフであり、図23(c)、(d)は、それぞれ、図22(a)、(b)において送信ビームが形成された方位16°の自己相関関数を示すグラフである。図23(b)、(d)は、それぞれ、図23(a)、(c)のグラフにおいて、1~4000μsecの領域を拡大して示している。
【0205】
図23(a)~(d)に示す結果からも、図21(a)~(d)と同様、送信ビーム方位の送信波形を圧縮フィルタ係数に用いることにより、時間軸サイドローブの少ない良好なパルス圧縮が可能であることが分かった。図23(a)~(d)においても、100msecのパルス幅が、3msec程度に圧縮された。したがって、この場合も、上記と同様、圧縮フィルタを用いることにより、各送信ビームの方位における距離分解能を高めることができる。
【0206】
なお、第5実施形態においても、第4実施形態と同様、第1送信工程および第2送信工程を連続的に行う制御に代えて、奇数番目または偶数番目の送信パケット(スキャン期間)のみを送信する制御が行われてもよい。
【0207】
<第6実施形態>
上記第2~第4実施形態では、全ての送信パケットのスキャンが一方のみにおいて行われる。ただし、送信パケットのスキャン方向は、これに限られるものではない。第6実施形態では、奇数番目の送信パケットと、偶数番目の送信パケットとで、音源Sの移動方向、すなわち、スキャン方向が反転される。
【0208】
この場合、音源Sを一方向にスキャンさせた後、時間の隙間を与えずに反対方向に音源Sをスキャンさせる。すなわち、音源Sを複数回往復移動させる。具体的には、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12は、一端の送波素子から他端の送波素子まで順番に連続的に駆動され、その後、時間の隙間なく、他端の送波素子から一端の送波素子まで順番に連続的に駆動される。
【0209】
図24は、第1送波アレイ11および第2送波アレイ12に対し複数回往復スキャンが行われた場合の音場の状態を模式的に示す図である。
【0210】
各スキャンによる送信パケットは,方位θに応じて時間圧縮されキャリア周波数が変化する。また、奇数番目の送信パケットと偶数番目の送信パケットでスキャン方向が逆になっていることから、奇数番目と偶数番目とで送信パケットの圧縮比率が異なる。各スキャンの速度をVodd、Vevenとすると、奇数番目および偶数番目の送信パケットの圧縮比率rodd(θ)およびreven(θ)は次式で表される。
【0211】
【数6】
【0212】
【数7】
【0213】
図24および上記式(6)、(7)から分かるとおり、方位θでは、圧縮と伸張が交互に行われる。
【0214】
さらに、奇数番目の送信パケットと偶数番目の送信パケットとで送信周波数が互いに異なっていてもよい。この場合、奇数番目の送信パケットの送信周波数と、偶数番目の送信パケットの送信周波数は、それぞれ、他方の送信パケットの送信に影響のない周波数に設定される。
【0215】
図25は、奇数番目の送信パケットと偶数番目の送信パケットとで送信周波数を変化させて往復スキャンを10回行った場合の音場のスペクトルと方位との関係をシミュレーションにより求めたシミュレーション結果を示す図である。
【0216】
シミュレーション条件は、以下のとおりである。
【0217】
音源掃引長:L=16λo(λo:150kHzにおける波長)
スキャン時間(1スキャンあたり):τ=1msec
奇数番目の送信パケット:f0=150kHz、Veven=160msec
偶数番目の送信パケット:f0=170kHz、Vodd=160msec
【0218】
上記条件で、音源Sを10往復させた。すなわち、音源Sの往路の移動により奇数番目の送信パケットが形成され、音源Sの復路の移動により偶数番目の送信パケットが形成された。往路と復路の音源Sの移動速度は、同一に設定した。
【0219】
図25に示すように、1つの方位に2つの周波数成分が含まれることが分かる。実施形態6においても、上記第2~第5実施形態と同様に、バンドパスフィルタ(または圧縮フィルタ)やFFTで周波数を分離することで、各方位の受信信号を取得することができる
【0220】
なお、この送信方法では、奇数番目の送信パケットと偶数番目の送信パケットの期間とが周波数によって分離されているため、上記第4実施形態と同様、奇数番目の送信パケットの送信周期は長くなり、送信ビームの間隔が狭くなる。同様に、偶数番目の送信パケットの送信周期も長くなり、送信ビームの間隔が狭くなる。よって、送信ビームの間隔を狭めることができ、θ方向に連続的に探知範囲を画像化することができる。
【0221】
第6実施形態では、第4実施形態において送信が停止された送信パケットにおいても送信が行われるため、1検出単位におけるパルスの送信エネルギーを顕著に高めることができる。
【0222】
なお、図25のシミュレーションでは音源Sが往復移動されたが、奇数番目の送信パケットと偶数番目の送信パケットとで、音源Sの移動方向、すなわち、送信パケットのスキャン方向が同じであってもよい。この場合も、奇数番目の送信パケットの送信周波数と、偶数番目の送信パケットの送信周波数とを、他方の送信パケットの送信に影響のない周波数に設定すればよい。これにより、1つの方位に2つの周波数成分が含まれる周波数スペクトルを形成でき、1検出単位におけるパルスの送信エネルギーを顕著に高めることができる。
【0223】
また、第6実施形態においても、上記第5実施形態と同様、送信信号としてチャープ信号を用いてパルス圧縮が行われてもよい。
【符号の説明】
【0224】
1 物標検出装置
11 第1送波アレイ
11a 第1送波素子
12 第2送波アレイ
12a 第2送波素子
31 受波アレイ
31a 受波素子
101 制御部
111 第1送信信号生成部
113 第1信号切替部
121 第2送信信号生成部
123 第2信号切替部
133 受信信号処理部
S11 第1送信信号
S12 第2送信信号
EP1~EP5 等周波数面
【用語】
【0225】
必ずしも全ての目的または効果・利点が、本明細書中に記載される任意の特定の実施形態に則って達成され得るわけではない。従って、例えば当業者であれば、特定の実施形態は、本明細書中で教示または示唆されるような他の目的または効果・利点を必ずしも達成することなく、本明細書中で教示されるような1つまたは複数の効果・利点を達成または最適化するように動作するように構成され得ることを想到するであろう。
【0226】
本明細書中に記載される全ての処理は、1つまたは複数のコンピュータまたはプロセッサを含むコンピューティングシステムによって実行されるソフトウェアコードモジュールにより具現化され、完全に自動化され得る。コードモジュールは、任意のタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体または他のコンピュータ記憶装置に記憶することができる。一部または全ての方法は、専用のコンピュータハードウェアで具現化され得る。
【0227】
本明細書中に記載されるもの以外でも、多くの他の変形例があることは、本開示から明らかである。例えば、実施形態に応じて、本明細書中に記載されるアルゴリズムのいずれかの特定の動作、イベント、または機能は、異なるシーケンスで実行することができ、追加、併合、または完全に除外することができる (例えば、記述された全ての行為または事象がアルゴリズムの実行に必要というわけではない)。さらに、特定の実施形態では、動作またはイベントは、例えば、マルチスレッド処理、割り込み処理、または複数のプロセッサまたはプロセッサコアを介して、または他の並列アーキテクチャ上で、逐次ではなく、並列に実行することができる。さらに、異なるタスクまたはプロセスは、一緒に機能し得る異なるマシンおよび/またはコンピューティングシステムによっても実行され得る。
【0228】
本明細書中に開示された実施形態に関連して説明された様々な例示的論理ブロックおよびモジュールは、プロセッサなどのマシンによって実施または実行することができる。プロセッサは、マイクロプロセッサであってもよいが、代替的に、プロセッサは、コントローラ、マイクロコントローラ、またはステートマシン、またはそれらの組み合わせなどであってもよい。プロセッサは、コンピュータ実行可能命令を処理するように構成された電気回路を含むことができる。別の実施形態では、プロセッサは、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、またはコンピュータ実行可能命令を処理することなく論理演算を実行する他のプログラマブルデバイスを含む。プロセッサはまた、コンピューティングデバイスの組み合わせ、例えば、デジタル信号プロセッサ(デジタル信号処理装置)とマイクロプロセッサの組み合わせ、複数のマイクロプロセッサ、DSPコアと組み合わせた1つ以上のマイクロプロセッサ、または任意の他のそのような構成として実装することができる。本明細書中では、主にデジタル技術に関して説明するが、プロセッサは、主にアナログ素子を含むこともできる。例えば、本明細書中に記載される信号処理アルゴリズムの一部または全部は、アナログ回路またはアナログとデジタルの混合回路により実装することができる。コンピューティング環境は、マイクロプロセッサ、メインフレームコンピュータ、デジタル信号プロセッサ、ポータブルコンピューティングデバイス、デバイスコントローラ、または装置内の計算エンジンに基づくコンピュータシステムを含むが、これらに限定されない任意のタイプのコンピュータシステムを含むことができる。
【0229】
特に明記しない限り、「できる」「できた」「だろう」または「可能性がある」などの条件付き言語は、特定の実施形態が特定の特徴、要素および/またはステップを含むが、他の実施形態は含まないことを伝達するために一般に使用される文脈内での意味で理解される。従って、このような条件付き言語は、一般に、特徴、要素および/またはステップが1つ以上の実施形態に必要とされる任意の方法であること、または1つ以上の実施形態が、これらの特徴、要素および/またはステップが任意の特定の実施形態に含まれるか、または実行されるかどうかを決定するための論理を必然的に含むことを意味するという訳ではない。
【0230】
語句「X、Y、Zの少なくとも1つ」のような選言的言語は、特に別段の記載がない限り、項目、用語等が X, Y, Z、のいずれか、又はそれらの任意の組み合わせであり得ることを示すために一般的に使用されている文脈で理解される(例: X、Y、Z)。従って、このような選言的言語は、一般的には、特定の実施形態がそれぞれ存在するXの少なくとも1つ、Yの少なくとも1つ、またはZの少なくとも1つ、の各々を必要とすることを意味するものではない。
【0231】
本明細書中に記載されかつ/または添付の図面に示されたフロー図における任意のプロセス記述、要素またはブロックは、プロセスにおける特定の論理機能または要素を実装するための1つ以上の実行可能命令を含む、潜在的にモジュール、セグメント、またはコードの一部を表すものとして理解されるべきである。代替の実施形態は、本明細書中に記載された実施形態の範囲内に含まれ、ここでは、要素または機能は、当業者に理解されるように、関連する機能性に応じて、実質的に同時にまたは逆の順序で、図示または説明されたものから削除、順不同で実行され得る。
【0232】
特に明示されていない限り、「一つ」のような数詞は、一般的に、1つ以上の記述された項目を含むと解釈されるべきである。従って、「~するように設定された一つのデバイス」などの語句は、1つ以上の列挙されたデバイスを含むことを意図している。このような1つまたは複数の列挙されたデバイスは、記載された引用を実行するように集合的に構成することもできる。例えば、「以下のA、BおよびCを実行するように構成されたプロセッサ」は、Aを実行するように構成された第1のプロセッサと、BおよびCを実行するように構成された第2のプロセッサとを含むことができる。加えて、導入された実施例の具体的な数の列挙が明示的に列挙されたとしても、当業者は、このような列挙が典型的には少なくとも列挙された数(例えば、他の修飾語を用いない「2つの列挙と」の単なる列挙は、通常、少なくとも2つの列挙、または2つ以上の列挙を意味する)を意味すると解釈されるべきである。
【0233】
一般に、本明細書中で使用される用語は、一般に、「非限定」用語(例えば、「~を含む」という用語は「それだけでなく、少なくとも~を含む」と解釈すべきであり、「~を持つ」という用語は「少なくとも~を持っている」と解釈すべきであり、「含む」という用語は「以下を含むが、これらに限定されない。」などと解釈すべきである。) を意図していると、当業者には判断される。
【0234】
説明の目的のために、本明細書中で使用される「水平」という用語は、その方向に関係なく、説明されるシステムが使用される領域の床の平面または表面に平行な平面、または説明される方法が実施される平面として定義される。「床」という用語は、「地面」または「水面」という用語と置き換えることができる。「垂直/鉛直」という用語は、定義された水平線に垂直/鉛直な方向を指します。「上側」「下側」「下」「上」「側面」「より高く」「より低く」「上の方に」「~を越えて」「下の」などの用語は水平面に対して定義されている。
【0235】
本明細書中で使用される用語の「付着する」、「接続する」、「対になる」及び他の関連用語は、別段の注記がない限り、取り外し可能、移動可能、固定、調節可能、及び/または、取り外し可能な接続または連結を含むと解釈されるべきである。接続/連結は、直接接続及び/または説明した2つの構成要素間の中間構造を有する接続を含む。
【0236】
特に明示されていない限り、本明細書中で使用される、「およそ」、「約」、および「実質的に」のような用語が先行する数は、列挙された数を含み、また、さらに所望の機能を実行するか、または所望の結果を達成する、記載された量に近い量を表す。例えば、「およそ」、「約」及び「実質的に」とは、特に明示されていない限り、記載された数値の10%未満の値をいう。本明細書中で使用されているように、「およそ」、「約」、および「実質的に」などの用語が先行して開示されている実施形態の特徴は、さらに所望の機能を実行するか、またはその特徴について所望の結果を達成するいくつかの可変性を有する特徴を表す。
【0237】
上述した実施形態には、多くの変形例および修正例を加えることができ、それらの要素は、他の許容可能な例の中にあるものとして理解されるべきである。そのような全ての修正および変形は、本開示の範囲内に含まれることを意図し、以下の請求の範囲によって保護される。
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