(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】テンプレートなしの酵素によるポリヌクレオチド合成における効率的生成物切断
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20240815BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C12N15/10 Z ZNA
C12P19/34 A
(21)【出願番号】P 2021547080
(86)(22)【出願日】2020-02-11
(86)【国際出願番号】 EP2020053417
(87)【国際公開番号】W WO2020165137
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-02-01
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516304610
【氏名又は名称】ディーエヌエー スクリプト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】クレトン, サンドリーヌ
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/216472(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/134616(WO,A1)
【文献】Nat. Commun.,2013年08月05日,Vol.4, No.2271,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の配列を有するポリヌクレオチドを合成する方法であって、前記方法は、
a)3’-最後から2番目のデオキシイノシンおよび遊離3’-ヒドロキシルを有する3’-末端ヌクレオチドを有する開始剤を提供する工程;
b)(i)伸長条件下で、前記開始剤または遊離3’-O-ヒドロキシルを有する伸長したフラグメントと、3’-O-ブロックされたヌクレオシド三リン酸および
末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼとを接触させ、その結果、前記開始剤または伸長したフラグメントは、3’-O-ブロックされたヌクレオシド三リン酸の取り込みによって伸長されて、3’-O-ブロックされ伸長したフラグメントを形成する工程、ならびに(ii)前記伸長したフラグメントを脱ブロックして、前記ポリヌクレオチドが形成されるまで、遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長したフラグメントを形成する工程、のサイクルを反復する工程;
c)前記ポリヌクレオチドをエンドヌクレアーゼV活性で処理して、前記ポリヌクレオチドを前記開始剤から切断
し、その結果、前記開始剤から切断された前記ポリヌクレオチドが5’-モノホスフェートを有する工程、
を包含する方法。
【請求項2】
前記エンドヌクレアーゼV活性は、原核生物エンドヌクレアーゼVによって提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原核生物エンドヌクレアーゼVは、E.coliエンドヌクレアーゼVである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記原核生物エンドヌクレアーゼVを前記切断されたポリヌクレオチドから除去する工程をさらに包含する、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記開始剤は、5’末端によって支持体に付着される、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記支持体は、固体支持体である、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記開始剤は、5’-dI-dT-3’の3’-末端配列を有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法によりポリヌクレオチドを酵素的に合成するためのキットであって、5’末端によって支持体に付着され、かつ3’-最後から2番目のデオキシイノシンおよび遊離3’-ヒドロキシルを有する3’-末端ヌクレオチドを有する開始剤を含
み、
開始剤-ポリヌクレオチド結合体を、前記開始剤の末端ヌクレオチドの3’側で切断し得るエンドヌクレアーゼV、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ、ならびに、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、チミジン、デオキシウリジンおよびデオキシシチジンのうちの1または複数のための、3’-O-ブロックされたヌクレオシド三リン酸をさらに含む、キット。
【請求項9】
前記開始剤は、5’-dI-dT-3’の3’-末端配列を有す
る、請求項
8に記載のキット。
【請求項10】
前記支持体は、固体支持体である、請求項
8又は9に記載のキット。
【請求項11】
脱ブロッキング剤をさらに含む、請求項
8~
10のいずれか1項に記載のキット。
【請求項12】
前記3’-O-ブロックされたヌクレオシド三リン酸は、3’-O-NH
2-ヌクレオシド三リン酸である、請求項
8に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
ポリヌクレオチド合成の酵素によるアプローチにおける関心事は、多くの分野(例えば、合成生物学、CRISPR-Cas9適用、ハイスループットシーケンシングなど)において合成ポリヌクレオチドの需要の増大およびポリヌクレオチド合成の化学的アプローチの制限の両方が原因で、近年増大している。Jensenら, Biochemistry, 57: 1821-1832 (2018)。現在、大部分の酵素によるアプローチは、テンプレートなしのポリメラーゼを使用して、3’-O-ブロックされたヌクレオシド三リン酸を、支持体に付着した1本鎖開始剤または伸長した鎖に繰り返し付加し、続いて、所望の配列のポリヌクレオチドが得られるまで脱ブロックする。このような酵素による合成の実際的な実行を考案するという難題の中には、所望のポリヌクレオチド生成物を、開始剤配列および支持体から切断する、費用効果的かつ効率的方法を見出すことがある。
【0002】
上記に鑑みると、酵素によるポリヌクレオチド合成は、方法が、ポリヌクレオチド生成物の、それらの1本鎖開始剤からの高効率切断に利用可能であるならば、進歩すると思われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Jensenら, Biochemistry, 57: 1821-1832 (2018)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の要旨
本発明は、エンドヌクレアーゼV活性を使用して、ポリヌクレオチド生成物をその開始剤から効率的に切断する工程を含むかまたは可能にするテンプレートなしの酵素によるポリヌクレオチド合成のための方法およびキットに関する。
【0005】
1つの局面において、本発明の方法は、以下の工程を有する、所定の配列のポリヌクレオチドを合成する方法を含む:a)遊離3’-ヒドロキシルを有する3’-末端ヌクレオチドに対して最後から2番目のデオキシイノシンを有する開始剤を提供する工程;b)(i)伸長条件下で、遊離3’-O-ヒドロキシルを有する上記開始剤または伸長したフラグメントと、3’-O-ブロックされたヌクレオシド三リン酸およびテンプレート非依存性DNAポリメラーゼとを接触させて、その結果、前記開始剤または伸長したフラグメントは、3’-O-ブロックされたヌクレオシド三リン酸の取り込みによって伸長されて、3’-O-ブロックされ伸長したフラグメントを形成する工程、ならびに(ii)上記伸長したフラグメントを脱ブロックして、上記ポリヌクレオチドが形成されるまで、遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長したフラグメントを形成する工程、のサイクルを反復する工程;ならびにc)上記ポリヌクレオチドをエンドヌクレアーゼV活性で処理して、上記ポリヌクレオチドを上記開始剤から切断する工程。
【0006】
本発明は、有利なことには、その3’末端の最後から二番目の位置にデオキシイノシンを有する開始剤を提供することによって、酵素によるポリヌクレオチド合成の分野にある上記の問題を克服する。これは、その末端ヌクレオチドにおいて1本鎖開始剤の効率的切断を可能にし、5’-モノホスフェートを有するポリヌクレオチド生成物を放出する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の切断効率を示すための実験設定を図示する。
【
図2】
図2は、USER/デオキシウリジン切断およびEndo V/イノシン切断の効率を比較するデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
本発明の一般原理は、特に例示(例えば、図面に示され、詳細に記載されるもの)によって、本明細書でより詳細に開示される。しかし、本発明が、発明を記載される特定の実施形態に限定するべきではないことは理解されるべきである。本発明は、種々の改変および代替の形態を受け入れる余地がある。その具体的なものは、いくつかの実施形態に関して示される。この意図は、本発明の原理および範囲の中に入る全ての改変、等価物、および選択肢を網羅することである。
【0009】
本発明の実施は、別段示されなければ、当該分野の技術範囲内である、従来技術、ならびに有機化学、分子生物学(組み換え技術を含む)、細胞生物学、および生化学の説明を使用し得る。このような従来技術としては、合成ペプチド、合成ポリヌクレオチド、モノクローナル抗体、核酸クローニング、増幅、配列決定および分析、ならびに関連技術の調製および使用が挙げられ得るが、これらに限定されない。いくつかの従来技術のプロトコールは、製造業者の製品文献、ならびに標準実験マニュアル(例えば、Genome Analysis: A Laboratory Manual Series (Vols. I-IV); PCR Primer: A Laboratory Manual;およびMolecular Cloning: A Laboratory Manual(全てCold Spring Harbor Laboratory Pressから); Lutz and Bornscheuer, 編者, Protein Engineering Handbook(Wiley-VCH, 2009); Hermanson, Bioconjugate Techniques, 第2版(Academic Press, 2008);および同様の参考文献)に見出され得る。
【0010】
本発明は、一部は、他の切断可能なヌクレオチド(例えば、デオキシウリジン)と比較して、エンドヌクレアーゼV活性および開始剤の3’末端ヌクレオチドに対して最後から2番目のデオキシイノシンを使用して、ポリヌクレオチド生成物を開始剤から切断する効率の認識および理解に基づく。1つの局面において、最後から2番目のデオキシイノシンを有する開始剤上での末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)による合成開始は、他の切断可能なヌクレオチド構成上での開始より遙かに効率的であると考えられる。
【0011】
図1は、最後から2番目のデオキシイノシンを有する開始剤を使用する、テンプレートなしの酵素による合成法のダイアグラムを提供する。この描写において、開始剤(100)がそれらの5’末端によって固体支持体(105)に付着されていることが示される。各開始剤(102)は、遊離3’ヒドロキシルを有する3’-末端ヌクレオチド(106)の次に、3’-最後から2番目のデオキシイノシン(104)を有する。酵素による取り込みおよび脱ブロッキングの所定のサイクル数のあとに、ポリヌクレオチド生成物が生成され、これは、開始剤(102)によって固体支持体(105)に付着されている。上記ポリヌクレオチド生成物は、その付着した生成物を、デオキシイノシンの存在を認識しかつ開始剤の末端ヌクレオチド(106)の3’側(112)にある鎖を切断するエンドヌクレアーゼV活性で処理することによって、開始剤(102)および支持体(105)から切断される。いくつかの実施形態において、上記エンドヌクレアーゼV活性は、原核生物エンドヌクレアーゼVを使用することによって提供される。さらに他の実施形態において、上記エンドヌクレアーゼVは、E.coliエンドヌクレアーゼVである。本明細書で使用される場合、用語「エンドヌクレアーゼV活性(endonuclease V activity)」とは、1本鎖DNAにおける以下の切断反応:5’ …NNINNNN …-3’ → 5’-… NNIN + 5’-PO
4-NNNN … -3’(ここでNは、任意のヌクレオチドであり、Iは、デオキシイノシンである)を触媒する酵素活性を意味する。エンドヌクレアーゼV活性によるポリヌクレオチド(116)の切断(114)は、上記ポリヌクレオチド上の5’-モノホスフェートを残し、これは、必要に応じて、それらを5’-ホスファターゼで処理することによって除去され得る。
【0012】
エンドヌクレアーゼV活性を有する酵素は、商業的な酵素供給業者、例えば、New England Biolabs(Beverly, MA, USA)、NzyTech(Lisbon, Portugal)から入手可能である。このような酵素は、その供給業者の推奨される切断緩衝液(例えば、50mM K-Ac、20mM Tris-Ac、10mM Mg-Ac、1mM DTT(pH7.9))とともに使用され得る。代表的な切断条件は、以下のとおりである: 樹脂上で500pmol合成スケールに対して37℃において、50μlのNzytech緩衝液中の70UのEndo V。代表的な切断時間は、5~60分間、または10~30分間である。必要に応じて、上記の酵素のエンドヌクレアーゼ活性は、65℃またはこれより高い温度において20分間インキュベートすることによって熱不活性化され得る。必要に応じて、NzytechエンドヌクレアーゼVは、最終生成物の調製において反応混合物から酵素の簡便な除去を可能にするHisタグを含む。
【0013】
テンプレートなしの酵素による合成
テンプレートなしの酵素によるポリヌクレオチド合成は、テンプレートなしのポリメラーゼ(例えば、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT))(3’-O-ブロックされたデオキシヌクレオシド三リン酸(3’-O-ブロックされたdNTP)により効率的に適応するように操作されたその改変体を含む)を使用する種々の公知のプロトコールによって行われ得る。例えば、Ybertら, 国際特許公開WO/2015/159023; Ybertら, 国際特許公開WO/2017/216472; Hyman, 米国特許第5436143号; Hiattら, 米国特許第5763594号; Jensenら, Biochemistry, 57: 1821-1832 (2018); Mathewsら, Organic & Biomolecular Chemistry, DOI: 0.1039/c6ob01371f (2016); Schmitzら, Organic Lett., 1(11): 1729-1731 (1999)。
【0014】
いくつかの実施形態において、ヌクレオチドの指示された配列は、各合成工程において3’-O-可逆的にブロックされたdNTPの存在下で、TdTを使用して開始剤核酸にカップリングされる。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドを合成する上記方法は、(a)遊離3’-ヒドロキシルを有する開始剤を提供する工程;(b)伸長条件下で、上記開始剤または遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長中間体と、TdTとを、3’-O-ブロックされたヌクレオシド三リン酸の存在下で反応させて、3’-O-ブロックされた伸長中間体を生成する工程;(c)上記伸長中間体を脱ブロックして、遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長中間体を生成する工程;ならびに(d)工程(b)および(c)を、上記ポリヌクレオチドが合成されるまで反復する工程を包含する(ときおり、「伸長中間体(extension intermediate)」は、「伸長フラグメント(elongation fragment)」ともいわれる)。いくつかの実施形態において、開始剤は、固体支持体に、例えば、その5’末端によって付着されるオリゴヌクレオチドとして提供される。上記の方法はまた、反応工程、または伸長工程の後、および脱ブロックする工程の後に、洗浄工程を含み得る。例えば、反応させる工程は、組み込まれていないヌクレオシド三リン酸を、例えば、所定のインキュベーション期間、または版の時間の後に、洗浄する工程によって除去する部分工程を含み得る。このような所定のインキュベーション期間または反応時間は、数秒(例えば、30秒間)から数分間(例えば、30分間)であり得る。
【0015】
上記の方法はまた、反応工程、または伸長工程の後、および脱ブロックする工程の後に、洗浄工程と同様にキャップ形成する工程を含み得る。上述のように、いくつかの実施形態において、キャップ形成する工程が含まれてもよく、この工程において、伸長されていない遊離3’-ヒドロキシルは、キャップ形成された鎖の任意のさらなる伸長を防止する化合物と反応される。いくつかの実施形態において、このような化合物は、ジデオキシヌクレオシド三リン酸であり得る。他の実施形態において、遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長されていない鎖は、それらを、3’-エキソヌクレアーゼ活性(例えば、Exo I)で処理することによって分解され得る。例えば、Hyman,米国特許第5436143号を参照のこと。同様に、いくつかの実施形態において、脱ブロックされていない鎖は、処理されて、鎖を除去するかまたはそれをさらなる伸長に対して不活性にするかのいずれかであり得る。
【0016】
オリゴヌクレオチドの連続的合成を含むいくつかの実施形態において、キャップ形成する工程は、望ましくないこともある。なぜならキャップ形成する工程は、等モル量の複数のオリゴヌクレオチドの生成を防止し得るからである。キャップ形成をしない場合、配列は、欠失エラーの一様な分布を有するが、複数のオリゴヌクレオチドの各々は、等モル量で存在する。これは、伸長されていないフラグメントがキャップ形成される場合ではない。
【0017】
いくつかの実施形態において、伸長工程(extension or elongation step)の反応条件は、以下を含み得る: 2.0μM 精製TdT;125~600μM 3’-O-ブロックされたdNTP(例えば、3’-O-NH2-ブロックされたdNTP);約10~約500mM カコジル酸カリウム緩衝液(6.5~7.5の間のpH)および約0.01~約10mMの二価カチオン(例えば、CoC12またはMnC12)。ここで上記伸長反応は、50μL 反応容積において、室温~45℃の範囲内の温度で、3分間行われ得る。3’-O-ブロックされたdNTPが3’-O-NH2-ブロックされたdNTPである実施形態において、脱ブロックする工程の反応条件は、以下を含み得る: 700mM NaNO2; 1M 酢酸ナトリウム(酢酸で4.8~6.5の範囲のpHに調節される)。ここで上記脱ブロック反応は、50μL容積において、室温~45℃の範囲内の温度で、30秒間から数分間行われ得る。
【0018】
特定の適用に依存して、脱ブロックするおよび/または切断する工程は、種々の化学的条件または物理的条件(例えば、光、熱、pH、特定された化学的結合を切断し得る特定の試薬(例えば、酵素)の存在)を含み得る。3’-O-ブロッキング基および相当する脱ブロックする条件を選択するにあたってのガイダンスは、参考として援用される以下の文献に見出され得る: 米国特許第5808045号;同第8808988号;国際特許公開WO91/06678;および以下で引用される参考文献。いくつかの実施形態において、切断剤(ときおり、脱ブロッキング試薬または脱ブロッキング薬剤ともいわれる)は、化学的切断剤(例えば、例えば、ジチオスレイトール(DTT))である。代替の実施形態において、切断剤は、酵素による切断剤(例えば、3’-ホスフェートブロッキング基を切断し得るホスファターゼのような)であり得る。脱ブロッキング剤の選択が、使用される3’-ヌクレオチドブロッキング基のタイプ、1個または多数のブロッキング基が使用されているか否か、開始剤が温和な処理を必要とする、生きている細胞もしくは生物に、または固体支持体などに付着されているのか否かに依存することは、当業者によって理解される。例えば、ホスフィン(例えば、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP))は、3’O-アジドメチル基を切断するために使用され得る、パラジウム錯体は、3’O-アリル基を切断するために使用され得る、または亜硝酸ナトリウムは、3’O-アミノ基を切断するために使用され得る。特定の実施形態において、上記切断反応は、TCEP、パラジウム錯体または亜硝酸ナトリウムを要する。
【0019】
上記で注記されるように、いくつかの実施形態において、直交する脱ブロッキング条件を使用して除去され得る2またはこれより多くのブロッキング基を使用することが望ましい。ブロッキング基の以下の例示的な対は、並行合成実施形態(例えば、上記で記載されるもの)において使用され得る。他のブロッキング基の対、または2より多くを含む基が、本発明のこれらの実施形態における使用に利用可能であり得ることは、理解される。
【表3】
【0020】
生きている細胞上でのオリゴヌクレオチドの合成は、温和な脱ブロッキング条件、または脱保護条件、すなわち、細胞膜を破壊しない、タンパク質を変性させない、重要な細胞機能に干渉しないなどの条件を必要とする。いくつかの実施形態において、脱保護条件は、細胞生存と適合性の生理学的な条件の範囲内である。このような実施形態において、酵素による脱保護は、生理学的な条件下で行われ得ることから望ましい。いくつかの実施形態において、特異的な酵素によって除去可能なブロッキング基は、それらの除去のための特異的酵素と関連付けられる。例えば、エステルベースまたはアシルベースのブロッキング基は、エステラーゼ(例えば、アセチルエステラーゼなどの酵素)で除去され得、ホスフェートブロッキング基は、3’ホスファターゼ(例えば、T4ポリヌクレオチドキナーゼ)で除去され得る。例示すると、3’-O-ホスフェートは、100mM Tris-HCl(pH 6.5)、10mM MgC12、5mM 2-メルカプトエタノール、および1U T4ポリヌクレオチドキナーゼの溶液での処理によって除去され得る。上記反応は、37℃の温度において1分間進められる。
【0021】
「3-ホスフェートがブロックされた(3’-phosphate-blocked)」または「3’-ホスフェート保護された(3’-phosphate-protected)」ヌクレオチドとは、3’-位におけるヒドロキシル基が、ホスフェート含有部分の存在によってブロックされているヌクレオチドをいう。本発明に従う3’-ホスフェート-ブロックされたヌクレオチドの例は、ヌクレオチジル-3’-ホスフェートものエステル/ヌクレオチジル-2’,3’-環式ホスフェート、ヌクレオチジル-2’-ホスフェートモノエステルおよびヌクレオチジル-2’または3’-アルキルホスフェートジエステル、ならびにヌクレオチジル-2’または3’-ピロホスフェートである。このような化合物のチオホスフェートまたは他のアナログはまた、置換が、ホスファターゼによって遊離3’-OHを生じる脱リン酸化を防止しないことを条件として、使用され得る。
【0022】
3’-O-エステル-保護dNTPまたは3’-O-ホスフェート-保護dNTPの合成および酵素による脱保護のさらなる例は、以下の参考文献に記載される: Canardら, Proc. Natl. Acad. Sci., 92:10859-10863 (1995); Canardら, Gene, 148: 1-6 (1994); Cameronら, Biochemistry, 16(23): 5120-5126 (1977); Rasolonjatovoら, Nucleosides & Nucleotides, 18(4&5): 1021-1022 (1999); Ferreroら, Monatshefte fur Chemie, 131: 585-616 (2000); Taunton-Rigbyら, J. Org. Chem., 38(5): 977-985 (1973); Uemuraら, Tetrahedron Lett., 30(29): 3819-3820 (1989); Beckerら, J. Biol. Chem., 242(5): 936-950 (1967); Tsien, 国際特許公開WO1991/006678。
【0023】
本明細書で使用される場合、「開始剤(initiator)」(または等価な用語、例えば、「開始フラグメント(initiating fragment)」、「開始剤核酸(initiator nucleic acid)、「開始剤オリゴヌクレオチド(initiator oligonucleotide)」など)は、テンプレートなしのポリメラーゼ(例えば、TdT)によってさらに伸長され得る、遊離3’末端を有する短いオリゴヌクレオチド配列をいう。1つの実施形態において、上記開始フラグメントは、DNA開始フラグメントである。代替の実施形態において、上記開始フラグメントは、RNA開始フラグメントである。1つの実施形態において、上記開始フラグメントは、3~100個の間のヌクレオチド、特に、3~20個の間のヌクレオチドを有する。1つの実施形態において、上記開始フラグメントは、1本鎖である。代替の実施形態において、上記開始フラグメントは、2本鎖で有る。特定の実施形態において、5’-一級アミンで合成された開始剤オリゴヌクレオチドは、製造業者のプロトコールを使用して、磁性ビーズに共有結合的に連結され得る。同様に、3’-一級アミンで合成された開始剤オリゴヌクレオチドは、製造業者のプロトコールを使用して、磁性ビーズに共有結合的に連結され得る。本発明の実施形態に伴う使用を受け入れる余地がある種々の他の付着化学現象は、当該分野で周知である(例えば、Integrated DNA Technologies brochure, “Strategies for Attaching Oligonucleotides to Solid Supports,” v.6 (2014); Hermanson, Bioconjugate Techniques, 第2版(Academic Press, 2008);および同様の参考文献)。
【0024】
本発明において使用される3’-O-ブロックされたdNTPのうちの多くは、商業的販売者から購入され得るか、または公開された技術(例えば、米国特許第7057026号;国際特許公開WO2004/005667、WO91/06678; Canardら, Gene(上記で引用); Metzkerら, Nucleic Acids Research, 22: 4259-4267 (1994); Mengら, J. Org. Chem., 14: 3248-3252 (3006);米国特許公開2005/037991)を使用して合成され得る。いくつかの実施形態において、上記改変されたヌクレオチドは、プリンまたはピリミジン塩基およびこれに共有結合的に付着された、除去可能な3’-OHブロッキング基を有するリボースまたはデオキシリボース糖部分を含む改変されたヌクレオチドまたはヌクレオシド分子を含み、その結果、3’炭素原子は、以下の構造の付着された基を有する:
-O-Z
ここで-Zは、-C(R’)2-O-R”、-C(R’)2-N(R”)2、-C(R’)2-N(H)R”、-C(R’)2-S-R”および-C(R’)2-Fであり、ここで各R”は、除去可能な保護基であるかまたはその一部であり;各R’は、独立して、水素原子、アルキル、置換されたアルキル、アリールアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、複素環式、アシル、シアノ、アルコキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシもしくはアミド基、あるいは連結基を通じて付着された検出可能な標識であり;ただし、いくつかの実施形態において、このような置換基は、10個までの炭素原子および/または5個までの酸素もしくは窒素ヘテロ原子を有するか;または(R’)2は、式 =C(R”’)2の基を表し、ここで各R”’は、同じであってもことなっていてもよく、水素原子およびハロゲン原子を含む基並びにアルキル基から選択され、ただしいくつかの実施形態において、各R’”のアルキルは、1~3個の炭素原子を有し;ここで上記分子は、各R”がHの代わりに交換される中間体を生じるように反応され得るか、またはZが-(R’)2-Fである場合、Fは、OH、SHもしくはNH2(好ましくはOH)の代わりに交換され、その中間体は、遊離3’-OHを有する分子を得るために水性条件下で解離し;ただしZが-C(R’)2-S-R”である場合、両方のR’基は、Hではない。ある特定の実施形態において、改変されたヌクレオチドまたはヌクレオシドのR’は、アルキルまたは置換されたアルキルであるが、ただしこのようなアルキルまたは置換されたアルキルは、1~10個の炭素原子および0~4個の酸素もしくは窒素ヘテロ原子を有する。ある特定の実施形態において、改変されたヌクレオチドまたはヌクレオシドの-Zは、式 -C(R’)2-N3のものである。ある特定の実施形態において、Zは、アジドメチル基である。
【0025】
いくつかの実施形態において、Zは、200またはこれより小さい分子量を有する、ヘテロ原子ありまたはなしの切断可能な有機部分である。他の実施形態において、Zは、100またはこれより小さい分子量を有する、ヘテロ原子ありまたはなしの切断可能な有機部分である。他の実施形態において、Zは、50またはこれより小さい分子量を有する、ヘテロ原子ありまたはなしの切断可能な有機部分である。いくつかの実施形態において、Zは、200またはこれより小さい分子量を有する、ヘテロ原子ありまたはなしの酵素により切断可能な有機部分である。他の実施形態において、Zは、100またはこれより小さい分子量を有する、ヘテロ原子ありまたはなしの酵素により切断可能な有機部分である。他の実施形態において、Zは、50またはこれより小さい分子量を有する、ヘテロ原子ありまたはなしの酵素により切断可能な有機部分である。他の実施形態において、Zは、200またはこれより小さい分子量を有する、酵素により切断可能なエステル基である。他の実施形態において、Zは、3’-ホスファターゼによって切断可能なホスフェート基である。いくつかの実施形態において、以下の3’-ホスファターゼのうちの1または複数は、製造業者の推奨されるプロトコールとともに使用され得る: T4ポリヌクレオチドキナーゼ、仔ウシ腸アルカリホスファターゼ、組換えエビアルカリホスファターゼ(例えば、New England Biolabs, Beverly, MAから入手可能)。
【0026】
さらなる特定の実施形態において、上記3’-ブロックされたヌクレオチド三リン酸は、3’-O-アジドメチル、3’-O-NH2または3’-O-アリル基のいずれかによってブロックされる。
【0027】
さらに他の実施形態において、本発明の3’-O-ブロッキング基としては、3’-O-メチル、3’-O-(2-ニトロベンジル)、3’-O-アリル、3’-O-アミン、3’-O-アジドメチル、3’-O-tert-ブトキシエトキシ、3’-O-(2-シアノエチル)、および3’-O-プロパルギルが挙げられる。
【0028】
いくつかの実施形態において、3’-O-保護基は、電気化学的に不安定な基である。すなわち、脱保護または保護基の切断は、切断を生じる保護基の近くで電気化学的条件を変化させることによって達成される。電気化学的条件におけるこのような変化は、物理的な量(例えば、補助的な種(これは、次に、保護基の部位において電気化学的条件における変化(例えば、pHの増大または低下)を引き起こす)を活性化させる、電位差または光)を変化させるかまたは適用することによってもたらされ得る。いくつかの実施形態において、電気化学的に不安定な基は、例えば、pHを所定の値へと変化させれば常に切断されるpH感受性の保護基を含む。他の実施形態において、電気化学的に不安定な基は、還元条件または参加条件を変化させれば常に、例えば、保護基の部位において電位差を増大または減少させることによって、直接的に切断される保護基を含む。
【0029】
いくつかの実施形態において、酵素による合成法は、3’-O-改変されたヌクレオシド三リン酸に関して増大した取り込み活性を示すTdT改変体を使用する。例えば、このようなTdT改変体は、Championら, 米国特許第10435676号(これは、本明細書に参考として援用される)に記載される技術を使用して生成され得る。いくつかの実施形態において、TdT改変体が使用され、それは、配列番号2と少なくとも60%同一の、ならびに位置207にある第1のアルギニンにおける置換および位置325にある第2のアルギニンにおける置換、またはその機能的に等価な残基を有するアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)改変体が使用され、これは、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15から選択されるアミノ酸配列と少なくとも60%同一の、配列番号2、3、4、6、7、9、12および13に関して位置207にある、配列番号5に関して位置206にある、配列番号8および10に関して位置208にある、配列番号11に関して位置205にある、配列番号14に関して位置216にある、ならびに配列番号15に関して位置210にあるアルギニン(第1のアルギニン)の置換;ならびに配列番号2、9および13に関して位置325にある、配列番号3および4に関して位置324にある、配列番号320に関して位置320にある、配列番号6および8に関して位置331にある、配列番号11に関して位置323にある、配列番号12および15に関して位置328にある、ならびに配列番号14に関して位置338にあるアルギニン(「第2のアルギニン」)の置換;またはその機能的に等価な残基を有するアミノ酸配列を有する;ここで上記TdT改変体は、(i)テンプレートなしで核酸フラグメントを合成し得る、および(ii)核酸フラグメントの遊離3’-ヒドロキシル上に3’-O-改変されたヌクレオチドを取り込み得る。いくつかの実施形態において、上記の%同一性の値は、示された配列番号と少なくとも80%同一性である;いくつかの実施形態において、上記の%同一性の値は、示された配列番号と少なくとも90%同一性である;いくつかの実施形態において、上記の%同一性の値は、示された配列番号と少なくとも95%同一性である;いくつかの実施形態において、上記の%同一性の値は、少なくとも97%同一性である;いくつかの実施形態において、上記の%同一性の値は、少なくとも少なくとも98%同一性である;いくつかの実施形態において、上記の%同一性の値は、少なくとも少なくとも99%同一性である。本明細書で使用される場合、参照配列と改変体配列とを比較するために使用される上記の%同一性の値は、上記改変体配列の置換を含む明示的に特定されたアミノ酸位置を含まない;すなわち、%同一性の関係性は、参照タンパク質の配列と、改変体において置換を含む明示的に特定された位置以外の改変体タンパク質の配列との間にある。従って、例えば、参照配列および改変体配列が各々、100アミノ酸から構成され、上記改変体配列が位置25および81において変異を有するとすれば、その%相同性は、1~24、26~80および82~100の配列に関するものである。
【0030】
(ii)に関して、このような3’-O-改変されたヌクレオチドは、3’-O-NH2-ヌクレオシド三リン酸、3’-O-アジドメチル-ヌクレオシド三リン酸、3’-O-アリル-ヌクレオシド三リン酸、3’O-(2-ニトロベンジル)-ヌクレオシド三リン酸、または3’-O-プロパルギル-ヌクレオシド三リン酸を含み得る。
【0031】
いくつかの実施形態において、本発明において使用されるTdT改変体は、表1または他のTdTにおける機能的に等価な残基位置に示される置換を有する。
【表1】
【0032】
上記で記載されるとおりの本発明のTdT改変体は各々、示された置換の存在を条件として、特定された配列番号との%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、このようにして記載される本発明のTdT改変体と特定される配列番号との間の配列差の数およびタイプは、置換、欠失および/または挿入に起因し得、その置換、欠失および/または挿入されたアミノ酸は、任意のアミノ酸を含み得る。いくつかの実施形態において、このような欠失、置換および/または挿入は、天然に存在するアミノ酸のみを含む。いくつかの実施形態において、置換は、Grantham, Science, 185: 862-864 (1974)に記載されるように、保存的、または同義のアミノ酸変化のみを含む。すなわち、アミノ酸の置換は、その同義のアミノ酸のセットのメンバーの中でのみ起こり得る。いくつかの実施形態において、使用され得る同義のアミノ酸のセットは、表2Aに示される。
【表2A】
【0033】
いくつかの実施形態において、使用され得る同義のアミノ酸のセットは、表2Bに示される。
【表2B】
【0034】
キット
本発明は、本発明の方法を行うためのキットを含む。いくつかの実施形態において、本発明のキットは、5’末端によって支持体に付着され、3’末端に対して最後から2番目のデオキシイノシンおよび遊離3’-ヒドロキシルを有する開始剤を含む。いくつかの実施形態において、本発明のキットは、上記開始剤の末端ヌクレオチドの3’側で開始剤-ポリヌクレオチド結合体を切断し得るエンドヌクレアーゼVをさらに含む。いくつかのこのようなキットにおいて、上記エンドヌクレアーゼVは、反応混合物からの除去を可能にする捕捉部分を有する。いくつかのキットにおいて、このような捕捉部分は、Hisタグである。いくつかの実施形態において、キットの開始剤は、5’-dI-dT-3’の3’末端配列を有する。いくつかの実施形態において、キットの開始剤は、5’-dI-dG-3’の3’末端配列を有する。いくつかの実施形態において、キットの開始剤は、5’-dI-dA-3’の3’末端配列を有する。いくつかの実施形態において、キットの開始剤は、5’-dI-dT-3’、5’-dI-dG-3’、または5’-dI-dA-3’の3’末端配列を有する。いくつかの実施形態において、このような支持体は、固体支持体である。このような固体支持体は、ビーズ(例えば、磁性ビーズ)、平らな固体(例えば、ガラススライド)、または膜などを含み得る。いくつかの実施形態において、本発明のキットは、テンプレートなしのポリメラーゼ、ならびにデオキシアデノシン、デオキシグアノシン、チミジン、デオキシウリジンおよびデオキシシチジンのうちの1または複数の3’-O-ブロックされたヌクレオシド三リン酸をさらに含み得る。いくつかのキットにおいて、このようなテンプレートなしのポリメラーゼは、TdTであり得る。いくつかの実施形態において、このようなTdTは、本明細書で記載されるTdT改変体であり得る。いくつかの実施形態において、本発明のキットは、3’ブロッキング基を、組み込まれた、3’-O-ブロックされたヌクレオチドから除去し得る脱ブロッキング剤をさらに含み得る。
【実施例】
【0035】
この実施例において、デオキシイノシン/Endo V切断を使用するということの効率は、デオキシウリジン/USER切断と比較され、dIに隣接するヌクレオチドの切断に対する効果が評価される。dIを含む5’-アミノ-ポリ(dT)オリゴヌクレオチドを、従来の反応において、EDCを使用して磁性ビーズのカルボキシル基にカップリングした。全ての実験において、開始剤は、(1)5’-10マーポリTセグメント、続いて、デオキシイノシンおよび3’末端dT、または(2)5’-10マーポリTセグメント、続いて、末端デオキシウリジン、のいずれかを含んだ。いくつかの実験では、開始剤を、20マーポリTセグメント、続いて、Cy5色素で標識した最後のdAによって伸長し、全て、TdT酵素および3’-O-NH2-ブロックされたヌクレオシド三リン酸を使用した(標識された末端dAを除く)。他の実験では、上記開始剤を、示されたジヌクレオチド配列、続いて、18マーポリ(dT)およびCy5色素で標識した最後のdAによって伸長し、全て、TdT酵素および3’-O-NH2-ブロックされたヌクレオシド三リン酸を使用した(標識された末端dAを除く)。示されるとおりの(USERまたはEndo V)切断後に、その切断した標識ポリヌクレオチドを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した。
【0036】
図2は、末端デオキシウリジンを有する開始剤の合成生成物と、最後から2番目のデオキシイノシンを有する開始剤の合成生成物とを比較する電気泳動データを示す。デオキシウリジン開始剤に相当するゲルの左側にある4個のラダーのバンドは、最も右側の10個のラダーにおいて、デオキシイノシン開始剤の相当するバンドより有意に強い失敗配列を示す。これは、最後から2番目のデオキシイノシンを有する開始剤が、末端デオキシウリジンを有する開始剤より効率的な合成を生じることを示す。
【0037】
定義
本明細書中で特段具体的に定義されなければ、本明細書で使用される核酸化学、生化学、遺伝学、および分子生物学の用語および記号は、当該分野の標準的な決まりごとおよび教科書のもの(例えば、Kornberg and Baker, DNA Replication, 第2版(W.H. Freeman, New York, 1992); Lehninger, Biochemistry, 第2版(Worth Publishers, New York, 1975); Strachan and Read, Human Molecular Genetics, 第2版(Wiley-Liss, New York, 1999))に従う。
【0038】
2またはこれより多くの異なるTdTにおけるアミノ酸位置を参照して「機能的に等価な(functionally equivalent)」とは、(i)それぞれの位置におけるアミノ酸が、TdTの活性において同じ機能的役割を果たす、および(ii)アミノ酸が、それぞれのTdTのアミノ酸配列における相同なアミノ酸位置に存在することを意味する。2またはこれより多くの異なるTdTのアミノ酸配列における位置的に等価なまたは相同なアミノ酸残基を、配列アラインメントおよび/または分子モデリングに基づいて同定することは可能である。いくつかの実施形態において、機能的に等価なアミノ酸位置は、進化的に関連する種、例えば、属、科などのTdTのアミノ酸配列の中で保存されている配列モチーフに属する。このような保存された配列モチーフの例は、Moteaら, Biochim. Biophys. Acta. 1804(5): 1151-1166 (2010); Delarueら, EMBO J., 21: 427-439 (2002);および同様の参考文献に記載される。
【0039】
「キット」とは、本発明の方法を行うための材料または試薬を送達ための任意の送達システムに言及する。反応アッセイの文脈において、このような送達システムは、1つの場所から別の場所まで、反応試薬(例えば、適切な容器中の、互いにクエンチする蛍光標識のような蛍光標識、蛍光標識連結薬剤、酵素、クエンチする薬剤など)および/もしくは支持材料(例えば、緩衝液、アッセイを行うための書面による説明書など)の貯蔵、輸送、または送達を可能にする、システムおよび/または化合物(例えば、希釈剤、界面活性剤、キャリアなど)を含む。例えば、キットは、関連する反応試薬および/または支持材料を含む1または複数の封入容器(例えば、箱)を含む。このような内容物は、意図された受取人に、一緒にまたは別個に送達され得る。例えば、第1の容器は、アッセイにおいて使用するための酵素を含み得る一方で、第2のまたはこれより多くの容器は、互いにクエンチする蛍光標識および/またはクエンチする薬剤を含む。
【0040】
「変異体(mutant)」または「改変体(variant)」は、交換可能に使用され、本明細書で記載される天然または参照TdTポリペプチドに由来し、1または複数の位置において改変または変更(すなわち、置換、挿入、および/または欠失)を含むポリペプチドに言及する。改変体は、当該分野で周知の種々の技術によって得られ得る。特に、野生型タンパク質をコードするDNA配列を変更するための技術の例としては、部位指向性変異誘発、ランダム変異誘発、配列シャフリングおよび合成オリゴヌクレオチド構築が挙げられるが、これらに限定されない。変異誘発活性は、タンパク質の、または本発明の場合では、ポリメラーゼの配列において1または数個のアミノ酸を欠失、挿入または置換することにある。
【0041】
「ポリヌクレオチド(polynucleotide)」または「オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)」は、交換可能に使用され、各々、ヌクレオチドモノマーまたはそのアナログの直線状のポリマーを意味する。ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドを構成するモノマーは、モノマー-対-モノマー相互作用の正常のパターン(例えば、ワトソン-クリックタイプの塩基対合、塩基スタッキング、フーグスティーンまたは逆フーグスティーンタイプの塩基対合など)によって天然のポリヌクレオチドに特異的に結合し得る。このようなモノマーおよびそれらのヌクレオシド間連結は、天然に存在していてもよいし、そのアナログであってもよい(例えば、天然に存在するアナログまたは天然に存在しないアナログ)。天然に存在しないアナログは、PNA、ホスホロチオエートヌクレオシド間連結、標識(例えば、発蛍光団、またはハプテンなど)の結合を可能にする連結基を含む塩基を含み得る。オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの使用が酵素によるプロセシング(例えば、ポリメラーゼによる伸長、リガーゼによるライゲーションなど)を必要とする場合は常に、当業者は、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが、それらの場合に、任意のまたはいくつかの位置において、ヌクレオシド間連結、糖部分、または塩基のある特定のアナログを含まないことを理解する。ポリヌクレオチドは、代表的に、それらが通常は「オリゴヌクレオチド」といわれる場合の数個のモノマー単位(例えば、5~40)から、数千ものモノマー単位までのサイズの範囲に及ぶ。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドが文字配列(大文字または小文字)によって表される(例えば、「ATGCCTG」)場合は常に、別段示されなければ、または文脈から明らかでなければ、そのヌクレオチドは、左から右に5’→3’の順序にあること、および「A」はデオキシアデノシンを示し、「C」はデオキシシチジンを示し、「G」はデオキシグアノシンを示し、「T」はチミジンを示し、「I」はデオキシイノシンを示し、「U」はウリジンを示すことを理解する。別段注記されなければ、用語法および原子番号付けの慣習は、Strachan and Read, Human Molecular Genetics 2(Wiley-Liss, New York, 1999)に開示されるものに従う。通常は、ポリヌクレオチドは、ホスホジエステル結合によって連結された4種の天然のヌクレオシド(例えば、DNAについてはデオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシン、デオキシチミジンまたはRNAについてはそれらのリボース対応物)を含む;しかし、それらはまた、非天然のヌクレオチドアナログ(例えば、改変された塩基、糖、またはヌクレオシド間連結を含む)を含み得る。酵素が活性のために特異的オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質要件を有する(例えば、1本鎖DNA、RNA/DNA二重鎖など)を有する場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質の適切な組成の選択が、特に、決まりごとからのガイダンス(例えば、Sambrookら, Molecular Cloning, 第2版(Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1989)、および同様の参考文献)とともに、当業者の知識の十分に範囲内であることは、当業者に明らかである。同様に、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドは、1本鎖形態または2本鎖形態(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの二重鎖およびそのそれぞれの相補体)のいずれかに言及し得る。どの形態が、または両方の形態がその用語使用の文脈から意図されるのかは、当業者に明らかである。
【0042】
「プライマー(primer)」とは、ポリヌクレオチドテンプレートとともに二重鎖を形成する際に、核酸合成の開始点として作用し、その3’末端からテンプレートに沿って伸長され、その結果、伸長した二重鎖を形成することができる、天然または合成いずれかのオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーの伸長は通常、核酸ポリメラーゼ(例えば、DNAまたはRNAポリメラーゼ)とともに行われる。伸長プロセスにおいて付加されるヌクレオチドの配列は、そのテンプレートポリヌクレオチドの配列によって決定される。通常、プライマーは、DNAポリメラーゼによって伸長される。プライマーは通常、14~40ヌクレオチドの範囲の、または18~36ヌクレオチドの範囲の長さを有する。プライマーは、種々の核酸増幅反応(例えば、単一のプライマーを使用する線形増幅反応、または2もしくはこれより多くのプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応)において使用される。特定の適用のためのプライマーの長さおよび配列を選択するためのガイダンスは、参考として援用される以下の参考文献によって証明されるように、当業者に周知である: Dieffenbach, 編, PCR Primer: A Laboratory Manual, 第2版(Cold Spring Harbor Press, New York, 2003)。
【0043】
「配列同一性(sequence identity)」とは、2つの配列(例えば、2つのポリペプチド配列または2つのポリヌクレオチド配列)間のマッチ(例えば、同一のアミノ酸残基)の数(または割合。通常はパーセンテージとして表される)に言及する。配列同一性は、配列ギャップを最小限にしながら、重なり合いおよび同一性を最大化するように整列される場合に、配列を比較することによって決定される。特に、配列同一性は、その2つの配列の長さに依存して、多くの数学的な全体のまたは局所のアラインメントアルゴリズムのうちのいずれかを使用して決定され得る。類似の長さの配列は、好ましくは、全体のアラインメントアルゴリズム(例えば、全体の長さにわたって配列を最適に整列させるNeedleman and Wunschアルゴリズム; Needleman and Wunsch, 1970)を使用して整列される一方で、実質的に異なる長さの配列は、好ましくは、局所のアラインメントアルゴリズム(例えば、Smith and Watermanアルゴリズム(Smith and Waterman, 1981)またはAltschulアルゴリズム(Altschulら, 1997; Altschulら, 2005))を使用して整列される。%アミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当該分野の技術範囲内である種々の方法において、例えば、インターネットウェブサイト(例えば、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/ または ttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/)上で入手可能な、公的に利用可能なコンピューターソフトウェアを使用して達成され得る。当業者は、比較されている配列の全長にわたって最大限のアラインメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含め、アラインメントを測定するための適切なパラメーターを決定し得る。本明細書中の目的のために、%アミノ酸配列同一性値は、Needleman-Wunschアルゴリズムを使用して2つの配列の最適な全体のアラインメントを作製するペアワイズ配列アラインメントプログラムEMBOSS Needleを使用して生成される値に言及し、ここで全ての検索パラメーターは、デフォルト値に設定される(すなわち、スコアリングマトリクス=BLOSUM62、ギャップオープン=10、ギャップ伸長=0.5、末端ギャップペナルティー=仮(false)、末端ギャップオープン=10および末端ギャップ伸長=0.5)。
【0044】
「置換(substitution)とは、1つのアミノ酸残基が別のアミノ酸残基によって置き換えられることを意味する。好ましくは、用語「置換」とは、1つのアミノ酸残基を、天然に存在する標準の20アミノ酸残基、希な天然に存在するアミノ酸残基(例えば、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、アロヒドロキシリジン、6-N-メチルリジン、N-エチルグリシン、N-メチルグリシン、N-エチルアスパラギン、アロ-イソロイシン、N-メチルイソロイシン、N-メチルバリン、ピログルタミン、アミノ酪酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン)、および天然に存在しないアミノ酸残基から選択され、しばしば、合成して作製される(例えば、シクロヘキシル-アラニン)別の残基によって置き換えることに言及する。好ましくは、用語「置換」は、1つのアミノ酸残基を、天然に存在する標準の20アミノ酸残基から選択される別のアミノ酸残基によって置き換えることに言及する。記号「+」は、置換の組み合わせを示す。アミノ酸は、本明細書において、以下の命名法に従うそれらの1文字コードまたは3文字コードによって表される: A:アラニン(Ala); C:システイン(Cys); D:アスパラギン酸(Asp); E:グルタミン酸(Glu); F:フェニルアラニン(Phe); G:グリシン(Gly); H:ヒスチジン(His); I:イソロイシン(Ile); K:リジン(Lys); L:ロイシン(Leu); M:メチオニン(Met); N:アスパラギン(Asn); P:プロリン(Pro); Q:グルタミン(Gln); R:アルギニン(Arg); S:セリン(Ser); T:スレオニン(Thr); V:バリン(Val); W:トリプトファン(Trp)およびY:チロシン(Tyr)。本文書において、以下の用語法が置換を指定するために使用される: L238Aは、親配列の位置238のアミノ酸残基(ロイシン、L)が、アラニン(A)に変更されていることを示す。A132V/I/Mは、親配列の位置132のアミノ酸残基(アラニン、A)が、以下のアミノ酸のうちの1つによって置換されていることを示す: バリン(V)、イソロイシン(I)、またはメチオニン(M)。上記置換は、保存的または非保存的な置換であり得る。保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジンおよびヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン、アスパラギンおよびスレオニン)、疎水性アミノ酸(メチオニン、ロイシン、イソロイシン、システインおよびバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシン)、および小さいアミノ酸(グリシン、アラニンおよびセリン)のグループ内のものである。
【0045】
本開示は、示される特定の形態の範囲に限定されることは意図されないが、本明細書で記載されるバリエーションの選択肢、改変、および均等物を網羅することが意図される。さらに、開示の範囲は、本開示に鑑みて、当業者に自明になり得る他のバリエーションを完全に含む。本発明の範囲は、添付の請求項によってのみ限定される。
【配列表】