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特許7538809プロバイオフィルムコーティング、その生成方法、およびプロバイオフィルムコーティング被覆基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】プロバイオフィルムコーティング、その生成方法、およびプロバイオフィルムコーティング被覆基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 33/00 20060101AFI20240815BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240815BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240815BHJP
   C12M 1/22 20060101ALI20240815BHJP
   C12P 1/04 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
B32B33/00
B32B9/00 Z
C12M1/00 C
C12M1/22
C12P1/04 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021549918
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 ES2020070195
(87)【国際公開番号】W WO2020193830
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】P201930265
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】515233454
【氏名又は名称】ウニベルシダッド デ ラ リオハ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE LA RIOJA
【住所又は居所原語表記】OTRI Avenida de la Paz 93, E-26006 Logrono, SPAIN
(73)【特許権者】
【識別番号】521375449
【氏名又は名称】ファンダシオン リオハ サルー
(74)【代理人】
【識別番号】100092956
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】100101018
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 正
(72)【発明者】
【氏名】サエンス ドミンゲス,ヨランダ
(72)【発明者】
【氏名】アルバ エリアス,フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】ロペス マルティネス,マリア
(72)【発明者】
【氏名】サインス ガルシア,エリーサ
(72)【発明者】
【氏名】ロサーノ フェルナンデス,カルメン
(72)【発明者】
【氏名】ムジカ ヴィダル,ロドルフォ
(72)【発明者】
【氏名】ロホ ベサレス,ベアトリス
(72)【発明者】
【氏名】ゴンサレス マルコス,アナ
(72)【発明者】
【氏名】トレダノ レガラド,パウラ
(72)【発明者】
【氏名】ムーロ フラグアス,イグナチオ
【審査官】橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-173715(JP,A)
【文献】特表2018-511668(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03015495(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第103030305(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0040854(US,A1)
【文献】MUGICA-VIDAL, Rodolfo et al.,Reducing friction on glass substrates by atmospheric plasma-polymerization of APTES,Surface and Coatings Technology,2016年10月12日,Vol.309,pp.1062-1071
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C12M 1/00
C12M 1/22
C12P 1/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリアによるバイオフィルムの生成を促進する酸化的ストレスを生成する炭素・酸素基すなわちC-O、O-C=OおよびC=Oを備えた前駆体の低温大気圧プラズマ重合によって、基板に適用されるプロバイオフィルムコーティングであって、前記コーティングは、前記基板上において100%を上回るバイオフィルムの形成を促すような粗度を有するプロバイオフィルムコーティング(ここで100%のバイオフィルムとは、前記プロバイオフィルムコーティングなしで同一基板上に形成されるものである)であって、
前記コーティングを構成する前駆体物質は、(3ーアミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)と、ポリエチレングリコルメチルエテルメタクリレート(PEGMA、MW:500)およびイソプロパノール(IPA)の混合物とを含む群から選択されることを特徴とするプロバイオフィルムコーティング。
【請求項2】
前記コーティングを構成する前駆体物質はAPTESであり、前記コーティングは10nmを上回る最小平均粗度(Ra)を有することを特徴とする、請求項1に記載のプロバイオフィルムコーティング。
【請求項3】
前記コーティングを構成する前駆体物質はPEGMAおよびIPAの混合物であり、前記コーティングは160nmを上回る最小平均粗度(Ra)を有することを特徴とする、請求項1に記載のプロバイオフィルムコーティング。
【請求項4】
前記基板はポリスチレンおよびガラスを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のプロバイオフィルムコーティング。
【請求項5】
バクテリアによるバイオフィルムの生成を促進する酸化的ストレスを生成する炭素・酸素基すなわちC-O、O-C=OおよびC=Oを備えたプロバイオフィルムコーティングを製造する方法であって、前記コーティングを構成する前駆体物質は、(3ーアミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)と、ポリエチレングリコルメチルエテルメタクリレート(PEGMA、MW:500)およびイソプロパノール(IPA)の混合物とを含む群から選択され、
前記方法は、低温大気圧プラズマ流を適用することと、基板上において100%を上回るバイオフィルムの形成を促すような粗度を得るまで、前記前駆体物質を基板面にコーティングすることを含む(ここで100%のバイオフィルムとは、前記プロバイオフィルムコーティングなしで同一基板上に形成されるものである)方法。
【請求項6】
前記低温大気圧プラズマ流を適用すると同時に、コーティングされる前記基板と前記プラズマ流との間の相対移動を行うことによって、前記基板の表面全体を被覆するステップをさらに経ることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前駆体物質を用いず、プラズマによって前記基板の表面を活性化させる事前ステップをさらに経ることを特徴とする、請求項5および6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記適用される低温大気圧プラズマ流 プラズマであることを特徴とする、請求項5~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記低温大気圧プラズマ流は、80slmのNからなることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記前駆体物質は、 の1.5slmの流れで輸送される液相で適用されることを特徴とする、請求項5乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記基板は、ポリスチレンおよびガラスを含む群から選択されることを特徴とする、請求項5乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記コーティングの適用は、前記基板の表面全体に均一に行われることを特徴とする、請求項5乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1乃至4のいずれかに記載のプロバイオフィルムコーティングを少なくとも一つの面に適用された、コーティング付き基板。
【請求項14】
前記基板は、シャーレであることを特徴とする請求項13に記載のコーティング付き基板。
【請求項15】
バクテリアによるバイオフィルムの生成を促進する酸化的ストレスを生成する炭素・酸素基すなわちC-O、O-C=OおよびC=Oを備えた前駆体の低温大気圧プラズマ重合の、インビトロ研究での基板上へのプロバイオフィルムコーティング生成のための使用であって、
前記コーティングを構成する前駆体物質は、(3ーアミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)と、ポリエチレングリコルメチルエテルメタクリレート(PEGMA、MW:500)およびイソプロパノール(IPA)の混合物とを含む群から選択されることを特徴とする使用。
【請求項16】
前記基板は、シャーレであることを特徴とする請求項15に記載の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌制御の分野に関し、具体的には、細菌性バイオフィルムの制御、特に細菌性バイオフィルムの発生促進に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは、水、多糖、タンパク質、脂質、核酸および他の生体高分子を含む、マトリクス状の細胞外高分子物質に囲まれた微生物の集合体である。この細胞外基質は、その表面への微生物の付着を促し、不利な環境条件および抗菌剤から微生物を保護し、媒介物からの栄養摂取を助長することによって微生物の増殖を促進する。
【0003】
バイオフィルムの生成は、以下のステップで行われる。初期の固定ステップにおいて、細菌性細胞が、固体表面に付着および定着する。本ステップに続き、増殖ステップおよび成熟ステップにおいて、細胞間伝達系を活性化して、微小コロニーおよび細胞外基質の形成を開始することで、成熟した最適密度のバイオフィルム構造を得る。最後に、分散ステップにおいて、細菌性細胞またはバイオフィルムの構成物質が、それらから分離および移動して他の表面に定着するが、このことは持続的な伝播および汚染源があることを示す。
【0004】
多くの場合、バイオフィルムの生成は一連の問題および有害な結果をもたらすことになる。したがって、抗バイオフィルムコーティングまたはその方法等、主にバイオフィルムの生成防止および除去に重点を置いた技術が使用、開発されている。
【0005】
バイオフィルムは、それらが生成された製品または表面を劣化させるだけでなく、病原微生物によって形成される際には、製品汚染および公衆衛生上のリスクとなることから、食品、薬品または医療業界において深刻な懸念材料となる。例えば、食品加工、食品加工装置ならびにそれらの接触面上から病原性バイオフィルムを除去することは、食品微生物学的質の最適な状態を保証する上で、極めて重要である。バイオフィルムは、自由生活性(プランクトン様)の病原菌、特に、制御困難な汎存微生物の保護または放出が可能な貯蔵庫の機能を果たし、これにより製品上に細菌が持続的に存在することとなり、食品の二次汚染が発生し、明らかな食品安全性のリスクが生じる。
【0006】
しかし、バイオフィルムのさらなる生成が優位に働く状況もある。その一例として、診断および治療方法の確立を目的とした、医療業界におけるケースが挙げられる。研究室において、病原(疾患誘引)微生物に関する研究を行う場合(生体外)、この微生物が患者の体内と同様の動きを見せることが望ましい(生体内)。従来、微生物学研究室の研究活動は、プランクトン様細菌の隔離およびその感度研究の実施に重点を置いてきた。しかし、同一細菌がバイオフィルムにて増殖する場合に、その細菌に対する抗菌剤(殺生物剤を含む)の感度データを推定することは、治療不全、産業技術上の問題、慢性感染症の再発、食品または機械面の汚染可能性の増加を含む、多数の問題を生む。
【0007】
微生物の生体外研究を行うためには、適切な生体内治療を施すことが可能な、簡素かつ管理可能なモデルを有することが望ましい。これによって、抗生物質製剤の誤選択または不十分な投与量といった問題を防ぐことができる。さらに、前述の生体外研究の進行を早めるため、同一モデルのバイオフィルムを早急に生成できるプロバイオフィルムコーティングを有することが望ましい。
【0008】
所定のバイオフィルムの発生促進が望まれる他のケースとしては、食品業界および環境バイオレメディエーションまたは生分解工程が挙げられる。これらの場合、例えば、培養タンクに導入し、有用微生物を植菌する際に、バイオフィルムの生成を促進可能なプロバイオフィルムコーティングを有することが望ましい。かかる有用微生物は、さらに他の有害微生物の培養タンクへの定着を防ぐことができる。
【0009】
特開平2013ー173715には、ポリカーボネート板等の表面へのプラズマ照射処理によって、バイオフィルムを形成する方法が開示される。プラズマ処理によって、ポリカーボネートの化学的改質が生じ、これは微生物の付着に好ましく、最終的に第1のバイオフィルムが形成され得る。この第1のバイオフィルムは、新たな微生物の付着を促し、次いで、新たな微生物が新たなバイオフィルムを形成する。しかし、プラズマ処理による表面の化学的改質は、かかる表面を構成する材料に依存するので、全ての表面がかかる方法で好ましく改質されるとは限らない。さらに、プラズマ処理によってポリカーボネート面に生じる種の付着能力は、時間の経過とともに徐々に低下する。
【0010】
そのため、プロバイオフィルムコーティングが適用される面に関わらず、バイオフィルムを優位に生成し、そのプロバイオフィルム特性を経時的に保持するプロバイオフィルムコーティングを有することが望ましい。
【発明の概要】
【0011】
上述した問題を解決するために、本発明の第1の態様は、前駆体の低温大気圧プラズマ重合によって、基板に適用されるプロバイオフィルムコーティングを開示する。本発明に係るコーティングは、基板上において100%を上回るバイオフィルムの形成を促すような粗度を有する。ここで100%のバイオフィルムとは、前記プロバイオフィルムコーティングなしで同一基板上に形成されるものである。
【0012】
第2の態様において、本発明は、第1の態様にて定義したプロバイオフィルムコーティングの生成方法を開示する。当該方法は、基板上において100%を上回るバイオフィルムの形成を促すような粗度を得るまで、基板の表面に低温大気圧プラズマ流および前駆体物質を被覆することを含む。
【0013】
本発明はまた、本発明の第1の態様に係るプロバイオフィルムコーティングで被覆された基板に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明は、本発明の好ましい実施形態を一例として示す以下の各図面を参照することでさらに理解されるが、いかなる方法でも本発明を限定すると解釈されるものではない。
図1】本発明の好ましい実施形態に係るプロバイオフィルムコーティングの生成方法を実施する装置の概略断面図である。
図2】本発明の好ましい実施形態に係る、パスと、コーティングの粗度と、対照群に対して生成されたバイオフィルムの%との関係性を示すグラフであり、ポリスチレンを基板として使用し、(3ーアミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)を前駆体物質として使用している。
図3図3Aおよび3Bは、本発明の好ましい実施形態に係る、得られたコーティングの原子間力顕微鏡法(AFM)および走査電子顕微鏡法(SEM)画像をそれぞれ示し、対照群に対して得られたバイオフィルムのパーセントも併せて示す。
図4】本発明の好ましい実施形態に係る、対照群に対して得られたコーティングの粗度と、バイオフィルムの%との関係性を示すグラフであり、ポリスチレンを基板として使用し、APTESを前駆体物質として使用している。
図5】本発明の別の好ましい実施形態に係る、対照群に対して得られたコーティングの粗度と、バイオフィルムの%との関係性を示すグラフであり、ポリエチレングリコルメチルエテルメタクリレート(PEGMA)とイソプロパノール(IPA)の混合物を前駆体物質として使用している。
図6】本発明の別の好ましい実施形態に係る、得られたコーティングのSEM画像を示し、対照群に対して得られたバイオフィルムのパーセントも併せて示す。
図7】本発明の実施形態に係る、パス数に対する炭素(C)、酸素(O)、シリコン(Si)および窒素(N)の原子濃度の関係性を示すグラフである。
図8】本発明の好ましい実施形態に係る、異なるパス数での炭素の高分解能スペクトルのデコンボリューションを示すグラフを示す。
図9】本発明の好ましい実施形態に係る、コーティング粗度と、コーティングの水接触角との関係性を示すグラフである。
図10】本発明の好ましい実施形態に係る、異なるコーティングを得た経時的な細菌増殖を示すグラフである。
図11】本発明のコーティングに発生する、バイオフィルム過剰生成メカニズム(プロバイオフィルム)の図である。
図12】[a]非コーティング基板(x2000)、[b]コーティング72p(x2000)および[c]コーティング72p(x4000)のSEM(走査電子顕微鏡法)画像を表す。
図13】パスの増加に伴って、粗度が増加するバイオフィルム過剰生成図を示し、[a]非コーティング、0p、[b]4パス、4p、[c]12パス、12p、[c]72パス、72pである。
図14】APTES分子がどのように機能するかを表す図を示す。
図15】対照群と比較して、本発明の好ましい実施形態に係る、コーティングによって経時的に生成されたバイオフィルム量を示すグラフである。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0015】
プラズマとは、気体内の分子および原子をイオン化するエネルギ量が気体に供給された際に、気体が達する状態である。すなわち、気体状からプラズマ状への物質の転移は、分子結合の解離によって生じ、原子の電子数の増減を伴い、これにより正または負に帯電したイオンの形成が起こる。熱プラズマは、プラズマ粒子間の熱平衡が存在するか否かによって、低温プラズマと区別される。
【0016】
非平衡または低温プラズマにおいて、電子の温度(105~5000℃)は、大気温度(25~100℃)に近い最重粒子(中性粒子およびイオン)の温度よりも遥かに高い。したがって、低温プラズマの温度は通常、100℃未満に保たれるので、過剰加熱による低温プラズマの劣化を生じさせることなく、広範な材料の表面処理に用いられる。
【0017】
低温プラズマは、開放された環境において、大気圧で生成することができる。例えば、所定の条件を確立した真空システムまたは真空室は、不要である。これらの特性により、低温大気圧プラズマ技術は、汎用性が高く、比較的簡素かつ費用効率が高い。産業への利用の観点から、プラズマは、多数の表面処理を行う際の重要なツールとなっている。
【0018】
プラズマ処理された基板表面に対して行われる主な改質の一つとして、「プラズマ重合」がある。この改質には、液状のモノマーを前駆体として用い、液状のモノマーをプラズマ流に曝すことによって薄膜を付着することを含む。
【0019】
本発明の具体的な実施形態において、非平衡または低温大気圧プラズマ装置(APPJ)を用いたプラズマ重合方法は、研究下において、シャーレにプロバイオフィルムコーティングを適用する際に使用された。付着される異種の前駆体およびプラズマ(入力変数)の動作パラメータの選択によって、得られるコーティングの具体的な特性が決定される。表面コーティングの物理化学的特性を所定の方法によって変更する意図がある場合に、この多用途性が極めて重要である。
【0020】
本技術がさらに目を引く別の特徴としては、本技術が室温および大気圧にて機能し、既存の製造ラインへの適用可能性をさらに高めることである。
【0021】
使用されるAPPJ装置(図1参照)は、2つの同軸の電極(10、12)を備え、その間を気体(14)が流動してプラズマを生成する(この特定の場合において、80slmの窒素(N)流を用いた)。内側電極(10)が接地される一方で、外側電極(12)には、300Wの電力を有する発電機(16)によって、所定の周波数(高電圧流)が励磁される。前駆体物質(18)(液状前駆体物質を霧化し、輸送する1.5slmのN)が、内側電極(10)を介して、プラズマ(20)の作用範囲に導入される。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によると、また、図1の参照を続けると、プロバイオフィルムコーティングの生成方法は、先ず、重合性前駆体物質を用いずにプラズマジェット(例えば、Nプラズマ)によって、シャーレ(22)(またはコーティングすべき他の基板)の表面を活性化するステップを備える。この表面の活性化および清浄は、プラズマを4回通すことによって行われることが好ましい。本発明の他の実施形態において、この表面活性化の事前ステップを省略してもよいことは、当業者には明白であろう。
【0023】
次に、低温大気圧プラズマ(14)流(20)および前駆体物質(18)自体をシャーレ(22)の表面に適用するステップを行う。
【0024】
さらに、本方法は、プラズマ流の適用と同時に、コーティングされる基板とプラズマ流との間の相対移動を行うことによって、基板の表面全体を被覆するステップを備えるのが好ましい。
【0025】
表面から突出したプラズマ流(20)(前駆体物質の形質転換、輸送およびシャーレ底部上からの突出を行う)は、約10mmの直径を有する。したがって、シャーレ(22)の底部全体にコーティングを均一に適用する(好ましい実施形態)ためには、この噴流が底部全体(直径30mm)を横切らねばならない。プラズマ(80slmのN)および前駆体(前駆体物質を霧化し輸送する1.5slmのN)流が一定であると仮定すると、均一なコーティングを適用するためには、この動きが一定の速度でなければならない。
【0026】
そのため、シャーレ(22)は、プラズマ流(20)の適用と同時に、回転および(軸に沿って)移動する。一方で、プラズマ処理装置は静止状態にある。明らかに、代替的な実施形態によれば、プラズマ処理ノズルが移動する一方で、シャーレが静止していてもよい。さらに別の実施形態によれば、シャーレとプラズマ処理ノズルの双方が、互いに対して当時に移動してもよい。
【0027】
直線(接線)コーティング速度(Vt)は一定(10mm/s)である。コーティングが(所定の径で)一周行われる毎に、直線速度(Vt)が常に一定となるように回転速度(W)が修正される(縁部で減速し、中心部で加速する)。完全に一周するたびに、シャーレ(22)は、所定の前方移動距離(24)を軸心に沿って移動する。直線速度(Vt)を一定に保つことによって、適用するコーティングを均一にできる。
【0028】
「パス」は、プラズマジェットが毎回シャーレの底部全体をコーティングすることと定義される。以下に記載するように、2~96パスの適用によって、異なるコーティングを得ている。
【0029】
上述の方法にしたがい、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)または様々な比率のポリエチレングリコルメチルエテルメタクリレート(PEGMA、MW:500)およびイソプロパノール(IPA)の混合物である前駆体物質を用いて、様々なプロバイオフィルムコーティングが形成された。同様に、直径30mmの(事前のプラズマ処理済かつコーティング無しの)ポリスチレン(PS)製のシャーレ、または直径90mmのガラス製シャーレを使用した。下表1に、本発明の方法に従って製造された様々なコーティングサンプルの特性の詳細を記載する。
【0030】
【表1】
【0031】
バクテリアである緑膿菌を研究サンプル上に生成する、生成バイオフィルムの(非コーティングシャーレの対照群に生成されたバイオフィルムに対する)パーセントを数値化するため、フルオレセイン二酢酸(FDA)を用いる技術を使用した。文献によると、かかる技術は、バイオフィルム全体の微生物活動を測定し(Adam and Duncan, 2001; Schnurer and Rosswall, 1982; Taylor et al., 2001)、バイオフィルムのバイオマス量を計る(Honraet et al., 2005; Prieto et al., 2004)ために使われる。37℃での培養を24時間行った後に、バイオフィルムを数量化した。
【0032】
図2から分かるように、PS(ポリスチレン)に適用したAPTESコーティングの場合、パス数と、コーティングの粗度と、対照群(非コーティングPS基板)に対して生成されたバイオフィルムの%には直接的な関係がある。パス数を増やすと、粗度およびバイオフィルムの%も増加する。パスが生じると、コーティングの形態転移は、実質的に滑らか(2パスでRa=6.69nm)な状態から、酸化ケイ素系コーティング(APTESは、プラズマ重合すると、酸化ケイ素を生成するシロキサン)に典型的な粒状構造(96パスでRa=105nm)を呈するようになる。この粒状構造は、AFMおよびSEM画像(図3Aおよび3B参照)から確認でき、コーティングの粗度の増加(図2)を証明するものである。
【0033】
図4は、APTES系コーティングの粗度と、各APTES系コーティングに生成されたバイオフィルムの%との関係性を示す。比較サンプル(非コーティング、0p、100%バイオフィルムに相当)に生成されたコーティング数よりも少ない生成数のコーティングを生成阻害バイオフィルム(<100%)と定義し、一方、100%バイオフィルムを上回るコーティングをプロバイオフィルム(>100%)と定義する。
【0034】
これを考慮し、「プロバイオフィルム限界」は、これに基づき、(対照群0pに生成されるバイオフィルムに対して)100%を上回るバイオフィルムが得られる粗度と定義される。
【0035】
図4では、APTES系プラズマ重合によって得られ、PSに適用されるコーティングにおいて、プロバイオフィルム限界が、約10nmの最小粗度Ra(Ra:平均粗度)であることを確認できる。
【0036】
次に、PSシャーレではなく、ガラスシャーレを基板として、先の方法を繰り返した。ガラスシャーレの粗度は、PSシャーレの粗度に非常に似ている(非コーティングPS;0p→Ra=4.87±1.13nmおよび非コーティンググラス0V→Ra=4.67±0.98nm)。
【0037】
ガラスシャーレを48のパスでコーティングした。
【0038】
それ以外には、コーティング方法は、上述のPSシャーレに用いたコーティング方法と同一であり、APTESを液状前駆体物質として用いた。
【0039】
48パス(48V)でガラスシャーレに適用したコーティングは、対照群(Ra=33.2±1.27nmおよび368±18%)に対し、24パス(Ra=33.4±1.3nmおよび300±3.5%)でPS板に適用したコーティングのサンプル24pと非常に近い粗度およびバイオフィルム%を呈することが、実験的に判明した。
【0040】
この意味では、非常に近い粗度を有するAPTES系コーティングは、それが適用される基板を問わず、類似%のバイオフィルムを生成すると結論付けられる。この場合に唯一異なる点は、ガラスシャーレ上にPSに近い粗度を有するコーティングを得るためには、より多くのパス(ガラスに48パス、PSに24パス)で適用する必要があった点である。
【0041】
前述に基づき、所定の粗度を有するAPTES系コーティングは、それが塗布される基板(ポリスチレン、ガラス、その他)を問わず、類似量のバイオフィルムを生成すると結論付けられる。
【0042】
次に、APTESの代わりに、異なる濃度のPEGMA(MW500)とIPAの混合物を用いて、上述のコーティング方法を繰り返した。
【0043】
この場合、パス数を2に設定し、PEGMAとIPAの希釈物におけるPEGMAの重量パーセント(5,10,100重量%)を変えた。
【0044】
図5は、液状前駆体物質としてAPTES(前述の実施形態)とPEGMA+IPA(本実施形態)とを用いて、PSに適用したコーティングの粗度とバイオフィルムの%との関係性を示す。かかる図から、APTES系コーティングを用いて生成された量のバイオフィルムを得るには、PEGMA系コーティングの粗度を上げねばならないことが観察できる。この意味では、APTESコーティングのプロバイオフィルム限界は約10nm(これに基づき、対照群に対して100%を超えるバイオフィルムが得られる粗度)であるが、PEGMA系コーティングの場合、プロバイオフィルム限界は160nm(図5)である。
【0045】
これらの結果から、異なる前駆体物質から形成されたコーティングに共通するプロバイオフィルム限界を定義するのは不可能と結論付けられる。共通のプロバイオフィルム限界が存在しないことを証明すると考えられる理由のうち、その一つは、各前駆体物質が所定の表面パターンを有するコーティングを生成するという事実に関連し得る。仮に、表面形態(粗度)が、バイオフィルムの生成量と重要な関係性を有することを考慮すると、異なる表面パターンが微生物に異なる量のバイオフィルムを生成させると考えることが道理にかなっている。図6は、PEGMA+IPAでコーティングされた3つのサンプルのSEM画像を示す。全てのケースにおいて、コーティング面の形態が、APTESでコーティングされたサンプル(図3Aおよび3B)のコーティング面の形態とは著しく異なっていることが分かる。APTES系サンプルが粒子ベースのパターンを有する一方で、コーティング形態が繊維様パターンを形成するサンプルPG10のケースは特に興味深い。
【0046】
いかなるケースにおいても、使用した前駆体(APTESまたはPEGMA)の種類に関わらず、粗度が高まるとバイオフィルムが増加することが分かる。同様に、いかなるケースにおいても、コーティングがプロバイオフィルムとなる所定の粗度がある。
【0047】
次に、本発明の実施形態に係る、プロバイオフィルムコーティングの化学的および湿潤性に関する特性化を行った。
【0048】
化学的な特性化をX線光電子分光(XPS)解析で行い、湿潤性に関する特性化を水接触角(WPS)測定解析で行った。
【0049】
XPS解析により、コーティングのはじめの3乃至5ナノメートル(その後バイオフィルムが増殖する)の化学組成を特定および数量化できる。図7は、各研究用APTES系コーティング(非コーティング、0p,2,4,12,24,48,72および96パスでコーティング)に含まれる元素(C、O、SiおよびN)の原子濃度を示す。これらの元素(C、O、SiおよびN)は、コーティング工程中に、APTESプラズマ重合(コーティングサンプルの場合)、PS表面(非コーティングのシャーレ対照群の場合)および周囲空気から得られる。
【0050】
非コーティングサンプルの場合(0p)、PS(ポリスチレン)に含まれる典型的な濃度を特定でき、これら濃度は、コーティングサンプルの濃度(例えば、高濃度の炭素)と著しく異なる。シリコンはAPTESに含まれるので、この非コーティングサンプル(0p)のみシリコンが検出されていない。
【0051】
かかる図7に基づき、全てのコーティング面の化学組成が酷似しており、それらの粗度(または適用されたパス数)と無関係であると結論付けてもよい。
【0052】
また、XPS解析により、先に特定された元素(C、O、SiおよびN)の化学結合を特定および数量化できる。図8は、サンプル0p、2pおよび72pにおける炭素(C1s)の「総」高分解能スペクトルのデコンボリューション(または分解)を示す。
【0053】
炭素(C1s)のデコンボリューションは、表面の化学的特性化において一般的に行われている。このデコンボリューションによって、スペクトルの全領域を構成する部分スペクトルが特定される。各部分スペクトルが、炭素が結合している所定の化学結合に対応する。(所定の化学結合に関連する)各部分スペクトルの領域によって、表面上のその存在が、全化学結合に対して数値化される。
【0054】
図8は、(長方形に内接する)各化学結合に関するパーセントを示す。サンプル0p(非コーティングPSシャーレ)のデコンボリューションの場合、プラズマ処理済のPSサンプル(非コーティング、プラズマのみ)において炭素が結合する典型的な化学結合が特定される。本研究に用いたPSシャーレについては、サプライヤ(Thermo ScientificTMのNuncTMシャーレ/細胞培養)にて事前にプラズマ処理が行われ、その表面が活性化されている。このサンプル(0p)において、結合[A]芳香族C-CおよびC-H、[B]脂肪族C-CおよびC-H、[C]C-O/C-N族、[D]O-C=Oおよび[E]π-πを特定できる。グループ[A]、[B]および[E]がPS分子に由来する一方で、グループ[C]および[D]は、プラズマ処理中に形成される(PSシャーレのサプライヤが行う)。APTES系のプラズマ重合(サンプル2pおよび72p、全APTESコーティングサンプルの代表例)でPSシャーレをコーティングすると、結合[A]、[D]および[E]が消失し、結合[F]C-Siおよび[G]C=Oが重合APTESから出現する。結合[B]および[C]は、プラズマ活性PSおよび重合APTESに共通する。
【0055】
図8に示す化学結合およびパーセントの分析に基づき、コーティングサンプル(2pおよび72p)の表面の化学構造が、非コーティングサンプル(0p)と、元素の総パーセント(図7のC、O、SiおよびN)および炭素関連結合(図8)の双方に関して、著しく異なることが結論付けられる。
【0056】
さらに、両者の間で粗度が著しく異なっているにも関わらず(2pのRa=6.7nm、72pのRa=55.1nm)、コーティングサンプル(2pおよび72p、全APTESコーティングサンプルの代表例)の表面の化学構造は酷似している。
【0057】
最後に、前述に基づき、コーティング間に大きな差異はなく、このことがバイオフィルムの生成増加を証明するので、バイオフィルムの生成増加(粗度の増加)は、コーティングの化学的性質によっては決定されない。
【0058】
次に、WCA分析によって特性化を行った。WCAは、液面が個体に接触した際になす角度である。接触角度値は、主に、液体および固体間の接着力と、液体の凝集力との関係性に依存する。接着力が高いほど、WCAは低くなる。
【0059】
図9は、粗度と、研究対象のAPTES系コーティング(非コーティング、0p、2,4,12,24,48,72および96パスでコーティング)のWCAとの関係性を示す。かかる図においては、全てのコーティングサンプルが、非コーティングサンプル(0p)のWCAと酷似したWCAを有することが観察できる。このことは、コーティング面には非コーティングサンプル(0p)を上回る付着能力がないことを意味する。したがって、かかるコーティングに生成されたバイオフィルム量は、コーティングによって得られる付着の増加(WCAの低下)に依存しない。
【0060】
したがって、要約すれば、APTESを用いたPSのコーティングに対して、全てのコーティングが同一の「化学的性質」および「湿潤性」を有し、全てのコーティングが異なる「形態」および「バイオフィルム%」を有する。
【0061】
したがって、バイオフィルム%の増加は、コーティングの「化学的性質」または「湿潤性」(付着)に依存せず、むしろその「形態」の改良(粗度)に依存する。
【0062】
次に、細菌増殖について、非コーティングサンプル(0p)および2,4,12,24,48パスのコーティングを有するサンプルを用いて、24時間(0、3、6および24時間)の研究を行った(図10参照)。各サンプルの細菌増殖は、Bio-Rad 680XRマイクロプレートリーダー分光光度計を使用し、620nmの波長で吸光度を測定することによって判定した。
【0063】
図10において、コーティング12pの細菌の増殖数のみが、非コーティングサンプル(0p)を上回ったことを観察できる。すなわち、多くのコーティングサンプルでは、対照群よりも少ない数の細菌が増殖した。したがって、付着微生物の増加によって、(非コーティングサンプル、0pに対して)かかるサンプルによるバイオフィルム生成が促進されるわけではない。
【0064】
バイオフィルム「過剰生成」メカニズム
次に、本発明に係るバイオフィルム形成メカニズムを詳述する。
【0065】
バクテリアによる第1の表面定着段階において、コーティング中に存在するアミン基(NH)(APTESのプラズマ重合に由来する)の付着が促進され、次いで、炭素・酸素基(C-O、O-C=OおよびC=O、APTESおよび周囲の外気に由来する)が酸化的ストレスを発生し、酸化的ストレスによって、細菌によるバイオフィルム形成量の増加が(記載のストレスに応じて)促進される。図11は、本発明のコーティングに発生する、バイオフィルム過剰生成メカニズム(プロバイオフィルム)の図を示す。図11aは、コーティングへの細菌の初期付着の図を示す。この付着は、(正に帯電した)アミンによって(通常、負に帯電した)細菌に発生した静電気引力によるものである。図11bは、付着後のバイオフィルム過剰生成の図を示す。この過剰生成は、細菌の炭素・酸素(C-O、O-C=OおよびC=O)基によって発生した酸化的ストレスによるものである。細菌は脅威に感じ、多量のバイオフィルムを生成することによって対応する(保護)。
【0066】
細菌がコーティング面に付着すると、粗度の増加(パスの増加により発生する)によって、バイオフィルムの形成が促進される(粗度が高まるにつれて、バイオフィルムが増加する)。コーティングの粗度の増加は、酸化ケイ素(SiOx、APTESのプラズマ重合に由来する)基によって促進される。なぜなら、パスが塗布される毎に、これらの基が球形粒子の形でコーティング内に作り上げられ、パス数の増加に伴って、その集合体の大きさが増すからである。粗度の上昇によって、細菌集落の形成と、その付着と、最後に多量のバイオフィルムの生成が促進される。図12は、[a]非コーティング基板(x2000増加)、[b]コーティング72p(x2000増加)および[c]コーティング72p(x4000増加)のSEM(走査電子顕微鏡法)画像を示す。これらの画像において、各サンプルの表面に付着した細菌(緑膿菌)を特定できる。図12bと比較して、図12aにおいては、はるかに少数の細菌が見られる。図12bおよび図12cでは、コーティング72pの粗面の谷部において、細菌がどのように集合体を形成するかを観察できる。これらの画像では、顕微鏡への導入前に、サンプルの準備中にバイオフィルムが破壊されるので(サンプルの固定および脱水)、バイオフィルムを特定することはできない。
【0067】
図13は、パスの増加に伴って、コーティングの粗度が増加する(プロバイオフィルム)際のバイオフィルム生成図を示す。図13aは、非コーティング基板上における、細菌(緑膿菌)からのバイオフィルムの付着および形成段階を示す。続いて、図13b、cおよびdは、コーティングの粗度の増加(4パスから、4p、72以下、72p)に伴う、集落の形成およびバイオフィルム量の増加を示す。図13aは、図12aの画像に対応し、図13dは、図12bおよび図12cの画像に対応する。
【0068】
最後に、図14は、プラズマ重合工程において、APTES分子が大気圧で分解された後の、APTES分子の各「部」の「機能」を示す図を示す。アミノ基(NH2)が細菌の付着を促進し、炭素・酸素(C-O、O-C=OおよびC=O)基が細菌に「ストレス」を印加して、保護を目的とした多量のバイオフィルムを生成させ、最後に、酸化ケイ素(SiOx)基が、異なる集塊(そのサイズはパス数に依存する)で作り上げられることによって、さらに大きな細菌集落の形成を促進し、その結果、バイオフィルムの生成を促進する。
【0069】
最後に、本発明に係るコーティングによって、バイオフィルムの生成速度が決定された。図15は、24時間の間にサンプル0pおよび48pに生成された(FDAで計測した)バイオフィルムの量を示す(6、12および24時間経過毎に測定を行った)。かかる図において、サンプル48pに生成されたバイオフィルムは、植菌から6時間で最大量に達し、その時点(6h)で、非コーティングサンプル(0p)に生成されたバイオフィルム量よりも大幅に多いことを観察できる。所定の状況(最も効果的な抗生剤およびその投与)下にある患者に対して最適な治療を早急に決定する必要がある場合に、この速度が極めて重要となる。
【0070】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述した。しかし、以下の特許請求の範囲が定義する保護の範囲内から逸脱することなく、当業者によって様々な修正および変更が可能である。例えば、本発明の具体的な実施形態において、所定の前駆体物質および基板について説明したが、当業者は、ここに開示する教示を適用して、通常の実験によって、前駆体物質、基板およびプラズマのパス数の組み合わせを決定し、十分な粗度を有するプロバイオフィルムコーティングを提供することによって、同一の基板に生成されるプロバイオフィルムコーティングを欠くバイオフィルムと比べて、本発明に係る100%を上回るバイオフィルムの形成を促進してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15