(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】蛍光体プレート、及び発光装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20240815BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240815BHJP
C01B 21/082 20060101ALI20240815BHJP
C04B 35/443 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
G02B5/20
H01L33/50
C01B21/082 E
C04B35/443
(21)【出願番号】P 2022508140
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005179
(87)【国際公開番号】W WO2021186970
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2020047298
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雄起
(72)【発明者】
【氏名】山浦 太陽
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和弘
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018494(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/116916(WO,A1)
【文献】特開2015-199640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
H01L 33/50
C01B 21/072
C01B 21/082
C04B 35/443
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、前記母材中に含まれる蛍光体と、を含む板状の複合体を備える蛍光体プレートであって、
前記母材が、スピネルを含み、
前記蛍光体が、Si元素を有する蛍光体を含み、
前記スピネルの焼結物中に前記蛍光体が分散された構造を有しており、
Cu-Kα線を用いて測定した前記蛍光体プレートのX線回折パターンにおいて、回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある前記スピネルに対応するピーク強度を1としたとき、
回折角2θが32.5°以上34.5°以下の範囲内にあるピークの合計強度が、0.5以下を満たす、蛍光体プレート。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体プレートであって、
前記Si元素を有する蛍光体が、α型サイアロン蛍光体を含む、蛍光体プレート。
【請求項3】
請求項2に記載の蛍光体プレートであって、
前記Cu-Kα線を用いて測定した前記蛍光体プレートのX線回折パターンにおいて、回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある前記スピネルに帰属されるピーク強度を1としたとき、
回折角2θが60.2°以上62.0°以下の範囲内にあるピークの合計強度が、0.005以上0.2以下を満たす、蛍光体プレート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
前記Cu-Kα線を用いて測定した前記蛍光体プレートのX線回折パターンにおいて、回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある前記スピネルに帰属されるピーク強度を1としたとき、
回折角2θが29.0°以上31.0°以下の範囲内にあるピークの合計強度が、0.01以上を満たす、蛍光体プレート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
前記スピネルが、一般式M
2xAl
4-4xO
6-4x(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれかであり、0.2<x<0.6である)で表されるスピネルを含む、蛍光体プレート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
前記蛍光体の含有量が、前記複合体中、体積換算で、5Vol%以上50Vol%以下である、蛍光体プレート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
前記蛍光体の平均粒子径D50が、1μm以上30μm以下である、蛍光体プレート。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
当該蛍光体プレートの厚みが、50μm以上1mm以下である、蛍光体プレート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
照射された青色光を橙色光に変換して発光する波長変換体として用いる、蛍光体プレート。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の蛍光体プレートであって、
455nmの青色光における光線透過率が10%以下である、蛍光体プレート。
【請求項11】
III族窒化物半導体発光素子と、
前記III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた請求項1~10のいずれか一項に記載の蛍光体プレートと、
を備える、発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体プレート、及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで波長変換部材としては封止樹脂中に無機蛍光体を分散させたものが用いられていたが、樹脂を母材とするとLEDを用いた光源が発する熱や光により樹脂が劣化してしまうという問題があったことから、母材を無機物とした波長変換部材の検討も行われてきた。特許文献1には、母材であるガラス中に無機蛍光体が分散してなる波長変換部材が記載されている(特許文献1の請求項1)。同文献によれば、波長変換部材の形状は限定されず、板状とした蛍光体プレートに関しても記載されている(段落0054)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の蛍光体プレートにおいて、発光強度の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者の検討によれば、無機母材に比較的透明なスピネルを含めることにより、蛍光体プレート内で光の過剰散乱が抑制されるため、蛍光体プレートにおける発光強度を向上できることがわかった。
本発明者はさらに検討したところ、上記無機蛍光体としてSi元素を有する蛍光体を使用したとき、スピネルを含む蛍光体プレートにおいて発光強度が低下する恐れがあることを見出した。
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、蛍光体プレートのX線回折パターンにおいて、スピネルに帰属される特定のピークの強度と所定の2θの範囲内に存在するピークの合計強度との比を指標とすることで光学特性を安定的に評価できること、そして、このようなピーク強度比の上限を所定値以下とすることにより、蛍光体プレートの発光強度が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
母材と、前記母材中に含まれる蛍光体と、を含む板状の複合体を備える蛍光体プレートであって、
前記母材が、スピネルを含み、
前記蛍光体が、Si元素を有する蛍光体を含み、
Cu-Kα線を用いて測定した前記蛍光体プレートのX線回折パターンにおいて、回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある前記スピネルに対応するピーク強度を1としたとき、
回折角2θが32.5°以上34.5°以下の範囲内にあるピークの合計強度が、0.5以下を満たす、蛍光体プレートが提供される。
【0007】
また本発明によれば、
III族窒化物半導体発光素子と、
前記III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた上記の蛍光体プレートと、
を備える、発光装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光強度に優れた蛍光体プレート、及びそれを用いた発光装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の蛍光体プレートの構成の一例を示す模式図である。
【
図2】(a)はフリップチップ型の発光装置の構成を模式的に示す断面図であり、(b)はワイヤボンディング型の発光素子の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】蛍光体プレートの発光効率を測定するための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0011】
本実施形態の蛍光体プレートを概説する。
【0012】
本実施形態の蛍光体プレートの概要を説明する。
本実施形態の蛍光体プレートは、スピネルを含む母材と、母材中に存在するSi元素を有する蛍光体と、を含む板状の複合体(板状部材)を備える。
【0013】
Si元素を有する蛍光体としてα型サイアロン蛍光体を含む蛍光体プレートは、照射された青色光を橙色光に変換して発光する波長変換体として機能し得る。
【0014】
蛍光体プレートは、下記の手順で測定されるX線回折パターンにおいて、回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にあるスピネルに対応するピーク強度を1としたとき、回折角2θが32.5°以上34.5°以下の範囲内にあるピークの合計強度が、0.5以下を満たすように構成される。
【0015】
(X線回折パターンの測定方法)
蛍光体プレートについて、下記の測定条件に基づいてX線回折装置を用いて回折パターンを測定する。
測定対象の蛍光体プレートは、厚みが約0.18~0.22mmのものを使用してもよい。
(測定条件)
X線源:Cu-Kα線(λ=1.54184Å)、
出力設定:40kV・40mA
測定時光学条件:発散スリット=2/3°
散乱スリット=8mm
受光スリット=開放
回折ピークの位置=2θ(回折角)
測定範囲:2θ=20°~70°
スキャン速度:2度(2θ)/sec,連続スキャン
走査軸:2θ/θ
試料調製:板状の蛍光体プレートをサンプルホルダーに載せる。
ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値とする。
【0016】
本発明者の知見によれば、回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にあるスピネルに帰属されるピークの強度(Iα)と所定の2θの範囲内に存在するピークの強度の合計(Iβ)との比を指標とすることによって、Si元素を有する蛍光体を含む蛍光体プレートについての光学特性を評価できることが分かり、Iβに対応する2θ範囲についてさらに検討した結果、Iβ1として、回折角2θが32.5°以上34.5°以下の範囲内にあるピークの合計強度を用いることによって、蛍光体プレートについての光学特性を安定的に評価できることが見出された。
さらに、そのようにして見出された指標Iβ1/Iαの上限を特定の値以下とすることにより、蛍光体プレートの発光強度が向上することが判明した。
【0017】
本発明の蛍光体プレートにおいては、回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある最大ピークをスピネルに由来するピークとする。
回折角2θが32.5°以上34.5°以下の範囲内に含まれるピークは、α型サイアロンに帰属されるピークが含まれていることが好ましく、その他、β型サイアロンに帰属されるピークが含まれていてもよい。
【0018】
回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある前記スピネルに帰属されるピーク強度を1としたときの、回折角2θが32.5°以上34.5°以下の範囲内にあるピークの合計強度Iβ1の上限は、0.5以下、好ましくは0.3以下である。これにより、蛍光体プレートにおける発光強度を向上できる。
一方、上記合計強度Iβ1の下限は、とくに限定されないが、Si元素を有する蛍光体がα型サイアロン蛍光体を含む場合、例えば、0.005以上、好ましくは0.01以上である。これにより、蛍光体プレートの発光強度を向上できる。
【0019】
回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある前記スピネルに帰属されるピーク強度を1としたときの、回折角2θが60.2°以上62.0°以下の範囲内にあるピークの合計強度Iβ2の上限は、例えば、0.2以下でもよく、0.1以下でもよい。これにより、蛍光体プレートにおける発光強度を向上できる。
一方、合計強度Iβ2の下限は、例えば、0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上である。これにより、蛍光体プレートにおける発光強度を向上できる。
【0020】
回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある前記スピネルに帰属されるピーク強度を1としたときの、回折角2θが29.0°以上31.0°以下の範囲内にあるピークの合計強度Iβ3の下限は、例えば、0.01以上、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上である。これにより、蛍光体プレートにおける発光強度を向上できる。
一方、上記合計強度Iβ3の上限は、とくに限定されないが、例えば、0.5以下でもよく、0.3以下でもよい。これにより、蛍光体プレートの製造安定性を高められる。
【0021】
回折角2θが60.2°以上62.0°以下の範囲内に含まれるピークや回折角2θが29.0°以上31.0°以下の範囲内に含まれるピークは、α型サイアロンに帰属されるピークが含まれていることが好ましい。
【0022】
本実施形態では、たとえば蛍光体プレート中の蛍光体に含まれる各成分の種類や配合量、蛍光体や蛍光体プレートの調製方法等を適切に選択することにより、上記合計強度Iβ1、Iβ2、Iβ3を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、スピネル原料粉末中におけるMg/Al比を適切に調整すること等が、上記合計強度Iβ1、Iβ2、Iβ3を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0023】
上記蛍光体プレートでは、波長455nmの青色光が照射された場合、蛍光体プレートから発せられる波長変換光のピーク波長は570nm以上605nm以下であることが好ましい。また、これによれば、青色光を発光する発光素子に蛍光体プレートを組み合わせることで、輝度が高い橙色を発光する発光装置を得ることができる。
【0024】
本実施形態の蛍光体プレートの構成について詳述する。
【0025】
(母材)
上記蛍光体プレートを構成する複合体中は、蛍光体とスピネルを含む無機母材とが混在した状態となる。具体的には、複合体は、無機母材を構成する化合物の焼結物中に蛍光体が分散された構造を有してもよい。この蛍光体は、粒子状態で、スピネルを含む無機母材中に均一に分散されていてもよい。
【0026】
母材は、複合体中における主成分であってもよい。この場合、母材の含有量は、複合体中に対して、体積換算で、例えば、50Vol%以上でもよい。
【0027】
母材は、スピネルを含む無機母材で構成される。このスピネルは、一般式M2xAl4-4xO6-4x(ただし、MはMg、Mn、Znの少なくともいずれかであり、0.2<x<0.6である)で表されるスピネルを含んでもよい。
【0028】
スピネルは、通常、一般式MO(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれか)で表される金属酸化物の粉末と、Al2O3の粉末とを混合し、焼結することで得られる。
化学量論的には、スピネルはx=0.5(すなわち、一般式MAl2O4)で表される組成である。ただし、原料のMOの量とAl2O3の量の比によっては、スピネルは、MOまたはAl2O3が過剰に固溶した非化学量論組成の化合物となる。
上記一般式で表されるスピネルを含む焼結体は比較的透明である。よって、蛍光体プレート内での光の過剰散乱が抑制される。透明性の観点で、上記一般式におけるMは、Mgであることが好ましい。
【0029】
(蛍光体)
本実施形態の蛍光体は、Si元素を有する蛍光体を含む。
Si元素を有する蛍光体としては、公知のものを使用できるが、例えば、α型サイアロン蛍光体を用いてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
α型サイアロン蛍光体は、下記一般式(1)で表されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体を含んでもよい。
(M)m(1-x)/p(Eu)mx/2(Si)12-(m+n)(Al)m+n(O)n(N)16-n ・・一般式(1)
【0031】
上記一般式(1)中、MはLi、Mg、Ca、Y及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素を表し、pはM元素の価数、0<x<0.5、1.5≦m≦4.0、0≦n≦2.0を表す。nは、例えば、2.0以下でもよく、1.0以下でもよく、0.8以下でもよい。
【0032】
α型サイアロンの固溶組成は、α型窒化ケイ素の単位胞(Si12N16)のm個のSi-N結合をAl-N結合に、n個のSi-N結合をAl-O結合に置換し、電気的中性を保つために、m/p個のカチオン(M、Eu)が結晶格子内に侵入固溶し、上記一般式のように表される。特にMとして、Caを使用すると、幅広い組成範囲でα型サイアロンが安定化し、その一部を発光中心となるEuで置換することにより、紫外から青色の幅広い波長域の光で励起され、橙色の可視発光を示す蛍光体が得られる。
【0033】
一般に、α型サイアロンは、当該α型サイアロンとは異なる第二結晶相や不可避的に存在する非晶質相のため、組成分析等により固溶組成を厳密に規定することができない。α型サイアロンは、他の結晶相としてβ型サイアロン、窒化アルミニウム又はそのポリタイポイド、Ca2Si5N8、CaAlSiN3等を含んでいてもよい。
【0034】
α型サイアロン蛍光体の製造方法としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び侵入固溶元素の化合物を含む混合粉末を高温の窒素雰囲気中で加熱して反応させる方法がある。合成後のα型サイアロン蛍光体は複数の等軸状の一次粒子が焼結して塊状の二次粒子を形成する。本実施形態における一次粒子とは、粒子内の結晶方位が同一であり、単独で存在することができる最小粒子をいう。
【0035】
蛍光体の平均粒子径の下限は、例えば、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましい。これにより、発光強度を高めることができる。また、蛍光体の平均粒子径の上限は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。平均粒子径は、蛍光体の上記二次粒子における寸法である。
蛍光体の平均粒子径を5μm以上とすることにより、複合体の透明性をより高めることができる。一方、蛍光体の平均粒子径を30μm以下とすることにより、ダイサー等で蛍光体プレートを切断加工する際に、チッピングが生じることを抑制することができる。
【0036】
ここで、平均粒子径とは、レーザー回析散乱式粒度分布測定法(ベックマンコールター社製、LS13-320)により測定して得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算(積算通過分率)50%の粒子径D50をいう。
蛍光体プレート中の蛍光体の粒子径は、原料に使用した蛍光体の粒子径と略同一と考えてよい。プレート製造工程において、加熱などによっては、原料蛍光体の粒子径が変動することは殆どないためである。
【0037】
蛍光体の含有量の下限値は、複合体全体に対して、体積換算で、例えば、5Vol%以上、好ましくは10Vol%以上、より好ましくは15Vol%以上である。これにより、薄層の蛍光体プレートにおける発光強度を高めることができる。また、蛍光体プレートの光変換効率を向上できる。一方、蛍光体の含有量の上限値は、複合体全体に対して、体積換算で、例えば、50Vol%以下、好ましくは45Vol%以下、より好ましくは40Vol%以下である。蛍光体プレートの熱伝導性の低下を抑制できる。
【0038】
上記蛍光体プレートの少なくとも主面、または主面および裏面の両面における表面が表面処理されていてもよい。蛍光体プレートの主面は、発光素子の発光面に対向する面となる。
表面処理としては、例えば、ダイアモンド砥石等を用いた研削、ラッピング、ポリッシング等の研磨などが挙げられる。
上記蛍光体プレートの主面における表面粗さRaは、例えば、0.1μm以上2.0μm以下、好ましくは0.3μm以上1.5μm以下である。
一方、上記蛍光体プレートの裏面における表面粗さRaは、例えば、0.1μm以上2.0μm以下、好ましくは0.3μm以上1.5μm以下である。
上記表面粗さを上記上限値以下とすることで、光の取り出し効率や、面内方向における光強度のバラツキを抑制できる。上記表面粗さを上記下限値以上とすることで、被着体との密着性を高められることが期待される。
【0039】
上記蛍光体プレートにおいて、450nmの青色光における光線透過率の上限値は、例えば、10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1.5%以下である。これにより、青色光が蛍光体プレートを透過することを抑制できるため、輝度が高い橙色を発光できる。α型サイアロン蛍光体の含有量や蛍光体プレートの厚みを適切に調整することで、450nmの青色光における光線透過率を低減できる。
なお、450nmの青色光における光線透過率の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.01%以上としてもよい。
【0040】
本実施形態の蛍光体プレートの製造工程について詳述する。
【0041】
本実施形態の蛍光体プレートの製造方法は、金属酸化物、及び蛍光体を含む混合物を得る工程(1)と、得られた混合物を焼成する工程(2)と、を有してもよい。
【0042】
また、蛍光体プレートの製造方法は、金属酸化物を溶融して、得られた溶融物中に蛍光体の粒子を混合してもよい。
【0043】
工程(1)において、原料として用いる蛍光体や金属酸化物の粉末は、できるだけ高純度であるものが好ましく、構成元素以外の元素の不純物は0.1%以下であることが好ましい。
【0044】
原料粉末の混合は、乾式、湿式の種々の方法を適用できるが、原料として用いる蛍光体粒子が極力粉砕されず、また混合時に装置からの不純物が極力混入しない方法が好ましい。
【0045】
蛍光体の一例として、粉末状のα型サイアロン蛍光体を使用する。
原料の金属酸化物の一例として、スピネル原料粉末を使用する。
金属酸化物は、微粉末であればよく、その平均粒子径は、例えば1μm以下としてもよい。
【0046】
原料の金属酸化物として、スピネル原料粉末を使用してもよい。
ここで、「スピネル原料粉末」は、例えば、(i)前述の一般式M2xAl4-4xO6-4xで表されるスピネルを含む粉末、および/または、(ii)一般式MO(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれか)で表される金属酸化物の粉末とAl2O3の粉末との混合物である。
【0047】
工程(2)において、スピネル原料粉末を、例えば、1300℃以上1650℃以下で焼成を行ってもよい。焼結工程における加熱温度は1500℃以上がより好ましい。複合体を緻密化するためには、焼成温度が高い方が好ましいが、焼成温度が高すぎると、蛍光体プレートの蛍光強度が低下するため、前記範囲が好ましい。
また、焼成温度が約1600℃~1650℃の高温領域の場合、この温度を保持する保持時間は、例えば、20分以下、好ましくは15分以下であり、0分としてもよい。これにより、蛍光体プレートの発光強度を高められる。
【0048】
上記の製造方法において、焼成方法は常圧焼結でも加圧焼結でも構わないが、蛍光体の特性低下を抑制し、且つ緻密な複合体を得るために、常圧焼結よりも緻密化させやすい加圧焼結が好ましい。
【0049】
加圧焼結方法としては、ホットプレス焼結や放電プラズマ焼結(SPS)、熱間等方加圧焼結(HIP)などが挙げられる。ホットプレス焼結やSPS焼結の場合、圧力は10MPa以上、好ましくは30MPa以上が好ましく、100MPa以下が好ましい。
焼成雰囲気はαサイアロンの酸化を防ぐ目的のため、窒素やアルゴンなどの非酸化性の不活性ガス、もしくは真空雰囲気下が好ましい。
【0050】
以上により、本実施形態の蛍光体プレートが得られる。
得られた蛍光体プレート中の板状の複合体の表面は、本発明の効果を損なわない範囲において研磨処理、プラズマ処理や表面コート処理等の公知の表面処理などが施されてもよい。
【0051】
本実施形態の発光装置について説明する。
【0052】
本実施形態の発光装置は、III族窒化物半導体発光素子(発光素子20)と、III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた上記の蛍光体プレート10と、を備えるものである。
III族窒化物半導体発光素子は、例えば、AlGaN、GaN、InAlGaN系材料などのIII族窒化物半導体で構成される、n層、発光層、およびp層を備えるものである。III族窒化物半導体発光素子として、青色光を発光する青色LEDを用いることができる。
蛍光体プレート10は、発光素子20の一面上に直接配置されてもよいが、光透過性部材またはスペーサーを介して配置され得る。
【0053】
発光素子20の上に配置される蛍光体プレート10は、
図1に示す円板形状の蛍光体プレート100(蛍光体ウェハ)を用いてもよいが、蛍光体プレート100を個片化したものを用いることができる。
【0054】
図1に示す蛍光体プレート100の厚みの下限は、例えば、50μm以上、好ましくは80μm以上、より好ましくは100μm以上である。蛍光体プレート100の厚みの上限は、例えば、1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である。
蛍光体プレート100の厚みは、上記の製造工程で得られた後、研削などにより、適当に調整され得る。
【0055】
なお、円板形状の蛍光体プレート100は、四角形状の場合と比べて、角部における欠けや割れの発生が抑制されるため、耐久性や搬送性に優れる。
【0056】
上記の半導体装置の一例を、
図2(a)、(b)に示す。
図2(a)はフリップチップ型の発光装置110の構成を模式的に示す断面図であり、
図2(b)はワイヤボンディング型の発光装置120の構成を模式的に示す断面図である。
【0057】
図2(a)の発光装置110は、基板30と、半田40(ダイボンド材)を介して基板30と電気的に接続された発光素子20と、発光素子20の発光面上に設けられた蛍光体プレート10と、を備える。フリップチップ型の発光装置110は、フェイスアップ型およびフェイスダウン型のいずれの構造でもよい。
また、
図2(b)の発光装置120は、基板30と、ボンディングワイヤ60および電極50を介して基板30と電気的に接続された発光素子20と、発光素子20の発光面上に設けられた蛍光体プレート10と、を備える。
図2中、発光素子20と蛍光体プレート10とは、公知の方法で貼り付けられており、例えば、シリコーン系接着剤や熱融着等の方法で貼り合わされてもよい。
また、発光装置110、発光装置120は、全体を透明封止材で封止されていてもよい。
【0058】
なお、基板30に実装された発光素子20に対し、個片化された蛍光体プレート10を貼り付けてもよい。大面積の蛍光体プレート100に複数の発光素子20を貼り付けてから、ダイシングにより、蛍光体プレート10付き発光素子20ごとに個片化してもよい。また、複数の発光素子20が表面に形成された半導体ウェハに、大面積の蛍光体プレート100を貼り付け、その後、半導体ウェハと蛍光体プレート100を一括して個片化してもよい。
【0059】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 母材と、前記母材中に含まれる蛍光体と、を含む板状の複合体を備える蛍光体プレートであって、
前記母材が、スピネルを含み、
前記蛍光体が、Si元素を有する蛍光体を含み、
Cu-Kα線を用いて測定した前記蛍光体プレートのX線回折パターンにおいて、回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある前記スピネルに対応するピーク強度を1としたとき、
回折角2θが32.5°以上34.5°以下の範囲内にあるピークの合計強度が、0.5以下を満たす、蛍光体プレート。
2. 1.に記載の蛍光体プレートであって、
前記Si元素を有する蛍光体が、α型サイアロン蛍光体を含む、蛍光体プレート。
3. 2.に記載の蛍光体プレートであって、
前記Cu-Kα線を用いて測定した前記蛍光体プレートのX線回折パターンにおいて、回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある前記スピネルに帰属されるピーク強度を1としたとき、
回折角2θが60.2°以上62.0°以下の範囲内にあるピークの合計強度が、0.005以上0.2以下を満たす、蛍光体プレート。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
前記Cu-Kα線を用いて測定した前記蛍光体プレートのX線回折パターンにおいて、回折角2θが36.0°以上37.4°以下の範囲内にある前記スピネルに帰属されるピーク強度を1としたとき、
回折角2θが29.0°以上31.0°以下の範囲内にあるピークの合計強度が、0.01以上を満たす、蛍光体プレート。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
前記スピネルが、一般式M
2x
Al
4-4x
O
6-4x
(MはMg、Mn、Znの少なくともいずれかであり、0.2<x<0.6である)で表されるスピネルを含む、蛍光体プレート。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
前記蛍光体の含有量が、前記複合体中、体積換算で、5Vol%以上50Vol%以下である、蛍光体プレート。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
前記蛍光体の平均粒子径D50が、1μm以上30μm以下である、蛍光体プレート。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
当該蛍光体プレートの厚みが、50μm以上1mm以下である、蛍光体プレート。
9. 1.~8.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
照射された青色光を橙色光に変換して発光する波長変換体として用いる、蛍光体プレート。
10. 1.~9.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートであって、
455nmの青色光における光線透過率が10%以下である、蛍光体プレート。
11. III族窒化物半導体発光素子と、
前記III族窒化物半導体発光素子の一面上に設けられた1.~10.のいずれか一つに記載の蛍光体プレートと、
を備える、発光装置。
【実施例】
【0060】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0061】
<蛍光体プレートの作成>
(比較例1)
以下手順により蛍光体プレートを製造した。
(1)α型サイアロン蛍光体(アロンブライトYL-600B、デンカ株式会社製、メジアン径15μm)と、スピネル原料粉(MgO:富士フイルム和光純薬社製の酸化マグネシウム、平均粒径0.2μm、純度99.9%、およびAl2O3:AA-03(住友化学社製)、)とを、ポリエチレン製のポットとアルミナ製のボールを用いて、エタノール溶媒中において30分間湿式混合し、得られたスラリーを吸引濾過して溶媒を除去した後、乾燥した。そして、混合後の原料を、目開き75μmのナイロン製メッシュ篩を通して凝集を解き、原料混合粉末を得た。
スピネル原料粉がすべて反応してスピネルとなったときに、αサイアロン蛍光体の量が、蛍光体プレート中30体積%となるように調整した(残部は、MgOおよびAl2O3である)。
スピネル原料粉中のMgOとAl2O3の比率は、質量比で、MgO:Al2O3=37:63(モル量において、Mg:Al=3:4)となるようにした。
【0062】
(2)原料混合粉末をホットプレス治具内に充填した。具体的には、約10gの原料混合粉末を、カーボン製下パンチをセットした内径30mmのカーボン製ダイスに充填した。その後、カーボン製上パンチをセットし、原料粉末を挟み込んだ。
原料混合粉末とカーボン治具の間には、固着防止のために、厚み0.127mmのカーボンシート(GraTech社製、GRAFOIL)をセットした。
【0063】
(3)原料混合粉末を充填したホットプレス治具を、カーボンヒーターを備える多目的高温炉(富士電波工業株式会社製、ハイマルチ5000)にセットした。炉内を0.1Pa以下まで真空排気し、減圧状態を保ったまま、上下パンチを55MPaのプレス圧で加圧した。加圧状態を維持したまま、毎分5℃の速さで1600℃まで昇温した。1600℃に到達後、加熱を止め、室温まで徐冷し、除圧した。その後、外径30mmの焼成物を回収し、平面研削盤と円筒研削盤を用いて、主面、裏面及び側面を研削した。これにより、直径25mmの円板状の蛍光体プレートを得た(厚みは表に記載)。
【0064】
(実施例1~4)
上記(1)中におけるスピネル原料粉末中のMgOとAl2O3の比率を、実施例1が、質量比で、MgO:Al2O3=28:72(モル量において、Mg:Al=1:2)、実施例2が、質量比で、MgO:Al2O3=24:76(モル量において、Mg:Al=9:22)、実施例3が、質量比で、MgO:Al2O3=21:79(モル量において、Mg:Al=1:3)、実施例4が、質量比で、MgO:Al2O3=14:86(モル量において、Mg:Al=3:14)、となるようにした以外、実施例1と同様にして、蛍光体プレートを得た。
【0065】
【0066】
得られた蛍光体プレートについて以下の評価項目について評価を行った。
【0067】
[X線回折パターン]
各実施例・各比較例の蛍光体プレートについて、X線回折装置(製品名:UltimaIV、リガク社製)を用いて、下記の測定条件で回折パターンを測定した。
(測定条件)
X線源:Cu-Kα線(λ=1.54184Å)、
出力設定:40kV・40mA
測定時光学条件:発散スリット=2/3°
散乱スリット=8mm
受光スリット=開放
回折ピークの位置=2θ(回折角)
測定範囲:2θ=20°~70°
スキャン速度:2度(2θ)/sec,連続スキャン
走査軸:2θ/θ
試料調製:板状の蛍光体プレートをサンプルホルダーに載せた。
ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値とした。
【0068】
得られたX線回折パターンからいずれの蛍光体プレートにおいても、主相としてα型サイアロンとスピネルが存在することを確認した。
【0069】
XRD回折分析パターンの結果、2θが36.0~37.4°の範囲、2θが32.5~34.5°の範囲、2θが60.2~62.0°の範囲に、実施例1~4及び比較例1の蛍光体プレートにおいてピークが観察された。一方、2θが29.0~31.0°の範囲に、実施例1~4においてピークが観察されたが、比較例1においてピークは観察されなかった。
2θが36.0~37.4°の範囲にある最大ピークが、スピネルに対応することが確認された。
表1には、この最大ピークに対応するピーク強度を1としたときの、各範囲に含まれるピークの合計強度(相対強度)、各範囲に含まれるピークのピーク位置(°)を示す。
【0070】
また、SEM観察用に、得られた蛍光体プレートを研磨して、その研磨面をSEMで観察した。その結果、実施例1~4の蛍光体プレートにおいては、スピネルを含むマトリックス相の間にα型サイアロン蛍光体粒子が分散した状態が観察された。
【0071】
[光学特性の評価]
蛍光体プレートの発光効率を、チップオンボード型(COB型)のLEDパッケージ130を用いて評価した。
図3は、蛍光体プレート100の発光スペクトルを測定するための装置(LEDパッケージ130)の概略図である。
まず、凹部70が形成されたアルミ基板(基板30)を用意した。凹部70の底面の径φは13.5mm、凹部70の開口部の径φは16mmであった。この基板30の凹部70の内部に、青色発光光源として青色LED(発光素子20)を実装した。
その後、基板30の凹部70の開口部を塞ぐように、青色LEDの上部に円形状の蛍光体プレート100を設置し、
図3に示す装置(チップオンボード型(COB型)のLEDパッケージ130)を作製した。
【0072】
全光束測定システム(HalfMoon/φ1000mm積分球システム、大塚電子株式会社製)を用いて、作製したLEDパッケージ130の青色LEDを点灯したときの、蛍光体プレート100の表面における発光スペクトルを測定した。
得られた発光スペクトルにおいて、波長が585nm以上605nmである橙色光(Orange)の発光強度(蛍光強度)の最大値(W/nm)を求めた。表1には、蛍光強度の最大値について、実施例1を100%として規格化したときの、他の実施例・比較例の相対値(%)を示す。
また、得られた発光スペクトルから、波長450nmにおける青色光の光線透過率(%)を求めた。この結果を表1に示す。
【0073】
実施例1~4の蛍光体プレートは、比較例1に比べて、蛍光強度に優れる結果を示した。
【0074】
この出願は、2020年3月18日に出願された日本出願特願2020-047298号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0075】
10 蛍光体プレート
20 発光素子
30 基板
40 半田
50 電極
60 ボンディングワイヤ
70 凹部
100 蛍光体プレート
100 発光装置
120 発光装置
130 LEDパッケージ