IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サントリーホールディングス株式会社の特許一覧

特許7538855大気圧リモートプラズマCVD装置、被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法
<>
  • 特許-大気圧リモートプラズマCVD装置、被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法 図1
  • 特許-大気圧リモートプラズマCVD装置、被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法 図2
  • 特許-大気圧リモートプラズマCVD装置、被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法 図3A
  • 特許-大気圧リモートプラズマCVD装置、被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法 図3B
  • 特許-大気圧リモートプラズマCVD装置、被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法 図3C
  • 特許-大気圧リモートプラズマCVD装置、被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法 図4
  • 特許-大気圧リモートプラズマCVD装置、被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】大気圧リモートプラズマCVD装置、被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/513 20060101AFI20240815BHJP
   H05H 1/30 20060101ALI20240815BHJP
   B65D 1/02 20060101ALI20240815BHJP
   C23C 16/511 20060101ALI20240815BHJP
   B65D 23/02 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C23C16/513
H05H1/30
B65D1/02 110
C23C16/511
B65D23/02 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022510558
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2021012030
(87)【国際公開番号】W WO2021193651
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2020054661
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】西山 優範
(72)【発明者】
【氏名】赤沼 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】白倉 昌
(72)【発明者】
【氏名】田中 卓己
(72)【発明者】
【氏名】三家本 琴乃
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-103131(JP,A)
【文献】特開2002-008894(JP,A)
【文献】特表2014-526116(JP,A)
【文献】特開2012-188701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/513
H05H 1/30
B65D 1/02
C23C 16/511
B65D 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス入口、マイクロ波供給領域を含む内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、前記内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える大気圧リモートプラズマCVD装置であって、前記プラズマ出口が、前記内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積より小さい開口面積を有するノズルを備え
前記内部空間に留置、挿入及び前記内部空間から除去することが可能であり、前記内部空間に留置させたときに前記マイクロ波供給領域の少なくとも一部まで延びる導電体をさらに備える大気圧リモートプラズマCVD装置であって、
前記導電体が、前記誘電体チャンバの前記ガス入口から延びる絶縁シースを備える、大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記誘電体チャンバが筒状であり、前記誘電体チャンバの長手方向について、前記誘電体チャンバの一方の端部に前記ガス入口が配置され、前記誘電体チャンバの他方の端部に前記プラズマ出口が配置されている、請求項1に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項3】
前記誘電体チャンバが、ガラス、石英及びフッ素樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1又は2のいずれかに記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項4】
前記プラズマ発生装置が、マイクロ波照射装置である、請求項1~3のいずれか一項に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項5】
前記ノズルの開口面積が、前記内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積の0.01~0.1倍である、請求項1~4のいずれか一項に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項6】
前記内部空間の上流部、中間部又は下流部で開口する原料ガス供給ラインをさらに備え、前記内部空間内でプラズマ化したキャリアガスと原料ガスとが混合される、請求項1~のいずれか一項に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項7】
前記マイクロ波供給領域の少なくとも一部まで延びるように前記内部空間にフッ素樹脂又は炭化水素系熱硬化樹脂の棒状物を導入する原料供給機構を備える、請求項1~のいずれか一項に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項8】
前記プラズマ出口の下流に配置される負電圧を印加可能な導電体であって、前記プラズマ出口と前記導電体の間に基材が配置されるように構成される導電体をさらに備える、請求項1~のいずれか一項に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項9】
前記誘電体チャンバが、複数の前記プラズマ出口を有し、前記複数のプラズマ出口のノズルの合計開口面積が、前記内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積よりも小さい、請求項1~のいずれか一項に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項10】
ガス入口、マイクロ波供給領域を含む内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、前記内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える大気圧リモートプラズマCVD装置であって、前記大気圧リモートプラズマCVD装置が、前記内部空間に留置、挿入及び前記内部空間から除去することが可能であり、前記内部空間に留置させたときに前記マイクロ波供給領域の少なくとも一部まで延びる導電体を備え、前記導電体が、前記誘電体チャンバの前記ガス入口から延びる絶縁シースを備える、大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項11】
ガス入口、マイクロ波供給領域を含む内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、前記内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える大気圧リモートプラズマCVD装置であって、前記マイクロ波供給領域の少なくとも一部まで延びるように前記内部空間にフッ素樹脂又は炭化水素系熱硬化樹脂の棒状物を導入する原料供給機構を備える、大気圧リモートプラズマCVD装置。
【請求項12】
基材の表面に被膜を形成する方法であって、
請求項1~11のいずれか一項に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置を提供すること、
基材を前記プラズマ出口の下流に配置すること、
キャリアガスを前記ガス入口から導入すること、
前記キャリアガスを前記内部空間でプラズマ化すること、
原料ガスを前記ガス入口から導入すること、
前記原料ガスをプラズマ化された前記キャリアガスと混合して、プラズマ化された前記原料ガスを生成すること、
プラズマ化された前記原料ガスを前記プラズマ出口から前記基材に向けて噴出させて、前記基材の表面に被膜を形成すること
を含む、方法。
【請求項13】
内表面がコーティングされたプラスチックボトルの製造方法であって、
請求項1~11のいずれか一項に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置を提供すること、
プラスチックボトルを前記プラズマ出口の下流に配置すること、
キャリアガスを前記ガス入口から導入すること、
前記キャリアガスを前記内部空間でプラズマ化すること、
原料ガスを前記ガス入口から導入すること、
前記原料ガスをプラズマ化された前記キャリアガスと混合して、プラズマ化された前記原料ガスを生成すること、
プラズマ化された前記原料ガスを前記プラズマ出口から前記プラスチックボトルの内部に向けて噴出させて、前記プラスチックボトルの内表面に被膜を形成すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大気圧リモートプラズマCVD装置、被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法に関する。さらに詳しくは、大気圧ないし大気圧近傍の圧力において、原料ガスをプラズマ化し、ガスバリア性の高い被膜等の機能性被膜を形成させることが可能な大気圧リモートプラズマCVD装置、並びにそれを用いた被膜形成方法、及びプラスチックボトルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素膜又は無機膜をコーティングして、フィルム、シート、成形物等のプラスチック製品のガスバリア性又は表面保護特性を改善することが知られている。例えば、飲料などに用いられるプラスチックボトルの内表面に被膜を形成することが知られている。そのような被膜として、ダイヤモンド状炭素(DLC、水素化非晶質炭素ともいう。)膜等の炭素膜、及び酸化ケイ素(SiO)膜等の無機膜が知られている。DLC膜又はSiO膜のコーティングに大気圧付近で発生する熱プラズマを用いると、プラスチック材料が分解又は変形することから、真空(数Paから数10Pa)中での低温プラズマによる化学気相堆積(CVD)が一般に用いられる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)の熱変形温度は80℃程度であり、熱プラズマにより分解又は変形してしまうため、低温プラズマによるCVDコーティングが必要である。
【0003】
高周波又はマイクロ波を印加することによってプラスチックボトルの内部にプラズマを発生させるためには、プラスチックボトル内部の圧力を100Pa以下にすることが必要である。しかし、100Pa以下の高真空下での処理は、高真空を得るために必要な高性能な真空ポンプ及び真空設備のコスト、並びに真空に到達させるための電力及び時間の点で、大気圧下での処理、又は簡便なロータリーポンプを用いて短時間で到達できる1000Pa(約0.01atm)以上の低真空下での処理と比較して著しく不利であった。
【0004】
プラスチックボトルにコーティング処理を行う場合、ボトルを収容する空間、例えばマイクロ波閉じ込め室を、ボトルが外圧によってつぶされない程度に、かつボトル外部でプラズマが励起しない程度の圧力、例えば10000Pa(約0.1atm)程度に減圧しなければならない。そのため、プラスチックボトルには外圧と内圧の差に耐えてその形状を維持するために強度が必要とされ、肉厚の薄い軽量ボトル又は1リットル以上の大容量の薄肉ボトルの真空低温プラズマ処理は困難であった。
【0005】
高真空を用いずに大気圧下でプラスチックボトルにコーティング可能な低温プラズマを生成させるためには、大気圧下での熱プラズマの生成を抑制し、電子温度は高いが、イオンは低温に保たれている非平衡プラズマを形成する必要がある。そのような大気圧低温プラズマ法によりプラスチックボトルにバリア膜をコーティングすることが知られている。
【0006】
特許文献1(特開2005-313939号公報)には、大気圧プラズマ法を用いて、ガスバリア性薄膜の原料ガスのプラズマをボトルの外表面に接するか或いはほぼ接するように発生させる工程と、プラズマ化した原料ガスを外表面の全面にわたって至近距離から吹付けてガスバリア性薄膜を成膜する工程と、を少なくとも有するガスバリア性薄膜コーティングプラスチックボトルの製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献2(特開2012-172208号公報)には、マイクロ波閉じ込め室の内部に処理対象のプラスチックボトルを配置し、前記マイクロ波閉じ込め室の内部にマイクロ波を導入して、前記プラスチックボトルの内部に配置されたガス供給管により供給された原料ガスを含むガスをプラズマ化して、プラスチックボトル内面に処理を施す方法であって、筒状の誘電体からなる供給管本体の内部に導電体からなる細棒部材を配置してなる前記ガス供給管に、前記マイクロ波閉じ込め室の周囲に配置され、前記マイクロ波閉じ込め室に対向する面に設けられたスリットアンテナから前記マイクロ波閉じ込め室の内部にリング状共振器によりマイクロ波を導入することにより、前記細棒部材に放電してプラズマを着火させ、それにより前記プラスチックボトルの内部にプラズマを発生させ、前記プラズマの発生を前記マイクロ波の導入により維持して、前記ガス供給管により供給された原料ガスを含むガスをプラズマ化することを特徴とするプラスチックボトル内面の処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-313939号公報
【文献】特開2012-172208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の方法では、電極とプラスチックボトル表面との距離を数mm程度とする必要があるため、被膜形成はボトルの外表面に限られ、ボトルの回転のための装置も必要である。特許文献2に記載の方法では、マイクロ波閉じ込め室の内部にプラスチックボトルが配置されるため、マイクロ波閉じ込め室をボトルの大きさ及び形状に合わせて設計する必要があり、ボトルの出し入れにも装置及び時間を必要とする。そのため、様々な大きさ及び形状を有するプラスチックボトルを大量に処理する際のコスト低減の点で不利である。
【0010】
本開示は、基材の大きさ及び形状に合わせて成膜室を設計する必要がなく、基材の出し入れにも装置及び時間を必要とせずに、プラスチックボトルなどの立体形状を有する基材を含む様々な基材の表面に、大気圧下で被膜を形成することができるプラズマCVD装置及び被膜形成方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は以下の態様[1]~[16]を包含する。
[1]
ガス入口、内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、前記内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える大気圧リモートプラズマCVD装置であって、前記プラズマ出口が、前記内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積より小さい開口面積を有するノズルを備える、大気圧リモートプラズマCVD装置。
[2]
前記誘電体チャンバが筒状であり、前記誘電体チャンバの長手方向について、前記誘電体チャンバの一方の端部に前記ガス入口が配置され、前記誘電体チャンバの他方の端部に前記プラズマ出口が配置されている、[1]に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[3]
前記誘電体チャンバが、ガラス、石英及びフッ素樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含む、[1]又は[2]のいずれかに記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[4]
前記プラズマ発生装置が、マイクロ波照射装置である、[1]~[3]のいずれかに記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[5]
前記ノズルの開口面積が、前記内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積の0.01~0.1倍である、[1]~[4]のいずれかに記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[6]
前記内部空間に留置、挿入及び前記内部空間から除去することが可能な導電体をさらに備える、[1]~[5]のいずれかに記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[7]
前記導電体が、前記誘電体チャンバの前記ガス入口から延びる絶縁シースを備える、[6]に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[8]
前記内部空間の上流部、中間部又は下流部で開口する原料ガス供給ラインをさらに備え、前記内部空間内でプラズマ化したキャリアガスと原料ガスとが混合される、[1]~[7]のいずれかに記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[9]
前記内部空間にフッ素樹脂又は炭化水素系熱硬化樹脂の棒状物を導入する原料供給機構を備える、[1]~[8]のいずれかに記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[10]
前記プラズマ出口の下流に配置される負電圧を印加可能な導電体であって、前記プラズマ出口と前記導電体の間に基材が配置されるように構成される導電体をさらに備える、[1]~[9]のいずれかに記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[11]
前記誘電体チャンバが、複数の前記プラズマ出口を有し、前記複数のプラズマ出口のノズルの合計開口面積が、前記内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積よりも小さい、[1]~[10]のいずれかに記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[12]
基材の表面に被膜を形成する方法であって、
ガス入口、内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、前記内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える大気圧リモートプラズマCVD装置であって、前記プラズマ出口が、前記内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積より小さい開口面積を有するノズルを備える、大気圧リモートプラズマCVD装置を提供すること、
基材を前記プラズマ出口の下流に配置すること、
キャリアガスを前記ガス入口から導入すること、
前記キャリアガスを前記内部空間でプラズマ化すること、
原料ガスを前記ガス入口から導入すること、
前記原料ガスをプラズマ化された前記キャリアガスと混合して、プラズマ化された前記原料ガスを生成すること、
プラズマ化された前記原料ガスを前記プラズマ出口から前記基材に向けて噴出させて、前記基材の表面に被膜を形成すること
を含む、方法。
[13]
内表面がコーティングされたプラスチックボトルの製造方法であって、
ガス入口、内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、前記内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える大気圧リモートプラズマCVD装置であって、前記プラズマ出口が、前記内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積より小さい開口面積を有するノズルを備える、大気圧リモートプラズマCVD装置を提供すること、
プラスチックボトルを前記プラズマ出口の下流に配置すること、
キャリアガスを前記ガス入口から導入すること、
前記キャリアガスを前記内部空間でプラズマ化すること、
原料ガスを前記ガス入口から導入すること、
前記原料ガスをプラズマ化された前記キャリアガスと混合して、プラズマ化された前記原料ガスを生成すること、
プラズマ化された前記原料ガスを前記プラズマ出口から前記プラスチックボトルの内部に向けて噴出させて、前記プラスチックボトルの内表面に被膜を形成すること
を含む、方法。
[14]
ガス入口、内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、前記内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える大気圧リモートプラズマCVD装置であって、前記内部空間に留置、挿入及び前記内部空間から除去することが可能な導電体を備える、大気圧リモートプラズマCVD装置。
[15]
前記導電体が、前記誘電体チャンバの前記ガス入口から延びる絶縁シースを備える、[14]に記載の大気圧リモートプラズマCVD装置。
[16]
ガス入口、内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、前記内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える大気圧リモートプラズマCVD装置であって、前記内部空間にフッ素樹脂又は炭化水素系熱硬化樹脂の棒状物を導入する原料供給機構を備える、大気圧リモートプラズマCVD装置。
【発明の効果】
【0012】
一実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置は、大気圧下でプラズマ出口からノズルにより流速が高められたプラズマを遠距離、例えば数十cmの距離まで送達することができる。そのため、プラズマ化された原料ガスを、立体形状を有する基材を含む様々な基材の表面、例えばプラスチックボトルの内表面に送達して、これらの表面に大気圧下で被膜を形成することができる。
【0013】
上述の記載は、本発明の全ての実施形態及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置の概略断面図である。
図2】一実施形態の誘電体チャンバの概略断面図である。
図3A】別の実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置の概略断面図である。
図3B】別の実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置の概略断面図である。
図3C】別の実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置の概略断面図である。
図4】さらに別の実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置の概略断面図である。
図5】のこぎり波の形状に出力制御したマイクロ波を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の代表的な実施形態を例示する目的で、図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。図面の参照番号について、異なる図面において同一又は類似する番号が付された要素は、同一又は類似する要素であることを示す。
【0016】
一実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置は、ガス入口、内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える。誘電体チャンバのプラズマ出口は、内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積より小さい開口面積を有するノズルを備える。内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積とは、ガス入口から内部空間を通りノズル部分の上流端に至るまでのガス流れ方向に直交する断面の面積を平均した値を意味する。
【0017】
図1に、一実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置の概略断面図を示す。大気圧リモートプラズマCVD装置1は、誘電体チャンバ2、及びプラズマ発生装置6としてマイクロ波照射装置を備える。大気圧リモートプラズマCVD装置1は、例えば、プラズマ化ガスPGを用いて、プラスチックボトルBの内表面BIなどの基材表面にDLC膜等の被膜を形成することができる。
【0018】
図2に、一実施形態の誘電体チャンバの概略断面図を示す。誘電体チャンバ2は、ガス入口21、内部空間22、及びプラズマ出口23を有し、プラズマ出口23は内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積より小さい開口面積を有するノズル24を備える。ノズル24により、誘電体チャンバ2のガス入口21から入って内部空間22でプラズマ化されたキャリアガス又は原料ガスの流速を高めて、プラズマ出口23からこれらのプラズマ化されたガスを噴出させて遠距離、例えば数十cmの距離まで送達することができる。
【0019】
大気圧リモートプラズマCVD装置1は、天面に配置される蓋面34及び側壁32、33が導電体であるアルミニウム等の金属材料により構成され、全体が略円筒状に形成された外部チャンバ3を備えており、外部チャンバ3の内部にマイクロ波閉じ込め室35が形成される。外部チャンバ3の底部は、導電体であるアルミニウム等の金属材料で構成されている台座31が配置されて側壁32、33等を支える一方、底部となる台座31の中央は開放されており、台座31の中央を通って誘電体チャンバ2のプラズマ出口23が外部に突出するように配置される。誘電体チャンバ2と台座31との隙間には、マイクロ波を外部に漏らさないように、マイクロ波を遮蔽するアルミニウム等の導電体が配置されていてもよい。
【0020】
外部チャンバ3を構成する蓋面34の略中央には、フランジ4及び誘電体チャンバ2が蓋面34を貫通するように配置されている。フランジ4は、例えば、フッ素樹脂、セラミックス等の誘電体から形成され、外部チャンバ3の蓋面34の上部から挿入されて蓋面34に固定されている。誘電体チャンバ2のガス入口21の近傍に金属材料が存在すると、プラズマ着火時に異常放電が生じるおそれがある。フランジ4を誘電体で形成することにより、そのような異常放電を防止することができる。蓋面34は、図1に示すように、外部チャンバ3の中心軸上に誘電体チャンバ2の中心軸が配置されるように誘電体チャンバ2を固定保持する。このようにして、誘電体チャンバ2は、外部チャンバ3の蓋面34を通り、マイクロ波閉じ込め室35を横切って、プラズマ出口23がマイクロ波閉じ込め室35の外部に位置するように配置される。
【0021】
マイクロ波閉じ込め室35を窒素又は不活性ガス、例えばアルゴン、ネオン、ヘリウム等でパージするためのパージ管(不図示)を、外部チャンバ3を構成する蓋面34、又は側壁32、33等に設けてもよい。マイクロ波閉じ込め室35を不活性ガスでパージすることにより、誘電体チャンバ2の内部空間22以外でのプラズマの発生を抑制することができる。パージ管には、マイクロ波閉じ込め用のシールドを配置することが好ましい。
【0022】
基材(プラスチックボトルB)の周囲にブロアー(不図示)、ロータリーポンプなどを配置して、余剰の原料ガス、キャリアガス等を外部に排出してもよい。これにより、基材の周囲を減圧雰囲気、例えば1000~100000Pa(約0.01atm~約0.99atm)に維持してもよい。
【0023】
蓋面34の上部には、原料ガス供給ライン51及びキャリアガス供給ライン53を収容するT字管55、及びT字管55の上面を覆う蓋56が配置される。原料ガス供給ライン51は、流量制御弁52を介して原料ガスのタンク(不図示)に接続されており、誘電体チャンバ2のガス入口21を通して内部空間22に原料ガスを供給することができる。キャリアガス供給ライン53は、流量制御弁54を介してキャリアガスのタンク(不図示)に接続されており、誘電体チャンバ2のガス入口21を通して内部空間22にキャリアガスを供給することができる。原料ガス供給ライン51及びキャリアガス供給ライン53はそれぞれ、原料ガス及びキャリアガスの種類に応じて複数配置されてもよく、複数の原料ガス又はキャリアガスの混合ガスを流すように構成されてもよい。フランジ4、原料ガス供給ライン51及びキャリアガス供給ライン53には、マイクロ波閉じ込め用のシールドを配置することが好ましい。
【0024】
原料ガス供給ライン51は、誘電体チャンバ2の内部空間22の上流部、中間部又は下流部で開口するように設けることができる。原料ガス供給ライン51の開口部の位置は、内部空間22内でプラズマ化したキャリアガスと原料ガスとを混合して、原料ガスのプラズマ化を効率的に行うための時間を確保することができ、かつ誘電体チャンバ2内でのプラズマの再結合による粒子化、及び誘電体チャンバ2の内壁面への成膜を最小限にするように選択することが好ましい。誘電体チャンバ2内でプラズマ化したキャリアガスと原料ガスとを混合することにより、基材表面に供給される前に失活するプラズマ化したガスの量を減らすことができる。これにより、高濃度のプラズマ化したガスを基材表面に供給して、成膜速度及び被膜の品質を高めることができる。また、原料ガスの一部は、プラズマ化したキャリアガスによってではなく、マイクロ波の直接照射によってプラズマ化させることもでき、このこともプラズマ化したガスの高濃度化に寄与する。内部空間22の上流部とは、ガス入口21から内部空間22のガス流れ方向に沿って内部空間22の体積の10~20%に相当する空間を意味し、内部空間22の下流部とは、プラズマ出口23から内部空間22のガス流れ方向と反対方向に沿って内部空間22の体積の5~20%に相当する空間を意味し、内部空間22の中間部とは、内部空間22の上流部及び下流部以外の空間を意味する。
【0025】
原料ガス供給ライン51は、誘電体チャンバ2のガス入口21から誘電体チャンバ2の内部空間22で開口してもよく、誘電体チャンバ2の側部を貫通して誘電体チャンバ2の内部空間22で開口してもよい。図1では、原料ガス供給ライン51は、ガス入口21から入って誘電体チャンバ2の内部空間22の上流部で開口するように設けられている。図3Aは別の実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置の概略断面図であり、ここでは、原料ガス供給ライン51は、ガス入口21から入って誘電体チャンバ2の内部空間22の中間部、例えばマイクロ波供給領域MWで開口するように設けられている。図3Bは別の実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置の概略断面図であり、ここでは、原料ガス供給ライン51は、側壁32を横方向に貫通してマイクロ波閉じ込め室35に入り、さらに誘電体チャンバ2の側部を貫通して誘電体チャンバ2の内部空間22の下流部で開口するように設けられている。図3Cは別の実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置の概略断面図であり、ここでは、原料ガス供給ライン51は、側壁32を横方向に貫通してマイクロ波閉じ込め室35に入り、さらに誘電体チャンバ2の側部を貫通して誘電体チャンバ2の内部空間22の中間部かつマイクロ波供給領域MWの上流で開口するように設けられている。図1図3A図3B及び図3Cでは、マイクロ波供給領域MWは、スリットアンテナ61の上端及び下端によって画定される2本の平行な点線で囲まれた領域として示されている。原料ガス供給ライン51の開口位置は、マイクロ波供給領域MWの上流であることが好ましい。
【0026】
キャリアガス供給ライン53の開口位置は、マイクロ波供給領域MWの上流であればいずれの位置であってもよい。
【0027】
図1に示すプラズマ発生装置6は、マイクロ波照射装置である。マイクロ波照射装置は、誘電体チャンバ2の内部空間22に高密度のプラズマを効率よく生成することができ、プラズマ化したガスのプラズマ出口からの送達距離を長くすることができる。外部チャンバ3のマイクロ波閉じ込め室35の周囲には、マイクロ波導入手段として、リング状共振器64が設けられている。リング状共振器64は、断面略矩形状の導波管を無端円環状に形成したものである。
【0028】
リング状共振器64のマイクロ波閉じ込め室35側(マイクロ波閉じ込め室35内に配置される誘電体チャンバ2側)の面と側壁32、33には、半径方向に延在する複数個のスリットアンテナ61(細長い溝)が周方向に離間して形成されており、マイクロ波は、スリットアンテナ61(「スロットアンテナ」、「スリット」又は「スロット」とも呼ばれる。本開示では、単に「スリット61」とする場合もある。)からマイクロ波閉じ込め室35に導入される。一実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置1では、このようにリング状共振器64からスリット61を介して周方向からマイクロ波が導入されるため、円筒状の立体プラズマを表面波プラズマによって形成することができ、大気圧状態でも誘電体チャンバ2の内部空間22において高密度のプラズマを維持することができる。リング状共振器64の外周面には、伝搬導波管62を介してマイクロ波発振器63が接続されており、マイクロ波発振器63がリング状共振器64にマイクロ波を供給する。
【0029】
リング状共振器64に形成されるスリット61の形状は特に限定されず、例えば細長い矩形、正方形、円形、又は楕円形とすることができる。スリット61の形成される向きは、リング状共振器64の周方向と平行に延びる横スリット(水平スリット)、又はリング状共振器64の周方向と直交するように延びる縦スリット(垂直スリット)が一般的であるが、特に方向性を持たずランダムな方向となるように形成してもよい。マイクロ波をマイクロ波閉じ込め室35に均一に導入することができるため、スリット61はリング状共振器64の周囲に等間隔で形成することが好ましい。誘電体チャンバ2が円筒状である実施形態では、スリット61の形状は、リング状共振器64の周方向に連続して延びるリング状であることが好ましい。
【0030】
マイクロ波照射装置6の定格出力は、基材の大きさ及び形状、形成される被膜の膜厚及び面積、使用するキャリアガス及び原料ガスの種類及び流量、要求される生産速度等に応じて適宜決定することができる。マイクロ波照射装置6の定格出力は、例えば、400W~6000W、800W~3000W、又は1000W~2000Wとすることができる。
【0031】
誘電体チャンバ2の形状及び寸法は様々であってよく、例えば、大気圧リモートプラズマCVD装置1及びその構成部分の大きさ及び形状、特にマイクロ波閉じ込め室35の大きさ及び形状に合わせて設計することができる。
【0032】
誘電体チャンバ2の内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積は、例えば、50mm~1000mmとすることができる。
【0033】
誘電体チャンバ2のプラズマ出口23に設けられたノズル24の開口面積は、誘電体チャンバ2の内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積より小さくなるように設計される。ノズル24の開口面積は、被膜が形成される基材表面の大きさ、ノズル24と基材表面との距離、ノズル24に対する基材表面の向きなどに応じて、所望するプラズマ化ガスの流速及び広がりが得られるように設計することができる。ノズル24の開口面積は、例えば、5mm~100mmとすることができ、8mm~50mmとすることが好ましい。
【0034】
一実施形態では、ノズル24の開口面積は、内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積の0.01~0.1倍であり、好ましくは0.02~0.08倍であり、より好ましくは0.04~0.07倍である。ノズル24の開口面積を、内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積の0.01~0.1倍とすることにより、ノズル24によりプラズマ化されたガスの流速を高めて、プラズマ出口23からプラズマ化されたガスをより遠距離まで送達することができる。
【0035】
ノズル24の内部断面形状は、図2に示すように、直線のテーパ状としてもよく、曲線を含むテーパ状としてもよい。
【0036】
誘電体チャンバ2の内部空間22の体積は、例えば、20cm~600cmとすることができ、30cm~300cmとすることが好ましく、30cm~200cmとすることがより好ましい。
【0037】
一実施形態では、誘電体チャンバ2の内部空間22の体積は、プラズマ発生装置6の出力に応じて決定される。例えば、プラズマ発生装置6がマイクロ波照射装置である場合、マイクロ波照射装置の出力P(W)と、内部空間22の体積V(cm)との比(P/W)は、5W/cm~30W/cmであることが好ましく、10W/cm~25W/cmであることがより好ましく、15W/cm~20W/cmであることがさらに好ましい。P/Wを5W/cm~30W/cmとすることにより、誘電体チャンバ2の内部空間22に高密度のプラズマを効率よく生成し、プラズマ化したガスをプラズマ出口23からより遠距離まで送達することができる。
【0038】
一実施形態では、図2に示すように、誘電体チャンバ2を筒状とし、誘電体チャンバ2の長手方向について、誘電体チャンバ2の一方の端部にガス入口21を配置し、誘電体チャンバの他方の端部にプラズマ出口23を配置することが好ましい。誘電体チャンバ2を筒状とし、ガス入口21及びプラズマ出口23を各端部に配置することで、原料ガス及びキャリアガスを、誘電体チャンバ2の内部空間22を直線状に通過させて、効率よくプラズマ化したガスをプラズマ出口23から噴出させることができる。誘電体チャンバ2は、円筒状であってもよく、角筒状であってもよい。円筒状の誘電体チャンバ2は、内部空間22を通過する原料ガス及びキャリアガス、並びにこれらのプラズマ化したガスをよりスムーズに通過させることができ、誘電体チャンバ2内壁への原料ガスの反応物の付着も低減することができる。
【0039】
筒状の誘電体チャンバ2の軸方向長さは、大気圧リモートプラズマCVD装置1及びマイクロ波閉じ込め室35の大きさによって様々であってよく、例えば、150mm~500mmとすることができ、200mm~400mmとすることが好ましく、200mm~360mmとすることがより好ましい。
【0040】
一実施形態では、筒状の誘電体チャンバ2の軸方向長さは、マイクロ波閉じ込め室35から突出するプラズマ出口23とマイクロ波閉じ込め室35の境界との距離が、0mm~30mm、好ましくは0mm~20mm、より好ましくは10mm~20mmであるように決定される。プラズマ出口23はノズル先端であり、プラスチックボトルBの内表面BIを処理する場合、プラスチックボトルBの口部BMの天面から中に10~20mm挿入すると、内表面BIに被膜をより均一に形成することができる。
【0041】
一実施形態では、筒状の誘電体チャンバ2の軸方向長さは、マイクロ波閉じ込め室35の内部に位置する誘電体チャンバ2の部分の長さが、誘電体チャンバ2の全長の60%~90%、好ましくは70%~90%、より好ましくは80%~90%であるように決定される。
【0042】
筒状の誘電体チャンバ2の外径は、例えば、15mm~60mmとすることができ、20mm~50mmとすることが好ましく、20mm~40mmとすることがより好ましい。筒状の誘電体チャンバ2の外径を15mm~60mmとすることにより、誘電体チャンバ2の内部空間22においてキャリアガス又は原料ガスをより均一にプラズマ化することができ、また、基材表面へのプラズマ化されたガスの供給速度を高めることができる。
【0043】
筒状の誘電体チャンバ2の厚さは、例えば、1mm~6mmとすることができ、2mm~5mmとすることが好ましく、2mm~4mmとすることがより好ましい。筒状の誘電体チャンバ2の厚さを1mm~6mmとすることにより、誘電体チャンバ2の内部空間22におけるプラズマの発生効率を高めることができる。
【0044】
誘電体チャンバ2は複数のプラズマ出口23を有してもよく、複数のプラズマ出口23に設けられたノズル24の合計開口面積は、内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積よりも小さい。これにより、プラズマ化されたガスの噴出方向を複数にすることができ、立体形状を有する基材の表面により均一に被膜を形成することができる。
【0045】
誘電体チャンバ2は、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスなどのガラス、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックス、石英、又はフッ素樹脂、ポリイミドなどの耐熱性を有する樹脂材料から形成することができる。誘電体チャンバ2が、ガラス、石英及びフッ素樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、マイクロ波の吸収性が低いためにプラズマを効率よく発生させることができることから石英であることがより好ましい。誘電体チャンバは、材料の種類に応じて、焼成法、切削加工法、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の公知の方法により成形することができる。
【0046】
ノズル24は、誘電体チャンバ2の一部として一体に形成されてもよく、誘電体チャンバ2の残りの部分とは別個に形成され、ねじ込み、接着、クランプ留めなどによって誘電体チャンバ2の残りの部分に固定されてもよい。ノズル24を誘電体チャンバ2の残りの部分と別個に形成することで、被膜を形成する基材に合わせてノズル24を付け替えることができる。ノズル24の材質は、誘電体チャンバ2の残りの部分の材質と同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、ノズル24を加工性の高いアルミナで形成し、誘電体チャンバ2の残りの部分は石英ガラスで形成することができる。
【0047】
大気圧リモートプラズマCVD装置1は、誘電体チャンバ2の内部空間22に留置、挿入及び内部空間22から除去することが可能な導電体7をさらに備えてもよい。導電体7を誘電体チャンバ2の内部空間22に挿入した状態でマイクロ波閉じ込め室35にマイクロ波を供給すると、誘電体チャンバ2を透過したマイクロ波により、導電体7から放電が生じる。その結果、キャリアガス又は原料ガスのプラズマを着火させることができる。これにより、誘電体チャンバ2の内部空間22でのプラズマ生成を容易にすることができる。導電体7を内部空間22から除去することにより、導電体7由来の不純物(例えばタングステン粒子)の発生及びそのような不純物の基材への付着を防止又は抑制することができる。
【0048】
誘電体チャンバ2の内部空間22にプラズマが一旦生成すれば、キャリアガス及び原料ガスのプラズマ化に導電体7は不要であることから、導電体7以外の手段、例えば、誘電体チャンバ2の上部から高電圧パルスを利用したプラズマトーチを用いて不活性ガスのプラズマを噴射して内部空間22に導入することで、プラズマを着火させることもできる。
【0049】
導電体7は、誘電体チャンバ2のガス入口21を通して挿入され、プラズマを着火した後、ガス入口21から除去されることが好ましい。導電体7は、例えば図1に示すように、蓋56の上部から、T字管55及び誘電体チャンバ2のガス入口21を通して誘電体チャンバ2の内部空間22に挿入することができる。図1では、導電体7は、ガイド71により、誘電体チャンバ2の中心軸と一致するように保持され、ガイド71の途中には、導電体7を除去した後に、誘電体チャンバ2の内部空間22と蓋56の外部との間で気体を連通させないためのコック弁72が設けられている。コック弁72に代えて、あるいはコック弁72に加えて、誘電体チャンバ2のガス入口21の外側に、例えばフッ素樹脂、ポリイミドなどの樹脂で形成された蓋(不図示)を設けて、導電体7を除去した後に誘電体チャンバ2の内部空間22と蓋の外部との間で気体の連通を遮断してもよい。
【0050】
導電体7を誘電体チャンバ2内に留置してもよい。導電体7を留置する場合は、例えば、短い針状の導電体7をガス流れと直交するように、誘電体チャンバ2の側部、好ましくはマイクロ波供給領域MW内で誘電体チャンバ2の側部に突き刺して固定してもよい。
【0051】
導電体7は、誘電体チャンバ2のガス入口21から延びる絶縁シース73を備えてもよい。絶縁シース73は、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスなどのガラス、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックス、石英、又はフッ素樹脂、ポリイミドなどの耐熱性を有する樹脂材料から形成することができる。絶縁シース73を設けることにより、導電体7の露出面積を制御し、マイクロ波を導電体7の露出部分に集中させて放電を促進しつつ異常放電を抑制することができ、その結果、プラズマの着火をより確実に行うことができる。
【0052】
導電体7は金属材料であることが好ましく、例えば、タングステン、ステンレス鋼、白金等の金属材料で作ることができる。導電体7は耐熱性及び耐久性に優れたタングステンであることが好ましい。導電体7は、材料の種類に応じて、焼成法、切削加工法等の公知の方法により成形することができる。
【0053】
誘電体チャンバ2が筒状である場合、導電体7は針状であって、誘電体チャンバ2の中心軸に沿って移動可能であることが好ましい。
【0054】
導電体7の先端は平坦な表面を有してもよく、尖っていてもよい。導電体7の先端を尖らせることにより、マイクロ波を先端に集中させて放電を促進しつつ異常放電を抑制することができ、その結果、プラズマの着火をより確実に行うことができる。
【0055】
誘電体チャンバ2に導電体7を留置させないで出し入れする場合の、導電体7の寸法は、誘電体チャンバ2の大きさ及び形状、マイクロ波供給領域MW及びマイクロ波閉じ込め室35の大きさなどによって適宜決定することができる。誘電体チャンバ2が筒状の場合、導電体7を誘電体チャンバ2の内部空間22に絶縁シース73を通して又は通さずに挿入したときに、内部空間22に露出して存在する導電体7の部分の長さが、5mm~200mmであることが好ましい。導電体7の外径は1mm~5mmであることが好ましく、1mm~3mmであることがより好ましい。
【0056】
導電体7は、マイクロ波供給領域MWの少なくとも一部まで延びていることが好ましい。導電体7がマイクロ波供給領域MWの少なくとも一部まで延びていることにより、キャリアガス又は原料ガスのプラズマ着火をより効果的に行うことができ、かつ導電体7を容易に除去することができる。導電体7の除去性の観点からは、導電体7は、マイクロ波供給領域MWを越えてさらに下流側に延びていないことが好ましい。
【0057】
一実施形態では、上記の導電体は、ガス入口、内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える大気圧リモートプラズマCVD装置に設けることもできる。上記の導電体は、誘電体チャンバのガス入口から延びる上記の絶縁シースを備えていてもよい。この実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置では、誘電体チャンバはノズルを備えておらず、内部空間でプラズマ化したガスはプラズマ出口から出て、プラズマ出口近傍に配置された基材の表面で被膜を形成する。基材の表面はプラズマ出口及び誘電体チャンバの一部を取り囲むように位置してもよい。例えば、誘電体チャンバをプラスチックボトルの口部から挿入して、プラズマ出口及び誘電体チャンバの一部をプラスチックボトルの内表面で取り囲んでもよい。この実施形態において、誘電体チャンバのプラズマ出口は、マイクロ波供給領域内に位置してもよく、マイクロ波供給領域の外に位置してもよい。誘電体チャンバのプラズマ出口をマイクロ波供給領域内に位置させることにより、プラズマ出口から出たプラズマ化したガスにマイクロ波によるエネルギーを引き続き与えて、プラズマ化したガスの活性をより長時間維持することができる。大気圧リモートプラズマCVD装置のその他の構成要素については上述したとおりである。
【0058】
図4にさらに別の実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置の概略断面図を示す。大気圧リモートプラズマCVD装置1は、内部空間22にフッ素樹脂又は炭化水素系熱硬化樹脂の棒状物8を導入する原料供給機構81をさらに備えてもよい。いかなる理論に拘束される訳ではないが、フッ素樹脂又は炭化水素系熱硬化樹脂の棒状物8が熱で分解される際のエネルギーが、キャリアガス又は原料ガスのプラズマ化をアシストして、プラズマの発生効率を高めることができるものと考えられる。図4では導電体7は図示されていないが、この実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置1は導電体7をさらに備えてもよい。導電体7の絶縁シース73がフッ素樹脂又は炭化水素系熱硬化樹脂で形成されている場合、棒状物8として機能させることもできる。
【0059】
棒状物8は、誘電体チャンバ2のガス入口21を通して内部空間22に導入することができる。棒状物8は、例えば図4に示すように、蓋56の上部から、T字管55及び誘電体チャンバ2のガス入口21を通して誘電体チャンバ2の内部空間22に導入することができる。蓋56と棒状物8との間をシールして、誘電体チャンバ2の内部空間22と蓋56の外部との間で気体の連通を遮断することが好ましい。
【0060】
棒状物8は、フッ素樹脂又は炭化水素系熱硬化樹脂から形成される。フッ素樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。炭化水素系熱硬化樹脂として、例えば、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。棒状物8は、材料の種類に応じて、押出法、切削加工法等の公知の方法により成形することができる。
【0061】
棒状物8は、プラズマの発生に伴って次第に消耗するため、原料供給機構81によって一定量が誘電体チャンバ2の内部空間22に存在するように補充されることが好ましい。原料供給機構81として、例えば、ポリテトラフルオロエチレンの棒状物8をロール状に巻き取ったロールから繰り出して誘電体チャンバ2に連続的に導入する機構が挙げられる。
【0062】
棒状物8の寸法は、誘電体チャンバ2の内部空間22の大きさによって適宜決定することができる。棒状物8の消耗とともに誘電体チャンバ2内へ棒状物8を連続的に供給することが好ましい。内部空間22に存在する棒状物8の部分の長さが、マイクロ波供給領域MWの少なくとも一部まで延びていることが好ましい。棒状物8の外径は0.5mm~5mmであることが好ましく、1mm~2mmであることがより好ましい。
【0063】
一実施形態では、上記のフッ素樹脂又は炭化水素系熱硬化樹脂の棒状物を導入する原料供給機構は、ガス入口、内部空間及びプラズマ出口を有する誘電体チャンバと、内部空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置とを備える大気圧リモートプラズマCVD装置に設けることもできる。この実施形態の大気圧リモートプラズマCVD装置では、誘電体チャンバはノズルを備えておらず、内部空間でプラズマ化したガスはプラズマ出口から出て、プラズマ出口近傍に配置された基材の表面で被膜を形成する。基材の表面はプラズマ出口及び誘電体チャンバの一部を取り囲むように位置してもよい。例えば、誘電体チャンバをプラスチックボトルの口部から挿入して、プラズマ出口及び誘電体チャンバの一部をプラスチックボトルの内表面で取り囲んでもよい。この実施形態において、誘電体チャンバのプラズマ出口は、マイクロ波供給領域内に位置してもよく、マイクロ波供給領域の外に位置してもよい。誘電体チャンバのプラズマ出口をマイクロ波供給領域内に位置させることにより、プラズマ出口から出たプラズマ化したガスにマイクロ波によるエネルギーを引き続き与えて、プラズマ化したガスの活性をより長時間維持することができる。大気圧リモートプラズマCVD装置のその他の構成要素については上述したとおりである。
【0064】
図1に示すように、プラズマ出口23の下流に負電圧を印加可能な導電体9を配置し、プラズマ出口23と導電体9の間に基材、例えばプラスチックボトルBを配置してもよい。導電体9は、電離された原料ガスのイオンを引きつけるため、成膜速度を高めかつ安定的に基材上に被膜を形成することができる。導電体9としては、例えば、銅、銀、アルミニウム等の導電性金属、及びカーボンが挙げられる。電離された原料ガスのイオンをより効果的に基材に向けて引きつけることができるため、導電体9は接地していることが好ましく、500~2000Vの負電圧が印加されていることがより好ましい。導電体9は基材のステージ又はキャリアとして使用されてもよい。
【0065】
別の実施形態では、外部チャンバ3の内部に、マイクロ波が透過可能な材料からなり、壁面が外部チャンバ3の側壁32、33と略並行である筒状部材を配置して、その筒状部材の内部をマイクロ波閉じ込め室35としてもよい。この形態では、筒状部材は、誘電体チャンバ2の軸方向に沿って誘電体チャンバ2の周囲を囲う。筒状部材として、例えば、石英管が挙げられる。
【0066】
別の実施形態では、原料ガス及びキャリアガスの混合ガスを単一の供給ラインを通して誘電体チャンバ2のガス入口21を通して内部空間22に供給してもよい。
【0067】
別の実施形態では、プラズマ発生装置として、マイクロ波発生装置にシングルモード導波管を接続し、導波管のマイクロ波進行方向に直交するように誘電体チャンバ2を設けることができる。さらに別の実施形態では、マイクロ波照射装置以外にも、大気圧下において低温プラズマを生成することができる公知のプラズマ発生装置を用いることができる。そのようなプラズマ発生装置として、例えば、高周波プラズマ発生装置などが挙げられる。高周波プラズマ発生装置として、例えば、1~10kHzの高周波パルスを印加することができる高周波電源を使用することができる。パルスの波形は特に制限されないが、電圧変化の急峻な繰り返しパルス電圧を印加することがプラズマの効率的な発生に有利である。
【0068】
上記の大気圧リモートプラズマCVD装置1を用いて基材の表面に被膜を形成することができる。一実施形態では、基材の表面に被膜を形成する方法が提供され、その方法は、大気圧リモートプラズマCVD装置1を提供すること、基材をプラズマ出口23の下流に配置すること、キャリアガスをガス入口21から導入すること、キャリアガスを内部空間22でプラズマ化すること、原料ガスをガス入口21から導入すること、原料ガスをプラズマ化されたキャリアガスと混合して、プラズマ化された原料ガスを生成すること、プラズマ化された原料ガスをプラズマ出口23から基材に向けて噴出させて、基材の表面に被膜を形成することを含む。
【0069】
基材は、非金属材料、金属材料、又は高分子材料を含んでもよい。本開示の被膜形成方法は、耐熱性の低い高分子材料を含む基材に好適に適用することができる。そのような高分子材料として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル;低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、又はエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンのランダム又はブロック共重合体等のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体等のエチレン-ビニル化合物共重合体;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、α-メチルスチレン-スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体;ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキサイド;ポリヒドロキシアルカノエート等の樹脂が挙げられる、これらの樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0070】
基材は平面形状又は立体形状のいずれを有してもよい。基材として、例えば、フィルム、テープなどの平面形状を有する物品、ボトル、キャップ、カップなどの立体形状を有する物品が挙げられる。
【0071】
一実施形態では、基材はプラスチックボトルであり、その内表面に被膜が形成される。プラスチックボトルの形状としては、特に制限はなく、飲料ボトルとして一般的な胴部が軸対称形状(例えば断面視円形状)であってもよく、軸非対称形状であってもよい。
【0072】
基材はプラズマ出口23の下流に配置される。基材表面の被膜を形成する部分が、プラズマ化した原料ガスが噴出する方向と略対向するように基材を位置合わせすることが好ましい。
【0073】
プラスチックボトルの場合は、プラスチックボトルの長軸とプラズマ化した原料ガスが噴出する方向とが略一致するように配置される。回転機構を備えるステージの上にプラスチックボトルを配置し、成膜中にプラスチックボトルをその長軸方向の周りに回転させてもよい。これにより、プラスチックボトルの内表面により均一に被膜を形成することができる。
【0074】
キャリアガスとしては、窒素及びアルゴン、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスを使用することができる。
【0075】
キャリアガスの流量は、誘電体チャンバ2の内部空間22の体積、内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積、及びプラズマ出口23に設けられたノズル24の開口面積、並びに成膜速度を考慮して決定することができる。キャリアガスの流量は、例えば、500sccm~500,000sccmとすることができ、600sccm~10,000sccmであることが好ましく、1000sccm~6000sccmであることがより好ましい。
【0076】
一実施形態では、キャリアガスの流量Fcは、誘電体チャンバ2のノズル24の開口面積をS[cm]としたときに、500~5000×S[sccm]となるように決定される。別の実施形態では、キャリアガスの流量Fcは、誘電体チャンバ2のノズル24の開口面積をS[cm]としたときに、5000~20000×S[sccm]となるように決定される。
【0077】
原料ガスとしては、目的に応じて様々なものを使用することができる。炭素膜の形成には、アセチレン、エチレン、メタン、エタン等の炭化水素を使用することができる。酸化ケイ素膜の形成には、四塩化ケイ素、シラン、有機シラン化合物、有機シロキサン化合物等のケイ素化合物、及び必要に応じて酸素ガス、空気等を使用することができる。原料ガスは、形成させる被膜の化学的組成に応じて、単独又は2種以上のものを組み合わせて用いることができる。
【0078】
原料ガスの流量は、誘電体チャンバ2の内部空間22の体積、内部空間のガス流れ方向に直交する断面の平均断面積、及びプラズマ出口23に設けられたノズル24の開口面積、処理される基材の表面積、原料ガスの種類、及び成膜速度を考慮して決定することができる。原料ガスの流量は、例えば、2sccm~100sccmとすることができ、5sccm~50sccmであることが好ましく、5sccm~30sccmであることがより好ましい。例えば、プラスチックボトル(350mL)の内表面への被膜形成では、ボトル1個当たり、5sccm~40sccmとすることができ、5sccm~30sccmであることが好ましく、5sccm~20sccmであることがより好ましい。
【0079】
一実施形態では、原料ガスの流量Fsは、誘電体チャンバ2のノズル24の開口面積をS[cm]としたときに、2~10×S[sccm]となるように決定される。別の実施形態では、原料ガスの流量Fsは、誘電体チャンバ2のノズル24の開口面積をS[cm]としたときに、50~200×S[sccm]となるように決定される。
【0080】
その他のガスとして、酸素、水素等のガスをキャリアガス又は原料ガスと混合してもよい。
【0081】
プラズマ発生装置6としてマイクロ波照射装置を用いる場合、誘電体チャンバ2の内部空間22が、キャリアガス、又はキャリアガス及び原料ガスで満たされた後、マイクロ波発振器63において高周波として例えば2.45GHzのマイクロ波を発振させる。マイクロ波発振器63から供給されたマイクロ波は、伝搬導波管62を伝搬し、リング状共振器64の内部に供給され、スリット61を通過して、マイクロ波閉じ込め室35に導入されて、誘電体チャンバ2の内部空間22においてキャリアガスのプラズマが発生する。リング状共振器64の内部を進行波として伝搬するマイクロ波は、リング状共振器64に形成された複数のスリット61から外部チャンバ3のマイクロ波閉じ込め室35に導入されて放出される。
【0082】
リング状共振器64の内部を伝搬されるマイクロ波は、定在波ではなく無端環状のリング状共振器64の内部を回転する進行波であるため、スリット61から放出される電磁界は、リング状共振器64の周方向に均一になる。リング状共振器64からスリット61を介して360度方向から照射されたマイクロ波は、円筒状の立体プラズマを表面波プラズマによって形成するため、大気圧状態で誘電体チャンバ2の内部空間22にプラズマを維持しやすくなり、誘電体チャンバ2の内部空間には、高い均一性を有するプラズマ(表面波プラズマ)が生成される。
【0083】
マイクロ波発振器63からリング状共振器64に供給されるマイクロ波の周波数としては、例えば、300MHz~100GHzの範囲内の任意の周波数を選択することができる。マイクロ波の周波数は、工業的に使用が許可されている2.45GHz、5.8GHz、又は22.125GHzであることが好ましい。
【0084】
マイクロ波の出力は、10Hzから5000Hzの範囲の矩形波によってON-OFFするように変調させてもよい。これにより、マイクロ波が常時連続して照射される場合よりも誘電体チャンバ2内のプラズマ化したガスの温度を低下させることができ、噴出するプラズマ化したガスの温度を低下させ、基材の熱変形を防止することができる。選択する矩形波の周波数は、プラズマ発振を維持することができ、かつ原料ガスの分解活性化が効率よく維持されるように選択される。このとき1サイクルにおいてONの時間の占める割合をデューティー比といい、このデューティー比を1から0.1程度まで変化させてもよい。マイクロ波の矩形波の変調出力をさらに重畳して変調して、0~100%まで、のこぎり波の形状で変動させてもよい。図5は、のこぎり波の形状に出力制御したマイクロ波を示す説明図であり、(a)はマイクロ波の定常出力、(b)はのこぎり波の出力制御信号、(c)はのこぎり波の形状に出力制御したマイクロ波、をそれぞれ示す。出力が傾斜して上昇し、最高点から出力0に戻ることを繰り返すのこぎり状の波形(のこぎり波の形状)からなるマイクロ波のパルス状の出力は、ON及びOFFのマイクロ波出力を繰り返すことによって、プラズマの発生及び消滅が繰り返されることになる。連続出力のマイクロ波と比較して、のこぎり波の形状に出力制御したマイクロ波を用いると、プラズマ温度の上昇を抑制することができ、かつプラズマの活性を適度に維持することができる。その結果、プラズマ化したガスの高温化が抑制され、より長時間の表面処理が可能となる。このことは、耐熱性の低い基材表面に成膜される被膜の厚さを厚くする上で有利である。
【0085】
マイクロ波の出力をパルス状ののこぎり波形状とすることにより、プラズマ中の活性種(酸素イオン、酸素ラジカル、炭化水素イオン、炭化水素ラジカル、炭素イオン、水素ラジカル等)は、マイクロ波出力が瞬時に零になることによって、エネルギーを失い空間中で粒子化する場合がある。そこで、零レベルの出力から傾斜して出力を増加させ再びプラズマの活性状態を維持することを繰り返すことによって、大気圧領域(0.01~1atm)のプラズマ状態であっても比較的低いプラズマガス温度(数100K程度)を維持しつつ、再結合粒子を生じさせにくい状態で被膜を形成することができる。のこぎり波のパルス周波数は、500Hz~5000Hzとすることが好ましい。例えば、マイクロ波発振器63の内部のマグネトロン管の出力調整器に、関数発生器等によって生成されたのこぎり波形状のパルス信号を接続してパルス変調することで、マイクロ波の出力をパルス状ののこぎり波形状とすることができる。
【0086】
マイクロ波の出力は、プラズマ化した原料ガスの到達距離、処理される基材の表面積、被膜の厚さ、原料ガスの種類等により適宜決定することができる。マイクロ波の出力は、例えば、一般的な500mL容量のプラスチックボトル1個当たり、50~5000Wとすることができ、100~3000Wとすることが好ましい。
【0087】
誘電体チャンバ2の内部空間22にプラズマを生成させる際に、導電体7を誘電体チャンバ2の内部空間22に挿入して、プラズマの着火を促進してもよい。誘電体チャンバ2の内部空間22では、誘電体チャンバ2のガス入口21から挿入された導電体7が電極となり、マイクロ波が放電することによって火花が生じて、プラズマの着火が容易に生じる。一旦生成したプラズマは、マイクロ波によってその励起状態が維持される。プラズマが着火した後、導電体7をガス入口21から除去することが好ましい。導電体7を内部空間22から除去することにより、導電体7由来の不純物(例えばタングステン粒子)の発生及びそのような不純物の基材への付着を防止又は抑制することができる。誘電体チャンバ2にキャリアガスのみを供給し、導電体7により着火してプラズマ化したキャリアガスを生成させた後、原料ガスを供給してもよい。誘電体チャンバ2の内部空間22に予めプラズマ化したキャリアガスを生成しておくことにより、原料ガスのプラズマ化をより効率的に行い、プラズマ出口23からより高密度のプラズマ化された原料ガスを噴出させることができる。
【0088】
原料ガスの供給は、キャリアガスの供給と同時に開始してもよく、キャリアガスをプラズマ化させた後に開始してもよい。原料ガスはキャリアガスと混合してから供給してもよく、原料ガスとキャリアガスとを別々に供給してもよい。
【0089】
原料ガスは、プラズマ化されたキャリアガスと誘電体チャンバ2の内部空間22で混合されて、プラズマ化された原料ガスが生成する。原料ガスの一部は、マイクロ波の直接照射によってプラズマ化する場合もある。
【0090】
誘電体チャンバ2の内部空間22にフッ素樹脂又は炭化水素系熱硬化樹脂の棒状物8を導入して、キャリアガス又は原料ガスのプラズマ化をアシストしてもよい。
【0091】
プラズマ化したキャリアガス及び原料ガスは、誘電体チャンバ2の内部空間22を移動し、ノズル24により流速が高められてプラズマ出口23から基材に向かって噴出する。プラズマ化した原料ガスが基材表面に到達した後、プラズマ化した原料ガスの反応により、基材表面に被膜が形成される。
【0092】
プラズマ化された原料ガスの広がりは、例えば、プラズマ出口23からの距離が50mmの場合には、直径約20~100mmであることが好ましく、距離が100mmの場合には、直径約20~50mmであることが好ましく、距離が150mmの場合には、直径約50~200mmであることが好ましい。
【0093】
プラズマ出口23と、処理される基材表面との直線最短距離は、基材の形状及び材質、被膜の厚さ、原料ガスの種類等により適宜決定することができる。上記直線最短距離は、0超、500mm以下とすることができ、20~300mmとすることが好ましい。直線最短距離をかかる範囲とすることにより、基材の表面に均一な厚さの被膜を効率よく形成することができる。
【0094】
成膜時間は、基材の表面積、被膜の厚さ、原料ガスの種類等によって適宜決定することができる。
【0095】
本開示の大気圧リモートプラズマCVD装置1により形成することのできる被膜として、例えば、ダイヤモンド状炭素(DLC)膜、及び酸化ケイ素(SiO)膜が挙げられる。
【0096】
DLC膜は、水素原子を最大50原子%含む非晶質水素化炭素膜(a-C:H)を包含する。DLC膜は、原料ガスとして、アセチレン、メタン、エタン、プロパン、及びこれらの混合物などの炭化水素を用いて形成することができる。
【0097】
SiO膜は、SiO膜に加えて、SiO:CHなどと表記され、有機ケイ素化合物に由来するC及びHが骨格中に結合している膜を包含する。SiOx膜は、トリメチルシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン及びこれらの混合物などのケイ素化合物を用いて形成することができる。
【0098】
被膜の成膜速度は、原料ガスの供給量、原料ガスの濃度、原料ガスのプラズマ化条件などにより適宜調整することができる。被膜の成膜速度は、例えば、1nm/秒~100nm/秒とすることができ、2nm/秒~20nm/秒であることが好ましく、3nm/秒~10nm/秒であることがより好ましい。
【0099】
被膜の厚さは、用途に応じて適宜決定することができるが、例えば、5nm~100nmとすることができ、10nm~50nmであることが好ましく、10nm~30nmであることがより好ましい。被膜の厚さを5nm以上とすることで、ガスバリア性などの所望する特性を基材表面に付与することができる。被膜の厚さを100nm以下とすることで生産性を高めてコストを低減することができる。
【0100】
被膜は多層膜であってもよい。一実施形態では、被膜はDLC膜とSiOx膜とを交互に含む多層膜である。このような多層膜は、例えば、1つの大気圧リモートプラズマCVD装置1において、供給する原料ガスを一定時間経過後に交互に切り替えることによって形成してもよく、2つ以上の大気圧リモートプラズマCVD装置1にそれぞれ異なる原料ガスを供給し、1つの大気圧リモートプラズマCVD装置1で成膜した後、他の大気圧リモートプラズマCVD装置1でその上にさらに成膜することによって形成してもよい。
【0101】
本開示の大気圧リモートプラズマCVD装置及びそれを用いた被膜形成方法によれば、プラスチックボトル、包装材料用キャップ等の立体形状への被膜形成が可能であり、高分子材料等の低温での処理が要求される材料のバリア被膜の形成を容易に行うことができる。また、本開示の大気圧リモートプラズマCVD装置は、原料ガスに由来する被膜形成を伴わないプラズマ表面処理装置として使用することもできる。
【0102】
本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、その精神の範囲内において本発明の様々な変形、構成要素の追加、又は改良が可能である。
【実施例
【0103】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されない。
【0104】
図1に示される構成の大気圧リモートプラズマCVD装置を用いて、原料ガスをアセチレン(C)としてDLC(非晶質水素化炭素)被膜をプラスチックボトルの内表面に形成した。
【0105】
プラスチックボトルの仕様は以下のとおりであった。
材料:ポリエチレンテレフタレート(PET)
容量:350mL
胴部の外径:60mm
全長:150mm
胴部の厚さ:0.3mm
【0106】
誘電体チャンバは、図2に示される外径24mm、内径20mm、長さ360mm、厚さ2mmのポリテトラフルオロエチレン製の円筒形状を有し、プラズマ出口に開口直径5mmのノズルが設けられていた。
【0107】
プラズマを着火するための導電体として、直径3mm、長さ100mmで、先端が尖っているタングステン針を使用した。タングステン針は絶縁体の紐によってつるされたフローティング状態とし、誘電体チャンバ上端部挿入孔より挿入し、プラズマ着火後に抜き出し、挿入孔を閉じた。
【0108】
誘電体チャンバのプラズマガス出口(ノズル)を、プラスチックボトルの口部天面より10mm下方まで差し込んで、プラスチックボトルをステージの上に配置した。その後、誘電体チャンバの内部空間にキャリアガスとしてアルゴンを流量1500sccmで供給しながら、タングステン針を誘電体チャンバの内部空間に挿入し、誘電体チャンバ内がアルゴンで満たされた後、マイクロ波発振器において、周波数が2.45GHz、出力が840Wのマイクロ波を発振した。マイクロ波発振器から供給されたマイクロ波を、伝搬導波管を伝搬させ、リング状共振器の内部に供給し、リング状共振器に等間隔に形成された5ヶ所の横スリット(水平スリット)、2ヶ所の縦スリット(垂直スリット)を通過させ、マイクロ波閉じ込め室に導入することにより、誘電体チャンバ内にプラズマを発生させた。マイクロ波は、1kHz、デューティー比(出力ありとなしの部分の比率)1:1矩形波形状の出力とした。
【0109】
プラズマ出口からプラズマ化されたアルゴンガスが噴出するのを確認した後、タングステン針を誘電体チャンバから除去し、アルゴンガスを供給しながら、原料ガスであるアセチレン(C)ガスを、ガス供給源(ボンベ)から流量制御弁を介して、誘電体チャンバの内部空間に流量20sccmで供給し、誘電体チャンバ内でプラズマ化したアセチレンガスを生成させた。
【0110】
プラズマ出口から噴出するプラズマ化したアセチレンガスを、プラスチックボトルに10秒間を導入した後、マイクロ波の発振を停止して、内表面に被膜が形成されたプラスチックボトルを得た。被膜形成中、プラズマ化したアセチレンガスが、プラズマ出口から少なくとも15cmの距離まで送達されたことを目視で観察した。
【0111】
プラスチックボトルの内表面に形成された被膜を、PHI社製走査型X線光電子分光分析装置QuanteraIIを用いて真空(1×10-6Pa)の条件でX線光電子分光法(XPS)により分析した。被膜のC1sピークを解析したところ、sp2炭素が約50%、sp3炭素が約50%含まれており、DLC膜が形成されていることが分かった。
【0112】
得られたプラスチックボトルの酸素透過量Tを、MOCON酸素透過率測定装置OX―TRAN MODEL2/61(株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて、温度37℃、相対湿度70%の条件で測定したところ、0.043cc/24h・pkgであった。原料ガスを供給しなかった以外は同じ条件でプラズマ処理を行った対照プラスチックボトルの酸素透過量Tは、0.045cc/24h・pkgであったことから、バリア性改善率(=(T-T)/T×100(%))は4.4%であった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本開示の大気圧リモートプラズマCVD装置及び被膜形成方法によれば、様々な基材表面にDLC膜等の機能性被膜を形成することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 大気圧リモートプラズマCVD装置
2 誘電体チャンバ
21 ガス入口
22 内部空間
23 プラズマ出口
24 ノズル
3 外部チャンバ
31 台座
32、33 側壁
34 蓋面
35 マイクロ波閉じ込め室
4 フランジ
51 原料ガス供給ライン
52 流量制御弁
53 キャリアガス供給ライン
54 流量制御弁
55 T字管
56 蓋
6 プラズマ発生装置(マイクロ波照射装置)
61 スリットアンテナ(スリット)
62 伝搬導波管
63 マイクロ波発振器
64 リング状共振器
7 導電体
71 ガイド
72 コック弁
73 絶縁シース
8 棒状物
81 原料供給機構
9 導電体(ステージ)
B プラスチックボトル
BI プラスチックボトルの内表面
BM プラスチックボトルの口部
MW マイクロ波供給領域
PG プラズマ化ガス
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5