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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】音響光学デバイスの熱安定化
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/33 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
G02F1/33
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022525881
(86)(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 IL2020051078
(87)【国際公開番号】W WO2021090305
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】62/930,570
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501005438
【氏名又は名称】オルボテック リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エルマク オレグ
(72)【発明者】
【氏名】ペレド イタイ
【審査官】岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-534074(JP,A)
【文献】特表2014-524047(JP,A)
【文献】特表2017-522187(JP,A)
【文献】特表2008-502010(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0281271(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学装置であって、
放射の入力ビームを受け取り、前記入力ビームを、それぞれの第1および第2のビーム角において、それぞれの第1および第2の強度で、少なくとも第1および第2の出力ビームに偏向させるように構成される音響光学媒体であって、異なる、それぞれの第1および第2の回折効率によって特徴付けられる、音響光学媒体と、
前記音響光学媒体に取り付けられた、複数の圧電変換器のアレイと、
前記圧電変換器に、それぞれの駆動信号を印加するように結合された駆動回路であって、前記駆動信号は、少なくとも、第1の周波数での第1の駆動信号と、第2の周波数での第2の駆動信号を備え、前記第1の駆動信号は、前記第1の出力ビームを、前記第1のビーム角で、及び前記複数の圧電変換器において、第1の周波数成分に対する第1の位相オフセットを有して方向付け、前記第2の駆動信号は、前記第2の出力ビームを、前記第2のビーム角で、及び前記複数の圧電変換器において、第2の周波数成分に対する第2の位相オフセットを有して方向付け、音響波を前記第1および第2の周波数で、異なる、それぞれの第1および第2の波面角を有して、前記音響光学媒体を通して伝搬させ、および前記駆動回路は、前記異なる第1および第2の回折効率を補償し、それによって前記第1および第2の強度を等しくするために、前記第1および第2の位相オフセットを選択するように構成されたコントローラを備えた、駆動回路と
を備えることを特徴とする光学装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、前記駆動回路は、前記音響光学媒体が前記入力ビームを同時に、少なくとも前記第1および第2の出力ビームに偏向させるために、少なくとも前記第1および第2の駆動信号を、前記それぞれの位相に第1および第2の位相オフセットを有して、前記圧電変換器に併行して印加するように構成されることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、前記コントローラは、前記音響光学媒体が、少なくとも前記第1および第2のビームを、それぞれの第1および第2の角度範囲にわたって走査するように、前記第1および第2の駆動信号の少なくとも前記第1および第2の周波数を変化させ、変化する前記周波数に応答して前記それぞれの位相オフセットを変化させるように構成されることを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置であって、前記コントローラは、目標上の前記第1のビームの強度が所定のビーム強度の50%未満まで減衰される、阻止区間によって散在される、連続するパルス区間の間、前記音響光学媒体は、前記所定のビーム強度を有して、少なくとも前記第1のビームを前記目標に向かって偏向させるように、前記駆動回路によって印加される前記駆動信号を制御するように構成され、
前記第1の駆動信号は、所定の振幅を有し、各パルス区間の間は前記ビームの偏向角に対応する周波数を有し、各阻止区間の間はチャープ型周波数スペクトルを有することを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置であって、前記第1の回折効率は、前記第2の回折効率より大きく、前記コントローラは、前記第2の周波数での前記音響波が、前記入力ビームに対するブラッグ条件を満たし、前記第1の周波数での前記音響波が、前記入力ビームに対するブラッグ条件から逸脱するように、前記第2の位相オフセットを設定することによって、前記異なる第1および第2の回折効率を補償するように構成されることを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置であって、前記コントローラは、前記それぞれの位相オフセットに関わらず、前記それぞれの駆動信号の一定のパワーレベルを維持しながら、前記それぞれの位相オフセットを変更することによって、出力ビームのそれぞれをオンおよびオフにするようにさらに構成されることを特徴とする装置。
【請求項7】
光走査の方法であって、
放射の入力ビームを、複数の圧電変換器のアレイが取り付けられた音響光学媒体に入射するように方向付けることと、
それぞれの駆動信号を、前記圧電変換器に印加することであって、前記駆動信号は、少なくとも第1及び第2の周波数成分を備え、前記入力ビームを、それぞれ第1及び第2のビーム角でそれぞれ第1及び第2の強度で第1及び第2の出力ビームに偏向させ、前記第1及び第2の出力ビームは、それぞれ第1及び第2の周波数において、及び前記複数の圧電変換器において、前記第1及び第2の周波数成分に対して第1及び第2の位相オフセットを有し、
前記異なる第1および第2の回折効率を補償し、それによって前記第1および第2の強度を等しくするために、音響波を前記第1および第2の周波数で、異なる、それぞれの第1および第2の波面角を有して、前記音響光学媒体を通して伝搬させる、前記第1および第2の位相オフセットを選択することと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記それぞれの駆動信号を印加することは、前記音響光学媒体が前記入力ビームを同時に、少なくとも前記第1および第2の出力ビームに偏向させるために、少なくとも前記第1および第2の駆動信号を、前記それぞれの位相に第1および第2の位相オフセットを有して、前記圧電変換器に併行して印加することを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、前記それぞれの駆動信号を印加することは、前記音響光学媒体が、少なくとも前記第1および第2のビームを、それぞれの第1および第2の角度範囲にわたって走査するように、前記第1および第2の駆動信号の少なくとも前記第1および第2の周波数を変化させることを含み、前記第1および第2の位相オフセットを選択することは、変化する前記周波数に応答して前記それぞれの位相オフセットを変化させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記それぞれの駆動信号を印加することは、目標上の前記第1のビームの強度が所定のビーム強度の50%未満まで減衰される、阻止区間によって散在される、連続するパルス区間の間、前記音響光学媒体は、前記所定のビーム強度を有して、少なくとも前記第1のビームを前記目標に向かって偏向させるように、前記駆動信号を制御することを含み、
前記第1の駆動信号は、所定の振幅を有し、各パルス区間の間は前記ビームの偏向角に対応する周波数を有し、各阻止区間の間はチャープ型周波数スペクトルを有することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項7に記載の方法であって、前記第1の回折効率は、前記第2の回折効率より大きく、前記第1および第2の位相オフセットを選択することは、前記第2の周波数での前記音響波が、前記入力ビームに対するブラッグ条件を満たし、前記第1の周波数での前記音響波が、前記入力ビームに対するブラッグ条件から逸脱するように、前記第2の位相オフセットを設定することによって、前記異なる第1および第2の回折効率を補償することを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記第1および第2の位相オフセットを選択することは、前記それぞれの位相オフセットに関わらず、前記それぞれの駆動信号の一定のパワーレベルを維持しながら、前記それぞれの位相オフセットを変更することによって、前記出力ビームのそれぞれをオンおよびオフにすることを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に光学デバイスおよびシステムに関し、詳細には音響光学デバイスおよびそのようなデバイスを動作させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音響光学デバイスは、音波を用いて光を回折させる。この種の通常のデバイスにおいて、圧電変換器などの変換器は、通常は適切な透明な結晶体またはガラスである音響光学媒体に取り付けられる。変換器は、ある一定の周波数で振動するように電気信号によって駆動され、したがって音響光学媒体内に音波を作り出す。音波による音響光学媒体の膨張および圧縮は、局所的な屈折率を変調し、したがって、駆動信号の周波数によって決定される周期を有して、媒体内に格子構造を作り出す。したがって、この格子に入射する光のビームは、それがデバイスを通過するのに従って回折されるようになる。
【0003】
様々なタイプの音響光学デバイスが、当技術分野で知られている。音響光学偏向器は、例えば、入射ビームの回折を用いて、出力ビームの角度を誘導する。出力ビームの偏向角は、音響光学材料内の格子構造の周期に依存し、したがって駆動信号周波数を適切に変化させることによって調整され得る。
【0004】
いくつかの音響光学デバイスは、音響光学媒体内に音波を作り出すために、変換器のフェーズドアレイを用いる。変換器は、音響光学媒体を通って伝搬する音響波の角度を制御するために、異なる相対位相遅延を用いて駆動され、したがって音響場と、変調されることになる光ビームとの間の位相整合を調整する。例えば、米国特許第7,538,929号は、音響光学バルク媒体と、音響光学バルク媒体に取り付けられ、電極の直線状アレイとして形成される変換器とを含む、音響光学変調器を用いて、光波面の強度変調を行うための、無線周波数(RF)位相変調技法を述べている。変換器駆動部は、各電極に接続され、コヒーレントに位相駆動されて、音響場の角運動量分布を変化させ、および所望の光波面の強度変調を生じるように、光学および音響場の間の位相整合を交互に許容または抑制する。
【0005】
音響光学偏向器は、異なる、それぞれの角度において、入射ビームを複数の出力ビームに回折させるために、多周波駆動信号によって駆動され得る。例えば、米国特許第5,890,789号は、異なる周波数を有する複数の電気信号によって駆動される、光導波路タイプの音響光学素子などを用いて、光源から放出された光ビームを複数のビームに分割する、多ビーム放出デバイスを述べている。他の例として、米国特許出願公開第2009/0073544号は、音響光学素子が、ビーム源によって発生されたビームをいくつかの部分的ビームに分割する、単色コヒーレント電磁放射の光学的分割および変調のためのデバイスを述べている。音響光学素子の下流側に配置された音響光学変調器には、分割された部分的ビームが供給され、追加の高周波電気信号によって駆動される。
【0006】
参照によりその開示が、本願に引用して援用するPCT国際公開第WO2016/075681号は、音響光学偏向器の駆動におけるフェーズドアレイの使用の他の例を述べている。この公開において、光学装置は、音響光学媒体と、音響光学媒体に取り付けられる複数の圧電変換器のアレイとを含む。駆動回路は、圧電変換器にそれぞれの駆動信号を印加するように結合され、駆動信号は、異なる、それぞれの第1および第2の周波数における、および複数の圧電変換器のそれぞれにおいて、第1および第2の周波数成分に対する、異なる、それぞれの位相オフセットを有する、少なくとも第1および第2の周波数成分を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2015/0338718号
【文献】米国特許出願公開第2005/0279807号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、音響光学偏向のための改良されたデバイスおよび方法をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態による、光学装置がもたらされ、光学装置は、放射の入力ビームを受け取り、入力ビームを、それぞれの第1および第2のビーム角において、それぞれの第1および第2の強度で、少なくとも第1および第2の出力ビームに偏向させるように構成される音響光学媒体であって、異なる、それぞれの第1および第2の回折効率によって特徴付けられる、音響光学媒体を含む。複数の圧電変換器のアレイは、音響光学媒体に取り付けられる。駆動回路は、圧電変換器に、それぞれの駆動信号を印加するように結合され、駆動信号は、第1および第2の出力ビームを、それぞれの第1および第2のビーム角において、および複数の圧電変換器のそれぞれにおいて、第1および第2の周波数成分に対する、異なる、それぞれの第1および第2の位相オフセットを有して方向付けるように、異なる、対応する第1および第2の周波数での少なくとも第1および第2の駆動信号を備え、これは音響波を第1および第2の周波数で、異なる、それぞれの第1および第2の波面角を有して、音響光学媒体を通して伝搬させる。コントローラは、異なる第1および第2の回折効率を補償し、それによって第1および第2の強度を等しくするために、第1および第2の位相オフセットを選択するように構成される。
【0010】
通常、駆動回路は、音響光学媒体が入力ビームを同時に、少なくとも第1および第2の出力ビームに偏向させるために、少なくとも第1および第2の駆動信号を、それぞれの位相に第1および第2の位相オフセットを有して、圧電変換器に併行して印加するように構成される。
【0011】
いくつかの実施形態において、コントローラは、音響光学媒体が、少なくとも第1および第2のビームを、それぞれの第1および第2の角度範囲にわたって走査するように、第1および第2の駆動信号の少なくとも第1および第2の周波数を変化させ、変化する周波数に応答してそれぞれの位相オフセットを変化させるように構成される。一実施形態において、コントローラは、目標上の第1のビームの強度が所定のビーム強度の50%未満まで減衰される、阻止区間によって散在される、連続するパルス区間の間、音響光学媒体は、所定のビーム強度を有して、少なくとも第1のビームを目標に向かって偏向させるように、駆動回路によって印加される駆動信号を制御するように構成され、第1の駆動信号は、所定の振幅を有し、各パルス区間の間はビームの偏向角に対応する周波数を有し、各阻止区間の間はチャープ型周波数スペクトルを有する。
【0012】
追加としてまたは代替として、第1の回折効率が、第2の回折効率より大きいとき、コントローラは、第2の周波数での音響波が、入力ビームに対するブラッグ条件を満たし、第1の周波数での音響波が、入力ビームに対するブラッグ条件から逸脱するように、第2の位相オフセットを設定することによって、異なる第1および第2の回折効率を補償するように構成される。開示される実施形態において、コントローラは、それぞれの位相オフセットに関わらず、それぞれの駆動信号の一定のパワーレベルを維持しながら、それぞれの位相オフセットを変更することによって、出力ビームのそれぞれをオンおよびオフにするようにさらに構成される。
【0013】
また本発明の実施形態による光学装置がもたらされ、光学装置は、音響光学媒体であって、放射の入力ビームを受け取り、目標上のビームの強度が所定のビーム強度の50%未満まで減衰される、阻止区間によって散在される、連続するパルス区間の間、角度の範囲にわたって、所定のビーム強度を有して、入力ビームを目標に向かって偏向させるように構成された、音響光学媒体を含む。少なくとも1つの圧電変換器は、音響光学媒体に取り付けられる。駆動回路は、少なくとも1つの圧電変換器に駆動信号を印加するように結合され、駆動信号は、所定の振幅を有し、各パルス区間の間はビームの偏向角に対応する周波数を有し、各阻止区間の間はチャープ型周波数スペクトルを有する。
【0014】
いくつかの実施形態において、チャープ型周波数スペクトルは、目標上のビームの強度が、阻止区間の間、所定のビーム強度の10%未満まで減衰されるように選ばれる。
【0015】
追加としてまたは代替として、チャープ型周波数スペクトルは、各阻止区間の間に印加される、一連の離散的な周波数ステップを含む。開示される実施形態において、少なくとも1つの圧電変換器は、複数の圧電変換器のアレイを備え、駆動回路は、音響波を、パルス区間の間、入力ビームに対するブラッグ条件を満たし、阻止区間の間、離散的な周波数ステップのそれぞれにおいて、入力ビームに対するブラッグ条件から逸脱する、波面角において、音響光学媒体を通って伝搬させるように選択された位相を有するそれぞれの駆動信号を、圧電変換器に印加するように構成される。
【0016】
加えて、本発明の実施形態による光学装置がもたらされ、光学装置は、放射の入力ビームを受け取り、入力ビームを、偏向角の範囲にわたって、目標に向かって偏向させるように構成される音響光学媒体を含む。複数の圧電変換器のアレイは、音響光学媒体に取り付けられる。駆動回路は、圧電変換器に、それぞれの駆動信号を印加するように結合され、駆動信号は、音響波を、選択された周波数で、音響光学媒体を通して伝搬させるように選択された周波数を有し、それによって範囲内の対応する偏向角において入力ビームを偏向させ、および音響波の波面角を調整することによって偏向されたビームの強度を変調するように選択された、アレイ内の変換器に印加される駆動信号の間の位相オフセットを有する。
【0017】
本発明の実施形態による、光走査の方法がさらにもたらされ、方法は、放射の入力ビームを、複数の圧電変換器のアレイが取り付けられた音響光学媒体に入射するように方向付けることを含む。それぞれの駆動信号は、圧電変換器に印加され、駆動信号は、音響光学媒体に、音響光学媒体が、異なる、それぞれの第1および第2の回折効率によって特徴付けられる、入力ビームを、それぞれの第1および第2のビーム角において、それぞれの第1および第2の強度で、少なくとも第1および第2の出力ビームに偏向させるように、異なる、それぞれの第1および第2の周波数において、および複数の圧電変換器のそれぞれにおいて、第1および第2の周波数成分に対して、異なる、それぞれの第1および第2の位相オフセットを有する、少なくとも第1および第2の周波数成分を備える。第1および第2の位相オフセットは、音響波を第1および第2の周波数で、異なる、それぞれの第1および第2の波面角を有して、音響光学媒体を通して伝搬させるように選択され、それによって、異なる第1および第2の回折効率を補償し、第1および第2の強度を等しくする。
【0018】
本発明の実施形態による、光走査の方法がさらにもたらされ、方法は、放射の入力ビームを、少なくとも1つの圧電変換器が取り付けられた、音響光学媒体に入射するように方向付けることを含む。少なくとも1つの圧電変換器に駆動信号が印加され、駆動信号は、所定の振幅を有し、連続するパルス区間のそれぞれの間、ビームの偏向角に対応する周波数を有し、パルス区間によって散在された、連続する阻止区間のそれぞれの間、チャープ型周波数スペクトルを有し、その結果、音響光学媒体に、連続するパルス区間のそれぞれの間、角度の範囲にわたって、所定のビーム強度を有して、目標に向かって入力ビームを偏向させる、および阻止区間のそれぞれの間、所定のビーム強度の50%未満まで、目標上のビームの強度を減衰させる。
【0019】
本発明の実施形態による、光走査の方法がさらにもたらされ、方法は、放射の入力ビームを、複数の圧電変換器のアレイが取り付けられた音響光学媒体に入射するように方向付けることを含む。それぞれの駆動信号が、圧電変換器に印加され、駆動信号は、選択された周波数での音響波を、音響光学媒体を通って伝搬させるように選択された周波数を有し、それによって音響光学媒体に、入力ビームを、対応する偏向角において偏向させる。アレイ内の変換器の間の位相オフセットは、音響波の波面角を調整することによって、偏向されたビームの強度を変調するように設定される。
【0020】
本発明は、その実施形態の以下の詳しい説明を、図面と併せ読めば、より十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態による、多ビーム偏向システムを絵で表した概略説明図である。
図2】本発明の実施形態による、音響光学偏向器に印加される周波数チャープ型信号の概略グラフである。
図3】本発明の実施形態による、複数の出力ビームの発生において用いられる音響光学偏向器の概略断面図である。
図4】本発明の実施形態による、変換器のフェーズドアレイによって駆動される音響光学偏向器の概略断面図である。
図5】本発明の実施形態による、音響光学偏向器のための多周波駆動回路を概略的に例示するブロック図である。
図6】本発明の実施形態による、音響光学偏向器を駆動する変換器の間の位相オフセットの関数としての回折効率の概略グラフである。
図7】本発明の他の実施形態による、音響光学偏向器に印加される周波数チャープ型信号の概略グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
概観
音響光学デバイスは、多くのレーザ用途において、高レート(通常50kHz~1MHzの範囲内)において、および高分解能を有して、レーザビーム強度および方向を制御するために用いられる。レーザビームの精密な制御のために、結晶体自体における音響吸収によって影響され得る、音響光学結晶体の温度の注意深い制御を維持することが重要である。例えば、結晶体において一様な温度変化が生じるとき、それは結晶体内の音響速度(および屈折率)を変化させるようになり、レーザビームの偏向角のドリフトに繋がる。不均一な温度変化は、レーザビームを歪ませ、レンズ効果および他の屈折効果を引き起こす。
【0023】
しかし、音響光学変調および偏向は、音響光学結晶体を駆動するために用いられるRF信号における変化が本質的に関わるので、音響光学結晶体を安定な温度に保つことは、難易度の高いものとなる。例えば、目標に向かって送信されるレーザパルスは、結晶体へのRF信号を中断することによって、断続的に阻止され得るが(「パルスピッキング」と呼ばれる動作)、結果としてのRF入力パワーの変化は、結晶体内の温度変動および不安定な熱的挙動を引き起こすようになる。さらに、音響光学結晶体に印加される駆動周波数を変化させることによるレーザビーム方向の誘導はまた、異なる駆動周波数は通常、同じレーザパルスエネルギーを達成するのに異なるレベルのRFパワーを必要とするので、および結晶体の音響吸収は強く周波数に依存するので、温度変化に繋がり得る。
【0024】
本明細書で述べられる本発明の実施形態は、パルスピッキングおよびビーム誘導に固有の課題に関わらず、音響光学結晶体の温度を安定および均一に保つために用いられ得る、新規な技法をもたらす。これらの実施形態は、結晶体が、1つ以上の放射のビームを誘導し、結晶体への一定のRF入力レベルを維持しながら、ビームを交互に通過および阻止することを可能にする。この関連において「一定」という用語は、結晶体を駆動する圧電変換器に入力される、駆動信号の瞬時RFパワーが、予め規定された限度内、通常、ビームの誘導および間欠的な阻止に関わらず、音響光学デバイスの動作の間の変化は10%以下、場合によっては5%以下に維持されることを意味する(ただし用途の要件に依存して、より大きなまたはより小さな限度が可能である)。
【0025】
いくつかの実施形態において、音響光学媒体(通常は適切な結晶体)は、それに取り付けられた少なくとも1つの圧電変換器によって、角度の範囲にわたって所定のビーム強度を有して、目標に向かって入力ビームを偏向させるように、連続するパルス区間の間、駆動される。パルス区間は、阻止区間によって散在され、その間には目標上のビームの強度は、所定のビーム強度の50%未満、または場合によっては10%未満、5%未満、さらには高感度の用途では1%未満までに減衰される。(「強度」という用語は、この説明の関連において、および特許請求の範囲において、その従来の意味で、ビームが入射する単位面積当たりの光パワーを意味するように用いられる)。
【0026】
駆動回路は、各パルス区間の間はビームの偏向角に対応する周波数を用いて、および各阻止区間の間はチャープ型周波数スペクトルを用いて、圧電変換器に駆動信号を印加する。周波数チャープは、阻止区間の間の目標上のビームの強度は、パルス区間の間の偏向されたビームの強度よりずっと低くなるように、入力ビームを目標の大きなエリアに分散させるように選ばれた周波数範囲および持続時間を有する。異なる周波数スペクトルに関わらず、駆動回路は、パルス区間および阻止区間の両方において、駆動信号の実質的に同じ、所定の振幅を維持する。
【0027】
この手法は、多周波動作における温度を安定化するために拡張されることができ、そこでは単一周波数駆動信号の重ね合わせとして形成される複合駆動信号が、圧電変換器のアレイによって、音響光学媒体に印加される。複合駆動信号は、レーザビームをいくつかの出力ビームに分割する。周波数チャープは、阻止されることになる出力ビームの1つ以上を選択するために、駆動信号の一部として印加され得る。追加としてまたは代替として、各単一周波数成分に対する変換器の間で、特定の位相オフセット(位相遅延とも呼ばれる)を選択することによって、選択された成分に対する回折効率を低減させる、およびしたがって特定の出力ビームの強度を著しく低減させることが可能である。これらの手法を用いて、デバイス内への一定のRFパワーフローを維持しながら、出力ビームの数および方向が変化されることが可能であり、結果として温度変動の低減となる。
【0028】
変換器の間の異なる位相オフセットは、異なる周波数における音響波を、異なる、それぞれの波面角を有して、音響光学媒体を通って伝搬させる。各周波数における波面角は、具体的には、ブラッグ条件を満たし、したがってこの周波数において所定のRFパワーに対する最大回折効率を達成するように、またはブラッグ条件から逸脱し、したがって回折効率を低減するように、選ばれる。この特性を用いて、位相オフセットは、周波数およびビーム角の関数として、音響光学媒体の回折効率における固有の変動を補償し、したがって音響光学変調器への一定の入力RFパワーを維持しながら、出力ビームの強度を等しくするように設定され得る(この関連において「等しい」とは、「一定」という用語と同様に、出力ビームの強度が、10%以下、場合によっては5%以下だけ変動することを意味する。)。
【0029】
一実施形態において、位相オフセットは、ブラッグ条件からの大きな逸脱を作り出すように、十分な量だけ断続的に変更され、したがって一定の入力RFパワーを依然として維持しながら、いくつかの阻止区間の間、出力ビームのそれぞれをオフにする。追加としてまたは代替として、この機能は、阻止区間の間、上述された周波数チャープと組み合わされ得る。
【0030】
より一般的には、ブラッグ条件からの波面角の意図的な逸脱は、音響光学媒体によって偏向された入力ビームの強度を変調するために用いられ得る。いくつかの実施形態において、駆動回路は、音響光学媒体に、範囲内の対応する偏向角において、入力ビームを偏向させるように選択された周波数と、偏向されたビームの強度を変調するように選択された、アレイ内の変換器の間の位相オフセットとを有して、それぞれの駆動信号を圧電変換器に印加する。このようにして、音響光学媒体への一定のRFパワー入力を維持しながら、偏向されたビーム強度を変調する(およびビームをオフおよびオンにする)ことが可能である。
【0031】
システムの説明
図1は、本発明の実施形態による多ビーム偏向システム20を絵で表した概略説明図である。レーザ22などの放射源は、可視の紫外または赤外放射を備え得る、パルス状または連続の、光放射の単一の入力ビーム23を放出する。入力ビーム23は音響光学偏向器24に入射し、偏向器24は入力ビームを複数の出力ビーム30に分割する。駆動回路28(単に「駆動部」とも呼ばれる)は、多周波駆動信号を1つ以上の圧電変換器26に印加し、圧電変換器26は、入力ビームを複数の出力ビーム30に分割する音響光学媒体内に音響波を発生させるために、偏向器24を駆動する。
【0032】
偏向器24は、水晶、二酸化テルル(TeO)、ゲルマニウムなどの結晶材料、または石英ガラスもしくはカルコゲナイドガラスなどのガラス材料を含む、当技術分野で知られている任意の適切な音響光学媒体を備え得る。結晶媒体は、例えば、音速および複屈折の観点から、所望の音響光学特性を得るために、特定の、好ましい結晶方向に沿って切断され得る。変換器26は同様に、通常、金属結合層によって音響光学媒体に取り付けられる、ニオブ酸リチウムなど、任意の適切な圧電材料の1つ以上を備え得る。駆動回路28、およびそれが発生する駆動信号の動作の詳細は、以下の図、および下記の説明で示される。
【0033】
図示される実施形態において、走査ミラー32は、角度の範囲38にわたって出力ビーム30を走査する。ビームは、走査レンズ34によって、目標面36上に焦点が合わされる。この種の配置は、多ビームレーザ穿孔および印刷など、多様な用途において用いられ得る。駆動部28によって変換器に印加される駆動信号は、ビーム30のそれぞれが、一連のパルス区間の間に所定のビーム強度を有して目標に突き当たるように選ばれ、一方、ビームのそれぞれは、パルス区間によって散在された、ある一定の、それぞれの阻止区間の間は阻止され得る。(前に述べられたように、「阻止される」とは、目標上のビームの強度が、所定のビーム強度の50%未満、および通常10%未満、またはいくつかの場合は5%さらには1%未満まで減衰されることを意味する)。前に述べられたように、このビーム阻止は、駆動信号における一定のRFパワーレベルを維持しながら、駆動信号の周波数および/または位相を変化させることによって達成され得る。この目的のために用いられ得るいくつかのタイプの駆動信号は、以下で述べられる。
【0034】
この図では単一のミラー32のみが示されるが、代替実施形態(図には示されない)は、一緒にまたは独立に走査されることができる2軸ミラー、および/または当技術分野で知られている任意の他のタイプのビームスキャナを使用し得る。代替実施形態において、2つの音響光学偏向器が直列に配置されることができ、その一方は入力ビーム23を、第1の方向に分離された複数の出力ビームに分割し、他方は直交方向にビームを走査する。すべてのこのような実施形態は、本明細書で述べられ、および本発明の範囲内と考えられる様々な駆動方式をうまく利用し得る。
【0035】
チャープ型周波数スペクトルを用いたパルスピッキング
図2は、本発明の実施形態による、駆動部28によって音響光学偏向器24に印加される周波数チャープ型信号の概略グラフである。パルスブロッキングのためにRF信号を遮断する代わりに、この種のチャープ型信号が、パルスブロッキングの間に印加され得る。駆動信号におけるチャープは、時間tSTARTからtSTOPに延びるパルス期間にわたって、初期値fSTARTから最終値fSTOPまで増加する周波数によって特徴付けられる。例えば、fSTARTからfSTOPまでの周波数の範囲は、音響光学偏向器のスペクトル帯域幅のすべてまたは大部分をカバーすることができ、これは通常、数十から数百メガヘルツ程度である。tSTARTからtSTOPまでの時間範囲は、入力ビームの直径にわたる音響波の移動時間におおよそ等しくすることができ、これは通常、数マイクロ秒程度である。このようなチャープは、偏向器24からの単一の出力ビームに対して、または複数の出力ビーム30のセットの1つ以上に対して印加され得る。
【0036】
チャープ信号は、ビーム23の強いデフォーカスを引き起こし、それにより結果としての出力ビームは、目標面36上の大きなエリアに分散される。レーザビームは依然として、焦点が合わされた出力ビームにおけるものとほぼ同じ合計の光パワーを有して、目標面に向かって方向付けられるようになるが、光学的構成に応じて、強度は、90%より大きく場合によっては50dBだけ大きく減衰されるようになる。その結果として、レーザパルスは、実質的に目標に対する影響をもたないようになる。代替として、低減された周波数の範囲を有する、例えば、焦点が合わされたスポットによってより高い強度で後に照射されるようになる目標面のエリアを予熱するために、十分な強度で、目標面上に大きなスポットを形成するために、レーザビームをデフォーカスするように、より弱いチャープが用いられ得る。
【0037】
複数の出力ビームの強度の制御
図3は、本発明の実施形態による、音響光学偏向器24の概略断面図である。この図は、駆動回路28および圧電変換器26によってもたらされる、多周波駆動の効果および動作を示す。駆動回路28からの多周波駆動信号は、圧電変換器26に、複数の駆動周波数における音響波を発生させ、これは偏向器24内の音響光学媒体を通って伝搬する。異なる駆動周波数のそれぞれは、対応する空間周波数において、結晶体内に音響光学回折格子を確立し、すなわち、結晶体は、異なる空間周波数の複数の重ね合わされた格子を含む。図3に示される簡略化された例では、すべての格子の波面角は並列であるように見えるが、以下で述べられる実施形態では、各格子は異なる波面角を有し、これは、駆動回路28によって印加される駆動信号の位相によって決定される。
【0038】
入力ビーム23が偏向器24に入るとき、偏向器内の格子のそれぞれは、格子周波数に応じて、異なる角度で入力ビームを回折させる。したがって、偏向器24は、入力ビーム23を、異なる周波数f、f、・・・に対応する、異なる角度θ、θ、・・・において、複数の出力ビーム30a、30b、30c、30d、・・・に分割する。光学素子34は、出力ビームの焦点を合わせて、目標面36上に、対応するスポット1、2、・・・の配列を形成する。入力ビーム23のパルスと適切に同期して、周波数スペクトルおよび/または対応する周波数での信号の位相を変調することによって、駆動回路26は、入力ビームの各パルスによって発生される、対応する出力ビーム30の強度を制御し得る。追加としてまたは代替として、駆動回路26は、対応する角度θ、θ、・・・を変調するために、成分周波数f、f、・・・を変調することができ、したがって表面36上のスポットの位置を変化し得る。
【0039】
より具体的には、駆動回路28は、対応する周波数成分の位相および/または周波数スペクトルを制御することによって、ビーム30a、30b、30c、30d、・・・を個別にオンおよびオフすることができ、したがって、各パルスにおいて発生させるように、出力ビーム30の組合せを選び得る。(図1および3に示される例では、ビーム30cがオフにされる)。追加としてまたは代替として、駆動回路28は、角度の関数としての偏向器24の回折効率における変動を補償するために、周波数成分の位相を制御し得る。したがって駆動回路28は、例えば、回折効率における変動に関わらず、偏向器24への一定のRFパワー入力を維持しながら、ビーム30a、30b、および30dの強度を等しくすることができる。
【0040】
図4は、本発明の実施形態による、偏向器の音響光学媒体に取り付けられた、変換器40のフェーズドアレイを有する音響光学偏向器24の概略断面図である。変換器26は、前の図では単一のブロックとして示されたが、実際には本発明のすべての実施形態は、変換器40のアレイを用いた、この形で実装され得る。
【0041】
駆動回路28は、周波数発生器42を備えるように概念的に図示され、周波数発生器42は、駆動信号が、異なる、それぞれの位相オフセットを有して、変換器に供給されるように、それぞれの移相器44を通して、変換器40を駆動する。位相調整回路48は、駆動周波数と、この周波数での所望の回折効率とに応じて、移相器44の位相オフセットを設定する。結果として、偏向器24の音響媒体を通って伝搬する音響波46の波面は、変換器40が取り付けられた媒体の面に並行ではない。
【0042】
最大回折効率のために、波面角は、入力ビーム23と波面との間の角度θは、所定の駆動周波数に対してブラッグ条件、すなわちsinθ=nλ/2dを満たすように、移相器44の適切な設定によって選ばれることができ、ここでλは入力ビームの波長、nは回折次数(通常、n=1)、およびdは所定の周波数での音響波の波長である。この波面角の選択は、特にf(隣接した変換器40の間の位相差がゼロになるように設定することによって、ブラッグ条件が満足され得る周波数)から離れた周波数において、偏向器24による回折の効率を高める。
【0043】
代替として、位相調整回路48は、波面角を、制御された量だけブラッグ条件から逸脱した値に調整することによって、回折効率(およびしたがって、偏向器24からの結果としての出力ビームの強度)を変調し得る。この手法は、例えば、周波数および偏向角の関数としての、偏向器の回折効率における固有の変動を補償するため、およびしたがって、偏向器を一定レベルのRFパワーで駆動しながら、偏向されたビームの一定の強度を維持するために用いられ得る。追加としてまたは代替として、位相調整回路48は、回折効率を損なうように、より大きな変調を位相オフセットに適用することができ、およびしたがって、必要に応じて偏向器24に入力されるRFパワーのレベルを変化させずに、出力ビームをオフにすることができる。
【0044】
いくつかの実施形態において、駆動回路28は、複数の異なる周波数での周波数成分を有して、それぞれの多周波駆動信号を圧電変換器40に印加する。これらの周波数のそれぞれに対して、異なる回折角においてブラッグ条件が結果として生じる。したがって、すべての周波数における偏向器24の最適性能のために、位相調整回路48は、移相器44を駆動して、変換器40のそれぞれにおいて、各周波数に対して異なる位相オフセットを適用する。その結果として、それらの周波数で音響波46は、出力ビーム30の対応する周波数f、f、・・・、および偏向角θ、θ、・・・に対するそれぞれのブラッグ条件に対して選ばれる、異なる、それぞれの波面角を有して、音響光学媒体を通って伝搬する。
【0045】
図5は、本発明の実施形態による、音響光学偏向器24のための駆動回路28の機能構成要素を概略的に例示するブロック図である。駆動回路28のデジタル構成要素は、通常、ハードワイヤード、またはプログラマブルゲートアレイにおけるものなどの、プログラマブル論理回路において実装され得る。図5のブロックは、概念を明瞭にするために、別個の構成要素として示されるが、実際にはこれらの構成要素の機能は、単一の論理デバイスに組み合わされ得る。代替として、回路28のデジタル構成要素の少なくともいくつかは、コンピュータまたは専用マイクロプロセッサ上で実行するソフトウェアに実装され得る。
【0046】
周波数選択ブロック50は、対応する偏向角θ、θ、・・・を有する出力ビーム30を発生させるために、駆動偏向器24に印加されることになる、いくつかの基本周波数f、f、・・・を選択する。出力ビーム角度が横方向に走査されることになる場合(図1に示されるシステム20でのように)、ブロック50は、±Δfの量だけ、経時的にこれらの周波数のそれぞれを変調するようにプログラムすることができ、結果として、±Δθまでの各ビームの角度的走査を生じる。したがって、通常、ブロック50は、一連の周波数ベクトルを発生し、各ベクトルは、m個の基本周波数値{f+δf}を備え、これらは、m個の出力ビーム30を、対応する角度{θ+δθ}において発生させるために、特定の時点で偏向器24に印加されることになり、δfおよびδθは、それぞれ範囲±Δfおよび±Δθ内の周波数および角度変化である。
【0047】
位相調整ブロック54は、ブロック50および54によって供給される周波数成分に対応する、時間領域サンプルの複数のストリームを発生する。各ストリームは、変換器40のそれぞれの1つに方向付けられ、同じ周波数成分を含むが、異なる、それぞれの位相オフセットを有する。これらの位相オフセットは、各周波数での、偏向器24における音響波46の所望の波面角に従って選ばれる。通常、サンプルストリームの間の相対位相オフセットは、周波数範囲全体にわたって一様ではなく、周波数と共に増加し、その結果、上記で説明されたように、各周波数でのブラッグ条件に従って、波面角も同様に周波数と共に増加する。
【0048】
具体的には、ブラッグ条件を満たすために(複屈折ブラッグ回折がない状態で)、ブロック54は、以下の式に従って、異なる周波数において位相オフセットを設定し得る。
【数1】
この式において、

【数2】
は、周波数fにおけるブロック54の2つの隣接した出力チャネルの間の位相差、
・Sは、隣接した変換器40の中心の間の距離、
・λは、光ビーム波長、
・Vは、音響光学媒体内の音響速度、および
・fは、隣接したチャネルの間にゼロの位相差を与え、光出力ビームに対するブラッグ条件を満たす、印加される周波数である。
しかし本実施形態において、ブロック54は、上記で説明されたように選択される位相偏移によって、ブラッグ条件から意図的に逸脱させるように、ある一定の周波数での位相オフセットを設定し得る。
【0049】
前に述べられたように、ブロック50および54は、通常、デジタル論理回路および/またはソフトウェアにおいて実装される。ブロック54によって出力されるデジタルサンプルストリームは、対応する出力信号を駆動変換器40に対して発生させる、多チャネルデジタル/アナログコンバータ56それぞれのチャネルに入力される(D/Aコンバータチャネルと変換器との間のRF増幅器など、他のアナログ構成要素は、簡略にするために省かれている。)。周波数成分および位相オフセットの適切な選択を想定すると、変換器は、異なる基本周波数において、および異なる波面角を有して、偏向器24内に音響波の重ね合わせを発生させるようになる。
【0050】
図6は、本発明の実施形態による、音響光学偏向器24を駆動する隣接した変換器44の間の位相オフセット
【数3】
の関数としての回折効率の概略グラフである。曲線60、62、および64は、通常は約50MHzから150MHzの範囲内である、3つの異なる駆動周波数における回折効率を表す。各曲線における最大回折効率DEmaxは、所定の周波数での波面角がブラッグ条件を満たす、位相オフセット
【数4】
に対応する。それでも、最大回折効率は100%に到達せず、曲線60、62、および64の間で変化する。この最大から離れると、回折DEは、位相オフセット
【数5】
の関数として、おおよそ正弦的に変化する。
【数6】
【0051】
位相調整ブロック54は、例えば、曲線60、62、および64の周波数に対応する、偏向器24からの出力ビームのそれぞれの強度の変調において、上記の関係を適用することができる。変換器40に印加されるRFパワーは一定に保たれると仮定すると、所定の出力ビーム強度Iを達成するために必要な位相オフセット
【数7】
は、I/Iの逆余弦によって与えられ、ここでIは、所定の駆動周波数fに対する、最大回折効率で出力される強度である。前に説明されたように、異なる駆動周波数での
【数8】
の値は、異なる周波数での最大回折効率における差を補償するために用いられ得る。代替としてまたは追加として、出力ビームの1つを効果的に阻止するために、回折効率がゼロに近くなるように、
【数9】

【数10】
に設定され得る。さらに代替としてまたは追加として、出力ビームの強度は、位相オフセットを変調することによって、RF入力パワーを一定に保持しながら、変調され得る。
【0052】
図7は、本発明の他の実施形態による、音響光学偏向器に印加される多周波信号の概略グラフである。この信号は、図2に示される信号と同様な、チャープ型周波数スペクトルを有するが、この場合は一連の離散的な周波数ステップ70を備える。この種の信号は、所定の出力ビームが阻止されることになる区間の間、図5に示される駆動回路などの、デジタル駆動回路によって都合よく印加され得る。
【0053】
この周波数チャープ手法は、上述された変換器の間の位相オフセットの調整に基づく手法と組み合わせ得るので有利である。位相は、各周波数ステップ70において、音響波を、所定の周波数におけるブラッグ条件から逸脱する波面角において、音響光学媒体を通って伝搬させるように選択される。出力ビーム強度の最大減衰のために、各周波数における位相オフセットは、おおよそ
【数11】
に設定されることができ、ここで
【数12】
は、当該の周波数におけるブラッグ条件を満たす位相オフセットである。
【0054】
上述の実施形態は、例として記載され、および本発明は、本明細書の上記で具体的に示され述べられたものに限定されないことが理解されるであろう。むしろ、本発明の範囲は、本明細書の上記で述べられた様々な特徴の組合せおよび部分的組合せの両方、ならびに上記の説明を読むことにより当業者が思い付き得る、および先行技術で開示されていない、それらの変更形態および変形形態を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7