(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】排気ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 33/00 20060101AFI20240815BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20240815BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
B01J33/00 C ZAB
B01J23/63 A
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
(21)【出願番号】P 2022531896
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2021022974
(87)【国際公開番号】W WO2021261363
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2020107189
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒野谷 将
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-171615(JP,A)
【文献】特開2015-066516(JP,A)
【文献】特開2015-188881(JP,A)
【文献】特表2008-516768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/10,3/28
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン捕集層と、Pt、Pd及びRhからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属元素M
pを含む触媒層と、を備え、
前記リン捕集層は、前記触媒層に対して上層側及び/又は上流側に配置され、
前記リン捕集層は、Mgを含み、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよいアルカリ土類金属元素M
aと、Alと、を含む、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物、を含み、
前記リン捕集層中の貴金属の含有量が0.1g/ft
3
(0.0035g/L)以下であり、
前記複合酸化物のAl元素に対するM
a元素のモル比(M
a/Alモル比)が0.02以上0.60以下の範囲内であり、
前記複合酸化物は、前記複合酸化物のX線回折スペクトルにおいて、アルカリ土類金属酸化物M
aOに由来するピークの位置である回折角度2θx
M
a
Oと、アルミニウム酸化物Al
2O
3に由来するピークの位置である回折角度2θx
Al2O3との間に、前記複合酸化物の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造に由来するピークを有する、排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記リン捕集層は、前記リン捕集層に含まれる複合酸化物のX線回折スペクトルにおいて、前記複合酸化物の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造由来のピーク強度Isに対する前記アルカリ土類金属酸化物M
aO由来のピーク強度I
M
a
Oのピーク強度比(I
M
a
O/Is)が2.0以下である、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
基材を含み、基材上であって、前記触媒層よりも先に排ガスに接する位置に前記リン捕集層が配置された、請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属元素M
aが、Mgとともに、Mg以外のCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記Mg以外のアルカリ土類金属元素の含有量が、前記複合酸化物中に含まれる前記Mg及び前記Mg以外の他のアルカリ土類金属元素の合計量に対する元素組成百分率で10atm%以下である、請求項1か
ら3のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン捕集層を備えた排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動四輪車や自動二輪車(乗鞍型車両ともいう)等のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、未燃燃料による炭化水素(HC)、不完全燃焼による一酸化炭素(CO)、過度の燃焼温度による窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれている。このような内燃機関からの排ガスを処理するために、排ガス浄化用触媒に用いる排ガス浄化用組成物が用いられている。排ガス中の例えば炭化水素(HC)は酸化して水と二酸化炭素に転化させて浄化する。一酸化炭素は(CO)は酸化して二酸化炭素に転化させて浄化する。また、窒素酸化物(NOx)は還元して窒素に転化させて浄化する。
【0003】
排ガス浄化用触媒の排ガス浄化性能には、さらなる改善が求められており、例えば長期間にわたる排ガス浄化性能の維持が求められている。例えば、特許文献1には、排ガス浄化用触媒の長期耐久性の向上を図り、硫黄酸化物(SOx)による窒素酸化物(NOx)捕捉層の被毒を軽減するために、硫黄酸化物(SOx)吸収成分として、MgOやハイドロタルサイト等を含む硫黄酸化物(SOx)吸収層を窒素酸化物(NOx)吸収層の前方又は上方に備えた層状触媒複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
排ガス中には、例えば潤滑油添加剤由来のリン化合物が含まれている。排ガスが排ガス浄化用触媒に接触した際に、このようなリン化合物が触媒に堆積し、触媒中に含まれる触媒活性成分である白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などの貴金属の周囲に付着することがある。その場合には、貴金属にリン化合物が付着することで、貴金属の触媒活性が低下してしまう。この現象を、触媒のリン被毒という。また、排ガス中のリン化合物が排ガス浄化用触媒に堆積すると、触媒中で排ガスの拡散阻害が起こり、触媒に含まれる酸素吸蔵放出物質(酸素貯蔵材ともいう)にリン被毒が発生する。すなわち、酸素吸蔵放出物質中の酸化セリウムとリン化合物が反応し、リン酸セリウムが形成され、酸素の吸蔵放出が阻害される。リンではなく上述の硫黄酸化物(SOx)による被毒を抑制する方法として、例えば特許文献1には硫黄酸化物(SOx)吸収層を設けることが記載されているが、特許文献1に記載されている材料ではリン被毒を抑制することができない場合がある。
【0006】
そこで本発明は、排ガス浄化用触媒のリン被毒を抑制し、長期耐久性を向上した排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様は、リン捕集層と、Pt、Pd及びRhからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属元素Mpを含む触媒層と、を備え、
前記リン捕集層は、前記触媒層に対して上層側及び/又は上流側に配置され、
前記リン捕集層は、Mgを含み、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよいアルカリ土類金属元素Maと、Alと、を含む、空間群Fd-3m(International Tables of Crystallographyの227番の空間群)に属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物、を含み、
前記複合酸化物のAl元素に対するMa元素のモル比(Ma/Alモル比)が0.02以上0.60以下の範囲内であり、
前記複合酸化物は、前記複合酸化物のX線回折スペクトルにおいて、アルカリ土類金属元素Maを含むアルカリ土類金属酸化物MaOに由来するピークの位置である回折角度2θxM
a
Oと、アルミニウム酸化物Al2O3に由来するピークの位置である回折角度2θxAl2O3との間に、前記複合酸化物の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造に由来するピークを有する、排ガス浄化用触媒を提案する。
【発明の効果】
【0008】
本発明が提案する排ガス浄化用触媒は、貴金属元素を含む触媒層に対して上層側及び/又は上流側に空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物を含むリン捕集層を備え、触媒層のリン被毒を抑制し、長期耐久性を向上した排ガス浄化用触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、金属製の基材の一例を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、セラミックス製の基材の一例を示す概略斜視図である。
【
図3】
図3は、排ガス浄化用触媒の第一の実施形態を示し、基材の軸方向(排ガス流通方向と同一方向)に平行な方向に切断した状態の一部断面図である。
【
図4】
図4は、排ガス浄化用触媒の第二の実施形態を示し、基材の軸方向(排ガス流通方向と同一方向)に平行な方向に切断した状態の一部断面図である。
【
図5】
図5は、実施例及び比較例の各リン捕集層に含まれる酸化物又は複合酸化物のX線回折スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明の実施形態の一例の排ガス浄化用触媒は、リン捕集層と、Pt、Pd及びRhからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属元素Mpを含む触媒層と、を備え、
前記リン捕集層は、前記触媒層に対して上層側及び/又は上流側に配置される。
【0012】
(リン捕集層)
前記リン捕集層は、Mgを含み、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよいアルカリ土類金属元素Maと、Alと、を含む、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物、を含み、前記複合酸化物のAl元素に対するMa元素のモル比(Ma/Alモル比)が0.02以上0.60以下の範囲内であり、前記複合酸化物は、前記複合酸化物のX線回折スペクトルにおいて、アルカリ土類金属元素Maを含むアルカリ土類金属酸化物MaOに由来するピークの位置である回折角度2θxM
a
Oと、アルミニウム酸化物Al2O3に由来するピークの位置である回折角度2θxAl2O3との間に、前記複合酸化物の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造に由来するピークを有する。
【0013】
リン捕集層は、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物を含むため、この複合酸化物が排ガス中に含まれるリン化合物を吸着し、リン捕集層に対して下層側及び/又は下流側に存在する触媒層のリン被毒を抑制することができる。空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物は、Mgを中心とした四面体構造及びAlを中心とした八面体構造を有しているため、四面体構造を有するリン化合物(リン酸など)を吸着しやすい。
【0014】
アルカリ土類金属元素Maの酸化物、例えば酸化マグネシウムMgOは、Mgを中心とした八面体構造から成り、空間群Fm-3m(International Tables of Crystallographyの225番の空間群)に属する結晶構造を有する。また、アルミニウム酸化物Al2O3は、Alを中心とした八面体構造から成り、空間群R-3c(International Tables of Crystallographyの167番の空間群)に属する三方晶系の結晶構造を有する。酸化マグネシウムMgO及び酸化アルミニウムAl2O3から成る複合酸化物は、焼成温度によって、空間群Fm-3mに属する立方晶系の構造を有するものがある。また、酸化マグネシウムMgO及び酸化アルミニウムAl2O3から成る複合酸化物は、焼成温度によって、空間群Fm-3mに属する立方晶系と、空間群Fd-3mに属する立方晶系の両方を含む場合がある。複合酸化物が立方晶系の結晶構造を有する場合であっても、スピネル構造を有していない場合には、リン化合物の吸着能が劣る場合がある。また、複合酸化物が立方晶系の結晶構造を有する場合であっても、Ma/Alモル比が0.02未満又は0.60を超える場合は、リン化合物の吸着に適する量の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有しておらず、リン化合物の吸着能が劣る場合がある。酸化マグネシウムMgO及び酸化アルミニウムAl2O3から成る複合酸化物と、陰イオンとから形成される層間化合物であるハイドロタルサイトは、空間群R-3m(International Tables of Crystallographyの166番の空間群)に属する三方晶系の結晶構造を有する。ハイドロタルサイトはその構造上、熱的に不安定であり、昇温により陰イオンを脱離しながら酸化マグネシウムと酸化アルミニウム、及び、それらの複合酸化物とに分解される。ハイドロタルサイトは、熱的に不安定であるため、排ガスと接触した場合に、リン被毒を抑制できない場合がある。
【0015】
リン捕集層に含まれる複合酸化物は、アルカリ土類金属元素MaとAlとを含み、Al元素に対するMa元素のモル比(Ma/Alモル比)が0.02以上0.60以下の範囲内である。複合酸化物中のアルカリ土類金属元素MaとAl元素のモル比(Ma/Alモル比)が0.02以上0.60以下の範囲内であると、八面体構造であるアルミニウム酸化物中に四面体構造のマグネシウム酸化物が形成され、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造が形成されやすい。複合酸化物中のMa/Alモル比が0.02未満又は0.60を超えると、空間群Fd-3mに属するスピネル構造が形成されにくくなる。リン捕集層に含まれる複合酸化物のMa/Alモル比は、好ましくは0.03以上0.58以下の範囲内であり、より好ましくは0.05以上0.55以下の範囲内である。リン捕集層に含まれる複合酸化物中のMa/Alモル比は、走査型蛍光X線分析装置(例えば、型番:ZSX PrimusII、株式会社リガク製)を用いて、複合酸化物又は酸化物中のアルカリ土類金属元素Ma量及びAl量を測定し、得られたMa量及びAl量からMa/Alモル比を算出することができる。なお、排ガス浄化用触媒が、リン捕集層を含む複数の層を備える場合には、排ガス浄化用触媒における各層が形成された部分の断面を、走査型電子顕微鏡(例えば、型番:JEM-ARM200F、日本電子株式会社製)で観察するとともに、電子線マイクロアナライザ(例えば、型番:JXA-8800R、日本電子株式会社製)等により分析し、各層におけるMa元素の存在比率を検出することで、前記複合酸化物が含まれるリン捕集層を特定することができる。リン捕集層を特定した後、上述した方法でリン捕集層に含まれる複合酸化物中のMa/Alモル比を測定することができる。
【0016】
アルカリ土類金属元素Maは、Mgを含み、Mgに加えてCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよい。アルカリ土類金属元素Maは、Mgのみが含まれ、アルカリ土類金属元素MaがMgであってもよい。アルカリ土類金属元素Maが、Mgに加えて、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む場合には、複合酸化物の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造が形成されやすい。複合酸化物中のアルカリ土類金属元素Maが、Mgとともに、Mg以外のCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む場合には、この元素の含有量は、Mgの含有量と比べて少量であることが好ましい。例えば、アルカリ土類金属元素Maが、Mgとともに、Mg以外のCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む場合、前記Mg以外のアルカリ土類金属元素の含有量が、前記複合酸化物中に含まれる前記Mg及び前記Mg以外の他のアルカリ土類金属元素の合計量に対する元素組成百分率で10atm%以下であることが好ましい。アルカリ土類金属元素Maが、Mgとともに、Mg以外の他のアルカリ土類金属元素を含有する場合、Mg以外の他のアルカリ土類金属元素の含有量は、具体的には、複合酸化物中の「Mg以外の他のアルカリ土類金属元素/(Mg+Mg以外の他のアルカリ土類金属元素)」で表される元素組成百分率で10atm%以下であることが好ましい。ただし、複合酸化物の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を維持できるのであれば、アルカリ土類金属元素Maに含まれるMg以外の他のアルカリ金属元素の含有量は、10atm%を超えてもよい。アルカリ土類金属元素MaがMgとともに、Mg以外の他のアルカリ土類金属元素を含み、アルカリ土類金属元素Maが2種類以上の元素を含有する場合には、モル比(Ma/Alモル比)のMaは、Ma元素を構成する全ての元素の合計量とする。
【0017】
前記リン捕集層に含まれる複合酸化物が、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有することは、X線回折スペクトルにおいて確認することができる。X線回折スペクトルにおいて、アルカリ土類金属酸化物MaOに由来するピークの位置である回折角度2θxM
a
Oと、アルミニウム酸化物Al2O3に由来するピークの位置である回折角度2θxAl2O3との間にピークを有していれば、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有していることを確認することができる。前記複合酸化物の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造に由来するピークが現れる回折角度を、回折角度2θxSとも記載する。前記リン捕集層に含まれる複合酸化物は、上述したMaOに由来するピーク、Al2O3に由来するピーク及び立方晶スピネル構造に由来するピークの3つを有している必要はなく、少なくとも立方晶スピネル構造に由来するピークを有していればよい。アルカリ土類金属酸化物MaOに由来するピークは、X線回折スペクトルにおいて回折角度2θが60°から70°の間の位置に存在する。アルミニウム酸化物Al2O3に由来するピークは、X線回折スペクトルにおいて回折角度2θが60°から70°の間であって、アルカリ土類金属酸化物MaOのピークよりも大きい回折角度の位置に存在する。アルカリ土類金属MaとAlを含む複合酸化物(例えばMaAlO4)が、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する場合には、X線回折スペクトルにおいて、MaOに由来するピークの位置である回折角度2θxM
a
Oと、Al2O3に由来するピークの位置である回折角度2θxAl2O3の間の回折角度2θxSに、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造に由来するピークが現れる。アルカリ土類金属元素MaとAlとを含む複合酸化物に含まれる空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造に由来するピークは、X線回折スペクトルにおいて、具体的には、回折角度2θが60°から70°に間に現れ、同じ測定装置で測定したアルカリ土類金属酸化物MaOに由来するピークの位置である回折角度2θM
a
Oよりも大きく、アルミニウム酸化物Al2O3に由来するピークの位置である回折角度2θxAl2O3よりも小さい、回折角度2θxSの位置に現れる。リン捕集層に含まれる複合酸化物のX線回折スペクトルは、X線回折装置(例えば、型番:MiniFlex600、株式会社リガク製)を用いて測定することができる。なお、X線回折スペクトルの測定条件によって、回折角度2θxM
a
O、回折角度2θxAl2O3及び回折角度2θxSのそれぞれの値が変化する場合がある。X線回折スペクトルの測定条件が変化した場合であっても、複合酸化物に含まれる空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造に由来するピークの位置である回折角度2θxSが、回折角度2θxM
a
Oと回折角度2θxAl2O3との間にあるという関係になっていれば、複合酸化物は、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する。なお、複合酸化物は、複合酸化物の全てが空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造となっている必要はなく、Ma/Alモル比が0.02以上0.60以下となる範囲において、少なくとも一部に空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有していればよい。
【0018】
前記リン捕集層に含まれる前記複合酸化物は、X線回折スペクトルにおいて、前記複合酸化物の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造に由来するピーク強度ISに対する、前記アルカリ土類金属酸化物MaO由来のピーク強度IM
a
Oのピーク強度比(IM
a
O/IS)が2.0以下であることが好ましい。リン捕集層中には、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物とともに、アルカリ土類金属酸化物MaOも含まれる場合がある。リン捕集層中にアルカリ土類金属酸化物MaOが含まれる場合であっても、前記ピーク強度比(IM
a
O/IS)が2.0以下であれば、排ガス中に含まれるリン化合物をリン捕集層に吸収するのに十分な量の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造が複合酸化物中に含まれる。リン捕集層中にアルカリ土類金属酸化物MaOを含まない場合には、ピーク強度比(IM
a
O/IS)の数値は0となる場合がある。
【0019】
リン捕集層は、貴金属を実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、「リン捕集層が、貴金属を実質的に含まない」とは、リン捕集層の全体量に対して、貴金属の含有量が1.0g/ft3(0.035g/L)未満であることをいい、リン捕集層中の貴金属の含有量が0.1g/ft3(0.0035g/L)以下であってもよい。リン捕集層には、触媒層に含まれる貴金属元素Mpが移動して貴金属を含む場合があるが、リン捕集層の全体量に対して、貴金属の含有量が1.0g/ft3未満であれば、リン捕集層中に実質的に貴金属が含まれていないとする。ここでいう貴金属とは、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru及びOsからなる群から選択される少なくとも1種である。リン捕集層中に含まれる貴金属の量は、走査型電子顕微鏡や電子線マイクロアナライザにより測定することができる。
【0020】
(立方晶スピネル構造を有する複合酸化物の製造方法)
リン捕集層に含まれる空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物は、アルカリ土類金属元素Maと、Alと、を含む複合酸化物を800℃から1100℃以下の温度で1時間以上6時間以内、大気雰囲気中で焼成することによって製造することができる。アルカリ土類金属元素Maと、Alとを、含む複合酸化物を前述した条件で焼成することによって、Ma/Alモル比を0.02以上0.60以下の範囲内とすることができ、Mgを中心とした四面体構造及びAlを中心とした八面体構造を有する、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物を得ることができる。原料となるアルカリ土類金属元素Maと、Alと、を含む複合酸化物を焼成する温度は、850℃以上1000℃以下の範囲であってもよい。焼成時間は2時間以上5時間以内であってもよい。焼成の雰囲気は、大気圧(0.101MPa)下の大気雰囲気中であってもよい。原料となる複合酸化物は、Mgと、Alを含む、スピネル型複合酸化物であることが好ましい。スピネル型MgAl複合酸化物の市販品としては、例えばSasol社製のPural(登録商標)MG5、Puralox(登録商標)MG28等が挙げられる。サソール(Sasol)社のカタログによる情報によれば製品名中の数値は、製品を焼成した後に製品中に含有するMgOの質量%である。該カタログによれば、Pural(登録商標)MG5中におけるマグネシウム(Mg)の酸化物(MgO)換算の含有量は、該製品を550℃、3時間で焼成した際の値で5質量%である。原料となる複合酸化物を前述した条件でさらに焼成し、Ma/Alモル比が0.02以上0.60以下の範囲内となるようにすることによって、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物が得られる。
【0021】
(触媒層)
触媒層は、Pt、Pd及びRhからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属元素Mpを含むことが好ましい。触媒層に含まれる貴金属元素Mpは、Pt、Pd及びRhからなる群から選択される1種のみであってもよいし、Pt及びRhの2種の貴金属元素Mpを含んでいてもよい。
【0022】
触媒層中の貴金属元素Mpの含有割合は、基材の見かけの体積(基材の外形の体積)に対する貴金属元素Mpの担持量で1g/ft3以上が好ましい。触媒層中の貴金属元素Mpの含有割合が前記範囲内であれば、触媒活性成分となる貴金属元素Mpの作用によって排ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分を浄化することができる。
【0023】
触媒層中には、触媒活性成分となる貴金属元素Mpの他に、触媒担体を含んでいてもよい。触媒担体は、無機酸化物からなる無機酸化物担体であってもよい。無機酸化物担体は、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)、ニオブ酸化物(Nb2O5)、タンタル酸化物(Ta2O5)、モリブデン酸化物(MoO3)、タングステン酸化物(WO3)、及びこれらのうちの任意の混合酸化物若しくは複合酸化物、例えば、シリカ-アルミニウムを含む複合酸化物(シリカ-アルミナ)、セリウム-ジルコニウムを含む複合酸化物(セリア-ジルコニア)、又は、アルミニウム-セリウム-ジルコニウムを含む複合酸化物(アルミナ-セリア-ジルコニア)であってもよい。触媒層中には、貴金属元素Mpと、触媒担体の他に、必要に応じて安定剤、バインダー、その他の成分を含んでいてもよい。バインダーは、無機系バインダーであってもよく、例えばアルミナゾル等の水溶性の無機系バインダーであってもよい。
【0024】
(排ガス浄化用触媒)
排ガス浄化用触媒は、基材を含み、基材上に触媒層及びリン捕集層が形成されて成る。
【0025】
(基材)
基材は、公知の排ガス浄化用触媒用の基材を用いることができる。基材の材質としては、セラミックスや金属が挙げられる。セラミックス製の基材としては、耐火性セラミックス材料が挙げられ、例えばコージェライト、炭化水素、ムライト、シリカ-アルミナ、アルミナ等が挙げられる。金属製の基材としては、耐火性金属、例えばステンレス鋼等が挙げられる。また、基材の形状は、例えばハニカム形状の基材のように、基材内部に平行で微細な流通路となるセルを多数有する形状とすることができる。このような基材の形状としては、ウォールフロー型基材、フロースルー型基材等が挙げられる。
【0026】
図1は、金属製の基材の一例を示す斜視図である。金属製の基材1は、外筒体5の内部に平板状の金属箔材2と、波板状の金属箔材3とを備えていてもよい。平板状の金属箔材と、波板状の金属箔材とを交互に重ね合わせ状態で軸方向周りに多重に巻き回すことでロール状に形成され、ロール状の外周を外筒体の内部に接合して形成することができる。平板状の金属箔材2と波板状の金属箔材3とを交互に重ね合わせることにより、外筒体5の内部に流体が流通するように微細な気体の流路、チャンネル又はセル4が形成される。平板状の金属箔材と、波板状の金属箔材の接触部分は、例えば拡散接合、ロウ付け接合などにより接合されていてもよく、外周となる波板状の金属箔材又は平板状の金属箔材と外筒体との接触部分は、ロウ付け接合などにより接合されていてもよい。
図1から
図4中、Xは、排ガス流通方向示し、排ガス流通方向Xの排ガス流入側の端部及び排ガス流通方向Xの排ガス流出側の端部を有し、共に開口している。
【0027】
図2は、セラミックス製の基材の一例を示す斜視図である。セラミックス製の基材10は、フロースルー型基材を示し、複数のセル11と、複数のセル11を仕切る隔壁部12とを有する。基材10は、基材10の外形を規定する筒状部を備えていてもよい。
図2において、筒状部は図示していない。筒状部の形状は、例えば円筒状であるが、その他の形状であってもよい。その他の形状としては、例えば楕円筒状、多角筒状等が挙げられる。基材10の軸方向は筒状部の軸方向と一致する。
【0028】
排ガス浄化用触媒におけるリン捕集層は、触媒層に対して上層側及び/又は上流側に配置される。ここで、リン捕集層は、触媒層よりも先に排ガスに接する位置に配置されることが好ましい。これにより、排ガス中に含まれるリン化合物が触媒層中の触媒活性成分の周囲に付着する前に、リン捕集層でリン化合物を捕捉しておくことができる。そのため、触媒活性成分の周囲にリン化合物が付着して触媒活性が低減することを抑制することができ、触媒層中に含まれるリン化合物と反応しやすい成分(セリウム等)との反応を抑制することができる。したがって、リン被毒を抑制し、排ガス浄化用触媒の長期耐久性を向上することができる。リン捕集層が、触媒層よりも先に排ガスに接する位置とは、リン捕集層が、触媒層に対して上層側及び/又は上流側に配置されることを意味し、この配置により、タイミング的に排ガスを触媒層よりも先にリン捕集層に接触させることができる。
【0029】
触媒層よりも先に排ガスに接する位置にリン捕集層が配置される態様は、
図3に示す態様が挙げられる。
図3は排ガス浄化用触媒の第一の実施形態を示し、基材の軸方向(排ガス流通方向と同一方向)に平行な方向に切断した状態の一部断面図である。排ガス浄化用触媒100は、基材10の隔壁12側に触媒層21が配置され、触媒層21の上にリン捕集層22が配置されていることが好ましい。触媒層21上にリン捕集層22が配置されていることによって、排ガス中に含まれるリン化合物をリン捕集層22で捕捉し、触媒層21のリン被毒を抑制し、排ガス浄化用触媒の長期耐久性を向上することができる。
【0030】
触媒層よりも先に排ガスに接する位置にリン捕集層が配置される態様は、
図4に示す態様であってもよい。
図4は、排ガス浄化用触媒の第二の実施形態を示し、基材の軸方向(排ガス流通方向と同一方向)に平行な方向に切断した状態の一部断面図である。排ガス浄化用触媒101は、排ガス流通方向Xの上流側、すなわち、排ガス流通方向Xの排ガス流入側の隔壁12上にリン捕集層22が配置され、排ガス流通方向Xの下流側、すなわち排ガス流通方向Xにおいて、排ガス流出側に触媒層21が配置されていてもよい。排ガス流通方向Xにおける上流側にリン捕集層22が配置されていることによって、触媒層21に排ガスが接触する前に、排ガス中に含まれるリン化合物をリン捕集層22で捕捉し、下流側に配置された触媒層21のリン被毒を抑制し、排ガス浄化用触媒の長期耐久性を向上することができる。なお、
図4においては、一つの基材10上にリン捕集層22及び触媒層21が形成された例を示した。リン捕集層と触媒層をそれぞれ異なる基材上に配置した態様であってもよい。例えば、上流側に第1基材上にリン捕集層を配置した第1触媒を配置し、下流側に第2基材上に触媒層を配置した第2触媒を配置してもよい。
【0031】
排ガス浄化用触媒の製造方法
排ガス浄化用触媒は、例えば
図3に示すように、基材側に触媒層が配置され、触媒層上にリン捕集層が配置される場合には、排ガスの流路を形成する面、すなわち各セルの内壁表面の全面に、後述するスラリー状の触媒用組成物、スラリー状のリン捕集層用組成物をこの順序で塗工(各スラリーの塗工後に、必要に応じて乾燥や焼成を行ってもよい)して、基材側に触媒層を配置し、触媒層の上にリン捕集層を配置した排ガス浄化用触媒を形成することができる。
【0032】
排ガス浄化用触媒は、例えば
図4に示すように、排ガス流通方向の上流側、すなわち、排ガスの流入方向となる基材の片側にリン捕集層が配置され、排ガス流通方向の下流側、すなわち、排ガスの流出方向となる基材の片側に触媒層が配置される場合には、基材の全体長さの40%から60%に、スラリー状のリン捕集層用組成物を付着させて、これを乾燥し、リン捕集層を形成してもよい。その後、排ガス流通方向の下流側となる基材の他の一方の片側から基材の全体長さの40%から60%に、スラリー状の触媒用組成物を付着させて、これを乾燥し、触媒層を形成してもよい。スラリー状の各組成物を基材に付着させ、乾燥させた後、各組成物を焼成することによって、排ガス流通方向の上流側にリン捕集層が配置され、排ガス流通方向の下流側に触媒層が配置された排ガス浄化用触媒を製造することができる。
【0033】
触媒層は、スラリー状の触媒層用組成物を調製し、このスラリー状の触媒層用組成物を基材に塗工し、必要に応じて乾燥させ、これを焼成して、触媒層を形成することができる。触媒用組成物は、触媒活性成分となる貴金属元素Mp、触媒担体、必要に応じて安定剤、バインダー、水、その他の成分を混合撹拌して製造することができる。
【0034】
リン捕集層は、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物を必要に応じて解砕し、水と混合して、スラリー状のリン捕集層用組成物を調製し、このスラリー状のリン捕集層用組成物を触媒層上に塗工し、必要に応じて乾燥させ、これを焼成してリン捕集層を形成することができる。空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物は、例えばボールミルで解砕することができる。前記複合酸化物はレーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布における小径側からの累積頻度50%に達する平均粒径D50が10μmから30μmの範囲となるように解砕することができる。複合酸化物の粒径は、例えばふるい分けによって特定の大きさに分けることができる。
【0035】
スラリー状の各組成物の粘度は、スラリー状の各組成物を基材に塗工できる粘度であれば特に制限されない。スラリー状の組成物の粘度としては、塗工を容易にする観点から、例えば5,000cp以上40,000cp以下、中でも5,000cp以上或いは35,000cp以下、その中でも5,000cp以上或いは30,000cp以下に調製することができる。
【0036】
スラリー状の各組成物を基材に塗工した後に乾燥する温度としては、例えば80℃以上200℃以下、中でも100℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0037】
スラリー状の各組成物を基材に塗工し、乾燥した後、焼成する温度としては、200℃を超えて600℃以下の範囲内であってもよく、300℃以上500℃以下の範囲内であってもよい。
【0038】
排ガス浄化用触媒を製造するための方法は、公知のあらゆる方法を採用することが可能であり、前記例に限定するものではない。
【0039】
排ガス浄化用触媒は、例えば、金属製の外筒内に一定の間隔をあけて二つのハニカム体を排ガスの上流側と下流側とに並べて配置してもよい。外筒体であるエキゾーストパイプ又はマフラーの内に、ハニカム状の排ガス浄化用触媒を配置してもよい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物の製造方法
原料である複合酸化物としてスピネル型5MgO-95Al2O3(PURAL(登録商標)MG5、サソール(Sasol)社製)を、950℃、4時間、大気圧、大気雰囲気中で焼成することにより、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物(複合酸化物の組成は、Mg0.2Al2.7Oxで表される。組成中のxはMg及びAlの割合に応じて決まる酸素の数を表す。)を製造した。得られた複合酸化物中が空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有することは、後述する測定方法により確認した。各実施例及び比較例において、原料である各複合酸化物のマグネシウム(Mg)の酸化物(MgO)換算の含有量(カタログ値)を表1に記載した。
【0042】
触媒層用組成物の調製
白金水溶液0.4質量%(Pt金属換算)、硝酸ロジウム水溶液0.3質量%(Rh金属換算)、セリウム-ジルコニウム複合酸化物70質量%、及び、残部としてアルミナ、を混合し、スラリー状の触媒層用組成物を調製した。
【0043】
触媒層の製造
金属製の基材として、外筒体と、平板状の金属箔材及び波板状の金属箔材を備えたステンレス製メタルハニカム担体(300セル/inch2、φ43mm×L100mm、金属箔材の厚さ80μm)を準備した。金属製の基材を、前記スラリー状の触媒層用組成物に浸漬した後、エアブローで基材のセル中の余剰スラリーを除去し、乾燥させた後、大気雰囲気中で450℃、1時間焼成して、セルの内壁の全面に触媒層を形成した。基材に付着したスラリー状の触媒層用組成物の固形分量は、基材の体積(基材の外形の体積)1L当たり100g(100g/L)であった。
【0044】
リン捕集層用組成物の調製
空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有する複合酸化物400gを水(脱イオン水)600Lに分散させて、ボールミルにて、レーザー回折散乱法で測定される体積基準の粒度分布における小径側からの累積頻度50%に達する平均粒径D50が20μmとなるまで解砕した。これにより、スラリー状のリン捕集層用組成物を得た。
【0045】
リン捕集層の製造
前記触媒層が形成された基材を、前記スラリー状のリン捕集層用組成物に浸漬した後、エアブローで基材のセル中の余剰スラリーを除去し、乾燥させた後、大気雰囲気中で450℃、1時間焼成して、セルの内壁の全面にリン捕集層を形成し、基材側に触媒層が配置され、触媒層上にリン捕集層が配置された排ガス浄化触媒を製造した。基材に付着したスラリー状のリン捕集層用組成物の固形分量は、基材の体積(基材の外形の体積)1L当たり80g(80g/L)であった。
【0046】
実施例2から4
原料である複合酸化物として、PURAL(登録商標)MG5に代えて、実施例2ではPURAL(登録商標)MG20(組成はMg0.7Al2.3Ox)、実施例3ではPuralox(登録商標)MG28(組成はMg1.0Al2.0Ox)、実施例4ではPURAL(登録商標)MG30(組成はMg1.1Al2.0Ox)をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化触媒の製造を行った。
【0047】
比較例1
リン捕集層を形成しなかった以外は(すなわち、基材上に触媒層のみを形成した以外は)、実施例1と同様にして排ガス浄化触媒の製造を行った。
【0048】
比較例2
原料である複合酸化物として、PURAL(登録商標)MG5に代えて、組成がMg70Al30Oxであるハイドロタルサイト(Pural(登録商標)MG70、サソール(Sasol)社製)を使用し、焼成の際の温度を750℃に変更した以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化触媒の製造を行った。
【0049】
比較例3
原料である複合酸化物として、PURAL(登録商標)MG5に代えて、組成がMg70Al30Oxであるハイドロタルサイト(Pural(登録商標)MG70、サソール(Sasol)社製)を使用し、空気焼成の際の温度を950℃に変更した以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化触媒の製造を行った。
【0050】
比較例4
原料として複合酸化物に代えて、酸化マグネシウム(MgO)(品名:水酸化マグネシウム、富士フイルム和光純薬株式会社製を450℃で焼成し、酸化マグネシウムとなったもの)を使用した以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化触媒の製造を行った。
【0051】
比較例5
原料として複合酸化物に代えて、酸化アルミニウム(Al2O3)(品名:G850S、PIDC社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化触媒の製造を行った。
【0052】
比較例6
原料として複合酸化物に代えて、比較例4で使用した酸化マグネシウムと、比較例5で使用した酸化アルミニウムとを、質量比28:72で混合して得た混合物を使用した以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化触媒の製造を行った。
【0053】
比較例7
原料として複合酸化物に代えて、二酸化ケイ素(SiO2)(品名:LUDOX AS-40、Sigma-Aldrich社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして排ガス浄化触媒の製造を行った。
【0054】
各実施例及び比較例のリン捕集層に使用した複合酸化物又は酸化物について、以下の測定を行った。
【0055】
Ma/Alモル比
走査型蛍光X線分析装置(型番:ZSX PrimusII、株式会社リガク製)を用いて、複合酸化物又は酸化物中のアルカリ土類金属元素Ma(具体的にはMg)量及びAl量を測定し、得られたMa量及びAl量からMa/Alモル比を算出した。測定試料の調製方法は、以下のようにした。
測定試料の調製方法
複合酸化物又は酸化物を直径30mmの塩化ビニル管に詰め、圧縮成形して測定試料を調製した。
【0056】
比表面積
ISO 9277:2010に準拠して測定した窒素吸着等温線からBET法により比表面積を算出した。
【0057】
塩基点
ガス吸脱着量測定装置(型番:BELCAT、マイクロトラック・ベル社製、及び、型番:BELMASS、マイクロトラック・ベル社製)を用いて測定した。複合酸化物、または、無機酸化物の粉末100mgを専用測定セルに充填した後に装置に導入し、ヘリウム(He)気流中下で600℃、1時間脱気処理を行った。続いて100℃まで放冷後に酸プローブ分子である二酸化炭素(CO2)を10分間吸着させ、ヘリウム(He)気流中下でパージ後に昇温測定を実施した。この際、四重極型質量分析計の質量数44を測定することにより脱離CO2を定量し、CO2脱離量/塩基点量=1と仮定して塩基点量を算出した。
【0058】
X線回折スペクトル
各リン捕集層用組成物に含まれる酸化物又は複合酸化物のX線回折スペクトルを、X線回折装置(型番:MiniFlex600、株式会社リガク製)を用いて測定した。
図5に比較例5のリン捕集層用組成物に含まれる酸化物(Al
2O
3)、実施例1及び3、並びに比較例2及び3の各リン捕集層用組成物に含まれる各複合酸化物のX線回折スペクトルを示す。
【0059】
実施例及び比較例の各排ガス浄化触媒について、以下の測定を行った。
【0060】
リン被毒試験(耐久試験)
リン被毒試験はエンジンベンチシステムを用いて実施した。市販レギュラーガソリンにエンジンオイル(ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有)を混入させ、エンジン内で本ガソリンを燃焼させることにより、リン化合物を含む排ガスを生成した。本排ガスをエンジンからガス流れ方向の後方部に存在する排ガス浄化触媒に通過させ、触媒1個当たり0.3gリン化合物(リン元素換算)が導入されるよう制御し、耐久試験を実施した。
【0061】
リン被毒試験後の浄化性能は、二輪車排出ガス試験により評価した。試験二輪車(125ccのスクーター)の排ガス出口にガス検出器を設置し、WMTC(Worldwide-harmonized Motorcycle Test Cycle)モード試験法(Class-1)に準拠して走行し、実施例及び比較例の各排ガス浄化触媒を通過した排ガス中成分を定量した。この際、浄化性能を評価する指標として、酸性雨といった環境汚染の原因物質である窒素酸化物(NOx)に着目して定量を実施した。得られた定量値について、リン捕集層を有さない比較例1の排ガス浄化触媒を通過した排ガス中の定量値を1(reference)とした場合における量比を算出した。結果を表1に示す。なお、表1においては、算出した量比を浄化性能(%)と表記した。
【0062】
【0063】
表1に示すように、実施例1から4のリン捕集層に含まれる複合酸化物は、空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有するものであり、且つ、M
a/Alモル比が0.02以上0.60以下の範囲内であった。表1及び
図5に示すように、実施例1から4の複合酸化物は、X線回折スペクトルにおいて、以下のピークを有していた。実施例1のリン捕集層に含まれるMg
0.2Al
2.7O
xで表されるの複合酸化物は、X線回折スペクトルにおいて、回折角度2θx
s=66.4°に空間群Fd-3mの立方晶スピネル構造に由来するピークを有していた。また、実施例2のリン捕集層に含まれるMg
0.7Al
2.3O
xで表される複合酸化物は、X線回折スペクトルにおいて、回折角度2θx
s=65.3°に空間群Fd-3mの立方晶スピネル構造に由来するピークを有していた。また、実施例3、4のリン捕集層に含まれるMg
1.0Al
2.0O
x、Mg
1.1Al
2.0O
xで表される複合酸化物は、X線回折スペクトルにおいて回折角度2θx
s=65.2°に空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造に由来するピークを有していた。実施例1から4の複合酸化物はいずれも、X線回折スペクトルにおいて、比較例2のアルカリ土類金属酸化物(M
aO=MgO)に由来するピークの位置である2θ
M
a
O=62.6°と、比較例5のアルミニウム酸化物(Al
2O
3)に由来するピークの位置である2θ
Al2O3=66.8°との間にピークを有しており、このピークの存在から空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有していることが確認できた。
【0064】
表1及び
図5に示すように、比較例2,3,5においてはX線回折スペクトルで以下のピークが観測された。まず、比較例2のリン捕集層に含まれる複合酸化物は、X線回折スペクトルにおいて、回折角度2θx
M
a
O=62.6°にMgO(M
aO)の立方晶系に由来するピークが現れた。比較例3のリン捕集層に含まれる複合酸化物は、回折角度2θx
M
a
O=62.2°にMgO(M
aO)の立方晶系に由来するピークが現れ、回折角度2θ=65.1°に空間群Fd-3mの立方晶スピネル構造に由来するピークが現れた。比較例5の複合酸化物は、一部に空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有しているが、複合酸化物のM
a/Alモル比が0.60を超えており、リン化合物の吸着に適する量の空間群Fd-3mに属する立方晶スピネル構造を有していないと推測された。また、比較例5のリン捕集層に含まれる酸化物は、Al
2O
3であり、回折角度2θx
Al2O3=66.8°にAl
2O
3に由来するピークが現れた。
【0065】
実施例1から4の排ガス浄化用触媒は、リン被毒(耐久後)試験において、リン捕集層を有さない比較例1と比べて定量値が低く、窒素酸化物(NOx)が浄化されて浄化性能が向上しており、触媒層のリン被毒を抑制し、長期耐久性が向上した。
【0066】
実施例及び比較例の排ガス浄化用触媒のリン捕集層に含まれる酸化物又は複合酸化物の比表面積及び塩基点の数値と、浄化性能の結果との相関性は確認できず、リン捕集層におけるリン捕集性能は、比表面積及び塩基点には大きく依存せず、リン捕集層に含まれる複合酸化物の結晶構造に依存することが確認できた。
【0067】
一方、比較例2から7の排ガス浄化用触媒のリン被毒(耐久後)試験では、リン捕集層を有さない比較例1と比べて浄化性能がむしろ悪化しており、触媒層のリン被毒を抑制できていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本開示に係る排ガス浄化用組成物は、触媒層のリン被毒を抑制し、長期耐久性を向上することができる。よって、本開示に係る排ガス浄化用触媒は、自動四輪車や自動二輪車などの内燃機関から排出される排ガスを浄化するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
1:金属製の基材、2:平板状の金属箔材、3:波板状の金属箔材、4:セル(又はチャンネル)、5:外筒体、10:基材、11:セル、12:隔壁部、21:触媒層、22:リン捕集層、100、101:排ガス浄化用触媒、X:排ガス流通方向。