(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】金属工作物をグラフェンでコーティングするための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
C23C 16/26 20060101AFI20240815BHJP
C30B 29/02 20060101ALI20240815BHJP
C30B 25/02 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C23C16/26
C30B29/02
C30B25/02 P
(21)【出願番号】P 2022543026
(86)(22)【出願日】2020-01-20
(86)【国際出願番号】 IB2020050410
(87)【国際公開番号】W WO2021148838
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】520070736
【氏名又は名称】ウルトラ、コンダクティブ、コッパー、カンパニー、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ULTRA CONDUCTIVE COPPER COMPANY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】アダムズ・ホルスト ヤーコブ
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109023291(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0091647(US,A1)
【文献】国際公開第2011/105530(WO,A1)
【文献】特表2017-519099(JP,A)
【文献】特表2018-531320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/26
C30B 29/02
C30B 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長によって金属工作物をグラフェンでコーティングするための方法であって、
第1の段階において、処理チャンバ(12)内で前記金属工作物を炭素含有前駆体ガス及び水素ガスに曝露すること
で炭素核を生成することと、
前記第1の段階の後の第2の段階において、前記処理チャンバ(12)内で前記金属工作物を前記炭素含有前駆体ガス、前記水素ガス、及び第1のキャリアガスに曝露することと、を含み、
前記第1の段階における前記処理チャンバ(12)内への前記炭素含有前駆体ガスの第1の流量が、前記第2の段階における前記処理チャンバ(12)内への前記炭素含有前駆体ガスの第2の流量よりも大きく、
前記第1の段階における前記処理チャンバ(12)内への前記水素ガスの第1の流量が、前記第2の段階における前記処理チャンバ(12)内への前記水素ガスの第2の流量よりも大きく、
前記第1の段階における前記処理チャンバ(12)内の第1の全ガス圧が、前記第2の段階における前記処理チャンバ(12)内の第2の全ガス圧よりも低い、
方法。
【請求項2】
前記第1の段階において前記処理チャンバ(12)を第1の排気力で排気し、前記第2の段階において前記処理チャンバ(12)を第2の排気力で排気することをさらに含み、前記第2の排気力が、前記第1の排気力よりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の段階及び/又は前記第2の段階において前記処
理チャンバ
(12)及び/又は前記金属工作物を、特に、900℃以上又は1000℃以上の温度まで加熱することをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の段階の前に、前記金属工作物の表面を洗浄することであって、特に、水素ガス及び第2のキャリアガスを含むガス流に前記表面を曝露することによって行う、洗浄することをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の段階の前に、前記金属工作物をアニーリングすることをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記洗浄することが、前記アニーリングすることに先行する、請求項4と組み合わせた請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の段階及び/又は前記第2の段階において、前記処理チャンバ(12)内で前記金属工作物を前記炭素含有前駆体ガス及び前記水素ガスに曝露することが、前記処理チャンバ(12)内に配設されたガイドプレート(42、42’)によって前記炭素含有前駆体ガス及び/又は前記水素ガスを前記金属工作物に向けて誘導すること、特に、前記処理チャンバ(12)内に配設された前記ガイドプレート(42、42’)によって前記炭素含有前駆体ガス及び/又は前記水素ガスを前記金属工作物に向けて集束させることを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
化学気相成長によって金属工作物をグラフェンでコーティングするためのシステム(10、10’)であって、
処理チャンバ(12)と、
前記処理チャンバ(12)内で金属工作物を保持するように適合された試料ホルダ(14)と、
前記処理チャンバ(12)と流体連通しているガス供給ユニット(16)と、を備え、
前記ガス供給ユニット(16)が、第1の段階において前記金属工作物を炭素含有前駆体ガス及び水素ガスに曝露する
ことで炭素核を生成するように適合されており、かつ前記第1の段階の後の第2の段階において前記金属工作物を前記炭素含有前駆体ガス、前記水素ガス、及び第1のキャリアガスに曝露するようにさらに適合されており、
前記第1の段階における前記処理チャンバ(12)内への前記炭素含有前駆体ガスの第1の流量が、前記第2の段階における前記処理チャンバ(12)内への前記炭素含有前駆体ガスの第2の流量よりも大きく、
前記第1の段階における前記処理チャンバ(12)内への前記水素ガスの第1の流量が、前記第2の段階における前記処理チャンバ(12)内への前記水素ガスの第2の流量よりも大きく、
前記第1の段階における前記処理チャンバ(12)内の第1の全ガス圧が、前記第2の段階における前記処理チャンバ(12)内の第2の全ガス圧よりも低い、
システム(10、10’)。
【請求項9】
前記処理チャンバ(12)及び/又は前記処理チャンバ(12)内の前記金属工作物を加熱するように適合された加熱ユニット(32)をさらに備え、任意選択的に、前記加熱ユニット(32)が、前記処理チャンバ(12)に対して摺動可能に装着されている、請求項8に記載のシステム(10、10’)。
【請求項10】
前記処理チャンバ(12)が、前記炭素含有前駆体ガス及び/又は前記水素ガスを前記試料ホルダ(14)に向けて誘導かつ/又は集束させるように適合されたガイドプレート(42、42’)を備える、請求項8又は9に記載のシステム(10、10’)。
【請求項11】
前記ガイドプレート(42、42’)が、バッフルプレートと、前記バッフルプレートに形成された複数のガイド開口部(44、44’)と、を備える、請求項10に記載のシステム(10、10’)。
【請求項12】
前記ガイドプレート(42、42’)が、熱及び/又は放熱を前記試料ホルダ(14)に向けて反射するように適合されている、請求項10又は11に記載のシステム(10、10’)。
【請求項13】
前記処理チャンバ(12)を保持するように適合されたフレームユニット(22)をさらに備え、前記フレームユニット(22)が、前記処理チャンバ(12)と物理的に接触している複数のダンパ要素(36)を備える、請求項8から12のいずれか一項に記載のシステム(10、10’)。
【請求項14】
前記複数のダンパ要素(36)が、Oリング(38)、特に、前記処理チャンバ(12)に面する第1の構成要素と、前記処理チャンバ(12)とは反対側に面する第2の構成要素と、を有する多構成要素Oリング(38)を備え、前記第2の構成要素が、前記第1の構成要素とは異なる材料を含み、又は逆も同様である、請求項13に記載のシステム(10、10’)。
【請求項15】
コンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラムであって、前記命令が、請求項8から14のいずれか一項に記載のシステム(10、10’)に結合されたコンピュータ上で読み取られると、前記システム(10、10’)上で請求項1から7のいずれか一項に記載の方法を実行するような、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化学気相成長によって金属工作物をグラフェンでコーティングするための、特に、電気コネクタなどの工作物を腐食から保護するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気コネクタは、猛暑、極寒、振動、歪み、雪、雨、湿気、又は化学薬品を含む悪条件で動作する必要があることが多い。これらの状態は、電気コネクタの腐食及びワイヤの切断を引き起こす可能性があり、機器のダウンタイム及び高い保守コストをもたらす。いくつかの業界報告では、電気的ダウンタイムの最大50~60%を追跡して、接続を開放又は断続的にすることができることが示唆されている。
【0003】
したがって、電気接続は、過酷な現場条件下であっても、製品の寿命を通して継続的な低電気抵抗を達成するように、金属間接触を確実に維持する機械的特性及び設計を有する必要がある。産業用制御製品を設計する技術者は、ワイヤクランプ設計に健全な判断を用いて信頼性のある長期性能を確保しなければならない。
【0004】
配線端子に使用される金属は、一般に、腐食及び化学的侵食から保護するためのめっきコーティングを有する。保護コーティングは、「犠牲コーティング」又は「バリア層コーティング」として分類され得る。
【0005】
犠牲コーティングは、卑金属の腐食を防止又は実質的に遅延させる保護層を提供しながら、腐食プロセス中に消費されることが意図されている。犠牲コーティングが消費されると、卑金属はもはや保護層を有さず、腐食のリスクがあることとなる。
【0006】
バリア層コーティングは、腐食性侵食及び化学的侵食を防止するための保護シールを提供することが意図されている。それらは腐食プロセスの一部として消費されない。これらのコーティングは、浸透損傷又は機械的損傷しない限り有効である。バリア層コーティングの例は、トップコート若しくはシーラー、真鍮上に塗布されたニッケル、又は銅上に塗布されたスズを含む。
【0007】
銅は、その低電気抵抗及び過剰な熱を発生させることなく電流を運ぶ能力のために、電気コネクタに望ましい。銅上に形成される酸化物は、典型的には酸化銅(Cu2O)であるが、硫化物及び塩化物などの環境汚染物質の結果として他の酸化物が形成され得る。酸化物は、典型的には、不十分な導電体であり、したがって、電気接続の抵抗を著しく増加させる。電気抵抗の増加は、より大きな負荷に対して望ましくない温度上昇をもたらすか、又はより小さな負荷に対する回路の開放をもたらす可能性がある。酸化銅は、色が暗くなることによって銅表面上で識別することができる。酸化銅はあまり安定的な化合物ではないため、さらなる化学反応を受ける可能性がある。酸との反応は、緑がかった色であり、かつ銅表面上に頻繁に見られる、水酸化銅の形成をもたらす場合がある。
【0008】
銅は、バリア型めっきであるスズ層によって酸化物から保護されることが多い。スズは、特に空気及び硫黄化合物による酸化からの腐食保護を提供する。しかしながら、スズめっきの機械的安定性は限られており、特に高い機械的応力及び摩耗に曝されるコネクタにおいて、接続問題を引き起こす可能性がある。
【0009】
グラフェンは、締め具、ピン、取付け点、及び境界面のような構造材料上のカソード電流密度を制限又は制御するための防食表面コーティングとして提案されている。電気泳動析出又は電解析出によって金属表面上にグラフェンフレークの単層が塗布されるグラフェン複合コーティングが、米国特許出願公開第2016/0053398号明細書に記載されている。
【0010】
亜鉛又は亜鉛合金、グラフェン、及び有機官能性シロキサンを含むカップリング剤を含む、鋼帯のコーティングが、国際公開第2015/090622号及び国際公開第2015/074752号に開示されている。
【0011】
グラフェンが銅マトリックス中に均一に分散しているグラフェン銅複合材料が、中国特許出願公開第103952588号明細書に開示されている。
【0012】
強化された電気導電率を有するグラフェン-銅複合構造が、米国特許出願公開第2018/0102197号明細書及び国際公開第2019/043498号に開示されている。これらの構造の製造技術は、国際公開第2019/043497号及び国際公開第2019/043499号にさらに詳細に説明されている。
【0013】
従来技術を考慮すると、機械的に安定しており、効率的な腐食保護を提供するコーティングを金属工作物に提供するための効率的かつスケーラブルな技術が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この目的は、それぞれ独立請求項1及び8に記載の金属工作物をコーティングするための方法及びシステムによって達成される。従属請求項は、好ましい実施形態に関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の態様では、本開示は、化学気相成長によって金属工作物をグラフェンでコーティングするための方法であって、第1の段階において、処理チャンバ内で金属工作物を炭素含有前駆体ガス及び水素ガスに曝露することと、第1の段階の後の第2の段階において、処理チャンバ内で金属工作物を炭素含有前駆体ガス、水素ガス、及び第1のキャリアガスに曝露することと、を含む、方法に関する。第1の段階における処理チャンバ内への炭素含有前駆体ガスの流れの第1の流量は、第2の段階における処理チャンバ内への炭素含有前駆体ガスの流れの第2の流量よりも大きい。第1の段階における処理チャンバ内への水素ガスの流れの第1の流量は、第2の段階における処理チャンバ内への水素ガスの流れの第2の流量よりも大きい。第1の段階における処理チャンバ内の第1の全ガス圧は、第2の段階における処理チャンバ内の第2の全ガス圧よりも低い。
【0016】
上述したように、第1の態様による化学気相成長は、2つの連続する段階で進行し得る。第1の段階における炭素含有前駆体ガス及び水素ガスの流量を第2の段階よりも高く選択するが、第1の段階における処理チャンバ内の第1の全ガス圧を第2の段階よりも低く調整することによって、本開示による方法は、第1の段階において金属工作物の表面上の解離した炭素原子の効率的な炭素核生成を提供し得る。これらの炭素原子は、第2の段階におけるグラフェンドメイン成長のためのシード又はアンカーポイントとして機能し得る。
【0017】
第1の段階の第1の全ガス圧が比較的より低いため、第1の段階において金属工作物の表面上に形成される炭素原子は、典型的には単層で、表面全体にわたって分離又は離れた場所に形成され得、これは、グラフェン成長のための良好なアンカーポイントを提供し得る。
【0018】
水素ガスは、第1の段階中に金属工作物の表面に酸化物及び他の望ましくない堆積物がないようにするのに役立ち得る。さらに、水素ガスは、表面全体にわたって所望の分離又は離れた場所を有さないが、他の炭素原子と結合するか又はより高い層を形成する炭素原子を除去するのに役立ち得る。炭素含有前駆体ガスの第1の流量及び水素ガスの第1の流量の両方が、第1の段階において比較的より大きいが、低い全ガス圧を保つことによって、高品質の炭素核生成が達成され得る。
【0019】
後続の第2の段階では、金属工作物は、処理チャンバ内の増加した第2の全圧で炭素含有前駆体ガス、水素ガス、及び第1のキャリアガスに曝露される。これらの条件は、金属工作物の表面上の効率的な六方晶グラフェン成長に有益であり、その結果、第1の段階において形成されたアンカーポイントが単分子層ドメインに成長し得、最終的に金属工作物上に単分子層グラフェンコーティングを形成し得る。
【0020】
上記のように異なるプロセスパラメータを用いて2つの連続する段階で金属工作物上にグラフェンを堆積させることにより、本開示の技術は、高品質かつ機械的に安定した単層グラフェンコーティングの形成をもたらし得ると同時に、コーティングが高いプロセス効率で塗布されることを可能にする。
【0021】
本開示の文脈において、炭素含有前駆体ガス及び/又は水素ガスの第1の流量及び/又は第2の流量は、質量流量に関してもよく、又は体積流量に関してもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、質量流量及び体積流量は、同等の表現を提供し得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、炭素含有前駆体ガス及び/又は水素ガスの第1の流量及び/又は第2の流量に対して他の尺度が採用され得る。
【0024】
一実施形態によれば、炭素含有前駆体ガスの第1の流量と第2の流量との比は、1.5以上、特に、2.0又は2.5又は3.0又は3.5又は4.0以上である。
【0025】
一実施形態において、炭素含有前駆体ガスの第1の流量と第2の流量との比は、10以下、特に、5以下である。
【0026】
一実施形態によれば、水素ガスの第1の流量と第2の流量との比は、1.5以上、特に、2.0又は2.5又は3.0又は3.5又は4.0以上である。
【0027】
一実施形態によれば、水素ガスの第1の流量と第2の流量との比は、10以下、特に、5以下である。
【0028】
一実施形態において、水素ガスの第1の流量と炭素含有前駆体ガスの第1の流量との比は、50以上、特に、60又は70又は100以上である。
【0029】
同様に、いくつかの実施形態では、水素ガスの第2の流量と炭素含有前駆体ガスの第2の流量との比は、50以上、特に、60又は70又は100以上であり得る。
【0030】
これらのパラメータ比で実施されるCVDは、いくつかの実施形態では、第1の段階における特定の効率的な炭素核生成、及び/又は第2の段階における特定の効率的なコーティングをもたらし得る。
【0031】
一実施形態によれば、第1の段階において、第1のキャリアガスは処理チャンバ内に供給されない。特に、いくつかの実施形態では、第1の段階において、キャリアガスが処理チャンバに供給されない。
【0032】
キャリアガスの第2の段階への流入を制限することにより、第1の段階の全ガス圧が低く保たれ得、それによって高品質の炭素核生成を保証する。第2の段階では、キャリアガスは比較的より高い全ガス圧をもたらし得、これはグラフェンコーティングの効果的かつ迅速な形成を促進し得る。
【0033】
一実施形態によれば、第2の段階において、炭素含有前駆体ガスの第2の流量に対する第1のキャリアガスの流量の比は、50以上、特に、60又は70又は100以上である。
【0034】
一実施形態では、第2の段階において、水素ガスの第2の流量に対する第1のキャリアガスの流量の比は、1.5以上、特に、2.0又は2.5又は3.0以上である。
【0035】
第1の段階における第1の全ガス圧及び/又は第2の段階における第2の全ガス圧は、低大気圧であってもよい。
【0036】
一実施形態では、方法は、第1の段階において処理チャンバを第1の全ガス圧まで排気し、かつ/又は第2の段階において処理チャンバを第2の全ガス圧まで排気することをさらに含む。
【0037】
一実施形態によれば、第1の全ガス圧は、10Torr以下、特に、5Torr又は3Torr以下である。
【0038】
一実施形態によれば、第2の全ガス圧は、15Torr以上、特に、20Torr又は25Torr以上である。
【0039】
一実施形態では、第2の全ガス圧は、100Torr以下、特に、70Torr又は50Torr以下である。
【0040】
一実施形態によれば、第1の全ガス圧に対する第2の全ガス圧の比は、4以上、特に、6以上又は8以上である。
【0041】
一実施形態では、方法は、第1の段階において処理チャンバを第1の排気力で排気し、第2の段階において処理チャンバを第2の排気力で排気することをさらに含み、第2の排気力が、第1の排気力よりも小さい。
【0042】
第2の段階において第1の段階よりも小さい排気力で処理チャンバを排気することは、第2の段階で比較的より高い全ガス圧を提供することに寄与し得、これは効果的かつ迅速なコーティングを促進し得る。
【0043】
本開示の文脈では、炭素を含む任意の前駆体ガスが採用され得る。
【0044】
例えば、炭素含有前駆体ガスは、アルカン、特に、メタン及び/又はエタン及び/又はプロパン及び/又はブタンを含んでもよい。
【0045】
本開示の技術は、材料、サイズ、及び/又は幾何学的形状が大きく異なり得る多種多様な金属工作物をコーティングするのに適し得る。
【0046】
一実施形態によれば、金属工作物は銅を含むか、又は銅で作製されてもよい。
【0047】
本開示の文脈では、異なる化学気相成長技術が採用され得る。
【0048】
一実施形態では、方法は、第1の段階及び/又は第2の段階において処理チャンバ及び/又は金属工作物を、特に、900℃以上又は1000℃以上の温度まで加熱することをさらに含む。
【0049】
第1の段階及びその後の第2の段階の高温は、炭素含有前駆体ガスの効率的かつ迅速な解離に寄与し得、その結果、処理チャンバ内で原子状炭素が形成され、金属工作物上に効率的に堆積され得る。
【0050】
いくつかの実施形態では、化学気相成長は、プラズマ強化化学気相成長を含むか、又はプラズマ強化化学気相成長である。
【0051】
プラズマ強化化学気相成長は、比較的より低温及び/又はより高速での炭素含有前駆体ガスの効率的な解離に寄与し得、これはいくつかの用途に有利であり得る。
【0052】
一実施形態では、方法は、第1の段階の前に、金属工作物の表面を洗浄するステップであって、特に、水素ガス及び第2のキャリアガスを含むガス流に表面を曝露することによって行う、ステップをさらに含む。
【0053】
炭素堆積前の洗浄ステップは、グラフェンコーティングの品質を高め得る。
【0054】
第2のキャリアガスは、第1のキャリアガスと一致していてもよいし、又は第1のキャリアガスと異なっていてもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、方法は、洗浄前及び/又は洗浄中に金属工作物を加熱することを含み得る。
【0056】
特に、金属工作物は、400℃以上、又は500℃以上、又は600℃以上の温度まで加熱され得る。
【0057】
いくつかの実施形態では、金属工作物は、950℃以下、特に、900℃以下、又は800℃以下の温度まで加熱され得る。
【0058】
一実施形態によれば、方法は、第1の段階の前に、金属工作物をアニーリングすることをさらに含み得る。
【0059】
アニーリングは、金属工作物の表面の結晶構造を変換することを含み得る。
【0060】
例えば、銅工作物の表面は、多結晶構造からCu(111)結晶表面配向に変換され得、その格子パラメータ及び格子定数は、六方晶グラフェンの効率的な堆積に特に適している。
【0061】
いくつかの実施形態では、洗浄することが、アニーリングすることに先行する。
【0062】
一実施形態によれば、アニーリングすることは、金属工作物を900℃以上、特に、1000℃以上の温度まで加熱することを含む。
【0063】
アニーリングは、金属工作物を水素ガス及び第3のキャリアガスに曝露することを含み得る。
【0064】
いくつかの実施形態によれば、第3のキャリアガスは、第1のキャリアガス及び/又は第2のキャリアガスと一致する。
【0065】
他の実施形態では、第3のキャリアガスは、第1のキャリアガス及び/又は第2のキャリアガスとは異なる。
【0066】
本開示の文脈では、様々なキャリアガスが採用され得る。
【0067】
一実施形態によれば、第1のキャリアガス及び/又は第2のキャリアガス及び/又は第3のキャリアガスは、不活性ガス、特に、アルゴンを含む。
【0068】
一実施形態によれば、第1の段階及び/又は第2の段階において、処理チャンバ内で金属工作物を炭素含有前駆体ガス及び水素ガスに曝露することが、処理チャンバ内に配設されたガイドプレートによって炭素含有前駆体ガス及び/又は水素ガスを金属工作物に向けて誘導すること、特に、処理チャンバ内に配設されたガイドプレートによって炭素含有前駆体ガス及び/又は水素ガスを金属工作物に向けて集束させることを含む。
【0069】
ガイドプレートは、金属工作物の近傍で炭素含有前駆体ガス及び/又は水素ガスのより均質な流れをもたらし得、より効果的かつより高品質のコーティングをもたらす。ガイドプレートは、処理チャンバ内の金属工作物の形状及び/又は位置に適合され得る。
【0070】
代替的又は追加的に、ガイドプレートは、加熱ユニットから発する熱放射の後方反射を制限し得、それによって処理チャンバ内のより均質な温度プロファイルをもたらし、これはやはりより高いコーティング品質をもたらし得る。
【0071】
第2の態様では、本開示は、化学気相成長によって金属工作物をグラフェンでコーティングするためのシステムであって、処理チャンバと、処理チャンバ内で金属工作物を保持するように適合された試料ホルダと、処理チャンバと流体連通しているガス供給ユニットと、を備える、システムに関する。ガス供給ユニットが、第1の段階において金属工作物を炭素含有前駆体ガス及び水素ガスに曝露するように適合されており、かつ第1の段階の後の第2の段階において金属工作物を炭素含有前駆体ガス、水素ガス、及び第1のキャリアガスに曝露するようにさらに適合されている。第1の段階における処理チャンバ内への炭素含有前駆体ガスの流れの第1の流量は、第2の段階における処理チャンバ内への炭素含有前駆体ガスの流れの第2の流量よりも大きい。第1の段階における処理チャンバ内への水素ガスの流れの第1の流量は、第2の段階における処理チャンバ内への水素ガスの流れの第2の流量よりも大きい。第1の段階における処理チャンバ内の第1の全ガス圧は、第2の段階における処理チャンバ内の第2の全ガス圧よりも低い。
【0072】
システムは、第1の態様に関連して上述した特徴の一部又は全部を有する方法を実行するように適合され得る。
【0073】
一実施形態では、システムは、第1の段階及び/又は第2の段階において処理チャンバを排気するために処理チャンバと流体連通している真空ポンプユニットをさらに備える。
【0074】
特に、真空ポンプユニットは、第1の段階において第1の排気力で処理チャンバを排気し、かつ第2の段階において第2の排気力で処理チャンバを排気するように適合されてもよく、第2の排気力が、第1の排気力よりも小さい。
【0075】
一実施形態では、システムが、処理チャンバ及び/又は処理チャンバ内の金属工作物を加熱するように適合された加熱ユニットをさらに備える。
【0076】
加熱ユニットは、第1の段階及び/又は第2の段階で、並びに第1の段階の前及び/又は第2の段階の後に、処理チャンバ及び/又は処理チャンバ内の金属工作物を異なる温度範囲で加熱するように適合され得る。
【0077】
一実施形態によれば、加熱ユニットは、第1の段階及び/又は第2の段階において、特に、900℃以上又は1000℃以上の温度まで、処理チャンバ及び/又は処理チャンバ内の金属工作物を加熱するように適合され得る。
【0078】
一実施形態によれば、加熱ユニットは、第1の段階の前に、特に、900℃以上又は1000℃以上の温度で金属工作物をアニーリングするように適合されている。
【0079】
一実施形態によれば、加熱ユニットは、処理チャンバに対して摺動可能に装着され得る。
【0080】
摺動可能に装着された加熱ユニットは、加熱力を選択的に追加又は除去すること、又は処理チャンバの異なるゾーンに選択的に加熱を提供することを可能にし得る。
【0081】
処理チャンバ内に複数のガスを選択的に供給するように適合された任意のユニットを、本開示の文脈におけるガス供給ユニットとして採用することができる。複数のガスは、それぞれの複数のガスリザーバから提供されてもよい。
【0082】
制御ユニットは、ガス供給ユニットに通信可能に結合されて、異なる時間及び/又は異なる流量などで、処理チャンバ内への複数のガスの流入を制御し得る。
【0083】
一実施形態によれば、ガス供給ユニットは、第1の段階の前に水素ガス及び第2のキャリアガスを含むガス流に金属工作物を曝露するように適合されてもよく、それによって、金属工作物を洗浄する。
【0084】
金属工作物を内部に保持するように適合された任意のチャンバを、本開示の文脈における処理チャンバとして採用してもよい。処理チャンバは、ガス供給ユニットと流体連通しており、それによって、複数のガスが異なるガス流量で処理チャンバ内に選択的に導入され得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、処理チャンバは、排気かつ/又は加熱されるように適合され得る。
【0086】
一実施形態によれば、処理チャンバは、石英管を備える。
【0087】
一実施形態では、処理チャンバが、炭素含有前駆体ガス及び/又は水素ガスを試料ホルダに向けて誘導かつ/又は集束させるように適合されたガイドプレートを備える。
【0088】
特に、ガイドプレートが、バッフルプレートと、バッフルプレートに形成された複数のガイド開口部と、を備え得る。
【0089】
ガイド開口部は、炭素含有前駆体ガス及び/又は水素ガスを試料ホルダ及び/又は金属工作物に向けて集束させるように適合され得る。
【0090】
いくつかの実施形態では、ガイド開口部は、直線状の開口部であり得る。
【0091】
他の実施形態では、ガイド開口部は、バッフルプレートの表面に対して傾斜していてもよい。
【0092】
一実施形態によれば、ガイドプレートが、熱及び/又は放熱を試料ホルダに向けて反射するように適合され得る。
【0093】
一実施形態では、システムが、処理チャンバを保持するように適合されたフレームユニットをさらに備え、フレームユニットが、処理チャンバと物理的に接触している複数のダンパ要素を備える。
【0094】
複数のダンパ要素は、処理中の摂動又は振動から処理チャンバを遮蔽し得、それによって、より高品質のコーティングをもたらす。
【0095】
一実施形態によれば、複数のダンパ要素が、Oリング、特に、処理チャンバに面する第1の構成要素と、処理チャンバとは反対側に面する第2の構成要素と、を有する多構成要素Oリングを備え、第2の構成要素が、第1の構成要素とは異なる材料を含み、又は逆も同様である。
【0096】
一実施形態によれば、第1の構成要素は、第2の構成要素よりも高い耐熱性及び/又は熱安定性を有する。
【0097】
一実施形態では、第2の構成要素は、第1の構成要素よりも高い弾性を有する。
【0098】
多構成要素Oリングによって、処理チャンバは、コーティングプロセスに干渉する可能性がある摂動又は振動に対して遮蔽され得、同時に、フレーム及び外部環境に対する処理チャンバの効率的な断熱を可能にする。
【0099】
一実施形態では、複数のダンパ要素は冷却チャネルを含み得、冷却チャネルは冷却流体がダンパ要素を通って流れることを可能にする。
【0100】
第3の態様では、本開示はさらに、コンピュータプログラム、又はコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラム製品に関し、コンピュータ可読命令は、上述の特徴の一部又は全部を有するシステムに結合されたコンピュータ上で読み取られると、上述の特徴の一部又は全部を有する方法をシステム上で実行するようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0101】
本開示の技術及びそれに関連する利点は、同封の図面を参照した実施形態の詳細な説明から最もよく理解され得る。
【
図1】一実施形態による、金属工作物をグラフェンでコーティングするためのシステムの概略図である。
【
図2a】一実施形態による、金属工作物をグラフェンでコーティングするための別のシステムの概略図である。
【
図2b】
図2aに示すシステムの詳細の概略図であり、一実施形態によるシステムにおけるダンパ要素の使用を示す図である。
【
図3a】一実施形態による、金属工作物をグラフェンでコーティングするためのシステムで使用されるガイドプレートの概略図である。
【
図3b】
図3aに示すガイドプレートに形成された開口部を示す図である。
【
図4】一実施形態による、金属工作物をグラフェンでコーティングするためのシステムで使用される別のガイドプレートの概略図である。
【
図5】一実施形態による、金属工作物をグラフェンでコーティングするための方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0102】
次に、本開示の技術を、薄い銅箔をグラフェンでコーティングすることを含む適用例を参照して説明する。しかしながら、これは例示のみを目的としており、当業者は、本開示の技術が、広く異なる材料、サイズ、及び形状の金属工作物をコーティングするために採用され得ることを理解するであろう。
【0103】
図1は、一実施形態による、化学気相成長(CVD)によって金属工作物をグラフェンでコーティングするためのシステム10の概略図である。
【0104】
CVDコーティングシステム10は、試料ホルダ14が設置され、かつ銅箔などの金属工作物(図示せず)を保持するように適合された、処理チャンバ12を備える。例えば、銅箔は、長さ20mm~100mm、幅20mm~300mm、及び厚さ5μm~1mmを有し得るが、他の寸法及び幾何学的形状も同様に採用してもよい。
【0105】
いくつかの実施形態では、処理チャンバ12は石英管を備え得るが、他の形態及び幾何学的形状も同様に採用してもよい。
【0106】
図1に示すように、CVDコーティングシステム10は、処理チャンバ14と流体連通しており、かつ対応するガス供給ダクト18a、18b、18cなどを介して、所定の分圧又は流量で複数の処理ガスを処理チャンバ12内及び試料ホルダ14に向かって選択的に供給するように適合された、ガス供給ユニット16をさらに備える。複数の処理ガスは、ガス供給ユニット16内の対応するリザーバに貯蔵されてもよく、又は外部リザーバからガス供給ユニット16に提供されてもよい。
【0107】
図1は、3つの異なる処理ガスに対応する3つのガス供給ダクト18a、18b、18cを有する構成を示している。しかしながら、これは例示のみを目的としており、他の実施形態では、ガス供給ユニット16は、別個のガス供給ダクトを介して、又は共通のガス供給ダクトを介して、任意の他の数の処理ガスを処理チャンバ12に提供するように適合されてもよい。
【0108】
図1に示す構成において、ガス供給ユニット16は、第1のガス供給ダクト18aを介してメタン(CH
4)などの炭素含有前駆体ガスを提供し、第2のガス供給ダクト18bを介して水素ガス(H
2ガス)を提供し、第3のガス供給ダクト18cを介してアルゴン(Ar)などのキャリアガスを提供するように適合され得る。ガス供給ユニット16は、処理チャンバ12内への炭素含有前駆体ガス、水素ガス、及びキャリアガスの分圧及び/又は(質量若しくは体積)流量を選択的に調整するようにさらに適合されてもよい。
【0109】
処理チャンバ12内でのCVDプロセス中、炭素含有前駆体ガスは、熱分解又はプラズマ分解などによって炭素原子及び水素に解離され得る。その後、遊離炭素原子は、銅工作物の表面に吸収されるが、水素は、排気又は真空ポンピングなどによって処理チャンバ12から除去され得る。
【0110】
CVDプロセスは、2つの連続する段階で進行し得る。第1の段階(炭素核生成段階)では、試料ホルダ14上の金属工作物は、炭素含有前駆体ガス及び水素ガスの混合物に曝露される。炭素核生成段階は、ランダムに分散した場所で銅表面上に単一炭素原子を堆積させるのに役立ち、そこでそれらはシード又はアンカーポイントとして機能し得る。
【0111】
第1の段階では、化学的に活性な水素ガスは、銅表面を還元し、炭素が沈降していない表面の部分に酸化物及び他の汚染物質を含まないようにするのに役立ち得る。さらに、水素原子は、炭素原子が銅表面上に直接形成されず、他の銅原子と結合するか、又はより高い層に形成される場合など、銅表面上の既存のグラフェンドメインから一部の炭素原子を除去するのに役立ち得る。
【0112】
たとえ水素ガスが潜在的にグラフェン成長の減速をもたらし得るにしても、それにもかかわらず、高品質の単分子層成長を達成するために重要な役割を果たし得る。グラフェン成長プロセスは、炭素拡散/堆積と水素エッチングとのバランスに依存し得る。第1の段階における炭素含有前駆体ガス/水素ガス比の最適化は、金属工作物の表面に形成される炭素ドメインの核生成密度及びドメインサイズの両方に強く影響を及ぼし得る。
【0113】
第1の段階は、10分間~60分間、特に20分間~40分間の範囲、例えば30分間の時間を有し得る。
【0114】
後続の第2の段階(成長段階)では、メタンを炭素源として使用してグラフェンを金属表面にエピタキシャル成長させる。吸収された炭素原子は、第1の段階で形成された炭素シードの周囲に集まり、六方晶単分子層グラフェン構造を形成し得る。
【0115】
第2の段階では、第1の段階と比較して、より少ない流量の炭素含有前駆体ガスを選択することが有利であり得る。流れが減少した条件下では、炭素原子は所望の六方晶単分子層構造で銅表面に吸収され得るが、より高い流量は、複数の層で構造化されていない成長を引き起こす可能性がある。第2の段階の水素ガス流は、やはり、六方晶構造に形成されない過剰の炭素原子を取り除くのに役立ち得る。しかし、第2の段階の水素ガス流量も同様に、正味の炭素成長速度を増加させるように第1の段階と比較して減少させられる。
【0116】
第2の段階は、30分間~120分間、特に50分間~70分間、例えば60分間の時間を有し得る。
【0117】
第2の段階では、アルゴンをキャリアガスとして追加して、処理チャンバ12内の全ガス圧を第1の段階よりも高めてもよい。第1の段階と比較した第2の段階における真空ポンプの排気力の低下は、全ガス圧の上昇に寄与し得る。
【0118】
処理チャンバ内の全ガス圧は、第1の段階及び第2の段階の両方において、CVDプロセスの効率及び品質に大きく影響を及ぼし得る。比較的低圧のCVDは、均一な単分子層グラフェン膜の形成を確実にすることができる。特に、比較的低いガス流量と組み合わせた比較的低い圧力は、特に炭素核生成段階中に、ガス分子間の衝突をより少なくし、銅表面上の炭素の吸収速度をより早め得る。一方、圧力が低すぎると、炭素供給不足によりグラフェンの成長速度が非常に遅くなる可能性があり、グラフェンドメインが均質な膜に融合しにくくなる場合がある。
【0119】
シード炭素原子の堆積を制御し、銅上の複数の炭素層の形成を回避するために、第1の段階は、1~3Torrの範囲、例えば2Torrの比較的低い全圧で実行され得るが、メタンが0.5sccm~2.0sccm、水素ガスが100sccm~200sccmなど、比較的高い炭素含有前駆体ガス及び水素ガスの部分流量で実行され得る。この実施形態では、第1の段階においてキャリアガスは提供されない。
【0120】
第2の段階では、全ガス圧は、キャリアガス流の追加及び/又は排気力の削減などによって、20Torr~40Torrの範囲、例えば30Torrに増加させ得る。同時に、メタンガス流量を0.1sccm~0.5sccmに減少させてもよく、水素ガス流量を10sccm~30sccmに減少させてもよい。アルゴンキャリアガスは、第2の段階において20sccm~100sccmのガス流量で提供されてもよい。
【0121】
図2aは、別の実施形態によるCVDコーティングシステム10’の概略図である。CVDコーティングシステム10’は、概して、
図1を参照して上述したシステム10と同様であり、対応する要素は同じ参照番号を共有する。
【0122】
図2aの構成では、処理チャンバ12は、長さ1200mm及び直径120mmを有する円筒管などの石英管20を備える。処理チャンバ12は、石英管20の両端で石英管20を定位置に保持するフレームユニット22によって支持されている。
【0123】
石英管20は、その第1の端部(
図2aの左側)において、ガス供給ダクト18a、18b、18cを介してガス供給ユニット16と流体接続している処理チャンバ12の入口ガスシール24によって封止されている。
図1を参照して上述したように、ガス供給ユニット16は、炭素含有前駆体ガス、水素ガス、及びキャリアガスを、所定の流量で選択的に処理チャンバ12に提供し得る。
【0124】
石英管20は、第1の端部とは反対側の第2の端部(
図2aの右側)において、排気ダクト30を介して真空ポンプユニット28と流体連通している出口ガスシール26によって封止されてもよい。
【0125】
真空ポンプユニット28は、石英管20内の全ガス圧、例えば所定の低大気圧を調整するように適合され得る。例えば、真空ポンプユニット28は、第1の段階において石英管20を第1の排気力で排気し、第2の段階において石英管20を第1の排気力よりも小さい第2の排気力で排気するように適合されてもよく、その結果、より高い全ガス圧が、第1の段階と比較して第2の段階において石英管20にもたらされる。
【0126】
第2の段階におけるより低い排気力は、石英管20内の、より少ない摂動及び乱流を有する、より均質なガス流にさらに寄与し、それによって、より均質なグラフェンコーティングをもたらす。
【0127】
図2aにさらに示すように、CVDコーティングシステム10’は、CVD炉などの加熱ユニット32をさらに備える。
図2aの構成では、加熱ユニット32は、石英管20の中央部において石英管20を包み込んで囲むように装着されている。加熱ユニット32は、フレームユニット22に対して摺動可能に装着されてもよく、それにより、加熱ユニット32を石英管20の長さに沿って選択的に位置決めすることができるか、又は石英管20から完全に取り外すことができる。
【0128】
加熱ユニット32は、石英管20内に保持された金属工作物を含む石英管20の内部を、第1の段階及び/又は第2の段階中に所定の温度まで選択的に加熱するように適合され得る。
【0129】
いくつかの実施形態では、石英管20内の温度は、グラフェンコーティングの成長速度及び品質に大きく影響を及ぼし得る。特に、石英管20内の周囲温度は、メタンの不飽和炭素/水素化合物CHx、x=3、2、1、0への触媒解離、並びにグラフェン核及び後のグラフェンドメインへの炭素原子の表面拡散及び吸着に影響を及ぼし得る。
【0130】
例えば、約1000℃であるが銅の溶融温度(1083℃)より低い温度は、炭素含有前駆体ガスの効率的な解離、及び第1の段階及び第2の段階の両方における活性炭の良好な拡散特性を提供し得る。同時に、高温は、第1の段階における核生成密度を低下させ、それにより、より少ないがより大きなグラフェンドメインの形成を可能にする。さらに、高温域は、第2の段階におけるグラフェン核への炭素種の付着に寄与する。
【0131】
CVDプロセスが1000℃未満の比較的低い温度、又は炭化水素供給速度が低すぎる場合、隣接するグラフェンドメインの成長フロントが互いに接近すると、グラフェンドメインの成長速度が急速に低下することが分かった。
【0132】
金属工作物の溶融温度よりわずかに低い温度は、さらに、機械的平滑性及び電子的に均質な基板表面の両方を保証するいわゆる予備溶融(軟化)表面をもたらし得る。特に、この温度範囲における機械的表面不均質性の低減は、核生成密度の低下、及び最終的にはグラフェンコーティングのより高い品質をもたらし得る。
【0133】
適切な表面研磨は同様に、表面粗さを最小限に抑えることによってグラフェン成長を加速させ得る。例えば、一方向ダイヤモンド研磨は、グラフェン成長核の形成速度、及び個々のグラフェンドメインの一方向配向の両方を改善し得る。
【0134】
CVDコーティングシステム10’は、ガス供給ユニット16、真空ポンプユニット28、及び加熱ユニット32に通信可能に結合された制御ユニット34をさらに備える。ユーザは、制御ユニット34を介して、第1の段階及び第2の段階の両方において、ガス供給ユニット16によって提供される炭素含有前駆体ガス、水素ガス、及びキャリアガスのガス流量、真空ポンプユニット28の排気力、並びに/又は加熱ユニット32の加熱力を選択的に制御してもよい。
【0135】
図1及び
図2aを参照して上述した例では、工作物の銅表面は、メタン分解のための触媒として機能し得る。これに関連して、予備酸化銅を使用すること、及び/又は銅表面上に低濃度の酸素を保つように、実際のグラフェン成長の前に非還元雰囲気で工作物を加熱することが有利であり得る。これは、炭素核生成速度を低下させ、それによって、より少ないがより大きな、より高品質のグラフェンドメインの形成を誘発し得る。
【0136】
金属工作物の平滑性、汚染度、基板不純物、及び欠陥などの表面品質特性は、生成されるグラフェン層の品質に実質的な影響を及ぼし得る。市販の銅箔は、一般に多結晶構造を有する。いくつかの実施形態では、多結晶構造をCu(111)表面配向に変換することが有利であり得る。優れた格子整合のために、Cu(111)上のグラフェン成長速度は、いかなる他の銅表面構造上よりもはるかに高くすることができる。特に、Cu(111)表面上のエピタキシャル成長したグラフェンの配向は、下地の銅格子と自動的に整合する。
【0137】
したがって、いくつかの実施形態では、方法は、第1の段階の前に、金属工作物の表面の結晶構造を、特にCu(111)結晶配向に変換するための金属工作物の追加のアニーリングステップを含み得る。
【0138】
アニーリングのために、金属工作物は、石英管20の中央の試料ホルダ上に設置され得、加熱ユニット32によって大気圧で1000℃以上の範囲、例えば1060℃の温度まで加熱され得る。アニーリング時間は、1~15時間の範囲、例えば2時間であり得る。
【0139】
さらに、金属工作物をガス供給ユニットから供給される水素ガスとキャリアガスとの混合物に曝露することなどによって、アニーリングの前に金属工作物の表面を洗浄することが有利であり得る。例えば、水素ガスを50sccmの流量で供給してもよく、アルゴンをキャリアガスとして50sccmの流量で供給してもよい。洗浄は、500℃~800℃の範囲、例えば600℃の高温で実施されてもよい。
【0140】
グラフェンコーティングの品質をさらに高めるために、いくつかの実施形態では、
図2bを参照して以下に説明するように、石英管20を外部の衝撃及び振動から遮蔽することが有益であり得る。
【0141】
図2bは、
図2aを参照して上述したCVDコーティングシステム10’の石英管20の、その右端部付近の詳細を示している。
【0142】
図2bから分かるように、石英管20は、2要素Oリング38を備えるダンパ要素36によってフレームユニット22に装着されている。Oリング38の内層(石英管20に面する)は、非常に温度安定性があり、かつフレームユニット22及び出口ガスシール26に対する石英管20の良好な断熱を提供する、パーフルオロエラストマーから形成されてもよい。Oリング36の外層(石英管20から外方に面する)は、機械的摂動及び振動に対する良好なクッションを提供するビニルメチレンシリコーンゴム材料から形成されてもよい。
【0143】
冷却をさらにサポートするために、冷却チャネル40をダンパ要素36内に形成して、ダンパ要素36を通る水又は空気などの冷却流体の流れを可能にしてもよい。
【0144】
同様のダンパ要素が、同様に、入口ガスバルブ24に向かう石英管20の反対側(左側)に同様に設けられてもよいが、
図2bの詳細図には示していない。
【0145】
グラフェン成長の品質をさらに高めるために、
図3a~
図4を参照して以下に説明するように、炭素含有前駆体ガス、水素ガス、及び/又はキャリアガスの流れを石英管20内及び試料ホルダ14に向けて導くために、石英管20内にガイドプレート42、42’を設けてもよい。
【0146】
図3aは、一実施形態によるガイドプレート42を正面図で示しており、一方、
図3bは、同じガイドプレート42を部分断面側面図で示している。
【0147】
図3aに示すガイドプレート42は、その外径が石英管20の内径にほぼ一致するバッフルプレートであり、それにより、ガイドプレート42を、入口ガスシール24と試料ホルダ14との間及び/又は試料ホルダ14と出口ガスシール26との間など、その表面が石英管20の中心軸に垂直な状態で石英管20の内側に設置することができる。したがって、ガイドプレート42は、金属工作物に向かう、かつ/又は金属工作物からの炭素含有前駆体ガス、水素ガス、及び/又はアルゴンガスの流れに対するバリアを提供する。ただし、ガイドプレート42に複数の貫通孔44を形成してもよく、その結果、炭素含有前駆体ガス、水素ガス、及び/又はアルゴンガスが所定の場所でガイドプレート42を通過し得、試料ホルダ14上に集束され得る。
【0148】
図3aでは、ガイドプレート42に8つの貫通孔44が円形状に形成された構成を示しているが、他の構成は、異なる幾何学的パターンで異なる数の貫通孔を有してもよい。
【0149】
図3bの側面図に示すように、各貫通孔44は、ガス流を石英管20の中央に向けて誘導するように、傾斜角αの下でガイドプレート42の中心軸に対して傾斜していてもよく、金属工作物は試料ホルダ14上に載置されてもよい。しかしながら、他の構成では、貫通孔は直線状であってもよく、α=0に対応する。
【0150】
図4は、別の実施形態によるガイドプレート42’を正面図(左側)及び断面側面図(右側)の両方で示している。
【0151】
ガイドプレート42’は、概して、
図3a及び
図3bを参照して上述したガイドプレート42に対応する。しかしながら、ガイドプレート42’の貫通孔44’は、3つの同心円状に配置されており、各円は8つの貫通孔44’を備える。貫通孔44’の直径は、断面側面図から分かるように、最外円から中央円、最内円に向かって小さくなっている。
【0152】
ガイドプレート42、42’及びそれらの貫通孔44、44’の幾何学的形状は、コーティングされる金属工作物の幾何学的形状に従って適合され得る。
【0153】
いくつかの例では、ガイドプレート42、42’は、鋼などの金属で形成されてもよく、したがって、加熱ユニット32の熱を反射して、試料ホルダ14が位置付けされた石英管20の中央に向けて戻す放熱又は熱反射器としての役割を兼ねてもよい。この効果は、石英管20内のより均質な温度プロファイルに寄与し得、グラフェン成長の品質を高め得る。
【0154】
図5は、
図1~
図4を参照して上述したCVDコーティングシステム10、10’などにおける、一実施形態による化学気相成長(CVD)によって金属工作物をグラフェンでコーティングするための方法を示すフロー図である。
【0155】
第1の段階S10では、金属工作物は、処理チャンバ内で炭素含有前駆体ガス及び水素ガスに曝露される。
【0156】
第1の段階S10に続く第2の段階S12では、金属工作物は、炭素含有前駆体ガス、水素ガス、及び第1のキャリアガスに曝露される。
【0157】
第1の段階S10における処理チャンバ内への炭素含有前駆体ガスの第1の流量は、第2の段階S12における処理チャンバ内への炭素含有前駆体ガスの第2の流量よりも大きい。同様に、第1の段階S10における処理チャンバ内への水素ガスの第1の流量は、第2の段階S12における処理チャンバ内への水素ガスの第2の流量よりも大きい。第1の段階S10における処理チャンバ内の第1の全ガス圧は、第2の段階S12における処理チャンバ内の第2の全圧よりも低い。
【0158】
本開示の技術は、CVDエピタキシャル成長プロセスを採用して、金属表面、特に銅表面上に均質な腐食保護グラフェンコーティングを作成し得る。堆積グラフェン層の数は、CVDプロセスの継続時間を制御することによって調整することができる。
【0159】
CVDプロセスは、すべてのアクセス可能な金属表面、さらには凹状領域にも均質なグラフェンコーティングを提供し得る。以前のグラフェンコーティングの解決策とは異なり、本開示の技術は、電解及び電気泳動堆積、カップリング剤、前駆体からのグラフェンの分離及び転写、又は金属マトリックス中のグラフェンの分散の必要性を回避し得る。
【0160】
本開示の技術は、腐食及び機械的摩耗から金属表面を保護するなどのために、電気コネクタ及びスイッチの高導電性でありながら機械的に安定した表面コーティングを提供し得る。用途は、ねじ端子、ばねクランプ、又は圧接接続を含み得る。
【0161】
説明及び図面は、本開示の技術を例示するために役立つにすぎず、いかなる限定も暗示すると理解されるべきではない。範囲は、添付の特許請求の範囲から決定されるべきである。
【符号の説明】
【0162】
10、10’ CVDコーティングシステム
12 処理チャンバ
14 試料ホルダ
16 ガス供給ユニット
18a、18b、18c ガス供給ダクト
20 石英管
22 フレームユニット
24 処理チャンバ12の入口ガスシール
26 処理チャンバ12の出口ガスシール
28 真空ポンプユニット
30 排気ダクト
32 加熱ユニット
34 制御ユニット
36 ダンパ要素
38 Oリング
40 冷却チャネル
42、42’ ガイドプレート
44、44’ ガイドプレート42、42’の貫通孔