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特許7538873樹脂結合繊維、並びにこれを用いる活物質層、電極、及び非水電解質二次電池
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  • 特許-樹脂結合繊維、並びにこれを用いる活物質層、電極、及び非水電解質二次電池 図1
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  • 特許-樹脂結合繊維、並びにこれを用いる活物質層、電極、及び非水電解質二次電池 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】樹脂結合繊維、並びにこれを用いる活物質層、電極、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/256 20060101AFI20240815BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240815BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240815BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
D06M15/256
H01M4/62 Z
H01M4/13
D06M101:40
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022546301
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2021031669
(87)【国際公開番号】W WO2022050211
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2020146639
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】谷内 一輝
(72)【発明者】
【氏名】大道 高弘
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-255907(JP,A)
【文献】特開2020-033687(JP,A)
【文献】特開昭63-164165(JP,A)
【文献】国際公開第2004/031465(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/115852(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/157160(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
D01F 9/08- 9/32
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が10~5000nmであり、平均アスペクト比が30以上1000以下である導電繊維と、
熱可塑性樹脂と、
を含み、
前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記導電繊維と前記熱可塑性樹脂との合計量に対して1~70質量%であり、
前記導電繊維の一部の表面に、少なくとも一部の前記熱可塑性樹脂が粒子状に付着して前記導電繊維と一体化して成り、
充填密度0.8g/cmの時の粉体体積抵抗率が0.001Ω・cm以上2.5Ω・cm以下であることを特徴とする樹脂結合繊維。
【請求項2】
タップ密度が0.001~0.1g/cmである請求項1に記載の樹脂結合繊維。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、50~250℃の融点を有する熱可塑性樹脂である請求項1又は2に記載の樹脂結合繊維。
【請求項4】
前記導電繊維が、炭素繊維又はニッケル繊維である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂結合繊維。
【請求項5】
前記炭素繊維が、実質的に金属元素を含有しない請求項4に記載の樹脂結合繊維。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、フッ素原子を含有する熱可塑性樹脂である請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂結合繊維。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂結合繊維を含む、非水電解質二次電池用の活物質層。
【請求項8】
請求項7に記載の活物質層を含んで構成される、非水電解質二次電池用の電極。
【請求項9】
請求項8に記載の電極を含んで構成される、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電材として用いられる樹脂結合繊維、並びにこの樹脂結合繊維を用いて構成される活物質層、電極及び非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の活物質層は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質を少なくとも含んでおり、一般には、電子伝導性を向上させるための導電材と、これらを結着させるための結着材が用いられる。リチウム二次電池が全固体リチウム二次電池の場合には、さらに固体電解質を含んで構成される。
【0003】
リチウム二次電池を充放電させる際には、活物質の膨張・収縮を伴うため、充放電を繰り返すためには活物質層の強度向上および活物質層に含まれる粒子同士の接点維持が必要とされている。また、電池の大型化の観点からも活物質層の強度向上が求められている。特に、電解質が固体電解質である全固体リチウム二次電池の場合には、活物質層及び電解質層を構成する粒子同士の接点維持が必要不可欠であり、強度向上に対する要求はより高いものとなる。
【0004】
活物質層の強度を向上させるためには、結着材を用いることが提案されている(特許文献1)が、一般に用いられている結着材には電子伝導性およびイオン伝導性がないため、活物質層の電子伝導性およびイオン伝導性の低下につながってしまい、電池特性が低下する傾向にある。
【0005】
また、炭素繊維を用いることにより電子伝導性の改善(特許文献1、2)、および活物質層の強度向上(特許文献3)が提案されているが、十分な活物質層強度を得るため、及び粒子同士の接点維持のためには、多量の結着材添加がなお必要であり、イオン伝導性の低下が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-262764号公報
【文献】特開2016- 9679号公報
【文献】WO2014/115852公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウム二次電池、特に全固体リチウム二次電池の充放電時には、活物質の膨張・収縮に起因して、活物質層にクラックが生じたり、活物質層内における粒子同士の接点が確保され難くなる。活物質層の強度向上及び粒子同士の接点を確保するためには、結着材を用いることが有効であるが、多量の結着材を用いると導電材や電解質の入り込む空間が小さくなる。さらには、結着材によって活物質粒子の表面が被覆され、活物質層の電子伝導性及びイオン伝導性が妨げられる場合がある。
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、導電材として用いられる樹脂結合繊維であって、高強度の活物質層を作製することができ、且つ活物質層の電子伝導性及びイオン伝導性が妨げられにくい樹脂結合繊維を提供することにある。また、本発明の更なる課題としては、当該樹脂結合繊維を用いて作製する活物質層、電極及び非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の従来技術に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、導電繊維の表面に熱可塑性樹脂から成る結着材を結合させて一体化させることによって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、導電繊維に熱可塑性樹脂を結合させて一体化させることにより、活物質層内において活物質の体積変化が生じても、活物質層の構造変化が抑制されるため、活物質層の物理的な強度が向上する。さらには、導電繊維と熱可塑性樹脂とが一体化しているため、結着材である熱可塑性樹脂が活物質層中で膜状に拡がることが抑制され、絶縁層の形成が抑制される結果、活物質層中のイオン伝導性及び電子伝導性を高く維持することができるため、電池の抵抗上昇を抑制することができる。
【0010】
上記課題を解決する本発明は、以下に記載されるとおりである。
【0011】
〔1〕 平均繊維径が10~5000nmであり、平均アスペクト比が30以上である導電繊維と、
前記導電繊維の少なくとも一部の表面に接触して前記導電繊維と一体化している熱可塑性樹脂と、
を含み、
密度0.8g/cmの時の粉体体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とする樹脂結合繊維。
【0012】
〔2〕 前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記導電繊維と前記熱可塑性樹脂との合計量に対して、1~70質量%である〔1〕に記載の樹脂結合繊維。
【0013】
〔3〕 タップ密度が0.001~0.1g/cmである〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂結合繊維。
【0014】
〔4〕 前記熱可塑性樹脂が、50~250℃の融点を有する熱可塑性樹脂である〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の樹脂結合繊維。
【0015】
〔5〕 前記導電繊維が、炭素繊維又はニッケル繊維である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の樹脂結合繊維。
【0016】
〔6〕 前記炭素繊維が、実質的に金属元素を含有しない〔5〕に記載の樹脂結合繊維。
【0017】
〔7〕 前記熱可塑性樹脂が、フッ素原子を含有する熱可塑性樹脂である〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の樹脂結合繊維。
【0018】
上記〔1〕~〔7〕に記載の樹脂結合繊維は、所定形状の導電繊維と熱可塑性樹脂とが結合して一体化して成る。この樹脂結合繊維は、密度0.8g/cmに充填して測定した場合の粉体体積抵抗率が10Ω・cm以下である。ここで一体化とは、単に導電繊維と熱可塑性樹脂とが混合されている状態を意味するのではなく、導電繊維が1つの熱可塑性樹脂粒子を貫くように結合している場合や、導電繊維が熱可塑性樹脂によってその一部が被覆されている状態を意味する。
【0019】
〔8〕 少なくとも粒子状である前記熱可塑性樹脂を含む、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の樹脂結合繊維。
【0020】
〔9〕 〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の樹脂結合繊維を含む、非水電解質二次電池用の活物質層。
【0021】
〔10〕 〔9〕に記載の活物質層を含んで構成される、非水電解質二次電池用の電極。
【0022】
〔11〕 〔10〕に記載の電極を含んで構成される、非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0023】
本発明の樹脂結合繊維は、導電材として機能する導電繊維と、結着材として機能する熱可塑性樹脂とが結合して一体化しているため、高い強度の活物質層を作製することができる。さらには、この樹脂結合繊維を用いて作製される活物質層は、充放電に起因して活物質の体積変化が生じても、イオン伝導性や電子伝導性を高く維持できる。そのため、本発明の樹脂結合繊維を用いて構成される活物質層は、電池抵抗を低減させるとともに、優れたサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例4で製造した樹脂結合繊維の走査電子顕微鏡(SEM)による図面代用写真である。
図2】実施例5で製造した樹脂結合繊維の走査電子顕微鏡(SEM)による図面代用写真である。
図3】導電繊維と熱可塑性樹脂とを単純に混合した場合(比較例3)の走査電子顕微鏡(SEM)による図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1) 樹脂結合繊維
本発明の樹脂結合繊維は、導電繊維と熱可塑性樹脂とを含み、導電繊維と熱可塑性樹脂とから実質的になることが好ましく、導電繊維と熱可塑性樹脂とからなることがより好ましい。この樹脂結合繊維は、導電繊維と熱可塑性樹脂とが直接結合して一体化(複合化)している。ここで一体化とは、単に導電繊維と熱可塑性樹脂とが単に混合されている状態を意味するのではなく、例えば、導電繊維が1つの粒子状(球形)の熱可塑性樹脂の表面に付着及び/又は接着して結合している場合や、導電繊維が1つの粒子状の熱可塑性樹脂を貫くように結合している場合や、導電繊維が熱可塑性樹脂によってその一部が被覆されている状態などを意味する。特に、少なくとも一部の熱可塑性樹脂は粒子状に付着していることが好ましい。ここで、粒子状とは、アスペクト比が5以下、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下の形態の粒子を意味する。具体的には、本発明の樹脂結合繊維は、熱可塑性樹脂の溶液中に分散した導電繊維を噴霧乾燥する方法や、単量体溶液と導電繊維とを混合して重合する方法、導電繊維が分散する溶媒中で熱可塑性樹脂を析出させる方法等によって製造される。また、本発明の樹脂結合繊維は、導電繊維と熱可塑性樹脂とが直接結合して一体化しているのであり、導電繊維と熱可塑性樹脂の粒子とが混合され、これらが他の第三成分によって接着されている物ではない。一体化された状態は、例えばSEM画像により確認することができる。
【0026】
本発明の樹脂結合繊維は、密度0.8g/cmで充填した際の粉体体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とする。前提として、密度0.8g/cmで充填することができない樹脂結合繊維は、本発明の樹脂結合繊維には含まれない。密度0.8g/cmで充填した際の粉体体積抵抗率の上限値は、5Ω・cm以下であることが好ましく、3Ω・cm以下であることがより好ましく、2.5Ω・cm以下であることがより好ましく、1Ω・cm以下であることがより好ましく、0.5Ω・cm以下であることがより好ましい。密度0.8g/cmで充填した際の粉体体積抵抗率の下限値は、特に限定されないが、0.001Ω・cm以上であり、より具体的には、0.01Ω・cm以上である。
【0027】
本発明の樹脂結合繊維は、密度0.5g/cmで充填した際の粉体体積抵抗率が20Ω・cm以下であることが好ましく、10Ω・cm以下であることがより好ましく、5Ω・cm以下であることがより好ましく、1Ω・cm以下であることがより好ましい。密度0.5g/cmで充填した際の粉体体積抵抗率の下限値は、特に限定されないが、0.001Ω・cm以上であり、より具体的には、0.01Ω・cm以上である。
【0028】
本発明の樹脂結合繊維は、密度1.0g/cmで充填した際の粉体体積抵抗率が5Ω・cm以下であることが好ましく、3Ω・cm以下であることがより好ましく、2Ω・cm以下であることがより好ましく、1Ω・cm以下であることがより好ましく、0.1Ω・cm以下であることがより好ましい。密度1.0g/cmで充填した際の粉体体積抵抗率の下限値は、特に限定されないが、0.001Ω・cm以上であり、より具体的には、0.01Ω・cm以上である。
【0029】
また、本発明の樹脂結合繊維のタップ密度は、0.001~0.1g/cmであることが好ましい。タップ密度の下限値は、0.005g/cm以上であることがより好ましく、0.010g/cm以上であることがより好ましく、0.012g/cm以上であることがより好ましい。タップ密度の上限値は、0.070g/cm以下であることがより好ましく、0.065g/cm以下であることがより好ましく、0.050g/cm以下であることがより好ましく、0.040g/cm以下であることがより好ましく、0.030g/cm以下であることがより好ましい。0.001g/cm未満である場合、熱可塑性樹脂の含有量が多過ぎるか、導電繊維が丸まっている状態であると考えられ、添加量に対する導電性向上の効果が小さい。0.1g/cmを超える場合、熱可塑性樹脂の含有量が少な過ぎるか、熱可塑性樹脂が導電繊維から脱落していると考えられる。
【0030】
樹脂結合繊維の平均繊維長は特に限定されないが、10μm以上であることが好ましい。平均繊維長の下限は、11μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。平均繊維長の上限は限定されないが、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明の樹脂結合繊維における熱可塑性樹脂の含有量は、導電繊維と熱可塑性樹脂との合計量に対して、1~70質量%であることが好ましい。熱可塑性樹脂の含有量の下限値は、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の含有量の上限値は、65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。1質量%未満である場合、熱可塑性樹脂による補強効果が発揮され難い。70質量%を超える場合、熱可塑性樹脂の付着量が多過ぎて、電池抵抗を増大させ易い。
【0032】
本発明の樹脂結合繊維における導電繊維の含有量は、導電繊維と熱可塑性樹脂との合計量に対して、30~99質量%であることが好ましい。導電繊維の含有量の下限値は、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることがより好ましい。導電繊維の含有量の上限値は、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
(2) 導電繊維
本発明に用いられる導電繊維は、導電性を有する繊維であれば特に限定されないが、導電繊維の材質は、例えば、炭素、ニッケル、銅、ステンレス、アルミニウムなどが挙げられる。その中でも炭素およびニッケルが好ましく、特に炭素が好ましい。導電繊維の材質が炭素の場合、導電繊維としては、例えばカーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維が挙げられるが、ピッチ系炭素繊維は結晶性が高く、繊維径が細く、また凝集しにくく分散性に優れるのでより好ましい。以下、導電繊維が炭素繊維である場合を例として説明する。
【0034】
本発明に用いられる炭素繊維の平均繊維径は、10~5000nmである。平均繊維径の下限値は、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、150nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることがより好ましく、200nmを超えることがより好ましく、250nm以上であることがより好ましい。平均繊維径の上限値は、3000nm以下であることが好ましく、2000nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることがより好ましく、900nm以下であることがより好ましく、800nm以下であることがより好ましく、700nm以下であることがより好ましく、600nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることがより好ましく、350nm以下であることがより好ましい。平均繊維径が10nm未満である場合、繊維が凝集しやすく、導電材として機能し難い。また、平均繊維径が10nm未満である炭素繊維はその比表面積が大きく、活物質層内において活物質の表面を被覆してしまう。その結果、固体電解質と活物質との接点が減少することとなり、イオン伝導パスの形成の阻害につながる。平均繊維径が5000nmを超える炭素繊維は、活物質層内において繊維間に隙間が生じ易くなり、活物質層の密度を高くすることが困難となる場合がある。
【0035】
本発明に用いられる炭素繊維の平均アスペクト比は、30以上であり、35以上であることが好ましく、40以上であることが好ましい。平均アスペクト比の上限は限定されないが、1000以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましく、300以下であることがより好ましく、200以下であることがより好ましく、150以下であることがより好ましく、100以下であることがより好ましい。平均アスペクト比が30未満である場合、活物質層を製造した際に、該活物質層中において炭素繊維による導電パスの形成が不十分になり易く、活物質層の膜厚方向の抵抗値が十分に低下しない場合がある。また、活物質層の機械的強度が不足するため、充放電に伴う活物質の体積変化時に活物質層に応力がかかった際に、活物質層にクラックが生じやすい。
【0036】
炭素繊維の平均繊維長は特に限定されないが、10μm以上であることが好ましい。平均繊維長の下限は、11μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。平均繊維長の上限は限定されないが、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明に用いられる炭素繊維は、実質的に分岐を有さない直線構造であることが好ましい。ここで、実質的に分岐を有さないとは、分岐度が0.01個/μm以下であることをいう。分岐とは、炭素繊維が末端部以外の場所で他の炭素繊維と結合した粒状部をいい、炭素繊維の主軸が中途で枝分かれしていること、及び炭素繊維の主軸が枝状の副軸を有することをいう。分岐を有する炭素繊維としては、例えば、触媒として鉄などの金属の存在下、高温雰囲気中でベンゼン等の炭化水素を気化させる気相法によって製造した気相成長(気相法)炭素繊維(例えば昭和電工社製VGCF(登録商標))が知られている。実質的に直線構造を有する炭素繊維は、分岐を有する炭素繊維に比べて分散性が良好であり、長距離の導電パスを形成しやすい。
【0038】
ここで、本発明に用いられる炭素繊維の分岐度は、電界放射型走査電子顕微鏡によって倍率5,000倍にて撮影した写真図から測定された値を意味する。
【0039】
なお、この炭素繊維は、全体として繊維状の形態を有していればよく、例えば、上記平均アスペクト比の好ましい範囲未満のものが接触したり結合したりして一体的に繊維形状を有しているもの(例えば、球状炭素が数珠状に連なっているもの、極めて短い少なくとも1本または複数本の繊維が融着等によりつながっているものなど)も含む。
【0040】
本発明に用いられる炭素繊維は、広角X線測定により測定した隣接するグラファイトシート間の距離(d002)は特に限定されないが、0.3365nm以上であることが好ましく、0.3380nm以上がより好ましく、0.3390nm以上がより好ましく、0.3400nm以上がより好ましく、0.3400nmを超えることがより好ましく、0.3410nm以上がより好ましく、0.3420nm以上がさらに好ましい。また、d002は0.3450nm以下が好ましく、0.3445nm以下であることがより好ましい。特に、d002が0.3400nm以上の場合、炭素繊維が脆くなり難い。そのため、解砕時や混練スラリーを作成するなどの加工時に、繊維が折損し難く、繊維長が保持される傾向がある。その結果、長い距離の導電パスを形成し易くなる。また、全固体リチウム二次電池の充放電に伴う活物質の体積変化に追従して導電パスが維持され易い傾向がある。
【0041】
本発明に用いられる炭素繊維は、広角X線測定により測定した結晶子大きさ(Lc002)は特に限定されないが、120nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがより好ましく、25nm以下であることがさらに好ましい。結晶子大きさ(Lc002)は大きいほど結晶性が高く、導電性が優れる。しかし、結晶子大きさ(Lc002)が小さい場合、炭素繊維が脆くなり難い。そのため、解砕時や混練スラリーを作成するなどの加工時に、繊維が折損し難く、繊維長が保持される。その結果、長い距離の導電パスを形成し易くなる。また、全固体リチウム二次電池の充放電に伴う活物質の体積変化に追従して導電パスが維持され易い。結晶子大きさ(Lc002)の下限値は0より大きく、一般的には測定装置の検出限界である5.0nm以上である。
本発明において、結晶子大きさ(Lc002)とは、日本工業規格JIS R 7651(2007年度版)「炭素材料の格子定数及び結晶子の大きさ測定方法」により測定される値をいう。
【0042】
本発明に用いられる炭素繊維は、実質的に金属元素を含有しないことが好ましい。具体的には、金属元素の含有率が合計で50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下であることがさらに好ましい。金属元素の含有率が50ppmを超える場合、金属の触媒作用により電池を劣化させ易くなる。本発明において、金属元素の含有率とは、Li、Na、Ti、Mn、Fe、Ni及びCoの合計含有率を意味する。特に、Feの含有率は5ppm以下であることが好ましく、3ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることがさらに好ましい。Feの含有率が5ppmを超える場合、特に電池を劣化させ易くなるため好ましくない。なお、前述の気相成長(気相法)炭素繊維(例えば昭和電工社製VGCF(登録商標))は、触媒として鉄などの金属を含有している。
【0043】
本発明に用いられる炭素繊維は、繊維中の水素、窒素、灰分の何れもが0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。炭素繊維中の水素、窒素、灰分の何れもが0.5質量%以下である場合、グラファイト層の構造欠陥が一段と抑制され、電池中での副反応抑制できるため好ましい。
【0044】
本発明に用いられる炭素繊維のうち、カーボンナノチューブ(CNT)及び気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))以外の炭素繊維は、活物質層中での分散性に特に優れている。その理由は明らかではないが、前記した構造を有すること;天然黒鉛、石油系及び石炭系コークスを熱処理することで製造される人造黒鉛や難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素などを原料とすること;製造工程で樹脂複合繊維を経由すること等が考えられる。活物質層内において、球状粒子を含有しなくても分散性に優れるので、長距離の導電パスを形成でき、少量の含有量で優れた電池性能を発揮すると考えられる。
【0045】
本発明に用いられる炭素繊維は、多孔質や中空構造であってもよいが、炭素繊維の製造過程において、溶融ブレンド紡糸で得られる樹脂複合繊維を経ることが好ましい。そのため、本発明の炭素繊維は実質的に中実であり、表面は基本的に平滑であり、前述のとおり分岐を有さない直線構造であることが好ましい。
【0046】
本発明に用いられる炭素繊維は、例えばWO2009/125857に記載の方法により製造できる。以下に一例を示す。
先ず、熱可塑性ポリマー内にメソフェーズピッチが分散して成るメソフェーズピッチ組成物を調製する。次に、このメソフェーズピッチ組成物を溶融状態で糸状またはフィルム状に成形する。特に紡糸することが好ましい。紡糸により、熱可塑性ポリマー内に分散するメソフェーズピッチを熱可塑性ポリマー内部で引き延ばすとともに、メソフェーズピッチ組成物を繊維化して樹脂複合繊維を得る。この樹脂複合繊維は、熱可塑性ポリマーを海成分とし、メソフェーズピッチを島成分とする海島構造を有する。
【0047】
次に、得られた樹脂複合繊維に酸素を含む気体を接触させてメソフェーズピッチを安定化させて樹脂複合安定化繊維を得る。この樹脂複合安定化繊維は、熱可塑性ポリマーを海成分とし、安定化メソフェーズピッチを島成分とする海島構造を有する。
【0048】
続いて、この樹脂複合安定化繊維の海成分である熱可塑性ポリマーを除去し、炭素繊維前駆体を得る。
【0049】
さらに、この炭素繊維前駆体を高温加熱して、炭素繊維である極細炭素繊維を得る。
【0050】
(3) 熱可塑性樹脂
本発明の樹脂結合繊維を構成する熱可塑性樹脂は、電極成形が可能であり、十分な電気化学的安定性を有している熱可塑性樹脂であれば用いることが可能である。係る熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重体(P-(VDF-HFP))、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フルオロオレフィン共重合体、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、フェノール樹脂等よりなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重体(P-(VDF-HFP))のようなフッ素原子を含む熱可塑性樹脂が好ましい。
【0051】
熱可塑性樹脂の融点は、50~250℃であることが好ましい。熱可塑性樹脂の融点の下限は、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の融点の上限は、220℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがより好ましい。
融点が50℃未満である場合、電極中に分散させる過程で熱可塑性樹脂の粒子が凝集し易い。また、電池の耐熱性が低くなる。融点が250℃を超える場合、活物質や固体電解質の劣化を招く恐れがある。
【0052】
本発明の樹脂結合繊維に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点は特に限定されないが、250℃以下であることが好ましい。ガラス転移点の上限は、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがより好ましく、0℃以下であることがより好ましい。
【0053】
(4) 樹脂結合繊維の製造方法
本発明の樹脂結合繊維は、導電繊維と熱可塑性樹脂とが直接一体化する方法であれば特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂を溶媒中に溶解し、当該溶液に導電繊維を分散して噴霧乾燥する方法や; 熱可塑性樹脂を溶媒中に溶解し、当該溶液に導電繊維を分散した後、他の溶媒を添加して熱可塑性樹脂を導電繊維に結合した状態で析出させる方法; 導電繊維を熱可塑性樹脂の単量体溶液で濡らした後に当該単量体を重合する方法等が例示される。
【0054】
噴霧乾燥する方法としては、例えば以下の方法が例示される。
先ず、溶媒中に結着材として用いる熱可塑性樹脂を溶解させる。熱可塑性樹脂は完全に溶解させても良いし、一部溶解させ、残部を分散させても良い。溶媒としては、用いる熱可塑性樹脂を溶解できる溶媒であれば特に限定されない。エタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等のケトン、エステル系の低沸点溶媒、水が好ましい。
次いで、熱可塑性樹脂の溶解した溶液中に導電繊維を分散させる。熱可塑性樹脂の溶解(分散)させる量や導電繊維の分散させる量は噴霧乾燥効率を考慮して適宜決定すれば良い。
このようにして得られたスラリーを噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥する。噴霧乾燥機としては、分散性に優れた小粒径の複合体を形成させるには、液滴の粒径を小さくする必要があるため、ディスク方式よりもノズル方式であることが好ましい。ノズル径や乾燥温度は、噴霧乾燥効率や得られる樹脂結合繊維の粉体特性を考慮して適宜決定できる。
上記のスラリーを噴霧乾燥することにより、導電繊維と熱可塑性樹脂とが直接結合して一体化している樹脂結合繊維が得られる。
【0055】
熱可塑性樹脂を導電繊維に結合した状態で析出させる方法(再沈殿法)としては、例えば以下の方法が例示される。
先ず、溶媒中に結着材として用いる熱可塑性樹脂を溶解させる。熱可塑性樹脂は完全に溶解させても良いし、一部溶解させ、残部を分散させても良い。溶媒としては、用いる熱可塑性樹脂を溶解できる溶媒であれば特に限定されない。エタノールやプロパノール、アセトン等の低沸点の水系溶媒が好ましい。
次いで、熱可塑性樹脂の溶解した溶液中に導電繊維を分散させ、この分散液中に上記とは異なる溶媒を添加して、溶解している熱可塑性樹脂を析出させる。この溶媒としては熱可塑性樹脂の溶解度が低いものであれば特に限定されないが、例えばトルエン、キシレン、水が例示される。
上記の方法の他、導電繊維をトルエン等の溶媒に分散させておき、この分散液を熱可塑性樹脂の溶解した溶液中に滴下しても良い。
一旦溶解させた熱可塑性樹脂を導電繊維の存在下で析出させることにより、導電繊維と熱可塑性樹脂とが直接結合して一体化している樹脂結合繊維が得られる。溶媒中に析出した樹脂結合繊維は、公知の方法で分離・洗浄・乾燥させる。
【0056】
導電繊維を熱可塑性樹脂の単量体溶液で濡らした後に当該単量体を重合する方法(重合法)としては、例えば以下の方法が例示される。
先ず、熱可塑性樹脂(重合体)の単量体を水等の溶媒中に溶解させる。溶媒としては、用いる単量体を溶解できる溶媒であれば特に限定されない。エタノールやプロパノール、アセトン等の低沸点の水系溶媒が好ましい。
次いで、単量体の溶解した溶液中を導電繊維に噴霧して、導電繊維に単量体溶液を付着させる。
その後、単量体溶液が付着した導電繊維を加熱する、又は光照射する等の方法により、単量体を重合して熱可塑性樹脂(重合体)に変化させる。この際、公知の重合開始剤等を添加してもよい。
導電繊維に単量体溶液の液滴が付着した状態で、単量体を重合することにより、導電繊維と熱可塑性樹脂(重合体)とが直接結合して一体化している樹脂結合繊維が得られる。
【0057】
(5) 活物質層
本発明の樹脂結合繊維は、リチウムイオン二次電池や全固体二次電池などの非水電解質二次電池の活物質層に用いることができる。活物質層を有する電極を含んで構成させる非水電解質二次電池において、樹脂結合繊維はその導電性を活かして導電助剤として機能する。また、樹脂結合繊維中の熱可塑性樹脂によって活物質同士の接点が確保されるため、非水電解質二次電池の性能に寄与する。
【0058】
本発明の活物質層は、正極活物質層又は負極活物質層のいずれであってもよい。この活物質層は、少なくとも、活物質、本発明の樹脂結合繊維を含んで構成され、固体電解質が含まれてもよい。
【0059】
活物質層は空隙を有する。その空隙率は、5.0体積%以上50体積%以下であることが好ましい。空隙率がこの範囲であると、活物質の体積変化を伴う充放電サイクルを繰り返しても、活物質層にクラックを生じることが特に抑制される。このような空隙を有する活物質層を用いることにより、電子伝導性及びイオン伝導性が高く、高出力の全固体リチウム二次電池を構成することができる。空隙率の下限値は、7.0体積%以上がより好ましく、9.0体積%以上がより好ましく、10体積%以上がより好ましく、11体積%以上がより好ましく、12体積%以上がさらに好ましく、15体積%以上がさらにより好ましく、18体積%以上が特に好ましい。空隙率の上限値は、48体積%以下がより好ましく、45体積%以下がより好ましく、42体積%以下がさらに好ましく、37体積%以下がさらにより好ましく、35体積%以下がさらにより好ましく、30体積%以下が特に好ましい。
【0060】
この活物質層の空隙率は、本発明の樹脂結合繊維の平均繊維径や平均繊維長のほか、用いる正極又は負極活物質の材質、大きさ、含有量、さらには活物質層を形成する際に必要に応じて行われる加圧成形の成形条件等を制御することによって調整することができる。
【0061】
空隙率の算出方法は特に限定されないが、例えば活物質層の真密度及び密度から以下の式(3)に基づいて算出する方法や、X線CTなどのトモグラフィーにより得られた3次元画像から算出する方法などがある。
空隙率(体積%)=(真密度-活物質層の密度)/真密度×100 ・・・式(3)
【0062】
式(3)に基づいて算出する場合には、真密度及び活物質層の見かけ密度をそれぞれ測定する。真密度の測定方法は、例えば、活物質層を構成する各材料の真密度及び質量比率より算出する方法や、活物質層を粉砕後に気相置換法(ピクノメータ法)又は液相法(アルキメデス法)を用いて測定する方法がある。活物質層の見かけ密度は、例えば活物質層の質量と体積から、以下の式(4)により算出することができる。
活物質層の見かけ密度=活物質層の質量/(活物質層の膜厚×面積) ・・・式(4)
【0063】
活物質層の膜厚方向の電気伝導度は、1.0×10-3S/cm以上であることが好ましく、5.0×10-3S/cm以上であることがより好ましく、1.0×10-2S/cm以上であることがさらに好ましく、1.6×10-2S/cm以上であることが特に好ましい。このような電気伝導度は、導電助剤として本発明の樹脂結合繊維を含有することにより、達成することができる。
【0064】
(5-1) 正極活物質層
本発明の正極活物質層は、少なくとも正極活物質と、本発明の樹脂結合繊維とを含み、さらに固体電解質、結着材等を含んでいてもよい。
【0065】
正極活物質としては、従来公知の材料を用いることができる。例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム含有金属酸化物が好適である。このリチウム含有金属酸化物としては、リチウムと、Co、Mg、Mn、Ni、Fe、Al、Mo、V、W及びTiなどからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、を含む複合酸化物を挙げることができる。
【0066】
具体的には、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi aO、LiCo1-b、LiCoFe1-b、LiMn、LiMnCo2-c、LiMnNi2-c、LiMn2-c、LiMnFe2-c、LiNiMnCo1-a―d、LiNiCoAl1-a―d、(ここで、x=0.02~1.2、a=0.1~0.9、b=0.8~0.98、c=1.2~1.96、d=0.1~0.9、z=2.01~2.3である。)などからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。好ましいリチウム含有金属酸化物としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-a、LiMn、LiMnCo2-c、LiMnNi2-c、LiCo1-b、LiNiMnCo1-a―d、LiNiCoAl1-a―d(ここで、x、a、b、c、d及びzは上記と同じである。)からなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。正極活物質は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、xの値は充放電開始前の値であり、充放電により変動する。
【0067】
正極活物質の表面は、コート層で被覆されていてもよい。コート層により、正極活物質と固体電解質(特に硫化物固体電解質)とが反応することを抑制できる。コート層としては、例えば、LiNbO、LiPO、LiPON等のLi含有酸化物が挙げられる。コート層の平均厚さは、例えば1nm以上である。一方、コート層の平均厚さは、例えば20nm以下であり、10nm以下であってもよい。
【0068】
正極活物質の平均粒子径は、20μm以下であることが好ましく、0.05~15μmであることがより好ましく、1~12μmであることがさらに好ましい。平均粒子径が20μmを超えると、大電流下での充放電反応の効率が低下してしまう場合がある。
【0069】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に制限されるものではないが、30~99質量%であることが好ましく、40~95質量%であることがより好ましく、50~90質量%であることがさらに好ましい。30質量%未満である場合、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまう場合がある。99質量%を超える場合、正極活物質以外の物質の含有量が少なくなり、正極活物質層としての性能が低下する場合がある。
【0070】
正極活物質層における固体電解質の含有量は、特に制限されるものではないが、5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましい。5質量%未満である場合、正極活物質層のイオン伝導度が不十分となる場合がある。60質量%を超える場合、正極活物質の含有量が少なくなり、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまう場合がある。
【0071】
正極活物質層には、電子伝導性およびイオン伝導性を阻害しない範囲で、少量の結着材を含有してもよい。
【0072】
正極活物質層の厚みは、通常、10~1000μmである。
【0073】
(5-2) 負極活物質層
本発明の全固体リチウム二次電池を構成する負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含み、固体電解質と、本発明の樹脂結合繊維と、結着材等とを含んでいてもよい。
【0074】
負極活物質としては、従来公知の材料を選択して用いることができる。例えば、Li金属、炭素材料、チタン酸リチウム(LiTi12)、Si、Sn、In、Ag及びAlの何れか、又はこれらの少なくとも1種を含む合金や酸化物などを用いることができる。これらの中でもエネルギー密度を上げる観点からLi金属が好ましい。
【0075】
Li金属以外の負極活物質としては、炭素材料が広く用いられている。炭素材料としては、天然黒鉛、石油系又は石炭系コークスを熱処理することで製造される人造黒鉛、樹脂を炭素化したハードカーボン、メソフェーズピッチ系炭素材料などが挙げられる。
【0076】
全固体電池の負極活物質として選択される炭素材料としては、結晶の層間隔が広く、充放電時の膨張収縮が比較的大きくないという点で、ハードカーボンが好ましい。ハードカーボンは、微細な結晶性グラフェン層が規則性なく配置されている構造を有し、グラフェン層へのリチウムイオン挿入と、グラフェン層間に形成された空間へのリチウム凝集(リチウム金属化)により、リチウムイオンの吸蔵が行われる。
【0077】
天然黒鉛や人造黒鉛を用いる場合、電池容量の増大の観点から、粉末X線回折による黒鉛構造の(002)面の面間隔d(002)が0.335~0.337nmの範囲にあるものが好ましい。天然黒鉛とは、鉱石として天然に産出する黒鉛質材料のことをいう。天然黒鉛は、その外観と性状によって、結晶化度の高い鱗状黒鉛と結晶化度が低い土状黒鉛の2種類に分けられる。鱗状黒鉛はさらに外観が葉状の鱗片状黒鉛と、塊状である鱗状黒鉛とに分けられる。黒鉛質材料となる天然黒鉛は、産地や性状、種類は特に制限されない。また、天然黒鉛又は天然黒鉛を原料として製造した粒子に熱処理を施して用いてもよい。
【0078】
人造黒鉛とは、広く人工的な手法で作られた黒鉛及び黒鉛の完全結晶に近い黒鉛質材料をいう。代表的な例としては、石炭の乾留、原油の蒸留による残渣などから得られるタールやコークスを原料にして、500~1000℃程度の焼成工程、2000℃以上の黒鉛化工程を経て得たものが挙げられる。また、溶解鉄から炭素を再析出させることで得られるキッシュグラファイトも人造黒鉛の一種である。
【0079】
負極活物質として炭素材料の他に、Si及びSnの少なくとも1種を含む合金を使用することは、Si及びSnのそれぞれを単体で用いる場合やそれぞれの酸化物を用いる場合に比べ、電気容量を小さくすることができる点で有効である。これらの中でも、Si系合金が好ましい。Si系合金としては、B、Mg、Ca、Ti、Fe、Co、Mo、Cr、V、W、Ni、Mn、Zn及びCuなどからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Siと、の合金などが挙げられる。具体的には、SiB、SiB、MgSi、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、VSi、WSi、ZnSiなどからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0080】
本発明の全固体リチウム二次電池用活物質層においては、負極活物質として、既述の材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に制限されるものではないが、30~100質量%であることが好ましく、40~99質量%であることがより好ましく、50~95質量%であることがさらに好ましい。30質量%未満である場合、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまう場合がある。
【0082】
負極活物質層における固体電解質の含有量は、特に制限されるものではないが、0~60質量%であることが好ましく、5~50質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることがさらに好ましい。60質量%を超える場合、正極活物質の含有量が少なくなり、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまう場合がある。
【0083】
負極活物質層には、電子伝導性およびイオン伝導性を阻害しない範囲で、少量の結着材を含有してもよい。
【0084】
負極活物質層の厚みは、通常、1~1000μmである。
【0085】
(5-3) 固体電解質
本発明に用いられる固体電解質は、従来公知の材料を選択して用いることができる。例えば、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、ポリマー電解質を挙げることができる。本発明においては、リチウムイオンの伝導性が高いことから、硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。
【0086】
硫化物系固体電解質としては、具体的にはLi、A、Sからなる硫化物系固体電解質(Li-A-S)を挙げることができる。上記硫化物系固体電解質Li-A-S中のAは、P、Ge、B、Si、SbおよびIからなる群より選ばれる少なくとも一種である。このような硫化物系固体電解質Li-A-Sとしては、具体的にはLi11、70LiS-30P、LiGe0.250.75、75LiS-25P、80LiS-20P、Li10GeP12、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3、LiS-SiS、LiPSCl等を挙げることができ、イオン伝導度が高いことから、特にLi11が好ましい。
【0087】
水素化物系固体電解質としては、具体的には水素化ホウ素リチウムの錯体水素化物などが挙げられる。錯体水素化物としては、例えば、LiBH-LiI系錯体水素化物およびLiBH-LiNH系錯体水素化物、LiBH-P、LiBH-Pなどが挙げられる。
【0088】
前記固体電解質は、単独で用いてもよく、必要に応じて、二種以上を併用してもよい。
【0089】
(5-4) 導電助剤
本発明の活物質層に含まれる導電助剤は、本発明の樹脂結合繊維を含有する。樹脂結合繊維の他に炭素系導電助剤を含むこともできる。
【0090】
活物質層に含まれる樹脂結合繊維の割合は、0.1質量%以上5質量%未満である。樹脂結合繊維の割合の下限は、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、1.2質量%以上であることがさらに好ましく、1.5質量%以上であることが特に好ましい。また、樹脂結合繊維の割合の上限は、4.5質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましく、3.5質量%以下であることがさらに好ましく、3.0質量%以下であることがよりさらに好ましく、2.5質量%以下であることが特に好ましい。樹脂結合繊維の割合が上記範囲であることで、電子伝導性とリチウムイオン伝導性とのバランスが良好であり、レート特性値が高く、かつ反応抵抗値を低くすることができる。また、活物質層における樹脂結合繊維の量が少ないので、活物質の量を増やすことができる。
【0091】
(5-5) 結着材(バインダー)
本発明における活物質層には、活物質層の強度をさらに向上させるために、結着材を含んでもよい。結着材としては、限定されないが、本発明の樹脂結合繊維を構成する前記熱可塑性樹脂を挙げることができる。
結着材の含有量としては、活物質層中、5質量%以下が好ましく、1~3質量%の範囲がより好ましい。
【0092】
(5-6) 全固体リチウム二次電池用の活物質層の製造方法
本発明の活物質層は、例えば、上記の活物質、固体電解質、樹脂結合繊維等、及び溶媒を混合したスラリーを準備する。このスラリーを、集電体上に塗布等により付着させ、次いで溶媒を乾燥させ除去し、必要によりプレスにより加圧成形して製造することができる。または、上記の活物質、固体電解質及び樹脂結合繊維等を粉体混合後、プレスにより加圧成形して製造することができる。
【0093】
(6) 電極
本発明の非水電解質二次電池用の電極は、前記活物質層を含んで構成される。
本発明の電極に用いる集電体は、任意の導電性材料から形成することができる。例えば、集電体は、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅の金属材料から形成することができる。特に、アルミニウム、ステンレス鋼、銅から形成することが好ましい。正極には、アルミニウム又はカーボンコートを施したアルミニウムを用いることがより好ましく、負極には、銅を用いることがより好ましい。
集電体の厚みとしては、10~50μmが好適である。
【0094】
(7) 非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池について説明する。本発明の非水電解質二次電池は、前記非水電解質二次電池用電極を含む電池である。
本発明による非水電解質二次電池は、例えば、リチウムイオン二次電池、リチウム電池、リチウムイオンポリマー電池、全固体リチウム二次電池等が挙げられる。その中で、本発明の効果を勘案して、後述する全固体リチウム二次電池が好ましい。
【0095】
(8) 全固体リチウム二次電池
全固体リチウム二次電池は、前記正極活物質層と、固体電解質からなる固体電解質層と、前記負極活物質層を有するものであり、固体電解質層を挟持するように正極活物質層と負極活物質層が配置されたものである。通常、これらを挟持するように正極活物質層上に正極集電体と、負極活物質層上に負極集電体が設けられており、さらにこれら全体を覆うように電池ケースが配置されている。
特に、本発明によれば、当該活物質層内に樹脂結合繊維が三次元的にランダムに配向されているため、充放電時に活物質の膨張収縮による体積変化が生じても、イオン伝導パス及び電子伝導パスが維持される。そのため、イオン伝導性と電子伝導性とを両立させることができる。これにより、レート特性およびサイクル特性に優れた高出力の全固体リチウム二次電池を提供することができる。
【0096】
本発明の全固体リチウム二次電池においては、少なくとも、活物質層と、固体電解質層を有するものであれば特に限定されるものではなく、通常は、上述したように、正極集電体、負極集電体、電池ケース等を有する。
【0097】
全固体リチウム二次電池において、活物質層と固体電解質層は明確な界面を有していなくてもよい。明確な界面を有していない場合は、厚み方向の10μm内に活物質が10体積%以上存在する層を活物質層とみなすことができる。
【実施例
【0098】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。実施例中の各種測定や分析は、それぞれ以下の方法に従って行った。
【0099】
(繊維状炭素の形状確認)
繊維状炭素の繊維長は、繊維状炭素(試料)を1-メチル-2-ピロリドンに分散させた希薄分散液を、画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル株式会社製、型式IF-200nano)を用いて測定を行った。繊維状炭素の平均繊維長は、個数基準による平均値である。
繊維状炭素の繊維径は、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S-2400)を用いて観察及び写真撮影を行い、得られた電子顕微鏡写真から無作為に300箇所を選択して繊維径を測定し、それらのすべての測定結果(n=300)の平均値を平均繊維径とした。
また、それら平均値と標準偏差からCV値を求めた。さらに、平均繊維長と平均繊維径から平均アスペクト比を算出した。
【0100】
(炭素繊維のX線回折測定)
X線回折測定はリガク社製RINT-2100を用いてJIS R7651法に準拠し、格子面間隔(d002)及び結晶子大きさ(Lc002)を測定した。
【0101】
(複合化比率)
熱重量分析(TGA)の重量減少率により、導電繊維/熱可塑性樹脂の含有比率を算出した。
【0102】
(粉体体積抵抗率の測定方法)
粉体体積抵抗率の測定は、株式会社三菱化学アナリテック社製の粉体抵抗システム(MCP-PD51)を用いて0.02~2.50kNの荷重下で四探針方式の電極ユニットを用いて測定した。体積抵抗率は充填密度の変化に伴う体積抵抗率の関係図から充填密度が0.5g/cm時、0.8g/cm時、及び1.0g/cm時の体積抵抗率の値をもって試料の粉体体積抵抗率とした。
【0103】
(熱可塑性樹脂の融点)
ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定方法に準じて、示差走査熱量測定(DSC)により融点およびガラス転移温度を測定した。
【0104】
(引張破断強度)
露点温度-60℃以下の低湿度環境にて、40質量部のLPS、50質量部の正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、及び10質量部の樹脂結合繊維集合体をメノウ乳鉢で混合した。混合物をプレス成型用治具に充填し、加熱プレス成型(150℃、100MPa)したものを幅5mm×長さ7mmの大きさに切り出すことで、接着性評価用の試験片を作製した。作製した試験片を用いて、引張試験を実施した結果は表1の通りであった。樹脂結合繊維集合体を用いることで引張破断強度が向上していることがわかる。
【0105】
(分散性)
トルエン500質量部に樹脂結合繊維1質量部を分散させ、分散状態を目視評価した。
○: 分散液を振り混ぜることで分散することができる。
△: 分散液を振り混ぜるだけでは分散できないが、超音波処理により分散することができる。
×: 分散液を振り混ぜても、超音波処理を施しても分散することができない。
【0106】
(タップ密度測定)
内径31mm、容量150mlのガラス製メスシリンダーに、樹脂結合繊維を入れ、タップ密度測定機(筒井理化学器械株式会社、TPM-1A型)により、タップ速度40回/分、タップストローク範囲60mm、タップ回数500の条件で、タップを行い、タップ密度を測定した。
【0107】
(メソフェーズピッチの製造方法)
キノリン不溶分を除去した軟化点80℃のコールタールピッチを、Ni-Mo系触媒存在下、圧力13MPa、温度340℃で水添し、水素化コールタールピッチを得た。この水素化コールタールピッチを常圧下、480℃で熱処理した後、減圧して低沸点分を除き、メソフェーズピッチを得た。このメソフェーズピッチを、フィルターを用いて温度340℃でろ過を行い、ピッチ中の異物を取り除き、精製されたメソフェーズピッチを得た。
【0108】
(炭素繊維(CNF)の製造方法(i))
熱可塑性樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン(EXCEED(登録商標)1018HA、ExxonMobil社製、MFR=1g/10min)60質量部、及び(メソフェーズピッチの製造方法)で得られたメソフェーズピッチ(メソフェーズ率90.9%、軟化点303.5℃)40質量部を同方向二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM-26SS」、バレル温度300℃、窒素気流下)で溶融混練してメソフェーズピッチ組成物を調製した。
次いで、このメソフェーズピッチ組成物を、口金温度を360℃として溶融紡糸することにより、繊維径90μmの長繊維に成形した。
上記操作で得られたメソフェーズピッチ含有繊維束0.1kgを用い、空気中において215℃で3時間保持することにより、メソフェーズピッチを安定化させ、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を得た。上記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を、真空ガス置換炉中で窒素置換を行った後に1kPaまで減圧し、該減圧状態下で、5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持することにより、熱可塑性樹脂を除去して安定化繊維を得た。
ついで、この安定化繊維を窒素雰囲気下、1000℃で30分間保持して炭素化し、さらにアルゴンの雰囲気下、1500℃に加熱し30分間保持して黒鉛化した。
ついで、この黒鉛化した炭素繊維集合体を粉砕し、粉体状の炭素繊維集合体を得た。炭素繊維は分岐のない直線構造であった。
【0109】
得られた炭素繊維のSEM写真からは、炭素繊維には分岐が確認できなかった(分岐度は0.01個/μm未満であった)。結晶子面間隔d002が0.3441nm、結晶子大きさLc002が5.4nm、平均繊維径が270nm、平均繊維長が15μm、平均アスペクト比が56、0.5g/cmにおける粉体体積抵抗率が0.0677Ω・cm、0.8g/cmにおける粉体体積抵抗率が0.0277Ω・cm、圧縮回復度が59%、比表面積が10m/gであった。金属含有量は20ppm未満であった。
得られた炭素繊維は、d002は大きいが平均アスペクト比が大きくかつ平均繊維長が長く、導電性が高い優れた繊維状炭素であった。以下、この繊維状炭素を「CNF(i)」と略記する場合がある。
【0110】
(炭素繊維(CNF(ii))の製造方法)
黒鉛化温度を1700℃とした以外は、前記繊維状炭素(CNF(i))の製造方法と同様にして炭素繊維を得た。
得られた炭素繊維のSEM写真からは、炭素繊維には分岐が確認できなかった(分岐度は0.01個/μm未満であった)。結晶子面間隔d002が0.3432nm、結晶子大きさLc002が10.1nm、平均繊維径が299nm、平均繊維長が14μm、平均アスペクト比が47、0.5g/cmにおける粉体体積抵抗率が0.0602Ω・cm、0.8g/cmにおける粉体体積抵抗率が0.0205Ω・cm、圧縮回復度が73%、比表面積が9m/gであった。金属含有量は20ppm未満であった
得られた炭素繊維は、d002は大きいが平均アスペクト比が大きくかつ平均繊維長が長く、導電性が高い優れた繊維状炭素であった。以下、この繊維状炭素を「CNF(ii)」と略記する場合がある。
【0111】
(樹脂結合繊維の製造方法)
(実施例1、3~6、比較例2)(スプレードライ(SD)法)
アセトンに、VDF-HFP共重合体(アルケマ製Kynar2500-20)を溶解させ、導電繊維を分散させ、分散液を作製した。スプレードライヤー(プリス製、SB39)を用いて前記分散液を噴霧乾燥させることで、樹脂結合繊維を得た。この樹脂結合繊維の評価結果は表1に記載した。なお、実施例4のSEM写真を図1に、実施例5のSEM写真を図2に示した。
【0112】
(実施例2)(再沈殿法)
アセトンに、VDF-HFP共重合体(アルケマ製Kynar2500-20)を1質量部溶解させ、樹脂溶液を作製した。トルエンに導電繊維3質量部を分散させ、撹拌しながら樹脂溶液を滴下することで、樹脂を析出させた。なお、アセトンとトルエンとの質量比が1:2となるように液量を調整した。滴下終了後60min撹拌を継続し、樹脂を十分に析出させてから撹拌を停止し、ろ過・乾燥することで樹脂結合繊維を得た。この樹脂結合繊維の評価結果は表1に記載した。
【0113】
(比較例3)(単純混合)
VDF-HFP共重合体(アルケマ製Kynar2500-20)と、CNF(i)をトルエン中に分散させ、ろ過・乾燥することで単純混合した混合物を作製した。単純混合した混合物のSEM写真を図3に示した。
【0114】
実施例1~6およびCNF(i)(比較例1)、比較例2、3の総合評価を表1に記載した。
◎:引張破断強度が高い(3.0MPa超)、かつ1.0g/cc時の粉体体積抵抗率が
低い(0.1Ω・cm未満)
〇:引張破断強度が高い(3.0MPa超)、かつ1.0g/cc時の粉体体積抵抗率が
やや低い(0.1Ω・cm以上1Ω・cm未満)
△:引張破断強度がやや高い(0.1MPa超3.0MPa以下)、かつ1.0g/cc
時の粉体体積抵抗率が低い(1.0Ω・cm未満)
×:引張破断強度が低い(0.1MPa以下)、または1.0g/cc時の粉体体積抵抗
率が高い(1.0Ω・cm以上)、または分散性評価が×
【0115】
得られた樹脂結合繊維において、導電繊維と熱可塑性樹脂とが一体化していることを以下の方法により確認した。即ち、各樹脂結合繊維をトルエン中に超音波を用いて分散させ、良く振り混ぜた後、静置して5分間放置し、沈降した固形分の高さを測定した。その結果、各樹脂結合繊維の沈降した固形分の高さは、何れも約40mmであった。
一方、導電繊維のみを同濃度で分散させた場合、沈降した固形分の高さは約53mmであり、導電繊維と熱可塑性樹脂とを複合化することなくそれぞれ同濃度で混合した場合、沈降した固形分の高さは約52mmであった。したがって、本願実施例で得られた樹脂結合繊維は、何れも導電繊維と熱可塑性樹脂とが一体化していることが確認できた。
【0116】
実施例4で得られた樹脂結合繊維(図1)は、CNF(i)と熱可塑性樹脂とを単純混合した場合(比較例3、図3)と比較すると、熱可塑性樹脂が単に表面に付着している比較例3に対し、分散性に差はなかったが、粉体体積抵抗率の値が低く導電性が高いことが分かる。また、引張破断強度が高く、接着性に優れており、炭素繊維が熱可塑性樹脂と一体化していることが推定される。
【0117】
(電池評価)
(固体電解質(LPS)の製造方法)
LiSとPをモル比75:25で混合し、ボールミル処理(500rpmで12min回転後、8min休止するサイクルを100サイクル)を施すことで硫化物系固体電解質(LPS)を作製した。以下、この硫化物系固体電解質を「LPS」と略記する場合がある。
【0118】
(実施例9)(正極合材作製方法)
アルゴン雰囲気中にて、35.8質量部のLPS、61.6質量部の正極活物質、及び2質量部の樹脂結合繊維(実施例4で製造した樹脂結合繊維)をメノウ乳鉢で混合した。正極活物質としては、LiNbOが被覆されたLiNi1/3Co1/3Mn1/3(平均粒子径:10.18μm、D50:10.26μm、粉体電気伝導度:5.46×10-7@2.47g/cm、以下、「表面被覆NCM」と略記する。)を用いた。
【0119】
(全固体電池評価用セルの作製方法)
全固体電池評価用セル容器にLPSを10質量部充填し、100MPa×3回プレスすることで固体電解質層を形成させた。正極合材1質量部を加え、150℃、100MPa条件で10分間プレスすることで、固体電解質層の一方の面に正極活物質層を形成させた。固体電解質層の反対面に負極活物質としてLi箔(厚み47μm)およびIn箔(厚み50μm)をセットし、80MPaでプレスし、最後にセルをボルト固定することで2Nの加圧状態を維持させた全固体電池評価用セルを作製した。
【0120】
(レート特性評価)
上記のように作製したセルを用いて、放電レート特性の測定を行った。充放電試験は常時70℃で実施した。放電レート特性の測定条件は次の通りである。充電条件としては、3.7Vまで0.05C定電流充電後、放電に切り替えた。放電条件としては、下限電圧を2.0Vに設定し各放電レートにて定電流放電とした。放電レートは0.1C→0.2C→0.5C→1Cのように段階的に上げることとした。各放電レートにおける活物質重量あたりの放電容量(mAh/g)を表に示す。放電容量が大きいほど、高出力な全固体リチウム二次電池である。
【0121】
(サイクル特性)
レート特性評価後のセルを用い、充放電を繰り返し実施する、サイクル特性評価を行った。サイクル特性評価のための充放電試験は常時70℃で実施した。充電条件としては、3.7Vまで0.1C定電流充電、CV定電圧充電(カットオフ0.05C)後、放電に切り替えた。放電条件としては、下限電圧を2.0Vに設定し0.1C定電流放電とした。30サイクル後の放電容量維持率を評価した。
【0122】
(実施例10~11、比較例4、5)
樹脂結合繊維を表2に記載のとおり変更した他は、実施例9と同様に操作して活物質層、全固体電池評価用セルを作製した。これらのレート特性及びサイクル特性の評価結果は表2、3に記載した。
なお、球状粒子としては、アセチレンブラック(以下、「AB」と略記する場合がある。「デンカブラック」(登録商標)デンカ株式会社製、75%プレス品、平均粒子径:0.036μm、比表面積:65m/g)を用いた。
【0123】
(実施例12)(正極合材層作製方法)
アルゴン雰囲気中にて、24質量部のLPS、70質量部の正極活物質、2質量部のアクリル系バインダー(ポリスチレン-ブチルアクリレート共重合体)を酪酸ブチル10質量部に溶解したバインダー溶液を、泡取練太郎(シンキ―製)にて撹拌した。その後、4質量部の樹脂結合繊維(実施例4)、15質量部の酪酸ブチルを添加し、再度撹拌することで正極合材用スラリーを作製した。
得られた正極合材用スラリーをアルミ箔上に塗布し、50℃で5時間真空乾燥することで酪酸ブチルを除去した後、150℃で10分加熱プレスすることで、正極合材層を作製した。電極評価の結果は表2のとおりであった。
【0124】
(全固体電池評価用セルの作製方法)
正極として、上記の通り作製した正極合材層を、負極として黒鉛電極シートを用いた以外は実施例9と同様にして、全固体電池用評価セルを作製した。
レート特性評価およびサイクル特性は、実施例9と同様に実施し、評価結果は表2、3に記載した。
【0125】
(実施例13、14、比較例6、7)
正極合材層の作製条件を表2に記載の通り変更した他は、実施例12と同様に操作して正極合材層および全固体電池評価用セルを作製した。これらのレート特性及びサイクル特性の評価結果は表2、3に記載した。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
【表4】


図1
図2
図3