(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】材料特性評価のための光学技術
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20240815BHJP
G01N 15/0205 20240101ALI20240815BHJP
G01N 15/02 20240101ALI20240815BHJP
G01N 21/21 20060101ALI20240815BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N15/0205
G01N15/02 Z
G01N21/21 Z
G01N21/17 A
(21)【出願番号】P 2023210115
(22)【出願日】2023-12-13
(62)【分割の表示】P 2021503806の分割
【原出願日】2019-07-25
【審査請求日】2024-01-10
(32)【優先日】2018-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515037896
【氏名又は名称】ノヴァ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NOVA LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】バラク・ギラド
(72)【発明者】
【氏名】オレン・ヨナタン
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-043661(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0101110(KR,A)
【文献】特開2016-180732(JP,A)
【文献】特開昭53-027483(JP,A)
【文献】米国特許第04768879(US,A)
【文献】中国特許出願公開第105699357(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01N 15/00 - G01N 15/1492
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光ラマン分光装置によって粒子を含む多結晶物質の複数の場所を複数のスポットで照明し,
上記偏光ラマン分光装置によって上記複数のスポットから放出される光線を収集し,
上記偏光ラマン分光装置によって上記多結晶物質の複数の場所から複数の信号を生成し,
コンピュータによって,上記複数の信号に基づいて,上記複数の場所のラマンピークを決定し,
上記コンピュータによって,ピーク適合アルゴリズムを用いて,上記ラマンピークのラマン振幅の分布を決定し,
上記コンピュータによって,上記ラマンピークのラマン振幅の分布に基づいて上記粒子の平均寸法を決定する,
多結晶物質のパラメータを定義するための方法。
【請求項2】
上記照明および収集が,上記複数のスポット間のクロストークなしに実行される,
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記複数のスポットがサブミクロンの寸法を有している,
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記粒子の寸法が,上記偏光ラマン分光装置の光学分解能よりも小さい,
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記偏光ラマン分光装置の開口数(NA)を調整することによって上記複数のスポットの寸法を調整する,
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記偏光ラマン分光装置の対物レンズの後焦点面に配置された可変開口を用いて上記NAを調整する,
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記多結晶物質をコンピュータ制御の試料ステージによって移動させて上記複数の場所の照明をアシストする,
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
上記照明および収集が場所を変えて順次実行される,
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記照明が,上記複数の場所のうちの一の場所から上記複数の場所のうちの別の場所にスポットを走査することを含む,
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記コンピュータによる上記粒子の平均寸法の決定が,
上記ラマンピークのラマン振幅の分散を決定し,
上記ラマンピークのラマン振幅の平均を決定し,
上記スポットの寸法に,上記ラマンピークのラマン振幅の分散と上記ラマンピークのラマン振幅の平均の二乗との間の比率を乗じることによって上記粒子の平均寸法を決定するものである,
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
粒子の寸法が既知である基準多結晶物質を用いて較正ステップを実行して,上記ラマンピークのラマン振幅分布の値と上記粒子の平均寸法の値との対応関係を決定する,
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
多結晶物質のパラメータを定義するための偏光ラマン分光システムであって,
上記偏光ラマン分光システムが,
粒子を含む多結晶物質の複数の場所を複数のスポットで照射し,
上記複数のスポットから放出される光線を収集し,
上記多結晶物質の上記複数の場所から複数の信号を生成するように構成される,偏光ラマン分光装置と,
上記複数の信号に基づいて,上記複数の場所のラマンピークを決定し,
ピーク適合アルゴリズムを用いて,上記ラマンピークのラマン振幅の分布を決定し,
上記ラマンピークのラマン振幅の分布に基づいて上記粒子の平均寸法を決定するように構成されるコンピュータと,
を備えている,
偏光ラマン分光システム。
【請求項13】
上記偏光ラマン分光装置が,上記複数のスポット間のクロストークなしに照明および収集するように構成されている,
請求項12に記載の偏光ラマン分光システム。
【請求項14】
上記複数のスポットがサブミクロンの寸法を有している,
請求項12に記載の偏光ラマン分光システム。
【請求項15】
上記粒子の寸法が,上記偏光ラマン分光装置の光学分解能よりも小さい,
請求項12に記載の偏光ラマン分光システム。
【請求項16】
上記偏光ラマン分光装置が,上記偏光ラマン分光装置の開口数(NA)を調整することによって上記複数のスポットの寸法を調整するように構成されている,
請求項12に記載の偏光ラマン分光システム。
【請求項17】
上記偏光ラマン分光装置が,上記偏光ラマン分光装置の対物レンズの後焦点面に配置された可変開口を用いて上記NAを調整するように構成されている,
請求項16に記載の偏光ラマン分光システム。
【請求項18】
上記多結晶物質を移動させて上記複数の場所の照明をアシストするように構成されるコンピュータ制御試料ステージを備えている,
請求項12に記載の偏光ラマン分光システム。
【請求項19】
上記偏光ラマン分光装置が,上記照明および収集を場所を変えて順次実行するように構成されている,
請求項12に記載の偏光ラマン分光システム。
【請求項20】
上記偏光ラマン分光装置が,上記複数の場所のうちの一の場所から上記複数の場所のうちの別の場所にスポットを走査するように構成されている,
請求項12に記載の偏光ラマン分光システム。
【請求項21】
上記コンピュータが,
上記ラマンピークのラマン振幅の分散を決定し,
上記ラマンピークのラマン振幅の平均を決定し,
上記スポットの寸法に,上記ラマンピークのラマン振幅の分散と上記ラマンピークのラマン振幅の平均の二乗との間の比率を乗じることによって上記粒子の平均寸法を決定する,
ことによって上記粒子の平均寸法を決定するように構成されている,
請求項12に記載の偏光ラマン分光システム。
【請求項22】
粒子の寸法が既知である基準多結晶物質を用いて較正ステップを実行して,上記ラマンピークのラマン振幅分布の値と上記粒子の平均寸法の値との対応関係を決定する,
請求項12に記載の偏光ラマン分光システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,結晶物質(crystalline materials)の特性評価(characterizing)システムおよび方法に関する。より詳細には,結晶物質のパラメータ定義(defining parameters)システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶物質は,多くの産業において実用性の大きな様々な形態の物質である。多結晶物質の適切な特性を保証するために,粒子寸法の正確な計測や制御が要求されることが多い。そのような状況の良い例の一つは半導体産業における多結晶物質の利用であり,そこでは多結晶物質が,多くの処理ステップにおいて,複数の機能として,初期段階,最終段階,ロジックおよびメモリ製品において利用される。
【0003】
多結晶物質は複数のナノ結晶(「粒子」)から作られ,粒子のそれぞれは完全結晶の原子配置から構成され,しかしながら方位が様々である(with varying orientations)。これらの粒子の平均寸法は,伝導率,状態図,熱応答,力学的挙動等の物質の特性に影響を及ぼすことがあり,全体的なデバイス性能にも影響を与える。
【0004】
残念なことに,平均粒子寸法の決定は複雑な科学技術的タスクであり,多くの場合,透過電子顕微鏡法等の破壊的技術の使用を必要とし,一度に極端に小さな(数ミクロンの)領域の試料を採取することしかできず,非破壊的かつ極端に時間がかかり,良好な統計的フィードバックを妨げる。
【0005】
他の有効な方法はX線回折(X-Ray Diffraction)(XRD)である。しかしながら,XRD結果は非常に定性的かつかなり不正確であると考えられ,解釈が非常に困難なことがある。
【0006】
したがって,インライン計測に採用することができ,粒径測定を可能にする高速かつ非破壊技術が求められている。
【発明の概要】
【0007】
この発明は,(a)専用のハードウェア構成,(b)特定の測定シーケンス,および(c)解釈法(interpretation method)を通じて多結晶物質のパラメータを定義するための偏光ラマン分光システム(Polarized Raman spectroscopic system)および方法についてのものである。
【0008】
この発明は,偏光ラマン信号の強度が結晶の方位に強く依存するという意味で,結晶物質の偏光ラマン分光が結晶方位に非常に高感度であるという事実に依存する。
【0009】
したがって,この発明の一部の実施形態によると,多結晶物質のパラメータを定義するための偏光ラマン分光システムが提供される。このシステムは,
偏光ラマン分光装置,
様々な場所に試料を位置決めコンピュータ制御の試料ステージ,ならびに
プロセッサおよび関連メモリを備えるコンピュータ,を備え,
上記偏光ラマン分光装置が,試料上の複数の場所の小サイズのスポット(small sized spots)または上記試料上の細長ライン状点(an elongated line-shaped points)のいずれかから信号を生成し,上記プロセッサが上記信号を分析して上記多結晶物質のパラメータを定義する。
【0010】
さらに,この発明の一部の実施形態では,上記多結晶物質のパラメータの1つが平均粒径(average grain size)である。
【0011】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記細長ライン状点から信号を生成するために用いられる偏光ラマン分光装置は,
・光ビームを発生させるための光源,
・分光計を含む検出ユニット,
・対物レンズおよびラインスポット要素を含み,照明スポットを成形して上記試料上に上記細長ライン状点を投影する複数のレンズからなる光学系,
・上記分光計に接続された2次元画像センサであって,上記分光計から上記細長ライン状点を受信し,試料上の点(複数)に直接関連するライン(複数)の2次元画像を作成する上記2次元画像センサ,を備えている。
【0012】
さらに,この発明の一部の実施形態では,上記ラインスポット要素が,円柱レンズ,ホログラフィック光学要素,およびマイクロレンズアレイから選択される。
【0013】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,光学系が,一回(単一)の測定で(in a single measurement)複数の場所からの信号の収集を可能にする高開口数(a high numerical aperture)(NA)のものである。
【0014】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記開口数は,試料上の上記細長ライン状点の寸法を変化させるように調整可能である。
【0015】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記プロセッサは,上記2次元画像センサによって作成されるライン(複数)の2次元画像を用いて,(i)上記ラインの上記2次元画像からラマンピーク(Raman peaks)を抽出し,(ii)ラマン振幅の分布(a distribution of Raman amplitudes)を生成し,(iii)上記物質に関連するラマンピークの強度(the intensity of the Raman peaks)を決定(測定)し,(iv)上記ラマンピークのラマン振幅の分布から標準偏差を計算し,(v)そこから(therefrom)平均粒径を計算する。
【0016】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記試料上の複数の場所の上記小スポットから信号を生成するために用いられる偏光ラマン分光装置が,
・光ビームを発生させるための光源,
・分光計を含む検出ユニット,および
・対物レンズを含む複数のレンズからなる光学系を備えている。
【0017】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記光学系は,上記小サイズのスポットをもたらす(leads)高開口数(NA)のものである。
【0018】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記開口数は,試料上の上記小サイズのスポットの寸法を変化させるように調整可能である。
【0019】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記開口数は,上記対物レンズの後焦点面に位置決めされた可変開口(variable aperture)を介して調整可能である。
【0020】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記試料ステージが,複数の場所で試料を位置決めするために,ひいては,上記小スポットの複数の場所から信号を収集するために,X-Y軸に沿って移動させられる。
【0021】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記光ビームを走査することが,上記試料の複数の場所の小スポットから信号を収集することを可能にする。
【0022】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記プロセッサは,上記検出ユニットを介して検出された信号を用いて,(i)上記ライン(複数)の上記2次元画像からラマンピークを抽出し,(ii)ラマン振幅の分布を生成し,(iii)上記物質に関連するラマンピークの強度を決定し,(iv)上記ラマンピークのラマン振幅の分布から標準偏差を計算し,(v)そこから平均粒径を計算する。
【0023】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,多結晶物質のパラメータを定義するための方法が提供される。この方法は,
(i)上記の偏光ラマン分光システムを用意するステップと,
(ii)上記試料上の複数の場所の小スポット(複数)または上記試料上の細長ライン状点(an elongated line-shaped points)のいずれかから複数の信号を生成するステップと,
(iii)上記複数の信号を分析して上記多結晶物質のパラメータを定義するステップと,を含む。
【0024】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,この方法は,上記多結晶物質の平均粒径を定義するステップを含む。
【0025】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,複数の場所における上記小スポットから信号を生成するステップは,複数の場所で試料を位置決めするために,ひいては,試料の複数の場所から信号を収集するために,上記試料ステージを上記ステージのX-Y軸に沿って移動させるステップを含む。
【0026】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,複数の場所の上記小スポットから信号を生成するステップは,試料の複数の場所から信号を収集するために光ビームを走査するステップを含む。
【0027】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記試料の細長ライン状点から信号を生成する場合,この方法はさらに,(i)ライン(複数)の2次元画像を作成するステップと,(ii)上記ライン(複数)の上記2次元画像からラマンピーク(複数)を抽出するステップと,(iii)ラマン振幅(複数)の分布を生成するステップと,(iii)上記物質に関連するラマンピーク(複数)の強度を決定するステップと,(iv)上記ラマンピークのラマン振幅の分布から標準偏差を計算するステップと,(v)そこから平均粒径を計算するステップとを含む。
【0028】
さらにまた,この発明の一部の実施形態では,上記試料の複数の場所の上記小スポットから信号を生成する場合,この方法はさらに,(i)上記信号を検出するステップと,(ii)上記信号からラマンピーク(複数)を抽出するステップと,(ii)ラマン振幅(複数)の分布を生成するステップと,(iii)上記物質に関連するラマンピーク(複数)の強度を決定するステップと,(iv)上記ラマンピークのラマン振幅の分布から標準偏差を計算するステップと,(v)そこから平均粒径を計算するステップとを含む。
【0029】
開示された実施形態は,以下の詳細な説明から,添付図面と組み合わせて,より完全に理解されかつ認識される。添付図面および本願明細書の記載は,概略的なものであり,本開示の範囲を限定するものではない。また,図面において,例示を目的として一部の要素の大きさが強調されることがあり,縮尺どおりに描写されていないことがあることに留意されたい。寸法および相対寸法は本開示の現実の実施化に必ずしも対応していない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2A】この発明の一部の実施形態による平均粒子寸法を調査するのに用いられるシステムおよび方法の原理を示す。
【
図2B】この発明の一部の実施形態による平均粒子寸法を調査するのに用いられるシステムおよび方法の原理を示す。
【
図2C】この発明の一部の実施形態による平均粒子寸法を調査するのに用いられるシステムおよび方法の原理を示す。
【
図2D】この発明の一部の実施形態による平均粒子寸法を調査するのに用いられるシステムおよび方法の原理を示す。
【
図3】この発明の一部の実施形態による平均粒子寸法を調査するためのコンピュータ化された方法の概略図である。
【
図4A】この発明の一部の実施形態による,試料の一連の試料点において単一ショット空間分解ラマン測定を行うための偏光ラマン分光装置を示す。
【
図4B】この発明の一部の実施形態による,試料の一連の試料点において単一ショット空間分解ラマン測定を行うための偏光ラマン分光装置を示す。
【
図4C】この発明の一部の実施形態による,試料の一連の試料点において単一ショット空間分解ラマン測定を行うための偏光ラマン分光装置を示す。
【
図4D】この発明の一部の実施形態による,試料の一連の試料点において単一ショット空間分解ラマン測定を行うための偏光ラマン分光装置を示す。
【
図5A】この発明の一部の実施形態による,試料の一連の試料点において単一ショット空間分解ラマン分光測定を行うことによって平均粒子寸法を調査するためのコンピュータ化された方法の概略図である。
【
図5B】この発明の一部の実施形態による,試料の一連の試料点において単一ショット空間分解ラマン分光測定を行うことによって平均粒子寸法を調査するためのコンピュータ化された方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下の説明においては本願の様々な態様が記載される。説明目的において,本願の完全な理解のために,具体的な構成および詳細を記載する。しかしながら,本願は,本願明細書において提示された具体的な詳細がなくても実施可能であることも当業者には明らかであろう。さらにまた,周知の特徴は,本願を曖昧にしないために,省略または簡略化することがある。
【0032】
特許請求の範囲で使用する用語「含む・備える」は「オープン・エンド」のものであり,記載する要素またはその構造もしくは機能等価物に加えて,記載していない任意の他の一または複数の要素を意味する。この意味を,その後に列記されているものに限定すると解釈してはならず,他の要素またはステップを除外しない。記載する特徴,整数,ステップまたは要素の存在を言及するとおり解釈する必要はあるが,1つ以上の他の特徴,整数,ステップまたは要素またはその群の存在または追加を除外しない。したがって,表現「xおよびzを備えるシステム」の範囲は,要素xおよびzのみからなるシステムに限定されるべきではない。また,表現「ステップxおよびzを含む方法」の範囲は,これらのステップのみからなる方法に限定されるべきではない。
【0033】
ここで使用する,用語「および/または」は,関連して列記された項目の一または複数の任意かつ全ての組み合わせを含む。他に定義しない限り,ここで使用する全ての用語(技術および科学用語を含む)は,この発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義されているような用語は,明細書の文脈および関連技術におけるそれらの意味と一致する意味を有するとして解釈すべきであり,ここで明示的に定義しない限り,理想的またはあまりに形式的な意味で解釈してはならないことはさらに理解されるであろう。周知の機能または構成は,簡潔さおよび/または明瞭さのために詳細に記載しないことがある。
【0034】
ある要素が,他の要素に対して,「上に」,「付着し」,「接続し」,「連結し」,「接触し」等と言われるとき,他の要素に対して直接,上に,付着し,接続し,連結し,もしくは接触するか,または,介在する要素が存在してもよい,と理解される。対照的に,ある要素が,他の要素に対して,例えば,「直接上に」,「直接付着し」,「直接接続し」,「直接連結し」,または「直接接触し」と言われるとき,介在する要素は存在しない。他の特徴に「隣接して」配置される構造または特徴への言及は,その隣接する特徴に重なるかまたはその下に配置された部分を有してもよいことも,当業者には理解されるであろう。
【0035】
図1AおよびBは,大きな粒子,1μmより大きな粒子のラマンイメージングを示す。この図は,それぞれが結晶ドメインとして構成されるが,方位が異なっている複数の領域からなる多結晶物質を示している(結晶方位は粒子領域内のラインの方向として描かれる)。
【0036】
図示するように,粒子が光学的に分解できる程度に大きい場合,偏光ラマン画像(polarized Raman image)を撮影して粒子方位の直接マッピングを行うことができる。ラマン信号は,照射および収集偏光子の正しい選択によって結晶方位に高感度であるように調整することができる。
【0037】
しかしながら,ほとんどの場合,粒子寸法が光学的分解能よりも大幅に小さく,直接法を妨げる。
【0038】
したがって,この発明は1μmより小さな粒子を分解し(resolving)そのパラメータを定義するための偏光ラマン分光システムおよび方法を提供する。
【0039】
この発明の一部の実施形態では,偏光ラマン分光システムは,偏光ラマン分光装置と,様々な場所で試料を位置決めするためのコンピュータ制御の試料(サンプル)ステージと,プロセッサおよび関連メモリを備えたコンピュータとからなる。
【0040】
偏光ラマン分光装置は,光ビームを発生させるための光源と,分光計を含む検出ユニットと,対物レンズを含む複数のレンズからなる光学系とを備える。
【0041】
この発明の一部の実施形態によると,本装置は,照明光ビームおよび検出ビームを偏光する複数の偏光器(polarizers)をさらに備える。
【0042】
この発明の一部の実施形態では,上記試料上の複数の場所における信号を収集するために,試料ステージをX-Y軸に沿って移動させて複数の場所に試料を位置決めするか,または点照明を上記試料上で走査する(across the sample)。
【0043】
図2A-Dは,この発明の一部の実施形態による,平均粒子寸法を調査するために用いられるシステムおよび方法の原理を示している。
【0044】
図2A-Bは,大粒子,すなわち,照明スポットサイズ202に相当する粒子寸法の場合を示す。この場合,各測定場所において,少数の粒子,たとえば暗い領域204A-D内の粒子が測定信号206に寄与する。
図2Bに示すように,粒子寸法が照明スポットサイズ202に相当するのでラマン信号は大幅に変化し,したがって測定値は少数の粒子方位の平均をとる(the measurement averages over a small number of grain orientations)。
【0045】
図2Cおよび
図2Dは,小粒子,すなわち照明スポットサイズ208よりもはるかに小さな粒子の場合を示す。この場合,各測定値は,領域210A-D内の多数の粒子方位の平均をとる。したがって,ラマン信号208はその平均値周辺のわずかな変化を示し,粒子寸法は信号分散から推測することができる。
【0046】
図3は,この発明の一部の実施形態による,平均粒子寸法を調査するためのプロセッサおよび関連メモリを用いたコンピュータ化された方法300の概略図である。
【0047】
この発明の一部の実施形態によると,方法300は点照明(ポイント照明)に基づくもので,これが試料上で走査され,比較的高解像度でかつ測定値のクロストークなし(no cross-talk)で,一時に一点を測定する(measuring one point at a time)。
【0048】
方法300は,以下のステップを含む。
ステップ302-ラマン分光システムを用意する。この発明の一部の実施形態によると,ラマン分光システムは複数の場所からのラマン信号の効率的な収集が可能な高開口数(NA)光学系を備えている。
ステップ304-試料の任意の空間分布における一連の点で高解像度偏光ラマン測定を実行し,これらの点のラマンピークを取得し,標準ピーク適合アルゴリズム(standard peak-fitting algorithms)を用いてラマン振幅の分布(distribution of Raman amplitudes)を得る。
ステップ306-検査試料の物質に関するラマンピークの強度(intensity of the Raman peaks)を決定(測定)する。
ステップ308-ラマン振幅の分布の標準偏差を計算する。
ステップ310-ラマン振幅の分布の標準偏差から平均粒径を導き出す。
【0049】
標準的な統計的考察によって平均粒子寸法の推定が式1によって得られる。
【0050】
ラマン信号の分散値/(平均ラマン信号)2 ~ 粒径サイズ/スポットサイズ 式1
【0051】
所与の結晶タイプではラマン強度は以下のようにラマン選択則(Raman selection rule)によって得られる。
【0052】
【0053】
ここで,比例定数の正確な値は,完全にランダムな粒子方位の仮定と,それによってもたらされるラマン強度の分布の仮定とによって決まる。
【0054】
R(←→)(Rの上部に両端矢印を有する記号)(以下,同様)は,各振動モードと関連するいわゆるラマンテンソル(Raman Tensor)であり,e
i,sは入射および散乱電界偏光(the incident and scattered electric field polarizations)である。多結晶物質の各粒子についてラマンテンソルはその方位に応じて回転する。
【0055】
方位が回転マトリクスTg(←→)によって表される場合,粒子の集団(ensemble of grains)からの強度は以下のように決定される。
【0056】
【0057】
ここで,Igは対応する粒子における照明スポットの強度である。
【0058】
加算することによって,スポットの空間分布および粒子の方位分布を,観測強度の分布,したがって観測相対分散および粒径間の具体的関係に対して関連付けることができる。
【0059】
この推定器に対する修正は一度の較正(one-time calibration)によって行うことができることに留意する必要がある。周知の粒径の試料を測定することができ,照明スポット形状または他のシステムパラメータにおける不確定さの主要因となる,ラマン信号分散値と粒径間の比例定数を正確に得ることができる。
【0060】
この発明の一部の実施形態によると,以下は,この方法に不可欠ないくつかの具体的なシステム側面である。
【0061】
・開口数(NA)
(a)短い収集時間でラマン信号の効率的な収集を可能にするために,高開口数(high numerical aperture)が不可欠である。ここでは,回折によって高NAは小スポットサイズももたらす。
【0062】
スポットサイズ ~ λ/NA 式4
【0063】
ここでλは波長である。したがって高NAによってより小さい粒径の特性評価をすることができる。
【0064】
式4は明確のために簡略化されている点に留意する必要がある。ラマン測定では,照明および収集波長はわずかに異なり,照明および収集NAは異ならせることができる。
【0065】
(b)照明NAおよび/または収集NAを制御することによって,測定スポットサイズに影響を与えること,すなわち,スポット内の粒子の数を変化させ,その結果,粒子統計に影響を与えることが可能である。具体的には,一組の異なる値のNA(照明および/または収集)で測定を行うことができ,各設定では,スポットサイズを計算することができ,粒径を式1から推測することができる。
【0066】
この方法は,様々な場所でスポットを走査する上述した方法の代替方法を示し,測定構造が小さな領域にあり,そのような走査方法を妨げる場合に有利となり得る。
【0067】
この発明の一部の実施形態によると,そのような方法は,対象の後焦点面(back-focal-plane of the objective)(照明および/または収集経路)に可変開口(variable aperture)を配置することによって実行することができ,電子的に制御することができる。
【0068】
・この測定の直接的なメリットの別の実施態様は,多波長ラマン分光法(multi-wavelength Raman spectroscopy)の利用である。一組の異なる励起波長を用いることによって,スポットサイズを変化させることが可能である(式2参照)。したがって,たとえば,励起波長によって制御される異なるスポットサイズの一組の測定値を用いて,ラマン信号が異なる粒子統計と共にどのように変化するかを分析し,平均粒径を推測することが可能である。
【0069】
・処理能力および性能を向上させることができるさらなる実施態様は,角度分解ラマン分光法(angle resolved Raman Spectroscopy)である。照明入射角を制御し,様々な散乱角からの収集信号を分離することによって,同じスポットの多重ビューを記録し,組み合わせて,一回の測定からより多くの情報を集めることで,必要な測定の数を減らし,測定安定性を高めることができる。
【0070】
この発明の一部の実施形態によると,この方法に特別に有利な光学配置は,単一ショット空間分解ラマンイメージング(single-shot spatially-resolved Raman imaging)の使用である。この方法は,以下を含む。
【0071】
・試料上に細長ライン(an elongated line)を投影するように成形された照明スポット。これは,円柱レンズ,ホログラフィック光学要素,マイクロレンズアレイまたはその他の「ラインスポット」要素の追加によって実現することができる。
【0072】
・「ラインスポット」要素が,細長方向が分光計スリット方向またはこの方向の近くをポイントするように配列される。したがって,分光計電荷結合素子(CCD)等の2次元センサの測定信号は,照明スポットに沿う様々な場所に対応する一連のラマンスペクトルを含む。
【0073】
・分光計CCD上の2次元画像が登録される。各CCDラインは,試料上の様々な場所に対応するラマンスペクトルを保持する。
【0074】
この発明の一部の実施形態では,このような実施態様は単一測定で複数の場所からのラマンスペクトルの取得を可能にし,試料のいかなる動きも必要とせずに,または試料上の照明点の走査を必要とせず,粒子寸法はこれらの様々なラマンスペクトルの統計分布から導き出すことができる。
【0075】
【0076】
図4A~Dは,この発明の一部の実施形態による,試料上の一連の試料点において単一ショット空間分解ラマン測定を行うための偏光ラマン分光装置400を示している。
【0077】
ラマン分光システム400は,光源402,分光計404を含む検出ユニット,光源402からの光を試料408に向け,試料408からの戻り光を分光計404に向けるための光配向装置として構成される光学系406,ならびに照明光ビームおよび検出ビームを偏光させるための単一または複数の偏光器(図示略)を備えている。
【0078】
光学系406は,ラインスポット要素(素子)210,ビームスプリッタ412,対物レンズユニット414(一または複数のレンズ),および集束(集光)レンズ416を備えている。
【0079】
分光計404は入射する光のスペクトルデータを生成し,分光計404の出力は,有線もしくは,たとえばWi-FiやBluetoothを介した無線通信,またはそれらの組み合わせを通じてコンピュータに転送することができる。
【0080】
図4Aは,この発明の一部の実施形態によるラマン分光システム400における照明経路の概略図である。図示するように,光源402を介して生成されたレーザービーム420は「ラインスポット」要素410を通過し,試料408上に細長ラインスポット422を生じさせる。
【0081】
「ラインスポット」要素410は,円柱レンズ,ホログラフィック光学要素,マイクロレンズアレイ,または他の任意の適切な光学部品から選択することができる。
【0082】
図4Aに示すように,「ラインスポット」要素410は,一方の軸においてビーム広がりを発生させて試料408上に細長ラインスポット422を形成し,他方の軸においてはビーム420を,影響を受けないままにする。ビームスプリッタ412は,ビームを対物レンズユニット414に向けて反射し,対物レンズユニット414はそのビームを試料408に集光する。図示するように,一方の軸におけるビーム広がりによって細長ラインスポット422が試料408上に生成される。
【0083】
図4Bは,この発明の一部の実施形態による収集経路の概略図である。図示するように,試料408から出る光は対物レンズユニット414およびビームスプリッタ412を通過し,集束レンズ416によって分光計404の分光計スリット430に焦点が合わせられる。このレイアウトでは,試料408上のライン状点(line-shaped points)422が分光計スリット430上にたとえばライン状点432として結像され,このイメージングレイアウトを概略的に示すのに用いられる。
【0084】
分光計404を
図4Cに示し,試料408を
図4Dに示す。
図4Cに示すように,分光計スリット430上のライン状点432が空間的に分解され(spectrally resolved),CCD438上に2次元画像436を生成する。したがって,画像436は,試料408上のライン状点422に直接関連する。
【0085】
この発明の一部の実施形態によると,2次元画像436は,たとえば一方の軸が波長に対応し,他方の軸が試料上の位置に対応する,位置依存スペクトル(position-dependence spectra)を生じさせる。
【0086】
測定試料408を
図4Dに示す。図示するように,ライン状点432の様々な部分がCCD438の様々なラインに結像され,そこで別々に読み取られて分析される。
【0087】
図5A,Bは,この発明の一部の実施形態による,試料上の一連の試料点において単一ショット空間分解ラマン分光測定を行うことによって平均粒子寸法を調査するためのコンピュータ化された方法500の概略図である。
【0088】
方法500は以下のステップを含む。
【0089】
ステップ502-
図4A~Dのラマン分光装置を含むラマン分光システムを用意する。この発明の一部の実施形態では,ラマン分光装置は,一回の測定かつ比較的短い収集時間で複数の場所からのラマン信号の効率的な収集を可能にするための高開口数(NA)光学系を備えている。
【0090】
このような実施態様を用いて,測定スポットまたは試料のいかなる動きも必要とせず,複数の場所からのラマンスペクトルを一回の測定で取得することができ,これらの様々なラマンスペクトルの統計分布から粒子寸法が導き出される。
【0091】
ステップ504-ラマン分光システムを用いて試料上に細長ライン状点を形成する。
【0092】
ライン状点は,分光計スリット方向に沿って,またはこの方向の近くに配列される。したがって,分光計CCDの測定信号は照明スポットに沿う様々な場所に対応する一連のラマンスペクトルを含む。
【0093】
ステップ506-高解像度偏光ラマン測定を実行して試料上のライン状点に直接関連するラインの2次元画像を作成し,これらの点のラマンピークを取得する。この発明の一部の実施形態によると,調査領域の画像をマッピングする必要はなく,むしろ試料点(sample points)での測定を行う必要がある。測定(measurements)は平均粒子寸法が安定する局所的測定(localized measurement)を表すように十分に接近すべきである。
【0094】
ステップ508-分光計CCDに2次元画像を登録する。
【0095】
標準ラマン測定とは対照的に,このレイアウトでは,分光計CCDの2次元画像が登録され,各CCDラインは,試料の様々な場所に対応するラマンスペクトルを保持する。
【0096】
ステップ510-CCDからのデータを有線または無線通信を介してコンピュータに転送する。
ステップ512-標準ピーク適合アルゴリズムを用いてラマン振幅の分布を得る。
ステップ514-検査試料の物質に関連するラマンピークの強度を測定する。
ステップ516-ラマン振幅の分布の標準偏差を計算する。
ステップ518-ラマン振幅の分布の標準偏差から平均粒径を導き出す。
【0097】
統計的精度:
この発明の一部の実施形態によると,本システムおよび方法を用いて推定された粒径の精度は,測定された統計集合のサイズによって決まり,すなわち,取得した測定点が多ければ多いほど,統計分析がより優れ,推定された粒径がより正確になる。しかしながら,特定の収束度に対して必要とされる統計集合のサイズは粒径によって決まり,すなわち,大きな粒子は大きな統計集合となる。このような依存関係は,測定性能が試料特性に関して変化することがあるので,測定の不安定性につながる可能性がある。
【0098】
さらに,測定された分散は,フォトンショットノイズや他のノイズ源等の測定誤差によっても影響される。このようなノイズ源は,粒子に関連した分散と比較して(例えば,場所ごとの取得時間を制御することによって)無視するか,または分析に適切に考慮するかのどちらかをしなければならない。
【0099】
この発明の一部の実施形態によると,このような誤差は,測定中の収集信号およびノイズを分析し,データ収集中の統計的妥当性を評価することによって軽減することができる。
【0100】
このように,標準の統計的検査をデータに適用して,追加測定が必要かどうかを決めてもよい。このような方法は,統計が十分な状況で「無駄になる」のではなく,必要な時にだけ取得を行うので,測定処理能力を向上させるのに役立つ可能性もある。
【0101】
このような方法,およびその変形例は,以下を可能にする。
・非接触,非破壊測定,
・小さな領域の測定を可能にする小スポット(<1-数ミクロン),
・潜在的高速測定:ラマン測定は標準の光学散乱測定法(例えば,偏光解析法,反射率測定法)よりも大幅に低速である一方で,X線またはTEMに基づく方法よりも大幅に高速にすることができる。レーザ源の正しい選択,高効率光学レイアウトおよび分光計によって,ラマン測定は効率的になり得る。具体的な取得時間は測定物質およびそのラマン断面によって決まるので,予想される測定時間は数十秒または数分になり得る。
【0102】
対象の物質は,ラマンスペクトルにおいて明確なピーク(または一連のピーク)を示すラマン活性物質でなければならない点に留意する必要があり,ラマン信号は照射および収集偏光子を調整することによって結晶方位に対して高感度であるように調整することができる。