(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】リチウム金属電極の製造方法、これによって製造されたリチウム金属電極、及びこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1395 20100101AFI20240815BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240815BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240815BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240815BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240815BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M4/136
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2023501303
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 KR2021012373
(87)【国際公開番号】W WO2022060021
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】10-2020-0118835
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0120225
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ミョンソン・キム
(72)【発明者】
【氏名】スヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】キヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】コンジェ・イ
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-036842(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110444735(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0033922(KR,A)
【文献】特開2005-071999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/1395
H01M 4/38
H01M 4/134
H01M 4/136
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リチウム金属層の少なくとも一面上にフルオロエチレンカーボネートを塗布する段階;及び
(b)前記フルオロエチレンカーボネートが塗布されたリチウム金属層を圧延して前記リチウム金属層の少なくとも一面上にフッ化リチウム保護層を形成する段階を含むリチウム金属電極の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム金属層はリチウム金属またはリチウム合金を含む、請求項1に記載のリチウム金属電極の製造方法。
【請求項3】
前記圧延は前記フルオロエチレンカーボネートが塗布されたリチウム金属層を圧延ユニットの間に位置させて圧力を印加する方式で遂行する、請求項1又は2に記載のリチウム金属電極の製造方法。
【請求項4】
前記圧延は10℃ないし80℃の温度条件下で遂行する、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム金属電極の製造方法。
【請求項5】
前記リチウム金属層は圧延前後の厚さ減少率が10%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム金属電極の製造方法。
【請求項6】
リチウム金属層;及び
前記リチウム金属層の少なくとも一面上に形成されたフッ化リチウム保護層を含
み、
前記フッ化リチウム保護層はフッ素含量が2.4原子%ないし10原子%である、リチウム金属電極。
【請求項7】
前記フッ化リチウム保護層は厚さが10nmないし500nmである、請求項6に記載のリチウム金属電極。
【請求項8】
前記リチウム金属電極はリチウム二次電池用負極で使用される、請求項6
又は7に記載のリチウム金属電極。
【請求項9】
正極活物質を含む正極;
請求項6
又は7に記載のリチウム金属電極を含む負極;及び
電解質を含むリチウム二次電池。
【請求項10】
前記正極活物質は硫黄元素及び硫黄化合物からなる群から選択される1種以上を含む、請求項
9に記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
前記正極活物質は、無機硫黄、Li
2S
n(n≧1)、ジスルフィド化合物、有機硫黄化合物及び炭素‐硫黄ポリマー((C
2S
x)
n、x=2.5ないし50、n≧2)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項
9又は
10に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2020年09月16日付韓国特許出願第10‐2020‐0118835号及び2021年9月9日付韓国特許出願第10‐2021‐0120225号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は本明細書の一部として組み込む。
【0002】
本発明はリチウム金属電極の製造方法、これによって製造されたリチウム金属電極、及びこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池の活用範囲が携帯用電子機器だけでなく電気自動車(electric vehicle;EV)、電力貯蔵装置(electric storage system;ESS)まで拡がって、高容量、高エネルギー密度及び長寿命のリチウム二次電池に対する要求が高まっている。
【0004】
幾つかのリチウム二次電池の中でリチウム‐硫黄電池は硫黄‐硫黄結合(sulfur‐sulfur bond)を含む硫黄系列物質を正極に使用し、リチウム金属、リチウムイオンの挿入/脱挿入が起きる炭素系物質またはリチウムと合金を形成するシリコーンやスズなどを負極に使用する電池システムである。
【0005】
リチウム‐硫黄電池の正極に使用される硫黄は、単位原子当たり低い重さを持ち、資源が豊かで、需給が容易であり、安価で、毒性がなく、環境にやさしい物質という長所がある。
【0006】
また、リチウム‐硫黄電池は正極でリチウムイオンと硫黄の変換(conversion)反応(S8+16Li++16e‐→8Li2S)から出る理論比容量(specific capacity)が1,675mAh/gに至って、負極でリチウム金属を使用する場合、2,600Wh/kgの理論エネルギー密度を示す。これは現在研究されている他の電池システム(Ni‐MH電池:450Wh/kg、Li‐FeS電池:480Wh/kg、Li‐MnO2電池:1,000Wh/kg、Na‐S電池:800Wh/kg)及びリチウムイオン電池(250Wh/kg)の理論エネルギー密度に比べてとても高い数値を持つので、現在まで開発されている二次電池の中で高容量、環境にやさしい、かつ、低価のリチウム二次電池として注目されている。
【0007】
このようなリチウム‐硫黄電池で負極にリチウム金属を使用する場合、理論比容量が3,860mAh/gでとても高いだけでなく、標準還元電位(Standard Hydrogen Electrode;SHE)も‐3.045Vと非常に低くて、高容量、高エネルギー密度の電池の具現が可能であるため、次世代電池システムとして多くの研究が行われている。
【0008】
しかし、リチウム金属は化学的/電気化学的反応性が高いため、充/放電が進められるほどリチウムデンドライトの成長及び多孔化が発生し、これによって電池の寿命特性がよくない問題がある。このため、リチウム金属の表面に形成する保護層に対して多くの研究が行われている。
【0009】
リチウム金属の表面に形成される保護層の中でフッ化リチウム(LiF)保護層は、高いイオン伝導率でリチウムデンドライトの成長を抑制するので、電池に適用する時に容量及び寿命特性向上効果を確保することができる。ここで、従来技術ではリチウム金属表面にフッ化リチウム保護層を形成するための様々な方法が研究されている。
【0010】
従来の技術において、フッ化リチウム保護層はリチウム金属をフルオロエチレンカーボネート(fluoroethylene carbonate;FEC)に一定時間以上沈積(immersion、浸漬)させたり、リチウム金属の表面にフルオロエチレンカーボネートを含む溶液を塗布する方法を通じて形成される。
【0011】
しかし、リチウム金属の表面にはLiOH、Li2O、Li2CO3などの酸化層(native layer)が存在し、これによってフルオロエチレンカーボネートまたはフルオロエチレンカーボネートを含む溶液とリチウム金属との間の反応が不均一になるので、形成されるフッ化リチウム保護層の成分、厚さ、密度などの物性差がもたらされる。
【0012】
このような、フッ化リチウム保護層の物性の差は、充/放電の際に局所上の電流密度差をもたらしてリチウム金属表面にリチウムデンドライトの形成を促進させる。また、このように形成されたリチウムデンドライトは電池内部の短絡と不活性リチウム(dead lithium)を引き起こして、リチウム二次電池の物理的、化学的不安定性を加重させるだけでなく電池の容量減少及びサイクル寿命短縮を加速化させる問題を発生させる。
【0013】
したがって、簡単な工程を通じてリチウム金属の表面に均一なフッ化リチウム保護層を形成して、リチウム金属の反応性問題を解決することができる技術の開発が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】韓国公開特許第2019‐0071618号(2019年06月24日)、リチウム金属電極の表面に不働態膜を形成するリチウム二次電池の連続製造方法及びこの製造方法で製造されたリチウム二次電池
【非特許文献】
【0015】
【文献】Ngoc Duc Trinh et al.、An Artificial Lithium Protective Layer that Enables the Use of Acetonitrile‐Based Electrolytes in Lithium Metal Batteries、Angewandte Chemie、2018、57(18)、5072‐5075
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ここで、本発明者らは前記問題を解決するために多角的に研究した結果、フルオロエチレンカーボネートをリチウム金属の表面に直接塗布して圧延する工程を通じてフッ化リチウム保護層を形成する場合、リチウムデンドライトの成長抑制効果に優れることを確認して本発明を完成した。
【0017】
したがって、本発明の目的は、リチウム金属表面に均一ながらフッ素含量が高いフッ化リチウム保護層を形成することができるリチウム金属電極の製造方法を提供することにある。
【0018】
また、本発明の他の目的は、前記製造方法によって製造されたリチウム金属電極及びこれを含むリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するために、本発明は、(a)リチウム金属層の少なくとも一面上にフルオロエチレンカーボネートを塗布する段階;及び(b)前記フルオロエチレンカーボネートが塗布されたリチウム金属層を圧延して前記リチウム金属層の少なくとも一面上にフッ化リチウム保護層を形成する段階を含むリチウム金属電極の製造方法を提供する。
【0020】
前記リチウム金属層はリチウム金属またはリチウム合金を含むことができる。
【0021】
前記圧延は前記フルオロエチレンカーボネートが塗布されたリチウム金属層を圧延ユニットの間に位置させて圧力を印加する方式で遂行することができる。
【0022】
前記圧延は10ないし80℃の温度条件下で遂行することができる。
【0023】
前記リチウム金属層は圧延前後の厚さ減少率が10%以上でよい。
【0024】
また、本発明は前記製造方法によって製造され、リチウム金属層;及び前記リチウム金属層の少なくとも一面上に形成されたフッ化リチウム保護層を含むリチウム金属電極を提供する。
【0025】
前記フッ化リチウム保護層は厚さが10ないし500nmでよい。
【0026】
前記フッ化リチウム保護層はフッ素含量が0.1ないし10原子%でよい。
【0027】
同時に、本発明は前記リチウム金属電極を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によるリチウム金属電極の製造方法は、リチウム金属の表面にフルオロエチレンカーボネートを直接塗布して圧延することでフッ素含量が高いながら均一なフッ化リチウム保護層を形成することができてリチウムデンドライトの生成を効果的に抑制することができるし、これによってリチウム金属電極を含むリチウム二次電池の高容量化及び長寿命化を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実験例1によるフッ化リチウム保護層のXPSスペクトルを示すグラフである。
【
図2】実施例1によるフッ化リチウム保護層のXPS深さ分析結果を示すグラフである。
【
図3】比較例2によるフッ化リチウム保護層のXPS深さ分析結果を示すグラフである。
【
図4】実験例2に他のリチウム二次電池の性能評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0031】
本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味で限定して解釈してはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に即して本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈しなければならない。
【0032】
本発明で使用した用語は単に特定実施例を説明するために使われたもので、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は文脈上明らかに違うことを意味しない限り、複数の表現を含む。本発明において、「含む」または「持つ」などの用語は明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性を予め排除しないものとして理解しなければならない。
【0033】
本明細書で使われている用語「複合体(composite)」とは、2つ以上の材料が組み合わせられて物理的・化学的に相互異なる相(phase)を形成しながら、より有効な機能を発現する物質を意味する。
【0034】
本明細書で使われている用語「ポリスルフィド」は、「ポリスルフィドイオン(Sx
2‐、x=8、6、4、2))」及び「リチウムポリスルフィド(Li2SxまたはLiSx‐、x=8、6、4、2)」をいずれも含む概念である。
【0035】
リチウム‐硫黄電池は幾つかの二次電池の中で高い理論放電容量及び理論エネルギー密度を示すだけでなく、負極活物質として主に使用されるリチウム金属は原子量(6.94g/a.u.)及び密度(0.534g/cm3)が非常に小さいため、小型化及び軽量化が容易で次世代電池として脚光を浴びている。
【0036】
しかし、リチウム金属を電池内負極で活用する場合、電池駆動による多くの要因によってリチウム金属の表面に電流密度の不均一化が生じることがある。これによってリチウムデンドライトが生成され、これは電池の短絡をもたらして電池の諸般性能を低下させる問題を引き起こす。
【0037】
これとともに、リチウム‐硫黄電池の場合、電池駆動の際に正極で形成されたリチウムポリスルフィド(lithium polysulfide、Li2Sx、x=8、6、4、2)の中で硫黄の酸化数が高いリチウムポリスルフィド(Li2Sx、普通x>4)は電解質に対する溶解度が高くて持続的に溶けるし、正極反応領域の外へ湧出されて負極に移動する。この時、正極から湧出されたリチウムポリスルフィドは負極であるリチウム金属電極と副反応を起こしてリチウム金属電極の表面にリチウムスルフィドが固着されることによってリチウム金属電極の不動化を引き起こすだけでなく、リチウムポリスルフィドの湧出によって硫黄の利用率が低くなって理論放電容量の最大70%ぐらいまで具現が可能で、サイクルが進められることによって容量及び寿命低下が加速化する問題が発生する。
【0038】
従来の技術ではリチウムデンドライトの成長を防ぐために、リチウム金属の表面にイオンの伝導特性に優れるフッ化リチウム(LiF)保護層を導入した。具体的に、従来技術はリチウム金属表面にフッ化リチウム保護層を形成するためにフルオロエチレンカーボネート(fluoroethylene carbonate;FEC)に浸漬、またはフルオロエチレンカーボネートを含む溶液を塗布などの方法を利用した。
【0039】
しかし、従来技術で利用された方法の場合、リチウム金属に必然的に存在する酸化層によって均一なフッ化リチウム保護層の形成が難しいため、リチウムデンドライト生成抑制効果を充分確保しにくい問題がある。
【0040】
ここで、本発明ではフルオロエチレンカーボネートをリチウム金属の表面に直接塗布して圧延する工程によってリチウム金属の表面にフッ化リチウム保護層を均一に形成することでリチウムデンドライトの成長抑制効果に優れるリチウム金属電極の製造方法を提供する。
【0041】
本発明によるリチウム金属電極の製造方法は、
(a)リチウム金属層の少なくとも一面上にフルオロエチレンカーボネートを塗布する段階;及び
(b)前記フルオロエチレンカーボネートが塗布されたリチウム金属層を圧延して前記リチウム金属層の少なくとも一面上にフッ化リチウム保護層を形成する段階を含む。
【0042】
本発明の場合、フルオロエチレンカーボネートをリチウム金属表面に直接塗布して圧延することにより、リチウム金属の表面にフッ素含量が高いながら厚さが均一なフッ化リチウム保護層を形成することができる。従来技術ではリチウム金属をフルオロエチレンカーボネートに浸漬させたりフルオロエチレンカーボネートを含む溶媒をリチウム金属の表面に塗布する方法などを利用した。しかし、このような従来のフッ化リチウム保護層の形成方法は、リチウム金属表面に形成された酸化層によって厚さが不均一であったり、フッ素含量が少ないフッ化リチウム保護層が形成されるので、リチウムデンドライトの成長を効果的に防ぐことができなかった。また、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンのようにフッ素を含む高分子膜との圧搾(圧延接着)過程を通じてフッ化リチウム保護層を形成する方法が提案された。このようにフッ素含有高分子膜とリチウムの圧搾でフッ化リチウム保護層を形成する方法の場合、リチウムとの反応後に残る残留高分子膜によってリチウムイオンの移動を邪魔してリチウムデンドライトの成長を防ぐことができない問題がある。
【0043】
これに比べて、本発明ではフルオロエチレンカーボネートを直接リチウム金属表面に塗布し、これを圧延することによってリチウム金属の表面でフルオロエチレンカーボネートとリチウム金属の均一な反応が進められることができるため、リチウム金属表面にフッ化リチウム保護層が均一に形成され、フッ化リチウム保護層に含まれたフッ素含量も高い。このように形成されたフッ化リチウム保護層はリチウムデンドライトの形成を効果的に抑制することでリチウム金属電極の安定性を向上させることができるし、これを含むリチウム二次電池の容量及び寿命特性を改善させることができる。また、本発明によるリチウム金属電極の製造方法は、工程がとても簡単で適用が容易であるという利点を持っている。
【0044】
以下、各段階別に本発明をより詳しく説明する。
【0045】
先ず、(a)段階はリチウム金属層の表面にフルオロエチレンカーボネートを塗布するためのことで、リチウム金属層の少なくとも一面上にフルオロエチレンカーボネートを塗布する。
【0046】
前記リチウム金属層はリチウム金属またはリチウム合金(Li‐M)を含むことができる。
【0047】
前記リチウム合金に含まれた金属(M)は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、珪素(Si)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、ランタン(La)、銀(Ag)、インジウム(In)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)からなる群から選択される1種以上である。
【0048】
本発明において、前記塗布はフルオロエチレンカーボネートをリチウム金属層の少なくとも一面に直接塗布する方式で行われる。
【0049】
前記塗布は一般的に知られている通常の方法が可能であるが、例えば、注ぎ(pouring)、噴射(spraying)、散らすこと(sprinkling)、噴霧(atomization)などの幾つかの方法を利用することができる。
【0050】
前記フルオロエチレンカーボネートの塗布回数は制限がなく、1回以上行われることができる。
【0051】
次いで、(b)段階は、前述した(a)段階で製造されたフルオロエチレンカーボネートが塗布されたリチウム金属層を圧延して前記リチウム金属層の少なくとも一面上にフッ化リチウム保護層を形成する。
【0052】
前記(b)段階の圧延を通じてリチウム金属層の表面に塗布されたフルオロエチレンカーボネートとリチウム金属を反応させることでリチウム金属層の表面に均一なフッ化リチウム保護層を形成することができる。
【0053】
前記圧延回数には制限がなく、1回以上行われることができる。
【0054】
前記圧延は前記フルオロエチレンカーボネートが塗布されたリチウム金属層を圧延ユニットの間に位置させて圧力を印加する方式で遂行することができる。
【0055】
前記圧延ユニットは該当技術分野で使用する通常のもので特に限定しない。一例として、前記圧延ユニットは、ロールプレス(roll press)、ラミネート(laminator)などを利用することができる。
【0056】
前記圧延は10ないし80℃の温度条件で行うことができる。前記圧延時の温度及び時間は工程条件によって変わることがある。前記圧延温度及び時間が前記範囲未満の場合、フルオロエチレンカーボネートとリチウム金属との間の十分な反応が行われないため、フッ化リチウム保護層が不均一に形成されることがあるし、これと逆に前記範囲を超える場合、リチウム金属の変質される問題がある。
【0057】
前記(b)段階の圧延を通じてリチウム金属層の厚さが減少し、具体的に下記数式1による厚さ減少率が10%以上、好ましくは10ないし30%である。前記圧延を通じたリチウム金属層の厚さ減少率が前述した範囲に該当する場合、リチウム金属層の表面に均一なフッ化リチウム保護層を形成することができる利点があって、これによってリチウムデンドライトの生成をより効果的に抑制することができる。
【0058】
【0059】
本発明において、前記(b)段階の圧延後、残存するフルオロエチレンカーボネートを取り除いて、フッ化リチウム保護層をリチウム金属層の表面に堅く固定させるために乾燥する段階をさらに遂行することができる。
【0060】
前記乾燥はフルオロエチレンカーボネートを充分に取り除くことができる水準の温度及び時間で行い、その条件は工程条件によって変わることがあるので本発明に特に制限されない。
【0061】
一例として、前記乾燥は、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線及び電子線などの照射による方法を利用することができる。
【0062】
前述したように、本発明によるリチウム金属電極の製造方法は、フルオロエチレンカーボネートをリチウム金属層の表面に直接塗布して圧延することで均一でありながらフッ素含量が高いフッ化リチウム保護層を含むリチウム金属電極を容易に製造することができる。本発明の製造方法で製造されたフッ化リチウム保護層は均一性に優れ、リチウム金属表面でのリチウムデンドライト成長抑制効果に優れるだけでなく、一定水準のイオン伝導率を示すところ、これを含むリチウム二次電池の容量及び寿命特性を向上させることができる。
【0063】
また、本発明は前記製造方法で製造されたリチウム金属電極を提供する。
【0064】
前記リチウム金属電極は、リチウム金属層;及び前記リチウム金属層の少なくとも一面上に形成されたフッ化リチウム保護層を含む。
【0065】
前記リチウム金属層はリチウム金属またはリチウム合金を含むことができる。また、前記リチウム金属層はリチウム金属薄膜またはリチウム金属粉末を含むか、または負極集電体の少なくとも一面にリチウム金属薄膜が形成されたリチウム板金であってもよい。
【0066】
前記負極集電体は負極活物質である前記リチウム金属層を支持するためのもので、当該電池に化学的変化を引き起こさずに高い導電性を持つものであれば特に制限されるものではない。例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、パラジウム、焼成炭素、銅やステンレススチール表面にカーボン、ニッケル、銀などで表面処理したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが使用されることができる。
【0067】
前記負極集電体はその表面に微細な凹凸を形成して負極活物質であるリチウム金属薄膜との結合力を強化させることができるし、フィルム、シート、ホイル、メッシュ、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態を使用することができる。
【0068】
前記リチウム金属薄膜の形成方法は特に制限されないし、当業界で通常使用される層または膜の形成方法を利用することができる。例えば、圧搾、コーティング、蒸着などの方法を利用することができる。
【0069】
前記フッ化リチウム保護層は、前述した製造方法によって形成されたもので、厚さ10ないし500nm、好ましくは50ないし200nmである。前記フッ化リチウム保護層の厚さが前記範囲未満であれば、前述したフッ化リチウム保護層を通じた効果が微々たるものであり、これと逆に前記範囲を超える場合、充/放電中に過電圧問題が発生することがある。
【0070】
前記フッ化リチウム保護層のフッ素含量は、X‐線光電子分光(X‐ray photoelectron spectroscopy、XPS)分析結果、フッ化リチウム保護層に含まれる全体元素中に0.1ないし10原子%、好ましくは0.5ないし5原子%である。本発明によるリチウム金属電極は前述した製造方法によってフッ化リチウム保護層が均一に形成されることで、従来フッ化リチウム保護層を含むリチウム金属電極に比べてフッ化リチウム保護層私のフッ素含量が高い。
【0071】
前記フッ化リチウム保護層のイオン伝導率は10‐20ないし10‐4S/cm、好ましくは10‐12ないし10‐7S/cm範囲である。
【0072】
また、前記フッ化リチウム保護層が形成されたリチウム金属電極の電解質内での表面抵抗は100ないし300Ω、好ましくは150ないし200Ωであって、1ないし72時間、好ましくは24ないし65時間、より好ましくは36ないし60時間、表面抵抗の変化がない。これは既存と違ってリチウム金属電極の表面で電池の持続的な電気化学的反応が維持されることであって、これは前記フッ化リチウム保護層が電解質と反応せずに安定した状態で維持されることを意味する。
【0073】
また、本発明は前記リチウム金属電極を含むリチウム二次電池を提供する。
【0074】
前記リチウム二次電池は、正極;負極;及びこれらの間に介在される電解質を含み、前記負極として本発明によるリチウム金属電極を含む。
【0075】
好ましくは、前記リチウム二次電池は正極活物質で硫黄を含むリチウム‐硫黄電池である。
【0076】
前記正極は正極集電体と前記正極集電体の少なくとも一面に塗布された正極活物質層を含む。
【0077】
前記正極集電体は正極活物質を支持するためのもので、前記負極集電体で説明したとおりである。
【0078】
前記正極活物質層は正極活物質を含み、選択的に導電材、バインダー及び添加剤などをさらに含むことができる。
【0079】
前記正極活物質は、硫黄系列化合物、具体的に、硫黄元素及び硫黄化合物からなる群から選択される1種以上を含むことができる。前記硫黄元素は、無機硫黄(S8)を含むことができる。また、前記硫黄化合物はLi2Sn(n≧1)、ジスルフィド化合物、有機硫黄化合物及び炭素‐硫黄ポリマー((C2Sx)n、x=2.5ないし50、n≧2)からなる群から選択される1種以上である。好ましくは、前記正極活物質は無機硫黄(S8)を含むことができる。
【0080】
前記正極活物質で含まれる硫黄の場合、単独では電気伝導性がないため、炭素材のような伝導性素材と複合化して使用される。これによって、前記硫黄は硫黄‐炭素複合体の形態で含まれることができる。好ましくは、前記正極活物質は硫黄‐炭素複合体である。
【0081】
前記硫黄‐炭素複合体に含まれる炭素は、多孔性炭素材で前記硫黄が均一で、且つ安定的に固定されることができる骨格を提供し、硫黄の低い電気伝導率を補完して電気化学的反応が円滑に行われるようにする。
【0082】
前記多孔性炭素材は一般的に多様な炭素材質の前駆体を炭化させることで製造されることができる。前記多孔性炭素材は内部に一定しない気孔を含み、前記気孔の平均直径は1ないし200nm範囲で、気孔率または孔隙率は多孔性炭素材全体体積の10ないし90%範囲である。もし、前記気孔の平均直径が前記範囲未満の場合、気孔の大きさが分子水準に過ぎず、硫黄の含浸が不可能であり、これと逆に前記範囲を超える場合、多孔性炭素材の機械的強度が弱化されて電極の製造工程に適用するに好ましくない。
【0083】
前記多孔性炭素材の形態は、球形、棒形、針状、板状、チューブ型またはバルク型でリチウム‐硫黄電池に通常使用されるものであれば制限されずに使用されることができる。
【0084】
前記多孔性炭素材は多孔性構造であるか、または比表面積が高いもので、当業界で通常使用されるものであれば、いずれもかまわない。例えば、前記多孔性炭素材としては、グラファイト(graphite);グラフェン(graphene);デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;単一壁炭素ナノチューブ(SWCNT)、多重壁炭素ナノチューブ(MWCNT)などの炭素ナノチューブ(CNT);グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノファイバー(CNF)、活性化炭素ファイバー(ACF)などの炭素繊維;天然黒鉛、人造黒鉛、膨脹黒鉛などの黒鉛、及び活性炭素からなる群から選択された1種以上であってもよいが、これに制限されない。好ましくは前記多孔性炭素材は炭素ナノチューブである。
【0085】
前記硫黄‐炭素複合体は、硫黄‐炭素複合体100重量部を基準にして硫黄を60ないし90重量部、好ましくは65ないし85重量部、より好ましくは70ないし80重量部で含むことができる。前記硫黄の含量が前述した範囲未満の場合、硫黄‐炭素複合体内の多孔性炭素材の含量が相対的に多くなることで比表面積が増加し、正極製造時にバインダーの含量が増加する。このようなバインダーの使容量増加は、結局正極の面抵抗を増加させて電子移動(electron pass)を防ぐ絶縁体の役目をするようになり、電池の性能を低下させることがある。これと逆に、前記硫黄の含量が前述した範囲を超える場合、多孔性炭素材と結合することができなかった硫黄がそれらどうしで集まったり、多孔性炭素材の表面に再湧出されることによって電子を受けにくくなって、電気化学的反応に参加できなくなり、電池容量の損失が発生することがある。
【0086】
また、前記硫黄‐炭素複合体で前記硫黄は前述した多孔性炭素材の内部及び外部表面の中で少なくともいずれか1ヶ所に位置し、この時前記多孔性炭素材の内部及び外部全体表面の100%未満、好ましくは1ないし95%、より好ましくは60ないし90%領域に存在することができる。前記硫黄が多孔性炭素材の内部及び外部表面に前記範囲内で存在する時、電子伝達面積及び電解質との濡れ性の面で最大効果を示すことができる。具体的に、前記範囲領域で硫黄が多孔性炭素材の内部及び外部表面に薄くて均一に含浸されるので、充・放電過程で電子伝達接触面積を増加させることができる。もし、前記硫黄が多孔性炭素材の内部及び外部全体表面の100%領域に位置する場合、前記炭素材が完全に硫黄で覆われて電解質に対する濡れ性が低下し、電極内に含まれる導電材と接触性が低下して電子を伝達されなくて電気化学反応に参加することができなくなる。
【0087】
前記硫黄‐炭素複合体の製造方法は、本発明で特に限定せず、当業界で通常利用される方法が利用されることができる。一例として、前記硫黄と多孔性炭素材を単純混合した後、熱処理して複合化する方法が利用されることができる。
【0088】
前記正極活物質は前述した組成以外に遷移金属元素、IIIA族元素、IVA族元素、これらの元素の硫黄化合物、及びこれらの元素と硫黄の合金の中で選択される一つ以上の添加剤をさらに含むことができる。
【0089】
前記遷移金属元素としては、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、AuまたはHgなどが含まれ、前記IIIA族元素としてはAl、Ga、In、Tlなどが含まれ、前記IVA族元素としてはGe、Sn、Pbなどが含まれることができる。
【0090】
前記正極活物質は前記正極を構成する正極活物質層全体100重量%を基準にして40ないし95重量%、好ましくは50ないし90重量%で含むことができる。前記正極活物質の含量が前記範囲未満の場合、正極の電気化学的反応を十分発揮しにくく、これと逆に前記範囲を超える場合、後述する導電材とバインダーの含量が相対的に不足して正極の抵抗が上昇し、正極の物理的性質が低下する問題がある。
【0091】
前記正極活物質層は選択的に電子が正極(具体的には正極活物質)内で円滑に移動できるようにするための導電材及び正極活物質を集電体によく付着させるためのバインダーをさらに含むことができる。
【0092】
前記導電材は電解質と正極活物質とを電気的に連結させて集電体(current collector)から電子が正極活物質まで移動する経路の役目をする物質であって、導電性を持つものであれば制限せずに使用することができる。
【0093】
例えば、前記導電材としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;スーパーP(Super‐P)、デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素ナノチューブ、フラーレンなどの炭素誘導体;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末またはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールなどの伝導性高分子を単独または混合して使用することができる。
【0094】
前記導電材は前記正極を構成する正極活物質層全体100重量%を基準にして0.01ないし30重量%で含むことができる。前記導電材の含量が前記範囲未満であれば正極活物質と集電体との間の電子伝達が容易でないため電圧及び容量が減少する。これと逆に、前記範囲を超えると、相対的に正極活物質の割合が減少して電池の総エネルギー(電荷量)が減少することがあるので、上述した範囲内で適正含量を決めることが好ましい。
【0095】
前記バインダーは正極活物質を正極集電体に維持させ、正極活物質の間を有機的に連結させてこれらの間の結着力をより高めるもので、当該業界で公知された全てのバインダーを使用することができる。
【0096】
例えば、前記バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride、PVdF)またはポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)を含むフッ素樹脂系バインダー;スチレン‐ブタジエンゴム(styrene butadiene rubber、SBR)、アクリロニトリル‐ブチジエンゴム、スチレン‐イソプレンゴムを含むゴム系バインダー;カルボキシメチルセルロース(carboxyl methyl cellulose、CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロースを含むセルロース系バインダー;ポリアルコール系バインダー;ポリエチレン、ポリプロピレンを含むポリオレフィン系バインダー;ポリイミド系バインダー;ポリエステル系バインダー;及びシラン系バインダー;からなる群から選択された1種、2種以上の混合物または共重合体を使用することができる。
【0097】
前記バインダーの含量は前記正極を構成する正極活物質層全体100重量%を基準にして0.5ないし30重量%である。前記バインダーの含量が前記範囲未満であれば、正極の物理的性質が低下して正極活物質と導電材が脱落することがあるし、前記範囲を超えると、正極で正極活物質と導電材との割合が相対的に減少して電池容量が減少することがあるので、上述した範囲内で適正含量を決めることが好ましい。
【0098】
本発明において、前記正極の製造方法は特に限定されないし、通常の技術者によって公知の方法またはこれを変形する多様な方法が利用可能である。
【0099】
一例として、前記正極は上述した組成を含む正極スラリー組成物を製造した後、これを前記正極集電体の少なくとも一面に塗布することで製造されたものである。
【0100】
前記正極スラリー組成物は、前述した正極活物質、導電材及びバインダーを含み、この他の溶媒をさらに含むことができる。
【0101】
前記溶媒としては、正極活物質、導電材及びバインダーを均一に分散させることができるものを使用する。このような溶媒では、水系溶媒として水が最も好ましく、この時、水は蒸溜水(distilled water)、脱イオン水(deionzied water)である。ただし、必ずこれに限定することではなく、必要な場合、水と容易に混合可能な低級アルコールが使用されることができる。前記低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノールなどがあり、好ましくはこれらは水と一緒に混合して使用されることができる。
【0102】
前記溶媒の含量はコーティングを容易にすることできる程度の濃度を持つ水準で含有されることができるし、具体的な含量は塗布方法及び装置によって変わる。
【0103】
前記正極スラリー組成物は、必要に応じて該当技術分野でその機能の向上などを目的として通常使用される物質を必要に応じてさらに含むことができる。例えば、粘度調整剤、流動化剤、充填剤などを挙げることができる。
【0104】
前記正極スラリー組成物の塗布方法は本発明で特に限定せず、例えば、ドクターブレード(doctor blade)、ダイキャスティング(die casting)、コンマコーティング(comma coating)、スクリーンプリンティング(screen printing)などの方法を挙げることができる。また、別途基材(substrate)上に成形した後、プレッシング(pressing)またはラミネーション(lamination)方法によって正極スラリーを正極集電体上に塗布することもできる。
【0105】
前記塗布後、溶媒を除去するための乾燥工程を行うことができる。前記乾燥工程は溶媒を充分に取り除くことができる水準の温度及び時間で行い、その条件は溶媒の種類によって変わることがあるので、本発明で特に制限されない。一例として、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線及び電子線などの照射による乾燥法を挙げることができる。乾燥速度は通常応力集中によって正極活物質層に亀裂が生じたり、正極活物質層が正極集電体から剥離されない程度の速度範囲内で、できるだけ速く溶媒を取り除くように調整する。
【0106】
さらに、前記乾燥後、集電体をプレスすることで正極内で正極活物質の密度を高めることもできる。プレス方法では金型プレス及びロールプレスなどの方法を挙げることができる。
【0107】
前述した組成及び製造方法で製造された前記正極、具体的に正極活物質層の気孔率は50ないし80%、好ましくは60ないし75%である。前記正極の気孔率が50%に及べない場合は、正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極スラリー組成物の充填率が高すぎて正極活物質の間にイオン伝導及び/または電気伝導を示すことができる十分な電解質が維持されなくなって電池の出力特性やサイクル特性が低下することがあるし、電池の過電圧及び放電容量の減少がひどくなる問題がある。これと逆に、前記正極の気孔率が80%を超えて高すぎる気孔率を持つ場合、集電体と物理的及び電気的連結が低くなって接着力が低下し、反応が難しくなる問題があり、高くなった気孔率を電解質が充填されて電池のエネルギー密度が低くなる問題があるので、前記範囲で適切に調節する。
【0108】
また、本発明による正極で硫黄ローディング量、すなわち、正極内で正極活物質層の単位面積当たり硫黄の質量は0.5ないし15mg/cm2、好ましくは1ないし10mg/cm2である。
【0109】
前記負極は前述した内容にしたがう。
【0110】
前記電解質はリチウムイオンを含み、これを媒介にして正極と負極で電気化学的酸化または還元反応を起こすためのものである。
【0111】
前記電解質はリチウム金属と反応しない非水電解液または固体電解質が可能であるが、好ましくは非水電解質であり、電解質塩及び有機溶媒を含む。
【0112】
前記非水電解液に含まれる電解質塩はリチウム塩である。前記リチウム塩は、リチウム二次電池用電解液に通常使用されるものであれば制限されずに使用されることができる。例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、LiN(SO2F)2、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルホン酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム、リチウムイミドなどが使用されることができる。
【0113】
前記リチウム塩の濃度は電解質溶媒混合物の正確な組成、塩の溶解度、溶解された塩の伝導性、電池の充電及び放電条件、作業温度及びリチウムバッテリー分野に公知された他の要因のような多くの要因によって、0.2ないし2M、具体的に0.4ないし2M、さらに具体的に0.4ないし1.7Mである。前記リチウム塩の濃度が0.2M未満で使用すれば電解質の伝導率が低くなって電解質の性能が低下することがあるし、2Mを超えて使用すれば電解質の粘度が増加してリチウムイオンの移動性が減少することがある。
【0114】
前記非水電解液に含まれる有機溶媒では、リチウム二次電池用電解液に通常使用されるものなどを制限せずに使用することができるし、例えば、エーテル、エステル、アミド、線形カーボネート、環形カーボネートなどをそれぞれ単独で、または2種以上混合して使用することができる。その中で代表的にはエーテル系化合物を含むことができる。
【0115】
前記エーテル系化合物は、非環形エーテル及び環形エーテルを含むことができる。
【0116】
例えば、前記非環形エーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、エチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールメチルエチルエーテルからなる群から選択される1種以上が使用されることができるが、これに限定されるものではない。
【0117】
一例として、前記環形エーテルは、1,3‐ジオキソラン、4,5‐ジメチル‐ジオキソラン、4,5‐ジエチル‐ジオキソラン、4‐メチル‐1,3‐ジオキソラン、4‐エチル‐1,3‐ジオキソラン、テトラハイドロフラン、2‐メチルテトラハイドロフラン、2,5‐ジメチルテトラハイドロフラン、2,5‐ジメトキシテトラハイドロフラン、2‐エトキシテトラハイドロフラン、2‐メチル‐1,3‐ジオキソラン、2‐ビニル‐1,3‐ジオキソラン、2,2‐ジメチル‐1,3‐ジオキソラン、2‐メトキシ‐1,3‐ジオキソラン、2‐エチル‐2‐メチル‐1,3‐ジオキソラン、テトラハイドロピラン、1,4‐ジオキサン、1,2‐ジメトキシベンゼン、1,3‐ジメトキシベンゼン、1,4‐ジメトキシベンゼン、イソソルビドジメチルエーテル(isosorbide dimethyl ether)からなる群から選択される1種以上が使用されることができるが、これに限定されるものではない。
【0118】
前記有機溶媒の中でエステルとしては、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネイト、エチルプロピオネイト、プロピルプロピオネイト、γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトン、γ‐カプロラクトン、σ‐バレロラクトン及びε‐カプロラクトンからなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の混合物を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0119】
前記線形カーボネート化合物の具体的な例としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート及びエチルプロピルカーボネートからなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の混合物などが代表的に使用されることができるが、これに限定されるものではない。
【0120】
また、前記環形カーボネート化合物の具体的な例としては、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)、1,2‐ブチレンカーボネート、2,3‐ブチレンカーボネート、1,2‐ペンチレンカーボネート、2,3‐ペンチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート及びこれらのハロゲン化物からなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の混合物がある。これらのハロゲン化物としては、例えば、フルオロエチレンカーボネートなどがあり、これに限定されるものではない。
【0121】
前記電解質は前述した電解質塩と有機溶媒以外に添加剤として硝酸または亜硝酸系化合物をさらに含むことができる。前記硝酸または亜硝酸系化合物は、負極であるリチウム金属電極に安定的な被膜を形成し、充/放電効率を向上させる効果がある。
【0122】
このような硝酸または亜硝酸系化合物では、本発明で特に限定しないが、硝酸リチウム(LiNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、硝酸セシウム(CsNO3)、硝酸バリウム(Ba(NO3)2)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)、亜硝酸リチウム(LiNO2)、亜硝酸カリウム(KNO2)、亜硝酸セシウム(CsNO2)、亜硝酸アンモニウム(NH4NO2)などの無機系硝酸または亜硝酸化合物;メチルニトラート、ジアルキルイミダゾリウムニトラート、グアニジンニトラート、イミダゾリウムニトラート、ピリジニウムニトラート、エチルニトラート、プロピルニトラート、ブチルニトラート、ペンチルニトラート、オクチルニトラートなどの有機系硝酸または亜硝酸化合物;ニトロメタン、ニトロプロパン、ニトロブタン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、ニトロピリジン、ジニトロピリジン、ニトロトルエン、ジニトロトルエンなどの有機ニトロ化合物及びこれらの組み合わせからなる群から選択された1種が可能であり、好ましくは硝酸リチウムを使用する。
【0123】
前記電解質の注入は最終製品の製造工程及び要求物性によって、電気化学素子の製造工程中適切な段階で行われることができる。すなわち、電気化学素子の組み立て前または電気化学素子の組み立て最終段階などで適用されることができる。
【0124】
前記正極と負極の間にはさらに分離膜が含まれることができる。
【0125】
前記分離膜は前記正極と負極を互いに分離または絶縁させ、正極と負極との間にリチウムイオンの輸送を可能とすることで多孔性非伝導性または絶縁性物質からなることができる。前記分離膜は通常リチウム二次電池で分離膜として使用されるものであれば特に制限せずに使用可能である。前記分離膜はフィルムのような独立的な部材であってもよく、正極及び/または負極に付加されたコーティング層であってもよい。
【0126】
前記分離膜では電解質のイオン移動に対して低抵抗でありながら、電解質に対する含湿能力に優れるものが好ましい。
【0127】
前記分離膜は多孔性基材からなることができるが、前記多孔性基材は通常リチウム‐硫黄電池に使用される多孔性基材であれば、いずれも使用可能であり、多孔性高分子フィルムを単独でまたはこれらを積層して使用することができるし、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布またはポリオレフィン系多孔性膜を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0128】
前記多孔性基材の材質では、本発明で特に限定せず、通常的にリチウム二次電池に使用される多孔性基材であれば、いずれも使用可能である。例えば、前記多孔性基材は、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)などのポリオレフィン(polyolefin)、ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterephthalate)、ポリブチレンテレプタレート(polybutyleneterephthalate)などのポリエステル(polyester)、ポリアミド(polyamide)、ポリアセタール(polyacetal)、ポリカーボネート(polycarbonate)、ポリイミド(polyimide)、ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone)、ポリフェニレンオキサイド(polyphenyleneoxide)、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylenesulfide)、ポリエチレンナフタレン(polyethylenenaphthalate)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、セルロース(cellulose)、ナイロン(nylon)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾ―ル(poly(p‐phenylene benzobisoxazole)及びポリアリレート(polyarylate)からなる群から選択された1種以上の材質を含むことができる。
【0129】
前記多孔性基材の厚さは特に制限されないが、1ないし100μm、好ましくは5ないし50μmである。前記多孔性基材の厚さ範囲が前述した範囲に限定されるものではないが、厚さが前述した下限より薄すぎる場合は、機械的物性が低下されて電池使用中に分離膜が容易に損傷されることがある。
【0130】
前記多孔性基材に存在する気孔の平均直径及び気孔率も特に制限されないが、それぞれ0.001ないし50μm及び10ないし95%である。
【0131】
本発明によるリチウム二次電池は、一般的工程である巻取(winding)以外にもセパレーターと電極の積層(lamination、stack)及びフォールディング(folding)工程が可能である。
【0132】
前記リチウム二次電池の形状は特に制限されず、円筒状、積層型、コイン型など多様な形状にすることができる。
【0133】
また、本発明は前記リチウム二次電池を単位電池で含む電池モジュールを提供する。
【0134】
前記電池モジュールは高温安定性、長いサイクル特性及び高い容量特性などが要求される中大型デバイスの電源で使用されることができる。
【0135】
前記中大型デバイスの例としては、電池的モーターによって動力を受けて動くパワーツール(power tool);電気自動車(electric vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)、プラグ‐インハイブリッド電気自動車(plug‐in hybrid electric vehicle、PHEV)などを含む電気車;電気自転車(E‐bike)、電気スクーター(E‐scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート(electric golf cart);電力貯蔵用システムなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0136】
以下、本発明を理解しやすくするために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは当業者にとって自明であり、このような変形及び修正が添付の特許請求範囲に属することも当然である。
【0137】
実施例及び比較例
[実施例1]
厚さが60μmのリチウム金属薄膜の表面にフルオロエチレンカーボネート10mlを噴射した後、これを常温(25℃)でロールプレス機器で圧延し、80℃の真空オーブンで12時間乾燥してリチウム金属薄膜の表面にフッ化リチウム保護層が形成された厚さ45μmのリチウム金属電極を製造した。
【0138】
[実施例2]
正極活物質で硫黄‐炭素複合体(S:C=75:25(重量比))90.0重量%、導電材でデンカブラック5.0重量%、バインダーでスチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロース(SBR:CMC=70:30(重量比))5.0重量%を混合して正極スラリー組成物を製造した。
【0139】
20μm厚さのアルミニウム集電体上に前記製造された正極スラリー組成物を塗布して50℃で12時間乾燥してロールプレス(roll press)機器で圧搾して正極を製造した。この時、正極活物質のローディング量は5.4mAh/cm2以下であって、正極の気孔率は68%であった。
【0140】
前記製造された正極と前記実施例1で製造したリチウム金属電極を対面するように位置させ、その間に厚さ20μm、気孔率68%のポリエチレン分離膜を介在した後、電解質0.1mlを注入してリチウム二次電池を製造した。
【0141】
この時、電解質では1,3‐ジオキソランとジメチルエーテル(DOL:DME=1:1(体積比))からなる有機溶媒に1.0M濃度のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)と1.0重量%の硝酸リチウム(LiNO3)を溶解させた混合液を使用した。
【0142】
[比較例1]
フッ化リチウム保護層を形成しない厚さ45μmのリチウム金属薄膜でリチウム金属電極を製造した。
【0143】
[比較例2]
厚さ45μmのリチウム金属薄膜をフルオロエチレンカーボネートに1時間浸漬させた後、80℃の真空オーブンで12時間乾燥し、リチウム金属薄膜の表面にフッ化リチウム保護層が形成されたリチウム金属電極を製造した。
【0144】
[比較例3]
実施例1のリチウム金属電極の代わりに比較例1のリチウム金属電極を使用したことを除いては、前記実施例2と同様に行ってリチウム二次電池を製造した。
【0145】
[比較例4]
実施例1のリチウム金属電極の代わりに比較例2のリチウム金属電極を使用したことを除いては、前記実施例2と同様に行ってリチウム二次電池を製造した。
【0146】
実験例1.X‐線光電子分光分析
実施例1及び比較例1ないし2で製造したリチウム金属電極の表面に対してX‐線光電子分光(X‐ray photoelectron spectroscopy、XPS)分析を遂行した。前記分析に利用されたXPS装置はThermo Fieher scientific社のK‐ALPHAで、この時エッチング速度は0.09nm/sで、得られたデータはAvantage softwareを利用して分析した。この時、得られた結果は表1ないし3と、
図1ないし3に示す。
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
図1及び表1はフッ化保護層のXPSスペクトラ(spextra)を示すもので、実施例1の場合、比較例2対比フッ素含量が1.6倍高いことを確認することができる。
【0151】
また、
図2ないし3及び表2ないし3は、フッ化リチウム保護層のXPS深さ分析(depth profiling)を示すもので、フッ化リチウム保護層が実施例1の場合90nm(エッチング時間:1000s)である一方、比較例2の場合18nm(エッチング時間:200s)であることが分かる。
【0152】
このような結果より本発明の製造方法によって製造されたリチウム金属電極はフッ素含量が高いながら厚いフッ化リチウム保護層が形成されることを確認することができる。
【0153】
実験例2.電池性能評価
実施例2及び比較例3ないし4で製造した電池に対し、充/放電測定装置(LAND CT‐2001A、武漢(Wuhan)社製品)を使用して性能を評価した。
【0154】
具体的に、25℃で放電電流速度を0.5Cで設定した後、充電/放電を110サイクル繰り返して容量及び寿命特性を測定した。この時、得られた結果は表4及び
図4に示す。
【0155】
【0156】
図4及び表4に現わしたところのように、実施例2による電池の場合、全般的な性能が比較例3ないし4の電池に比べて優れることが分かる。
【0157】
具体的に、
図4及び表4を通じて本発明によって製造されたフッ化リチウム保護層を含むリチウム金属電極を使用した実施例2の電池の場合、フッ化リチウム保護層を含まないリチウム金属電極を使用した比較例3及び従来の浸漬方法でフッ化リチウム保護層を形成したリチウム金属電極を使用した比較例4に比べて容量及びこの維持率が高いことを確認することができる。
【0158】
このような結果より、本発明の製造方法によって製造されたリチウム金属電極を含むリチウム二次電池の場合、優れる容量及び寿命特性を示すことが分かる。