(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ドラムブレーキおよび制動部材
(51)【国際特許分類】
F16D 65/08 20060101AFI20240815BHJP
F16D 69/00 20060101ALI20240815BHJP
F16D 51/24 20060101ALI20240815BHJP
F16D 51/50 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
F16D65/08
F16D69/00 G
F16D51/24
F16D51/50
(21)【出願番号】P 2023533576
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2022026163
(87)【国際公開番号】W WO2023282165
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2021113249
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 英昭
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-210395(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0211643(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0202806(US,A1)
【文献】特開昭52-018583(JP,A)
【文献】国際公開第02/084139(WO,A1)
【文献】特開2003-172385(JP,A)
【文献】特開平10-274264(JP,A)
【文献】特開昭63-026437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/08
F16D 69/00
F16D 51/24
F16D 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムブレーキであって、該ドラムブレーキは、
車輪とともに回転するドラムロータの内周面に押圧されることにより、前記ドラムロータを制動する制動部材であって、
前記ドラムロータの回転方向において、前記ドラムロータの内周面と対向する円弧状の摩擦材
と、
前記摩擦材の外径の中心は、前記ドラムロータの内径の中心に対しオフセットされ、
前記ドラムロータの回転方向において、前記摩擦材の一端部である第1ライニング部と、
前記ドラムロータの回転方向において、前記摩擦材の他端部である第2ライニング部と、
前記ドラムロータの回転方向において、前記一端部と前記他端部との間に位置し、かつ、前記第1ライニング部および前記第2ライニング部よりも摩耗が早くなるように作られた第3ライニング部と、を有する前記制動部材と、
前記制動部材を支持し、車両の非回転部に固定されるバックプレートと、
前記制動部材を前記ドラムロータの内周面に押圧させるアクチュエータ部と、
を備えるドラムブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載のドラムブレーキであって、
前記第1ライニング部は第1ライニング材であり、前記第2ライニング部は第2ライニング材であり、前記第3ライニング部は第3ライニング材であり、
前記第1ライニング材と前記第3ライニング材との間には所定の第1隙間部があり、
前記第2ライニング材と前記第3ライニング材との間には所定の第2隙間部がある、
ドラムブレーキ。
【請求項3】
請求項2に記載のドラムブレーキであって、
前記第1隙間部は、前記ドラムロータの内周面の側からみて、前記第2隙間部と異なる形状である、
ドラムブレーキ。
【請求項4】
請求項1に記載のドラムブレーキであって、
前記第3ライニング部は、前記第1ライニング部および前記第2ライニング部に対して材料の配合成分または配合比率が異なる、
ドラムブレーキ。
【請求項5】
請求項1に記載のドラムブレーキであって、
前記第3ライニング部における気孔率は、前記第1ライニング部および前記第2ライニング部における気孔率に対して高い、
ドラムブレーキ。
【請求項6】
請求項1に記載のドラムブレーキであって、
前記第3ライニング部の外周面には、溝部が設けられている、
ドラムブレーキ。
【請求項7】
請求項6に記載のドラムブレーキであって、
前記溝部における深さ方向の溝幅は、前記第3ライニング部の外周面から、前記ドラムロータの回転中心の方向に向かって徐々に狭くなる、
ドラムブレーキ。
【請求項8】
請求項7に記載のドラムブレーキであって、
前記溝部は複数の溝を備え、
前記複数の溝は、各溝における深さおよび溝幅が異なる、
ドラムブレーキ。
【請求項9】
請求項1に記載のドラムブレーキであって、
前記アクチュエータ部は、制動力を保持するパーキングブレーキ機構を備える、
ドラムブレーキ。
【請求項10】
請求項9に記載のドラムブレーキであって、
前記パーキングブレーキ機構は、電動モータの回転力によって作動する、
ドラムブレーキ。
【請求項11】
請求項10に記載のドラムブレーキであって、
前記パーキングブレーキ機構は、デュオサーボ型として作動する、
ドラムブレーキ。
【請求項12】
請求項11に記載のドラムブレーキであって、
前記アクチュエータ部は、
前記一端部の側に液圧で作動するホイルシリンダを備え、
前記他端部の側に前記パーキングブレーキ機構を備え、
サービスブレーキ作動時には、リーディングトレーリング型として作動する、
ドラムブレーキ。
【請求項13】
車輪とともに回転するドラムロータの内周面に押圧されることにより、前記ドラムロータを制動する制動部材であって、
前記制動部材は、
前記ドラムロータの回転方向において、前記ドラムロータの内周面と対向する円弧状の摩擦材
と、
前記摩擦材の外径の中心は、前記ドラムロータの内径の中心に対しオフセットされ、
前記ドラムロータの回転方向において、前記摩擦材の一端部である第1ライニング部と、
前記ドラムロータの回転方向において、前記摩擦材の他端部である第2ライニング部と、
前記ドラムロータの回転方向において、前記一端部と前記他端部との間に位置し、かつ、前記第1ライニング部および前記第2ライニング部よりも摩耗が早くなるように作られた第3ライニング部と、
を備える制動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドラムブレーキおよび制動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ドラムブレーキのブレーキシューが開示されている。このブレーキシューは、ライニングとブレーキドラムとの接触面(摩擦面)における「接触角θ2」と「摩擦角θ1=tan-11/μ」との関係を、全ての接触面で「θ1≧θ2」となるように、摩擦係数μの異なる複数種類のライニングピースをシュー本体に貼着している。この場合、接触角θ2の小さいブレーキシューの中央部においては、摩擦係数の大きいライニングピースとし、接触角θ2の大きいトー部、ヒール部等の端部近傍においては、摩擦係数の小さいライニングピースとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ブレーキ鳴きの発生を阻止するために、摩擦係数μの異なる複数種類のライニングピースをシュー本体に貼着しているが、ライニングの当り付けの点は何ら考慮されていない。内拡式のドラムブレーキの場合、ライニングの馴らし前で当り付けが不十分な状態においては、ブレーキファクタ(BF)が小さいため、当り付けが完了した状態で必要な入力よりも大きな入力が必要になる。これにより、ブレーキの効きを確保するが、当り付けの時間が長くなると、当り付けが完了するまでのブレーキファクタにバラツキが生じるおそれがある。
【0005】
本発明の目的の一つは、当り付けの時間を短くして使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制することができるドラムブレーキおよび制動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、車輪とともに回転するドラムロータの内周面に押圧されることにより、前記ドラムロータを制動する制動部材であって、前記ドラムロータの回転方向において、前記ドラムロータの内周面と対向する円弧状の摩擦材と、前記摩擦材の外径の中心は、前記ドラムロータの内径の中心に対しオフセットされ、前記ドラムロータの回転方向において、前記摩擦材の一端部である第1ライニング部と、前記ドラムロータの回転方向において、前記摩擦材の他端部である第2ライニング部と、前記ドラムロータの回転方向において、前記一端部と前記他端部との間に位置し、かつ、前記第1ライニング部および前記第2ライニング部よりも摩耗が早くなるように作られた第3ライニング部と、を有する制動部材と、前記制動部材を支持し、車両の非回転部に固定されるバックプレートと、前記制動部材を前記ドラムロータの内周面に押圧させるアクチュエータ部と、を備えるドラムブレーキである。
【0007】
また、本発明の一実施形態は、車輪とともに回転するドラムロータの内周面に押圧されることにより、前記ドラムロータを制動する制動部材であって、前記ドラムロータの回転方向において、前記ドラムロータの内周面と対向する円弧状の摩擦材と、前記摩擦材の外径の中心は、前記ドラムロータの内径の中心に対しオフセットされ、前記ドラムロータの回転方向において、前記摩擦材の一端部である第1ライニング部と、前記ドラムロータの回転方向において、前記摩擦材の他端部である第2ライニング部と、前記ドラムロータの回転方向において、前記一端部と前記他端部との間に位置し、かつ、前記第1ライニング部および前記第2ライニング部よりも摩耗が早くなるように作られた第3ライニング部と、を備える制動部材である。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、当り付けの時間を短くして使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態によるドラムブレーキを示す正面図。
【
図2】
図1中の制動部材(ブレーキシュー)を単体で示す拡大図。
【
図4】制動部材を
図3中のIV-IV方向から見た断面図。
【
図5】第2の実施形態による制動部材を
図4と同様の方向から見た断面図。
【
図6】制動部材を
図5中のVI-VI方向から見た断面図。
【
図7】第3の実施形態によるドラムブレーキを示す正面図。
【
図8】パーキングブレーキを作動させた状態で
図7中のドラムブレーキの下半部を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態によるドラムブレーキおよび制動部材を、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。
【0011】
図1ないし
図4は、第1の実施形態を示している。
図1において、ドラムインディスクブレーキ装置1は、パーキングブレーキ用のドラムブレーキ2を備えたディスクブレーキ3である。換言すれば、ドラムインディスクブレーキ装置1は、ドラムブレーキ2とディスクブレーキ3とを一体的に備えたブレーキ装置である。
【0012】
ドラムインディスクブレーキ装置1は、例えば、図示しない車両(自動車)の後輪側に設けられ、車両に制動力(例えば、ディスクブレーキ3によるサービスブレーキ、ドラムブレーキ2によるパーキングブレーキ)を付与する。この場合、ドラムインディスクブレーキ装置1は、被制動部材としてのドラムインディスクロータ(図示せず)を介して車両に制動力を付与する。ドラムインディスクロータは、例えば、車輪(後輪)を回転可能に支持する車輪ハブユニット(図示せず)に取付けられており、車輪と共に回転する。
【0013】
ドラムインディスクロータは、例えば、全体として鍔付き円筒状に形成されおり、円環状(ディスク状)のディスクロータと、このディスクロータの内径側に一体に設けられた円筒状(ドラム状)のドラムロータD(
図2参照)とを備えている。ドラムインディスクロータのディスクロータには、ディスクブレーキ3の制動部材(ブレーキパッド4)が押し付けられる。ドラムインディスクロータのドラムロータDには、ドラムブレーキ2の制動部材(ブレーキシュー13,14)が押し付けられる。これにより、ドラムインディスクロータ、即ち、ディスクロータおよびドラムロータDと共に回転する車輪(例えば、後輪)に制動力が付与される。
【0014】
ドラムインディスクブレーキ装置1は、ドラムインディスクロータの外周側に配置されるディスクブレーキ3と、ドラムインディスクロータの内周側に配置されるドラムブレーキ2とを備えている。ディスクブレーキ3は、液圧により一対のブレーキパッド4(一方のみ図示)をディスクロータの両側面に押圧して制動力を付与する液圧式のブレーキ機構である。ディスクブレーキ3は、例えば、キャリアと呼ばれる取付部材5と、ホイルシリンダとしてのキャリパ6と、制動部材(摩擦部材)としての一対のブレーキパッド4と、押圧部材としてのピストン(図示せず)とを備えている。
【0015】
取付部材5は、車両の非回転部に固定されており、ディスクロータの外周側を跨いで配置されている。キャリパ6は、ディスクロータの軸方向への移動を可能に取付部材5に設けられている。キャリパ6は、ピストンが挿嵌されるシリンダ本体部7と、このシリンダ本体部7にブリッジ部8を介して接続される爪部9とを含んで構成されている。ブレーキパッド4は、取付部材5に移動可能に取付けられており、ディスクロータに当接可能に配置されている。
【0016】
ピストンは、ブレーキパッド4をディスクロータに押圧する。キャリパ6には、ブレーキペダルの操作等に基づいて液圧(ブレーキ液圧)が供給(付加)される。これにより、一対のブレーキパッド4は、ピストンとキャリパ6の爪部9とによりディスクロータの両面に押圧され、ディスクロータと共に回転する車輪(例えば、後輪)に制動力が付与される。
【0017】
ドラムブレーキ2は、ブレーキケーブル21により一対のブレーキシュー13,14をドラムロータDの内周面に押圧して制動力を付与するケーブル式のブレーキ機構である。ドラムブレーキ2は、デュオサーボ型(DS型)のパーキングブレーキ用ドラムブレーキとして構成されている。ドラムブレーキ2は、バックプレート11と、アンカ12と、プライマリブレーキシュー13(以下、プライマリシュー13ともいう)と、セカンダリブレーキシュー14(以下、セカンダリシュー14ともいう)と、ストラット15と、アジャスタ16と、第1スプリング17と、第2スプリング18と、第3スプリング19と、レバー20と、ブレーキケーブル21とを備えている。
【0018】
バックプレート11は、略円環形状に形成されており、車両の非回転部に固定される。バックプレート11は、ドラムロータDの開口を覆うように車両の車体側に取付けられる。バックプレート11は、中央に車輪ハブユニットを挿通させる挿通孔11Aが設けられている。バックプレート11の外周側には、ドラムインディスクロータのディスクロータを保護するディスクカバー22が設けられている。
【0019】
バックプレート11には、それぞれが制動部材であるプライマリシュー13とセカンダリシュー14とが対向して配置されている。この場合、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14は、先端部となる一端側(
図1の上端側)が基端側となる他端側(
図1の下端側)を回動支点として拡開可能にバックプレート11に設けられている。即ち、バックプレート11は、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14を支持している。バックプレート11の一端側(
図1の上端側)には、アンカ12が設けられている。
【0020】
プライマリシュー13およびセカンダリシュー14の一端側は、アンカ12に離間可能に支承されている。プライマリシュー13の一端側とアンカ12との間、および、セカンダリシュー14の一端側とアンカ12との間には、それぞれ戻しばねとなる第1スプリング17が設けられている。プライマリシュー13の一端側およびセカンダリシュー14の一端側は、第1スプリング17によってアンカ12側に向けて付勢されている。
【0021】
また、プライマリシュー13の一端側とセカンダリシュー14の一端側との間には、ストラット15が設けられている。ストラット15の両端は、プライマリシュー13の一端側とセカンダリシュー14の一端側とにそれぞれ係合している。ストラット15の一端(
図1の左端)とプライマリシュー13との間には、第2スプリング18が設けられている。
【0022】
一方、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14の他端側は、伸縮調整可能なアジャスタ16によって揺動可能に支承されている。アジャスタ16は、プライマリシュー13の他端側とセカンダリシュー14の他端側との間隙を調節することができる。また、プライマリシュー13の他端側とセカンダリシュー14の他端側との間には、第3スプリング19が設けられている。プライマリシュー13の他端側とセカンダリシュー14の他端側は、第3スプリング19によって互いに近づく方向に付勢されている。
【0023】
プライマリシュー13およびセカンダリシュー14は、ドラムロータDの内周面に押圧されることにより、ドラムロータDを制動する。プライマリシュー13およびセカンダリシュー14は、何れも、シュー本体を構成するシューウェブ31およびシューリム32と、摩擦材33とを備えている。シューウェブ31は、バックプレート11の板面と略平行な平板状に形成されており、全体が円弧形状に湾曲している。シューリム32は、円弧形状のシューウェブ31の外周縁に設けられている。シューリム32は、全体が湾曲帯状に形成され、シューウェブ31の外周縁に沿って延びている。摩擦材33は、湾曲した板状に形成されており、ライニングまたはブレーキライニングとも呼ばれている。摩擦材33は、シュー本体を構成するシューリム32の外周面に設けられている。この場合、摩擦材33は、例えば接着剤によりシューリム32の外周面に固着されている。
【0024】
レバー20は、バックプレート11とセカンダリシュー14との間に設けられている。レバー20は、例えば、一端側(
図1の上端側)がセカンダリシュー14に枢支されている。レバー20の他端側(
図1の下端側)には、レバー20を牽引するブレーキケーブル21が連結されている。ブレーキケーブル21は、例えば、車両の運転席の近傍に設けられたパーキングレバー、または、足踏み式のパーキングペダルに接続されている。
【0025】
パーキングレバーまたはパーキングペダルが操作されることにより、ブレーキケーブル21が
図1の左方に向けて引かれると、セカンダリシュー14に軸支されたレバー20が回動し、セカンダリシュー14とプライマリシュー13との間に挟着されたストラット15を押し出す。これにより、プライマリシュー13とセカンダリシュー14とが拡開し、プライマリシュー13の摩擦材33の外周面およびセカンダリシュー14の摩擦材33の外周面がドラムロータDの内周面に押し当てられ、制動力が付与される。
【0026】
レバー20は、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14をドラムロータDの内周面に押圧させるアクチュエータ部に相当する。レバー20は、ブレーキケーブル21を介してラチェット機構を有するパーキング操作部(パーキングレバー、パーキングペダル)に接続されている。ラチェット機構は、牽引されたブレーキケーブル21を保持することができる。これにより、レバー20は、制動力を保持するパーキングブレーキ機構を備えている。パーキングブレーキ機構は、デュオサーボ型(DS型)としてドラムブレーキ2のプライマリシュー13およびセカンダリシュー14を作動する。
【0027】
ところで、一対のブレーキシューを拡開するシュー拡開装置を備えた内拡式のドラムブレーキの場合、ブレーキシューの馴らし前、即ち、ドラムロータに対するライニング(摩擦材)の当り付けが不十分な状態においては、ブレーキファクタ(BF)が小さい。このため、当り付けが不十分なときは、当り付けが完了した状態で必要とされる操作力(入力)よりも十分に大きな操作力を入力することによって、ブレーキの効きを確保する必要がある。特に、十分な当り付け状態で大きなブレーキファクタが得られるデュオサーボ型(DS型)のドラムブレーキにおいては、当り付け前と当り付け後とでは、ブレーキファクタの変化が大きい。このため、このようなデュオサーボ型のドラムブレーキを採用する場合は、車両組み立て直後の完成検査において、所定のパーキングブレーキ性能(制動力)を得るためには、大きな操作力が必要になる。
【0028】
より詳しく説明すると、ドラムブレーキの場合、セルフロック、即ち、馴らし前(当り付け前)にライニングのドラム回入側端部が先行してドラムに接触してセルフロックする可能性がある。これを避けるために、例えば、後述の
図2に示すように、ライニング張り角の中央付近から徐々に当りが付くように、ライニング外径をオフセット研磨することが考えられる。しかし、この場合、即ち、外径をオフセット研磨した一対のライニングを有するドラムブレーキの場合、車両組み立て直後の不十分な当り付け状態では、ブレーキファクタが小さく、ブレーキの効きを十分に確保しにくい。
【0029】
ブレーキファクタは、当り付けの進行に伴い、大きくなる。このため、ドラムブレーキのサイズ、ライニングの材質は、十分に当りが付いた状態でも効き過ぎにならないように決定する必要がある。これに対して、車両組み立て直後に実施されるブレーキ効力検査においては、所定の制動力(パーキングブレーキ性能等)を発揮する必要がある。このとき、小さいブレーキファクタを補うためには、大きな操作力が必要になる。
【0030】
手動によりパーキングブレーキを操作する場合は、使用に伴う当り付けの進行に合わせて、ブレーキファクタが向上するため、徐々に操作力(入力)を軽減することができる。これに対して、例えば、パーキングブレーキを電動で作動させる場合を考える。この場合には、当り付けの進行状況(ブレーキの効き向上具合)に合わせて、操作力(入力)を低減させるために、多数の検知機能、および、それに基づく複雑な操作力の制御プログラムが必要になる。即ち、電動パーキングブレーキの場合、当り付けの状態(ブレーキの効き具合)を精度よく操作力(入力)へ反映するためには、複雑な検知機能とそれに基づく操作力の制御が必要となる。
【0031】
しかも、電動パーキングブレーキの場合、使用初期に必要な大操作力を常用出力とすることが可能な電動駆動装置が必要になる。換言すれば、電動パーキングブレーキの場合、使用初期(大操作力)を規準とした大出力の電動駆動装置を用いる必要がある。これに加えて、大操作力を出力しても、ドラムブレーキの耐久性を確保できるように、頑丈なドラムブレーキを採用する必要がある。しかし、ドラムブレーキを採用する車両は、廉価型の車両、普及型の車両、小型の車両であるため、低コスト、軽量、省スペースが求められている。
【0032】
次に、車両組み立て工程において、ドラムブレーキの馴らし(当り付け)を行うことを考える。この場合、ライニングの過度な温度上昇を避けつつ適度な当り付け状態を得るためには、例えば、車両組み立て後から制動力を検査する完成検査工程までの間に、馴らし工程を複数回に分けて行うことが必要になる。このため、馴らしの時間、即ち、当り付けの時間を短くできることは、馴らし工程を低減できる面からも、好ましい。
【0033】
また、ドラムブレーキをサービスブレーキとして作動させる場合は、サービスブレーキ作動時のシューの移動量に合わせて作動するサービスブレーキ作動型オートアジャスタ機構によるTSCC(トータル・シュー・センター・クリアランス)の設定値を大きくする必要がある。即ち、十分に当りが付いていない低剛性の状態(シューの移動量が大きい状態)でブレーキを作動させたときでも、オートアジャスタ機構がオーバーアジャストしないように、TSCCの設定値を大きい値にする必要がある。これにより、ペダル操作量が長大化し、ペダルフィーリングの低下、オートホールドやオートリリースの作動時の応答性の低下に繋がる可能性もある。
【0034】
いずれにしても、ブレーキシューの当り付けの時間を短くして使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制することができれば、使用初期から必要な制動力を得るための操作力を低減できる。これにより、例えば、車両組み立て直後のブレーキ効力検査のときに、ドラムブレーキの操作力を低減できる。また、車両組み立て後から制動力を検査する完成検査工程までの間の馴らし工程(適度な当り付け状態を得るための作業)の回数を低減できる。これにより、十分に当りが付いた状態でも効き過ぎにならないようなドラムブレーキのサイズ、ライニングの材質を採用しても、車両組み立て直後のブレーキ効力検査での操作力を低減できる。さらに、電動パーキングブレーキの場合には、当り付けの状態を精度よく操作力に反映するための複雑な検知機能および制御が必要なくなることに加えて、電動駆動装置の出力性能を低減できる。これにより、ドラムブレーキの小型化、省スペース化、軽量化、低コスト化を図ることができる。
【0035】
そこで、実施形態では、ブレーキシュー(ライニング)の当り付けの時間を短くして使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制することができるように、次の構成を採用している。即ち、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14は、摩擦材33を含んで構成されている。
図2に示すように、摩擦材33の外径の中心Aは、ドラムブレーキの内径の中心Bに対してオフセット(偏心)している。この上で、摩擦材33のうち張り角中央付近のライニング部(第3ライニング部)が両端側のライニング部(第1ライニング部および第2ライニング部)よりも早く摩耗するように、摩擦材33の中央付近と両端側とで摩耗特性を異ならせている。
【0036】
この場合、摩擦材33の中央付近の摩耗率(単位滑り距離当たりの摩耗量)が両端側の摩耗率よりも大きくなるようにしている。より具体的には、摩擦材33の中央付近は、摩擦材33の両端側よりも少なくとも初期の摩耗率が大きくなっている。なお、プライマリシュー13の摩擦材33とセカンダリシュー14の摩擦材33は、同様の構成であるため、以下、主としてプライマリシュー13の摩擦材33について、
図1に加え
図2ないし
図4も参照しつつ説明する。
【0037】
図2および
図3に示すように、摩擦材33は、第1ライニング部である第1ライニング材34と、第2ライニング部である第2ライニング材35と、第3ライニング部である第3ライニング材36とを備えている。なお、実施形態では、摩擦材33をそれぞれ別々(別体)の3つのライニング材34,35,36により構成している。しかし、これに限らず、例えば、摩擦材を、1つのライニング材、即ち、第1ライニング部、第2ライニング部および第3ライニング部が一体となった1つのライニング材により構成してもよい。
【0038】
第1ライニング材34は、ドラムロータDの回転方向において、ドラムロータDの内周面と対向する円弧状の摩擦材33の一端部(例えば、
図1ないし
図3の上端部)である。第2ライニング材35は、ドラムロータDの回転方向において、摩擦材33の他端部(例えば、
図1ないし
図3の下端部)である。第3ライニング材36は、ドラムロータDの回転方向において、一端部と他端部との間(例えば、
図1ないし
図3の中間部)に位置している。第3ライニング材36は、第1ライニング材34および第2ライニング材35よりも摩耗が早くなるように作られている。
【0039】
第1の実施形態では、第3ライニング材36の摩耗が第1ライニング材34および第2ライニング材35よりも早くなるように、次の(A)または(B)の構成のうちの少なくとも一方を採用している。これにより、第3ライニング材36の少なくとも初期の摩耗率を、第1ライニング材34および第2ライニング材35の摩耗率よりも大きくしている。(A)第3ライニング材36は、第1ライニング材34および第2ライニング材35に対して材料の配合成分または配合比率が異なる。(B)第3ライニング材36における気孔率は、第1ライニング材34および第2ライニング材35における気孔率に対して高い。
【0040】
上記(B)の場合、第3ライニング材36は、例えば、成型時の圧縮圧力を低くして、気孔率を高くすることができる。また、例えば、第3ライニング材36に対してスコーチ処理(加熱処理)を行い、外周表面付近の気孔率を高くすることができる。この場合、即ち、スコーチ処理(加熱処理)を行うことにより摩耗率を大きくする場合には、表面部分、即ち、当り付けに必要な厚さの範囲に限定して摩耗を促進し易くできる。いずれにしても、ライニング材34,35,36の材料の配合成分、配合比率、気孔率(圧縮圧力、加熱処理)は、第3ライニング材36の摩耗が早くなるように設定することができる。即ち、材料の配合成分、配合比率、気孔率(圧縮圧力、加熱処理)は、当り付けの時間を短くして使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制できるように設定する。
【0041】
このように、第1の実施形態では、オフセット研磨した摩擦材33の張り角中央付近(第3ライニング材36)は、摩擦材33の両端付近(第1ライニング材34および第2ライニング材35)よりも早く摩耗する。このため、ドラムブレーキ2の使用初期から、摩擦材33の摺動面の広範囲にわたって、十分な当り付けができ、高い制動力を得ることができる。しかも、車両組み立て後に行われる馴らしの時間を短縮または省略することができる。このため、ディスクブレーキ3と組み合わせて使用されるパーキングブレーキ用のデュオサーボ型(DS型)のドラムブレーキ2のように、通常使用で摩耗(当り付け)が進行しにくいドラムブレーキでも、車両組み立て後に行われる馴らしの時間を短縮または省略することができる。
【0042】
また、使用初期から摩擦材33の交換時期まで、安定的に高い制動力が得られる。このため、運転席近傍のパーキングペダルまたはパーキングレバーを操作することにより、ドラムブレーキ2のアクチュエータとなるレバー20を作動させるときに、操作力が少なく済み、良好な操作感を得ることができる。また、例えば、パーキングブレーキを電動で作動させる構成を採用した場合、即ち、電動アクチュエータを用いて制動力(パーキングブレーキ)を付与する場合も、初期の効き不足を抑制できる。これにより、ドラムブレーキ2の耐久性を確保できることに加えて、小型化、軽量化を図ることもできる。
【0043】
さらに、使用初期から摩擦材33の摺動面(摩擦面、滑り面)の広範囲にわたって十分な当り付けができるため、ドラムブレーキ2の作動時にブレーキシュー13,14の撓みに費やされるアクチュエータ(レバー20)のストロークが減少し、高い剛性を得られる。また、使用初期から摩擦材33の交換時期まで、小入力から大入力まで安定的に高い剛性にできるため、オートアジャスタ機構によるTSCCの設定値を小さくできる。これにより、この面からも、アクチュエータ(レバー20)の無効ストロークを低減できる。この結果、運転席近傍のパーキングペダルまたはパーキングレバーによってアクチュエータ(レバー20)を作動させるときに、良好な操作感を得ることができる。また、例えば、電動アクチュエータを用いる場合は、応答性が向上するので、低減速比化による出力の向上、小型化、軽量化を図ることができる。
【0044】
また、第1の実施形態では、第1ライニング材34と第3ライニング材36との間に所定の第1隙間部37がある。第2ライニング材35と第3ライニング材36との間にも、所定の第2隙間部38がある。即ち、摩擦材33は、円周方向に3分割とし、かつ、それぞれのライニング材34,35,36の境界は、間隔をあけている。これにより、ライニング材34,35,36の境界には、溝となる隙間部37,38を設けている。第1の実施形態では、第1隙間部37と第2隙間部38とを同じ形状、より具体的には、同じ幅の直線形状で、かつ、ドラムロータDの回転方向に対する傾斜角度を同じとしている。
【0045】
しかし、これに限らず、例えば、第1隙間部37と第2隙間部38とを異なる形状としてもよい。即ち、第1隙間部37は、ドラムロータDの内周面の側からみて、第2隙間部38と異なる形状としてもよい。この場合、例えば、第1隙間部37と第2隙間部38の隙間(溝)の幅を異ならせることができる。また、第1隙間部37の角度と第2隙間部38の角度、即ち、摩擦材33の外周面側から見てドラムロータDの回転方向に対する傾斜角度を異ならせてもよい。また、第1隙間部37と第2隙間部38の形状として、例えば、一方を、直線、折れ線または曲線のいずれかとし、他方をこれとは異なる直線、折れ線または曲線としてもよい。
【0046】
いずれにしても、第1の実施形態では、摩擦材33がドラムロータDの回転方向に3分割されており、3つのライニング材34,35,36がシューリム32の外周面に張着されている。これと共に、ライニング材34,35,36の境界、即ち、第1ライニング材34と第3ライニング材36との境界および第2ライニング材35と第3ライニング材36との境界には、ドラムロータDの回転方向に対して斜めの溝となる隙間部37,38が設けられている。
【0047】
第1隙間部37と第2隙間部38は、排水のための隙間として用いることができる。即ち、水たまりの通過等に伴って、ドラムロータDと摩擦材33の摺動面との間に水が浸入したときに、この水を第1隙間部37と第2隙間部38とを通じて排出できる。これにより、排水性を向上でき、ウォーターフェードからのリカバリ性を向上できる。さらに、第1隙間部37と第2隙間部38とを異なる形状とした場合には、ライニング材34,35,36の取付け位置を規制できる。これにより、ライニング材34,35,36をシューリム32の外周面に組み付けるときに、間違ったライニング材を組み付けること(誤組み付け)を抑制できる。例えば、第1隙間部37の幅および傾斜角を第2隙間部38の幅および傾斜角よりも大きくすることにより、組立時の位置決め治具により誤組み防止を図ることができる。
【0048】
また、図示は省略するが、摩擦材を、1つのライニング材、即ち、第1ライニング部、第2ライニング部および第3ライニング部が一体となった1つのライニング材により構成してもよい。この場合には、例えば、第3ライニング部に対してスコーチ処理(加熱処理)を行うことにより、第3ライニング部の摩耗率を第2ライニング部および第3ライニング部の摩耗率よりも大きくできる。このように、摩擦材を1つのライニング材により構成した場合には、摩擦材の組み付け作業を容易にできる。また、ライニング材を変更することなく、第3ライニング部の当りの付き具合を調整可能にできる。
【0049】
実施形態によるドラムインディスクブレーキ装置1は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0050】
例えば、車両の運転者がブレーキペダルを踏込み操作すると、ディスクブレーキ3のキャリパ6に液圧(ブレーキ液圧)が供給(付加)され、車輪に制動力(サービスブレーキ)が付与される。このとき、キャリパ6内のブレーキ液圧の上昇に従ってピストンがブレーキパッド4に向けて摺動的に変位し、ピストンとキャリパ6の爪部9とにより一対のブレーキパッド4がディスクロータの両面に押し付けられる。これにより、ブレーキ液圧に基づく制動力が付与される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、キャリパ6内へのブレーキ液圧の供給が解除されることにより、ピストンがディスクロータから離れるように変位する。これによって、ブレーキパッド4がディスクロータから離間し、車両は非制動状態に戻される。
【0051】
次に、車両の運転者がパーキングレバーまたはパーキングペダルを操作すると、ドラムブレーキ2のレバー20に接続されたブレーキケーブル21が、
図1の左方に向けて引かれる。これにより、セカンダリシュー14に軸支されたレバー20が回動しつつストラット15を押し出すことにより、プライマリシュー13とセカンダリシュー14とが拡開する。この結果、プライマリシュー13の摩擦材33の外周面およびセカンダリシュー14の摩擦材33の外周面がドラムロータDの内周面に押し当てられ、制動力が付与される。この制動力(パーキングブレーキ)は、パーキングレバーまたはパーキングペダルに設けられたラチェット機構により保持される。制動力(パーキングブレーキ)を解除するときは、ラチェット機構の係合を解除することにより、パーキングレバーまたはパーキングペダルを戻す。これにより、レバー20が戻り、プライマリシュー13の摩擦材33およびセカンダリシュー14の摩擦材33がドラムロータDから離間する。
【0052】
ここで、第1の実施形態では、プライマリシュー13の摩擦材33およびセカンダリシュー14の摩擦材33は、ドラムロータDの回転方向の一端部である第1ライニング部(第1ライニング材34)と、他端部である第2ライニング部(第2ライニング材35)と、一端部と他端部との間に位置する第3ライニング部(第3ライニング材36)とを備えている。この上で、第3ライニング部(第3ライニング材36)は、第1ライニング部(第1ライニング材34)および第2ライニング部(第2ライニング材35)よりも摩耗が早くなるように作られている。このため、ドラムロータDにプライマリシュー13およびセカンダリシュー14を当り付けするときに、第3ライニング部(第3ライニング材36)の摩耗が早くなり、当り付けの時間を短くできる。これにより、使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制することができる。
【0053】
第1の実施形態では、第1ライニング部、第2ライニング部および第3ライニング部は、それぞれ別個の第1ライニング材34、第2ライニング材35および第3ライニング材36である。換言すれば、摩擦材33は、第1ライニング材34と第2ライニング材35と第3ライニング材36との少なくとも3個のライニング材に分割されている。この上で、第1ライニング材34と第3ライニング材36との間に第1隙間部37があり、第2ライニング材35と第3ライニング材36との間に第2隙間部38がある。これら第1隙間部37と第2隙間部38は、排水のための隙間として用いることができる。
【0054】
なお、第1隙間部37を第2隙間部38と異なる形状とした場合には、ライニング材34,35,36をシューリム32の外周面に組み付けるときに、間違ったライニング材34,35,36を組み付けること(誤組み付け)を抑制できる。
【0055】
第1の実施形態では、第3ライニング部(第3ライニング材36)は、第1ライニング部(第1ライニング材34)および第2ライニング部(第2ライニング材35)に対して材料の配合成分または配合比率が異なる。このため、材料の配合成分または配合比率を異ならせることにより、第3ライニング部(第3ライニング材36)の摩耗を促進し易くできる。
【0056】
第1の実施形態では、第3ライニング部(第3ライニング材36)における気孔率は、第1ライニング部(第1ライニング材34)および第2ライニング部(第2ライニング材35)における気孔率に対して高い。このため、第3ライニング部(第3ライニング材36)の密度を低くでき、第3ライニング部(第3ライニング材36)の摩耗を促進し易くできる。
【0057】
第1の実施形態では、アクチュエータ部となるレバー20は、ブレーキケーブル21を介してラチェット機構を有するパーキング操作部(パーキングレバー、パーキングペダル)に接続されている。これにより、レバー20は、制動力を保持するパーキングブレーキ機構を備えている。このため、パーキングブレーキとして用いるドラムブレーキ2の当り付けの時間を短くできる。
【0058】
第1の実施形態では、パーキングブレーキ機構(レバー20、ブレーキケーブル21、ラチェット機構)を含んで構成されるドラムブレーキ2は、デュオサーボ型(DS型)として作動する。このため、デュオサーボ型のパーキングブレーキとして用いるドラムブレーキ2の当り付けの時間を短くできる。
【0059】
なお、第1の実施形態では、ドラムブレーキ2をデュオサーボ型のパーキングブレーキとして構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、ドラムブレーキは、例えば、バックプレートに固定されたアクチュエータ部により一対のブレーキシューの一端側を拡開するリーディングトレーリング型(LT型)のサービスブレーキとして構成してもよい。この場合、アクチュエータ部は、例えば、ブレーキペダルの操作等に基づいて液圧(ブレーキ液圧)が供給されるホイルシリンダにより構成することができる。また、アクチュエータ部を電動モータで駆動される電動アクチュエータとすることにより、ドラムブレーキを電動ドラムブレーキとして構成してもよい。
【0060】
ここで、前述のサービスブレーキに対する性能要求として挙げられる、ウォーターフェードからのリカバリ性の向上について述べる。第1ライニング材34と第3ライニング材36との間に第1隙間部37があり、第2ライニング材35と第3ライニング材36との間に第2隙間部38がある。これら第1隙間部37と第2隙間部38は、排水のための隙間として用いることができる。即ち、水たまりの通過等に伴って、ドラムロータDとプライマリシュー13およびセカンダリシュー14との間に水が浸入したときに、この水を第1隙間部37と第2隙間部38とを通じて排出できる。これにより、排水性を向上でき、ウォーターフェードからのリカバリ性を向上できる。
【0061】
また、ドラムブレーキは、例えば、サービスブレーキ作動時にブレーキシューの移動量の増加に合わせて作動するサービスブレーキ作動型オートアジャスタ機構を備える構成とすることができる。また、ドラムブレーキは、例えば、制動による発熱でドラムロータDが熱膨張している間は、オートアジャスタの作動を停止させるバイメタルによる温度補償機構を備える構成とすることができる。
【0062】
また、ドラムブレーキは、例えば、一対のブレーキシューの一端側に挟着されたアクチュエータ部によりパーキングブレーキの作動時に両ブレーキシューを拡開して作動するパーキングブレーキ機構を有する構成とすることができる。この場合、ドラムブレーキは、例えば、パーキングブレーキ作動時にデュオサーボ型(DS型)として作動する構成とすることができる。アクチュエータ部は、電動モータで駆動される電動アクチュエータとすることにより、ドラムブレーキを電動パーキングドラムブレーキとして構成してもよい。電動アクチュエータは、電動モータ(回転モータ、リニアモータ)単独で構成してもよいし、電動モータおよび減速機により構成してもよい。
【0063】
以上のように、第1の実施形態によれば、
図2に示すように、ブレーキシュー13,14を構成する摩擦材33は、外周がオフセット研磨されている。このため、制動時にレバー20を介して操作力が入力されると、先ず、摩擦材33の中央付近がドラムロータDと接触し、さらに入力を増すと、ブレーキシュー13,14が撓むことにより摩擦材33の両端側に接触面の範囲が広がっていく。ドラムロータDに対する摩擦材33の当り付けが不十分なうちは、ブレーキシュー13,14を撓ませるための力とストロークの分だけ、ブレーキが効きにくい。しかし、第1の実施形態では、例えば摩擦材33の中央付近(第3ライニング材36)の気孔率を大きくすることにより、当該部分の摩耗を促進し易くしている。これにより、当り付けの時間を短くできる。一方、摩擦材33の両端側(第1ライニング材34、第2ライニング材35)の気孔率は小さいため、高負荷に耐えることができる。
【0064】
次に、
図5および
図6は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、第3ライニング部の外周面に溝部を設けたことにある。なお、第2の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
第2の実施形態も、第1の実施形態と同様に、ブレーキシュー13,14は、摩擦材41を備えている。上述の第1の実施形態では、摩擦材33の第1ライニング部、第2ライニング部および第3ライニング部を、それぞれ別個の第1ライニング材34、第2ライニング材35および第3ライニング材36により構成している。これに対して、第2の実施形態では、摩擦材41を、1つのライニング材42、即ち、第1ライニング部42Aと第2ライニング部42Bと第3ライニング部42Cとが一体となった1つのライニング材42により構成している。
【0066】
第1ライニング部42Aは、ドラムロータDの回転方向において、ドラムロータDの内周面と対向する円弧状の摩擦材41の一端部(例えば、
図6の上端部)である。第2ライニング部42Bは、ドラムロータDの回転方向において、摩擦材41の他端部(例えば、
図6の下端部)である。第3ライニング部42Cは、ドラムロータDの回転方向において、一端部と他端部との間(例えば、
図6の中間部)に位置している。第3ライニング部42Cは、第1ライニング部42Aおよび第2ライニング部42Bよりも摩耗が早くなるように作られている。
【0067】
第2の実施形態では、第3ライニング部42Cの摩耗が第1ライニング部42Aおよび第2ライニング部42Bよりも早くなるように、次の(A)ないし(C)の構成のうちの少なくともいずれかを採用している。これにより、第3ライニング部42Cの少なくとも初期の摩耗率を、第1ライニング部42Aおよび第2ライニング部42Bの摩耗率よりも大きくしている。(A)第3ライニング部42Cは、第1ライニング部42Aおよび第2ライニング部42Bに対して材料の配合成分または配合比率が異なる。(B)第3ライニング部42Cにおける気孔率は、第1ライニング部42Aおよび第2ライニング部42Bにおける気孔率に対して高い。(C)第3ライニング部42Cの外周面には、溝部43が設けられている。
【0068】
上記(C)の場合、溝部43は、単数の溝としてもよいし、複数の溝43A,43Bを備える構成としてもよい。第2の実施形態では、
図5に示すように、溝部43は、複数の溝43A,43Bを備える構成としている。溝部43(溝43A,43B)を設けることにより、制動時のドラムロータDとの接触面積(接触部の幅)を減らすことができるため、溝部43を設けた部分(第3ライニング部42C)の摩耗の進行を早めることができる。
【0069】
また、溝部43における深さ方向の溝幅は、第3ライニング部42Cの外周面から、ドラムロータDの回転中心の方向に向かって、徐々に狭くなっている。即ち、
図5に示すように、溝部43を構成する複数の溝43A,43Bは、いずれも、深さ方向の溝幅がドラムロータDの回転中心の方向に向かって徐々に狭くなっている。この場合、それぞれの溝43A,43Bの断面形状は、シューリム32側に向かって幅寸法が小さくなる台形状としているが、これに限らず、例えば、V字状としてもよい。いずれの場合も、溝43A,43Bの側面を傾斜させることにより、摩擦材41(第3ライニング部42C)の摩耗の進行に伴って、ドラムロータDとの接触面積が徐々に増大する。
【0070】
また、複数の溝43A,43Bは、各溝43A,43Bにおける深さおよび溝幅を異ならせることができる。第2の実施形態では、摩擦材41の外周面には、深さ寸法のおよび幅寸法の大きい大溝43Aと、深さ寸法のおよび幅寸法の小さい小溝43Bとの2種類の溝43A,43Bが設けられている。各溝43A,43Bの深さおよび溝幅は、ドラムロータDとの接触面積が摩擦材41の摩耗に伴い順次広くなるように設定する。即ち、溝部43の構成(溝の数、溝の幅、溝の深さ等)は、当り付けの時間を短くして使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制できるように設定する。
【0071】
また、
図6に示すように、第2実施形態では、ブレーキシュー13,14を車軸方向から見たときの溝底の半径は、摩擦材41の外周面の半径(研磨半径)よりも大きくなっている。即ち、各溝43A,43Bの深さは、摩擦材41の張り角中央部(第3ライニング部42C)で最も深くなっており、摩擦材41の両端(第1ライニング部42A、第2ライニング部42B)に進むに従って徐々に浅くなっている。このため、摩擦材41のドラムロータDとの接触面積は、中央から両端に進むに従って徐々に大きくなっている。
【0072】
各溝43A,43Bのうち最も浅い溝43Bの最深部の深さは、例えば0.5mm以下とし、最も深い溝43Aの最深部の深さは、例えば1mm以下とすることができる。これにより、摩擦材41(第3ライニング部42C)の外周面の十分な当り付けがなされた後の早期摩耗を抑制できる。なお、各溝43A,43Bは、ブレーキシュー13,14を車軸方向から見たときに溝底が直線となるように形成してもよい。
【0073】
第2の実施形態は、上述の如き摩擦材41をドラムロータDに押圧するもので、その基本的作用については、上述した第1の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第2の実施形態も、当り付けの時間を短くして使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制することができる。
【0074】
特に、第2の実施形態では、第3ライニング部42Cの外周面に複数の溝43A,43Bを備えた溝部43が設けられている。溝部43は、単数でも複数でもよく、また、溝部43は、単数の溝により構成してもよく、複数の溝43A,43Bにより構成してもよい。いずれの場合も、溝部43を設けることにより、制動時のドラムロータDとの接触面積(接触部の幅)を小さくできる。これにより、第3ライニング部42Cの摩耗を促進し易くできる。
【0075】
この場合、例えば、溝部43を設ける位置、深さを調整することにより、摩耗を促進し易くする範囲を規制できる。このため、例えば、第1ライニング部42A、第2ライニング部42Bおよび第3ライニング部42Cを1つのライニング材で構成した場合でも、第3ライニング部42Cに対応する部分に溝部43を設けることにより、この第3ライニング部42Cの摩耗を促進し易くできる。しかも、溝部43の深に応じて摩耗が促進し易くなる期間を調整することもできる。このため、例えば、溝部43の深さを浅くすることにより、使用初期のみ摩耗を促進し易くすることができる。
【0076】
なお、溝部43は、少なくとも第3ライニング部42Cの外周面に設ければよい。溝部43は、当り付けの時間を短くして使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制できる範囲で、第3ライニング部42Cの外周面から第1ライニング部42Aの外周面および/または第2ライニング部42Bの外周面にわたって設けてもよい。換言すれば、第3ライニング部42Cの摩耗を第1ライニング部42Aおよび第2ライニング部42Bよりも促進できる範囲で、第1ライニング部42Aの外周面および/または第2ライニング部42Bの外周面に溝部43を設けてもよい。また、第1ライニング部42Aの外周面および第2ライニング部42Bの外周面には溝部を設けずに、第3ライニング部42Cの外周面にのみ溝部43を設けてもよい。
【0077】
第2の実施形態によれば、溝部43における深さ方向の溝幅は、第3ライニング部42Cの外周面から、ドラムロータDの回転中心の方向に向かって徐々に狭くなる。このため、摩耗が進行するに従って、溝幅が狭くなることにより、第3ライニング部42Cの接触面積が大きくなる。これにより、使用初期の第3ライニング部42Cの摩耗を促進し易くできる。この結果、「当り付けの時間を短くすること」と「摩擦材41の耐久性(交換までの寿命)を確保すること」とを高い次元で両立できる。
【0078】
第2の実施形態によれば、溝部43を構成する複数の溝43A,43Bは、深さおよび溝幅が異なる。このため、複数の溝43A,43Bの深さおよび溝幅(例えば、深さ方向の幅、周方向の幅、径方向の幅等)を異ならせることにより、第3ライニング部42Cの摩耗を促進し易くできる。
【0079】
なお、第2の実施形態では、摩擦材41を、1つのライニング材42により構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、前述の第1の実施形態のように、摩擦材を、それぞれ別個のライニング材、即ち、第1ライニング部に対応する第1ライニング材と、第2ライニング部に対応する第2ライニング材と、第3ライニング部に対応する第3ライニング材とにより構成してもよい。この場合には、第3ライニング材の外周面に溝部を設けることができる。
【0080】
また、溝部における深さ方向の溝幅は、第3ライニング材の外周面から、ドラムロータDの回転中心の方向に向かって徐々に狭くすることができる。溝部は、単数でも複数でもよく、また、溝部は、単数の溝により構成してもよいし、複数の溝を備える構成としてもよい。溝部を複数の溝により構成する場合、各溝における深さおよび溝幅は、同じとしてもよいし、異ならせてもよい。溝部の構成(溝の数、溝の幅、溝の深さ等)は、当り付けの時間を短くして使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制できるように設定する。
【0081】
以上のように、第2の実施形態では、摩擦材41のうち中央付近となる第3ライニング部42Cの摩耗率を大きくしている。この場合、第3ライニング部42Cの外周面に溝部43を設けることにより、第3ライニング部42Cの摩耗率を大きくしている。また、第3ライニング部42Cにスコーチ処理(加熱処理)を施して、第3ライニング部42Cの外周表面付近の気孔率を高くすることにより、第3ライニング部42Cの摩耗率を大きくしもよい。いずれの場合も、摩擦材41の中央付近の摩耗を促進し易くできることに加えて、摩擦材41を1つのライニング材により構成できるため、ライニング材(摩擦材41)の組み付け作業を容易にできる。また、ライニング材(摩擦材41)を変更することなく、第3ライニング部42Cの当りの付き具合を調整可能にできる。
【0082】
また、摩擦材41に溝部43を設けることにより、または、スコーチ処理(加熱処理)を施すことにより、摩耗率を大きくする場合には、表面部分、即ち、当り付けに必要な厚さの範囲に限定して摩耗を促進し易くできる。さらに、摩擦材41に溝部43を設ける場合は、溝部43を設ける部位を摩擦材41の中央付近に限定することにより、ドラムロータDの回転方向の出口側でアンカ近傍となる部分の接触面積を確保できる。これにより、例えば、負荷が大きい動的パーキング制動時、即ち、走行中にパーキングブレーキ用のドラムブレーキ2で制動を行うときにも、制動力を確保できる。
【0083】
次に、
図7および
図8は、第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、液圧で作動するホイルシリンダと電動モータで作動するパーキングブレーキ機構とをバックプレート上に設けたドラムブレーキとしたことにある。なお、第3の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0084】
上述の第1の実施形態では、ドラムブレーキ2は、ディスクブレーキ3と共にドラムインディスクブレーキ装置1を構成している。そして、第1の実施形態のドラムブレーキ2は、デュオサーボ型(DS型)のパーキングブレーキ用ドラムブレーキである。これに対して、第3の実施形態では、ドラムブレーキ51は、リーディングトレーリング型(LT型)のサービスブレーキ用ドラムブレーキであり、かつ、デュオサーボ型(DS型)のパーキングブレーキ用ドラムブレーキである。これに加えて、ドラムブレーキ51は、パーキングブレーキを電動で作動させる電動パーキングドラムブレーキである。即ち、第3の実施形態では、ドラムブレーキ51は、サービスブレーキ時には液圧(ホイルシリンダ53)によるリーディングトレーリング型(LT型)として作動し、パーキングブレーキ時には電動(電動モータ)によるデュオサーボ型(DS型)として作動する。
【0085】
ドラムブレーキ51は、バックプレート(図示せず)と、プライマリシュー13と、セカンダリシュー14と、アジャスタ52と、ホイルシリンダ53と、パーキングブレーキ機構54とを備えている。バックプレートは、車両の非回転部に固定されており、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14を支持する。プライマリシュー13およびセカンダリシュー14は、車輪とともに回転するドラムロータDの内周面に押圧されることにより、ドラムロータDを制動する。プライマリシュー13およびセカンダリシュー14は、例えば、第1実施形態と同様のブレーキシュー13,14であり、摩擦材33を備えている。なお、ブレーキシュー13,14の摩擦材33は、第2実施形態の摩擦材41を用いてもよい。
【0086】
アジャスタ52は、プライマリシュー13とセカンダリシュー14との間に設けられている。アジャスタ52は、プライマリシュー13とセカンダリシュー14との間隔を調整する。また、アジャスタ52は、パーキングブレーキを作動させたときに、プライマリシュー13とセカンダリシュー14との間で反力を伝達する。ホイルシリンダ53およびパーキングブレーキ機構54は、バックプレートに設けられている。ホイルシリンダ53およびパーキングブレーキ機構54は、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14をドラムロータDの内周面に押圧させるアクチュエータ部である。
【0087】
第3の実施形態では、アクチュエータ部は、ホイルシリンダ53と、パーキングブレーキ機構54とを備えている。ホイルシリンダ53は、円弧状の摩擦材33の一端部の側、換言すれば、第1ライニング部(第1ライニング材34)の側に位置している。ホイルシリンダ53は、液圧で作動する。例えば、ホイルシリンダ53は、ブレーキペダルの操作等に基づいて液圧(ブレーキ液圧)が供給されることにより伸長する。
【0088】
図7に示すように、ホイルシリンダ53は、筒状のシリンダ本体53Aと、シリンダ本体53A内に軸方向の変位を可能に挿嵌された一対のピストン53B,53Bとを備えている。ピストン53B,53Bには、ピストン53B,53Bの外周面とシリンダ本体53Aの内周面との間をシールするシールリング53Cが設けられている。一方のピストン53Bの先端側には、プライマリシュー13の一端部が支承されており、他方のピストン53Bの先端側には、セカンダリシュー14の一端部が支承されている。
【0089】
ホイルシリンダ53のシリンダ本体53A内に液圧が供給されると、ピストン53B,53Bが互いに離れる方向に変位し、ホイルシリンダ53が伸長する。このとき、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14は、先端部となる一端側(
図7の上端側)が基端側となる他端側(
図7の下端側)を回動支点として拡開する。これにより、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14がドラムロータDの内周面に押し当てられ、制動力が付与される。ホイルシリンダ53は、サービスブレーキ(SB)の作動時に、リーディングトレーリング型(LT型)として作動する。
【0090】
パーキングブレーキ機構54は、円弧状の摩擦材33の他端部の側、換言すれば、第2ライニング部(第2ライニング材35)の側に位置している。パーキングブレーキ機構54は、制動力を保持する。パーキングブレーキ機構54は、電動モータ(図示せず)の回転力によって作動する。即ち、パーキングブレーキ機構54は、電動モータ、減速機、回転直動変換機構等を含んで構成される電動アクチュエータユニット(図示せず)に接続されている。電動アクチュエータユニットの電動モータには、パーキングブレーキスイッチの操作、パーキングブレーキのオートアプライ指令、オートリリース指令等に基づいて電力が供給される。これにより、電動モータが回転し、パーキングブレーキ機構54が伸長または縮小する。
【0091】
図7および
図8に示すように、パーキングブレーキ機構54は、筒状の本体部54Aと、本体部54A内に軸方向の変位を可能に挿嵌された一対の押圧片54B,54Bとを備えている。一方の押圧片54Bの先端側には、プライマリシュー13の他端部が支承されており、他方の押圧片54Bの先端側には、セカンダリシュー14の他端部が支承されている。押圧片54B,54Bは、外径寸法の小さい小径部54B1と、外径寸法の大きい大径部54B2と、小径部54B1と大径部54B2とを接続する段差面54B3とを備えている。
【0092】
パーキングブレーキ機構54が最も縮小しているときは、押圧片54Bの段差面54B3が本体部54Aの軸方向端面に当接している。この状態で、サービスブレーキを付与すべく、ホイルシリンダ53が伸長すると、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14は、他端側を回動支点として拡開する。これに対し、パーキングブレーキを付与するときは、電動モータの回転によりパーキングブレーキ機構54が作動する。即ち、
図8に示すように、電動モータの駆動に基づいて、一方の押圧片54Bが他方の押圧片54Bから離れる方向に変位することにより、パーキングブレーキ機構54が伸長する。このとき、プライマリシュー13がドラムロータDに押し付けられると共にその反力がアジャスタ52を介してセカンダリシュー14に伝達され、プライマリシュー13とセカンダリシュー14とが拡開する。これにより、プライマリシュー13およびセカンダリシュー14がドラムロータDの内周面に押し当てられ、制動力が付与される。パーキングブレーキ機構54は、パーキングブレーキ(PKB)の作動時に、デュオサーボ型(DS型)として作動する。
【0093】
第3の実施形態は、上述の如きホイルシリンダ53とパーキングブレーキ機構54とによりプライマリシュー13およびセカンダリシュー14をドラムロータDに押圧するもので、上述した第1の実施形態および第2の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第3の実施形態も、当り付けの時間を短くして使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制することができる。
【0094】
特に、第3の実施形態では、パーキングブレーキ機構54は、電動モータの回転力によって作動する。このため、電動パーキングブレーキとして用いるドラムブレーキ51の当り付けの時間を短くできる。この場合、パーキングブレーキ機構54は、デュオサーボ型として作動する。このため、デュオサーボ型の電動パーキングブレーキとして用いるドラムブレーキ51の当り付けの時間を短くできる。言い換えると、パーキングブレーキを電動で作動させる構成を採用した場合、即ち、電動アクチュエータを用いて制動力(パーキングブレーキ)を付与する場合も、初期の効き不足を抑制できる。これにより、ドラムブレーキ51の耐久性を確保できることに加えて、小型化、軽量化を図ることもできる。また、例えば、電動アクチュエータを用いる場合は、応答性が向上するので、低減速比化による出力の向上、小型化、軽量化を図ることができる。
【0095】
第3の実施形態では、ドラムブレーキ51のアクチュエータ部は、ホイルシリンダ53およびパーキングブレーキ機構54を備える。この上で、ホイルシリンダ53によるサービスブレーキの作動時には、リーディングトレーリング型として作動する。このため、「リーディングトレーリング型のサービスブレーキ」および「デュオサーボ型の電動パーキングブレーキ」として用いるドラムブレーキ51の当り付けの時間を短くできる。また、使用初期から摩擦材33の摺動面(摩擦面、滑り面)の広範囲にわたって十分な当り付けができるため、ドラムブレーキ51の作動時にブレーキシュー13,14の撓みに費やされるパーキングブレーキ機構54のストロークが減少し、高い剛性を得られる。また、使用初期から摩擦材33の交換時期まで、小入力から大入力まで安定的に高い剛性にできるため、オートアジャスタ機構によるTSCCの設定値を小さくできる。これにより、この面からも、パーキングブレーキ機構54の無効ストロークを低減できる。この結果、運転席近傍のパーキングペダルまたはパーキングレバーによってパーキングブレーキ機構54を作動させるときに、良好な操作感を得ることができる。
【0096】
なお、各実施形態では、ドラムブレーキ2の代表例として自動車、より具体的には、4輪自動車に取付けるドラムブレーキを例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、2輪自動車に取付けるドラムブレーキ、フォークリフト、ホイールローダ等の作業車両に取付けるドラムブレーキ、鉄道車両に取付けるドラムブレーキ等、各種車両に取付けるドラムブレーキとして広く適用することができる。さらに、各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
【0097】
以上説明した実施形態によれば、制動部材の摩擦材は、ドラムロータの回転方向の一端部である第1ライニング部と、他端部である第2ライニング部と、一端部と他端部との間に位置する第3ライニング部とを備えている。この上で、第3ライニング部は、第1ライニング部および第2ライニング部よりも摩耗が早くなるように作られている。このため、ドラムロータに制動部材を当り付けするときに、第3ライニング部の摩耗が早くなり、当り付けの時間を短くできる。これにより、使用初期からブレーキファクタのバラツキを抑制することができる。
【0098】
実施形態によれば、第1ライニング部、第2ライニング部および第3ライニング部は、それぞれ別個の第1ライニング材、第2ライニング材および第3ライニング材である。換言すれば、摩擦材は、第1ライニング材と第2ライニング材と第3ライニング材との少なくとも3個のライニング材に分割されている。この上で、第1ライニング材と第3ライニング材との間に第1隙間部があり、第2ライニング材と第3ライニング材との間に第2隙間部がある。この第1隙間部と第2隙間部は、排水のための隙間として用いることができる。即ち、水たまりの通過等に伴って、ドラムロータと制動部材との間に水が浸入したときに、この水を第1隙間部と第2隙間部とを通じて排出できる。これにより、排水性を向上でき、ウォーターフェードからのリカバリ性を向上できる。
【0099】
実施形態によれば、第1隙間部は、第2隙間部と異なる形状である。このため、ライニング材をシュー本体のリムの外周面に組み付けるときに、間違ったライニング材を組み付けること(誤組み付け)を抑制できる。
【0100】
実施形態によれば、第3ライニング部は、第1ライニング部および第2ライニング部に対して材料の配合成分または配合比率が異なる。このため、材料の配合成分または配合比率を異ならせることにより、第3ライニング部の摩耗を促進し易くできる。
【0101】
実施形態によれば、第3ライニング部における気孔率は、第1ライニング部および第2ライニング部における気孔率に対して高い。このため、第3ライニング部の密度を低くでき、第3ライニング部の摩耗を促進し易くできる。
【0102】
実施形態によれば、第3ライニング部の外周面には、溝部が設けられている。溝部は、単数でも複数でもよく、また、溝部は、単数の溝により構成してもよく、複数の溝により構成してもよい。いずれの場合も、溝部を設けることにより、制動時のドラムロータとの接触面積(接触部の幅)を小さくできる。これにより、第3ライニング部の摩耗を促進し易くできる。この場合、例えば、溝部を設ける位置、深さを調整することにより、摩耗を促進し易くする範囲を規制できる。このため、例えば、第1ライニング部、第2ライニング部および第3ライニング部を1つのライニング材で構成した場合でも、第3ライニング部に対応する部分に溝部を設けることにより、この第3ライニング部の摩耗を促進し易くできる。しかも、溝部の深に応じて摩耗が促進し易くなる期間を調整することもできる。このため、例えば、溝部の深さを浅くすることにより、使用初期のみ摩耗を促進し易くすることができる。
【0103】
実施形態によれば、溝部における深さ方向の溝幅は、第3ライニング部の外周面から、ドラムロータの回転中心の方向に向かって徐々に狭くなる。このため、摩耗が進行するに従って、溝幅が狭くなることにより、第3ライニング部の接触面積が大きくなる。これにより、使用初期の第3ライニング部の摩耗を促進し易くできる。この結果、「当り付けの時間を短くすること」と「摩擦材の耐久性(交換までの寿命)を確保すること」とを高い次元で両立できる。
【0104】
実施形態によれば、溝部を構成する複数の溝は、深さおよび溝幅が異なる。このため、複数の溝の深さおよび溝幅(例えば、深さ方向の幅、周方向の幅、径方向の幅等)を異ならせることにより、第3ライニング部の摩耗を促進し易くできる。
【0105】
実施形態によれば、アクチュエータ部は、制動力を保持するパーキングブレーキ機構を備える。このため、パーキングブレーキとして用いるドラムブレーキの当り付けの時間を短くできる。
【0106】
実施形態によれば、パーキングブレーキ機構は、電動モータの回転力によって作動する。このため、電動パーキングブレーキとして用いるドラムブレーキの当り付けの時間を短くできる。
【0107】
実施形態によれば、パーキングブレーキ機構は、デュオサーボ型として作動する。このため、デュオサーボ型の(電動)パーキングブレーキとして用いるドラムブレーキの当り付けの時間を短くできる。
【0108】
実施形態によれば、アクチュエータ部は、ホイルシリンダおよびパーキングブレーキ機構を備える。この上で、ホイルシリンダによるサービスブレーキの作動時には、リーディングトレーリング型として作動する。このため、「リーディングトレーリング型のサービスブレーキ」および「デュオサーボ型の(電動)パーキングブレーキ」として用いるドラムブレーキの当り付けの時間を短くできる。
【0109】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0110】
本願は、2021年7月8日付出願の日本国特許出願第2021-113249号に基づく優先権を主張する。2021年7月8日付出願の日本国特許出願第2021-113249号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書を含む全開示内容は、参照により本願に全体として組み込まれる。
【符号の説明】
【0111】
2,51:ドラムブレーキ、11:バックプレート、13:プライマリシュー(制動部材)、14:セカンダリシュー(制動部材)、20:レバー(アクチュエータ部、パーキングブレーキ機構)、33,41:摩擦材、34:第1ライニング材(第1ライニング部)、35:第2ライニング材(第2ライニング部)、36:第3ライニング材(第3ライニング部)、37:第1隙間部、38:第2隙間部、42A:第1ライニング部、42B:第2ライニング部、42C:第3ライニング部、43:溝部、43A,43B:溝、53:ホイルシリンダ、54:パーキングブレーキ機構、D:ドラムロータ