(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、情報処理システム及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240815BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H01M10/48 301
(21)【出願番号】P 2023552532
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013120
(87)【国際公開番号】W WO2023181111
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸洋
(72)【発明者】
【氏名】丸地 康平
(72)【発明者】
【氏名】波田野 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】小倉 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 廣次
(72)【発明者】
【氏名】三ッ本 憲史
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-225441(JP,A)
【文献】特開2020-119712(JP,A)
【文献】特開2017-194468(JP,A)
【文献】特開2022-11803(JP,A)
【文献】特開2021-27031(JP,A)
【文献】特開2022-11801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電指令値に従って充放電制御される蓄電池の電圧値と充電量との測定データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の変化を示す第1情報を算出する情報算出部と、
前記測定データにおける前記電圧値の範囲に応じて充電量に対する電圧値の基準変化を示す第2情報を取得し、前記第1情報と、前記第2情報とに基づき、前記蓄電池の状態を推定する状態推定部と、
を備えた情報処理装置。
【請求項2】
前記状態推定部は、前記第1情報と前記第2情報との比較に基づき、前記蓄電池の状態を推定する
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記状態推定部は、前記第1情報が示す前記変化が、前記第2情報が示す前記変化より大きいほど、前記蓄電池にフロート劣化及び貯蔵劣化の少なくとも一方がより進んでいることを決定する
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記状態推定部は、前記電圧値の範囲に応じて前記蓄電池の基準状態を決定し、
前記状態推定部は、前記測定データにおける前記電圧値の範囲に応じて前記充電量の基準範囲を決定し、
前記測定データにおける前記充電量の範囲の大きさと、前記充電量の基準範囲の大きさとの比又は差分に応じて、前記基準状態を示す情報を補正する補正部を備え、
前記状態推定部は、補正された前記情報に基づき、前記蓄電池の状態を決定する
請求項1~3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記充電量の範囲の大きさは、前記充電量の最小値と最大値との差、又は最大の前記電圧値に対応する充電量と最小の前記電圧値に対応する充電量との差である
請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記状態推定部は、前記測定データにおける前記電圧値の範囲に応じて前記蓄電池の基準となる状態を決定し、
前記基準状態を示す情報を前記第1情報と前記第2情報との比又は差分に応じて補正する補正部を備え、
前記状態推定部は、補正された前記情報に基づき、前記蓄電池の状態を決定する
請求項1~3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記測定データに基づき、前記電圧値の範囲に関する特徴量を算出する特徴量算出部を備え、
前記状態推定部は、前記特徴量に基づき、前記蓄電池の基準状態を決定する
請求項4~6のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記蓄電池の基準状態は、前記蓄電池がサイクル劣化を含み、フロート劣化及び貯蔵劣化を含まないとみなした状態である
請求項4~7のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記状態推定部は、電圧値の複数の範囲に対応する複数の前記第2情報のうちから、前記測定データにおける前記電圧値の範囲に応じた前記第2情報を選択する
請求項1~8のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記情報算出部は、前記充電量と前記電圧値との関係を表す関数又はグラフを生成し、前記第1情報は、前記関数又は前記グラフの傾きを表す
請求項1~9のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記情報算出部は、前記測定データに基づき前記蓄電池のOCVを推定し、前記関数は、前記充電量と前記OCVとの関係を表す
請求項10に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記電圧値の範囲は、前記電圧値の標準偏差、又は前記電圧値の最大値と最小値との差である
請求項1~11のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項13】
前記状態推定部は、前記充放電指令値の分布にさらに基づき前記第2情報を決定する
請求項1~12のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項14】
前記測定データは前記蓄電池の温度を含み、
前記測定データの前記温度に基づき、前記蓄電池の代表温度を決定する代表温度決定部を備え、
前記状態推定部は、前記代表温度にさらに基づき前記第2情報を決定する
請求項1~13のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項15】
前記蓄電池の状態は、前記蓄電池の健全度又は劣化状態である
請求項1~14のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項16】
充放電指令値に従って充放電制御される蓄電池の電圧値と充電量との測定データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の変化を示す第1情報を算出し、
前記測定データにおける前記電圧値の範囲に応じて充電量に対する電圧値の基準変化を示す第2情報を取得し、
前記第1情報と、前記第2情報とに基づき、前記蓄電池の状態を推定する
情報処理方法。
【請求項17】
充放電指令値に従って充放電制御される蓄電池の電圧値と充電量との測定データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の変化を示す第1情報を算出するステップと、
前記測定データにおける前記電圧値の範囲に応じて充電量に対する電圧値の基準変化を示す第2情報を取得するステップと、
前記第1情報と、前記第2情報とに基づき、前記蓄電池の状態を推定するステップと、
をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項18】
充放電指令値に従って充放電制御される蓄電池と、
前記蓄電池の電圧値と充電量との測定データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の変化を示す第1情報を算出する情報算出部と、
前記測定データにおける前記電圧値の範囲に応じて充電量に対する電圧値の基準変化を示す第2情報を取得し、前記第1情報と、前記第2情報とに基づき、前記蓄電池の状態を推定する状態推定部と、
を備えた情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、情報処理装置、情報処理方法、情報処理システム及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統における電力品質を向上させるなどの目的のために、蓄電システム(BESS:Battery Energy Storage System)が利用される。例えば、電力系統によって供給される電力を安定させたり、電力系統における周波数の変動を抑制したりする場合に、蓄電システムが利用される。蓄電システムを長期にわたって運用していくためには、蓄電システムの劣化の状態(健全度)を評価することが必要である。電力系統の電力品質を向上させる用途に用いられる場合、蓄電システムは、基本的に24時間/365日運転稼働する。このため、蓄電システムの健全度の評価は、蓄電システムの稼働を停止させずに行うことが望まれる。
【0003】
蓄電システムの健全度を評価する方法として、事前に稼働している蓄電システムから測定データを取得し、その測定データに基づいて健全度評価用のデータベースを作成する方法がある。例えば、電力系統における周波数変動抑制の用途を想定した場合に、蓄電システムは充電と放電とが短い時間で繰り返されるサイクル充放電によって劣化が進行する。様々な劣化の進行状態の蓄電システムを対象に、稼働中の蓄電システムから測定データを取得するとともに健全度を測定し、測定データと健全度とを教師データとしてデータベースを生成する。このデータベースを用いて、評価対象の蓄電システムの健全度を評価できる。
【0004】
蓄電システムは周波数変動抑制の用途の他、電力需給調整の用途に用いられることも考えられる。電力需給調整の用途では、例えば電力需要が高い場合に、一度に電力を放電し、放電完了後に、一度に充電するように蓄電システムは用いられる。この用途では、蓄電システムは満充電の状態を維持しておく時間が長く、満充電から放電開始までの期間の長さに応じて、貯蔵劣化又はフロート劣化が進行する。貯蔵劣化又はフロート劣化が引き起こす電池セルの劣化は、サイクル劣化とは異なった形で測定データに表れることが多い。このため上述のデータベースを生成する方法では、蓄電システムの健全度を評価できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6313502号公報
【文献】特許第6759466号公報
【文献】特開2020-119712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、蓄電池の状態を評価する情報処理装置、情報処理方法、情報処理システム及びコンピュータプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る情報処理装置は、充放電指令値に従って充放電制御される蓄電池の電圧値と充電量との測定データに基づき、前記充電量に対する前記電圧値の傾きを示す第1傾き情報を算出する傾き情報算出部と、前記第1傾き情報と、前記測定データにおける前記電圧値の幅に応じた第2傾き情報とに基づき、前記蓄電池の状態を推定する状態推定部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る情報処理システムとして蓄電池評価システムの全体構成のブロック図。
【
図5】横軸をSoC、縦軸を電圧とする座標系にSoCと電圧とを含むQVデータをプロットしたグラフの例を示す図。
【
図7】蓄電池のそれぞれ異なる期間で取得された測定データに基づく電圧分布情報を示す図。
【
図8】
図7の各電圧分布情報から算出されたOCV推定データの例を示す図。
【
図9】
図5のQVプロット(電圧分布情報)を対象に劣化特徴量を算出する例を模式的に示す図。
【
図11】蓄電池のSoHを推定する処理の具体例を説明するための図である。
【
図12】本実施形態に係る蓄電池評価装置の動作の一例のフローチャート。
【
図13】本実施形態の第2変形例に係る蓄電池評価システムの一例のブロック図。
【
図15】本実施形態の第2変形例に係る参照DBの例を示す図。
【
図16】本発明の実施形態に係る蓄電池評価装置のハードウェア構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る情報処理システムとして蓄電池評価システム1の全体構成のブロック図である。
図1の蓄電池評価システム1は、本実施形態に係る情報処理装置である蓄電池評価装置101と、1つ又は複数の蓄電池201と、監視システム301とを備えている。監視システム301は通信ネットワークを介して蓄電池評価装置101と接続されている。蓄電池201は通信ネットワークを介して蓄電池201と接続されている。これらの通信ネットワークは、インターネット等の広域ネットワーク又は無線LAN等のローカルネットワークでもよいし、有線ケーブルでもよい。蓄電池201は二次電池とも呼ばれる。以下では蓄電池に呼び方を統一する。
【0011】
蓄電池201は、電気エネルギーを充電および放電可能な電池である。蓄電池201は、電力系統、又はVPP(Virtual Power Plant)などの電力ネットワークに接続されて用いられる。蓄電池201は電力ネットワークに直接接続されてもよいし、EV、自動車、鉄道又は産業機器などのマシンに搭載された状態で、電力ネットワークに接続されてもよい。電力系統に接続される場合、蓄電池201は主として電力系統における周波数変動抑制の用途に用いられる。但し、蓄電池201が、電力系統において電力需給調整の用途に用いられる場合もある。また、蓄電池201はVPP等の電力ネットワークに接続される場合、主として電力需給調整の用途に用いられる。蓄電池201が周波数変動抑制の用途に用いられた後、リユースによりVPPで電力需給調整の用途に用いられる場合もある。その他、様々な用語で蓄電池201は用いられ得る。
【0012】
図2は、蓄電池201の構成例を示す図である。蓄電池201は、複数の電池盤31が並列に接続された電池アレイを含む蓄電システムである。各電池盤31において、複数の電池モジュール32が直列に接続されている。各電池盤31は、BMU(Battery Management Unit)33を備えている。複数の電池モジュール32が並列に接続されてもよいし、複数の電池モジュール32が直列かつ並列に接続されてもよい。また、複数の電池盤が、直列または直並列に接続されていてもよい。BMU33は、蓄電池評価装置101に対して情報を送受信する通信部を備えていてもよい。通信部は、電池盤31の内部に配置されていても、電池盤31の外部に配置されていてもよい。
【0013】
図3は、電池モジュール32の構成の一例を示す図である。電池モジュール32は、直列かつ並列に接続された複数の電池セル(セル)34を備える。複数のセル34が直列に接続された構成、並列に接続された構成、又は、直列と並列を組み合わせた構成も可能である。電池モジュール32がCMU(Cell Monitoring Unit:セル監視部)を備えていてもよい。セル34は、充放電が可能な単位電池である。例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池などが挙げられる。
【0014】
各セル34に対して、電圧、電流、温度、SoC(State of Charge)等のパラメータを測定する計測部(図示せず)が配置されている。同様に、各電池モジュール32に対して、電池モジュールの電圧、電流、温度、SoC等のパラメータを測定する計測部(図示せず)が配置されている。また、各電池盤31に対して、電池盤の電圧、電流、温度、SoC等のパラメータを測定する計測部(図示せず)が配置されている。また電池アレイに対して、電池アレイの電圧、電流、温度、SoC(State of Charge)等のパラメータを測定する計測部(図示せず)が配置されている。ここでは、セル、電池モジュール、電池盤、および電池アレイのすべてに対して、電圧、電流、温度等を測定する計測部が配置されているとしたが、これらの一部の種類にのみ配置されていてもよい。また、すべてのセルではなく、一部のセル、一部の電池モジュール、一部の電池盤にのみ計測部が配置されてもよい。
【0015】
SoCは、蓄電池に蓄積されている充電量(電荷量)を、定格容量(蓄電池の仕様の満充電容量、すなわち蓄電池が劣化する前の最大の充電量)で除した割合である。ここでは蓄電池の充電量を表す値として相対値をSoCとして用いたが、実際に蓄電池201に蓄積されている電力量(kWh)をSoCとして用いてもよい。
【0016】
蓄電池201は、蓄電池201の測定データを蓄電池評価装置101に送出する。測定データは、計測部により測定されたパラメータ(電圧、電流、温度等)および測定時刻を含んでもよい。測定時刻は、蓄電池201に時計を配置しておき、パラメータの取得時に時計の時刻を取得してもよい。
【0017】
本実施形態の蓄電池評価装置101は、評価対象となる蓄電池201の状態を評価する。具体的には、蓄電池201の健全度(SoH:State of Health)又は劣化状態を評価する。ここでいう蓄電池201の評価又は蓄電システムの評価とは、一例として蓄電池201に含まれる電池セルすべての集合体を評価することであり、蓄電池に含まれる計測部や、セル監視部、コントローラを評価するのとは異なる。また、蓄電池201の評価は、電池セルのすべての集合体を評価することに限定されず、セル単体から、セルが複数集まった集合の階層構造まで、測定値が取得できる限り、任意の階層に対して評価を行うことができる。本実施形態に係る蓄電池評価装置101は、セル、電池モジュール(実際には電池モジュールに含まれるセルの集合体)、電池盤(実際には電池盤に含まれるセルの集合体)など、任意の電池セル集合単位を評価することを含む。
【0018】
SoHは、蓄電池の劣化状態を示す指標である。SoHを、蓄電池の仕様の満充電容量に対する評価時点の満充電容量の割合とする。評価時点は、任意の時点でよい。なお、蓄電池の劣化状態をどのようにして表すかは、適宜に定めてよい。例えば、劣化によって低下する満充電容量、劣化によって増加する内部抵抗などを用いて定義してもよい。
【0019】
蓄電池201は、上位のエネルギー管理システムからの充放電指令(充電指令又は放電指令の少なくとも一方)を受けて、蓄電池201が接続されている電力系統または電力ネットワークに対して充放電を行う。充放電指令は例えば一定時間ごとに与えられる。上位のエネルギー管理システムは、例えば地域内の複数の蓄電池を管理し、地域内の複数の蓄電池を1つの大きな蓄電システムに見立てて、地域内の各蓄電池の充放電電力量を決定し、個々の蓄電池201に、時間に応じて充放電指令を送る。各蓄電池は、充放電指令を解釈及び実行することにより、充放電を行う。
【0020】
蓄電池評価装置101のデータ入力部11は、評価対象の蓄電池201から充放電指令ごとに測定される測定データを充放電指令値とともに取得し、取得した測定データ及び充放電指令値を充放電情報DB12に格納する。データ入力部11は、1日、1週間、1月など、評価を行う対象となる期間分の測定データ及び充放電指令値をまとめて蓄電池201から取得してもよい。測定データの取得先は蓄電池201に限定されず、蓄電池201の測定データを収集及び管理する管理サーバが存在する場合に、管理サーバから蓄電池201の測定データを取得してもよい。またデータ入力部11は、蓄電池201が実行した充放電指令値を上記のエネルギー管理システムから取得してもよい。なお蓄電池201における測定データの取得は、充放電指令の実行ごとに行う必要はなく、例えば連続する2つの充放電指令の実行間で含む数回測定データを取得してもよいし、複数の充放電指令の実行ごとに1回測定データを取得してもよい。
【0021】
図4は、充放電情報DB12の例を示す。時刻、充放電指令値、充電量、電圧及び温度等を含む充放電データが時系列に格納されている。時刻t1~tnは、充放電指令時刻又は測定時刻に対応する。
図4に示した項目は一例であり、ここに存在しない項目(例えば電流又は湿度など)が追加されてもよいし、一部の項目(例えば温度)が存在しなくてもよい。
【0022】
P1,P2、・・・,Pnは、時刻t1~tnにおける充放電指令値が示す電力値である。Pxは、時刻xにおける充放電指令値が指示する電力値を意味する。P1、・・・、Pnは符号付の数値である。一例として、正値は放電、負値は充電を表すとするが、逆でもよい。充放電指令値が示す電力値の代わりに、蓄電池201から測定された電流と電圧とに基づき電力値を計算してもよい。
【0023】
Q1,Q2、・・・Qnは、時刻t1~tnにおける蓄電池201の充電量(SoC)である。Qxは、時刻xにおける蓄電池201のSoCを意味する。SoCは、蓄電池201に蓄積されている充電量(電荷量)を、定格容量で除した割合である。ここでは蓄電池201の充電量を表す値として相対値であるSoCを用いたが、実際に蓄電池201に蓄積されている電力量(kWh)を用いてもよい。蓄電池201のSoCの情報を直接取得できない場合、電流値を累積することによりSoCを計算してもよい。
【0024】
T1,T2、・・・Tnは、時刻t1~tnにおける蓄電池201の温度を表す。Txは、時刻xにおける蓄電池201の温度を意味する。
【0025】
図4における時刻t1の充放電データは、充放電指令値P1、充電量(SoC)Q1、電圧V1、及び温度T1を含む。これは、充放電指令値P1の充放電が電圧V1の充電電圧又は放電電圧で時刻t1に実行され、この結果、蓄電池201のSoCはQ1になり、このときの蓄電池201の温度がT1であることを意味する。時刻t2~tnの測定データも同様にして解釈される。
【0026】
代表温度算出部15は、評価対象期間における蓄電池201の測定データに基づき、蓄電池201の代表温度を算出する。例えば測定データに含まれる蓄電池201の温度の平均を代表温度とする。評価対象期間において蓄電池201の滞在時間が最も長い又は閾値以上の温度を、代表温度としてもよい。その他の方法で、代表温度を決定してもよい。
【0027】
電圧分布算出部14は、蓄電池201の評価対象期間に含まれる複数の測定データにおける電圧とSoCとを用いて、電圧分布情報を算出する。具体的には、電圧分布算出部14は、充放電情報DB12における測定期間の測定データにおける電圧とSoCとを含むデータ(QVデータ)を、横軸をSoC、縦軸を電圧とする座標系にプロットする。これにより、SoCに対する電圧の分布を表す電圧分布情報を得る。
【0028】
図5は、横軸をSoC、縦軸を電圧とする座標系にSoCと電圧とを含むQVデータをプロットしたグラフの例を示す。プロットした点が時系列に線で結ばれている。
図5のデータをQVプロットとも呼ぶ。この例では、充電と放電が何度も繰り返されており(例えばサイクル充電)、低いSoCと高いSoCの間を何往復もする複雑な曲線となっている。測定期間は、一例として1日であり、この場合、プロットに必要なデータは1日分のデータである。但し、測定期間は、1日(24時間)より短い時間でもよいし、2日以上でもよいし、1週間、1ヶ月などでもよい。
【0029】
OCV算出部18は、電圧分布情報に基づき蓄電池201の開回路電圧(OCV)を推定する。すなわち、OCV算出部18は、OCVを模擬的に生成する。OCVは、蓄電池201が通電していない(電圧が印加されていない又は電流が流れていない)状態での蓄電池201の電圧である。
【0030】
OCVの推定は、一例としてSoCに対する電圧(V)の移動平均を計算することで行うことができる。具体的には、SoCと電圧との組のデータ(QVデータ)をSoCの昇順にソートする。すなわち、SoCの小さい順にデータを並べる。ソート後のデータに基づき、SoCに対して、電圧の移動平均を計算する。これによりSoCに対する電圧値の移動平均データを得る。この移動平均データが、OCVの推定データ(OCV推定データ又はOCVグラフ)である。この方法で推定したOCVを生成OCV、生成OCVとSoCとの組のデータを生成OCVデータ、当該生成OCVデータをQV座標系にプロットしたものをQVプロット(生成OCV)と記載する場合がある。OCVの推定方法は他の方法でもよい。例えば回帰分析によりSoCによって電圧を回帰するグラフを生成し、生成したグラフをOCVグラフとしてもよい。その他にもOCVを推定する方法は様々可能である。またOCV推定データ又はOCVグラフは、充電量と電圧値との関係を表す関数又はグラフの一例であり、当該関係を示すことが可能であれば、他の関数又はグラフでもよい。以下の説明では、OCVの推定をSoCに対する電圧(V)の移動平均を計算することで行った場合を想定する。
【0031】
図6は、OCV推定データとして、QVプロット(生成OCV)の一例を示す。このグラフ(OCVグラフ)は、SoCに対するOCVの推定値(生成OCV)を表し、生成OCVグラフとも記載するこの例では、グラフの右端が、生成OCVの最大電圧及び最大SoCに対応する。グラフの左端が、生成OCVの最小電圧及び最小SoCに対応する。
【0032】
蓄電池のフロート劣化又は貯蔵劣化が進むと生成OCVグラフの傾きは大きくなる。サイクル劣化が進んだ場合も生成OCVグラフの傾きは大きくなるが、サイクル劣化の場合は、電圧分布における電圧の範囲(例えば電圧の標準偏差等)の変化の方が支配的である。なお、サイクル劣化は、主に内部抵抗の変化(内部抵抗の増加)と、生成OCVの傾きの変化(傾きが大きくなる)として現れ、いずれの変化も電池容量の低下につながる。貯蔵劣化及びフロート劣化はほぼ生成OCVの傾きの変化として現れる。貯蔵劣化とフロート劣化を比較すると、傾きの変化率は、フロート劣化の方が大きい(劣化が早い)。
【0033】
図7を用いて、蓄電池のフロート劣化又は貯蔵劣化が進むとOCVグラフの傾きが大きくなる例を示す。
【0034】
図7は、蓄電池のそれぞれ異なる期間で取得された測定データに基づき生成された電圧分布情報である。電圧分布情報A1が最も劣化が進んでいない期間で測定され、電圧分布情報A2、A3、A4の順で劣化が進んでいる。ここでの劣化は主にフロート劣化又は貯蔵劣化を想定する。
【0035】
図8は、
図7の電圧分布情報(QVプロット)A1~A4から算出されたOCV推定データ(QVプロット(生成OCV))G1~G4の例を示す。OCV推定データG1が最も劣化が進んでいない期間で測定され、OCV推定データG2、G3、G4の順で劣化が進んでいる。劣化が進むほど、生成OCVの傾きは大きくなる。換言すると、劣化が進むほど、OCV推定データ(生成OCVグラフ)の最小SoCと最大SoCとの範囲(SoC幅)は狭くなる。
【0036】
OCV算出部18は、OCV推定データ(OCVグラフ)の傾き、及びSoC範囲の大きさ(最大SoCと最小SoCとの差分)を算出する。OCV推定データの傾きは、蓄電池201の測定データにおいて充電量に対する電圧値の変化を示す第1情報の一例に対応する。SoC範囲は、蓄電池201の測定データにおける充電量の範囲に対応する。
【0037】
SoC範囲は、最小SoCと最大SoCとの間の部分に対応する。最小SoCは、OCVの推定データにおいて最小の生成OCVに対応するSoCでもよい。最大SoCは、OCVの推定データにおいて最大の生成OCVに対応するSoCでもよい。
【0038】
OCV推定データの傾きは、生成OCVグラフを近似する直線の傾きとして算出されることができる。一例として、生成OCVグラフとの自乗誤差を最小又は閾値以下にする直線を最小自乗法により算出し、算出した直線の傾きを、OCV推定データの傾きとすることができる。あるいは、生成OCVグラフの両端を結ぶ直線の傾きを、OCV推定データの傾きとしてもよい。あるいは、生成OCVグラフにおいて所定のSoCに対応する位置(座標)を特定し、特定した位置の接線を、OCV推定データの傾きとしてもよい。充電量に対する電圧値の変化として生成OCVグラフの傾きを算出したが、当該変化を算出できる限り、他の方法でもよい。例えば電圧分布情報(QVプロット)を近似する直線を算出し、当該直線の傾きを、充電量に対する電圧値の変化を示す第1情報としてもよい。あるいは、充電量と電圧値との関係を表す関数又はグラフを生成し、当該関数またはグラフの傾きを第1情報として算出してもよい。
【0039】
劣化特徴量算出部17は、電圧分布情報に基づき電圧の範囲(広がり)に関する特徴量(劣化特徴量)を算出する。劣化特徴量の例として、電圧の標準偏差がある。標準偏差の算出は、電圧分布情報におけるSoC全範囲を対象としてもよいし、所定のSoC範囲を対象としてもよい。蓄電池201の温度に応じて、SoHとの関連性が高いSoC範囲が変わり得るため、蓄電池201の代表温度に応じて、対象とするSoCの範囲を可変としてもよい。
【0040】
図9は、
図5のQVプロット(電圧分布情報)を対象に劣化特徴量を算出する例を模式的に示す。例えばSoC全範囲を対象とする場合、電圧範囲D1に含まれる電圧値を対象に電圧の標準偏差を算出する。SoC50~60%の範囲を対象とする場合、電圧範囲D2に含まれる電圧値を対象に標準偏差を算出する。
【0041】
標準偏差以外の劣化特徴量の例としては、最大電圧と最小電圧との差分の絶対値がある。絶対値を算出する対象とするSoC範囲を、標準偏差の場合と同様に決定してもよい。この場合、決定したSoC範囲内で最大電圧と最小電圧とを特定し、両者の差分の絶対値を算出する。
【0042】
参照DB16は、過去に充放電を行って劣化させた1つ又は複数の蓄電池(サンプル蓄電池)に関する参照データを含む。参照データは、評価対象となる蓄電池201のSoHを推定する際の教師データとして用いられる。充放電として主にサイクル充放電を行ってサンプル蓄電池をサイクル劣化させた場合を想定する。サンプル蓄電池の貯蔵劣化及びフロート劣化は無い、もしくは、サイクル劣化に比べて十分少ない場合を想定する。
【0043】
図10は、参照DB16の一例を示す。参照データは、データのIDと、劣化特徴量、電圧分布情報、温度、SoH(基準SoH)を含んでいる。電圧分布情報は、前述した蓄電池201で説明した電圧分布情報と同様である。劣化特徴量は、当該サンプル蓄電池の電圧分布情報から算出されたものである。各参照データは、1つのサンプル蓄電池から得られたものでもよいし、複数の蓄電池から得られたものでもよい。参照データに、サンプル蓄電池を識別する情報(電池ID)を含めてもよい。参照DB16において、電圧値の複数の範囲(例えば電圧分布情報)に、複数のSoH(基準SoH)が対応づいている。
【0044】
SoH推定部13は、蓄電池201の測定データにおける電圧値の範囲に応じて、参照DB16から蓄電池201の劣化評価(SoH評価)に用いる参照データを特定する。具体的には、SoH推定部13は、蓄電池201の劣化特徴量に基づき、参照DB16から蓄電池201の劣化評価(SoH評価)に用いる参照データを特定する。例えば、蓄電池201の劣化特徴量に一致又は最も近い劣化特徴量を有する参照データを参照DB16において特定する。最も近いとは、差分の絶対値が最も小さいことを意味する。
【0045】
あるいは、SoH推定部13は、蓄電池201の電圧分布情報に一致又は最も距離が近い電圧分布情報を有する参照データを、参照DB16において特定してもよい。分布間の距離として、例えば、カルバック・ライブラー距離、ピアソン距離、相対ピアソン距離などを用いることができる。
【0046】
SoH推定部13は、劣化特徴量(又は電圧分布情報)と代表温度との両方に基づき、劣化評価に用いる参照データを特定してもよい。一例としてSoH推定部13は、代表温度が一致する複数の参照データを取得し、複数の参照データの中から、蓄電池201の劣化特徴量に一致又は最も近い劣化特徴量を有する参照データを特定する。
【0047】
以下、特定した参照データを、対象参照データと呼称する場合もある。対象参照データにおけるSoH(基準SoH)は、蓄電池201が主としてサイクル劣化のみ受けた基準となる状態(基準状態)に対応する。
【0048】
SoH推定部13は、特定した参照データ(対象参照データ)における電圧分布情報に基づきOCVの推定を行うことを指示する指示データをOCV算出部18に送る。OCV算出部18は、指示データに従って、対象参照データの電圧分布情報に基づき、OCVを推定し、SoCと生成OCVとの組のデータ(生成OCVデータ)から、OCV推定データ(生成OCVグラフ)を得る。予めOCVの推定を行ってOCV推定データを生成しておき、OCV推定データを参照DB16に、参照データの一部として、格納しておいてもよい。この場合、SoH推定部13は、参照DB16から、対象参照データに含まれるOCV推定データを取得すればよい。OCV算出部18は、OCV推定データの傾きを算出する。OCV推定データの傾きを予め参照DB16に参照データの一部として格納しておいてもよい。
【0049】
対象参照データにおける電圧分布情報に基づき推定したOCV推定データの傾きは、充電量に対する電圧値の基準変化を表す第2情報に対応する。このようにSoH推定部13は、蓄電池201の電圧値の範囲に応じて、充電量に対する電圧値の基準変化を表す第2情報(本例ではOCV推定データの傾き)を取得する。取得の方法は、対象参照データにおける電圧分布情報に基づきOCV推定データを推定し、OCV推定データの傾きを取得する方法でも、予め傾きを参照DB16に格納しておき、当該傾きを読み出す方法でもどちらでもよい。いずれの方法においても、電圧値の複数の範囲に複数の第2情報が予め関連付いており、蓄電池201の測定データにおける電圧値の範囲に対応する第2情報を取得している。
【0050】
OCV傾き比較部19は、蓄電池201のOCV推定データに基づき算出した生成OCV傾き(対象OCV傾きと呼ぶ)と、対象参照データに基づき算出した生成OCV傾き(基準OCV傾きと呼ぶ)とを比較する。OCV傾き比較部19は、比較の結果を示す情報をSoH推定部13に提供する。対象OCV傾きは、蓄電池201の測定データに基づく第1情報が示す変化に対応し、基準OCV傾きは、対象参照データに基づく第2情報が示す変化に対応する。
【0051】
SoH推定部13は、対象OCV傾きと基準OCV傾きとが一致する場合、もしくは対象OCV傾きと基準OCV傾きとの差が閾値未満の場合、対象参照データに含まれるSoHに補正の必要はないと判断する。つまりこの場合、蓄電池201のフロート劣化又は貯蔵劣化は発生していない又はほとんど発生していないとみなす。SoH推定部13は、対象参照データに含まれるSoH(基準SoH)を、蓄電池201のSoHとする。対象参照データにおける基準SoHは、蓄電池201の基準状態(サイクル劣化を受けていない状態)に対応する。
【0052】
SoH推定部13は、対象OCV傾きと基準OCV傾きとの差が閾値以上の場合、対象参照データに含まれるSoH(基準SoH)に補正の必要があると判断する。つまりこの場合、蓄電池201のサイクル劣化は対象参照データのサンプル蓄電池と同じ又は同程度であっても、蓄電池201には、サンプル蓄電池と異なり、フロート劣化又は貯蔵劣化が発生していると解釈する。SoH推定部13は、対象OCV傾きと基準OCV傾きとの差が大きいほど、フロート劣化及び貯蔵劣化の少なくとも一方がより進んでいることを決定する。参照DB16に格納されているSoH(基準SoH)は、サイクル劣化のみを有すると想定されるサンプル蓄電池のSoHであるため、当該サンプル蓄電池のフロート劣化又は貯蔵劣化も考慮したSoHを得るためには、特定参照データに含まれるSoHを補正する必要がある。このように、SoH推定部13は、蓄電池201の測定データにおける電圧値の範囲に対応する基準SoH(対象参照データにおけるSoH)を、蓄電池201の基準状態として取得し、取得した基準SoHを補正(基準状態が示す情報を補正)することを決定する。
【0053】
SoH補正部20は、対象参照データに含まれるSoH(基準SoH)を、蓄電池201の電圧分布情報(対象電圧分布情報と呼ぶ)と、対象参照データに含まれる電圧分布情報(基準電圧分布情報と呼ぶ)とに基づき補正する。具体的には、対象電圧分布情報に基づき最大SoCと最小SoCとを特定し、最大SoCと最小SoCとの差分(ΔSoC_eと記載する)、すなわちSoC幅を計算する。また、基準電圧分布情報に基づき、最大SoCと最小SoCとを特定し、最大SoCと最小SoCとの差分(ΔSoC_rと記載する)、すなわちSoC幅を計算する。予め参照DB16に、参照データの一部として、ΔSoC_rが格納されていてもよい。この場合、SoH補正部20は、参照DB16から、対象参照データに含まれている差分ΔSoC_rを取得すればよい。
【0054】
SoH補正部20は、ΔSoC_eとΔSoC_rとの比(又は差分)を、対象参照データに含まれるSoH(基準SoH)に乗じることにより、基準SoHを補正する。すなわち、蓄電池201の基準状態を示す情報を、ΔSoC_eとΔSoC_rとの比(又は差分)に応じて補正する。これにより、蓄電池201のSoHを得る。計算式を以下の式(1)に示す。
【0055】
SoH_e=(ΔSoC_e/ΔSoC_r)*SoH_r (1)
SoH_rは、特定参照データに含まれるSoH(蓄電池201の基準状態)である。SoH_eは、補正後のSoH、すなわち蓄電池201の推定されたSoHである。
【0056】
このようにSoH推定部13は、蓄電池201の基準状態を示す情報を第1情報(ΔSoC_e)と第2情報(ΔSoC_r)との比(又は差分)に応じて補正する。SoH推定部13は、補正された情報に基づき蓄電池201の状態(推定されたSoH)を決定する。
【0057】
SoH推定部13は、蓄電池201の推定されたSoH(SoHの補正を行った場合は補正後のSoH、又はSoHの補正を行わない場合は対象参照データに含まれる基準SoH)に基づき、蓄電池201の評価結果情報を、SoH出力部21に提供する。評価結果情報は、一例として、SoHの値、及び、蓄電池201の詳細情報を含む。詳細情報は、電池ID、電圧、温度、電力及び温度等の分布を含んでもよい。分布は、評価に用いた測定データに基づき生成すればよい。
【0058】
SoH出力部21は、蓄電池201の評価結果情報を、監視システム301に送信する。SoH出力部21は、SoHの値に基づき、蓄電池201が正常か否か等を診断してもよい。例えば、SoHが閾値A以上であれば蓄電池201は正常であり、閾値A未満であり閾値B以上であれば、メンテナンスの必要があり、閾値B未満であれば異常(交換の必要がある)と決定する。SoH出力部21は、診断結果を評価結果情報に含めてもよい。
【0059】
監視システム301は、SoH出力部21から受信した評価結果情報に基づき、蓄電池201の劣化状態を評価するための画面(劣化状態評価画面)を、監視員に対して表示に表画面示する。また、評価結果情報に診断結果が含まれているとき、診断結果に応じた動作を行ってもよい。例えば診断結果が異常を示す場合は、故障アラートのメッセージを画面に表示してもよい。蓄電池201のメンテナンスが必要である場合は、メンテナンス・コールのメッセージを画面に表示してもよい。蓄電池201が正常である場合は、蓄電池201の正常のメッセージを画面に表示してもよい。画面への表示の他、スピーカを介して故障アラート、メンテナンス・コール、または蓄電池201の正常を通知するメッセージ音を出力してもよい。
【0060】
図11は、蓄電池201のSoHを推定する処理の具体例を説明する図である。蓄電池201の電圧分布情報(QVプロット)E11と、対象参照データに含まれる電圧分布情報(QVプロット)R11とが示されている。すなわち、SoH推定部13は、電圧分布情報E11から算出される劣化特徴量に最も近似する劣化特徴量を含む参照データを参照DB16から特定し、特定した参照データ(対象参照データ)に含まれる電圧分布情報が電圧分布情報R11である。
【0061】
OCV算出部18は、電圧分布情報E11に基づきOCV推定データ(OCV_e)を生成し、電圧分布情報R11に基づきOCV推定データ(OCV_r)を生成する。OCV算出部18は、OCV_eの傾きと、OCV_rの傾きとを算出する。
【0062】
OCV傾き比較部19は、OCV_eの傾きと、OCV_rの傾きとを比較し、差分が閾値以上であるかを判断する。本例では、差分が閾値以上であると判断する。すなわち、対象参照データに含まれるSoH(基準SoH)に対して、当該差分に応じた補正が必要であると判断する。
【0063】
SoH補正部20は、電圧分布情報E11に基づき最大SoCと最小SoCとの差分ΔSoC_eを計算する。SoH補正部20は、電圧分布情報R11に基づき最大SoCと最小SoCとの差分ΔSoC_rを計算する。SoH補正部20は、上述の式(1)に基づき、対象参照データに含まれるSoH(SoH_r)に、ΔSoC_e/ΔSoC_rを乗じることにより、蓄電池のSoH(SoH_e)を算出する。
【0064】
先に
図7及び
図8を用いて説明した通り、フロート劣化又は貯蔵劣化が進むと、生成OCVグラフの傾きは大きくなり、これに応じて、SoCの最大値及び最小値間の幅も狭くなる(最大値と最小値との差分が小さくなる)。したがって、フロート劣化及び貯蔵劣化のないサンプル蓄電池の最大SoC及び最小SoCの差分ΔSoC_rに対する、蓄電池201の最大SoC及び最小SoCの差分ΔSoC_eの比によって、蓄電池201がサンプル蓄電池よりどれだけフロート劣化又は貯蔵劣化が進んでいるかを評価できる。よって、サイクル劣化のSoHを含む参照データを教師データとして用いることで、フロート劣化及び貯蔵劣化のSoHに関する教師データがなくとも、フロート劣化及び貯蔵劣化が進んだ蓄電池のSoHを評価することが可能になる。
【0065】
図12は、本実施形態に係る蓄電池評価装置101の動作の一例のフローチャートである。予め、データ入力部11は、例えば一定時間ごとに、蓄電池201から測定データ(電圧、充電量(SoC)、温度、温度等)を取得し、取得した測定データを充放電情報DB12に格納する。
【0066】
ステップS11において、SoH推定部13は、充放電情報DB12から評価対象となる蓄電池201について評価対象期間における測定データを取得し、電圧分布算出部14に提供する。電圧分布算出部14は、測定データに含まれる電圧値及びSoCのデータ(QVデータ)に基づき、電圧分布情報(QVプロット)を生成する。劣化特徴量算出部17は、電圧分布情報に基づき劣化特徴量を算出する。
【0067】
ステップS12において、SoH推定部13は、算出した劣化特徴量に一致又は近い劣化特徴量を含む参照データを参照DB16から特定する。あるいは、SoH推定部13は、生成した電圧分布情報に一致又は近い電圧分布情報を含む参照データを参照DB16から特定してもよい。
【0068】
ステップS13において、OCV算出部18は、生成した電圧分布情報(QVプロット)に基づき、蓄電池201のOCVを推定し、蓄電池201のOCV推定データ(対象OCV推定データ)を生成する。またOCV算出部18は、対象OCV推定データの傾き(対象OCV傾き)を算出する。また、OCV算出部18は、特定された参照データ(対象参照データ)に含まれる電圧分布情報(QVプロット)に基づき、サンプル蓄電池のOCVを推定し、サンプル蓄電池のOCV推定データ(基準OCV推定データ)を生成する。またOCV算出部18は、基準OCV推定データの傾き(基準OCV傾き)を算出する。
【0069】
ステップS14において、OCV傾き比較部19は、対象OCV傾きと基準OCV傾きとを比較し、両者の差分が閾値以下かを判断する。両者の差分が閾値以下の場合は、ステップS15に進み、両者の差分が閾値より大きい場合は、ステップS18に進む。一例として閾値はゼロでもよい。この場合は、ステップS14は、対象OCV傾きが基準OCV傾きより大きいか否かを判断することに相当する。対象OCV傾きが基準OCV傾き以下の場合は、ステップS15に進み、対象OCV傾きが基準OCV傾きより大きい場合は、ステップS18に進む。
【0070】
ステップS15において、SoH推定部13は、蓄電池201にフロート劣化又は貯蔵劣化は無い又は非常に少ないと判断する。
【0071】
ステップS16において、SoH推定部13は、対象参照データに含まれるSoH(基準SoH)を、蓄電池201のSoHとする。これにより、フロート劣化及び貯蔵劣化が無い又はほとんど進んでいない蓄電池201のSoHが推定される。
【0072】
ステップS17において、SoH出力部21は、推定された蓄電池201のSoHに基づき蓄電池201の評価結果情報を生成し、生成した評価結果情報を監視システム301に送信する。
【0073】
ステップS18において、SoH推定部13は、蓄電池201にフロート劣化又は貯蔵劣化の少なくとも一方があると判断する。
【0074】
ステップS19において、SoH補正部20は、対象参照データにおける電圧分布情報に基づきSoC範囲の大きさを算出する。すなわち最大SoCと最小SoCとの差分(ΔSoC_r)を算出する。SoC範囲の大きさ(差分)が予め参照DB16に参照データの一部として格納されていてもよく、この場合、SoH補正部20は、対象参照データからSoC範囲の大きさ(差分)を取得すればよい。同様にして、SoH推定部13は、蓄電池201の電圧分布情報に基づき、SoC範囲の大きさを算出する。すなわち、最大SoCと最小SoCとの差分(ΔSoC_e)を算出する。SoH補正部20は、ΔSoC_eとΔSoC_rとの比に、対象参照データに含まれるSoH(基準SoH)を乗じることにより、当該SoHを補正する。補正されたSoHを、蓄電池201の推定されたSoHとする。これにより、フロート劣化及び貯蔵劣化の少なくとも一方が進んだ蓄電池201のSoHが高い精度で推定される。
【0075】
ステップS20において、SoH出力部21は、推定された蓄電池201のSoHに基づき蓄電池201の評価結果情報を生成し、生成した評価結果情報を監視システム301に送信する。
【0076】
以上、本実施形態によれば、サイクル劣化が進んだ様々なSoHのサンプル蓄電池のデータを教師データとして用意しておく。そして、評価対象の蓄電池のOCV推定データの傾きが教師データにおけるOCV推定データの傾きより大きい場合は、フロート劣化又は貯蔵劣化が進んでいると判断する。そして、蓄電池の電圧分布情報のSoC範囲の大きさ、サンプル蓄電池の電圧分布情報のSoC範囲の大きさとの比又は差分に応じて、教師データにおけるSoHを補正する。あるいは両者の傾きの差分に応じて、教師データにおけるSoHを補正する。これにより、フロート劣化又は貯蔵劣化を反映させた教師データを用意することなく、蓄電池のフロート劣化及び貯蔵劣化を含めて、蓄電池のSoHを推定することができる。フロート劣化又は貯蔵劣化が進んだ様々なSoHのサンプル蓄電池のデータを教師データとして用意することができない場合であっても、容易に蓄電池のSoHを正しく評価することが可能となる。
【0077】
(第1変形例)
上述した実施形態では、参照DB16から特定された参照データに含まれるSoH(基準SoH)を、蓄電池201の補正前のSoH(サイクル劣化のみを想定したSoH)として用いた。変形例として、蓄電池201の劣化特徴量から評価関数に基づき、蓄電池201の補正前のSoHを算出してもよい。
【0078】
例えば、参照DB16に、予め劣化特徴量からSoHを算出する評価関数が格納されている。評価関数は、参照DB16に格納されている参照データに基づき作成されたものでもよい。評価関数の形は特定のものに限定されないが、一例として、一次関数によるy=a×x+bがある。aおよびbが係数、入力変数xは劣化特徴量、出力変数がSoHを表す。評価関数に代表温度の入力変数zが、入力変数xと同じ項又は別の項に追加されてもよい。あるいは代表温度ごとに、異なる評価関数が作成されてもよい。
【0079】
劣化特徴量算出部17は、評価関数の入力変数xに蓄電池201の劣化特徴量を入力することにより、補正前のSoHを算出する。あるいは、劣化特徴量算出部17は、評価関数の入力変数xに蓄電池201の劣化特徴量を入力し、変数zに蓄電池201の代表温度を入力することにより、補正前のSoHを算出する。
【0080】
本変形例により、評価関数を用いて補正前のSoHを算出することで、補正前のSoH(サイクル劣化のみを想定したSoH)を高い精度で算出することが期待できる。
【0081】
(第2変形例)
図13は、第2変形例に係る蓄電池評価システム1Aの一例のブロック図である。蓄電池評価装置101Aに電力分布算出部22(充放電指令値算出部)が設けられている。
【0082】
電力分布算出部22は、充放電情報DB12における評価対象期間の測定データに含まれる充放電指令値に基づき、充放電指令値の分布を算出する。例えば横軸が充放電指令値、縦軸を頻度(又は確率密度)とする分布を算出する。充放電指令値の分布が正規分布であると仮定し、当該分布を近似する正規分布のパラメータを算出してもよい。
【0083】
図14は、充放電指令値の分布の例を示す。横軸が充放電指令値(充放電指令値が指令する電力値)、縦軸が頻度を表している。
【0084】
参照DB16における各参照データには、サンプル蓄電池の充放電指令値の分布が格納されている。参照データに含まれる充放電指令値の分布を、充放電指令値の基準分布と呼ぶ。
【0085】
図15は、第2変形例に係る参照DB16の例を示す。充放電指令値の基準分布が格納されている。
【0086】
SoH推定部13は、参照DB16から参照データを特定する際、電力分布情報(又は劣化特徴量)に加えて、算出された充放電指令値の分布を用いる。一例として、SoH推定部13は、充放電指令値の分布と充放電指令値の基準分布との距離に基づき、参照データを1つ以上検出する。例えば、充放電指令値の分布と一致する(当該分布との距離がゼロの)基準分布を含む参照データ、又は充放電指令値の分布との距離が閾値未満の基準分布を含む参照データを検出する。
【0087】
SoH推定部13は、検出した参照データのうちから、第1実施形態と同様に、電力分布情報(又は劣化特徴量)に基づき、劣化評価に用いる参照データ(対象参照データ)を特定する。そして、対象参照データに基づき充電量に対する電圧値の基準変化を表す第2情報(基準OCV傾き)を取得する。つまり電力分布情報に基づき充電量に対する電圧値の基準変化を表す第2情報(基準OCV傾き)を取得する。
【0088】
また、第1実施形態と同様に、蓄電池201の代表温度をさらに用いて参照データ(対象参照データ)を特定してもよい。そして、対象参照データに基づき充電量に対する電圧値の基準変化を表す第2情報(基準OCV傾き)を取得する。つまり代表温度に基づき充電量に対する電圧値の基準変化を表す第2情報(基準OCV傾き)を取得する。
【0089】
充放電指令値が指示する電力の値に応じて、蓄電池の電圧(充電電圧又は放電電圧)の値は影響を受ける。すなわち、充放電指令値の分布に応じて、蓄電池から測定される電圧の分布は影響を受ける。このため、蓄電池201の充放電指令値の分布と同様の分布の充放電指令値で電圧分布が算出されたサンプル蓄電池の参照データを用いることで、より適切な教師データ(参照データ)を用いることができる。よって、蓄電池201のSoHの推定をより高い精度で行うことができる。
【0090】
(第3変形例)
上述の第2変形例においても、第1変形例と同様、蓄電池201の補正前のSoHを、評価関数を用いて算出してもよい。この際、評価関数の選択用に充放電指令値の複数の分布を用意し、評価関数選択用の充放電指令値の分布ごとに、評価関数を作成する。各分布に対応付けて評価関数を参照DB16に格納する。各分布について複数の温度ごとに評価関数を作成してもよい。この場合、分布と温度との各組に対応付けて評価関数を参照DB16に格納する。
【0091】
SoH推定部13は、蓄電池201の充放電指令値の分布と一致又は最も近い分布に対応する評価関数を参照DB16から選択する。SoH推定部13は、選択した評価関数及び蓄電池201の劣化特徴量等を用いて、補正前のSoH(サイクル劣化のみを想定したSoH)を算出する。あるいは、SoH推定部13は、蓄電池201の充放電指令値の分布と代表温度との組に一致又は最も近い分布及び温度に対応付いた評価関数を参照DB16から選択する。SoH推定部13は、選択した評価関数及び蓄電池201の劣化特徴量等を用いて、補正前のSoHを算出する。
【0092】
(ハードウェア構成)
図16は、本発明の実施形態に係る蓄電池評価装置のハードウェア構成例を示す。このハードウェア構成は、本発明の実施形態に係る蓄電池評価装置に用いることができる。
図16のハードウェア構成はコンピュータ150として構成される。コンピュータ150は、CPU151、入力インタフェース152、表示装置153、通信装置154、主記憶装置155、外部記憶装置156を備え、これらはバス157により相互に通信可能に接続される。
【0093】
入力インタフェース152は、蓄電池で測定された測定データを、配線等を介して取得する。入力インタフェース152は、ユーザが本装置に指示を与える操作手段でもよい。操作手段の例は、キーボード、マウス、タッチパネルを含む。通信装置154は、無線または有線の通信手段を含み、蓄電池201及び監視システム301と有線または無線の通信を行う。通信装置154を介して、測定データを取得してもよい。入力インタフェース152及び通信装置154は、それぞれ別個の集積回路等の回路で構成されていてもよいし、単一の集積回路等の回路で構成されてもよい。表示装置153は、例えば液晶表示装置、有機EL表示装置、CRT表示装置等である。
【0094】
外部記憶装置156は、例えば、HDD、SSD、メモリ装置、CD-R、CD-RW、DVD-RAM、DVD-R等の記憶媒体等を含む。外部記憶装置156は、蓄電池評価装置の各処理部の機能を、プロセッサであるCPU151に実行させるためのプログラムを記憶している。また、蓄電池評価装置が備える各DBも、外部記憶装置156に含まれる。ここでは、外部記憶装置156を1つのみ示しているが、複数存在しても構わない。
【0095】
主記憶装置155は、CPU151による制御の下で、外部記憶装置156に記憶された制御プログラムを展開し、当該プログラムの実行時に必要なデータ、当該プログラムの実行により生じたデータ等を記憶する。主記憶装置155は、例えば揮発性メモリ(DRAM、SRAM等)または不揮発性メモリ(NANDフラッシュメモリ、MRAM等)など、任意のメモリまたは記憶部を含む。主記憶装置155に展開された制御プログラムがCPU151により実行されることで、蓄電池評価装置101の各処理部の機能が実行される。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0097】
1 蓄電池評価システム
1A 蓄電池評価システム
11 データ入力部
12 充放電情報DB
13 SoH推定部
14 電圧分布算出部
15 代表温度算出部
16 参照DB
17 劣化特徴量算出部
18 OCV算出部
19 比較部
20 SoH補正部
21 SoH出力部
22 電力分布算出部
31 電池盤
32 電池モジュール
34 セル
101 蓄電池評価装置
101 蓄電システム
101A 蓄電池評価装置
150 コンピュータ
152 入力インタフェース
153 表示装置
154 通信装置
155 主記憶装置
156 外部記憶装置
157 バス
201 蓄電池
202 蓄電池
301 監視システム
301 制御システム