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特許7538983プリプレグ、及び該プリプレグを用いる繊維強化複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-14
(45)【発行日】2024-08-22
(54)【発明の名称】プリプレグ、及び該プリプレグを用いる繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20240815BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20240815BHJP
   C08G 59/56 20060101ALI20240815BHJP
   B29K 63/00 20060101ALN20240815BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
B29C70/42
C08G59/56
B29K63:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024522544
(86)(22)【出願日】2023-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2023034860
【審査請求日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2022158121
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】浅井 真人
(72)【発明者】
【氏名】金子 徹
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016138(WO,A1)
【文献】特表2018-528103(JP,A)
【文献】特開2019-156982(JP,A)
【文献】国際公開第2014/001537(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04-5/10;5/24
B29B 11/16;15/08-15/14
B29C 70/00-70/88
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00-63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化基材と、
前記繊維強化基材内に一部又は全部が含浸したエポキシ樹脂組成物と、
を含んで成るプリプレグであって、
前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤と、芳香族アミンと、ポリアミド粒子と、を含み、
前記エポキシ樹脂が、前記エポキシ樹脂100質量部の内、60質量部を超える量のN,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを含むエポキシ樹脂であり、
前記芳香族アミンが下記式(1)
【化1】
(但し、アミノ基に対するオルト位に水素以外の置換基を少なくとも1つ有する。また、化学式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基である。Xは-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-S-、-O-、-CO-、-CONH-、-C(=O)-のいずれかである。)
で表される芳香族アミンであり、
前記ポリアミド粒子が平均アスペクト比1.30未満の形状であり、
前記ポリアミド粒子の融点(Tm)と、示差走査熱量計を用いて測定される前記エポキシ樹脂組成物の発熱ピーク温度(Tp)とが下記数式(1)
Tp < Tm ≦ Tp+50 ・・・数式(1)
を満たすことを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂100質量部に対する前記ジシアンジアミドと前記ウレア系促進剤との合計含有量が、2~12質量部である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂をさらに含む請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂組成物が、メタクリル酸エステル系化合物、アクリル酸エステル系化合物及びビニル系化合物から成る群から選択される1種又は2種以上の重合単位を有する重合体から成る増粘粒子をさらに含む請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記ポリアミド粒子の配合量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して1~50質量部である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項6】
請求項1に記載のプリプレグを積層して加熱成形する繊維強化複合材料の製造方法であって、成形時の加熱温度が前記エポキシ樹脂組成物の示差走査熱量計を用いて測定される発熱ピーク温度(Tp)以上、前記ポリアミド粒子の融点(Tm)未満であることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ、及び該プリプレグを用いる繊維強化複合材料の製造方法に関する。更に詳述すれば、層間粒子として機能するポリアミド粒子を含むプリプレグ、及び該プリプレグを用いる繊維強化複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と樹脂とからなる繊維強化複合材料は、軽量、高強度、高弾性率等の特長を有し、航空機、スポーツ・レジャー、一般産業に広く応用されている。この繊維強化複合材料は、強化繊維と、マトリクス樹脂と呼ばれる樹脂と、が予め一体化されているプリプレグを経由して製造されることが多い。
【0003】
プリプレグを構成する樹脂としては、プリプレグのタック性、ドレープ性による成形自由度の高さから、熱硬化性樹脂が広く用いられている。また、繊維強化複合材料は、複数のプリプレグをその繊維軸方向を変えて多層に積層した積層板として用いられる場合が多いが、強化繊維が板厚方向に配向していないため層間強度が低く、層間剥離が生じやすいという課題がある。
【0004】
特許文献1には、炭素繊維から成る繊維強化基材と、前記繊維強化基材内に一部又は全部が含浸したエポキシ樹脂組成物と、を含んで成るプリプレグであって、エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、所定の芳香族アミンと、ポリアミド粒子と、を含むプリプレグが開示されている。このプリプレグにおいて、ポリアミド粒子は層間粒子として機能するが、ポリアミド粒子の形状やその表面状態、エポキシ樹脂組成物の硬化温度とポリアミド粒子の融点との関係については何も言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-156982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、耐衝撃性や靱性が高い繊維強化複合材料を作製することができるプリプレグ、及び該プリプレグを用いて作製する繊維強化複合材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、層間粒子として所定形状のポリアミド粒子を用いるとともに、該ポリアミド粒子の融点とエポキシ樹脂組成物の硬化温度とを所定の関係とすることで、エポキシ樹脂組成物内におけるポリアミド粒子の界面接着性を向上でき、その結果、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性や靱性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記課題を達成する本発明は、以下に記載のものである。
【0009】
〔1〕 繊維強化基材と、
前記繊維強化基材内に一部又は全部が含浸したエポキシ樹脂組成物と、
を含んで成るプリプレグであって、
前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤と、芳香族アミンと、ポリアミド粒子と、を含み、
前記エポキシ樹脂が、前記エポキシ樹脂100質量部の内、60質量部を超える量のN,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを含むエポキシ樹脂であり、
前記芳香族アミンが下記式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(但し、アミノ基に対するオルト位に水素以外の置換基を少なくとも1つ有する。また、化学式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基である。Xは-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-S-、-O-、-CO-、-CONH-、-C(=O)-のいずれかである。)
で表される芳香族アミンであり、
前記ポリアミド粒子が平均アスペクト比1.30未満の形状であり、
前記ポリアミド粒子の融点(Tm)と、示差走査熱量計を用いて測定される前記エポキシ樹脂組成物の発熱ピーク温度(Tp)とが下記数式(1)
Tp < Tm ≦ Tp+50 ・・・数式(1)
を満たすことを特徴とするプリプレグ。
【0012】
〔2〕 前記エポキシ樹脂100質量部に対する前記ジシアンジアミドと前記ウレア系促進剤との合計含有量が、2~12質量部である〔1〕に記載のプリプレグ。
【0013】
〔3〕 前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂をさらに含む〔1〕又は〔2〕に記載のプリプレグ。
【0014】
〔4〕 前記エポキシ樹脂組成物が、メタクリル酸エステル系化合物、アクリル酸エステル系化合物及びビニル系化合物から成る群から選択される1種又は2種以上の重合単位を有する重合体から成る増粘粒子をさらに含む〔1〕~〔3〕の何れかに記載のプリプレグ。
【0015】
〔5〕 前記ポリアミド粒子の配合量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して1~50質量部である〔1〕~〔4〕の何れかに記載のプリプレグ。
【0016】
〔6〕 〔1〕~〔5〕の何れかに記載のプリプレグを積層して加熱成形する繊維強化複合材料の製造方法であって、成形時の加熱温度が前記エポキシ樹脂組成物の示差走査熱量計を用いて測定される発熱ピーク温度(Tp)以上、前記ポリアミド粒子の融点(Tm)未満であることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプリプレグは、層間粒子として機能するポリアミド粒子の融点(Tm)と、示差走査熱量計を用いて測定されるエポキシ樹脂組成物の発熱ピーク温度(Tp)と、が所定の関係である。そのため、成形時の加熱によって、エポキシ樹脂組成物内におけるポリアミド粒子の界面接着性が高い状態となり、得られる繊維強化複合材料の損傷後圧縮強度(CAI)やモードII層間靱性(GIIc)を向上できる。
また、本発明のプリプレグは、層間粒子として機能するポリアミド粒子が、真球に近い形状を有する。そのため、エポキシ樹脂組成物内におけるポリアミド粒子の界面接着性が高い状態となり、得られる繊維強化複合材料の靱性が向上し、損傷後圧縮強度(CAI)を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のプリプレグ、及び該プリプレグを用いる繊維強化複合材料の製造方法の詳細について説明する。
【0019】
1. プリプレグ
本発明のプリプレグは、繊維強化基材と、前記繊維強化基材内に含浸されたエポキシ樹脂組成物と、から成る。
【0020】
(1) 繊維強化基材
本発明で用いる繊維強化基材としては、特に制限はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維などで形成された基材が挙げられる。
【0021】
これらの繊維強化基材の中でも、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維から成る繊維強化基材が好ましい。比強度、比弾性率が良好で、軽量かつ高強度の繊維強化複合材料が得られる点で、炭素繊維から成る繊維強化基材がより好ましい。引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維から成る繊維強化基材が特に好ましい。
【0022】
強化繊維にPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は、100~600GPaであることが好ましく、200~500GPaであることがより好ましく、230~450GPaであることが特に好ましい。また、引張強度は、2000~10000MPaであることが好ましく、3000~8000MPaであることがより好ましい。炭素繊維の単糸直径は、4~20μmが好ましく、5~10μmがより好ましい。このような炭素繊維を用いることにより、得られる繊維強化複合材料の機械的性質を向上できる。
【0023】
強化繊維はシート状に形成して用いることが好ましい。シート状の繊維強化基材としては、例えば、多数本の強化繊維を一方向に引き揃えたシートや、平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙を挙げることができる。これらの中でも、強化繊維を連続繊維としてシート状に形成した一方向引揃えシートや二方向織物、多軸織物基材を用いると、より機械物性に優れた繊維強化複合材料が得られるため好ましい。シート状の繊維強化基材の厚さは、0.01~3mmが好ましく、0.1~1.5mmがより好ましい。
【0024】
本発明のプリプレグは、繊維強化基材の一部又は全体にエポキシ樹脂組成物が含浸されたプリプレグである。プリプレグ全体におけるエポキシ樹脂組成物の含有率は、プリプレグの全質量を基準として、15~60質量%であることが好ましい。樹脂含有率が15質量%未満である場合、得られる繊維強化複合材料に空隙などが発生し、機械物性を低下させる場合がある。樹脂含有率が60質量%を超える場合、強化繊維による補強効果が不十分となり、実質的に質量対比機械物性が低いものになる場合がある。樹脂含有率は、20~55質量%であることがより好ましく、25~50質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
(2) エポキシ樹脂組成物
本発明で用いるエポキシ樹脂組成物は、少なくともエポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤と、芳香族アミンと、ポリアミド粒子と、を含んで成る。本発明で用いるエポキシ樹脂組成物は、これらの他に、熱可塑性樹脂やその他の添加剤を含んでいても良い。
【0026】
エポキシ樹脂組成物はその硬化反応時に熱エネルギーが放出される。本発明で用いるエポキシ樹脂組成物の示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される発熱ピーク温度(Tp)は110~200℃であることが好ましく、120~190℃であることがより好ましい。
【0027】
(2-1) エポキシ樹脂
本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記式(2)
【0028】
【化2】
【0029】
で表されるN,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを含む。その配合量は、全エポキシ樹脂100質量部の内、60質量部を超える量である。このエポキシ樹脂の配合量は、全エポキシ樹脂100質量部の内、65質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましい。また、このエポキシ樹脂の配合量は、全エポキシ樹脂100質量部の内、95質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましい。60質量部以下である場合、エポキシ樹脂組成物が硬化して得られる硬化体の機械特性が十分に高くならない場合がある。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン以外のエポキシ樹脂を含んでいても良い。具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂などの2官能エポキシ樹脂;テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0031】
さらには、フェノール型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂が挙げられる。また、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂などの各種変性エポキシ樹脂も用いることができる。
【0032】
特に、分子内に芳香族基を有するエポキシ樹脂が好ましく、グリシジルアミン構造、グリシジルエーテル構造のいずれかを有するエポキシ樹脂がより好ましい。また、脂環族エポキシ樹脂も好適に用いることができる。
【0033】
グリシジルアミン構造を有するエポキシ樹脂としては、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-3-メチル-4-アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールやその各種異性体が例示される。
【0034】
グリシジルエーテル構造を有するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が例示される。
【0035】
これらのエポキシ樹脂は、必要に応じて、芳香族環構造などに非反応性置換基を有していても良い。非反応性置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基などのアルキル基;フェニル基などの芳香族基;アルコキシル基;アラルキル基;塩素や臭素などのハロゲン基が例示される。
【0036】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、ビスフェノールS型樹脂等が挙げられる。具体的には、三菱化学(株)社製のjER815、jER828、jER834、jER1001、jER807(商品名);DIC(株)社製EXA1514(商品名)が例示される。
【0037】
脂環型エポキシ樹脂としては、ハンツマン(株)社製のアラルダイトCY-179、CY-178、CY-182、CY-183(商品名)が例示される。
【0038】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、三菱化学(株)社製のjER152、jER154(商品名);ダウケミカル(株)社製のDEN431、DEN485、DEN438(商品名);DIC社製のエピクロンN740(商品名)が例示される。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、ハンツマン(株)社製のアラルダイトECN1235、ECN1273、ECN1280(商品名);日本化薬(株)社製のEOCN102、EOCN103、EOCN104(商品名);日鉄ケミカル(株)社製のエポトートYDCN-700-10、エポトートYDCN-704(商品名);DIC(株)社製のエピクロンN680、エピクロンN695(商品名)が例示される。
【0039】
グリシジルアミン構造を有するエポキシ樹脂としては、住友化学(株)社製のスミエポキシELM434、スミエポキシELM120、スミエポキシELM100(商品名);ハンツマン(株)社製のアラルダイトMY0500、アラルダイトMY0510、アラルダイトMY0600、アラルダイトMY720、アラルダイトMY721、アラルダイトMY9512、アラルダイトMY9612、アラルダイトMY9634、アラルダイトMY9663(商品名);三菱化学(株)社製のjER604、jER630(商品名);Bakelite AG社製のBakelite EPR494、Bakelite EPR495、Bakelite EPR496、Bakelite EPR497(商品名)などが挙げられる。
【0040】
各種変性エポキシ樹脂としては、ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂としてADEKA(株)社製のアデカレジンEPU-6、EPU-4(商品名)が例示される。
【0041】
これらのエポキシ樹脂(N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン以外のエポキシ樹脂)は、適宜選択して1種又は2種以上を混合して用いることができる。これらのエポキシ樹脂の配合量は、全エポキシ樹脂100質量部の内、40質量部未満であり、5~35質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。
【0042】
これらの中でも、特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部の内、10~30質量部で含むことが好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂組成物中におけるエポキシ樹脂(N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを含むすべてのエポキシ樹脂)の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。
【0044】
(2-2) ジシアンジアミド
プリプレグの保存安定性や硬化性、及び硬化後の繊維強化複合材料の物性が優れる点から、本発明では上記エポキシ樹脂の硬化剤としてジシアンジアミドを用いる。
ジシアンジアミド(DICY)の具体例としては、三菱化学(株)社製のjERキュアーDICY7、DICY15(商品名)等が挙げられる。
【0045】
エポキシ樹脂に対するジシアンジアミドの配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して1~10質量部であることが好ましく、2~10質量部であることがより好ましく、2~8質量部であることが特に好ましい。ジシアンジアミドの配合量が1質量部以上であれば、架橋密度が十分になり、また十分な硬化速度が得られる。ジシアンジアミドの配合量が10質量部以下であれば、硬化剤が過剰に存在することによる硬化体の機械物性の低下や硬化体の濁り等の不具合を抑制することができる。
【0046】
(2-3) ウレア系硬化促進剤
前述のジシアンジアミドは、ウレア系硬化促進剤と併用することにより溶解温度を下げることができる。ウレア系硬化促進剤としては、例えば、フェニルジメチルウレア(PDMU)、トルエンビスジメチルウレア(TBDMU)等が挙げられる。
【0047】
ウレア系硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して0質量部を超え、7質量部以下であることが好ましく、0.05~7質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることが特に好ましい。
ジシアンジアミドとウレア系硬化促進剤との合計量は、エポキシ樹脂100質量部に対して2~12質量部であることが好ましく、3~11質量部であることがより好ましく、4~10質量部であることが特に好ましい。ジシアンジアミドとウレア系硬化促進剤との合計量が2質量部以上であれば、架橋密度が高く、且つ十分な硬化速度とすることができる。ジシアンジアミドとウレア系硬化促進剤の合計量が12質量部以下であれば、硬化剤が過剰に存在することによる硬化体の機械物性の低下や硬化体の濁り等の不具合を抑制することができる。
【0048】
(2-4) 芳香族アミン
本発明に用いる芳香族アミンは、下記式(1)
【0049】
【化3】
【0050】
(但し、アミノ基に対するオルト位に水素以外の置換基を少なくとも1つ有する。また、化学式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基である。Xは-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-S-、-O-、-CO-、-CONH-、-C(=O)-のいずれかである。)
で表される化合物である。
【0051】
具体的には、下記式(3)~(6)で表される化合物が例示できる。
【0052】
【化4】
【0053】
【化5】
【0054】
【化6】
【0055】
【化7】
【0056】
芳香族アミンの配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して3~20質量部であることが好ましく、5~16質量部であることがより好ましく、7~12質量部であることが特に好ましい。芳香族アミンの配合量が3質量部以上であれば、架橋密度が高くなり、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化体の耐吸水性を高くすることができる。芳香族アミンの配合量が20質量部以下であれば、樹脂の速硬化性を阻害することなく、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化体の耐吸水性を高くすることができる。
【0057】
(2-5) ポリアミド粒子
本発明のプリプレグは、所定のポリアミド粒子を含む。
ポリアミド粒子は、複数のプリプレグが積層されて作製される繊維強化複合材料において、強化繊維基材と隣接する強化繊維基材との間に分散する状態となる(以下、この分散している粒子を「層間粒子」ともいう)。この層間粒子は、繊維強化複合材料の靱性を向上させる。
このポリアミド粒子は、エポキシ樹脂、アミン系硬化剤、及びエポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂の少なくとも何れか1種の一部がその表面に浸透し、ポリアミド粒子の表面においてエポキシ樹脂等との親和性が高い状態になると考えられる。したがって、得られる繊維強化複合材料においてマトリクス樹脂を構成するエポキシ樹脂組成物内におけるポリアミド粒子の界面接着性が高くなり、その結果、得られる繊維強化複合材料の損傷後圧縮強度(CAI)やモードII層間靱性(GIIc)を向上できると考えられる。
【0058】
ポリアミド粒子としては、ナイロン6(登録商標)(PA6、ε-カプロラクタムの開環重合反応により得られるポリアミド)、ナイロン12(PA12、ラウリルラクタムの開環重合反応、又は12-アミノドデカン酸の重縮合反応により得られるポリアミド)、ナイロン1010(PA1010セバシン酸とデカメチレンジアミンの重縮合反応により得られるポリアミド)、ナイロン11(PA11、ウンデカンラクタムの開環重合反応、又は11-アミノウンデカン酸の重縮合反応により得られるポリアミド)などの結晶性ポリアミドからなるポリアミド粒子が例示される。
【0059】
得られる繊維強化複合材料の物性などの観点から、ポリアミド粒子のX線回折法により測定される結晶化度は42%以下であることが好ましく、25~42%であることがより好ましい。
【0060】
エポキシ樹脂組成物中のポリアミド粒子の含有量は、エポキシ樹脂組成物の粘度等に応じて適宜調整される。プリプレグの加工性の観点から、エポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることが特に好ましい。1質量部未満の場合、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性や靱性が不十分になる場合がある。50質量部を超える場合、エポキシ樹脂組成物の含浸性や、得られるプリプレグのドレープ性などを低下させる場合がある。
【0061】
ポリアミド粒子の融点(Tm)は、150~250℃であることが好ましく、170~220℃であることがより好ましい。また、ポリアミド粒子の融点(Tm)は、前述のエポキシ樹脂組成物の示差走査熱量計を用いて測定される発熱ピーク温度(Tp)よりも高いこと、即ち、Tp<Tmを満たすことが必須である。通常、プリプレグを加熱成形する温度は、Tp(℃)からTp+20(℃)である。Tp<Tmを満たさない場合、加熱成形時の温度でポリアミド粒子が溶融した後に再度結晶化することにより、ポリアミド粒子の結晶化度が大きく変動して、エポキシ樹脂組成物内におけるポリアミド粒子の接着性が低下したり、接着性にバラツキが生じ易くなる。その結果、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性や靱性が低下する場合がある。
【0062】
本発明において、ポリアミド粒子の融点(Tm)と、前述のエポキシ樹脂組成物の示差走査熱量計を用いて測定される発熱ピーク温度(Tp)とは、Tm ≦ Tp+50 の関係を満たす。即ち、Tm-Tpが50℃以下である。この条件を満たすことにより、加熱成形時の温度で、ポリアミド粒子の表面をエポキシ樹脂等によって十分に膨潤させることができる。
【0063】
即ち、本発明において、ポリアミド粒子の融点(Tm)と、エポキシ樹脂組成物の示差走査熱量計を用いて測定される発熱ピーク温度(Tp)とは、下記数式(1)を満たす。
Tp < Tm ≦ Tp+50 ・・・数式(1)
【0064】
Tp(℃)からTp+50(℃)の範囲の融点(Tm)を有するポリアミド粒子を用いることで、成形時の加熱によってポリアミド粒子の表面にエポキシ樹脂、アミン系硬化剤、及びエポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂の少なくとも何れか1種を浸透させることができ、エポキシ樹脂組成物内におけるポリアミド粒子の界面接着性を向上できる。
Tp(℃)からTp+50(℃)の加熱条件下で、エポキシ樹脂組成物を予め混練しておいても良い。混練することで、ポリアミド粒子中の空隙や、ポリアミドの分子間及び/又は分子内にエポキシ樹脂などがより浸透し易くなる。混練時は、エポキシ樹脂組成物が硬化しないように温度を調整するか、硬化剤を入れない状態で混練することが好ましい。混練時間は、20~300分が好ましく、30~150分であることがより好ましい。
【0065】
本発明において、ポリアミド粒子は、平均アスペクト比(ポリアミド粒子の長径と短径との比)が1.30未満であることが必須である。平均アスペクト比は、1.20以下であることが好ましく、1.10以下であることがより好ましい。このようなポリアミド粒子は、樹脂組成物中に均一に配合することができる。さらに、層間粒子が球状であることで、一般的な不定形の粒子と比べ、き裂進展エネルギーを等方的に吸収することができ、安定的に靭性を向上できる。このようなポリアミド粒子を得る方法は特に限定されないが、ポリアミドを溶剤に溶解したポリアミド溶液を、溶液や溶媒の濃度を調節して貧溶媒中で析出させる方法や、非真球状のポリアミド粒子に気相中で熱処理を施す方法が例示される。熱処理温度は、用いるポリアミド粒子に応じて、適宜調節することができ、ポリアミド粒子の融点(Tm)以上、分解温度未満の温度であることが好ましく、100~800℃であることがより好ましく、250~600℃であることがさらに好ましい。
また、真球形状に処理された市販のポリアミド粒子を用いることもできる。
【0066】
ポリアミド粒子の平均粒子径は、1~50μmであることが好ましく、3~30μmであることが特に好ましい。1μm未満である場合、ポリアミド粒子を添加したエポキシ樹脂組成物の粘度が著しく増粘する。そのため、エポキシ樹脂組成物に十分な量のポリアミド粒子を添加することが困難となる場合がある。50μmを超える場合、ポリアミド粒子を添加したエポキシ樹脂組成物をシート状に加工する際、均質な厚みのシートが得られ難くなる場合がある。
【0067】
(2-6) 熱可塑性樹脂
本発明のプリプレグは、上記のポリアミド粒子の他に、熱可塑性樹脂を含んでいても良い。熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂とエポキシ樹脂不溶性熱可塑性樹脂とが挙げられる。
【0068】
(2-6-1) エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂
エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂を含有することもできる。このエポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂組成物の粘度を調整するとともに、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性を向上させる。
【0069】
エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂とは、繊維強化複合材料を成形する温度又はそれ以下の温度において、エポキシ樹脂に一部又は全部が溶解し得る熱可塑性樹脂である。ここで、エポキシ樹脂に一部が溶解するとは、エポキシ樹脂100質量部に対して、平均粒子径が10~50μmの熱可塑性樹脂10質量部を混合して190℃で1時間撹拌した際に粒子が消失するか、平均粒子径が10%以上変化することを意味する。
一方、エポキシ樹脂不溶性熱可塑性樹脂とは、繊維強化複合材料を成形する温度又はそれ以下の温度において、エポキシ樹脂に実質的に溶解しない熱可塑性樹脂をいう。即ち、エポキシ樹脂100質量部に対して、平均粒子径が10~50μmの熱可塑性樹脂10質量部を混合して190℃で1時間撹拌した際に、粒子の大きさが10%以上変化しない熱可塑性樹脂をいう。なお、一般的に、繊維強化複合材料を成形する温度は100~190℃である。また、粒子径は、顕微鏡によって目視で測定され、平均粒子径とは、無作為に選択した100個の粒子の粒子径の平均値を意味する。
【0070】
エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂が完全に溶解していない場合は、エポキシ樹脂の硬化過程で加熱されることによりエポキシ樹脂に溶解し、エポキシ樹脂組成物の粘度を増加させることができる。これにより、硬化過程における粘度低下に起因するエポキシ樹脂組成物のフロー(プリプレグ内から樹脂組成物が流出する現象)を防止することができる。
【0071】
エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂は、190℃でエポキシ樹脂に80質量%以上溶解する樹脂が好ましい。
【0072】
エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂の具体的例としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂は、重量平均分子量(Mw)が8000~60000の範囲のポリエーテルスルホン、ポリスルホンが特に好ましい。重量平均分子量(Mw)が8000よりも小さいと、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性が不十分となり、また60000よりも大きいと粘度が著しく高くなり取扱性が著しく悪化する場合がある。エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂の分子量分布は均一であることが好ましい。特に、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比である多分散度(Mw/Mn)が1~10の範囲であることが好ましく、1.1~5の範囲であることがより好ましい。なお、本発明において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される分子量を意味する。
【0073】
エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂と反応性を有する反応基又は水素結合を形成する官能基を有していてもよい。このようなエポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂の硬化過程中における溶解安定性を向上させることができる。また、硬化後に得られる繊維強化複合材料に靭性、耐薬品性、耐熱性及び耐湿熱性を付与することができる。
【0074】
エポキシ樹脂との反応性を有する反応基としては、水酸基、カルボン酸基、イミノ基、アミノ基などが好ましい。水酸基末端のポリエーテルスルホンを用いると、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性、破壊靭性及び耐溶剤性が特に優れるためより好ましい。
【0075】
エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂の含有量は、粘度に応じて適宜調整され、プリプレグの加工性の観点から、エポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂100質量部に対して、5~90質量部が好ましく、5~40質量部がより好ましく、10~35質量部がさらに好ましい。5質量部未満の場合は、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性が不十分となる場合がある。エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂の含有量が高くなると、粘度が著しく高くなり、プリプレグの取扱性が著しく悪化する場合がある。
【0076】
エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂の形態は、特に限定されないが、粒子状であることが好ましい。粒子状のエポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂は、樹脂組成物中に均一に配合することができる。また、得られるプリプレグの成形性が高い。
【0077】
エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂の平均粒子径は、1~50μmであることが好ましく、3~30μmであることが特に好ましい。1μm未満である場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が著しく増粘する。そのため、エポキシ樹脂組成物に十分な量のエポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂を添加することが困難となる場合がある。50μmを超える場合、エポキシ樹脂組成物をシート状に加工する際、均質な厚みのシートが得られ難くなる場合がある。また、エポキシ樹脂への溶解速度が遅くなり、得られる繊維強化複合材料が不均一となるため、好ましくない。
【0078】
(2-6-2) エポキシ樹脂不溶性熱可塑性樹脂
エポキシ樹脂組成物には、上記のポリアミド粒子以外にエポキシ樹脂不溶性熱可塑性樹脂を含有しても良い。エポキシ樹脂不溶性熱可塑性樹脂としては、非晶性のポリアミド粒子、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリベンズイミダゾールが例示される。
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂不溶性熱可塑性樹脂の含有量は、エポキシ樹脂組成物の粘度に応じて適宜調整され、プリプレグの加工性の観点から、エポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂100質量部に対して、上記の(2-5)で説明したポリアミド粒子と合計で5~50質量部であることが好ましく、7~45質量部であることがより好ましく、10~40質量部であることがさらに好ましい。
【0079】
エポキシ樹脂不溶性熱可塑性樹脂の好ましい平均粒子径や形態は、エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂と同様である。
【0080】
エポキシ樹脂不溶性熱可塑性樹脂としては、成形加工時の適正な粘度を得る目的で、単独又は複数の不飽和化合物と架橋性モノマーとを共重合して得られる増粘粒子を用いても良い。特に限定されないが、アクリル酸エステル系化合物、メタクリル酸エステル系化合物、ビニル化合物の1種又は2種以上の重合単位を有する重合体から成る増粘粒子を含むことが望ましい。
【0081】
増粘粒子に用いるアクリル酸エステル系化合物とは、アクリル酸エステル構造を有する化合物とその誘導体をいい、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートが挙げられる。
増粘粒子に用いるメタクリル酸エステル化合物とは、メタクリル酸エステル構造を有する化合物とその誘導体をいい、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートが挙げられる。
増粘粒子に用いるビニル化合物とは、重合可能なビニル構造を有する化合物をいい、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン及びこれらの芳香環がアルキル基やハロゲン原子等の種々の官能基で置換された化合物が挙げられる。
また、増粘粒子は、メタクリル酸エステル系化合物、アクリル酸エステル系化合物、ビニル系化合物の1種又は2種以上の重合単位からなる重合体であってもよく、構造の異なる2種以上の樹脂を混合した樹脂であってもよい。さらに、
(i)アクリル酸エステル系化合物又はメタクリル酸エステル系化合物、ジエン系化合物の少なくとも1種からなる重合体と、
(ii)アクリル酸エステル系化合物又はメタクリル酸エステル系化合物とラジカル重合性不飽和カルボン酸とからなる重合体と、に、
(iii)金属イオンを添加することでイオン架橋させた複合樹脂であってもよい。
【0082】
増粘粒子としては、メタクリル酸エステル系化合物、アクリル酸エステル系化合物及びビニル系化合物から成る群から選択される1種又は2種以上の重合単位からなる重合体が好ましく、メタクリル酸アルキル重合体がより好ましい。
【0083】
増粘粒子の平均重合度は4,000~40,000であることが好ましい。
【0084】
増粘粒子としては、ゼフィアックF325やゼフィアックF320(いずれもアイカ工業(株))のような、コアシェル構造を有さないメタクリル酸アルキル重合体からなる市販品を用いることも好ましい。
【0085】
増粘粒子の粒径等については特に限定されないが、平均粒子径が0.3~10μmであることが好ましく、0.5~8μmであることがより好ましい。増粘粒子を配合する場合の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して1~15質量部であることが好ましく、2~12質量部であることがより好ましく、3~10質量部であることが特に好ましい。
【0086】
エポキシ樹脂は、増粘粒子の膨潤前においては粘度が低いため、繊維強化基材層内への含浸性が優れる。エポキシ樹脂内に分散する増粘粒子は、加熱によりエポキシ樹脂内で膨潤する。該増粘粒子の膨潤は、温度及び時間とともに進行し、増粘粒子の膨潤に伴ってエポキシ樹脂の粘度は急激に上昇する。増粘粒子が膨潤してエポキシ樹脂の粘度が繊維強化基材層内で上昇すると、成形時における樹脂フローが抑制される。その結果、樹脂含浸性と、樹脂フローの抑制と、を高い次元で両立できる。
【0087】
(2-7) その他の添加剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、導電性粒子や難燃剤、無機系充填剤、内部離型剤が配合されてもよい。
【0088】
導電性粒子としては、ポリアセチレン粒子、ポリアニリン粒子、ポリピロール粒子、ポリチオフェン粒子、ポリイソチアナフテン粒子及びポリエチレンジオキシチオフェン粒子等の導電性ポリマー粒子;カーボン粒子;炭素繊維粒子;金属粒子;無機材料又は有機材料から成るコア材を導電性物質で被覆した粒子が例示される。
【0089】
難燃剤としては、リン系難燃剤が例示される。リン系難燃剤としては、分子中にリン原子を含むものであれば特に限定されず、例えば、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ホスファゼン化合物、ポリリン酸塩などの有機リン化合物や赤リンが挙げられる。
【0090】
無機系充填材としては、例えば、ホウ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、グラファイト、硫酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸塩鉱物が挙げられる。特に、ケイ酸塩鉱物を用いることが好ましい。ケイ酸塩鉱物の市販品としては、THIXOTROPIC AGENT DT 5039(ハンツマン(株)社製)が挙げられる。
【0091】
内部離型剤としては、例えば、金属石鹸類、ポリエチレンワックスやカルバナワックス等の植物ワックス、脂肪酸エステル系離型剤、シリコンオイル、動物ワックス、フッ素系非イオン界面活性剤を挙げることができる。これら内部離型剤の配合量は、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましく、0.2~2質量部であることがさらに好ましい。この範囲内においては、金型からの離型効果が好適に発揮される。
【0092】
内部離型剤の市販品としては、“MOLD WIZ(登録商標)” INT1846(AXEL PLASTICS RESEARCH LABORATORIES INC.製)、Licowax S、Licowax P、Licowax OP、Licowax PE190、Licowax PED(クラリアントジャパン(株)社製)、ステアリルステアレート(SL-900A;理研ビタミン(株)社製が挙げられる。
【0093】
(2-8) エポキシ樹脂組成物の製造方法
本発明に用いるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤と、芳香族アミンと、ポリアミド粒子と、必要に応じて熱可塑性樹脂やその他の添加剤と、を混合することにより製造できる。
本発明において、エポキシ樹脂と、ポリアミド粒子と、を温度70~150℃で10分間以上混練することが好ましい。エポキシ樹脂とポリアミド粒子を加熱条件下で一定時間以上混練することで、ポリアミド粒子にエポキシ樹脂を浸透させることができる。加熱条件下で長時間混練することで、ポリアミド粒子中の空隙にエポキシ樹脂などが浸透する。混練温度は、90~140℃がより好ましく、115~130℃が特に好ましい。混練時間は、20~300分がより好ましく、30~150分であることが特に好ましい。
エポキシ樹脂とポリアミド粒子を温度70~150℃で10分間以上混練する場合、ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤とは混練後に添加することが好ましい。
【0094】
硬化剤添加後の混合温度としては、10~Tp(℃)の範囲が例示できる。Tp(℃)を超える場合、部分的に硬化反応が進行して強化繊維基材層内への含浸性が低下したり、得られるエポキシ樹脂組成物及びそれを用いて製造されるプリプレグの保存安定性が低下したりする場合がある。10℃未満である場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が高く、実質的に混合が困難となる場合がある。好ましくは20~130℃であり、さらに好ましくは30~100℃の範囲である。
【0095】
混合機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的な例としては、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を備えた混合容器、横型混合槽などが挙げられる。各成分の混合は、大気中又は不活性ガス雰囲気下又は減圧下で行うことができる。大気中で混合が行われる場合は、温度、湿度が管理された雰囲気が好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、30℃以下の一定温度に管理された温度や、相対湿度50%RH以下の低湿度雰囲気で混合することが好ましい。
【0096】
(3) プリプレグの製造方法
本発明のプリプレグの製造方法は、特に制限がなく、従来公知のいかなる方法も採用できる。具体的には、ホットメルト法や溶剤法が好適に採用できる。
【0097】
ホットメルト法は、離型紙の上に、樹脂組成物を薄いフィルム状に塗布して樹脂組成物フィルムを形成し、強化繊維基材に該樹脂組成物フィルムを積層して加圧下で加熱することにより樹脂組成物を強化繊維基材層内に含浸させる方法である。
【0098】
樹脂組成物を樹脂組成物フィルムにする方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いることもできる。具体的には、ダイ押し出し、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどを用いて、離型紙やフィルムなどの支持体上に樹脂組成物を流延、キャストをすることにより樹脂組成物フィルムを得ることができる。フィルムを製造する際の樹脂温度は、樹脂組成物の組成や粘度に応じて適宜決定する。具体的には、前述のエポキシ樹脂組成物の製造方法における混合温度と同じ温度条件が好適に用いられる。樹脂組成物の強化繊維基材層内への含浸は1回で行っても良いし、複数回に分けて行っても良い。
【0099】
溶剤法は、エポキシ樹脂組成物を適当な溶媒を用いてワニス状にし、このワニスを強化繊維基材層内に含浸させる方法である。
【0100】
本発明のプリプレグは、これらの従来法の中でも、溶剤を用いないホットメルト法により好適に製造することができる。
【0101】
エポキシ樹脂組成物フィルムをホットメルト法で強化繊維基材層内に含浸させる場合の含浸温度は、50~Tp(℃)の範囲が好ましい。含浸温度が50℃未満の場合、エポキシ樹脂の粘度が高く、強化繊維基材層内へ十分に含浸しない場合がある。含浸温度がTp(℃)を超える場合、エポキシ樹脂組成物の硬化反応が進行し、得られるプリプレグの保存安定性が低下したり、ドレープ性が低下したりする場合がある。具体的な含浸温度を例示すれば、60~145℃がより好ましく、70~140℃が特に好ましい。
【0102】
エポキシ樹脂組成物フィルムをホットメルト法で強化繊維基材層内に含浸させる際の含浸圧力は、その樹脂組成物の粘度・樹脂フローなどを勘案し、適宜決定する。
具体的な含浸圧力は、1~50(kN/cm)であり、2~40(kN/cm)であることがより好ましい。
【0103】
2. 繊維強化複合材料の製造方法
本発明のプリプレグを特定の条件で加熱加圧して硬化させることにより、繊維強化複合材料を得ることができる。
本発明のプリプレグを用いて、繊維強化複合材料を製造する方法としては、オートクレーブ成形やプレス成形等の公知の成形法が挙げられる。
【0104】
(1)オートクレーブ成形法
本発明の繊維強化複合材料の製造方法としては、オートクレーブ成形法が好ましく用いられる。オートクレーブ成形法は、金型の下型にプリプレグ及びフィルムバッグを順次敷設し、該プリプレグを下型とフィルムバッグとの間に密封し、下型とフィルムバッグとにより形成される空間を真空にするとともに、オートクレーブ成形装置で、加熱と加圧をする成形方法である。成形時の条件は、昇温速度を1~50℃/分とし、圧力0.2~0.7MPa、温度Tp(℃)以上Tm(℃)未満で10~150分間、加熱及び加圧することが好ましい。成形温度がTp(℃)以上であれば、十分に硬化反応を起こすことができ、高い生産性で繊維強化複合材料を得ることができる。ここで成形温度は最高保持温度を意味する。また、成形温度がTm(℃)未満であれば、ポリアミド粒子が溶融に起因する不具合を生じない。より好ましい温度は、Tp(℃)以上Tp+30(℃)以下である。
【0105】
(2)プレス成形法
本発明の繊維強化複合材料の製造方法としては、プレス成形法が好ましく用いられる。プレス成形法による繊維強化複合材料の製造は、本発明のプリプレグ又は本発明のプリプレグを積層して形成したプリフォームを、金型を用いて加熱加圧することにより行う。金型は、予め硬化温度に加熱しておくことが好ましい。
【0106】
プレス成形時の金型の温度は、Tp(℃)以上Tm(℃)未満が好ましい。成形温度がTp(℃)以上であれば、十分に硬化反応を起こすことができ、高い生産性で繊維強化複合材料を得ることができる。また、成形温度がTm(℃)未満であれば、ポリアミド粒子が溶融に起因する不具合を生じない。より好ましい温度は、Tp(℃)以上Tp+30(℃)以下である。
【0107】
成形時の圧力は、0.2~2MPaである。圧力が0.2MPa以上であれば、樹脂の適度な流動が得られ、外観不良やボイドの発生を防ぐことができる。また、プリプレグが十分に金型に密着するため、良好な外観の繊維強化複合材料を製造することができる。圧力が2MPa以下であれば、樹脂を必要以上に流動させることがないため、得られる繊維強化複合材料の外観不良が生じ難い。また、金型に必要以上の負荷をかけることがないため、金型の変形等が生じ難い。
成形時間は1~60分、好ましくは3~40分、さらに好ましくは5~30分である。
【0108】
得られる繊維強化複合材料は、実施例の方法で測定される損傷後圧縮強度(CAI)が260(MPa)以上であることが好ましく、より好ましくは270MPa以上で、さらに好ましくは280MPa以上、最も好ましくは290MPa以上である。
また、得られる繊維強化複合材料は、実施例の方法で測定されるモードII層間靱性(GIIc)が9(in-lbs/in)以上であることが好ましく、より好ましくは10(in-lbs/in)以上で、さらに好ましくは10.5(in-lbs/in)以上、最も好ましくは11.0(in-lbs/in)以上である。
【実施例
【0109】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例において使用する成分や試験方法を以下に記載する。
【0110】
〔成分〕
(エポキシ樹脂)
・“jER(登録商標)”604:(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、三菱化学(株)社製)
・“jER(登録商標)”828:(液状ビスフェニールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)社製)
(硬化剤、硬化促進剤)
・Dicy7:(ジシアンジアミド、三菱化学(株)社製)
・“オミキュア(登録商標)”24:(2,4’-トルエンビス(3,3-ジメチルウレア)、ハンツマン(株)社製)
(芳香族アミン)
・キュアハードMED:上記化学式(1)の構造を有する(クミアイ化学工業(株)社製)。
(ポリアミド粒子)
・PA12(真球):ポリアミド12樹脂粒子(MSP-ZL9010(商品名)、平均粒子径20μm、アスペクト比1.06、ポリプラエボニック(株)社製)
・PA1010(真球):ポリアミド1010樹脂粒子(MSP-A7723(商品名)、平均粒子径20μm、アスペクト比1.04、ポリプラエボニック(株)社製)
・PA12(不定形):ポリアミド12樹脂粒子(VESTSINT2158(商品名)、平均粒子径20μm、アスペクト比1.35、ポリプラエボニック(株)社製)
・PA1010(不定形):ポリアミド1010樹脂粒子(VESTSINT9158(商品名)、平均粒子径20μm、アスペクト比1.37、ポリプラエボニック(株)社製)
・PA11(不定形):ポリアミド11樹脂粒子(RILSAN PA11 D30 NAT(商品名)、平均粒子径20μm、アスペクト比1.46、アルケマ(株)社製)
(エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂1)
・ポリエーテルスルホン:スミカエクセル5003P(商品名)(平均粒子径20μm、住友化学(株)社製)
(エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂2)
・“ゼフィアック(登録商標)”F320:(メタクリル酸アルキル重合体)、平均重合度30,000、アイカ工業(株)社製)
(炭素繊維)
・テナックス(登録商標) IMS65:炭素繊維ストランド、引張強度6000MPa、引張弾性率290GPa、帝人(株)社製
【0111】
各実施例のエポキシ樹脂組成物の原料混合比率は表1に記載の比率とし、以下の混合手順で混合して調製した。
【0112】
〔混合手順〕
プラネタリーミキサー中にエポキシ樹脂、ポリアミド粒子、エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂1を所定量加え、攪拌しながら120℃まで昇温した。120℃に到達後1時間攪拌し、エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂を溶解した。その後、攪拌しながら60℃まで降温し、溶解物を取り出した。上記溶解物と硬化剤、硬化促進剤、芳香族アミン、エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂2を70℃に加温した3本ロールミルで均一になるまで混練し、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0113】
〔評価方法〕
(1) 一方向プリプレグの作製
一方向プリプレグは、次のように作製した。リバースロールコーターを用いて、離型紙上に、上記混合手順で得られたエポキシ樹脂組成物を塗布して50g/m目付の樹脂フィルムを作製した。次に、単位面積当たりの繊維質量が190g/mとなるように炭素繊維を一方向に整列させてシート状の繊維強化基材層を作製した。この繊維強化基材層の両面に上記樹脂フィルムを積重し、温度100℃、圧力0.2MPaの条件で加熱加圧して、炭素繊維含有率が65質量%の一方向プリプレグを作製した。
【0114】
(2) 損傷後圧縮強度(CAI)
上記(1)で得られた一方向プリプレグを一辺が360mmの正方形にカットし、[+45°/0°/-45°/90°]3sの構成で24枚積層した積層体をバッグ内に入れ、これをオートクレーブ内で2℃/分で昇温し、所定の硬化温度で30分加熱し、硬化させて成形板(炭素繊維強化複合材料)を作製した。この間オートクレーブ内を0.50MPaに加圧し、バッグ内を真空に保った。
ASTM-D7136及びASTM-D7137試験法に準拠して測定した。
【0115】
(3) 層間破壊靭性モードII(GIIc)
上記(1)で得られたプリプレグを所定の寸法にカットした後、積層し、0°方向に10層積層した積層体を2つ作製した。初期クラックを形成させるために、離型シートを2つの積層体の間に挟み、両者を組み合わせ、積層構成[0]20のプリプレグ積層体を得た。通常の真空オートクレーブ成形法を用い、0.50MPaの圧力下、昇温速度2℃/分、硬化温度160℃ないし180℃で20分成形した。得られた成形物を幅 12.7 mm × 長さ 330.2 mmの寸法に切断し、層間破壊靭性モードII(GIIc)の試験片を得た。この試験片を用いて、GIIc試験を行った。
GIIc試験方法として、3点曲げ荷重を負荷するENF(End Notched Flexure)試験を行った。支点間距離は101.6mmとした。厚さ25μmのPTFEシートにより作製したシートの先端が、支点から38.1mmとなるように試験片を配置し、この試験片に2.54mm/分の速度で曲げの負荷を与えて初期クラックを形成させた。
その後、クラックの先端が、支点から25.4mmの位置になるように試験片を配置し、2.54mm/分の速度で曲げの負荷を与えて試験を行った。同様に、3回の試験を実施し、それぞれの曲げ試験の荷重-ストロークから各回のGIIcを算出した後、それらの平均値を算出した。
クラックの先端は顕微鏡を用いて、試験片の両端面から測定を行った。GIIc試験の測定は、n=5の試験片で測定を行った。
【0116】
(4) ポリアミド粒子の形状
スライドガラス上に散布したポリアミド粒子の長径および短径をキーエンス(株)社製顕微鏡(VHX―5000)により200倍で測定し、長径と短径との比率からアスペクト比(長径/短径)を算出した。粒子のアスペクト比は、無作為に抽出された100個の粒子から算出された値の平均値を意味する。
【0117】
(5) エポキシ樹脂組成物の発熱ピーク温度(Tp)
エポキシ樹脂組成物の発熱ピーク温度(Tp)は島津製作所社製示差走査熱量測定計(DSC)を用いて測定した。Tpは、窒素雰囲気下において昇温速度2℃/分で得られる発熱ピークのピーク温度を意味する。
ASTM-D3418試験法に準拠して測定した。
【0118】
(6) ポリアミド粒子の融点(Tm)
ポリアミド粒子の融点は島津製作所社製示差走査熱量測定計(DSC)を用いて測定した。吸熱ピーク温度(Tm)は、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で得られる発熱ピークのピーク温度を意味する。
ASTM-D3418試験法に準拠して測定した。
【0119】
〔実施例1~8、比較例1~5〕
表1に記載する成分を攪拌機を用いて混合してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物の各種物性を表1に示した。
また、上記(1)の方法により一方向プリプレグを作製し、これを用いて複合材料を製造し、その物性を評価した。結果は表1に示した。
【0120】
実施例1~8のプリプレグは、ポリアミド粒子のアスペクト比が1.30未満であり、且つTm-Tpが50℃以下であるため、優れたCAI及びGIIcを示した。
比較例1は真球状のポリアミド粒子を用いているものの、Tp<Tmを満たさないため、プリプレグの硬化時にポリアミド粒子が少なくとも部分的に溶融したと考えられ、CAI及びGIIcが低下した。
比較例2は真球状のポリアミド粒子を用いているものの、Tm≦Tp+50を満たさないため、ポリアミド粒子にエポキシ樹脂等が浸透しなかったと考えられ、CAI及びGIIcが低下した。
比較例3~4はポリアミド粒子のアスペクト比が大きいため、等方的にき裂進展させることができなかったと考えられ、特にGIIcが大きく低下した。
比較例5はポリアミド粒子のアスペクト比が大きく、Tm≦Tp+50を満たさないため、ポリアミド粒子にエポキシ樹脂が浸透せず、且つ等方的にき裂進展させることができなかったと考えられ、CAI及びGIIcが低下した。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【要約】
本発明により、繊維強化基材と、
前記繊維強化基材内に一部又は全部が含浸したエポキシ樹脂組成物と、
を含んで成るプリプレグであって、
前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、ウレア系硬化促進剤と、芳香族アミンと、ポリアミド粒子と、を含み、
前記エポキシ樹脂が、前記エポキシ樹脂100質量部の内、60質量部を超える量のN,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを含むエポキシ樹脂であり、
前記芳香族アミンが下記式(1)
【化1】
(但し、アミノ基に対するオルト位に水素以外の置換基を少なくとも1つ有する。また、化学式(1)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基である。Xは-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-S-、-O-、-CO-、-CONH-、-C(=O)-のいずれかである。)
で表される芳香族アミンであり、
前記ポリアミド粒子が平均アスペクト比1.30未満の形状であり、
前記ポリアミド粒子の融点(Tm)と、示差走査熱量計を用いて測定される前記エポキシ樹脂組成物の発熱ピーク温度(Tp)とが下記数式(1)
Tp < Tm ≦ Tp+50 ・・・数式(1)
を満たすことを特徴とするプリプレグが提供される。