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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
B23K9/073 530
B23K9/073 560
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022530522
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021210
(87)【国際公開番号】W WO2021251267
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2024-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2020102626
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】玉川 健太
(72)【発明者】
【氏名】堀江 宏太
【審査官】齋藤 健児
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-46692(JP,A)
【文献】特開2019-84576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と被加工物との間に交流電圧を印加することでアークを発生させる溶接装置であって、
前記交流電圧の極性を、前記被加工物を前記電極よりも高電位とする正極性と、前記被加工物を前記電極よりも低電位とする逆極性とに切り替えるインバータ回路と、
コンデンサと、
前記コンデンサを充電する充電回路と、
前記電極から前記被加工物にアーク放電により流れる電流を、前記コンデンサの放電により増加させる放電動作を行う放電回路と、
前記交流電圧の極性を、前記正極性から前記逆極性に切り替えるときに、前記放電回路に前記放電動作を前記交流電圧の周期の5%以下の放電期間だけ連続して行わせる制御部とを備えていることを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接装置において、
前記放電期間は、前記交流電圧の周期の3%以下であることを特徴とする溶接装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶接装置において、
前記交流電圧の周波数は、600Hz以上であることを特徴とする溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極と被加工物との間に交流電圧を印加することでアークを発生させる溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された溶接装置は、交流電圧の極性を、被加工物を電極よりも高電位とする正極性と、前記被加工物を前記電極よりも低電位とする逆極性とに切り替えるインバータ回路と、コンデンサと、前記コンデンサを充電する充電回路と、前記電極から前記被加工物にアーク放電により流れる電流を、前記コンデンサの放電により増加させる放電動作を行う放電回路と、前記交流電圧の極性を、前記正極性から前記逆極性に切り替えるときに、前記放電回路に前記放電動作を行わせる制御部とを備える。この溶接装置では、前記交流電圧の極性を、前記正極性から前記逆極性に切り替えるときに、電極から被加工物にアーク放電により流れる電流を、コンデンサの放電により増加させるので、アーク切れが発生しにくい。なお、交流電圧の周波数は500Hzに設定され、制御部が放電回路に前記放電動作を行わせる放電期間は、前記交流電圧の極性を、正極性から逆極性に切り替えてから300μ秒に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-89093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、放電回路に前記放電動作を行わせる期間が、交流電圧の周期の15%を占めるので、放電動作による溶接電流の変化量が、溶接電流の実効値に大きく影響し、溶接時の不具合を招く虞がある。かかる問題は、比較的小さい電流で溶接を行う場合に特に顕著になる。具体的には、低い電流域で溶接電流の実効値が上昇し、被加工物が薄板等である場合に、被加工物が溶け落ちる現象等が発生する可能性が生じる。
【0005】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、放電動作に起因する溶接時の不具合を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様では、電極と被加工物との間に交流電圧を印加することでアークを発生させる溶接装置であって、前記交流電圧の極性を、前記被加工物を前記電極よりも高電位とする正極性と、前記被加工物を前記電極よりも低電位とする逆極性とに切り替えるインバータ回路と、コンデンサと、前記コンデンサを充電する充電回路と、前記電極から前記被加工物にアーク放電により流れる電流を、前記コンデンサの放電により増加させる放電動作を行う放電回路と、前記交流電圧の極性を、前記正極性から前記逆極性に切り替えるときに、前記放電回路に前記放電動作を前記交流電圧の周期の5%以下の放電期間だけ連続して行わせる制御部とを備えていることを特徴とする。
【0007】
この態様によると、放電期間を、交流電圧の周期の5%より長くする場合に比べ、放電動作による溶接電流の変化量が溶接電流の実効値に与える影響を小さくできるので、放電動作に起因する溶接時の不具合を抑制できる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、放電動作に起因する溶接時の不具合を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、溶接電源の回路図である。
図3図3は、第2のインバータ回路の回路図である。
図4図4は、充電回路の回路図である。
図5図5は、放電回路の回路図である。
図6図6は、極性切替信号、溶接電流、コンデンサの電圧、充電信号、及び放電信号を示すタイミングチャートである。
図7図7は、逆極性の期間中ずっと放電動作を行わせた場合の図6相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本開示の実施形態に係る溶接装置1を示す。この溶接装置1は、溶接トーチ10と、溶接電源20とを備えている。この溶接装置1は、溶接トーチ10が非消耗電極式のトーチである交流TIG溶接装置である。
【0012】
溶接トーチ10は、図示しないガス供給装置から供給されるシールドガスSGを噴出するノズル11を有している。ノズル11の内側には、略筒状のコレット12が、ノズル11の噴出方向に沿うように配設されている。このコレット12の内側には、棒状のタングステン電極TEが固定されている。
【0013】
溶接電源20は、溶接トーチ10のタングステン電極TEと被加工物(ワーク)Wとの間に交流電圧を印加することでアークAを発生させる。
【0014】
作業者は、この溶接装置1によって、タングステン電極TEと被加工物Wとの間にアークAを発生させることにより、被加工物Wに溶融池Pを形成し、この溶融池Pに溶加棒Rを挿入することにより、溶接ビードを形成できる。
【0015】
詳しくは、溶接電源20は、図2に示すように、第1の整流平滑回路21と、第1のインバータ回路22と、第1のトランス23と、第2の整流平滑回路24と、第1及び第2のリアクトル25,26と、第2のインバータ回路27と、再点弧回路30と、制御装置40とを備えている。
【0016】
第1の整流平滑回路21は、商用電源2から入力される入力交流電力を直流電力に変換して出力する。
【0017】
第1のインバータ回路22は、例えば、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、4つのスイッチング素子(図示せず)を備えている。第1のインバータ回路22は、これら4つのスイッチング素子を、制御装置40によって出力されるスイッチング信号S1に応じてスイッチングさせることで、第1の整流平滑回路21によって出力された直流電力を交流電力に変換して出力する。ここで、第1のインバータ回路22の出力電圧を第1の交流電圧とする。なお、第1のインバータ回路22として、ハーフブリッジ型のインバータ等、他の構成のインバータ回路を用いてもよい。
【0018】
第1のトランス23は、第1のインバータ回路22によって出力された第1の交流電圧を第2の交流電圧に変化させて出力する。第1のトランス23は、第1の一次コイル23aと第1の二次コイル23bとを有している。第1の一次コイル23aには、第1のインバータ回路22によって出力された第1の交流電圧が印可される。第1の二次コイル23bの電圧は、第2の交流電圧となる。
【0019】
第2の整流平滑回路24は、第1のトランス23によって出力された第2の交流電圧を第1の直流電圧に変換して正出力端子24a及び負出力端子24bから出力する。第2の整流平滑回路24は、4つのダイオード24cからなるダイオードブリッジ回路である。
【0020】
第2のインバータ回路27は、図3に示すように、単相ハーフブリッジ型のインバータ回路である。第2のインバータ回路27は、第1及び第2の入力端子271,272と、第1及び第2の入力端子271,272間に互いに直列に接続された上アームスイッチング素子273及び下アームスイッチング素子274とを備えている。上アームスイッチング素子273には、制御装置40によって出力される極性切替信号S2が入力される一方、下アームスイッチング素子274には、極性切替信号S2を反転させた信号が入力される。第2のインバータ回路27の第1の入力端子271は、第1のリアクトル25を介して第2の整流平滑回路24の正出力端子24aに接続されている。第2のインバータ回路27の第2の入力端子272は、第2のリアクトル26を介して第2の整流平滑回路24の負出力端子24bに接続されている。第2のインバータ回路27の出力端子275は、被加工物Wに接続されている。
【0021】
したがって、上アームスイッチング素子273をオンし、かつ下アームスイッチング素子274をオフした状態で、第2のインバータ回路27は、被加工物Wをタングステン電極TEよりも高電位とする一方、上アームスイッチング素子273をオフし、かつ下アームスイッチング素子274をオンした状態で、第2のインバータ回路27は、被加工物Wをタングステン電極TEよりも低電位とする。所定の周期でハイレベルとローレベルとに切り替わるパルス信号を極性切替信号S2として第2のインバータ回路27に入力すると、第2のインバータ回路27は、被加工物Wとタングステン電極TEとの間に印可する交流電圧の極性を、被加工物Wをタングステン電極TEよりも高電位とする正極性と、被加工物Wをタングステン電極TEよりも低電位とする逆極性とに周期的に切り替える。
【0022】
再点弧回路30は、コンデンサ31と、第1のダイオード32と、電圧センサ33と、充電回路34と、放電回路35とを備えている。
【0023】
コンデンサ31の一方の電極は、第1のダイオード32を介して第1のトランス23の第1の二次コイル23bの中途部に接続されている。
【0024】
第1のダイオード32のカソードは、コンデンサ31の一方の電極に接続され、第1のダイオード32のアノードは、第1のトランス23の第1の二次コイル23bの中途部に接続されている。
【0025】
電圧センサ33は、コンデンサ31の電圧を測定し、測定値MVを出力する。
【0026】
充電回路34は、図4に示すように、第3の整流平滑回路341と、第2のトランス342と、充電用スイッチング素子343と、駆動回路344と、第2及び第3のダイオード345,346と、第3のリアクトル347とを有している。
【0027】
第3の整流平滑回路341は、商用電源2から入力される入力交流電圧を直流電圧に変換して出力する。
【0028】
第2のトランス342は、第3の整流平滑回路341によって出力された直流電圧から充電用スイッチング素子343のソースドレイン間電圧を引いた電圧を、充電用直流電圧に変圧して出力する。第2のトランス342は、第2の一次コイル342aと第2の二次コイル342bとを有している。第2の一次コイル342aには、第3の整流平滑回路341によって出力された直流電圧から充電用スイッチング素子343のソースドレイン間電圧を引いた電圧が印可される。第2の二次コイル342bの電圧は、充電用直流電圧となる。
【0029】
充電用スイッチング素子343は、第3の整流平滑回路341と第2のトランス342の第2の一次コイル342aとの接続をオンオフする。充電用スイッチング素子343は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)で構成されている。
【0030】
駆動回路344は、電圧センサ33の測定値MVが所定の充電電圧CV未満であり、かつ制御装置40によって出力される充電信号S3がハイレベルであるという条件が満たされたときに充電用スイッチング素子343をオンする一方、当該条件が満たされない場合には充電用スイッチング素子343をオフする。
【0031】
第2のダイオード345のカソードと第3のダイオード346のカソードとは、互いに接続されている。
【0032】
第2の二次コイル342bの一端には、第2のダイオード345のアノードが接続され、第2の二次コイル342bの他端には、第3のダイオード346のアノードが接続されている。第2の二次コイル342bと第3のダイオード346との接続点は、コンデンサ31の第2のインバータ回路27側(被加工物W側)に接続されている。
【0033】
第3のリアクトル347の一端は、第2のダイオード345及び第3のダイオード346の接続点に接続されている。第3のリアクトル347の他端は、コンデンサ31、及び第1のダイオード32のカソードに接続されている。
【0034】
したがって、上述のように構成された充電回路34は、電圧センサ33の測定値MVが所定の充電電圧CV未満であり、かつ充電信号S3がハイレベルであるという条件が満たされたときに、商用電源2の交流電力を用いてコンデンサ31を充電する。
【0035】
放電回路35は、図5に示すように、抵抗351と、放電用スイッチング素子352とを有している。
【0036】
抵抗351の一端は、タングステン電極TEに接続されている。抵抗351の他端は、放電用スイッチング素子352の一端に接続されている。放電用スイッチング素子352の他端は、コンデンサ31の第1のダイオード32側の電極に接続されている。
【0037】
放電用スイッチング素子352は、制御装置40によって出力される放電信号S4がハイレベルのときにオンし、放電信号S4がローレベルのときにオフする。
【0038】
したがって、上述のように構成された放電回路35は、放電信号S4がハイレベルのときに、タングステン電極TEとコンデンサ31とを電気的に接続することで、タングステン電極TEから被加工物Wにアーク放電により流れる電流を、コンデンサ31の放電により増加させる放電動作を行う。
【0039】
制御装置40は、電流制御部41と、極性切替制御部42と、充電制御部43と、放電制御部44とを備えている。
【0040】
電流制御部41は、図示しない電流センサから入力される溶接電流Iの測定値に基づいて、PWM制御により、溶接電流Iの実効値が設定値SVとなるように第1のインバータ回路22にスイッチング信号S1を出力する。本実施形態では、溶接電流Iの設定値SVは10Aとされている。溶接電流Iの設定値SVは、図示しない入力手段へのユーザの入力により変更可能である。
【0041】
極性切替制御部42は、電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の極性を切り替える極性切替信号S2を出力する。極性切替信号S2は、1kHzのパルス信号である。したがって、タングステン電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の周波数は、1kHzとなる。
【0042】
充電制御部43は、充電信号S3を出力する。充電信号S3は、極性切替信号S2がハイレベルのときにハイレベルとなり、極性切替信号S2がローレベルのときにローレベルとなる。
【0043】
放電制御部44は、放電信号S4を出力する。放電信号S4は、極性切替信号S2がハイレベルからローレベルに切り替わった時から、25μs経過するまでの放電期間Lに継続してハイレベルとなり、その他の期間には継続してローレベルとなる信号である。25μsは、タングステン電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の周期の2.5%の期間となる。つまり、放電制御部44は、タングステン電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の極性が正極性から逆極性に切り替わるときに、放電回路35に前記放電動作を当該交流電圧の周期の2.5%の放電期間Lだけ連続して行わせる。
【0044】
上述のように構成された溶接装置1では、図6に示すように、タイミングt1において、コンデンサ31の電圧は、充電電圧CVとなっている。タイミングt1において、極性切替信号S2がハイレベルからローレベルに切り替わると、充電信号S3がハイレベルからローレベルになる。また、タングステン電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の極性が、正極性から逆極性に切り替わり、放電信号S4がローレベルからハイレベルになる。放電信号S4は、タイミングt1から25μsの放電期間L中、ハイレベルを維持する。したがって、放電期間L中、放電用スイッチング素子352がオンし、タングステン電極TEとコンデンサ31とが電気的に接続され、コンデンサ31からタングステン電極TEに電流が流れる。これにより、電流極性の切替時にタングステン電極TEから被加工物Wに流れる電流が増加し、その分、溶接電流Iの立ち下がり速度(減少速度)が上昇するので、溶接電流Iの立ち下がり速度を上昇させない場合に比べ、アーク切れが発生しにくい。また、コンデンサ31の放電により、溶接電流Iは、コンデンサ31の放電量分、設定値SVの-1倍の-10Aよりも小さい値まで立ち下がる。このとき、コンデンサ31の放電により、コンデンサ31の電圧が低下する。このように、放電期間L中、放電回路35は、タングステン電極TEから被加工物Wにアーク放電により流れる電流を、コンデンサ31の放電により増加させる放電動作を行う。
【0045】
タイミングt1から25μs経過後のタイミングt2では、放電信号S4がハイレベルからローレベルに切り替わる。これにより、放電回路35が放電動作を終了し、溶接電流Iが設定値SVの-1倍の-10Aとなる。
【0046】
その後、タイミングt3で極性切替信号S2がローレベルからハイレベルに切り替わると、充電信号S3がローレベルからハイレベルになり、充電回路34の充電用スイッチング素子343がオンし、商用電源2の交流電力を用いてコンデンサ31が充電電圧CVまで充電される。コンデンサ31の電圧、すなわち電圧センサ33の測定値MVが充電電圧CVに達すると、充電用スイッチング素子343がオフし、充電が終了する。その後、極性切替信号S2がハイレベルからローレベルに切り替わると、上述したタイミングt1からの動作と同じ動作が再び繰り返される。
【0047】
図7に示すように、極性切替信号S2をローレベルとする期間中、すなわちタングステン電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の極性を逆極性とする期間中、放電信号S4をずっとハイレベルにした場合には、タイミングt2の後にも放電動作が継続する。したがって、放電動作によって溶接電流Iが-10Aよりも小さくなる期間が、25μsを超え、放電動作による溶接電流Iの減少量が、溶接電流Iの実効値に大きく影響し、被加工物Wの溶け落ち等の溶接時の不具合を招く虞がある。
【0048】
これに対し、本実施形態では、放電動作を、タングステン電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の極性を、正極性から逆極性に切り替えてから25μsの放電期間Lだけ行わせるので、放電期間Lを25μsよりも長くした場合に比べ、放電動作によって溶接電流Iが-10Aよりも小さくなる期間が短くなる。したがって、放電動作による溶接電流Iの変化量が溶接電流Iの実効値に与える影響を小さくし、アーク切れを防止するための放電動作に起因する溶接時の不具合を抑制できる。
【0049】
このように、本実施形態では、タングステン電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の周期を600Hz以上としたので、600Hz未満とした場合に比べ、アークAの集中性を高めることができる。したがって、アークAがふらつきやすい小電流溶接を容易にできる。
【0050】
なお、本実施形態では、極性切替信号S2の周期、すなわちタングステン電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の周期を1kHzとしたが、600Hz以上の他の周期としてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、放電期間Lを、タングステン電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の周期の2.5%としたが、5%以下の他の周期としてもよい。放電期間Lを、当該交流電圧の周期の5%以下とすることにより、5%よりも長くする場合に比べ、放電動作による溶接電流Iの変化量が溶接電流Iの実効値に与える影響を小さくし、放電動作に起因する溶接時の不具合を抑制できる。また、放電期間Lを、タングステン電極TEと被加工物Wとの間に印可される交流電圧の周期の3%以下とすることにより、3%よりも長くする場合に比べ、放電動作に起因する溶接時の不具合をさらに効果的に抑制できる。
【0052】
また、本実施形態では、溶接電流Iの設定値SVを10Aとしたが、20A、30A等他の値としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示の溶接装置は、放電動作に起因する溶接時の不具合を抑制でき、電極と被加工物との間に交流電圧を印加することで電極と被加工物との間にアークを発生させてアーク溶接を行う溶接装置として有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 溶接装置
27 第2のインバータ回路
31 コンデンサ
34 充電回路
35 放電回路
40 制御装置(制御部)
A アーク
L 放電期間
TE タングステン電極
W 被加工物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7