(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】蓄電素子の管理装置、蓄電装置、及び、車両
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240816BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240816BHJP
G01R 15/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H02J7/00 M
H02J7/00 301E
H01M10/48 P
G01R15/00 500
(21)【出願番号】P 2020068424
(22)【出願日】2020-04-06
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今中 佑樹
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034221(JP,A)
【文献】特開2019-138706(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199222(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194368(WO,A1)
【文献】特表2003-513596(JP,A)
【文献】特開2015-109236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 - 10/667
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
G01R 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の管理装置であって、
基板と、
前記基板に伝熱可能な配置で設けられた熱源と、
前記基板に設けられ、前記蓄電素子と直列に電気接続されている抵抗体に接続される
第1及び第2配線を有する電流計測回路と、を備え、
前記熱源と前記
第1及び第2配線との間に断熱部が設けられ、
前記断熱部は、前記基板に設けられたスリットである、管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電素子の管理装置であって、
前記
第1及び第2配線に設けられた部品は、前記スリットの両端からの距離が等しくなるように配置されている、管理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓄電素子の管理装置であって、
前記スリットは、第1スリットと、第2スリットと、を備えて構成され、
前記基板における前記第1スリットと前記第2スリットの間には、前記熱源側と前記
第1及び第2配線側とをつなぐつなぎ部が設けられている、管理装置。
【請求項4】
蓄電素子の管理装置であって、
基板と、
前記基板に伝熱可能な配置で設けられた熱源と、
前記基板に設けられ、前記蓄電素子と直列に電気接続されている抵抗体に接続される第1及び第2配線を有する電流計測回路と、を備え、
前記熱源と前記第1及び第2配線との間に断熱部が設けられ、
前記基板は、前記熱源が設けられた第1基板と、前記
第1及び第2配線が設けられた第2基板と、に分割されており、前記第1基板と前記第2基板は、接続部によって電気的に接続されており、前記断熱部は、前記第1基板と前記第2基板の間の
断熱空間とされている、管理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載の蓄電素子の管理装置であって、
電流計測値を積算して前記蓄電素子の充電状態を算出する、管理装置。
【請求項6】
複数の蓄電素子と、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の蓄電素子の管理装置と、を備えた蓄電装置。
【請求項7】
請求項6に記載の蓄電装置を備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蓄電素子の管理装置、蓄電装置、及び、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電素子の充電状態(SOC:State Of Charge)を推定する方法として電流積算法が知られている。電流積算法は電流センサによって蓄電素子の充放電電流を常時計測することで蓄電素子に出入りする充放電容量を計測し、これを初期容量から加減することでSOCを推定する方法である。電流計測にシャント抵抗が用いられる場合、シャント抵抗の両端電圧を計測することで電流を検出している。例えば特許文献1に記載の抵抗はシャント抵抗の一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シャント抵抗の両端電圧を計測する2つの経路上に温度勾配があると、各経路でゼーベック効果による起電力が発生するため、電流値の計測誤差を生じる場合がある。
【0005】
本明細書では、ゼーベック効果の影響を抑制する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面は、蓄電素子の管理装置は、基板と、前記基板に設けられた熱源と、前記基板に設けられ、前記蓄電素子と直列に接続されている抵抗体に接続される一対の配線を有する電流計測回路と、を備え、前記熱源と前記一対の配線との間に断熱部が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
上記構成により、ゼーベック効果の影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1の蓄電装置、及び、その蓄電装置が搭載されている自動車
【
図5】本体内に蓄電素子を収容した状態を示す斜視図
【
図6】蓄電素子にバスバーを装着した状態を示す斜視図
【
図9】電流計測回路においてゼーベック効果が発生する箇所を示す図
【
図10】スリットがない場合におけるバランサからの熱の影響を示す図
【
図11】実施形態1における断熱部としてのスリットを示す図
【
図12】実施形態2における断熱部としてのスリットを示す図
【
図13】実施形態3における断熱部としての断熱空間を示す図
【
図14】実施形態4のBMU基板の取付状態を示した斜視図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本実施形態の概要)
(1)蓄電素子の管理装置は、基板と、前記基板に設けられた熱源と、前記基板に設けられ、前記蓄電素子と直列に接続されている抵抗体に接続される一対の配線を有する電流計測回路と、を備え、前記熱源と前記一対の配線との間に断熱部が設けられている。
【0010】
電流計測値に対して温度勾配に起因する計測誤差が生じると、電流積算法に基づいて算出される充電状態の推定精度に誤差が生じる。電流積算法は、電流計測値を積算するため、誤差が蓄積されてしまう。基板の熱伝導率は高く、基板上の配線は熱の影響を受けやすい。このため、熱源が基板に伝熱可能な配置で設けられていると、熱源から基板に熱が伝わりやすくなる。熱源で発生した熱が基板を通じて一対の配線に伝わった結果、一対の配線の間で温度勾配が異なる場合、温度勾配に起因する計測誤差(ゼーベック効果に起因する計測誤差)が生じる。この結果、抵抗体に流れる電流の計測値に誤差が発生し、充電状態の推定精度が低下する。
【0011】
上記の管理装置によると、熱源と一対の配線の間に断熱部が設けられているため、熱源で発生した熱が基板を通じて一対に配線に向かう途中に断熱部で遮断され、結果として充電状態を精度よく推定できる。したがって、上記の管理装置は、電流積算法を用いる場合に有効である。
【0012】
(2)前記断熱部は、前記基板に設けられたスリットでもよい。
基板にスリットを設けるという簡素な構成でゼーベック効果に起因する計測誤差を抑制できる。
【0013】
(3)前記一対の配線に設けられた部品は、前記スリットの両端からの距離が等しくなるように配置されていてもよい。
コネクタと計測ICを接続する配線の場合、コネクタ側と計測IC側とで配線の温度の勾配がある。複数の配線で、この勾配が異なると、計測の誤差が生じる。熱源で発生した熱がスリットを回り込むようにして部品に向かった場合、スリットの両端から部品までの距離が等しいから、熱が部品に伝わったとしても一対の配線間での部品の温度勾配の差が生じにくい。
【0014】
(4)前記スリットは、第1スリットと、第2スリットと、を備えて構成され、前記基板における前記第1スリットと前記第2スリットの間には、前記熱源側と前記一対の配線側とをつなぐつなぎ部が設けられていてもよい。
第1スリットと第2スリットの間につなぎ部が設けられているから、つなぎ部が設けられていない場合と比較して、スリットを設けたことに伴う基板の強度低下を抑制できる。
【0015】
(5)前記基板は、前記熱源が設けられた第1基板と、前記一対の配線が設けられた第2基板と、に分割されており、前記第1基板と前記第2基板は、接続ケーブルによって電気的に接続されており、前記断熱部は、前記第1基板と前記第2基板の間の空間でもよい。
基板が第1基板と第2基板に分割されて第1基板と第2基板の間の空間が断熱部であるから、断熱部としてスリットを設けた場合と同様の効果を得ることができる。
(6)電流計測値を積算して前記蓄電素子の充電状態を算出してもよい。
【0016】
(7)複数の蓄電素子と、上記の蓄電素子の管理装置と、を備えた蓄電装置でもよい。
(8)前記蓄電装置を備えた車両でもよい。
管理装置を備えた車両において充電状態を精度よく推定できる。
【0017】
<実施形態1>
実施形態1を
図1ないし
図11によって説明する。
図1を参照して、実施形態1に係る蓄電装置1、及び、蓄電装置1を備える自動車2(車両の一例)について説明する。
図1に示す自動車2はエンジン自動車であり、エンジンを始動させるスタータを備えている。蓄電装置1は自動車2に搭載されてスタータに電力を供給する始動用の蓄電装置である。
図1では蓄電装置1(実線で図示)がエンジンルーム2Aに収容されている場合を示しているが、蓄電装置1(二点鎖線で図示)は車内の床下やトランクに収容されてもよい。
【0018】
(1)蓄電装置の構成
図2に示すように、蓄電装置1は、外装体10と、外装体10の内部に収容される複数の蓄電素子12と、を備える。外装体10は、合成樹脂材料からなる本体13と、合成樹脂材料からなる蓋体14と、で構成されている。本体13は有底筒状であり、平面視矩形状の底面部15と、その4辺から立ち上がった筒状となる4つの側面部16と、で構成される。4つの側面部16によって上端部分に上方開口部17が形成されている。
【0019】
蓋体14は平面視矩形状であり、その4辺から下方に向かって枠体18が延びている。蓋体14は本体13の上方開口部17を閉鎖する。蓋体14の上面には平面視略T字形の突出部19が形成されている。蓋体14の上面には突出部19が形成されていない2箇所のうち一方の隅部に正極外部端子20が固定され、他方の隅部に負極外部端子21が固定されている。
【0020】
蓄電素子12は繰り返し充電可能な二次電池であり、具体的には例えばリチウムイオン電池である。より具体的には、蓄電素子12は後述する電極体23の正極活物質にリン酸鉄リチウム(LFP)を含有した、いわゆる鉄系のリチウムイオン電池である。
【0021】
図3及び
図4に示すように、蓄電素子12は直方体形状のケース22内に電極体23を非水電解質と共に収容したものである。ケース22は、ケース本体24と、その上方の開口部を閉塞するカバー25と、で構成されている。
【0022】
電極体23は、詳細については図示しないが、銅箔からなる基材に活物質を塗布した負極要素とアルミニウム箔からなる基材に活物質を塗布した正極要素との間に多孔性の樹脂フィルムからなるセパレータを配置したものである。これらはいずれも帯状であり、セパレータに対して負極要素と正極要素とを幅方向の反対側にそれぞれ位置をずらした状態で、ケース本体24に収容可能となるように扁平状に巻回されている。
【0023】
正極要素には正極集電体26を介して正極端子27が接続されている。負極要素には負極集電体28を介して負極端子29が接続されている。正極集電体26及び負極集電体28は、平板状の台座部30と、台座部30から延びる脚部31と、を有している。台座部30には貫通孔が形成されている。脚部31は正極要素又は負極要素に接続されている。正極端子27及び負極端子29は、端子本体部32と、その下面中心部分から下方に突出する軸部33と、を有している。そのうち正極端子27の端子本体部32と軸部33とはアルミニウム(単一材料)によって一体成形されている。負極端子29においては、端子本体部32がアルミニウム製であり、軸部33が銅製であり、これらを組み付けたものである。正極端子27及び負極端子29の端子本体部32はカバー25の両端に絶縁材料からなるガスケット34を介して配置され、このガスケット34から外方へ露出されている。
【0024】
図5に示すように、蓄電素子12は複数個(例えば12個)が幅方向に並設された状態で本体13内に収容されている。ここでは、3つの蓄電素子12によって1つのセル64が構成されている。
図5では本体13の一端側から他端側(矢印Y1からY2方向)に向かって4組のセル64が配置されている。同一組のセル64では隣り合う蓄電素子12の端子極性が同じになり、隣り合う組のセル64同士では隣り合う蓄電素子12の端子極性が逆になるように配置されている。最も矢印Y1側に位置する第1組のセル64では矢印X1側が負極、矢印X2側が正極となっている。第1組に隣接する第2組のセル64では矢印X1側が正極、矢印X2側が負極となっている。さらに第2組に隣接する第3組のセル64では第1組と同じ配置となっており、第3組に隣接する第4組のセル64では第2組と同じ配置となっている。
【0025】
図6に示すように、正極端子27及び負極端子29には導電部材としての端子用バスバー(接続部材)36から40が溶接により接続されている。第1組の矢印X2側では正極端子27群が第1バスバー36によって接続されている。第1組と第2組の間では矢印X1側で第1組の負極端子29群と第2組の正極端子27群とが第2バスバー37によって接続されている。第2組と第3組の間では矢印X2側で第2組の負極端子29群と第3組の正極端子27群とが第3バスバー38によって接続されている。第3組と第4組の間では、矢印X1側で第3組の負極端子29群と第4組の正極端子27群とが第4バスバー39によって接続されている。第4組の矢印X2側では、負極端子29群が第5バスバー40によって接続されている。
【0026】
図2を併せて参照すると、電気の流れの一端に位置する第1バスバー36は第1の電子機器42A(例えばヒューズ)、第2の電子機器42B(例えばリレー)、接続用バスバー43及びバスバーターミナル(図示せず)を介して正極外部端子20に接続されている。電気の流れの他端に位置する第5バスバー40は接続用バスバー44A,44B及び負極バスバーターミナル(図示せず)を介して負極外部端子21に接続されている。これによりそれぞれの蓄電素子12は正極外部端子20及び負極外部端子21を介して充電と放電とが可能になっている。電子機器42A,42Bと接続用バスバー43,44A及び44Bとは、積層配置した複数の蓄電素子12の上部に配置された回路基板ユニット41に取り付けられている。バスバーターミナルは、蓋体14に配置されている。
【0027】
図7に示すように、蓄電装置1は、4つのセル64が直列に接続されて構成された組電池45、シャント抵抗(抵抗体の一例)60、電池管理装置(BMU:Battery Manegement Unit)50等を備えている。組電池45は、パワーライン46,47を介して各外部端子20,21に接続されている。パワーライン46は、正極外部端子20と組電池45の正極48とを接続するパワーラインである。パワーライン47は、負極外部端子21と組電池45の負極49とを接続するパワーラインである。
図6に示す第1バスバー36に正極48が接続され、第5バスバー40に負極49が接続されている。
【0028】
(2)電池管理装置の構成
図7に示すように、シャント抵抗60はパワーライン47にあり、組電池45と直列に接続されている。電池管理装置50は、一対の計測線51,52を介してシャント抵抗60に接続されている。シャント抵抗60は、電流の流れ方向に互いに離間した二つの計測端子60A,60Bを有している。各計測線51,52は各計測端子60A,60Bに接続されている。各計測端子60A,60Bはシャント抵抗60の内部に設けられた抵抗本体の両端に位置している。抵抗本体は、図示はしないが、例えばマンガニンで構成され、所定の抵抗値を有している。一対の計測線51,52は、抵抗本体を挟んだ一対の配線である。シャント抵抗から計測線が3本以上あってもよい。例えば、シャント抵抗と、グランドとを接続するグランド線があってもよい。3本以上の場合でも、一対の計測線とは、マンガニンを挟んだ一対の配線である。
【0029】
図8に示すように、電源管理装置50はBMU基板53を有し、BMU基板53には電流計測回路54が形成されている。電流計測回路54は、コネクタ55、第1ノイズフィルタ56A、第2ノイズフィルタ56B、第1配線57A、第2配線57B、計測IC58等を備えている。各ノイズフィルタ56A、56Bは、各配線57A、57Bに流れる信号からノイズを除去する役割を有し、ノイズに起因した電流計測誤差の発生を抑制できる。
【0030】
第1配線57Aは、コネクタ55と第1ノイズフィルタ56Aと計測IC58とを直列に接続する内部配線である。第2配線57Bは、コネクタ55と第2ノイズフィルタ56Bと計測IC58とを直列に接続する内部配線である。第1配線57Aはコネクタ55を介して計測線51に接続され、第2配線57Bはコネクタ55を介して計測線52に接続されている。計測IC58にて、シャント抵抗60の抵抗本体の両端に生じる電圧を検出することで、組電池45の電流を計測することができる。
【0031】
図9に示すように、第1配線57Aは、コネクタ55との接続部61A、第1ノイズフィルタ56Aの両端との接続部61B、計測IC58との接続部61C等を備えている。第1配線57Aのうち各接続部61A,61B,61Cはいずれもスズめっき銅によって形成され、その他の部分はいずれも銅によって形成されている。同様に、第2配線57Bは、コネクタ55との接続部62A、第2ノイズフィルタ56Bの両端との接続部62B、計測IC58との接続部62C等を備えている。第2配線57Bのうち各接続部62A,62B,62Cはいずれもスズめっき銅によって形成され、その他の部分はいずれも銅によって形成されている。
【0032】
(3)電流計測誤差の抑制
電流計測回路54の経路上に温度勾配がある場合には、経路上にゼーベック効果による起電力が発生する。
図9において両側矢印で示した箇所は、温度勾配があるとした場合にゼーベック効果による起電力が発生する箇所を示している。第1配線57Aの温度勾配と第2配線57Bの温度勾配が異なる場合、発生する起電力に差が発生するため、電流計測誤差が生じる。
【0033】
第1配線57Aの温度勾配と第2配線57Bの温度勾配が異なる要因としては、例えば
図10に示すように、BMU基板53に設けられているバランサ63等の熱源が挙げられる。3つの蓄電素子12によって1つのセル64が構成されているため、12Vバッテリの場合、セル64が4つ直列に接続されることになる。バランサ63は、セル64の自己放電のばらつき等により発生したセル64間の容量差を均等化する。バランサ63としてパッシブバランサを用いた場合、バランサ63は容量の大きなセル64の電気エネルギーを抵抗放電によって消費することで容量差を均等化し、放電時に発生した熱によってBMU基板53に温度不均衡を生じさせる。したがって、バランサ63を動作させて、その熱がBMU基板53の電流計測回路54に伝播し、第1配線57Aの温度勾配と第2配線57Bの温度勾配が異なった状態になると、電流計測誤差が発生する。
【0034】
そこで、本実施形態では熱の伝播を防ぐための断熱部としてスリット65を設けている。
図11に示すように、スリット65は、BMU基板53におけるバランサ63と電流計測回路54の間に設けられている。スリット65は、第1配線57Aに沿って真っ直ぐに延びる細長い形状とされており、第1配線57Aの配線方向においてコネクタ55と計測IC58の間に位置している。スリット65の一端65Aはコネクタ55の近傍に位置し、スリット65の他端65Bは計測IC58の近傍に位置している。スリット65の内部には空間が存在しており、この空間が断熱部として機能する。このようにすれば、バランサ63から電流計測回路54に熱が伝播することを抑制できる。その結果、第1配線57Aと第2配線57Bに温度勾配が発生しにくく、ゼーベック効果による起電力が発生しにくいため、電流計測誤差を抑制できる。
【0035】
ここで、スリット65を設けたとしても、スリット65の両端65A,65Bから回り込むようにして電流計測回路54に熱が伝播することが考えられる。しかし、スリット65の両端65A,65Bに近いコネクタ55と計測IC58には熱が均等に伝わるため、コネクタ55の周辺部と計測IC58の周辺部とにおいては、第1配線57Aの温度勾配と第2配線57Bの温度勾配とがほぼ等しくなる。したがって、電流計測回路54全体として見た場合、第1配線57Aの温度勾配によって生じる起電力は、第2配線57Bの温度勾配によって生じる起電力によって相殺され、電流計測誤差を抑制できる。
【0036】
一方、スリット65の両端65A,65Bから遠い第1ノイズフィルタ56Aと第2ノイズフィルタ56Bについては、スリット65の両端65A,65Bからの距離がほぼ等しくなるように配置されている。具体的に説明すると、スリット65の一端65Aから第1ノイズフィルタ56Aまでの距離L1とスリット65の他端65Bから第1ノイズフィルタ56Aまでの距離L2とがほぼ等しくなるように第1ノイズフィルタ56Aが配置されている。この配置は第2ノイズフィルタ56Bについても同様である。これにより、各ノイズフィルタ56A,56Bに対して両側から熱が均等に伝わるため、温度勾配の差が発生しにくい。したがって、スリット65の両端65A,65Bから熱が回り込んだとしても温度勾配の差が発生しにくく、電流計測誤差を抑制できる。
【0037】
(4)実施形態の効果
バランサ63で発生した熱がBMU基板53を通じて一対の配線57A,57Bに伝わった結果、一対の配線57A,57Bの間で温度勾配が異なる場合、温度勾配に起因する計測誤差(ゼーベック効果に起因する計測誤差)が生じるため、シャント抵抗60に流れる電流の計測値に誤差が発生し、充電状態の推定精度が低下する。
【0038】
電源管理装置50によると、バランサ63と一対の配線57A,57Bの間にスリット65が設けられているため、バランサ63で発生した熱がBMU基板53を通じて一対に配線57A,57Bに向かう途中にスリット65で遮断され、結果として充電状態を精度よく推定できる。
電源管理装置50によると、BMU基板53にスリット65を設けるという簡素な構成でゼーベック効果に起因する計測誤差を抑制できる。
【0039】
電源管理装置50によると、バランサ63で発生した熱がスリット65を回り込むようにして各ノイズフィルタ56A,56Bに向かった場合、スリット65の両端から各ノイズフィルタ56A,56Bまでの距離が等しいから、熱が各ノイズフィルタ56A,56Bに伝わったとしても一対の配線57A,57B間での各ノイズフィルタ56A,56Bの温度勾配の差が生じにくい。
電源管理装置50を備えた自動車2によると、充電状態を精度よく推定できる。
【0040】
<実施形態2>
図12に示すように、実施形態2に係る電源管理装置150は、BMU基板153を有しており、BMU基板153は、バランサ163と、電流計測回路154と、を備えている。電流計測回路154は、コネクタ155と、第1ノイズフィルタ156Aと、第2ノイズフィルタ156Bと、計測IC158と、第1配線157Aと、第2配線157Bと、を備えている。実施形態2の電流計測回路154は、実施形態1のスリット65に代えて第1スリット165と第2スリット166と備えたものであり、実施形態1と同じ構成についてはその説明を省略する。
【0041】
第1配線157Aは、コネクタ155と第1ノイズフィルタ156Aと計測IC158とを直列に接続する内部配線である。第2配線157Bは、コネクタ155と第2ノイズフィルタ156Bと計測IC158とを直列に接続する内部配線である。第1配線157Aはコネクタ155を介して計測線51に接続され、第2配線157Bはコネクタ155を介して計測線52に接続されている。計測IC158にて、シャント抵抗60の抵抗本体の両端に生じる電圧を検出することで、組電池45の電流を計測することができる。
【0042】
BMU基板153におけるバランサ163と電流計測回路154の間には、第1スリット165と第2スリット166とが設けられている。第1スリット165と第2スリット166は、いずれも第1配線157Aに沿って真っ直ぐに延びる細長い形状とされている。BMU基板153における第1スリット165と第2スリット166の間には、つなぎ部167が設けられている。つなぎ部167は、BMU基板153におけるバランサ163側と一対の配線157A,157B側とをつなぐ部分である。第1スリット165の両端165A,165Bのうち他端165Bと、第2スリット166の両端166A,166Bのうち一端166Aと、が隣り合うようにして両スリット165,166が真っ直ぐに並んで直線状に配置されている。両スリット165,166の内部には空間が存在しており、この空間が断熱部として機能する。このようにすれば、バランサ163から電流計測回路154に熱が伝播することを抑制できる。その結果、第1配線157Aと第2配線157Bに温度勾配が発生しにくく、ゼーベック効果による起電力が発生しくいため、電流計測誤差を抑制できる。
【0043】
第1ノイズフィルタ156Aと第2ノイズフィルタ156Bは、第1スリット165の中央部において第1スリット165と直交する配置で延びる線上に位置している。第1ノイズフィルタ156Aと第2ノイズフィルタ156Bは、第1スリット165の両端165A,165Bからの距離がほぼ等しくなるように配置されている。具体的に説明すると、第1スリット165の一端165Aから第1ノイズフィルタ156Aまでの距離L3と第1スリット165の他端165Bから第1ノイズフィルタ156Aまでの距離L4とがほぼ等しくなるように第1ノイズフィルタ156Aが配置されている。この配置は第2ノイズフィルタ156Bについても同様である。これにより、各ノイズフィルタ156A,156Bに対して両側から熱が均等に伝わるため、温度勾配が発生しにくい。したがって、第1スリット165の両端165A,165Bから熱が回り込んだとしても温度勾配が発生しにくく、電流計測誤差を抑制できることになる。
【0044】
以下においては、第1配線157Aにおいてコネクタ155側の端部を一端155Aとし、計測IC158側の端部を他端158Aとする。第2配線157Bにおいてコネクタ155側の端部を一端155Bとし、計測IC158側の端部を他端158Bとする。
【0045】
第1スリット165の一端165Aから第1配線157Aの一端155Aまでの距離L5と第1スリット165の一端165Aから第2配線157Bの一端155Bまでの距離L6とがほぼ等しくなるようにコネクタ155が配置されている。このため、第1スリット165の一端165Aから熱が回り込んだとしても各配線157A,157Bの一端155A,155Bには熱が均等に伝わる。したがって、電流計測回路154全体として見た場合、第1配線157Aの一端155Aの温度勾配によって生じる起電力は、第2配線157Bの一端155Bの温度勾配によって生じる起電力によって相殺され、電流計測誤差を抑制できる。
【0046】
第2スリット166の他端166Bから第1配線157Aの他端158Aまでの距離L7と第2スリット166の他端166Bから第2配線157Bの他端158Bまでの距離L8とがほぼ等しくなるように計測IC158が配置されている。このため、第2スリット166の他端166Bから熱が回り込んだとしても各配線157A,157Bの他端158A,158Bには熱が均等に伝わる。したがって、電流計測回路154全体として見た場合、第1配線157Aの他端158Aの温度勾配によって生じる起電力は、第2配線157Bの他端158Bの温度勾配によって生じる起電力によって相殺され、電流計測誤差を抑制できる。
【0047】
電源管理装置150によると、第1スリット165と第2スリット166の間につなぎ部167が設けられているから、つなぎ部167が設けられていない場合(例えば実施形態1のように単一のスリット65を設けた場合)と比較して、一対のスリット165,166を設けたことに伴うBMU基板153の強度低下を抑制できる。
【0048】
<実施形態3>
図13に示すように、実施形態3に係る電源管理装置250は、BMU基板253を有している。BMU基板253は、第1基板253Aと、第2基板253Bと、に分割されており、第1基板253Aと第2基板253Bは、接続ケーブル253Cによって電気的に接続されている。第1基板253Aは、バランサ63を備えている。第2基板253Bは、コネクタ55と、第1ノイズフィルタ56Aと、第2ノイズフィルタ56Bと、計測IC58と、第1配線57Aと、第2配線57Bと、を備えている。実施形態3のBMU基板253は、実施形態1のBMU基板53を2枚に分割したものであり、実施形態1と同じ構成についてはその説明を省略する。
【0049】
本実施形態では熱の伝播を防ぐための断熱部として断熱空間265を設けている。断熱空間265は、第1基板253Aと第2基板253Bの間に形成された空間である。断熱空間265によると、第1基板253Aのバランサ63から第2基板253Bの電流計測回路54に熱が伝播することを抑制できる。その結果、第1配線57Aと第2配線57Bに温度勾配が発生しにくく、ゼーベック効果による起電力が発生しにくいため、電流計測誤差を抑制できる。
【0050】
断熱空間265を設けたとしても、接続ケーブル253Cから第2基板253Bの電流計測回路54に熱が伝播することが考えられる。しかし、接続ケーブル253Cに近い計測IC58に熱が伝わったとしても、計測IC58の周辺部においては、第1配線57Aの温度勾配と第2配線57Bの温度勾配とがほぼ等しくなる。したがって、電流計測回路54全体として見た場合、第1配線57Aの温度勾配によって生じる起電力は、第2配線57Bの温度勾配によって生じる起電力によって相殺され、電流計測誤差を抑制できる。
【0051】
電源管理装置250によると、BMU基板が第1基板253Aと第2基板253Bに分割されて第1基板253Aと第2基板253Bの間の断熱空間265が断熱部であるから、断熱部としてスリットを設けた場合と同様の効果を得ることができる。
【0052】
<実施形態4>
図14に示すように、実施形態4に係る電源管理装置350は、4つのセルからなる組電池345の側面に設けられている。組電池345の上面には正極348と負極349とが設けられている。シャント抵抗360は、組電池345の負極349と負極外部端子(図示せず)とを接続するパワーライン347にあり、組電池345と直列に接続されている。
【0053】
電源管理装置350は、一対の計測線351,352を介してシャント抵抗360に接続されている。電源管理装置350は
図15に示すBMU基板353を有し、BMU基板353には電流計測回路354が形成されている。電流計測回路354は、コネクタ355、第1ノイズフィルタ356A、第2ノイズフィルタ356B、第1配線357A、第2配線357B、計測IC358等を備えている。
【0054】
第1配線357Aは、コネクタ355と第1ノイズフィルタ356Aと計測IC358とを直列に接続する内部配線である。第2配線357Bは、コネクタ355と第2ノイズフィルタ356Bと計測IC358とを直列に接続する内部配線である。第1配線357Aはコネクタ355を介して計測線351に接続され、第2配線357Bはコネクタ355を介して計測線352に接続されている。計測IC358にて、シャント抵抗360の抵抗本体の両端に生じる電圧を検出することで、組電池345の電流を計測することができる。
【0055】
本実施形態のBMU基板353には熱の伝播を防ぐための断熱部としてスリット365が設けられている。スリット365は、BMU基板353におけるバランサ363と電流計測回路354の間に設けられている。本実施形態ではBMU基板353とシャント抵抗360が離れているが、実施形態1と同じ作用効果を奏する。すなわち、第1配線357Aと第2配線357Bに温度勾配が発生しにくく、ゼーベック効果による起電力が発生しにくいため、電流計測誤差を抑制できる。
【0056】
<他の実施形態>
本明細書によって開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本明細書によって開示される技術的範囲に含まれる。
【0057】
(1)上記実施形態1と2では、断熱部としてスリットを例示しているが、断熱部として有底の凹部を設けてもよいし、基板とは異なる断熱性部材を用いてもよい。
【0058】
(2)上記実施形態2では、第1スリット165と第2スリット166とを備えたものを例示しているが、3つ以上のスリットを備えてもよい。
【0059】
(3)上記実施形態3では、BMU基板253が第1基板253Aと第2基板253Bとに分割されたものを例示しているが、3つ以上の基板に分割されてもよい。
【0060】
(4)上記実施形態では、熱源としてバランサを例示しているが、バランサ以外の熱源でもよい。一対の配線に設けられた部品としてノイズフィルタを例示しているが、ノイズフィルタ以外の部品でもよい。
【0061】
(5)上記実施形態では蓄電素子12として鉄系の蓄電素子12を例に説明したが、蓄電素子12は鉄系に限られるものではなく、他のリチウムイオン電池でもよい。
【0062】
(6)上記実施形態では始動用の蓄電素子12を例に説明したが、蓄電素子12の用途はこれに限られない。例えば、蓄電素子12は電気自動車やハイブリッド自動車に搭載されて補機類に電力を供給する補機用でもよいし、電気モータで走行するフォークリフトや無人搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)などに搭載されて電気モータに電力を供給する移動体用でもよい。
【0063】
蓄電素子12は無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)に用いられるものでもよいし、携帯端末などに用いられるものでもよい。ピークシフトに用いられる蓄電装置でもよいし、再生可能エネルギーを蓄電する蓄電装置でもよい。
【0064】
(7)上記実施形態1では蓄電素子としてリチウムイオン電池を例に説明したが、蓄電素子はこれに限られない。例えば蓄電素子は電気化学反応を伴うキャパシタでもよい。
【0065】
(8)上記実施形態3では、第1基板253Aと第2基板253Bを接続ケーブル253Cで接続しているが、第1基板253Aと第2基板253Bを接続コネクタで接続してもよい。接続部としては、接続ケーブル253Cで接続する以外に、接続コネクタで接続してもよいし、無線通信で接続してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 蓄電装置、2 自動車(車両の一例)
50 電池管理装置、53 BMU基板、54 電流計測回路、56A 第1ノイズフィルタ(部品の一例)、56B 第2ノイズフィルタ(部品の一例)、57A 第1配線、57B 第2配線、60 シャント抵抗(抵抗体)、63 バランサ(熱源の一例)、65 スリット(断熱部の一例)
【0067】
150 電源管理装置、153 BMU基板、154 電流計測回路、156A 第1ノイズフィルタ(部品の一例)、156B 第2ノイズフィルタ(部品の一例)、157A 第1配線、157B 第2配線、163 バランサ(熱源の一例)、165 第1スリット(断熱部の一例)、166 第2スリット(断熱部の一例)、167 つなぎ部
250 電源管理装置、253 BMU基板、253A 第1基板、253B 第2基板、253C 接続ケーブル(接続部の一例)、265 断熱空間(断熱部の一例)
【0068】
350 電源管理装置、353 BMU基板、354 電流計測回路、356A 第1ノイズフィルタ(部品の一例)、356B 第2ノイズフィルタ、357A 第1配線、357B 第2配線、360 シャント抵抗(抵抗体)、363 バランサ(熱源の一例)、365 スリット(断熱部)