(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】交流電気炉の制御方法
(51)【国際特許分類】
F27B 3/28 20060101AFI20240816BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20240816BHJP
F27D 11/08 20060101ALI20240816BHJP
C22B 9/20 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
F27B3/28
F27D19/00 Z
F27D11/08 G
C22B9/20
(21)【出願番号】P 2020057828
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】貝吹 大我
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 昌生
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/207609(WO,A1)
【文献】特開昭60-138384(JP,A)
【文献】特開2014-040965(JP,A)
【文献】特開2003-279269(JP,A)
【文献】特開2016-089227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 1/00- 3/28
F27D 7/00-23/04
C22B 9/20
C21C 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体内部に挿入された金属スクラップと
、該金属スクラッブに対し上方より垂下された棒状電極
と、の間にアーク放電を与えて該金属スクラップを溶融させる交流電気炉の制御方法であって、
電圧Vをボーリング電圧V1で前記金属スクラップを真下に掘り進めるボーリングを行う工程と、
電流Iを
最大電流Imまで大きくしていくように
電流制御としつつ、電圧V
を前記ボーリング電圧V1から最高電圧Vm
(Vm>V1)まで昇圧させ前記金属スクラップの上方から所定位置まで前記棒状電極を下降させて中央孔を形成し
ていく工程と、
前記最大電
流Imを維持するようにして、前記棒状電極の周囲に
アーク放電させて前記中央孔を拡げるように前記金属スクラップを溶融させてい
く工程と、
電流Iを
前記最大電流Imに維持しつつ電圧Vを
前記最高電圧Vmから
所定電圧V
2(Vm>V2)まで降圧させ
る工程と、
電圧Vを前記所定電圧V2に維持しつつ、電流Iを前記最大電流Im以上に維持し、前記炉体底部の溶湯に通電し昇温させる昇
熱工程
と、
を
この順に含むことを特徴とする交流電気炉の制御方法。
【請求項2】
前記最高電圧Vmは、前記交流電気炉の定格電圧の90%以上であることを特徴とする請求項1記載の交流電気炉の制御方法。
【請求項3】
前記棒状電極を3本含み、三相交流の各相を前記棒状電極にそれぞれ与えることを特徴とする請求項1又は2に記載の交流電気炉の制御方法。
【請求項4】
前記棒状電極はそれぞれ独立して昇降するように制御されることを特徴とする請求項3記載の交流電気炉の制御方法。
【請求項5】
前記棒状電極の長手方向を回転軸に前記炉体を回転させることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の交流電気炉の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉体内部に挿入された金属スクラップと棒状電極との間にアーク放電を与えて該金属スクラップを溶融させる交流電気炉の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炉体内部に挿入された金属スクラップと棒状電極との間にアーク放電を与えて該金属スクラップを溶融させるアーク炉が知られている。かかるアーク炉の操業では、金属スクラップの上方から所定位置まで棒状電極を下降させて中央孔を形成し、棒状電極の周囲を溶融させて溶鋼を得る(溶融工程)。その後、炉体底部の溶湯に通電して昇温させる(昇熱工程)。ここで、三相交流の各相を3本の棒状電極のそれぞれに与える交流電気炉では、形成された中央孔と各電極との距離が近接し金属スクラップの溶融を進行させやすいホットスポットに対して、同距離が離間し溶融の遅いコールドスポットが生じ得る。このコールドスポットでは金属スクラップの加熱に時間を要し、溶融が不均一に進行して操業の安定性に欠けるとともに、電力効率も低下することとなる。そこで、このコールドスポットを解消する操業方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、交流電気炉の炉底に複数のガス吹き込み口を設け、ホットスポットのアークによる熱流動に加え、コールドスポットをガス撹拌させて流動させ、炉内を均一に溶融させる溶解方法が開示されている。かかる方法によれば、コールドスポットであった部分がホットスポット、あるいはこれに準じる高温部となり、炉内に装入された金属スクラップの均一な溶融を安定して得られる。
【0004】
一方、外部からのガスの吹き込みによる炉内の強制流動に対して、電極に対して炉体を旋回させることで炉内の金属スクラップを電極に対して相対移動させコールドスポットを解消しようとする試みも行われている。
【0005】
特許文献2では、電極に対して炉体を旋回させ得る交流電気炉において、炉体内における金属スクラップの溶融状態の空間分布を推定し、ホットスポットとコールドスポットの間で金属材料の溶融状態の不均一性が所定の基準以上となると、炉体の旋回を行う交流電気炉の制御方法が開示されている。炉体の旋回を制御することで効率的にコールドスポットを解消し、金属スクラップの均一な溶融を安定して得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-137369号公報
【文献】特開2016-90139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、棒状電極を下降させて形成された中央孔の径について、コールドスポットを解消するように金属スクラップを均一に溶融させることで操業の安定を図り、電力効率を高めることができる。また、溶融工程の終盤や昇熱工程おける炉壁へのアークの漏れを抑制することで、より電力効率を向上させ得る。かかる操業制御において、炉内の溶融状態を目視で観察することはできないが、特に、アークの電流値を計測することで炉内の溶融状態を推測することが出来る。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、操業の安定と電力効率の向上とを与え得る交流電気炉の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による交流電気炉の制御方法は、炉体内部に挿入された金属スクラップと棒状電極の間にアーク放電を与えて該金属スクラップを溶融させる交流電気炉の制御方法であって、電流Iを大きくしていくように電圧Vを最高電圧Vmまで昇圧させ前記金属スクラップの上方から所定位置まで前記棒状電極を下降させて中央孔を形成し、このときの最大電流I=Imを維持するようにして、前記棒状電極の周囲の前記金属スクラップを溶融させていく溶融工程と、電流IをIm以上に維持しつつ電圧VをVmから降圧させ、前記炉体底部の溶湯に通電し昇温させる昇熱工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
かかる特徴によれば、アークの到達距離を制御して、溶融工程初期のアークの到達距離を短くして中央孔の周囲を均一に溶融させていくとともに、溶融工程後期及び昇熱工程では炉壁へのアークの漏れを抑制できて、操業の安定と電力効率の向上とを与え得るのである。
【0011】
上記した発明において、電圧Vmは、前記交流電気炉の定格電圧の90%以上であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、比較的短い操業時間としつつも、操業の安定と電力効率の向上とを与え得るのである。
【0012】
上記した発明において、前記棒状電極を3本含み、三相交流の各相を前記棒状電極にそれぞれ与えることを特徴としてもよい。また、前記棒状電極はそれぞれ独立して昇降するように制御されることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、操業の安定と電力効率の向上とを与え得るのである。
【0013】
上記した発明において、前記棒状電極の長手方向を回転軸に前記炉体を回転させることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、溶融工程におけるコールドスポットの形成を抑制し、操業の安定と電力効率の向上とを与え得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】金属スクラップを溶融する複数の工程を示す交流電気炉の側断面図である。
【
図2】(a)従来例及び(b)実施例における交流電気炉の電圧、電流、電力線図である。
【
図3】従来の溶融工程の複数の段階を示す交流電気炉の上断面図である。
【
図4】実施例における溶融工程の複数の段階を示す交流電気炉の上断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による1つの実施例としての交流電気炉の制御方法について、
図1乃至
図3を用いて説明する。
【0016】
図1に示すように、交流電気炉10は、炉体1の内部に挿入された金属スクラップSに対し、上方より垂下された棒状電極2からアーク放電させて、金属スクラップSを溶融させることができる。棒状電極2は複数備えられ、本実施例では、三相交流を電源として用いるため3本とされ、それぞれに各相を接続させる。金属スクラップSは、以下のような工程で溶融される。
【0017】
図1(a)に示すように、まず、溶融工程初期S1では、棒状電極2から金属スクラップSに向けてアーク放電させるとともに、棒状電極2を金属スクラップSの上方から所定の位置まで下降させて行く。つまり、この工程は、金属スクラップSの略中央に上方を開口させた空孔を開けるボーリング工程である。アーク放電により加熱された金属スクラップSの中央部分は、溶融して下方に流下し、溶湯となって炉体1の底部に貯留される。一方、溶融した中央部分は空孔となって金属スクラップSに形成された中央孔CHとなる。
【0018】
次いで、
図1(b)に示すように、溶融工程中期S2では、中央孔CHの内部から棒状電極2の周囲の金属スクラップSを溶融させて行く。ここでは、金属スクラップSが多く残っており、棒状電極2の周囲は金属スクラップSに囲まれている。
【0019】
さらに、
図1(c)に示すように、溶融工程後期S3では、溶融をさらに進行させて、炉体1内部の金属スクラップSの全体を溶融させて行く。ここでは、金属スクラップSが少なくなり、炉壁3の一部を棒状電極2に向けて露出させている。
【0020】
また、昇熱工程S4(
図2参照)では、ほぼ全ての金属スクラップSを溶融させた後に、炉体底部に貯留された溶湯にアーク放電し、溶湯の温度を上昇させる。
【0021】
ところで、このような溶融工程、昇熱工程を経るための交流電気炉10の制御としては、従来、以下のように行われていた。
【0022】
図2(a)に示すように、溶融工程初期S1では、金属スクラップSを真下に掘り進めるボーリングを行うため、棒状電極2の直下にアーク放電させる。そのため、棒状電極2に印加する電圧V
0を低く設定する。そして、続く溶融工程中期S2において速やかに大電力を投入すべく、段階的に電圧V
0を上げてゆく。このとき、電流I
0は、電圧V
0に伴って大きくなるのではなく、頭打ちになる。これについては後述する。
【0023】
そして、溶融工程中期S2では、操業時間を短くすべく電圧V0を定格電圧Vr又はこれに準じる高電圧として棒状電極2の周囲にアーク放電させて、中央孔CHを拡げるように金属スクラップSを溶融させてゆく。
【0024】
溶融工程後期S3では、金属スクラップSの多くを溶融して炉壁3を棒状電極2に対して露出させるので、炉外への熱漏れを大きくしないように炉壁3に向けたアーク放電を抑制すべく電圧V0を低下させる。
【0025】
これに対し、本実施例においては、以下のように交流電気炉10を制御した。
【0026】
図2(b)に示すように、溶融工程初期S1では、金属スクラップSを真下に掘り進めるボーリングを行うため、従来と同様に、棒状電極2に印加する電圧を低く設定する。そして、溶融工程中期S2に先立って電圧を上昇させる際に、電流I
1を大きくしていくように電流制御としつつ、電圧V
1を最高電圧V
mまで昇圧させる。例えば、従来よりも電圧の上昇の段階を小刻みに設定したり、棒状電極2の高さを低めに設定したりすることでこのような昇圧を可能とする。その結果、電流I
1を溶融工程における最大電流I
mまで上昇させることができる。
【0027】
溶融工程中期S2では、電流I1を最大電流Imとして維持するようにして、棒状電極2の周囲にアーク放電させて、中央孔CHを拡げるように金属スクラップSを溶融させてゆく。ここで、最大電流Imは、上記した従来の制御における電流I0の最大値よりも大きくできる。比較のため、従来の制御における電流I0を重ねて点線で図示した。従来制御の電流I0の最大値は、最大電流Imよりも小さいことが判る。このようにすることで、時間当たりの投入電力W1を比較的大きくすることができる。例えば、最大電圧Vmを従来の電圧V0の最大値よりも小さくしたにも関わらず、電流I1を大きくすることで、上記した従来制御における電力W0に対し、同等の電力W1とすることができるのである。
【0028】
なお、このとき、最高電圧Vmは定格電圧Vrの90%以上として比較的大きな電力を投入できるようにすることが好ましい。また、電流V1/電流I1を所定値以上とするように制御し、電流を高く維持するようにすることも好ましい。
【0029】
溶融工程後期S3では、従来と同様に炉壁3へ向けたアーク放電を抑制するよう電圧V1をVmから降圧させてゆくが、ここでも溶融工程中期S2と同様に、電流I1を最大電流Imとして維持する。
【0030】
昇熱工程S4では、降圧させた電圧V1を維持しつつ、電流I1は溶融工程の最大電流Im以上として維持し、炉体底部に貯留された溶湯に通電し、溶湯を昇温させる。
【0031】
以上の結果、投入される時間当たりの電力の最大値は従来と同等となり、さらにこの電力の最大値を維持できる時間が従来よりも長くなるため、電力効率を向上させることができる。
【0032】
ところで、従来の制御と本実施例による制御との違いに関し、推定される炉内の様子にについて述べる。
【0033】
従来では、
図3(a)に示すように、溶融工程初期S1のボーリング後においては、棒状電極2から外側へ向けてアーク(矢印参照)が伸び、棒状電極2の外側近傍をホットスポットとし、棒状電極2同士の間の外側近傍をコールドスポットとして金属スクラップSを溶融させる。これは、各棒状電極2の間に働く電磁力によってアークの伸びる方向を偏向してしまうためである。その結果、ホットスポットである棒状電極2の外側近傍の溶融が進み、コールドスポットである棒状電極2同士の間の外側近傍の溶融が遅れる。特に、急激な昇圧でアークの到達距離を急激に大きくして、ホットスポット及びコールドスポットの形成を助長してしまうと考えられる。そして、アークの到達距離を伸ばした結果として抵抗の大きな状態となり、上記したように電流I
0の最大値が頭打ちになるものと考えられる。
【0034】
その結果、
図3(b)に示すように、溶融工程中期S2においては、溶融されていない金属スクラップSを多く残したまま、棒状電極2に対して露出された炉壁3に向けてアーク放電される。このように、アークを炉壁3へ漏らしてしまうと、アーク放電によるエネルギーは炉壁3から炉体1を加熱し外部に向けて放熱される。つまり、金属スクラップSの溶融に用いられるエネルギーが減ってしまう。そのため、スクラップSの溶融において、電力効率を低下させてしまう。
【0035】
そして、
図3(c)に示すように、溶融工程後期S3では、炉壁3へのアーク漏れを抑制して炉体1を保護するために電圧を低下させる。そして、低下させた電圧によるアーク放電によって、残りの金属スクラップSを溶融させる。
【0036】
このように、従来の方法では、特にアークの炉壁3への漏れによって電力効率が低くなってしまっていたと考えられる。
【0037】
図4(a)に示すように、本実施例においては、溶融工程初期S1のボーリング後に電流I
1を大きくするように昇圧させる。つまり、アークにおける電気抵抗を比較的小さい状態とする。例えば、段階的に昇圧させることで従来に比べてホットスポット及びコールドスポットの形成を抑制させて、金属スクラップSの中央孔CHの内表面を全体的に溶融させて、比較的なだらかな内表面形状とさせ、比較的近距離かつ広範囲にアーク(矢印参照)の到達し得る面を残存させつつ溶解を進行させるものと考えられる。また、電流I
1を大きくすることで電圧V
1も従来よりも低めに設定しても溶融に必要な電力量を確保できる。
【0038】
次いで、
図4(b)に示すように、溶融工程中期S2においては、溶融の進行によっても炉壁3の露出を少なくでき、電流I
1を最大電流I
mとして維持しつつ、炉壁3を露出させるまでに従来よりも多くの金属スクラップSを溶融させることができる。
【0039】
そして、
図4(c)に示すように、溶融工程後期S3においては、炉壁3の露出の後は電圧を降下させて残りの金属スクラップSを溶融させる。
【0040】
このように、本実施例においては、電流I1を最大電流Imとして維持することで、電力効率を向上させ得た。特に、炉壁3の露出までにより多くの金属スクラップSを溶融させ得るため、炉壁3へのアークの漏れが少なく、これによっても電力効率を向上させ得たものと考えられる。
【0041】
また、交流電気炉10は、棒状電極2の長手方向を回転軸として炉体1を回転させる回転機構を備えることも好ましい。溶融工程S2において、回転機構を用いて炉体1を回転させることで、コールドスポットの形成をさらに抑制することができ、操業の安定と電力効率の向上に寄与する。
【0042】
さらに、棒状電極2は、それぞれ独立して昇降するように制御されるようにすることも好ましい。このようにすることで、上記したような交流電気炉10の制御を容易とし、また、金属スクラップSの崩落などに対しても個々の棒状電極2の昇降で対応できて、操業の安定と電力効率の向上に寄与する。
【0043】
以上、本発明の代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0044】
1 炉体
2 棒状電極
3 炉壁
10 交流電気炉