(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】液晶化合物配向層転写用フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2020553397
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041325
(87)【国際公開番号】W WO2020085309
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2018201940
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018209662
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018209663
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018219282
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018223878
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018231737
(32)【優先日】2018-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019000802
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 靖
(72)【発明者】
【氏名】村田 浩一
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-049392(JP,A)
【文献】特許第6363252(JP,B2)
【文献】特開2017-146616(JP,A)
【文献】特開2007-001198(JP,A)
【文献】特開2005-313467(JP,A)
【文献】特開2018-028641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶化合物配向層と転写用フィルムとしてのセルロース系フィルムとが積層された積層体であって、
前記液晶化合物配向層は少なくとも、
重合性液晶化合物と二色性色素を含む偏光膜;
棒状液晶化合物またはディスコティック液晶化合物を用いたAプレートの位相差層;
ディスコティック液晶化合物を用いたOプレートの位相差層
のいずれかを含み、
前記セルロース系フィルムは離型面の表面粗さ(SRa)が1nm以上、30nm以下であり、かつ裏面の表面粗さ(SRa)が3nm以上、50nm以下である
ことを特徴とする液晶化合物配向層転写用積層体。
【請求項2】
前記セルロース系フィルムの離型面の十点表面粗さ(SRz)が5nm以上、200nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の液晶化合物配向層転写用積層体。
【請求項3】
前記セルロース系フィルムの液晶化合物配向層側とは反対側の面の十点表面粗さ(SRz)が15nm以上、1500nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶化合物配向層転写用積層体。
【請求項4】
前記セルロース系フィルムがトリアセチルセルロースフィルムであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の液晶化合物配向層転写用積層体。
【請求項5】
液晶化合物配向層と転写用フィルムとしてのセルロース系フィルムとが積層された液晶化合物配向層転写用積層体を製造する方法であって、
前記液晶化合物配向層は少なくとも、
重合性液晶化合物と二色性色素を含む偏光膜;
棒状液晶化合物またはディスコティック液晶化合物を用いたAプレートの位相差層;
ディスコティック液晶化合物を用いたOプレートの位相差層
のいずれかを含み、
下記工程(A)及び(B)を含む、液晶化合物配向層転写用積層体を製造する方法。
(A)離型面の表面粗さ(SRa)が1nm以上、30nm以下であり、かつ裏面の表面粗さ(SRa)が3nm以上、50nm以下であるセルロース系フィルムを準備する工程;
(B)前記セルロース系フィルムの離型面の側に前記重合性液晶化合物を配向した状態で設ける工程。
【請求項6】
前記重合性液晶化合物を配向した状態で設ける工程が下記(a)、(b)、(c)のいずれかの方法を含む請求項5に記載の液晶化合物配向層転写用積層体を製造する方法。
(a)液晶化合物配向層をセルロース系フィルムの離型面に塗工し配向させる方法であり、配向させる方法がセルロース系フィルムの離型面にラビング処
理を行い、配向制御機能を付与する方法;
(b)液晶化合物配向層をセルロース系フィルムの離型面に塗工し配向させる方法であり、配向させる方法が液晶化合物を塗布後に偏光を照射して直接液晶化合物を配向させる方法;
(c)セルロース系フィルムの離形面に配向制御層を設け、配向制御層上に液晶化合物配向層を塗布により設ける方法。
【請求項7】
前記セルロース系フィルムの離型面の十点表面粗さ(SRz)が5nm以上、200nm以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載の液晶化合物配向層転写用積層体を製造する方法。
【請求項8】
前記セルロース系フィルムの裏面の十点表面粗さ(SRz)が15nm以上、1500nm以下であることを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の液晶化合物配向層転写用積層体を製造する方法。
【請求項9】
前記セルロース系フィルムがトリアセチルセルロースフィルムであることを特徴とする請求項5~8のいずれかに記載の液晶化合物配向層転写用積層体を製造する方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれかに記載の、液晶化合物配向層が棒状液晶化合物もしくはディスコティック液晶化合物を用いたAプレートの位相差層、またはディスコティック液晶化合物を用いたOプレートの位相差層である液晶化合物配向層転写用積層体の液晶化合物配向層面と偏光板とを貼り合わせて中間積層体を形成する工程、及び中間積層体からセルロース系フィルムを剥離する工程を含むことを特徴とする液晶化合物配向層積層偏光板の製造方法。
【請求項11】
請求項5~9のいずれかに記載の方法により液晶化合物配向層が棒状液晶化合物もしくはディスコティック液晶化合物を用いたAプレートの位相差層、またはディスコティック液晶化合物を用いたOプレートの位相差層である液晶化合物配向層転写用積層体を得た後、得られた液晶化合物配向層転写用積層体の液晶化合物配向層面と偏光板を貼り合わせて中間積層体を形成する工程、及び中間積層体からセルロース系フィルムを剥離する工程を含むことを特徴とする液晶化合物配向層積層偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶化合物配向層を転写するための転写用フィルムに関する。更に詳しくは、液晶化合物配向層からなる位相差層が積層された円偏光板などの偏光板や位相差板を製造する時や、液晶化合物配向層からなる偏光層を有する偏光板を製造する時などに用いられる、液晶化合物配向層を転写するための転写用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像表示装置においては、外来光の反射を低減するために、画像表示パネルの視聴者側のパネル面に円偏光板を配置している。この円偏光板は、直線偏光板とλ/4等の位相差フィルムとの積層体により構成され、画像表示パネルのパネル面に向かう外来光を直線偏光板により直線偏光に変換し、続くλ/4等の位相差フィルムにより円偏光に変換する。円偏光による外来光は、画像表示パネルの表面で反射する際に偏光面の回転方向が逆転し、この反射光は、逆に、λ/4等の位相差フィルムにより、直線偏光板で遮光される方向の直線偏光に変換され、その後直線偏光板により遮光されるため、外部への出射が抑えられる。このように、円偏光板は、偏光板にλ/4等の位相差フィルムを貼り合わせたものが用いられている。
【0003】
位相差フィルムとしては、環状オレフィン(特許文献1参照)、ポリカーボネート(特許文献2参照)、トリアセチルセルロースの延伸フィルム(特許文献3参照)などの単体の位相差フィルムが用いられている。また、位相差フィルムとしては、透明フィルム上に液晶化合物からなる位相差層を有する積層体の位相差フィルム(特許文献4,5参照)が用いられている。上記において液晶化合物からなる位相差層(液晶化合物配向層)を設ける際には、液晶化合物を転写しても良いことが記載されている。
【0004】
また、液晶化合物からなる位相差層を透明フィルムに転写することにより位相差フィルムを作成する方法は特許文献6等で知られている。このような転写法により、λ/4等の液晶化合物からなる位相差層を透明フィルム上に設け、λ/4フィルムとする方法も知られている(特許文献7,8参照)。
【0005】
これらの転写法では転写用の基材として様々なものが紹介されており、ポリエステル、トリアセチルセルロース、環状ポリオレフィンなどの透明樹脂フィルムが多く例示されている。これらの中でも、トリアセチルセルロースなどのセルロース系フィルムは、屈折率異方性がないため、位相差層をフィルム基材に設けた状態で位相差層の状態を検査(評価)することができ、好ましい。
【0006】
しかしながら、トリアセチルセルロースなどのセルロース系フィルムを転写用のフィルム基材として使用して製造された位相差層積層偏光板(円偏光板)を画像表示装置の反射防止用に使用した場合、ピンホール状やキズ状の光漏れが生じることがあり、問題となっていた。
【0007】
また、転写用フィルム上に積層された液晶化合物と二色性色素を含む偏光層(液晶化合物配向層)を保護フィルムに転写することで偏光板を製造する方法も知られているが、この場合も上記と同様に、ピンホール状やキズ上の光漏れが生じることがあり、問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-56322号公報
【文献】特開2004-144943号公報
【文献】特開2004-46166号公報
【文献】特開2006-243653号公報
【文献】特開2001-4837号公報
【文献】特開平4-57017号公報
【文献】特開2014-071381号公報
【文献】特開2017-146616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、液晶化合物配向層を転写するためのセルロース系転写用フィルムであって、ピンホールなどの欠点の発生が減少された位相差層や偏光層(液晶化合物配向層)を形成することができる転写用フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、かかる目的を達成するために、セルロース系フィルムを転写用のフィルム基材として使用して製造された位相差層積層偏光板(円偏光板)にピンホールなどの欠点が発生する原因について検討した。その結果、フィルム基材の表面の微小構造が、フィルム基材の上に形成される液晶化合物からなる位相差層中の液晶化合物の配向状態や位相差に大きな影響を与え、設計通りの配向状態や位相差が得られない場合があり、そのためピンホールなどの欠点が発生することを見出した。そして、本発明者は、これらの微小構造の中でも、特定のパラメータで表わされるフィルム基材の表面粗さに着目し、この表面粗さが特定の範囲内に制御されたフィルム基材を使用することによって、上記の従来の問題が生じずに、ピンホールなどの欠点の発生が減少された位相差層や偏光層(液晶化合物配向層)を形成することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の(1)~(4)の構成を有するものである。
(1)液晶化合物配向層を対象物に転写するためのセルロース系転写用フィルムであって、転写用フィルムの離型面の表面粗さ(SRa)が1nm以上、30nm以下であることを特徴とする液晶化合物配向層転写用フィルム。
(2)転写用フィルムの離型面の10点表面粗さ(SRz)が5nm以上、200nm以下であることを特徴とする(1)に記載の液晶化合物配向層転写用フィルム。
(3)液晶化合物配向層と転写用フィルムとが積層された積層体であって、転写用フィルムが(1)又は(2)に記載の転写用フィルムであることを特徴とする液晶化合物配向層転写用積層体。
(4)偏光板と(3)に記載の積層体の液晶化合物配向層面とを貼り合わせて中間積層体を形成する工程、及び中間積層体から転写用フィルムを剥離する工程を含むことを特徴とする液晶化合物配向層積層偏光板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面粗さが特定の範囲内に制御されたセルロース系フィルムを位相差層や偏光層の転写用フィルムとして使用することによって、位相差層や偏光層中の液晶化合物の配向状態や位相差を設計通りにすることができるので、ピンホールなどの欠点の発生が減少された位相差層や偏光層(液晶化合物配向層)を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の転写用フィルムは、液晶化合物配向層を対象物(他の透明樹脂フィルム、偏光板など)に転写するためのものであり、転写用フィルムの離型面の表面粗さ(SRa)が1nm以上、30nm以下であることを特徴とする。なお、転写用フィルムはフィルム単体であってもよいが、基材となるフィルムにコート等により離型層が設けられていてもよい。また、裏面に帯電防止層や易滑層などが設けられていてもよい。なお、本発明では離型コートなどの層が用いられずに単体で転写用フィルムとして用いられるものや、離型コートや裏面のコートなどを設けて転写用フィルムとして用いられるものを総称して転写用フィルムといい、コートなどを設ける前の状態のフィルムを基材フィルムと称する。
【0014】
本発明の転写用フィルムに用いられるフィルム基材を構成する樹脂は、セルロース系のものであり、中でもトリアセチルセルロースが好ましい。トリアセチルセルロースは、光学フィルムとして用いられるものを好適な例として用いることができる。
【0015】
本発明の転写用フィルムは、構成としては、単層でも共押出による複数層であっても良い。複数層の場合は、表層(離型面側層A)/裏面側層(B)や、A/中間層(C)/A(離型面側層と裏面側層が同一)、A/C/B、などの構成が挙げられる。また、さらに4層以上の多層構成であっても良い。
【0016】
転写用フィルムは工業的にはフィルムを巻回したロールで供給される。ロール幅の下限は好ましくは30cmであり、より好ましくは50cmであり、さらに好ましくは70cmであり、特に好ましくは90cmであり、最も好ましくは100cmである。ロール幅の上限は好ましくは5000cmであり、より好ましくは4000cmであり、さらに好ましくは3000cmである。
【0017】
ロール長さの下限は好ましくは100mであり、より好ましくは500mであり、さらに好ましくは1000mである。ロール長さの上限は好ましくは100000mであり、より好ましくは50000mであり、さらに好ましくは30000mである。
【0018】
(離型面粗さ)
本発明の転写用フィルムの離型面(A層表面)は平滑であることが好ましい。なお、本発明において、転写用フィルムの「離型面」とは、転写用フィルムの表面のうち、転写用フィルムの転写する液晶化合物配向層が設けられることを意図される表面を意味する。後述する平坦化コート層や離型層等が設けられている場合、この上に液晶化合物配向層を設けるのであれば、これらの平坦化層や離型層等の表面(液晶化合物配向層と接する面)が、転写用フィルムの「離型面」である。
【0019】
本発明の転写用フィルムの離型面の三次元算術平均粗さ(SRa)の下限は好ましくは1nmであり、より好ましくは2nmである。上記未満であると現実的に数値の達成が困難になりうる。また、本発明の転写用フィルムの離型面のSRaの上限は好ましくは30nmであり、より好ましくは25nmであり、さらに好ましくは20nmであり、特に好ましくは15nmであり、最も好ましくは10nmである。上記を越えると液晶化合物の配向が乱れることがある。
【0020】
本発明の転写用フィルムの離型面の三次元十点平均粗さ(SRz)の下限は好ましくは5nmであり、より好ましくは10nmであり、さらに好ましくは13nmである。上記未満であると現実的に数値の達成が困難になりうる。また、本発明の転写用フィルムの離型面のSRzの上限は好ましくは200nmであり、より好ましくは150nmであり、さらに好ましくは120nmであり、特に好ましくは100nmであり、最も好ましくは80nmである。上記を越えると液晶化合物の配向が乱れることがある。
【0021】
本発明の転写用フィルムの離型面の最大高さ(SRy:離型面最大山高さSRp+離型面最大谷深さSRv)の下限は好ましくは10nmであり、より好ましくは15nmであり、さらに好ましくは20nmである。上記未満であると現実的に数値の達成が困難になりうる。また、本発明の転写用フィルムの離型面のSRyの上限は好ましくは300nmであり、より好ましくは250nmであり、さらに好ましくは150nmであり、特に好ましくは120nmであり、最も好ましくは100nmである。上記を越えると液晶化合物の配向が乱れることがある。
【0022】
本発明の転写用フィルムの離型面の高低差0.5μm以上の突起の数の上限は好ましくは5個/m2であり、より好ましくは4個/m2であり、さらに好ましくは3個/m2であり、特に好ましくは2個/m2であり、最も好ましくは1個/m2である。上記を越えると液晶化合物の配向が乱れることがある。
【0023】
離型面の粗さが上記範囲を超えると、本発明の転写用フィルムの上に形成された液晶化合物配向層の微小部分で設計通りの配向状態や位相差とならず、ピンホール状やキズ状の欠点が生じる場合がある。この理由は、以下のように考えられる。まず、後述のように、転写用フィルムと液晶化合物配向層の間には、ラビング処理配向制御層や光配向制御層などの配向制御層を設けることができるが、この配向制御層がラビング処理配向制御層であれば、ラビング時に凸部分の配向制御層が剥がれることや、凸部分の麓部や凹部分のラビングが不十分となることが欠点発生の原因と考えられる。また、離型面層に粒子を含む場合、ラビング時に粒子が脱落し、表面を傷つけることも欠点発生の原因と考えられる。また、ラビング処理配向制御層であっても光配向制御層であっても、配向制御層を設けた状態でフィルムを巻き取った場合、裏面層と擦れることにより、凸部分の配向制御層に穴が空いたり、圧力により配向が乱れたりすることも欠点発生の原因と考えられる。これらの配向制御層の欠陥により、配向制御層上に液晶化合物配向層を設ける時にその微小部分で液晶化合物の配向が適切に起こらず、設計通りの配向状態や位相差が得られず、その結果としてピンホール状やキズ状の欠点が生じると考えられる。
【0024】
また、配向制御層を設けず、転写用フィルムの上に液晶化合物配向層を直接形成させる場合でも、液晶化合物の塗工時に、転写用フィルムの離型面の凸部分で液晶化合物配向層の厚みが薄くなったり、逆に転写用フィルムの離型面の凹部分では液晶化合物配向層の厚みが厚くなるなどの理由で、設計通りの位相差が得られないことも欠点発生の原因と考えられる。
【0025】
離型面(A)の粗さを上記範囲にするためには、以下の方法が挙げられる。
・基材フィルムの離型面側層(表層)が粒子を含まないものとする。
・基材フィルムの離型面側層(表層)が粒子を含む場合は粒径の小さな粒子とする。
・流延バンドを平滑にする。
・流延バンドから基材フィルムを剥離する際の基材フィルムの溶剤含有量を少なくする。
・基材フィルムの離型面側層(表層)が粒子を含む場合は平坦化コートを設ける。
なお、本発明において、基材フィルムの「離型面側層」とは、基材フィルムを構成する樹脂の各層のうち、離型面が存在する層を意味する。ここで、基材フィルムが単一の層である場合も離型面側層と呼ぶ場合がある。この場合、後述する裏面側層と離型面側層が同一層となる。
【0026】
また、上記以外に原料や製造工程を以下のようにクリーンにすることも重要である。
・ドープに添加する粒子分散液や、トリアセチルセルロース溶液や、流延するドープにフィルターをかける。
・コート剤にフィルターをかけ、異物を除去する。
・製膜、コート、乾燥時にクリーン環境下で行う。
【0027】
表層は平滑化のためには実質的に粒子を含まないことが好ましい。実質的に粒子を含まないとは、粒子含有量が50ppm未満であり、好ましくは30ppm未満であることを意味する。
【0028】
表面の滑り性を上げるため、表層は粒子を含んでいても良い。粒子を含む場合、表層粒子含有量の下限は好ましくは0ppmであり、より好ましくは50ppmであり、さらに好ましくは100ppmである。また、表層粒子含有量の上限は好ましくは20000ppmであり、より好ましくは10000ppmであり、さらに好ましくは8000ppmであり、特に好ましくは6000ppmである。上記を越えると、表層の粗さを好ましい範囲内にできないことがある。
【0029】
表層粒子径の下限は好ましくは0.005μmであり、より好ましくは0.01μmであり、さらに好ましくは0.02μmである。また、表層粒子径の上限は好ましくは3μmであり、より好ましくは1μmであり、さらに好ましくは0.5μmであり、特に好ましくは0.3μmである。上記を越えると、表層の粗さを好ましい範囲内にできないことがある。
【0030】
表層が粒子を含まない場合や粒径の小さな粒子とした場合であっても、その下層が粒子を含む場合は、下層の粒子の影響により離型面層の粗さが高くなる場合がある。このような場合は、離型面層の厚みを大きくしたり、粒子を含まない下層(中間層)を設ける等の方法をとることが好ましい。
【0031】
表層厚みの下限は好ましくは0.1μmであり、より好ましくは0.5μmであり、さらに好ましくは1μmであり、特に好ましくは3μmであり、最も好ましくは5μmである。また、表層厚みの上限は転写用フィルムの全厚みに対して、好ましくは97%、より好ましくは95%、さらに好ましくは90%である。
【0032】
粒子を含まない中間層は実質的に粒子を含まないという意味で、粒子の含有量は50ppm未満であり、30ppm未満であることが好ましい。転写用フィルムの全厚みに対して、中間層の厚みの下限は転写用フィルムの全厚みに対して、好ましくは10%、より好ましくは20%、さらに好ましくは30%である。上限は好ましくは95%、より好ましくは90%である。
【0033】
転写用フィルム(基材フィルム)の表層の粗さが高い場合、平坦化コートを設けても良い。平坦化コートに用いられる樹脂としては、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミドなど一般にコート剤の樹脂として用いられるものが挙げられる。メラミン、イソシアネート、エポキシ樹脂、オキサゾリン化合物などの架橋剤を用いることも好ましい。これらは有機溶剤や水に溶解または分散させたコート剤として塗工されて乾燥される。またはアクリルの場合は無溶剤で塗工され、放射線で硬化させても良い。平坦化コートはオリゴマーブロックコートであっても良い。離型層をコートで設ける場合は離型層自体を厚くしても良い。
【0034】
表面平坦化コート層の厚みの下限は好ましくは0.01μmであり、より好ましくは0.1μmであり、さらに好ましくは0.2μmであり、特に好ましくは0.3μmである。上記未満であると平坦化の効果が不十分となることがある。また、表面平坦化コート層の厚みの上限は好ましくは10μmであり、より好ましくは7μmであり、さらに好ましくは5μmであり、特に好ましくは3μmである。上記を越えてもそれ以上の平坦化効果が得られないことがある。
【0035】
平坦化コートは製膜過程中にインラインコートで設けても良く、別途オフラインで設けても良い。
【0036】
(離型面)
得られた基材フィルムは、流延バンド面、反対面のどちらを離型面にしても良いが、一般的には流延バンド面の粗さの方が小さくなるため、流延バンド面を離型面にすることが好ましい。
【0037】
(離型層)
得られた基材フィルムは、転写物(液晶化合物配向層)との剥離性を有するのであれば、そのまま転写用フィルムとして用いることができる。離型性の調整のため、フィルムを表面処理しても良い。表面処理としては、鹸化処理、コロナ処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0038】
また、離型層を設けても良い。離型層としては、公知の離型剤を用いることができ、アルキッド樹脂、アミノ樹脂、長鎖アクリルアクリレート系、シリコーン樹脂、フッ素樹脂が好ましい例として挙げられる。これらは、転写物との密着性に合わせて適宜選択できる。基材フィルムと離型層の密着性を上げるため、基材フィルムに表面処理を行っても良い。表面処理としては、上記の処理が挙げられる。また、易接着コートを行ってもよい。
【0039】
(裏面側粗さ)
また、本発明の転写用フィルムの離型面を平滑にしても液晶化合物配向層に欠点が生じる場合がある。これは、転写用フィルムはロール状に巻き取られた状態で供給されており、表面と裏面が接して、裏面の粗さが表面に転写する(離型層に裏面の凸部が転写して凹部が形成される)ためであることがわかった。液晶化合物配向層を設けた転写用フィルムは、液晶化合物配向層を保護するため、マスキングフィルムを貼り合わせて巻き取られる場合もあるが、コスト低減のため、そのまま巻き取られることも多い。このように液晶化合物配向層を設けた状態で巻き取った場合は、液晶化合物配向層が裏面の凸部により、凹んだり、穴が空いたり、配向が乱れるといった現象が起こっていると考えられる。また、液晶化合物配向層を設けた状態で巻き取るのではなく、液晶化合物配向層を後で設ける場合でも、裏面の凸部により、液晶化合物配向層に穴が空く、配向が乱れるといった現象が起こっていると考えられる。特に巻芯部では圧力が高くこれらの現象が起こりやすい。以上の知見から、上記の欠点は離型面の反対面表面(裏面)の粗さを特定の範囲内にすることにより防止することができることがわかった。
【0040】
本発明の転写用フィルムの裏面の三次元算術平均粗さ(SRa)の下限は好ましくは3nmであり、より好ましくは4nmであり、さらに好ましくは5nmである。上記未満であると滑り性が悪くなり、ロール搬送時、巻き取り時などに滑らかに滑らず、キズが付きやすくなるとなることがある。また、本発明の転写用フィルムの裏面のSRaの上限は好ましくは50nmであり、より好ましくは45nmであり、さらに好ましくは40nmである。上記を越えると欠点が多くなることがある。
【0041】
本発明の転写用フィルムの裏面の三次元十点平均粗さ(SRz)の下限は、好ましくは15nmであり、より好ましくは20nmであり、さらに好ましくは25nmである。また、本発明の転写用フィルムの裏面のSRzの上限は好ましくは1500nmであり、より好ましくは1200nmであり、さらに好ましくは1000nmであり、特に好ましくは700nmであり、最も好ましくは500nmである。上記を越えると欠点が多くなることがある。
【0042】
本発明の転写用フィルムの裏面の最大高さ(SRy:裏面最大山高さSRp+裏面最大谷深さSRv)の下限は好ましくは20nmであり、より好ましくは30nmであり、さらに好ましくは40nmであり、特に好ましくは50nmである。また、本発明の転写用フィルムの裏面の最大高さSRyの上限は好ましくは2000nmであり、より好ましくは1500nmであり、さらに好ましくは1200nmであり、特に好ましくは1000nmであり、最も好ましくは700nmである。上記を越えると欠点が多くなることがある。
【0043】
本発明の転写用フィルムの裏面の高低差2μm以上の突起の数の上限は好ましくは5個/m2であり、より好ましくは4個/m2であり、さらに好ましくは3個/m2であり、特に好ましくは2個/m2であり、最も好ましくは1個/m2である。上記を越えると欠点が多くなることがある。
【0044】
以上のパラメーターで表わされる本発明の転写用フィルムの裏面の粗さが上記範囲未満であると、フィルムの滑り性が悪くなり、フィルムのロールでの搬送時、巻き取り時などに滑りにくくなり、キズが付きやすくなることがある。また、フィルム製造時の巻き取りにおいて、巻き取りが安定せず、皺が生じて不良品となったり、巻き取ったロールの端部の凹凸が大きくなり、次工程でフィルムの蛇行が起こりやすくなったり、破断しやすくなったりする。
なお、本発明の転写用フィルムの裏面の粗さが上記を超えると、上述の欠点が生じやすくなる。
【0045】
裏面の粗さを上記範囲とするためには、以下の方法が挙げられる。
・基材フィルムの裏面側層(裏面層)を特定の粒子を含むものにする。
・基材フィルムの中間層に粒子を含むものを用い、裏面層側(裏面層)に粒子を含まないものとして厚みを薄くする。
・基材フィルムの裏面側層(裏面層)の粗さが大きい場合は平坦化コートを設ける。
・基材フィルムの裏面側層(裏面層)が粒子を含まない場合や粗さが小さい場合は易滑コート(粒子含有コート)を設ける。
【0046】
裏面層粒子径の下限は好ましくは0.005μmであり、より好ましくは0.01μmであり、さらに好ましくは0.05μmであり、特に好ましくは0.1μmである。上記未満であると滑り性が悪くなり、巻き取り不良が起こる場合がある。また、裏面層粒子径の上限は好ましくは5μmであり、より好ましくは3μmであり、さらに好ましくは2μmである。上記を越えると裏面が粗くなりすぎることがある。
【0047】
裏面が粒子を含む場合、裏面層粒子含有量の下限は好ましくは50ppmであり、より好ましくは100ppmである。上記未満であると粒子を添加することによる滑り性の効果が得られないことがある。また、裏面層粒子含有量の上限は好ましくは10000ppmであり、より好ましくは7000ppmであり、さらに好ましくは5000ppmである。上記を越えると裏面が粗くなりすぎることがある。
【0048】
裏面層厚みの下限は好ましくは0.1μmであり、より好ましくは0.5μmであり、さらに好ましくは1μmであり、特に好ましくは3μmであり、最も好ましくは5μmである。また、裏面層厚みの上限は転写用フィルムの全厚みに対して、好ましくは95%、より好ましくは90%、さらに好ましくは85%である。
【0049】
中間層に粒子を含ませ、裏面層は粒子を含まずに薄くすることで裏面の粗さを制御することも好ましい。このような形態を取ることで、粒子の脱落を防ぎながら裏面の粗さを確保することができる。
【0050】
中間層の粒子の粒径や添加量としては、裏面層の粒子と同様である。この場合の裏面層の厚みの下限は好ましくは0.5μmであり、より好ましくは1μmであり、さらに好ましくは2μmである。厚みの上限は好ましくは30μmであり、より好ましくは25μmであり、さらに好ましくは20μmである。
【0051】
基材フィルムの裏面が粗い場合、平坦化コートを設けることも好ましい。平坦化コートは表面の平坦化コートで挙げたものを同様に用いることができる。
【0052】
裏面平坦化コート層の厚みの下限は好ましくは0.01μmであり、より好ましくは0.03μmであり、さらに好ましくは0.05μmである。上記未満であると平坦化の効果が小さくなることがある。また、裏面平坦化コート層の厚みの上限は好ましくは10μmであり、より好ましくは5μmであり、さらに好ましくは3μmである。上記を超えても平坦化の効果が飽和してしまう。
【0053】
裏面に粒子を含有する易滑コートを設けてもよい。易滑コートは、基材フィルムの裏面側が粒子を含まない場合や、粗さが不足している場合に効果的である。
【0054】
裏面易滑コート層の粒子径の下限は好ましくは0.01μmであり、より好ましくは0.05μmである。上記未満であると易滑性が得られないことがある。また、裏面易滑コート層の粒子径の上限は好ましくは5μmであり、より好ましくは3μmであり、さらに好ましくは2μmであり、特に好ましくは1μmである。上記を越えると裏面の粗さが高すぎることがある。
【0055】
裏面易滑コート層の粒子含有量の下限は好ましくは0.1質量%であり、より好ましくは0.5質量%であり、さらに好ましくは1質量%であり、特に好ましくは1.5質量%であり、最も好ましくは2質量%である。上記未満であると易滑性が得られないことがある。また、裏面易滑コート層の粒子含有量の上限は好ましくは20質量%であり、より好ましくは15質量%であり、さらに好ましくは10質量%である。上記を越えると裏面の粗さが高すぎることがある。
【0056】
裏面易滑コート層の厚みの下限は好ましくは0.01μmであり、より好ましくは0.03μmであり、さらに好ましくは0.05μmである。また、裏面易滑コート層の厚みの上限は好ましくは10μmであり、より好ましくは5μmであり、さらに好ましくは3μmであり、特に好ましくは2μmであり、最も好ましくは1μmである。
【0057】
これらのコートを設ける場合、基材フィルムに上述の表面処理や易接着コートをすることが好ましい。
【0058】
セルロース系フィルムは、流延法、溶融押出法など一般的な方法で作成することができる。以下、例として流延法に関して簡単に説明する。
【0059】
まず、セルロース樹脂を溶剤に溶解させ、必要により粒子を添加分散させたドープを作製する。粒子を添加する場合は事前に粒子の分散液を作製して、これをセルロース樹脂の溶液に添加することも好ましい。
【0060】
適正な表面粗さを達成するためには、粒子の分散液やドープはフィルターで濾過し、粗大粒子を除去することが好ましい。使用するフィルターの濾過精度の下限は好ましくは0.5μmであり、より好ましくは1μmである。フィルターの濾過精度の上限は好ましくは100μmであり、より好ましくは50μmであり、さらに好ましくは25μmであり、特に好ましくは20μmであり、最も好ましくは10μmである。この価は添加する粒子の粒径により、適宜決められる。
【0061】
ドープは、ダイから流し出され、金属などの流延バンド上に展開される。
【0062】
流延バンド粗さ(搬送ベルト粗さ)
流延バンド粗さ(SRa)の下限は好ましくは1nmであり、より好ましくは2nmである。流延バンド粗さ(SRa)の上限は好ましくは15nmであり、より好ましくは12nmである。
【0063】
流延バンド粗さ(SRz)の下限は好ましくは1nmであり、より好ましくは2nmである。流延バンド粗さ(SRz)の上限は好ましくは50nmであり、より好ましくは40nmである。
【0064】
流延バンド粗さ最大高さ(SRy)の下限は好ましくは2nmである。流延バンド粗さ最大高さ(SRy)の上限は好ましくは100nmである。
流延バンドの各粗さのパラメータを上記範囲にすることにより、基材フィルムの粗さを適正な範囲に制御しやすくなる。
【0065】
流延バンド上のドープに送風し、溶剤を除去する。送風温度は20~100℃が好ましい。送風温度の上限はドープに含まれる溶剤の沸点以下であることが好ましい。また、温度は後半にかけて高くすることも好ましい。さらに風量は初期はドープ表面が風により波立つのを防ぐため小さくし、後半に大きくすることが好ましい。ある程度溶剤が除去されたドープ(フィルム)は流延バンドから剥がされ、さらに乾燥工程に導かれる。
【0066】
(溶剤含有量)
流延バンドからフィルムを剥がした時のフィルムの流延バンド面の粗さは、基本的に流延バンド表面の粗さを反映している。しかしながら、流延バンドから剥離する時のフィルムには溶剤が多量に残っていることが一般的であり、その後の乾燥工程で残留溶剤量を1%以下にまで除去する。この際に体積が減少し、フィルムの表面に粒子による凹凸が浮かび上がってくる。従って、流延バンドからフィルムを剥がす際のフィルムの溶剤含有量を低くすることで、この体積収縮を小さくし、表面の凹凸を小さくすることができる。また逆に残留溶剤量を多くすることで凹凸を大きくして微調整してもよい。
【0067】
流延バンド剥離時の残留溶剤の下限は好ましくは10質量%であり、より好ましくは15質量%であり、さらに好ましくは20質量%であり、特に好ましくは25質量%である。上記未満であると乾燥時間が長くなったり、生産性が低下することがある。流延バンド剥離時の残留溶剤の上限は好ましくは250質量%であり、より好ましくは200質量%であり、さらに好ましくは150質量%であり、特に好ましくは100質量%であり、最も好ましくは80質量%である。上記を越えると粗さが大きくなったり、製膜性が低下することがある。
【0068】
乾燥工程では、上下から乾燥空気を吹きあててフィルムを浮上させて送るフロー式乾燥機、乾燥機内に複数のロールを設けて、このロールをフィルムがW字で搬送されていくロール乾燥機、フィルムの両端をクリップで固定してテンター内で乾燥させるテンター乾燥機、などを用いることができる。これらは適宜組み合わせて使用できる。これらの乾燥では50~170℃、さらには60~160℃で行われることが好ましい。また、ロールの周差を利用して流れ方向に若干の延伸をかけたり、テンター内でクリップ幅を広げて幅方向に若干の延伸をかけることも好ましい。目的にもよるが、延伸倍率としては101~200%が好ましく、さらには103~150%、特には105~130%が好ましい。上記範囲にすることで、セルロースフィルムのリタデーションを低く維持することができ、フィルムごと液晶化合物配向層の配向状態を検査において正確な検査が行いやすくなる。また、フィルムの皺を押さえたり厚みの均一性を高めることができる。
【0069】
乾燥後のフィルムはコアに巻き取られる。巻き取る際に、両端に厚みだし加工(ナール加工)を行っても良い。
最終的なフィルムの残留溶剤の下限は好ましくは0%であり、より好ましくは0.001%である。上記未満であると現実的に数値の達成が困難になりうる。最終残留溶剤の上限は好ましくは2%であり、より好ましくは1%であり、さらに好ましくは0.5%である。上記範囲にすることで離型フィルムとして使用した時に寸法安定性に優れる。
【0070】
インラインコートを行う場合には、フィルムの乾燥に使用するテンター乾燥機の直前やフロー乾燥機の直前でコートし、これら乾燥機で乾燥させることが好ましいが、フィルム乾燥後に別途コート-乾燥機を設けてもよい。
【0071】
これら工程における空気はHEPAフィルターなどを通し、クラス10000以下、さらにはクラス1000以下の空気とすることが好ましい。
【0072】
次に、本発明の転写用フィルムの追加の特徴について説明する。
【0073】
(転写用フィルムの面内リタデーション)
本発明の転写用フィルムは面内リタデーションが低いことが好ましい。具体的には、本発明の転写用フィルムの面内リタデーションは、50nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下、特に好ましくは10nm以下である。転写用フィルムの面内リタデーションを上記範囲にすることにより、転写用フィルムに液晶化合物配向層が積層された状態で直線偏光を照射して液晶化合物配向層の配向状態を検査することができる。例えば、液晶化合物配向層が位相差層の場合、検査する位相差層の遅相軸に対して斜め方向(例えば45度)の直線偏光をサンプルに照射し、位相差層により楕円偏光となった偏光を別の位相差層を通過させて直線偏光に戻し、この直線偏光が消光状態となる偏光板を介して受光する。これにより、位相差層にピンホール状の欠点があった場合には輝点として欠点を検知することができる。
【0074】
転写用フィルムのレタデーションは、2軸方向の屈折率と厚みを測定して求めることができ、KOBRA-21ADH(王子計測機器株式会社)等の市販の自動複屈折測定装置を用いて求めることもできる。
【0075】
転写用フィルムの面内リタデーションを上記範囲にするためには、基材フィルムの製膜工程において、延伸を行わないか、又は延伸を行う場合には流れ方向と幅方向の延伸倍率を調整するか、又は原料として用いるトリアセチルセルロースとしてアセチル基や添加剤を調節した複屈折性の少ないものを用いる、などの方法が挙げられる。
【0076】
本発明の転写用フィルムのヘイズの下限は好ましくは0.01%であり、より好ましくは0.1%である。上記未満であると現実的に数値の達成が困難になりうる。また、本発明の転写用フィルムのヘイズの上限は好ましくは3%であり、より好ましくは2.5%であり、さらに好ましくは2%であり、特に好ましくは1.7%である。上記を越えると偏光UV照射時に偏光が乱れ、設計通りの位相差層が得られなくなることがある。また、位相差層の検査時に乱反射で光漏れが起こり、検査が行いにくくなることがある。
【0077】
本発明の転写用フィルムの帯電防止性(表面抵抗)の下限は好ましくは1×105Ω/□であり、より好ましくは1×106Ω/□である。上記未満であっても効果が飽和し、それ以上の効果が得られないことがある。また、本発明の転写用フィルムの帯電防止性(表面抵抗)の上限は好ましくは1×1013Ω/□であり、より好ましくは1×1012Ω/□であり、さらに好ましくは1×1011Ω/□である。上記を越えると、静電気によるハジキが生じたり、液晶化合物の配向方向の乱れが生じたりすることがある。帯電防止性(表面抵抗)は、転写用フィルムに帯電防止剤を練り込むこと、離型層の下層や反対面に帯電防止コート層を設けること、又は離型層に帯電防止剤を添加すること等により、上記範囲内とすることができる。
【0078】
帯電防止コート層や離型層や転写用フィルムに添加する帯電防止剤としては、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性高分子、ポリスチレンスルホン酸塩などのイオン性高分子、スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズなどの導電性微粒子が挙げられる。
【0079】
転写用フィルムには離型層を設けても良い。ただし、フィルム自体が位相差層や配向層などの転写物との密着性が低く、離型層を設けなくとも十分な離型性がある場合には、離型層を設けなくても良い。また、密着性が低すぎる場合には、表面にコロナ処理を行うなどして密着性を調整しても良い。離型層は公知の離型剤を用いて形成することができ、アルキッド樹脂、アミノ樹脂、長鎖アクリルアクリレート系、シリコーン樹脂、フッ素樹脂が好ましい例として挙げられる。これらは、転写物との密着性に合わせて適宜選択できる。
【0080】
(液晶化合物配向層転写用積層体)
次に、本発明の液晶化合物配向層転写用積層体について説明する。
本発明の液晶化合物配向層転写用積層体は、液晶化合物配向層と本発明の転写用フィルムが積層された構造を有する。液晶化合物配向層は転写用フィルム上に塗工し配向させる必要がある。配向させる方法としては、液晶化合物配向層の下層(離型面)にラビング処理等を行い配向制御機能を付与する方法や、液晶化合物を塗布後に偏光紫外線等を照射して直接液晶化合物を配向させる方法がある。
【0081】
(配向制御層)
また、転写用フィルムに配向制御層を設け、この配向制御層上に液晶化合物配向層を設ける方法も好ましい。なお、本発明において、液晶化合物配向層単独ではなく配向制御層と液晶化合物配向層を合わせた総称としても液晶化合物配向層と呼ぶことがある。配向制御層としては、液晶化合物配向層を所望の配向状態にすることができるものであれば、どのような配向制御層でもよいが、樹脂の塗工膜をラビング処理したラビング処理配向制御層や、偏光の光照射により分子を配向させて配向機能を生じさせる光配向制御層が好適な例として挙げられる。
【0082】
(ラビング処理配向制御層)
ラビング処理により形成される配向制御層に用いられるポリマー材料としては、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、ポリイミドおよびその誘導体、アクリル樹脂、ポリシロキサン誘導体などが好ましく用いられる。
【0083】
以下、ラビング処理配向制御層の形成方法を説明する。まず、上記のポリマー材料を含むラビング処理配向制御層塗布液をフィルムの離型面上に塗布したのち、加熱乾燥等を行ない、ラビング処理前の配向制御層を得る。配向制御層塗布液は架橋剤を有していても良い。
【0084】
ラビング処理配向制御層塗布液の溶剤としては、ポリマー材料を溶解するものであれば制限なく用いることができる。具体例としては、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、セロソルブ、などのアルコール;酢酸エチル、酢酸ブチル、ガンマーブチロラクトン、などのエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、などのケトン系溶剤;トルエン又はキシレンなどの芳香族炭化水素溶剤、;テトラヒドロフラン又はジメトキシエタンなどのエーテル系溶剤などが挙げられる。これら溶剤は、単独で用いてもよいし、組み合わせてもよい。
【0085】
ラビング処理配向制御層塗布液の濃度は、ポリマーの種類や製造しようとする配向制御層の厚みによって適宜調節できるが、固形分濃度で表して、0.2~20質量%とすることが好ましく、0.3~10質量%の範囲が特に好ましい。塗布する方法としては、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法及びアプリケータ法などの塗布法や、フレキソ法などの印刷法などの公知の方法が採用される。
【0086】
加熱乾燥温度は30℃~170℃の範囲が好ましく、より好ましくは、50~150℃、さらに好ましくは、70~130℃である。乾燥温度が低い場合は乾燥時間を長く取る必要が生じ、生産性に劣る場合がある。乾燥温度が高すぎる場合、転写用フィルムが熱で伸びたり、熱収縮が大きくなったりし、設計通りの光学機能が達成できなくなったり、平面性が悪くなる場合がある。加熱乾燥時間は例えば0.5~30分であればよく、1~20分がより好ましく、さらには2~10分がより好ましい。
【0087】
ラビング処理配向制御層の厚さは、0.01~10μmであることが好ましく、さらには0.05~5μm、特には0.1μm~1μmであることが好ましい。
【0088】
次に、ラビング処理を施す。ラビング処理は、一般にはポリマー層の表面を、紙や布で一定方向に擦ることにより実施することができる。一般的には、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの繊維の起毛布のラビングローラーを用い、配向制御層表面をラビング処理する。長尺状のフィルムの長手方向に対して斜めの所定方向に配向する液晶化合物配向制御層を設けるためには配向制御層のラビング方向もそれに合った角度にする必要がある。角度の調整は、ラビングローラーとフィルムとの角度調整、フィルムの搬送速度とローラーの回転数の調整で合わせることができる。
【0089】
なお、転写用フィルムの離型面に直接ラビング処理を行って転写用フィルム表面に配向制御機能を持たせることも可能であり、この場合も本発明の技術範囲に含まれる。
【0090】
(光配向制御層)
光配向制御層とは、光反応性基を有するポリマー又はモノマーと溶剤とを含む塗工液をフィルムに塗布し、偏光、好ましくは偏光紫外線を照射することによって配向規制力を付与した配向膜のことをいう。光反応性基とは、光照射により液晶配向能を生じる基をいう。具体的には、光を照射することで生じる分子の配向誘起又は異性化反応、二量化反応、光架橋反応、あるいは光分解反応のような、液晶配向能の起源となる光反応を生じるものである。当該光反応性基の中でも、二量化反応又は光架橋反応を起こすものが、配向性に優れ、液晶化合物配向層のスメクチック液晶状態を保持する点で好ましい。以上のような反応を生じうる光反応性基としては、不飽和結合、特に二重結合であると好ましく、C=C結合、C=N結合、N=N結合、C=O結合からなる群より選ばれる少なくとも一つを有する基が特に好ましい。
【0091】
C=C結合を有する光反応性基としては例えば、ビニル基、ポリエン基、スチルベン基、スチルバゾ-ル基、スチルバゾリウム基、カルコン基及びシンナモイル基などが挙げられる。C=N結合を有する光反応性基としては、芳香族シッフ塩基及び芳香族ヒドラゾンなどの構造を有する基が挙げられる。N=N結合を有する光反応性基としては、アゾベンゼン基、アゾナフタレン基、芳香族複素環アゾ基、ビスアゾ基及びホルマザン基などや、アゾキシベンゼンを基本構造とするものが挙げられる。C=O結合を有する光反応性基としては、ベンゾフェノン基、クマリン基、アントラキノン基及びマレイミド基などが挙げられる。これらの基は、アルキル基、アルコキシ基、アリ-ル基、アリルオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基及びハロゲン化アルキル基などの置換基を有していてもよい。
【0092】
中でも、光二量化反応を起こしうる光反応性基が好ましく、シンナモイル基及びカルコン基が、光配向に必要な偏光照射量が比較的少なく、かつ、熱安定性や経時安定性に優れる光配向層が得られやすいため好ましい。さらにいえば、光反応性基を有するポリマーとしては、当該ポリマー側鎖の末端部が桂皮酸構造となるようなシンナモイル基を有するものが特に好ましい。主鎖の構造としては、ポリイミド、ポリアミド、(メタ)アクリル、ポリエステル、等が挙げられる。
【0093】
具体的な配向制御層としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特開2002-229039号公報、特開2002-265541号公報、特開2002-317013号公報、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報、特開2013-33248号公報、特開2015-7702号公報、特開2015-129210号公報に記載の配向制御層が挙げられる。
【0094】
光配向制御層形成用塗工液の溶剤としては、光反応性基を有するポリマー及びモノマーを溶解するものであれば制限なく用いることができる。具体例としてはラビング処理配向制御層の形成方法で挙げたものが例示できる。光配向制御層形成用塗工液には、光重合開始剤、重合禁止剤、各種安定剤を添加することも好ましい。また、光反応性基を有するポリマー及びモノマー以外のポリマーや光反応性基を有するモノマーと共重合可能な光反応性基を有しないモノマーを加えても良い。
【0095】
光配向制御層形成用塗工液の濃度、塗布方法、乾燥条件もラビング処理配向制御層の形成方法で挙げたものが例示できる。厚みもラビング処理配向制御層の好ましい厚みと同様である。
【0096】
偏光は、配向前の光配向制御層面の方向から照射する方法、転写用フィルム面の方向から転写用フィルムを透過させて照射する方法のいずれもでもよい。
【0097】
偏光の波長は、光反応性基を有するポリマー又はモノマーの光反応性基が、光エネルギーを吸収できる波長領域のものが好ましい。具体的には、波長250~400nmの範囲の紫外線が好ましい。偏光の光源としては、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、KrF、ArFなどの紫外光レ-ザ-などが挙げられ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ及びメタルハライドランプが好ましい。
【0098】
偏光は、例えば前記光源からの光に偏光子を通過させることにより得られる。前記偏光子の偏光角を調整することにより、偏光の方向を調整することができる。前記偏光子は、偏光フィルターやグラントムソン、グランテ-ラ-等の偏光プリズムやワイヤーグリッドタイプの偏光子が挙げられる。偏光は、実質的に平行光であると好ましい。
【0099】
照射する偏光の角度を調整することにより、光配向制御層の配向規制力の方向を任意に調整することができる。
【0100】
照射強度は重合開始剤や樹脂(モノマー)の種類や量で異なるが、例えば365nm基準で10~10000mJ/cm2が好ましく、さらには20~5000mJ/cm2が好ましい。
【0101】
(液晶化合物配向層)
液晶化合物配向層は、液晶化合物が配向されたものであれば特に制限はない。具体的な例としては、液晶化合物と二色性色素を含む偏光膜(偏光子)、棒状やディスコティック液晶化合物を含む位相差層が挙げられる。
【0102】
(偏光膜)
偏光膜は一方向のみの偏光を通過させる機能を有し、二色性色素を含む。
【0103】
(二色性色素)
二色性色素とは、分子の長軸方向における吸光度と、短軸方向における吸光度とが異なる性質を有する色素をいう。
【0104】
二色性色素は、300~700nmの範囲に吸収極大波長(λMAX)を有するものが好ましい。このような二色性色素は、例えば、アクリジン色素、オキサジン色素、シアニン色素、ナフタレン色素、アゾ色素及びアントラキノン色素などが挙げられるが、中でもアゾ色素が好ましい。アゾ色素は、モノアゾ色素、ビスアゾ色素、トリスアゾ色素、テトラキスアゾ色素及びスチルベンアゾ色素などが挙げられ、好ましくはビスアゾ色素及びトリスアゾ色素である。二色性色素は単独でも、組み合わせても良いが、色調を調整(無彩色)にするため、2種以上を組み合わせることが好ましい。特には3種類以上を組み合わせるのが好ましい。特に、3種類以上のアゾ化合物を組み合わせるのが好ましい。
【0105】
好ましいアゾ化合物としては、特開2007-126628号公報、特開2010-168570号、特開2013-101328号、特開2013-210624号に記載の色素が挙げられる。
【0106】
二色性色素はアクリルなどのポリマーの側鎖に導入された二色性色素ポリマーであることも好ましい。これら二色性色素ポリマーとしては特開2016-4055号で挙げられるポリマー、特開2014-206682号の[化6]~[化12]の化合物が重合されたポリマーが例示できる。
【0107】
偏光膜中の二色性色素の含有量は、二色性色素の配向を良好にする観点から、偏光膜中、0.1~30質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、1.0~15質量%がさらに好ましく、2.0~10質量%が特に好ましい。
【0108】
偏光膜には、膜強度や偏光度、膜均質性の向上のため、さらに重合性液晶化合物が含まれていることが好ましい。なお、ここで重合性液晶化合物は膜として重合後の物も含まれる。
【0109】
(重合性液晶化合物)
重合性液晶化合物とは、重合性基を有し、かつ、液晶性を示す化合物である。
重合性基とは、重合反応に関与する基を意味し、光重合性基であることが好ましい。ここで、光重合性基とは、後述する光重合開始剤から発生した活性ラジカルや酸などによって重合反応し得る基のことをいう。重合性基としては、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基及びオキセタニル基が好ましく、アクリロイルオキシ基がより好ましい。液晶性を示す化合物は、サーモトロピック性液晶でもリオトロピック液晶でもよく、また、サーモトロピック液晶における、ネマチック液晶でもスメクチック液晶でもよい。
【0110】
重合性液晶化合物は、より高い偏光特性が得られるという点でスメクチック液晶化合物が好ましく、高次スメクチック液晶化合物がより好ましい。重合性液晶化合物が形成する液晶相が高次スメクチック相であると、配向秩序度のより高い偏光膜を製造することができる。
【0111】
具体的な好ましい重合性液晶化合物としては、例えば、特開2002-308832号公報、特開2007-16207号公報、特開2015-163596号公報、特表2007-510946号公報、特開2013-114131号公報、WO2005/045485号公報、Lub et al.Recl.Trav.Chim.Pays-Bas,115,321-328(1996)などに記載のものが挙げられる。
【0112】
偏光膜中の重合性液晶化合物の含有割合は、重合性液晶化合物の配向性を高くするという観点から、偏光膜中70~99.5質量%が好ましく、より好ましくは75~99質量%、さらに好ましくは80~97質量%であり、特に好ましくは83~95質量%である。
【0113】
偏光膜は偏光膜組成物塗料を塗工して設けることができる。偏光膜組成物塗料は、溶剤、重合開始剤、増感剤、重合禁止剤、レベリング剤及び、重合性非液晶化合物、架橋剤等を含んでもよい。
【0114】
溶剤としては、配向層塗布液の溶剤として挙げたものが好ましく用いられる。
【0115】
重合開始剤は、重合性液晶化合物を重合させるものであれば限定はされないが、光により活性ラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。重合開始剤としては、例えばベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、トリアジン化合物、ヨードニウム塩及びスルホニウム塩などが挙げられる。
【0116】
増感剤は光増感剤が好ましい。例えば、キサントン化合物、アントラセン化合物、フェノチアジン、ルブレン等が挙げられる。
【0117】
重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、チオフェノール類が挙げられる。
【0118】
重合性非液晶化合物としては、重合性液晶化合物と共重合するものが好ましく、例えば、重合性液晶化合物が(メタ)アクリロイルオキシ基を有する場合は(メタ)クレート類が挙げられる。(メタ)クリレート類は単官能であっても多官能であっても良い。多官能の(メタ)アクリレート類を用いることで、偏光膜の強度を向上させることができる。重合性非液晶化合物を用いる場合は偏光膜中に1~15質量%とすることが好ましく、さらには2~10質量%、特には3~7質量%にすることが好ましい。15質量%を越えると偏光度が低下することがある。
【0119】
架橋剤としては、重合性液晶化合物、重合性非液晶化合物の官能基と反応しうる化合物が挙げられ、イソシアネート化合物、メラミン、エポキシ樹脂、オキサゾリン化合物などが挙げられる。
【0120】
偏光膜組成物塗料を転写用フィルム上または配向制御層上に直接塗工後、必要により乾燥、加熱、硬化することにより、偏光膜が設けられる。
【0121】
塗工方法としては、塗布する方法としては、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法及びアプリケータ法などの塗布法や、フレキソ法などの印刷法などの公知の方法が採用される。
【0122】
塗工後の転写用フィルムは温風乾燥機、赤外線乾燥機などに導かれ、30~170℃、より好ましくは50~150℃、さらに好ましくは70~130℃で乾燥される。乾燥時間は0.5~30分が好ましく、1~20分がより好ましく、さらには2~10分がより好ましい。
【0123】
加熱は、偏光膜中の二色性色素および重合性液晶化合物をより強固に配向させるために行うことができる。加熱温度は、重合性液晶化合物が液晶相を形成する温度範囲にすることが好ましい。
【0124】
偏光膜組成物塗料に重合性液晶化合物が含まれる場合は、硬化するのが好ましい。硬化方法としては、加熱及び光照射が挙げられ、光照射が好ましい。硬化により二色性色素を配向した状態で固定することができる。硬化は、重合性液晶化合物に液晶相を形成させた状態で行うのが好ましく、液晶相を示す温度で光照射して硬化してもよい。光照射における光としては、可視光、紫外光及びレーザー光が挙げられる。取り扱いやすい点で、紫外光が好ましい。
【0125】
照射強度は重合開始剤や樹脂(モノマー)の種類や量で異なるが、例えば365nm基準で100~10000mJ/cm2が好ましく、さらには200~5000mJ/cm2が好ましい。
【0126】
偏光膜は、偏光膜組成物塗料を配向制御層上に塗布することで、色素が配向層の配向方向に添って配向し、その結果、所定方向の偏光透過軸を有することになるが、配向制御層を設けず直接転写用フィルムに塗工した場合は、偏光光を照射して偏光膜形成用組成物を硬化させることで、偏光膜を配向させることもできる。この際には、転写用フィルムの長尺方向に対して所望の方向の偏光光(例えば、斜め方向の偏光光)を照射する。さらにその後加熱処理することで二色性色素を強固に高分子液晶の配向方向に添って配向させることが好ましい。
【0127】
偏光膜の厚さは、0.1~5μmであり、好ましくは0.3~3μm、より好ましくは0.5~2μmである。
【0128】
(位相差層)
位相差層は液晶表示装置の偏光子と液晶セルの間に光学補償のために設けられるものや、円偏光板のλ/4層、λ/2層等が代表的なものとして挙げられる。液晶化合物としては、生や負のAプレート、正や負のCプレート、Oプレートなど、目的に合わせて棒状液晶化合物やディスコティック液晶化合物などを使用することができる。
【0129】
位相差の程度は、液晶表示装置の光学補償として用いられる場合は、液晶セルのタイプ、セルに用いられる液晶化合物の性質により適宜設定される。例えば、TN方式の場合はディスコティック液晶を用いたOプレートが好ましく用いられる。VA方式やIPS方式の場合、棒状液晶化合物やディスコティック液晶化合物を用いたCプレートやAプレートが好ましく用いられる。また、円偏光板のλ/4位相差層、λ/2位相差層の場合は、棒状化合物を用いて、Aプレートとすることが好ましく用いられる。これらの位相差層は単層だけでなく、組み合わせて複数の層にして用いられても良い。
【0130】
これらの位相差層に用いられる液晶化合物としては、配向状態を固定できるという面で、二重結合などの重合性基を持つ重合性液晶化合物であることが好ましい。
【0131】
棒状液晶化合物の例としては、特開2002-030042号公報、特開2004-204190号公報、特開2005-263789号公報、特開2007-119415号公報、特開2007-186430号公報、及び特開平11-513360号公報に記載された重合性基を有する棒状液晶化合物が挙げられる。
具体的な化合物としては、
CH2=CHCOO-(CH2)m-O-Ph1-COO-Ph2-OCO-Ph1-O-(CH2)n-OCO-CH=CH2
CH2=CHCOO-(CH2)m-O-Ph1-COO-NPh-OCO-Ph1-O-(CH2)n-OCO-CH=CH2
CH2=CHCOO-(CH2)m-O-Ph1-COO-Ph2-OCH3
CH2=CHCOO-(CH2)m-O-Ph1-COO-Ph1-Ph1-CH2CH(CH3)C2H5
式中、m、nは2~6の整数であり、
Ph1、Ph2は1,4-フェニル基(Ph2は2位がメチル基であっても良い)であり、
NPhは2,6-ナフチル基である
が挙げられる。
これらの棒状液晶化合物は、BASF社製からLC242等として市販されており、それらを利用することができる。
【0132】
これらの棒状液晶化合物は複数種を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0133】
また、ディスコティック液晶化合物としては、ベンゼン誘導体、トルキセン誘導体、シクロヘキサン誘導体、アザクラウン系、フェニルアセチレン系マクロサイクル等が挙げられ、特開2001-155866号公報に様々なものが記載されており、これらが好適に用いられる。
中でもディスコティック化合物としては、下記一般式(1)で表されるトリフェニレン環を有する化合物が好ましく用いられる。
式中、R
1~R
6はそれぞれ独立して水素、ハロゲン、アルキル基、又は-O-Xで示される基(ここで、Xは、Xはアルキル基、アシル基、アルコキシベンジル基、エポキシ変性アルコキシベンジル基、アクリロイルオキシ変性アルコキシベンジル基、アクリロイルオキシ変性アルキル基である)である。R
1~R
6は、下記一般式(2)で表されるアクリロイルオキシ変性アルコキシベンジル基(ここで、mは4~10)であることが好ましい。
【0134】
位相差層は位相差層用組成物塗料を塗工して設けることができる。位相差層用組成物塗料は、溶剤、重合開始剤、増感剤、重合禁止剤、レベリング剤及び、重合性非液晶化合物、架橋剤等を含んでもよい。これらは、配向制御層や液晶偏光子の部分で説明した物を用いることができる。
【0135】
位相差層用組成物塗料を転写用フィルムの離型面または配向制御層上に塗工後、乾燥、加熱、硬化することにより、位相差層が設けられる。
【0136】
これらの条件も配向制御層や液晶偏光子の部分で説明した条件が好ましい条件として用いられる。
【0137】
位相差層は複数設けられることがあるが、この場合、1つの転写用フィルム上に複数の位相差層を設けてこれを対象物に転写しても良く、1つの転写用フィルム上に単一の位相差層を設けたものを複数種用意してこれらを対象物に順に転写しても良い。
【0138】
また、偏光層と位相差層を1つの転写用フィルム上に設け、これを対象物に転写しても良い。さらに、偏光子と位相差層の間に保護層を設けたり、位相差層の上や位相差層の間に保護層を設ける場合がある。これらの保護層も位相差層や偏光層と共に転写用フィルム上に設けて対象物に転写しても良い。
【0139】
保護層としては透明樹脂の塗工層が挙げられる。透明樹脂としては、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリスチレン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂など特に限定するものではない。これら樹脂に架橋剤を加えて架橋構造としても良い。また、ハードコートのようなアクリルなどの光硬化性の組成物を硬化させたものであっても良い。また、保護層を転写用フィルム上に設けた後、保護層をラビング処理し、その上に配向層を設けることなく液晶化合物配向層を設けても良い。
【0140】
(液晶化合物配向層積層偏光板の製造方法)
次に、本発明の液晶化合物配向層積層偏光板の製造方法について説明する。
本発明の液晶化合物配向層積層偏光板の製造方法は、偏光板と本発明の液晶化合物配向層転写用積層体の液晶化合物配向層面とを貼り合わせて中間積層体を形成する工程、及び中間積層体から転写用フィルムを剥離する工程を含む。
以下、液晶化合物配向層が円偏光板に用いられる液晶化合物配向層である場合を例として説明する。円偏光板の場合、位相差層(転写用積層体中では、液晶化合物配向層と称される)としてはλ/4層が用いられる。λ/4層の正面レタデーションは100~180nmが好ましい。さらに好ましくは120~150nmである。円偏光板としてλ/4層のみを用いる場合、λ/4層の配向軸(遅相軸)と偏光子の透過軸は35~55度が好ましく、より好ましくは40度~50度、さらに好ましくは42~48度である。ポリビニルアルコールの延伸フィルムの偏光子と組み合わせて用いる場合には、偏光子の吸収軸が長尺偏光子フィルムの長さ方向となることが一般的であるため、長尺の転写用フィルムにλ/4層を設ける場合は長尺の転写用フィルムの長さ方向に対して上記範囲となるように液晶化合物を配向させることが好ましい。なお、偏光子の透過軸の角度が上記と異なる場合は偏光子の透過軸の角度を加味して上記関係になるよう液晶化合物を配向させる。
【0141】
λ/4層と転写用フィルムが積層された転写用積層体中のλ/4層を偏光板に転写することで円偏光板を作成する。具体的には、偏光板と転写用積層体のλ/4層面を貼り合わせて中間積層体を形成し、この中間積層体から転写用フィルムを剥離する。偏光板は偏光子の両面に保護フィルムが設けられているものでも良いが、片面のみに保護フィルムが設けられているものが好ましい。片面のみに保護フィルムが設けられている偏光板であれば、保護フィルムの反対面(偏光子面)に位相差層を貼り合わせることが好ましい。両面に保護フィルムが設けられているのであれば位相差層は画像セル側を想定している面に貼り合わせることが好ましい。画像セル側を想定している面とは、低反射層、反射防止層、防眩層など一般的に視認側に設けられる表面加工がされていない面である。位相差層が貼り合わされる側の保護フィルムはTAC、アクリル、COPなどで位相差のない保護フィルムであることが好ましい。
【0142】
偏光子としてはPVA系のフィルムを単独で延伸して作成した偏光子や、ポリエステルやポリプロピレンなどの未延伸基材にPVAを塗工し、基材ごと延伸して作成した偏光子を偏光子保護フィルムに転写したものや、液晶化合物と二色性色素からなる偏光子を偏光子保護フィルムに塗工するか転写したもの等が挙げられ、いずれも好ましく用いられる。
【0143】
貼り付ける方法としては、接着剤、粘着剤など従来知られているものを用いることができる。接着剤としてはポリビニルアルコール系接着剤、アクリルやエポキシなどの紫外線硬化型接着剤、エポキシやイソシアネート(ウレタン)などの熱硬化型接着剤が好ましく用いられる。粘着剤は、アクリルやウレタン系、ゴム系などの粘着剤が挙げられる。また、アクリル基材レスの光学用透明粘着剤シートを用いることも好ましい。
【0144】
偏光子として転写型のものを用いる場合、転写用積層体の位相差層(液晶化合物配向層)上に偏光子を転写し、その後、偏光子と位相差層を対象物(偏光子保護フィルム)に転写しても良い。
【0145】
位相差層を設ける側と反対側の偏光子保護フィルムとしてはTAC、アクリル、COP、ポリカーボネート、ポリエステルなど一般に知られているものが使用できる。中でもTAC、アクリル、COP、ポリエステルが好ましい。ポリエステルはポリエチレンテレフタレートが好ましい。ポリエステルの場合は、面内レタデーション100nm以下、特には50nm以下のゼロレタデーションフィルムであるか、3000nm~30000nmの高レタデーションフィルムであることが好ましい。
【0146】
ポリエステルの高レタデーションフィルムを用いる場合、偏光サングラスをかけて画像を見た場合のブラックアウトや着色を防止する目的では、偏光子の透過軸とポリエステルの高レタデーションフィルムの遅相軸の角度は30~60度の範囲が好ましく、さらには35~55度の範囲が好ましい。裸眼で角度の浅い斜め方向から観察した場合の虹斑などの低減のためには、偏光子の透過軸とポリエステルの高レタデーションフィルムの遅相軸の角度は10度以下、さらには7度以下にするか、もしくは80~100度、さらには83~97度にすることが好ましい。
【0147】
反対側の偏光子保護フィルムには、防眩層、反射防止層、低反射層、ハードコート層などが設けられていても良い。
【0148】
(複合位相差層)
λ/4層単独では可視光領域の広い範囲に渡ってλ/4とならずに着色が生じることがある。そのため、λ/4層がλ/2層と組み合わせて用いられる場合がある。λ/2層の正面レタデーションは200~360nmが好ましい。さらに好ましくは240~300nmである。
【0149】
この場合、λ/4層とλ/2層を合わせてλ/4となるような角度に配置されることが好ましい。具体的には、λ/2層の配向軸(遅相軸)と偏光子の透過軸の角度(θ)は5~20度が好ましく、より好ましくは7度~17度である。λ/2層の配向軸(遅相軸)とλ/4の配向軸(遅相軸)との角度は、2θ+45度±10度の範囲が好ましく、より好ましくは2θ+45度±5度の範囲であり、さらに好ましくは2θ+45度±3度の範囲である。
【0150】
この場合も、ポリビニルアルコールの延伸フィルムの偏光子と組み合わせて用いる場合には、偏光子の吸収軸が長尺偏光子フィルムの長さ方向となることが一般的であるため、長尺の転写用フィルムにλ/2層やλ/4層を設ける場合は長尺の転写用フィルムの長さ方向または長さの垂直方向に対して上記範囲となるように液晶化合物を配向させることが好ましい。なお、偏光子の透過軸の角度が上記と異なる場合は偏光子の透過軸の角度を加味して上記関係になるよう液晶化合物を配向させる。
【0151】
これらの方法や、位相差層の例としては、特開2008-149577号公報、特開2002-303722号公報、WO2006/100830号公報、特開2015-64418号公報等を参考とすることができる。
【0152】
さらに、斜めから見た場合の着色の変化などを低減するためにλ/4層の上にCプレート層を設けることも好ましい形態である。Cプレート層はλ/4層やλ/2層の特性に合わせ、正または負のCプレート層が用いられる。
【0153】
これらの積層方法としては、例えば、λ/4層とλ/2層の組合せであれば、
・偏光子上に転写によりλ/2層を設け、さらにその上にλ/4層を転写により設ける。
・転写用フィルム上にλ/4層とλ/2層をこの順に設け、これを偏光子上に転写する。
・転写用フィルム上にλ/4層とλ/2層と偏光層をこの順に設け、これを対象物に転写する。
・転写用フィルム上にλ/2層と偏光層をこの順に設け、これを対象物に転写し、さらにこの上にλ/4層を転写する。
などの様々な方法を採用することができる。
【0154】
また、Cプレートを積層する場合も、偏光子上に設けられたλ/4層の上にCプレート層を転写する方法や、フィルムにCプレート層を設け、さらにこの上にλ/4層かλ/2層とλ/4層を設けてこれを転写する方法などの様々な方法が採用できる。
【0155】
このようにして得られた円偏光板の厚みは、120μm以下であることが好ましい。より好ましくは100μm以下、さらには90μm以下、特には80μm以下が好ましく、最も好ましくは70μm以下である。
【実施例】
【0156】
以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されず、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0157】
(1)三次元表面粗さSRa、SRz、SRy
触針式三次元粗さ計(SE-3AK、株式会社小阪研究所社製)を用いて、針の半径2μm、荷重30mgの条件下に、フィルムの長手方向にカットオフ値0.25mmで、測定長1mmにわたり、針の送り速度0.1mm/秒で測定し、2μmピッチで500点に分割し、各点の高さを三次元粗さ解析装置(SPA-11)に取り込ませた。これと同様の操作をフィルムの幅方向について2μm間隔で連続的に150回、すなわちフィルムの幅方向0.3mmにわたって行い、解析装置にデータを取り込ませた。次に解析装置を用いて中心面平均粗さ(SRa)、十点平均粗さ(SRz)、最大高さ(SRy)を求めた。
【0158】
(2)離型面高低差0.5μm以上(離型面)、2.0μm(裏面)以上の突起数
フィルム長手方向に幅100mm、長さ100mmの試験片を切り出し、これを2枚の偏光板の間に鋏込んでクロスニコル状態とし、消光位が保たれる状態にセットした。この状態でニコン万能投影機V-12(測定条件:投影レンズ50倍、透過照明光束切替えノブ50倍、透過光検査)を用いて、光が透過し、光り輝くように見える部分(キズ、異物)の長径が50μm以上あるものを検出した。このように検出された部分を、試験片から適当な大きさに切り取り、3次元形状測定装置(菱化システム社製、マイクロマップTYPE550;測定条件:波長550nm、WAVEモード、対物レンズ10倍)を用い、フィルム面に対して垂直方向から観察し、測定した。このとき、フィルム面に対して垂直方向から観察したときに50μm以内に近接する凹凸は、同一のキズ、異物としてこれらを覆う長方形を想定し、この長方形の長さ及び幅をキズ、異物の長さ及び幅とした。このキズ、異物に関して、断面映像(SURFACE PROFILE DISPLAY)を用いて、欠点数を定量した。なお、測定は20枚の試験片について行い、1m2当たりの欠点数に換算した。離型面では高低差(最も高いところと低いところの差)が0.5μm以上のものの欠点数を、裏面は高低差2.0μm以上のものの欠点数を数えた。
【0159】
(3)フィルム厚み(各層厚み)
フィルムをエポキシ樹脂に包埋した後、断面を切り出して光学顕微鏡で観察して厚みを求めた。
【0160】
(4)残留溶剤量
フィルムを10cm×10cmに切り取り、その重量(W1)を測定した。その後、フィルムを150℃の循環式乾燥機で60分間乾燥させ、デシケーター内に保管した。室温となったフィルムの重量(W2)を測定した。W1/(W1-W2)×100の値(%)を計算して、残留溶剤量とした。
【0161】
(5)位相差層の欠点の検査
転写用フィルムと液晶化合物配向層の間に配向制御層としてラビング処理配向制御層又は光配向制御層を配置したものを検査用サンプルとして作成した。具体的な作成手順は以下の通りである。
【0162】
(配向制御層がラビング処理配向制御層である場合)
転写用フィルムをA4の大きさに切り出し、離型層面に下記組成のラビング処理配向制御層用塗料をバーコーターを用いて塗布し、80℃で5分間乾燥して、厚み100nmの膜を形成した。引き続き、得られた膜の表面を、ナイロン製の起毛布が巻かれたラビングロールで処理し、ラビング処理配向制御層を積層した転写用フィルムを得た。なお、ラビングは、転写用フィルムの長尺方向に対して45度になるように行った。
【0163】
完全ケン化型ポリビニルアルコール 分子量800 2質量部
イオン交換水 100質量部
界面活性剤 0.1質量部
【0164】
引き続き、ラビング処理を施した面に、下記組成の位相差層形成用溶液をバーコート法により塗布した。110℃で3分間乾燥し、紫外線を照射して硬化させ、1/4波長層を設け、検査用サンプルを得た。
LC242(BASF社製) 95質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート 5質量部
イルガキュア379 3質量部
界面活性剤 0.1質量部
メチルエチルケトン 250質量部
【0165】
(配向制御層が光配向制御層である場合)
特開2013-33248号公報の実施例1、実施例2、実施例3の記載に基づき、下記式で表わされるポリマーのシクロペンタノン5質量%溶液を製造し、光配向制御層用塗料とした。
【0166】
次に、転写用フィルムをA4の大きさに切り出し、離型層面に上記組成の光配向制御層用塗料をバーコーターを用いて塗布し、80℃で1分間乾燥して、厚み80nmの膜を形成した。引き続き、フィルムの長尺方向に対して45度の方向で偏光UV光を照射し、光配向制御層を積層した転写用フィルムを得た。なお、これらの塗料は孔径0.2μmのメンブレンフィルターで濾過し、塗工、乾燥はクリーンルーム内で行った。
【0167】
引き続き、光配向制御層を積層した面に、位相差層形成用溶液をバーコート法により塗布した。110℃で3分間乾燥し、紫外線を照射して硬化させ、1/4波長層を設け、検査用サンプルを得た。
【0168】
次に、これらの検査用サンプルを使用して、以下の手順で位相差層の欠点を検査した。
黄色蛍光体を用いた白色LEDを光源とする面発光光源の上に下側偏光板を置き、その上に、上述のようにして作成した検査用サンプルを、偏光板の消光軸方向(吸収軸方向)が検査用サンプルの長辺方向と平行になるように置いた。さらにその上に、環状ポリオレフィンの延伸フィルムからなるλ/4フィルムを、配向主軸が下側偏光板の消光軸と45度の方向になるように置き、その上に上側偏光板を、上側偏光板の消光軸が下側偏光板の消光軸と平行になるように置いた。この状態で、消光状態を肉眼(中央部15cm×20cm)および20倍のルーペ(5cm×5cm)で観察し、以下の基準で評価した。
◎:肉眼で輝点は認められず、ルーペ観察でも輝点はほとんど認められなかった(5cm×5cmで2個以下)。
○:肉眼で輝点は認められず、ルーペ観察で少数の輝点が認められた(5cm×5cmで3個以上20個以下)。
△:肉眼で輝点は認められなかったが、ルーペ観察で輝点が認められた(5cm×5cmで20個を超える)。
×:肉眼で輝点が認められたか、または、輝点が認められなかったがルーペ観察で観察された多くの輝点の存在に起因するとみられる全体的な光の漏れがあった。
【0169】
(6)重ね合わせ後の欠点の検査1
上記のラビング処理配向制御層を用いた検査用サンプルを二枚用意し、それぞれの位相差層設置面と反対面を重ね合わせ、10分間、1kg/cm2の加重を掛けた。このサンプルの位相差層の欠点を、(5)位相差層欠点の検査と同様にして検査した。
【0170】
(7)重ね合わせ後の欠点の検査2
重ね合わせ後の欠点の検査1では、離型面の粗さが大きい場合に裏面の粗さの影響がわかりにくいため、離型面の粗さが小さい実施例3の光配向制御層を用いた検査用サンプルを用いて、他の実施例及び比較例の光配向制御層を用いた検査用サンプルの裏面の粗さの影響を調べた。
具体的には、実施例3の光配向制御層に1/4波長層を設けた検査用サンプルの位相差層設置面と各実施例及び比較例の光配向制御層を用いた検査用サンプルの反対面を重ね合わせ、10分間、1kg/cm2の加重を掛けた。このサンプル(実施例3の検査用サンプル)の位相差層の欠点を、(5)位相差層欠点の検査と同様にして検査した。
【0171】
実施例1
(微粒子分散物(P1)の調整)
疎水性フュームドシリカ(日本アエロジル製AEROSIL R812)2.00質量部、トリアセチルセルロース2.00質量部、塩化メチレン78.00質量部、メタノール15質量部、1-ブタノール3.00質量部をアトライターに投入して分散した。得られた分散体を公称口径1μmのフィルターで濾過し、体積平均粒径80nm(0.08μm)の微粒子分散物を得た。
【0172】
(トリアセチルセルロース溶液(A1)の調製)
トリアセチルセルロース20.00 質量部、塩化メチレン68質量部、メタノール9.5質量部、1-ブタノール2.5質量部を攪拌溶解して、トリアセチルセルロース溶液(A1)を調製した。
【0173】
(ドープ(D1)の調製)
トリアセチルセルロース溶液(A1)に、微粒子分散物(P1)を添加し、50℃で攪拌してドープ(D1)を得た。得られたドープは、公称孔径2μmのフィルターで濾過後、脱泡した。
【0174】
(製膜)
得られたドープ(D1)を、クロムメッキを行ったステンレススチール製の流延バンド上に展開し、35℃の乾燥空気を吹き付け、乾燥させた。流延バンドは、算術平均粗さ(SRa)が3nmで、十点平均粗さ(SRz)が15nmで、最大高さ(SRy)が23nmのものを用いた。
【0175】
その後、流延バンドからフィルムを剥がした。剥がしたフィルムは6本のロールにW字型に掛けながら50℃の風を送りさらに乾燥させ、引き続き、テンター乾燥機に導入した。流延バンドから剥がした時のフィルムの残留溶剤量は65質量%であり、テンター導入時のフィルムの残存溶媒量は18質量%であった。
【0176】
テンターに送られたフィルムは両側をクリップで固定され、乾燥ゾーン内を搬送された。乾燥ゾーンは、前半部では120℃、後半部では130℃の乾燥空気を送り、フィルムを幅方向に110%拡張した。
【0177】
テンター出口でフィルムの耳部を切り取った。さらにフィルムは8本のロールからなるロール乾燥機を通過させた。ロール乾燥機では140℃の乾燥空気を送風した。乾燥後のフィルムを冷却し、端部にナーリング加工を行い巻き取った。フィルムの厚みは50μm、残留溶剤量は0.3質量%であった。得られたフィルムの流延バンド面を離型面として用いた。
【0178】
実施例2
微粒子分散物の分散条件を代えた以外は実施例1と同様にして、分散粒子の平均粒子径が270nm(0.27μm)の微粒子分散物を得て、それを使用してドープ(D2)を得た。後は、流延ベルトから剥離時の残留溶剤量が100質量%となるよう送風量を調整した以外は実施例1と同様にして製膜した。
【0179】
実施例3
流延時に、2種2層のダイを用いて、離型層として流延バンド面にトリアセチルセルロース溶液(A1)を展開し、その上層(裏面層)として実施例1で用いたドープ(D1)を展開した以外は実施例1と同様にして製膜した。厚みは離型層が10μmであり、裏面層が40μmであった。
【0180】
実施例4
(ドープ(D3)の調製)
トリアセチルセルロース溶液(A1)に、粒径0.5μmの球状シリカ粒子(KE-P50 日本触媒製)を固形分で粒子含有量が3000ppmになるように添加し、50℃で攪拌してドープ(D3)を得た。得られたドープ(D3)は公称孔径5μmのフィルターで濾過後、脱泡した。
上層(裏面層)としてドープ(D1)の代わりにドープ(D3)を用いた以外は実施例3と同様にして製膜した。
【0181】
実施例5
ドープ(D1)の代わりに実施例4で調製したドープ(D3)を用いた以外は、実施例1と同様にして製膜した。得られたフィルムの流延バンド面側にコロナ処理を行い、その上に離型層(表面平坦化コート層)として下記組成のコート剤を塗布し、加熱オーブン中で150℃3分間乾燥させた。塗布層の厚みは2μmであった。
・メラミン架橋アルキル変性アルキド樹脂(日立化成ポリマー社製:テスファイン322:固形分40%)10質量部
・P-トルエンスルホン酸(日立化成ポリマー社製:ドライヤー900)0.1質量部
・溶剤(トルエン/メチルエチルケトン=1/1質量部)40質量部
なお、コート剤は2μmのフィルターで濾過してから使用した。
【0182】
実施例6
(ドープ(D4)の調製)
トリアセチルセルロース溶液(A1)に、粒径2.5μmの球状シリカ粒子(KE-P250 日本触媒製)を固形分で粒子含有量が1000ppmになるように添加し、50℃で攪拌してドープ(D4)を得た。得られたドープ(D4)は公称孔径10μmのフィルターで濾過後、脱泡した。
上層(裏面層)としてドープ(D1)の代わりにドープ(D4)を用い、離型層の厚みが25μm、裏面層の厚みが25μmとなるようにした以外は実施例3と同様にして製膜した。
【0183】
乾燥時の空気は95 %カット径が1μm のヘパフィルターで濾過した後、さらに99.9% カット径が0.3μm のヘパフィルターで高精度濾過したものを使用した。さらに、塗布液のフィルムへの塗布は、クラス1,000 の環境下で行った。以下、塗工・乾燥工程は同様の環境下で行った。
【0184】
実施例7
実施例4のフィルムの裏面側に帯電防止層(裏面平坦化コート層)としてペルトロン C-4402(アンチモンドープ酸化スズ粒子)をMEKで固形分濃度5%にしたものを塗布し、加熱オーブン中で80℃3分間乾燥させた。塗布層の厚みは200nmであった。なお、表面抵抗は7.3×107Ω/□であった。
【0185】
比較例1
ドープ(D1)の代わりに実施例4で調製したドープ(D3)を用いた以外は、実施例1と同様にして製膜した。
【0186】
表1に、実施例1~7及び比較例1の転写用フィルムのそれぞれの製造条件と特性、及び評価結果を示す。
【表1】
【0187】
表1から明らかなように、離型面の表面粗さが本発明の要件を満たす実施例1~7はいずれも、欠点評価において欠点が著しく少なく、ピンホール状やキズ状の光漏れの発生が十分に抑制されていた。また、実施例1~5,7では、裏面の表面粗さも低いレベルに抑制されているため、欠点評価のうち、重ね合わせ後の欠点1,2も著しく少なく、ピンホール状やキズ状の光漏れの発生が十分に抑制されていた。これに対して、表層に含有される粒子の大きさが大きすぎて、離型面の表面粗さが大きすぎる比較例1は、欠点評価において欠点が著しく多く、ピンホール状やキズ状の光漏れの発生を抑制することができなかった。
【0188】
なお、表1には示していないが、実施例、比較例で用いた基材フィルムの面内リタデーション(Re)を求めたところ、いずれの基材フィルムも10nm以下であり、十分低く、転写用フィルムに液晶化合物配向層が積層された状態で直線偏光を照射して液晶化合物配向層の配向状態を検査することができるレベルであった。
【0189】
面内リタデーションの具体的な測定手順は、以下の通りである。即ち、実施例、比較例で用いた基材フィルムから、流れ方向が長辺となるように4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、屈折率(流れ方向nx,幅方向ny)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)を用いて測定した。フィルムの幅方向で5点(中央部、両端部、中央部と端部との中間部)測定し、その平均とし、フィルムの厚みd(nm)との積((nx-ny)×d)より、面内リタデーション(Re)を求めた。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明の液晶化合物配向層転写用フィルムは、表面粗さが特定の範囲内に制御されたフィルムを位相差層や偏光層の転写用のフィルムとして使用しているので、位相差層や偏光層中の液晶化合物の配向状態や位相差を設計通りにすることができ、ピンホールなどの欠点の発生が減少された位相差層や偏光層(液晶化合物配向層)を形成することができる。従って、本発明によれば、円偏光板などの位相差層積層偏光板を、高品質で安定して製造することができる。