(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240816BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20240816BHJP
H10K 85/50 20230101ALI20240816BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240816BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K85/50
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2023500562
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2021045240
(87)【国際公開番号】W WO2022176335
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2021024719
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】関本 健之
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109904318(CN,A)
【文献】特許第6524095(JP,B2)
【文献】LEE, Moon-Soo et al.,"Efficient defect passivation of perovskite solar cells via stitching of an organic bidentate molecule",Sustainable Energy & Fuels,2020年,Vol.4,pp.3318-3325
【文献】WU, Yukun et al.,"Efficient inverted perovskite solar cells with preferential orientation and suppressed defects of methylammonium lead iodide by introduction of phenothiazine as additive",Journal of Alloys and Compounds,2020年,Vol.823, Article Number 153717,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
Science Direct
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、光電変換層、中間層、および第2電極、をこの順で備え、
前記光電変換層は、ペロブスカイト化合物を含み、
前記中間層は、複素環式化合物を含み、
前記複素環式化合物は、1つ以上3つ以下の六員環を含み、かつ、前記六員環のうちの少なくとも1つは、1位および4位に孤立電子対を持つ元素を有し、
前記孤立電子対を持つ元素は、硫
黄である、
太陽電池。
【請求項2】
前記光電変換層および前記中間層は、互いに接して配置されている、
請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
正孔輸送層をさらに備え、
前記正孔輸送層は、前記中間層および前記第2電極の間に配置されている、
請求項1または2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記複素環式化合物は、チアントレン、1,4-ジチイン、および1,4-ジチアンからなる群より選択される少なくとも1つである、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記複素環式化合物は、複素環式芳香族化合物である、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学式ABX3(Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、Xはハロゲンアニオン)により示されるペロブスカイト型結晶、および、その類似の構造体(以下、「ペロブスカイト化合物」という)を光電変換材料として用いた、ペロブスカイト太陽電池の研究開発が進められている。ペロブスカイト太陽電池の光電変換効率および耐久性を向上するために、様々な取り組みが行われている。
【0003】
特許文献1から3において、ペロブスカイト化合物の欠陥部位を不動態化することにより、湿度および酸素に対するペロブスカイト化合物の安定性が向上することが開示されている。特許文献1から3には、有機化合物である不動態化剤の分子がペロブスカイト化合物中のアニオンまたはカチオンと化学的に結合することにより、ペロブスカイト化合物のバルク中の欠陥部位が終端されることが開示されている。特許文献1から3には、不動態化剤がナフタレンまたはアントラセンのような非極性有機分子を含んでいる場合についても開示されている。非極性有機分子は、ペロブスカイト中のアニオンまたはカチオンとは化学的に結合していない。しかし、非極性有機分子は、アニオン-カチオン間のクーロン相互作用を粒界で遮断するため、粒界欠陥部位が不動態化される。
【0004】
非特許文献1において、可視光照射と光電子分光法とを組み合わせて、ペロブスカイト化合物の光誘起化学変化を分析した結果が報告されている。ペロブスカイト化合物では、光照射下において部分的にXイオンの移動が生じており、表面でヨウ素イオン(I-)および鉛イオン(Pb2+)の濃度が減少し、かつ臭素イオン(Br-)イオンの濃度が増加する相分離が生じる。この相分離は暗状態では戻る。ペロブスカイト化合物では、光照射下において部分的に可逆な0価鉛(Pb0)も同様に形成されており、I-からPb2+への光誘起電子輸送機構が提案されている。
【0005】
非特許文献2において、ペロブスカイト太陽電池の電子輸送層/ペロブスカイト化合物層界面およびペロブスカイト化合物層/正孔輸送層界面の光照射前後の化学結合状態の変化を、硬X線光電子分光法を用いて分析した結果が報告されている。光照射下においてペロブスカイト太陽電池を開放状態に保持した場合には、光吸収層であるペロブスカイト化合物層内の0価ヨウ素(I0或いはI2)がペロブスカイト化合物層/正孔輸送層界面近傍に蓄積される一方で、Pb0が電子輸送層/ペロプスカイト化合物層界面に蓄積される。ペロブスカイト化合物層/正孔輸送層界面近傍へのヨウ素の蓄積に伴い、電子輸送層/ペロブスカイト化合物層界面近傍にはヨウ素空孔が蓄積されるモデルが提案されている。
【0006】
非特許文献3において、酸素および湿気の無い状態においても、熱または光照射によりペロブスカイト化合物が部分的に可逆的に分解されることが報告されている。例えば、CH3NH3PbI3はPbI2とCH3NH3Iに分解され、さらにPbI2はPb0とI2に、CH3NH3IはCH3I、NH3、およびその他複数の化合物に分解する過程が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6524095号公報
【文献】特開2019-96891号公報
【文献】特許第6734412号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Ute B. Cappel、他14名、ACS Applied Materials & Interfaces、2017年9月、第40巻、p.34970-34978.
【文献】T.Sekimoto、他5名、ACS Applied Energy Materials、2019年6月、第2巻、p.5039-5049.
【文献】Azat F. Akbulatov、他10名、The Journal of Physical Chemistry Letters、2019年12月、第11巻、p.333-339.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の目的は、熱耐久性が向上した太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の太陽電池は、第1電極、光電変換層、中間層、および第2電極、をこの順で備え、
前記光電変換層は、ペロブスカイト化合物を含み、
前記中間層は、複素環式化合物を含み、
前記複素環式化合物は、1つ以上3つ以下の六員環を含み、かつ、前記六員環のうちの少なくとも1つは、1位および4位に孤立電子対を持つ元素を有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、熱耐久性が向上した太陽電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ペロブスカイト化合物中にXサイト空孔が無い場合のBX
6格子を模式的に示す。
【
図2】
図2は、ペロブスカイト化合物中にXサイト空孔がある場合のBX
6格子を模式的に示す。
【
図3】
図3は、ペロブスカイト化合物中のXサイト空孔が複素環式芳香族化合物であるフェナジンにより終端された場合のBX
6格子を模式的に示す。
【
図4】
図4は、第1実施形態による太陽電池100の断面図を模式的に示す。
【
図5】
図5は、第2実施形態による太陽電池200の断面図を模式的に示す。
【
図6】
図6は、第3実施形態による太陽電池300の断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本開示の基礎となった知見>
ペロブスカイト化合物中の欠陥の種類は、ABX
3の各サイト(すなわち、A、B、およびX)の原子空孔、格子間原子、および原子相互置換などが考えられる。生成される欠陥の種類およびその生成箇所は、ペロブスカイト化合物の組成および作製方法だけでなく、非特許文献1から3で示されているように、熱ストレス、光照射、酸素、および湿気のような周囲環境などの要因によっても変化しうる。例えば、暗所下においてペロブスカイト太陽電池を開放状態で保持した場合は、光照射下とはペロブスカイト化合物内の内蔵電界の向きが逆になる。このため、暗所下においては、Xサイトに位置するアニオン(以下、「Xイオン」という)はペロブスカイト化合物層/電子輸送層界面に偏在する一方で、Xサイト空孔が正孔輸送層/ペロブスカイト化合物層界面に偏在する傾向にある。Xサイト空孔の存在により、ペロブスカイト化合物のBX
6格子は歪む。ここで、
図1は、ペロブスカイト化合物中にXサイト空孔が無い場合のBX
6格子を模式的に示す。また、
図2は、ペロブスカイト化合物中にXサイト空孔がある場合のBX
6格子を模式的に示す。なお、
図1および2において、符号1はBイオンを示し、符号2はXイオンを示し、符号3はXサイト空孔を示している。すなわち、Xサイト空孔3が形成された場合、ペロブスカイト化合物のBX
6格子は、
図1に示されている状態から
図2に示された状態へと歪む。したがって、正孔輸送層側にXサイト空孔が偏在する場合、ペロブスカイト化合物層/正孔輸送層界面近傍のペロブスカイト化合物の構造が歪んで不安定になると共に、高温下でXサイト空孔からのAサイトの有機カチオン由来のガスおよび/またはヨウ素の熱脱離が進む。ペロブスカイト化合物の構造が不安定な場合には、空孔周囲の局所構造が変化し易いため、ガス脱離が容易となるようにペロブスカイト化合物が格子変形しうる。
【0014】
ペロブスカイト太陽電池の熱耐久性を改善するためには、Xサイト空孔を終端して、ペロブスカイト化合物層/正孔輸送層界面近傍のXサイト空孔によるペロブスカイト化合物の構造の歪みを緩和し、構造を安定化させることで、Xサイト空孔からのガス脱離を抑制する必要がある。これらXサイト空孔の終端には、最適な構造の有機分子を不動態化剤として選択して、適宜配置する必要がある。
【0015】
特許文献1から3において、ピリジンまたはチオフェンなどのヘテロ原子を1つ含む有機分子を不動態化剤として用いることが実施例として示されている。しかし、これらのような不動態化剤においては、孤立電子対を持つ元素が1つである。このため、これらのような不動態化剤を用いてXサイト空孔を終端する場合、近傍のBサイトに位置するカチオン(以下、「Bイオン」という。)との結合が足りず、ペロブスカイト構造の安定化が不十分であるという課題があった。ここで、Bイオンは、例えば、B2+である。
【0016】
同様に、特許文献1から3において、アントラセンなどの非極性分子を用いて粒界欠陥を不動態化することが記載されている。しかし、これらの非極性分子は、孤立電子対を持つ元素を含まない。したがって、これらの非極性分子が不動態化剤として用いられる場合、Xサイト空孔を終端する不動態化剤とその近傍のBイオンとの結合が存在せず、不動態化剤は、弱い水素結合のみでペロブスカイト化合物の元素と結合する。このため、非極性分子を用いて粒界欠陥を不動態化することには、ペロブスカイト化合物の構造の安定化が不十分であるという課題があった。
【0017】
Xイオンの1つであるI
-のイオン半径は220pm、Bイオンの1つであるPb
2+のイオン半径は119pmであり、一般的な有機-無機ペロブスカイト化合物の格子定数は600pm前後(例えば、587pmから636pm程度)である。したがって、ヨウ素空孔に入り込んで欠陥を終端できる分子の一方向のサイズは、少なくともPb
2+-Pb
2+間の距離である430pm前後のものが限界と予測される。また、上記の方向と垂直な方向のサイズにも限界がある。したがって、Xサイト空孔に入り込んで欠陥を終端できる分子に含まれる六員環の数は、3つ以下である。ここで、
図3は、ペロブスカイト化合物中のXサイト空孔が複素環式芳香族化合物であるフェナジンにより終端された場合のBX
6格子を模式的に示す。
図3において、符号4は孤立電子対を示し、符号5はフェナジン分子を示す。フェナジンは、六員環を3つ含む複素環式芳香族化合物である。
図3に示すように、フェナジン分子5は、ペロブスカイト化合物の構造内のXサイト空孔に入り込むことができる。
【0018】
以上の考察に鑑み、本発明者は、次のことを見出した。1位および4位に孤立電子対を持つ元素を有する六員環を含む複素環式化合物を含む層を、例えばペロブスカイト化合物層/正孔輸送層界面に挿入することにより、ペロブスカイト太陽電池の耐熱性が大幅に改善される。上記複素環式化合物は、部分的にペロブスカイト化合物のXサイト空孔を終端する。さらに、ペロブスカイト化合物のXサイト空孔を終端している状態において、上記複素環式化合物の1位および4位の両方の孤立電子対側にペロブスカイト化合物のBイオンが位置する。これにより、当該孤立電子対とBイオンとが強固に結合する。その結果、ペロブスカイト化合物の構造が安定化されるので、ペロブスカイト太陽電池の熱耐久性が向上する。
【0019】
<本開示の実施形態>
(第1実施形態)
第1実施形態による太陽電池は、第1電極、光電変換層、中間層、および第2電極、をこの順で備える。光電変換層は、ペロブスカイト化合物を含む。中間層は、複素環式化合物を含む。複素環式化合物は、1つ以上3つ以下の六員環を含み、かつ、当該六員環のうちの少なくとも1つは、1位および4位に孤立電子対を有する。なお、光電変換層および中間層は、互いに接して配置されていてもよい。また、光電変換層と中間層との間に他の層が設けられていてもよい。
【0020】
以上の構成によれば、中間層に含まれる複素環式化合物が、部分的に光電変換層に含まれるペロブスカイト化合物の欠陥部位を終端する。複素環式化合物がペロブスカイト化合物の欠陥部位を終端している状態において、複素環式化合物を構成する六員環の1位および4位の2つの孤立電子対側にペロブスカイト化合物のBイオンが位置する。したがって、六員環の1位および4位の孤立電子対がBイオンとそれぞれ結合し、例えば
図3に示されるように、孤立電子対とBイオンとの2つの結合が直線状に並ぶ。このため、当該孤立電子対とBイオンとが強固に結合して、光電変換層を構成するペロブスカイト化合物の構造が安定化される。したがって、第1実施形態による太陽電池は、高い熱耐久性を有する。
【0021】
ペロブスカイト化合物は、太陽光スペクトルの波長域における光吸収係数が高く、かつ、キャリア移動度が高い。第1実施形態による太陽電池は、ペロブスカイト化合物を含むため、高い光電変換効率を有する。
【0022】
複素環式化合物における、孤立電子対を持つ元素は、酸素よりも大きな原子半径(または共有結合半径)を有していてもよい。以上の構成によれば、孤立電子対を持つ元素とBイオン間の距離がより短くなるため、結合がより強固になり、光電変換層を構成するペロブスカイト化合物の構造がより安定化される。ここで、酸素の原子半径は、例えば、1,4-ジオキシンに含まれる酸素の原子半径(65pm)である。
【0023】
孤立電子対を持つ元素の原子半径は、例えば、X線回折法やマイクロ波分光法などを用いた測定から、炭素および孤立電子対を持つ元素間の結合距離を求め、結合距離から炭素の原子半径を差し引くことにより求められる。ここで、炭素の原子半径は、炭素と炭素間の結合距離から求められる。
【0024】
複素環式化合物における、孤立電子対を持つ元素は、窒素、硫黄、酸素、およびリンからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。以上の構成によれば、太陽電池の熱耐久性をさらに高めることができる。
【0025】
当該孤立電子対を持つ元素は、硫黄を含んでいてもよい。複素環式化合物に含まれる六員環において、1位の孤立電子対を持つ元素のみが硫黄であってもよく、4位の孤立電子対を持つ元素のみが硫黄であってもよく、1位および4位の孤立電子対を持つ元素の両方が硫黄であってもよい。
【0026】
複素環式化合物は、フェナジン、チアントレン、オキサントレン、フェノキサチイン、ピラジン、1,4-ジオキシン、1,4-ジオキサン、1,4-ジチイン、および1,4-ジチアンからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。以上の構成によれば、太陽電池の熱耐久性をさらに高めることができる。
【0027】
中間層に含まれる複素環式化合物は、複素環式芳香族化合物であってもよい。複素環式芳香族化合物は、例えば、フェナジン、チアントレン、オキサントレン、フェノキサチイン、ピラジン、1,4-ジオキシン、および1,4-ジチインからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。以上の構成によれば、太陽電池の熱耐久性をさらに高めることができる。
【0028】
以下、第1実施形態による太陽電池が、図面を参照しながら詳細に説明される。
【0029】
図4は、第1実施形態による太陽電池100の断面図を模式的に示す。
【0030】
太陽電池100は、基板6、第1電極7、電子輸送層8、光電変換層9、中間層10、および第2電極11を、この順に備える。
【0031】
光電変換層9は、ペロブスカイト化合物を含む。
【0032】
中間層10は、複素環式化合物を含む。複素環式化合物は、1つ以上3つ以下の六員環を含み、かつ、当該六員環のうちの少なくとも1つは、1位および4位に孤立電子対を持つ。
【0033】
以上の構成によれば、太陽電池100は、高い熱耐久性を有する。
【0034】
太陽電池100は、基板6を有していなくてもよい。
【0035】
太陽電池100は、電子輸送層8を有していなくてもよい。
【0036】
太陽電池100に光が照射されると、光電変換層9が光を吸収し、励起された電子と、正孔とを発生させる。この励起された電子は、電子輸送層8を通り第1電極7に移動する。一方、光電変換層9で生じた正孔は、中間層10を介して第2電極11に移動する。これにより、太陽電池100は、第1電極7と、第2電極11とから、電流を取り出すことができる。光電変換層9の表面において、中間層10で終端もしくは被覆されていない部分が存在する場合は、励起された電子が直接第2電極11に移動することが有り得る。
【0037】
第1電極7は、例えば、正極である。この場合、第2電極は、負極である。
【0038】
太陽電池100は、例えば、以下の方法によって作製することができる。
【0039】
まず、基板6の表面に第1電極7を、化学気相蒸着法、スパッタ法などにより形成する。次に、電子輸送層8を、化学気相蒸着法、スパッタ法、溶液塗布法などにより形成する。次に、電子輸送層8の上に、光電変換層9を形成する。例えば、ペロブスカイト化合物を所定の厚さに切り出して光電変換層9とし、第1電極7上に配置してもよい。次に、光電変換層9の上に、中間層10を、化学気相蒸着法、溶液塗布法などにより形成する。次に、中間層10の上に、化学気相蒸着法、スパッタ法などにより第2電極11を形成する。以上のようにして、太陽電池100を得ることができる。
【0040】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態が説明される。第1実施形態で説明された事項は、適宜省略され得る。
【0041】
第2実施形態による太陽電池は、第1実施形態による太陽電池の構成に加えて、多孔質層を備える。多孔質層は、電子輸送層および光電変換層の間に配置されている。
【0042】
以上の構成によれば、光電変換層を形成しやすくなる。多孔質層が設けられることにより、多孔質層の空隙に光電変換層の材料が侵入し、多孔質層が光電変換層の足場となる。そのため、光電変換層の材料が多孔質層の表面で弾かれたり、凝集したりすることが起こりにくい。したがって、光電変換層を容易に均一な膜として形成できる。さらに、多孔質層によって光散乱が起こることにより、光電変換層を通過する光の光路長が増大する効果も期待される。
【0043】
図5は、第2実施形態による太陽電池200の断面図を模式的に示す。
【0044】
太陽電池200は、基板6、第1電極7、電子輸送層8、多孔質層12、光電変換層9、中間層10、および第2電極11を、この順で備える。
【0045】
多孔質層12は、多孔質体を含む。多孔質体は、空隙を含む。
【0046】
太陽電池200は、基板6を有していなくてもよい。
【0047】
太陽電池200は電子輸送層8を有していなくてもよい。
【0048】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態が説明される。第1実施形態および第2実施形態で説明された事項は、適宜省略され得る。
【0049】
第3実施形態による太陽電池は、第1実施形態による電池の構成に加えて、正孔輸送層を備える。正孔輸送層は、中間層および第2電極の間に配置されている。
【0050】
以上の構成によれば、効率良く正孔を第2電極に移動させることができる。したがって、第3実施形態による太陽電池は、効率良く電流を取り出すことができる。さらに、中間層が光電変換層と正孔輸送層との間に配置されているため、光電変換層を構成するペロブスカイト化合物の構造の欠陥部位が終端され、複素環式化合物の2つの孤立電子対側にBイオンが配置するため、当該孤立電子対とBイオンが強固に結合する。その結果、光電変換層を構成するペロブスカイト化合物の構造が安定化される。したがって、第3実施形態による太陽電池は、高い耐熱性を有する。
【0051】
図6は、第3実施形態による太陽電池300の断面図を模式的に示す。
【0052】
太陽電池300は、基板6、第1電極7、電子輸送層8、多孔質層12、光電変換層9、中間層10、正孔輸送層13、および第2電極11を、この順で備える。
【0053】
太陽電池300は、高い熱耐久性を有する。
【0054】
太陽電池300は、基板6を有していなくてもよい。
【0055】
太陽電池300は、電子輸送層8を有していなくてもよい。
【0056】
太陽電池300は多孔質層12を有していなくてもよい。
【0057】
太陽電池300に光が照射されると、光電変換層9が光を吸収し、励起された電子と、正孔とを発生させる。この励起された電子は、電子輸送層8に移動する。一方、光電変換層9で生じた正孔は、中間層10を介して正孔輸送層13に移動する。電子輸送層8は第1電極7に接続され、正孔輸送層13は第2電極11に接続されている。これにより、太陽電池300は、第1電極7と、第2電極11とから、電流を取り出すことができる。
【0058】
以下、太陽電池の各構成要素について、具体的に説明する。
【0059】
(基板6)
基板6は、付随的な構成要素である。基板6は、太陽電池の各層を保持する役割を果たす。基板6は、透明な材料から形成することができる。基板6としては、例えば、ガラス基板またはプラスチック基板を用いることができる。プラスチック基板は、例えば、プラスチックフィルムであってもよい。また、第2電極11が透光性を有している場合には、基板6の材料は、透光性を有さない材料であってもよい。例えば、基板6の材料として、金属、セラミックス、または透光性の小さい樹脂材料を用いることができる。第1電極7が十分な強度を有している場合、第1電極7によって各層を保持することができるので、基板6を設けなくてもよい。
【0060】
(第1電極7)
第1電極7は、導電性を有する。太陽電池が電子輸送層8を備えない場合、第1電極7は、光電変換層9とオーミック接触を形成しない材料から構成される。さらに、第1電極7は、光電変換層9からの正孔に対するブロック性を有する。光電変換層9からの正孔に対するブロック性とは、光電変換層9で発生した電子のみを通過させ、正孔を通過させない性質のことである。このような性質を有する材料とは、光電変換層9の価電子帯上端のエネルギーよりも、フェルミエネルギーが高い材料である。上記の材料は、光電変換層9のフェルミエネルギーよりも、フェルミエネルギーが高い材料であってもよい。具体的な材料としては、アルミニウムが挙げられる。太陽電池が、第1電極7および光電変換層9の間に電子輸送層8を備えている場合、第1電極7は、光電変換層9から移動する正孔をブロックする特性を有していなくてもよい。第1電極7は、光電変換層9との間でオーミック接触を形成可能な材料から構成されていてもよい。
【0061】
第1電極7は、透光性を有する。例えば、可視領域から近赤外領域の光を透過する。第1電極7は、例えば、透明であり導電性を有する、金属酸化物および/または金属窒化物を用いて形成することができる。このような材料としては、例えば、リチウム、マグネシウム、ニオブ、およびフッ素からなる群より選択される少なくとも1種をドープした酸化チタン、錫およびシリコンからなる群より選択される少なくとも1種をドープした酸化ガリウム、シリコンおよび酸素からなる群より選択される少なくとも1種をドープした窒化ガリウム、アンチモンおよびフッ素からなる群より選択される少なくとも1種をドープした酸化錫、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選択される少なくとも1種をドープした酸化亜鉛、インジウム-錫複合酸化物、または、これらの複合物が挙げられる。
【0062】
第1電極7は、透明でない材料を用いて、光が透過するパターンを設けて形成することができる。光が透過するパターンとしては、例えば、線状、波線状、格子状、多数の微細な貫通孔が規則的若しくは不規則に配列されたパンチングメタル状のパターンが挙げられる。第1電極7がこれらのパターンを有すると、電極材料が存在しない部分を光が透過することができる。透明でない電極材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、または、これらのいずれかを含む合金を挙げることができる。また、導電性を有する炭素材料を用いることもできる。
【0063】
第1電極7の光の透過率は、例えば50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。透過すべき光の波長は、光電変換層9の吸収波長に依存する。第1電極7の厚さは、例えば、1nm以上かつ1000nm以下である。
【0064】
(電子輸送層8)
電子輸送層8は、半導体を含む。電子輸送層8は、バンドギャップが3.0eV以上の半導体であってもよい。バンドギャップが3.0eV以上の半導体で電子輸送層8を形成することにより、可視光および赤外光を光電変換層9まで透過させることができる。半導体の例としては、無機のn型半導体が挙げられる。
【0065】
無機のn型半導体としては、例えば、金属元素の酸化物、金属元素の窒化物およびペロブスカイト型酸化物を用いることができる。金属元素の酸化物としては、例えば、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、およびCrの酸化物を用いることができる。より具体的な例としては、TiO2またはSnO2が挙げられる。金属元素の窒化物としては、例えば、GaNが挙げられる。ペロブスカイト型酸化物の例としては、SrTiO3またはCaTiO3が挙げられる。
【0066】
電子輸送層8は、バンドギャップが6.0eVよりも大きな物質によって形成されていてもよい。バンドギャップが6.0eVよりも大きな物質としては、フッ化リチウム、フッ化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物、酸化マグネシウムなどのアルカリ金属酸化物、二酸化ケイ素などが挙げられる。この場合、電子輸送層8の電子輸送性を確保するために、電子輸送層8は、例えば、10nm以下の厚さで構成される。
【0067】
電子輸送層8は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。
【0068】
(光電変換層9)
光電変換層9は、ペロブスカイト化合物を含む。ペロブスカイト化合物は、化学式ABX3により表され得る。Aは1価のカチオンである。1価のカチオンの例としては、アルカリ金属カチオンおよび有機カチオンのような1価のカチオンが挙げられる。さらに具体的には、メチルアンモニウムカチオン(CH3NH3
+)、ホルムアミジニウムカチオン(HC(NH2)2
+)、エチルアンモニウムカチオン(CH3CH2NH3
+)、グアニジニウムカチオン(CH6N3
+)、カリウムカチオン(K+)、セシウムカチオン(Cs+)、およびルビジウムカチオン(Rb+)が挙げられる。Bは2価の鉛カチオン(Pb2+)および錫カチオン(Sn2+)である。Xはハロゲンアニオンなどの1価のアニオンである。A、B、およびXのそれぞれのサイトは、複数種類のイオンによって占有されていてもよい。
【0069】
光電変換層9の厚みは、例えば50nm以上かつ10μm以下である。光電変換層9は、溶液による塗布法、印刷法、蒸着法などを用いて形成することができる。光電変換層9は、ペロブスカイト化合物を切り出すことによって形成されてもよい。
【0070】
光電変換層9は、化学式ABX3により表されるペロブスカイト化合物を主として含んでもよい。ここで、「光電変換層9が、化学式ABX3により表されるペロブスカイト化合物を主として含む」とは、光電変換層9が、化学式ABX3により表されるペロブスカイト化合物を90質量%以上含むことである。光電変換層9は、化学式ABX3により表されるペロブスカイト化合物を95質量%以上含んでいてもよい。光電変換層9は、化学式ABX3により表されるペロブスカイト化合物からなってもよい。光電変換層9は、化学式ABX3により表されるペロブスカイト化合物を含んでいればよく、欠陥または不純物を含んでもよい。
【0071】
光電変換層9は、化学式ABX3により表されるペロブスカイト化合物とは異なる他の化合物をさらに含んでいてもよい。異なる他の化合物としては、例えば、Ruddlesden-Popper型の層状ペロブスカイト構造を持つ化合物、などが挙げられる。
【0072】
(中間層10)
中間層10は、複素環式化合物を含む。複素環式化合物は、1つ以上3つ以下の六員環を含み、かつ、当該六員環のうちの少なくとも1つは、1位および4位に孤立電子対を持つ元素を有する。
【0073】
当該孤立電子対を持つ元素は、窒素、硫黄、酸素、およびリンからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。このような複素環式化合物としては、例えば、フェナジン、チアントレン、オキサントレン、フェノキサチイン、ピラジン、1,4-ジオキシン、1,4-ジオキサン、1,4-ジチイン、または1,4-ジチアンが挙げられる。
【0074】
上記複素環式化合物は、複素環式芳香族化合物であってもよい。
【0075】
中間層10は、上記複素環式化合物を主として含んでもよい。ここで、「中間層10は、上記複素環式化合物を主として含む」とは、中間層10が、上記複素環式化合物を90質量%以上含むことである。中間層10は、上記複素環式化合物を95質量%以上含んでいてもよい。中間層10は、上記複素環式化合物のみからなっていてもよい。中間層10は、上記複素環式化合物を含んでいればよく、不純物を含んでもよい。
【0076】
中間層10は、上記複素環式化合物とは異なる複素環式化合物をさらに含んでいてもよい。例えば、中間層10は、4つ以上の六員環を含む複素環式化合物をさらに含んでいてもよい。このような4つ以上の六員環を含む複素環式化合物は、当該六員環のうちの少なくとも1つが、1位および4位に孤立電子対を持つ元素を有していてもよい。
【0077】
中間層10は、1つ以上3つ以下の六員環を含み、かつ、当該六員環のうちの少なくとも1つが1位および4位に孤立電子対を持つ元素を有する複素環式化合物Aと、4つ以上の六員環を含み、かつ、当該六員環のうちの少なくとも1つが1位および4位に孤立電子対を持つ元素を有する複素環式化合物Bとを含んでいてもよい。ペロブスカイト化合物における複数のXサイトの欠陥がつながって存在し、大きなXサイト空孔が形成されている場合、複素環式化合物Bはそのような大きなXサイト空孔を効果的に終端し、かつペロブスカイト化合物の構造をさらに安定化させることができる。したがって、中間層10が複素環式化合物Aおよび複素環式化合物Bを含むことにより、太陽電池の熱耐久性をさらに向上させることができる。この場合、中間層10における複素環式化合物Aの含有割合は、例えば、質量比で、複素環式化合物Bの含有割合よりも大きい。
【0078】
中間層10は、光電変換層9の上に、例えば化学気相蒸着法、溶液塗布法によって形成される。中間層10に含まれる複素環式化合物の一部は、光電変換層9の粒界および/または表面欠陥を終端する。中間層10による光電変換層9の表面被覆が不十分な場合には、正孔輸送層13または第2電極11と、光電変換層9が接する部分が生じうる。中間層10は、光電変換層9から正孔輸送層13あるいは第2電極11への正孔移動を阻害しない。
【0079】
(中間層10の製造方法)
中間層10の製造方法の一例を説明する。ここでは、溶液塗布法を例に説明するが、これに限定されない。
【0080】
まず、複素環式化合物を含む溶液を作製する。当該溶液は、有機溶媒で複素環式化合物を溶解することにより得られる。有機溶媒としては、例えば2-プロパノールが用いられる。複素環式化合物の濃度は、例えば0.01g/L以上かつ10g/L以下であってもよい。
【0081】
次に、光電変換層9上に上記の溶液を塗布する。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、またはスピンコート法が挙げられる。次いで、アニール処理を行う。アニール処理としては、例えば、ホットプレートにて85℃から115℃の温度で、例えば10秒から30分間アニールする。アニール後に、室温へ自然冷却することにより、光電変換層9上に中間層10が形成された基板6が得られる。このようにして、中間層10が形成される。
【0082】
(多孔質層12)
多孔質層12は、電子輸送層8の上に、例えば塗布法によって形成される。太陽電池が電子輸送層8を備えない場合は、第1電極7の上に形成される。多孔質層12によって導入された細孔構造は、光電変換層9を形成する際の土台となる。多孔質層12は、光電変換層9の光吸収、および光電変換層9から電子輸送層8への電子移動を阻害しない。
【0083】
多孔質層12は、多孔質体を含む。多孔質体としては、例えば、絶縁性または半導体の粒子が連なった多孔質体が挙げられる。絶縁性の粒子としては、例えば、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素の粒子を用いることができる。半導体粒子としては、無機半導体粒子を用いることができる。無機半導体としては、金属元素の酸化物、金属元素のペロブスカイト酸化物、金属元素の硫化物、または金属カルコゲナイドを用いることができる。金属元素の酸化物の例としては、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、またはCrの酸化物が挙げられる。より具体的な例としては、TiO2が挙げられる。金属元素のペロブスカイト酸化物の例としては、SrTiO3またはCaTiO3が挙げられる。金属元素の硫化物の例としては、CdS、ZnS、In2S3、PbS、Mo2S、WS2、Sb2S3、Bi2S3、ZnCdS2、またはCu2Sが挙げられる。金属カルコゲナイドの例としては、CsSe、In2Se3、WSe2、HgS、PbSe、またはCdTeが挙げられる。
【0084】
多孔質層12の厚さは、0.01μm以上かつ10μm以下であってもよく、0.05μm以上かつ1μm以下であってもよい。
【0085】
多孔質層12の表面粗さについては、実効面積/投影面積で与えられる表面粗さ係数が10以上であってもよく、100以上であってもよい。投影面積とは、物体を真正面から光で照らしたときに、後ろにできる影の面積である。実効面積とは、物体の実際の表面積のことである。実効面積は、物体の投影面積および厚さから求められる体積と、物体を構成する材料の比表面積および嵩密度とから計算することができる。比表面積は、例えば、窒素吸着法によって測定される。
【0086】
多孔質層12中の空隙は、光電変換層9と接する部分、電子輸送層8と接する部分まで繋がっている。すなわち、多孔質層12の空隙は、多孔質層12の一方の主面から、他方の主面まで繋がっている。これにより、光電変換層9の材料が多孔質層12の空隙を充填し、電子輸送層8の表面まで到達することができる。したがって、光電変換層9と電子輸送層8とは、直接接触しているため、電子の授受が可能である。
【0087】
多孔質層12を設けることにより、光電変換層9を容易に形成できるという効果が得られる。多孔質層12が設けられることにより、多孔質層12の空隙に光電変換層9の材料が侵入し、多孔質層12が光電変換層9の足場となる。そのため、光電変換層9の材料が多孔質層12の表面で弾かれたり、凝集したりすることが起こりにくい。したがって、光電変換層9は容易に均一な膜として形成されることができる。光電変換層9は、前記の塗布法、印刷法、蒸着法などによって形成できる。
【0088】
多孔質層12によって光散乱が起こることにより、光電変換層9を通過する光の光路長が増大する効果も期待される。光路長が増大すると、光電変換層9中で発生する電子および正孔の量が増加すると予測される。
【0089】
(正孔輸送層13)
正孔輸送層13は、正孔輸送材料を含む。正孔輸送材料は、正孔を輸送する材料である。正孔輸送層13は、有機物、または無機半導体などの正孔輸送材料によって構成される。
【0090】
正孔輸送材料として用いられる代表的な有機物の例は、2,2′,7,7′-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)9,9′-spirobifluorene、poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine](以下、「PTAA」と省略することがある)、poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl)、poly(3,4-ethylenedioxythiophene)、または銅フタロシアニン、である。
【0091】
正孔輸送材料として用いられる無機半導体は、p型の半導体である。無機半導体の例は、Cu2O、CuGaO2、CuSCN、CuI、NiOx、MoOx、V2O5、または酸化グラフェンのようなカーボン材料である。
【0092】
正孔輸送層13は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。例えば、光電変換層9のイオン化ポテンシャルに対して、正孔輸送層13のイオン化ポテンシャルが順々に小さくなるように複数の層が積層されることにより、正孔輸送特性が改善される。
【0093】
正孔輸送層13の厚さは、1nm以上かつ1000nm以下でであってもよく、10nm以上かつ50nm以下でであってもよい。この範囲内であれば、十分な正孔輸送特性を発現でき、低抵抗を維持できるので、高効率に光発電を行うことができる。
【0094】
正孔輸送層13の形成方法としては、塗布法、印刷法、蒸着法などを採用することができる。これは、光電変換層9と同様である。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、またはスピンコート法が挙げられる。印刷法としては、例えば、スクリーン印刷法が挙げられる。必要に応じて、複数の材料を混合して正孔輸送層13を作製し、加圧または焼成するなどしてもよい。正孔輸送層13の材料が有機の低分子体または無機半導体である場合には、真空蒸着法によって正孔輸送層13を作製することも可能である。
【0095】
正孔輸送層13は、支持電解質および溶媒を含んでいてもよい。支持電解質および溶媒は、正孔輸送層13中の正孔を安定化させる効果を有する。
【0096】
支持電解質としては、例えば、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩、またはピリジニウム塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、過塩素酸リチウムまたは四フッ化ホウ素カリウムが挙げられる。
【0097】
正孔輸送層13に含まれる溶媒は、イオン伝導性に優れるものであってもよい。水系溶媒および有機溶媒のいずれも使用してもよい。溶質をより安定化するために、正孔輸送層13に含まれる溶媒は、有機溶媒であってもよい。具体例としては、tert-ブチルピリジン、ピリジン、n-メチルピロリドンなどの複素環化合物溶媒が挙げられる。
【0098】
溶媒として、イオン液体を単独で用いてもよいし、他種の溶媒に混合して用いてもよい。イオン液体は、揮発性が低く、難燃性が高い点で望ましい。
【0099】
イオン液体としては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートなどのイミダゾリウム系、ピリジン系、脂環式アミン系、脂肪族アミン系、またはアゾニウムアミン系などのイオン液体を挙げることができる。
【0100】
(第2電極11)
第2電極11は、導電性を有する。太陽電池が正孔輸送層13を備えない場合、第2電極11は、光電変換層9とオーミック接触しない材料から構成される。さらに、第2電極11は、光電変換層9からの電子に対するブロック性を有する。ここで、光電変換層9からの電子に対するブロック性とは、光電変換層9で発生した正孔のみを通過させ、電子を通過させない性質のことである。このような性質を有する材料とは、光電変換層9の伝導帯下端のエネルギーよりも、フェルミエネルギーが低い材料である。上記の材料は、光電変換層9のフェルミエネルギーよりも、フェルミエネルギーが低い材料であってもよい。具体的な材料としては、白金、金、またはグラフェンなどの炭素材料が挙げられる。太陽電池が正孔輸送層13を備える場合、第2電極11は、光電変換層9からの電子に対するブロック性を有さなくてもよい。すなわち、第2電極11の材料は、光電変換層9とオーミック接触する材料であってもよい。そのため、第2電極11を、透光性を有するように形成することができる。
【0101】
第1電極7および第2電極11のうち、光を入射させる側の電極が透光性を有していればよい。したがって、第1電極7および第2電極11の一方は、透光性を有さなくてもよい。すなわち、第1電極7および第2電極11の一方は、透光性を有する材料を用いていなくてもよいし、光を透過させる開口部分を含むパターンを有していなくてもよい。
【実施例】
【0102】
以下、実施例および比較例を参照しながら、本開示がより詳細に説明される。
【0103】
実施例および比較例において、ペロブスカイト化合物を用いた太陽電池を作製し、その太陽電池の初期特性と耐熱試験後の特性とを評価した。
【0104】
実施例1から3および比較例1から3の太陽電池の各構成は、以下のとおりである。実施例1から3、比較例1、および比較例2の太陽電池は、
図6に示される太陽電池300と同じ構造を有していた。比較例1の太陽電池は、太陽電池300から中間層10を除いた構造を有していた。
・基板6:ガラス基板(厚さ:0.7mm)
・第1電極7:透明導電層 インジウム-錫複合酸化物層(厚さ:200nm)
・電子輸送層8:酸化チタン(TiO
2)(厚さ:10nm)
・多孔質層12:メソポーラス構造酸化チタン(TiO
2)
・光電変換層9:HC(NH
2)
2PbI
3を主として含む層(厚さ:500nm)
・中間層10:フェナジン、チアントレン、ピラジン、アクリジン、またはアントラセン(いずれも東京化成工業製)
・正孔輸送層13:n-ブチルアンモニウムブロミド(greatcellSolar製)を含む層/PTAAを主として含む層(但し、添加剤として、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(東京化成工業製)が含まれる)(厚さ:50nm)
・第2電極11:金(厚さ:200nm)
【0105】
<太陽電池の作製>
(実施例1)
まず、第1電極7として機能する透明導電層を表面に有する基板6を用意した。本実施例では、基板6として、0.7mmの厚みを有するガラス基板を用いた。
【0106】
第1電極7として、基板6上にスパッタ法によりインジウム-錫複合酸化物層が形成された。
【0107】
次に、電子輸送層8として、第1電極7上にスパッタ法により、酸化チタンの層が形成された。
【0108】
多孔質層12として、メソポーラス構造の酸化チタンを用いた。電子輸送層8上に、30NR-D(Great Cell Solar製)をスピンコートにより塗布したのち、500℃で30分間焼成することにより、メソポーラス構造の酸化チタンである多孔質層12が形成された。
【0109】
次に、光電変換材料の原料溶液がスピンコートにより塗布されて、ペロブスカイト化合物を含む光電変換層9が形成された。当該原料溶液は、0.92mol/Lのヨウ化鉛(II)(東京化成工業製)、0.17mol/Lの臭化鉛(II)(東京化成工業製)、0.83mol/Lのヨウ化ホルムアミジニウム(GreatCell Solar製)、0.17mol/Lの臭化メチルアンモニウム(GreatCell Solar製)、0.05mol/Lのヨウ化セシウム(岩谷産業製)、および0.05mol/Lのヨウ化ルビジウム(岩谷産業製)を含む溶液であった。当該溶液の溶媒は、ジメチルスルホキシド(acros製)およびN,N-ジメチルホルムアミド(acros製)の混合物であった。当該原料溶液におけるジメチルスルホキシド(DMSO)およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の混合比(DMSO:DMF)は、体積比で1:4であった。
【0110】
次に、光電変換層9上に、複素環式化合物溶液をスピンコート法により塗布した後に、ホットプレート上で100℃、5分間アニールすることにより、複素環式化合物を含む中間層10を形成した。ここで、複素環式化合物溶液の溶質としてフェナジン、溶媒として2-プロパノールを用い、溶液の濃度が6.5mMとなるように調整した。
【0111】
次に、中間層10上に、正孔輸送材料の原料溶液をスピンコート法により塗布することにより、PTAAを含む正孔輸送層13を形成した。原料溶液の溶媒は、トルエン(acros製)であり、その溶液は10g/LのPTAAを含んでいた。
【0112】
次に、正孔輸送層13上に、真空蒸着によって金(Au)膜を堆積させることにより、第2電極11を形成した。このようにして、実施例1の太陽電池が得られた。
【0113】
(実施例2)
実施例2では、複素環式化合物溶液の溶質として、チアントレンを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして実施例2の太陽電池が得られた。
【0114】
(実施例3)
実施例3では、複素環式化合物溶液の溶質として、ピラジンを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして実施例3の太陽電池が得られた。
【0115】
(比較例1)
比較例1では、中間層10を形成しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして比較例1の太陽電池が得られた。
【0116】
(比較例2)
比較例2では、複素環式化合物溶液の溶質として、アクリジンを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして比較例2の太陽電池が得られた。
【0117】
(比較例3)
比較例3では、複素環式化合物溶液の溶質として、アントラセンを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして比較例3の太陽電池が得られた。
【0118】
<光電変換効率の測定>
得られた実施例1から3および比較例1から3の太陽電池の光電変換効率を測定した。
【0119】
太陽電池の光電変換効率の測定は、電気化学アナライザ(ALS440B、BAS製)およびキセノン光源(BPS X300BA、分光計器製)を用いて行った。測定前に、シリコンフォトダイオードを用いて光強度を1Sun(100mW/cm2)に校正した。電圧の掃引速度は100mV/sで行った。測定開始前に、光照射および長時間の順バイアス印加のような事前調整は行わなかった。実効面積を固定し散乱光の影響を減少させるために、開口部0.1cm2の黒色マスクで太陽電池をマスクした状態で、マスク/基板6側から光を照射した。光電変換効率の測定は、室温で、乾燥空気(<2%RH)下で行った。以上のようにして測定された実施例1から3および比較例1から3の太陽電池の初期効率が、表1に示される。
【0120】
<耐熱試験>
実施例1から3および比較例1から3の太陽電池について、耐熱試験を次のような方法で実施した。まず、太陽電池を、水分および酸素ゲッターが内部に貼り付けられた封止ガラスを用いて、紫外線硬化樹脂によって窒素雰囲気下で封止した。その後、封止ガラスに封止された太陽電池が、恒温槽中にて、85℃で、232時間保持された。この耐熱試験の前後に、光電変換効率が測定された。
【0121】
【0122】
<複素環式化合物を含む中間層の効果確認>
実施例1から3の太陽電池には、1位および4位に孤立電子対を持つ元素を有する六員環を1つ含む複素環式化合物であるフェナジン、チアントレン、またはピラジンを含む中間層10が光電変換層9と正孔輸送層13との間に挿入された。このような構成を有する実施例1から3の太陽電池は、中間層10が設けられなかった比較例1の太陽電池と比較して、耐熱試験後の光電変換効率が大幅に高くなり、熱劣化率が改善された。したがって、光電変換層9と正孔輸送層13の間へ中間層10を挿入することにより、高い耐耐久性を有する太陽電池が得られる。
【0123】
<複素環式化合物の必要条件の確認>
比較例2で複素環式化合物として用いたアクリジンは、1位にのみ孤立電子対を持つ窒素を有する六員環を1つ含む。比較例3で複素環式化合物として用いたアントラセンは、孤立電子対を持つ元素を有する六員環を全く含まない。表1に示されるように、比較例2および比較例3の太陽電池の耐熱試験後の光電変換効率および熱劣化率は、実施例1から3の太陽電池と比較して大幅に低下した。また、比較例2および比較例3の太陽電池は、中間層10が存在しない比較例1の太陽電池と比較して、耐熱試験後の光電変換効率が低く、耐熱性に顕著な改善は見られなかった。特に、比較例3の太陽電池は、中間層10が存在しない比較例1の太陽電池よりも、熱劣化率大きくなった。
【0124】
フェナジンおよびピラジンは、1位および4位に孤立電子対を持つ窒素を有する六員環を1つ含む。チアントレンは、1位および4位に孤立電子対を持つ硫黄を有する六員環を1つ含む。一方、アクリジンおよびアントラセンは、孤立電子対を持つ元素が0ないし1つである。これらの結果から、実施例1から3に示されるように、Xサイト空孔であるヨウ素空孔に侵入したフェナジン、チアントレン、またはピラジンの六員環の1位および4位の孤立電子対は、近傍にあるBイオンであるPb2+と結合して、ペロブスカイト構造を安定化させると共に、熱分解反応により生じるガスの空孔からの熱脱離を抑制するものと考えられる。一方、アクリジンおよびアントラセンは、Pb2+との結合が足りず、ペロブスカイト化合物の構造が不安定なままであり、ヨウ素空孔の終端が不十分なため、熱分解反応により生じるガスの空孔からの熱脱離の通り道が残ったと考えられる。
【0125】
以上の結果より、1位および4位に孤立電子対を持つ窒素を有する六員環を1つ含む複素環式化合物からなる中間層が、光電変換層と正孔輸送層との間に挿入することにより、高い熱耐久性を有する太陽電池を得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本開示は、複素環式化合物を含む中間層を有する太陽電池であり、当該中間層は、例えば太陽電池の光電変換層と正孔輸送層との間に挿入された場合に、太陽電池の熱耐久性を大幅に向上させることができるものであり、産業上の利用の可能性が極めて高いといえる。
【符号の説明】
【0127】
1 Bイオン
2 Xイオン
3 Xサイト空孔
4 孤立電子対
5 フェナジン分子
6 基板
7 第1電極
8 電子輸送層
9 光電変換層
10 中間層
11 第2電極
12 多孔質層
13 正孔輸送層
100,200,300 太陽電池