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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】光ファイバおよびASE光源
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/067 20060101AFI20240816BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20240816BHJP
   G02B 6/255 20060101ALI20240816BHJP
   G02B 6/26 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01S3/067
G02B6/02 376B
G02B6/255
G02B6/26 311
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020208308
(22)【出願日】2020-12-16
(65)【公開番号】P2022095152
(43)【公開日】2022-06-28
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100181593
【弁理士】
【氏名又は名称】庄野 寿晃
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】上原 日和
(72)【発明者】
【氏名】安原 亮
(72)【発明者】
【氏名】合谷 賢治
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-512387(JP,A)
【文献】米国特許第05379149(US,A)
【文献】特表2000-512611(JP,A)
【文献】特開2004-193152(JP,A)
【文献】特開2005-037959(JP,A)
【文献】特表2002-528901(JP,A)
【文献】特開2002-329907(JP,A)
【文献】特開平05-048178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
G02B 6/02-6/10
G02B 6/24
G02B 6/255-6/7
G02B 6/30-6/34
G02B 6/36-6/44
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとクラッドとを有する光ファイバであって、
前記コアは、
第1の希土類金属イオンと、
励起光を吸収した前記第1の希土類金属イオンからエネルギー移動を生じることで、光を放出する第2の希土類金属イオンと、を含み、
前記第1の希土類金属イオンは、0.1mol%以上10mol%以下の割合で含まれるEr 3+ を含み、
前記第2の希土類金属イオンは、0.1mol%以上10mol%以下の割合で含まれるDy 3+ を含む、
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記光ファイバの一端部に前記励起光が導入されると、他端部からASE光が放出される、
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記クラッドは、前記コアの外側に配置された第1のクラッドと、前記第1のクラッドの外側に配置された第2のクラッドと、を有し、
前記第1のクラッドに前記励起光が導入されると、前記コアの端部からASE光が放出される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記励起光の波長は、790nm以上1000nm以下である、
ことを特徴とする請求項またはに記載の光ファイバ。
【請求項5】
請求項1からの何れか1項に記載の光ファイバと、
前記光ファイバに前記励起光を照射する励起用光源と、
を備えることを特徴とするASE光源。
【請求項6】
前記励起用光源から放出された前記励起光を前記光ファイバに伝送する伝送用光ファイバを備える、
ことを特徴とする請求項に記載のASE光源。
【請求項7】
請求項に記載の光ファイバと、
前記光ファイバに前記励起光を照射する励起用光源と、
前記励起用光源から放出された前記励起光を前記光ファイバの前記第1のクラッドに伝送する伝送用光ファイバと、
を備えることを特徴とするASE光源。
【請求項8】
前記光ファイバの端部は、前記伝送用光ファイバの端部に融着接続されている、
ことを特徴とする請求項またはに記載のASE光源。
【請求項9】
前記光ファイバの一端部に前記励起光が導入され、前記光ファイバの前記一端部および他端部からASE光が放出される、
ことを特徴とする請求項からの何れか1項に記載のASE光源。
【請求項10】
前記励起用光源と前記光ファイバの前記一端部との間に配置されたミラーを備え、
前記ミラーは、前記励起用光源から放出された前記励起光を透過し、前記ASE光の波長領域の光を反射する、
ことを特徴とする請求項に記載のASE光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバおよびASE光源に関する。
【背景技術】
【0002】
光ジャイロ、光通信、ガスセンサ、ファイバーブラッググレーティングを利用した各種光センサ、光コヒーレンストモグラフィーなどの光源として、光ファイバを媒質としたビーム品質が高い自然放出増幅(ASE:Amplified Spontaneous Emission)光源が用いられている。ASE光源は、希土類金属イオン等を光ファイバに添加し、光ファイバに励起光を照射することで、自然放出光を増幅して出射する広帯域光源で、高輝度かつ出力安定性に優れ、コヒーレンスが低いという利点を有している。
【0003】
特許文献1は、エルビウム添加光ファイバの一方端に励起光源と、光アイソレータを介して出力端子を接続すると共に、他方端に反射体を接続したASE光源であって、一方端側で発生する第1の光波長帯を有するASE光が他方端に伝播した時に第2の光波長帯に変換される長さであることを特徴とする広帯域ASE光源を開示する。この広帯域ASE光源は、1530~1600nmの波長帯の光を放出する。
【0004】
近年では、可視域や近赤外域の通信波長帯に加えて、波長2μmのASE光源が用いられている。また、3μm帯の波長領域には、メタンなどの炭化水素、窒素酸化物、アンモニア、ホルムアルデヒドおよび水蒸気などの共鳴線が存在する。今後、潜在用途の豊富な3μm帯においてもASE光源の需要が高まることが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-329907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献1に開示された広帯域ASE光源などでは、3μm帯の波長領域の光を放出することが困難である。このため、高い輝度かつ高い安定性を有し、3μm帯の波長領域の光を放出する光ファイバおよびASE光源が求められている。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、高い輝度かつ高い安定性を有し、3μm帯の波長領域の光を放出する光ファイバおよびASE光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するため、本発明に係る光ファイバの一様態は、
コアとクラッドとを有する光ファイバであって、
前記コアは、
第1の希土類金属イオンと、
励起光を吸収した前記第1の希土類金属イオンからエネルギー移動を生じることで、光を放出する第2の希土類金属イオンと、を含み、
前記第1の希土類金属イオンは、0.1mol%以上10mol%以下の割合で含まれるEr 3+ を含み、
前記第2の希土類金属イオンは、0.1mol%以上10mol%以下の割合で含まれるDy 3+ を含む、
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の目的を達成するため、本発明に係るASE光源の一様態は、
前記光ファイバと、
前記光ファイバに励起光を照射する励起用光源と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コアが、第1の希土類金属イオンと、励起光を吸収した第1の希土類金属イオンからエネルギー移動を生じることで、光を放出する第2の希土類金属イオンと、を含むことで、高い輝度かつ高い安定性を有し、3μm帯の波長領域の光を放出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るASE光源を示す図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る光ファイバと伝送用光ファイバとを示す図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係る光ファイバが自然放出増幅により光を増幅する原理を説明する図である。
図4】本発明の第2の実施の形態に係るASE光源を示す図である。
図5】本発明の第3の実施の形態に係るASE光源を示す図である。
図6】実施例に係る光ファイバのASEスペクトルの長さ依存を示す図である。
図7】実施例に係る光ファイバのASEスペクトルの励起光の強さ依存を示す図である。
図8】実施例に係る光ファイバのASE光の強度と励起光の関係を示す図である。
図9】実施例に係る光ファイバのASE光のビーム径と距離との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態に係る光ファイバおよび自然放出増幅(ASE:Amplified Spontaneous Emission)光源について図面を参照しながら説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係るASE光源100は、図1に示すように、励起用光源10と、光ファイバ20と、伝送用光ファイバ30と、レンズ40と、を備える。ASE光源100は、励起用光源10から放出された励起光ELを自然放出増幅により増幅して、2.5μm~3.8μmの波長領域の光を放出するものである。ASE光源100は、希土類金属イオンなどの広帯域な自然放出光が誘導放出によって増幅するものであり、光共振器による波長選択機構が無い点において、レーザと異なる。
【0014】
励起用光源10は、LD(Laser Diode)を備え、伝送用光ファイバ30の一端部30aに接続されている。励起用光源10は、LDから放出されたレーザ光を励起光ELとして伝送用光ファイバ30に照射する。励起用光源10から照射された励起光ELは、伝送用光ファイバ30を透過して光ファイバ20に供給される。励起用光源10が照射する励起光ELの波長は、好ましくは、790nm以上1000nm以下である。
【0015】
光ファイバ20は、コア22とクラッド23とを有し、励起用光源10から照射された励起光ELを吸収して誘導放出を起こすことで光を増幅して放出するものである。光ファイバ20の長さは、特に限定されない。光ファイバ20の長さの下限値は、好ましくは、0.3mであり、より好ましくは、0.5mである。光ファイバ20が上記値より長いことで、十分なASE光を得ることができる。光ファイバ20の長さの上下値は、好ましくは、10mであり、より好ましくは、5mである。光ファイバ20が上記値より短いことで、後述する基底状態にあるDy3+の再吸収の影響で長波長側の出力が低下することを防ぐことができる。光ファイバ20の一端部20aは、伝送用光ファイバ30の他端部30bに融着接続されている。光ファイバ20の他端部20bには、他端部20bを保護し、潮解抑制パーツとしての機能するエンドキャップ21が取り付けられている。エンドキャップ21としては、CaFを用いることが好ましい。また、この例では、図2に示すように、光ファイバ20はダブルクラッドファイバであり、クラッド23は、コア22の外側に配置された第1のクラッド24と、第1のクラッド24の外側に配置された第2のクラッド25と、を有する。
【0016】
コア22は、母材と、母材に含まれる第1の希土類金属イオンと、励起光ELを吸収した第1の希土類金属イオンからエネルギー移動を生じることで、光を放出する第2の希土類金属イオンと、を含む。第1の希土類金属イオンは、好ましくは、Nd3+、Er3+、Tm3+、またはYb3+のうち少なくとも何れか1種類を含む。第2の希土類金属イオンは、好ましくは、Dy3+を含む。コア22の母材に含まれるDy3+の濃度は、0.1mol%以上10mol%以下であることが好ましい。また、コア22の母材に含まれるNd3+、Er3+、Tm3+またはYb3+の濃度は、それぞれ0.1mol%以上10mol%以下であることが好ましい。例えば、コア22は、1mol%以上5mol%以下の含有率のDy3+と、1mol%以上5mol%以下の含有率のEr3+と、を含む。コア22が、Dy3+を0.1mol%以上含むことで、十分なASE光を得ることができる。また、コア22が、Dy3+を10mol%以下含むことで、基底状態にあるDy3+の再吸収の影響で長波長側の出力が低下することを防ぐことができる。また、コア22が、Nd3+、Er3+、Tm3+またはYb3+を0.1mol%以上含むことで、十分なASE光を得ることができる。また、コア22が、Nd3+、Er3+、Tm3+またはYb3+を10mol%以下含むことで、励起状態にあるNd3+、Er3+、Tm3+またはYb3+イオンからDy3+へ十分なエネルギー移動を生じさせることができる。なお、コア22が、Dy3+と、Er3+と、を有する場合、励起用光源10が照射する励起光ELの波長は、好ましくは、970nm以上980nm以下である。コア22が、Dy3+と、Tm3+と、を有する場合、励起光ELの波長は、好ましくは、790nm以上800nm以下である。コア22が、Dy3+と、Yb3+と、を有する場合、励起光ELの波長は、好ましくは、900nm以上1000nm以下である。また、母材は、励起光ELおよび2.5μm~3.8μmの波長領域の光を吸収しないものであればよい。例えば、母材は、ZBLAN(ZrF-BaF-LaF-AlF-NaF)ガラス、ZBYA(ZrF-BaF-YF-AlF)ガラス、AlF系ガラス、InF系ガラスなどのフッ化物ガラス、Ge-Se系、As-Se系、As-S系、Ge-As系などのカルコゲナイドガラスであってもよく、これらの混合物であってもよい。これらの中で、母材は、ZBLANガラスであることが好ましい。また、コア22の直径D1は、例えば、15μmである。この場合、光ファイバ20は、中赤外波長の光が単一のモードで伝送されるシングルモードファイバである。
【0017】
第1のクラッド24は、励起用光源10から放出された励起光ELが通過する部分であり、コア22より低い屈折率を有し、励起用光源10から放出された励起光ELの波長領域で光を吸収しない光学材料により作製される。第1のクラッド24は、酸化物ガラス、フッ化物ガラス、テルライトガラス、カルコゲナイドガラスからなる群から選択される1つのガラスまたは2以上のガラスの混合物であってもよい。第2のクラッド25は、第1のクラッド24より低い屈折率を有する光学材料により作製される。また、第1のクラッド24の直径D2は、例えば、200μmであり、第2のクラッド25の直径D3は、例えば、400μmである。
【0018】
伝送用光ファイバ30は、図1に示す励起用光源10から放出された励起光ELを光ファイバ20に伝送するものである。伝送用光ファイバ30の他端部30bは、光ファイバ20の一端部20aに融着接続されている。伝送用光ファイバ30は、コア31とコア31の外側に配置されたクラッド32とを有する。コア31は、励起光ELの波長領域で光を吸収しない光学材料により作製される。コア31は、石英ガラスを含む酸化物ガラス、フッ化物ガラス、テルライトガラス、カルコゲナイドガラスからなる群から選択される1つのガラスまたは2つ以上のガラスの混合物により作製されるとよい。クラッド32は、コア31より低い屈折率を有する光学材料により作製される。コア31の直径D4は、例えば、105μmであり、クラッド32の直径D5は、例えば、300μmである。伝送用光ファイバ30のコア31の直径D4が、光ファイバ20のコア22の直径D1より大きいことで、伝送用光ファイバ30のコア31を通過した励起光ELは、光ファイバ20の第1のクラッド24に導入される。
【0019】
図1に示すレンズ40は、光ファイバ20の他端部20bから放出されたASE光をコリメートもしくは集光するものである。
【0020】
つぎに、以上の構成を有するASE光源100が、光ファイバ20のコア22にDy3+とEr3+を含む場合についてASE光を放射する原理について説明する。なお、Er3+に代えてNd3+、Tm3+またはYb3+を含む場合およびこれらの混合物を含む場合であっても同様である。
【0021】
光ファイバ20のコア22にDy3+とEr3+を含む場合、上述したように、励起光ELの波長は、好ましくは、970nm以上980nm以下であり、より好ましくは、976nmの波長を有するレーザ光である。図1に示す励起用光源10から励起光ELが放出されると、励起光ELは、伝送用光ファイバ30のコア31を通過する。コア31を通過した励起光ELは、図3に示すように、光ファイバ20の一端部20aから第1のクラッド24に導入される。
【0022】
つぎに、第1のクラッド24に導入された励起光ELは、光ファイバ20のコア22に導入され、コア22に含まれるEr3+を励起する。Er3+が励起されると、Er3+からDy3+にエネルギー移動が生じ、Dy3+が励起される。Dy3+が励起されると、誘導放出によりDy3+を起源とする発光が生じる。
【0023】
励起光ELは、第1のクラッド24を通過するため、光ファイバ20の長手方向にわたって強い励起光ELが存在する。誘導放出された光の進行につれて次々誘導放出が起こり、誘導放出により増幅され強いASE光になる。図中ASE光は、コア22の外に示されているが、等方的に放出される自然放出光のうち、コア22を伝搬する光が増幅され、ASE光となる。以上のように、コア22を通過した光は自然放出増幅により増幅され、光ファイバ20の他端部20bから強いASE光として放出される。放出されたASE光は、レンズ40によりコリメートもしくは集光される。
【0024】
以上のように、本実施の形態の光ファイバ20およびASE光源100は、コア22にDy3+と、Nd3+、Er3+、Tm3+またはYb3+のうち少なくとも何れか1種類と、を含むことで、高い輝度かつ高い安定性を有し、3μm帯の波長領域の光を放出することができる。光ファイバ20およびASE光源100の優位点として、これまで一般的なLD励起では得ることのできなかったDy3+によるASE出力を、コア22にEr3+とDy3+を含む場合、Er3+からDy3+に生じるエネルギー移動現象を利用することで、976nmの波長を有する安価で高出力なLDでのDy3+の励起が可能となることが挙げられる。また、励起波長が短くなったことで、クラッド励起が可能になり、繊細なコアtoコアカップリング技術が不要となる。これによって、極めて安価で小型、ロバストなシステムで、エルビウム系ASE光源を遥かに凌駕するスペクトル特性の超広帯域光源が実現される。仮に、従来技術を用いてEr:ZBLANファイバ励起のDy系ファイバASE光源を作製した場合、安く見積もっても数100万円のコストが必要である。一方、本実施の形態のASE光源100を構築する場合、主要部品はLD光源(出力20W程度で10万円前後)、ZBLANファイバー(5万円/m)であり、パッケージ化を考慮しても30万円程度で作製可能と見積もられる。さらに、今後最適化を進めることで、10cm×10cm程度まで小型化でき、1mW~10mWのASE出力が得られるものと推測される。
【0025】
また、ASE光源100は、高輝度かつ出力安定性に優れ、コヒーレンスが低いという利点を有している。特に、ASE光源100はビーム品質が極めて高いため、FBG(Fiber Bragg Gratings)を利用した各種光センサ、光コヒーレンストモグラフィー、光ジャイロ、光通信、ガスセンサなどの光源としての利用に適している。また、波長3μm近傍には炭化水素系の各種ガス分子、炭酸ガス、アンモニア、水蒸気など多くの分子の共鳴線が存在しており、ASE光源100はガスセンシングに適している。高ビーム品質で光ファイバとの結合が容易であるため、ファイバーセンサやFBGを活用した光学デバイスとの相性が高い。また、本願発明者らは、point-by-point描画でのZBLANファイバ上へのFBG製造技術の開発に成功しており、中赤外ファイバ素子における透過・反射波長を精度よく制御することが可能である。近い将来、中赤外波長におけるFBGセンシング技術が飛躍的に発展することが予想され、それに伴ってASE光源100への需要も高まるものと期待される。
【0026】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係るASE光源100は、第1の実施の形態に係るASE光源100が備える光ファイバ20と伝送用光ファイバ30とが融着接続されているのに対して、光ファイバ20と伝送用光ファイバ30とが自由空間結合されている点で異なる。第2の実施の形態に係るASE光源100は、図4に示すように、励起用光源10と、光ファイバ20と、伝送用光ファイバ30と、レンズ40、41と、を備える。第2の実施の形態の励起用光源10、光ファイバ20、伝送用光ファイバ30およびレンズ40は、第1の実施の形態と同様のものを用いる。
【0027】
レンズ41は、光ファイバ20と伝送用光ファイバ30との間に配置され、伝送用光ファイバ30の他端部30bから放出された励起光ELを光ファイバの一端部20aに集光するものである。これにより、光ファイバ20と伝送用光ファイバ30とは、自由空間結合される。光ファイバ20と伝送用光ファイバ30とを自由空間結合することで、光ファイバ20と伝送用光ファイバ30とを融着接続する場合に比べて容易に作成することが可能である。その他の効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0028】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態に係るASE光源100は、第1および第2の実施の形態に係るASE光源100が光ファイバ20の他端部20bのみからASE光を放出するのに対して、光ファイバ20の一端部20aからもASE光を放出する点で異なる。第3の実施の形態に係るASE光源100は、図5に示すように、励起用光源10と、光ファイバ20と、伝送用光ファイバ30と、レンズ40、42、43と、ミラー44を備える。第3の実施の形態の励起用光源10、光ファイバ20、伝送用光ファイバ30およびレンズ40は、第1および第2の実施の形態と同様のものを用いる。
【0029】
レンズ42、43は、光ファイバ20と伝送用光ファイバ30との間に配置され、伝送用光ファイバ30の他端部30bから放出された励起光ELを光ファイバの一端部20aに集光するものである。
【0030】
ミラー44は、レンズ42とレンズ43との間に配置され、励起光ELの光軸方向に対して傾けて配置されている。例えば、ミラー44は、励起光ELの光軸方向に対して45°傾けて配置される。また、ミラー44は、伝送用光ファイバ30の他端部30bから放出された励起光ELを透過し、ASE光の波長領域の光を反射するダイクロイックミラーである。光ファイバ20の一端部20aから他端部20bに進行するASE光に加えて、他端部20bから一端部20aに進行するASE光も発生する。このため、ASE光は、一端部20aからも放出される。一端部20aから放出されたASE光は、ミラー44に反射され外部に導かれる。光ファイバ20の他端部20bから放出されたASE光は、出力光として用いられ、ミラー44に反射されたASE光は、リファレンスに用いられる。このようにすることで、出力光としてのASE光の強度に変化があったとしても、ミラー44に反射されたASE光の強度で補正することが可能となる。このため、出力光としてのASE光を分光用光源等に用いる場合などで精度を向上させることが可能となる。その他の効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0031】
(変形例)
上述の実施の形態では、第1の希土類金属イオンとして、Nd3+、Er3+、Tm3+、またはYb3+、第2の希土類金属イオンとして、Dy3+を例示した。第1の希土類金属イオンおよび第2の希土類金属イオンは、これらに限定されず、第1の希土類金属イオンは、励起光ELを吸収し第2の希土類金属イオンにエネルギー移動を生じるものであればよい。また、第2の希土類金属イオンは、第1の希土類金属イオンからエネルギー移動を生じることで、光を放出するものであればよい。
【0032】
また、上述の実施の形態では、光ファイバ20が、シングルモードファイバである例について説明したが、光が多くのモードに分散して伝送されるマルチモードファイバであってもよい。光ファイバ20がマルチモードファイバであることで、曲げに対して強くすることができる。
【0033】
また、上述の実施の形態では、光ファイバ20が、ダブルクラッドファイバである例について説明したが、クラッドが1つのシングルクラッドファイバであってもよい。光ファイバ20が、シングルクラッドファイバであることで、容易に製造することができる。
【0034】
また、上述の実施の形態では、励起用光源10が、LDを備える例について説明したが、励起用光源10は、励起光ELを照射できるものであればよく、発光ダイオードまたはハロゲンランプ等の光源であってもよい。
【実施例
【0035】
以下、Dy3+と、Nd3+、Er3+、Tm3+、またはYb3+のうち少なくとも何れか1種類と、を含むコア22を備える光ファイバ20を代表して、ZBLANガラスをコア22の母材とし、Dy3+と、Er3+と、を含む光ファイバ20およびこの光ファイバ20を用いたASE光源100の効果を実証した。この実施例は、本開示の一実施態様を示すものであり、本開示は何らこれらに限定されるものではない。
【0036】
予備実験により、最適な添加濃度をEr3+3mol%、Dy3+1mol%と決定し、ZBLANガラスで作製されたコア22にEr3+3mol%およびDy3+1mol%を添加した実施例1~3の丸形断面を有するダブルクラッド型の光ファイバ20を作成した。また、図4に示すASE光源100を、励起用光源10と、実施例1~3の光ファイバ20と、直径105μmのコアを有する伝送用光ファイバ30と、を用いて作製した。実施例1~3の光ファイバ20のコア22の直径は15μm、第1のクラッドの直径は200μmであった。実施例1の光ファイバ20の全長は0.5m、実施例2の光ファイバ20の全長は1.1m、実施例3の光ファイバ20の全長は4.1mとした。励起用光源10には、976nmの励起光ELを照射するLDを用いた。また、伝送用光ファイバ30のコアと、実施例1~3の光ファイバ20の第1のクラッドと、を自由空間結合した。寄生発振を防ぐため、実施例1~3の光ファイバ20の一端部20aおよび他端部20bは角度をつけて切断しており、他端部20bから光を取り出してスペクトル等を測定した。
【0037】
図6に、実施例1~3の光ファイバ20のASEスペクトルを示す。参考のため、ファイバの吸収スペクトルも記載した。光ファイバ20の全長が長くなると、基底状態にあるDy3+の再吸収の影響で長波長側の出力が著しく低下した。そのため、双方向励起、光ファイバ20の全長の短縮、コア22の直径の増加などによって強励起条件を満たすことで、ASE出力の最適化が可能と考えられる。
【0038】
つぎに、長さ0.5mの実施例1の光ファイバ20に対して励起光ELを1.5Wおよび5.2Wのパワーで照射した時のASEスペクトルを図7に示す。励起光ELのパワーによってスペクトル形状が異なっていることからも、これが自然放出光(蛍光)ではなくASE光であることが実証された。光ファイバ20の長さ0.5mのとき、波長2600nm~3800nmにおいてASE光が出力していることが確認された。
【0039】
つぎに、長さ0.5mの実施例1の光ファイバ20を用いて、励起光ELのパワーとASE光の強度との関係を測定した。測定結果を図8に示す。励起光ELのパワーを大きくするとASE光の強度が大きくなることがわかった。
【0040】
つぎに、実施例1の光ファイバ20から出力されたASE光をレンズ40で絞り、ビームウェスト近傍におけるビーム半径を測定した。測定位置に対してビーム径をプロットしたものを図9に示す。この結果に対して、非線形曲線フィッティングを行った結果、エムスクエア(M)が水平方向で約1.1、垂直方向で約1.3であることがわかった。
【0041】
以上のように、光ファイバ20は、コア22にDy3+と、Er3+とを含むことで、波長2600nm~3800nmにおいてASE光を出力できることがわかった。また、光ファイバ20の長さまたは励起光ELのパワーを調整することで、ASE光の強度およびASEスペクトルの形状が変化することもわかった。また、光ファイバ20は、高いビーム品質のASE光を得られることがわかった。また、実施例1~3で用いたEr3+に限らず、Dy3+へのエネルギー移動が生じる希土類元素を用いれば、同様にASEを出力できると考えられ、Er3+の代わりにNd3+、Tm3+またはYbを用いても同様の効果が予想される。また、Dy3+、Nd3+、Er3+、Tm3+またはYbなどの希土類金属イオンは、内殻軌道の電子遷移によって光吸収することから、吸収波長帯の母材依存が少ないため、光ファイバ20を作製する材料としてZBLANガラス以外の材料を選択することも可能であると考えられる。
【0042】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0043】
10…励起用光源、20…光ファイバ、20a、30a…一端部、20b、30b…他端部、21…エンドキャップ、22、31…コア、23、32…クラッド、24…第1のクラッド、25…第2のクラッド、30…伝送用光ファイバ、40~43…レンズ、44…ミラー、100…ASE光源、D1~D5…直径、EL…励起光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9