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特許7539074下痢抑制又は増体促進のための家畜用飼料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】下痢抑制又は増体促進のための家畜用飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/30 20160101AFI20240816BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20240816BHJP
   A23K 10/33 20160101ALI20240816BHJP
   A23K 50/30 20160101ALI20240816BHJP
【FI】
A23K10/30
A23K10/16
A23K10/33
A23K50/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020019974
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021122257
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 販売日2019年10月7日~2019年12月25日 販売場所 添付資料1、2参照
【微生物の受託番号】FERM  FERM BP-10284
(73)【特許権者】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(73)【特許権者】
【識別番号】321006774
【氏名又は名称】DM三井製糖株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391003912
【氏名又は名称】コンビ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠崎 貴之
(72)【発明者】
【氏名】舘野 浩一
(72)【発明者】
【氏名】松本 弘輝
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/087240(WO,A1)
【文献】特開2001-335505(JP,A)
【文献】特開2012-228218(JP,A)
【文献】特開2001-269125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0081330(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サトウキビ抽出物を、糖を除く固形分濃度として0.0009%~0.24%の濃度で含有し、かつ、乳酸菌死菌体を5.0×105個/g飼料~2.5×108個/g飼料の菌体数で含有する、下痢抑制又は増体促進のための家畜用飼料。
【請求項2】
サトウキビ抽出物は、サトウキビ搾汁又はサトウキビ由来糖蜜を陽イオン交換クロマトグラフィーにより分画して得られる画分のうち、波長420 nmの光を吸収する画分である、請求項1記載の飼料。
【請求項3】
乳酸菌死菌体が、Enterococcus faecalis EC-12株(受託番号FERM BP-10284)の死菌体である、請求項1又は2記載の飼料。
【請求項4】
サトウキビ抽出物を、糖を除く固形分濃度として0.0009%~0.024%の濃度で含み、かつ、乳酸菌死菌体を5.0×106個/g飼料~2.5×108個/g飼料の菌体数で含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の飼料。
【請求項5】
サトウキビ抽出物を0.0009%~0.0096%の固形分濃度で含む、請求項4記載の飼料。
【請求項6】
家畜が豚である、請求項1~5のいずれか1項に記載の飼料。
【請求項7】
家畜が子豚である、請求項6記載の飼料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の飼料を家畜に給与することを含む、家畜において下痢を抑制し又は増体を促進する方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の飼料の、家畜の下痢抑制又は増体促進のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下痢抑制又は増体促進のための家畜用飼料、飼料添加剤、及び家畜の下痢抑制剤又は増体促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
離乳後子豚下痢症(PWD)は、主に腸管毒素原性大腸菌(ETEC)感染により引き起こされ、下痢による増体低下や斃死をまねき、経済的損失をもたらしている疾病である。PWD対策において抗菌剤の使用が一般的であるが、生菌剤や有機酸製剤等の利用も注目されている。PWD対策に従来使用されていた硫酸コリスチンは、平成30年に飼料添加物としての認可が取り消されたため、硫酸コリスチンに代わる実用的な新規PWD対策資材が求められている。
【0003】
哺乳期~離乳期の子豚において下痢やそれによる増体低下を抑制するための資材として、従来より種々の資材が検討されている。例えば、乳酸菌等の微生物を利用した下痢抑制資材としては、バチルス・ポリミキサ菌株(特許文献1)、ラクトバチルス・アシドフィラスおよびストレプトコッカス・フエカリスの生菌(特許文献2)、Enterococcus faecalis EC-12株(受託番号FERM BP-10284)の死菌体(特許文献3、非特許文献1)等が知られている。植物由来の成分を利用した資材としては、茶に由来する茶葉繊維(特許文献4)、シュガー系フレーバーと甘草抽出物及び/又はステビア抽出物からなる資材(特許文献5)、デキストラン発酵副産物(特許文献6)、エゾミソハギ、エゾヨモギギク及びセイヨウナツユキソウの微粉末と乾燥バナナ及びイナゴ豆の微粉末の混合物(特許文献7)等が検討されている。しかしながら、子豚に対して実用化されている下痢抑制資材は少なく、下痢抑制効果及び増体促進効果に優れた実用的な資材が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2005/087240号
【文献】特開昭63-238020号公報
【文献】特開昭51-106725号公報
【文献】特開平7-16062号公報
【文献】特開2001-95502号公報
【文献】特開2001-269125号公報
【文献】特開2004-065068号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本豚病研究会報, 第48号, p.19-23, 2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、離乳期子豚等の家畜において下痢抑制効果及び増体促進効果に優れた実用的な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、サトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体を組み合わせた飼料を家畜(特に離乳子豚)に給与することにより、下痢抑制効果及び増体促進効果が相乗的に高まり、それぞれを単独で給与した場合よりも効果が大幅に高まること、従って各成分の添加量を低く抑えながら十分に高い下痢抑制効果及び増体促進効果が得られることを見出し、本願発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、サトウキビ抽出物を、糖を除く固形分濃度として0.0009%~0.24%の濃度で含有し、かつ、乳酸菌死菌体を5.0×105個/g飼料~2.5×108個/g飼料の菌体数で含有する、下痢抑制又は増体促進のための家畜用飼料を提供する。また、本発明は、上記本発明の飼料を家畜に給与することを含む、家畜において下痢を抑制し又は増体を促進する方法を提供する。さらに、本発明は、上記本発明の飼料の、家畜の下痢抑制又は増体促進のための使用を提供する

【発明の効果】
【0009】
本発明の飼料は、離乳子豚等の家畜において下痢抑制及び増体促進に優れた効果を奏する。サトウキビ抽出物と乳酸菌死菌体を組み合わせることにより、下痢抑制効果及び増体促進効果が相乗的に高まるので、飼料への添加量を低く抑えることができ、優れた下痢抑制及び増体促進効果を奏する飼料を低コストで提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】「A. 離乳後子豚下痢症対策資材のスクリーニング」における試験スケジュールである。
図2】「A. 離乳後子豚下痢症対策資材のスクリーニング」における8つの試験区の糞便性状相対スコアである。
図3】「B. サトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体末の添加濃度の検討1」における各試験区の糞便性状相対スコアである。
図4】「C. サトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体末の添加濃度の検討2」における各試験区の糞便性状相対スコアである。
図5】「D. 離乳子豚へ乳酸菌体末およびサトウキビ抽出物を給与した場合での発育に及ぼす影響」における発育試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の家畜用飼料は、下痢抑制又は増体促進のための飼料であり、サトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体を含有する。サトウキビ抽出物と乳酸菌死菌体とを組み合わせることにより、下痢抑制効果及び増体促進効果が相乗的に高まり、各成分の添加量を低く抑えることができ、特に乳酸菌死菌体の添加量を非常に低く抑えることができる。
【0012】
本発明において、下痢には、病原性大腸菌等の病原性細菌による下痢、コクシジウム等の寄生虫による下痢、ロタウイルス等のウイルスによる下痢、ストレスによる下痢等の、種々の要因による下痢が包含される。本発明における下痢抑制は、例えば、離乳後子豚下痢症における下痢の抑制であり得る。
【0013】
本発明で用いるサトウキビ抽出物は、サトウキビ搾汁又はサトウキビ由来糖蜜を陽イオン交換クロマトグラフィーにより分画して得られる画分のうち、波長420 nmの光を吸収する画分である。そのようなサトウキビ抽出物の製造方法は、例えば、特開2000-297046号公報、特開2011-32240号公報、特開2012-214481号公報等に記載されている。
【0014】
サトウキビ搾汁としては、サトウキビ圧搾汁を濾過したものを好ましく用いることができる。サトウキビ由来糖蜜としては、サトウキビからの製糖工程において副産物として生じる、サトウキビ圧搾汁から単糖類及び少糖類を結晶化して回収した後の残渣を用いることができる。サトウキビ由来糖蜜は、適当なブリックス(例えば40~60程度)となるように適宜希釈し、消石灰等を添加して不純物を凝集させた後に珪藻土等により濾過してから陽イオン交換クロマトグラフィーに付してよい。「サトウキビ搾汁又はサトウキビ由来糖蜜を陽イオン交換クロマトグラフィーにより分画する」という語には、サトウキビ搾汁又はサトウキビ由来糖蜜を濾過等の適当な前処理をした上で陽イオン交換クロマトグラフィーに付すことを包含する。
【0015】
陽イオン交換クロマトグラフィーで用いる陽イオン交換樹脂としては、強酸性型(例えば、スルホン化ポリスチレン樹脂のナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩等)、ナトリウムイオン型またはカリウムイオン型の陽イオン交換樹脂を好ましく使用できる。また、イオン交換樹脂はその形態からゲル型樹脂と多孔性樹脂(ポーラス型、マイクロポーラス型、ハイポーラス型等)とに分類されるが、本発明で用いるサトウキビ抽出物の製造においてはゲル型樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
クロマトグラフィー処理の方法は、単塔式回分分離法でも擬似移動床式連続分離法でもよい。
【0017】
単塔式回分分離法によるサトウキビ抽出物の製造については、例えば特開2000-297046号公報に詳述されている。具体的には、原料の固形分に対して5~500倍湿潤体積量の陽イオン交換樹脂が充填されたカラムを使用し、溶離液として水を用いて分離を行なう。流速はSV=0.3~1.0hr-1、サンプルの供与量は樹脂の1~20%、温度は40~70℃が好ましい。溶出液を複数の画分に分けて回収し、波長420 nmの吸光度を測定し、吸光ピーク部分の画分をサトウキビ抽出物として用いればよい。波長420 nmの光を吸収する画分にはポリフェノールが多く含まれ、単糖類及び少糖類はほぼ含有しない。
【0018】
擬似移動床式連続分離法では、原料液供給量、溶離液流量、各画分抜き出し流量が、原料の組成、固定担体の種類、樹脂量に合わせて設定される。擬似移動床式連続分離法によるサトウキビ抽出物の製造の具体例は、例えば特開2011-32240号公報、特開2012-214481号公報に記載されている。擬似移動床式連続分離法の場合、ショ糖画分と非ショ糖画分(ショ糖をほとんど又は全く含まない画分)を分離回収できるが、波長420 nmの光を吸収する画分は非ショ糖画分に含まれるので、非ショ糖画分をサトウキビ抽出物として用いることができる。
【0019】
波長420 nmの光を吸収する画分は、そのまま又は濃縮して液状のサトウキビ抽出物として用いてもよいし、米ぬか油かす、デキストリン等の固体支持体(賦形剤)に液状の抽出物を吸着、乾燥させて粉末ないし顆粒状としたものをサトウキビ抽出物として用いてもよい。また、このような液状又は粉末ないし顆粒状のサトウキビ抽出物は市販品も存在するので(例えば、三井製糖株式会社製のきびしぼりEX、きびしぼりEX-L等)、そのような市販品を本発明において使用してもよい。
【0020】
本発明で用いる乳酸菌死菌体は、Enterococcus faecalis EC-12株(受託番号FERM BP-10284)の死菌体である。死菌体の調製方法は特に限定されず、菌体成分のほぼ全体を含むように調製すればよい。EC-12株を常法により培養し、培養物から菌体を回収し、洗浄後に殺菌処理したものを乳酸菌死菌体として用いることができる。殺菌処理の方法は特に限定されず、加熱処理、超音波等の物理的処理、溶菌酵素(リゾチーム等)による酵素処理など、乳酸菌を殺菌できる処理であればいかなる方法でもよい。殺菌処理後、必要に応じて濃縮し、菌体成分濃度(菌体密度)を高めてもよい。また、乳酸菌死菌体は、殺菌処理して必要に応じて濃縮した後、噴霧乾燥や凍結乾燥等により乾燥させ、粉末状にしたものを使用してもよい。Enterococcus faecalis EC-12株の死菌体の製造方法は、例えば、特開2017-101006号公報にも記載されている。
【0021】
本発明の飼料におけるサトウキビ抽出物の濃度は特に限定されないが、糖を除く固形分濃度で0.0009%~0.24%程度(下記実施例で使用した顆粒品の添加濃度で0.005%~1%)であることが好ましく、例えば、0.0009%~0.024%程度(同0.005%~0.1%)、0.0009%~0.012%程度(同0.005%~0.05%)、0.0009%~0.0096%程度(同0.005%~0.04%)、0.0009%~0.0072%程度(同0.005%~0.03%)、0.0009%~0.0048%程度(同0.005%~0.02%)、0.0018%~0.024%程度(同0.01%~0.1%)、0.0018%~0.012%程度(同0.01%~0.05%)、0.0018%~0.0096%程度(同0.01%~0.04%)、0.0018%~0.0072%程度(同0.01%~0.03%)、又は0.0018%~0.0048%程度(同0.01%~0.02%)としてもよい。
【0022】
なお、本発明において、飼料中の濃度1%ないしは添加濃度1%とは、飼料100gに対し1gを配合した濃度をいう。
【0023】
本発明の飼料における乳酸菌死菌体の濃度も特に限定されないが、菌体数で5.0×105個/g飼料~5.0×109個/g飼料(下記実施例で使用した乳酸菌素材の添加濃度で0.00001%~0.1%)であることが好ましく、例えば、5.0×105個/g飼料~2.5×109個/g飼料(同0.00001%~0.05%)、5.0×105個/g飼料~5.0×108個/g飼料(同0.00001%~0.01%)、5.0×105個/g飼料~2.5×108個/g飼料(同0.00001%~0.005%)、5.0×105個/g飼料~5.0×107個/g飼料(同0.00001%~0.001%)、5.0×105個/g飼料~2.5×107個/g飼料(同0.00001%~0.0005%)、5.0×106個/g飼料~2.5×109個/g飼料(同0.0001%~0.05%)、5.0×106個/g飼料~5.0×108個/g飼料(同0.0001%~0.01%)、5.0×106個/g飼料~2.5×108個/g飼料(同0.0001%~0.005%)、5.0×106個/g飼料~5.0×107個/g飼料(同0.0001%~0.001%)、又は5.0×106個/g飼料~2.5×107個/g飼料(同0.0001%~0.0005%)としてもよい。
【0024】
本発明の飼料を給与する対象となる家畜は特に限定されないが、好ましくは、本発明の飼料は豚用飼料であり、例えば子豚用飼料であってよい。本発明の飼料を給与する子豚の齢ないし発育ステージは特に限定されないが、哺乳期、離乳期及び育成初期の子豚、又は1日齢~50日齢程度の子豚のための飼料として用いることができる。本発明の飼料を家畜に給与することにより、当該家畜の下痢を抑制し又は増体を促進することができる。
【0025】
本発明の下痢抑制用又は増体促進用の飼料添加剤は、上記定義の通りのサトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体の組み合わせを含む。「組み合わせを含む」という語は、当該飼料添加剤が、サトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体を混合した単一の剤である形態と、これら2つの成分を別個の剤として組み合わせて提供される形態を包含することを意味する。該飼料添加剤は、家畜用飼料の添加剤であり、家畜としては上記と同じく豚、例えば子豚が挙げられるが、これらに限定されない。該飼料添加剤の使用濃度は特に限定されないが、例えば上記した濃度で各成分を飼料に添加して用いることが好ましい。具体的には、サトウキビ抽出物は、糖を除く固形分濃度で0.0009%~0.24%程度(下記実施例で使用した顆粒品の添加濃度で0.005%~1%)で添加して用いることが好ましく、例えば上記した濃度範囲の他、0.009%~0.12%程度(同0.05%~0.5%)としてもよい。また、乳酸菌死菌体は、菌体数で5.0×105個/g飼料~5.0×109個/g飼料(下記実施例で使用した乳酸菌素材の添加濃度で0.00001%~0.1%)で添加して用いることが好ましく、例えば上記した濃度範囲の他、5.0×107個/g飼料~5.0×108個/g飼料(同0.001~0.01%)としてもよい。
【0026】
本発明の家畜の下痢抑制剤又は増体促進剤は、サトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体の組み合わせを有効成分として含む。ここでいう「組み合わせを含む」という語の意味は上記と同じである。該下痢抑制剤又は増体促進剤は、飼料に添加して家畜に給与する剤であり、家畜としては上記と同じく豚、例えば子豚が挙げられるが、これらに限定されない。当該剤は、各成分を上記した通りの濃度で飼料に添加して用いることができる。
【実施例
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0028】
A. 離乳後子豚下痢症対策資材のスクリーニング
<目的>
離乳後子豚下痢症(PWD)は、主に腸管毒素原性大腸菌(ETEC)感染により引き起こされ、下痢による増体低下や斃死をまねき、経済的損失をもたらしている疾病である。PWD対策において抗菌剤の使用が一般的であるが、生菌剤や有機酸製剤等の利用も注目されている。PWD対策に従来使用されていた硫酸コリスチンは、平成30年中に飼料添加物としての認可が取り消され、PWD発生増加が懸念されることから、新たなPWD対策資材の開発を目指し、種々の資材について下痢予防効果を検討した。
【0029】
<材料および方法>
1. 感染試験
(1) 供試豚
19日齢の早期離乳子豚を用いた。尻尾からDNAを抽出し、Jensen et al., Veterinary Microbiology 115 (2006) 243-249記載の方法によりF4線毛レセプター関連遺伝子(MUC4遺伝子)の型別を実施し、当該遺伝子をヘテロで保有する個体を選択して実験に供試した。
(2) 試験飼料
幼豚用飼料(人工乳)として一般的な組成を有する市販の飼料に各種の資材を添加し、種々の試験飼料を調製した。
(3) 供試菌株
毒素原性大腸菌(線毛遺伝子;F4ab,ac、毒素遺伝子;LT・STa・STb)の野外分離株Rif ETEC88(受託番号NITE P-02895)を用いた。
(4) 試験区および感染スケジュールの設定
試験スケジュールを図1に示す。1区5頭の子豚を使用し、試験飼料を給与した。給与5日目にRif ETEC88で攻撃を実施した。攻撃菌数は3.0×109 CFU/頭(6.0×108 CFU/ml in 10%滅菌スキムミルクを5ml経口投与)であった。
【0030】
2. PWDの評価
以下の基準で糞便性状のスコアリングを行ない、攻撃対照区(資材非給与区)が100となるよう各試験区のスコアを算出した。
スコア0 (正常便):綿棒の上でも形を良く保っており、表面がざらざらしている。
スコア1 (軟便):綿棒の上で形は保っているが、水分がやや多く、照明下では表面に光沢がある。
スコア2 (泥状便):水分が多く、泥状。綿棒で採材した時、大部分が落ちてしまう。
スコア3 (水様便):糞便のほとんどが水分であり、未消化の消化管内容物が認められることもある。
【0031】
<結果>
図2は、下記表1に示す8種の資材を添加した試験飼料をそれぞれ給与した8試験区の糞便性状相対スコアである。表1に示した資材のうち、特にサトウキビ抽出物資材及び乳酸菌死菌体末の糞便性状スコアが低く、高い下痢抑制効果が確認された。
【0032】
なお、サトウキビ抽出物として、サトウキビの脱糖圧搾汁を陽イオンクロマトグラフィーにて分画して得られる、波長420 nmの光を吸収する画分を、米ぬか油かすに吸着、乾燥させた顆粒品(特開2000-297046号公報、特開2011-32240号公報、特開2012-214481号公報等に記載の方法により調製されたもの)を用いた。この顆粒品は、1g中に非糖固形分を180~240mg含有する。乳酸菌死菌体末として用いたEC-12(コンビ株式会社)は、Enterococcus faecalis EC-12株(受託番号FERM BP-10284)を培養、加熱殺菌後に濃縮した乳酸菌素材であり、グラムあたり5×1012個以上の菌体を含む。
【0033】
【表1】
【0034】
B. サトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体末の添加濃度の検討1
<目的>
上記Aの結果より、サトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体末をPWD対策資材の候補とし、飼料への添加濃度を検討した。
【0035】
<材料及び方法>
1. 供試動物
18日齢早期離乳子豚を1区当たり4頭又は5頭で用いた。Jensen et al. 2006(上掲)に記載の方法により、F4線毛レセプター関連遺伝子(MUC4遺伝子)の型別を実施し、当該遺伝子をヘテロで保有する個体を選択して実験に供試した。個体別の下痢発症が確認し易いように、オープンペンによる個別飼育を行なった。
【0036】
2. 供試菌株
毒素原性大腸菌(線毛遺伝子;F4ab,ac、毒素遺伝子;LT・STa・STb)の野外分離株Rif ETEC88(受託番号NITE P-02895)を用いた。
【0037】
3. 試験飼料
幼豚用飼料(人工乳)として一般的な組成を有する市販の飼料にサトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体末(A-17、コンビ株式会社)を下記表2-1、2-2に示した濃度で添加し、試験飼料を調製した。なお、A-17は、EC-12の同等品であり、Enterococcus faecalis EC-12株(受託番号FERM BP-10284)を培養、加熱殺菌後に濃縮した乳酸菌素材で、グラムあたり約5×1012個の菌体を含む。
【0038】
【表2-1】
【0039】
【表2-2】
【0040】
4. 試験スケジュール
(1) 試験動物を導入し、5日間試験飼料を給与した。
(2) 2の菌株を経口投与し(攻撃菌数は1.0×109CFU/頭~3.0×109CFU/頭)、全ての子豚に感染させた。
(3) 感染後7日間の糞便性状を観察しスコアリングを実施した。スコアリングは上記Aと同様の基準で行なった。
(4) 攻撃対照区(資材非給与区)が100となるよう各試験区のスコアを算出した。
【0041】
<結果>
糞便性状スコアを図3に示す。サトウキビ抽出物と乳酸菌死菌体末を組み合わせることにより、下痢抑制効果が相乗的に高まることが確認された。
【0042】
C. サトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体末の添加濃度の検討2
<目的>
サトウキビ抽出物と乳酸菌死菌体末の組み合わせにより相乗的な下痢抑制効果が認められたことから、両成分の低濃度での有効性を評価検討した。
【0043】
<材料及び方法>
1. 供試動物
1区あたり4頭とした他は上記試験Bと同じ。
2. 供試菌株
上記試験Bと同じ。
3. 試験飼料
幼豚用飼料(人工乳)として一般的な組成を有する市販の飼料にサトウキビ抽出物及び乳酸菌死菌体末(A-17、コンビ株式会社)を下記表3-1、3-2に示した濃度で添加し、試験飼料を調製した。
【0044】
【表3-1】
【0045】
【表3-2】
【0046】
4. 試験区設定
下記表4の通りに試験区を設定した。
【0047】
【表4】
【0048】
5. 試験スケジュール
(1) 試験動物を導入し、5日間試験飼料を給与した。
(2) 2の菌株を経口投与し(攻撃菌数は、1~7区が6.3×108 CFU/頭、8~12区が8.4×108 CFU/頭)、全ての子豚に感染させた。
(3) 感染後7日間の糞便性状を観察しスコアリングを実施した。スコアリングは上記Aと同様の基準で行なった。
(4) 攻撃対照区(資材非給与区)が100となるよう各試験区のスコアを算出した。
【0049】
<結果>
糞便性状スコアを図4に示す。1区および5区においては水様便(スコア3)を呈した子豚は認められなかった。1~4区(A-17添加量0.0005%)を比較すると、4区では相対糞便スコア値が攻撃対照区と差がなく、サトウキビ抽出物を0.001%添加しても下痢抑制効果が認められなかった。一方、サトウキビ抽出物添加量が同量(0.01%)の2区・6区・9区・11区を比較すると、2・6区はA-17の添加量に依存して下痢抑制効果が増大したが、9・11区では変化が認められなかった。これらのことから、サトウキビ抽出物を0.01%以下の濃度で添加する場合、0.00005%以下のA-17を添加しても十分な下痢抑制効果が認められないことが明らかとなった。
【0050】
D. 離乳子豚へ乳酸菌体末およびサトウキビ抽出物を給与した場合での発育に及ぼす影響
<材料及び方法>
(1) 供試動物:体重約6kgの離乳子豚を24頭(4頭/区×2区×3反復)
(2) 試験区分
対照区:市販の豚人工乳2種
試験区:対照区に乳酸菌体末(A-17、コンビ株式会社)を0.00025%、サトウキビ抽出物を0.0125%添加
(3) 試験方法
体重約6kgの離乳子豚を用いて性・体重を揃えて区分けし、19日間の発育試験を実施した(表5)。
【0051】
【表5】
【0052】
<結果>
試験結果を表6及び図5に示す。増体量は対照区で375g/日、試験区で398g/日、飼料摂取量は対照区で488g/日、試験区で527g/日となり、増体量および飼料摂取量ともに対照区よりも試験区の方が優れる結果となった。飼料要求率は対照区で1.32、試験区で1.32となり、試験区間でほとんど差が認められなかった。このことから、豚人工乳への乳酸菌体末およびサトウキビ抽出物の添加は、離乳子豚の発育を改善することが確認された。
【0053】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5