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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】水素製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/04 20060101AFI20240816BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20240816BHJP
   B01J 29/74 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C01B3/04 B
B01J23/46 301M
B01J29/74 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020153547
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047644
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】毛利 安希
(72)【発明者】
【氏名】金岡 佳充
(72)【発明者】
【氏名】永岡 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝俊
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111517(JP,A)
【文献】特開2019-085302(JP,A)
【文献】特開2018-023938(JP,A)
【文献】特開2018-024555(JP,A)
【文献】特開2016-164109(JP,A)
【文献】特開2012-101157(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0167840(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0037244(US,A1)
【文献】永岡勝俊,触媒の酸化熱を利用したアンモニアの酸化分解による水素製造プロセスのコールドスタート,ENEOS Technical Review,日本,2016年06月,Vol.58, No.2,p.49-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/04
B01J 23/46
B01J 29/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ru、Co、Rh、Ir及びNiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む活性成分と、前記活性成分を担持し、アンモニアが吸着可能な酸点を有する酸化物を含む担体とを有し、アンモニアを分解して水素を生成する担持触媒を収容する反応容器と、
アンモニアと酸素とを含む混合ガスを前記反応容器に供給する供給部と、
マイクロ波を前記反応容器内の前記担持触媒空気雰囲気下で照射するマイクロ波照射器と、
を備え、
前記酸点へアンモニアが吸着することにより前記担持触媒が発熱する、水素製造装置。
【請求項2】
前記酸化物は、Al、Si、Ce及びZrからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む、請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記酸化物は、Ce及びZrの少なくともいずれか一方の元素を含む、請求項1又は2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記酸化物はAl及びSiの少なくともいずれか一方の元素を含む、請求項1又は2に記載の水素製造装置。
【請求項5】
前記酸化物はAl及びSiOの少なくともいずれか一方である、請求項1又は2に記載の水素製造装置。
【請求項6】
前記酸化物はゼオライトである、請求項1又は2に記載の水素製造装置。
【請求項7】
Ru、Co、Rh、Ir及びNiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む活性成分と、前記活性成分を担持し、Al、Si、Ce及びZrからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物を含む担体とを有し、アンモニアを分解して水素を生成する担持触媒を収容する反応容器と、
アンモニアと酸素とを含む混合ガスを前記反応容器に供給する供給部と、
マイクロ波を前記反応容器内の前記担持触媒アンモニア雰囲気下で照射するマイクロ波照射器と、
を備え、
前記マイクロ波照射器は、アンモニア雰囲気下で前記担持触媒にマイクロ波を照射することによって前記担持触媒を還元し、
前記担持触媒は、前記供給部によって供給されるアンモニアによって還元され、前記混合ガスに含まれる酸素によって酸化されて生じる酸化熱によって発熱する、水素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーとして、水素利用技術に関する研究開発が盛んに進められている。水素ガスは天然にはほとんど存在せず、貯蔵及び輸送も容易ではないため、触媒を用い、アンモニアを分解して水素を生成することが検討されている。
【0003】
一般的なアンモニア分解触媒を利用してアンモニアを十分に分解する場合、400℃という温度が必要である。そこで、アンモニアの一部を酸素で酸化させ、その酸化熱によりアンモニアを分解して水素を生成する場合がある。アンモニアの酸化には、通常、白金系触媒が用いられる。このような白金系触媒として、特許文献1には、耐火性金属酸化物、この耐火性金属酸化物上に設けられた白金層、及びこの白金上に配設されたバナジア層を含んでなる多層化アンモニア酸化触媒が提案されている。
【0004】
しかしながら、この触媒でアンモニアを酸化させるには、200℃程度の温度が必要であり、それ以下の温度では酸化反応を進行させることが困難であるため、電気ヒータ等でアンモニアと酸素とを含む混合ガスの温度を200℃程度まで上げる必要がある。すなわち、この触媒を用いた水素製造装置では、温度を上げる時間がかかるために起動性が低く、外部から多くのエネルギーを投入する必要もある。
【0005】
そこで、室温(例えば25℃)などのような低い温度から、外部からの熱供給なしに又はわずかな熱供給によってアンモニアの酸化反応が開始(以下、「コールドスタート」という場合もある。)可能な触媒が提案されている(下記特許文献2及び特許文献3参照)。
【0006】
特許文献2には、Ru、Co、Rh、Ir及びNiからなる群より選択される1種以上の金属と、担体と、を有する触媒による発熱を利用してアンモニアの酸化分解反応を開始する水素の製造方法が開示されている。特許文献2には、担体がCe、Zr及びPrから選択される1種又は2種以上の元素を含む酸化物を1種以上含むこと、Al及びSiOからなる群より選択される一種以上の酸化物を含むことが開示されている。
【0007】
特許文献3には、Ru、Co、Rh、Ir及びNiからなる群より選択される一種以上の触媒金属と、触媒金属を担持しているゼオライト担体とを有する、アンモニア酸化分解-水素生成触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2007-504945号公報
【文献】特開2014-111517号公報
【文献】特開2019-177381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2及び特許文献3の触媒によれば、室温などのような低い温度でも、アンモニアと酸素とを含む混合ガスを供給するだけで触媒による発熱が発生し、その熱を利用してアンモニアの酸化反応を進行させることができる。そして、酸化反応の熱で触媒がさらに加熱され、アンモニアが分解可能な温度まで達すると、アンモニアが分解して水素が生成される。
【0010】
しかしながら、これらの触媒は、加熱などによる前処理をし、かつ、空気に触れないような環境を保持しなければ、十分にその機能を発揮させることが困難であり、水素製造装置の取り扱いが煩雑であった。
【0011】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、コールドスタート可能な触媒を用いた場合であっても、取り扱いの容易な水素製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様に係る水素製造装置は、Ru、Co、Rh、Ir及びNiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む活性成分と、活性成分を担持し、アンモニアが吸着可能な酸点を有する酸化物を含む担体とを有し、アンモニアを分解して水素を生成する担持触媒を収容する反応容器を備える。水素製造装置は、アンモニアと酸素とを含む混合ガスを反応容器に供給する供給部と、反応容器内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射器とを備える。酸点へアンモニアが吸着することにより担持触媒が発熱する。
【0013】
酸化物は、Al、Si、Ce及びZrからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含んでもよい。
【0014】
酸化物は、Ce及びZrの少なくともいずれか一方の元素を含んでもよい。
【0015】
酸化物はAl及びSiの少なくともいずれか一方の元素を含んでもよい。
【0016】
酸化物はAl及びSiOの少なくともいずれか一方であってもよい。
【0017】
酸化物はゼオライトであってもよい。
【0018】
本発明の他の態様に係る水素製造装置は、Ru、Co、Rh、Ir及びNiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む活性成分と、活性成分を担持し、Al、Si、Ce及びZrからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物を含む担体とを有し、アンモニアを分解して水素を生成する担持触媒を収容する反応容器を備える。水素製造装置は、アンモニアと酸素とを含む混合ガスを反応容器に供給する供給部と、反応容器内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射器と、を備える。担持触媒は、供給部によって供給されるアンモニアによって還元され、混合ガスに含まれる酸素によって酸化されて生じる酸化熱によって発熱する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コールドスタート可能な触媒を用いた場合であっても、取り扱いの容易な水素製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る水素製造装置の一例を示す断面図である。
図2】マイクロ波照射前の担持触媒の状態の一例を示す断面図である。
図3】マイクロ波照射時の担持触媒の状態の一例を示す断面図である。
図4】マイクロ波照射後の担持触媒の状態の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本実施形態に係る水素製造装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0022】
水素製造装置1は、アンモニアを分解して水素を生成する。水素製造装置1は、水素よりも貯蔵及び輸送が容易なアンモニアから水素を生成することができるため、水素をエネルギー供給源として容易に利用することができる。
【0023】
アンモニアから水素を生成する分解反応は、以下のような反応式(1)によって表される。
NH→1.5H+0.5N ΔH=45.4kJ (1)
【0024】
アンモニアの分解反応は、上記反応式(1)に示すように、通常、吸熱反応であるため、分解反応を継続させるには、外部から熱を与え続ける必要がある。そこで、本実施形態に係る水素製造装置1では、アンモニアと酸素とを含む混合ガスが反応容器10に供給され、反応容器10内でアンモニアが酸化する。アンモニアの酸化反応は例えば以下のような反応式(2)によって表される。
NH+0.25O→H+0.5N+0.5HO ΔH=-75.4kJ (2)
【0025】
アンモニアの酸化反応は、上記反応式(2)に示すように、通常、発熱反応であるため、アンモニアの酸化反応で生じた熱の少なくとも一部をアンモニアの分解反応に用いることにより、アンモニアの分解反応を継続して進行させることができる。したがって、アンモニアの酸化反応と分解反応とを同一の反応容器10内で進行させることにより、外部から熱エネルギーを継続して供給しなくても、アンモニアの分解反応を継続して進行させることができる。すなわち、本実施形態に係る水素製造装置1はオートサーマル反応を利用したATR(オートサーマルリフォーマー)である。
【0026】
図1に示すように、水素製造装置1は、反応容器10と、供給部30と、排出部40と、マイクロ波照射器50とを備えている。反応容器10には、供給部30と排出部40とが接続されている。
【0027】
反応容器10は、内部に担持触媒20を収容する。反応容器10は、内部に仕切材23、及び不活性充填材24を収容してもよい。担持触媒20は、後に詳述するが、アンモニアを分解して水素を生成する。反応容器10は、円筒形状をしており、混合ガスが供給可能なように設けられた供給口11と、生成された水素が排出可能なように設けられた排出口12とを有している。反応容器10は担持触媒20を収容し、担持触媒20によってアンモニアから水素を生成することができれば、形状等は特に限定されない。
【0028】
仕切材23は、担持触媒20が不活性充填材24と混ざらないように、担持触媒20と不活性充填材24との間に配置されてもよい。仕切材23は、例えば、石英ウール、金属製メッシュ及びパンチングメタル板などを含む。
【0029】
不活性充填材24は、担持触媒20を反応容器10内に固定したり、反応流体を整流したりする役割を有する。不活性充填材24は、例えば、α-Alボール、セラミックボール及び炭化ケイ素などの反応性の低い成型体又は粒状物を含む。
【0030】
供給部30は、アンモニアと酸素とを含む混合ガスを反応容器10に供給する。供給部30は、例えば、アンモニア供給管31と、酸素供給管32と、混合部33と、混合ガス供給管34とを含む。
【0031】
アンモニア供給管31は、アンモニア供給源と混合部33とを接続し、アンモニアを混合部33に供給する。アンモニア供給源は、例えばアンモニアが収容されたボンベである。アンモニア供給管31には、アンモニアの流量を調整可能な流量調整器が設けられてもよい。
【0032】
酸素供給管32は、酸素供給源と混合部33とを接続し、酸素含有ガスを混合部33に供給する。酸素供給源は、例えば、高純度の酸素が封入されたボンベ、又は、大気中の空気である。酸素供給管32には、酸素含有ガスの流量を調整可能な流量調整器が設けられてもよい。また、酸素供給管32には、大気中の空気を混合部33に供給するためのブロワが設けられてもよい。
【0033】
混合部33では、アンモニア供給管31から供給されるアンモニアと、酸素供給管32から供給される酸素含有ガスとが混合される。混合部33は、例えば、アンモニア及び酸素含有ガスが通過可能な通路又は空間である。混合部33には、アンモニアと酸素含有ガスとを拡散するディフューザが設けられてもよい。
【0034】
混合ガス中のアンモニアに対する酸素のモル比(酸素/アンモニア)は、アンモニア及び担持触媒20の種類によって適宜変更することができる。アンモニアに対する酸素のモル比(酸素/アンモニア)は、酸化反応を促進させて多くの熱を供給する観点から、例えば、0.05以上であってもよく、0.1以上であってもよい。また、アンモニアに対する酸素のモル比は、アンモニアの分解反応を促進させて水素の生成比率を増加させる観点から、0.4以下であってもよく、0.3以下であってもよい。
【0035】
混合ガス供給管34は、混合部33と反応容器10の供給口11とを接続し、混合部33で混合された混合ガスを反応容器10に供給する。なお、後述するように、担持触媒20を還元させるためにアンモニアのみが反応容器10に供給されてもよい。
【0036】
排出部40は、反応容器10の排出口12と接続され、反応容器10で生成された水素を含む生成ガスを反応容器10から排出する。生成ガスには、例えば、未反応のアンモニア(アンモニア)及び酸素、並びに、酸化反応又は分解反応によって生成された窒素及び水が含まれる場合がある。
【0037】
マイクロ波照射器50は、反応容器10内にマイクロ波を照射する。マイクロ波照射器50は、反応容器10内の担持触媒20が存在する領域全体にマイクロ波を照射してもよく、反応容器10の供給口11付近の領域など、担持触媒20が存在する一部の領域のみにマイクロ波を選択的かつ局所的に照射してもよい。マイクロ波はマルチモードであってもよく、シングルモードであってもよい。マイクロ波照射器50は、例えば、マイクロ波発振器51と、アプリケータ52とを含む。
【0038】
マイクロ波発振器51は、所定の周波数を有するマイクロ波を出力する。マイクロ波発振器51から出力されるマイクロ波の周波数や強度等は問わない。マイクロ波の周波数は、例えば、915MHzであってもよく、2.45GHzであってもよく、5.8GHzであってもよく、その他の300MHzから300GHzの範囲内であってもよい。マイクロ波発振器51は、例えば、マグネトロン、VCO(電圧制御発振器)及びPLL(位相同期回路)などである。
【0039】
アプリケータ52は、反応容器10全体を覆っている。アプリケータ52の内部には、担持触媒20が配置されている。アプリケータ52内には、マイクロ波発振器51から出力されるマイクロ波が照射される。アプリケータ52には、マイクロ波発振器51から出力されたマイクロ波が通過可能な照射孔が設けられている。そして、マイクロ波発振器51とアプリケータ52の照射孔とが、導波管及び同軸ケーブルの少なくともいずれか一方を介してアプリケータ52と接続されている。
【0040】
担持触媒20は、コールドスタート可能な触媒である。ここでいうコールドスタート可能な触媒は、室温(例えば25℃)などのような低い温度から、外部からの熱供給なしに又はわずかな熱供給によってアンモニアの酸化反応が開始可能な触媒を意味する。コールドスタート可能な担持触媒20を用いることにより、アンモニアの酸化開始までに必要な加熱を少なくすることができるため、アンモニアの分解までに必要なエネルギー供給量を低減できる可能性がある。すなわち、マイクロ波の照射は、アンモニアの酸化開始よりも前に停止されてもよい。ただし、本実施形態に係る水素製造装置1において、担持触媒20は、必ずしも室温などのような低い温度からアンモニア酸化反応を開始する必要はない。例えば、担持触媒20がマイクロ波で加熱された状態でアンモニア酸化反応が開始されてもよい。このような場合であっても、アンモニアの分解までに必要なエネルギー供給量を低減できる。担持触媒20は、図2に示すように、活性成分21と担体22とを有する。活性成分21は、Ru、Co、Rh、Ir及びNiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む。これらのなかでも、アンモニアの分解特性が高いことから、活性成分21はRuを含むことが好ましい。
【0041】
担体22は活性成分21を担持する。担体22は、アンモニアが吸着可能な酸点を有する酸化物を含む。そして、酸点へアンモニアが吸着することにより担持触媒20が発熱する。この発熱を利用することにより、担持触媒20をアンモニアの酸化開始温度に速やかに到達させることができる。さらに、酸化反応で大量の熱が発生することにより担持触媒20の温度が上がり、アンモニアの分解反応が起こり、水素が生成される。すなわち、酸点へのアンモニアの吸着による発熱によってオートサーマルが開始され、アンモニアが分解される。アンモニアが吸着可能な酸点を有する酸化物は、例えば、Al、Si、Ce及びZrからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む。
【0042】
担体22に含まれる酸化物は、Ce及びZrの少なくともいずれか一方の元素を含んでいてもよい。酸化物は、例えば、CeO及びCeZr(0<x≦0.75、0.25≦y<1.0、0<z≦2.0、ただし、x+y=1)の少なくともいずれか一方を含む酸化物である。
【0043】
担体22に含まれる酸化物はAl及びSiの少なくともいずれか一方の元素を含んでいてもよい。
【0044】
担体22に含まれる酸化物は、例えば、Al及びSiOの少なくともいずれか一方であってもよい。具体的には、酸化物は、Al、SiO及びSiO-Alからなる群より選択される少なくとも一種の酸化物であってもよい。酸化物は、Alであることが好ましく、γ-Alであることがより好ましい。
【0045】
担体22中の酸化物はゼオライトであってもよい。ゼオライトは、アルミノケイ酸塩の一種であり、一般式Mx/n・[(AlO・(SiO]・zHOで表すことができる。なお、一般式中、Mは価数nのカチオンであり、x+yは単位格子当たりの四面体数であり、zは水のモル数であり、yはxよりも大きい値である。価数1のカチオン種としては、Li、Na及びKなどが挙げられ、価数2のカチオン種としてはCa2+、Mg2+及びBa2+などが挙げられる。ゼオライトは結晶質であり、かつ微細多孔構造を有することによって、酸点の数が多く、酸強度が強いため、アンモニアの吸着において大きな熱量をもたらすことができる。
【0046】
ゼオライトは、天然ゼオライトであってもよく、合成ゼオライトであってもよい。ゼオライトは、例えば、A型、フェリエライト、MCM-22、ZSM-5、モルデナイト、L型、Y型、X型、及びベータ型からなる群より選択される少なくとも一つのゼオライトであってもよい。
【0047】
担体22は、アンモニアが吸着可能な酸点を有する酸化物以外の化合物を含んでいてもよい。担体22は、成型体として機械的強度を維持するため、バインダー成分としてアルミナなどを含んでいてもよい。
【0048】
担持触媒20は、供給部30によって供給されるアンモニアによって還元され、混合ガスに含まれる酸素によって酸化されて生じる酸化熱によって発熱してもよい。このような担持触媒20は、例えば上述したAl、Si、Ce及びZrからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物を含んでいる。
【0049】
担持触媒20の形状は、円筒状、ペレット状、球状、塊状及び粉状とすることができる。担持触媒20の粉化や異物混入などが生じた場合であっても、活性成分21間の空隙が維持されやすく、反応流体の流通が良好であることから、担持触媒20の形状は、円筒状、ペレット、球状又は塊状のいずれかの形状を有することが好ましい。
【0050】
活性成分21の担持触媒20に対する割合は、0.1質量%~50.0質量%であることが好ましく、0.5質量%~40.0質量%であることがより好ましく、1.0質量%~30.0質量%であることがさらに好ましい。
【0051】
活性成分21の担体22への担持法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することにより容易に行うことができる。担持法は、例えば、含浸法、沈着法、共沈法、混練法、イオン交換法、ポアフィリング法等が挙げられ、特に含浸法が好ましい。
【0052】
含浸法により活性成分21を担体22へ担持させる場合、例えば、活性成分21の出発物質を水又は有機溶剤に加えた溶液を調製し、担体22に含浸させたのち、乾燥及び必要に応じ焼成する。焼成は、通常、空気又は窒素雰囲気下などで行われる。焼成温度は、活性成分21の出発物質の分解温度以上であれば特に限定されないが、100℃~1000℃、好ましくは200℃~900℃、より好ましくは250℃~800℃が好ましい。
【0053】
活性成分21の出発物質は、担持法により異なり、適宜選択することができるが、通常、塩化物、硝酸塩、酢酸等の有機酸塩、カルボニル化物である。活性成分21の出発物質は、具体的には、Ru(C、RuCl、Ru(NO)(NO(OH)、Rh(NO・2HO、Ru(CO)12、[(CHCOO)Rh]、[Rh(C15COO)、RhCl・nHO、Rh(NO、Rh(C・nHO、C1521IrO、IrCl・nHO、Ni(NO・6HO、(CHCOO)Ni・4HO、NiCl・6HO、Ni(O・nHO、Co(NO・6HO、(CHCOCHCOCHCo・2HO、Co(CO)、及びCoCl・6HOからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含んでいてもよい。
【0054】
担体22は、例えば、出発物質を空気などの雰囲気下において焼成する、又は、出発物質を含有する水溶液を水熱処理、中和、焼成及びこれらの工程を組み合わせるなど、公知の方法によって得ることができる。また、担体22は、市販のものを使用してもよい。
【0055】
Ce及びZrの少なくともいずれか一方の元素を含む酸化物担体の出発物質は、例えば、Ce若しくはZrの硝酸塩、水酸化物又は酸化物を含む。Al担体の出発物質は、例えば、アルミニウムの硝酸塩又は硫酸塩などの塩から調製した水酸化アルミニウムゲルを含む。SiO担体の出発物質は、例えば、ケイ酸、水ガラス及びシリカゾルなどの化合物を含む。SiO-Al担体の出発物質は、例えば、上記Al担体及びSiO担体の出発物質を混合したものを含む。ゼオライト担体の出発物質は、例えば、シリカ・アルミナゲルを含む。
【0056】
次に、本実施形態に係る水素製造装置1の水素製造機構について説明する。図1に示すように、まず、アンモニアが、アンモニア供給管31によってアンモニア供給源から混合部33に供給される。また、酸素含有ガスが、酸素供給管32によって酸素供給源から混合部33に供給される。アンモニアと酸素含有ガスは混合部33で混合され、混合ガスが生成される。混合ガスは、混合ガス供給管34によって混合部33から反応容器10に供給される。反応容器10に供給された混合ガスは、担持触媒20と接触した後、排出部40によって反応容器10から排出される。アンモニアの分解により生成された水素は、反応容器10の排出口12を通り、排出部40によって反応容器10から排出される。
【0057】
反応容器10では、アンモニアの酸化反応によって生じた反応熱の少なくとも一部が、アンモニアの分解に必要な熱エネルギーとして利用される。担持触媒20による分解反応を停止させる場合には、アンモニア及び酸素含有化合物の少なくともいずれか一方の反応容器10への供給が停止されればよい。これらの供給が停止されれば、酸化反応が終了するため、アンモニアの分解に必要な熱の供給も停止される。
【0058】
以上の通り、本実施形態に係る水素製造装置1は、担持触媒20を収容する反応容器10と、アンモニアと酸素とを含む混合ガスを反応容器10に供給する供給部30とを備える。担持触媒20はコールドスタート可能な触媒である。すなわち、担持触媒20は、Ru、Co、Rh、Ir及びNiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む活性成分21と、活性成分21を担持し、アンモニアが吸着可能な酸点を有する酸化物を含む担体22とを有する。また、水素製造装置1は、反応容器10内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射器50を備える。そして、酸点へアンモニアが吸着することにより担持触媒20が発熱し、その熱によりアンモニアの酸化反応が開始する。これは、以下のメカニズムによるものと考えられる。
【0059】
図2に示すように、担持触媒20の降温中又は分解反応の停止中に反応容器10内に水蒸気又は水分が混入した場合、担体22の表面の酸点に水分が吸着する。この水分によって担体22の酸点にアンモニアが付着することが阻害されるため、反応容器10内に混合ガスを供給してもアンモニアの吸着熱が発生せず、アンモニアの酸化反応が開始されにくい。
【0060】
水は、通常、担持触媒20よりも誘電損失係数が高く、反応容器10内にマイクロ波が照射されると、マイクロ波を吸収して加熱されやすい。そのため、図3に示すように、反応容器10内にマイクロ波が照射されると、まず担体22の酸点に吸着した水分が加熱され、担体22の表面から離脱するため、担持触媒20表面の酸点が再生し、酸点にアンモニアが吸着しやすくなる。
【0061】
図4に示すように、アンモニアが担体22の酸点に吸着すると、上述したように担持触媒20が発熱するため、担持触媒20をアンモニアの酸化開始温度にまで速やかに到達させることができる。また、加熱された水分の熱は担持触媒20に移動しやすいことから、担持触媒20をアンモニアの酸化開始温度に速やかに到達させることができる。さらに、酸化反応が開始すると大量の熱が発生して担持触媒20の温度が上がり、アンモニアの分解反応が起こることによって水素が生成される。
【0062】
このような担持触媒20は、通常、コールドスタートが可能なように、80℃以上の温度で不活性ガスなどの特定ガス雰囲気下による前処理を行う必要がある場合がある。また、繰り返しコールドスタートが可能なように、水蒸気が混入しない雰囲気下で保持する必要がある場合がある。このためには、アンモニア分解反応の停止から水素製造装置1を再度起動する前まで不活性ガス雰囲気下で担持触媒20が収容された反応容器10を密閉する必要がある。このような水素製造装置では、不活性ガスを供給又は定期的に交換する必要があり、密閉構造を維持するための保守及び点検も必要である。
【0063】
しかしながら、上述のように、本実施形態に係る水素製造装置1は、反応容器10内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射器50を備える。これにより、コールドスタート可能な触媒を用いた場合であっても、上記のような前処理や密閉が不要になるため、上記のような前処理に必要な不活性ガスなどを収容するガスタンク、乾燥した空気を作るための除湿機構及び密閉機構も不要となる。さらに、アンモニアの分解反応を終えて反応容器10内を室温まで降温させた後であっても、反応容器10を不活性ガス雰囲気下で密閉する必要がないため、水蒸気を含むような空気雰囲気下で停止状態を保持することができる。そして、このような停止状態で保持した後であっても、オートサーマル反応の前に酸点に吸着する水分を脱離させるほどのマイクロ波を照射することにより、酸点へのアンモニアの吸着による発熱を促進することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る水素製造装置1では、担体22は、Al、Si、Ce及びZrからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物を含んでいてもよい。そして、担持触媒20は、供給部30によって供給されるアンモニアによって還元され、混合ガスに含まれる酸素によって酸化されて生じる酸化熱によって発熱してもよい。
【0065】
上記のような酸化熱により発熱する担持触媒20は、担持触媒20を還元状態とすることによってコールドスタート可能になる。しかしながら、このような状態を維持するには、上述のような密閉構造及び不活性ガスが必要となる。しかしながら、アンモニアを供給しながら短時間マイクロ波を照射して担持触媒20を還元し、還元した担持触媒20にアンモニアと酸素とを含む混合ガスを供給することによって、担持触媒20が酸化されて生じる酸化熱によって発熱する。このような担持触媒20であっても、アンモニアの酸化反応を開始することができる。
【0066】
さらに、酸化熱により発熱する担持触媒20は、酸素吸放出能を有し、担体内の格子酸素が動きやすい。そのため、酸化熱により発熱する担持触媒20は、マイクロ波を照射することにより、担体の酸素価数が減少し、還元された状態になる。したがって、担体は混合ガス中の酸素とも結合しやすくなるために酸化開始温度が低下し、電気炉等で加熱した場合よりも素早くアンモニアの酸化反応を開始することができる。
【0067】
以上のように、本実施形態に係る水素製造装置1は、コールドスタート可能な触媒を用いた場合であっても、取り扱いが容易である。このような水素製造装置1を例えば自動車のような移動体に取り付けることによって、密閉機構等を備えていなくても、自動車の燃料としての水素の生成を開始することができる。また、本実施形態に係る水素製造装置1によれば、不活性ガスをパージする必要がないため、不活性ガスのボンベが不要であり、ユーザーの利便性も向上させることができる。
【0068】
なお、本実施形態では、酸点へアンモニアが吸着することにより発熱する担持触媒20、及び酸化されて生じる酸化熱によって発熱する担持触媒20について説明したが、担持触媒20はこれらの組み合わせによって発熱してもよい。
【実施例
【0069】
以下、本実施形態を実施例、比較例及び参考例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
Ru担持量が担持触媒の全質量を基準として1質量%となるようにRu(CO)12(田中貴金属工業株式会社製)をテトラヒドロフランに溶かした溶液に、担体としてのβ型(Z-HB25)ゼオライト粒子を添加した。ゼオライト粒子としては、触媒学会参照触媒であるJRC-Z-HB25を用いた。その後、この溶液中の溶媒をロータリーエバポレーターで蒸発させ、蒸発残留物を乾燥させた。次に、得られた乾燥物をHe流通下、350℃で5時間焼成し、β型ゼオライト粒子にRuを担持させた粉末状担持触媒を得た。なお、担持触媒の担体は酸点を有し、酸点へアンモニアが吸着することにより担持触媒が発熱するコールドスタート可能な触媒である。
【0071】
次に、粉末状担持触媒を圧縮成型した後に篩い分け、250μm~500μmのペレット状担持触媒を得た。ペレット状担持触媒0.2gを直径7mmの円筒状の常圧固定床流通式反応管(反応容器)内に充填して触媒層を形成した。その後、図1に示すように、仕切材としての石英ウールで触媒層を両側から挟み込んだ後、石英ウールの両外側に不活性充填材としてのα-Alボールを設けた。この反応管を、マイクロ波照射器(凌和電子株式会社製MR-2G-100)の円筒型アプリケータ内に設置した。
【0072】
次に、加熱又は還元による前処理をせず、空気を流通させた状態で、触媒層の中心から反応管の延在方向に沿ってTM010モードのマイクロ波の定在波の腹が形成されるように、出力設定100Wで60秒間マイクロ波を照射した。マイクロ波の効果を確認するために、マイクロ波の照射を停止後、流通ガスを空気から不活性ガス(ヘリウムガス)へ切り替え、触媒層の温度が室温(約25℃)以下になるまで5分間冷却を行った。その後、NH、O及びHeを混合した原料ガス(混合ガス)をNH/O/He=150/37.5/20.8(ml/分)の割合で反応管の入口から室温で供給した。また、原料ガスが触媒層を通過して生成された生成ガスをGC-TCD(株式会社島津製作所製GC-8A)により分析した。
【0073】
[実施例2]
ゼオライト粒子に代えて、Ce0.5Zr0.5粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして粉末状担持触媒を得た。Ce0.5Zr0.5粒子は、沈殿法により調製し、空気中700℃で5時間焼成したものを用いた。なお、担持触媒の担体は酸素吸放出性能を有し、酸素によって酸化されて生じる酸化熱によって発熱するコールドスタート可能な触媒である。
【0074】
次に、実施例1と同様に反応容器内へ触媒層を形成し、反応管をマイクロ波照射器の円筒型アプリケータ内に設置した。
【0075】
次に、マイクロ波の効果を確認するために、アンモニアを流通させた状態で、触媒層の中心から反応管の延在方向に沿ってTM010モードのマイクロ波の定在波の腹が形成されるように、出力設定100Wで60秒間マイクロ波を照射した。マイクロ波の照射を停止後、流通ガスをアンモニアから不活性ガス(ヘリウムガス)へ切り替え、触媒層の温度が室温(約25℃)以下になるまで5分間冷却を行った。その後、NH、O及びHeを混合した原料ガス(混合ガス)をNH/O/He=150/37.5/20.8(ml/分)の割合で反応管の入口から室温で供給した。また、原料ガスが触媒層を通過して生成された生成ガスをGC-TCD(株式会社島津製作所製GC-8A)により分析した。
【0076】
[比較例1]
電気炉による加熱及びマイクロ波の照射をせず、原料ガスを上記割合で反応管の入口から室温で供給した。それ以外は実施例1と同様にして、得られた生成ガスをGC-TCDにより分析した。
【0077】
[比較例2]
電気炉による加熱及びマイクロ波の照射をせず、原料ガスを上記割合で反応管の入口から室温で供給した。それ以外は実施例2と同様にして、得られた生成ガスをGC-TCDにより分析した。
【0078】
[参考例1]
マイクロ波照射器に代えて、電気炉を用いた。具体的には、反応管にペレット状担持触媒を充填した後、電気炉内に反応管を設置した。次に、前処理として、触媒層、石英ウール及びα-Alボールを200℃まで加熱し、反応管内にヘリウムガスを200℃で0.5時間流通させた。その後、触媒層の加熱を止め、Heでパージを行った。触媒層の温度を室温まで下げた後、原料ガスを上記割合で反応管の入口から室温で供給した。それ以外は実施例1と同様にして、得られた生成ガスをGC-TCDにより分析した。
【0079】
[参考例2]
マイクロ波照射器に代えて、電気炉を用いた。具体的には、実施例2の触媒を用いたこと以外は参考例1と同様の手順により得られた生成ガスを分析した。
【0080】
[評価]
(アンモニア転化率)
上記のようにして得られた生成ガスの分析結果からアンモニア転化率を算出した。実施例、比較例及び参考例のアンモニア転化率を以下の表1に示す。なお、アンモニア転化率は、以下の数式(1)に基づいて算出した。
【0081】
アンモニア転化率[%]=100-(((アンモニア供給量[mol]-アンモニア酸化量[mol]-アンモニア分解量[mol])/アンモニア供給量[mol])×100) (1)
【0082】
上記数式(1)中、アンモニア酸化量は以下の数式(2)で求められる。
アンモニア酸化量[mol]=4/3×(酸素供給量[mol]-(生成ガスの量[L]×生成ガス中の酸素濃度[mol/L])) (2)
なお、上記数式(2)は以下の反応式(3)に基づいている。
4NH+3O→2N+6HO (3)
【0083】
上記数式(1)中、アンモニア分解量は以下の数式(3)で求められる。
アンモニア分解量[mol]=2/3×生成ガスの量[L]×生成ガス中の水素濃度[mol/L] (3)
なお、上記数式(3)は以下の反応式(4)に基づいている。
NH→1.5H+0.5N (4)
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示す通り、実施例1及び2では、電気炉で加熱しなくても、マイクロ波を照射することでアンモニア及び酸素を含有する原料ガスから水素及び窒素への転化が観察された。一方、比較例1及び2では、電気炉加熱及びマイクロ波照射を行わなかったため、コールドスタートすることができなかった。参考例1及び2では、コールドスタートすることができたが、電気炉で加熱する必要がある。実施例1、比較例1及び参考例1の結果から、マイクロ波を照射することによって、電気炉で加熱した担持触媒表面と同じ状態にすることができたため、実施例1ではコールドスタートが可能であったと考えられる。また、実施例2、比較例2及び参考例2の実験結果から、マイクロ波を照射することによって、還元された触媒と同じ状態にすることができたため、実施例2ではコールドスタートが可能であったと考えられる。
【0086】
また、実施例1及び2では、マイクロ波照射後にアンモニア及び酸素を含有する原料ガスを室温で供給することによって水素及び窒素への転化が観察された。すなわち、不活性ガスのパージ、除湿、及び、不活性ガス雰囲気下での反応管の密閉などをしなくても、コールドスタートすることが確認できた。これにより、不活性ガスを収容するガスタンク、除湿機構及び密閉機構などが不要である水素製造装置を提供可能であることが確認できた。
【0087】
また、実施例1及び2の水素製造装置によれば、原料ガスを反応管に供給する前に反応管内にマイクロ波を照射すればコールドスタートすることができる。したがって、アンモニア分解反応の停止後であっても、反応管内に原料ガスを供給する前にマイクロ波を照射すればコールドスタート可能であると考えられる。
【0088】
また、参考例1及び2では電気炉を用いて触媒層を200℃まで加熱し、かつ、反応管内にヘリウムガスを200℃で0.5時間流通させたのに対し、実施例1及び2では60秒間マイクロ波を照射することによってコールドスタートできた。このことから、マイクロ波照射では、電気炉による加熱に必要であった時間よりも短い時間で担体の酸点の再生ができる可能性があると考えられる。
【0089】
また、実施例1では、マイクロ波の効果を確認するために、マイクロ波の照射を停止後、流通ガスを空気から不活性ガスへ切り替え、触媒層の温度が室温以下になるまで5分間冷却を行った。しかしながら、マイクロ波の照射を停止直後、冷却時間をおかずにNH、O及びHeを混合した原料ガスを反応管の入口から供給しても同様の効果が得られた。また、マイクロ波を照射しながら、冷却時間をおかずに原料ガスを反応管の入口から供給しても同様の効果が得られた。
【0090】
また、実施例2では、マイクロ波の効果を確認するために、アンモニアガスのみを流しながらマイクロ波を照射し、マイクロ波の照射を停止後、流通ガスをアンモニアガスから不活性ガスへ切り替え、触媒層の温度が室温以下になるまで5分間冷却を行った。しかしながら、マイクロ波の照射を停止直後、冷却時間をおかずに原料ガスを反応管の入口から供給しても同様の効果が得られた。また、冷却時間をおかずに原料ガスを反応管の入口から供給し、マイクロ波の照射をしても同様の効果が得られた。
【0091】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 水素製造装置
10 反応容器
20 担持触媒
21 活性成分
22 担体
30 供給部
50 マイクロ波照射器
図1
図2
図3
図4