IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図1
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図2
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図3
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図4
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図5
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図6
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図7
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図8
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図9
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図10
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図11
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図12
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図13
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図14
  • 特許-波長変換体及びそれを用いた発光装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】波長変換体及びそれを用いた発光装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240816BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20240816BHJP
   F21V 9/38 20180101ALI20240816BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20240816BHJP
【FI】
G02B5/20
F21S2/00 311
F21V9/38
F21Y115:30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023500695
(86)(22)【出願日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2022003779
(87)【国際公開番号】W WO2022176597
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2021024564
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 覚
(72)【発明者】
【氏名】新田 充
(72)【発明者】
【氏名】鴫谷 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 惠美
(72)【発明者】
【氏名】平野 徹
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-166012(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084282(WO,A1)
【文献】特開2019-179920(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230207(WO,A1)
【文献】特開2013-197395(JP,A)
【文献】特開2020-052234(JP,A)
【文献】特開2012-109442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20 - 5/28
F21S 2/00
F21V 9/38
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パリティー禁制遷移による蛍光を放射する第一の蛍光体を含有する蛍光体セラミックスと、
パリティー許容遷移による蛍光を放射する第二の蛍光体を含有する蛍光体部と、
を備え、
前記蛍光体セラミックスの主表面は、複数の凸部及び複数の凹部からなる凹凸構造を有しており、
前記蛍光体セラミックスにおける複数の前記凹部の内部には、前記蛍光体部が配置されている、波長変換体。
【請求項2】
前記蛍光体部が前記凹部の内部に配置されていない前記蛍光体セラミックスにおいて、前記凹凸構造における断面曲線要素の平均長さPSmは400μm以下である、請求項1に記載の波長変換体。
【請求項3】
前記第一の蛍光体は、発光中心元素としてCrを含み、700nm以上1600nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ蛍光体である、請求項1又は2に記載の波長変換体。
【請求項4】
前記第二の蛍光体は、発光中心元素としてCeを含み、500nm以上600nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ蛍光体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の波長変換体。
【請求項5】
平面視した場合、前記蛍光体セラミックスと前記蛍光体部とが交互に積層されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の波長変換体。
【請求項6】
平面視した場合、前記蛍光体部が前記蛍光体セラミックスを介して分離して配置されている、又は、前記蛍光体セラミックスが前記蛍光体部を介して分離して配置されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の波長変換体。
【請求項7】
前記蛍光体セラミックスの熱伝導率は、前記蛍光体部の熱伝導率よりも大きい、請求項1から6のいずれか一項に記載の波長変換体。
【請求項8】
前記蛍光体部は、600nm以上700nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ第三の蛍光体をさらに含有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の波長変換体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の波長変換体と、
前記波長変換体に照射され、かつ、400nm以上500nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ光を放射する固体光源と、
を備える、発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換体及びそれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザー光などの一次光を放射する固体光源と、蛍光体を含む波長変換体とを組み合わせた発光装置が知られている。このような発光装置としては、例えば、レーザー照明装置やレーザープロジェクターが知られている。そして、当該発光装置では、モーターなどの回転駆動装置で回転する蛍光体ホイール型の波長変換体が使用されている。
【0003】
特許文献1では、光源と、第1の基板及び第2の基板を有する蛍光体ホイールとを備える光源装置を開示している。当該蛍光体ホイールは、第1の基板と第2の基板との間に配置された第1の蛍光体及び第2の蛍光体を有し、第1の蛍光体及び第2の蛍光体は、蛍光体ホイールの回転方向において異なる位置に配置されている。そして、第1の蛍光体が、第1の基板及び第2の基板に接し、第2の蛍光体が、第2の基板に接している。このような構成により、蛍光体の発熱の影響を受けにくく、かつ、発光効率の低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-161709号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、蛍光体ホイール型の波長変換体は、回転駆動装置を用いて回転させる必要があるため、発光装置の構造が複雑になり、小型化が困難であるという問題があった。また、回転駆動装置を用いるため、発光装置が故障するリスクが高まる可能性があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、回転駆動装置を用いなくても、蛍光体の発光効率を高めることが可能な波長変換体、及び当該波長変換体を用いた発光装置を提供することにある。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る波長変換体は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する第一の蛍光体を含有する蛍光体セラミックスと、パリティー許容遷移による蛍光を放射する第二の蛍光体を含有する蛍光体部と、を備える。蛍光体セラミックスの主表面は、複数の凸部及び複数の凹部からなる凹凸構造を有しており、蛍光体セラミックスにおける複数の前記凹部の内部には、蛍光体部が配置されている。
【0008】
本発明の第二の態様に係る発光装置は、上述の波長変換体と、波長変換体に照射され、かつ、400nm以上500nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ光を放射する固体光源と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体を含む波長変換体を備えた発光装置を示す概略図である。図1(b)は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体を含む波長変換体を備えた発光装置を示す概略図である。
図2図2は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体を含む波長変換体と、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体を含む波長変換体との両方を備えた発光装置を示す概略図である。
図3図3は、本実施形態に係る波長変換体の一例を概略的に示す斜視図である。
図4図4は、本実施形態に係る波長変換体の他の例を概略的に示す斜視図である。
図5図5は、本実施形態に係る波長変換体の他の例を概略的に示す図である。
図6図6は、本実施形態に係る波長変換体の製造方法を説明するための概略斜視図である。
図7図7は、本実施形態に係る波長変換体を備えた発光装置の一例を示す概略図である。
図8図8は、本実施形態に係る波長変換体を備えた発光装置の他の例を示す概略図である。
図9図9は、本実施形態に係る発光装置を備えた電子機器の一例を示す概略図である。
図10図10は、本実施形態に係る発光装置を備えた電子機器の他の例を示す概略図である。
図11図11は、実施例で作製した波長変換体を平面視した写真である。
図12図12は、比較例に係る波長変換体を概略的に示す斜視図である。
図13図13は、実施例及び比較例に係る波長変換体において、励起光としてレーザー光を照射した場合のレーザー光の出力と、当該波長変換体から放出される蛍光の出力との関係を示すグラフである。
図14図14は、実施例に係る波長変換体において、励起光としてレーザー光を照射した場合のレーザー光の出力と当該波長変換体から放出される蛍光の分光分布との関係を示すグラフである。
図15図15は、比較例に係る波長変換体において、励起光としてレーザー光を照射した場合のレーザー光の出力と当該波長変換体から放出される蛍光の分光分布との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本実施形態に係る波長変換体及び当該波長変換体を用いた発光装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0011】
固体光源と蛍光体とを組み合わせてなる発光装置としては、図1に示すように、一次光(励起光)を放射する固体光源2と、蛍光体を含む波長変換体3と、波長変換体3を表面に保持する基材4とを備えるものを挙げることができる。
【0012】
固体光源2は、一次光としてのレーザー光Lを放射する発光素子であり、例えば、面発光レーザーダイオード等のレーザーダイオードを用いることができる。波長変換体3は、レーザー光Lの受光により、レーザー光Lよりも長波長の蛍光Fを放射する。つまり、波長変換体3は、正面3aでレーザー光Lを受光し、背面3bから蛍光Fを放射する。基材4は、レーザー光Lが透過可能な透明度を有しており、基材4の表面である主面4aから入射されたレーザー光Lが透過するようになっている。透明な基材4としては、例えば、石英基材、サファイヤ基材、透光性蛍光セラミックス基材が用いられる。
【0013】
このような発光装置1において、基材4に照射されたレーザー光Lは、基材4及び波長変換体3を透過する。そして、レーザー光Lが波長変換体3を透過する際に、波長変換体3に含まれる蛍光体がレーザー光Lの一部を吸収して蛍光Fを放射する。これにより発光装置1は、出力光として、レーザー光Lと蛍光Fとを含む光を放射する。そのため、例えば、レーザー光Lが青色であり、蛍光Fが黄色である場合には、レーザー光Lと蛍光Fとの加法混色により、白色の出力光が放射される。
【0014】
ここで、波長変換体3(3A)に含まれる蛍光体が、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体である場合、当該蛍光体は遷移確率が高いため、レーザー光Lを効率的に吸収することができる。具体的には、蛍光体が、例えばCe3+で賦活されたイットリウムアルミニウムガーネット(YAl(AlO:Ce3+、YAG:Ce3+)である場合、蛍光体は青色のレーザー光Lを90%程度吸収し、黄色の蛍光Fを放射する。そのため、図1(a)に示すように、発光装置1において、波長変換体3Aに含まれる蛍光体が、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体である場合、波長変換体3Aの厚みt1を比較的薄くすることができる。具体的には、波長変換体3Aの厚みt1は、例えば50μm~100μmとすることができる。
【0015】
これに対して、波長変換体3(3B)に含まれる蛍光体が、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体である場合、当該蛍光体は遷移確率が低いため、レーザー光Lを効率的に吸収することができない。具体的には、蛍光体が、例えばCr3+で賦活された(Gd,La)(Ga,Sc)(GaO:Cr3+蛍光体(GSG蛍光体)である場合、蛍光体は青色のレーザー光Lを60%程度吸収し、近赤外の蛍光Fを放射する。そのため、図1(b)に示すように、発光装置1Aにおいて、波長変換体3Bに含まれる蛍光体が、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体である場合、波長変換体3Bの厚みt2を比較的厚くして波長変換効率を高める必要がある。具体的には、波長変換体3Bの厚みt2は、例えば300μm~400μmとする必要がある。
【0016】
ここで、上述の固体光源2、波長変換体3A及び波長変換体3Bを組み合わせることにより、出力光として白色光と近赤外光の両方を放射する発光装置を得ることができる。具体的には、固体光源2として青色のレーザー光Lを放射する発光素子を用い、波長変換体3AとしてYAG:Ce3+蛍光体を含む部材を用い、波長変換体3BとしてGSG蛍光体を含む部材を用いる。そして、図2に示すように、透明な基材4に波長変換体3A及び波長変換体3Bを積層する。図2(a)に示す発光装置1Bでは、基材4の上方に波長変換体3Aを積層し、さらに波長変換体3Aの上方に波長変換体3Bを積層している。図2(b)に示す発光装置1Cでは、基材4の上方に波長変換体3Bを積層し、さらに波長変換体3Bの上方に波長変換体3Aを積層している。
【0017】
このような発光装置1B,1Cに対して、基材4の主面(下面)4aから青色のレーザー光Lを照射すると、照射されたレーザー光Lは、基材4並びに波長変換体3A及び3Bを透過する。レーザー光Lが波長変換体3Aを透過する際、波長変換体3Aに含まれるYAG:Ce3+蛍光体がレーザー光Lの一部を吸収して黄色の蛍光を放射する。また、レーザー光Lが波長変換体3Bを透過する際、波長変換体3Bに含まれるGSG蛍光体がレーザー光Lの一部を吸収して近赤外の蛍光を放射する。そのため、図2の発光装置は、レーザー光L及び黄色の蛍光の加法混色で生成した白色光と、近赤外光との両方を光出射面Oから出射することができる。
【0018】
ここで、上述のように、波長変換体3Aに含まれる蛍光体はパリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体であるため、波長変換体3Aの厚みを比較的薄くすることができる。これに対して、波長変換体3Bに含まれる蛍光体はパリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体であるため、波長変換体3Bの厚みを比較的厚くして波長変換効率を高める必要がある。そのため、図2(a)に示す発光装置1Bでは、波長変換体3Aから放射された黄色の蛍光が、厚膜の波長変換体3Bに阻まれてしまい、波長変換体3Bを十分に透過することができない場合がある。また、図2(b)に示す発光装置1Cでは、基材4を透過したレーザー光Lが波長変換体3Bで吸収されてしまい、波長変換体3Aに十分に到達することができない場合がある。
【0019】
このように、図2に示す発光装置1B,1Cは、波長変換体3A及び波長変換体3Bを基材4の厚み方向に積層しているため、厚膜の波長変換体3Bに起因して、白色光の取り出し効率が低下し、全体として発光効率が不十分となる問題がある。
【0020】
本実施形態の波長変換体は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体と、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体の両方を備える場合でも、光取り出し効率を高め、発光効率を向上させることが可能な構成を備えている。
【0021】
[波長変換体]
本実施形態に係る波長変換体10は、図3及び図4に示すように、蛍光体セラミックス11と、蛍光体部12とを備えている。蛍光体セラミックス11の主表面11aには、複数の凸部11bが形成されており、隣り合う凸部11bの間には凹部11cが形成されている。そして、蛍光体セラミックス11における複数の凹部11cの内部には、蛍光体部12が配置されている。
【0022】
詳細に説明すると、波長変換体10は、全体が略直方体状(板状)の蛍光体セラミックス11を備えている。そして、蛍光体セラミックス11における一方の主表面11aから他方の主表面11dにかけて切り欠くことにより、凹部11cが形成されている。また、凹部11cは、図3中のz軸方向に沿って、蛍光体セラミックス11の一方の端部から他方の端部にかけて形成されている。そして、隣り合う凹部11cの間には、凸部11bが形成されている。そのため、蛍光体セラミックス11の一方の主表面11a、及び主表面11aと反対側の他方の主表面11dは、複数の凸部11b及び複数の凹部11cからなる凹凸構造を有している。
【0023】
また、複数の凹部11cの内部には、蛍光体部12が充填されている。そして、図3の波長変換体10において、蛍光体セラミックス11の一方の主表面11a及び他方の主表面11dは、凸部11b及び蛍光体部12により、それぞれ面一となっている。このように、波長変換体10は、図3のx軸方向に沿って、蛍光体セラミックス11の凸部11bと蛍光体部12とが交互に積層した構造となっている。
【0024】
波長変換体10の厚みt、言い換えれば蛍光体セラミックス11の厚みtは特に限定されないが、例えば100μm~800μmとすることが好ましく、200μm~600μmとすることがより好ましく、300μm~500μmとすることがさらに好ましい。後述するように、蛍光体セラミックス11は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する第一の蛍光体を含有している。そのため、厚みtを比較的大きくして、第一の蛍光体の波長変換効率を高める必要があることから、厚みtは上述の範囲内とすることが好ましい。
【0025】
波長変換体10において、蛍光体セラミックス11は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する第一の蛍光体を含有している。そして、蛍光体セラミックス11は、第一の蛍光体を主成分として含有し、全体が無機材料からなる成形体であることが好ましい。これにより、蛍光体セラミックス11は高い熱伝導性を有することから、第一の蛍光体の温度消光を抑制して、発光効率を高めることができる。
【0026】
なお、蛍光体セラミックス11は、第一の蛍光体を含む焼結体であることが好ましく、第一の蛍光体からなる焼結体であることがより好ましい。つまり、蛍光体セラミックス11は、第一の蛍光体からなる粉末又は第一の蛍光体の原料粉末を加圧して圧粉体とした後、当該圧粉体を焼成することにより得られた焼結体であることが好ましい。なお、蛍光体セラミックス11は、無機材料からなる結着材を利用して第一の蛍光体の粒子を結着させてなる成形体であってもよい。
【0027】
第一の蛍光体は、パリティー禁制遷移による蛍光(第一の蛍光)を放射する蛍光体である。つまり、第一の蛍光体の発光はパリティー禁制遷移に起因することから、励起光の吸収率が低下する傾向にある。このような第一の蛍光体としては、遷移金属イオンの電子エネルギー遷移に基づく蛍光を放射する蛍光体を用いることができる。例えば、第一の蛍光体としては、賦活剤(発光中心元素)としてCr、Mn、Fe、Cu及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一つのイオンを含む蛍光体を用いることができる。具体的には、第一の蛍光体としては、賦活剤としてCr3+及びMn4+の少なくとも一方を含む蛍光体を用いることができる。第一の蛍光体の母体は特に限定されないが、例えば酸化物、硫化物、窒化物、ハロゲン化物、酸硫化物、酸窒化物及び酸ハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0028】
より詳細に説明すると、第一の蛍光体の賦活剤は、固体光源から発せられた励起光(一次光)を吸収して、当該励起光よりも長波長の光成分に変換する性質を持つ蛍光イオンである。そして、第一の蛍光体の賦活剤は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射することが可能なイオンであり、例えばCr3+及びMn4+の少なくとも一方であることが好ましい。
【0029】
第一の蛍光体としては、上述の賦活剤を添加したハロリン酸塩、リン酸塩、ハロ珪酸塩、珪酸塩、アルミン酸塩、アルミノ珪酸塩、硼酸塩、ゲルマン酸塩、窒化珪酸塩、窒化アルミノ珪酸塩、酸窒化珪酸塩、酸窒化アルミノ珪酸塩がある。そのため、これらの中から照明設計に適するものを適宜選択して利用すればよい。
【0030】
ここで、第一の蛍光体の賦活剤は、Cr3+であることが好ましい。Cr3+の利用によって、可視光、特に青色光又は赤色光を吸収して、深赤色~近赤外の光成分に変換する性質を持つ第一の蛍光体を得ることができる。また、賦活剤を添加する母体の種類によって、蛍光体の光吸収ピーク波長や蛍光ピーク波長を変えることも容易となり、励起スペクトル形状や蛍光スペクトル形状を変える上で有利になる。さらに、青色光や赤色光を吸収して近赤外の蛍光成分に変換するCr3+で賦活された蛍光体も数多く知られている。このため、一次光を放つ固体光源の選択の幅が広がるだけでなく、第一の蛍光体が放つ蛍光のピーク波長を変えることが容易となることから、出力光の分光分布の制御に有利な発光装置となる。
【0031】
なお、蛍光イオンがCr3+である蛍光体は、励起光を吸収して、当該励起光よりも長波長の蛍光に変換するものであれば特に限定されず、既知のCr3+賦活蛍光体から適宜選択すればよい。ただ、Cr3+賦活蛍光体は、製造が容易な複合金属酸化物を母体とした蛍光体であることが好ましい。
【0032】
Cr3+賦活蛍光体は、多くの実用実績を持つガーネット型の結晶構造を持つ複合酸化物蛍光体であることが好ましい。このようなCr3+賦活ガーネット蛍光体としては、希土類アルミニウムガーネット蛍光体及び希土類ガリウムガーネット蛍光体の少なくとも一方であることが好ましい。具体的には、Cr3+賦活ガーネット蛍光体は、YAl(AlO:Cr3+、LaAl(AlO:Cr3+、GdAl(AlO:Cr3+、YGa(AlO:Cr3+、LaGa(AlO:Cr3+、GdGa(AlO:Cr3+、YSc(AlO:Cr3+、LaSc(AlO:Cr3+、GdSc(AlO:Cr3+、YGa(GaO:Cr3+、LaGa(GaO:Cr3+、(Gd,La)Ga(GaO:Cr3+、GdGa(GaO:Cr3+、YSc(GaO:Cr3+、LaSc(GaO:Cr3+、GdSc(GaO:Cr3+、及び(Gd,La)(Ga,Sc)(GaO:Cr3+からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。また、Cr3+賦活ガーネット蛍光体は、これらの蛍光体を端成分としてなる固溶体であってもよい。
【0033】
波長変換体10において、第一の蛍光体は、発光中心元素としてCrを含み、700nm以上1600nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ蛍光体であることが好ましい。このような第一の蛍光体は、励起光を吸収して、近赤外光を発光することができる。そのため、当該第一の蛍光体を備えた波長変換体10を用いることで、近赤外光を利用するイメージングやセンシング、さらには医療や美容等の用途に有利な発光装置を得ることができる。
【0034】
波長変換体10において、蛍光体部12は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する第二の蛍光体を含有している。そして、蛍光体部12は、第二の蛍光体の粒子を封止材で封止してなる封止体であることが好ましい。封止材は、可視光線を透過することが可能ならば特に限定されないが、有機材料及び無機材料の少なくとも一方、特に、透明有機材料及び透明無機材料の少なくとも一方であることが好ましい。有機材料の封止材としては、例えば、シリコーン樹脂及びエポキシ樹脂の少なくとも一方を用いることができる。無機材料の封止材としては、例えば、低融点ガラスを用いることができる。
【0035】
第二の蛍光体は、パリティー許容遷移による蛍光(第二の蛍光)を放射する蛍光体である。つまり、第二の蛍光体の発光はパリティー許容遷移に起因することから、励起光の吸収率が高い傾向にある。このような第二の蛍光体としては、賦活剤としてCe3+,Eu2+及びYb2+からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む蛍光体を用いることができる。第二の蛍光体の母体は特に限定されないが、例えば酸化物、硫化物、窒化物、ハロゲン化物、酸硫化物、酸窒化物及び酸ハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0036】
より詳細に説明すると、第二の蛍光体の賦活剤は、固体光源から発せられた励起光(一次光)を吸収して、当該励起光よりも長波長の光成分に変換する性質を持つ蛍光イオンである。そして、第二の蛍光体の賦活剤は、パリティー許容遷移による蛍光を放射することが可能なイオンであり、例えばCe3+,Eu2+及びYb2+からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0037】
第二の蛍光体としては、上述の賦活剤を添加したハロリン酸塩、リン酸塩、ハロ珪酸塩、珪酸塩、アルミン酸塩、アルミノ珪酸塩、硼酸塩、ゲルマン酸塩、窒化珪酸塩、窒化アルミノ珪酸塩、酸窒化珪酸塩、酸窒化アルミノ珪酸塩がある。そのため、第二の蛍光体は、これらの中から照明設計に適するものを適宜選択して利用すればよい。
【0038】
なお、第二の蛍光体として特に好ましい蛍光体は、ガーネット型の結晶構造を持ち、Ce3+で賦活された複合酸化物蛍光体である。このようなCe3+賦活ガーネット蛍光体としては、LuAl(AlO:Ce3+、YAl(AlO:Ce3+、LuGa(AlO:Ce3+、及びYGa(AlO:Ce3+からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。また、Ce3+賦活ガーネット蛍光体は、これらの蛍光体を端成分としてなる固溶体であってもよい。
【0039】
当該Ce3+賦活ガーネット蛍光体は、青色光を吸収して黄色~緑色の光に変換する性質を持つものが多い。また、上述のように、Cr3+賦活ガーネット蛍光体は、青色光又は赤色光を吸収して深赤色~近赤外の光に変換する性質を持つものが多い。そのため、青色光を放つ固体光源と、第一の蛍光体としてのCr3+賦活ガーネット蛍光体と、第二の蛍光体としてのCe3+賦活ガーネット蛍光体とを利用することで、光の三原色を構成する光成分と、近赤外の光成分を含んでなる出力光を得ることができる。
【0040】
波長変換体10において、第二の蛍光体は、発光中心元素としてCeを含み、500nm以上600nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ蛍光体であることが好ましい。このような第二の蛍光体は、励起光を吸収して、緑色~黄色~橙色の蛍光を放つことができる。そのため、青色の励起光を放つ固体光源と、第二の蛍光体を含む波長変換体10とを組み合わせることで、青色の励起光と蛍光との加法混色で生成した白色光を出射することができる。そして、当該白色光を照明光として利用することができる。
【0041】
波長変換体10において、蛍光体部12は、第二の蛍光体に加えて、600nm以上700nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ第三の蛍光体をさらに含有することも好ましい。つまり、蛍光体部12は、第二の蛍光体の粒子及び第三の蛍光体の粒子の両方を封止材で封止してなる封止体であることが好ましい。このような第三の蛍光体は、励起光を吸収して、赤色の蛍光を放つことができる。
【0042】
ここで、上述のように、第二の蛍光体が500nm以上600nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ蛍光体である場合、青色の励起光を放つ固体光源と、第二の蛍光体とを組み合わせることで、白色光を出射することができる。そして、蛍光体部12が第二の蛍光体に加えて第三の蛍光体を含むことにより、白色光にさらに赤色光が加法混色されることから、白色光の演色性を高めることが可能となる。
【0043】
第三の蛍光体としては、600nm以上700nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ蛍光体であるならば特に限定されないが、例えばEu2+で賦活された窒化物又は酸窒化物からなる蛍光体を用いることができる。そして、このようなEu2+賦活窒化物系蛍光体としては、アルカリ土類金属窒化珪酸塩、アルカリ土類金属窒化アルミノ珪酸塩、アルカリ土類金属酸窒化珪酸塩、アルカリ土類金属酸窒化アルミノ珪酸塩の蛍光体を挙げることができる。また、Eu2+賦活窒化物系蛍光体としては、MAlSiN:Eu2+、MAlSi:Eu2+、MSi:Eu2+を挙げることができる。なお、Mは、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素である。さらに、Eu2+賦活窒化物系蛍光体としては、上記化合物の組成におけるSi4+-N3+の組み合わせの一部をAl3+-O2-で置換した蛍光体も挙げることができる。
【0044】
上述の構成を有する波長変換体10の作用について説明する。波長変換体10を用いた発光装置としては、図7に示すように、固体光源20から発せられた一次光L(励起光)が、波長変換体10を透過するような方向に出力光を放つ構成とすることができる。具体的には、波長変換体10の主表面11d(下面)に照射された一次光Lは、波長変換体10を透過する。一次光Lが波長変換体10を透過する際に、蛍光体セラミックス11に含まれる第一の蛍光体が一次光Lの少なくとも一部を吸収して第一の蛍光に変換する。そして、蛍光体セラミックス11の上端における主表面11aから、上方に向けて第一の蛍光を放射する。同様に、一次光Lが波長変換体10を透過する際に、蛍光体部12に含まれる第二の蛍光体が一次光Lの少なくとも一部を吸収して第二の蛍光に変換する。そして、蛍光体部12の上面から上方に向けて、第二の蛍光を放射する。その後、第一の蛍光及び第二の蛍光が混合された出力光が、発光装置の光出射面から放出される。
【0045】
ここで、上述のように、蛍光体セラミックス11に含まれる第一の蛍光体は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する蛍光体である。そのため、第一の蛍光体は固体光源20から照射された一次光Lを効率的に吸収することができないことから、蛍光体セラミックス11は第一の蛍光体を多量に含有する必要がある。ただ、蛍光体セラミックス11は、第一の蛍光体を含む焼結体であることから、第一の蛍光体の充填率が高い。そのため、蛍光体セラミックス11全体としては、一次光Lを効率的に吸収して、第一の蛍光に波長変換することができる。また、蛍光体セラミックス11の厚みtを調整することにより、一次光Lから第一の蛍光への変換効率を最適化することができる。
【0046】
これに対して、蛍光体セラミックス11に含まれる蛍光体部12は、パリティー許容遷移による蛍光を放射する蛍光体である。そのため、第二の蛍光体は、固体光源から照射された一次光Lを効率的に吸収することができることから、蛍光体部12は第二の蛍光体を多量に含有する必要がない。そして、上述のように、蛍光体部12は、第二の蛍光体の粒子を封止材で封止してなる封止体であることが好ましい。したがって、蛍光体部12に分散させる第二の蛍光体の量を調整することにより、一次光Lから第二の蛍光への変換効率を最適化することができる。また、蛍光体セラミックス11の凹部11cに充填される蛍光体部12の厚み、つまり、図3中のy軸方向の厚みを調整することによっても、一次光Lから第二の蛍光への変換効率を最適化することができる。
【0047】
上述のように、蛍光体セラミックス11は、複数の凸部11b及び複数の凹部11cからなる凹凸構造を有している。つまり、蛍光体セラミックス11の内部は、複数の凹部11cにより細かく分離した構成となっている。具体的には、図3に示すように、z軸方向に切り欠くことにより複数の凹部11cが形成されているため、蛍光体セラミックス11の内部は凹部11cにより分離した状態となっている。そのため、蛍光体セラミックス11内で波長変換された第一の蛍光は、図3のx軸に沿って導波し難いことから、第一の蛍光が蛍光体セラミックス11の側面11eから出射し難くなる。同様に、蛍光体部12内で波長変換された第二の蛍光も、x軸に沿って導波し難いことから、第二の蛍光が蛍光体セラミックス11の側面11eから出射し難くなる。その結果、第一の蛍光及び第二の蛍光は、蛍光体セラミックス11の主表面11a(上面)から出射しやすくなることから、波長変換体10からの蛍光の取り出し効率を高めることが可能となる。
【0048】
ここで、蛍光体セラミックス11に含まれる第一の蛍光体は、励起光から第一の蛍光への波長変換に伴って生じるエネルギー損失により発熱する場合がある。しかし、蛍光体セラミックス11は全体が無機材料からなることから、熱伝導性が高い。したがって、第一の蛍光体が発熱した場合でも、蛍光体セラミックス11を通じて外部に放熱することができ、その結果、第一の蛍光体の温度消光を抑制することができる。
【0049】
また、第二の蛍光体も、第一の蛍光体と同様に、励起光から第二の蛍光への波長変換に伴って生じるエネルギー損失により発熱する場合がある。ただ、第二の蛍光体を含有する蛍光体部12は、蛍光体セラミックス11の凹部11cの内部に配置されているため、蛍光体部12は蛍光体セラミックス11と直接接触している。また、蛍光体部12は、隣り合う凸部11bにより挟まれた構成となっている。さらに、蛍光体セラミックス11は無機材料からなることから、熱伝導性が高い。そのため、第二の蛍光体が発熱した場合でも、蛍光体部12の封止材及び蛍光体セラミックス11を通じて外部に放熱することができ、その結果、第二の蛍光体の温度消光を抑制することができる。
【0050】
図4に示すように、本実施形態の波長変換体10Aは、蛍光体セラミックス11における他方の主表面11dに、底壁部11fを備えてもよい。底壁部11fは、凸部11bと同じように、第一の蛍光体を含む焼結体からなる板部材であり、主表面11dの全体に形成されている。そして、凸部11bと底壁部11fとは一体的に形成されており、凸部11bと底壁部11fとにより凹部11cが形成されている。つまり、後述するように、蛍光体セラミックス11Aは、最初に、第一の蛍光体を含む略直方体状(板状)の焼結体を作製した後、ダイシング等により焼結体の表面を切り欠くことにより、凹部11cを形成している。そのため、蛍光体セラミックス11Aでは、凸部11bと底壁部11fは一体的な構成となっている。
【0051】
そして、図4に示すように、蛍光体セラミックス11Aにおける凹部11cに蛍光体部12を充填することにより、波長変換体10Aを得ることができる。このような波長変換体10Aにおいても、下面から一次光Lを照射することにより、一次光Lが底壁部11fを透過して、蛍光体セラミックス11の凸部11b及び蛍光体部12に到達する。そして、第一の蛍光体が一次光Lの少なくとも一部を吸収して第一の蛍光に変換し、主表面11aから上方に向けて第一の蛍光を放射する。同様に、第二の蛍光体が一次光Lの少なくとも一部を吸収して第二の蛍光に変換し、蛍光体部12の上面から上方に向けて第二の蛍光を放射する。
【0052】
本実施形態の波長変換体は、図3に示すように、平面視した場合に、蛍光体セラミックス11と蛍光体部12とが交互に積層したストライプ型とすることができる。ただ、本実施形態の波長変換体はこのような形状に限定されない。例えば図5の(a)(b)に示すように、平面視した場合に、蛍光体セラミックス11のマトリックスに蛍光体部12が分散したドット型であってもよい。また、図5の(c)(d)に示すように、平面視した場合に、蛍光体部12のマトリックスに蛍光体セラミックス11が分散したドット型であってもよい。
【0053】
ここで、図5(a)は、平面視した場合に、蛍光体セラミックス11のマトリックスに蛍光体部12が分散した構成を示す平面図である。図5(b)は、図5(a)中におけるB-B線に沿った断面図である。また、図5(c)は、平面視した場合に、蛍光体部12のマトリックスに蛍光体セラミックス11が分散した構成を示す平面図である。図5(d)は、図5(c)中におけるD-D線に沿った断面図である。
【0054】
図5中の(a)及び(b)に示すように、波長変換体10Bは、蛍光体セラミックス11Bの格子状マトリックスに、複数の蛍光体部12Bが分散した構成を有する。この場合、蛍光体部12Bよりも蛍光体セラミックス11Bの割合が高まることから、波長変換体10Bは、第一の蛍光を多く含む出力光を放つことができる。さらに、蛍光体部12Bの周囲は、蛍光体セラミックス11Bにより囲まれている。そのため、第二の蛍光体が発熱した場合でも蛍光体セラミックス11Bを通じて効率的に放熱して、第二の蛍光体の温度消光を抑制することができる。また、図5中の(c)及び(d)に示すように、波長変換体10Cは、蛍光体部12Cの格子状マトリックスに、複数の蛍光体セラミックス11Cが分散した構成を有する。この場合、蛍光体セラミックス11Cよりも蛍光体部12Cの割合が高まることから、波長変換体10Cは、第二の蛍光を多く含む出力光を放つことができる。
【0055】
ここで、蛍光体部12が凹部11cの内部に配置されていない蛍光体セラミックス11において、凹凸構造における断面曲線要素の平均長さPSmは400μm以下であることが好ましい。つまり、蛍光体セラミックス11自体の主表面11aの表面性状に関し、日本産業規格JIS B0601に規定された断面曲線要素の平均長さPSmは、400μm以下であることが好ましい。断面曲線要素の平均長さPSmが400μm以下であることにより、凸部11b及び凹部11cの周期が小さくなることから、凸部11bによる放熱特性を高めて、温度消光をより抑制することができる。また、上述のように、凸部11bの上面から第一の蛍光が放射され、蛍光体部12の上面から第二の蛍光が放射されることから、平均長さPSmを上記範囲内にして凸部11bの周期構造を微細にすることにより、蛍光の発光ムラを抑制することができる。
【0056】
なお、蛍光体セラミックス11に関し、凹凸構造における断面曲線要素の平均長さPSmは350μm以下とすることがより好ましく、300μm以下とすることがさらに好ましく、250μm以下とすることが特に好ましい。また、平均長さPSmの下限は特に限定されないが、例えば50μmとすることができる。
【0057】
本実施形態の波長変換体は、図1及び図2に示す波長変換体と同様に、基材の表面に載置することにより固定されてもよい。このような構成により、波長変換体の耐久性及び耐衝撃性を高めることができる。
【0058】
波長変換体を載置する基材としては、固体光源から発せられる励起光並びに第一の蛍光体及び第二の蛍光体から放射される蛍光を透過する特性を有するものを用いることができる。つまり、基材は、透光性を有するものとすることができる。このような基材は特に限定されないが、例えば石英、サファイヤ又は透光性蛍光セラミックスからなる基材を用いることができる。また、波長変換体を載置する基材としては、固体光源から発せられる励起光並びに第一の蛍光体及び第二の蛍光体から放射される蛍光を反射する特性を有するものを用いることができる。つまり、基材は、光反射性を有するものとすることができる。このような基材は特に限定されないが、例えば金属からなる基材を用いることができ、具体的にはアルミニウムからなる基材を用いることができる。
【0059】
次に、本実施形態に係る波長変換体の製造方法を説明する。図6(a)に示すように、まず、第一の蛍光体を含む略直方体状(板状)の焼結体11Dを作製する。焼結体11Dは、第一の蛍光体からなる粉末を加圧して圧粉体とした後、当該圧粉体を焼成することにより得ることができる。また、焼結体11Dは、第一の蛍光体を合成するための原料の粉末を加圧して圧粉体とした後、当該圧粉体を焼成することにより得ることができる。
【0060】
次いで、図6(b)に示すように、焼結体11Dの主表面から切り欠くことにより、凹部11cを形成する。凹部11cの形成方法は特に限定されないが、例えばダイシングソーを用いて行うことができる。また、ドリル等を用いて焼結体11Dに凹部11cを形成してもよい。このように凹部11cを形成することにより、蛍光体セラミックス11を得ることができる。
【0061】
なお、ダイシングにより凹部11cを形成する際、焼結体11Dの一方の主表面から他方の主表面にかけて焼結体11Dを切断する必要はない。つまり、図6(b)に示すように、焼結体11Dの一方の主表面から他方の主表面に向けて、焼結体11Dの途中まで切り込むことで、凹部11cを形成することができる。
【0062】
次に、図6(c)に示すように、得られた蛍光体セラミックス11の凹部11cに、第二の蛍光体を分散した封止材を充填する。その後、必要に応じて、蛍光体セラミックス11の主表面及び側面を研磨することにより、波長変換体を得ることができる。なお、図6(c)の波長変換体10Aは、底壁部11fを備えている。そのため、図6(d)に示すように、この底壁部11fを研磨して除去することにより、図3に示す波長変換体10を得ることができる。
【0063】
このように、本実施形態の波長変換体10は、パリティー禁制遷移による蛍光を放射する第一の蛍光体を含有する蛍光体セラミックス11と、パリティー許容遷移による蛍光を放射する第二の蛍光体を含有する蛍光体部12とを備える。蛍光体セラミックス11の主表面11aは、複数の凸部11b及び複数の凹部11cからなる凹凸構造を有している。そして、蛍光体セラミックス11における複数の凹部11cの内部には、蛍光体部12が配置されている。
【0064】
波長変換体10において、蛍光体セラミックス11は、第一の蛍光体を含む焼結体であることから、第一の蛍光体の充填率が高い。そのため、蛍光体セラミックス11全体としては、励起光を効率的に吸収して波長変換することができる。さらに、蛍光体セラミックス11の厚みtを調整することにより、励起光から第一の蛍光への変換効率を最適化することができる。また、蛍光体部12では第二の蛍光体が分散していることから、第二の蛍光体の量及び蛍光体部12の厚みを調整することにより、励起光から第二の蛍光への変換効率を最適化することができる。
【0065】
さらに、蛍光体セラミックス11の内部は凹部11cにより分離した状態となっているため、第一の蛍光及び第二の蛍光が、蛍光体セラミックス11の主表面11aから出射しやすくなる。そのため、波長変換体10からの蛍光の取り出し効率を高めることができる。さらに、蛍光体セラミックス11は無機材料からなることから、第一の蛍光体及び第二の蛍光体からの放熱を促進し、これらの温度消光を抑制することができる。このように、本実施形態の波長変換体10は、回転駆動装置を用いなくても、蛍光体の発光効率を高めることができる。
【0066】
また、波長変換体10を平面視した場合、蛍光体セラミックス11と蛍光体部12とが交互に積層されていることが好ましい。さらに、波長変換体10を平面視した場合、蛍光体部12が蛍光体セラミックス11を介して分離して配置されている、又は、蛍光体セラミックス11が蛍光体部12を介して分離して配置されていることも好ましい。このような構成により、波長変換体10の光出射面(主表面11a)における蛍光体セラミックス11の部分から第一の蛍光が直接出射され、光出射面における蛍光体部12の部分から第二の蛍光が直接出射される。そのため、波長変換体10からの第一の蛍光及び第二の蛍光の取り出し効率を高めることが可能となる。
【0067】
さらに、波長変換体10において、蛍光体セラミックス11の熱伝導率は、蛍光体部12の熱伝導率よりも大きいことが好ましい。上述のように、蛍光体部12は、蛍光体セラミックス11の凹部11cに配置されている。そのため、蛍光体セラミックス11の熱伝導率を蛍光体部12よりも高めることにより、第一の蛍光体及び第二の蛍光体の放熱を促進して、これらの温度消光を抑制することができる。
【0068】
[発光装置]
次に、本実施形態に係る発光装置について説明する。本実施形態の発光装置100は、図7に示すように、上述の波長変換体10と、波長変換体10に照射される光(励起光、一次光L)を放射する固体光源20とを備えている。このような固体光源20としては、400nm以上500nm未満、好ましくは440nm以上480nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ一次光Lを放つ固体発光素子を使用することができる。
【0069】
固体光源20は、例えば、発光ダイオード(LED)又はレーザーダイオードを用いることができる。そして、例えば、1W以上の高エネルギーの光を放つLEDモジュール又はレーザーダイオードを利用することにより、数百mWクラスの光出力を期待できる発光装置となる。また、3W以上あるいは10W以上の高エネルギーの光を放つLEDモジュールなどを利用することにより、数Wクラスの光出力を期待できる発光装置となる。さらに、30W以上の高エネルギーの光を放つLEDモジュールなどを利用することにより、10Wを超える光出力を期待できる発光装置となる。また、100W以上の高エネルギーの光を放つLEDモジュールなどを利用することにより、30Wを超える光出力を期待できる発光装置となる。
【0070】
固体光源20としてレーザーダイオードを利用し、一次光をレーザー光にすると、波長変換体10に高密度のスポット光を照射する仕様になる。そのため、得られる発光装置は、高出力の点光源とすることができるため、固体照明の産業利用の範囲を広げることが可能となる。このようなレーザーダイオードとしては、例えば、端面発光レーザー(EEL:Edge Emitting Laser)、垂直共振器面発光型レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)等を利用できる。
【0071】
波長変換体10と固体光源20との間には、光ファイバーなどの導光部材を介在させてもよい。これにより、波長変換体10と固体光源20とが、空間的に離れる構造にすることができる。そのため、発光部が軽くて自在に動かすことができ、その結果、照射場所を自在に変えることが容易な発光装置となる。
【0072】
上述のように、発光装置において、固体光源20は、発光ダイオード及びレーザーダイオードの少なくとも一方であることが好ましい。ただ、固体光源20はこれらに限定されず、高出力の一次光を放つことが可能であれば、あらゆる発光素子を用いることができる。
【0073】
なお、発光装置が備える固体光源20の個数は特に限定されず、単数であってもよく、複数であってもよい。固体光源20が複数であることにより、一次光の出力を大きくすることが容易にできるので、高出力化に有利な発光装置となる。
【0074】
固体光源20の個数は特に限定されないが、例えば、9個以上、16個以上、25個以上、36個以上、49個以上、64個以上、81個以上、100個以上から適宜選択すればよい。また、個数の上限も特に限定されるものではないが、例えば、9個以下、16個以下、25個以下、36個以下、49個以下、64個以下、81個以下、100個以下から適宜選択すればよい。
【0075】
発光装置において、固体光源20は、面発光形の面発光光源であることが好ましい。これにより、波長変換体10に照射する一次光の強度分布のばらつきや色調のむらを抑制するので、出力光の強度分布むらの抑制に有利な発光装置になる。
【0076】
図7に示す発光装置100では、固体光源20が放つ一次光を、波長変換体10における蛍光体セラミックス11及び蛍光体部12に直接照射している。つまり、波長変換体10の下面に照射された一次光Lの少なくとも一部は、蛍光体セラミックス11に含まれる第一の蛍光体及び蛍光体部12に含まれる第二の蛍光体に吸収される。第一の蛍光体は一次光Lを第一の蛍光に変換し、第二の蛍光体は一次光Lを第二の蛍光に変換する。そして、蛍光体セラミックス11の上端における主表面11aから、上方に向けて第一の蛍光を放射し、蛍光体部12の上面から上方に向けて、第二の蛍光を放射する。その後、第一の蛍光及び第二の蛍光が混合された出力光が、発光装置の光出射面から放出される。なお、当該出力光には、第一の蛍光及び第二の蛍光に加えて、波長変換体10を透過した一次光Lが含まれていてもよい。
【0077】
上述のように、波長変換体10は、基材の表面に載置することにより固定されてもよい。図8では、波長変換体10が透光性を有する基材13により固定されてなる発光装置100Aを示している。このような発光装置100Aにおいて、下方から基材13に向けて照射された一次光Lは、基材13を透過して、波長変換体10に到達する。そして、上述のように、一次光Lは、蛍光体セラミックス11に含まれる第一の蛍光体及び蛍光体部12に含まれる第二の蛍光体により波長変換される。その後、第一の蛍光及び第二の蛍光が混合された出力光が、発光装置100Aの出射面から放出される。なお、当該出力光には、第一の蛍光及び第二の蛍光に加えて、基材13及び波長変換体10を透過した一次光Lが含まれていてもよい。
【0078】
次に、本実施形態の発光装置に関し、性能改善のための改良例について説明する。
【0079】
本実施形態の発光装置は、固体光源20を高出力型のものにする、又は固体光源20の数を増やすなどの手段によって、出力光を構成する光子の絶対数を増加させることができる。これにより、発光装置から放出される出力光の光エネルギーを、3W、好ましくは10W、より好ましくは30Wを超えるものにすることができる。このような高出力型の発光装置とすることにより、強い出力光(例えば、近赤外光)で照らすことができるため、照射対象物との距離が大きくても、比較的強い近赤外線を照射することができる。また、照射対象物が微小なものや厚みを持つものであっても、対象物に関わる情報を得ることが容易な発光装置にもなる。
【0080】
また、発光装置は、固体光源20をレーザーダイオードなどの高光密度の一次光を放つ発光素子にする、又は固体光源20が放つ光を光学レンズで集光するなどの手段によって、蛍光体に供給する光子密度を高めることもできる。例えば、固体光源20が放つ一次光の光エネルギー密度は、0.3W/mm、好ましくは1.0W/mm、より好ましくは3.0W/mmを超えるものにすることができる。この場合、一次光の光エネルギー密度が大きいため、光拡散させた一次光を波長変換体に照射する構成にしても、比較的強い出力光を放つ発光装置になる。また、光拡散させない一次光を波長変換体に照射する構成にすると、光エネルギー密度が大きい出力光を放つ発光装置になる。そのため、光出射面が小さな発光素子を利用しつつ、出力光を大面積に照射できる発光装置や、光エネルギー密度が大きな出力光を照射する発光装置を提供することができる。さらに、例えば、光エネルギー密度が大きな近赤外光を点出力することが可能な発光装置にもなる。なお、固体光源が放つ一次光の光エネルギー密度の上限は特に限定されないが、例えば30W/mmとすることができる。
【0081】
そして、このような高光密度の一次光を放つ固体光源20を用いることで、波長変換体は、放出する光のエネルギー密度を0.3W/mm、好ましくは1.0W/mm、より好ましくは3.0W/mmを超えるものにすることができる。
【0082】
なお、適切な固体光源を選択することによって、出力光における、440nmよりも波長が短い領域の光成分の強度を、蛍光強度最大値の3%を下回るものに調整することができる。また、出力光における、440nmよりも波長が短い領域の光成分の強度を、蛍光強度最大値の1%を下回るものに調整することもできる。このようにすると、フォトレジストが感光しやすい、紫外~青の波長領域の光成分の強度がゼロに近い出力光になるため、半導体関連の検査作業用として有利な発光装置になる。
【0083】
本実施形態の発光装置は、配光特性を制御する配光制御機構をさらに備えてもよい。このような構成にすると、例えば車載用の配光可変型の照明システムなど、所望の配光特性を持つ出力光を得る上で有利な発光装置になる。
【0084】
本実施形態の発光装置は、投入電力の制御装置など、出力光の強度を変える出力強度可変機構をさらに備えてもよい。このような構成にすると、近赤外線照射によって損傷しやすい食品や薬剤などの検査に有利な発光装置になる。
【0085】
本実施形態の発光装置は、例えば、700nm以上2500nm未満の波長範囲内に蛍光強度最大値を持つ光成分のピーク波長を変える可変機構をさらに備えてもよい。このような構成にすると、汎用性が大きく、雑多な用途への対応が容易な発光装置になる。また、照射対象物の内部への光の侵入深さは波長によって変わるため、照射対象物の深さ方向の検査に有利な発光装置にもなる。なお、このような蛍光ピーク波長の可変機構としては、例えば、バンドパスフィルターやローカットフィルターなどの光学フィルターを用いることができる。
【0086】
本実施形態の発光装置は、出力光の少なくとも一部の出力をON-OFF制御する光制御機構をさらに備えてもよい。このような構成にしても、汎用性が大きく、雑多な用途への対応が容易な発光装置になる。
【0087】
なお、本実施形態の発光装置は、出力光における、波長700nm未満の可視の光成分及び波長700nm以上の光成分をパルス光とすることができる。パルス光の照射時間の半値幅は、300ms未満とすることができる。また、出力光の出力強度が大きいほど、半値幅を短くすることができる。そのため、出力光の出力強度に合わせて、半値幅を100ms未満、30ms未満、10ms未満、3ms未満、又は1ms未満とすることができる。なお、パルス光の消灯時間は、1ms以上10s未満とすることができる。
【0088】
ここで、人の目は、50~100Hz(周期20~10ms)の光をフリッカーとして感じることが報告されている。また、ハトなどの鳥類は150Hz(周期6.7ms)前後の光をフリッカーとして感じ、ハエなどの昆虫は300Hz(周期3.3ms)前後の光をフリッカーとして感じることが報告されている。そのため、これらの生き物がフリッカーを感じない30ms未満の消灯時間が一つの好ましい形態となる。
【0089】
一方で、強い光照射は、照らした物に損傷を与えるリスクを持つので、フリッカーを気にする必要性がない用途では、パルス光の消灯時間は、100ms以上、特に300ms以上が好ましい形態となる。
【0090】
なお、人の毛髪や体毛の成長調整をする目的で好ましい、出力光の光エネルギーは、0.01J/cm以上1J/cm未満である。そして、発光装置から発せられる出力光の光エネルギーをこの範囲とし、当該出力光を毛根部付近に照射すると、皮膚内部に存在するメラニンに光を吸収させることができる。その結果、毛髪等の成長を調整することができる。
【0091】
ここで、出力光の1/10残光時間、つまり消灯する直前の光強度が1/10に強度低下するまでの時間は、100μs未満であることが好ましく、10μs未満であることがより好ましく、1μs未満であることが特に好ましい。これにより、瞬時点灯や瞬時消灯し得る発光装置を得ることができる。
【0092】
本実施形態の発光装置は、120nm以上380nm未満、好ましくは250nm以上370nm未満の波長範囲内に強度最大値を持つ紫外線を放つ紫外光源を、さらに備えることもできる。このようにすると、紫外線による殺菌効果なども併せ持つ発光装置になる。
【0093】
本実施形態の発光装置は、医療用発光装置であることが好ましい。つまり、近赤外の光成分を放つことが可能な本実施形態の発光装置は、医療用又はバイオ技術用の光源又は照明装置とすることができる。特に、本実施形態の発光装置は、蛍光イメージング法若しくは光線力学療法に使用される医療用発光装置、又は細胞、遺伝子及び検体などの検査並びに分析などに使用されるバイオ技術用発光装置とすることができる。近赤外の光成分は、生体や細胞などを透過する性質を持つため、このような発光装置により、体内外から患部の観察や治療を行ったり、バイオ技術に利用することが可能となる。
【0094】
また、近赤外の光成分を放つことが可能な本実施形態の発光装置は、センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムとすることもできる。このようにすると、例えば、有機物を透過する性質を持つ近赤外の光成分や、物体によって反射される近赤外の光成分を利用して、有機物製の袋又は容器における中身又は異物を、未開封状態で検査することができる。また、このような発光装置により、人を含む動植物や物の監視を行うことができる。
【0095】
[電子機器]
次に、本実施形態に係る電子機器について説明する。本実施形態に係る電子機器は、上述の発光装置を備えている。図9では、本実施形態に係る電子機器の一例を概略的に示している。電子機器200は、電源回路31と、導体32と、波長変換体10及び固体光源20を備える発光装置100と、を少なくとも備えている。
【0096】
電源回路31は、発光装置100における固体光源20に電力を供給する。また、電源回路31は、導体32を通じて、固体光源20に電気エネルギーを供給する。
【0097】
発光装置100は、上述のように、電気エネルギーを光エネルギーに変換するものである。発光装置100は、電源回路31から供給された電気エネルギーの少なくとも一部を、出力光33となる光エネルギーに変換して出力する。なお、図9の発光装置100は、近赤外の光を含む出力光33を放出する構成となっている。
【0098】
図9の電子機器200は、第一の検出器37A及び第二の検出器37Bをさらに備えている。第一の検出器37Aは、発光装置100から放射され、被照射物34に照射された出力光33の透過光成分35を検知する。具体的には、第一の検出器37Aは、被照射物34を透過した透過光成分35における近赤外光を検知する。第二の検出器37Bは、発光装置100から放射され、被照射物34に照射された出力光33における反射光成分36を検出する。具体的には、第二の検出器37Bは、被照射物34で反射した反射光成分36における近赤外光を検知する。
【0099】
このような構成の電子機器200では、被照射物34に近赤外の光成分を含む出力光33が照射され、被照射物34を透過した透過光成分35及び被照射物34で反射された反射光成分36を、それぞれ第一の検出器37A及び第二の検出器37Bで検出する。そのため、電子機器200により、近赤外の光成分が関与する被照射物34の特性情報を検出することが可能となる。
【0100】
ここで、本実施形態の発光装置は、可視光と近赤外光とを含み、人の目にも検出器にも都合のよい出力光33を放出することができる。そのため、当該発光装置と近赤外線の検出器と組み合わせることで、産業用途に適する電子機器となる。
【0101】
また、本実施形態の発光装置は、出力光33のエネルギーが大きく、広い範囲を照らす構成にすることができる。そのため、離れた距離から出力光33を被照射物34に照射しても、S/N比(シグナル/ノイズ比)の良好な信号を検出することができる。したがって、大きな被照射物34の検査や、広範囲に分布する物の一括検査、広範囲に亘る検査面積の一部に存在する物の検知、遠方からの人や物の検知などに適する電子機器になる。
【0102】
参考のため、本実施形態の発光装置のサイズを説明すると、例えば、発光装置100の主光取り出し面の面積は、1cm以上1m未満、好ましくは10cm以上1000cm未満とすることができる。また、発光装置100から被照射物34までの最短距離は、例えば、1mm以上10m未満である。強い近赤外線を被照射物34に照射する必要がある場合、例えば、医療、美容、繊細な異物検査などの場合では、発光装置100から被照射物34までの最短距離は、例えば、1mm以上30cm未満、好ましくは3mm以上10cm未満とすることができる。さらに、広い範囲の被照射物34の検査を行う必要がある場合では、発光装置100から被照射物34までの最短距離は、30cm以上10m未満、好ましくは1m以上5m未満とすることができる。
【0103】
なお、強い近赤外線を広い範囲に亘って照射する必要がある場合、発光装置100が可動する構成にすることが好ましく、照らす物の形態によって自在に動き得る構成とすることがより好ましい。例えば、発光装置100は、直線又は曲線上を往来し得る構造や、XY軸方向あるいはXYZ方向に走査し得る構造、移動体(自動車、自転車、ドローンなどの飛行体)に取り付けられた構造にすることができる。
【0104】
第一の検出器37A及び第二の検出器37Bは、各種の光検出器を使用することができる。具体的には、光が半導体のPN接合に入射したときに生じる電荷を検出する量子型の光検出器(フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトIC、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなど)を用いることができる。また、光検出器としては、光を受光したときに発生する熱による温度上昇によって生じる電気的性質の変化を検知する熱型の光検出器(熱電効果を利用するサーモパイル、焦電効果を利用する焦電素子など)、又は光に感光する赤外線フィルムなども用いることができる。
【0105】
第一の検出器37A及び第二の検出器37Bとしては、光電変換素子を単体で利用した単独素子を使用してもよく、光電変換素子を集積化した撮像素子を使用してもよい。撮像素子の形態は、一次元的に配置した線型のものであってもよく、二次元的に配置した面型のものであってもよい。第一の検出器37A及び第二の検出器37Bとしては、撮像カメラを使用することもできる。
【0106】
なお、図9の電子機器200は、第一の検出器37A及び第二の検出器37Bの両方を備えているが、当該電子機器は第一の検出器37A及び第二の検出器37Bの少なくとも一方を備えていればよい。
【0107】
また、本実施形態の電子機器は、出力光を用い、被照射物の検査装置、検知装置、監視装置又は分別装置として利用することができる。出力光が持つ近赤外の光成分は、殆どの物質を透過する性質を持つ。そのため、物質の外部から近赤外の光を照射して、その透過光又は反射光を検出する構成とすることによって、物質を破壊することなく、内部の状態や異物の有無などを検査することができる。
【0108】
また、近赤外の光成分は人の目に見えず、その反射特性は物質に依存する。そのため、物に近赤外の光を照射し、その反射光を検出する構成とすることによって、人に悟られること無く、暗闇などにおいても人や動植物、物などを検知することができる。
【0109】
さらに、本実施形態の電子機器は、物質を破壊することなく、その内部の状態や異物の有無などを検査して、物質の良否を判定し、良品と不良品の選別をすることができる。そのため、電子機器が、正常状態の被照射物と異常状態の被照射物とを分別する機構をさらに備えることによって、物の分別を行うことが可能となる。
【0110】
本実施形態の電子機器において、発光装置1は、可動式になっておらず、固定式とすることもできる。このようにすると、発光装置を機械的に動かすための複雑な機構を備える必要がないため、故障が発生し難い電子機器になる。また、発光装置を屋内又は屋外で固定することにより、予め定めた場所における、人や物の状態を定点観察したり、人や物の数をカウントすることができる。そのため、課題の発見やビジネス活用などに役立つビッグデータの収集に有利な電子機器となる。
【0111】
本実施形態の電子機器は、発光装置1を可動式とし、照射する場所を変えることもできる。例えば、発光装置1を移動ステージや移動体(車両、飛行体など)に取り付けて、可動式にすることができる。このようにすると、発光装置1が、所望の場所や広い範囲を照射し得るものになるため、大型の物の検査や屋外における物の状態の検査に有利な電子機器になる。
【0112】
本実施形態の電子機器は、発光装置に加えて、さらに撮像カメラとしてのハイパースペクトルカメラを備える構成とすることができる。これにより、当該電子機器は、ハイパースペクトルイメージングを行うことができる。ハイパースペクトルカメラを備えた電子機器は、肉眼や通常のカメラでは判別できない違いを画像として見分けることができるため、製品の検査や選別などに関わる幅広い分野で有用な検査装置になる。
【0113】
具体的には、図10に示すように、電子機器200Aは、発光装置100と、ハイパースペクトルカメラ41とを備えている。そして、コンベア42の表面42aに載置されている被照射物43に対して、発光装置100から出力光44を照射しつつ、ハイパースペクトルカメラ41で被照射物43からの反射光45を撮像する。そして、得られた被照射物43の画像を解析することにより、被照射物43の検査や選別を行うことができる。
【0114】
本実施形態の電子機器は、発光装置に加えて、さらに機械学習するデータ処理システムを備えるものにすることも好ましい。これにより、コンピューターに取り込んだデータを反復的に学習し、そこに潜むパターンを見つけ出すことができるようになる。また、新たに取り込んだデータをそのパターンに当て嵌めることもできるようになる。そのため、検査・検知・監視などの自動化や高精度化、さらにはビッグデータを利用する将来予測などに有利な電子機器になる。
【0115】
本実施形態の電子機器は、医療用、動物医療用、バイオ技術用、農林水産業用、畜産業用(食肉・肉製品・乳製品など)、工業用(異物検査、内容量検査、形状検査、包装状態検査など)に利用することができる。また、電子機器は、医薬品、動物実験、食品、飲料、農林水産物、畜産物、工業製品の検査用にも利用することができる。言い換えれば、本実施形態の電子機器は、人体、動植物、物体のいずれにも利用することができ、さらに気体、液体、固体のいずれにも利用することもできる。
【0116】
本実施形態の電子機器は、医療機器、治療機器、美容機器、健康機器、介護関連機器、分析機器、計測機器、評価機器として用いることが好ましい。
【0117】
例えば、医療やバイオ技術開発の目的において、本実施形態の電子機器は、1)血液・体液・それらの成分、2)排泄物(尿・便)、3)たんぱく質・アミノ酸、4)細胞(がん細胞を含む)、5)遺伝子・染色体・核酸、6)生体試料・細菌・検体・抗体、7)生体組織・臓器・血管、8)皮膚病・脱毛症、の検査、検出、測定、評価、分析、解析、観察、監視、分離、診断、治療、浄化などに使用することができる。
【0118】
また、例えば、美容やヘルスケアの目的において、本実施形態の電子機器は、1)皮膚、2)毛髪・体毛、3)口内・歯内・歯周、4)耳・鼻、5)バイタルサイン、の検査、検出、測定、評価、分析、解析、観察、監視、美化、衛生、発育促進、健康増進、診断などに使用することができる。
【0119】
例えば、農林水産業、畜産業、工業の目的において、本実施形態の電子機器は、1)工業製品(電子部材・電子デバイスを含む)、2)農産物(青果物など)、3)酵素・菌、4)海産物(魚類・貝類・甲殻類・軟体類)、5)医薬品・生体試料、6)食品・飲料、7)人・動物・物の存在・状態、8)ガス(水蒸気を含む)の状態、9)液体・流体・水・湿度、10)物の形状・色・内部構造・物理状態、11)空間・位置・距離、12)物の汚染状態、13)分子・粒子の状態、14)産業廃棄物の検査、検出、測定、計測、評価、分析、解析、観察、監視、認識、選別、分別などに使用することができる。
【0120】
例えば、介護の目的において、本実施形態の電子機器は、排泄確認や健康状態の識別、管理、監視などに使用することができる。
【0121】
このように、本実施形態の電子機器は、検査、検出、測定、計測、評価、分析、解析、観察、監視、認識、選別、分別など、あらゆる用途に対応できるものになる。
【実施例
【0122】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0123】
[波長変換体の作製]
(実施例)
まず、化学反応によってCr3+で付活された複合金属酸化物からなる第一の蛍光体を生成するように、表1に示す原料を秤量した。なお、Cr3+で付活された複合金属酸化物は、(Gd0.95La0.05(Ga0.97Cr0.03(GaOの組成式で表され、ガーネット型の結晶構造を持つ(Gd,La)Ga(GaO:Cr3+蛍光体とした。以後、(Gd,La)Ga(GaO:Cr3+蛍光体をGLGG蛍光体ともいう。また、表1に示す原料は、次のものを使用した。
酸化ガドリニウム(Gd):純度3N、日本イットリウム株式会社製
水酸化ランタン(La(OH)):純度3N、信越化学工業株式会社製
酸化ガリウム(Ga):純度4N、アジア物性材料株式会社製
酸化クロム(Cr):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
【0124】
【表1】
【0125】
次に、秤量した原料を混合した後、蛍光体原料をΦ13mmの金型に充填し、約2MPaのゲージ圧力でプレス成形することにより、蛍光体原料からなる板状の圧粉体を得た。次いで、当該圧粉体をアルミナ製の大型焼成ボートに設置したアルミナ板の上に載置し、管状雰囲気炉を利用して、1500~1600℃の窒素雰囲気中で2時間の焼成を行った。なお、焼成時の昇降温速度は、150℃/hとした。このようにして、板状の焼結体が得られた。この焼結体の天面と底面を研磨機で機械的に研磨して厚みを300μmとすることにより、GLGG蛍光体からなる焼結体11Dを得た。
【0126】
さらに、ダイシングソーを用いて、焼結体11Dの主表面から切り欠くことにより、図6(b)に示すような複数の凹部11cを形成した。なお、x軸方向における各凹部11cの幅は160μmとし、各凸部11bの幅も160μmとした。そのため、蛍光体セラミックスの凹凸構造における断面曲線要素の平均長さPSmは320μmとした。なお、y軸方向における各凹部11cの深さは、200μmとした。
【0127】
次に、第二の蛍光体として、YAl(AlO:Ce3+蛍光体(YAG蛍光体)を準備した。YAG蛍光体は、株式会社東京化学研究所製で、中心粒径D50が約24μmのものを使用した。このYAG蛍光体は、波長540nm付近に蛍光ピークを持ち、黄緑色光を放つものであった。さらに、YAG蛍光体の封止材として、二液混合型の熱硬化シリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製、製品名:KER-2500A/B)を準備した。
【0128】
次に、YAG蛍光体とシリコーン樹脂とを、攪拌脱泡装置を使用して混合し、さらに脱泡した。このようにして、YAG蛍光体とシリコーン樹脂とからなる蛍光体ペーストを作製した。なお、蛍光体ペーストにおけるYAG蛍光体の含有量は、30体積%とした。
【0129】
このようにして得られた蛍光体ペーストを、蛍光体セラミックスの凹部11cの全体に滴下した。そして、凹部11cに蛍光体ペーストを充填した蛍光体セラミックスを150℃の大気中で2時間加熱することにより、蛍光体ペーストを硬化させた。これにより、図6(c)に示すような波長変換体を得た。さらに、当該波長変換体の底壁部11fを除去するように研磨することで、図6(d)に示すような本例の波長変換体を得た。なお、本例の波長変換体の厚みtは、200μmであった。得られた波長変換体を平面視した際の写真を図11に示す。
【0130】
(比較例)
まず、次のようにして、GLGG蛍光体の粒子を作製した。最初に、表1に示すように蛍光体原料を秤量した。次いで、秤量した原料20gを、容量250mlであるアルミナ製のポットミルに投入し、さらにアルミナボール及びエタノール60mlを投入した。アルミナボールは、直径φ3mmであり、合計200g投入した。そして、ポットミルを、遊星ボールミルを用いて回転速度150rpmで30分間混合した。
【0131】
次いで、ふるいを利用してアルミナボールを取り除き、原料とエタノールからなるスラリー状の混合原料を得た。その後、スラリー状の混合原料を、乾燥機を用いて125℃で全量乾燥させた。そして、乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて軽く混合することにより、蛍光体原料とした。
【0132】
次に、蛍光体原料をアルミナ製の焼成容器(材質SSA-H、B3サイズ、蓋付き)に入れ、箱型電気炉を利用して、1500℃の大気中で2時間の焼成を行った。なお、焼成時の昇降温速度は300℃/hとした。
【0133】
得られた焼成物を、アルミナ製の乳鉢と乳棒を用いて手解砕した後、ナイロンメッシュ(目開き95μm)を通過させて粗大粒子を除去した。これにより、(Gd0.95La0.05(Ga0.97Cr0.03(GaOの組成式で表される粉末状のGLGG蛍光体を得た。
【0134】
次に、このGLGG蛍光体を用いて、第一の蛍光体シートを作製した。具体的には、まず、樹脂中のGLGG蛍光体粉末の充填率が30体積%となるように、シリコーン樹脂とGLGG蛍光体を秤量した。なお、シリコーン樹脂は、実施例と同じものを用いた。次いで、乳鉢と乳棒を用いて、シリコーン樹脂と蛍光体粉末を混合した。そして、得られた混合物を真空引き(脱泡処理)することによって、蛍光体ペーストを得た。
【0135】
次いで、ガラス基板上に蛍光体ペーストを滴下し、スキージを利用して表面を平滑化した。そして、蛍光体ペーストを150℃の大気中で2時間加熱して硬化させることにより、第一の蛍光体シートを得た。なお、第一の蛍光体シートの厚みは、100μmとした。
【0136】
さらに、実施例と同じYAG蛍光体を用いて、第二の蛍光体シートを作製した。具体的には、まず、樹脂中のYAG蛍光体粉末の充填率が30体積%となるように、シリコーン樹脂とYAG蛍光体を秤量した。なお、シリコーン樹脂は、実施例と同じものを用いた。次いで、乳鉢と乳棒を用いて、シリコーン樹脂と蛍光体粉末を混合した。そして、得られた混合物を真空引き(脱泡処理)することによって、蛍光体ペーストを得た。
【0137】
次いで、ガラス基板上に蛍光体ペーストを滴下し、スキージを利用して表面を平滑化した。そして、蛍光体ペーストを150℃の大気中で2時間加熱して硬化させることにより、第二の蛍光体シートを得た。なお、第二の蛍光体シートの厚みは、100μmとした。
【0138】
そして、図12に示すように、得られた第一の蛍光体シート51及び第二の蛍光体シート52を重ね合わせることにより、本例の波長変換体を得た。なお、本例の波長変換体の厚みは、200μmであった。
【0139】
[評価]
実施例及び比較例の波長変換体にレーザー光を照射し、波長変換体から放射される出力光の放射束及び分光分布を測定した。具体的には、実施例及び比較例の波長変換体の主表面にレーザー光を照射した後、波長変換体から放射された出力光を積分球(φ20インチ、品番:LMS-200、Labsphere社製)で積分した。そして、全光束測定システム(品番:SLMS-CDS-2021、Labsphere社製)を用いて、出力光の放射束及び分光分布を測定した。なお、レーザー光は波長450nmの青色光とし、出力は0.5W,1.0W,1.5W,2.0W,2.5W、3.0Wとした。また、比較例の波長変換体は、YAG蛍光体が分散した第二の蛍光体シート側からレーザー光を照射した。
【0140】
図13は、実施例及び比較例の波長変換体に関し、レーザー光の出力と、波長変換体から放射された蛍光の出力(放射束)との関係を示している。図13から分かるように、実施例の波長変換体は、レーザー光の出力が高まるにつれて、波長変換体からの出力も高まる傾向にあった。なお、レーザー光の出力が3Wになると、波長変換体からの出力が低下したが、これは蛍光体部におけるシリコーン樹脂が焦げて黒色化したためである。また、比較例の波長変換体もレーザー光の出力が高まるにつれて、波長変換体からの出力も高まる傾向にあった。ただ、レーザー光の出力が2Wになると、シリコーン樹脂が焦げて黒色化したため、波長変換体からの出力が低下する結果となった。
【0141】
このように、実施例の波長変換体は、比較例に比べて、放射される蛍光の出力が高いことが分かる。また、実施例の波長変換体は、比較例に比べて放熱性が高く、耐熱性に優れることが分かる。
【0142】
図14では、実施例の波長変換体にレーザー光を照射した場合における、レーザー光の出力と当該波長変換体から放射される出力光の分光分布との関係を示している。また、図15では、比較例の波長変換体にレーザー光を照射した場合における、レーザー光の出力と当該波長変換体から放射される出力光の分光分布との関係を示している。
【0143】
図14より、実施例の波長変換体では、波長550nm付近と波長740nm付近に発光ピークを持つ分光分布が得られた。そのため、実施例の波長変換体は、緑色光と近赤外光の両方を高効率で放射できることが分かる。また、レーザー光の出力を0.5Wから2.5Wまで高めても、緑色光と近赤外光の両方を高効率で放射できることが分かる。これに対して、図15より、比較例の波長変換体は、波長550nm付近に強い発光ピークを持つものの、波長740nm付近の発光ピークは実施例と比べて大きく低下した。この理由は、レーザー光がYAG蛍光体で多く吸収されるため、GLGG蛍光体での吸収が不十分になるためと推測される。また、レーザー光の出力を0.5Wから1.5Wまで高めた場合、緑色光の強度は向上するものの、近赤外光の強度は大きく向上しないことが分かる。
【0144】
このように、実施例の波長変換体は、回転駆動装置を用いなくても、パリティー禁制遷移による蛍光とパリティー許容遷移による蛍光の両方を高効率で放射できることが分かる。
【0145】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0146】
特願2021-024564号(出願日:2021年2月18日)の全内容は、ここに援用される。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本開示によれば、回転駆動装置を用いなくても、蛍光体の発光効率を高めることが可能な波長変換体、及び当該波長変換体を用いた発光装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0148】
10,10A,10B,10C 波長変換体
11,11A,11B,11C 蛍光体セラミックス
11a 蛍光体セラミックスの主表面
11b 凸部
11c 凹部
12,12B,12C 蛍光体部
20 固体光源
100,100A 発光装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15