(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】放射線環境用光ファイバ計測ケーブル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20240816BHJP
G02B 6/00 20060101ALI20240816BHJP
G01D 5/353 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G02B6/44 396
G02B6/00 B
G01D5/353 B
G02B6/44 381
(21)【出願番号】P 2023568421
(86)(22)【出願日】2022-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2022031033
(87)【国際公開番号】W WO2024038512
(87)【国際公開日】2024-02-22
【審査請求日】2023-11-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303021609
【氏名又は名称】ニューブレクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】523416368
【氏名又は名称】アジャンス ナショナル プル ラ ジェスチョン デ ディシェ ラディオアクティフ
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 欣増
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラン ヨハン
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112415695(CN,A)
【文献】特表2012-523578(JP,A)
【文献】特開2007-225785(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0240163(US,A1)
【文献】特開2002-023030(JP,A)
【文献】特開2000-227368(JP,A)
【文献】特開2009-063356(JP,A)
【文献】特開2020-177216(JP,A)
【文献】中国実用新案第207408016(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/00
G02B 6/02
G02B 6/245- 6/25
G02B 6/44 - 6/54
G01D 5/26 - 5/38
G01K 1/00 -19/00
G21C17/00 -17/14
G21F 1/00 - 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分布計測可能なセンサである計測用の光ファイバを内部に有するともに、無機-有機混成ポリマー膜で表面を被覆された光ケーブルと、
前記光ケーブルを内蔵するとともに、前記無機-有機混成ポリマー膜を介して接して前記光ケーブルを被覆するように構成された耐放射線性を有するPEEK製のベース材をテープ状に形成した、
ことを特徴とする放射線環境用光ファイバ計測ケーブル。
【請求項2】
前記ベース材は、表面がエンボス加工されていることを特徴とする請求項1に記載の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル。
【請求項3】
前記ベース材は、長手方向の外縁に沿って複数の据付用孔を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル。
【請求項4】
前記光ファイバはシングルモード光ファイバであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル。
【請求項5】
前記光ファイバはマルチモード光ファイバであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル。
【請求項6】
テンションメンバが含まれていないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル。
【請求項7】
前記光ケーブルは、前記ベース材の軸に直交する断面の中央部分に配置されていることをと特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、放射線環境用光ファイバ計測ケーブルに関わる。
【背景技術】
【0002】
原子力発電の関わる技術は、グリーンエネルギーを重視する社会的な要請の背景の下、一層発展が期待されている技術の1つである。この技術は環境適合性、コスト、応用信憑性が高い一方、最大の問題はその安全性にあり、この安全性のテーマに対して、DFOSによる安全性に関わる側面からの原子力発電システムについての常時監視は、問題解決の筋道を与えるものと期待される。
【0003】
特性核廃棄物の安全な貯留については、埋蔵(deposit)から貯蔵(reposit)への方針転換がなされ、貯蔵の際には、光ファイバが長期間、放射線により被爆されるため、耐高温特性、および耐燃焼性に加え、耐放射能性が求められる。
【0004】
光ファイバを原子力発電施設で使用する場合には、放射線環境での使用に適したケーブル材を選択する必要がある。このようなケーブル材を検討した例として、日本原子力開発機構で実施された、J-PARC 3-GeV RCS(Rapid Cycling Synchrotron)真空機器に用いるPEEK(Poly Ether Ether Ketone。ポリエーテルエーテルケトン)ケーブルの検討が挙げられる。
【0005】
上記のような、放射線環境での使用に適したケーブル材としては、ノンハロゲン性、耐放射線性、および高難燃性を満足することが要求されるが、上記の検討例では、さらに、通常の機械的特性の要件を満たす必要から、伸び率が比較的大きいPEEK樹脂が絶縁材料として選択された。また、耐放射線性を実証するため、ガンマ線照射試験が、3つの試験項目、すなわち、照射特性試験、電気的特性試験、および耐延焼性試験について実施され、10MGyの耐放射線性(10MGyまでの放射線によって劣化しない特性)が確認された。従ってPEEKケーブルは、3GeVRCS放射線環境下で安定して動作することが期待できる(例えば非特許文献1参照)。
【0006】
上述のように、PEEKケーブルは、高コストではあるが、ケーブル絶縁に必要な、ノンハロゲンベース、高難燃性、少なくとも10MGyの耐放射線性、及び通常の機械的特性の要件を満たす主要な候補となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】三尾他、「耐放射線性PEEKケーブルの開発」、JAEA-Technology、2009-018、2009年4月
【文献】ニューブレクス社カタログ、“FN-SILL-3, Embossed Sensing Cable”、Rev.5.0,2017年4月、 [online]、インターネット<URL:https://www.neubrex.com/htm/products/pro-fiber_7.htm>
【文献】Kay Schuster et al., ”Innovative fiber coating systems based organic modified ceramics”, Proc. of SPIE, Vol.7598, 75981H1-75981H8, 2010
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
放射線環境下でのFOセンシングにおいても、参照できる、様々な厳しいテストが報告されていることを考慮して、光ファイバ計測ケーブルとしての光ファイバを実装するベース材料としては、以上の背景も踏まえ、上述のPEEK材を選択することができる。
【0010】
しかしながら、製品レベルとして、耐高温性、耐燃焼性、および耐放射線性を満たした光ファイバケーブルはなく、上記PEEK材は、電線での実績はある(放射性適応性の高いCERN(欧州原子核研究機構)の電気ケーブルコート材料に使用されたことが報告されている)が、ひずみと温度を同時に計測する光ファイバを上記PEEK材に実装したものは未だ実現されていない。
【0011】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであって、耐高温性、耐燃焼性、および耐放射線性を満たした、放射線環境下で使用できる新たな光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願に開示される放射線環境用光ファイバ計測ケーブルは、
分布計測可能なセンサである計測用の光ファイバを内部に有するともに、無機-有機混成ポリマー膜で表面を被覆された光ケーブルと、
前記光ケーブルを内蔵するとともに、前記無機-有機混成ポリマー膜を介して接して前記光ケーブルを被覆するように構成された耐放射線性を有するPEEK製のベース材をテープ状に形成した、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本願に開示される放射線環境用光ファイバ計測ケーブルによれば、耐高温性、耐燃焼性、および耐放射線性を満たした、放射線環境下で使用できる新たな光ファイバケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブルの概要を説明するための図である。
【
図2】実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブルの押出成形加工の周波数シフトに及ぼす影響の結果の一例を示す図である。
【
図3】実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブルの押出成形の工程中に、当該ケーブルにプリテンションを追加した場合の損失の一例を示す図である。
【
図4】実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブルの温度変化によるブリルアン周波数シフトの再現性について調べた結果の一例を示す図である。
【
図5】実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブルの温度変化による周波数シフトの感度係数の変化を調べた結果を示した図である。
【
図6】実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブルのひずみ変化による周波数シフトの感度係数の変化を調べた結果を示した図である。
【
図7】実施の形態2の放射線環境用光ファイバ計測ケーブルの概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
本願の実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル10について、以下、図を用いて説明する。
本願の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル10は、
図1A、
図1Bに示す構造となっている。
図1Aは、放射線環境用光ファイバ計測ケーブルの上面から見た場合の図であり、表面状況を示す模式図として示した図である。一方、
図1Bは、この
図1AのCC断面の模式図である。
【0016】
図1Aに示したように、実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル10は、全体としてテープ状に形成されており、本光ファイバ計測ケーブルの軸方向である、
図1Aの左右方向に延びた形状を呈している。すなわち、
図1Bに示したケーブル厚さt1は、
図1Aの縦方向に示したケーブル幅t2に比較して、数分の1以下のサイズとなっている。また、本ケーブルの中心軸位置(ベース材の軸に直交する断面の中央部分)には、
図1Bに示したように、2芯の光ケーブルが配置されている。
【0017】
次に、
図1Bにより、実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル10の内部構造を説明する。
図1Bに示したように、ベース材1には、耐高温性、耐燃焼性、および耐放射線性を満たす素材であるPEEK材が採用されている。ベース材1としてPEEK材を採用した理由は、放射性適応性が高いCERN(欧州原子核研究機構)の電気ケーブルのコート材に、このPEEK材が使用されていることが報告されており、放射線環境に適した素材であると判断されたためである。なお、このPEEK材は、放射線環境下においても、ケーブルの基本的な特性である機械的強度は十分大きいことが知られている(非特許文献1参照)。
【0018】
また、中央部分には、中心軸に耐放射線性FOである光ファイバ2が配置され、外周部分(表面)を無機-有機混成ポリマー膜3(無機材料と有機材料がハイブリッドされたポリマー膜3)で被覆した、2芯で構成された光ケーブル4が配置されている。ここで、光ファイバ2には、用途に応じて、シングルモード光ファイバ、あるいはマルチモード光ファイバのいずれかが使用される。なお、同じケーブルでマルチモードFOを組み立てることにより、DTS(Distributed Temperature Sensing)とDTSS(Distributed Temperature Sensing System)を使用することもできる。なお、光ケーブル4の構成は、高性能な計測用途を考慮して2芯の場合を代表例として記載したが、これに限らず、他の数(例えば1芯、あるいは3芯など)で構成されていても良い)。
また、上記無機-有機混成ポリマー膜3は、300℃より高い温度でも安定であることが最大の特徴の一つである。また、センサ用途としては、FBG(Fiber Gragg Grating)センサでの適用を検討した報告はあるが(例えば、非特許文献3参照)、放射線環境用の計測センサとしての適用を検討した報告は無い。なお、上記無機-有機混成ポリマー膜3は、さらに詳しくは、ガラス状のケイ酸ネットワークを構成したポリマー膜が具体例として挙げられる。
また、本開発では、放射線環境用の計測センサとしては分布計測が可能な計測方式の使用を前提としているため、原理的に点計測の計測方式であるFBGセンサへの適用を報告した例(例えば、上述の非特許文献3など)は、本開発には直接(そのままでは)、適用できない。すなわち、本開発では分布計測が可能な計測方式であるレイリー散乱、あるいはブリルアン散乱を用いた計測(以下、簡略化して、それぞれ、レイリー計測、ブリルアン計測と呼ぶ)に用いられるケーブルの開発を前提としている。
【0019】
なお、本光ファイバ計測ケーブルには、上述のベース材としてのPEEK材の機械的強度が十分大きいため、テンションメンバは使用されていない。また、このPEEK材の製造上の観点から、光ケーブル4の外周部分には、標準的なコート材を使用せず、上記無機-有機混成ポリマー膜3がコート材として使用されている。
すなわち、本光ファイバ計測ケーブルのベース材としてPEEK材を使用するために、製造時において、押し出し成型方法により製造されるが、その際、押し出し温度は370℃の高温になる。標準のFO被覆材は、370℃の押し出し温度で気化するという問題があるため、使用できないことが判明したため、本光ファイバ計測ケーブルには、上記無機-有機混成ポリマー膜3がコート材として使用されている。
ここで、上記テンションメンバは、通常、ケーブル強度を補強するために用いられる。
【0020】
さらに、本光ファイバ計測ケーブルの表面部分は、ケーブル敷設上の理由から、
図1Aに示したように、エンボス5(以下、EMBOSS5とも呼ぶ)が形成され、滑り難い構造となっているため、エンボスが形成されていないものに比較して、敷設がより容易になっている(エンボス構造については、例えば非特許文献2参照)。
【0021】
以上、説明したように、本光ファイバ計測ケーブルは、計測用光ファイバを内蔵し外周表面を無機材料と有機ポリマーとが混成された膜で被覆した、耐高温性、および耐放射線性のある光ケーブルをセンサとして使用するとともに、耐高温性、耐燃焼性、および耐放射線性を満たす素材であるPEEK材をベース材として採用し、かつ表面をエンボス(EMBOSS)構造とすることにより、耐高温性、耐燃焼性、および耐放射線性を全て満たし、敷設も容易な新たな計測用の光ファイバケーブルとして開発したものである。
また、本光ファイバ計測ケーブルの機械的強度についてテストした結果によれば、要求された変形範囲の1.5倍までの範囲で、良好な性能を得ている。
なお、
【0022】
そこで、次に、本光ファイバ計測ケーブルを用いて、センサとしての性能を調べた結果について以下説明する。
【0023】
まず、PEEK材を採用したことによる影響に関して調査した。その結果について、以下
図2を用いて説明する。これは、PEEK材を採用した場合には、本光ファイバ計測ケーブルを製造するに当たって、押出成形加工を用いるためである。
【0024】
図2に押出成形加工の影響を調べた結果を示した。押出成形加工前に測定された、
レイリー計測による
レイリー周波数シフトの中心周波数は11.16GHzであったが、押出成形加工後の測定によれば、10.40GHzとなった(
図2に点線で示した曲線Aのグラフ中の“第1のPEEK”を参照。なお、この“第1のPEEK”(中央部分)以外、すなわち、中央部分の両側の曲線部分は、PEEK材に接続されたPEEK材以外のケーブルの測定結果を参考に示したものである。)。これは、本光ファイバ計測ケーブルのエンボス内において、1.6%の圧縮ひずみ(16033με)が生じたことを示している。この大きなひずみの原因は、370℃から室温までの本光ファイバ計測ケーブルに施した焼きなまし時の熱変形によるものと思われる。
【0025】
そこで、この焼きなまし時の熱変形に起因すると思われる圧縮ひずみを改善するため、本光ファイバ計測ケーブルの押出成形の工程において、本光ファイバ計測ケーブルに、
図3に示したようなプリテンションを追加した。
【0026】
図3において、上側のデータは、本光ファイバ計測ケーブルの押出成形の工程中に、本光ファイバ計測ケーブルにプリテンションを追加した場合の結果を示すものである。一方、下側のデータは、本光ファイバ計測ケーブルの押出成形の工程中に、本光ファイバ計測ケーブルにプリテンションを追加しなかった場合の結果を示すものである。
ここで、
図3の横軸には、本光ファイバ計測ケーブルの軸方向の距離(単位:m)を取り、縦軸には、フィルター通過後の損失(単位:dB)を取ったものである。
【0027】
この
図3に示したデータから判るように押出成形の工程中にプリテンションを追加した場合の方が、プリテンションを追加しなかった場合より、損失が少ないことが判る(
図3では、距離3kmで約5dB)。
【0028】
上記結果を踏まえ、押出成形の工程中にプリテンションを追加した光ファイバ計測ケーブルを用いて、中心周波数を測定した結果を上記
図2の曲線Bで示す(
図2に実線で示した曲線Bのグラフ中の“第2のPEEK”を参照)。
【0029】
上記“第1のPEEK”と“第2のPEEK”とを比較すると、その中心周波数が、少なくとも約0.2GHz改善していることが判る。すなわち、押出成形の工程中に生じた圧縮ひずみは、プリテンションを追加した光ファイバ計測ケーブルにより、改善することができることが判った。
【0030】
以上の検討結果により、開発した本光ファイバ計測ケーブルは、放射線環境用の光ファイバ計測ケーブルとして基本的な性能を満たし、使用できることが判った。そこで、次に、開発した本光ファイバ計測ケーブルのセンシング性能を調べた結果について、以下図を用いて説明する。
【0031】
図4に、本光ファイバ計測ケーブルの温度変化による、ブリルアン計測によるブリルアン周波数シフトの再現性について調べた結果の一例を示す。この
図4に示したグラフから、温度を20℃から80℃の範囲で、上げ下げした場合において、測定された周波数シフトの再現性は十分あり、再現性に優れていることが判った。
【0032】
上記の結果を踏まえ、本光ファイバ計測ケーブルの温度変化によるブリルアン周波数シフト、およびレイリー周波数シフトの感度係数の変化(温度感度の感度係数が一定の値を示すか否か)を調べた。その結果を
図5に示す。左側のグラフには、温度変化に対するレイリー周波数シフトの変化を調べた結果を示し、右側のグラフには、温度変化に対するブリルアン周波数シフトの変化を調べた結果を示す。また、これらの図において、黒の三角の記号は、冷却した場合の周波数シフトの値であり、黒丸の記号は、加熱した場合の周波数シフトの値を示す。
【0033】
図5に示した結果から、温度を上昇させた場合(黒丸を繋いだ線)と温度を下降させた場合(黒三角を繋いだ線)とが、互いにほぼ重なる直線で表されていることが判る。このことから、ブリルアン周波数シフト、およびレイリー周波数シフトの温度についての感度係数は、温度を上昇させた場合と温度を下降させた場合とで変化せず、それぞれ、ほぼ同一の値となっていることが判る。
以上の結果を基に、温度の感度係数は上記グラフの下側の表に示したように、レイリー計測方式では、-8.300GHz/℃、ブリルアン計測方式では、3.280MHz/℃と求められた。
【0034】
次に、本光ファイバ計測ケーブルのひずみ変化によるブリルアン周波数シフト、およびレイリー周波数シフトの感度係数を、上記と同様に調べた結果を
図6に示す。左側のグラフには、歪変化に対するレイリー周波数シフトの変化を調べた結果を示し、右側のグラフには、歪変化に対するブリルアン周波数シフトの変化を調べた結果を示す。また、これらの図において、黒の三角で表した記号は、歪を減少させた場合の周波数シフトの値であり、黒丸で表した記号は、歪を増加させた場合の周波数シフトの値を示す。
【0035】
図6に示した結果から、歪を増加させた場合(黒丸を繋いだ線)と歪を減少させた場合(黒三角を繋いだ線)とが、互いにほぼ重なる直線で表されていることが判る。このことから、ブリルアン周波数シフト、およびレイリー周波数シフトの歪についての感度係数は、歪を増加させた場合と歪を減少させた場合とで変化せず、それぞれ、ほぼ同一の値となっていることが判る。
以上の結果を基に、歪に関する感度係数は上記グラフの下側の表に示したように、レイリー計測方式では、-0.1422GHz/με、ブリルアン計測方式では、0.0445MHz/μεと求められた。
【0036】
以上により、開発された本光ファイバ計測ケーブルは基本的なセンシング機能を備えていることが分かった。すなわち、開発された本光ファイバ計測ケーブルは、耐高温性、耐燃焼性、および耐放射線性を満たした、放射線環境下で使用できる新たな光ファイバケーブルであると言える。
なお、温度変化、およびひずみ変化とブリルアン周波数シフト、およびレイリー周波数シフトとの関係、あるいは計測の原理などについては、特許文献1等を参照願いたい。
【0037】
実施の形態2.
本願の実施の形態2の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル20について、以下、
図7A、
図7Bを用いて説明する。
実施の形態2の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル20は、
図7A、
図7Bに示す構造となっている。
図7Aは、放射線環境用光ファイバ計測ケーブルの上面から見た場合の図であり、表面状況を示す模式図として示した図である。一方、
図7Bは、この
図7AのDD断面の模式図である。
【0038】
図7Aに示したように、実施の形態2の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル20は、全体としてテープ状に形成されており、本光ファイバ計測ケーブルの軸方向である、
図7Aの左右方向(長手方向とも呼ぶ)に延びた形状を呈している点は、実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル10と同様であるが、その上下の外縁(上下の端部)に沿って、現場で設置される際に、本ケーブルを固定するために使用される、複数の、据付用の孔21(以降、据付用孔21と呼ぶ)が設けられている点が、実施の形態2の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル20の特徴である(
図7A参照)。
【0039】
この据付用孔21の形状は、
図7Aに示したように、半円状のものが典型的なものであるが、半円状以外の形状である、三角形状の据付用孔22、あるいは、台形状の据付用孔23であっても良い。
【0040】
なお、上記以外の特徴については、実施の形態1と同様であるので、ここでは詳しい説明を省略する。また、
図7Aの断面DDとして示した
図7Bに示したように、実施の形態2の放射線環境用光ファイバ計測ケーブル20の内部構造も、実施の形態1と同様であるので、ここでは詳しい説明を省略する。
【0041】
原子力環境などで使用される放射線環境用光ファイバ計測ケーブルの特性として、計測精度などの性能において、長期に亘って安定性していることが求められる。従って、本ケーブルの固定についても、長期安定性を保証するための固定方法(据付方法)が要求されると考えられ、これを実現するためには、上述のような据付用孔を有する放射線環境用光ファイバ計測ケーブル20が、実施の形態1の放射線環境用光ファイバ計測ケーブルにも増して、より有用になる。
【0042】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0043】
1 ベース材、2 光ファイバ、3 無機-有機混成ポリマー膜、4 光ケーブル、5 エンボス、10 放射線環境用光ファイバ計測ケーブル、20 放射線環境用光ファイバ計測ケーブル(据付用孔付)、21 据付用孔(半円状)、22 据付用孔(三角形状)、23 据付用孔(台形状)